(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】水中探知装置および水中探知方法
(51)【国際特許分類】
G01S 15/96 20060101AFI20231225BHJP
【FI】
G01S15/96
(21)【出願番号】P 2020077337
(22)【出願日】2020-04-24
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111383
【氏名又は名称】芝野 正雅
(74)【代理人】
【識別番号】100170922
【氏名又は名称】大橋 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100203862
【氏名又は名称】西谷 香代子
(72)【発明者】
【氏名】御園生 哲史
(72)【発明者】
【氏名】松村 隆史
(72)【発明者】
【氏名】西久保 大輔
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0080313(US,A1)
【文献】特公昭62-040019(JP,B2)
【文献】特開2003-240849(JP,A)
【文献】特開平10-104342(JP,A)
【文献】特開平09-269369(JP,A)
【文献】特開2003-270328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/52 - G01S 7/64
G01S 15/00 - G01S 15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中
物標の時系列探知用に
ユーザにより任意の互いに異なる指向方向に設定された複数のビームのうち、相互干渉の影響が抑制される条件を満たすビームの組み合わせを
選定するビーム設定部と、
前記組み合わせの前記ビームを同時に送受信する送受信制御部と、を備える、
ことを特徴とする水中探知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の水中探知装置において、
前記条件は、前記各ビームの
前記指向方
向に基づいて設定される、
ことを特徴とする水中探知装置。
【請求項3】
請求
項2に記載の水中探知装置において、
前記条件は、送受波器から真下に下ろした軸に対して前記指向方向が対称である前記ビームの組合せを含む、
ことを特徴とする水中探知装置。
【請求項4】
請求項
2ないし3の何れか一項に記載の水中探知装置において、
前記条件は、前記指向方向が送受波器から真下以外の方向である前記ビームの組合せを含む、
ことを特徴とする水中探知装置。
【請求項5】
請求項
2ないし4の何れか一項に記載の水中探知装置において、
前記条件は、前記指向方向が送受波器から真下に下ろした軸に対するチルト角が同じである前記ビームの組合せを含む、
ことを特徴とする水中探知装置。
【請求項6】
水中物標の時系列探知用にユーザにより設定された互いに異なる方向に送受信するビームのうち、相互干渉の影響が抑制される条件を満たす組み合わせの前記ビームを同時に送受信し、
互いに異なる方向に送受信する前記ビームのうち、前記条件を満たさない前記ビームは、異なるタイミングで送受信する、
ことを特徴とする水中探知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に音波を送波し、その反射波に基づいて、水中の状態を探知する水中探知装置および水中探知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、互いに異なる方向に送受信用のビームを形成して、魚群や水底の状況を探知する水中探知装置が知られている。この種の水中探知装置では、複数のビームが用いることにより、探知領域を広げることができる。しかし、その反面、複数のビームが同時に送受信されると、ビーム間の相互干渉により、各ビームの探知画像に虚像が生じてしまう。
【0003】
この問題を解消する方法として、各ビームを異なるタイミングで送受信する方法が用いられ得る。しかし、この方法では、全てのビームについて送受信が完了するまでの周期が長くなるとの問題がある。また、他の方法として、各ビームの送信周波数を互いに相違させ、受信系において周波数弁別により各ビームの受信信号を抽出する方法が用いられ得る。しかし、この方法では、各ビームの周波数を高い周波数帯域に設定する必要があるため、装置が浅海での利用に制限されるとの問題がある。
【0004】
そこで、これら2つの問題を解消する方法として、同じ送信周波数のビームを異なるタイミングで送受信するモードと、互いに異なる送信周波数のビームを同じタイミングで送受信するモードとを切り替える方法が用いられ得る。以下の特許文献1には、この種の魚群探知機が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のようなモードを切り替える方法では、単にモードが切り替えられるだけであるため、各モードが実行される際には、当該モードにおける上記問題がそのまま残ることになってしまう。
【0007】
かかる課題に鑑み、本発明は、ビーム間の相互干渉に基づく虚像を抑制しつつ、全てのビームを送受信する周期を効果的に短くすることが可能な水中探知装置および水中探知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は水中探知装置に関する。この態様に係る水中探知装置は、水中物標の時系列探知用にユーザにより任意の互いに異なる指向方向に設定された複数のビームのうち、相互干渉の影響が抑制される条件を満たすビームの組み合わせを選定するビーム設定部と、前記組み合わせの前記ビームを同時に送受信する送受信制御部と、を備える。
【0009】
本態様に係る水中探知装置によれば、複数のビームのうち、相互干渉が抑制される組み合わせのビームは、同時に送受信される。このため、相互干渉による虚像の発生を抑制しつつ、全てのビームについて送受信が完了する周期を短くできる。
【0010】
本態様に係る水中探知装置において、前記条件は、前記各ビームの前記指向方向に基づいて設定され得る。
【0011】
水底から反射したエコーの受信レベルは、ソナー方程式により求められ得る。このソナー方程式を規定するパラメータのうち、ビームの指向方向により変化するパラメータは、水底反射強度減衰量と指向特性である。このため、水底反射強度減衰量および指向特性に基づいて、相互干渉が抑制される指向方向のビームの組みあわせを適切に設定できる。よって、上記のように、相互干渉の影響が抑制されるビームの組合せの条件を、ビームの指向方向に基づいて設定することにより、相互干渉の影響が抑制されるビームの組合せを適切に設定できる。
【0012】
たとえば、前記条件は、送受波器から真下に下ろした軸に対して前記指向方向が対称である前記ビームの組合せを含み得る。
【0013】
この条件は、水底反射強度減衰量の差が最小となり、且つ、他方のビームに対する指向特性が最小となるビームの組み合わせを規定することとを等価である。
【0014】
この条件が満たされる場合、一方のビームは、他方のビームに最も干渉しにくくなり、他方のビームによる虚像が最も生じにくくなる。よって、前記条件にこの条件を含めることにより、相互干渉の影響が抑制されるビームの組合せを適切に設定できる。
【0015】
あるいは、前記条件は、前記指向方向が送受波器から真下以外の方向である前記ビームの組合せを含み得る。
【0016】
真下に向けられたビームは、水底反射強度減衰量が最も小さく、エコー強度が最も大きくなるため、他の方向に向けられたビームの受信信号に大きく影響しやすい。また、真下に向けられたビームは、他の方向に向けられたビームに比べてエコーがより早く受波されるため、他の方向のビームにより生成される水底の画像付近に虚像として表れやすい。よって、上記条件のように、同時に送受信されるビームから真下に向けられたビームを除くことにより、真下以外のビームにより生成される画像に虚像が表れることを抑制できる。
【0017】
あるいは、前記条件は、前記指向方向が送受波器から真下に下ろした軸に対するチルト角が同じである前記ビームの組合せを含み得る。
【0018】
送受波器から真下に下ろした軸に対して指向方向が同じチルト角であるビームが同時に送信された場合、各ビームは、水底までの往復距離が略同じとなるため、各ビームの受波タイミングに殆ど差が生じない。このため、これらのビームが同時に送受信されたとしても、各ビームにより生成される水底の画像付近には、他のビームによる虚像が含まれにくくなる。よって、上記条件によれば、各ビームにより生成される画像に他のビームによる虚像が表れることを抑制しつつ、複数のビームを適切に同時送受信できる。
【0019】
本発明の第2の態様は、水中探知方法に関する。この態様に係る水中探知方法は、水中物標の時系列探知用にユーザにより設定された互いに異なる方向に送受信するビームのうち、相互干渉の影響が抑制される条件を満たす組み合わせの前記ビームを同時に送受信し、互いに異なる方向に送受信する前記ビームのうち、前記条件を満たさない前記ビームは、異なるタイミングで送受信する。
【0020】
本態様に係る水中探知方法によれば、上記第1の態様と同様の効果が奏され得る。
【発明の効果】
【0021】
以上のとおり、本発明によれば、ビーム間の相互干渉に基づく虚像を抑制しつつ、全てのビームを送受信する周期を効果的に短くすることが可能な水中探知装置および水中探知方法を提供できる。
【0022】
本発明の効果ないし意義は、以下に示す実施形態の説明により更に明らかとなろう。ただし、以下に示す実施形態は、あくまでも、本発明を実施化する際の一つの例示であって、本発明は、以下の実施形態に記載されたものに何ら制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、実施形態に係る、水中探知装置の使用形態を示す図である。
【
図2】
図2(a)、
図2(b)および
図2(c)は、それぞれ、実施形態に係る、船の左右方向に複数の送信ビームが形成された状態を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る、水中探知装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4(a)は、実施形態に係る、複数の送信ビームを同時に送波する場合の送波タイミングを示すタイムチャートである。
図4(b)、
図4(c)および
図4(d)は、それぞれ、実施形態に係る、
図4(a)のタイミングで送波された各送信ビームが水底で反射されて生じたエコーの受信信号レベルを模式的に示すタイミチャートである。
【
図5】
図5は、実施形態に係る、
図4(b)、
図4(c)、
図4(d)に示した各受信ビームの受信信号により生成される水底の画像を示す図である。
【
図6】
図6(a)は、実施形態に係る、送信ビームと受信ビームの形成例を示す図である。
図6(b)は、実施形態に係る、各送信ビームが水底で反射された場合のエコーを示す図である。
【
図7】
図7は、実施形態に係る、ビームの送受信制御を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、実施形態に係る、非干渉条件の判定処理を示すフローチャートである。
【
図9】
図9(a)、
図9(b)および
図9(c)は、それぞれ、実施形態に係る、水中探知用の5つの送信ビームが所定の方法で設定されている場合の制御動作を模式的に示す図である。
【
図10】
図10(a)、
図10(b)および
図10(c)は、それぞれ、実施形態に係る、水中探知用の5つの送信ビームが他の方法で設定されている場合の制御動作を模式的に示す図である。
【
図11】
図11(a)、
図11(b)および
図11(c)は、それぞれ、実施形態に係る、水中探知用の5つの送信ビームがさらに他の方法で設定されている場合の制御動作を模式的に示す図である。
【
図12】
図12は、変更例1に係る、非干渉条件の判定処理を示すフローチャートである。
【
図13】
図13(a)および
図13(b)は、それぞれ、変更例1に係る、水中探知用の5つの送信ビームが所定の方法で設定されている場合の制御動作を模式的に示す図である。
【
図14】
図14は、変更例2に係る、非干渉条件の判定処理を示すフローチャートである。
【
図15】
図15(a)、
図15(b)および
図15(c)は、それぞれ、変更例2に係る、水中探知用の5つの送信ビームが所定の方法で設定されている場合の制御動作を模式的に示す図である。
【
図16】
図16は、変更例3に係る、非干渉条件の判定処理を示すフローチャートである。
【
図17】
図17(a)、
図17(b)および
図17(c)は、それぞれ、変更例3に係る、水中探知用の5つの送信ビームが所定の方法で設定されている場合の制御動作を模式的に示す図である。
【
図18】
図18(a)は、他の変更例に係る、船が傾いている場合の各送信ビームの状態を示す図である。
図18(b)は、他の変更例に係る、船が傾いている場合に同時に送受信されるビームの組み合わせを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。以下の実施形態には、漁船等の船体に設置される水中探知装置に本発明を適用した例が示されている。ただし、以下の実施形態は、本発明の一実施形態あって、本発明は、以下の実施形態に何ら制限されるものではない。
【0025】
本実施形態の水中探知装置は、たとえば、魚群探知機として用いられる。
【0026】
図1は、水中探知装置の使用形態を示す図である。便宜上、
図1以降には、船1の前後左右上下方向を示す軸が付記されている。
【0027】
図1に示すように、本実施形態では、水中探知装置を構成する送受波器11が船1の船底に設置され、送受波器11から水中に送信ビーム2が送波される。送信ビーム2は、たとえば、超音波である。水中に送波される送信ビーム2の数および指向方向は、設定可能な範囲において、ユーザにより任意に設定される。
【0028】
送受波器11から真下に下ろされた軸L0に対する送信ビーム2のチルト角θtは、たとえば、0~20°の範囲で設定可能である。また、前方向(船首方向)を基準とする軸L0回りの送信ビーム2のベアリング角θbは、たとえば、0~360°の範囲で設定可能である。送信ビーム2の数は、たとえば、1~5つの範囲で設定可能である。ただし、設定可能なチルト角θt、ベアリング角θbの範囲および送信ビーム2の数は、上記に限られるものではない。
【0029】
各送信ビーム2のエコーを送受波器11で受波することにより、各送信ビーム2の指向方向に存在する魚3や水底等が探知される。このとき、送信ビームの送波からエコーの受信までの時間により、魚3や水底等までの距離が算出される。また、エコーの強度により魚3の体長等が算出される。これら算出結果に基づいて、各送信ビーム2の指向方向における魚群の位置や規模が示された画像や、魚群に含まれる魚3の体長の分布状況が示された画像が、水底とともに、船1の操舵室等に設置された表示器に表示される。
【0030】
本実施形態では、送受波器11からの送信ビーム2は、狭い範囲において、ほぼ円錐の形状に広がる。円錐形状の送信ビーム2の領域が、当該送信ビーム2による探知領域となる。各送信ビーム2は、船1の進行に伴い、水平方向に移動する。これにより、船1の移動に伴い逐次変化する水中の状況が、時系列で、表示器に表示される。
【0031】
図2(a)~
図2(c)は、船1の左右方向に複数の送信ビーム2が形成された状態を模式的に示す図である。
【0032】
図2(a)では、真下方向の送信ビーム2と、左右方向のチルト角θtが互いに同じである2組の送信ビーム2が形成されている。
図2(b)では、真下方向の送信ビーム2と、左右方向のチルト角θtが互いに同じである1組の送信ビーム2が形成されている。
図2(c)では、真下方向には送信ビーム2は形成されず、チルト角θtが互いに同じである2組の送信ビーム2が形成されている。
【0033】
このように、使用者は、操舵室に設置された制御ユニットを用いて、設定可能な範囲内において、送信ビーム2の指向方向および数を任意に設定できる。
図2(a)~
図2(c)では、船1の左右方向に複数の送信ビーム2が形成されたが、船1の前後方向に複数の送信ビーム2が形成されてもよく、
図1のように船1の周方向に並ぶように送信ビーム2が形成されてもよい。
【0034】
図3は、水中探知装置10の構成を示すブロック図である。
【0035】
水中探知装置10は、送受波器11と、送信部12と、受信部13と、送受信切替部14と、信号処理部15と、入力部16と、表示部17とを備える。
【0036】
送受波器11は、船1の船底において、船1の真下方向に向けられる。送受波器11は、アレイ状に配置された多数の超音波振動子11aを備える。送波時において、各超音波振動子11aには、正弦波状の送信信号が印加される。これにより、各超音波振動子11aから超音波が送波されて、
図1に示した送信ビーム2が形成される。各超音波振動子11aに印加される送信信号の位相を調整することにより、送信ビーム2の指向方向が調整される。
【0037】
受信部13は、送受信切替部14を介して、各超音波振動子11aから受信信号が入力される。受信部13は、各超音波振動子11aからの受信信号に、位相制御(ビームフォーミング)を適用することにより、各送信ビーム2と同一方向の受信ビームを形成する。受信部13は、各受信ビームの受信信号を信号処理部15へ出力する。
【0038】
送受信切替部14は、送波時において、送信部12を送受波器11へ接続し、受波時において、受信部13を送受波器11へ接続する。送受信切替部14における送受の切替タイミングは、信号処理部15によって制御される。後述のように、本実施形態では、複数のビーム(送信ビーム2および受信ビーム)を同時に送受信するシーケンスと、各ビームを異なるタイミングで送受信するシーケンスとが行われ得る。送受信切替部14は、信号処理部15からの制御のもと、これらのシーケンスに応じて、送受波器11に対する送信部12および受信部13の接続を切り替える。
【0039】
信号処理部15は、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理回路と、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)や、ハードディスク等の記憶媒体とを備える。信号処理部15は、記憶媒体に予め保持したプログラムに従って各部を制御することにより、水中探知処理を実行する。信号処理部15が、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の集積回路で構成されてもよい。
【0040】
なお、信号処理部15は、必ずしも、1つの集積回路で構成されなくてもよく、複数の集積回路や演算処理回路が組み合わされて構成されてもよい。たとえば、信号処理部15は、送信部12、送受信切替部14等を制御するための演算処理回路と、受信部13から入力される受信信号を処理して所定の画像を生成するための演算処理回路とを、個別に備えていてもよい。
【0041】
信号処理部15は、上記プログラムにより、ビーム設定部15aおよび送受信制御部15bの機能を実行する。ビーム設定部15aは、相互干渉の影響が抑制される条件を満たすビーム(送信ビームおよび受信ビーム)の組み合わせを設定する機能部であり、送受信制御部15bは、当該組み合わせのビームを同時に送受信するとともに、当該組み合わせ以外のビームを個別に送受信する機能部である。これら機能部による処理は、追って、
図7を参照して説明する。
【0042】
なお、ここでは、ビーム設定部15aおよび送受信制御部15bが、プログラムにより信号処理部15に機能部として付与されたが、ビーム設定部15aおよび送受信制御部15bがロジック回路等によるハードウエアにより構成されてもよい。
【0043】
入力部16は、使用者からの入力を受け付けるユーザインタフェースである。入力部16は、マウスやキーボード等の入力手段を備える。入力部16が、表示部17に一体化されたタッチパネルであってもよい。表示部17は、信号処理部15によってビームごとに生成された画像を表示する。表示部17は、モニタや液晶パネル等の表示器を備える。
【0044】
ところで、上記構成の水中探知装置10では、複数の送信ビーム2を同時に送信してビーム(送信ビームおよび受信ビーム)の送受信を行うことにより、全種類の送信ビーム2に対する処理(1ピングの処理)に要する周期を短縮できる。しかし、このように、各ビームに対する送受信を同時に行うと、ビーム間で相互干渉が生じ、一のビームにより取得される画像に相互干渉による虚像が表れてしまう。
【0045】
図4(a)~
図4(d)は、複数の送信ビーム2を同時に送信した場合の、各送信ビームの水底からのエコーの信号レベルを模式的に示すタイムチャートである。
【0046】
ここでは、
図2(b)のように、真下と左右に向けて送信ビーム2が送波される場合が想定されている。左右の送信ビーム2のチルト角θtは同一である。また、船首方向に対する左右の送信ビーム2のベアリング角θbは、それぞれ、90°および270°である。
【0047】
図4(a)は、3つの送信ビーム2の送波タイミングを示している。ここでは、便宜上、左方向の送信ビーム2が送信ビームTB1と標記され、真下方向の送信ビーム2が送信ビームTB2と標記され、右方向の送信ビーム2が送信ビームTB3と標記されている。
図4(a)に示すように、送信ビームTB1~TB3は、時間の隙間無く連続的に、すなわち、実質的に同時に、送波される。
【0048】
図4(b)、
図4(c)、
図4(d)は、それぞれ、送信ビームTB1~TB3が水底で反射されて生じたエコーの受信信号レベルを模式的に示している。
【0049】
図4(b)は、左方向の送信ビームTB1に対応する受信ビームRB1で取得される各エコーの受信信号レベルを示している。
図4(c)は、真下方向の送信ビームTB2に対応する受信ビームRB2で取得される各エコーの受信信号レベルを示している。
図4(d)は、右方向の送信ビームTB3に対応する受信ビームRB3で取得される各エコーの受信信号レベルを示している。
図4(b)、
図4(c)、
図4(d)において付記された(1)~(3)は、それぞれ、
図4(a)において(1)~(3)が付記された送信ビームTB1~TB3の各エコーを示している。便宜上、
図4(b)、
図4(c)、
図4(d)には、各エコーの受信信号レベルがデシベル表示で示されている。
【0050】
図4(b)に示すように、受信ビームRB1によって取得される受信信号には、送信ビームTB1のエコーによる受信信号の他、送信ビームTB2、TB3のエコーによる受信信号が重畳される。ここで、受信ビームRB1は、送信ビームTB1と同一の指向方向であるため、送信ビームTB1のエコーの受信信号レベル(-30.6dB)は、他の2つの送信ビームTB2のエコーの受信信号レベル(-40.6dB、-55.6dB)よりも高くなる。
【0051】
しかし、真下方向は、左右の斜め方向よりも水底までの距離が短いため、真下方向の送信ビームTB2は、左右方向の送信ビームTB1、TB2よりも先に水底で反射される。このため、送信ビームTB2のエコーは、送信ビームTB1のエコーよりも先に受波されやすく、送信ビームTB1のエコーの受信信号より先に送信ビームTB2のエコーの受信信号が生じやすい。したがって、受信ビームRB1に基づく水底の画像には、送信ビームTB1のエコーに基づく本来の水底の手前に、時間差ΔT1に対応する距離分の虚像が生じる。
【0052】
同様に、
図4(d)に示すように、受信ビームRB3によって取得される受信信号においても、受信ビームRB3に基づく水底の画像に、時間差ΔT3に対応する距離分の虚像が生じる。この場合、送信ビームTB3は、
図4(a)に示すように、送信ビームTB2より後に送波されるため、送信ビームTB3のエコーが受波されるタイミングと、真下方向の送信ビームTB2のエコーが受波されるタイミングとの時間差ΔT3は、
図4(b)の時間差ΔT1よりも長くなる。このため、受信ビームRB3に基づく水底の画像には、送信ビームTB3のエコーに基づく本来の水底の手前に、より大きな距離幅の虚像が生じる。
【0053】
なお、
図4(c)に示すように、受信ビームRB2によって取得される受信信号においては、受信ビームRB2で取得すべき送信ビームTB2のエコーの受信信号が最先に現れるため、送信ビームTB2のエコーに基づく本来の水底の手前に他の送信ビームTB1、TB3のエコーに基づく虚像が生じにくい。
【0054】
図5は、
図4(b)、
図4(c)、
図4(d)に示した受信ビームRB1~RB3の受信信号により生成される水底の画像を示す図である。なお、
図5に示した3つの画像は、カラーの原画像をグレースケール化したものである。原画像では、信号レベルが高いほど赤色に近づくように表示色が設定されている。このため、
図5の画像では、水底を示す帯状の赤色の領域が、グレースケール化により黒色で表示されている。
【0055】
図5の右図に示すように、受信ビームRB1に基づく画像では、水底上方の白矢印で示す付近に、虚像が表示されている。同様に、
図5の左図に示すように、受信ビームRB3に基づく画像においても、水底上方の白矢印で示す付近に、虚像が表示されている。
図5の右図と左図とを比較すると、受信ビームRB3に基づく画像の方が、虚像の幅が広くなっている。これは、
図4(d)を参照して説明したとおり、時間差ΔT3が時間差ΔT1よりも長いことに基づくものであると考えられる。
【0056】
以上のように、送信ビームTB1~TB3を同時に送波して送受信を行った場合、各送信ビームに基づいて生成される画像に、他の送信ビームとの相互干渉に基づく虚像が映り込む。このような虚像は、特に、使用者が底付きの魚を画像で確認するような場合に、魚が虚像に埋もれてしまい、使用者において底付きの魚を円滑に確認できないとの問題を生じさせる。
【0057】
そこで、本実施形態では、相互干渉に基づく虚像の映り込みを抑制しつつ、複数のビームを同時に送受信して、1ピングに要する周期を短縮するための構成が用いられる。以下、この構成について説明する。
【0058】
まず、ビーム(送信ビームおよび受信ビーム)の方向とエコーレベルとの関係について説明する。
【0059】
水底から反射したエコーの受信レベルは、以下のソナー方程式により求められ得る。
【0060】
EL=SL+ME+SS+GAL+DI-20logR+G …(1)
【0061】
SL:ソースレベル(音源の送信レベル) [dBuPa]
ME:受波電圧感度(送受波器単体の感度) [dBV/uPa]
SS:水底後方散乱強度(水底の堅さ) [dB]
GAL:水底の反射強度減衰量(≦0) [dB]
DI:指向特性(≦0) [dB]
G:受信器感度(受信部全体の感度) [dB]
R:レンジ(水底の深さ) [M]
【0062】
上記パラメータの内、ビームの方向により変化するパラメータは、GAL(反射強度減衰量)とDI(指向特性)である。
【0063】
DI(指向特性)は、送信ビームと受信ビームとの方向差によって変化するパラメータであり、送信ビームと受信ビームの方向が同じである場合を0dBとしたときの方向差に応じた利得である。DI(指向特性)は、送信ビームと受信ビームとの方向差が大きくなるほど、負の方向に大きくなる(減衰が大きくなる)。つまり、送信ビームと受信ビームとの方向差が大きくなるほど、DI(指向特性)が負の方向に大きくなり、上記式(1)により、当該送信ビームのエコーの受信レベルが小さくなる。
【0064】
したがって、たとえば、
図6(a)に示すように送信ビームTB1~TB3を互いに異なる方向に形成し、これら送信ビームTB1~TB3と同一指向方向の受信ビームRB1~RB3を形成する場合、ベアリング角θb方向において、2つの送信ビームの方向差が大きくなるほど、一方の送信ビームに対応する受信ビームに対して、他方の送信ビームのエコーが影響しにくくなる。
図6(a)の例では、送信ビームTB1と送信ビームTB3との方向差がベアリング角θb方向において最大の180°となるため、受信ビームRB1に対して送信ビームTB3のエコーが最も影響しにくくなり、また、受信ビームRB3に対して送信ビームTB1のエコーが最も影響しにくくなる。
【0065】
よって、DI(指向特性)の観点からは、ベアリング角θb方向の方向差が最大(180°)となる送信ビームの組み合わせであれば、これら送信ビームを用いた送受信が同時に行われても、一方の受信ビームの受信信号に対する他方の送信ビームのエコーの干渉を抑制でき、一方の受信ビームに基づく画像に他方の送信ビームのエコーによる虚像が映り込むことを抑制できる。
【0066】
また、上記パラメータのうち、GAL(反射強度減衰量)は、水底に対する送信ビームの入射角によって変化するパラメータであり、入射角が0°である場合を0dBとしたときの、入射角X°における水底の反射強度減衰量である。GAL(反射強度減衰量)は、水底に対する送信ビームの入射角が大きくなるほど、負の方向に大きくなる(減衰が大きくなる)。つまり、水底に対する送信ビームの入射角が大きくなるほど、GAL(反射強度減衰量)が負の方向に大きくなり、上記式(1)により、当該送信ビームのエコーの受信レベルが小さくなる。換言すると、水底に対して送信ビームが垂直に入射すると、GAL(反射強度減衰量)が最小(0dB)となり、水底で反射されるエコーのレベルが大きくなる。
【0067】
したがって、たとえば、
図6(b)に示すように送信ビームTB1~TB3を互いに異なる方向に形成し、これら送信ビームTB1~TB3と同一指向方向の受信ビームRB1~RB3を形成する場合、真下方向の送信ビームTB2が水底で反射されて送受波器11に向かうエコーE2の強度レベルは、斜め方向の送信ビームTB1、TB3が水底で反射されて送受波器11に向かうエコーE1、E2の強度レベルよりも大きくなる。このため、送信ビームTB1~TB3を用いた送受信を同時に行うと、受信ビームRB1、RB3により取得される受信信号に、真下方向の送信ビームTB2のエコーE2が大きく影響することになる。
【0068】
よって、GAL(反射強度減衰量)の観点からは、真下方向の送信ビームを用いた送受信は、斜め方向の送信ビームを用いた送受信と同時に行わない方がよい。これにより、真下方向の送信ビームのエコーがその他の送信ビームを用いた送受信に干渉することを抑制でき、その他の送信ビームに基づく画像に真下方向の送信ビームのエコーに基づく虚像が映り込むことを抑制できる。
【0069】
また、チルト角θtが小さい送信ビームほど、水底までの距離が短くなるため、エコーの受波タイミングが早くなる。逆に言うと、チルト角θtが同じ送信ビームは、エコーの受波タイミングに差異がなくなる。このため、チルト角θtが同じである2つの送信ビームを同時に送信した場合、一方の送信ビームに対する受信信号には、一方の送信ビームの水底からのエコーに基づく信号と、他方の送信ビームの水底からのエコーに基づく信号とが、略同じタイミングで現れる。よって、これら信号間に、
図4(b)、
図4(d)に示したような時間差ΔT1、ΔT3が生じることがなく、このため、水底の画像の上方に時間差に基づく虚像が表れにくくなる。
【0070】
よって、チルト角θtの観点からは、チルト角θtが同じである送信ビームの組み合わせであれば、これら送信ビームを用いた送受信が同時に行われても、一方の受信ビームに基づく画像に他方の送信ビームのエコーによる虚像が映り込むことを抑制できる。
【0071】
なお、チルト角θtが同じであることは、GAL(反射強度減衰量)が同じであることと等価である。すなわち、チルト角θtが同じである2つの送信ビームは、水底に対して同じ入射角で入射するため、GAL(反射強度減衰量)が同じになる。したがって、GAL(反射強度減衰量)の観点からは、GAL(反射強度減衰量)の差が最小(ゼロ)となる送信ビームの組み合わせであれば、これら送信ビームを用いた送受信が同時に行われても、一方の受信ビームに基づく画像に他方の送信ビームのエコーによる虚像が映り込むことを抑制できると言える。
【0072】
以上の検討から、指向方向が異なる複数の送信ビームについて同時に送受信を行う場合、GAL(反射強度減衰量)の差が最小(ゼロ)であること、すなわち、チルト角θtが同じであること、および、DI(指向特性)が負の方向に最大であること、すなわち、指向方向の差がベアリング角θb方向において最大(180°)であることの2つの条件を満たす送信ビームの組み合わせであれば、一方の送信ビームに基づく画像の水底付近に他方の送信ビームの水底からのエコーによる虚像が映り込むことを抑制できる。
【0073】
なお、この条件は、2つの送信ビームの指向方向が、
図1の軸L0に対して対称であることと等価である。
【0074】
本実施形態では、この条件を満たす送信ビームは同時に送受信の処理を行い、この条件を満たさない送信ビームは、異なるタイミングで個別に送受信の処理を行う。これにより、相互干渉による虚像の映り込みを抑制しつつ、送波対象の全ての送信ビームに対する処理(1ピング)に要する周期を効果的に短縮できる。
【0075】
図7は、ビームの送受信制御を示すフローチャートである。この制御は、
図3のビーム設定部15aおよび送受信制御部15bの機能により、信号処理部15が行う。
【0076】
ビーム設定部15aは、送信ビーム2の現在のビームの設定状態を参照する(S101)。具体的には、ビーム設定部15aは、水中探知に使用される送信ビーム2の数および方向を参照する。上記のように、水中探知に使用される送信ビーム2の数および方向は、設定可能な範囲内で、使用者が任意に設定可能である。使用者により設定された送信ビーム2の数および方向は、信号処理部15内の記憶媒体に記憶されている。ステップS101において、ビーム設定部15aは、記憶媒体から送信ビーム2の数および方向を読み出して、送信ビーム2の現在の設定状態を参照する。
【0077】
次に、ビーム設定部15aは、複数の送信ビーム2が設定されている場合、これら送信ビーム2に、所定の非干渉条件を充足する送信ビーム2の組み合わせが存在するか否かを判定する(S102)。
【0078】
図8は、
図7のステップS102における非干渉条件の判定処理を示すフローチャートである。
【0079】
ビーム設定部15aは、水中探知に用いられる複数の送信ビーム2に、チルト角θtが同じで(S111)、且つ、ベアリング角θbの差が180°である(S112)との条件を充足する送信ビーム2の組み合わせが存在するか否かを判定する。ビーム設定部15aは、判定対象の2つの送信ビーム2がこれら2つの条件を充足する場合(S111:YES、S112:YES)、これら2つの送信ビーム2を、条件充足の組み合わせに設定する(S113)。他方、判定対象の2つの送信ビーム2がこれら2つの条件の少なくとも一方を充足しない場合、ビーム設定部15aは、これら2つの送信ビーム2を、条件非充足の組み合わせに設定する(S114)。ビーム設定部15aは、水中探知に用いられる複数の送信ビーム2の全ての組み合わせについて、
図8の判定処理を実行する。
【0080】
図7に戻り、ビーム設定部15aは、ステップS102に判定処理において、全ての送信ビーム2の組み合わせが非干渉条件を充足したか否かを判定する(S103)。たとえば、水中探知に用いられる送信ビーム2が2つだけであり、これら2つの送信ビーム2のチルト角θtが同じで、且つ、ベアリング角θbの差が180°である場合、ビーム設定部15aは、ステップS103の判定をYESとする。この場合、この判定に応じて、
図3の送受信制御部15bが、これら2つの送信ビーム2を用いた送受信を同時に行う制御を、送信部12、受信部13および送受信切替部14に対して行う(S104)。
【0081】
他方、ステップS103の判定がNOの場合、ビーム設定部15aは、水中探知に用いられる複数の送信ビーム2の一部に、非干渉条件を充足する組み合わせがあるか否かを判定する(S105)。ステップS105の判定がYESである場合、この判定に応じて、
図3の送受信制御部15bが、当該組み合わせの送信ビーム2を用いた送受信を同時に行う制御を、送信部12、受信部13および送受信切替部14に対して行う(S106)。送受信制御部15bは、非干渉条件を充足する全ての組み合わせに対して同時送受信を実行する(S106、S107)。
【0082】
全ての組み合わせに対する同時送受信が完了すると(S107:YES)、送受信制御部15bは、水中探知に用いられる全ての送信ビーム2について送受信処理を行ったか否かを判定する(S109)。ここでは、ステップS106で同時送受信が行われた組み合わせ以外に、水中探知に用いられる他の送信ビーム2が残っていないかを判定する。未だ、他の送信ビーム2が残っている場合(S109:NO)、送受信制御部15bは、他の送信ビーム2について、ビームごとの送受信を行う(S108)。そして、全ての送信ビーム2に対する送受信が完了すると(S109:YES)、信号処理部15は、1ピング分の処理を終了し、ステップS101に戻って、次のピングの処理を実行する。
【0083】
水中探知に用いられる複数の送信ビーム2に、非干渉条件を充足する組み合わせが全く存在しない場合(S103:NO、S105:NO)、送受信制御部15bは、それぞれの送信ビーム2についてビームごとの送受信が行われるよう、送信部12、受信部13および送受信切替部14を制御する(S108)。これにより、全ての送信ビーム2に対する送受信が完了すると(S109:YES)、信号処理部15は、1ピング分の処理を終了し、ステップS101に戻って、次のピングの処理を実行する。
【0084】
なお、水中探知に用いられる送信ビーム2が1つだけである場合は、ステップS103、S105の判定が何れもNOとなる。この場合、送受信制御部15bは、ステップS108において、当該送信ビーム2に対する送受信を行い、1ピング分の処理を終了する。
【0085】
図9(a)、
図9(b)、
図9(c)は、水中探知用の5つの送信ビームが所定の方法で設定されている場合の制御動作を模式的に示す図である。
【0086】
ここでは、真下方向の送信ビーム2aを左右方向に挟んで2つの送信ビーム2bと2つの送信ビーム2cが設定されている。2つの送信ビーム2bは、チルト角θtが同じで、且つ、ベアリング角θbの差が180°である。また、2つの送信ビーム2cは、チルト角θtが同じで、且つ、ベアリング角θbの差が180°である。
図9(a)、
図9(b)、
図9(c)において、実線の矢印は送信状態を示し、破線の矢印は非送信状態を示している。
【0087】
この場合、2つの送信ビーム2bの組と、2つの送信ビーム2cの組が、
図8の非干渉条件を充足する。よって、
図9(a)のように、左右方向の2つの送信ビーム2cについて同時に送受信が行われた後、
図9(b)のように、左右方向の2つの送信ビーム2bについて同時に送受信が行われ、最後に、
図9(c)のように、真下方向の送信ビーム2aについて個別に送受信が行われる。
【0088】
図10(a)、
図10(b)、
図10(c)は、水中探知用の5つの送信ビームが他の方法で設定されている場合の制御動作を模式的に示す図である。
【0089】
ここでは、真下方向の送信ビーム2aを前後方向に挟んで2つの送信ビーム2bと2つの送信ビーム2cが設定されている。2つの送信ビーム2bは、チルト角θtが同じで、且つ、ベアリング角θbの差が180°である。また、2つの送信ビーム2cは、チルト角θtが同じで、且つ、ベアリング角θbの差が180°である。
図10(a)、
図10(b)、
図10(c)において、実線の矢印は送信状態を示し、破線の矢印は非送信状態を示している。
【0090】
この場合、2つの送信ビーム2bの組と、2つの送信ビーム2cの組が、
図8の非干渉条件を充足する。よって、
図10(a)のように、前後方向の2つの送信ビーム2cについて同時に送受信が行われた後、
図10(b)のように、前後方向の2つの送信ビーム2bについて同時に送受信が行われ、最後に、
図10(c)のように、真下方向の送信ビーム2aについて個別に送受信が行われる。
【0091】
図11(a)、
図11(b)、
図11(c)は、水中探知用の5つの送信ビームがさらに他の方法で設定されている場合の制御動作を模式的に示す図である。
【0092】
ここでは、真下方向の送信ビーム2aの周囲に、2つの送信ビーム2bと2つの送信ビーム2cが設定されている。2つの送信ビーム2bは、チルト角θtが同じで、且つ、ベアリング角θbの差が180°である。また、2つの送信ビーム2cは、チルト角θtが同じで、且つ、ベアリング角θbの差が180°である。
図11(a)、
図11(b)、
図11(c)において、実線の送信ビームは送信状態を示し、破線の送信ビームは非送信状態を示している。
【0093】
この場合、2つの送信ビーム2bの組と、2つの送信ビーム2cの組が、
図8の非干渉条件を充足する。よって、
図11(a)のように、2つの送信ビーム2cについて同時に送受信が行われた後、
図11(b)のように、2つの送信ビーム2bについて同時に送受信が行われ、最後に、
図11(c)のように、真下方向の送信ビーム2aについて個別に送受信が行われる。
【0094】
<実施形態の効果>
上記実施形態によれば、以下の効果が奏され得る。
【0095】
複数のビームのうち、
図8の非干渉条件を充足するビーム、すなわち、相互干渉が抑制される組み合わせのビームは、同時に送受信される。このため、相互干渉による虚像の発生を抑制しつつ、全てのビームについて送受信が完了する周期(1ピングの周期)を短くできる。
【0096】
図8の非干渉条件は、
図6(a)、
図6(b)を参照して説明したように、各ビームの指向方向、水底反射強度減衰量(GAL)および指向特性(DI)に基づいて設定される。
【0097】
具体的には、非干渉条件は、水底反射強度減衰量(GAL)の差が最小となり、且つ、他方のビームに対する指向特性(DI)が最小となるビームの組み合わせを規定するように設定される。
【0098】
この条件は、送受波器から真下に下ろした軸に対して指向方向が対称であるビームの組み合わせと等価である。すなわち、この条件は、チルト角θtが同じで、且つ、ベアリング角θbの差が180°であるビームの組み合わせと等価である。
【0099】
この条件が満たされる場合、上記のように、一方のビームは、他方のビームに最も干渉しにくくなり、他方のビームによる虚像が最も生じにくくなる。よって、非干渉条件をこの条件に設定することにより、相互干渉の影響が抑制されるビームの組合せを適切に設定でき、相互干渉による虚像の発生をより効果的に抑制できる。
【0100】
<変更例1>
変更例1では、上記実施形態に比べて、非干渉条件が変更されている。すなわち、変更例1では、真下以外の指向方向のビームの組み合わせであることが、非干渉条件に設定されている。
【0101】
図12は、変更例1に係る、非干渉条件の判定処理を示すフローチャートである。
【0102】
送受信制御部15bは、水中探知に用いられる送信ビーム2のうち、指向方向が真下方向である送信ビーム2は、非干渉条件を充足しないと判定し(S121:YES、S122)、指向方向が真下方向でない送信ビーム2は、非干渉条件を充足すると判定する(S121:NO、S123)。
【0103】
したがって、変更例1では、
図7の制御により、水中探知に用いられる送信ビーム2のうち、指向方向が真下方向以外の方向のビームは、全て同時に送受信され、指向方向が真下方向であるビームだけが個別に送受信される。
【0104】
図13(a)、
図13(b)は、水中探知用の5つの送信ビームが、
図11(a)、
図11(b)、
図11(c)と同様の方法で設定されている場合の、変更例1に係る制御動作を模式的に示す図である。
【0105】
この場合、2つの送信ビーム2bおよび2つの送信ビーム2cからなる4つのビームの組み合わせが、
図12の非干渉条件を充足する。よって、
図13(a)のように、2つの送信ビーム2bおよび2つの送信ビーム2cについて同時に送受信が行われた後、
図13(b)のように、真下方向の送信ビーム2aについて個別に送受信が行われる。
【0106】
変更例1の構成によれば、GAL(反射強度減衰量)による影響が最も大きい真下方向の送信ビーム2aが、同時送受信の対象から外されるため、その他の送信ビーム2b、2cに基づく画像に、真下方向の送信ビーム2aの水底からのエコーによる虚像が映り込むことを抑制できる。また、真下方向以外の送信ビーム2b、2cは同時に送信されるため、全ての送信ビームに対する送受信が完了するまでの周期(1ピングの周期)をより一層短縮できる。よって、相互干渉による虚像の発生を抑制しつつ、全てのビームについて送受信が完了する周期(1ピングの周期)を、より顕著に短くできる。
【0107】
<変更例2>
変更例2では、上記実施形態に比べて、非干渉条件が変更されている。すなわち、変更例2では、チルト角θtが同じのビームの組み合わせであることのみが、非干渉条件に設定されている。
【0108】
図14は、変更例2に係る、非干渉条件の判定処理を示すフローチャートである。
【0109】
図14のフローチャートでは、
図8のステップS112が省略されている。
図14のその他のステップは、
図8と同様である。
【0110】
送受信制御部15bは、水中探知に用いられる送信ビーム2のうち、チルト角θtが同じ送信ビーム2の組み合わせは、非干渉条件を充足すると判定し(S111:YES、S113)、チルト角θtが同じでない送信ビーム2の組み合わせは、非干渉条件を充足しないと判定する(S111:NO、S114)。
【0111】
したがって、変更例2では、
図7の制御により、水中探知に用いられる送信ビーム2のうち、チルト角θtが同じであるビームは、ベアリング角θbの差が180°であるか否かに拘わらず、全て同時に送受信され、その他のビームが個別に送受信される。
【0112】
図15(a)、
図15(b)、
図15(c)は、水中探知用の5つの送信ビームがさらに他の方法で設定されている場合の、変更例2に係る制御動作を模式的に示す図である。
【0113】
ここでは、真下方向の送信ビーム2aの周囲に、2つの送信ビーム2dと2つの送信ビーム2eが設定されている。2つの送信ビーム2dは、チルト角θtが同じであるが、ベアリング角θbの差は180°でない。また、2つの送信ビーム2eは、チルト角θtが同じであるいが、ベアリング角θbの差は180°でない。2つの送信ビーム2dのチルト角θtと、2つの送信ビーム2eのチルト角θtとは同じでない。
図15(a)、
図15(b)、
図15(c)では、実線の送信ビームが送信状態を示し、破線の送信ビームが非送信状態を示している。
【0114】
この場合、2つの送信ビーム2dの組と、2つの送信ビーム2eの組が、それぞれ、
図14の非干渉条件を充足する。よって、
図15(a)のように、2つの送信ビーム2eについて同時に送受信が行われた後、
図15(b)のように、2つの送信ビーム2dについて同時に送受信が行われ、最後に、
図15(c)のように、真下方向の送信ビーム2aについて個別に送受信が行われる。
【0115】
変更例2の構成によれば、チルト角θtが同じ送信ビーム2dが同時に送信されるため、一方の送信ビーム2dの水底からのエコーと、他方の送信ビーム2dの水底からのエコーとは、略同じタイミングで、送受波器11に到達する。このため、これら2つのエコーに基づく信号は、一方の送信ビーム2dに基づく受信信号上において略同じタイミングで生じることとなり、他方のエコーに基づく信号によって水底の画像付近に虚像が生じることがない。また、チルト角θtが同じである複数の送信ビーム2e(または、送信ビーム2d)が同時に送信されるため、全ての送信ビームに対する送受信が完了するまでの周期(1ピングの周期)を短縮できる。よって、相互干渉による虚像の発生を抑制しつつ、全てのビームについて送受信が完了する周期(1ピングの周期)を短くできる。
【0116】
<変更例3>
変更例3では、上記実施形態に比べて、非干渉条件が変更されている。すなわち、変更例3では、ベアリング角θbの差が最大(180°)のビームの組み合わせであることのみが、非干渉条件に設定されている。
【0117】
図16は、変更例3に係る、非干渉条件の判定処理を示すフローチャートである。
【0118】
図16のフローチャートでは、
図8のステップS111が省略されている。
図16のその他のステップは、
図8と同様である。
【0119】
送受信制御部15bは、水中探知に用いられる送信ビーム2のうち、ベアリング角θbの差が180°である送信ビーム2の組み合わせは、非干渉条件を充足すると判定し(S112:YES、S113)、ベアリング角θbの差が180°でない送信ビーム2の組み合わせは、非干渉条件を充足しないと判定する(S112:NO、S114)。
【0120】
したがって、変更例3では、
図7の制御により、水中探知に用いられる送信ビーム2のうち、ベアリング角θbの差が180°であるビームは、チルト角θtが同じであるか否かに拘わらず、全て同時に送受信され、その他のビームが個別に送受信される。
【0121】
図17(a)、
図17(b)、
図17(c)は、水中探知用の5つの送信ビームがさらに他の方法で設定されている場合の、変更例3に係る制御動作を模式的に示す図である。
【0122】
ここでは、真下方向の送信ビーム2aの周囲に、2つの送信ビーム2fと2つの送信ビーム2gが設定されている。2つの送信ビーム2fは、ベアリング角θbの差は180°であるが、チルト角θtが同じでない。また、2つの送信ビーム2gは、ベアリング角θbの差は180°であるが、チルト角θtが同じでない。手前の2つの送信ビーム2f、2gのチルト角θtは同じであり、奥の2つの送信ビーム2f、2gのチルト角θtは同じである。
図17(a)、
図17(b)、
図17(c)では、実線の送信ビームが送信状態を示し、破線の送信ビームが非送信状態を示している。
【0123】
この場合、2つの送信ビーム2fの組と、2つの送信ビーム2gの組が、それぞれ、
図16の非干渉条件を充足する。よって、
図17(a)のように、2つの送信ビーム2gについて同時に送受信が行われた後、
図17(b)のように、2つの送信ビーム2fについて同時に送受信が行われ、最後に、
図17(c)のように、真下方向の送信ビーム2aについて個別に送受信が行われる。
【0124】
変更例3の構成によれば、ベアリング角θbの差が最大(180°)である送信ビーム2fが同時に送信されるため、DI(指向特性)の観点から、一方の送信ビーム2fのエコーの受信信号に、他方の送信ビーム2fのエコーが影響しにくい。このため、他方の送信ビーム2fの水底からのエコーによって水底の画像付近に虚像が生じることを抑制できる。また、ベアリング角θbの差が最大(180°)である複数の送信ビーム2f(または、送信ビーム2g)が同時に送信されるため、全ての送信ビームに対する送受信が完了するまでの周期(1ピングの周期)を短縮できる。よって、相互干渉による虚像の発生を抑制しつつ、全てのビームについて送受信が完了する周期(1ピングの周期)を短くできる。
【0125】
<その他の変更例>
上記実施形態および変更例1~3では、相互干渉の影響が抑制される条件がGAL(反射強度減衰量)およびDI(指向特性)に基づいて設定されたが、この条件の設定方法は、これに限られるものではない。たとえば、ビームの指向性が鋭敏であって、ビーム間の角度差が所定の角度を超えると一方のビームに他方のビームが略干渉しない場合、ビーム間の角度差が所定の角度を超えることが、相互干渉の影響が抑制される条件とされてもよい。
【0126】
また、
図8のステップS111では、船1が水平姿勢にあることを前提に、各ビームのチルト角θtが比較されたが、船1が水平姿勢から傾いた状態にある場合は、この傾きに応じて各ビームのチルト角θtを補正して、ステップS111の判定がなされてもよい。
【0127】
たとえば、
図18(a)に示すように船1が左右方向に傾いた場合、各送信ビームのチルト角θt(送受波器11から鉛直下方向に下ろした軸に対する角度)は、船1が水平姿勢にあるときのチルト角θtから変化する。他方、
図12の入力部16を介して、使用者により、各送信ビームの指向方向が設定されると、信号処理部15の記憶媒体には、船1が水平姿勢にあるときの各送信ビームのチルト角θtが記憶される。このため、
図18(a)のように、船1が大きく傾くと、記憶媒体に記憶されている各送信ビームのチルト角θtと実際の各送信ビームのチルト角θtとの間に、大きな角度差が生じる。
【0128】
したがって、このような場合、送受信制御部15bは、各送信ビームのチルト角θtが実際のチルト角となるように、記憶媒体から読み出した各送信ビームのチルト角θtを船1の傾き角に応じて補正して、
図8のステップS111の判定を行えばよい。このとき、送受信制御部15bは、船1の傾き角を検出するための検出部(図示せず)から、随時、船1の傾き角と傾き方向を取得する。
【0129】
図18(a)の場合、この補正処理により、船1が水平姿勢にあるときに真下に送波される送信ビーム2aと最も左側の送信ビーム2cとが同じチルト角θtであると判定される。これにより、
図18(b)のように、これらの送信ビーム2a、2cについて同時に送受信が行われる。
【0130】
このような補正を行うことにより、船1が傾いた場合も、水底に対して同じ入射角で入射する送信ビームの組み合わせが、
図8の非干渉条件を充足すると判定されて、同時に送受信される。よって、
図7の処理により複数のビームについて同時に送受信を行う場合に、他の送信ビームのエコーにより、水底の画像付近に虚像が生じることをより確実に抑制することができる。
【0131】
また、
図8のステップS111の判定では、比較対象の2つの送信ビームのチルト角θtが必ずしも完全に一致しなくてもよく、所定の許容範囲(数°程度)で両者が一致する場合も、ステップS111の判定がYESとされてもよい。同様に、
図8のステップS112の判定では、比較対象の2つの送信ビームのベアリング角θbの差が必ずしも180°でなくてもよく、この差が180°から所定の許容範囲(数°程度)にある場合も、ステップS112の判定がYESとされてもよい。
【0132】
また、上記実施形態および変更例1~3では、まず、非干渉条件を充足する送信ビーム2の組み合わせについて同時送受信が行われた後、非干渉条件を充足しない送信ビーム2について個別に送受信が行われたが、これとは逆に、まず、非干渉条件を充足しない送信ビーム2について個別に送受信が行われた後、非干渉条件を充足する送信ビーム2の組み合わせについて同時送受信が行われてもよい。また、非干渉条件を充足する送信ビーム2の組み合わせのうち、どの組み合わせから順に同時送受信を行うかについても、上記実施形態および変更例1~3に示した順序に限られるものではない。
【0133】
また、水中探知に用い得る送信ビーム2の数およびその設定方法も、上記実施形態1および変更例1~3に示した形態に限られるものではなく、種々変更可能である。
【0134】
また、上記実施形態では、送波と受波に兼用される1つの送受波器11が用いられたが、個別に動作する送波器および受波器がユニット化されて送受波器が構成されてもよい。
【0135】
また、上記実施形態では、超音波振動子11aに対する位相制御により送信ビームと受信ビームの指向方向が代えられたが、予め設定された複数の指向方向ごとに個別に送受波器が設けられ、各送受波器によって、互いに異なる指向方向の送信ビームおよび受信ビームが形成される構成であってもよい。この場合、非干渉条件を充足する送信ビームを完全に同じタイミングで送波することができ、これら送信ビームに対する送受信を完全に同時に行うことができる。
【0136】
この他、本発明の実施形態は、特許請求の範囲に記載の範囲で適宜種々の変更可能である。
【符号の説明】
【0137】
2、2a~2g 送信ビーム
10 水中探知装置
11 送受波器
15 信号処理部
15a ビーム設定部
15b 送受信制御部