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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】電気機械変換器
(51)【国際特許分類】
   H02N 1/00 20060101AFI20231225BHJP
   G04C 3/00 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
H02N1/00
G04C3/00 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020021418
(22)【出願日】2020-02-12
(65)【公開番号】P2021129352
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 俊成
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 顕斉
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 真
【審査官】稲葉 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-186424(JP,A)
【文献】特公昭48-041399(JP,B1)
【文献】国際公開第2008/099700(WO,A1)
【文献】特開2017-028910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 1/00
G04C 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の回転子と、前記回転子に係合された第一回転軸と、を有する回転部材と、
前記回転子の第一面と対向する第一固定子と、
前記回転子の第二面と対向する第二固定子と、
前記第一面および前記第一固定子の一方に配置された第一帯電膜と、前記第一面および前記第一固定子の他方に配置された電極と、を有する第一変換部と、
前記第二面および前記第二固定子の一方に配置された第二帯電膜と、前記第二面および前記第二固定子の他方に配置された電極と、を有する第二変換部と、
を備え、
前記第一変換部および前記第二変換部は、前記第一変換部における静電力と、前記第二変換部における静電力と、の総和により前記回転子に対して軸方向の一方側に向かう力を作用させるように構成されており、
前記第一変換部における静電力と、前記第二変換部における静電力と、の総和により前記回転子に対して作用する軸方向の力は、前記回転部材の自重に応じた軸方向の力よりも大きい
ことを特徴とする電気機械変換器。
【請求項2】
前記第二帯電膜の帯電電圧は、前記第一帯電膜の帯電電圧よりも大きい
請求項1に記載の電気機械変換器。
【請求項3】
前記第二変換部の電極のインピーダンスは、前記第一変換部の電極のインピーダンスよりも小さい
請求項1または2に記載の電気機械変換器。
【請求項4】
前記第二変換部の電極は、有色電極であり、
前記第一変換部の電極は、透明電極である
請求項1から3の何れか1項に記載の電気機械変換器。
【請求項5】
前記第二帯電膜の厚さは、前記第一帯電膜の厚さよりも大きい
請求項1から4の何れか1項に記載の電気機械変換器。
【請求項6】
前記回転部材は、前記回転子に加えて、前記第一回転軸に係合された他の部材を有する
請求項1から5の何れか1項に記載の電気機械変換器。
【請求項7】
前記他の部材は、歯車を含む
請求項に記載の電気機械変換器。
【請求項8】
前記他の部材は、表示針を含む
請求項6または7に記載の電気機械変換器。
【請求項9】
前記第一回転軸とは別の軸であり、かつ前記回転部材との間で機械的に動力を伝達する第二回転軸と、
前記第二回転軸に係合された回転錘と、
を備え、
前記回転部材は、前記回転錘の回転運動と連動して回転する
請求項1からの何れか1項に記載の電気機械変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、静電力を用いた発電機構や駆動機構がある。特許文献1には、第1基板と、第1基板に対して相対移動可能に平行に配置された第2基板と、第1基板又は第2基板の一方に設置された第1帯電膜と、第1基板又は第2基板の他方に設置され、第1帯電膜と対向して設置された第1対向電極と、を有する静電誘導型発電器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-186424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
静電力を用いて発電や駆動を行なう電気機械変換器において、軸方向における回転子の位置が変化すると、発電効率や駆動効率が変動してしまう。電気機械変換器における効率の変動を抑制できることが望ましい。
【0005】
本発明の目的は、効率の変動を抑制することができる電気機械変換器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電気機械変換器は、板状の回転子と、前記回転子に係合された第一回転軸と、を有する回転部材と、前記回転子の第一面と対向する第一固定子と、前記回転子の第二面と対向する第二固定子と、前記第一面および前記第一固定子の一方に配置された第一帯電膜と、前記第一面および前記第一固定子の他方に配置された電極と、を有する第一変換部と、前記第二面および前記第二固定子の一方に配置された第二帯電膜と、前記第二面および前記第二固定子の他方に配置された電極と、を有する第二変換部と、を備え、前記第一変換部および前記第二変換部は、前記第一変換部における静電力と、前記第二変換部における静電力と、の総和により前記回転子に対して軸方向の一方側に向かう力を作用させるように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る電気機械変換器は、第一変換部における静電力と、第二変換部における静電力と、の総和により回転子に対して軸方向の一方側に向かう力を作用させるように構成されている。本発明に係る電気機械変換器によれば、回転子の位置変化による効率の変動を抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1実施形態に係る時計の正面図である。
図2図2は、第1実施形態に係る時計の断面図である。
図3図3は、第1実施形態に係る電気機械変換器の断面図である。
図4図4は、第1実施形態に係る第一変換部の概略構成図である。
図5図5は、第1実施形態に係る第二変換部の概略構成図である。
図6図6は、第1実施形態の回転部材に作用する力を示す断面図である。
図7図7は、回転部材の製造工程の一例を示す図である。
図8図8は、カエリが形成された回転子に対する帯電処理を示す断面図である。
図9図9は、第二変換部の一例を示す概略構成図である。
図10図10は、第二変換部の一例を示す断面図である。
図11図11は、回転子の位置と発電出力との関係を示す図である。
図12図12は、固有周期と相対回転量との関係を示す図である。
図13図13は、第一固定子に向かう静電力の合力を示す断面図である。
図14図14は、静電力の合力および自重による力を示す断面図である。
図15図15は、第2実施形態に係る時計の正面図である。
図16図16は、第2実施形態に係る時計の断面図である。
図17図17は、第2実施形態に係る電気機械変換器の断面図である。
図18図18は、第2実施形態に係る電気機械変換器の概略構成を示す図である。
図19図19は、第2実施形態に係る第一変換部および第二変換部の断面図である。
図20図20は、第2実施形態に係る電気機械変換器の駆動方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態に係る電気機械変換器につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0010】
[第1実施形態]
図1から図14を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、電気機械変換器に関する。図1は、第1実施形態に係る時計の正面図、図2は、第1実施形態に係る時計の断面図、図3は、第1実施形態に係る電気機械変換器の断面図、図4は、第1実施形態に係る第一変換部の概略構成図、図5は、第1実施形態に係る第二変換部の概略構成図、図6は、第1実施形態の回転部材に作用する力を示す断面図、図7は、回転部材の製造工程の一例を示す図、図8は、カエリが形成された回転子に対する帯電処理を示す断面図、図9は、第二変換部の一例を示す概略構成図、図10は、第二変換部の一例を示す断面図である。
【0011】
図11は、回転子の位置と発電出力との関係を示す図、図12は、固有周期と相対回転量との関係を示す図、図13は、第一固定子に向かう静電力の合力を示す断面図、図14は、静電力の合力および自重による力を示す断面図である。図2には、図1のII-II断面が示されている。図3図6図10図13、および図14には、図1のIII-III断面が示されている。
【0012】
図1に示すように、第1実施形態に係る時計1は、指針4を有する時計であり、例えば、アナログ電子時計である。図1から図3に示すように、時計1は、外装ケース2と、文字板3と、指針4と、地板7と、受け板9と、電気機械変換器30と、を有する。電気機械変換器30は、時計用の変換器であり、典型的には腕時計用の変換器である。電気機械変換器30は、回転部材5と、第一固定子11と、第二固定子12と、第一変換部6と、第二変換部8と、を有する。指針4は、秒針4a、分針4b、および時針4cを有する。地板7は、回転部材5の回転子51を視認可能とする窓部73を有する。
【0013】
図2に示すように、外装ケース2は、ケース本体21と、裏蓋22と、を有する。ケース本体21の形状は、略筒形状である。以下の説明では、ケース本体21の軸方向を単に「軸方向Z」と称する。ケース本体21の内部空間は、軸方向Zの前面側および背面側のそれぞれに向けて開口している。裏蓋22は、ケース本体21における背面側の開口を閉塞する。透明な風防20は、ケース本体21における前面側の開口を閉塞している。
【0014】
外装ケース2の内部には、地板7および受け板9が配置されている。地板7は、様々なパーツを組み込む土台、支持板、内装ケーシングなどとして機能する。また、受け板9は、回転体の軸を支えたり、部品を固定・保持したりする機能を有する。地板7および受け板9は、ケース本体21に対して固定されている。受け板9は、地板7に対して背面側に位置している。文字板3は、地板7に対して前面側に配置されて地板7を覆っている。図3に示すように、文字板3は、地板7の窓部73に対応する窓部31を有する。
【0015】
図2に示すように、時計1は、蓄電池27、モータ28、および減速機構29を有する。蓄電池27は、充放電が可能な二次電池である。蓄電池27は、地板7に対して固定されている。モータ28は、蓄電池27から供給される電力を回転運動の運動エネルギーに変換する。減速機構29は、モータ28の出力軸と指針4との間に介在している。減速機構29は、例えば、減速輪列を有している。モータ28は、減速機構29を介して指針4を運針させる。
【0016】
本実施形態の時計1は、電気エネルギーと機械的なエネルギーとの変換を行なう電気機械変換器30を有する。図3に示すように、電気機械変換器30は、回転部材5、第一固定子11、第二固定子12、第一変換部6、および第二変換部8を有する。電気機械変換器30は、第一固定子11および第二固定子12に対する回転子51の相対回転を利用して発電を行なう。電気機械変換器30は、後述する回転錘26の運動エネルギーを電気エネルギーに変換して蓄電池27を充電する。
【0017】
回転部材5は、地板7および受け板9によって回転自在に支持されている。回転部材5は、回転子51、第一回転軸52、および歯車53を有する。回転子51は、シリコン基板、帯電用の電極面が設けられたガラスエポキシ基板、あるいはアルミ板などの基板材料により形成された部材である。回転子51の形状は、例えば、円盤形状である。回転子51は、第一回転軸52に係合されており、第一回転軸52と一体回転する。第一回転軸52は、回転子51の中心部を板厚方向に貫通している。
【0018】
地板7は、第一回転軸52の一端を支持する受石71および穴石72を保持している。穴石72は、第一回転軸52が挿通される穴を有しており、軸方向Zと直交する方向において第一回転軸52を位置決めする。受石71は、軸方向Zにおいて第一回転軸52の先端と対向し、第一回転軸52を回転自在に支持する。受石71は、第一回転軸52に対して軸方向Zの前面側に配置されている。
【0019】
受け板9は、第一回転軸52の他端を支持する受石91および穴石92を保持している。穴石92は、第一回転軸52が挿通される穴を有しており、軸方向Zと直交する方向において第一回転軸52を位置決めする。受石91は、軸方向Zにおいて第一回転軸52の先端と対向し、第一回転軸52を回転自在に支持する。受石91は、第一回転軸52に対して軸方向Zの背面側に配置されている。
【0020】
歯車53は、第一回転軸52に係合されている部材であり、第一回転軸52と一体回転する。歯車53は、回転子51よりも軸方向Zの背面側に位置している。図2に示すように、歯車53は、第二回転軸23の歯車25と噛み合っている。第二回転軸23は、第一回転軸52とは別の軸である。例示された第二回転軸23は、第一回転軸52とは別軸上に配置され、かつ第一回転軸52と平行な回転軸である。第二回転軸23は、受け板9に配置された軸受93によって回転自在に支持されている。
【0021】
回転錘26は、第二回転軸23に係合されており、第二回転軸23と一体回転する。本実施形態の回転錘26は、略扇形状の部材であり、受け板9に対して軸方向Zの背面側に配置されている。回転錘26の端部26aが第二回転軸23に連結されている。回転錘26は、ユーザの腕の動きなどを捉えて回転する錘である。回転錘26が回転すると、その回転運動が歯車25から歯車53に伝達される。歯車25から歯車53に伝達された回転トルクにより、回転子51が第一固定子11および第二固定子12に対して相対回転する。なお、歯車25および歯車53は、回転トルクを伝達し、かつ軸方向Zの力を実質的に伝達しないように噛み合っている。歯車25および歯車53は、例えば、平歯の歯車である。
【0022】
図3に示すように、第一変換部6は、電極61および第一帯電膜64を有する。第一帯電膜64は、回転子51の第一面51aに形成されている。例示された第一面51aは、回転子51における軸方向Zの前面である。電極61は、第一固定子11の背面11bに配置されている。背面11bは、軸方向Zにおいて第一面51aと互いに対向している。
【0023】
図4に示すように、回転子51の第一面51aには、複数の第一帯電膜64が形成されている。複数の第一帯電膜64は、第一回転軸52を中心とする周方向に沿って等間隔で配置されている。第一帯電膜64は、エレクトレット材料で構成されている薄膜である。本実施形態の第一帯電膜64は、マイナスの電位に帯電している。第一帯電膜64の形状は、扇形状である。つまり、第一帯電膜64の幅は、半径方向の外側へ向かうに従って広がっている。回転子51には、隣接する第一帯電膜64の間に貫通孔51cが形成されている。
【0024】
図4に示すように、第一固定子11の背面11bには、複数の電極61が形成されている。本実施形態の第一固定子11は、透明基板である。第一固定子11は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の透明な樹脂で形成されている。基板10の色は、無色であってもよい。第一固定子11は、地板7に対して背面側に配置されており、地板7の背面7bに対して固定されている。本実施形態の第一固定子11の形状は、図4に示すように円盤形状である。第一固定子11には、回転部材5の第一回転軸52が挿通される貫通孔11cが設けられている。
【0025】
電極61は、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)を用いて形成された膜である。電極61は、透明であり、実質的に無色である。つまり、本実施形態の第一固定子11および電極61は、それぞれ透明な基板および電極である。電極61は、第一電極61aおよび第二電極61bを有する。第一固定子11の背面11bには、周方向に沿って第一電極61aおよび第二電極61bが交互に配置されている。第一電極61aおよび第二電極61bの形状は、扇形状である。第一電極61aおよび第二電極61bは、整流回路63を介して蓄電池27に接続されている。
【0026】
図3に示すように、第二変換部8は、電極81および第二帯電膜84を有する。第二帯電膜84は、回転子51の第二面51bに形成されている。例示された第二面51bは、回転子51における軸方向Zの背面である。電極81は、第二固定子12の前面12aに配置されている。前面12aは、軸方向Zにおいて回転子51の第二面51bと互いに対向している。
【0027】
図5に示すように、回転子51の第二面51bには、複数の第二帯電膜84が形成されている。複数の第二帯電膜84は、周方向に沿って等間隔で配置されている。第二帯電膜84は、エレクトレット材料で構成されている薄膜である。本実施形態の第二帯電膜84は、マイナスの電位に帯電している。第二帯電膜84の形状は、扇形状である。隣接する第二帯電膜84の間には、貫通孔51cが位置している。第二帯電膜84の形状、面積、および枚数は、第一帯電膜64の形状、面積、および枚数と同じであってもよい。
【0028】
図5に示すように、第二固定子12の前面12aには、複数の電極81が形成されている。本実施形態の第二固定子12は、ガラスエポキシ樹脂等で形成された有色基板である。第二固定子12は、不透明であってもよい。第二固定子12は、例えば、ケース本体21に対して固定されている。本実施形態の第二固定子12の形状は、図5に示すように円盤形状である。第二固定子12には、回転部材5の第一回転軸52が挿通される貫通孔12cが設けられている。
【0029】
電極81は、例えば、銅や金などの導電性の金属で形成された有色電極である。電極81は、第三電極81aおよび第四電極81bを有する。第二固定子12の前面12aには、周方向に沿って第三電極81aおよび第四電極81bが交互に配置されている。第三電極81aおよび第四電極81bの形状は、扇形状である。第三電極81aおよび第四電極81bは、整流回路83を介して蓄電池27に接続されている。電極81の形状、面積、および枚数は、電極61の形状、面積、および枚数と同じであってもよい。
【0030】
本実施形態の電気機械変換器30は、図6を参照して説明するように、電気機械変換器30における発電効率の変動を抑制できるように構成されている。図6には、本実施形態の回転部材5に作用する力が示されている。吸引力F1は、第一変換部6の静電力によって回転子51に作用する力である。吸引力F1は、回転子51を第一固定子11の電極61に向けて引っ張る力である。なお、吸引力F1は、第一固定子11の電極61と第一帯電膜64との間に作用する静電力の総和である。
【0031】
吸引力F2は、第二変換部8の静電力によって回転子51に作用する力である。吸引力F2は、回転子51を第二固定子12の電極81に向けて引っ張る力である。なお、吸引力F2は、第二固定子12の電極81と第二帯電膜84との間に作用する静電力の総和である。
【0032】
吸引力F1,F2の合力Feは、第一変換部6における静電力と、第二変換部8における静電力と、の総和により回転子51に対して作用する軸方向の力である。以下の説明では、吸引力F1,F2の合力Feを単に「静電力の合力Fe」と称する。図6に示すように、本実施形態の電気機械変換器30は、吸引力F2の大きさが吸引力F1の大きさよりも大きくなるように構成されている。つまり、電気機械変換器30は、回転子51に対して軸方向Zの背面側に向かう静電力の合力Feを作用させるように構成されている。
【0033】
静電力の合力Feによって、回転部材5は軸方向Zの背面側に向けて吸引される。これにより、軸方向Zにおける回転子51の位置が安定しやすくなる。比較例として、吸引力F1の大きさと吸引力F2の大きさとを等しくするように設計された電気機械変換器について検討する。比較例の電気機械変換器では、時計1の姿勢の変化や時計1に対する衝撃等によって、軸方向Zにおける回転子51の位置が変化しやすい。回転子51の位置が変化すると、第一帯電膜64と電極61との間のギャップ量、および第二帯電膜84と電極81との間のギャップ量が変化する。これらのギャップ量の変化は、比較例の電気機械変換器における発電効率の低下につながる。
【0034】
これに対して、本実施形態の電気機械変換器30では、第一帯電膜64と電極61との間のギャップ量、および第二帯電膜84と電極81との間のギャップ量の変化が抑制される。よって、本実施形態の電気機械変換器30によれば、第一変換部6および第二変換部8における発電効率の変動が抑制される。
【0035】
回転子51に対して第二固定子12へ向かう静電力の合力Feを作用させる構成として、例えば、第二帯電膜84の帯電電圧が、第一帯電膜64の帯電電圧よりも大きくされてもよい。このような構成により、吸引力F2の大きさを吸引力F1の大きさよりも大きくすることが可能である。
【0036】
第二帯電膜84の帯電電圧を第一帯電膜64の帯電電圧よりも大きくする方法として、例えば、以下のように回転部材5が製造されてもよい。図7には、回転部材の製造工程の一例が示されている。図7(a)に示すように、回転子51の第一面51aおよび第二面51bにそれぞれエレクトレット材料の膜65,85が形成される。回転子51の材質は、導電性を有し、生じる静電気力に対して十分な剛性を持つもの、例えばアルミニウム等の金属が用いられる。
【0037】
エレクトレット材料の膜65,85の形成方法は、その材料に応じて選択される。膜65,85は、例えば、第一面51aおよび第二面51bの全面に成膜される。エレクトレット材料が液体でありいわゆるウェットプロセスが使用できるのであれば、成膜方法はディップコート、スピンコート、カーテンフローコート、スプレーコート、グラビアコートなど適宜のコーティング方法によってよい。その他の方法としては、スパッタリングやイオンプレーティング等のPVD、あるいはCVD、などの蒸着によって膜65,85が形成されてもよい。エレクトレット材料のフィルムを回転子51に貼付する方法で膜65,85が形成されてもよい。
【0038】
その後、図7(b)および図7(c)に示すように、プレスによる打ち抜き加工により、回転子51および膜65,85が所望の形状に加工される。打ち抜き加工により、回転子51には貫通孔51cおよび軸穴51dが形成される。図7(d)に示すように、第一回転軸52は、軸穴51dに挿通されて回転子51と係合する。
【0039】
次に、図7(e)に示すように、膜65,85に対する帯電処理がなされる。帯電処理としては、例えば、コロナ放電処理が用いられる。帯電処理において、回転子51は接地される。回転子51および第一回転軸52は、一対のコロナ放電電極100の間に配置される。コロナ放電により、コロナ放電電極100から膜65,85に対して電荷が付与される。膜65,85は、電荷が付与されることで第一帯電膜64および第二帯電膜84となる。
【0040】
ここで、図8に示すように、回転子51には、打ち抜き方向に突出するカエリ51eが形成されている。図7に例示された打ち抜き加工では、第一面51aの側にカエリ51eが形成される。カエリ51eを有する回転子51を接地して帯電処理を行うと、図8に示すように、カエリ51eが突出する側の第一面51aにおいて、電気力線がカエリ51eに集中し、放電電荷が回転子51に流れてしまう。このため、カエリ51eの近辺の第一帯電膜64に付与される電荷の量が減少する。その結果、第一帯電膜64の帯電電圧を第二帯電膜84の帯電電圧よりも小さくすることができる。なお、図8の破線矢印は、電気力線と、かかる電気力線に沿って放出される電荷の動きを示したものである。
【0041】
第一帯電膜64の帯電電圧と第二帯電膜84の帯電電圧とを異ならせる手段として、コロナ放電の印加電圧を異ならせてもよい。例えば、第二帯電膜84に対する印加電圧が第一帯電膜64に対する印加電圧よりも高電圧とされてもよい。帯電処理において、回転子51を一対のコロナ放電電極100の一方に近づけることにより、第一帯電膜64の帯電電圧と第二帯電膜84の帯電電圧とを異ならせてもよい。例えば、図7(e)において、回転子51を下側のコロナ放電電極100に近づけた状態で帯電処理がなされてもよい。
【0042】
第一帯電膜64の帯電電圧と第二帯電膜84の帯電電圧とを異ならせる手段として、例えば、第一帯電膜64および第二帯電膜84の一方にフッ素樹脂等のコーティングを施し、他方にコーティングを施さないようにしてもよい。例えば、第二帯電膜84に対してコーティングを塗布することで、第二帯電膜84の帯電電圧を第一帯電膜64の帯電電圧よりも高くすることが可能である。
【0043】
回転子51に対して第二固定子12へ向かう静電力の合力Feを作用させる構成として、例えば、第二帯電膜84の厚さが第一帯電膜64の厚さよりも大きくされてもよい。このような構成により、吸引力F2の大きさを吸引力F1の大きさよりも大きくすることが可能である。
【0044】
回転子51に対して第二固定子12へ向かう静電力の合力Feを作用させる構成として、例えば、第二固定子12に配置された電極の面積が、第一固定子11に配置された電極の面積よりも大きくされてもよい。一例として、一つの電極81の面積が、一つの電極61の面積よりも大きくされてもよい。また、電極81の総面積が電極61の総面積よりも大きくされてもよい。
【0045】
回転子51に対して第二固定子12へ向かう静電力の合力Feを作用させる構成として、第二帯電膜84の面積が第一帯電膜64の面積よりも大きくされてもよい。例えば、第二帯電膜84の面積を第一帯電膜64の面積よりも大きくする手段として、レーザー加工により貫通孔51cが形成されてもよい。この場合、例えば、回転子51の半径方向と直交する断面において、貫通孔51cの断面形状が台形形状となるように貫通孔51cが形成される。これにより、第一帯電膜64および第二帯電膜84が形成された部分の断面形状も台形形状となる。この断面形状は、第二帯電膜84の側を下底とし、第一帯電膜64の側を上底とする台形形状である。
【0046】
第二帯電膜84の面積を第一帯電膜64の面積よりも大きくする構成として、回転子51の形状が湾曲形状とされてもよい。この場合、回転子51の形状は、第二面51bの側が凸面であり、第一面51aの側が凹面となる湾曲形状とされる。
【0047】
第二帯電膜84の面積を第一帯電膜64の面積よりも大きくする構成として、回転子51を被覆する絶縁性のカバーが形成されてもよい。例えば、図7(a)に示す回転子51に対して、膜65,85の一部を被覆するカバーが形成されてもよい。膜65において、カバーによって被覆されていない露出部が第一帯電膜64として機能する。膜85において、カバーによって被覆されていない露出部が第二帯電膜84として機能する。カバーは、膜85の露出面積が膜65の露出面積よりも大きくなるように形成される。その結果、第二帯電膜84の面積が第一帯電膜64の面積よりも大きくなる。
【0048】
回転子51に対して第二固定子12へ向かう静電力の合力Feを作用させる構成として、図9および図10に示す構成が採用されてもよい。図9および図10には、第二変換部8の構成の一例が示されている。図9および図10に示すように、回転子51の第二面51bには、第三帯電膜87が形成されている。第三帯電膜87の形状は、円環形状である。第三帯電膜87は、第二帯電膜84に対して半径方向の内側に配置されている。第三帯電膜87は、第二帯電膜84と接続していてもよい。第三帯電膜87には、帯電処理がなされている。
【0049】
第二固定子12の前面12aには、第五電極86が形成されている。第五電極86は、第三帯電膜87と互いに対向する位置に配置されている。第五電極86の形状は、円環形状である。第五電極86は、第三電極81aおよび第四電極81bとは独立した電極である。第五電極86は、接地されていてもよい。
【0050】
図10に示すように、第三帯電膜87および第五電極86は、軸方向Zにおいて互いに対向している。従って、回転子51には、第三帯電膜87と第五電極86との間の静電力により、第二固定子12に向かう吸引力F3が作用する。図10に示すように、第二変換部8では、電極81と第二帯電膜84とが互いに対向し、かつ第五電極86と第三帯電膜87とが互いに対向している。これにより、第二変換部8における静電力に関する対向面積は、第一変換部6における静電力に関する対向面積よりも大きい。よって、第二固定子12に向かう静電力の合力Feの増加が実現される。
【0051】
回転子51に対して第二固定子12へ向かう静電力の合力Feを作用させる構成として、例えば、第二変換部8の電極81のインピーダンスが第一変換部6の電極61のインピーダンスよりも小さくされてもよい。本実施形態の電気機械変換器30では、第二変換部8の電極81は導電性が相対的に高い有色電極であり、第一変換部6の電極61は導電性が相対的に低い透明電極である。このような構成により、吸引力F2の大きさを吸引力F1の大きさよりも大きくすることが可能である。
【0052】
本実施形態の電気機械変換器30によれば、以下に説明するように、発電量の最大化を図ることができる。図11には、軸方向Zにおける回転子51の位置と、電気機械変換器30における発電量との関係が示されている。図11において、横軸は軸方向Zにおける回転子51の位置を示し、縦軸は発電出力[W]を示している。
【0053】
図11において、曲線Pw1は、第一変換部6における発電出力を示し、曲線Pw2は、第二変換部8における発電出力を示している。また、曲線Pwtは、電気機械変換器30における発電総出力を示している。なお、第一変換部6および第二変換部8における発電出力の値は、例えば、電気機械変換器30を単体で動作させたときの値、言い換えると、電気機械変換器30を時計1に組み込まれていない状態で動作させたときの値である。発電出力の値は、例えば、外力によって第一回転軸52を一定の速度で回転させたときの値である。
【0054】
図11において、第一の位置Z1は、回転子51が可動範囲において最も第一固定子11に近づいた位置である。第二の位置Z2は、回転子51が可動範囲において最も第二固定子12に近づいた位置である。可動範囲は、受石71,91の位置によって決まる。図11からわかるように、回転子51が第一の位置Z1にある場合や、回転子51が第二の位置Z2にある場合に発電総出力Pwtが大きくなる。本実施形態の第一変換部6および第二変換部8は、回転子51を第二の位置Z2に向かわせる静電力の合力Feを発生させる。よって、本実施形態の電気機械変換器30によれば、発電量の最大化を図ることができる。
【0055】
また、本実施形態の時計1は、回転動作部32(図2参照)における固有周期Tejの変動を抑制することができる。回転動作部32は、回転部材5、歯車25、第二回転軸23、および回転錘26を含む。固有周期Tejは、回転動作部32の機械的な固有周期であり、下記式(1)で表される。ここで、jaは、回転錘26から回転子51までの負荷であり、回転部材5の回転負荷も含まれる。負荷jaは、例えば、歯車25、歯車53、および回転子51における変速比や慣性モーメントをパラメータとして含む。mは、回転錘26の質量、rは、回転錘26の回転中心から回転錘26の重心までの距離、gは、重力加速度である。つまり、m・g・rは、回転錘26に発生する重力トルクである。
Tej=2・π・√(ja/m・g・r) (1)
【0056】
本実施形態の時計1では、時計1がユーザの腕に装着された状態において効率的に発電がなされるように固有周期Tejが定められている。固有周期Tejは、例えば、図12を参照して説明する実験結果に基づいて定められる。図12において、横軸は回転動作部の固有周期の値を示し、縦軸は、測定された相対回転量を示す。つまり、図12には、回転動作部の固有周期Tejの値を様々に変化させた場合に測定された相対回転量が示されている。なお、図12の相対回転量の値は、複数の被験者について得られた相対回転量の平均値である。
【0057】
固有周期Tejにおいて、閾値Tminよりも小さい範囲では、回転動作部32を時計1に搭載可能な機構として成立させることが困難であったり、被験者ごとの測定値のバラツキが大きかったりする。このため、閾値Tmin以上の範囲において固有周期Tejが選択される。本実施形態の時計1では、固有周期Tejの値が図12に示す第一周期T1に設定されている。第一周期T1は、相対回転量が極大値となる周期である。第一周期T1は、例えば、1[sec]よりもわずかに小さな値である。
【0058】
本実施形態の電気機械変換器30では、回転子51に対して静電力の合力Feが作用していることで、回転子51が第二の位置Z2に位置付けられる。固有周期Tejの設計における負荷jaの値は、回転子51が第二の位置Z2にある場合の回転動作部32の負荷の値が用いられる。つまり、本実施形態の時計1は、回転子51が第二の位置Z2にある場合に電気機械変換器30における発電出力が最大化されるように構成されている。従って、本実施形態の時計1は、第一変換部6および第二変換部8が発生させる静電力の合力Feにより、最も発電出力が大きくなる位置に回転子51を位置付けることができる。
【0059】
静電力の合力Feは、回転子51が第二の位置Z2から移動することを規制し、固有周期Tejの値の変動を抑制することができる。よって、本実施形態の電気機械変換器30は、高効率で継続して発電することができる。
【0060】
なお、静電力の合力Feの向きは、回転子51を第二固定子12へ向かわせる向きには限定されない。電気機械変換器30は、回転子51に対して第一固定子11に向かう静電力の合力Feを作用させるように構成されてもよい。図13には、第一固定子11に向かう静電力の合力Feを作用させる電気機械変換器30の一例が示されている。図13に示す電気機械変換器30において、第一帯電膜64の厚さt1は、第二帯電膜84の厚さt2よりも大きい。この構成により、第一変換部6における静電力と、第二変換部8における静電力と、の総和により第一固定子11に向かう静電力の合力Feを回転部材5に作用させることが可能となる。
【0061】
なお、回転子51に対して第一固定子11に向かう静電力の合力Feを作用させる手段は、帯電膜64,84の厚さt1,t2を異ならせることには限定されない。上記において説明した、回転子51に対して第二固定子12に向かう静電力の合力Feを作用させるための各手段は、第一固定子11に向かう静電力の合力Feを作用させる手段として応用可能である。
【0062】
電気機械変換器30は、第一固定子11に設けられた電極61の抵抗値を第二固定子12に設けられた電極81の抵抗値よりも高く設定し、かつ第一固定子11に向かう静電力の合力Feを発生させるように構成されてもよい。この場合、回転子51に作用するブレーキ力が小さくなる。その結果、時計1の姿勢が変化したときの回転子51の回転量が大きくなり、電気機械変換器30の発電量が大きくなることが期待できる。
【0063】
また、電気機械変換器30は、第二固定子12に設けられた電極81の抵抗値を第一固定子11に設けられた電極61の抵抗値よりも低く設定し、かつ第二固定子12に向かう静電力の合力Feを発生させるように構成されてもよい。この場合、回転子51の単位回転量に対する発電量が大きくなる。
【0064】
第一固定子11に設けられた電極61の抵抗値と、第二固定子12に設けられた電極81の抵抗値とを異ならせる場合、発生させる合力Feの向きは、発電量の最大化を図るように定められることが好ましい。静電力の合力Feの向きは、回転錘26の質量mや、回転錘26の回転中心から回転錘26の重心までの距離r等に基づいてシミュレーションによって定められてもよい。静電力の合力Feの向きは、被験者の腕に時計1を装着して得られる発電量の計測結果に基づいて定められてもよい。
【0065】
電気機械変換器30は、静電力の合力Feを回転部材5の自重に応じた軸方向Zの力よりも大きくするように構成されてもよい。図14には、静電力の合力Fe、および自重による力Fwが示されている。図14には、軸方向Zを鉛直方向と一致させた時計1が示されている。図14において、第一固定子11は、第二固定子12よりも鉛直方向の上側に位置している。自重による力Fwは、回転部材5の質量m1に比例する力である。回転部材5の質量m1には、帯電膜を含む回転子51の質量m2、第一回転軸52の質量m3、および第一回転軸52に係合された他の部材の質量m4を含む。図14に例示された回転部材5において、他の部材は歯車53である。
m1=m2+m3+m4 (2)
【0066】
時計1の姿勢が図14に示す姿勢である場合、回転部材5に対して作用する自重に応じた力Fwは、軸方向Zの力となる。電気機械変換器30は、例えば、自重に応じた力Fwよりも静電力の合力Feが大きくなるように構成される。この場合、電気機械変換器30は、時計1の姿勢にかかわらず回転子51を可動範囲の一端に位置付けておくことができる。図14に示す時計1では、電気機械変換器30は、回転子51を第一固定子11に最も近づいた第一の位置Z1に位置付けておくことが可能である。自重による力の大きさよりも静電力の合力Feの大きさを大きくすることで、電気機械変換器30における発電効率の変動が効果的に抑制される。また、電気機械変換器30における発電効率の最大化や、発電出力の最大化を図ることが可能である。
【0067】
以上説明したように、本実施形態の電気機械変換器30は、回転部材5と、第一固定子11と、第二固定子12と、第一変換部6と、第二変換部8と、を有する。回転部材5は、板状の回転子51と、回転子51に係合された第一回転軸52と、を有する。第一固定子11は、回転子51の第一面51aと対向している。第二固定子12は、回転子51の第二面51bと対向している。
【0068】
第一変換部6は、第一帯電膜64と、電極61と、を有する。第一帯電膜64は、第一面51aおよび第一固定子11の一方に配置され、電極61は、第一面51aおよび第一固定子11の他方に配置される。第二変換部8は、第二帯電膜84と、電極81と、を有する。第二帯電膜84は、第二面51bおよび第二固定子12の一方に配置され、電極81は、第二面51bおよび第二固定子12の他方に配置される。
【0069】
第一変換部6および第二変換部8は、第一変換部6における静電力と、第二変換部8における静電力と、の総和により回転子51に対して静電力の合力Feを作用させるように構成されている。静電力の合力Feは、軸方向Zの一方側に向かう力である。よって、本実施形態の電気機械変換器30は、軸方向Zにおける回転子51の位置の変化による効率の変動を抑制することができる。
【0070】
静電力の合力Feは、回転部材5の自重に応じた軸方向の力Fwよりも大きくされてもよい。この構成により、軸方向Zにおける回転子51の位置がより安定しやすくなる。
【0071】
本実施形態の電気機械変換器30は、第二回転軸23と、第二回転軸23に係合された回転錘26と、を有する。第二回転軸23は、第一回転軸52とは別の軸であり、かつ回転部材5との間で機械的に動力を伝達する。回転部材5は、回転錘26の回転運動と連動して回転するように構成されている。回転錘26が第一回転軸52とは異なる第二回転軸23に係合されていることで、静電力の合力Feを自重に応じた軸方向の力Fwよりも大きくすることが容易となる。
【0072】
なお、電気機械変換器30は、指針4を駆動する駆動機構におけるブレーキとして用いられてもよい。例えば、時計1は、ぜんまいの力を指針4に伝達して指針4を運針する駆動機構を有していてもよい。この駆動機構において、電気機械変換器30は、駆動力に対してブレーキ力を作用させるブレーキ装置として用いられてもよい。電気機械変換器30は、回転子51の運動エネルギーを電気エネルギーに変換することで回転子51に対してブレーキ力を作用させることができる。変換された電気エネルギーは、例えば、蓄電池27に充電される。
【0073】
[第2実施形態]
図15から図20を参照して、第2実施形態に係る時計1および電気機械変換器30について説明する。第2実施形態については、上記第1実施形態で説明したものと同様の機能を有する構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。図15は、第2実施形態に係る時計の正面図、図16は、第2実施形態に係る時計の断面図、図17は、第2実施形態に係る電気機械変換器の断面図、図18は、第2実施形態に係る電気機械変換器の概略構成を示す図、図19は、第2実施形態に係る第一変換部および第二変換部の断面図、図20は、第2実施形態に係る電気機械変換器の駆動方法を示す図である。第2実施形態の時計1において、上記第1実施形態の時計1と異なる点は、例えば、電気機械変換器30が静電モータの動力発生機構として機能する点である。
【0074】
図15に示すように、第2実施形態の時計1は、表示針54を有する。表示針54の回転は、電気機械変換器30によって制御される。表示針54は、例えば、秒針として機能する。なお、表示針54は、クロノグラフの針や、時計1の内部状態を示す針や、ユーザに対して情報を提供する針として機能してもよい。図16に示すように、表示針54は、回転部材5の一部であり、第一回転軸52に係合されている。表示針54は、第一回転軸52における前面側の端部に係合されており、第一回転軸52と一体となって回転する。
【0075】
図17に示すように、第2実施形態の第一変換部6は、上記第1実施形態と同様の電極61および第一帯電膜64を有する。また、第2実施形態の第二変換部8は、上記第1実施形態と同様の電極81および第二帯電膜84を有する。上記第1実施形態の回転部材5とは異なり、第2実施形態の回転部材5は、歯車53を有していないが、他の歯車に動力を伝達して表示針の位置や減速比を歯車によって変更しても良い。
【0076】
図18に示すように、電気機械変換器30は、駆動部41および制御部42を有する。駆動部41は、第一変換部6および第二変換部8を駆動する駆動回路である。駆動部41は、制御部42から入力される制御信号に応じて、所定の駆動周波数で極性が交互に切り替わる駆動パルスを出力する。具体的には、駆動部41は、第一電極61aおよび第二電極61bに対して駆動パルスを出力し、かつ第三電極81aおよび第四電極81bに対して駆動パルスを出力する。
【0077】
図19に示すように、第二変換部8の電極81(第三電極81a,第四電極81b)は、第一変換部6の電極61(第一電極61a,第二電極61b)に対して位相をずらして配置されている。本実施形態のような配置は一例であり、動力発生機構としての静電モータの電極配置は、本実施形態の配置に限られるものではない。
【0078】
駆動部41は、駆動パルスにより、図20の(a)~(d)に示すように電極61および電極81を帯電させる。駆動部41は、第一電極61aおよび第二電極61bのうち一方を正電位に帯電させ、他方を負電位に帯電させる。また、駆動部41は、第三電極81aおよび第四電極81bのうち一方を正電位に帯電させ、他方を負電位に帯電させる。駆動部41は、正電位に帯電した電極61から第一帯電膜64に対して回転方向Cの静電引力を作用させるように、第一電極61aおよび第二電極61bの電位を切り替える。また、駆動部41は、正電位に帯電した電極81から第二帯電膜84に対して回転方向Cの静電引力を作用させるように、第三電極81aおよび第四電極81bの電位を切り替える。
【0079】
第2実施形態の第一変換部6および第二変換部8は、第一変換部6における静電力と、第二変換部8における静電力と、の総和により回転子51に対して軸方向Zの一方側に向かう力を作用させるように構成されている。
【0080】
例えば、第一変換部6および第二変換部8は、第二固定子12に向かう静電力の合力Feを発生させるように構成されてもよい。この場合、回転子51の第一面51aの側にカエリ51eが形成されてもよい。また、第一帯電膜64の帯電電圧と第二帯電膜84の帯電電圧とを異ならせるように、コロナ放電の印加電圧を異ならせてもよい。また、第二帯電膜84の厚さが第一帯電膜64の厚さよりも大きくされてもよい。また、第二固定子12に配置された電極の面積が、第一固定子11に配置された電極の面積よりも大きくされてもよい。また、第二帯電膜84の面積が第一帯電膜64の面積よりも大きくされてもよい。また、回転子51の第二面51bに第三帯電膜87が形成され、第二固定子12に第五電極86が形成されてもよい。また、電極81のインピーダンスが電極61のインピーダンスよりも小さくされてもよい。
【0081】
駆動部41は、回転子51に対して第二固定子12へ向かう静電力の合力Feを作用させるように、駆動パルスの電圧を制御してもよい。例えば、第二固定子12の電極81に出力される駆動パルスの電圧が第一固定子11の電極61に出力される駆動パルスの電圧よりも高電圧とされてもよい。
【0082】
本実施形態の電気機械変換器30によれば、回転子51に対して第二固定子12へ向かう静電力の合力Feが作用していることで、回転子51が第二の位置Z2に位置付けられる。軸方向Zにおける回転子51の位置が変動しにくいことで、静電モータにおける動力の伝達率が安定する。よって、静電モータの効率向上が実現される。また、軸方向Zにおける回転子51の位置が安定することで、駆動パルスを最適化し、電力消費の低減を図ることが可能となる。例えば、回転子51が第二の位置Z2にあることを前提として第一変換部6の駆動パルスおよび第二変換部8の駆動パルスが最適化されてもよい。
【0083】
なお、電気機械変換器30は、第一固定子11へ向かう静電力の合力Feを作用させるように構成されてもよい。
【0084】
第2実施形態の電気機械変換器30は、静電力の合力Feが回転部材5に対して作用する自重に応じた力Fwよりも大きくなるように構成されてもよい。なお、第2実施形態に係る回転部材5の質量は、帯電膜64,84を含む回転子51の質量、第一回転軸52の質量、および表示針54の質量を含む。なお、表示針54と第一回転軸52との間に輪列が設けられてもよい。この場合、回転部材5の質量は、輪列を構成する部材のうち第一回転軸52に係合されている部材の質量を含む。例えば、輪列を構成する第一歯車が第一回転軸52に係合されている場合、第一歯車は回転部材5に含まれる。
【0085】
[実施形態の変形例]
上記第1実施形態および第2実施形態の変形例について説明する。第一変換部6および第二変換部8の配置は、各実施形態において例示された配置には限定されない。例えば、地板7の側に第二変換部8が配置され、受け板9の側に第一変換部6が配置されてもよい。時計1は、回転子51を視認可能とするスケルトン構造を有していなくてもよい。すなわち、文字板3および地板7は、窓部31,73を有していなくてもよい。
【0086】
第一帯電膜64および第二帯電膜84は、回転子51に代えて固定子11,12に配置されてもよい。この場合、電極61,81は、回転子51に配置される。例えば、第一変換部6は、第一固定子11に形成された第一帯電膜64および回転子51に形成された電極61を有していてもよい。例えば、第二変換部8は、第二固定子12に形成された第二帯電膜84および回転子51に形成された電極81を有していてもよい。
【0087】
上記第1実施形態および第2実施形態では、二つの変換部6,8のうちの一方を「第一変換部6」と称し、他方を「第二変換部8」と称したが、これらの名称は二つの変換部を区別するための便宜的なものである。したがって、二つの変換部6,8の配置や構成要素は各実施形態で例示された配置や構成要素には限定されない。
【0088】
時計1は、デジタル表示部によって時刻を表示し、第1実施形態の発電機構を有する第1実施形態のデジタル時計であってもよい。この場合、時計1は、時刻を示す指針4を有していなくてもよい。
【0089】
上記の各実施形態および変形例に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。
【符号の説明】
【0090】
1 時計
2 外装ケース
3 文字板
4 指針
4a:秒針、 4b:分針、 4c:時針
5 回転部材
6 第一変換部
7 地板
7a:前面、 7b:背面
8 第二変換部
9 受け板
11 第一固定子
12 第二固定子
20:風防、 21:ケース本体、 22:裏蓋
23:第二回転軸、 25:歯車、 26:回転錘
27:蓄電池、 28:モータ、 29:減速機構
30 電気機械変換器
31 窓部
32 回転動作部
41 駆動部、 42:制御部
51:回転子、 52:第一回転軸、 53:歯車、 54:表示針
61:電極、 61a:第一電極、 61b:第二電極、 63:整流回路、
64:第一帯電膜、 65:膜
71:受石、 72:穴石、 73:窓部
81:電極、 81a:第三電極、 81b:第四電極、 83:整流回路、
84:第二帯電膜、 85:膜、 86:第五電極、 87:第三帯電膜
91:受石、 92:穴石
m:質量、 r:回転錘の回転中心から重心までの距離、 ja:負荷
Tej 固有周期、 T1:第一周期
F1,F2,F3:吸引力、 Fe:静電力の合力、 Fw:自重に応じた力
Z 軸方向
Z1:第一の位置、 Z2:第二の位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20