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特許7408450発電システム並びにその制御装置、制御方法、及び制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】発電システム並びにその制御装置、制御方法、及び制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04701 20160101AFI20231225BHJP
   H01M 8/0432 20160101ALI20231225BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20231225BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20231225BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20231225BHJP
【FI】
H01M8/04701
H01M8/0432
H01M8/04746
H01M8/04858
H01M8/12 101
H01M8/12 102B
H01M8/12 102C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020051198
(22)【出願日】2020-03-23
(65)【公開番号】P2021150241
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】岩井 康
(72)【発明者】
【氏名】眞竹 徳久
【審査官】藤森 一真
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-116199(JP,A)
【文献】特開2015-133205(JP,A)
【文献】特開2018-137092(JP,A)
【文献】特開2016-091968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04 - 8/0668
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセルスタックが収容された複数の燃料電池カートリッジを有する燃料電池と、少なくとも一つの前記燃料電池カートリッジを有する複数のカートリッジ群毎に設けられ、対応する前記カートリッジ群の電流を制御する電力変換装置とを備える発電システムの制御装置であって、
各前記カートリッジ群における少なくとも一つの前記セルスタックの所定位置における温度計測値繰り返し取得する情報取得部と、
前記情報取得部によって取得された前記温度計測値の中から最大温度を特定し、特定した最大温度が前記セルスタックの許容上限値となるように、前記燃料電池に供給する酸化性ガスの供給量を制御する酸化性ガス量制御部と、
前記酸化性ガスの供給量が制御された後に前記情報取得部によって取得された前記温度計測値に基づいて、前記カートリッジ群間における前記温度計測値のばらつきが所定の範囲内となるように各前記カートリッジ群の目標値を設定し、前記目標値に近づくように各前記電力変換装置を制御し、前記カートリッジ群毎に供給する電流を制御する電流制御部と、
を具備する発電システムの制御装置。
【請求項2】
前記情報取得部は、前記セルスタックの中央領域における温度計測値を取得する請求項に記載の発電システムの制御装置。
【請求項3】
前記電流制御部は、前記セルスタックの許容上限値を前記目標値として設定する請求項1又は2に記載の発電システムの制御装置。
【請求項4】
複数のセルスタックが収容された複数の燃料電池カートリッジを有する燃料電池と、
少なくとも一つの前記燃料電池カートリッジを有する複数のカートリッジ群毎に設けられ、対応する前記カートリッジ群の電流を制御するための電力変換装置と、
前記燃料電池に燃料ガスを供給する燃料ガス供給ラインと、
前記燃料電池に酸化性ガスを供給する酸化性ガス供給ラインと、
請求項1からのいずれかに記載の制御装置と、
を備える発電システム。
【請求項5】
複数のセルスタックが収容された複数の燃料電池カートリッジを有する燃料電池と、少なくとも一つの前記燃料電池カートリッジを有する複数のカートリッジ群毎に設けられ、対応する前記カートリッジ群の電流を制御する電力変換装置と、を備える発電システムの制御方法であって、
各前記カートリッジ群における少なくとも一つの前記セルスタックの所定位置における温度計測値繰り返し取得する情報取得工程と、
前記情報取得工程によって取得された前記温度計測値の中から最大温度を特定し、特定した最大温度が前記セルスタックの許容上限値となるように、前記燃料電池に供給する酸化性ガスの供給量を制御する酸化性ガス量制御工程と、
前記酸化性ガスの供給量が制御された後に前記情報取得工程によって取得された前記温度計測値に基づいて、前記カートリッジ群間における前記温度計測値のばらつきが所定の範囲内となるように各前記カートリッジ群の目標値を設定し、前記目標値に近づくように各前記電力変換装置を制御し、前記カートリッジ群毎に供給する電流を制御する電流制御工程と、
を有する発電システムの制御方法。
【請求項6】
コンピュータを請求項1からのいずれかに記載の制御装置として機能させるための発電システムの制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発電システム並びにその制御装置、制御方法、及び制御プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料ガスと酸化性ガスとを化学反応させることにより発電する燃料電池は、優れた発電効率及び環境対応等の特性を有している。このうち、固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)は、電解質としてジルコニアセラミックスなどのセラミックスが用いられ、水素、都市ガス、天然ガス、石油、メタノール、及び炭素含有原料をガス化設備により製造したガス化ガス等を燃料ガスとして供給して、およそ700℃~1000℃の高温雰囲気で反応させて発電を行っている。
【0003】
SOFCにおいて、酸化性ガスと燃料ガスとの反応による発電量は温度依存特性を有しているため、発電量は温度低下に従って低下する。したがって、SOFCにおける温度制御は、重要な制御ポイントの一つとなる。
【0004】
例えば、特許文献1には、発電部における燃料ガス流れ方向の温度分布状態を適切な範囲に制御する温度分布制御システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2019/163421号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
円筒型SOFCの多くは、長尺構造のセルスタックを多数本束ねたカートリッジの単位で発電を行っている。近年、SOFCの出力は高出力化しており、このため、各セルスタックに供給する燃料流量を増加させる必要がある。
【0007】
ここで、セルスタックの長軸方向における温度分布は、図9に示すように中央部付近の温度が最も高くなり、端部に向かうほど温度が低くなる弓型の温度分布となる。このような温度分布において、各セルスタックに供給する燃料流量が増加すると、燃料ガスの供給口付近の温度(図9における上部の温度)が低下し、カートリッジ内におけるセルスタック間の抵抗のばらつきが大きくなる。この抵抗のばらつきは電流値のばらつきを引き起こすため、カートリッジ内におけるセルスタック間の温度分布のばらつきが拡大することとなる。
【0008】
また、複数のカートリッジを搭載するSOFCは、カートリッジの個体差により温度分布のばらつきがある。そして、上記のようなカートリッジ内における温度分布のばらつきが生じると、カートリッジ間の温度分布のばらつきは更に大きなものとなる。このようなカートリッジ間の温度分布のばらつきは、SOFCの出力低下を引き起こす原因となる。
【0009】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、SOFCの出力増加を図ることのできる発電システム並びにその制御装置、制御方法、及び制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一態様に係る発電システムの制御装置は、複数のセルスタックが収容された複数の燃料電池カートリッジを有する燃料電池と、少なくとも一つの前記燃料電池カートリッジを有する複数のカートリッジ群毎に設けられ、対応する前記カートリッジ群の電流を制御する電力変換装置とを備える発電システムの制御装置であって、各前記カートリッジ群における少なくとも一つの前記セルスタックの所定位置における温度計測値繰り返し取得する情報取得部と、前記情報取得部によって取得された前記温度計測値の中から最大温度を特定し、特定した最大温度が前記セルスタックの許容上限値となるように、前記燃料電池に供給する酸化性ガスの供給量を制御する酸化性ガス量制御部と、前記酸化性ガスの供給量が制御された後に前記情報取得部によって取得された前記温度計測値に基づいて、前記カートリッジ群間における前記温度計測値のばらつきが所定の範囲内となるように各前記カートリッジ群の目標値を設定し、前記目標値に近づくように各前記電力変換装置を制御し、前記カートリッジ群毎に供給する電流を制御する電流制御部と、を具備する。
【0011】
本開示の一態様に係る発電システムは、複数のセルスタックが収容された複数の燃料電池カートリッジを有する燃料電池と、少なくとも一つの前記燃料電池カートリッジを有する複数のカートリッジ群毎に設けられ、対応する前記カートリッジ群の電流を制御するための電力変換装置と、前記燃料電池に燃料ガスを供給する燃料ガス供給ラインと、前記燃料電池に酸化性ガスを供給する酸化性ガス供給ラインと、上記制御装置と、を備える。
【0012】
本開示の一態様に係る発電システムの制御方法は、複数のセルスタックが収容された複数の燃料電池カートリッジを有する燃料電池と、少なくとも一つの前記燃料電池カートリッジを有する複数のカートリッジ群毎に設けられ、対応する前記カートリッジ群の電流を制御する電力変換装置と、を備える発電システムの制御方法であって、各前記カートリッジ群における少なくとも一つの前記セルスタックの所定位置における温度計測値繰り返し取得する情報取得工程と、前記情報取得工程によって取得された前記温度計測値の中から最大温度を特定し、特定した最大温度が前記セルスタックの許容上限値となるように、前記燃料電池に供給する酸化性ガスの供給量を制御する酸化性ガス量制御工程と、前記酸化性ガスの供給量が制御された後に前記情報取得工程によって取得された前記温度計測値に基づいて、前記カートリッジ群間における前記温度計測値のばらつきが所定の範囲内となるように各前記カートリッジ群の目標値を設定し、前記目標値に近づくように各前記電力変換装置を制御し、前記カートリッジ群毎に供給する電流を制御する電流制御工程と、を有する。
【0013】
本開示の一態様に係る発電システムの制御プログラムは、コンピュータを上記制御装置として機能させるための発電システムの制御プログラムである。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、SOFCの出力増加を図ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の一実施形態に係るセルスタックの一態様を示すものである。
図2】本開示の一実施形態に係るSOFCモジュールの一態様を示すものである。
図3】本開示の一実施形態に係るSOFCカートリッジの縦断面の一態様を示すものである。
図4】本開示の一実施形態に係るSOFCの電気系統を簡略化して示した図である。
図5】本開示の一実施形態に係る発電システムの配管系統の一例を示した図である。
図6】本開示の一実施形態に係る発電システムの制御装置が備える機能の一例を示した機能ブロック図である。
図7】本開示の一実施形態に係るSOFCカートリッジの電流制御について説明するための図である。
図8】本開示の一実施形態に係る発電システムの制御方法の手順の一例を示した図である。
図9】セルスタックの長手方向における温度分布の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本開示の一実施形態に係る発電システム並びにその制御装置、制御方法、及び制御プログラムについて、図面を参照して説明する。
【0017】
以下においては、説明の便宜上、紙面を基準として「上」及び「下」の表現を用いて説明した各構成要素の位置関係は、各々鉛直上方側、鉛直下方側を示すものである。また、本実施形態では、上下方向と水平方向で同様な効果を得られるものは、紙面における上下方向が必ずしも鉛直上下方向に限定することなく、例えば鉛直方向に直交する水平方向に対応してもよい。また、以下においては、固体酸化物形燃料電池(SOFC)のセルスタックとして円筒形(筒状)を例として説明するが、必ずしもこの限りである必要はなく、例えば平板形のセルスタックであってもよい。基体上に燃料電池セルを形成するが、基体ではなく電極(燃料極もしくは空気極)が厚く形成されて、基体を兼用したものでも良い。
【0018】
まず、図1を参照して本実施形態に係る一例として、基体管を用いる円筒形セルスタックについて説明する。基体管を用いない場合は、例えば燃料極を厚く形成して基体管を兼用してもよく、基体管の使用に限定されることはない。また、本実施形態での基体管は円筒形状を用いたもので説明するが、基体管は筒状であればよく、必ずしも断面が円形に限定されなく、例えば楕円形状でもよい。円筒の周側面を垂直に押し潰した扁平円筒(Flat tubular)等のセルスタックでもよい。ここで、図1は、実施形態に係るセルスタックの一態様を示すものである。セルスタック101は、一例として円筒形状の基体管103と、基体管103の外周面に複数形成された燃料電池セル105と、隣り合う燃料電池セル105の間に形成されたインターコネクタ107とを備える。燃料電池セル105は、燃料極109と固体電解質膜111と空気極113とが積層して形成されている。また、セルスタック101は、基体管103の外周面に形成された複数の燃料電池セル105の内、基体管103の軸方向において最も端の一端に形成された燃料電池セル105の空気極113に、インターコネクタ107を介して電気的に接続されたリード膜115を備え、最も端の他端に形成された燃料電池セル105の燃料極109に電気的に接続されたリード膜115を備える。
【0019】
次に、図2図3とを参照して本実施形態に係るSOFCモジュール及びSOFCカートリッジについて説明する。ここで、図2は、本実施形態に係るSOFCモジュールの一態様を示すものである。また、図3は、本実施形態に係るSOFCカートリッジの一態様の縦断面図を示すものである。
【0020】
SOFCモジュール(燃料電池モジュール)201は、図2に示すように、例えば、複数のSOFCカートリッジ(燃料電池カートリッジ)203と、これら複数のSOFCカートリッジ203を収納する圧力容器205とを備える。なお、図2には円筒形のセルスタック101を例示しているが、必ずしもこの限りである必要はなく、例えば平板形のセルスタックであってもよい。また、SOFCモジュール201は、燃料ガス供給管207と複数の燃料ガス供給枝管207a及び燃料ガス排出管209と複数の燃料ガス排出枝管209aとを備える。また、SOFCモジュール201は、酸化性ガス供給管(不図示)と酸化性ガス供給枝管(不図示)及び酸化性ガス排出管(不図示)と複数の酸化性ガス排出枝管(不図示)とを備える。
【0021】
燃料ガス供給管207は、圧力容器205の外部に設けられ、SOFCモジュール201の発電量に対応して所定ガス組成と所定流量の燃料ガスを供給する燃料ガス供給部に接続されると共に、複数の燃料ガス供給枝管207aに接続されている。この燃料ガス供給管207は、上述の燃料ガス供給部から供給される所定流量の燃料ガスを、複数の燃料ガス供給枝管207aに分岐して導くものである。また、燃料ガス供給枝管207aは、燃料ガス供給管207に接続されると共に、複数のSOFCカートリッジ203に接続されている。この燃料ガス供給枝管207aは、燃料ガス供給管207から供給される燃料ガスを複数のSOFCカートリッジ203に略均等の流量で導き、複数のSOFCカートリッジ203の発電性能を略均一化させるものである。
【0022】
燃料ガス排出枝管209aは、複数のSOFCカートリッジ203に接続されると共に、燃料ガス排出管209に接続されている。この燃料ガス排出枝管209aは、SOFCカートリッジ203から排出される排燃料ガスを燃料ガス排出管209に導くものである。また、燃料ガス排出管209は、複数の燃料ガス排出枝管209aに接続されると共に、一部が圧力容器205の外部に配置されている。この燃料ガス排出管209は、燃料ガス排出枝管209aから略均等の流量で導出される排燃料ガスを圧力容器205の外部に導くものである。
【0023】
圧力容器205は、内部の圧力が0.1MPa~約3MPa、内部の温度が大気温度~約550℃で運用されるので、耐力性と酸化性ガス中に含まれる酸素などの酸化剤に対する耐食性を保有する材質が利用される。例えばSUS304などのステンレス系材が好適である。
【0024】
ここで、本実施形態においては、複数のSOFCカートリッジ203が集合化されて圧力容器205に収納される態様について説明しているが、これに限られず例えば、SOFCカートリッジ203が集合化されずに圧力容器205内に収納される態様とすることもできる。
【0025】
SOFCカートリッジ203は、例えば、図3に示す通り、複数のセルスタック101と、発電室215と、燃料ガス供給ヘッダ217と、燃料ガス排出ヘッダ219と、酸化性ガス(空気)供給ヘッダ221と、酸化性ガス排出ヘッダ223とを備える。また、SOFCカートリッジ203は、上部管板225aと、下部管板225bと、上部断熱体227aと、下部断熱体227bとを備える。なお、本実施形態においては、SOFCカートリッジ203は、燃料ガス供給ヘッダ217と燃料ガス排出ヘッダ219と酸化性ガス供給ヘッダ221と酸化性ガス排出ヘッダ223とが図3のように配置されることで、燃料ガスと酸化性ガスとがセルスタック101の内側と外側とを対向して流れる構造となっているが、必ずしもこの必要はなく、例えば、セルスタック101の内側と外側とを平行して流れる、または酸化性ガスがセルスタック101の長手方向と直交する方向へ流れるようにしても良い。
【0026】
発電室215は、上部断熱体227aと下部断熱体227bとの間に形成された領域である。この発電室215は、セルスタック101の燃料電池セル105が配置された領域であり、燃料ガスと酸化性ガスとを電気化学的に反応させて発電を行う領域である。また、この発電室215のセルスタック101長手方向の中央部付近での温度は、SOFCモジュール201の定常運転時に、およそ700℃~1000℃の高温雰囲気となる。
【0027】
燃料ガス供給ヘッダ217は、SOFCカートリッジ203の上部ケーシング229aと上部管板225aとに囲まれた領域であり、上部ケーシング229aの上部に設けられた燃料ガス供給孔231aによって、燃料ガス供給枝管207aと連通されている。また、複数のセルスタック101は、上部管板225aとシール部材237aにより接合されており、燃料ガス供給ヘッダ217は、燃料ガス供給枝管207aから燃料ガス供給孔231aを介して供給される燃料ガスを、複数のセルスタック101の基体管103の内部に略均一流量で導き、複数のセルスタック101の発電性能を略均一化させるものである。
【0028】
燃料ガス排出ヘッダ219は、SOFCカートリッジ203の下部ケーシング229bと下部管板225bとに囲まれた領域であり、下部ケーシング229bに備えられた燃料ガス排出孔231bによって、図示しない燃料ガス排出枝管209aと連通されている。また、複数のセルスタック101は、下部管板225bとシール部材237bにより接合されており、燃料ガス排出ヘッダ219は、複数のセルスタック101の基体管103の内部を通過して燃料ガス排出ヘッダ219に供給される排燃料ガスを集約して、燃料ガス排出孔231bを介して燃料ガス排出枝管209aに導くものである。
【0029】
SOFCモジュール201の発電量に対応して所定ガス組成と所定流量の酸化性ガスを酸化性ガス供給枝管へと分岐して、複数のSOFCカートリッジ203へ供給する。酸化性ガス供給ヘッダ221は、SOFCカートリッジ203の下部ケーシング229bと下部管板225bと下部断熱体227bとに囲まれた領域であり、下部ケーシング229bの側面に設けられた酸化性ガス供給孔233aによって、図示しない酸化性ガス供給枝管と連通されている。この酸化性ガス供給ヘッダ221は、図示しない酸化性ガス供給枝管から酸化性ガス供給孔233aを介して供給される所定流量の酸化性ガスを、後述する酸化性ガス供給隙間235aを介して発電室215に導くものである。
【0030】
酸化性ガス排出ヘッダ223は、SOFCカートリッジ203の上部ケーシング229aと上部管板225aと上部断熱体227aとに囲まれた領域であり、上部ケーシング229aの側面に設けられた酸化性ガス排出孔233bによって、図示しない酸化性ガス排出枝管と連通されている。この酸化性ガス排出ヘッダ223は、発電室215から、後述する酸化性ガス排出隙間235bを介して酸化性ガス排出ヘッダ223に供給される排酸化性ガスを、酸化性ガス排出孔233bを介して図示しない酸化性ガス排出枝管に導くものである。
【0031】
上部管板225aは、上部ケーシング229aの天板と上部断熱体227aとの間に、上部管板225aと上部ケーシング229aの天板と上部断熱体227aとが略平行になるように、上部ケーシング229aの側板に固定されている。また上部管板225aは、SOFCカートリッジ203に備えられるセルスタック101の本数に対応した複数の孔を有し、該孔にはセルスタック101が夫々挿入されている。この上部管板225aは、複数のセルスタック101の一方の端部をシール部材237a及び接着部材のいずれか一方又は両方を介して気密に支持すると共に、燃料ガス供給ヘッダ217と酸化性ガス排出ヘッダ223とを隔離するものである。
【0032】
上部断熱体227aは、上部ケーシング229aの下端部に、上部断熱体227aと上部ケーシング229aの天板と上部管板225aとが略平行になるように配置され、上部ケーシング229aの側板に固定されている。また、上部断熱体227aには、SOFCカートリッジ203に備えられるセルスタック101の本数に対応して、複数の孔が設けられている。この孔の直径はセルスタック101の外径よりも大きく設定されている。上部断熱体227aは、この孔の内面と、上部断熱体227aに挿通されたセルスタック101の外面との間に形成された酸化性ガス排出隙間235bを備える。
【0033】
この上部断熱体227aは、発電室215と酸化性ガス排出ヘッダ223とを仕切るものであり、上部管板225aの周囲の雰囲気が高温化し強度低下や酸化性ガス中に含まれる酸化剤による腐食が増加することを抑制する。上部管板225a等はインコネルなどの高温耐久性のある金属材料から成るが、上部管板225a等が発電室215内の高温に晒されて上部管板225a等内の温度差が大きくなることで熱変形することを防ぐものである。また、上部断熱体227aは、発電室215を通過して高温に晒された排酸化性ガスを、酸化性ガス排出隙間235bを通過させて酸化性ガス排出ヘッダ223に導くものである。
【0034】
本実施形態によれば、上述したSOFCカートリッジ203の構造により、燃料ガスと酸化性ガスとがセルスタック101の内側と外側とを対向して流れるものとなっている。これにより、排酸化性ガスは、基体管103の内部を通って発電室215に供給される燃料ガスとの間で熱交換がなされ、金属材料から成る上部管板225a等が座屈などの変形をしない温度に冷却されて酸化性ガス排出ヘッダ223に供給される。また、燃料ガスは、発電室215から排出される排酸化性ガスとの熱交換により昇温され、発電室215に供給される。その結果、ヒーター等を用いることなく発電に適した温度に予熱昇温された燃料ガスを発電室215に供給することができる。
【0035】
下部管板225bは、下部ケーシング229bの底板と下部断熱体227bとの間に、下部管板225bと下部ケーシング229bの底板と下部断熱体227bとが略平行になるように下部ケーシング229bの側板に固定されている。また下部管板225bは、SOFCカートリッジ203に備えられるセルスタック101の本数に対応した複数の孔を有し、該孔にはセルスタック101が夫々挿入されている。この下部管板225bは、複数のセルスタック101の他方の端部をシール部材237b及び接着部材のいずれか一方又は両方を介して気密に支持すると共に、燃料ガス排出ヘッダ219と酸化性ガス供給ヘッダ221とを隔離するものである。
【0036】
下部断熱体227bは、下部ケーシング229bの上端部に、下部断熱体227bと下部ケーシング229bの底板と下部管板225bとが略平行になるように配置され、下部ケーシング229bの側板に固定されている。また、下部断熱体227bには、SOFCカートリッジ203に備えられるセルスタック101の本数に対応して、複数の孔が設けられている。この孔の直径はセルスタック101の外径よりも大きく設定されている。下部断熱体227bは、この孔の内面と、下部断熱体227bに挿通されたセルスタック101の外面との間に形成された酸化性ガス供給隙間235aを備える。
【0037】
この下部断熱体227bは、発電室215と酸化性ガス供給ヘッダ221とを仕切るものであり、下部管板225bの周囲の雰囲気が高温化し強度低下や酸化性ガス中に含まれる酸化剤による腐食が増加することを抑制する。下部管板225b等はインコネルなどの高温耐久性のある金属材料から成るが、下部管板225b等が高温に晒されて下部管板225b等内の温度差が大きくなることで熱変形することを防ぐものである。また、下部断熱体227bは、酸化性ガス供給ヘッダ221に供給される酸化性ガスを、酸化性ガス供給隙間235aを通過させて発電室215に導くものである。
【0038】
本実施形態によれば、上述したSOFCカートリッジ203の構造により、燃料ガスと酸化性ガスとがセルスタック101の内側と外側とを対向して流れるものとなっている。このことにより、基体管103の内部を通って発電室215を通過した排燃料ガスは、発電室215に供給される酸化性ガスとの間で熱交換がなされ、金属材料から成る下部管板225b等が座屈などの変形をしない温度に冷却されて燃料ガス排出ヘッダ219に供給される。また、酸化性ガスは排燃料ガスとの熱交換により昇温され、発電室215に供給される。その結果、ヒーター等を用いることなく発電に必要な温度に昇温された酸化性ガスを発電室215に供給することができる。
【0039】
発電室215で発電された直流電力は、複数の燃料電池セル105に設けたリード膜115によりセルスタック101の端部付近まで導出した後に、SOFCカートリッジ203の集電棒(不図示)に集電板(不図示)を介して集電して、各SOFCカートリッジ203の外部へと取り出される。
【0040】
図4は、SOFC313の電気系統を簡略化して示した図である。図4では、SOFC313が8つのSOFCカートリッジ203(No.1~No.8)を備えている場合を一例として示している。図4に示すように、各SOFCカートリッジ203に対応して電力変換装置50が設けられている。電力変換装置50は、SOFCカートリッジ203から出力される直流電力を所定の交流電力に変換して出力する、いわゆるインバータ装置である。電力変換装置50の一例として、パワーコンディショナ(PCS)が挙げられる。なお、電力変換装置の構成については公知であるため、ここでの説明は省略する。また、電力変換装置50は、SOFCカートリッジ203に流れる電流を制御する機能を有している。
【0041】
電力変換装置50によって所定の交流電力へと変換されたSOFC313の発電電力は、所定の電力供給先(例えば、負荷設備や電力系統)へと供給される。
電力変換装置50は、後述する制御装置380(図5参照)によって制御される。
【0042】
次に、本開示の一実施形態に係る発電システムの概略構成について説明する。
図5は、本実施形態に係る発電システム310の概略構成を示した概略構成図である。図5に示すように、発電システム310は、SOFC313、熱交換器330、排熱回収装置338、起動用燃焼器351等を備えている。
【0043】
SOFC313は、上述したように、還元剤としての燃料ガスL1と、酸化剤としての空気Aとが供給されることで、所定の作動温度にて反応して発電を行う。燃料ガスL1は可燃性ガスであり、例えば、液化天然ガス(LNG)を気化させたガスあるいは天然ガス、都市ガス、水素(H)及び一酸化炭素(CO)、メタン(CH)等の炭化水素ガス、及び炭素質原料(石油や石炭等)のガス化設備により製造されたガス等が用いられる。燃料ガスとは、予め発熱量が略一定に調整された燃料ガスを意味する。
【0044】
SOFC313は、例えば、図2に示したSOFCモジュール201から構成され、SOFCモジュール201の圧力容器内には、図2に示したように、複数のSOFCカートリッジ203が収容されている。SOFCカートリッジ203は、複数のセルスタック101の集合体を有しており、セルスタック101は、燃料極109と空気極113と固体電解質膜111を備えている。
SOFC313は、空気極113に空気Aが供給され、燃料極109に燃料ガスL1が供給されることで発電する。発電電力は電力変換装置50(図4参照)により所定の交流電力へと変換され、所定の電力供給先へと出力される。
本実施形態では、SOFC313に供給される酸化性ガスとして、空気Aを採用する場合を例示して説明する。
【0045】
空気Aは、酸化性ガス供給ライン331を通じて、酸化性ガスとしてSOFC313の図示しない酸化性ガス導入部に供給される。酸化性ガス供給ライン331には、供給する空気Aの流量を調整するための空気供給ブロワ(流量調整部)335と、熱交換器330とが設けられている。熱交換器330は、空気AとSOFC313から排出された排空気A3との間で熱交換を行う。これにより、空気Aは、空気供給ブロワ335によって流量が調整され、排空気A3との熱交換で昇温された後に、酸化性ガス供給ライン331を通じてSOFC313に供給される。
排空気A3は、熱交換器330において、空気Aとの熱交換で冷却された後に、排熱回収装置338を通じて外部に放出される。
【0046】
酸化性ガス供給ライン331には、熱交換器330をバイパスするバイパスライン332が設けられている。バイパスライン332には、制御弁(流量調整部)336が設けられ、空気Aのバイパス流量が調整可能とされている。空気供給ブロワ335及び制御弁336の開度が後述する制御装置380によって適切に制御されることで、熱交換器330を通過する空気Aと熱交換器330をバイパスする空気Aとの流量割合が調整され、酸化性ガス供給ライン331を通じてSOFC313に供給される空気Aの温度が調整される。SOFC313に供給される空気Aの温度は、SOFC313を構成する図示しないSOFCモジュール内部の各構成機器の材料に損傷を与えないよう温度の上限が制限されている。
【0047】
更に、酸化性ガス供給ライン331には、酸化性ガス供給ライン331から分岐して、起動用燃焼器351によって昇温された空気Aを再び酸化性ガス供給ライン331に戻すための酸化性ガス分岐ライン350が接続されている。
酸化性ガス分岐ライン350には、制御弁352が設けられている。また、酸化性ガス供給ライン331において、酸化性ガス分岐ライン350との合流点よりも空気流れ上流側には、制御弁353が設けられている。これらの制御弁352,353の開閉は後述する制御装置380によって制御される。
【0048】
SOFC313には、燃料ガスL1を燃料極109の図示しない燃料ガス導入部に供給する燃料ガス供給ライン341と、燃料極109で反応に用いられた後の排燃料ガスL3を排出する排燃料ガスライン343とが接続されている。
燃料ガス供給ライン341には、燃料極109に供給する燃料ガスL1の流量を調整するための制御弁(図示略)が設けられている。
【0049】
燃料ガス供給ライン341には、排燃料ガスL3をSOFC313の燃料極109の燃料ガス導入部へと再循環させるための再循環ライン349が接続されている。再循環ライン349には、排燃料ガスL3の再循環量を調整するための再循環ブロワ(循環量調整部)348が設けられている。
排燃料ガスライン343には、系統外へ排出する排燃料ガス量を調整するための制御弁346が設けられている。
【0050】
更に、排燃料ガスライン343には、排燃料ガスL3の一部を酸化性ガス供給ライン331に供給するための空気極燃料供給ライン371が接続されている。空気極燃料供給ライン371には、酸化性ガス供給ライン331に供給する排燃料ガス量を調整するための制御弁347が設けられている。この制御弁の弁開度が後述する制御装置380によって制御されることにより、空気Aに添加される排燃料ガスL3の供給量が調整される。
【0051】
SOFC313には、空気極113で用いられた排空気A3を排出する排酸化性ガス排出ライン333が接続されている。この排酸化性ガス排出ライン333には、熱交換器330に排空気A3を供給するための排酸化性ガス供給ライン334が接続されている。また、排酸化性ガス排出ライン333には、排空気A3を系統外へ排出する排酸化性ガス量を調整するための制御弁(もしくは遮断弁)337が設けられている。
【0052】
排燃料ガスライン343の制御弁346と、排酸化性ガス排出ライン333の制御弁337を制御することにより、排燃料ガスL3もしくは排空気A3を系外に排出することで過剰になった圧力を素早く調整することができる。
【0053】
燃料ガス中の炭素に対する水蒸気のモル比率をS/C(スチームカーボン比)という。SOFC313の燃料極109側の系統入口付近において、S/Cは燃料の内部改質を行うためには量論的に1.0以上が必要で、更に図示しないセルスタックの付近にてS/Cが低くなる領域があると炭素が析出する恐れがある。本実施形態に係る発電システム310のように、空気Aを圧縮せずにSOFC313に供給する常圧式発電システムでは、特許文献1に開示されるように、空気Aを圧縮機によって圧縮してSOFC313に供給する加圧式発電システムに比べて、S/Cの下限値を低く設定することができる。具体的には、加圧式発電システムの場合は、S/Cの値が3.0~5.0、好ましくは3.5~5.0となるよう設定されているのに対し、常圧式発電システムでは、S/Cの値をより低く設定することができ、例えば、2.0~5.0となるよう設定される。
【0054】
制御装置380は、例えば、発電システム310に設けられた圧力計、温度計測部、及び流量計などの計測値等に基づき、各遮断弁及び各流量調整弁の制御を行う。具体的には、制御装置380は、発電システム310の起動及び停止の制御、及びSOFC313の運転状態の最適化制御を行う。また、制御装置380は、電力変換装置50(図4参照)の制御を行う。
【0055】
制御装置380は、例えば、コンピュータシステムであり、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等を備えている。そして、各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で記憶媒体等に記憶されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。なお、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0056】
制御装置380は、一つのコンピュータシステムとして具現化されてもよいし、複数のコンピュータシステムによって実現されてもよい。例えば、後述する各機能は、それぞれ異なるコンピュータシステムによって具現化されてもよい。また、複数のコンピュータシステムで後述の制御装置380が具現化される場合、各コンピュータシステムは、互いに情報の授受が可能な構成とされ、異なる場所に設置されていてもよい。
【0057】
図6は、制御装置380が備える機能の一例を示した機能ブロック図である。図6に示されるように、制御装置380は、例えば、情報取得部20と、酸化性ガス量制御部30と、電流制御部40とを備えている。
【0058】
情報取得部20は、例えば、SOFC313の温度に関するパラメータとして、後述する温度計測部11(図3参照)の温度計測値Tを取得する。また、情報取得部20は、発電システム310に設けられた圧力計、流量計、電圧計、電流計、他の温度測定部などの計器類からそれらによって計測された計測値等を取得する。
【0059】
例えば、図3に示すように、SOFCモジュール201に収容される各SOFCカートリッジ203には、セルスタック101の長手方向中央領域にセルスタック101の温度を計測するための少なくとも1つの温度計測部11が設けられている。温度計測部11の一例として、温度センサ、熱電対等が挙げられる。例えば、セルスタック101は、図9に示すような弓形状の温度分布を有する。本実施形態において、温度計測部11は、セルスタック101の長手方向における温度分布のうち、最も温度が高くなる領域である中央領域またはその近傍に設けられている。
【0060】
情報取得部20は、温度計測部11によって計測された温度計測値Tを取得し、取得した温度計測値Tを酸化性ガス量制御部30及び電流制御部40に出力する。
【0061】
酸化性ガス量制御部30は、情報取得部20によって取得された温度計測値T、換言すると、セルスタック101の中央領域における温度に基づいて空気Aの供給量を制御する。具体的には、酸化性ガス量制御部30は、情報取得部20によって取得された全ての温度計測値Tの中から最大値である最大温度Tmaxを特定し、特定した最大温度Tmaxを許容最大値(例えば、900℃)に一致させるように、空気Aの供給量を制御する。SOFC313に供給される空気Aの供給量は、例えば、空気供給ブロワ335の回転数を制御することにより制御される。許容最大値は、例えば、SOFC313の出力や発電効率等から決定される値であり、SOFC313から最適な出力を得られるように事前に決められている値である。
【0062】
電流制御部40は、情報取得部20によって取得された温度計測部11の温度計測値Tが目標値に近づくように電力変換装置50を制御する。具体的には、電流制御部40は、SOFCカートリッジ203間における温度計測値Tのばらつきが所定の範囲内となるように、各SOFCカートリッジ203の目標値を設定する。より具体的には、電流制御部40は、各SOFCカートリッジ203における温度計測値Tの最高温度であるカートリッジ最大温度Tcmax(以下、情報取得部20によって取得された全ての温度計測値Tにおける最大値を「最大温度Tmax」というのに対し、各SOFCカートリッジにおける温度計測値Tの最大値を「カートリッジ最大温度Tcmax」という。)を特定し、特定した各カートリッジの最大温度Tcmaxのばらつきが所定の許容範囲内にあるか否かを判定する。許容範囲は、例えば、温度低下による性能低下の許容値に基づいて適宜設定される範囲である。
【0063】
この結果、許容範囲内でない場合には、カートリッジ最大温度Tcmaxのばらつきが許容範囲内となるように各SOFCカートリッジ203の温度目標値を決定し、カートリッジ最大温度Tcmaxが決定した温度目標値となるように、電力変換装置50をフィードバック制御する。電力変換装置50を制御することにより、各SOFCカートリッジ203に流れる電流値が変化し、これにより、各SOFCカートリッジ203におけるカートリッジ最大温度Tcmaxが変化するので、各SOFCカートリッジ203間の温度のばらつきを低減させ、許容範囲内とすることが可能となる。
【0064】
例えば、SOFC313を構成する複数のSOFCカートリッジ203は個体差による特性のばらつきがある。したがって、例えば、上述したように、酸化性ガス量制御部30によって、最大温度Tmaxが許容最大値となるように空気Aの供給量を制御したとしても、カートリッジ最大温度Tcmaxには依然としてばらつきが生じることとなる。
【0065】
例えば、図7に示すように、No.2のカートリッジ最大温度Tcmaxが許容最大値となるような空気供給量で制御しても、他のSOFCカートリッジ203(No.1,No.3~No.8)のカートリッジ最大温度Tcmaxが許容最大値に満たない場合がある。これは、空気供給量は、全てのSOFCカートリッジ203に対して並行して供給されていることから、SOFCカートリッジ203毎に空気流量を調整することが難しいからである。そして、カートリッジ最大温度Tcmaxが許容最大値に達していないSOFCカートリッジ203(No.1,No.3~No.8)においては、出力に余裕度が生じてしまい、最大限の出力を発揮できないこととなる。
【0066】
そこで、本実施形態では、SOFCカートリッジ203の個体差に依るカートリッジ最大温度Tcmaxのばらつきを均一化することで、より具体的には、各カートリッジ最大温度Tcmaxが許容最大値に近づくように電力変換装置50を制御することにより、SOFC313全体としての出力増加を図る。
【0067】
例えば、図7に示した温度の例では、No.1,No.3~No.5,No.7が許容温度範囲を外れている。従って、これらの各SOFCカートリッジ203に対応する電力変換装置50を制御して電流を増加させる。これにより、各SOFCカートリッジ203間においてカートリッジ最大温度Tcmaxのばらつきを均一化させることができるとともに、全てのカートリッジ最大温度Tcmaxを許容最大値(例えば、900℃)に近づけることが可能となる。これにより、各SOFCカートリッジ203の能力を引き上げることができ、発電システム全体として出力を向上させることが可能となる。
なお、電流制御において、各SOFCカートリッジ203に流す電流値の最大値及び最小値を予め設定しており、この電流範囲において電流値を制御することとしてもよい。
【0068】
次に、制御装置380による発電システムの制御方法について図8を参照して説明する。図8は、本実施形態に係る発電システムの制御方法の手順の一例を示したフローチャートである。なお、一例として、本実施形態の制御方法は、発電システムの要求負荷が変化した場合に実行される。これは、要求負荷が変動しなければ、現在の状態を維持すればよいため、空気供給量や電流値等を変化させる必要がないからである。
【0069】
まず、制御装置380は、温度計測部11によって計測された温度計測値Tを取得する(SA1)。続いて、温度計測値Tの中から最大温度Tmaxを特定する(SA2)。次に、最大温度Tmaxが許容最大値となるように空気供給量を制御する(SA3)。これにより、空気供給ブロワ335の回転数が制御され、最大温度Tmaxが許容最大値に一致するように制御されると、再度、全ての温度計測値Tを取得する(SA4)。これは、ステップSA1のときとSOFC313の運転状態が変化しているため、各セルスタック101の温度が変化している可能性があるからである。
【0070】
続いて、全ての温度計測値Tの中から各SOFCカートリッジ203の最大温度であるカートリッジ最大温度Tcmaxを特定する(SA5)。これにより、例えば、図8に示したように、8個のSOFCカートリッジ203を有している場合には、8個カートリッジ最大温度Tcmaxが特定されることとなる。続いて、特定されたカートリッジ最大温度Tcmaxのばらつきが許容範囲内である否かを判定する(SA6)。この結果、ばらつきが許容範囲内でなければ(SA6:NO)、ばらつきが許容範囲内となるように、対応するSOFCカートリッジ203の電力変換装置50を制御し、電流を調整する(SA7)。電流を変化させることにより、SOFC313の運転状態が変化するので、ステップSA1に戻り、上記処理を繰り返す。
そして、ステップSA6において、Tcmaxのばらつきが許容範囲内となった場合には(SA6:YES)、本処理を終了する。
【0071】
以上説明した本実施形態に係る発電システム並びにその制御装置、制御方法、及び制御プログラムによれば、空気Aを圧縮しないでSOFC313に供給する常圧式発電システムを採用している。このような常圧式発電システムでは、構成上、SOFCカートリッジ203毎に電力変換装置50を設けやすいという利点がある。
また、最大温度Tmaxを許容最大値とするように空気供給量を調整するとともに、カートリッジ最大温度Tcmaxが最大温度Tmaxからかけ離れているSOFCカートリッジ203については、最大温度Tmaxとの差分が許容範囲内となるように電流が制御される。これにより、SOFCカートリッジ203間のカートリッジ最大温度Tcmaxのばらつきを均一化させることができるとともに、各カートリッジ最大温度Tcmaxを許容最大値に近づけることが可能となる。これにより、各SOFCカートリッジ203の能力を引き上げることができ、発電システム全体として出力を向上させることが可能となる。
【0072】
以上、本開示の発電システム並びにその制御装置、制御方法、及び制御プログラムについて、各実施形態を用いて説明したが、本開示に係る技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。
また、上記実施形態で説明した手順の流れも一例であり、本開示の主旨を逸脱しない範囲内において不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、処理順序を入れ替えたりしてもよい。
【0073】
例えば、上記実施形態では、カートリッジ最大温度Tcmaxのばらつきを許容範囲内に収めるように、電力変換装置50を制御し、SOFCカートリッジ203に流れる電流を制御していたが、これに代えて、カートリッジ最大温度Tcmaxのばらつきにかかわらず、各カートリッジ最大温度Tcmaxを許容最大値に一致させるように、電力変換装置50を制御することとしてもよい。このような態様とすることで、全てのSOFCカートリッジ203のカートリッジ最大温度Tcmaxとすることができ、あるいは、それに近い値にすることができ、発電能力をより最大化することが可能となる。
【0074】
また、上記実施形態では、SOFCカートリッジ203と電力変換装置50とが一対一接続されている場合を例示して説明したが、この例に限定されない。例えば、電力変換装置50は、少なくとも一つのSOFCカートリッジ203からなるSOFCカートリッジ群毎に設けられていてもよい。また、SOFCカートリッジ群を構成するSOFCカートリッジの数も、SOFCカートリッジ群毎に異なっていてもよい。また、複数のSOFCカートリッジによってSOFCカートリッジ群が構成されている場合には、直列/並列等の接続形態は適宜設計することが可能である。
【0075】
また、複数のSOFCカートリッジ203によってSOFCカートリッジ群が構成されている場合には、カートリッジ群の中で温度計測値Tの最大値を特定し、特定した温度計測値を上記「カートリッジ最大温度Tcmax」とすればよい。
【0076】
また、SOFCカートリッジ203毎に、又は、SOFCカートリッジ群毎に電力変換装置50を設けた場合に、一部の電力変換装置50については、電流値を他の指標に基づいて制御することとしてもよい。例えば、一部の電力変換装置50を上述した実施形態に係る制御方法に従って制御し、他の電力変換装置50については要求負荷から決定される所定の電流値となるように制御することとしてもよい。また、この場合、図2に示すように、複数のSOFCカートリッジ203でSOFCモジュール201を構成するような場合には、外側(端部)に配置されたSOFCカートリッジ203の方が、中央部に配置されたSOFCカートリッジよりも放熱量が大きくなるため、外側のSOFCカートリッジ(群)に対応する電力変換装置50については、SOFC313の温度に基づく制御、例えば、図8に示した制御フローに基づく制御を行い、中央部に配置されたSOFCカートリッジ(群)に対応する電力変換装置50については、要求負荷に応じた電流値で制御することとしてもよい。
【0077】
また、上記実施形態においては、最大温度Tmaxが許容最大値に一致するように空気供給量を制御していたが、この態様に限定されない。例えば、最大出力を得ることのできる空気供給量、または、発電効率を最大化できる空気供給量をSOFC313に供給することとしてもよい。この場合、例えば、負荷変動が生じた場合に、空気供給量を所定の範囲内で動的に変化させ、SOFC313全体として最大出力を得るような、または、発電効率を最大化できるような空気供給量を探索することとしてもよい。
【0078】
更に、上記実施形態では、温度計測部11をセルスタック101において最も温度が高い領域である中央領域に設けていたが、この例に限定されない。例えば、温度計測部11は、セルスタック101の酸化性ガス供給口近傍(図9における下方部)に設けられていてもよいし、燃料ガス供給口近傍(図9における上方部)に設けられていてもよい。セルスタック101の長手方向における温度分布がわかっている場合には、中央領域以外の温度から中央領域における温度を推定し、この推定値を温度計測値Tとして用いればよい。
【0079】
また、上記実施形態では、図5に示したような配管系統を有する発電システム310を例示して説明したが、発電システムの構成、SOFCカートリッジ203の構成、SOFCモジュール201の構成は上述した例に限定されない。例えば、カスケード構成を有する発電システム等に関しても適用することが可能である。
【0080】
以上説明した実施形態及び変形例として記載した発電システム並びにその制御装置、制御方法、及び制御プログラムは例えば以下のように把握される。
【0081】
本開示に係る発電システム(130)の制御装置(380)は、複数のセルスタック(101)が収容された複数の燃料電池カートリッジ(203)を有する燃料電池(SOF:313)と、少なくとも一つの前記燃料電池カートリッジを有する複数のカートリッジ群毎に設けられ、対応する前記カートリッジ群の電流を制御する電力変換装置(50)と、を備える発電システムの制御装置であって、前記燃料電池の温度に関するパラメータを取得する情報取得部(20)と、取得された前記パラメータが該パラメータの目標値に近づくように、各前記電力変換装置を制御し、前記カートリッジ群毎に供給する電流を制御する電流制御部(40)と、を具備する。
【0082】
上記発電システムの制御装置によれば、カートリッジ群毎に電力変換装置を設けたので、カートリッジ群毎に電流値を制御することができる。これにより、カートリッジ群に流れる電流を制御することにより、カートリッジ群間における特性のばらつきを抑制することができるとともに、カートリッジ群の性能をそれぞれ最大化させるように制御することが可能となる。これにより、発電システム全体として出力を増加させることが可能となる。カートリッジ群は、必ずしも複数の燃料電池カートリッジを備えている必要はなく、一つの燃料電池カートリッジから構成される場合も含まれる。
【0083】
本開示に係る発電システム(130)の制御装置(380)において、前記パラメータは、各前記カートリッジ群における少なくとも一つの前記セルスタックの所定位置における温度であり、例えば、前記セルスタックの中央領域における温度である。
【0084】
上記発電システムの制御装置によれば、セルスタックの中央領域の温度を適切な値に制御することが可能となる。
【0085】
本開示に係る発電システム(130)の制御装置(380)において、前記電流制御部(40)は、前記カートリッジ群間における前記パラメータのばらつきが所定の範囲内となるように、前記カートリッジ群の前記目標値を設定する。
【0086】
上記発電システムの制御装置によれば、電流制御部は、情報取得部によって取得された燃料電池の温度に関するパラメータのばらつきが所定温度範囲内となるように、必要に応じて、各カートリッジ群に対応して設けられた電力変換装置を制御し、各セルスタックに流れる電流を調整する。なお、所定温度範囲は適宜適切な値に設定すればよく、また、要求負荷等のSOFCの運転状況に応じて変更されてもよい。
【0087】
本開示に係る発電システム(130)の制御装置(380)において、前記電流制御部(40)は、前記セルスタック(101)の許容上限値を前記目標値として設定する。
【0088】
上記発電システムの制御装置によれば、電流制御部は、セルスタックの許容上限値を目標値として設定する。これにより、電流制御部は、情報取得部によって取得された燃料電池の温度に関するパラメータがセルスタックの許容上限値となるように、必要に応じて、各カートリッジ群に対応して設けられた電力変換装置を制御し、各セルスタックに流れる電流を調整する。なお、許容上限値は、要求負荷等のSOFCの運転状況に応じて変更されてもよい。
【0089】
本開示に係る発電システム(130)の制御装置(380)は、前記情報取得部によって取得された前記パラメータが前記セルスタックの許容上限値となるように、前記燃料電池に供給する酸化性ガスの供給量を制御する酸化性ガス量制御部(30)を備える。
【0090】
上記発電システムの制御装置によれば、酸化性ガス量制御部によってセルスタックの温度に関するパラメータが許容上限値となるように制御されるので、従来のSOFC発電システムのように、セルスタックの温度を許容上限値以内に抑制するために、負荷を低下させる必要がない。これにより、燃料電池の温度制約に起因する出力制限を緩和することができる。
【0091】
本開示に係る発電システム(310)は、複数のセルスタック(101)が収容された複数の燃料電池カートリッジ(203)を有する燃料電池(SOFC:313)と、少なくとも一つの前記燃料電池カートリッジを有する複数のカートリッジ群毎に設けられ、対応する前記カートリッジ群の電流を制御するための電力変換装置(50)と、前記燃料電池に燃料ガスを供給する燃料ガス供給ライン(341)と、前記燃料電池に酸化性ガスを供給する酸化性ガス供給ライン(331)と、上記いずれかの制御装置(380)と、を備える発電システム。
【0092】
本開示に係る発電システム(310)は、前記燃料電池の運転状態に依存せずに前記酸化性ガスの供給量を調整可能な発電システムである。
【0093】
本開示に係る発電システム(310)の制御方法は、複数のセルスタック(101)が収容された複数の燃料電池カートリッジ(203)を有する燃料電池(SOFC:313)と、少なくとも一つの前記燃料電池カートリッジを有する複数のカートリッジ群毎に設けられ、対応する前記カートリッジ群の電流を制御する電力変換装置(50)と、を備える発電システムの制御方法であって、前記燃料電池の温度に関するパラメータを取得する工程と、取得された前記パラメータが該パラメータの目標値に近づくように、各前記電力変換装置を制御し、前記カートリッジ群毎に供給する電流を制御する工程と、を有する。
【0094】
本開示に係る発電システム(310)の制御プログラムは、コンピュータを上記いずれかの制御装置として機能させるためのプログラムである。
【符号の説明】
【0095】
11 :温度計測部
20 :情報取得部
30 :酸化性ガス量制御部
40 :電流制御部
50 :電力変換装置
101 :セルスタック
201 :SOFCモジュール
203 :SOFCカートリッジ
310 :発電システム
313 :SOFC(燃料電池)
330 :熱交換器
331 :酸化性ガス供給ライン
335 :空気供給ブロワ
341 :燃料ガス供給ライン
343 :排燃料ガスライン
380 :制御装置
A :空気
A3 :排空気
L1 :燃料ガス
L3 :排燃料ガス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9