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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】塩化ビニル系重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 14/06 20060101AFI20231225BHJP
   C08F 2/20 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
C08F14/06
C08F2/20
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020003535
(22)【出願日】2020-01-14
(65)【公開番号】P2021109932
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】301018278
【氏名又は名称】大洋塩ビ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】澤野 暁士
(72)【発明者】
【氏名】坂根 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】木下 健司
【審査官】前田 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-204105(JP,A)
【文献】特開平03-064302(JP,A)
【文献】特開平05-295007(JP,A)
【文献】特開昭56-041210(JP,A)
【文献】特開平11-209409(JP,A)
【文献】特開2005-281680(JP,A)
【文献】国際公開第98/042759(WO,A1)
【文献】特開昭63-264611(JP,A)
【文献】特開平07-179507(JP,A)
【文献】特開平08-073512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合槽を用いて、塩化ビニル単量体、または塩化ビニル単量体及び塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体との混合物であって、該共重合可能な単量体の割合は、該塩化ビニル単量体100質量部に対し20質量部以下である混合物(以下、塩化ビニル系単量体という。)を、重合開始剤、及び、分散安定剤として、(A)鹸化度が65モル%以上90モル%以下かつ平均重合度が600以上3000以下の部分鹸化ポリビニルアルコール、(B)鹸化度が10モル%以上60モル%以下かつ平均重合度が100以上1000以下の部分鹸化ポリビニルアルコールの存在下、水性媒体中で懸濁重合を行う塩化ビニル系重合体を製造する方法において、
前記(B)成分の合計添加量が前記塩化ビニル系単量体100質量部に対して0.04質量部以上であり、
重合開始前に前記(B)成分を前記塩化ビニル系単量体100質量部に対して0質量部以上0.03質量部以下添加し、重合槽本体に付属するジャケットに70℃以上の熱媒体を流し、前記塩化ビニル系単量体と、重合開始剤と、分散安定剤のうち、(A)成分と、重合開始前に添加される(B)成分との混合物が所定の重合温度に到達したのち、前記ジャケットに流れる熱媒体の温度が65℃以下かつ重合転化率10%未満内で残りの前記(B)成分を添加することを特徴とする、塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項2】
前記(B)成分が、水分散性及び/又は水溶性を有することを特徴とする、請求項1に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項3】
前記(B)成分が、鹸化度が10モル%以上55モル%以下かつ平均重合度が100以上1000以下である、請求項1又は2に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項4】
前記(B)成分が、鹸化度が10モル%以上55モル%以下かつ平均重合度が100以上600以下である、請求項1又は2に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項5】
前記(B)成分が、末端にイオン性基を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項6】
前記イオン性基が、カルボキシル基またはスルホン酸基である、請求項5に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項7】
前記重合槽本体に付属するジャケットに80℃以上の熱媒体を流す、請求項1に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系重合体の製造方法に関し、詳しくは、重合槽内壁に付着するスケール量が少なく、生産性が向上する塩化ビニル系重合体の製造方法に関するものであり、さらに、良好なフィッシュアイ特性を有し、成形加工性に優れた塩化ビニル系重合体を得ることができる製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、良好なフィッシュアイ特性を有する塩化ビニル系重合体が得られる製造技術としては、特許文献1に、分散安定剤として(A)鹸化度60~90モル%、重合度300~3000の部分鹸化ポリビニルアルコール、(B)鹸化度20~55モル%、重合度100~1000の部分鹸化ポリビニルアルコールを(A)/(B)=1/9~8/2の割合で使用する方法が記載されている。
しかし、上記の方法では、重合槽内壁に大量のスケール付着が生じ、工業生産では頻繁な清掃等が必要となり、生産性が低下する問題を有している。
【0003】
スケールの付着を防止する方法として、重合槽内にスケール付着防止剤の塗膜を形成する方法が知られており、種々のスケール付着防止剤が提案されている。スケール付着防止剤としては、例えば特許文献2、及び特許文献3の特許請求の範囲、実施例等に記載の薬剤が例示される。
しかし、上記方法では、繰り返す重合バッチ数が多くなると、スケールが付着してくる。特に、鹸化度20~55モル%の部分鹸化ポリビニルアルコールを用いた場合、スケール付着が顕著になる。
【0004】
また、塩化ビニル系重合体の重合槽内壁に付着するスケール量が少ない製造技術としては、特許文献4に加熱段階中に反応壁の温度を重合混合物の温度よりも20℃以上高くせず、そしてその後の重合段階中では反応壁の温度を重合混合物の温度よりも低くすることを特徴とした方法や、特許文献5には、重合器に仕込まれた水および単量体を所定の重合温度に昇温するにあたって、重合器本体内面に熱媒体の通路を設けた内部ジャケット式重合器を用い、ジャケットに循環させる熱媒体の温度(Θ)が所定の重合温度(T)に対し、T+5≦Θ<80(℃)となるように調節して昇温し、引続き重合を行うことを特徴とする塩化ビニル系重合体の製造方法が開示されている。
しかしながら、特許文献4記載の方法では熱媒体の温度が制限される為昇温時間が長くなり生産性が低下する問題を有している。特許文献5記載の方法は内部ジャケットを有する重合槽に限定された方法であり、高い伝熱能力を有するものが望ましいとされており、外部ジャケットを有する重合槽には適用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭53-136089号公報
【文献】米国特許第4,080,173号公報
【文献】特公昭62-3841号公報
【文献】特開昭49-18984公報
【文献】特許第2574077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、良好なフィッシュアイ特性を有し、成形加工性に優れた塩化ビニル系重合体を得ることができ、さらに、重合槽内壁に付着するスケールが少なく、生産性が向上した塩化ビニル系重合体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、重合槽を用いて、塩化ビニル系単量体を懸濁重合して塩化ビニル系重合体を製造する方法において、ある特定の分散安定剤の一部を重合開始前に仕込み、重合混合物を昇温後、重合槽本体に付属するジャケットに流れる熱媒体の温度が所定の温度以下となった条件で残りの特定の分散安定剤を添加することにより、昇温時のジャケットに用いる熱水や蒸気を温度の制限なく用いることができるため生産性が向上し、良好なフィッシュアイ特性を有し、成型加工性に優れた塩化ビニル系重合体を得ることができ、さらに、重合槽内壁に付着するスケール量が著しく減少する事を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
重合槽を用いて、塩化ビニル単量体、または塩化ビニル単量体及び塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体との混合物であって、該共重合可能な単量体の割合は、該塩化ビニル単量体100質量部に対し20質量部以下である混合物(以下、塩化ビニル系単量体という。)を、重合開始剤、及び、分散安定剤として、(A)鹸化度が65モル%以上90モル%以下かつ平均重合度が600以上3000以下の部分鹸化ポリビニルアルコール、(B)鹸化度が10モル%以上60モル%以下かつ平均重合度が100以上1000以下の部分鹸化ポリビニルアルコールの存在下、水性媒体中で懸濁重合を行う塩化ビニル系重合体を製造する方法において、
前記(B)成分の合計添加量が前記塩化ビニル系単量体100質量部に対して0.04質量部以上であり、
重合開始前に前記(B)成分を前記塩化ビニル系単量体100質量部に対して0質量部以上0.03質量部以下添加し、重合槽本体に付属するジャケットに70℃以上の熱媒体を流し、前記塩化ビニル系単量体と、重合開始剤と、分散安定剤のうち、(A)成分と、重合開始前に添加される(B)成分との混合物が所定の重合温度に到達したのち、前記ジャケットに流れる熱媒体の温度が65℃以下かつ重合転化率10%未満内で残りの前記(B)成分を添加することを特徴とする、塩化ビニル系重合体の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によると、良好なフィッシュアイ特性を有し、成形加工性に優れた塩化ビニル系重合体を得ることができ、さらに、重合槽内壁に付着するスケールが少なく、生産性が向上した塩化ビニル系重合体の製造方法を提供することができる。このため、本発明の工業的価値は非常に大きいものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、重合槽を用いて、塩化ビニル系単量体を重合開始剤、及び、分散安定剤として、(A)鹸化度が65モル%以上90モル%以下かつ平均重合度が600以上3000以下の部分鹸化ポリビニルアルコール、(B)鹸化度が10モル%以上60モル%以下かつ平均重合度が100以上1000以下の部分鹸化ポリビニルアルコールの存在下、水性媒体中で懸濁重合を行う塩化ビニル系重合体を製造する方法である。
【0011】
本発明に用いられる重合槽は、重合槽本体にジャケットが付属していることを除けば、重合槽に付属する攪拌翼、所望により用いられるバッフル等の攪拌装置の形状に特に制限はなく、従来から塩化ビニル系単量体の懸濁重合方法で一般的に採用されている公知のものを用いることができる。重合槽本体に付属するジャケットとしては、例えば外部ジャケット、内部ジャケット等の加熱用のジャケットが挙げられる。重合槽に付属する攪拌翼としては、例えばパドル翼、ピッチドパドル翼、ブルマージン翼、ファウドラー翼、タービン翼、プロペラ翼等が挙げられ、これら攪拌翼は一種類で用いても、他の撹拌翼と組み合わせて用いてもよい。また、バッフルとしては、例えば板型、円筒型、D型、ループ型、フィンガー型等が例示される。また、還流コンデンサーを付随した重合槽で還流コンデンサーを用いても良い。
【0012】
本発明に用いられる塩化ビニル系重合体とは、塩化ビニル単量体、又は塩化ビニル単量体と共重合可能なビニル系単量体との混合物が重合して得られる重合体を主成分とするものをいい、適宜、滑剤、ゲル化改良剤、pH調整剤、連鎖移動剤、帯電防止剤、架橋剤、消泡剤、安定剤、充填剤、酸化防止剤、スケール付着防止剤などの添加剤が添加されていてもよい。
【0013】
塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体としては、塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体であればいかなるものも使用することができ、例えばエチレン,プロピレン等のオレフィン類、酢酸ビニル,ステアリン酸ビニル等のビニルエステル類、エチルビニルエーテル,セチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、アクリル酸メチル,アクリル酸エチル,アクリル酸ブチル,アクリル酸プロピル等のアクリル酸エステル類、マレイン酸,フマル酸のエステル類又は無水物、スチレン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル等の従来から塩化ビニルと共重合可能な単量体として知られている単量体が挙げられる。そして、該共重合可能な単量体は、塩化ビニル単量体に対し通常20質量部以下の割合で使用することが好ましい。
【0014】
本発明において用いられる重合開始剤としては、一般的に懸濁重合法に重合開始剤として用いられるものでよく、例えば、tert-ブチルパーオキシネオデカノエート、tert-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、tert-アミルパーオキシピバレート、tert-ヘキシルパーオキシピバレート、tert-ブチルパーオキシピバレート、クミルパーオキシネオデカノエート、tert-ヘキシルパーオキシネオヘキサノエートなどのパーエステル化合物;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジメトキシイソプロピルパーオキシジカーボネートなどのパーカーボネート化合物;ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、アセチルシクロヘキシルパーオキサイド、ジイソブチリルパーオキシドなどのパーオキサイド化合物;2、2’-アゾビスイソブチロニトリル、2、2’-アゾビス-2、4-ジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物が挙げられ、これらは1種又は2種以上の組合せで使用することができる。
【0015】
本発明において、分散安定剤として用いられる(A)成分は、鹸化度が65モル%以上90モル%以下かつ平均重合度が600以上3000以下の部分鹸化ポリビニルアルコールである。
(A)成分の鹸化度が65モル%未満では粒子が粗大化する場合がある。一方、鹸化度が90モル%を越える場合においては成形品のフィッシュアイが悪化するので好ましくない。
又、平均重合度が600未満の場合は、粒子が粗大化する場合がある。一方、平均重合度が3000を越える場合においては、成形品のフィッシュアイが悪化するので好ましくない。
【0016】
本発明において、分散安定剤として用いられる(B)成分は、鹸化度が10モル%以上60モル%以下かつ平均重合度が100以上1000以下の部分鹸化ポリビニルアルコールである。(B)成分としては、溶解に有機溶媒を使用せず、取扱いの容易さから、水分散性、及び/又は水溶性の特徴を有する分散安定剤が望ましい。なお、本発明において、水分散性とは、水性媒体に化合物を分散させた場合、水性媒体中に粒子を形成し、かつ、その粒子が水性媒体中に分散している状態を示す樹脂を意味する。水溶性とは、25℃の水に対して、1質量%以上溶解することを意味する。
具体的にはイオン性基を有する部分鹸化ポリビニルアルコール(特許第2826194号公報、特許第2566593号公報)やオキシアルキレン基を有する部分鹸化ポリビニルアルコール(特許第3623562号公報)等が挙げられる。特に末端にイオン性基を有する部分鹸化ポリビニルアルコールが望ましい。
さらに望ましくは、(B)成分が、末端にカルボキシル基あるいはスルホン酸基などのイオン性基を有する鹸化度が10モル%以上55モル%以下かつ平均重合度が100以上600以下の部分鹸化ポリビニルアルコールを分散質とする水性分散液を用いると、有機溶剤を使用しないために取扱いが容易であり、良好なフィッシュアイ特性を得ることができる。
(B)成分の部分鹸化ポリビニルアルコールの鹸化度が10モル%未満、又は、平均重合度が100未満であると、得られる塩化ビニル系重合体の粒子が粗大化したりカレンダー加工でのロール粘着の発生が顕著となったりするので好ましくない。一方、鹸化度が60モル%を超える場合や平均重合度が1000を超える場合は、成形品のフィッシュアイが悪化するので好ましくない。
【0017】
本発明において、(B)成分の仕込み方法は、所定の期間内であれば、所定量を連続的に重合槽に添加しても良いし、瞬時に添加しても良い。
【0018】
本発明においては、分散安定剤として上記の(A)成分と(B)成分以外に通常分散安定剤として知られているセルロース誘導体、ゼラチン、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤等を補助的に使用することもできる。その場合、その他の分散安定剤の添加量は上記の(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対し、好ましくは40質量部以下である。
【0019】
本発明において、良好なフィッシュアイの特性を得るために(B)成分の合計の添加量は塩化ビニル系単量体100質量部に対して0.04質量部以上の添加が必要であり、0.05質量部以上、0.2質量部以下の範囲で添加する事が望ましい。
本発明において、(B)成分の重合開始前の添加量はスケール付着量に影響しており、重合混合物の昇温時において、ジャケットに70℃以上の熱媒体を流す際、重合混合物の(B)成分の濃度が高いとスケールが付着し、特に80℃以上の熱媒体を用いると、スケールが著しく付着する。そのため、本発明の目的を満たすには重合開始前に添加する(B)成分の添加量を0.03質量部以下とする必要がある。0.02質量部以下とする事が望ましい。
【0020】
本発明における、重合混合物の昇温時において、重合槽本体に付属するジャケットの熱媒体の温度は昇温時間に影響する。本発明では70℃以上の熱媒体を用いることで昇温時間を短縮でき、より好ましくは、80℃以上の熱媒体を用いることにより昇温時間をさらに短縮することができ、生産性が向上する。熱媒体は水や蒸気など、一般的に用いられるもので差し支えない。
熱媒体の温度が65℃以下では、通常の重合で用いる範囲の(B)成分の濃度であればスケール付着に影響しない。そのため、混合物が所定の重合温度に到達したのち、65℃以下で残りの(B)成分を添加することが必要である。さらに望ましくは熱媒体が50℃以下で残りの(B)成分を添加する事が望ましい。
【0021】
本発明において、良好なフィッシュアイ特性を得るためには(B)成分を混合物が所定の重合温度に到達したのち、重合転化率10%未満内に添加する必要がある。転化率10%を超えるとスケール付着は良好であるが、フィッシュアイが悪化する。重合転化率5%未満で残りの(B)成分を添加する事が望ましい。転化率は重合槽に付随するジャケットの除熱量と、塩化ビニル単量体がポリ塩化ビニルへ重合反応する際の反応熱から求めことができる。
以上説明したように、本発明は、重合開始前に添加する(B)成分の添加量と重合開始後に、残りの(B)成分を添加する条件を見出したことが一つの特徴である。かかる特徴を有する本発明が、上述した効果が発現する理由としては従来、さまざまな知見があるが、一例として以下の内容が考えられる。
【0022】
塩化ビニル系単量体の重合は、分散安定剤として部分鹸化ポリビニルアルコール等を添加した後、所定の温度まで昇温させるため、重合槽に付属するジャケットに熱媒体として熱水、またはスチームを供給する。
(B)成分が水に分散した状態の場合、熱水、スチームにより重合槽内壁が高温に加熱されることで、水相に分散している重合槽内壁近傍の部分鹸化ポリビニルアルコール(B)が凝集し、重合槽内壁に付着することによりスケール付着の起点となることが考えられる。
一方、(B)成分が水に溶解した状態の場合、部分鹸化ポリビニルアルコールの水への溶解度と温度の関係については、部分鹸化ポリビニルアルコールの酢酸基の増加(鹸化度が低いほど)と共に溶解熱の負(発熱)は大きくなり、相分離の臨界温度は低下し、高温における溶解度は次第に低下する事が櫻田らによって明らかにされている(高分子刊行会「ポバール」P142、櫻田,細野;高分子化學,2,151(1945)参照)。熱水、スチームにより重合槽内壁が高温に加熱されることで、水相に溶解している重合槽内壁近傍の部分鹸化ポリビニルアルコール(B)成分が析出し、重合槽内壁に付着することによりスケール付着の起点となることが考えられる。
混合物内の部分鹸化ポリビニルアルコール(B)成分の濃度が高いほど、凝集または析出しやすく、スケールが付着しやすくなると考えられる。
上記の知見から、(B)成分の重合開始前の添加量を制限することで重合槽内壁への(B)成分の付着を防ぎ、ジャケットに70℃以上の熱媒体を用いる重合混合物の昇温を経て、重合混合物が所定の温度に到達し、ジャケットが65℃以下に冷却された後に残りの(B)成分を添加することで、スケール付着が少なく、さらに生産性が向上し、良好なフッシュアイ特性を有し、成型加工性に優れた塩化ビニル系重合体を得ることができると考えた。
【0023】
種々検討を行った結果、塩化ビニル系単量体を重合開始剤、及び、分散安定剤として、(A)鹸化度が65モル%以上90モル%以下かつ平均重合度が600以上3000以下の部分鹸化ポリビニルアルコール、(B)鹸化度が10モル%以上60モル%以下かつ平均重合度が100以上1000以下の部分鹸化ポリビニルアルコールの存在下、水性媒体中で懸濁重合を行う方法において、部分鹸化ポリビニルアルコール(B)の合計添加量が前記単量体100質量部に対して0.04質量部以上であって、重合開始前に(B)成分を前記単量体100質量部に対して0質量部以上0.03質量部以下添加し、重合槽本体に付属するジャケットに70℃以上の熱媒体を流し、混合物が所定の重合温度に到達したのち、ジャケットに流れる熱媒体の温度が65℃以下かつ重合転化率10%未満内で残りの(B)成分を添加することを特徴とする、塩化ビニル系重合体の製造方法を見出したものである。
【実施例
【0024】
次に、実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、これらは本発明の範囲をなんら限定するものではない。なお、実施例及び比較例により得られた塩化ビニル系重合体は、下記の方法によりその評価を行った。
【0025】
(1)フィッシュアイ
得られた塩化ビニル系重合体100質量部に対し、Ca-Zn系粉末複合安定剤1.5質量部、有機燐系安定化助剤0.5質量部、群青3質量部およびDOP(ジオクチルフタレート)50質量部を配合し、150℃に調整したロール成形機にて3分間混練し、厚さ0.35mmのシートを分取し、該シート50cm中の透明粒子の数をフィッシュアイの評価として示す。
(2)スケール付着状況
重合槽内壁に付着したスケールを目視により観察して付着状況を以下の評価基準にて判定した。
スケール付着状況の評価基準
○:スケール付着はほぼ見られない
△:スケール付着がやや見られる
×:著しいスケール付着が見られる
【0026】
(実施例1)
内容積2000リットルの撹拌機付きステンレス製重合槽に脱イオン水720kgを仕込み、次いで、鹸化度80モル%、平均重合度2600の部分鹸化ポリビニルアルコール((A)成分)280gを仕込んだ。鹸化度40モル%、平均重合度550の末端にカルボキシル基を有する水分散性の部分鹸化ポリビニルアルコール((B)成分)を110g(塩化ビニル単量体に対して0.02質量部)仕込んだ。その後、真空ポンプで重合槽内圧が-87kPa(圧力計ゲージ圧)となるまで脱気した。脱気後、塩化ビニル単量体550kg、及び、重合開始剤として、tert-ブチルパーオキシネオデカネート135g、tert-クミルパーオキシネオデカネート165gを重合槽へ仕込んだ。撹拌しながら、ジャケットに熱媒体として熱水を通して昇温を開始した。ジャケット熱水の最高温度は81℃であった。目標重合温度である51.7℃到達後、ジャケット温水温度42℃、転化率3.1%の時に、水分散性の特徴を有する部分鹸化ポリビニルアルコール(B)成分を192g添加した。(塩化ビニル単量体に対して0.035質量部)。重合槽の内圧は710kPa(圧力計ゲージ圧)であった。その後、内圧が620kPa(圧力計ゲージ圧)に降下した時点で反応を停止し、ついで未反応の塩化ビニル単量体を回収し、系内を窒素置換したのち、塩化ビニル重合体スラリーを取り出し、脱水乾燥して重合体を得た。
得られた塩化ビニル重合体の評価結果、スケール付着状況、昇温時間を表1に示す。
得られた塩化ビニル重合体は、フィッシュアイが少なく、重合槽内壁に付着したスケールはほぼ見られなかった。また、昇温時間が短く、生産性も良好であった。
【0027】
(実施例2)
昇温の際のジャケット熱水の温度を91℃とした以外は実施例1と同様の方法により重合体を得た。
得られた塩化ビニル重合体の評価結果、スケール付着状況、昇温時間を表1に示す。
得られた塩化ビニル重合体は、フィッシュアイが少なく、重合槽内壁に付着したスケールはほぼ見られなかった。また、昇温時間が短く、生産性も良好であった。
【0028】
(実施例3)
昇温の際のジャケット熱水の温度を75℃とした以外は実施例1と同様の方法により重合体を得た。
得られた塩化ビニル重合体の評価結果、スケール付着状況、昇温時間を表1に示す。
得られた塩化ビニル重合体は、フィッシュアイが少なく、重合槽内壁に付着したスケールはほぼ見られなかった。また、昇温時間が短く、生産性も良好であった。
【0029】
(実施例4)
ジャケット熱水が46℃、転化率4.5%の時に、鹸化度40モル%、平均重合度550、末端にカルボキシル基を有する水分散性の部分鹸化ポリビニルアルコール(B)を330g(塩化ビニル単量体に対して0.06質量部)添加した以外は実施例2と同様の方法により重合体を得た。
得られた塩化ビニル重合体の評価結果、スケール付着状況、昇温時間を表1に示す。
得られた塩化ビニル重合体は、フィッシュアイが少なく、重合槽内壁に付着したスケールはほぼ見られなかった。また、昇温時間が短く、生産性も良好であった。
【0030】
(実施例5)
(B)成分として鹸化度35モル%、平均重合度300の末端にイオン性基を有さず、水分散性及び水溶性を有さない、部分鹸化ポリビニルアルコールを用いた以外は実施例1と同様の方法により重合体を得た。
得られた塩化ビニル重合体の評価結果、スケール付着状況、昇温時間を表1に示す。
得られた塩化ビニル重合体は、フィッシュアイが少なく、重合槽内壁に付着したスケールはほぼ見られなかった。また、昇温時間が短く、生産性も良好であった。
【0031】
(実施例6)
(B)成分として鹸化度40モル%、重合度250、末端にイオン性基を有しない、水溶性の特徴を有する部分鹸化ポリビニルアルコールを用いた以外は実施例1と同様の方法により重合体を得た。
得られた塩化ビニル重合体の評価結果、スケール付着状況、昇温時間を表1に示す。
得られた塩化ビニル重合体は、フィッシュアイが少なく、重合槽内壁に付着したスケールはほぼ見られなかった。また、昇温時間が短く、生産性も良好であった。
【0032】
(実施例7)
(A)成分として、鹸化度80モル%、重合度2000の部分鹸化ポリビニルアルコールを0.04重合部、鹸化度70モル%、重合度670の部分鹸化ポリビニルアルコールを0.03重合部用いた以外は実施例1と同様の方法により重合体を得た。
得られた塩化ビニル重合体の評価結果、スケール付着状況、昇温時間を表1に示す。
得られた塩化ビニル重合体は、フィッシュアイが少なく、重合槽内壁に付着したスケールはほぼ見られなかった。また、昇温時間が短く、生産性も良好であった。
【0033】
(比較例1)
(B)成分全量を重合開始前に添加した以外は実施例1と同様の方法により重合体を得た。
得られた塩化ビニル重合体の評価結果、スケール付着状況、昇温時間を表1に示す。
得られた塩化ビニル重合体は、フィッシュアイは良好であった。しかしながら、重合槽内壁に多くのスケール付着が確認された。
【0034】
(比較例2)
(B)成分全量を重合開始前に添加した以外は実施例3と同様の方法により重合体を得た。
得られた塩化ビニル重合体の評価結果、スケール付着状況、昇温時間を表1に示す。
得られた塩化ビニル重合体は、フィッシュアイは良好であるが、重合槽に著しいスケール付着がみられた。
【0035】
(比較例3)
昇温時のジャケット熱水最高温度は75℃とした以外は比較例2同様の方法により重合体を得た。
得られた塩化ビニル重合体の評価結果、スケール付着状況、昇温時間を表1に示す。
得られた塩化ビニル重合体は、フィッシュアイは良好であるが、重合槽内壁へのスケール付着がやや確認された。
【0036】
(比較例4)
昇温時のジャケット熱水の最高温度を60℃とした以外は比較例2と同様の方法により重合体を得た。
得られた塩化ビニル重合体の評価結果、スケール付着状況、昇温時間を表1に示す。
得られた塩化ビニル重合体はフィッシュアイ良好であり、重合槽内壁に付着したスケールはほぼ見られなかったが、昇温時間は長く、生産性が悪化した。
【0037】
(比較例5)
重合開始前に仕込んだ(B)成分の量を0.02質量部とし、目標重合温度である51.7℃到達以降に、(B)成分を添加しなかった。その他は実施例1と同様の方法により重合体を得た。
得られた塩化ビニル重合体の評価結果、スケール付着状況、昇温時間を表1に示す。
得られた塩化ビニル重合体のフィッシュアイが著しく悪化した。重合槽内壁に付着したスケールはほぼ見られなかった。
【0038】
(比較例6)
重合開始前に仕込んだ(B)成分の量を0.04質量部とし、目標重合温度である51.7℃到達後からジャケット熱水温度45℃、重合転化率3.2%の時に、水分散性の特徴を有する部分鹸化ポリビニルアルコール(B)成分を64g(塩化ビニル単量体に対して0.015質量部)添加した以外は実施例1と同様の方法により重合体を得た。
得られた塩化ビニル重合体の評価結果、スケール付着状況、昇温時間を表1に示す。
得られた塩化ビニル重合体のフィッシュアイは良好であったが、重合槽内壁にスケールが著しく付着した。
【0039】
(比較例7)
目標重合温度である51.7℃到達後からジャケット熱水温度39℃、重合転化率10.4%の時に、水分散性の特徴を有する部分鹸化ポリビニルアルコール(B)成分を192g(塩化ビニル単量体に対して0.035質量部)添加した以外は実施例1と同様の方法により重合体を得た。
得られた塩化ビニル重合体の評価結果、スケール付着状況、昇温時間を表1に示す。
得られた塩化ビニル重合体のフィッシュアイは悪化した。重合槽内壁にスケールはほぼ見られなかった。
【0040】
(比較例8)
目標重合温度である51.7℃到達後からジャケット冷却水温度73℃、重合転化率0.3%の時に、水分散性の特徴を有する部分鹸化ポリビニルアルコール(B)成分を192g(塩化ビニル単量体に対して0.035質量部)添加した以外は実施例1と同様の方法により重合体を得た。
得られた塩化ビニル重合体の評価結果、スケール付着状況、昇温時間を表1に示す。
得られた塩化ビニル重合体のフィッシュアイは良好であったが、重合槽内壁にスケールが著しく付着した。
【0041】
【表1】