(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】シートスライド装置
(51)【国際特許分類】
B60N 2/08 20060101AFI20231225BHJP
【FI】
B60N2/08
(21)【出願番号】P 2020176250
(22)【出願日】2020-10-20
【審査請求日】2023-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】598106326
【氏名又は名称】トヨタ紡織精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 喜久
(72)【発明者】
【氏名】吉田 圭介
(72)【発明者】
【氏名】袴田 恭平
【審査官】杉▲崎▼ 覚
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-032736(JP,A)
【文献】国際公開第2013/035536(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0085330(US,A1)
【文献】特開2014-083890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に取り付け可能であり、レール長手方向に沿って並んでいる複数の溝が設けられているロアレールと、
シートに取り付け可能であり、前記ロアレールに対してスライド可能に係合しているアッパレールと、
前記溝に係合する突起が設けられている突起支持部を一端に備えており、前記突起支持部が前記溝に対して接近/離反する方向(揺動方向)に揺動可能に前記アッパレールに支持されており、ユーザの前記揺動方向の操作力が加わる操作部を他端に備えているロックレバーと、
前記突起が前記溝に接近する方向に前記ロックレバーを付勢するバネと、
を備えており、
前記ロックレバーは、前記アッパレールに揺動可能に支持される被支持部と前記操作部の間に設けられており、前記揺動方向に弾性を有する弾性部を備えており、
前記アッパレールは、前記突起が前記溝から離反する方向の前記ロックレバーの揺動を制限するストッパであって前記操作部と前記弾性部の間で前記ロックレバーの揺動を制限するストッパを備えており、
前記被支持部と、前記被支持部を支持する前記アッパレールの支持部の一方に前記揺動方向に細長い長孔が備えられており他方に前記長孔に係合する揺動軸が備えられており、
前記操作力が加わって前記突起支持部の先端が前記溝に対向する対向部位に当接し、前記弾性部が撓んでいない状態のときには前記突起と前記溝の係合が保持され、
前記操作力が増すと前記弾性部が撓んで前記被支持部が前記溝から遠ざかる方向に移動して前記突起が前記溝から離間する、シートスライド装置。
【請求項2】
前記突起支持部は前記レール長手方向に沿って並んでいる複数の前記突起を備えており、
前記ロックレバーは、
前記操作力が加わって前記突起支持部の先端が前記溝に対向する対向部位に当接し、前記弾性部が撓んでいない状態のとき、前記揺動軸から最も遠い前記突起は前記溝から離間し前記揺動軸に最も近い前記突起と前記溝の係合が保持され、
前記操作力が増すと前記弾性部が撓んで前記被支持部が前記溝から遠ざかる方向に移動して全ての前記突起が前記溝から離間する、請求項1に記載のシートスライド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、自動車のシートをスライドさせるシートスライド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シートをスライドさせるシートスライド装置は、車体に取り付け可能なロアレールと、シートの下部に取り付け可能なアッパレールを備えている。アッパレールはロアレールに対してスライド可能に係合している。
【0003】
シートスライド装置は、ロアレールに対してアッパレールを固定するロック機構を備える。一般的なロック機構は、ロアレールに設けられている複数の溝と、アッパレールに支持されているロックレバーで構成される(例えば特許文献1)。ロックレバーの一端にはロアレールの複数の溝のいずれかに係合する突起が設けられている。ロックレバーは突起が溝に接近/離反する方向に揺動するようにアッパレールに支持されている。ロックレバーは、突起が溝に接近する方向に付勢されている。この付勢力により、アッパレールのロック状態が保持される。ユーザがロックレバーを所定方向に動かすと突起が溝から離れ、ロックが解除され、アッパレールがロアレールに対してスライド可能となる。即ちシートがスライド可能となる。ユーザがロックレバーから手を離すとバネ力によってロックレバーは反対方向に揺動し、突起が溝に係合し、アッパレールがロアレールに対してロックされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ロックレバーは揺動軸を中心に、突起が設けられている部位が揺動する。突起よりも揺動軸から遠い部位の揺動範囲は突起の揺動範囲よりも大きい。ロックが解除される際、突起が溝から離れるときにはロックレバーの先端(突起側のロックレバーの先端)は溝から遠く離れることになる。すなわち、突起が溝から離れるためにはロックレバーの先端に対して広い揺動範囲を確保する必要がある。そのため、アッパレールの揺動方向において、ロアレールが大きくなってしまう。本明細書は、アッパレールの揺動方向のロアレールの長さを抑える技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示するシートスライド装置は、車体に取り付け可能であり、レール長手方向に沿って並んでいる複数の溝が設けられているロアレールと、シートに取り付け可能であり、ロアレールに対してスライド可能に係合しているアッパレールと、ロックレバーと、バネを備える。ロックレバーは、ロアレールの溝に係合する突起が突起支持部を一端に備えており、突起支持部が溝に対して接近/離反する方向(揺動方向)に揺動可能にアッパレールに支持されており、ユーザの揺動方向の操作力が加わる操作部を他端に備えている。バネは、突起が溝に接近する方向にロックレバーを付勢する。
【0007】
ロックレバーは、さらに、アッパレールに揺動可能に支持される被支持部と操作部の間に設けられており揺動方向に弾性を有する弾性部を備える。アッパレールは、突起が溝から離反する方向のロックレバーの揺動を制限するストッパを有する。ストッパは、操作部と弾性部の間でロックレバーの揺動を制限する。ロックレバーの被支持部と、この被支持部を支持するアッパレールの支持部の一方には、揺動方向に細長い長孔が備えられており、他方には、長孔に係合する揺動軸が備えられている。
【0008】
理解を助けるために、ロックレバーに揺動軸が設けられており、アッパレールに長孔が設けられているケースを想定する。また、揺動軸は水平方向に延びているケースを想定する。すなわち、ロックレバーが上下に揺動するケースを想定する。長孔は上下方向(ロックレバーの揺動方向)に細長く、ロックレバーの揺動軸は長孔に係合している。バネの付勢力により、操作力が作用していないときには揺動軸は長孔の上端(溝に近い側の端)に位置する。
【0009】
操作力が加わって突起支持部の先端が溝に対向する対向部位に当接しても弾性部が撓んでいない状態のときには突起と溝の係合が保持される。操作力が増すと弾性部が撓んで揺動軸が下方(溝から遠ざかる方向)に移動して突起が溝から離間する。
【0010】
本明細書が開示するシートスライド装置では、操作力が増して弾性部が撓むと、揺動が制限されたロックレバーの先端(突起支持部の先端)が対向部位に当接して動かずとも、ロックレバーの揺動軸が下方(溝から遠ざかる方向)に移動し、揺動軸の移動に伴って突起も移動する。その結果、突起が溝から外れてロックが解除される。ロックレバーの先端の揺動範囲を抑えることができ、ロアレールの高さ(ロックレバー揺動方向のロアレールの長さ)を抑えることができる。
【0011】
さらに理解を助けるため、突起支持部にレール長手方向に並ぶ2個の突起が設けられている場合を想定する。ロックレバーの揺動に制限が無い場合(従来の場合)、揺動軸に近い突起(近位側突起)の揺動範囲は揺動軸から遠い突起(遠位側突起)の揺動範囲よりも狭い。従来の構造では、近位側突起が溝から離れるときには遠位側突起は溝から遠く離れることになる。遠位側突起の揺動範囲を確保するため、揺動方向においてロアレールが大きくなってしまう。本明細書が開示する技術を適用すれば、ロックレバーは次のように動く。すなわち、操作力が加わって突起支持部の先端が溝に対向する対向部位に当接しても弾性部が撓んでいない状態のとき、遠位側突起は溝から離間し、近位側突起と溝の係合が保持される。操作力が増すと揺動が制限されたロックレバーの弾性部が撓んで揺動軸が長孔の長手方向に沿って下方(溝から遠ざかる方向)に移動して全ての突起が溝から離間する。
【0012】
操作力が増して弾性部が撓むと、溝から外れている遠位側突起が動かずとも、ロックレバーの揺動軸が下方(溝から遠ざかる方向)に移動し、揺動軸の移動に伴って近位側突起も移動する。その結果、全ての突起が溝から外れ、ロックが解除される。遠位側突起の移動範囲を抑えることができ、ロックレバーの高さ(揺動方向のロアレールの長さ)を抑えることができる。
【0013】
アッパレールに揺動軸が設けられ、ロックレバーに長孔が設けられていても同様の効果が得られる。本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例のシートスライド装置の側面図である。
【
図6】操作力が加わった状態のシートスライド装置の側面図である。
【
図7】操作力が増した状態のシートスライド装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照して実施例のシートスライド装置2を説明する。
図1に、自動車に取り付けられたシートスライド装置2の側面図を示す。シートスライド装置2は、ロアレール10とアッパレール20で構成されている。アッパレール20は、ロアレール10に対してレール長手方向にスライド可能に取り付けられている。ロアレール10は車両のフロアパネル99に固定される。アッパレール20は、シート90のシートクッション91の下部に取り付けられる。アッパレール20の前端から、ロックレバー(後述)の操作部38が延びている。ユーザが操作部38を引き上げると、ロアレール10に対するアッパレール20のロックが解除され、アッパレール20がスライド可能になる。即ちシート90がスライド可能になる。図中の座標系のX方向がロアレール10とアッパレール20のレール長手方向に相当する。Y方向がレール短手方向に相当する。図中の座標系の+Z方向が上方を示す。座標系の各軸の意味は以下の図でも同じである。
【0016】
図2にロアレール10の斜視図を示す。ロアレール10は、車体側に取り付けられる底板11と、一対の外縦板12と、一対の上板13と、一対の内縦板14を備えている。一対の外縦板12は、レール短手方向(図中のY方向)で底板11の両端のそれぞれから上方に向かって延びている。一対の上板13は、夫々の外縦板12の上端からレール短手方向のレール内側に向かって延びている。一対の内縦板14は、夫々の上板13の内側端から下方へ延びている。一対の内縦板14は、互いに対向している。外縦板12と内縦板14は略平行である。それぞれの内縦板14には、レール長手方向(X方向)に並んでいる複数のロック溝15が設けられている。
図2では、2個のロック溝にのみ符号15を付し、残りのロック溝には符号は省略した。ロック溝15は、下方に向けて凹凸となるように配列されている。別言すれば、ロック溝15は、下方が開いている。
【0017】
一対の内縦板14の間にアッパレール20が配置される。ロアレール10とアッパレール20の間には複数の転動体(不図示)が挟まれる。ロアレール10とアッパレール20の間に転動体が介在することで、アッパレール20はロアレール10に対して円滑にスライドする。
【0018】
図3に、一部を断面で表したシートスライド装置2の側面図を示す。
図4は、ロックレバー30の平面図である。
図5は、
図3のV-V線に沿った断面図である。
【0019】
図5を参照してアッパレール20を説明する。アッパレール20は、上板21、底板23、一対の縦板22を備える。一対の縦板22が上板21と底板23を連結する。アッパレール20は、一対の縦板22がロアレール10の一対の内縦板14の間に位置するように、ロアレール10に係合する。上板21と底板23の間にロックレバー30の突起支持部34が位置する。ロックレバー30は、縦板22に設けられた長孔24(後述)に揺動可能に支持される。ロックレバー30の詳細は後述する。ロックレバー30のロック突起35が縦板22のスリット22aを通じて外側(レール短手方向でレール中心から離れる方向)へと延びている。ロックレバー30がロアレール10のロック溝15に係合しているとき、アッパレール20(すなわちシート90)がロアレール10に対して固定される。ロックレバー30が揺動して全てのロック突起35がロック溝15から離れるとロックが解除され、アッパレール20(すなわちシート90)がロアレール10に対してスライド可能になる。
【0020】
ロックレバー30を説明する。ロックレバー30は、細長であり、その長手方向がレール長手方向に沿うようにアッパレール20に配置される。ロックレバー30は、アッパレール20に設けられた長孔24(
図3参照)に揺動軸31が嵌合し、アッパレール20に揺動可能に支持される。
図3は紙面手前側の縦板22をカットした断面を示しており、長孔24は仮想線で描いてある。
図3では、紙面手前側の内縦板14(ロアレール10の内縦板14)も仮想線で描いてある。内縦板14に設けられたロック溝15も仮想線で描かれている。ロック溝15は、ロアレール10の一端から他端にわたって設けられているが、
図3では溝列の途中から図示を省略してある。
【0021】
ロックレバー30の一端に突起支持部34が設けられており、他端に操作部38が設けられている。別言すれば、突起支持部34と操作部38は揺動軸31を挟むように配置されている。突起支持部34の短手方向(Y方向)の両側のそれぞれに複数のロック突起35が配置されている(
図4参照)。突起支持部34の夫々の側で、複数のロック突起35は、レール長手方向に沿って並んでいる。説明の便宜上、揺動軸に最も近いロック突起35を近位側突起35aと称し、揺動軸31から最も遠いロック突起から最も遠いロック突起35を遠位側突起35bと称することにする。
【0022】
ロックレバー30は、揺動軸31を中心にして図中の座標系のZ方向(上下方向)に揺動することができる。ロックレバー30とアッパレール20の上板21はバネ25で連結されている。バネ25は、揺動軸31と突起支持部34の間でロックレバー30に連結されている。バネ25は、ロック突起35がロック溝15に接近する方向にロックレバー30を付勢する。ユーザの操作力が加わっていないとき、全てのロック突起35は対応するロック溝15に係合し、アッパレール20がロックされる。すなわち、アッパレール20がロアレール10に対して固定される。なお、
図3では、バネ25を模式化して描いてある。バネ25の具体的な構造例は後に説明する。
【0023】
揺動軸31は、アッパレール20の長孔24に嵌合している。長孔24は、上下方向(すなわち揺動方向)に細長い。ユーザの操作力が加わっていない状態では、バネ25の付勢力により、揺動軸31は上側、すなわち、ロック溝15に近い側の長孔24の端に位置する。揺動軸31に下方の力が加わると、揺動軸31は長孔24の長手方向に沿って、ロック溝15から遠い側の端へと移動し得る。
【0024】
長孔24は、下方向けて幅が広がっている。別言すれば、長孔24は、ロック溝15から離れるにつれて幅が広がっている。後述するように、揺動軸31が長孔24に沿って下端(ロック溝15から遠い側の端)に移動するとロックが解除される。長孔24が下方に向かうにつれて幅が広くなっていることで、揺動軸31が長孔24の下端に達したとき、揺動軸31は長孔24の短手方向(レール長手方向)に若干動くことができるようになる。長孔24の下端にて揺動軸31がレール長手方向に動く余裕を有することで、ロック突起35がロック溝15から外れ易くなる。
【0025】
揺動軸31と操作部38の間には弾性部33が配置されている。弾性部33は、ロックレバー30の揺動方向、すなわち、上下方向に弾性を有している。ロックレバー30の長手方向の両端、すなわち、操作部38と突起支持部34に揺動方向の力が加わると、弾性部33は揺動方向に撓み得る。
【0026】
ユーザが操作部38にロック解除方向(上方向)の操作力を加えると、ロックレバー30が揺動し、ロックが解除される。このときのロックレバー30の挙動を
図3、
図6、
図7を参照して説明する。
【0027】
先に述べたように、操作力が加わっていない状態では、バネ25によって、ロック突起35がロック溝15に接近する方向にロックレバー30が付勢される。バネ25の付勢力により、全てのロック突起35はロック溝15に係合し、ロック状態が保持される。このとき、ロックレバー30の揺動軸31は、アッパレール20の長孔24の上端(ロック溝15に近い側の端)に位置する。
【0028】
ユーザがロック解除方向(上方向)の操作力(
図6の矢印F1)を加えると、揺動軸31を中心にロックレバー30が揺動する。ロックレバー30はロック突起35がロック溝15から離れる方向に揺動する。ロックレバー30の突起支持部34はアッパレール20の底板23に当接し、操作部38の基部39は、アッパレール20の上板21の前端26に当接する(
図6参照)。
【0029】
アッパレール20の底板23はロック溝15に対向する。突起支持部34がロック溝15に対向する底板23に当接しても、弾性部33が撓んでいない状態(
図6)では、遠位側突起35bはロック溝15から離間しても、近位側突起35aはロック溝15との係合が保持される。これは、近位側突起35a(揺動軸31に近いロック突起35)の揺動距離が遠位側突起35b(揺動軸31から遠いロック突起35)の揺動距離よりも短いために生じる。弾性部33が撓んでいない状態(
図6)では、アッパレール20のロックは解除されない。なお、このとき、揺動軸31は長孔24のロック溝15に近い側の端に保持されている。
【0030】
一方、操作部38の基部39がアッパレール20の上板21の前端26に当接すると、ロックレバー30のさらなる揺動が制限される。前端26は、ロック突起35がロック溝15から離れる方向のロックレバー30の揺動を制限するストッパの役割を果たす。前端26(ストッパ)は、操作部38と弾性部33の間でロックレバー30の揺動を制限する。
【0031】
図6の状態では、ロックレバー30の突起支持部34はアッパレール20の底板23に当接し、基部39はストッパ(上板21の前端26)に当接している。突起支持部34と基部39は、ともに、ロック解除方向のさらなる揺動が制限されることになる。弾性部33は、基部39(ストッパに当接している箇所)と揺動軸31の間に位置する。ユーザのロック解除方向の操作力が増すと(
図7の矢印F2参照)、突起支持部34と基部39の揺動(ロック解除方向の揺動)が制限されていることに起因して弾性部33が撓む。弾性部33の撓みは揺動軸31を長孔24の長手方向に沿って移動させる(
図7の矢印A参照)。揺動軸31は長孔24のロック溝15から遠い側の端へと移動する。長孔24は、ロック溝15から遠い側の端に揺動軸31が位置するときに近位側突起35aがロック溝15から離れる関係を有している。揺動軸31の移動に伴って近位側突起35aもロック溝15から離れる方向に移動する。その結果、近位側突起35aがロック溝15から離間し、全てのロック突起35がロック溝15から離間する(
図7)。すなわち、ロックが解除される。
【0032】
ロック解除時のロックレバー30の挙動をまとめると以下の通りである。ロックレバー30の揺動軸31は、アッパレール20に設けられており揺動方向に細長い長孔24に係合している。操作力が加わって突起支持部34の先端がロック溝15に対向する対向部位(アッパレール20の底板23)に当接し、弾性部33が撓んでいない状態のとき、遠位側突起35bはロック溝15から離間するが、近位側突起35aとロック溝15の係合は保持される。操作力が増すと弾性部33が撓み、揺動軸31がロック溝15から遠ざかる方向に移動し、揺動軸31の移動とともに近位側突起35aがロック溝15から離間する。全てロック突起35がロック溝15から離間し、アッパレール20のロックが解除される。
【0033】
実施例のシートスライド装置2の利点を説明する。突起支持部34の揺動範囲が制限されない場合、揺動軸31からの距離に比例して、遠位側突起35bの揺動範囲は近位側突起35aの揺動範囲よりも大きくなる。従って近位側突起35aがロック溝15から離れるときには遠位側突起35bはロック溝15から大きく離れることになる。遠位側突起35bの大きい揺動範囲を確保するためには、Z方向(ロックレバー30の揺動方向)のロアレール10の長さを大きくする必要がある。
【0034】
一方、実施例のシートスライド装置2では、操作部38と揺動軸31の間に弾性部33を備えている。揺動軸31は揺動方向に長い長孔24に係合している。この構造により、遠位側突起35bの移動が制限された後も近位側突起35aはロック溝15から離れる方向に移動し得る。より具体的には、操作部にロック解除方向の操作力が加わり、ロックレバー30が所定の範囲で揺動すると、突起支持部34の揺動(遠位側突起35bの揺動)は底板23に制限され、基部39の揺動は前端26(ストッパ)に制限される。弾性部33が撓まない状態では近位側突起35aはロック溝15に係合したままである。その状態でさらに操作力が増すと、弾性部33が撓み、揺動軸31がロック溝15から離れる方向に移動する。その結果、遠位側突起35bは動かないまま近位側突起35aがロック溝15から離れる方向に移動する。
【0035】
シートスライド装置2の構造は、遠位側突起35bの移動範囲を抑えつつ近位側突起35aを移動させることができ、ロックレバー30の揺動方向のロアレール10の長さを抑えることができる。
【0036】
変形例のロックレバー130を説明する。
図8は、ロックレバー130の斜視図である。なお、
図8では、基部39に取り付けられる操作部は図示を省略した。操作部を除くロックレバー130は、一枚の金属板で作られる。基部39も金属板の折り曲げ加工で形成されている。
【0037】
突起支持部34には、レール短手方向の片側に5個のロック突起35を備える。複数のロック突起35は、レール長手方向に並んでおり、近位側突起35aと遠位側突起35bの間に3個の中間突起35cが配置されている。
【0038】
揺動軸31は、金属板を折り曲げた後に打ち出しで形成される。また、バネ25は、揺動軸の近傍から突起支持部34の方向に向かって延びているとともに下方(アッパレール10の底板23に向かう方向)に湾曲している。バネ25の最下点25aが底板23に当接し、揺動軸31とロック突起35を上方(すなわち、ロック溝15の方向)へ付勢する。
【0039】
弾性部33は、金属板の幅を狭くしてあり、他の部位よりも弾性係数を下げてある。弾性部33は、揺動軸31と基部39の間に設けられている。ユーザが操作部38(
図8では不図示)を引き上げると、基部39がストッパ(アッパレール20の前端26)に当接する。弾性部33が湾曲していない状態では、少なくとも遠位側突起35bはロック溝15から離れるが、近位側突起35aはロック溝15に係合したままである。中間突起35cのいくつかはロック溝15から離れ、残りはロック溝15に係合したままである。あるいは、全ての中間突起35cはロック溝15から離れていてもよいし、ロック溝15に係合したままであってもよい。
【0040】
ユーザの操作力が増すと、基部39の揺動が拘束されているので、弾性部33が湾曲し、揺動軸31が長孔の中で下方へ移動する。揺動軸が長孔の下端に達すると、近位側突起35aを含む全てのロック突起35がロック溝15から離れ、ロックが解除される。
【0041】
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。揺動方向は上下方向に限らず、水平方向あるいは鉛直と水平の間の方向であってもよい。
【0042】
ロックレバー30はレール長手方向に並んでいる3個のロック突起35を備えている。ロックレバーはレール長手方向に並ぶ少なくとも2個のロック突起を備えていればよい。
【0043】
あるいは、ロックレバー30は、突起支持部34の先端よりも揺動軸に近い位置で1個のロック突起を備える態様であってもよい。その場合、ロックレバー30の操作部38にユーザの操作力が加わって突起支持部34の先端がロック溝15に対向する対向部位(底板23)に当接し、弾性部33が撓んでいない状態のときにはロック突起とロック溝15の係合が保持される。操作力が増すと弾性部33が撓んで揺動軸31がロック溝15から遠ざかる方向に移動してロック突起がロック溝15から離間する。本明細書が開示するシートスライド装置は、突起支持部に少なくとも1個のロック突起が設けられていればよい。ロック突起が1個のみの場合は、ロックレバーの先端(突起支持部の先端)よりも揺動軸に近い位置にロック突起が設けられる。
【0044】
ロック突起のレール長手方向の幅が大きい場合には、1個のロック突起が突起支持部の先端に設けられている態様も想定し得る。その場合、弾性部33が撓んでいない状態のときにはロック突起の揺動軸から遠い側の縁はロック溝から離れるが、揺動軸に近い側の縁(近位側の縁)はロック溝に係合したままとなる。操作力が増して弾性部が撓むと、近位側の縁もロック溝から外れ、ロックが解除される。
【0045】
複数のロック突起が設けられる場合、複数のロック突起はレール長手方向に沿って並ぶように配置される。
【0046】
ロックレバー30が揺動したときに突起支持部34の先端が当接する部位(対向部位)は、アッパレール20の底板23ではなく、ロアレール10の底板11であってもよい。
【0047】
実施例のシートスライド装置2では、ロックレバー30が揺動軸31を備え、アッパレール20が揺動軸31に係合する長孔24を備えている。アッパレール20が揺動軸を備え、ロックレバーが長孔を備えていてもよい。ロックレバーのアッパレールに支持される部位を被支持部、アッパレールのロックレバーを支持する部位を支持部と称すると、次の関係があればよい。ロックレバーの被支持部と、被支持部を支持するアッパレールの支持部の一方に揺動方向に細長い長孔が備えられており他方に長孔に係合する揺動軸が備えられていればよい。
【0048】
ロック解除方向の操作力が加わると、突起支持部34はロック溝15に対向する底板23(アッパレール20の底板)に当接する。ロック解除方向の操作力が加わったときに突起支持部34が当接する対向部位は、ロアレールの一部(底板11)であってもよい。
【0049】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0050】
2 :シートスライド装置
10 :ロアレール
11 :底板
12 :外縦板
13 :上板
14 :内縦板
15 :ロック溝
20 :アッパレール
21 :上板
22 :縦板
22a :スリット
23 :底板
24 :長孔
25 :バネ
26 :前端
30、130 :ロックレバー
31 :揺動軸
33 :弾性部
34 :突起支持部
35 :ロック突起
35a :近位側突起
35b :遠位側突起
38 :操作部
39 :基部
90 :シート
91 :シートクッション
99 :フロアパネル