(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】膜及びこれで表面が被覆された基材
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20231225BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20231225BHJP
C09D 127/12 20060101ALN20231225BHJP
【FI】
C08J5/18
B32B27/30 D
C09D127/12
(21)【出願番号】P 2020183661
(22)【出願日】2020-11-02
【審査請求日】2020-11-02
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2019201076
(32)【優先日】2019-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020168146
(32)【優先日】2020-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 正道
(72)【発明者】
【氏名】山口 央基
(72)【発明者】
【氏名】坂倉 淳史
(72)【発明者】
【氏名】細田 一輝
【合議体】
【審判長】井上 茂夫
【審判官】山崎 勝司
【審判官】金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/129501(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/129503(WO,A1)
【文献】特表2017-525785(JP,A)
【文献】国際公開第2009/104699(WO,A1)
【文献】特表2007-504125(JP,A)
【文献】特公昭43-29154(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素ポリマーを含有するエレクトロウェッティング素子用絶縁膜で表面が直接被覆された基材であって、
前記フッ素ポリマーが、下記式(1):
【化1】
[式中、R
1~R
4はそれぞれ独立して、フッ素原子、フルオロアルキル基、又はフルオロアルコキシ基である。]
で表される単量体単位を主成分として含み、
前記エレクトロウェッティング素子用絶縁膜が単層膜であり、
前記エレクトロウェッティング素子用絶縁膜が次の性質を有する基材:
傾斜角30°での滑落速度が150mm/s以上、及び
表面平均粗さ(Ra)が1μm以下。
【請求項2】
前記エレクトロウェッティング素子用絶縁膜がさらに次の性質を有する請求項1に記載の基材:
接触角が100°~130°。
【請求項3】
前記エレクトロウェッティング素子用絶縁膜がさらに次の性質を有する請求項1又は2に記載の基材:
全光線透過率が90%以上。
【請求項4】
前記エレクトロウェッティング素子用絶縁膜がさらに次の性質を有する請求項1~3のいずれかに記載の基材:
滑落角が15°以下。
【請求項5】
前記エレクトロウェッティング素子用絶縁膜の平均膜厚が10nm以上である請求項1~4のいずれかに記載の基材。
【請求項6】
前記フッ素ポリマーのガラス転移点(Tg)が100℃以上である請求項1~5のいずれかに記載の基材。
【請求項7】
前記式(1)で表される単量体単位が、下記式(1-1):
【化2】
[式中、R
1はフッ素原子、フルオロアルキル基、又はフルオロアルコキシ基である。]で表される単量体単位である、請求項1~6のいずれかに記載の基材。
【請求項8】
前記基材がガラス基材又はプラスチック基材である請求項1~7のいずれかに記載の基材。
【請求項9】
前記基材がエレクトロウェッティング素子用基板である請求項1~8のいずれかに記載の基材。
【請求項10】
前記エレクトロウェッティング素子用絶縁膜が、膜の全質量に対して、前記フッ素ポリマーを80質量%以上含有する、請求項1~9のいずれかに記載の基材。
【請求項11】
前記フッ素ポリマーが、前記式(1)で表される単量体単位を全単量体単位の70モル%以上含む、請求項1~10のいずれかに記載の基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、膜及びこれで表面が被覆された基材に関する。
【背景技術】
【0002】
基材表面を撥液(撥水又は撥油)材料でコーティングすることにより、撥液性(撥水性又は撥油性)を付与することが可能である。
非特許文献1には、典型的な撥液材料であるフルオロアクリレートポリマーのフルオロアルキル基鎖長又はα位の分子構造を制御することより、動的撥液性を向上できることが記載されている。
【0003】
フルオロアクリレートポリマーコーティングよりも高い動的撥液性が求められる場合には、主として表面粗さの制御によって得られる蓮の葉効果を備えた、いわゆる「超撥水性表面」(接触角が150°以上の表面)の使用が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】「フルオロアクリレートホモポリマーの動的撥液性」,高分子,60(12),p870-871,2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、水の滑落性の高い膜及び当該膜で表面が被覆された基材を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、次の態様を包含する。
項1.
次の性質を有する膜:
傾斜角30°での滑落速度が150mm/s以上、及び
表面平均粗さ(Ra)が1μm以下。
項2.
さらに次の性質を有する項1に記載の膜:
接触角が100°~130°。
項3.
さらに次の性質を有する項1又は2に記載の膜:
全光線透過率が90%以上。
項4.
さらに次の性質を有する項1~3のいずれかに記載の膜:
滑落角が15°以下。
項5.
平均膜厚が10nm以上である項1~4のいずれかに記載の膜。
項6.
フッ素ポリマーを含有する項1~5のいずれかに記載の膜。
項7.
前記フッ素ポリマーのガラス転移点(Tg)が100℃以上である項6に記載の膜。
項8.
前記フッ素ポリマーが、下記式(1):
【化1】
[式中、R
1~R
4はそれぞれ独立して、フッ素原子、フルオロアルキル基、又はフルオロアルコキシ基である。]
で表される単量体単位を主成分として含む、項6又は7に記載の膜。
項9.
前記フッ素ポリマーが、下記式(1-1):
【化2】
[式中、R
1はフッ素原子、フルオロアルキル基、又はフルオロアルコキシ基である。]で表される単量体単位を主成分として含む、項6~8のいずれかに記載の膜。
項10.
前記膜がエレクトロウェッティング素子用絶縁膜である項1~9のいずれかに記載の膜。 項11.
項1~10のいずれかに記載の膜で表面が被覆された基材。
項12.
基材がガラス基材又はプラスチック基材である項11に記載の基材。
項13.
前記膜がエレクトロウェッティング素子用絶縁膜であり、前記基材がエレクトロウェッティング素子用基板である項11又は12に記載の基材。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、水に対する滑落速度(傾斜角30°)が150mm/s以上と高く、表面平均粗さが1μm以下の膜及び当該膜で表面が被覆された基材が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の前記概要は、本開示の各々の開示された実施形態または全ての実装を記述することを意図するものではない。
本開示の後記説明は、実例の実施形態をより具体的に例示する。
本開示のいくつかの箇所では、例示を通してガイダンスが提供され、及びこの例示は、様々な組み合わせにおいて使用できる。
それぞれの場合において、例示の群は、非排他的な、及び代表的な群として機能できる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられる。
【0009】
用語
本明細書中の記号及び略号は、特に限定のない限り、本明細書の文脈に沿い、本開示が属する技術分野において通常用いられる意味に理解できる。
本明細書中、語句「含有する」は、語句「から本質的になる」、及び語句「からなる」を包含することを意図して用いられる。
本明細書中に記載されている工程、処理、又は操作は、特に断りのない限り、室温で実施され得る。本明細書中、室温は、10℃~40℃の温度を意味することができる。
本明細書中、表記「Cn-Cm」(ここで、n、及びmは、それぞれ、数である。)は、当業者が通常理解する通り、炭素数がn以上、且つm以下であることを表す。
本明細書中、「滑落角」と「転落角」は同義である。
本明細書中、「滑落速度」と「転落速度」は同義である。
【0010】
本明細書中、特に断りのない限り、「接触角」は、市販の接触角計、例えば、協和界面科学株式会社製のDropMasterシリーズの接触角計を用い、「撥水性の評価法」(福山紅陽著、表面技術、vol. 60, No.1, 2009, p21-26;以下、単に「撥水性の評価法」とも称する。)中にて「4. 1 液滴法」として記載された方法に基づいて測定できる。接触角は、具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
【0011】
本明細書中、「滑落角」は水滴が転がり始めるときの基板の傾斜角であり、特に断りのない限り、市販の接触角計、例えば、協和界面科学株式会社製のDropMasterシリーズの接触角計を用い、「撥水性の評価法」中にて「4.3 滑落法(転落法)」として記載された方法に基づいて測定できる。滑落角は、具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
【0012】
本明細書中、「滑落速度」は傾斜角30°で傾けた基板を被覆する膜上を20μLの水滴が転がる速度であり、特に断りのない限り、市販の接触角計、例えば、協和界面科学株式会社製のDropMasterシリーズの接触角計を用い、「撥水性の評価法」中にて「4.4 動的滑落法」として記載された方法に基づいて測定できる。滑落速度は、具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
【0013】
本明細書中、特に断りのない限り、「表面平均粗さ」は、「算術平均粗さ」(Ra)で規定される。Raは、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜き取り部分の平均線の方向にX軸を、縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線をy=f (x)で表したときに、次式
【化3】
によって求められる値をマイクロメートル(μm)で表したものをいう。表面平均粗さは、具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
【0014】
本明細書中、「透過率」は全光線の透過率であり、特に断りのない限り、JIS K 7375:2008「プラスチック-透明材料の全光線透過率の試験方法」に基づき、平均膜厚200μmの膜を日本電色工業(株)製ヘーズメーターNDH 7000SPIIを用いて測定される値である。透過率は、具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
【0015】
本明細書中、特に断りのない限り、「ガラス転移点」は、JIS K 7121:2012 「プラスチックの転移温度測定方法」に記載の「中間点ガラス転移温度(Tmg)」に基づき測定できる。ガラス転移点は、具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
【0016】
本明細書中、特に断りのない限り、「平均膜厚」は、カッターナイフで膜を切削した膜断面を原子間力顕微鏡(AFM)で測定する方法に基づいて決定できる。平均膜厚は、具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
【0017】
本明細書中、特に断りのない限り、「アルキル基」の例は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、及びデシル等の、直鎖状又は分枝状の、C1-C10アルキル基を包含できる。
【0018】
本明細書中、特に断りのない限り、「フルオロアルキル基」は、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子で置換されたアルキル基である。「フルオロアルキル基」は、直鎖状、又は分枝状のフルオロアルキル基であることができる。
「フルオロアルキル基」の炭素数は、例えば、炭素数1~12、炭素数1~6、炭素数1~5、炭素数1~4、炭素数1~3、炭素数6、炭素数5、炭素数4、炭素数3、炭素数2、又は炭素数1であることができる。
「フルオロアルキル基」が有するフッ素原子の数は、1個以上(例:1~3個、1~5個、1~9個、1~11個、1個から置換可能な最大個数)であることができる。
「フルオロアルキル基」は、パーフルオロアルキル基を包含する。
「パーフルオロアルキル基」は、アルキル基中の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基である。
パーフルオロアルキル基の例は、トリフルオロメチル基(CF3-)、ペンタフルオロエチル基(C2F5-)、ヘプタフルオロプロピル基(CF3CF2CF2-)、及びヘプタフルオロイソプロピル基((CF3)2CF-)を包含する。
「フルオロアルキル基」として、具体的には、例えば、モノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基(CF3-)、2,2,2-トリフルオロエチル基(CF3CH2-)、パーフルオロエチル基(C2F5-)、テトラフルオロプロピル基(例:HCF2CF2CH2-)、ヘキサフルオロプロピル基(例:(CF3)2CH-)、パーフルオロブチル基(例:CF3CF2CF2CF2-)、オクタフルオロペンチル基(例:HCF2CF2CF2CF2CH2-)、パーフルオロペンチル基(例:CF3CF2CF2CF2CF2-)及びパーフルオロヘキシル基(例:CF3CF2CF2CF2CF2CF2-)等が挙げられる。
【0019】
本明細書中、特に断りのない限り、「アルコキシ基」は、RO-[当該式中、Rはアルキル基(例:C1-C10アルキル基)である。]で表される基であることができる。
「アルコキシ基」の例は、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、及びデシルオキシ等の、直鎖状又は分枝状の、C1-C10アルコキシ基を包含する。
【0020】
本明細書中、特に断りのない限り、「フルオロアルコキシ基」は、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子で置換されたアルコキシ基である。「フルオロアルコキシ基」は、直鎖状又は分枝状のフルオロアルコキシ基であることができる。
「フルオロアルコキシ基」の炭素数は、例えば、炭素数1~12、炭素数1~6、炭素数1~5、炭素数1~4、炭素数1~3、炭素数6、炭素数5、炭素数4、炭素数3、炭素数2、又は炭素数1であることができる。
「フルオロアルコキシ基」が有するフッ素原子の数は、1個以上(例:1~3個、1~5個、1~9個、1~11個、1個から置換可能な最大個数)であることができる。
「フルオロアルコキシ基」は、パーフルオロアルコキシ基を包含する。
「パーフルオロアルコキシ基」は、アルコキシ基中の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基である。
パーフルオロアルコキシ基の例は、トリフルオロメトキシ基(CF3O-)、ペンタフルオロエトキシ基(C2F5O-)、ヘプタフルオロプロピルオキシ基(CF3CF2CF2O-)、及びヘプタフルオロイソプロピルオキシ基((CF3)2CFO-)を包含する。
「フルオロアルコキシ基」として、具体的には、例えば、モノフルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、2,2,2-トリフルオロエトキシ基(CF3CH2O-)、パーフルオロエトキシ基(C2F5O-)、テトラフルオロプロピルオキシ基(例:HCF2CF2CH2O-)、ヘキサフルオロプロピルオキシ基(例:(CF3)2CHO-)、パーフルオロブチルオキシ基(例:CF3CF2CF2CF2O-)、オクタフルオロペンチルオキシ基(例:HCF2CF2CF2CF2CH2O-)、パーフルオロペンチルオキシ基(例:CF3CF2CF2CF2CF2O-)及びパーフルオロヘキシルオキシ基(例:CF3CF2CF2CF2CF2CF2O-)等が挙げられる。
【0021】
膜
本開示の一実施態様は、膜であって、その表面が、傾斜角30°での水滴(20μL)の滑落速度が150mm/s以上、及び表面平均粗さ(Ra)が1μm以下の性質を有する膜である。この膜の表面は、表面平均粗さが1μm以下と小さいにもかかわらず、水滴が非常に滑落しやすく、滑落速度も高い。そして、この膜は、表面が粗いことにより蓮の葉効果を供えた表面と比べて、滑落性の耐久性が高い。これらの特性により、本開示の膜は滑落性とその耐久性が求められる用途向けの膜として適しており、エレクトロウェッティング素子用の絶縁膜に特に適している。
【0022】
動的撥水性は、接触角、滑落角、滑落速度等により規定できるが、特に、滑落速度が重要である。一方、「超撥水表面」は、一般には、概ね、接触角が150°以上、すなわち、水滴をその場で良く弾く表面と定義されることが多い。
【0023】
滑落速度(傾斜角30°)は、例えば150mm/s以上、150mm/s~250mm/s等であり、好ましくは160mm/s~250mm/s、より好ましくは170mm/s~250mm/sである。
【0024】
表面平均粗さ(Ra)は、例えば1μm以下、0.1μm~1μm等であり、好ましくは0.1μm~0.7μm、より好ましくは0.1μm~0.5μmである。
【0025】
滑落角は、例えば15°以下であり、好ましくは1°~10°である。
【0026】
前記膜の接触角は、例えば100°~130°であり、100°~120°であることが好ましく、110°~120°であることがより好ましい。既存の超撥水性表面の接触角は概ね150°以上である。本開示の膜は、接触角が100°~130°程度であっても良好な滑落速度を示すことができる。
【0027】
前記膜の透過率(全光線透過率)は、平均膜厚200μmの自立膜において、90%以上が好ましく、92%以上がより好ましく、95%以上が特に好ましい。透過率が高いと膜の用途がより広くなる。
【0028】
前記膜の平均膜厚は、10nm以上が好ましく、50nm~10,000nmがより好ましく、100nm~1,000nmが特に好ましい。平均膜厚が前記範囲にあると、耐摩耗性の点で有利である。
【0029】
前記膜はいかなる材質であってもよいが、ポリマーを含有することができる。ポリマーとしては、フッ素ポリマー、シリコーンポリマー等が挙げられる。
【0030】
膜にフッ素ポリマーが含有される場合において、フッ素ポリマーの種類、分子量等の詳細は、その膜が上述の物性を備える限り特に制限されない。
フッ素ポリマーは、式(1):
【化4】
[式中、R
1~R
4はそれぞれ独立して、フッ素原子、フルオロアルキル基、又はフルオロアルコキシ基である。]で表される単位(本明細書中、「単位(1)」と称することがある。)を主成分として含むことが、滑落性及びその耐久性の観点から、好ましい。本明細書中、「単量体単位を主成分として含む」とは、ポリマー中の全ての単量体単位における特定の単量体単位の割合が50モル%以上であることを意味する。
フッ素ポリマーを構成する単量体単位は、単位(1)の1種単独又は2種以上を含んでよい。
【0031】
R1~R4のそれぞれにおいて、フルオロアルキル基は、例えば直鎖状又は分岐状のC1-C5フルオロアルキル基、直鎖状又は分岐状のC1-C4フルオロアルキル基、直鎖状又は分岐状のC1-C3フルオロアルキル基、直鎖状又は分岐状のC1-C2フルオロアルキル基とできる。
直鎖状又は分岐状のC1-C5フルオロアルキル基としては直鎖状又は分岐状のC1-C5パーフルオロアルキル基が好ましい。
直鎖状又は分岐状のC1-C4フルオロアルキル基としては直鎖状又は分岐状のC1-C4パーフルオロアルキル基が好ましい。
直鎖状又は分岐状のC1-C3フルオロアルキル基としては直鎖状又は分岐状のC1-C3パーフルオロアルキル基が好ましい。
C1-C2フルオロアルキル基としてはC1-C2パーフルオロアルキル基が好ましい。
【0032】
R1~R4のそれぞれにおいて、フルオロアルコキシ基は、例えば直鎖状又は分岐状のC1-C5フルオロアルコキシ基、直鎖状又は分岐状のC1-C4フルオロアルコキシ基、直鎖状又は分岐状のC1-C3フルオロアルコキシ基、C1-C2フルオロアルコキシ基とできる。
直鎖状又は分岐状のC1-C5フルオロアルコキシ基としては直鎖状又は分岐状のC1-C5パーフルオロアルコキシ基が好ましい。
直鎖状又は分岐状のC1-C4フルオロアルコキシ基としては直鎖状又は分岐状のC1-C4パーフルオロアルコキシ基が好ましい。
直鎖状又は分岐状のC1-C3フルオロアルコキシ基としては直鎖状又は分岐状のC1-C3パーフルオロアルコキシ基が好ましい。
C1-C2フルオロアルコキシ基としてはC1-C2パーフルオロアルコキシ基が好ましい。
【0033】
R1~R4はそれぞれ独立して、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C5フルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C5フルオロアルコキシ基であってよい。
R1~R4はそれぞれ独立して、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C5パーフルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C5パーフルオロアルコキシ基であってよい。
R1~R4はそれぞれ独立して、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C4フルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C4フルオロアルコキシ基であってよい。
R1~R4はそれぞれ独立して、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C4パーフルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C4パーフルオロアルコキシ基であってよい。
R1~R4はそれぞれ独立して、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C3フルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C3フルオロアルコキシ基であってよい。
R1~R4はそれぞれ独立して、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C3パーフルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C3パーフルオロアルコキシ基であってよい。
R1~R4はそれぞれ独立して、フッ素原子、C1-C2フルオロアルキル基、又はC1-C2フルオロアルコキシ基であってよい。
R1~R4はそれぞれ独立して、フッ素原子、C1-C2パーフルオロアルキル基、又はC1-C2パーフルオロアルコキシ基であってよい。
R1~R4はそれぞれ独立して、フッ素原子、トリフルオロメチル、ペンタフルロエチル、又はトリフルオロメトキシであってよい。
R1~R4は、少なくとも1つの基がフッ素原子であり、残りの基は、当該残りの基が複数あるときは独立して、C1-C2パーフルオロアルキル基又はC1-C2パーフルオロアルコキシ基であってよい。
R1~R4は、少なくとも2つの基がフッ素原子であり、残りの基は、当該残りの基が複数あるときは独立して、C1-C2パーフルオロアルキル基又はC1-C2パーフルオロアルコキシ基であってよい。
R1~R4は、少なくとも3つの基がフッ素原子であり、残りの基は、C1-C2パーフルオロアルキル基又はC1-C2パーフルオロアルコキシ基であってよい。
R1~R4は、少なくとも3つの基がフッ素原子であり、残りの基は、C1-C2パーフルオロアルキル基であってよい。
R1~R4は、全てフッ素原子であってよい。
【0034】
単位(1)は、下記式(1-1)で表される単量体単位(本明細書中、「単位(1-1)」と称することがある。)を包含する。
【化5】
[式中、R
1はフッ素原子、フルオロアルキル基、又はフルオロアルコキシ基である。] 単位(1-1)においてR
1は、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C5パーフルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C5パーフルオロアルコキシ基であってよい。
単位(1-1)においてR
1は、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C4フルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C4フルオロアルコキシ基であってよい。
単位(1-1)においてR
1は、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C4パーフルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C4パーフルオロアルコキシ基であってよい。
単位(1-1)においてR
1は、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C3フルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C3フルオロアルコキシ基であってよい。
単位(1-1)においてR
1は、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C3パーフルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C3パーフルオロアルコキシ基であってよい。
単位(1-1)においてR
1は、フッ素原子、C1-C2フルオロアルキル基、又はC1-C2フルオロアルコキシ基であってよい。
単位(1-1)においてR
1は、フッ素原子、C1-C2パーフルオロアルキル基、又はC1-C2パーフルオロアルコキシ基であってよい。
単位(1-1)においてR
1は、フッ素原子、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、又はトリフルオロメトキシであってよい。
単位(1-1)においてR
1は、C1-C2パーフルオロアルキル基又はC1-C2パーフルオロアルコキシ基であってよい。
単位(1-1)においてR
1は、C1-C2パーフルオロアルキル基であってよい。
【0035】
単位(1-1)の好ましい例は、下記式で表される単量体単位(本明細書中、「単位(1-11)」と称することがある。)を包含する。
【化6】
【0036】
単位(1)の量は、全単量体単位の70モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましく、100%が特に好ましい。
【0037】
フッ素ポリマーは、単位(1)に加え、他の単量体単位を含んでよい。他の単量体単位としては、テトラフルオロエチレン単位(-CF2CF2-)、ヘキサフルオロプロピレン単位(-CF2CF(CF3)-)、フッ化ビニリデン単位(-CH2CF2-)などが挙げられる。他の単量体単位は1種単独又は2種以上含まれていてよい。他の単量体単位の量は、全単量体単位の50モル%以下とでき、30モル%以下が好ましく、20モル%以下がより好ましく、10モル%以下がさらに好ましく、0%が特に好ましい。
【0038】
フッ素ポリマーは、滑落性及びその耐久性を実質的に損なわない範囲において、さらにその他の単量体単位を1種以上含んでもよいが含まないことが好ましい。その他の単量体単位としては、-C(CF3CF2(CF2CF2)m)H-CH2-[式中、mは1又は2である。]等が挙げられる。
このようなその他の単量体単位の量は、全単量体単位の、例えば0~20モル%、0~10モル%等としてもよい。
【0039】
フッ素ポリマーのガラス転移点(Tg)は、好ましくは100℃以上、より好ましくは100℃~300℃、さらに好ましくは100℃~200℃である。ガラス転移点がこれらの範囲内にあると、滑落速度の高さの点、及び膜がフレキシブル基板に形成された場合において膜の折り曲げ耐久性の点で有利である。
【0040】
フッ素ポリマーの質量平均分子量は、例えば50,000~1,000,000、好ましくは50,000~500,000、より好ましくは50,000~300,000である。分子量がこれらの範囲内にあると、滑落速度の高さの点、及び膜がフレキシブル基材に形成された場合において膜の折り曲げ耐久性の点で有利である。
【0041】
前記膜のフッ素ポリマー含有量は、前記膜の全質量に対して、例えば50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。
【0042】
フッ素ポリマーは、例えばフッ素ポリマーを構成する単量体単位に対応する単量体を適宜の重合法により重合することで製造できる。例えば単位(1)に対応する単量体(M1)の1種単独又は2種以上と必要に応じて他の単量体を重合することにより製造することができる。当業者は、フッ素ポリマーを構成する単量体単位に対応する単量体を理解できる。
【0043】
例えば、単位(1)に対応する単量体は、式(M1):
【化7】
[式中、R
1~R
4は、前記と同意義である。]
で表される化合物(本明細書中、「単量体(M1)」と称することがある。)である。
【0044】
例えば、単位(1-1)に対応する単量体は、式(M1-1):
【化8】
[式中、R
1は、フッ素原子、フルオロアルキル基、又はフルオロアルコキシ基である。]
で表される化合物(本明細書中、「単量体(M1-1)」と称することがある。)である。
【0045】
例えば、単位(1-11)に対応する単量体は、式(M1-11):
【化9】
で表される化合物(本明細書中、「単量体(M1-11)」と称することがある。)である。
【0046】
また、例えば、テトラフルオロエチレン単位(-CF2-CF2-)、ヘキサフルオロプロピレン単位(-CF2CF(CF3)-)、フッ化ビニリデン単位(-CH2CF2-)に対応する単量体は、各々、テトラフルオロエチレン(CF2=CF2)、ヘキサフルオロプロピレン(CF2=CFCF3)、フッ化ビニリデン(CH2=CF2)である。
【0047】
重合方法としては、フッ素ポリマーを構成する単量体単位に対応する単量体を適宜の量で、必要に応じて溶媒(例:非プロトン性溶媒など)に溶解又は分散させ、必要に応じて重合開始剤を添加し、ラジカル重合、バルク重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等する方法が挙げられる。
好ましい重合方法は、フッ素ポリマーを高濃度に溶解した液を製造できることにより歩留まりが高く、精製が容易な溶液重合である。このため、フッ素ポリマーとしては溶液重合により製造されたフッ素ポリマーが好ましい。非プロトン性溶媒の存在下で単量体を重合させる溶液重合により製造されたフッ素ポリマーがより好ましい。
【0048】
フッ素ポリマーの溶液重合において、使用される溶媒は非プロトン性溶媒が好ましい。フッ素ポリマーの製造時の非プロトン性溶媒の使用量は単量体質量及び溶媒質量の和に対し、70質量%以下とできる。好ましくは35質量%~70質量%とでき、より好ましくは35質量%超~70質量%未満、特にさらに好ましくは50質量%~70質量%未満、特に好ましくは50質量%~69質量%とできる。
【0049】
フッ素ポリマーの製造に使用される重合開始剤の好ましい例は、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジイソブチリルパーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-ヘキサデカフルオロノナノイル)パーオキサイド、ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘプタノイル-ω-ハイドロヘキサデカフルオロノナノイル-パーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、パーオキシピバル酸tert-ブチル、パーオキシピバル酸tert-ヘキシル、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムを包含する。
重合開始剤のより好ましい例は、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジイソブチリルパーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、パーオキシピバル酸tert-ブチル、パーオキシピバル酸tert-ヘキシル、過硫酸アンモニウムを包含する。
重合反応に用いる重合開始剤の量は、例えば、反応に供される全ての単量体の1gに対して、0.0001g~0.05gとでき、好ましくは0.0001g~0.01gであり、より好ましくは0.0005g~0.008gであってよい。
【0050】
フッ素ポリマーの重合に使用される非プロトン性溶媒としては、例えば、パーフルオロ芳香族化合物、パーフルオロトリアルキルアミン、パーフルオロアルカン、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロ環状エーテル、及びハイドロフルオロエーテルからなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。
【0051】
パーフルオロ芳香族化合物は、例えば、1個以上のパーフルオロアルキル基を有してもよいパーフルオロ芳香族化合物である。パーフルオロ芳香族化合物が有する芳香環はベンゼン環、ナフタレン環、及びアントラセン環からなる群から選択される少なくとも1種の環であってよい。パーフルオロ芳香族化合物は芳香環を1個以上(例:1個、2個、3個)有してもよい。
置換基としてのパーフルオロアルキル基は、例えば直鎖状又は分岐状の、C1-C6、C1-C5、又はC1-C4パーフルオロアルキル基であり、直鎖状又は分岐状のC1-C3パーフルオロアルキル基が好ましい。
置換基の数は、例えば1~4個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個である。置換基が複数あるときは同一又は異なっていてよい。
パーフルオロ芳香族化合物の例は、パーフルオロベンゼン、パーフルオロトルエンパーフルオロキシレン、パーフルオロナフタレンを包含する。
パーフルオロ芳香族化合物の好ましい例は、パーフルオロベンゼン、パーフルオロトルエンを包含する。
【0052】
パーフルオロトリアルキルアミンは、例えば、3つの直鎖状又は分岐状のパーフルオロアルキル基で置換されたアミンである。当該パーフルオロアルキル基の炭素数は例えば1~10であり、好ましくは1~5、より好ましくは1~4である。当該パーフルオロアルキル基は同一又は異なっていてもよく、同一であることが好ましい。
パーフルオロトリアルキルアミンの例は、パーフルオロトリメチルアミン、パーフルオロトリエチルアミン、パーフルオロトリプロピルアミン、パーフルオロトリイソプロピルアミン、パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリsec-ブチルアミン、パーフルオロトリtert-ブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミン、パーフルオロトリイソペンチルアミン、パーフルオロトリネオペンチルアミンを包含する。
パーフルオロトリアルキルアミンの好ましい例は、パーフルオロトリプロピルアミン、パーフルオロトリブチルアミンを包含する。
【0053】
パーフルオロアルカンは、例えば、直鎖状、分岐状、又は環状のC3-C12(好ましくはC3-C10、より好ましくはC3-C6)パーフルオロアルカンである。
パーフルオロアルカンの例は、パーフルオロペンタン、パーフルオロ-2-メチルペンタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロ-2-メチルヘキサン、パーフルオロへプタン、パーフルオロオクタン、パーフルオロノナン、パーフルオロデカン、パーフルオロシクロヘキサン、パーフルオロ(メチルシクロヘキサン)、パーフルオロ(ジメチルシクロヘキサン)(例:パーフルオロ(1,3-ジメチルシクロヘキサン))、パーフルオロデカリンを包含する。
パーフルオロアルカンの好ましい例は、パーフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロへプタン、パーフルオロオクタンを包含する。
【0054】
ハイドロフルオロカーボンは、例えば、C3-C8ハイドロフルオロカーボンである。 ハイドロフルオロカーボンの例は、CF3CH2CF2H、CF3CH2CF2CH3、CF3CHFCHFC2F5、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、CF3CF2CF2CF2CH2CH3、CF3CF2CF2CF2CF2CHF2、及びCF3CF2CF2CF2CF2CF2CH2CH3を包含する。
ハイドロフルオロカーボンの好ましい例は、CF3CH2CF2H、CF3CH2CF2CH3を包含する。
【0055】
パーフルオロ環状エーテルは、例えば、1個以上のパーフルオロアルキル基を有してもよいパーフルオロ環状エーテルである。パーフルオロ環状エーテルが有する環は3~6員環であってよい。パーフルオロ環状エーテルが有する環は環構成原子として1個以上の酸素原子を有してよい。当該環は、好ましくは1又は2個、より好ましくは1個の酸素原子を有する。
置換基としてのパーフルオロアルキル基は、例えば直鎖状又は分岐状の、C1-C6、C1-C5、又はC1-C4パーフルオロアルキル基である。好ましいパーフルオロアルキル基は直鎖状又は分岐状のC1-C3パーフルオロアルキル基である。
置換基の数は、例えば1~4個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個である。置換基が複数あるときは同一又は異なっていてよい。
パーフルオロ環状エーテルの例は、パーフルオロテトラヒドロフラン、パーフルオロ-5-メチルテトラヒドロフラン、パーフルオロ-5-エチルテトラヒドロフラン、パーフルオロ-5-プロピルテトラヒドロフラン、パーフルオロ-5-ブチルテトラヒドロフラン、パーフルオロテトラヒドロピランを包含する。
パーフルオロ環状エーテルの好ましい例は、パーフルオロ-5-エチルテトラヒドロフラン、パーフルオロ-5-ブチルテトラヒドロフランを包含する。
【0056】
ハイドロフルオロエーテルは、例えば、フッ素含有エーテルである。
ハイドロフルオロエーテルの地球温暖化係数(GWP)は400以下が好ましく、300以下がより好ましい。
ハイドロフルオロエーテルの例は、CF3CF2CF2CF2OCH3、CF3CF2CF(CF3)OCH3、CF3CF(CF3)CF2OCH3、CF3CF2CF2CF2OC2H5、CF3CH2OCF2CHF2、C2F5CF(OCH3)C3F7、トリフルオロメチル1,2,2,2-テトラフルオロエチルエーテル(HFE-227me)、ジフルオロメチル1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチルエーテル(HFE-227mc)、トリフルオロメチル1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル(HFE-227pc)、ジフルオロメチル2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(HFE-245mf)、及び2,2-ジフルオロエチルトリフルオロメチルエーテル(HFE-245pf)を含む。
ハイドロフルオロエーテルの好ましい例は、CF3CF2CF2CF2OCH3、CF3CF2CF2CF2OC2H5、CF3CH2OCF2CHF2、C2F5CF(OCH3)C3F7を包含する。
ハイドロフルオロエーテルは、下記式(B1):
R21-O-R22 (B1)
[式中、R21は、直鎖状又は分岐鎖状のパーフルオロブチルであり、R22は、メチル又はエチルである。]
で表される化合物がより好ましい。
【0057】
非プロトン性溶媒としては、使用時の環境負荷が小さい点、ポリマーを高濃度に溶解できる点から、ハイドロフルオロエーテルが好ましい。
【0058】
重合反応に用いる非プロトン性溶媒の量は、単量体の量を100質量%とした場合、20質量%~300質量%とでき、好ましくは35質量%~300質量%とでき、より好ましくは50質量%~300質量%とできる。
【0059】
重合反応の温度は、例えば、-10℃~160℃とでき、好ましくは0℃~160℃であり、より好ましくは0℃~100℃であってよい。
【0060】
重合反応の反応時間は、好ましくは、0.5時間~72時間、より好ましくは、1時間~48時間、さらに好ましくは3時間~30時間であってよい。
【0061】
重合反応は、不活性ガス(例:窒素ガス)の存在下又は不存在下で実施され得、好適には存在下で実施され得る。
【0062】
重合反応は、減圧下、大気圧下、又は加圧条件下にて実施され得る。
【0063】
重合反応は、重合開始剤を含む非プロトン性溶媒に単量体を添加することで実施され得る。また、単量体を含む非プロトン性溶媒に重合開始剤を添加後、重合条件に供することで実施され得る。
【0064】
重合反応で生成した含フッ素ポリマーは、所望により、抽出、溶解、濃縮、フィルターろ過、析出、脱水、吸着、クロマトグラフィー等の慣用の方法、又はこれらの組み合わせにより精製してもよい。あるいは、重合反応により生成したフッ素ポリマーが溶解した液、当該液を希釈した液、当該液に必要に応じて他の成分を添加した液等を、乾燥または加熱(例:50℃~200℃)して、フッ素ポリマーを含有する膜を形成してもよい。
【0065】
前記膜は、滑落性及びその耐久性を実質的に損なわない範囲において、前記フッ素ポリマーに加え、他の成分を1種以上含んでもよい。他の成分としては、重合開始剤、原料単量体、オリゴマー、その他のフッ素ポリマー等が挙げられる。その他のフッ素ポリマーとは、当該ポリマーのみから形成された膜が、本開示の膜の有する滑落性(傾斜角30°での滑落速度が150mm/s以上)及び表面平均粗さ(Ra)(1μm以下)の両方又は一方を備えないフッ素ポリマーである。その他のフッ素ポリマーとしては、フルオロ(メタ)アクリレートポリマー等が挙げられる。
前記膜の他の成分の含有量は、前記膜の全質量に対して、例えば50質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0066】
本開示の膜は接触角が100°~130°程度であっても滑落性が高い。本開示の膜は滑落性の耐久性が高い。本開示の膜は全光線の透過率を90%以上とできる。
本開示の膜は、高い滑落性又はその耐久性が要望される用途に使用でき、例えばエレクトロウェッティング素子用の絶縁膜等に使用できる。
さらに、本開示の膜は、ディスプレイ、太陽電池、光学レンズ、眼鏡レンズ、センサーレンズ、レンズカバー、ショーウインドウ、ショーケース等の反射防止膜の形成用、ディスプレイ、太陽電池、光学レンズ、眼鏡レンズ、センサーレンズ、レンズカバー、ショーウインドウ、ショーケース、CD用ディスク、DVD用ディスク、ブルーレイ用ディスク、感光及び定着ドラム、プリンターのフレキシブル基板等の撥液(撥水性又は撥油性)、防汚、防湿のための保護膜形成用、半導体素子の保護膜(例えば、層間膜、バッファーコート膜)形成用、素子用防湿膜(例えば、RF回路素子、GaAs素子、InP素子等の防湿膜)形成用、ペリクル膜のような光学薄膜形成用、耐薬品膜形成用、パッシベーション膜形成用、液晶配光膜形成用、医療器具の防汚膜形成用、ゲート絶縁膜形成用等に使用できる。
【0067】
基材
本開示の基材は、前記の膜で表面が被覆された基材である。当該基材において、被覆の程度は特に限定されず、少なくとも被覆が求められる部分が被覆されていればよい。被覆される部分は、基材表面の全部又は一部であってよい。
【0068】
基材の材質は、前記膜を定着できれば特に制限されず、用途等に応じて適宜選択することができる。例えばガラス、樹脂(天然または合成樹脂、例えば一般的なプラスチック材料であってよい)、金属(アルミニウム、銅、鉄等の金属単体または合金等の複合体であってよい)、セラミックス、半導体(シリコン、ゲルマニウム等)、繊維(織物、不織布等)、毛皮、皮革、木材、陶磁器、石材等、建築部材等であってよい。本開示の基材をエレクトロウェッティング素子に使用するときは、基材の材質は、エレクトロウェッティング素子用の透明基板として公知の材質(例:ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン樹脂等)であってよい。
基材の形状、サイズ等も用途等に応じて適宜選択することができる。
また、基材の表面のうちフッ素ポリマーの膜でコーティングされる部分は、滑落性及びその耐久性を実質的に損なわない範囲において、プラズマ処理等の表面処理がなされ、基材表面と膜との密着性を向上させてもよい。
前記膜は基材の表面に直接コーティングされていることが好ましいが、前記膜と基材との間に1以上の層(例:前記膜と基材との密着性を向上させるプライマーのような層)を設けてもよい。
【0069】
本開示の基材は、フッ素ポリマーを公知の被覆方法によって基材に適用して製造できる。例えば、フッ素ポリマーを構成する単量体単位に対応する単量体を、溶媒に溶解又は分散させ、重合開始剤を添加してコーティング液を得る。このコーティング液を基材に適用し、この基材を重合条件に供することによって、基材表面に膜を形成し、本開示の基材を製造することができる。コーティング液は、上述した、溶液重合法によってえられる反応液を含むことが好ましい。このため、コーティング液を構成する溶媒は非プロトン性溶媒が好適であり、ハイドロフルオロエーテルがより好適である。膜を形成するためのコーティング液において、フッ素ポリマーの含有量は、コーティング液全質量に対して、例えば0.01質量%~70質量%であり、好ましくは0.02質量%~50質量%であり、より好ましくは0.05質量%~15質量%、特に好ましくは0.1質量%~5質量%である。
また、フッ素ポリマーを適宜の溶媒に溶解又は分散させたコーティング液を基材表面に適用し、乾燥、加熱等により溶媒を除去することにより膜を形成し、本開示の基材を製造することもできる。
さらにまた、フッ素ポリマーを基材に蒸着する方法、キャスト法等により予め作製したフッ素ポリマーフィルムを基材に積層する方法等により、基材を膜で被覆してもよい。
【0070】
本開示の基材は、高い滑落性又はその耐久性が要望される用途に使用でき、例えばエレクトロウェッティング素子用の絶縁膜を備えた基板等に使用できる。
【0071】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能であることが理解されるであろう。
【実施例】
【0072】
以下、実施例等によって本開示の一実施態様を更に詳細に説明するが、本開示はこれに限定されるものではない。
【0073】
実施例等において、Mwは質量平均分子量を意味する。
【0074】
<接触角>
接触角の測定には、測定機器としてDropMaster701(協和界面科学株式会社製)を使用した。同一サンプルについて5回測定し、平均値を接触角とした。
注射針[協和界面科学、商品No.506「針 22G」、外径/内径:0.71mm/0.47mm]の先端に2μL又は5μLの水滴を形成させた後、水平な試料ステージ上に載せたコーティング基板表面と注射針先端の水滴との距離を、試料ステージ側を動かすことにより、徐々に近づけ、両者が接触したときに試料ステージと注射針を一旦静止させ、次いで、試料ステージ側を動かすことにより、試料ステージと注射針をゆっくりと離すことにより、コーティング基板表面に水滴を着滴させ、着滴1秒後に水滴画像の静止画を撮影した。撮影は、DropMaster制御プログラム「FAMAS」で予め設定された、着滴後1000ms、ズーム倍率「STD」の設定で行った。静止画に基づき、水滴の輪郭形状を真円と仮定してθ/2法で接触角を決定した。
なお、水滴容量2μLではコーティング基板表面に水滴が付着せず、着滴できなかったときは、水滴容量5μLで測定した。
【0075】
<滑落角及び5mm移動-滑落角>
滑落角の測定には、測定機器としてDropMaster701(協和界面科学株式会社製)を使用した。同一サンプルについて3回測定し、平均値を滑落角及び5mm移動-滑落角とした。 注射針[協和界面科学、商品No.508「針 15G」、外径/内径:1.80mm/1.30mm]の先端に20μLの水滴を形成させた後、水平な試料ステージ上に載せたコーティング基板表面と注射針先端の水滴との距離を、試料ステージ側を動かすことにより、徐々に近づけ、両者が接触したときに試料ステージと注射針を一旦静止させ、次いで、試料ステージと注射針を試料ステージ側を動かすことにより、ゆっくりと離すことにより、コーティング基板表面に水滴を着滴させた。着滴後、概ね5秒以内に、試料ステージを2°/秒の傾斜速度で傾斜させ、傾斜角1°ごとにズーム倍率「W1」で基板表面の水滴画像の静止画(静止画の横幅は12mmである。)を撮影した。水滴の後退側の接触線が移動し始めたとき(測定画面上で0.1mm~1mm移動したとき;実際の液滴の移動距離は10μm~100μmに相当)の試料ステージの傾斜角度を滑落角とした。
なお、水滴が移動し、ズーム倍率「W1」の測定画面から消え去ったときの傾斜角を、前記の「滑落角」と区別するために、「5mm移動-滑落角」として記録した。5mm移動-滑落角は、ISO 19403-7:2017『Paints and varnishes - Wettability - Part 7: Measurement of the contact angle on a tilt stage (roll-off angle)』で規定されるroll-off angleに含まれるものである。ISO 19403-7:2017では、液滴の移動距離は1mm以上と定義されており、5mm移動-滑落角は液滴が5mm以上移動するときの傾斜角である。
【0076】
<滑落速度>
滑落速度の測定には、測定機器としてDropMaster701(協和界面科学株式会社製)を使用した。同一サンプルについて3回測定し、平均値を滑落速度とした。
予め30°に傾斜させた試料ステージ上に載せたコーティング基板表面に注射針[協和界面科学、商品No.506「針 22G」、外径/内径:0.71mm/0.47mm]を接触直前まで接近させた後、20μLの水滴を形成させた。この時点で水滴は注射針によって、傾斜したコーティング基板上で停止している。次いで、水滴を形成後、概ね5秒以内に、注射針側を動かして、注射針を水滴から引き離すことにより水滴を滑落させ、水滴の挙動を、高速度カメラで5ミリ秒(200フレーム/秒)ごとに静止画で撮影した。撮影時のズーム倍率は「W2」とした。水滴の前進側の接触線が1秒間に15~20mm移動できた場合のみ、滑落したものとみなした。水滴の滑落時間(秒)を横軸、水滴の移動距離(mm)を縦軸としてグラフにプロットし、原点を通る一次関数を仮定して最小自乗法でフィッティングしたときの傾きを滑落速度(mm/s)とした。
【0077】
<質量平均分子量>
質量平均分子量は次に示すGPC法(ゲル浸透クロマトグラフィー法)により行った。 サンプル調整法
ポリマーをパーフルオロベンゼンに溶解させて2wt%ポリマー溶液を作製し、メンブレンフィルター(0.22μm)を通しサンプル溶液とする。
測定法
分子量の標準サンプル:ポリメチルメタクリレート
検出方法:RI(示差屈折計)
【0078】
<表面粗さ(Ra)>
表面粗さ(Ra)の測定には、レーザー顕微鏡VK-9710(株式会社キーエンス製)を使用した。
粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜き取り部分の平均線の方向にX軸を、縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線をy=f (x)で表したときに、次式
【化10】
によって求められる値をマイクロメートル(μm)で表した。
【0079】
<全光線透過率>
透過率の測定は、ヘーズメーターNDH 7000SPII(日本電色工業株式会社製)を使用し、JIS K 7375:2008「プラスチック-透明材料の全光線透過率の試験方法」にしたがって行った。
【0080】
<ガラス転移点(Tg)>
フッ素ポリマーのガラス転移点(Tg)の測定は、DSC(示差走査熱量計:日立ハイテクサイエンス社、DSC7000)を用いて、30℃から200℃までの温度範囲を10℃/分の条件で昇温(ファーストラン)-降温-昇温(セカンドラン)させ、セカンドランにおける吸熱曲線の中間点をガラス転移温度(℃)とした。
【0081】
<平均膜厚>
平均膜厚は、カッターナイフでコーティング基材の塗膜を基板まで切削した膜断面のラインプロファイルを原子間力顕微鏡(AFM)で測定して得られた、基板と塗膜の高低差とした。同一サンプルについて5回測定し、平均値を膜厚とした。
【0082】
製造例1:単位(1-11)を主成分として含むフッ素ポリマー(ジオキソラン骨格ポリマー;フッ素ポリマーA)の合成
単量体として上記式(M1-11)で表される化合物(2-(ジフルオロメチレン)-4,4,5-トリフルオロ-5-(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキソラン)を使用して単位(1-11)を主成分として含むポリマー(フッ素ポリマーAとも称する)を製造した。詳細には次のとおりである。
50mLのガラス製容器に、単量体の10g、溶媒(メチルノナフルオロブチルエーテル)の15g、及び開始剤溶液(ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネートを50質量%含有するメタノール溶液)の0.017gを仕込んだ後、内温が40℃になるように加熱しながら20時間重合反応を行い、単位(1-11)で構成されたフッ素ポリマー(フッ素ポリマーA)を36質量%含む反応液を得た。反応液を120℃の真空乾燥により留去して目的のフッ素ポリマー(8.5g(Mw:273,268))を得た。
当該ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、129℃であった。
【0083】
比較製造例1:Rf(C8)アクリレートホモポリマーの合成
四つ口フラスコに、2-(パーフルオロオクチル)エチルアクリレート(「Rf(C8)アクリレート」とも称する)の20質量%溶液(Novec7300、スリーエムジャパン(株))を投入し、撹拌しながら80℃で加熱し、30分間、窒素置換した。N-アゾビスイソブチロニトリルをRf(C8)アクリレートに対して1mol%添加し、12時間反応させた。反応液を室温に戻し、メタノールに滴下することにより、生成したポリマーを析出させた。メタノールをデカンテーションで除去した後、ポリマーを減圧乾燥することにより、Rf(C8)アクリレートホモポリマーを得た。
【0084】
実施例1:フッ素ポリマー溶液(フッ素ポリマーA/フロリナートFC-770)でコーティングした基板
製造例1で得たフッ素ポリマーAをフッ素系溶剤(フロリナートFC-770、スリーエムジャパン(株))で1質量%に希釈し、フッ素ポリマー溶液を得た。この溶液をシリコンウエハ上にスピンコート(2000rpm)し、180℃で10分間熱処理することによりコーティング基板を作製した。
切削領域をAFMで測定した結果、平均膜厚は約100nmであった。作製した基板について、一日後に各種撥液性(接触角、滑落角、5mm移動-滑落角、滑落速度)と表面粗さを測定した。表面粗さ及び各種撥液性の結果を表1に示した。なお、実施例2~10、参考例1~3及び比較例1~14の表面粗さ及び各種撥液性の結果も同様に表1に示した。表1中の「avg」は平均値であり、「sd」は標準偏差であり、「Δα」は5mm移動-滑落角(°)と滑落角(°)との差である。
【0085】
実施例2~5:フロリナートFC-770以外のフッ素系溶剤から調製したフッ素ポリマー溶液でコーティングした基板
フッ素系溶剤(フロリナートFC-770(FC-770とも称する。))を、実施例2ではパーフルオロベンゼン(PFBzとも称する)、実施例3ではメチルノナフルオロブチルエーテルとメチルノナフルオロイソブチルエーテルの混合物(Novec7100、スリーエムジャパン(株))の1質量%溶液、実施例4ではエチルノナフルオロブチルエーテルとエチルノナフルオロイソブチルエーテル混合物(Novec7200、スリーエムジャパン(株))の1質量%溶液、実施例5では1、1、1、2、2、3、4、5、5、5-デカフルオロ-3-メトキシ-4-(トリフルオロメチル)-ペンタン(Novec7300、スリーエムジャパン(株))の1質量%溶液に置き換えた以外は実施例1と同じ方法で、コーティング基板を作製した。
これらコーティング基板の各種撥液性と表面粗さを一日後に測定した。
【0086】
実施例6~10:フッ素ポリマーAコーティング基板(熱処理なし)
熱処理工程(180℃)を行わない以外は実施例1~5と同じ方法で、コーティング基板を作製し、各種撥液性と表面粗さを一日後に測定した。
【0087】
実施例1~10で作製された基板の各種撥水性
本開示のコーティング基板(実施例1~10で作製されたコーティング基板は、接触角115°以上、滑落速度170mm/s以上であった。この滑落速度は、後述する参考例の超撥水凹凸表面(表面粗さRa 14μm以上)に匹敵する非常に高い値であった。また、滑落角は15°以下と小さかった。
【0088】
実施例11:フッ素ポリマーAを各種フッ素溶媒に溶解した溶液から作製した自立膜の作製と透過率の測定
製造例1で得られたフッ素ポリマーAを各種フッ素溶媒に溶解し、フッ素ポリマーA濃度が10質量%の溶液を作製した。この溶液を、メルトフッ素樹脂FEPフィルム上にキャスト法で塗布、風乾することにより、膜厚200μmの自立膜を作製し、膜の全光線透過率を測定した。フッ素溶媒としてFC-770、PFBz、Novec7100、Novec7200、Novec7300を使用したときの全光線透過率は、各々、94%、93%、91%、94%、95%であった。
【0089】
参考例1:超撥水凹凸表面;Rf(C6)メタクリレート/メタクリロイルプロピルトリメトキシシラン処理シリカ微粒子共重合体と多官能アクリレートのUV硬化塗膜を有する基板
WO2017/179678の実施例6に記載のRf(C6)メタクリレート/メタクリロイルプロピルトリメトキシシラン処理シリカ微粒子共重合体と多官能アクリレートのUV硬化塗膜をアルミ基板上に作製した。表面粗さRaは14.7μmであった。各種撥液性と表面粗さを一日後に測定した。実施例11と同じ方法で自立膜の全光線透過率を測定した結果、完全に白濁しており、0%であった。塗膜の作製は次のようにして行った。
[[Rf(C6)メタクリレート/微粒子]共重合体溶液の調製]
枝付試験管に、C6F13CH2CH2OCOC(CH3)=CH2(Rf(C6)メタクリレートとも称する)25.46g、ラジカル反応性基を表面に有し平均一次粒子径が12nmのシリカ微粒子12.70g、及びパーフルオロブチルエチルエーテル663.49gを仕込み、窒素バージし、70℃に加熱した。これにAIBN 1.26516 gを投入し、6時間反応した。重合後、固形分濃度を算出した。
(感光性溶液の調製)
バイアルにトリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)0.4015g、アルキルフェノン系光重合開始剤0.0403g、IPA 1.10668g、パーフルオロブチルエチルエーテル8.8769gを投入し、超音波洗浄機で超音波を照射した後、上記、固形分4.19%の共重合体溶液9.7518gを投入し、超音波洗浄機で超音波を照射し、感光性溶液とした。
(被膜の作製)
上記、感光性溶液をアルミ基板にディップ法によって処理をした。その後、気体をフロー可能な金属製ボックス内に、処理したアルミ基板を投入し、10L/minの流量で3分間ボックス内を窒素フローし、その後、ベルトコンベアー式のUV照射装置にボックスごと投入し1,800 mJ/cm2のUVを照射した。作製した被膜のフッ素原子の含有量はすべての被膜構成成分に対して41.5質量%である。
【0090】
参考例2:超撥水凹凸表面;市販品HIREC 100塗布基板
HIREC 100(NTTアドバンステクノロジ(株))をアルミ基板に塗布した超撥水サンプル(板ID 6500-2)の各種撥液性と表面粗さを測定した。この超撥水サンプルは、アルミ板に下塗UPをスプレー塗装した塗膜の上から、HIREC 100をスプレー塗装することにより作製されたものである(製造元:NTT-AT環境ビジネスユニット)。
【0091】
参考例3:超撥水凹凸表面;市販品ヨーグルトの内蓋
森永乳業(株)製アロエヨーグルトの容器の内蓋の裏側(ヨーグルトに接する側)について各種撥液性と表面粗さを測定した。
【0092】
参考例1~3に記載した超撥水凹凸表面の撥液性
参考例1~3の超撥水凹凸表面では、接触角150°以上、滑落角1°以下、滑落速度200mm/s以上であった。このように、超撥水凹凸表面は抜群の撥液性を有するが、塗膜が白濁する、耐摩耗性が弱い、粉落ちする、微細凹凸に汚れが入ると撥液性が損なわれる、などの課題がある。
一方、実施例1~10のフッ素ポリマーA膜は、これらの超撥水凹凸表面と比較して、塗膜が透明で、磨耗にも強く、粉落ちも抑制され、汚れにも強い、というアモルファスフッ素樹脂ポリマーの利点を有しつつ、滑落角、5mm移動-滑落角、及び滑落速度の点で十分な撥液性を有していた。
【0093】
比較例1:フッ素ポリマー溶液(Rf(C8)アクリレートホモポリマー/アサヒクリンAK-225)でコーティングした基板
フッ素系ポリマーAを比較製造例1で得たRf(C8)アクリレートホモポリマーに、フッ素系溶剤をアサヒクリンAK-225(AGC(株))に置き換え、熱処理温度を75℃に変更した以外は、実施例1と同じ方法で、コーティング基板を作製し、各種撥液性と表面粗さを一日後に測定した。
【0094】
比較例2:フッ素ポリマー溶液(Rf(C8)アクリレートホモポリマー/アサヒクリンAK-225)でコーティングした基板
熱処理工程(75℃)を行わないこと以外は比較例1と同じ方法で、コーティング基板を作製し、各種撥液性と表面粗さを一日後に測定した。
【0095】
比較例3:フッ素ポリマー溶液1質量%WP-140シリーズポリマー/Novec7300でコーティングした基材
実施例1のフッ素系ポリマーをダイキン工業(株)製オプトエースWP-140(ポリマー濃度5質量%品)に、フッ素系溶剤をNovec7300に置き換えた以外は全く同じ方法で、コーティング基板を作製し、各種撥液性と表面粗さを一日後に測定した。
【0096】
比較例1~3に記載したRf(メタ)アクリレートホモポリマー塗布基板の撥液性
比較例1~3では、滑落速度は最大でも20mm/sであり、実施例1~10の基板よりも明らかに劣っていた。
【0097】
比較例4:フッ素系シラン(オプツールUD-500シリーズ)でコーティングした基板(CVD法)
パーフルオロポリエーテルシラン構造を有するオプツールUD-500シリーズ(ダイキン工業(株))を、CVD法により、Gorilla Glass 3(米国コーニング社製)に表面処理することによりコーティング基板を作製した。平均膜厚は約10nmであった。作製した基板について、各種撥液性と表面粗さを一日後に測定した。
【0098】
比較例5:フッ素系シラン(オプツールUD-500シリーズ)でコーティングした基板(スプレー法)
オプツールUD-500シリーズの濃度が1質量%となるようにNovec7200で希釈し、スプレー法によりGorilla Glass 3に表面処理することによりコーティング基板を作製した。作製した基板について、各種撥液性と表面粗さを一日後に測定した。
【0099】
比較例6:フッ素系シラン(オプツール500シリーズ)でコーティングした基材(ディップ法)
オプツールUD-500シリーズの濃度が1質量%となるようにNovec7200で希釈した溶液中にシリコンウエハを浸漬、引き上げ後、大気中で一昼夜放置した後、Novec7200中で超音波洗浄、風乾することによりコーティング基板を作製した。作製した基板について、各種撥液性と表面粗さを一日後に測定した。
【0100】
比較例7:フッ素系シラン(Rf(C8)TMS)でコーティングした基材(CVD法)の作製と測定 ガラス製スクリュー管にパーフルオロオクチルエチルトリメトキシシラン(Rf(C8)TMSとも称する)100μLとシリコンウエハをオートクレーブ中に封入し、100℃で2時間、加熱した。室温に冷却後、Novec7200中で超音波洗浄、風乾することによりコーティング基板を作製した。作製した基板について、各種撥液性と表面粗さを一日後に測定した。
【0101】
比較例8:フッ素系シラン(Rf(C8)TMS)でコーティングした基材(ディップ法)の作製と測定
Rf(C8)TMSが1質量%となるようにNovec7300で希釈した溶液中にシリコンウエハを浸漬、引き上げ後、大気中で一昼夜放置した後、Novec7200中で超音波洗浄、風乾することによりコーティング基板を作製した。作製した基板について、各種撥液性と表面粗さを一日後に測定した。
【0102】
比較例4~8に記載したフッ素系シラン塗布基板の撥液性
比較例4~8では、滑落角が20°以下(比較例4を除く)と小さいにも拘わらず、滑落速度は23mm/s以下であり、実施例1~10と比較して、明らかに劣る結果であった。
【0103】
比較例9:メルトフッ素樹脂PFAフィルムの測定
メルトフッ素樹脂PFAフィルム(品番AP210、ダイキン工業(株))について、フィルムそのものの各種撥液性と表面粗さを測定した。なお、PFAは、4フッ化エチレンとパーフルオロアルコキシエチレンとの共重合体である。
【0104】
比較例10:メルトフッ素樹脂FEPフィルムの測定
メルトフッ素樹脂FEPフィルム(品番NP20、ダイキン工業(株))について、フィルムそのものの各種撥液性と表面粗さを測定した。なお、FEPは、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体である。
【0105】
比較例9~10に記載したメルトフッ素樹脂フィルムの撥液性
比較例9~10では、滑落角が10°以下と小さいにも拘わらず、滑落速度試験では滑落せず、実施例1~10と比較して、明らかに劣る結果であった。
【0106】
比較例11:炭化水素系シラン(Rh(C6)TMS)でコーティングした基材(ディップ法)
ヘキシルトリメトキシシラン(Rh(C6)TMSとも称する)が1質量%となるように酢酸ブチルで希釈した溶液中にシリコンウエハを浸漬、引き上げ後、大気中で一昼夜放置した後、酢酸ブチル中で超音波洗浄、風乾することによりコーティング基板を作製した。作製した基板について、各種撥液性と表面粗さを一日後に測定した。
【0107】
比較例11に記載した炭化水素系シランコーティング基材の撥液性
比較例11では、滑落角が39°と大きく、滑落速度試験では滑落せず、実施例1~10と比較して、明らかに劣る結果であった。
【0108】
比較例12:炭化水素系シラン(Rh(C18)TMS)でコーティングした基材(ディップ法)
炭化水素系シランRh(C6)TMSをオクタデシルトリメトキシシラン(Rh(C18)TMSとも称する)に置き換えた以外は、比較例11と同じ方法でコーティング基板を作製した。作製した基板について、各種撥液性と表面粗さを一日後に測定した。
【0109】
比較例12に記載した炭化水素系シランコーティング基材の撥液性
比較例12では、滑落角が10°以下と小さいにも拘わらず、滑落速度は5mm/sと小さく、実施例1~10と比較して、明らかに劣る結果であった。
【0110】
比較例13:シリコーンゴムシートの測定
シリコーンゴムシート(品番SGS-11、和気産業(株))について、シートそのものの各種撥液性と表面粗さを測定した。
【0111】
比較例14:ウレタンゴムシートの測定
ウレタンゴムシート(品番UGS-11、和気産業(株))について、シートそのものの各種撥液性と表面粗さを測定した。
【0112】
比較例13~14に記載した非フッ素系ゴムシートの撥液性
比較例13~14では、滑落角40°以上であり、滑落速度試験では滑落せず、実施例1~10と比較して、明らかに劣る結果であった。
【0113】
【0114】
実施例12:フッ素ポリマーA膜の電圧印加による接触角の変動
1Lポリビン中にNovec7300440質量部と製造例1で得たフッ素ポリマーAを60質量部入れ、ローターで攪拌し、フッ素ポリマーA濃度12質量%のフッ素ポリマー溶液を得た。
このフッ素ポリマー溶液を、マイクログラビアコーターを用いて、アルミ板上にキャストし、乾燥炉を通すことにより、アルミ板上にフッ素ポリマー膜(平均膜厚4μm)が形成された基板を作製した。
この基板のフッ素ポリマー膜上に、直径3mmの1質量%食塩水を滴下し、食塩水接触角を測定した。印加電圧0V(電圧印加前)の接触角は115℃、120V(電圧印加後)の接触角は75°であった。
【0115】
比較例15:市販のフッ素ポリマーB膜の電圧印加による接触角の変動
フッ素ポリマーAを下記式(10)で表される単量体単位と(20)で表される単量体単位を65:35(モル比)で含む市販のフッ素ポリマー(フッ素ポリマーBとも称する)(Mw:229738)に置き換えた以外は実施例12と同じ方法で、アルミ板上にフッ素ポリマーB膜(平均膜厚4μm)が形成された基板を作製し、食塩水接触角を測定した。印加電圧0V(電圧印加前)の接触角は112℃、120V(電圧印加後)の接触角は93°であった。
【化11】
【0116】
実施例13:フッ素ポリマーAを用いたエレクトロウェッティングデバイス
Langmuir, 2012, 28(15), 6307-6312に記載の方法において、エレクトロウェッティング素子用絶縁膜のテフロン(登録商標)AFをフッ素ポリマーAに置き換えた以外は、同じ方法でエレクトロウエッティングデバイスを作製した。エレクトロウェッティング素子用絶縁膜の滑落速度を周波数80Hz、水滴容量9μLで測定した結果、120mm/sであった。
【0117】
比較例16:フッ素ポリマーBを用いたエレクトロウェッティングデバイス
フッ素ポリマーAを市販のフッ素ポリマーBに置き換えた以外は、実施例13と同じ方法でエレクトロウェッティングデバイスを作製した。エレクトロウェッティング素子用絶縁膜の滑落速度を周波数80Hz、水滴容量9μLで測定した結果、90mm/sであった。