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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】低カロリー化飲料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/00 20060101AFI20231225BHJP
   A23L 2/02 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
A23L2/00 G
A23L2/02 B
A23L2/02 A
A23L2/02 Z
A23L2/02 E
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019544592
(86)(22)【出願日】2018-09-14
(86)【国際出願番号】 JP2018034215
(87)【国際公開番号】W WO2019065312
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-08-16
(31)【優先権主張番号】P 2017186008
(32)【優先日】2017-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀江 暁
(72)【発明者】
【氏名】市川 晋太郎
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-173109(JP,A)
【文献】特開昭57-122775(JP,A)
【文献】特開2004-321051(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2007-0113460(KR,A)
【文献】山下純隆,グルコースオキシダーゼを用いて生成させたグルコン酸を含有する新しい野菜飲料,ニューフードインダストリー,vol.40, no.1,1998年,p.73-78
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00 - 2/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコン酸濃度(g/100mL)に対する単糖および二糖の合計濃度(g/100mL)の比率(糖グルコン酸比)が3.1よりも大きく、10以下であることを特徴とする、オレンジ果汁飲料もしくはパイナップル果汁飲料またはこれら果汁のミックスジュース飲料であって、フラクトオリゴ糖を、Brix11°換算で0.5g/100mL以上含有する飲料。
【請求項2】
グルコン酸を、0.1g/100mL以上含有する、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
容器詰め形態である、請求項1または2に記載の飲料。
【請求項4】
オレンジ果汁もしくはパイナップル果汁またはこれらのミックスジュースを、スクロースを基質とする糖転移酵素で酵素処理し、該酵素処理と同時にまたは該酵素処理の後に、グルコースオキシダーゼによる酵素処理に付す工程を含んでなる、オレンジ果汁飲料もしくはパイナップル果汁飲料またはこれら果汁のミックスジュース飲料の製造方法であって、前記飲料におけるグルコン酸濃度(g/100mL)に対する単糖および二糖の合計濃度(g/100mL)の比率(糖グルコン酸比)が3.1よりも大きく、10以下である、製造方法。
【請求項5】
スクロースを基質とする糖転移酵素がフラクトシルトランスフェラーゼである、請求項に記載の製造方法。
【請求項6】
オレンジ果汁もしくはパイナップル果汁またはこれらのミックスジュースの糖転移酵素による酵素処理が、オレンジ果汁もしくはパイナップル果汁またはこれらのミックスジュースに含まれるスクロースからフラクトシルトランスフェラーゼによりフラクトオリゴ糖を生成することによる低カロリー化処理である、請求項に記載の製造方法。
【請求項7】
オレンジ果汁もしくはパイナップル果汁またはこれらのミックスジュースのグルコースオキシダーゼによる酵素処理が、オレンジ果汁もしくはパイナップル果汁またはこれらのミックスジュースに含まれるグルコースおよび糖転移酵素反応により生じたグルコースから、グルコースオキシダーゼによりグルコン酸を生成することによる低カロリー化処理である、請求項に記載の製造方法。
【請求項8】
オレンジ果汁もしくはパイナップル果汁またはこれらのミックスジュースを、スクロースを基質とする糖転移酵素で酵素処理し、該酵素処理と同時にまたは該酵素処理の後に、グルコースオキシダーゼによる酵素処理に付す工程を含んでなる、オレンジ果汁もしくはパイナップル果汁またはこれらのミックスジュースの低カロリー化方法であって、前記オレンジ果汁もしくはパイナップル果汁またはこれらのミックスジュースにおけるグルコン酸濃度(g/100mL)に対する単糖および二糖の合計濃度(g/100mL)の比率(糖グルコン酸比)が3.1よりも大きく、10以下である、低カロリー化方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本願は、先行する日本国出願である特願2017-186008(出願日:2017年9月27日)の優先権の利益を享受するものであり、その開示内容全体は引用することにより本明細書の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、低カロリー化処理された果汁飲料および野菜汁飲料並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
近年の健康志向の高まりに伴って飲食品摂取の際の糖質摂取量の低減が望まれており、糖質摂取量の削減は今後の社会課題ともいわれている。果汁飲料や野菜汁飲料は手軽に果実や野菜を摂取できるため、健康維持を目的として消費者に広く親しまれているが、これらの飲料には果実や野菜由来の糖質が含まれていることから、糖質摂取量の低減の観点からはできる限り糖質含量を低減することが望ましいといえる。
【0004】
果汁飲料に関してはこれまでに、果汁を膜処理することにより果汁から単糖や二糖を除去し、低カロリー化する技術が提案されている(特許文献1および2)。また、野菜汁飲料に関しては、糖質含量の少ない野菜を原料として使用すると味わいが淡白になるという問題があるが、このような問題を解決するために、低糖質野菜飲料の味わいを濃厚にする技術が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2010-520743号公報
【文献】国際公開第2006/004106号
【文献】特開2015-223167号公報
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、上記の果汁を膜処理する技術については、糖類除去の際に果汁のコクや濃厚感も失われてしまうという問題があった。また、上記の低糖質野菜飲料については、糖質含量の少ない野菜を原料とするため野菜汁の味に物足りなさを感じるという問題があった。
【0007】
本発明者らは、上記問題に鑑みて鋭意検討を行ったところ、フラクトシルトランスフェラーゼ粗酵素剤とグルコースオキシダーゼ粗酵素剤をオレンジ果汁に作用させることにより、良好な香味を達成しつつ低カロリー化を図ることができることを見出した。本発明者らはまた、他の果汁や野菜汁についても同様の結果が得られることを確認した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0008】
本発明は、良好な香味が付与された低カロリー化果汁飲料および野菜汁飲料並びにミックスジュース飲料と、その製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]グルコン酸濃度(g/100mL)に対する単糖および二糖の合計濃度(g/100mL)の比率(糖グルコン酸比)が3.1よりも大きいことを特徴とする、果汁飲料、野菜汁飲料またはミックスジュース飲料。
[2]フラクトオリゴ糖を、Brix11°換算で0.5g/100mL以上含有する、上記[1]に記載の飲料。
[3]グルコン酸を、0.1g/100mL以上含有する、上記[1]または[2]に記載の飲料。
[4]オレンジ果汁飲料、ニンジン汁飲料またはパイナップル果汁飲料である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の飲料。
[5]容器詰め形態である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の飲料。
[6]果汁、野菜汁またはミックスジュースを、スクロースを基質とする糖転移酵素で酵素処理し、該酵素処理と同時にまたは該酵素処理の後に、グルコースオキシダーゼによる酵素処理に付す工程を含んでなる、果汁飲料、野菜汁飲料またはミックスジュース飲料の製造方法。
[7]スクロースを基質とする糖転移酵素がフラクトシルトランスフェラーゼである、上記[6]に記載の製造方法。
[8]果汁、野菜汁またはミックスジュースの糖転移酵素による酵素処理が、果汁、野菜汁またはミックスジュースに含まれるスクロースからフラクトシルトランスフェラーゼによりフラクトオリゴ糖を生成することによる低カロリー化処理である、上記[6]に記載の製造方法。
[9]果汁、野菜汁またはミックスジュースのグルコースオキシダーゼによる酵素処理が、果汁、野菜汁またはミックスジュースに含まれるグルコースおよび糖転移酵素反応により生じたグルコースから、グルコースオキシダーゼによりグルコン酸を生成することによる低カロリー化処理である、上記[7]に記載の製造方法。
[10]果汁、野菜汁またはミックスジュースが、オレンジ果汁、ニンジン汁およびパイナップル果汁からなる群から選択される1種または2種以上の果汁および/または野菜汁を含む、上記[6]~[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11]果汁、野菜汁またはミックスジュースを、スクロースを基質とする糖転移酵素で酵素処理し、該酵素処理と同時にまたは該酵素処理の後に、グルコースオキシダーゼによる酵素処理に付す工程を含んでなる、果汁、野菜汁またはミックスジュースの低カロリー化方法。
【0010】
本明細書において、上記[1]の果汁飲料、野菜汁飲料およびミックスジュース飲料をそれぞれ「本発明の果汁飲料」、「本発明の野菜汁飲料」および「本発明のミックスジュース飲料」ということがある。本明細書ではさらに、これらの飲料を併せて「本発明の飲料」ということがある。
【0011】
本発明によれば、果汁飲料および野菜汁飲料並びにミックスジュース飲料において良好な香味を付与しつつ低カロリー化を図ることができる点で有利である。
【発明の具体的説明】
【0012】
<<本発明の飲料>>
本発明の果汁飲料、野菜汁飲料およびミックスジュース飲料は、グルコン酸濃度(g/100mL)に対する単糖および二糖の合計濃度(g/100mL)の比率(以下、単に「糖グルコン酸比」ということがある)が特定値であることを特徴とする。ここで、グルコン酸濃度と単糖および二糖の合計濃度は、高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)ないし酵素法により測定することができる。
【0013】
本発明の飲料において糖グルコン酸比は、3.1よりも大きく、好ましくは4.4以上の数値とすることができる。本発明の飲料において糖グルコン酸比の上限値は、例えば、10または80とすることができる。
【0014】
本発明の飲料において糖グルコン酸比は、果汁および野菜汁の種別ごとに定めることもできる。例えば、本発明の飲料がオレンジ果汁飲料である場合、糖グルコン酸比は3.1よりも大きい数値(好ましくは4.8以上)とすることができ、その上限値は10または13.5とすることができる。また、本発明の飲料がニンジン汁飲料である場合、糖グルコン酸比は3.1よりも大きい数値(好ましくは3.7以上)とすることができ、その上限値は10または25とすることができる。また、本発明の飲料がパイナップル果汁飲料である場合、糖グルコン酸比は4.4以上の数値(好ましくは5.9以上)とすることができ、その上限値は50または80とすることができる。
【0015】
本発明の飲料は、フラクトオリゴ糖を含有するものである。本発明において「フラクトオリゴ糖」とは、スクロースにフラクトースが1~3分子結合したオリゴ糖であり、1-ケストース、ニストース、ネオケストースおよびフラクトフラノシルニストースが含まれる。本発明の飲料は、フラクトオリゴ糖を所定の濃度で含有するものとして特定することができる。飲料中のフラクトオリゴ糖濃度は、高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)により測定することができる。
【0016】
本発明の飲料のフラクトオリゴ糖濃度は、Brix11°換算で0.5g/100mL以上とすることができ、あるいは、Brix6°換算で1.0g/100mL以上とすることができる。
【0017】
本発明の飲料においてフラクトオリゴ糖濃度は、果汁および野菜汁の種別ごとに定めることもできる。例えば、本発明の飲料のうちオレンジ果汁飲料は、フラクトオリゴ糖を0.5g/100mL以上(例えば、0.5~1.8g/100mL)含有するものとすることができ、好ましくは0.8g/100mL以上(例えば、0.8~1.2g/100mL)含有するものとすることができる。本発明ではオレンジ果汁飲料におけるフラクトオリゴ糖濃度は、Brix11°換算の濃度で表記する。
【0018】
本発明の飲料のうちニンジン汁飲料は、フラクトオリゴ糖を1.0g/100mL以上(例えば、1.0~1.7g/100mL)含有するものとすることができ、好ましくは1.3g/100mL以上(例えば、1.3~1.5g/100mL)含有するものとすることができる。本発明ではニンジン汁飲料におけるフラクトオリゴ糖濃度は、Brix6°換算の濃度で表記する。
【0019】
本発明の飲料のうちパイナップル果汁飲料は、フラクトオリゴ糖を0.7g/100mL以上(例えば、0.7~2.0g/100mL)含有するものとすることができ、好ましくは0.9g/100mL以上(例えば、0.9~1.8g/100mL)含有するものとすることができる。本発明ではパイナップル果汁飲料におけるフラクトオリゴ糖濃度は、Brix11°換算の濃度で表記する。
【0020】
本発明において「Brix値」(本明細書中、単に「Brix」ということがある)とは、溶液中に含まれる可溶性固形分(例えば、糖、タンパク質、ペプチド等)の総濃度を表す指標であり、20℃で測定された当該溶液の屈折率を、ICUMSA(国際砂糖分析法統一委員会)の換算表を使用して、純ショ糖溶液の質量/質量%に換算した値である。20℃における屈折率の測定は、アタゴ社製糖度計などの市販の糖用屈折計を使用して行うことができる。
【0021】
本発明の飲料に含まれるフラクトオリゴ糖は、果汁、野菜汁またはミックスジュースにおいて、酵素処理によりスクロースをフラクトオリゴ糖へインサイチュ(in situ)変換した生成物である。すなわち、飲料中におけるフラクトオリゴ糖の生成は、後述するように、原料果汁または野菜汁の加工処理、すなわち、酵素処理により達成することができる。従って、本発明の飲料は、フラクトオリゴ糖が原料として添加されていないものとすることができる。
【0022】
本発明の飲料は、グルコン酸を含有するものであり、グルコン酸を所定の濃度で含有するものとして特定することができる。飲料中のグルコン酸濃度は、酵素法ないし高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)により測定することができる。
【0023】
本発明の飲料のグルコン酸濃度は、0.1g/100mL以上、あるいは、0.5g/100mL以上とすることができる。
【0024】
本発明の飲料においてグルコン酸濃度は、果汁および野菜汁の種別ごとに定めることもできる。例えば、本発明の飲料のうちオレンジ果汁飲料は、グルコン酸を0.5g/100mL以上(例えば、0.5~1.8g/100mL)含有するものとすることができ、好ましくは1.1g/100mL以上(例えば、1.1~1.5g/100mL)含有するものとすることができる。本発明ではオレンジ果汁飲料におけるグルコン酸濃度は、Brix11°換算の濃度で表記する。
【0025】
本発明の飲料のうちニンジン汁飲料は、グルコン酸を0.1g/100mL以上(例えば、0.1~0.9g/100mL)含有するものとすることができ、好ましくは0.3g/100mL以上(例えば、0.3~0.6g/100mL)含有するものとすることができる。本発明ではニンジン汁飲料におけるグルコン酸濃度は、Brix6°換算の濃度で表記する。
【0026】
本発明の飲料のうちパイナップル果汁飲料は、グルコン酸を0.1g/100mL以上(例えば、0.1~1.6g/100mL)含有するものとすることができ、好ましくは0.5g/100mL以上(例えば、0.5~1.2g/100mL)含有するものとすることができる。本発明ではパイナップル果汁飲料におけるグルコン酸濃度は、Brix11°換算の濃度で表記する。
【0027】
本発明の飲料に含まれるグルコン酸は、果汁、野菜汁またはミックスジュースにおいて、酵素処理によりグルコースをグルコン酸へインサイチュ(in situ)変換した生成物である。すなわち、飲料中におけるグルコン酸の生成は、後述するように、原料果汁または野菜汁の加工処理、すなわち、酵素処理により達成することができる。従って、本発明の飲料は、グルコン酸が原料として添加されていないものとすることができる。
【0028】
本発明の飲料は、グルコースやスクロースなどの糖類濃度が低減されているため低カロリー化された飲料である。本発明において「低カロリー化飲料」とは、原料となる果汁および/または野菜汁と比べてカロリーが低減されている飲料を意味する。低カロリー化飲料としては、例えば、30kcal/100mL以下、25kcal/100mL以下または20kcal/100mL以下の飲料が挙げられる。飲料のカロリーは、アトウォーター係数に基づいて算出することができる。なお、低カロリー化は、後述するように、原料果汁または野菜汁の加工処理、すなわち、酵素処理により達成することができる。
【0029】
本発明において「糖類」とは、単糖および二糖の糖質を意味し、例えば、グルコース、フラクトース、ガラクトース、スクロース、マルトース、ラクトースが挙げられる。糖類濃度は、高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)により測定することができる。
【0030】
本発明の飲料は好ましい態様において、混濁状態の飲料である。混濁状態の飲料では、果汁または野菜汁が本来持つ混濁した色調と濃厚感が維持されるため好ましい。本発明の飲料の濁度は、例えば、200~600とすることができ、好ましくは300~500である。飲料の濁度は、市販の分光光度計によりOD650を測定した後、カオリン濁度標準液1000度(和光純薬工業社)の希釈液のOD測定から得られたOD-濁度補正式に基づき濁度に変換して求めることができる。なお、混濁状態の本発明の飲料は、後述するように、原料果汁または野菜汁の酵素処理においてペクチナーゼ活性を実質的に有さないフラクトシルトランスフェラーゼを使用することにより製造することができる。
【0031】
本発明の飲料には通常の飲料の処方設計に用いられている飲料用添加剤を配合してもよい。このような添加剤としては、甘味料(高甘味度甘味料を含む)、酸味料、調味料、香辛料、香料、着色料、増粘剤、安定剤、乳化剤、栄養強化剤、pH調整剤、酸化防止剤、保存料などが挙げられる。上記飲料用添加剤は、後述する調合工程において他の原材料と混合することができる。
【0032】
本発明の飲料は、前述の通り、糖グルコン酸比が所定の数値を満たすことを特徴とするものであるが、この糖グルコン酸比を満たす限り、濃縮形態の飲料や希釈形態の飲料を問わず、本発明の範囲内である。すなわち、本発明の飲料は、果汁100%よりも濃いいわゆる濃縮形態の飲料や、果汁100%よりも薄いいわゆる希釈形態の飲料も含むものである。
【0033】
本発明の飲料においてBrix値は、果汁および野菜汁の種別ごとに定めることができる。例えば、本発明の飲料のうちオレンジ果汁飲料のBrix値は、果汁約100%を基準にした場合、例えば、8~15とすることができ、好ましくは9~13である。本発明の飲料のうちニンジン汁飲料のBrix値は、野菜汁約100%を基準にした場合、例えば、4~8とすることができ、好ましくは3~7である。本発明の飲料のうちパイナップル果汁飲料のBrix値は、果汁約100%を基準にした場合、例えば、8~15とすることができ、好ましくは9~13である。
【0034】
本発明の果汁飲料に用いられる果汁の原料としては、スクロースを含む果汁であれば特に制限はなく、オレンジ(みかんを含む)、パイナップル、グレープフルーツ、リンゴ、ブドウ、ピーチ、イチゴ、バナナ、マンゴー、メロン、アプリコットの果汁、その他果実飲料品質表示基準に記載されている果汁を挙げることができ、特に好ましい果汁の原料としては、オレンジ、パイナップルである。また、本発明の野菜汁飲料に用いられる野菜汁の原料としては、スクロースを含む野菜汁であれば特に制限はなく、ニンジン、ホウレンソウ、玉ねぎ、トマト、セロリー、パプリカ、カボチャ、コーン等の野菜汁を挙げることができ、特に好ましい野菜汁の原料としては、ニンジンである。
【0035】
本発明の製造方法に用いられる原料は、ストレートまたは濃縮物のいずれを用いてもよい。目的とする飲料が低濃度の場合には、水または他の飲用可能な液体と混合した希釈果汁、希釈野菜汁または希釈ミックスジュースを原料として用いることもできる。
【0036】
本発明の製造方法に用いられる原料は、果汁または野菜汁それぞれのうち2種以上のミックスジュースとしてもよく、また、1種以上の果汁と1種以上の野菜汁が混合されたミックスジュースとしてもよい。本発明のミックスジュース飲料は、本発明の果汁飲料または野菜汁飲料の原料となる果汁および野菜汁からなる群から選択される2種以上から構成されるミックスジュースを原料としてもよい。
【0037】
本発明の飲料は低カロリー化を図りつつ、良好な香味を達成することができる。ここで「良好な香味」とは、爽快感と酸味に加え、甘味も感じられる、果汁飲料、野菜汁飲料およびミックスジュース飲料として遜色のない総合的な美味しさを意味する。
【0038】
<<本発明の製造方法>>
本発明の飲料は、果汁、野菜汁またはミックスジュースを、スクロースを基質とする糖転移酵素およびグルコースオキシダーゼによる酵素処理に付すことにより製造することができる。
【0039】
本発明の製造方法に用いられるスクロースを基質とする糖転移酵素としては、フラクトシルトランスフェラーゼ、デキストランスクラーゼ、レバンスクラーゼ、イヌロスクラーゼが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができ、好ましくはフラクトシルトランスフェラーゼである。
【0040】
本発明の製造方法に用いられるフラクトシルトランスフェラーゼは、スクロースからフラクトオリゴ糖を生成させる活性を有する酵素である。本発明においては市販のフラクトシルトランスフェラーゼを用いることができる。本発明においてはまた、フラクトシルトランスフェラーゼを生産する微生物を培養し、培養物から当該酵素を精製あるいは粗精製して得てもよい。
【0041】
本発明においては、好ましくはペクチナーゼ活性を実質的に有さないフラクトシルトランスフェラーゼを用いることができる。ここで、「ペクチナーゼ活性を実質的に有さない」とは、果汁、野菜汁またはミックスジュースを処理した場合に顕著な清澄化作用および/または粘度低下作用を引き起こす活性を有さないことを指し、例えば、オレンジ果汁を用いた酵素処理試験を行った場合に、フラクトオリゴ糖を糖組成比10%以上生成し、かつ、処理後濁度が処理前に対して35%以上維持される場合にペクチナーゼ活性を実質的に有さないとする。
【0042】
本発明の製造方法において、ペクチナーゼ活性を実質的に有さないフラクトシルトランスフェラーゼを酵素処理に用いた場合、製造された飲料はその濁度および/または粘度が高く維持されるという特徴を有する。酵素処理前の果汁、野菜汁またはミックスジュースの濁度に対する酵素処理後の濁度の比率、すなわち濁度維持率は、35%以上とすることができ、好ましくは50%以上、特に好ましくは70%以上である。
【0043】
本発明において、フラクトシルトランスフェラーゼによる酵素処理は、果汁、野菜汁またはミックスジュース中のスクロース1gあたり1U以上を目安に添加することができ、好ましくは5U/1gスクロース、特に好ましくは10U/1gスクロースである。酵素添加後、25℃で4時間を目安に反応させるが、温度と時間は果汁、野菜汁またはミックスジュースの種類や酵素添加量にあわせ適宜調整が可能であり、高温での長時間反応は糖の分解を招くことに留意する。ミックスジュースなどのように2種以上の果汁または野菜汁を用いる場合にはそれぞれを酵素処理したのちに混合する場合、それぞれを混合したのちにまとめて酵素処理する場合のいずれの方法も用いることができる。濃縮果汁、濃縮野菜汁または濃縮ミックスジュースを処理する場合には、濃縮前、濃縮中、濃縮後のいずれのタイミングで処理しても良い。
【0044】
本発明の製造方法に用いられるグルコースオキシダーゼは、グルコースからグルコン酸を生成させる活性を有する酵素である。本発明においては市販のグルコースオキシダーゼを用いることができる。本発明においてはまた、グルコースオキシダーゼを生産する微生物を培養し、培養物から当該酵素を精製あるいは粗精製して得てもよい。
【0045】
本発明において、グルコースオキシダーゼによる酵素処理は、果汁、野菜汁またはミックスジュース中のグルコース1gあたり10U以上を目安に添加することができ、好ましくは20U/1gグルコース、特に好ましくは50U/1gグルコースである。酵素添加後、25℃で2時間を目安に反応させるが、温度と時間は果汁、野菜汁またはミックスジュースの種類や酵素添加量にあわせ適宜調整が可能である。なお、グルコースオキシダーゼによる酵素処理においては、基質となる酸素を供給することが必要であり、例えば、バッフル付フラスコ中で振盪することや、ボンベからのバブリングにより果汁、野菜汁またはミックスジュースに酸素を溶解させることができる。ミックスジュースなどのように2種以上の果汁または野菜汁を用いる場合にはそれぞれを酵素処理したのちに混合する場合、それぞれを混合したのちにまとめて酵素処理する場合のいずれの方法も用いることができる。濃縮果汁、濃縮野菜汁または濃縮ミックスジュースを処理する場合には、濃縮前、濃縮中、濃縮後のいずれのタイミングで処理しても良い。
【0046】
本発明において、グルコースオキシダーゼによる酵素処理は、糖転移酵素による酵素処理と同時にまたは該酵素処理の後に、実施することができる。糖転移酵素による酵素処理により生成したグルコースをグルコン酸に転換するため、グルコースオキシダーゼによる酵素処理は、糖転移酵素による酵素処理の後に実施することが好ましい。
【0047】
本発明においては、フラクトシルトランスフェラーゼおよびグルコースオキシダーゼは、好ましくは粗酵素剤の形態のものを用いることができる。ここで「粗酵素剤」とは、食品の工業生産用に販売される酵素剤で一般的に採用される、比較的安価且つ安全な試薬や濾過膜分離等の分離抽出手段により得られる酵素剤を意味し、液体クロマトグラフィー等による分画精製といった高度且つ高コストな分離精製手段を用いて調製された酵素剤は含まない。
【0048】
本発明の製造方法において、上記酵素処理以外は、果実飲料、野菜汁飲料およびミックスジュース飲料について公知の製造手順に従って実施することができる。すなわち、酵素処理の前に搾汁工程を実施し、果汁、野菜汁およびミックスジュースを準備することができる。原料として市販の濃縮液や野菜のペースト等を利用する場合には搾汁工程は省略することができる。また、酵素処理に付された果汁、野菜汁およびミックスジュースは調合工程において、添加剤などの他の原料を配合することができる。調合工程で得られた調合液は殺菌工程および充填工程を経て容器詰めすることができる。容器詰めされた本発明の飲料は必要に応じて密封工程と冷却工程に付することができる。
【0049】
本発明の別の面によれば、果汁、野菜汁またはミックスジュースを、スクロースを基質とする糖転移酵素で酵素処理し、該酵素処理と同時にまたは該酵素処理の後に、グルコースオキシダーゼによる酵素処理に付す工程を含んでなる、果汁、野菜汁またはミックスジュースの低カロリー化方法が提供される。本発明の低カロリー化方法は、本発明の飲料およびその製造に関する記載に従って実施することができる。
【実施例
【0050】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0051】
糖濃度、糖組成、全糖濃度およびBrixの測定
以下の例においてサンプル飲料中の糖濃度(単糖、二糖、フラクトオリゴ糖)の分析は高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)を用いた絶対検量線法に従って行った。具体的には以下のように測定した。
【0052】
サンプル液を水で希釈し、糖が2%程度含まれる溶液とした。遠心上清をフィルター濾過することで夾雑物を除去し、濾液をアセトニトリルと混合し、50%アセトニトリル溶液とした。これを下記条件に従ってHPLC(日本分光社製)で分析することにより糖濃度を算出した。
【0053】
<HPLC分析条件>
カラム:YMC-Pack Polyamine II(YMC社製)
移動相:67%(v/v)アセトニトリル溶液
カラム温度:30℃
流速:1.0mL/分
検出:示差屈折率検出器
【0054】
Brixは、糖度計(Rx-5000α、アタゴ社製)を用いて測定した。
【0055】
有機酸の測定
以下の例においてサンプル飲料中の有機酸濃度として、F-Kit(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を用いた酵素法によりグルコン酸を定量した。
【0056】
例1:酵素がオレンジ果汁の糖、有機酸および香味に与える影響
(1)サンプル飲料の調製
オレンジ果汁(Brix64.5、クトラーレ社)をBrix11(ストレートのBrix)に希釈し、希釈したオレンジ果汁100gを300mL容のバッフル付三角フラスコに分注した。次いで、フラクトシルトランスフェラーゼ(アスペルギルス(Aspergillus)属由来、スミチームFTF顆粒、新日本化学工業社製、以下単に「FTase」ということがある)およびグルコースオキシダーゼ(アスペルギルス・ニガー(Aspergillue niger)由来、ハイデラーゼ15、天野エンザイム社製、以下単に「GOD」ということがある)を表1に記載の濃度となるように添加し、25℃、4時間、振とうさせて酵素反応を行い、サンプル飲料(サンプル番号1~21)を調製した。使用したフラクトシルトランスフェラーゼは、ペクチナーゼ活性を実質的に有さない粗酵素剤であった。
【0057】
(2)糖濃度および有機酸濃度の測定
上記(1)で調製したサンプル飲料の糖濃度(単糖、二糖、フラクトオリゴ糖)および有機酸濃度を測定した。糖濃度については、フラクトース、グルコース、スクロース、イヌロビオース、ネオケストース、1-ケストース、ニストースおよびフラクトフラノシルニストースの濃度を測定した(以下、同様)。但し、イヌロビオースおよびネオケストースの定量値は、それぞれスクロースおよび1-ケストースの面積値に対する定量値から換算した。フラクトースおよびグルコースの合計濃度を単糖濃度とし、スクロースおよびイヌロビオースの合計濃度を二糖濃度とし、ネオケストース、1-ケストース、ニストースおよびフラクトフラノシルニストースの合計濃度をフラクトオリゴ糖濃度とした。有機酸濃度については、グルコン酸の濃度を測定した(以下、同様)。各サンプル飲料について、グルコン酸濃度(g/100mL)に対する単糖および二糖の合計濃度(g/100mL)の比率(単糖および二糖の合計濃度/グルコン酸濃度)を算出した。なお、酵素処理後のサンプル飲料の糖度はいずれもBrix11であった。
【0058】
(3)官能評価
上記(1)で調製したサンプル飲料を官能評価に供した。具体的には、「爽快感」、「酸味」および「総合的なおいしさ」の3項目について、等量のフラクトシルトランスフェラーゼのみを添加した対照サンプル飲料の各項目のスコアを0として、サンプル飲料の香味が良好な場合は1、同等の場合は0、劣悪な場合は-1として各項目を評価した。官能評価は1名の訓練されたパネラーにより実施した。各項目のスコアがいずれも1または0のサンプルをAと評価し、各項目のスコアが一つでもマイナスのサンプルをBと評価した。Aのサンプル飲料を香味が良好と判断した。ここで、「爽快感」とは、爽やかな風味をいい、「酸味」とは、酸味の感じ具合をいい、「総合的なおいしさ」とは、甘味と酸味のバランスをいう。
【0059】
(4)評価結果
結果を表1に示す。
【表1】
【0060】
表1の結果より、オレンジ果汁(Brix11)をフラクトシルトランスフェラーゼおよびグルコースオキシダーゼで酵素処理することにより、0.5g/100mL以上のフラクトオリゴ糖を含有する酵素処理オレンジ果汁を製造できることが確認された。また、グルコン酸濃度(g/100mL)に対する単糖および二糖の合計濃度(g/100mL)の比率(単糖および二糖の合計濃度/グルコン酸濃度)が3.1を超える酵素処理オレンジ果汁では、等量のフラクトシルトランスフェラーゼのみを添加した対照サンプル飲料に比べて、爽快感と酸味を有しつつ、甘味と酸味のバランスが取れた良好な香味を有することが確認された。
【0061】
例2:酵素がニンジン汁の糖、有機酸および香味に与える影響
(1)サンプル飲料の調製
ニンジン汁(Brix55、湘南香料社製)をBrix6(ストレートのBrix)に希釈して用いた以外は、例1(1)と同様にしてサンプル飲料(サンプル番号22~42)を調製した。
【0062】
(2)糖組成、糖類濃度および有機酸濃度の測定
上記(1)で調製したサンプル飲料の糖濃度(単糖、二糖、フラクトオリゴ糖)および有機酸濃度の測定は、例1(2)と同様にして行った。なお、酵素処理後のサンプル飲料の糖度はいずれもBrix6であった。
【0063】
(3)官能評価
上記(1)で調製したサンプル飲料を官能評価に供した。官能評価は3名の訓練されたパネラーにより、例1(3)に記載の方法に従って実施した。各項目についてパネラー3名の合計スコアを算出した。各項目の合計スコアがいずれも0以上のサンプルをAと評価し、各項目のスコアが一つでもマイナスのサンプルをBと評価した。Aのサンプル飲料を香味が良好と判断した。
【0064】
(4)評価結果
結果を表2に示す。
【表2】
【0065】
表2の結果より、ニンジン汁(Brix6)をフラクトシルトランスフェラーゼおよびグルコースオキシダーゼで酵素処理することにより、1.0g/100mL以上のフラクトオリゴ糖を含有する酵素処理ニンジン汁を製造できることが確認された。また、グルコン酸濃度(g/100mL)に対する単糖および二糖の合計濃度(g/100mL)の比率(単糖および二糖の合計濃度/グルコン酸濃度)が3.1を超える酵素処理ニンジン汁では、等量のフラクトシルトランスフェラーゼのみを添加した対照サンプル飲料に比べて、爽快感と酸味を有しつつ、甘味と酸味のバランスが取れた良好な香味を有することが確認された。
【0066】
例3:酵素がパイナップル果汁の糖、有機酸および香味に与える影響
(1)サンプル飲料の調製
パイナップル果汁(Brix66、DELOLO社製)をBrix11(ストレートのBrix)に希釈して用いた以外は、例1(1)と同様にしてサンプル飲料(サンプル番号43~48)を調製した。
【0067】
(2)糖組成、糖類濃度および有機酸濃度の測定
上記(1)で調製したサンプル飲料の糖濃度(単糖、二糖、フラクトオリゴ糖)および有機酸濃度の測定は、例1(2)と同様にして行った。なお、酵素処理後のサンプル飲料の糖度はいずれもBrix11であった。
【0068】
(3)官能評価
上記(1)で調製したサンプル飲料を官能評価に供した。官能評価は、例2(3)と同様にして行った。
【0069】
(4)評価結果
結果を表3に示す。
【表3】
【0070】
表3の結果より、パイナップル果汁(Brix11)をフラクトシルトランスフェラーゼおよびグルコースオキシダーゼで酵素処理することにより、0.7g/100mL以上のフラクトオリゴ糖を含有する酵素処理パイナップル汁を製造できることが確認された。また、グルコン酸濃度(g/100mL)に対する単糖および二糖の合計濃度(g/100mL)の比率(単糖および二糖の合計濃度/グルコン酸濃度)が4.4以上の酵素処理パイナップル果汁では、等量のフラクトシルトランスフェラーゼのみを添加した対照サンプル飲料に比べて、爽快感と酸味を有しつつ、甘味と酸味のバランスが取れた良好な香味を有することが確認された。