(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】塗抹標本作製装置における染色槽の洗浄方法および塗抹標本作製装置
(51)【国際特許分類】
G01N 1/31 20060101AFI20231225BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
G01N1/31
G01N1/00 101N
(21)【出願番号】P 2020037439
(22)【出願日】2020-03-05
【審査請求日】2023-01-16
(31)【優先権主張番号】P 2019191347
(32)【優先日】2019-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111383
【氏名又は名称】芝野 正雅
(72)【発明者】
【氏名】生田 純也
(72)【発明者】
【氏名】中西 利志
(72)【発明者】
【氏名】原田 優吾
(72)【発明者】
【氏名】品部 誠也
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-036163(JP,A)
【文献】特開2018-109520(JP,A)
【文献】特開平05-149846(JP,A)
【文献】特開2017-142082(JP,A)
【文献】特表2016-519770(JP,A)
【文献】米国特許第05839091(US,A)
【文献】特開2006-38781(JP,A)
【文献】特開2012-154897(JP,A)
【文献】特開2008-281454(JP,A)
【文献】特開2019-35624(JP,A)
【文献】国際公開第2012/137019(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00- 1/44
35/00-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体が塗抹されたスライドガラスを収容可能であり、前記スライドガラスに塗抹された検体を染色する染色液を溜めて染色処理を行う染色槽を有する、塗抹標本作製装置における前記染色槽の洗浄方法であって、
洗浄条件に関する情報を受け付ける工程と、
受け付けた洗浄条件に関する情報に応じて、前記染色槽の洗浄動作を実行する工程と、を備える、洗浄方法。
【請求項2】
前記洗浄条件に関する情報を受け付ける工程は、洗浄条件の設定値の変更を受け付ける受付画面を提示する工程と、前記受付画面を介して前記洗浄条件の設定値の変更を前記洗浄条件に関する情報として受け付ける工程と、を含む、請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項3】
前記塗抹標本作製装置は、複数のモードで動作するように構成されており、
前記複数のモードは、前記受付画面を表示する第1モードと、前記受付画面を表示しない第2モードと、を含む、請求項2に記載の洗浄方法。
【請求項4】
前記洗浄条件に関する情報を受け付ける工程は、第1洗浄条件にて前記染色槽の洗浄動作を実行する第1洗浄動作または前記第1洗浄条件と異なる第2洗浄条件にて前記染色槽の洗浄動作を実行する第2洗浄動作の実行の指示を受け付ける操作画面を提示する工程と、前記操作画面を介して前記第1洗浄動作および前記第2洗浄動作の少なくとも一方の実行指示を前記洗浄条件に関する情報として受け付ける工程と、を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項5】
前記洗浄条件に関する情報を受け付ける工程は、複数の洗浄条件を選択的に提示する工程と、提示した前記洗浄条件の選択を前記洗浄条件に関する情報として受け付ける工程と、を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項6】
前記洗浄条件に関する情報を受け付ける工程は、前記洗浄条件に関する情報として塗抹標本作製装置の状態に関する情報を取得する工程と、取得した情報に基づいて洗浄条件を設定する工程と、を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項7】
前記洗浄条件に関する情報を受け付ける工程は、前記洗浄条件に関する情報として塗抹標本作製装置の状態に関する情報を取得する工程と、取得した情報に基づいた洗浄条件の設定を受け付ける推奨画面を提示する工程と、前記推奨画面を介して前記洗浄条件の設定を前記洗浄条件に関する情報として受け付ける工程と、を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項8】
前記推奨画面を提示する工程において、前記塗抹標本作製装置の状態に関する情報を提示する、請求項7に記載の洗浄方法。
【請求項9】
前記塗抹標本作製装置の状態に関する情報は、前記塗抹標本作製装置の稼働予定に関する情報、前記染色槽内の液体の排出機能に関する情報、前記塗抹標本作製装置の連続稼働時間に関する情報、および、前記塗抹標本作製装置により染色された塗抹標本スライドの観察結果に関する情報、の少なくともいずれかを含む、請求項6~8のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項10】
前記洗浄条件は、洗浄液の濃度に関する条件を含み、洗浄液の濃度が互いに異なる、請求項1~9のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項11】
前記洗浄動作を実行する工程は、前記洗浄条件に応じた洗浄液の原液と希釈液との混合比にて洗浄液を調製する工程を含む、請求項10に記載の洗浄方法。
【請求項12】
前記洗浄条件は、洗浄時間に関する条件を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項13】
前記洗浄動作を実行する工程は、前記染色槽から染色液を排出する工程、前記染色槽に洗浄液を供給する工程、および前記染色槽から洗浄液を排出する工程、を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項14】
前記洗浄動作を実行する工程は、前記染色槽から染色液を排出する工程、前記染色槽に洗浄液を供給する工程、前記染色槽から洗浄液を排出する工程、および前記染色槽に染色液を供給する工程、を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項15】
前記洗浄動作を実行する工程を実施する第1の染色液入替処理と、
前記染色槽から染色液を排出する工程と、前記染色槽に洗浄液を供給することなく前記染色槽に染色液を供給する工程とを実施する第2の染色液入替処理とを、選択可能に実行する、請求項14に記載の洗浄方法。
【請求項16】
前記染色槽は、互いに異なる液体を収容する複数の槽を含み、
選択に応じて、前記複数の槽のうち、所定の液体を収容する槽について前記第1の染色液入替処理を実行する、請求項15に記載の洗浄方法。
【請求項17】
前記所定の液体は、リン酸緩衝液を含む希釈染色液である、請求項16に記載の洗浄方法。
【請求項18】
前記染色槽は、互いに異なる液体を収容する複数の槽を含み、
前記複数の槽について、前記第1の染色液入替処理または前記第2の染色液入替処理を個別に選択して実行する、請求項15に記載の洗浄方法。
【請求項19】
検体が塗抹されたスライドガラスを収容可能であり、前記スライドガラスに塗抹された検体を染色する染色液を溜めて染色処理を行う染色槽と、
前記染色槽に対して、染色液の供給および排出と、洗浄液の供給および排出とを行う流体回路部と、
洗浄条件の設定値を記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された前記洗浄条件の設定値に応じて、前記染色槽を洗浄するように前記流体回路部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記記憶部に記憶された前記洗浄条件の設定値の変更を受け付ける、塗抹標本作製装置。
【請求項20】
画面表示を行う表示部と、
操作入力を受け付ける入力部と、をさらに備える、請求項19に記載の塗抹標本作製装置。
【請求項21】
前記制御部は、前記表示部により、前記記憶部に記憶された前記洗浄条件の設定値を変更可能に表示する処理と、前記記憶部に記憶された前記洗浄条件の設定値の変更を前記入力部により受け付ける処理とを実行するように構成されている、請求項20に記載の塗抹標本作製装置。
【請求項22】
前記制御部は、染色液入替処理に対する設定入力画面に、洗浄液による洗浄処理に関する設定値を変更可能に表示する処理と、前記洗浄処理に関する設定値に応じた染色液入替処理とを実行するように構成されている、請求項21に記載の塗抹標本作製装置。
【請求項23】
前記制御部は、前記表示する処理を実行する第1モードと前記表示する処理を実行しない第2モードとで動作するように前記塗抹標本作製装置を制御するように構成されている、請求項22に記載の塗抹標本作製装置。
【請求項24】
前記制御部は、前記表示部により、前記記憶部に記憶された第1洗浄条件にて前記染色槽の洗浄動作を実行する第1洗浄動作または前記第1洗浄条件と異なる前記記憶部に記憶された第2洗浄条件にて前記染色槽の洗浄動作を実行する第2洗浄動作の実行の指示を受け付ける操作画面を表示する処理と、前記操作画面を介して前記第1洗浄動作および前記第2洗浄動作の少なくとも一方の実行指示を前記洗浄条件に関する情報として受け付ける処理と、を実行するように構成されている、請求項20~23のいずれか1項に記載の塗抹標本作製装置。
【請求項25】
前記制御部は、前記表示部により、前記記憶部に記憶された複数の洗浄条件を選択的に表示する処理と、表示した前記洗浄条件の選択を前記洗浄条件に関する情報として前記入力部により受け付ける処理と、を実行するように構成されている、請求項20~24のいずれか1項に記載の塗抹標本作製装置。
【請求項26】
前記制御部は、塗抹標本作製装置の状態に関する情報を取得し、取得した情報に基づいて前記記憶部に記憶された複数の前記洗浄条件の中から一の前記洗浄条件を設定するように構成されている、請求項20~24のいずれか1項に記載の塗抹標本作製装置。
【請求項27】
前記制御部は、塗抹標本作製装置の状態に関する情報を取得し、前記表示部により、前記取得した情報に基づいた前記記憶部に記憶された複数の前記洗浄条件の中から一の前記洗浄条件の設定を受け付ける推奨画面を表示する処理と、前記推奨画面を介して前記記憶部に記憶された複数の前記洗浄条件の中から一の前記洗浄条件の設定を受け付ける処理と、を実行するように構成されている、請求項20~24のいずれか1項に記載の塗抹標本作製装置。
【請求項28】
前記制御部は、前記推奨画面に、前記塗抹標本作製装置の状態に関する情報を提示する、請求項27に記載の塗抹標本作製装置。
【請求項29】
前記制御部は、前記染色槽から染色液を排出する工程、前記染色槽に洗浄液を供給する工程、前記染色槽から洗浄液を排出する工程、および前記染色槽に染色液を供給する工程、を行うことにより前記染色槽内の染色液入替処理を実行するように前記流体回路部を制御する、請求項19~28のいずれか1項に記載の塗抹標本作製装置。
【請求項30】
前記制御部は、
前記染色液入替処理を実施する第1の染色液入替処理と、
前記染色槽から染色液を排出する工程と、前記染色槽に洗浄液を供給することなく前記染色槽に染色液を供給する工程とを実施する第2の染色液入替処理とを、選択可能に構成されている、請求項29に記載の塗抹標本作製装置。
【請求項31】
前記染色槽は、互いに異なる液体を収容する複数の槽を含み、
前記制御部は、選択に応じて、前記複数の槽のうち、所定の液体を収容する槽について、前記第1の染色液入替処理を実行するように構成されている、請求項30に記載の塗抹標本作製装置。
【請求項32】
前記染色槽は、互いに異なる液体を収容する複数の槽を含み、
前記制御部は、前記複数の槽について、前記第1の染色液入替処理または前記第2の染色液入替処理を個別に選択可能に構成されている、請求項30に記載の塗抹標本作製装置。
【請求項33】
検体が塗抹されたスライドガラスを収容可能であり、前記スライドガラスに塗抹された検体を染色する染色液を溜めて染色処理を行う染色槽を有し、複数の動作モードで動作する塗抹標本作製装置における前記染色槽の洗浄方法であって、
前記複数の動作モードのうち少なくとも1つの動作モードを選択する工程と、
選択した動作モードに応じて、前記染色槽の洗浄動作を実行する工程と、を備える、洗浄方法。
【請求項34】
前記複数の動作モードは、第1動作モードと、前記第1動作モードと前記染色処理が異なる第2動作モードと、を含む、請求項33に記載の洗浄方法。
【請求項35】
複数の動作モードで動作する塗抹標本作製装置であって、
検体が塗抹されたスライドガラスを収容可能であり、前記スライドガラスに塗抹された検体を染色する染色液を溜めて染色処理を行う染色槽と、
前記染色槽に対して、染色液の供給および排出と、洗浄液の供給および排出とを行う流体回路部と、
前記複数の動作モードのうち、選択された動作モードに応じて、前記流体回路部による前記染色槽に対する洗浄動作を制御する制御部と、を備える、塗抹標本作製装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗抹標本作製装置における染色槽の洗浄方法および塗抹標本作製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、
図28に示すように、固定液槽901、第1染色液槽902、第2染色液槽903、および洗浄液槽904を備えた染色装置900が開示されている。固定液槽901には固定液911が収容され、第1染色液槽902には第1染色液912が収容され、第2染色液槽903には第2染色液913が収容され、洗浄液槽904には標本910の洗浄液914が収容されている。なお、標本910は、血液が塗抹されたスライドガラスである。染色装置900は、固定液槽901に収容されている固定液911、第1染色液槽902に収容されている第1染色液912、第2染色液槽903に収容されている第2染色液913、洗浄液槽904に収容されている洗浄液914に順番に標本910を浸漬することにより、染色処理を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1において、染色液槽に染色液を溜めたままにすると染色液から固形成分が析出する。そのため、染色装置900の運用期間の経過に伴って、析出した固形成分が標本910に付着する。標本910に付着した固形成分は、顕微鏡観察の妨げになるなど標本910の品質を低下させる要因になり得る。
【0005】
このような標本への固形成分の付着を防止するため、染色液槽に洗浄液を貯留させて染色液槽を洗浄することが行われているが、適切な洗浄処理ができない場合があった。
【0006】
この発明は、塗抹標本作製装置の状況に応じて染色槽に対して適切な洗浄処理を実行できるようにすることに向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、この発明の第1の局面による洗浄方法は、検体が塗抹されたスライドガラスを収容可能であり、前記スライドガラスに塗抹された検体を染色する染色液を溜めて染色処理を行う染色槽を有する、塗抹標本作製装置における染色槽の洗浄方法であって、洗浄条件に関する情報を受け付ける工程と、受け付けた洗浄条件に関する情報に応じて、前記染色槽の洗浄動作を実行する工程と、を備える。
【0008】
この発明による洗浄方法によると、受け付けた洗浄条件に関する情報に応じて、染色槽の洗浄動作を実行することができる。その結果、塗抹標本作製装置の状況に応じて適切な洗浄動作を実施することによって、塗抹標本作製装置の状況に応じて染色槽に対して適切な洗浄処理を実行できる。
【0009】
この発明の第2の局面による塗抹標本作製装置は、検体が塗抹されたスライドガラスを収容可能であり、スライドガラスに塗抹された検体を染色する染色液を溜めて染色処理を行う染色槽と、染色槽に対して、染色液の供給および排出と、洗浄液の供給および排出とを行う流体回路部と、洗浄条件の設定値を記憶する記憶部と、記憶部に記憶された洗浄条件の設定値に応じて、染色槽を洗浄するように流体回路部を制御する制御部と、を備え、制御部は、記憶部に記憶された洗浄条件の設定値の変更を受け付ける。
【0010】
この発明の第2の局面による塗抹標本作製装置では、記憶部に記憶された洗浄条件の設定値に応じて、染色槽を洗浄し、記憶部に記憶された洗浄条件の設定値の変更を受け付けることができる。その結果、塗抹標本作製装置の状況に応じて適切な洗浄動作を実施することによって、塗抹標本作製装置の状況に応じて染色槽に対して適切な洗浄処理を実行できる。
【0011】
この発明の第3の局面による洗浄方法は、検体が塗抹されたスライドガラスを収容可能であり、スライドガラスに塗抹された検体を染色する染色液を溜めて染色処理を行う染色槽を有し、複数の動作モードで動作する塗抹標本作製装置における染色槽の洗浄方法であって、複数の動作モードのうち少なくとも1つの動作モードを選択する工程と、選択した動作モードに応じて、染色槽の洗浄動作を実行する工程と、を備える。
【0012】
この発明の第3の局面による洗浄方法では、選択した動作モードに応じて、染色槽の洗浄動作を実行することができる。その結果、塗抹標本作製装置の状況に応じて適切な洗浄動作を実施することによって、塗抹標本作製装置の状況に応じて染色槽に対して適切な洗浄処理を実行できる。
【0013】
この発明の第4の局面による塗抹標本作製装置は、複数の動作モードで動作する塗抹標本作製装置であって、検体が塗抹されたスライドガラスを収容可能であり、スライドガラスに塗抹された検体を染色する染色液を溜めて染色処理を行う染色槽と、染色槽に対して、染色液の供給および排出と、洗浄液の供給および排出とを行う流体回路部と、複数の動作モードのうち、選択された動作モードに応じて、流体回路部による染色槽に対する洗浄動作を制御する制御部と、を備える。
【0014】
この発明の第4の局面による塗抹標本作製装置では、選択された動作モードに応じて、流体回路部による染色槽に対する洗浄動作を制御することができる。その結果、塗抹標本作製装置の状況に応じて適切な洗浄動作を実施することによって、塗抹標本作製装置の状況に応じて染色槽に対して適切な洗浄処理を実行できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、塗抹標本作製装置の状況に応じて染色槽に対して適切な洗浄処理を実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施形態による塗抹標本作製装置の概要を示した模式図である。
【
図2】一実施形態による染色槽の洗浄方法を示したフロー図である。
【
図4】第1洗浄動作と第2洗浄動作を説明するための図である。
【
図5】洗浄条件に関する設定入力画面の例を示した図である。
【
図6】洗浄条件における洗浄液の保持時間を説明するための図である。
【
図7】洗浄条件を選択する工程の第1の例を示したフロー図である。
【
図10】
図9において強化洗浄が選択された状態を示した図である。
【
図11】洗浄条件を設定する工程の第2の例(a)および第3の例(b)を示したフロー図である。
【
図12】塗抹標本作製装置の状況に関する情報の例を示した模式図である。
【
図13】操作画面に表示される洗浄条件に関する情報の第1の例を示した図である。
【
図14】操作画面に表示される洗浄条件に関する情報の第2の例を示した図である。
【
図15】操作画面に表示される洗浄条件に関する情報の第3の例を示した図である。
【
図16】一実施形態による塗抹標本作製装置の概略を示した平面図である。
【
図17】塗抹標本作製装置の各構成要素と制御部との関係を示したブロック図である。
【
図18】塗抹標本作製装置の染色部の構造を説明するための斜視図である。
【
図19】塗抹標本作製装置の流体回路部の構造を示した図である。
【
図20】塗抹標本作製装置による塗抹標本作製処理を説明するためのフロー図である。
【
図21】塗抹標本作製装置のシャットダウン処理を説明するためのフロー図である。
【
図22】染色部の各槽における保持時間の例を示した図である。
【
図23】洗浄動作の提案処理を説明するためのフロー図である。
【
図24】第1の染色液入替処理を説明するためのフロー図である。
【
図25】第2の染色液入替処理を説明するためのフロー図である。
【
図26】染色液入替処理に対する設定入力画面の例を示した図である。
【
図27】染色液入替時の制御処理を説明するためのフロー図である。
【
図28】従来の塗抹標本作製装置を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
(洗浄方法の概要)
図1および
図2を参照して、本実施形態による洗浄方法の概要について説明する。洗浄方法は、塗抹標本作製装置100の染色槽20の洗浄方法である。
【0019】
塗抹標本作製装置100は、染色槽20を有する。染色槽20は、検体90が塗抹された複数のスライドガラス11を収容可能である。染色槽20は、スライドガラス11に塗抹された検体90を染色する染色液91を溜めて染色処理を行う。塗抹標本作製装置100は、洗浄条件に関する情報を受け付けて、染色槽20の洗浄動作を実行するように構成されている。なお、染色槽20は、検体が塗抹された複数のスライドガラス11を収容可能な構成に限られず、検体が塗抹された一枚のスライドガラス11のみを収容可能な構成であってもよい。
【0020】
検体90は、たとえば血液である。この場合、染色槽20は、血液に含まれる血球などの細胞を染色液91により染色する。染色液91としては、ギムザ液、メイグリュンワルド液、ライト液などの公知の染色液が採用される。検体90は、尿、組織片などであってもよい。検体90が塗抹されたスライドガラス11は、染色槽20内に移送される。検体90が塗抹されたスライドガラス11は、染色槽20内に溜められた染色液91に浸される。検体90が塗抹されたスライドガラス11は、所望の染色時間の間、染色液91に浸された後、染色槽20から取り出される。これにより、染色済みの塗抹標本スライド12が作製される。
【0021】
染色槽20に溜められた染色液91からは、時間経過に伴って染色液91中の成分が析出する。析出物は、染色槽20の内壁面に汚れとなって堆積する。析出物は、染色の際に塗抹標本スライド12にも付着するので、析出物の堆積は、作製される塗抹標本スライド12の品質低下の要因になり得る。そのため、塗抹標本作製装置100は、染色槽20の洗浄動作を行う。汚れの定着を抑制するため、染色槽20の洗浄動作は、たとえば塗抹標本作製装置100のシャットダウン時に行われる。洗浄動作は、シャットダウン時に加えて、塗抹標本作製装置100の起動時や、稼働中の任意のタイミングでも実施されうる。
【0022】
染色槽20の洗浄は、長期間に亘って塗抹標本作製装置100を運用した場合でも、染色槽20への汚れの堆積が許容範囲内に収まるようにすることが望まれる。しかし、染色槽20の汚れ具合は、ユーザ毎の塗抹標本作製装置100の利用態様、稼働状況によって異なり、使用される染色液の種類などによっても異なる。たとえば一定期間における塗抹標本作製装置100の利用頻度が標準的な利用頻度よりも高い場合、塗抹標本作製装置100を24時間稼働させ続ける場合など連続稼働時間が長い場合、使用される染色液91の粘度が平均的な染色液よりも高い場合、などでは、汚れが相対的に付着しやすい。逆に、塗抹標本作製装置100の利用頻度が低い場合、塗抹標本作製装置100の連続稼働時間が短い場合、使用される染色液91の粘度が低い場合、などでは、汚れが相対的に付着しにくい。塗抹標本作製装置100の状況に応じて、汚れの除去に適した洗浄動作の内容も異なる。
【0023】
そこで、
図2に示すように、本実施形態の染色槽20の洗浄方法は、下記のステップS1およびS2を備える。
(S1)洗浄条件に関する情報を受け付ける
(S2)受け付けた洗浄条件に関する情報に応じて、染色槽20の洗浄動作を実行する
【0024】
ステップS1において、塗抹標本作製装置100の洗浄条件に関する情報を受け付ける。
【0025】
ステップS2において、塗抹標本作製装置100が制御されることにより、受け付けた洗浄条件に関する情報に応じた洗浄動作が実行される。塗抹標本作製装置100は、たとえば、洗浄条件に応じた種類、濃度または液量の洗浄液81を染色槽20に供給するように制御される。塗抹標本作製装置100は、たとえば、洗浄条件に応じた回数だけ洗浄動作を実施するように制御される。塗抹標本作製装置100は、たとえば、洗浄条件に応じた1つまたは複数の洗浄方法で洗浄動作を実施するように制御される。
【0026】
以上のように、本実施形態の染色槽の洗浄方法では、受け付けた洗浄条件に関する情報に応じて染色槽20に対して異なる洗浄動作が実施されることにより、適切な洗浄動作を実施することができる。その結果、塗抹標本作製装置100の状況に応じて適切な洗浄条件を選択することによって、塗抹標本作製装置100の状況に応じて染色槽20に対して適切な洗浄処理を実行できる。
【0027】
なお、染色槽20の洗浄に用いられる洗浄液81は、特に限定されないが、たとえば有機溶媒を含む。洗浄液81は、さらに緩衝液、界面活性剤、塩などを含んで構成されうる。有機溶媒は、たとえば、メタノール、エタノールなどのアルコール類を含む。緩衝液は、PBS(リン酸バッファ)、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)などでありうる。界面活性剤は、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤などから適切なものが採用されうる。塩は、酸由来の陰イオンと塩基由来の陽イオンとがイオン結合した化合物のことである。塩は、たとえば、HCl、NaCl、Na2HPO4などでありうる。
【0028】
(塗抹標本作製装置の概要)
次に、本実施形態の塗抹標本作製装置100の概要について説明する。塗抹標本作製装置100は、検体が塗抹されたスライドガラス11に対して染色処理を施し、塗抹標本スライド12の作製を自動的に行うための装置である。
【0029】
図1に示すように、塗抹標本作製装置100は、染色槽20と、流体回路部30と、記憶部41と、制御部40と、を備える。
【0030】
染色槽20は、塗抹処理済みのスライドガラス11の検体に対して染色処理を行う。上記の通り、染色槽20は、検体90が塗抹された複数のスライドガラス11を収容可能である。染色槽20は、スライドガラス11に塗抹された検体90を染色する染色液91を溜めて染色処理を行う。染色槽20は、たとえば上部が開放されるとともに底面および周側面を有する容器状の形状を有する。染色槽20は、底面および周側面により区画された貯留空間内に、染色液91を溜められる。染色槽20は、たとえば開放された上部からスライドガラス11を受け入れる。
【0031】
流体回路部30は、染色槽20と流体的に接続されており、染色槽20に対して液体の供給および排出を行うように構成されている。すなわち、流体回路部30は、染色槽20に対して、染色液91の供給および排出と、洗浄液81の供給および排出とを行う。流体回路部30は、染色処理を行う場合、染色槽20に染色液91を供給する。流体回路部30は、洗浄動作を行う場合、染色槽20から染色液91を排出し、洗浄液81を染色槽20に供給する。流体回路部30は、洗浄動作を終了する際、染色槽20から洗浄液81を排出する。流体回路部30は、染色槽20から排出させた染色液91や洗浄液81を、廃液として廃液容器などへ送液する。流体回路部30は、液体を移送するためのポンプ、バルブ、および染色槽20と接続された流路を含む。
【0032】
記憶部41は、洗浄条件の設定値を記憶している。記憶部41に記憶された洗浄条件の設定値は、変更可能なパラメータである。なお、記憶部41に記憶された洗浄条件の設定値は、塗抹標本作製装置100の納入時や出荷時に予め記憶部41に記憶された初期設定値であってもよい。
【0033】
制御部40は、塗抹標本作製装置100の各部を制御する。制御部40は、たとえば、演算処理を行うプロセッサと、プログラムを記憶したメモリとを含む。制御部40は、流体回路部30による染色槽20への液体の供給および排出を制御する。
【0034】
制御部40は、記憶部41に記憶された変更可能な洗浄条件の設定値に応じて、流体回路部30による染色槽20に対する洗浄動作を制御する。すなわち、制御部40は、本実施形態の染色槽20の洗浄方法を実行する。制御部40は、
図2に示したステップS1およびS2の処理を実行することにより、受け付けた洗浄条件に関する情報に応じて、流体回路部30による染色槽20に対する洗浄動作を制御する。また、制御部40は、記憶部41に記憶された洗浄条件の設定値の変更を受け付ける。制御部40は、洗浄条件の設定値の変更を受け付けた場合、変更された設定値を記憶部41に記憶させる。
【0035】
以上の構成により、本実施形態の塗抹標本作製装置100によれば、記憶部41に記憶された変更可能な洗浄条件の設定値に応じて適切な洗浄動作を実施することができる。その結果、塗抹標本作製装置100の状況に応じて適切な洗浄動作を選択することによって、塗抹標本作製装置100の状況に応じて染色槽20に対して適切な洗浄処理を実行できる。
【0036】
(洗浄動作の例)
図3の例では、洗浄動作を実行する工程は、(S11)染色槽20から染色液91を排出する工程、(S12)染色槽20に洗浄液81を供給する工程、および(S13)染色槽20から洗浄液81を排出する工程、を含む。
【0037】
これらの各工程は、制御部40の制御の下、流体回路部30によって実行される。ステップS11において、制御部40は、染色槽20から染色液91を排出するように流体回路部30を制御する。染色槽20内は空にされる。ステップS12において、制御部40は、染色槽20に洗浄液81を供給するように流体回路部30を制御する。染色槽20内に洗浄液81が溜められると、一定時間、洗浄液81が溜められたまま保持される。これにより、染色槽20の浸漬洗浄が行われる。ステップS13において、制御部40は、染色槽20から洗浄液81を排出するように流体回路部30を制御する。
【0038】
これにより、染色槽20に供給した洗浄液81によって、染色槽20を洗浄できる。
【0039】
(洗浄動作)
図4の例では、洗浄効果の異なる洗浄動作を行うための第1洗浄動作と第2洗浄動作を示している。具体的には、第1洗浄動作に対応する第1洗浄条件の設定値と、第2洗浄条件に対応する第2洗浄条件の設定値とを示している。第1洗浄条件の設定値としては、洗浄液濃度A[%]と保持時間B[min]を示している。第2洗浄条件の設定値としては、洗浄液濃度C[%]と保持時間D[min]を示している。第1洗浄条件の設定値と第2洗浄条件の設定値とは、それぞれ、記憶部41(
図1参照)に記憶されている。
図4では、第1洗浄条件の設定値を変更不可能なパラメータ、第2洗浄条件の設定値を変更可能なパラメータとして示しているが、第1洗浄条件の設定値と第2洗浄条件の設定値の両方が変更可能なパラメータであってもよい。制御部40は、受け付けた洗浄条件に関する情報である第1洗浄条件または第2洗浄条件に応じて、洗浄効果の異なる洗浄動作を流体回路部30により実行させる。
【0040】
これにより、塗抹標本作製装置100の状況に応じて、複数の洗浄動作のうちから、適切な洗浄効果が得られる洗浄動作を選択できる。その結果、長期的な塗抹標本作製装置100の機能維持および塗抹標本作製装置100の適切なメンテナンスが可能となる。
【0041】
第1洗浄条件に対応する第1洗浄動作と、第2洗浄条件に対応する第2洗浄動作とは、洗浄効果が異なる。たとえば、洗浄条件は、洗浄液の濃度に関する条件を含む。たとえば、洗浄条件は、洗浄時間に関する条件を含む。
【0042】
複数の洗浄動作のうち、第1洗浄動作が選択された場合、第1洗浄条件に応じた第1洗浄動作が実行される。複数の洗浄動作のうち、第2洗浄動作が選択された場合、第2洗浄条件に応じた第2洗浄動作が実行される。ここで、第2洗浄動作は、第1洗浄動作よりも洗浄効果が高い洗浄動作である。
【0043】
これにより、塗抹標本作製装置100の状況に応じて、染色槽20の汚れ度合いが標準的である場合に第1洗浄動作を選択し、染色槽20の汚れ度合いが高い場合に洗浄効果の高い第2洗浄動作を選択できる。また、たとえば、日常的な洗浄動作では第1洗浄動作を選択し、定期的なメンテナンス時や連休前などに、洗浄効果の高い第2洗浄動作を選択することで、染色槽20への汚れが蓄積しないように塗抹標本作製装置100を運用できる。
【0044】
図4の例では、洗浄動作を実行する工程は、洗浄条件に応じて、洗浄動作に用いる洗浄液81の濃度が異なる。つまり、洗浄効果の異なる洗浄動作は、洗浄動作に用いる洗浄液81の濃度が異なる。ここで、洗浄液の濃度とは、洗浄液81に含まれる洗浄成分の濃度を意味する。また、洗浄液81が、洗浄液81の原液と希釈液との混合によって希釈される場合に、洗浄液の濃度は、原液と希釈液との混合比でありうる。洗浄液の濃度を高くするほど、高い洗浄効果が得られ、洗浄液の濃度を低くするほど、洗浄効果が低くなる。これにより、染色槽20内の洗浄液81の保持時間が同じであっても洗浄効果の異なる洗浄動作を行える。
【0045】
たとえば、
図4の第1洗浄動作では、第1洗浄条件の設定値として、濃度A[%]の洗浄液81が用いられる。第2洗浄動作では、第2洗浄条件の設定値として、濃度C[%]の洗浄液81が用いられる。ここで、C>Aである。そのため、第2洗浄動作の洗浄効果が第1洗浄動作よりも高くなる。洗浄液の濃度は、0%<A<C≦100%である。
【0046】
また、
図4の例では、洗浄動作を実行する工程は、洗浄条件に応じて染色槽20内における洗浄液81の保持時間が異なる。つまり、洗浄効果の異なる洗浄動作は、染色槽20内における洗浄液81の保持時間が異なる。ここで、洗浄液の保持時間とは、染色槽20内に洗浄液81が溜められてから、洗浄液81が排出されるまでの時間である。保持時間を長くするほど、高い洗浄効果が得られ、保持時間を短くするほど、洗浄効果が低くなる。これにより、同じ濃度の洗浄液81を用いても、洗浄効果の異なる洗浄動作を行える。
【0047】
たとえば、
図4の第1洗浄動作では、第1洗浄条件の設定値として、洗浄液81の保持時間がB[min]である。第2洗浄動作では、第2洗浄条件の設定値として、洗浄液81の保持時間がD[min]である。ここで、D>Bである。そのため、第2洗浄動作の洗浄効果が第1洗浄動作よりも高くなる。洗浄液の保持時間は、0<B<D[min]である。保持時間の上限値は、特に限定されないが、実用上、たとえば100[min]、120[min]、150[min]、200[min]等でありうる。
【0048】
洗浄動作の洗浄効果を異ならせる手法の例としては、上記の他、たとえば洗浄液81による浸漬洗浄に追加する超音波洗浄の実施の有無が異なる。第1洗浄動作では浸漬洗浄のみが実施され、第2洗浄動作では浸漬洗浄と超音波洗浄とが実施される。また、たとえば、染色槽20に供給される洗浄液81の温度が異なる。第1洗浄動作では第1温度の洗浄液81が供給され、第2洗浄動作では第1温度よりも高温の第2温度の洗浄液81が供給される。また、たとえば、洗浄動作の実施回数が異なる。第1洗浄動作では、
図3に示した洗浄動作が第1回数だけ実施され、第2洗浄動作では第1回数よりも多い第2回数実施される。このように、洗浄条件に関する情報に応じた洗浄動作の洗浄効果は、どのような手法によって異ならせてもよい。
【0049】
〈洗浄条件の設定値の設定〉
各洗浄条件の設定値は、予め設定(プリセット)されている変更ができないパラメータであってもよいし、変更可能なパラメータであってもよい。また、設定値が固定値にプリセットされた洗浄条件と、設定値が変更可能な洗浄条件とが存在してもよい。
【0050】
すなわち、
図4の例では、制御部40は、洗浄条件の設定値を変更可能に構成されている。これにより、塗抹標本作製装置100の使用環境に応じて、最適な洗浄効果を生じる洗浄条件の設定値の変更をユーザ毎に行える。その結果、ユーザの目的に応じて染色槽20の洗浄動作を最適化できる。
【0051】
具体的には、第1洗浄動作に対応する第1洗浄条件の設定値は、固定値とされており、設定値の変更ができない。これに対して、第2洗浄動作に対応する第2洗浄条件の設定値は、設定値の変更が可能である。制御部40は、たとえば操作入力に応じて、洗浄液濃度の設定値および保持時間の設定値を変更する。
【0052】
たとえば、第1洗浄動作は、標準的な洗浄条件で洗浄動作を行うものであり、第2洗浄動作は、洗浄条件を任意に変更可能な洗浄動作を行うものである。ユーザが、第1洗浄動作と第2洗浄動作とを使い分けて塗抹標本作製装置100を運用できる。塗抹標本作製装置100は、塗抹標本作製装置100の定期的なメンテナンスの際に専門知識を有するサービスマンが操作するサービスモードと、塗抹標本作製装置100を使用するユーザが操作するユーザモードと、を含む複数のモードで動作するように構成されており、サービスモードでは洗浄条件の変更ができ、ユーザモードでは洗浄条件の変更ができないことが好ましい。なお、ユーザモードには、ノーマルモードとアドバンスモードがあり、アドバンスモードでは洗浄条件の変更ができ、ノーマルモードでは洗浄条件の変更ができないようにしてもよい。ここで、ノーマルモードとは塗抹標本作製装置100を使用する通常のユーザが操作するモードであり、アドバンスモードとは塗抹標本作製装置100の管理者が操作するモードである。サービスモードやアドバンスモードでは、後述する
図5に示す受付画面60を表示させることにより洗浄条件が変更できる第1モードで動作し、ノーマルモードでは、後述する
図5に示す受付画面60を表示させないことにより洗浄条件が変更できない第2モードで動作している。すなわち、塗抹標本作製装置100は、複数のモードで動作するように構成されうる。このとき、複数のモードは、受付画面60を表示する第1モードと、受付画面60を表示しない第2モードと、を含みうる。これにより、メンテナンスに関する専門知識が乏しいユーザが誤って不適切な設定値に設定することも回避できる。
【0053】
洗浄条件の設定値の設定は、たとえば、表示部50(
図1参照)および入力部51(
図1参照)を用いて行われる。このように、塗抹標本作製装置100は、画面表示を行う表示部50(
図1参照)と、操作入力を受け付ける入力部51(
図1参照)とをさらに備えうる。表示部50は、たとえば液晶ディスプレイやEL(Electro Luminescence)ディスプレイなどでありうる。入力部51は、キーボード、マウス、タッチパネルなどの入力デバイスでありうる。
【0054】
洗浄条件の設定値の設定方法の例として、たとえば、
図1に示した洗浄条件に関する情報を受け付ける工程(S1)は、洗浄条件の設定値の変更を受け付ける受付画面60(
図5参照)を提示する工程と、受付画面60を介して洗浄条件の設定値の変更を洗浄条件に関する情報として受け付ける工程と、を含む。制御部40は、表示部50により、記憶部41に記憶された洗浄条件の設定値を変更可能に表示する処理と、記憶部41に記憶された洗浄条件の設定値の変更を入力部51により受け付ける処理とを実行するように構成されている。
【0055】
すなわち、
図5では、制御部40が、洗浄条件の設定値の受付画面60を表示部50に表示させる。受付画面60は、濃度入力欄60aと、時間入力欄60bと、OKボタン60cとを含む。制御部40が入力部51を介したユーザの入力操作を受け付ける。これにより、制御部40のプログラムの書換などの作業を伴うことなく、塗抹標本作製装置100の機能維持に必要な洗浄動作の設定を行える。
【0056】
ユーザが濃度入力欄60aを選択して、所望の値を入力することにより、制御部40が洗浄液濃度の設定値の入力を受け付ける。ユーザが時間入力欄60bを選択して、所望の値を入力することにより、制御部40が保持時間の設定値の入力を受け付ける。設定値の入力後、ユーザがOKボタン60cを入力することにより、設定値が確定される。
【0057】
保持時間については、保持時間の値が入力されてもよいし、基準となる時間に対して追加する追加時間の値が入力されてもよい。
図5の例では、第1洗浄条件の設定値である保持時間Bに対して、第2洗浄条件の設定値で追加される時間の値Eが時間入力欄60bに入力される。この場合、
図6に示すように、制御部40は、第2洗浄条件である保持時間Dを、D=B+Eとして設定する。
【0058】
〈洗浄動作の他の例〉
なお、
図4では、第1洗浄動作と第2洗浄動作との2つの洗浄動作を示したが、第3洗浄動作が設けられてもよい。たとえば、第3洗浄動作が選択された場合、第1洗浄動作よりも洗浄効果が低い第3洗浄動作を実行する。第3洗浄動作は、洗浄液81の消費量や洗浄動作に要する時間を低減した洗浄動作でありうる。たとえばユーザが、一般的な稼働時間よりも短い稼働時間で塗抹標本作製装置100を運用する場合や、標本染色の濃さ(色味)を薄くする場合などでは、汚れの付着度合いが相対的に軽度になる。そのようなユーザにとっては、日常的には第3洗浄動作を選択することにより、染色槽20への汚れの蓄積を抑制しつつ洗浄液81の消費量を低減できる。そして、必要に応じて、たとえば定期的なメンテナンスの時に、第1洗浄動作や第2洗浄動作を選択すれば、染色槽20への汚れの蓄積を効果的に抑制できる。また、洗浄効果は同程度であっても、洗浄方法が異なる洗浄動作が設けられてもよい。
【0059】
(洗浄条件の選択方法)
図2のステップS1に示した洗浄条件に関する情報を受け付ける工程の具体例を説明する。
【0060】
図7の例では、洗浄条件に関する情報を受け付ける工程は、(S21)洗浄条件を選択的に提示する工程と、(S22)提示した洗浄条件に対する選択を洗浄条件に関する情報として受け付ける工程と、を含む。これにより、洗浄条件の提示時点における塗抹標本作製装置100の状態や、塗抹標本作製装置100の稼働予定などの状況をユーザが考慮して洗浄条件を選択できる。
【0061】
まず、ステップS21において、制御部40は、表示部50により洗浄条件を選択可能に表示する処理を行う。たとえば制御部40は、表示部50に、
図8~
図11に示した操作画面61を表示させる。
図8~
図11の例では、操作画面61は、第1洗浄条件にて染色槽20の洗浄動作を実行する第1洗浄動作、または、第2洗浄条件にて染色槽20の洗浄動作を実行する第2洗浄動作の実行の指示を受け付けることができる。上記の通り、第1洗浄条件および第2洗浄条件は、それぞれ記憶部41に記憶されている。
【0062】
ステップS22において、制御部40は、表示した洗浄条件に対する選択を洗浄条件に関する情報として入力部51により受け付ける処理を行う。制御部40は、操作画面61を介して第1洗浄動作および第2洗浄動作の少なくとも一方の実行指示を洗浄条件に関する情報として受け付ける処理を実行するように構成されている。
【0063】
たとえば
図8の例では、制御部40は、複数の洗浄動作をそれぞれ選択可能に示した操作画面61を表示させる。この例では、制御部40は、表示部50により、記憶部41に記憶された複数の洗浄条件を選択的に表示する処理と、表示した洗浄条件の選択を洗浄条件に関する情報として入力部51により受け付ける処理と、を実行するように構成されている。具体的には、操作画面61は、第1洗浄条件である通常洗浄に対応する第1洗浄動作の実行の指示を受け付けるボタン61aと、第2洗浄条件である強化洗浄に対応する第2洗浄動作の実行の指示を受け付けるボタン61bと、を含む。ユーザが、ボタン61aまたはボタン61bのいずれかを入力すると、制御部40は、入力された洗浄動作の実行指示を洗浄条件に関する情報として受け付ける。洗浄動作は、シャットダウン処理の一部として実行される。
図8は、洗浄動作に対応する洗浄条件の選択と、洗浄動作(シャットダウン処理)の実行指示とを同時に受け付ける例である。
【0064】
図8の他の例として、塗抹標本作製装置100が複数の動作モードで動作する場合には、複数の動作モードの各々と、洗浄条件が異なる複数の洗浄動作の各々とが紐付いてもよい。例えば、染色処理の内容が互いに異なる第1動作モードおよび第2動作モードの各々と、洗浄効果が互いに異なる洗浄動作の各々とが紐付いてもよい。第1動作モードの実行指示ボタンが操作入力された場合には通常洗浄に対応する第1洗浄動作が実行され、第2動作モードの実行指示ボタンが操作入力された場合には第1洗浄動作よりも洗浄効果が高い強化洗浄に対応する第2洗浄動作が実行される。なお、第1動作モードの一例としては1種類の染色液を用いて染色処理を行う単染色モードがあり、第2動作モードの一例としては2種類の染色液を用いて染色処理を行う二重染色モードがある。塗抹標本作製装置100の制御部40は、複数の動作モードのうち、選択された動作モードに応じて、流体回路部30による染色槽20に対する洗浄動作を制御する。
【0065】
このように、1つの態様による洗浄方法は、複数の動作モードで動作する塗抹標本作製装置100における染色槽20の洗浄方法であって、複数の動作モードのうち少なくとも1つの動作モードを選択する工程と、選択した動作モードに応じて、染色槽20の洗浄動作を実行する工程と、を備える。複数の動作モードは、第1動作モードと、第1動作モードとは染色処理が異なる第2動作モードと、を含みうる。これにより、選択した動作モードに応じて、染色槽20の洗浄動作を実行することができる。その結果、塗抹標本作製装置100の状況に応じて適切な洗浄動作を実施することによって、塗抹標本作製装置100の状況に応じて染色槽20に対して適切な洗浄処理を実行できる。
【0066】
また、
図9の例では、制御部40は、1つの洗浄動作に対応する洗浄条件である強化洗浄を選択可能に示した操作画面62を表示させる。操作画面62は、第1洗浄動作に対応する第1洗浄条件である通常洗浄の実行指示を受け付けるボタン62aと、第2洗浄動作に対応する第2洗浄条件である強化洗浄のオンオフを選択可能に示すチェックボックス62bとを含む。
図9は、チェックボックス62bが非選択(オフ)の状態を示す。この状態でボタン62aが入力された場合、制御部40は、第1洗浄動作に対応する第1洗浄条件である通常洗浄の選択を洗浄条件に関する情報として受け付ける。
図10は、チェックボックス62bが選択(オン)された状態を示す。ボタン62aが入力された場合、制御部40は、チェックボックス62bによる第2洗浄動作に対応する第2洗浄条件である強化洗浄の選択を洗浄条件に関する情報として受け付けて洗浄動作を実行する。このように、複数の洗浄動作に対応する複数の洗浄条件の全てを選択可能に提示する必要はない。
図9および
図10は、洗浄動作に対応する洗浄条件の選択と、洗浄動作(シャットダウン処理)の実行指示とを別個に受け付ける例である。
【0067】
なお、洗浄動作の提示方法は、
図8~
図10に示した例に限られない。制御部40は、たとえばプロジェクターにより操作画面を投影表示することにより選択肢を提示してもよい。制御部40は、たとえば塗抹標本作製装置100と通信可能に接続された情報端末の表示画面に、操作画面を表示させてもよい。情報端末は、たとえばスマートフォン、タブレット端末、ノートタイプPCなどでありうる。この場合、制御部40は、情報端末に対する操作入力の入力結果を取得することにより、洗浄動作に対応する洗浄条件の選択を洗浄条件に関する情報として受け付けてもよい。
【0068】
図11(a)の例では、洗浄条件に関する情報を受け付ける工程は、(S31)洗浄条件に関する情報として塗抹標本作製装置100の状態に関する情報を取得する工程と、(S32)取得した情報に基づいて洗浄条件を設定する工程と、を含む。つまり、ユーザからの選択操作を洗浄条件に関する情報として受け付けることなく、洗浄条件の設定が行われる。これにより、洗浄動作の度に、ユーザが塗抹標本作製装置100の状態を調べて判断することなく、自動的に適切な洗浄動作に対応する洗浄条件を設定できる。また、塗抹標本作製装置100の状態をユーザが把握していなくても、適切な洗浄条件に対応する洗浄動作を設定できる。
【0069】
ステップS31において、制御部40は、塗抹標本作製装置100の状態に関する情報70(
図12参照)を取得する。
【0070】
ステップS32において、制御部40は、取得した情報70に基づいて洗浄条件を設定する。このように、
図11の例では、制御部40は、塗抹標本作製装置100の状態に関する情報70を取得し、取得した情報に基づいて記憶部41に記憶された複数の洗浄条件の中から一の洗浄条件を設定するように構成されている。
【0071】
図12に示すように、塗抹標本作製装置100の状態に関する情報70は、塗抹標本作製装置100の稼働予定に関する情報71、染色槽20内の液体の排出機能に関する情報72、塗抹標本作製装置100の連続稼働時間に関する情報73、および、塗抹標本作製装置100により染色された塗抹標本スライド12の観察結果に関する情報74などを含む。
【0072】
これらの情報に基づいて、情報取得時点における塗抹標本作製装置100の状態を適切に把握できるので、塗抹標本作製装置100の状況に応じた洗浄動作に対応する洗浄条件を適切に設定できる。
【0073】
塗抹標本作製装置100の稼働予定に関する情報71は、たとえば塗抹標本作製装置100が稼働する日(すなわち、平日)と、塗抹標本作製装置100が稼働しない日(すなわち、休日)とを規定したスケジュール情報である。塗抹標本作製装置100は、稼働予定に関する情報71を記憶する記憶部を備えていてもよい。塗抹標本作製装置100の稼働予定に関する情報71から、たとえば連休の前日であることが把握される場合、塗抹標本作製装置100は、非稼働時間が長くなり染色槽20の汚れが沈着しやすい状態にあると判断できる。そこで、洗浄効果の高い洗浄動作を行う洗浄条件を設定すれば、汚れの沈着を効果的に抑制できる。
【0074】
染色槽20内の液体の排出機能に関する情報72は、たとえば染色槽20内の液体の排出開始から排出完了までにかかった時間情報、または、染色槽20内の液体の排出流量の情報である。染色槽20内の液体の排出に要する時間が長くなっている、染色槽20内の液体の排出流量が低下している、などの場合に、染色槽20内の液体の排出機能が低下していることが分かる。排出機能の低下から、染色槽20における排出口や排出経路において、染色液91の析出物による汚れが堆積している状態にあり、染色槽20にも汚れが堆積している可能性が高いと判断できる。そこで、液体の排出機能が低下している場合に、洗浄効果の高い洗浄動作を行う洗浄条件を設定すれば、堆積した汚れを効果的に除去できる。
【0075】
塗抹標本作製装置100の連続稼働時間に関する情報73は、塗抹標本作製装置100が起動してから稼働し続けている時間の長さの情報である。塗抹標本作製装置100の連続稼働時間が、通常想定される時間よりも長くなっている場合、染色槽20の汚れが蓄積しやすい状態にあると判断できる。そのため、洗浄効果の高い洗浄動作を行う洗浄条件を設定すれば、汚れの蓄積を抑制できる。
【0076】
塗抹標本作製装置100により染色された塗抹標本スライド12の観察結果に関する情報74は、顕微鏡画像において検出されたアーチファクトの数の情報である。
図12に示すように、作製された塗抹標本スライド12は、たとえば標本搬送装置300によって、標本画像撮像装置310に搬送される。標本画像撮像装置310は、塗抹標本スライド12の顕微鏡画像を取得する撮像部311を備え、撮像画像を解析する機能を有する。顕微鏡画像には、観察対象となる染色細胞の他に、染色処理の際に染色槽20において塗抹標本スライド12に付着した析出物やその他の夾雑物が写る。標本画像撮像装置310は、画像解析により、顕微鏡画像中の染色細胞の数、およびアーチファクトの数を計数する。標本画像撮像装置310は、取得したアーチファクトの数を、観察結果として制御装置320に出力する。塗抹標本作製装置100は、制御装置320を介して、得られたアーチファクトの数を含む情報74を取得する。
【0077】
得られた観察結果に関する情報74から、塗抹標本スライド12中に観察されるアーチファクトの数が多くなっている場合に、染色槽20内の析出物が塗抹標本スライド12に付着している可能性が示唆される。つまり、塗抹標本作製装置100は、染色槽20内に汚れが蓄積している状態である可能性があると判断できる。そこで、観察されたアーチファクトの数が多くなっている場合に、洗浄効果の高い洗浄動作を行う洗浄動作を選択すれば、蓄積された汚れを除去できる。
【0078】
以上のようにして、塗抹標本作製装置100の状態に関する情報70から、塗抹標本作製装置100において洗浄効果の高い洗浄条件に対応する洗浄動作が必要か否かを判定できるので、適切な洗浄動作に対応する洗浄条件を設定できる。ここでは4つの情報71~74の例を示したが、塗抹標本作製装置100の状態に関する情報70は、塗抹標本作製装置100の状態を直接または間接的に把握可能な情報であればどのような情報でもよい。
【0079】
塗抹標本作製装置100の状態に関する情報に基づいて洗浄条件の設定を行う場合、選択した洗浄条件に応じた洗浄動作をそのまま実行することが可能である。この他に、設定した洗浄条件をユーザに提示してもよい。
【0080】
すなわち、
図11(b)に示すように、塗抹標本作製装置100の染色槽の洗浄方法は、(S33)取得した情報に基づいて設定した洗浄条件を提示する工程と、(S34)設定した洗浄条件に対応する洗浄動作の実行指示を受け付ける工程と、をさらに備えてもよい。
【0081】
制御部40は、ステップS33において、設定した洗浄条件を表示部50により表示する処理を行う。制御部40は、ステップS34において、設定した洗浄条件に応じた洗浄動作の実行指示を入力部51により受け付ける処理を行う。これにより、洗浄条件の設定の際に、提示された洗浄条件をユーザが確認した上で洗浄条件に対応する洗浄動作の実行指示を入力できる。そのため、ユーザが意図しない洗浄条件に対応する洗浄動作が誤って実行されることを抑制できる。
【0082】
たとえば
図13では、塗抹標本作製装置100の稼働予定に関する情報71から、洗浄効果の高い第2洗浄動作に対応する洗浄条件が設定された例を示す。この場合、ステップS33において、制御部40が、操作画面62を表示部50に表示させる。操作画面62では、第2洗浄動作に対応する第2洗浄条件である強化洗浄のチェックボックス62bがオンの状態とされ、第2洗浄動作に対応する第2洗浄条件である強化洗浄が設定済みとなっている。ステップS34において、制御部40は、ユーザによるボタン62aの入力操作を受け付け、洗浄動作を実行させる。
【0083】
なお、
図13の例では、制御部40は、洗浄動作とともに、推奨される洗浄動作に対応する洗浄条件である強化洗浄に関する情報を表示部50により表示する。すなわち、推奨される洗浄動作に対応する洗浄条件である強化洗浄に関する情報を表示する情報表示欄62cが設けられる。これにより、推奨される洗浄動作に対応する洗浄条件である強化洗浄に関する情報が表示されるので、表示された情報を参考にして、ユーザが、洗浄動作に対応する洗浄条件の設定をより適切に行える。
【0084】
図13の操作画面62では、塗抹標本作製装置100の稼働予定に関する情報71から、連休の前日であると判断されるため、洗浄効果の高い洗浄動作を行う第2洗浄動作に対応する第2洗浄条件である強化洗浄が推奨されることが、情報表示欄62cに表示される。
【0085】
また、
図14では、塗抹標本作製装置100の連続稼働時間に関する情報73から、連続稼働時間が閾値を超えたため、洗浄効果の高い第2洗浄動作に対応する第2洗浄条件である強化洗浄が設定された例を示す。この場合、制御部40は、ステップS33において、洗浄効果の高い第2洗浄動作に対応する洗浄条件が設定されていることを表示した操作画面62を表示部50に表示させる。
【0086】
操作画面62では、塗抹標本作製装置100の連続稼働時間が24時間となっていることが、情報表示欄62cに表示される。
【0087】
図15の例では、塗抹標本作製装置100により染色された塗抹標本スライド12の観察結果に関する情報74から、アーチファクトの数が閾値を超えた場合に、制御部40が、洗浄効果の高い第2洗浄動作に対応する第2洗浄条件である強化洗浄を設定した例を示す。制御部40は、ステップS33において、洗浄効果の高い第2洗浄動作に対応する第2洗浄条件である強化洗浄が設定されていることを表示した操作画面62を表示部50に表示させる。
【0088】
操作画面62では、血球分類計数において染色カスが原因と思われるエラー(すなわち、アーチファクトが閾値を超えたこと)が発生したことが、情報表示欄62cに表示されている。
【0089】
図13~
図15に示した操作画面62は、取得した塗抹標本作製装置の状態に関する情報70に基づいた洗浄条件の設定を受け付ける推奨画面である。すなわち、
図13~
図15の例では、推奨画面を提示する工程と、推奨画面を介して洗浄条件の設定を洗浄条件に関する情報として受け付ける工程と、を含む。制御部40は、塗抹標本作製装置100の状態に関する情報70を取得し、表示部50により、取得した情報70に基づいた記憶部41に記憶された複数の洗浄条件の中から一の洗浄条件の設定を受け付ける推奨画面を表示する処理と、推奨画面を介して記憶部41に記憶された複数の洗浄条件の中から一の洗浄条件の設定を受け付ける処理と、を実行するように構成されている。そして、制御部40は、推奨画面を提示する工程において、塗抹標本作製装置の状態に関する情報70を提示する。これにより、ユーザが情報70に基づいて適切な洗浄条件を設定できる。
【0090】
(塗抹標本作製装置の詳細な構成)
以下、
図16以降を参照して、
図1に示した塗抹標本作製装置100の好ましい実施形態の構成について具体的に説明する。
図16に示す塗抹標本作製装置100は、スライドガラス10に対して検体90を塗抹する塗抹処理を行い、検体90が塗抹されたスライドガラス11に対して、検体90の染色処理を施すように構成されている。検体は、たとえば血液である。
【0091】
塗抹標本作製装置100は、染色槽20と、流体回路部30(
図17参照)と、制御部40とを備える。また、
図16の塗抹標本作製装置100は、スライド供給部110と、移送機構120と、付着物除去部125と、印字部130と、塗抹部140と、第1乾燥部150と、スライド搬送部160と、を備える。また、塗抹標本作製装置100は、スライド設置部170と、移送部180と、第2乾燥部190と、スライド収納部200と、を備える。また、塗抹標本作製装置100は、入力部51と、表示部50と、記憶部41(
図17参照)と、入出力部42(
図17参照)と、通信部43(
図17参照)とを備える。また、塗抹標本作製装置100は、検体搬送部210と、吸引部220と、を備える。
【0092】
以下では、塗抹標本作製装置100の設置面に平行な面内(すなわち、水平面内)で直交する2方向をそれぞれX方向、Y方向とする。
図16の例では、塗抹標本作製装置100が、平面視でX方向およびY方向にそれぞれ沿う四角形状の外形形状を有する。X方向を塗抹標本作製装置100の左右方向とし、Y方向を塗抹標本作製装置100の奥行き方向とする。Y1方向側が装置の手前側であり、Y2方向側が装置の奥側である。また、水平面と直交する上下方向をZ方向とする。
【0093】
検体搬送部210は、検体90を収容する複数の検体容器211が検体搬送部210に設置され、設置された検体容器211を所定の取込位置に搬送する。検体容器211は、検体搬送部210は、たとえば検体容器211を複数保持したラック212を搬送する。吸引部220は、検体搬送部210により取込位置に搬送された検体容器211から検体を吸引する。吸引部220は、吸引した検体を塗抹部140へ供給する。
【0094】
図16の構成例では、スライド供給部110は、第1供給部111と、第2供給部112とを含む。スライド供給部110は、第1供給部111および第2供給部112の各々に、検体の塗抹前の未使用状態のスライドガラス10を多数収納できる。スライドガラス10は、第1供給部111および第2供給部112の内部に、塗抹面が上方を向くように平置きで収納される。
【0095】
第1供給部111および第2供給部112は、X方向に並んで配置されている。第1供給部111および第2供給部112の各々は、内部に収容された塗抹前のスライドガラス10を、Y2方向に移動させて、スライドガラス10を1枚ずつ供給できる。
【0096】
移送機構120は、たとえば、1枚のスライドガラス10を上面に保持して搬送できる。移送機構120は、第1供給部111からスライドガラス10を受け取れる。移送機構120は、第2供給部112からスライドガラス10を受け取れる。移送機構120は、水平方向(XY方向)に移動可能である。移送機構120は、保持したスライドガラス10を上下方向(Z方向)に移動させることができる。移送機構120は、保持したスライドガラス10を付着物除去部125、印字部130および塗抹部140の各々の処理位置に搬送できる。移送機構120は、スライド供給部110から受け取ったスライドガラス10を付着物除去部125、印字部130および塗抹部140の順に搬送する。移送機構120が複数枚のスライドガラス10を保持可能であってもよい。
【0097】
付着物除去部125は、スライドガラス10の表面に付着した付着物を除去する機能を有する。付着物除去部125は、移送機構120の上面に保持された状態のスライドガラス10に対して付着物の除去処理を行う。付着物は、たとえば、ガラス粉末やほこりなどの小さい異物である。
【0098】
図16の構成例では、印字部130は、スライドガラス10の印字領域14に、検体情報などの各種情報を印刷できる。印字部130は、移送機構120の上面に保持された状態のスライドガラス10に対して印刷を行う。
【0099】
図16の構成例では、塗抹部140は、検体をスライドガラス10に塗抹してスライドガラス11を作製する。塗抹部140は、スライドガラス10の塗抹領域13に検体を塗抹できる。また、塗抹部140は、移送機構120の上面に保持された状態のスライドガラス10に対して検体の塗抹を行う。
【0100】
第1乾燥部150は、検体が塗抹されたスライドガラス11を塗抹部140から受け取り、スライドガラス11の塗抹領域13に送風する機能を有する。第1乾燥部150は、送風により、スライドガラス11に塗抹された検体を乾燥させることができる。
【0101】
スライド搬送部160は、第1乾燥部150および染色槽20のY1方向側に配置され、X方向に延びるように設けられている。スライド搬送部160は、第1乾燥部150から、染色槽20とスライド設置部170との間の取出位置162へ、X1方向にスライドガラス11を搬送するように構成されている。スライド搬送部160は、スライドガラス11を収容する収容部161を有し、収容部161をX方向に移動できる。スライド搬送部160は、設置面と略平行に寝かせた状態のスライドガラス11を収容部161内に受け入れ、設置面に対して略垂直に立てた状態にして、取出位置162へ搬送する。このため、取出位置162では、スライドガラス11は、塗抹面が上下方向(Z方向)に沿うように立てられた状態で保持される。取出位置162に搬送されたスライドガラス11は、染色槽20またはスライド設置部170に搬送される。
【0102】
染色槽20は、スライドガラス11に塗抹された検体を染色するように構成されている。染色槽20は、第1乾燥部150に対してX1方向側に並んで配置され、第1乾燥部150から搬送されるスライドガラス11を受け取るように構成されている。
【0103】
染色槽20は、染色液を溜める槽21、22、23、25および26(
図18参照)と、検体の洗浄液を溜める槽24および27(
図18参照)と、を備える。染色槽20では、塗抹済みのスライドガラス11に対して、槽21、22、23、25および26と、槽24および27と、において検体の染色処理および検体の洗浄処理が実施される。槽21、22、23、25および26は、各々複数のスライドガラス11を収容可能である。
【0104】
スライド設置部170は、染色槽20のY1方向側に配置され、スライドガラス11を出し入れ可能に保持するように構成されている。スライド設置部170は、検体が塗抹され染色処理が行われていないスライドガラス11を複数保持することが可能である。また、スライド設置部170は、印字部130によりスライドガラス10に情報が印字され塗抹処理が行われていない状態のスライドガラス10を保持することが可能である。
【0105】
移送部180は、染色槽20、スライド設置部170および取出位置162の間でスライドガラス11を搬送することができる。移送部180は、たとえば、染色槽20、スライド設置部170および取出位置162よりも上方の高さ位置において、X方向、Y方向およびZ方向の各方向に移動できる。これにより、移送部180は、染色槽20、スライド設置部170および取出位置162の各々に配置されたスライドガラス11を把持して取り出したり、染色槽20、スライド設置部170および取出位置162の各々にスライドガラス11を搬送できる。また、移送部180は、1枚のスライドガラス11を保持して移送する。つまり、移送部180は、染色槽20に対してスライドガラス11を1枚ずつ出し入れする。また、制御部40は、染色槽20に対してスライドガラス11を順次移送し、染色処理を行う染色時間が経過したスライドガラス11から順番に染色槽20から取り出すように、移送部180を制御する。
【0106】
また、塗抹標本作製装置100は、ユーザが手動でスライド設置部170に設置した検体塗抹済みのスライドガラス11を、移送部180によりスライド設置部170から染色槽20に搬送できる。これにより、塗抹標本作製装置100は、印字処理、塗抹処理および染色処理を行う塗抹染色モードでの動作の他に、印字部130および塗抹部140において印字処理および塗抹処理を行ったスライドガラス11を、染色処理を行うことなくスライド設置部170に送り出す塗抹モードでの動作や、ユーザが手動でスライド設置部170に設置した検体塗抹済みのスライドガラス11に、染色槽20による染色処理を行い、スライド収納部200に送り出す染色モードでの動作ができる。
【0107】
第2乾燥部190は、染色槽20に対してY2方向側に並んで配置されている。第2乾燥部190は、染色槽20に染色処理が行われたスライドガラス11である塗抹標本スライド12を受け取る。第2乾燥部190は、たとえば、送風により、染色槽20による染色済みの塗抹標本スライド12を乾燥させる機能を有する。第2乾燥部190は、乾燥した塗抹標本スライド12をスライド収納部200に受け渡す。
【0108】
スライド収納部200は、処理が終了した塗抹標本スライド12を受け取り、収納する機能を有する。スライド収納部200は、第2乾燥部190に対してX1方向側に並んで配置され、第2乾燥部190から搬送されるスライドガラス10を受け取る。
【0109】
制御部40は、塗抹標本作製装置100の各部の動作を制御する。制御部40は、CPUなどのプロセッサと、揮発性および/または不揮発性のメモリとを備えたコンピュータである。コンピュータは、メモリに記憶されたプログラムをプロセッサが実行することにより、塗抹標本作製装置100の制御部として機能する。プロセッサは、制御部40の機能を果たすよう設計されたFPGA(field-programmable gate array)などであってもよい。
【0110】
このような構成によって、塗抹標本作製装置100は、スライドガラス10への印字処理、検体の塗抹処理、染色処理の各処理を実施して塗抹標本スライド12を自動作製できる。
【0111】
(制御ブロック)
図17に示すように、制御部40は、表示部50、入力部51、記憶部41、入出力部42および通信部43と電気的に接続されている。制御部40は、記憶部41に記憶されたプログラムおよび設定情報に基づいて、入出力部42を介して塗抹標本作製装置100が備える各機構の制御を行う。
【0112】
入出力部42は、制御部40と、塗抹標本作製装置100が備える各機構との信号の入出力を行うI/Oインターフェースを含む。制御部40は、入出力部42を介して、印字部130、塗抹部140、スライド収納部200、スライド供給部110、移送機構120、流体回路部30、移送部180、検体搬送部210、第1乾燥部150、第2乾燥部190、および、吸引部220などの各機構と接続されている。また、制御部40は、入出力部42を介して、流体回路部30による染色液および洗浄液の供給動作および排出動作を制御する。制御部40は、入出力部42を介して、移送部180によるスライドガラス11の移送動作を制御する。
【0113】
通信部43は、外部装置と有線または無線により通信可能な通信モジュールを含む。通信部43は、たとえば
図12に示した標本搬送装置300と相互に通信する。通信により、塗抹標本作製装置100が作製した塗抹標本スライド12の受け渡しのための制御が行われる。通信部43は、
図12の制御装置320と相互に通信する。通信により、塗抹標本スライド12の観察結果に関する情報74が取得される。
【0114】
記憶部41は、塗抹標本作製装置100の複数の洗浄条件と、それぞれの洗浄条件に対応する洗浄動作の内容とを対応付けた設定情報を記憶しており、このように記憶されたプログラムを実行することにより、
図2に示した塗抹標本作製装置100の染色槽20の洗浄方法として機能する。記憶部41は、塗抹標本作製装置100の稼働予定に関する情報71を記憶している。塗抹標本作製装置100の稼働予定に関する情報71は、たとえばユーザが入力部51を介して直接入力可能であり、
図12の制御装置320から通信により取得可能である。制御部40は、記憶部41から、塗抹標本作製装置100の稼働予定に関する情報71を取得する。
【0115】
制御部40は、計時機能を有し、塗抹標本作製装置100が起動されてからの連続稼働時間を計測する。これにより、制御部40は、塗抹標本作製装置100の連続稼働時間に関する情報73を取得する。なお、制御部40は、入出力部42を介して、後述するフロートスイッチ881の信号を取得する。制御部40は、フロートスイッチ881の信号に基づいて染色槽20内の液体の排出機能に関する情報72を取得する。
【0116】
(染色部および移送部の詳細な構成)
図18を参照して、染色槽20および移送部180の構成を説明する。なお、以下の説明では、上下方向をZ方向という。
【0117】
染色槽20は、染色液を溜める槽21、22、23、25および26と、検体の洗浄液を溜める槽24および27とを備える。
図18の例では、染色槽20は、これらの槽21~27を一体的に含んでいる。流体回路部30は、槽21、22、23、25および26と、槽24および27とのそれぞれに対して染色液および検体の洗浄液を供給し、また排出する。以下の説明において、染色処理に用いる検体の洗浄液を「検体洗浄液」と呼び、染色槽20の洗浄動作に用いる洗浄液81と区別する。
【0118】
槽21、22、23、25および26と、槽24および27とのそれぞれは、上側が開放された容器状をなしており、内部に染色液および検体洗浄液を溜めることができる。槽21、22、23、25および26と、槽24および27とのそれぞれは、幅方向がX方向、厚さ方向がY方向のスライドガラス11を挿入可能である。
【0119】
染色槽20では、槽21、槽22、槽23、槽24、槽25、槽26、および槽27がY2方向に順番に並んでいる。
【0120】
槽21、22、23、25および26の内部には、板状の複数の保持部が、等間隔にY方向に並んでいる。保持部間の空間に、1枚のスライドガラス11が挿入される。挿入されたスライドガラス11は、保持部によって幅方向の両端部分が支持され、立たせた状態を維持する。槽24および27も、スライドガラス11を立たせた状態で保持可能である。
【0121】
スライドガラス11は、槽21から順に各槽に搬送され、所定の設定時間の間、それぞれの槽に溜められた染色液または検体洗浄液に漬けられて処理される。
【0122】
移送部180は、染色槽20およびスライド設置部170(
図16参照)の上方(Z1方向)に配置される。移送部180は、第1移送部730および第2移送部740を含むことが好ましい。第1移送部730とは別に第2移送部740を設けることで、取出位置162(
図16参照)から染色槽20へのスライドガラス11の搬送と、スライド収納部200(
図16参照)への塗抹標本スライド12の搬送とを別々に行うことができ、搬送効率が向上する。第1移送部730および第2移送部740のそれぞれは、移動機構181によって水平方向(即ち、X方向並びにY方向)に移動できる。
【0123】
移動機構181は、Y方向に延びたY軸レール751およびY軸スライダ752と、X方向に延びたX軸レール753およびX軸スライダ754と、Y軸モータ755およびX軸モータ756とを備える。Y軸モータ755およびX軸モータ756には、たとえば、ステッピングモータまたはサーボモータを採用できる。
【0124】
Y軸レール751は、支持部材757の下面に固定される。支持部材757は、塗抹標本作製装置100の筐体の天井部または支持用の梁部材等である。Y軸スライダ752は、Y軸レール751の下面側(Z2方向側)に取り付けられ、Y軸レール751に沿って移動できる。Y軸モータ755は、伝達機構を介してY軸スライダ752をY方向に移動させる。伝達機構には、たとえば、ベルト-プーリ機構またはラック-ピニオン機構等を採用できる。
【0125】
X軸レール753は、Y軸スライダ752の下面に固定される。X軸スライダ754は、X軸レール753の下面側(Z2方向側)に取り付けられ、X軸レール753に沿って移動できる。X軸モータ756は、伝達機構を介してX軸スライダ754をX方向に移動させる。
【0126】
Y軸スライダ752、X軸レール753、X軸スライダ754、X軸モータ756、およびY軸モータ755は、それぞれ一対設けられている。一方のX軸スライダ754の下面側に第1移送部730が取り付けられ、他方のX軸スライダ754の下面側に第2移送部740が取り付けられる。これにより、第1移送部730および第2移送部740は、個別のX軸レール753に沿って互いに独立してX方向に移動できる。また、第1移送部730および第2移送部740は、共通のY軸レール751に沿って互いに独立してY方向に移動できる。
【0127】
第1移送部730および第2移送部740の構成は同一である。第1移送部730および第2移送部740のそれぞれは、ハンド182と、ハンド182を昇降させるためのZ軸モータ761と、伝達機構762とを備える。Z軸モータ761は、伝達機構762を介してハンド182を昇降させる。伝達機構762には、たとえば、ベルト-プーリ機構またはラック-ピニオン機構等を採用できる。
【0128】
ハンド182は、1枚のスライドガラス11を把持できる。
図18では、一対の把持板763によってスライドガラス11を厚さ方向に挟んで把持する構成の例を示している。一対の把持板763は、スライドガラス11の表面と裏面とにそれぞれ接触して、スライドガラス11を挟む。一対の把持板763は、スライドガラス11の厚さ方向(Y方向)に相対的に移動できる。把持板763の移動は、たとえば、エアシリンダ、モータ、ソレノイドなどのアクチュエータを用いて実現できる。なお、ハンド182は、スライドガラス11を幅方向に挟む構成であってもよい。
【0129】
第1移送部730は、槽21、槽22、槽23、および、槽24の各上方位置に移動できる。したがって、第1移送部730は、槽21、槽22、槽23、および、槽24のそれぞれに対して、スライドガラス11を1枚ずつ挿入および抜き出しできる。
【0130】
また、第1移送部730は、取出位置162、および、スライド設置部170の各上方位置にも移動できる。したがって、第1移送部730は、取出位置162(
図16参照)からスライドガラス11を1枚抜き出しでき、また、スライド設置部170(
図16参照)のスライドガラス11を1枚ずつ挿入および抜き出しできる。
【0131】
第2移送部740は、槽24、槽25、槽26、および、槽27の各上方位置に移動できる。したがって、第2移送部740は、槽24、槽25、槽26、および、槽27のそれぞれに対して、スライドガラス11を1枚ずつ挿入および抜き出しできる。
【0132】
また、第2移送部740は、第2乾燥部190、およびスライド収納部200(
図16参照)の各上方位置にも移動できる。したがって、第2移送部740は、第2乾燥部190に対して、塗抹標本スライド12を1枚ずつ挿入および抜き出しでき、また、スライド収納部200(
図16参照)に塗抹標本スライド12を1枚ずつ挿入できる。
【0133】
第1移送部730および第2移送部740のそれぞれは、並行して別々のスライドガラス11または塗抹標本スライド12を搬送できる。第1移送部730と第2移送部740とは、槽24において動作範囲が重複しており、槽24においてスライドガラス11の受け渡しが行われる。受け渡しの位置は、槽24以外でもよい。
【0134】
第2乾燥部190は、収容部771と、送風部772とを備える。収容部771は、上部が開口した容器であり、複数の塗抹標本スライド12を立たせた状態で収容できる。送風部772は、収容部771の内部に送風することが可能である。送風部772が送風することで、収容部771に収容された染色済みの塗抹標本スライド12が乾燥される。
【0135】
(流体回路部)
図19に、流体回路部30の概略を示す。
【0136】
流体回路部30は、塗抹標本スライド12の作製に用いる液体を収容するチャンバ810、820、830、840、850を備える。また、流体回路部30は、希釈チャンバ860と、希釈チャンバ870とを備える。流体回路部30は、ポンプ811、821、822、831、841、851を備える。また、流体回路部30は、バルブ812、813、814、815、816、817、823、824、825、826、832、833、834、835、836、842、852、853、854、861、862、863、864、871、872、873、874、875、876を備える。チャンバは、所定量の液体を貯留可能に形成された液体容器である。ポンプは、ダイヤフラムポンプやシリンジポンプなどの定量型のポンプであり、たとえばダイヤフラムポンプである。バルブは、少なくとも流路の開放と閉鎖とを切り替え可能なバルブであり、たとえばオンオフバルブである。
【0137】
チャンバ810には、メタノールが収容される。チャンバ820には、第1染色液の原液が収容される。チャンバ830には、緩衝液が収容される。チャンバ840には、第2染色液の原液が収容される。チャンバ850には、RO(Reverse Osmosis)水が収容される。第1染色液は、たとえば、メイグリュンワルド液またはライト液から選択される。第2染色液は、たとえば、ギムザ液またはライト液から選択される。
【0138】
染色液は、ポンプ811、821、822、841により定量されて槽21、22、23、25、26に供給される。染色液は、希釈染色液として供給される場合、希釈チャンバ860または希釈チャンバ870において染色液の原液と希釈液とが希釈チャンバに供給され、所定の濃度に希釈される。検体洗浄液は、ポンプ831、851により定量されて槽24、27に供給される。
【0139】
流体回路部30は、チャンバ810に貯留されたメタノールを、バルブ812、813の開閉およびポンプ811の動作により、槽21に供給する。流体回路部30は、チャンバ820に貯留された第1染色液の原液を、バルブ823、824の開閉およびポンプ821の動作により、槽22に供給する。流体回路部30は、チャンバ820に貯留された第1染色液の原液と、チャンバ830に貯留された緩衝液とを、それぞれバルブ826、832、861の開閉およびポンプ822の動作により、希釈チャンバ860に供給する。希釈チャンバ860において、第1染色液の希釈染色液が、定量される。流体回路部30は、バルブ862の切り替えにより陽圧源から希釈チャンバ860に陽圧を供給し、バルブ863を開閉することにより、希釈チャンバ860に貯留された第1染色液の希釈染色液を槽23に供給する。流体回路部30は、チャンバ830に貯留された緩衝液を、バルブ834、835の開閉およびポンプ831の動作により、槽24に供給する。緩衝液(リン酸バッファ)は、染色液の希釈液としても、検体洗浄液としても用いられる。
【0140】
流体回路部30は、チャンバ840に貯留された第2染色液の原液と、チャンバ830に貯留された緩衝液とを、それぞれバルブ833、842、871の開閉およびポンプ841の動作により、希釈チャンバ870に供給する。希釈チャンバ870において、第2染色液の希釈染色液が、定量される。流体回路部30は、バルブ872の切り替えにより陽圧源から希釈チャンバ870に陽圧を供給し、バルブ873、874を開閉することにより、希釈チャンバ870に貯留された第2染色液の希釈染色液を、槽25、または槽25および26の両方に供給する。流体回路部30は、チャンバ850に貯留されたRO水(純水)を、バルブ852、853の開閉およびポンプ851の動作により、槽27に供給する。
【0141】
流体回路部30は、バルブ814の開閉により、槽21に貯留された液体を、廃液チャンバ880に排出させる。流体回路部30は、バルブ825の開閉により、槽22に貯留された液体を、廃液チャンバ880に排出させる。流体回路部30は、バルブ864の開閉により、槽23に貯留された液体を、廃液チャンバ880に排出させる。流体回路部30は、バルブ836の開閉により、槽24に貯留された液体を、廃液チャンバ880に排出させる。流体回路部30は、バルブ875の開閉により、槽25に貯留された液体を、廃液チャンバ880に排出させる。流体回路部30は、バルブ876の開閉により、槽26に貯留された液体を、廃液チャンバ880に排出させる。流体回路部30は、バルブ854の開閉により、槽27に貯留された液体を、廃液チャンバ880に排出させる。
【0142】
廃液チャンバ880には、廃液チャンバ880に受け入れた液体の量を検出するフロートスイッチ881が設けられている。制御部40は、フロートスイッチ881の出力信号に基づき、いずれかの槽に貯留された液体が全て廃液チャンバ880に排出されたことを検出する。制御部40は、バルブ825、バルブ864、バルブ836、バルブ875、およびバルブ876のいずれかを開いて液体排出を開始してから、フロートスイッチ881により液体排出の完了を検出するまでにかかる時間を計測する。これにより、制御部40は、染色槽20内の液体の排出機能に関する情報72を取得する。
【0143】
〈洗浄動作〉
流体回路部30は、染色槽20の複数の槽22、23、24、25、26および27の各々へ、槽洗浄用の洗浄液81を供給可能に構成されている。流体回路部30は、塗抹標本作製装置100のシャットダウン時等に、槽洗浄用の洗浄液81を、槽22、23、24、25、26および27の各々に個別に供給できる。なお、槽21には、染色液が混入することがなく洗浄する必要がないため、洗浄液81は供給されない。
図19の構成例では、洗浄液81は、チャンバ810に貯留されたメタノールである。つまり、染色処理に用いるメタノールが、染色槽20の洗浄においては洗浄液81として使用される。
【0144】
流体回路部30は、槽22および槽24に対して、洗浄液81の原液を供給する。流体回路部30は、チャンバ810に貯留されたメタノールを、バルブ815、824の開閉およびポンプ821の動作により、槽22に供給する。流体回路部30は、チャンバ810に貯留されたメタノールを、バルブ816、833、834、835の開閉およびポンプ831の動作により、槽24に供給する。
【0145】
流体回路部30は、槽23、槽25および槽26に対して、洗浄液81の原液を希釈した希釈洗浄液を供給する。希釈液は、チャンバ830に貯留された緩衝液(リン酸バッファ)である。つまり、染色処理に用いる緩衝液が、染色槽20の洗浄においては洗浄液81の原液に対する希釈液として使用される。
【0146】
流体回路部30は、チャンバ810に貯留された洗浄液81の原液と、チャンバ830に貯留された希釈液とを、それぞれバルブ817、832、861の開閉およびポンプ822の動作により、希釈チャンバ860に供給する。希釈チャンバ860において、洗浄液81の原液が希釈液により希釈され、希釈洗浄液が調製される。流体回路部30は、バルブ862の切り替えにより陽圧源から希釈チャンバ860に陽圧を供給し、バルブ863を開閉することにより、希釈チャンバ860に貯留された希釈洗浄液を槽23に供給する。
【0147】
流体回路部30は、チャンバ810に貯留された洗浄液81の原液と、チャンバ830に貯留された希釈液とを、それぞれバルブ816、833、871の開閉およびポンプ841の動作により、希釈チャンバ870に供給する。希釈チャンバ870において、洗浄液81の原液が希釈液により希釈され、希釈洗浄液が調製される。流体回路部30は、バルブ872の切り替えにより陽圧源から希釈チャンバ870に陽圧を供給し、バルブ873、874を開閉することにより、希釈チャンバ870に貯留された希釈洗浄液を、槽25および26に供給する。
【0148】
希釈洗浄液の濃度は、ポンプの動作回数の割合によって決まる。つまり、洗浄液81の原液の吐出回数Nと、希釈液の吐出回数Mとから、濃度Kは、下式(1)により表すことができる。制御部40が、設定された濃度に基づいて吐出回数NおよびMを制御することにより、所望濃度の希釈洗浄液が調製される。
K=N/(N+M) ・・・(1)
なお、希釈チャンバ860、870において定量すべき希釈染色液の液量は、各槽の容積に依存した固定値である。そのため、ポンプの合計吐出回数をQ回とすると、下式(2)が成り立つ。
N+M=Q(一定値) ・・・(2)
Qの値は既知であるので、濃度Kが決定されれば、吐出回数NおよびMが求まる。
【0149】
このように、流体回路部30は、洗浄液81の原液を収容するチャンバ810と、希釈液を収容するチャンバ830と、洗浄液81の原液と希釈液とを混合する希釈チャンバ860および870とを含む。制御部40は、選択された洗浄動作に応じた濃度の洗浄液81を希釈チャンバ860、希釈チャンバ870において調製するように、流体回路部30を制御する。この場合、
図1の洗浄動作を実行する工程(S2)は、洗浄条件に応じた洗浄液81の原液と希釈液との混合比にて洗浄液(すなわち、希釈洗浄液)を調製する工程を含む。
【0150】
これにより、適切な濃度の洗浄液81を調製できるので、より適切な濃度の洗浄液81を用いて最適な洗浄効果を生じる洗浄条件に対応する洗浄動作を実施できる。また、濃度の異なる複数種類の洗浄液81を別個に用意する必要がないので、塗抹標本作製装置100における洗浄液81の保管スペースを抑制できるとともに、流体回路部30の構成を簡素化できる。
【0151】
なお、槽27の洗浄に用いる洗浄液81は、RO水である。流体回路部30は、洗浄時に、チャンバ850に貯留されたRO水(純水)を、バルブ852、853の開閉およびポンプ851の動作により、槽27に供給する。
【0152】
(塗抹標本作製処置)
図20を参照して塗抹標本作製装置100の制御部40による塗抹標本作製処理を説明する。なお、
図16の塗抹標本作製装置100は、染色処理のみ行う染色モード、印字処理および塗抹処理のみ行う塗抹モード、印字処理、塗抹処理および染色処理を行う塗抹染色モード、などの複数のモードで動作するが、ここでは一例として、塗抹染色モードの動作例を示す。
【0153】
標本作製を開始する場合、ユーザは、検体容器211を収容したラック212を検体搬送部210に設置し、スタートボタンを押下して塗抹染色モードの開始を指示する。制御部40は、塗抹染色モードの開始指示を受け付け、塗抹染色モードの動作を開始する。
【0154】
ステップS41において、制御部40は、ユーザが検体搬送部210に設置した検体容器211から検体を吸引するように、検体搬送部210および吸引部220を制御する。
【0155】
制御部40は、検体搬送部210上のラック212に保持された1つの検体容器211が取り込み位置に位置付けられるように、検体搬送部210を制御する。制御部40は、取り込み位置に搬送された検体容器211中の検体を吸引するように、吸引部220を制御する。吸引部220により吸引された検体が、塗抹部140へ送られる。
【0156】
ステップS41と並行して、制御部40は、ステップS42~S45の処理を実行する。ステップS42において、制御部40は、未使用のスライドガラス10をスライド供給部110から移送機構120上に送り出すように、スライド供給部110を制御する。そして、制御部40は、スライドガラス10を保持する移送機構120を、付着物除去部125まで移動するよう制御する。
【0157】
ステップS43において、制御部40は、付着物除去部125を動作させ、スライドガラス10の表面の付着物を除去させる。ステップS44において、制御部40は、スライドガラス10を保持する移送機構120を、印字部130まで移動するよう制御する。ステップS45において、制御部40は、スライドガラス10の印字領域14に、検体情報を印字する印字処理を実行するよう印字部130を制御する。
【0158】
次に、ステップS46において、制御部40は、スライドガラス10を保持する移送機構120を、塗抹部140まで移動するよう制御する。ステップS47において、制御部40は、スライドガラス10の塗抹領域13に、検体を塗抹する塗抹処理を実行するよう塗抹部140を制御する。これにより、検体が塗抹されたスライドガラス11が作製される。
【0159】
次に、ステップS48において、制御部40は、印字および塗抹済みのスライドガラス11を、塗抹部140から第1乾燥部150まで搬送するよう制御する。ステップS49において、制御部40は、スライドガラス11の塗抹領域13に対して送風し、検体を乾燥させる処理を実行するよう第1乾燥部150を制御する。
【0160】
次に、ステップS50において、制御部40は、印字処理、塗抹処理および乾燥処理が行われたスライドガラス11を、染色槽20まで搬送させる制御を行う。具体的には、制御部40は、乾燥処理後のスライドガラス11を、第1乾燥部150からスライド搬送部160に受け渡すように制御する。制御部40は、取出位置162へスライドガラス11を搬送するようスライド搬送部160を制御する。取出位置162にスライドガラス11が到達すると、制御部40は、取出位置162のスライドガラス11を把持してスライド搬送部160から取り出して、染色槽20へ移送するように、移送部180の第1移送部730を制御する。これにより、スライドガラス11が染色槽20まで移送される。
【0161】
ステップS51において、制御部40は、染色槽20による染色処理を実施するように、移送部180および流体回路部30を制御する。これにより、塗抹標本スライド12が作製される。
【0162】
ステップS52において、制御部40は、染色処理後のスライドガラス11である塗抹標本スライド12を染色槽20から第2乾燥部190へ移送するように、移送部180の第2移送部740を制御する。ステップS53において、制御部40は、塗抹標本スライド12に対して送風し、塗抹標本スライド12を乾燥させる処理を実行するよう第2乾燥部190を制御する。
【0163】
ステップS54において、制御部40は、乾燥済みの塗抹標本スライド12を第2乾燥部190からスライド収納部200へ移送するように、第2移送部740およびスライド収納部200を制御する。
【0164】
以上により、未使用のスライドガラス10に対して、印字処理、塗抹処理、染色処理が順次施され、作製された塗抹標本スライド12がスライド収納部200に収納される。また、制御部40は、ラック212に保持された複数の検体容器211から順次吸引された検体を用いて未使用のスライドガラス10に対する印字処理、塗抹処理、染色処理が順次実行されるように、上記の塗抹染色モードの処理を繰り返す。このため、染色槽20における染色処理は、塗抹標本作製装置100の動作サイクルに応じた所定時間間隔で、移送部180により移送される各スライドガラス11に対して1枚ずつ順番に実施される。
【0165】
(シャットダウン処理)
次に、
図21を参照して、塗抹標本作製装置100のシャットダウン処理について説明する。本実施形態による染色槽20の洗浄動作は、シャットダウン処理の一部として行われる。塗抹標本作製装置100の各部は、
図16~
図19を参照するものとする。
【0166】
ユーザは、入力部51を介してシャットダウン処理の開始指示を入力する。これにより、制御部40がシャットダウン処理の開始指示を受け付け、処理を開始する。また、ユーザは、検体容器211を保持したラック212の最後に、シャットダウン処理用の薬剤を収容した容器をセットしておくことができる。この場合、全ての検体の塗抹標本作製が実行された後、吸引部220がシャットダウン処理用の薬剤を吸引することによって、自動的にシャットダウン処理を開始するように、制御部40が各部を制御する。
【0167】
図21のステップS61において、制御部40は、操作画面を表示部50に表示させる。制御部40は、操作画面により、洗浄動作に対応する洗浄条件を設定可能に提示する。たとえば、
図9および
図10に示した操作画面62を例に説明する。操作画面62により、ユーザに洗浄動作に対応する洗浄条件が設定可能に提示される。この際、
図13~
図15に示したように、制御部40は、たとえば、洗浄動作に対応する洗浄条件とともに、推奨される洗浄動作に関する情報を情報表示欄62cに表示してもよい。たとえば制御部40は、記憶部41から塗抹標本作製装置100の稼働予定に関する情報71を取得して、連休の前日に該当すると判断した場合、
図13に示した画面表示を行う。
【0168】
ステップS62において、制御部40は、提示した洗浄動作に対応する洗浄条件に対する設定を受け付ける。ユーザは、操作画面62において洗浄動作に対応する洗浄条件を確認し、チェックボックス62bに対する操作入力によって洗浄動作に対応する洗浄条件を設定する。操作画面62において予め適切な洗浄動作に対応する洗浄条件が設定されている場合、ユーザは洗浄動作に対応する洗浄条件の設定操作を入力する必要はない。
【0169】
ステップS63において、制御部40は、洗浄条件に対応する洗浄動作の実行指示を受け付ける。ユーザは、ボタン62aを入力する。制御部40は、ボタン62aが入力されることにより、洗浄条件に対応する洗浄動作の実行指示を受け付け、ステップS64に処理を進める。なお、制御部40は、操作画面62を表示させてから所定時間の間、ボタン62aの入力操作が行われなかった場合に、ボタン62aの入力操作を受け付けることなく自動的に次のステップS64に処理を進めてもよい。
【0170】
ステップS64において、制御部40は、設定された洗浄条件に対応する洗浄動作を判定する。制御部40は、操作画面62のボタン62aが入力された時、チェックボックス62bにおいて第2洗浄動作に対応する第2洗浄条件である強化洗浄がオフに設定されていた場合、第1洗浄動作に対応する第1洗浄条件である通常洗浄が設定されたと判断し、ステップS65に処理を進める。制御部40は、チェックボックス62bにおいて第2洗浄動作に対応する第2洗浄条件である強化洗浄がオンに設定されていた場合、第2洗浄動作に第2洗浄条件である強化洗浄が設定されたと判断し、ステップS66に処理を進める。
【0171】
ステップS65の場合、制御部40は、第1洗浄条件に対応する第1洗浄動作を行うように流体回路部30を制御する。制御部40は、記憶部41から第1洗浄条件の設定値を読み出し、第1洗浄条件に対応する洗浄液濃度、保持時間で洗浄液81の供給および排出を行うように、流体回路部30を制御する。
【0172】
一例として、第1洗浄動作における希釈洗浄液の濃度は、50%である。制御部40は、希釈チャンバ860および希釈チャンバ870に対して、洗浄液81の原液の吐出回数Nと希釈液の吐出回数Mとを等しくして、希釈洗浄液を調製させる。制御部40は、調製させた希釈洗浄液を、槽23、25および26にそれぞれ供給させるように流体回路部30を制御する。
【0173】
また、制御部40は、洗浄液81の原液を槽22、槽24に供給させ、RO水を槽27に供給させるように流体回路部30を制御する。なお、流体回路の一部が共通であるため、各槽への洗浄液81の供給は、
図22に示すように、タイミングをずらして順番に行われる。
【0174】
第1洗浄動作に対応する洗浄条件では、槽22における洗浄液81の保持時間t2は、たとえば15[min]である。槽23における希釈洗浄液の保持時間t3は、たとえば7.5[min]である。槽24における洗浄液81の保持時間t4は、たとえば7[min]である。槽25における希釈洗浄液の保持時間t5は、たとえば6[min]である。槽26における希釈洗浄液の保持時間t6は、たとえば4[min]である。槽27における洗浄液(RO水)の保持時間t7は、たとえば17[min]である。
【0175】
制御部40は、染色槽20の各槽において、保持時間の経過後に洗浄液を排出させるように流体回路部30を制御する。制御部40は、槽21、22、23、25および26と、槽24および27との各々と、廃液チャンバ880との間のバルブ814、825、864、836、875、876、854を順次開放させて、槽内の液体を廃液チャンバ880に排出させる。
【0176】
また、ステップS66の場合、制御部40は、第2洗浄条件に対応する第2洗浄動作を行うように流体回路部30を制御する。第2洗浄条件に対応する第2洗浄動作では、受付画面60(
図5参照)により設定された洗浄液濃度、保持時間が反映される。制御部40は、記憶部41から第2洗浄動作に対応する第2洗浄条件の設定値を読み出し、第2洗浄動作に対応する洗浄液濃度、保持時間で洗浄液81の供給および排出を行うように、流体回路部30を制御する。
【0177】
一例として、第2洗浄動作に対応する第2洗浄条件における希釈洗浄液の濃度は、受付画面60において、50[%]よりも大きく、100[%]以下の範囲の任意の値とされる。制御部40は、濃度入力欄60aに入力された値から、上式(1)および(2)により、洗浄液81の原液の吐出回数Nおよび希釈液の吐出回数Mを算出する。制御部40は、希釈チャンバ860および希釈チャンバ870に対して、算出した吐出回数Nおよび吐出回数Mで、希釈洗浄液を調製させ、槽23、25および26にそれぞれ供給させる。
【0178】
制御部40は、上記第1洗浄動作に対応する第1洗浄条件における保持時間t2~t7に対して、時間入力欄60bに入力された値(追加時間t10)を加算して、第2洗浄動作に対応する第2洗浄条件における保持時間を算出する。制御部40は、各槽において、保持時間の経過後に洗浄液を排出させるように流体回路部30を制御する。
【0179】
染色槽20の全ての槽の液体が排出されると、洗浄動作は終了する。制御部40は、シャットダウン処理における洗浄動作の制御処理を終了し、塗抹標本作製装置100の各部の電源供給を停止させてシャットダウンする。
【0180】
(洗浄動作の提案処理)
次に、
図23を参照して、塗抹標本作製装置100の状態に関する情報に基づいて制御部40が洗浄動作の実行を提案する提案処理について説明する。提案処理は、シャットダウン時以外の、塗抹標本作製装置100の稼働中に行われうる。
【0181】
ステップS71において、制御部40は、塗抹標本作製装置100の状態に関する情報70(
図12参照)を取得する。ステップS72において、制御部40は、取得した情報70が、洗浄動作の実行を提案するための提案条件に該当したか否かを判断する。
【0182】
具体的には、制御部40は、染色槽20内の液体の排出機能に関する情報72(
図12参照)を取得する。制御部40は、塗抹標本作製装置100の稼働中、槽22、23、25、26のいずれかにおける染色液91の交換時に、染色液91の排出に要する時間を取得する。制御部40は、たとえば槽22の場合、バルブ825を開いて染色液91の排出を開始してから、廃液チャンバ880のフロートスイッチ881がオンになるまでの排出時間を取得する。制御部40は、排出時間が閾値を超えた場合に、洗浄動作の提案条件に該当したと判断する。
【0183】
また、制御部40は、塗抹標本作製装置100の連続稼働時間に関する情報73(
図12参照)を取得する。制御部40は、計時機能により、塗抹標本作製装置100を起動してから現時点までの連続稼働時間を取得する。制御部40は、連続稼働時間が閾値を超えた場合に、洗浄動作の提案条件に該当したと判断する。
【0184】
また、制御部40は、塗抹標本作製装置100により染色された塗抹標本スライド12の観察結果に関する情報74(
図12参照)を取得する。すなわち、制御部40は、通信部43により、制御装置320から、標本画像撮像装置310において検出されたアーチファクトの数の情報を取得する。制御部40は、アーチファクトの数が閾値を超えた場合に、洗浄動作の提案条件に該当したと判断する。
【0185】
制御部40は、取得した情報が提案条件に該当しない場合、ステップS71に戻り、情報取得および提案条件に該当したか否かの判断を繰り返す。制御部40は、取得した情報が提案条件に該当したと判断した場合、ステップS73に進む。
【0186】
ステップS73において、制御部40は、取得した情報に基づいて洗浄条件を設定する。すなわち、制御部40は、提案条件に該当したことに基づき、洗浄効果の高い第2洗浄動作に対応する第2洗浄条件を設定する。
【0187】
ステップS74において、制御部40は、操作画面62を表示部50に表示させる。表示される操作画面62では、
図14、
図15に示したように、予め第2洗浄動作に対応する第2洗浄条件である強化洗浄のチェックボックス62bがオンの状態となる。操作画面62により、制御部40は、設定した洗浄条件に対応する洗浄動作を提示する。また、制御部40は、提案条件に該当すると判断した情報の内容に応じて、推奨される洗浄動作に対応する条件に関する情報を情報表示欄62cに表示させる。
【0188】
ステップS75~ステップS78は、
図21に示したシャットダウン処理におけるステップS63~S66と同様であるので、詳細な説明を省略する。ユーザがボタン62aにより洗浄動作の実行指示を入力すれば、洗浄動作が開始される。なお、制御部40の提案にユーザが同意しない場合、実行指示を入力せずに操作画面62を消去させること、または、提案された洗浄動作以外の洗浄動作に変更して洗浄動作を実行させることが可能である。
図23の例では、操作画面62を表示部50に表示させ、ユーザによる洗浄条件に対応する洗浄動作の実行指示を受け付けているが、操作画面62を表示させることなく、自動的に洗浄条件に対応する洗浄動作を開始してもよい。
【0189】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0190】
たとえば、上記実施形態では、
図5に示す受付画面60の濃度入力欄60aで、希釈洗浄液の濃度の値を入力可能に構成した例を示したが、これに代えて、濃度入力欄60aで、洗浄液81の原液の吐出回数Nの値を入力可能に構成してもよい。これにより、希釈洗浄液において含有される洗浄液81の原液(メタノール)の量を直接指定できるので、洗浄動作における洗浄能力をより具体的に設定できる。
【0191】
塗抹標本作製装置100をユーザが使用する場合のユーザモードと、塗抹標本作製装置100のメンテナンス時にサービスマンが利用するサービスモードとで、受付画面60による設定内容を異ならせても良い。たとえば、ユーザモードの場合には、濃度入力欄60aで希釈洗浄液の濃度の値(%)を入力可能とし、サービスモードでは、濃度入力欄60aで洗浄液81の原液の吐出回数Nの値を入力可能とする。つまり、専門知識を有するサービスマンが使用するサービスモードでは、ユーザモードよりも詳細な洗浄動作の内容を設定可能としてもよい。なお、
図4に示した実施形態では、第1洗浄動作を固定し、第2洗浄動作を可変としているが、第1洗浄動作を第2洗浄動作に書換えて単一の洗浄動作としてもよい。
【0192】
染色槽20の洗浄動作は、シャットダウン処理時以外に、塗抹標本作製装置100の稼働中にも実施可能である。装置稼働中の染色槽20の洗浄動作としては、例えば、染色液入替処理の動作において実施することができる。
【0193】
(染色液入替処理)
染色液入替処理は、染色槽20に溜められている染色液91を廃棄し、新しい染色液91をその染色槽20に供給し溜める処理である。染色液入替処理における、洗浄動作を実行する工程は、染色槽20から染色液91を排出する工程、染色槽20に洗浄液81を供給する工程、染色槽20から洗浄液81を排出する工程、および染色槽20に染色液91を供給する工程、を含む。これにより、染色液入替時に、染色槽20に対して洗浄液81による洗浄が行われるので、より清浄な染色槽20に染色液91を供給することができる。
【0194】
図24、
図25を参照して、塗抹標本作製装置100の染色液入替処理について説明する。染色液入替処理は、染色液91を入れ替える際に染色槽20の洗浄動作を実施する第1の染色液入替処理(
図24参照)と、染色槽20の洗浄動作を実施することなく染色液91を入れ替える第2の染色液入替処理(
図25参照)と、を含みうる。
【0195】
第1の染色液入替処理(洗浄あり)は、上記の染色液入替処理における洗浄動作を実行する工程を実施する処理である。すなわち、
図24に示すように、第1の染色液入替処理は、ステップS101~S105を含みうる。制御部40は、染色槽20から染色液91を排出する工程(ステップS101)、染色槽20に洗浄液81を供給する工程(ステップS102)、染色槽20から洗浄液81を排出する工程(ステップS104)、および染色槽20に染色液91を供給する工程(ステップS105)、を行うことにより染色槽20内の染色液91を入れ替えるように流体回路部30を制御する。
【0196】
なお、
図24は、浸漬洗浄を行う洗浄動作の例を示す。ステップS103において、所定の保持時間の間、洗浄液81を溜めたままにする漬け置き洗浄を行う。制御部40は、保持時間の経過をカウントする。洗浄動作の内容によっては、ステップS103は省略または別ステップに変更しうる。
【0197】
図25に示すように、第2の染色液入替処理(洗浄なし)は、染色槽20に洗浄液81を供給することなく染色液91の入替を行う処理である。第2の染色液入替処理では、制御部40は、染色槽20から染色液91を排出する工程(ステップS101)と、染色槽20に洗浄液81を供給することなく染色槽20に染色液91を供給する工程(ステップS105)とを実施する。第2の染色液入替処理は、
図24におけるステップS102の染色槽20への洗浄液81の供給、ステップS103の洗浄液81による漬け置き洗浄、および、ステップS104の洗浄液81を排出の、各ステップを含まない。染色槽20内の汚れの一部は、新しい染色液91への入替に伴ってリセットされるため、第2の染色液入替処理でも、染色槽20への汚れの堆積に対して、一定の抑止効果が得られる。
【0198】
塗抹標本作製装置100の稼働中に染色液入替処理として染色槽20の洗浄処理を実行することにより、装置のシャットダウンを伴うことなく、染色槽20の洗浄処理を行える。つまり、シャットダウン処理を行う場合に付随する、装置の初期化、再起動、セルフチェックなどの対象とする染色槽20の洗浄処理に直接関係のない処理を省略することができ、より短時間で染色槽20の洗浄処理を行える。また、シャットダウン処理と異なり、染色液入替処理では電源OFFされないので、染色液入替処理の完了後に速やかに塗抹標本作製動作を再開することができる。
【0199】
塗抹標本作製装置100を長時間連続稼働させる場合などには、条件設定に基づいて自動的に染色液入替処理が実行されることが好ましい。染色槽20内の汚れの堆積や固形成分の析出を防止する観点からは、さらに、染色液入替処理に伴って洗浄液81による洗浄処理も実行されることが好ましい。
【0200】
一例では、第1の染色液入替処理と、第2の染色液入替処理とが、選択可能に実行される。これにより、洗浄液81による洗浄を伴う第1の染色液入替処理と、染色槽20に対して洗浄液81による洗浄を伴わない第2の染色液入替処理と、が選択可能となる。そのため、染色液入替時に、塗抹標本作製装置100の状況に応じてより適切な処理が行える。選択は、ユーザの設定入力に基づいて行われる。選択は、塗抹標本作製装置100の状況に応じて制御部40が行ってもよい。他の例では、第1の染色液入替処理と、第2の染色液入替処理とのいずれを実行するかが、各槽に収容される液体の種類等に応じて選択不可能なように予め設定されていてもよい。
【0201】
〈染色液入替処理に対する設定入力画面〉
図26は、染色液入替処理に対する設定入力画面400を示す。
図26の例では、制御部40は、設定入力画面400に、洗浄液81による洗浄処理に関する設定値を変更可能に表示する処理と、洗浄処理に関する設定値に応じた染色液入替処理とを実行するように構成されている。これにより、染色液入替時に、設定に応じた適切な洗浄処理が可能となる。
【0202】
設定入力画面400は、入替処理の対象となる液体の選択を受け付ける液体選択部401を含む。
図26では、液体選択部401はタブ表示されており、ユーザがいずれか1つのタブを選択入力することにより、選択された液体の入替処理の設定ができる。入替可能な液は、
図26の例では、メタノール、第1染色液の原液、第1染色液の希釈染色液、第2染色液の希釈染色液を含む。
図19に示したように、メタノールは槽21に供給され、第1染色液の原液は槽22に供給され、第1染色液の希釈染色液は槽23に供給され、第2染色液の希釈染色液は槽25、または槽25および槽26の両方に供給される。
【0203】
設定入力画面400は、入替可能な液ごとに、次に示す設定が個別に可能となっている。
【0204】
「入替タイミング条件」:染色液入替処理の実行条件を示す。プルダウンボックス型の条件表示欄402の操作ボタン403を押すことで「経過時間(HH:mm)」「指定時刻(HH:mm)」「液入替なし」を選択することができる。選択された入替タイミング条件の値は、値表示欄404の「+」「-」の操作ボタン405を操作し設定することができる。
【0205】
経過時間は直近の開始時刻からの経過時間である。設定可能な値は、時間長さ(たとえば、X時間Y分)である。開始時刻は、装置起動完了時、あるいは装置起動後であれば染色液入替処理の完了時である。
【0206】
指定時刻は、1日のうちの設定した時刻である。設定可能な値は、時刻(たとえば、時刻X時Y分)である。
【0207】
液入替なしは、自動的な染色液入替処理を行わない設定を意味する。
【0208】
「洗浄有り」:洗浄液81による洗浄の有無をチェックボックス406のオンオフにより設定することができる。使用される洗浄液81は、例えば、
図4に示した第1洗浄条件による洗浄液81とすることができる。
【0209】
なお、チェックボックス406については、
図4に示したように、洗浄効果の異なる複数の洗浄動作に対応して複数の選択肢を設定入力画面400に提示してもよい。例えば「洗浄有り」のチェックボックス406と「強化洗浄有り」のチェックボックス62b(
図9、
図10参照)の両方を設定入力画面400に表示するようにし、第1洗浄条件である通常洗浄と、第2洗浄条件である強化洗浄とのいずれかを選択できるようにしてもよい。これにより、塗抹標本作製装置100の使用状況に応じて染色槽20に対して適切な洗浄処理を実行できる。
【0210】
設定入力画面400において設定された情報は、OKボタン407が入力されると記憶部41に記憶される。
【0211】
なお、シャットダウン時(
図21参照)には全ての槽21~27(
図19参照)について洗浄動作が行われる。これに対して、染色液入替処理は一部の槽に対して洗浄動作が行われる。検体洗浄液(緩衝液)の槽24と、RO水(純水)の槽27とは、塗抹標本スライド12の染色の際に定期的(たとえば1枚の染色ごと)に液体が交換されるので、この例では染色液入替処理の対象外としている。また、槽21には染色液91は混入しないことから、槽21のメタノールも、染色液入替処理の対象から外すことも可能である。
【0212】
槽に収容される液体の成分によって、汚れ易さが相違する。そのため、一例では、第1の染色液入替処理が選択された場合、選択に応じて、複数の槽のうち、所定の液体を収容する槽について第1の染色液入替処理が実行される。制御部40は、選択に応じて、複数の槽のうち、所定の液体を収容する槽について、第1の染色液入替処理を実行する。これにより、たとえば析出物が生じ易い特定の染色液91を収容する槽について、染色液入替時に槽の洗浄を行えるので、染色槽20への汚れの付着を効果的に抑制できる。
【0213】
たとえば、所定の液体は、リン酸緩衝液(リン酸バッファ)を含む希釈染色液である。リン酸緩衝液により希釈された希釈染色液は、貯留時間の経過に伴って、リン酸塩の析出物が生じ易い。このため、リン酸緩衝液を含む希釈染色液を収容する槽について染色液入替時に洗浄を行うことによって、汚れやすい槽の析出物を効果的に除去できる。
【0214】
図19に示した例では、リン酸バッファにより希釈された第1染色液の希釈染色液が槽23に収容され、リン酸バッファにより希釈された第2染色液の希釈染色液が槽25、槽26の両方に収容される。そのため、第1の染色液入替処理が選択された場合、少なくとも槽23、槽25、槽26について、槽の洗浄動作が行われることが好ましい。
図26の例では、チェックボックス406が有効の場合では、所定の液体を収容する槽23、槽25、槽26のみならず、槽21および槽22についても洗浄動作が行われる。つまり、
図26の例では、チェックボックス406が有効の場合、染色液入替処理の対象となる槽全てについて、洗浄動作が行われる。メタノールを収容する槽21や、リン酸バッファにより希釈されない第1染色液の原液を収容する槽22については、相対的に析出物が発生しにくいので、チェックボックス406が有効の場合でも、第2の染色液入替処理が行われるようにしてもよい。
【0215】
他の例として、複数の槽について、第1の染色液入替処理または第2の染色液入替処理を個別に選択して実行するようにしてもよい。この場合、制御部40は、複数の槽について、第1の染色液入替処理または第2の染色液入替処理を個別に選択可能に構成される。これにより、析出物を生じ易さなどの染色液91の性質に応じて、染色液91を収容する槽ごとに染色液入替時の洗浄を行うか否かを選択できる。たとえば、
図26において、液体選択部401においてタブ表示された4つの液体の各々について、チェックボックス406の有効無効を個別に設定可能であってもよい。
【0216】
〈染色液入替時の制御処理〉
図27を参照して、設定入力画面400において設定された情報に基づき実行される染色液入替時の制御処理について説明する。
【0217】
図27のステップS111において、制御部40は、設定された染色液入替処理に関する情報を記憶部41から取得する。染色液入替処理に関する情報は、設定入力画面400に設定された入替タイミング条件の設定およびチェックボックス406の有効無効の設定である。
【0218】
ステップS112において、制御部40は、設定された入替タイミング条件に基づき、染色液入替処理の入替タイミング条件を満たしたか否かを判定する。入替タイミング条件を満たしていない場合、制御部40は、入替タイミング条件を満たすまで、ステップS112の判定を繰り返す。入替タイミング条件を満たした場合、制御部40は、ステップS113に処理を進める。
【0219】
ステップS113において、制御部40は、塗抹標本作製装置100の状態がスタンバイ状態であるか否かを判定する。染色液入替処理は塗抹標本作製装置100が少なくとも染色槽20を用いた処理を実行していないときに実施されるため、塗抹標本作製装置100の状態がスタンバイ状態でない場合、制御部40は、塗抹標本作製装置100の状態がスタンバイ状態になるまで、ステップS113の判定を繰り返す。塗抹標本作製装置100の状態がスタンバイ状態である場合、制御部40は、ステップS114に処理を進める。
【0220】
スタンバイ状態とは、塗抹標本作製装置100の動作準備が完了しており、かつ、塗抹標本作製装置100で処理動作が行われていない指示待ち状態にあることをいい、レディ(ready)状態と言い換えてもよい。具体的には、スタンバイ状態は、検体吸引、塗抹、染色、収納に至る塗抹標本作製処理と、染色液入替処理と、シャットダウン処理とがいずれも行われていない待機状態にあることをいう。制御部40は、スタンバイ状態でない場合は染色液入替処理を実行しない。これにより、実行中の処理に対してはそれを中断することなく処理完了させたのちに、染色液入替処理を開始することができる。
【0221】
ステップS114において、制御部40は、塗抹標本作製装置100の状態を、スタンバイ状態から染色液入替処理状態に移行する。染色液入替処理状態に移行すると、制御部40は、塗抹標本作製装置100による新規の検体に対する吸引処理や、スライド設置部170に設置した検体塗抹済みのスライドガラス11に対する染色処理などを受け付けても、実行待ちの状態とし、染色液入替処理状態が解除されるまで実行しない。その場合、検体は検体搬送部210で待機し、スライド設置部170のスライドガラス11はそのままスライド設置部170で待機する。
【0222】
ステップS115において、制御部40は、設定入力画面400において設定された情報に基づき洗浄条件に関する情報を判定する。具体的には、設定入力画面400の「洗浄有り」のチェックボックス406の有効無効を判定し、判定された洗浄条件に応じてステップS116またはステップS117の染色液入替動処理を実行する。
【0223】
「洗浄有り」のチェックボックス406が無効(すなわち、チェックが入っていない)場合、制御部40は、ステップS116において、洗浄処理を伴わない第2の染色液入替処理を実行する。すなわち、
図25に示したステップS101およびS105が実行される。
【0224】
「洗浄有り」のチェックボックス406が有効(すなわち、チェックが入っている)場合、洗浄液81による洗浄処理を伴う染色液入替処理を実行する。制御部40は、ステップS117において、洗浄処理を伴う第1の染色液入替処理を実行する。すなわち、
図24に示したステップS101~S105が実行される。洗浄液81による洗浄処理としては、前述の第1洗浄条件(
図4参照)として設定された洗浄液81による洗浄処理が実行される。
【0225】
図4に示したように、設定可能な洗浄条件が複数である場合には、設定された条件に応じた染色液入替処理が実行される。例えば、「洗浄なし」「洗浄あり」「強化洗浄あり」の3つの選択が可能である。この場合、選択に応じて「洗浄なしの第2の染色液入替処理」「第1洗浄条件による第1の染色液入替処理(洗浄あり)」「第2洗浄条件による第1の染色液入替処理(強化洗浄あり)」のいずれかが実行される。
【0226】
第1の染色液入替処理において入替の対象となる液体と、使用される洗浄液81とについて、槽毎に説明する。
槽21:入替対象液はメタノールであり、使用される洗浄液81は洗浄液(メタノール)の原液である。
槽22:入替対象液は第1染色液の原液であり、使用される洗浄液81は洗浄液(メタノール)の原液である。
槽23:入替対象液は第1染色液の希釈染色液であり、使用される洗浄液81は洗浄液(メタノール)の原液を希釈した希釈洗浄液である。
槽25、槽26:入替対象液は第2染色液の希釈染色液であり、使用される洗浄液81は洗浄液(メタノール)の原液を希釈した希釈洗浄液である。
なお、希釈洗浄液の濃度は、
図4に示した洗浄条件の設定値に基づく。
【0227】
ステップS116またはステップS117において染色液入替処理が完了すると、制御部40は、ステップS118において、制御部40は、塗抹標本作製装置100の状態を、染色液入替処理状態から解除する。これにより、塗抹標本作製処理などが実行可能となる。制御部40は、処理オーダーが存在する場合にはオーダーに従って処理を実行し、処理オーダーが存在しない場合にはスタンバイ状態に移行する。このようにして、染色液入替処理が行われる。
【0228】
なお、
図27のフローでは、染色液入替タイミング条件を満たし、かつ、スタンバイ状態の場合に、染色液入替処理を実施する例を示した。そのため、染色液入替タイミング条件を満たしても、たとえば塗抹標本作製処理のオーダーが存在する間、オーダーがなくなるまで塗抹標本作製処理が行われ、スタンバイ状態に遷移したタイミングで染色液入替処理が行われる。これに代えて、染色液入替タイミング条件を満たした場合に、スタンバイ状態でなくても染色液入替処理を実行するようにしてもよい。この場合、未実行の他の処理に優先して行う割り込み処理の形式で、染色液入替処理が行われる。染色液入替処理が完了した後、待機させていた未実行の他の処理が実行される。
【0229】
また、塗抹標本作製装置100で実行される他の処理に並行して、染色液入替処理および洗浄動作が行われてもよい。染色液入替処理は、少なくとも染色槽20が使用されない状況下で、行うことができる。そのため、たとえば塗抹標本作製装置100が、印字部130による印字処理および塗抹部140による塗抹処理のみ行う塗抹モード、または印字処理のみ行う印字モード、で動作している間に、染色液入替処理が行われてもよい。言い換えると、塗抹標本作製装置100の状態が、染色液入替処理状態に移行しているステップS114~S118の間に、印字処理および塗抹処理の少なくとも一方の処理を実行するようにしてもよい。
【0230】
(他の塗抹標本作製装置)
以上の説明では、塗抹標本作製装置100として、
図18に示したように、塗抹済みのスライドガラス11を染色液91が溜められた染色槽20に1枚ずつ出し入れするタイプの装置について説明したが、本発明はこれに限られない。たとえば、
図28に示したような、複数の塗抹済みのスライドガラスをラックまたはバスケットに収納し、そのラックまたはバスケットを、染色液が溜められた染色槽に順次出し入れすることにより標本作製するタイプの装置に本発明を適用してもよい。
【0231】
また、
図18および
図19の例では、染色槽20の各槽への液の供給および各槽からの液の排出は、槽ごとに槽の壁面または底面に設けられた液流入用ポートおよび液流出用ポートを介して行うことができる。この他、各槽への液の供給および各槽からの液の排出は、たとえば、槽ごとに設けられ、槽の開口部から槽の底面に向けて配置された液流入パイプおよび液流出パイプを介して行ってもよい。
【符号の説明】
【0232】
11:スライドガラス、12:塗抹標本スライド、20:染色槽、21~27:槽、30:流体回路部、40:制御部、50:表示部、51:入力部、60:受付画面、62:操作画面、70:塗抹標本作製装置の状態に関する情報、71:塗抹標本作製装置の稼働予定に関する情報、72:染色槽内の液体の排出機能に関する情報、73:塗抹標本作製装置の連続稼働時間に関する情報、74:塗抹標本作製装置により染色された塗抹標本スライドの観察結果に関する情報、81:洗浄液、90:検体、91:染色液、100:塗抹標本作製装置、400:設定入力画面、810:チャンバ、830:チャンバ、860:希釈チャンバ、870:希釈チャンバ