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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】構造物の制振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20231225BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20231225BHJP
   E01D 1/00 20060101ALI20231225BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20231225BHJP
   F16F 15/03 20060101ALI20231225BHJP
   F16F 9/14 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
F16F15/02 C
E04H9/02 351
E04H9/02 341A
E01D1/00 Z
F16F15/04 A
F16F15/03 H
F16F9/14 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020072982
(22)【出願日】2020-04-15
(65)【公開番号】P2021169840
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504242342
【氏名又は名称】株式会社免制震ディバイス
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(72)【発明者】
【氏名】岩田 秀治
(72)【発明者】
【氏名】大竹 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亨
(72)【発明者】
【氏名】中南 滋樹
(72)【発明者】
【氏名】木田 英範
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-199904(JP,A)
【文献】特開2009-068659(JP,A)
【文献】特開2010-025241(JP,A)
【文献】特開2016-023443(JP,A)
【文献】特開2012-255330(JP,A)
【文献】米国特許第06230450(US,B1)
【文献】再公表特許第20/175640(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
E04H 9/02
E01D 1/00
F16F 15/04
F16F 15/03
F16F 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物上に設けられる物の安定性を確保するために振動が抑制されるべき前記構造物の卓越振動数以外の特定の振動数帯である所定振動数帯における当該構造物の振動を抑制するための構造物の制振装置であって、
前記構造物の振動に伴って相対変位する第1部位と第2部位の間に設けられた第1ダンパを備え、
当該第1ダンパは、
前記構造物の振動に伴い、前記相対変位が伝達されることによって回転する第1回転マスを有する第1マスダンパと、
前記第1マスダンパに直列に接続された第1ばね部材と、
前記第1マスダンパに並列に接続された第1減衰部材と、を有し、
前記第1ダンパの諸元は、前記所定振動数帯における前記構造物の振動を抑制するように設定されていることを特徴とする構造物の制振装置。
【請求項2】
前記第1マスダンパの等価質量及び前記第1ばね部材のばね剛性は、当該等価質量及び当該ばね剛性によって定まる前記第1ダンパの固有振動数が所定振動数帯の中心振動数に同調するように設定されていることを特徴とする、請求項1に記載の構造物の制振装置。
【請求項3】
前記第1減衰部材の減衰係数は、前記第1マスダンパ及び前記第1ばね部材を設けたことにより発生する、前記中心振動数よりも低振動数側の振動のピークを抑制するように設定されていることを特徴とする、請求項2に記載の構造物の制振装置。
【請求項4】
前記構造物の前記第1部位と前記第2部位の間に、前記第1ダンパと並列に設けられた第2ダンパをさらに備え、
当該第2ダンパは第2減衰部材を有し、
当該第2減衰部材の減衰係数は、前記第1ダンパを設けたことにより発生する、前記所定振動数帯よりも高振動数側における振動のピークを抑制するように設定されていることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の構造物の制振装置。
【請求項5】
前記第2ダンパは、
前記第2減衰部材に並列に接続され、前記相対変位が伝達されることによって回転する第2回転マスを有する第2マスダンパと、
当該第2マスダンパに直列に接続された第2ばね部材と、をさらに有し、
前記第2マスダンパの等価質量及び前記第2ばね部材のばね剛性は、当該等価質量及び当該ばね剛性によって定まる前記第2ダンパの固有振動数が前記所定振動数帯よりも高振動数側の振動数に同調するように設定されていることを特徴とする、請求項4に記載の構造物の制振装置。
【請求項6】
前記第2ダンパの固有振動数は、前記構造物に入力される地震動のスペクトル特性の卓越周波数よりも高振動数側に設定されていることを特徴とする、請求項5に記載の構造物の制振装置。
【請求項7】
前記構造物は、列車が走行する鉄道橋であり、
前記構造物の前記所定振動数帯は、前記列車の走行安定性が低い前記鉄道橋の振動数帯であり、
前記構造物の前記第1部位及び前記第2部位はそれぞれ、前記鉄道橋の上部構造及び下部構造であることを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の構造物の制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の振動を抑制するための構造物の制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の構造物の制振装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この制振装置は、特に橋梁の振動を抑制するためのものである。橋梁は、下部構造(橋脚や橋台)と、下部構造に支承を介して支持された上部構造(橋桁や床版)を有し、制振装置は制振機構を備える。制振機構は、互いに直列に接続された慣性質量ダンパ及びばね部材で構成されており、支承と並列に配置され、上部構造と下部構造の上端部の間に連結されている。また、慣性質量ダンパとばね部材によって定まる制振機構の固有振動数は、橋梁の卓越振動数(例えば1次固有振動数)に同調するように設定されている。
【0003】
この構成では、地震時などに橋梁の上部構造と下部構造の間に相対変位が発生すると、この相対変位が慣性質量ダンパに伝達されることによって、慣性質量ダンパによる慣性質量効果が発揮される。また、上述した制振機構の同調により、橋梁の卓越振動数に対して慣性質量効果が効果的に発揮されることで、橋梁の振動が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-23443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
橋梁などの構造物では、構造物自身の制振のために卓越振動数での振動を抑制することに加えて、卓越振動数以外の特定の振動数帯においても振動の抑制が要求される場合がある。例えば、鉄道橋の場合、その上を走行する列車との共振を抑制し、走行安定性を確保する上で影響の大きい特定の振動数帯が存在することが知られている。この場合、地震時において、列車と鉄道橋の相互作用による応答を低減し、走行安定性を確保するために、鉄道橋側で特定の振動数帯における振動を抑制することが有効である。
【0006】
このような列車と鉄道橋、地盤の相互作用による応答に対し、上述した従来の制振装置では、慣性質量ダンパの慣性質量効果と制振機構の同調効果により、鉄道橋の卓越振動数において制振効果が得られるにすぎない。その結果、上記の特定の振動数帯では鉄道橋の振動を良好に抑制できず、列車の走行安定性を確保できないおそれがある。以下、鉄道橋に限らず、構造物上の走行物や設置物の安定性などを確保する上で、振動を抑制することが特に望ましい構造物の卓越振動数以外の特定の振動数帯を「所定振動数帯」という。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、構造物の卓越振動数以外の所定振動数帯における振動を良好に抑制することができる構造物の制振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、構造物上に設けられる物の安定性を確保するために振動が抑制されるべき構造物の卓越振動数以外の特定の振動数帯である所定振動数帯における構造物の振動を抑制するための構造物の制振装置であって、構造物の振動に伴って相対変位する第1部位と第2部位の間に設けられた第1ダンパを備え、第1ダンパは、構造物の振動に伴い、相対変位が伝達されることによって回転する第1回転マスを有する第1マスダンパと、第1マスダンパに直列に接続された第1ばね部材と、第1マスダンパに並列に接続された第1減衰部材と、を有し、第1ダンパの諸元は、所定振動数帯における構造物の振動を抑制するように設定されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の構造物の制振装置は、構造物の第1部位と第2部位の間に設けられた第1ダンパを備えており、この第1ダンパは、第1回転マスを有する第1マスダンパと、第1マスダンパに直列に接続された第1ばね部材と、第1マスダンパに並列に接続された第1減衰部材を有する。この構成によれば、地震時などに構造物が振動すると、第1部位と第2部位の間の相対変位が伝達されることによって、第1マスダンパの第1回転マスが回転し、第1回転マスによる回転慣性質量効果が発揮されるとともに、第1マスダンパに並列に接続された第1減衰部材によって粘性減衰効果が発揮される。
【0010】
また、本発明の構造物の制振装置によれば、第1ダンパの諸元、例えば、第1マスダンパの等価質量、第1ばね部材のばね剛性や、第1減衰部材の減衰係数は、所定振動数帯における構造物の振動を抑制するように設定されている。ここで、所定振動数帯とは、構造物上に設けられる物(走行物や設置物)の安定性を確保するために振動が抑制されるべき構造物の卓越振動数以外の所定振動数帯である。これにより、卓越振動数以外の所定振動数帯における構造物の振動を良好に抑制でき、その結果、構造物上の走行物や設置物の安定性などを確保することができる。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の構造物の制振装置において、第1マスダンパの等価質量及び第1ばね部材のばね剛性は、当該等価質量及び当該ばね剛性によって定まる第1ダンパの固有振動数が所定振動数帯の中心振動数に同調するように設定されていることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、第1マスダンパの等価質量及び第1ばね部材のばね剛性が上述したように設定されることによって、第1ダンパの固有振動数を所定振動数帯の中心振動数に同調させることができ、それにより、中心振動数を含む所定振動数帯における構造物の振動を良好に抑制することができる。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の構造物の制振装置において、第1減衰部材の減衰係数は、第1マスダンパ及び第1ばね部材を設けたことにより発生する、中心振動数よりも低振動数側の振動のピークを抑制するように設定されていることを特徴とする。
【0014】
第1ダンパの等価質量及びばね剛性を上述したように設定し、第1ダンパの固有振動数を所定振動数帯の中心振動数に同調させた場合、中心振動数付近における振動が抑制される一方、中心振動数よりも低振動数側に振動のピークが新たに発生することがある。この構成によれば、第1減衰部材の減衰係数を上記のように設定することによって、そのような低振動数側の振動のピークを有効に抑制でき、所定振動数帯における構造物の振動を、さらに良好に抑制することができる。
【0015】
請求項4に係る発明は、請求項1から3のいずれかに記載の構造物の制振装置において、構造物の第1部位と第2部位の間に、第1ダンパと並列に設けられた第2ダンパをさらに備え、第2ダンパは第2減衰部材を有し、第2減衰部材の減衰係数は、第1ダンパを設けたことにより発生する、所定振動数帯よりも高振動数側における振動のピークを抑制するように設定されていることを特徴とする。
【0016】
第1ダンパを上述したように設けた場合、中心振動数を含む所定振動数帯における振動が抑制される一方、所定振動数帯よりも高振動数側に振動のピークが発生することがある。この構成によれば、第2減衰部材の減衰係数を上記のように設定することによって、そのような高振動数側の振動のピークを有効に抑制し、所定振動数帯よりも高振動数側における構造物の振動を良好に抑制でき、ひいては構造物全体の耐震性を向上させることができる。
【0017】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の構造物の制振装置において、第2ダンパは、第2減衰部材に並列に接続され、相対変位が伝達されることによって回転する第2回転マスを有する第2マスダンパと、第2マスダンパに直列に接続された第2ばね部材と、をさらに有し、第2マスダンパの等価質量及び第2ばね部材のばね剛性は、当該等価質量及び当該ばね剛性によって定まる第2ダンパの固有振動数が所定振動数帯よりも高振動数側の振動数に同調するように設定されていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、第2ダンパの第2マスダンパの等価質量及び第2ばね部材のばね剛性が上記のように設定されることによって、第2ダンパの固有振動数を所定振動数帯よりも高振動数側の振動数に同調させることができ、したがって、所定振動数帯よりも高振動数側における構造物の振動をさらに良好に抑制し、構造物全体の耐震性をさらに向上させることができる。
【0019】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の構造物の制振装置において、第2ダンパの固有振動数は、前記構造物の振動の伝達特性の卓越周波数が、前記構造物に入力される地震動のスペクトル特性の卓越周波数よりも高振動数側になるように設定されていることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、第2ダンパの固有振動数が上記のように設定されることによって、構造物の振動の伝達特性の卓越周波数が、構造物に入力される地震動のスペクトル特性の卓越周波数に対して、高振動数側にずれる。これにより、地震動に対し、その卓越周波数における構造物の変位・振動を抑制でき、構造物の耐震性をさらに向上させることができる。
【0021】
請求項7に係る発明は、請求項1から6のいずれかに記載の構造物の制振装置において、構造物は、列車が走行する鉄道橋であり、構造物の所定振動数帯は、列車の走行安定性が低い鉄道橋の振動数帯であり、構造物の第1部位及び第2部位はそれぞれ、鉄道橋の上部構造及び下部構造であることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、構造物としての鉄道橋の上部構造と下部構造の間に、前述した構成の第1ダンパが設けられ、さらに必要に応じて、前述した構成の第2ダンパが設けられる。これにより、請求項1から請求項6による前述した作用を得ながら、列車の走行安定性が低い振動数帯における鉄道橋の振動を良好に抑制でき、それにより、列車の走行安定性を有効に確保することができる。すなわち、この構成は、第1ダンパ、さらに第2ダンパを鉄道橋側に設け、列車の走行安定性を車両側ではなく鉄道橋側で制御することによって、所定振動数帯での応答を制御することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1実施形態による制振装置を鉄道橋とともに示す(a)平面図、及び(b)正面図である。
図2図1の制振装置の拡大正面図である。
図3図1の制振装置を拡大背面図である。
図4図1の制振装置の拡大平面図である。
図5】第1及び第2マスダンパの断面図である。
図6】(a)軸力制限機構を含む第1ダンパのモデル、(b)軸力制限機構を省略した第1及び第2ダンパのモデル、及び(c)鉄道橋に第1ダンパ及び第2ダンパを取り付けたモデルである。
図7】(a)第2実施形態による制振装置、及び(b)第3実施形態による制振装置を示す図である。
図8】本発明の制振装置の設定方法のうちのステップ1の状況を示す図である。
図9】ステップ2の状況を示す図である。
図10】ステップ2によって得られた好ましい変位応答倍率を示す図である。
図11】ステップ3の状況を示す図である。
図12】ステップ4の状況を示す図である。
図13】ステップ4で最終的に設定された制振装置に関する時刻歴応答解析に用いた主架構の復元力特性を示す図である。
図14】時刻歴応答解析に用いた地震動のスペクトル特性を示す図である。
図15】時刻歴応答解析によって得られた(a)変位応答倍率、及び(b)横軸を拡大した変位応答倍率を示す図である。
図16】地震動の第1及び第2ピーク帯と、第1及び第2ダンパによって設定された鉄道橋の振動の伝達特性との関係を示す図である。
図17】ステップ4で最終的に設定された制振装置の試験に用いた試験装置を概略的に示す図である。
図18】試験装置の制御装置をその入出力関係とともに示すブロック図である。
図19】制御装置の機能及び制御内容を表すブロック図である。
図20】試験に用いた(a)鉄道橋及び第1ダンパ、及び(b)鉄道橋、第1ダンパ及び第2ダンパのモデルを示す図である。
図21】第1ダンパのみを設置した場合の試験結果(実験値)を解析値とともに、(a)変位応答倍率、及び(b)加速度応答倍率について示す図である。
図22】第1及び第2ダンパを設置した場合の試験結果(実験値)を解析値とともに、(a)変位応答倍率、及び(b)加速度応答倍率について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1図5は、本発明の第1実施形態による制振装置1を示す。この制振装置1は、構造物として鉄道橋2を対象とし、特に鉄道橋2を走行する列車の走行安定性が低い所定振動数帯における鉄道橋2の振動を抑制するものである。なお、本実施形態では、走行安定性が低い所定振動数帯として、例えば列車の脱線が発生しやすい振動数帯が想定されている。
【0025】
図1(b)に示すように、鉄道橋2は、上部構造USと、上部構造USを支持する下部構造LSに大別される。上部構造USにはレール(図示せず)が敷設され、レール上を列車Tが走行するように構成されている。
【0026】
上部構造USは、橋梁の支間方向に延びる複数の主桁3と、主桁3に直交する方向に延び、主桁3の両端部及び2箇所の中間部に連結された複数の受桁4を有する。下部構造LSは、複数のRC橋脚9及びこれを支持するケーソン基礎10と、複数の鋼製橋脚11を有する。
【0027】
上部構造USは、複数の支承を介して、下部構造LSに支持されている。具体的には、主桁3の一端部では固定支承5を介して、他端部では可動支承6を介して、それぞれRC橋脚9及びケーソン基礎10に支持されている。また、主桁3の中間部において、受け桁4の一端部では、ゴム製の可動支承7を介して、RC橋脚9及びケーソン基礎10に支持され、受桁4の他端部では、ピボット支承8を介して、鋼製橋脚11に支持されている。
【0028】
図2及び図3に示すように、ピボット支承8は、上下方向に延びる支柱部8aと、支柱部8aの上下の端部にそれぞれ回動自在に連結された上下のピボット部8b、8cを有する。ピボット支承8は、ピボット部8b、8cを介して、上部構造USと鋼製橋脚11にそれぞれ連結されており、それにより、上部構造USを回動自在に支持する。
【0029】
制振装置1はさらに、第1ダンパA及び第2ダンパBを備える。これらの第1及び第2ダンパA、Bは、鉄道橋2の上部構造USと下部構造LSの間に、互いに並列に設けられている。
【0030】
図2に示すように、第1ダンパAは、水平に配置された第1マスダンパA1と、第1マスダンパA1の一端側に直列に連結されたばね部材A2と、下端部がばね部材A2に連結され、上方に延びる支持部材A3と、第1マスダンパA1の他端側に連結された反力受け材A4を有する。支持部材A3の上端部は上部構造USに連結され、反力受け材A4は鋼製橋脚11に固定されている。以上により、第1ダンパAは、上部構造USと下部構造LSの間に設けられている。
【0031】
ばね部材A2及び支持部材A3は、第1ダンパAの第1ばね部材を構成する。ばね部材A2は、第1ダンパAのばね剛性を調整するためのものであり、必要なばね剛性に応じ、鋼材や、柔らかい低剛性の部材、例えばゴムユニットで構成されている。一方、支持部材A3は、剛体、例えばH鋼で構成されており、又は、ばね部材A2と同様、低剛性の部材で構成してもよい。
【0032】
第1マスダンパA1は、粘性減衰要素を内蔵した粘性マスダンパとして構成されている。以下、その構成及び基本的動作を簡単に説明する。
【0033】
図5に示すように、第1マスダンパA1は、ボールねじ式のものであり、内筒21、ボールねじ22、回転マス23、及び軸力制限機構24を備える。内筒21は、円筒状の鋼材で構成されており、その一端部は開口し、他端部は、自在継手25aを介して第1フランジ25に取り付けられている。
【0034】
ボールねじ22は、ねじ軸22aと、ねじ軸22aに多数のボール22bを介して螺合するナット22cを有し、内筒21と同軸状かつ直列に配置されている。ねじ軸22aの一端部は、内筒21に収容されており、ねじ軸22aの他端部は、自在継手26aを介して第2フランジ26に取り付けられている。ナット22cの一端部は、クロスローラベアリング27を介して内筒21に嵌合しており、それにより、ナット22cは、内筒21に回転自在に支持されている。
【0035】
回転マス23は、比重の大きな材料、例えば鉄で構成され、円筒状に形成されており、内筒21及びボールねじ22の外側に同軸状に配置されている。回転マス23の第1フランジ25側の端部は、ラジアルベアリング28を介して、内筒21に嵌合しており、それにより、回転マス23は内筒21に回転自在に支持されている。また、回転マス23と内筒21の間には、一対のリング状のシール材29、29が設けられている。これらのシール材29、29、回転マス23及び内筒21によって画成された空間には、シリコンオイルなどで構成された粘性体30が充填されている。
【0036】
以上の構成では、内筒21とねじ軸22aの間に相対変位が発生すると、この相対変位がボールねじ22でナット22cの回転運動に変換され、軸力制限機構24を介して回転マス23に伝達されることで、回転マス23が回転する。これにより、回転マス23による回転慣性質量効果が発揮されるとともに、内筒21と回転マス23との間に配置された粘性体30による粘性減衰効果が発揮される。
【0037】
軸力制限機構24は、第1マスダンパA1の回転変換動作を制限することで、第1マスダンパA1の反力(軸力)を制限するものである。軸力制限機構24は、回転マス23とナット22cの間に配置されたリング状の回転滑り材24aと、回転滑り材24aをナット22cに押し付けるとともに、その押付け力を調整するための複数のねじ24b及びばね24cで構成されている。この構成では、第1マスダンパA1の軸線方向に作用する荷重(軸荷重)が、ねじ24bの締付度合に応じて定まる制限荷重に達すると、回転滑り材24aとナット22cまたは回転マス23との間に滑りが発生することによって、第1マスダンパA1の回転変換動作が制限され、第1マスダンパA1の反力の過大化が防止される。
【0038】
図2に示すように、以上の構成の第1マスダンパA1は、内筒21側が反力受け材A4に連結され、ボールねじ22のねじ軸22a側がばね部材A2に連結されている。なお、この第1マスダンパA1の連結関係を左右逆にしてもよく、すなわち、ねじ軸22a側を反力受け材A4に連結し、内筒21側をばね部材A2に連結してもよい。また、図示しないが、第1マスダンパA1及びばね部材A2の部分を防塵カバーで覆うようにしてもよい。
【0039】
以上の構成及び動作から、第1ダンパAは、図6(a)のようにモデル化される。すなわち、回転マス23から成る慣性接続要素と粘性体30から成る粘性減衰要素が、互いに並列に接続され、これらの慣性接続要素及び粘性減衰要素に、軸力制限機構24から成る滑り摩擦要素と第1ばね部材(ばね部材A2及び支持部材A3)から成るばね要素が、直列に接続されたモデルになる。
【0040】
なお、第1マスダンパA1の軸力制限機構24は省略してもよい。その場合、第1ダンパAは、図6(b)に示すように、互いに並列に接続された慣性接続要素及び粘性減衰要素に、ばね要素が直列に接続されたモデルになる。以下、第1ダンパAを表す代表的なモデルとして、図6(b)のモデルを用いるものとする。
【0041】
一方、図3に示すように、第2ダンパBは、水平に配置された第2マスダンパB1と、下端部が第2マスダンパB1の一端側に連結され、上方に延びる支持部材B2(第2ばね部材)と、第2マスダンパB1の他端側に連結された反力受け材B3を有する。支持部材B2の上端部は上部構造USに連結され、反力受け材B3は鋼製橋脚11に固定されており、それにより、第2ダンパBは、上部構造USと鋼製橋脚11の間に、第1ダンパAと並列に設けられている。
【0042】
支持部材B2は、剛体、例えばH鋼で構成されている。また、図5に示すように、第2マスダンパB1は、前述した第1マスダンパA1と同様の構成を有し、粘性減衰要素を内蔵した粘性マスダンパとして構成されており、その基本的な動作も第1マスダンパA1と同じである。
【0043】
図3に示すように、第2マスダンパB1は、内筒21側が反力受け材B3に連結され、ボールねじ22のねじ軸22a側が支持部材B2に連結されている。なお、この第2マスダンパB1の連結関係を左右逆にしてもよい。また、図示しないが、第2マスダンパB1の部分を防塵カバーで覆うようにしてもよい。
【0044】
以上の構成から、第2ダンパBのモデルは、第2マスダンパB1の軸力制限機構24から成る滑り摩擦要素を省略すると、図6(b)にかっこ書きで示すように、回転マス23から成る慣性接続要素と粘性体30から成る粘性減衰要素が互いに並列に接続され、これらの慣性接続要素及び粘性減衰要素に、支持部材B2から成るばね要素が直列に接続されたモデルになる。
【0045】
また、第1及び第2ダンパA、Bを鉄道橋2に取り付けたモデルは、図6(c)に示すように、鉄道橋2の上部構造USと鋼製橋脚11の間に、第1ダンパA及び第2ダンパBが互いに並列に且つピボット支承8と並列に接続されたモデルになる。
【0046】
図7(a)は、本発明の第2実施形態による制振装置51を示す。同図において、第1実施形態と同じ又は同等の構成要素には、同じ参照符号が付されている。図2(b)との比較から明らかなように、第2実施形態では、上部構造USを支持するRC橋脚9側の支承として、第1実施形態のゴム製などの可動支承7に代えて、変形量がより大きい滑り支承52が用いられている。また、第1及び第2ダンパA、Bは、上部構造USとRC橋脚9の間に、互いに並列に且つ滑り支承52と並列に設けられており、以上の点で第1実施形態と異なる。
【0047】
この構成によれば、滑り支承52により、上部構造USと下部構造LSの間のより大きな相対変位が許容され、第1及び第2ダンパA、Bに伝達されるので、第1及び第2ダンパA、Bの制振性能をより良好に発揮させることができる。また、鉄道橋2の耐震改修の場合には、RC橋脚9側において可動支承7を滑り支承52に交換するだけでよいので、反対側のピボット支承8の機能を変化させることなく、耐震改修を行うことができる。
【0048】
なお、第1ダンパAを滑り支承52側に配置し、第2ダンパBをピボット支承8側に配置してもよい。また、第1及び第2実施形態の構成を、鉄道橋2の耐震改修時に限らず、新設時に採用してもよいことは、もちろんである。
【0049】
図7(b)は、本発明の第3実施形態による制振装置61を示す。同図において、第1及び第2実施形態と同じ又は同等の構成要素には、同じ参照符号が付されている。この第3実施形態では、鉄道橋62は、ラーメン高架橋で構成されており、上部構造USと、一対の柱P、P及び上梁UBから成り、上部構造USを支持するフレーム状の下部構造LSを有する。
【0050】
第1ダンパAは、上梁UBと一方の柱Pの間に設けられ、第2ダンパBは、上梁UBと他方の柱Pの間に設けられている。なお、この配置に限らず、第1及び第2ダンパA、Bを上梁UBと地盤Eの間に設けてもよく、また、上梁UBと柱P又は地盤Eの間に斜めに設けてもよい。
【0051】
前述したように、第1ダンパA及び第2ダンパBは、所定振動数帯における鉄道橋2の振動を抑制することで、鉄道橋2を走行する列車の走行安定性を確保するために設置されたものであり、各ダンパの諸元(等価質量、ばね剛性及び減衰係数)は、所定振動数帯における鉄道橋2の振動を抑制するように設定されている。以下、その設定方法について説明する。
【0052】
まず、図8図12を参照しながら、第1ダンパA及び第2ダンパBの諸元の設定方法の有効性を確認するために実施したシミュレーション解析とその結果について、説明する。このシミュレーション解析は、第1ダンパAの諸元、及び第2ダンパBの諸元を段階的に設定し、その効果を順次、確認しながら、所定振動数帯における鉄道橋2の上部構造USの変位応答倍率を抑制しつつ、上部構造USの応答変位が弾性域内に収まるような設定方法を検討・確認するためのものである。
【0053】
シミュレーション解析の条件は、以下のとおりである。解析モデルは、図8(a)及び図11に示すように、解析の単純化のために、鉄道橋2(主架構)を1質点系モデル(質量ms、ばね剛性ks、減衰係数cs)とするとともに、この主架構に第1ダンパAと第2ダンパBが並列に接続されたモデルとした。
【0054】
また、このシミュレーション解析では、後述するように、ステップ1~4において、第1及び第2ダンパA、Bの諸元を段階的に設定し、それぞれの条件で、地盤Eへの地震動(Sin波)の入力による周波数応答解析を行い、その結果、得られた上部構造USの変位応答倍率に基づいて第1及び第2ダンパA、Bの諸元を最終的に設定した。また、ステップ5において、設定された第1及び第2ダンパA、Bによる振動特性を確認するために、時刻歴応答解析を行った。以下、これらのステップごとに説明する。
【0055】
・ステップ1
ステップ1では、図8(a)に示すように、第1ダンパAのみが設置されている条件で、第1ダンパAの固有振動数が所定振動数帯の中心振動数f(例えばn1)になるように、第1ダンパAの等価質量(見掛けの質量)md1n及びばね剛性(ばね定数)kb1を設定する(以下、この所定振動数帯の中心振動数fを「所定中心振動数f」という)。
【0056】
具体的には、まず質量比μ(等価質量md1と主架構質量msとの比=md1/ms)が4つの所定値μn(n=1~4)(例えばそれぞれ50%、100%、200%及び300%)になるように、等価質量md1nを次式(1)によって設定する。次に、この等価質量md1nと所定中心振動数fを用い、次式(2)によって第1ダンパAのばね剛性kb1nを設定する。式(2)は、第1ダンパAの固有周期T1の算出式である式(3)から導かれる。
md1n=μn・ms ・・・(1)
kb1n=md1n・(2π・f) ・・・(2)
1/f=T1= sqrt(md1/kb1) ・・・(3)
【0057】
以上により、第1ダンパAの固有振動数が所定中心振動数fに一致する(同調する)ような、等価質量md1とばね剛性kb1との4つの組合わせが設定される。また、第1ダンパAの減衰定数h1は仮に5%とし、4つの組合わせに対してそれぞれ周波数応答解析を行った。
【0058】
その結果を図8(b)に示す。同図中、曲線1A~1Dは、質量比μが所定値μ1~μ4のときの上部構造USの変位応答倍率をそれぞれ示し、また、点線で示す曲線Oは、第1ダンパAが設置されていない場合(ダンパなしの場合)の変位応答倍率を示す。これらの結果から、以下の効果や傾向が確認された。
a.第1ダンパAの等価質量md1及びばね剛性kb1を上記のように設定した場合、変位応答倍率は、所定中心振動数f付近では、ダンパなしの場合よりも低減され、所定中心振動数fにおいてボトム(谷)を示す。その大きさは、質量比μが大きいほど小さい。
b.一方、所定中心振動数fよりも低振動数側の所定振動数帯の境界付近では、変位応答倍率は、ダンパなしの場合よりも増大し、新たなピーク(以下「第1の山」という)が発生する。
c.質量比μが大きいほど、変位応答倍率が低減される振動数帯の大きさ(幅)がより大きくなるとともに、変位応答倍率曲線は、所定中心振動数fよりも高振動数側では、そのピーク(以下「第2の山」という)の位置を含めて、より高振動数側に移行する。
【0059】
・ステップ2
ステップ2では、上記ステップ1の設定によって発生した変位応答倍率の第1の山の値を低減するように、第1ダンパAの粘性係数cd1を設定する(図9(a)参照)。
具体的には、ステップ1で設定した第1ダンパAの等価質量md1とばね剛性kb1の4つの組合わせに対し、それぞれ減衰定数h1を5%から20%に増大する。そして、第1ダンパAの減衰係数cd1を、次式(4)及び(5)によって設定する。
ω=2π・f ・・・(4)
cd1=2・h1・ω・ms ・・・(5)
ここで、ωは、所定中心振動数fに対応する所定中心円振動数である。
このように設定された4つの第1ダンパAに対し、それぞれ周波数応答解析を行った。
【0060】
その結果は、図9(b)に示されており、以下の効果や傾向が確認された。
d.第1ステップにおいて発生した変位応答倍率の第1の山の値が低減され、この付近の変位応答倍率は、ダンパなしの場合と同等になる。
e.第1ステップと比較して、所定中心振動数fにおける変位応答倍率の谷の値は、大きくなり、谷の形状が緩やかになる。
f.変位応答倍率は、質量比μ=100%、200%及び300%の場合には、所定振動数帯の全体にわたって1.0以下であるのに対し、質量比μ=50%の場合には、所定振動数帯内の高振動数側(n2付近)において、1.0を上回ってしまう。
g.以上により、所定振動数帯の変位応答倍率を1.0以下に抑制するためには、質量比μ=100%、減衰定数h1=20%が必要であることが判明した(曲線1B)。このため、これらの質量比μ及び減衰定数h1を、ステップ2における第1ダンパAの最終的な諸元として設定した。
【0061】
図10は、このような最終設定された第1ダンパAによる変位応答倍率曲線1Bを、ダンパなしの場合の変位応答倍率曲線Oと併せて、横軸を縮小して描いたものであり、変位応答倍率の第2の山は振動数n3付近で発生している。
【0062】
・ステップ3
ステップ3では、第1ダンパAの設置によりステップ2の終了時に発生した変位応答倍率曲線1Bの第2の山の値を低減するように、第2ダンパBの等価質量md2n及びばね剛性kb2nを設定する(図11参照)。具体的には、まず所定振動数帯よりも高振動数側に相当する第2ダンパBの4つのダンパ周期T2n(n=1~4)(例えばそれぞれ0.56s、0.40s、0.30s、0.20s)を設定する。
次に、これらのダンパ周期T2nが得られるように、次式(6)によって、第2ダンパBの等価質量md2n及びばね剛性kb2nを設定する。
T2n= 2π・sqrt(md2n/kb2n) ・・・(6)
【0063】
以上により、第2ダンパBの固有振動数が、4つの設定値T2nに相当する、所定振動数帯よりも高振動数側の4つの振動数に一致する(同調する)ような、等価質量md2とばね剛性kb2との4つの組合わせが設定される。
【0064】
・ステップ4
ステップ4では、変位応答倍率が、ダンパなしの場合のそれよりも低くなるように、第2ダンパBの減衰係数cd2を設定する(図12(a)参照)。
具体的には、ステップ3で設定した第2ダンパBの等価質量md2とばね剛性kb2の4つの組合わせに対し、それぞれ第2ダンパBの減衰定数h2を20%に設定するとともに、第2ダンパBの減衰係数cd2を、主架構質量msを用い、次式(7)及び(8)によって設定する。
ω2n=2π/T2n ・・・(7)
cd2n=2・h2・ω2n・ms ・・・(8)
ここで、ω2nは、ダンパ周期T2nに対応する中心円振動数である。
以上のように設定された4つの場合について、それぞれ周波数応答解析を行った。
【0065】
その結果は、図12(b)に示されており、以下の効果や傾向が確認された。
h.第2ダンパBの設置により、第1ダンパAのみの場合と比較して、変位応答倍率の第2の山の値が大幅に低減され、その効果は、ダンパ周期T2が最長の0.56sのときに特に大きい。
i.一方、第2ダンパBの設置に伴い、変位応答倍率は、振動数n4よりも大きな振動数帯において、第1ダンパAのみの場合よりも増大するとともに、新たなピーク(以下「第3の山」という)が発生する。
j.この第3の山の値は、いずれのダンパ周期T2の場合にも、1.0を上回る。また、ダンパ周期T2が短いほど、第3の山の位置はより高振動数側に移行し、第3の山の値はより小さくなる。
【0066】
・ステップ5
ステップ5では、この変位応答倍率の第3の山の位置が応答特性に及ぼす影響を確認するために、時刻歴応答解析を行った。解析モデルは、図12(a)に示す、1質点系の鉄道橋2(主架構)に第1ダンパA及び第2ダンパBを並列に接続したモデルである。主架構質量msを700ton、主架構の固有周期Teqを0.67sとした。主架構の復元力特性は、図13に示すとおりである。同図のδEは、弾性限界に相当する変位を示す。また、入力地震動として、図14に示すスペクトル特性を有するL2地震動(G3地盤)を用いた。以上の条件により、ダンパなしの場合と、第1及び第2ダンパA、Bが設けられ、ステップ3で設定された4つのダンパ周期T2の場合について、時刻歴応答解析を行った。
【0067】
その結果、図示しないが、主架構の最大応答変位は、第1及び第2ダンパA、Bを設置した場合には、ダンパ周期T2(第3の山の位置)にかかわらず、図13の復元力特性の弾性限界に相当する変位δEを概ね下回っており、このことから、ほぼ弾性域内に収まっていることが分かる。
【0068】
一方、異なるダンパ周期T2の間の比較では、最大応答変位は、T2=0.56sの場合よりも、T2=0.40sの場合の方が若干大きくなっている。その原因は、図14に示されるように、入力地震動のパワースペクトルが振動数n5付近で大きいことが影響しているためと考えられる。このことから、制振上の安全を考慮すると、変位応答倍率の第3の山が応答特性に影響を及ぼさないよう、第2ダンパBの固有振動数を図14にハッチングで示す振動数n6以上の領域に設定することが好ましい。
【0069】
以上の観点から、第5ステップの結論として、第2ダンパBのダンパ周期T2は、最終的に0.30sに設定されている。以上の結果、第1~第5ステップを経て最終的に設定された第1ダンパA及び第2ダンパBを設置した場合の変位応答倍率曲線は、図12(b)の曲線2Cに相当し、ダンパなしの場合と併せて、図15のように表される。同図から、変位応答倍率は、所定振動数帯では、ダンパなしの場合より小さく、値1以下に低減され、他の振動数帯では、n7付近を除き、ダンパなしの場合よりも小さく、最大値が大幅に低減されることが確認された。
【0070】
図16は、第1ダンパA及び第2ダンパBにより設定された鉄道橋2の振動の伝達特性を、図14に示したL2地震動のスペクトル特性と併せて示したものである。同図中の点線で囲んだ低振動数側の第1領域は、地震動の第1ピーク帯に相当するとともに、所定振動数帯及び主架構の固有振動数を含む。また、点線で囲んだ高振動数側の第2領域は、地震動の第2ピーク帯に相当する。図16から、これらの第1及び第2領域を避けるように、振動の伝達特性が有効に低減されることが分かる。
【0071】
次に、図17図22を参照しながら、上述した手法により第1ダンパA及び第2ダンパBを設定した場合の効果を検証するために実施した試験について説明する。この試験は、第1ダンパAを実機で構成するとともに、鉄道橋2及び第2ダンパBを解析用のモデルで構成し、モデルを用いた解析と実機の動作を併用して試験を行うものである。
【0072】
まず、試験装置31について説明する。図17に示すように、試験装置31は、井桁状に一体に組み立てられた上下左右のフレーム材32a~32dから成る試験フレーム32と、第1ダンパA(第1マスダンパA1、ばね部材A2及び支持部材A3)を含む振動系Sに加振力を入力するためのアクチュエータ33と、アクチュエータ33を第1マスダンパA1に連結するための連結部材34と、下フレーム材32b上に設けられ、連結部材34を左右方向に案内するガイド機構35を備えている。
【0073】
アクチュエータ33は、例えばソレノイドで構成されており、左フレーム材32cに取り付けられた本体部33aと、本体部33aによって駆動され、連結部材34に連結されたプランジャ33bを有する。アクチュエータ33は、後述する制御装置41(図18参照)で制御され、それにより、プランジャ33bから加振力が出力される。
【0074】
上記のフレーム材32a~32d及び連結部材34は、鋼材で構成されている。連結部材34に第1マスダンパA1の第2フランジ26が連結され、第1フランジ25にばね部材A2が連結されるとともに、ばね部材A2は右フレーム材32dに連結されている。
【0075】
試験装置31はさらに、アクチュエータ6と連結部材34の間に設けられたロードセル42と、連結部材34の右面に取り付けられた変位センサ43と、制御装置41を備える。ロードセル42は、例えばひずみゲージ式のものであり、連結部材34に作用する荷重を、第1マスダンパA1の反力(以下「ダンパ反力」という)Fとして検出し、その検出信号を制御装置41に出力する。
【0076】
変位センサ43は、例えばレーザー式のものであり、第1マスダンパA1の内筒21に対するねじ軸22aの変位(以下「ダンパ変位」という)yを検出し、その検出信号を制御装置41に出力する。
【0077】
図19に示すように、制御装置41は、アクチュエータ33への指令変位dを演算する指令変位演算器41aと、後述する伝達関数Fs(s)を演算する伝達関数演算器41bと、各種の処理を行う処理装置41cを有する。指令変位演算器41a及び伝達関数演算器41bは、例えば、CPUやRAM、ROMを有するパーソナルコンピュータで構成されている。処理装置41cは、プロセッサやRAM、ROM、I/Oインターフェースを有する。また、上記のパーソナルコンピュータは、LANケーブルなどを介して、処理装置41cとの間でデータを相互に授受可能に接続されている。
【0078】
実機である第1ダンパAの諸元は、等価質量md1=5472ton、ばね剛性kb1=14300kN/m、粘性係数cd1=2146kN・s/m、固有円振動数ω1=1.62rad/s、固有周期T1=3.89sである。
【0079】
また、鉄道橋2や第2ダンパBを含むモデルは、例えば処理装置41cに記憶されており、図20(a)は鉄道橋2+第1ダンパAの場合、(b)は鉄道橋2+第1ダンパA+第2ダンパBの場合をそれぞれ示す。いずれの場合にも、第1ダンパAはダンパ反力Fとして描かれている。また、これらのモデルは、図7(a)に示した、第1及び第2ダンパA、Bがピボット支承8と反対側の滑り支承52の付近に配置される第2実施形態を想定したものである。
【0080】
また、モデル中の符号m1、m2、m3はそれぞれ、ケーソン基礎10を併せた含むRC橋脚9、主桁3及び鋼製橋脚11の質量を示し、k1、k2、k3、k4はそれぞれ、RC橋脚9、ピボット支承8、鋼製橋脚11及び滑り支承52のばね剛性を示し、c1、c2、c3、c4はそれぞれ、RC橋脚9、ピボット支承8、鋼製橋脚11及び滑り支承52の減衰係数を示す。
【0081】
また、第2ダンパBの諸元は、図21(c)に示すように設定されており、等価質量md2=2200ton、ばね剛性kb2=2000kN/m、粘性係数cd2=30000kN・s/m、固有円振動数ω2=0.95rad/s、固有周期T2=6.59sである。
【0082】
以上の試験条件に基づき、試験装置31を用いて、鉄道橋2に第1ダンパAのみを設置したケース1と、鉄道橋2に第1ダンパA及び第2ダンパBを設置したケース2について、以下の手法によって試験を行った。なお、入力地震動として、L2地震動(G4地盤)を用い、入力倍率は、アクチュエータ33の能力を考慮して調整した。
【0083】
まず、指令変位演算器41aにおいて、入力地震動の変位を所定時間ごとに読み出した所定入力変位x0に、試験フレーム32の伝達特性を表す伝達関数Fs(s)の逆数(=1/Fs(s))を乗算することによって、アクチュエータ33への指令変位dを算出する。なお、指令変位dの初回の算出時には、伝達関数Fs(s)の初期値として所定値が用いられる。この指令変位dに基づく駆動信号が入力されることにより、アクチュエータ33が駆動され、第1ダンパAを含む振動系Sを加振することによって、ダンパ反力F及びダンパ変位yが発生する。これらのダンパ反力F及びダンパ変位yは、ロードセル42及び変位センサ43によって検出される。
【0084】
次に、伝達関数演算器41bにおいて、指令変位dとダンパ変位yの関係を定義するモデルとして、試験フレーム32の伝達特性を表す伝達関数Fs(s)を算出する。具体的には、指令変位dと検出されたダンパ変位yに基づき、リアルタイムで、伝達関数Fs(s)のモデルパラメータを同定することによって、伝達関数Fs(s)を算出するとともに、その逆数(1/Fs(s))を指令変位演算器41aに出力する。
【0085】
指令変位演算器41aでは、入力された伝達関数Fs(s)の逆数を所定入力変位x0に乗算することによって、指令変位dがリアルタイムで算出され、アクチュエータ33に出力される。以上のような伝達関数Fs(s)の適用により、試験フレーム32の伝達特性が良好に補償される。地震動が継続している間、検出されたダンパ反力Fは、処理装置41c内のモデルにフィードバックされる。また、処理装置41cでは、ダンパ反力Fを用いて時刻歴応答解析を行い、鉄道橋2の上部構造USの変位応答倍率や加速度応答倍率が算出される。
【0086】
以下、試験結果について説明する。図21は、第1ダンパAのみを設置したケース1の試験で得られた変位応答倍率及び加速度応答倍率の実験値(太線)を、ダンパなしの場合の解析値(細線)及び第1ダンパAを設置した場合のモデルのみに基づく解析値(点線)とともに示す。図22は、第1ダンパA及び第2ダンパBを設置したケース2などについて、図21と同様の実験値及び解析値を示す。
【0087】
図21に示されるように、変位応答倍率及び加速度応答倍率のピーク値は、ダンパを設置していない場合には、いずれも約17倍であるのに対し、第1ダンパAのみを設置したケース1では、いずれも約6倍であり(矢印a1、b1)、大幅に低減されている。特に、第1ダンパAの固有周期T1に相当する振動数付近において、変位応答倍率及び加速度応答倍率が大幅に低下している(矢印a2、b2)。
【0088】
このことから、第1ダンパAを設置し、その固有周期T1を振動を抑制すべき目標の振動数帯に相当するように設定することによって、すなわち、第1ダンパAの固有振動数を目標の振動数帯の振動数に同調させることによって、その振動数帯の振動が有効に抑制されることが確認された。また、ケース1において、実機を部分的に用いた場合の実験値とモデルのみに基づく解析値は、概ね一致しており、上記試験の有効性が確認された。
【0089】
また、第2ダンパBをさらに設置した場合には、図22に示されるように、変位応答倍率及び加速度応答倍率のピーク値(第2の山)は、第1ダンパAのみの場合の約6倍から3.5倍程度に低減され、ダンパなしの場合と同等になっている(矢印a3、b3)。このことから、第2ダンパBを設置し、その諸元を前述したように設定することによって、第1ダンパAの設置に伴って発生した高振動数側のピーク値が有効に低減されることが確認された。
【0090】
以上のように、本発明の実施形態によれば、鉄道橋2の上部構造USと下部構造LSの間に第1ダンパAが設置され、第1ダンパAは、第1マスダンパA1、第1マスダンパA1と直列のばね部材A2、及び第1マスダンパA1と並列の粘性体30を有する。そして、第1マスダンパA1の等価質量md1及びばね部材A2のばね剛性kb1を前述したように設定することにより、第1ダンパAの固有振動数を所定中心振動数fに同調させる。これにより、所定中心振動数fを含む所定振動数帯における鉄道橋2の振動を良好に抑制でき、列車Tの走行安定性を有効に確保することができる。
【0091】
また、このように第1ダンパAの固有振動数を所定中心振動数fに同調させた場合、所定中心振動数fよりも低振動数側に振動のピークが新たに発生することがある。その場合には、粘性体30の減衰係数cd1の設定により、そのような低振動数側の振動のピークを有効に抑制でき、所定振動数帯における鉄道橋2の振動をさらに良好に抑制することができる。
【0092】
さらに、鉄道橋2の上部構造USと下部構造LSの間に、第1ダンパAと並列に第2ダンパBが設置されており、第2ダンパBは、第1ダンパAと同様、第2マスダンパB1、第2マスダンパB1と直列の支持部材B2、及び第2マスダンパB1と並列の粘性体30を有する。そして、この粘性体30の減衰係数cd2の設定により、第1ダンパAを設置したことにより発生する、所定振動数帯よりも高振動数側における振動のピークが抑制される。これにより、所定振動数帯よりも高振動数側における鉄道橋2の振動を良好に抑制でき、ひいては鉄道橋2全体の耐震性を向上させることができる。
【0093】
また、第2マスダンパB1の等価質量md2及び支持部材B2のばね剛性kb2を前述したように設定することにより、第2ダンパB1の固有振動数を所定振動数帯よりも高振動数側の振動数に同調させる。これにより、所定振動数帯よりも高振動数側における鉄道橋2の振動をさらに良好に抑制でき、鉄道橋2全体の耐震性をさらに向上させることができる。
【0094】
さらに、図14及び図16に示すように、第2ダンパB1の固有振動数は、鉄道橋2の振動の伝達特性の卓越周波数(例えばn6)が、鉄道橋2に入力される地震動のスペクトル特性の卓越周波数(例えばn5)よりも高振動数側にずれるように設定されている。これにより、入力される地震動に対し、その卓越周波数における鉄道橋2の変位・振動を抑制でき、鉄道橋2の耐震性をさらに向上させることができる。
【0095】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、本発明を鉄道橋に適用し、所定振動数帯として、列車の走行安定性が低い振動数帯における鉄道橋の振動を抑制するように構成されている。本発明は、これに限らず、他の構造物を対象とし、その所定振動数帯における構造物の振動を抑制するのに適用してもよい。
【0096】
例えば、ある構造物の上に機器が載置・支持されていて、構造物が卓越振動数以外の特定の振動数帯において振動すると、その機器に悪影響を及ぼすような場合、その振動数帯における構造物の振動を抑制するために、本発明を適用することが可能である。あるいは、例えば道路橋や建物に本発明を適用し、道路橋などがその卓越振動数以外の特定の振動数帯において振動することを回避したい場合、その特定の振動数帯を所定振動数帯とし、本発明によって振動を抑制するようにしてもよい。
【0097】
また、実施形態では、第2ダンパBは、第1ダンパAと同様、減衰部材(粘性体30)に加えて、マスダンパ(第2マスダンパB1)及びばね部材(支持部材B2)を有しているが、所定振動数帯よりも高振動数側における鉄道橋2の振動を、減衰部材のみによって抑制できるような場合には、マスダンパ及び/又はばね部材を省略してもよい。
【0098】
さらに、第2ダンパBを設置した結果、より高振動数側において振動のピークが新たに発生した場合や、振動が増大した場合には、その振動特性を抑制するために、第2ダンパBと同様に構成された第3のダンパをさらに設けてもよい。
【0099】
また、鉄道橋2の構成は、図1図7に例示したものに限らず、任意であり、鉄道橋2に対する第1及び第2ダンパA、Bの配置についても適宜、変更することが可能である。さらに、実施形態では、第1及び第2マスダンパA1、B1は、ボールねじ式のものであるが、これに代えて歯車モータ式のものを採用してもよい。
【0100】
実施形態において示した鉄道橋2、第1及び第2ダンパA、Bなどの諸元・数値は、あくまで例示であり、適宜、変更されるものである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0101】
1 制振装置
2 鉄道橋(構造物)
23 回転マス(第1回転マス、第2回転マス)
30 粘性体(第1減衰部材、第2減衰部材)
51 制振装置
61 制振装置
US 上部構造(構造物の第1部位)
LS 下部構造(構造物の第2部位)
f 所定中心振動数(所定振動数帯の中心振動数)
A 第1ダンパ
A1 第1マスダンパ
A2 ばね部材(第1ばね部材)
A3 支持部材(第1ばね部材)
B 第2ダンパ
B1 第2マスダンパ
B2 支持部材(第2ばね部材)
md1 第1ダンパの等価質量
md2 第2ダンパの等価質量
kb1 ばね部材及び支持部材(第1ばね部材)のばね剛性
kb2 支持部材(第2ばね部材)のばね剛性
cd1 粘性体の減衰係数(第1減衰部材の減衰係数)
cd2 粘性体の減衰係数(第2減衰部材の減衰係数)
図1
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