(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】状態監視装置および状態監視方法
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20231225BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G01H17/00 A
(21)【出願番号】P 2020156855
(22)【出願日】2020-09-18
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畠山 航
【審査官】目黒 大地
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-008536(JP,A)
【文献】特開2016-045151(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102792240(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00-13/045、99/00
G01H 1/00-17/00
F03D 1/00-80/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の状態を監視する状態監視装置であって、
第1期間において前記対象物に設置したセンサから取得した第1信号の強度に、当該強度に応じた補正係数を乗算することにより第2信号を生成する補正部と、
前記第2信号の強度の経時変化を示す時間波形に基づいて、前記対象物の異常を診断する診断部とを備え、
前記第1信号または前記第1期間よりも過去の第2期間において前記センサから取得された第3信号の強度分布の期待値をμとし、前記第1信号の強度をx
rawとすると、前記補正係数は、μ<x
rawのときに(x
raw-μ)が大きくなるほど前記補正係数が大きくなるという第1条件、および、μ>x
rawのときに(μ-x
raw)が大きくなるほど前記補正係数が大きくなるという第2条件の少なくとも1つを満たすように設定される、状態監視装置。
【請求項2】
前記第1信号の強度を説明変数とし、前記補正係数を目的変数とする補正関数を生成する生成部をさらに備え、
前記補正部は、前記補正関数に前記第1信号の強度を代入することにより前記補正係数を決定する、請求項1に記載の状態監視装置。
【請求項3】
前記補正係数は、前記第1条件を満たし、
前記補正関数の1階の導関数は、前記期待値よりも大きい第1閾値において極大値を有する、請求項2に記載の状態監視装置。
【請求項4】
前記補正係数は、前記第2条件を満たし、
前記補正関数の1階の導関数は、前記期待値よりも小さい第2閾値において極小値を有する、請求項2または3に記載の状態監視装置。
【請求項5】
前記生成部は、
前記強度分布に応じた確率密度関数を設定し、
前記期待値よりも大きい第1閾値と、前記期待値よりも小さい第2閾値との少なくとも1つを設定し、
前記確率密度関数から算出される累積分布関数をCDF(x)、前記第1閾値をth1、前記第2閾値をth2とすると、前記第1閾値および前記第2閾値の両者を設定した場合に、1-CDF(th1-x
raw)+CDF(th2-x
raw)を前記補正関数として設定し、
前記第1閾値を設定し、前記第2閾値を設定しない場合に、1-CDF(th1-x
raw)を前記補正関数として設定し、
前記第1閾値を設定せず、前記第2閾値を設定した場合に、1+CDF(th2-x
raw)を前記補正関数として設定する、請求項2に記載の状態監視装置。
【請求項6】
前記生成部は、周期的に前記補正関数を更新する、請求項2から5のいずれか1項に記載の状態監視装置。
【請求項7】
前記生成部は、
第1補正関数を第2補正関数に更新するときに移行期間を設定し、
前記移行期間において、前記第1補正関数を前記第2補正関数に徐々に変化させる、請求項6に記載の状態監視装置。
【請求項8】
前記診断部は、
前記時間波形の特徴を示す評価値を算出する評価値算出部と、
前記評価値を用いて、前記対象物の異常の有無を判定する判定部とを含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の状態監視装置。
【請求項9】
前記評価値は、前記時間波形の実効値、波高率および尖度の少なくとも1つを含む、請求項8に記載の状態監視装置。
【請求項10】
前記評価値は、前記時間波形を周波数解析することにより得られる周波数スペクトルから算出される、請求項8に記載の状態監視装置。
【請求項11】
対象物の状態を監視する状態監視方法であって、
第1期間において前記対象物に設置したセンサから取得した第1信号の強度に、当該強度に応じた補正係数を乗算することにより第2信号を生成するステップと、
前記第2信号の強度の経時変化を示す時間波形に基づいて、前記対象物の異常を診断するステップとを備え、
前記第1信号または前記第1期間よりも過去の第2期間において前記センサから取得された第3信号の強度分布の期待値をμとし、前記第1信号の強度をx
rawとすると、前記補正係数は、μ<x
rawのときに(x
raw-μ)が大きくなるほど前記補正係数が大きくなるという第1条件、および、μ>x
rawのときに(μ-x
raw)が大きくなるほど前記補正係数が大きくなるという第2条件の少なくとも1つを満たすように設定される、状態監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象物の状態を監視する状態監視装置および状態監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転機械等の対象物に設置されたセンサからの信号に基づいて、対象物の状態が監視される。具体的には、信号の強度の経時変化を示す時間波形を解析することにより、対象物の異常が診断される。
【0003】
たとえば、特開2011-154020号公報(特許文献1)は、振動センサによって測定された振動波形にエンベロープ処理を行なうことによって生成されるエンベロープ波形に基づいて、対象物の異常を診断する技術を開示している。エンベロープ処理として、たとえばローパスフィルタ処理が利用される。
【0004】
特開2016-75563号公報(特許文献2)は、対象物の振動波形データと複数のノイズデータとを合成することにより得られる複数の合成波形を解析することにより、対象物の異常を診断する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-154020号公報
【文献】特開2016-75563号公報
【文献】特開2018-179977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
回転機械の回転速度が低いとき、回転速度が高いときと比較して、回転機械の振動の大きさが小さくなることが知られている。そのため、回転速度が低くなるにつれて、センサから出力される信号に含まれるノイズ成分が相対的に大きくなる。さらに、回転速度が低くなるにつれて、回転機械の異常に起因する振動の大きさが減少するとともに、異常に起因する振動の発生周期が長くなる。結果として、測定された信号強度の時間波形において、異常に起因する成分がノイズ成分に対して小さくなる。つまり、S/N比が低下する。
【0007】
特許文献1に記載の技術では、ローパスフィルタ処理のようなエンベロープ処理により、信号強度の時間波形から対象物の異常に起因する特定の周波数帯域の成分が抽出される。しかしながら、回転速度が低下し、異常に起因する成分と同じ帯域に存在するノイズの影響が大きくなり、当該帯域におけるS/N比が低下すると、対象物の異常を精度良く診断できない。
【0008】
特許文献2に記載の技術では、S/N比の向上のために、振動波形データとノイズデータとの合成処理の回数を増加させる必要がある。そのため、計算コストが高くなる。計算コストとは、計算時間および計算に要するメモリ容量である。
【0009】
本開示は、上記の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、対象物に設置されたセンサから取得される信号のS/N比が低い場合であっても、低い計測コストで対象物の異常を診断できる状態監視装置および状態監視方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の状態監視装置は、対象物の状態を監視する。状態監視装置は、補正部と診断部とを備える。補正部は、第1期間において対象物に設置したセンサから取得した第1信号の強度に、当該強度に応じた補正係数を乗算することにより第2信号を生成する。診断部は、第2信号の強度の経時変化を示す時間波形に基づいて、対象物の異常を診断する。第1信号または第1期間よりも過去の第2期間においてセンサから取得された第3信号の強度分布の期待値をμとし、第1信号の強度をxrawとすると、補正係数は、第1条件および第2条件の少なくとも1つを満たすように設定される。第1条件は、μ<xrawのときに(xraw-μ)が大きくなるほど補正係数が大きくなるという条件である。第2条件は、μ>xrawのときに(μ-xraw)が大きくなるほど補正係数が大きくなるという条件である。
【0011】
本開示の状態監視方法は、対象物の状態を監視する。状態監視方法は、第1期間において対象物に設置したセンサから取得した第1信号の強度に、当該強度に応じた補正係数を乗算することにより第2信号を生成するステップと、第2信号の強度の経時変化を示す時間波形に基づいて、対象物の異常を診断するステップとを備える。第1信号または第1期間よりも過去の第2期間においてセンサから取得された第3信号の強度分布の期待値をμとし、第1信号の強度をxrawとすると、補正係数は、第1条件および第2条件の少なくとも1つを満たすように設定される。第1条件は、μ<xrawのときに(xraw-μ)が大きくなるほど補正係数が大きくなるという条件である。第2条件は、μ>xrawのときに(μ-xraw)が大きくなるほど補正係数が大きくなるという条件である。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、対象物に設置されたセンサから取得される信号のS/N比が低い場合であっても、低い計測コストで対象物の異常を診断できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態に係る状態監視装置が適用される風力発電装置の構成を概略的に示した図である。
【
図2】実施の形態に係る状態監視装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図3】実施の形態に係る状態監視装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】実施の形態に係る補正関数生成部における処理の流れを示すフローチャートである。
【
図5】確率密度関数PDF(x)の一例を示す図である。
【
図6】累積分布関数CDF(x)の一例を示す図である。
【
図7】増速機内の軸受に損傷があるときのセンサ信号の時間波形の一例を示す図である。
【
図8】補正関数p(xraw(t))の一例を示す図である。
【
図9】
図8に示す補正関数p(xraw(t))の1階の導関数を示す図である。
【
図10】補正部から出力される補正済信号の一例を示す図である。
【
図11】変形例2に係る状態監視装置の補正関数の更新タイミングを模式的に示す図である。
【
図12】変形例3に係る補正関数生成部の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図13】移行期間における補正関数の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。また、以下で説明する変形例は、適宜選択的に組み合わされてもよい。
【0015】
以下では、状態監視装置によって状態が監視される対象物の一例として、風力発電装置の増速機を説明する。ただし、対象物は、風力発電装置の増速機に限定されるものではなく、異常によって振動、音、アコースティックエミッション(AE:Acoustic Emission)などの信号強度の経時変化を示す時間波形に変化が生じるものであればよい。たとえば、対象物には、工場および発電所などに設置された各種機器、鉄道車両なども含まれる。
【0016】
<風力発電装置の構成>
図1は、実施の形態に係る状態監視装置が適用される風力発電装置の構成を概略的に示した図である。
図1を参照して、風力発電装置10は、主軸20と、ハブ25と、ブレード30と、増速機40と、発電機50と、主軸用軸受60と、センサ70と状態監視装置80とを備える。増速機40、発電機50、主軸用軸受60、センサ70および状態監視装置80は、ナセル90に格納される。ナセル90は、タワー100によって支持される。
【0017】
主軸20は、ナセル90内に進入して増速機40の入力軸に接続され、主軸用軸受60によって回転自在に支持される。主軸20は、風力を受けたブレード30により発生する回転トルクを増速機40の入力軸へ伝達する。ブレード30は、ハブ25に設けられ、風力を回転トルクに変換して主軸20に伝達する。主軸用軸受60は、ナセル90内において固設され、主軸20を回転自在に支持する。
【0018】
増速機40は、主軸20と発電機50との間に設けられ、主軸20の回転速度を増速して発電機50へ出力する。一例として、増速機40は、遊星ギヤ、中間軸および高速軸等を含む歯車増速機構によって構成される。増速機40内には、複数の軸を回転自在に支持する複数の軸受が設けられている。当該複数の軸受は、たとえば転がり軸受によって構成され、外輪(固定輪)と、転動体と、内輪(回転輪)とを有する。
【0019】
センサ70は、増速機40に固設され、増速機40の状態を示す物理量を計測する。本実施の形態では、センサ70は、増速機40の振動を計測し、計測した振動の大きさに応じた強度を有する信号(以下、「センサ信号」と称する。)を状態監視装置80へ出力する。すなわち、センサ70から出力されるセンサ信号の強度は、増速機40の振動の大きさを示す。センサ70は、たとえば、圧電素子を用いた加速度ピックアップである。
【0020】
発電機50は、増速機40の出力軸に接続され、増速機40から受ける回転トルクによって発電する。発電機50は、たとえば、誘導発電機によって構成される。なお、発電機50内にも、ロータを回転自在に支持する軸受が設けられている。
【0021】
状態監視装置80は、ナセル90内に設けられ、センサ70からセンサ信号を受ける。状態監視装置80は、センサ信号に基づいて増速機40の状態を監視する。状態監視装置80とセンサ70とは、増速機40の状態を監視する状態監視システムを構成する。
【0022】
風力発電装置10では、風力に応じて主軸20の回転速度が変動する。そのため、主軸20の回転速度は、100min-1以下になり得る。
【0023】
<状態監視装置のハードウェア構成>
図2は、実施の形態に係る状態監視装置のハードウェア構成の一例を示す図である。状態監視装置80は、たとえば汎用のコンピュータによって構成される。
【0024】
図2に示されるように、状態監視装置80は、CPU(Central Processing Unit)801と、RAM(Random Access Memory)802と、ストレージ803と、通信インターフェイス804とを備える。これらのコンポーネントは、バス805を介してデータ通信可能に接続される。
【0025】
CPU801は、ストレージ803に格納された各種プログラムを実行する。RAM802は、CPU801のプログラム実行に必要なデータを格納するための作業領域を提供する。ストレージ803は、たとえばHDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Flash Solid State Drive)などで構成され、増速機40の状態を監視するための監視プログラム806を記憶する。
【0026】
通信インターフェイス804は、各種信号を入出力するための入出力ポートを有する。たとえば、通信インターフェイス804は、センサ70からのセンサ信号を受ける。また、通信インターフェイス804は、監視プログラム806の実行によって生成される各種の信号を外部装置に出力してもよい。外部装置は、風力発電装置10の外部に設置される。通信インターフェイス804は、無線あるいは有線回線を介して外部装置と通信する。
【0027】
<状態監視装置の機能構成>
図3は、実施の形態に係る状態監視装置の機能構成を示すブロック図である。
図3に示されるように、状態監視装置80は、保存処理部81と、補正関数生成部82と、補正部83と、診断部84と、記憶部87とを備える。保存処理部81、補正関数生成部82、補正部83および診断部84は、たとえば
図2に示すCPU801が監視プログラム806を実行することにより実現される。あるいは、保存処理部81、補正関数生成部82、補正部83および診断部84は、専用のハードウェア(電子回路)によって実現されてもよい。記憶部87は、たとえば
図2に示すRAM802およびストレージ803によって実現される。
【0028】
保存処理部81は、センサ70からセンサ信号を取得するたびに、センサ信号の強度とセンサ信号を取得した時刻とを対応付けた単位データを記憶部87に書き込む。これにより、記憶部87には、時刻毎の単位データが蓄積される。以下、時刻tにおいて取得したセンサ信号の強度をxraw(t)とする。
【0029】
補正関数生成部82は、センサ信号の強度xraw(t)を説明変数とし、補正係数k(t)を目的変数とする補正関数p(xraw(t))を生成する。k(t)は、時刻tにおいて取得したセンサ信号の強度xraw(t)に対する補正係数を表す。補正係数k(t)は、センサ信号の強度分布の期待値をμとすると、以下の第1条件および第2条件を満たす。第1条件は、μ<xraw(t)のときに(xraw(t)-μ)が大きくなるほど補正係数k(t)が大きくなるという条件である。第2条件は、μ>xraw(t)のときに(μ-xraw(t))が大きくなるほど補正係数k(t)が大きくなるという条件である。補正関数生成部82の詳細な処理については後述する。
【0030】
補正部83は、センサ信号の強度xraw(t)に、当該強度xraw(t)に応じた補正係数k(t)を乗算することにより、新たな信号(以下、「補正済信号」と称する。)を生成する。
【0031】
具体的には、補正部83は、診断対象となる期間(以下、「診断期間」と称する。)において取得されたセンサ信号に対応する補正済信号を生成する。補正部83は、診断期間に取得されたセンサ信号の強度xraw(t)を補正関数p(xraw(t))に代入することにより、補正係数k(t)(=p(xraw(t)))を決定する。補正部83は、k(t)×xraw(t)を強度とする補正済信号を生成する。
【0032】
補正部83は、診断期間中において、リアルタイムで補正済信号を生成してもよい。あるいは、補正部83は、診断期間の終了後に、診断期間内の時刻tに対応する強度xraw(t)を記憶部87から読み出し、当該強度xraw(t)に補正係数k(t)を乗算することにより補正済信号を生成してもよい。
【0033】
診断部84は、診断期間における補正済信号の強度の経時変化を示す時間波形に基づいて、異常を診断する。診断部84は、時間波形から評価値を算出する評価値算出部85と、評価値を用いて、増速機40の異常の有無を判定する判定部86とを含む。
【0034】
<補正関数生成部>
図4は、実施の形態に係る補正関数生成部における処理の流れを示すフローチャートである。
【0035】
(ステップS1)
まず、補正関数生成部82は、センサ信号の強度がとる値の確率を表す確率分布の種別を選択する(ステップS1)。確率分布の種類として、正規分布、一様分布、ラプラス分布などが挙げられる。補正関数生成部82は、これら複数の種類の確率分布の中から1つの種類の確率分布を選択する。
【0036】
補正関数生成部82は、複数の種類の確率分布の中から、予め定められた1つの種類の確率分布を選択してもよい。たとえば、センサ信号の強度がとる値の確率分布の種類が既に分析されている場合には、当該種類の確率分布が選択対象として予め定められる。
【0037】
補正関数生成部82は、ユーザ入力に従って、複数の種類の確率分布の中から1つの種類の確率分布を選択してもよい。この場合、ユーザは、センサ70に応じて確率分布の種類を入力すればよい。
【0038】
診断期間の終了後に診断期間内に取得されたセンサ信号に対応する補正済信号が生成される場合、補正関数生成部82は、診断期間においてセンサ70から取得されたセンサ信号の強度の分布の形状にフィットする1つの種類の確率分布を選択してもよい。具体的には、補正関数生成部82は、診断期間に含まれる時刻に対応する強度を記憶部87から抽出し、抽出した強度の分布の形状との類似度が最も高い1つの種類の確率分布を選択する。
【0039】
診断期間中においてリアルタイムで補正済信号が生成される場合、補正関数生成部82は、診断期間より過去の期間においてセンサ70から取得されたセンサ信号の強度の分布の形状にフィットする1つの種類の確率分布を選択してもよい。具体的には、補正関数生成部82は、過去の期間に含まれる時刻に対応する強度を記憶部87から抽出し、抽出した強度の分布の形状との類似度が最も高い1つの種類の確率分布を選択する。
【0040】
以下、選択された確率分布が正規分布である場合を例にとり説明する。正規分布に対応する確率密度関数PDF(x)は、以下の式(1)で表される。確率密度関数PDF(x)は、確率変数Xがxとなる確率密度を表す関数である。式(1)において、μは期待値、σは標準偏差を表す。
【0041】
【0042】
(ステップS2)
次に、補正関数生成部82は、ステップS1で選択された確率分布の種類に応じたパラメータの値を設定し、確率密度関数PDF(x)を生成する(ステップS2)。式(1)に示す正規分布の場合、期待値μおよび標準偏差σの値が設定される。
【0043】
補正関数生成部82は、パラメータの値として、予め定められた値を設定してもよい。たとえば、センサ信号の強度がとる値の確率分布の形状が既に分析されている場合には、当該形状に応じたパラメータの値が予め定められる。
【0044】
補正関数生成部82は、ユーザ入力に従って、パラメータの値を設定してもよい。この場合、ユーザは、センサ信号の強度がとる値の確率分布の形状に応じてパラメータの値を入力すればよい。
【0045】
診断期間の終了後に診断期間内に取得されたセンサ信号に対応する補正済信号が生成される場合、補正関数生成部82は、診断期間においてセンサ70から取得されたセンサ信号の強度の分布の形状にフィットするようにパラメータの値を設定してもよい。あるいは、診断期間中においてリアルタイムで補正済信号が生成される場合、補正関数生成部82は、診断期間より過去の期間においてセンサ70から取得されたセンサ信号の強度の分布の形状にフィットするようにパラメータの値を設定してもよい。具体的には、補正関数生成部82は、診断期間または過去の期間に含まれる時刻に対応する強度を記憶部87から抽出し、抽出した強度の分布の形状と確率密度関数PDF(x)との類似度が最も高くなるように、パラメータの値を設定する。パラメータの値は、たとえば最尤推定、カーネル密度推定などを用いて算出され得る。ただし、パラメータの値の算出方法は、これに限定されない。
【0046】
式(1)において、期待値μ=0、分散σ2=1が設定されると、確率密度関数PDF(x)は、以下の式(2)によって表される。
【0047】
【0048】
ステップS1において、式(1)のような連続型確率分布が選択された場合、補正関数生成部82は、確率変数Xのとりうる範囲を設定してもよい。たとえば、式(2)において、確率変数Xのとりうる範囲として、下限値x_minから上限値x_maxまでの範囲が設定された場合、確率密度関数PDF(x)は、以下の式(3)によって表される。
【0049】
【0050】
図5は、確率密度関数PDF(x)の一例を示す図である。
図5には、上記の式(3)に従った確率密度関数PDF(x)が示されている。式(3)および
図5に示されるように、確率変数Xが下限値x_minから上限値x_maxまでの範囲内の値をとるとき、確率密度関数PDF(x)は式(2)で表され、確率変数Xがこの範囲外の値をとるとき、確率密度関数PDF(x)は0である。
【0051】
下限値x_minは、確率密度関数PDF(x)において、期待値μより小さく、かつ、確率密度が十分に小さくなる値が設定される。上限値x_maxは、確率密度関数PDF(x)において、期待値μより大きく、かつ、確率密度が十分に小さくなる値が設定される。
【0052】
(ステップS3)
次に、
図4に示されるように、補正関数生成部82は、ステップS2において生成された確率密度関数PDF(x)から累積分布関数CDF(x)を算出する(ステップS3)。累積分布関数CDF(x)は、確率変数Xがx以下になる確率の関数である。
【0053】
たとえば、補正関数生成部82は、上記の式(3)に従った確率密度関数PDF(x)から、以下の式(4)によって表される累積分布関数CDF(x)を算出する。
【0054】
【0055】
図6は、累積分布関数CDF(x)の一例を示す図である。
図6には、上記の式(4)に従った累積分布関数CDF(x)が示されている。
【0056】
なお、確率分布の種類によっては、確率変数Xが下限値x_minの近傍または上限値x_maxの近傍において、累積分布関数CDF(x)が非線形となり得る。しかしながら、確率密度が十分に小さくなる値が上限値x_maxおよび下限値x_minとして設定されることにより、累積分布関数CDF(x)の非線形は問題とならない。
【0057】
(ステップS4)
次に、補正関数生成部82は、累積分布関数CDF(x)と閾値th1,th2(th1>th2)とを用いて、補正関数p(xraw(t))を算出する(ステップS4)。
【0058】
図7は、増速機内の軸受に損傷があるときのセンサ信号の時間波形の一例を示す図である。
図7では、軸受の損傷に起因する振動が約0.3秒の周期で現われている。
図7に示されるように、閾値th1は、ノイズ成分の正側のピーク強度よりも僅かに大きくなるように定められることが好ましい。閾値th2は、ノイズ成分の負側のピーク強度よりも僅かに小さくなるように定められることが好ましい。
【0059】
閾値th1,th2は、センサ70の種類に応じて予め定められていてもよい。診断期間の終了後に診断期間内に取得されたセンサ信号に対応する補正済信号が生成される場合、補正関数生成部82は、診断期間においてセンサ70から取得されたセンサ信号の強度分布に応じて閾値th1,th2を設定してもよい。あるいは、診断期間中においてリアルタイムで補正済信号が生成される場合、補正関数生成部82は、診断期間より過去の期間においてセンサ70から取得されたセンサ信号の強度分布に応じて閾値th1,th2を設定してもよい。
【0060】
たとえば、補正関数生成部82は、診断期間または過去の期間においてセンサ70から取得されたセンサ信号の強度分布から算出した標準偏差σと平均値AVEとを用いて、AVE+cσを閾値th1として設定し、AVE-cσを閾値th2として設定してもよい。cは、予め定められる定数である。
【0061】
補正関数生成部82は、累積分布関数CDF(x)のxに、閾値th1,th2と時刻tに取得したセンサ信号の強度xraw(t)との差を代入することにより、補正関数p(xraw(t))を算出する。具体的には、補正関数生成部82は、以下の式(5)に従って、補正関数p(xraw(t))を算出する。
p(xraw(t))=1-CDF(th1-xraw(t))+CDF(th2-xraw(t))
・・・式(5)。
【0062】
図8は、補正関数p(x
raw(t))の一例を示す図である。
図8に示されるように、補正関数p(x
raw(t))は、センサ信号の強度x
raw(t)が期待値μ(
図8では0)付近において略0となる。しかしながら、強度x
raw(t)が期待値μより大きい場合、(x
raw(t)-μ)が大きくなるほど補正関数p(x
raw(t))が大きくなる。補正関数p(x
raw(t))の傾きは、閾値th1のときに最大となる。また、強度x
raw(t)が期待値μより小さい場合、(μ-x
raw(t))が大きくなるほど補正関数p(x
raw(t))が大きくなる。補正関数p(x
raw(t))の傾きは、閾値th2のときに最小となる。
【0063】
図9は、
図8に示す補正関数p(x
raw(t))の1階の導関数を示す図である。
図9に示されるように、補正関数p(x
raw(t))の1階の導関数は、閾値th1において極大値を有し、閾値th2において極小値を有する。
【0064】
<補正済信号の例>
図10は、補正部から出力される補正済信号の一例を示す図である。
図10には、
図7に示すセンサ信号を
図8に示す補正関数p(x
raw(t))を用いて補正することにより得られる補正済信号の時間波形が示される。
【0065】
図10に示されるように、ノイズである確率の高い信号成分が効果的に低減され、S/N比が改善されている。これにより、軸受の損傷に起因する振動(約0.3秒周期の衝撃振動)のピークが明瞭となっている。
【0066】
<評価値算出部>
評価値算出部85は、診断期間における補正済信号の時間波形の特徴を示す評価値を算出する。増速機40に異常が発生した場合、補正済信号の時間波形が変化する。そのため、評価値は、増速機40の異常の特徴を数値的に表す。SN比の改善された補正済信号の時間波形を用いることにより、異常に対する評価値の感度が向上する。これにより、異常検出の早期化および高精度化が実現される。特に、SN比の低下しやすい低回転速度条件(たとえば100min-1以下)であっても、異常に対する評価値の感度が良好である。
【0067】
評価値として、たとえば、以下の式(6)によって算出される実効値(RMS(Root Mean Square value))、式(7)によって算出される波高率(CF(Crest Factor))、式(8)によって算出される尖度(Kurtosis)などが採用され得る。
【0068】
【0069】
SN比の改善された補正済信号を用いることにより、振動レベルを表す実効値は、軸受の損傷部位で発生する異常振動に対して良好な感度を有する。同様の理由により、信号のピーク値と実効値との比である波高率、および信号の頻度分布の鋭さ(「とがり」ともいう)を表す尖度についても、異常振動に対して良好な感度を有する。
【0070】
あるいは、評価値算出部85は、補正済信号を周波数解析(フーリエ変換)した周波数スペクトルから評価値を算出してもよい。周波数スペクトルから評価値を算出する手法として、たとえば特開2018-179977号公報(特許文献3)に記載の公知の技術が採用され得る。周波数スペクトル上においてもノイズ成分が低減されるため、軸受の損傷に関連する周波数ピークが明確に現われる。そのため、評価値は、異常振動に対して良好な感度を有する。
【0071】
評価値算出部85は、複数種類の評価値を算出してもよい。たとえば、評価値算出部85は、実効値および尖度を算出してもよい。
【0072】
<判定部>
判定部86は、評価値を用いて、異常の有無を判定する。典型的には、判定部86は、評価値と予め定められた閾値とを比較して、比較結果に応じて異常の有無を判定する。複数種類の評価値が算出されている場合、判定部86は、複数種類の評価値の各々と閾値とを比較し、複数の比較結果の組み合わせに応じて異常の有無を判定すればよい。
【0073】
さらに、判定部86は、異常有りと判定した場合に、異常の発生している部位を推定してもよい。異常の発生している部位の推定方法として、たとえば特許文献3に記載の公知の技術が採用され得る。
【0074】
判定部86は、判定結果を外部装置に出力してもよい。これにより、外部装置を操作する作業者は、風力発電装置10の増速機40の異常の有無を確認できる。
【0075】
<作用効果>
以上のように、本開示の状態監視装置80は、対象物の一例である増速機40の状態を監視する。状態監視装置80は、補正部83と、診断部84とを備える。補正部83は、診断期間(第1期間)において増速機40に設置したセンサ70から取得したセンサ信号の強度xraw(t)に、当該強度xraw(t)に応じた補正係数k(t)を乗算することにより補正済信号(第2信号)を生成する。診断部84は、補正済信号の強度の経時変化を示す時間波形に基づいて、増速機40の異常を診断する。診断期間または診断期間よりも過去の期間(第2期間)においてセンサ70から取得されたセンサ信号の強度分布の期待値をμとすると、補正係数は、第1条件および第2条件を満たす。第1条件は、μ<xraw(t)のときに(xraw(t)-μ)が大きくなるほど補正係数k(t)が大きくなるという条件である。第2条件は、μ>xraw(t)のときに(μ-xraw(t))が大きくなるほど補正係数k(t)が大きくなるという条件である。
【0076】
多くのノイズ成分の強度は、期待値μに近い。そのため、μ<xraw(t)の場合、ノイズ成分よりも、増速機40の異常に起因する成分の強度が強調される。同様に、μ>xraw(t)の場合にも、ノイズ成分よりも、増速機40の異常に起因する成分の強度が強調される。そのため、センサ信号のS/N比が低い場合であっても、補正済信号の強度の経時変化を示す時間波形に基づいて、増速機40の異常を精度良く診断できる。
【0077】
さらに、上記の構成によれば、特許文献2のように、振動波形データとノイズデータとの合成処理の回数を複数回実行する必要がない。そのため、計測コストが抑制される。
【0078】
このように、センサ70から取得されるセンサ信号のS/N比が低い場合であっても、低い計測コストで増速機40の異常を診断できる。
【0079】
状態監視装置80は、センサ信号の強度xraw(t)を説明変数とし、補正係数k(t)を目的変数とする補正関数p(xraw(t))を生成する補正関数生成部82をさらに備える。補正部83は、補正関数p(xraw(t))にセンサ信号の強度xraw(t)を代入することにより補正係数k(t)を決定する。これにより、補正関数p(xraw(t))を用いて、容易に補正係数k(t)を決定できる。
【0080】
補正関数p(xraw(t))の1階の導関数は、期待値μよりも大きい閾値th1において極大値を有する。これにより、強度xraw(t)が期待値μから閾値th1に近づくにつれ、補正係数k(t)が急峻に大きくなる。そのため、期待値μから閾値th1までの強度を有するノイズ成分が低減され、増速機40の異常に起因する、閾値th1を超える強度の成分がより強調される。
【0081】
同様に、補正関数p(xraw(t))の1階の導関数は、期待値μよりも小さい閾値th2において極小値を有する。これにより、強度xraw(t)が期待値μから閾値th2に近づくにつれ、補正係数k(t)が急峻に大きくなる。そのため、期待値μから閾値th2までの強度を有するノイズ成分が低減され、増速機40の異常に起因する、閾値th2を超える強度の成分がより強調される。
【0082】
補正関数生成部82は、診断期間または診断期間よりも過去の期間に取得されたセンサ信号の強度分布に応じた確率密度関数PDF(x)を設定する。さらに、補正関数生成部82は、期待値μよりも大きい閾値th1と、期待値μよりも小さい閾値th2との少なくとも1つを設定する。閾値th1,th2の両者を設定した場合に、補正関数生成部82は、確率密度関数PDF(x)から算出される累積分布関数CDF(x)を用いて、上記の式(5)を補正関数p(xraw(t))として設定する。
【0083】
上記の構成によれば、上記の第1条件および第2条件を満たす補正係数k(t)を算出するための補正関数p(xraw(t))が容易に設定される。
【0084】
<変形例1>
上記の説明では、補正関数生成部82は、閾値th1,th2を設定し、閾値th1,th2を用いて補正関数p(xraw(t))を算出する。しかしながら、補正関数生成部82は、閾値th1,th2のうちの一方のみを設定してもよい。
【0085】
期待値μより大きい閾値th1のみを設定する場合、補正関数生成部82は、以下の式(9)に従って補正関数p(xraw(t))を算出する。
p(xraw(t))=1-CDF(th1-xraw(t))・・・式(9)
式(9)に従って算出される補正関数p(xraw(t))は、上記の第1条件(μ<xraw(t)のときに(xraw(t)-μ)が大きくなるほど補正係数k(t)が大きくなるという条件)を満たす。しかしながら、式(9)に従って算出される補正関数p(xraw(t))は、上記の第2条件(μ>xraw(t)のときに(μ-xraw(t))が大きくなるほど補正係数k(t)が大きくなるという条件)を満たさない。
【0086】
期待値μよりも小さい閾値th2のみを設定する場合、補正関数生成部82は、以下の式(10)に従って補正関数p(xraw(t))を算出する。
p(xraw(t))=1+CDF(th2-xraw(t))・・・式(10)
式(10)に従って算出される補正関数p(xraw(t))は、上記の第2条件を満たす。しかしながら、式(10)に従って算出される補正関数p(xraw(t))は、上記の第1条件を満たさない。
【0087】
増速機40に異常が発生した場合、センサ信号の強度の振幅が大きくなる。そのため、式(9)に従って補正関数p(xraw(t))が算出された場合、補正済信号の強度の時間波形において、異常の発生に起因する正側のピークが明確に現われる。一方、式(10)に従って補正関数p(xraw(t))が算出された場合、補正済信号の強度の時間波形において、異常の発生に起因する負側のピークが明確に現われる。そのため、式(9)または式(10)を用いて補正関数p(xraw(t))が算出されたとしても、増速機40の異常を精度良く診断できる。
【0088】
<変形例2>
風力発電装置10では、風向き、風力などの環境の変化によって、負荷の大きさ、回転速度が刻々と変化し得る。このような場合、増速機40の振動の大きさ、センサ信号のノイズの大きさも刻々と変化し得る。そのため、補正関数生成部82は、補正関数p(xraw(t))を周期的に更新することが好ましい。
【0089】
図11は、変形例2に係る状態監視装置の補正関数の更新タイミングを模式的に示す図である。
図11には、周期T毎に補正関数p(x
raw(t))を更新する例が示される。
【0090】
補正関数生成部82は、周期Tと同じ時間長さを有する区間毎に、補正係数を決定するための補正関数p(x
raw(t))を更新する。
図11に示されるように、補正関数生成部82は、時刻t1~t2の区間Aに取得したセンサ信号の強度x
raw(t1)~x
raw(t2)を示すデータが記憶部87に蓄積されると、強度x
raw(t1)~x
raw(t2)を用いて補正関数p
a(x
raw(t))を生成する。
【0091】
具体的には、
図4に示すステップS1において、補正関数生成部82は、強度x
raw(t1)~x
raw(t2)の分布の形状にフィットする1つの種類の確率分布を選択する。ステップS2において、補正関数生成部82は、強度x
raw(t1)~x
raw(t2)の分布の形状にフィットするように、確率分布のパラメータの値を設定し、確率密度関数PDF(x)を算出する。それから、補正関数生成部82は、確率密度関数PDF(x)から累積分布関数CDF(x)を算出する。ステップS4において、補正関数生成部82は、たとえば、強度x
raw(t1)~x
raw(t2)の分布から算出した標準偏差σと平均値AVEとを用いて、AVE+cσを閾値th1として設定し、AVE-cσを閾値th2として設定する。補正関数生成部82は、累積分布関数CDF(x)と閾値th1,th2とを用いて、上記の式(5)に従って補正関数p
a(x
raw(t))を算出する。
【0092】
補正関数pa(xraw(t))が算出されると、補正部83は、補正関数pa(xraw(t))を用いて、時刻t1~t3の各時刻における補正係数k(t)を決定する。補正部83は、補正係数k(t)を強度xraw(t)に乗算することにより、時刻t1~t2における補正済信号を生成する。
【0093】
時刻t1~t2の補正済信号が生成されると、診断部84は、当該補正済信号を用いて、対象物の異常を診断する。なお、区間Aの時間長さは、診断期間と同じであってもよいし、診断期間の複数倍であってもよい。区間Aの時間長さが診断期間の複数倍である場合、診断部84は、区間Aを複数の診断期間に分割し、診断期間毎に対象物の異常を診断すればよい。
【0094】
区間Aの次の区間Bについても、同様に、区間Bの終了後に、区間Bに取得したセンサ信号の強度xraw(t2)~xraw(t4)を用いて補正関数pb(xraw(t))が生成される。その後、補正部83は、補正関数pb(xraw(t))を用いて、時刻t2~t4の各時刻における補正係数k(t)を決定する。補正部83は、補正係数k(t)を強度xraw(t)に乗算することにより、時刻t2~t4における補正済信号を生成する。診断部84は、当該補正済信号を用いて、対象物の異常を診断する。
【0095】
変形例2に係る状態監視装置によれば、対象物の状態(たとえば回転速度)に応じて、補正関数p(xraw(t))が周期的に更新される。その結果、精度良く異常を診断できる。
【0096】
<変形例3>
変形例2に係る状態監視装置では、区間Aから区間Bに変わるときに、補正関数がpa(xraw(t))からpb(xraw(t))に更新される。そのため、補正係数も非線形に変化する。このような非線形の変化を緩和させるために、補正関数生成部82は、補正関数p(xraw(t))のスムージング処理を行なってもよい。
【0097】
図12は、変形例3に係る補正関数生成部の処理の流れを示すフローチャートである。
図12に示すフローチャートは、
図4に示すフローチャートと比較して、ステップS5に示すスムージング処理を備える点で相違する。
【0098】
ステップS5において、補正関数生成部82は、補正関数を更新するときに移行期間を設定する。たとえば、補正関数生成部82は、
図11に示す補正関数p
a(x
raw(t))を補正関数p
b(x
raw(t))に更新するときに、時刻t2から時刻t2~t4の区間B内の時刻t3までの期間を移行期間として設定する。時刻t3は、たとえば区間Bの中間時点である。
【0099】
補正関数生成部82は、移行期間において、補正関数pa(xraw(t))を補正関数pb(xraw(t))に徐々に変化させる。たとえば、補正関数生成部82は、時刻t2~t3内の時刻tの補正関数p(xraw(t))を以下の式(11)に従って算出する。
【0100】
【0101】
図13は、移行期間における補正関数の変化を示す図である。
図13に示されるように、移行期間において、補正関数は、p
a(x
raw(t))からp
b(x
raw(t))に徐々に変化する。
【0102】
なお、移行期間は、時刻t2~t3までの期間に限定されない。たとえば、区間Aの中間時刻から時刻t3までの期間が移行期間として設定されてもよい。この場合、区間A内の診断期間に取得されたセンサ信号の強度xraw(t)に対する補正および診断は、区間Bに対応する補正関数pb(xraw(t))が算出された後に実施される。
【0103】
<変形例4>
上記の説明では、状態監視装置80が補正関数生成部82を備えるものとした。しかしながら、補正関数生成部82は、外部装置に備えられていてもよい。この場合、状態監視装置80は、外部装置から補正関数p(xraw(t))を取得する。状態監視装置80の補正部83は、取得した補正関数p(xraw(t))を用いて補正係数を決定すればよい。
【0104】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0105】
10 風力発電装置、20 主軸、25 ハブ、30 ブレード、40 増速機、50 発電機、60 主軸用軸受、70 センサ、80 状態監視装置、81 保存処理部、82 補正関数生成部、83 補正部、84 診断部、85 評価値算出部、86 判定部、87 記憶部、90 ナセル、100 タワー、801 CPU、802 RAM、803 ストレージ、804 通信インターフェイス、805 バス、806 監視プログラム。