(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】安全キャビネット
(51)【国際特許分類】
B01L 1/00 20060101AFI20231225BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20231225BHJP
F24F 7/06 20060101ALI20231225BHJP
F24F 13/28 20060101ALI20231225BHJP
B01D 46/10 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
B01L1/00 C
C12M1/00 K
F24F7/06 C
F24F13/28
B01D46/10 B
(21)【出願番号】P 2020198448
(22)【出願日】2020-11-30
【審査請求日】2022-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松村 健史
(72)【発明者】
【氏名】金子 健
【審査官】阪▲崎▼ 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-217735(JP,A)
【文献】実開昭58-095234(JP,U)
【文献】特開2007-111596(JP,A)
【文献】特開2013-116430(JP,A)
【文献】特開2012-021752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01L 1/00-99/00
F24F 7/04-7/06
C12M 1/00-3/10
B01D 46/00-46/90
B04B 1/00-15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業室の前面から空気を取り入れ、作業室内の空気を背面から取り出し、清浄化して、外部に排出する安全キャビネットであって、
前記作業室の前面に設けた開閉シャッタと、
前記作業室の背面
の上下方向の略中央部であ
って、前記作業室の底面よりも上方に設けた空気吸込口と、
前記空気吸込口に設けたプレフィルタと、
前記作業室の後側に設けた空気流路と、
前記空気流路からの空気を清浄化する清浄化フィルタと、
清浄化した空気を排出する排気ファンと、
前記作業室内に設けた水栓と、
前記作業室の底面に設けたシンクと、
を備え、
前記プレフィルタは、前記空気吸込口において、下端が前記空気流路の後側に位置し、上端が前側に位置するように、傾斜して設けられていることを特徴とする安全キャビネット。
【請求項2】
請求項1に記載の安全キャビネットであって、
前記作業室には、遠心分離機等の備品を備えることを特徴とする安全キャビネット。
【請求項3】
請求項1に記載の安全キャビネットであって、
前記プレフィルタは、プレフィルタカバーで取り付けられており、
プレフィルタカバーを傾斜させることにより、取り出し可能に構成されていることを特徴とする安全キャビネット。
【請求項4】
請求項
3に記載の安全キャビネットであって、
前記プレフィルタの上方に、殺菌灯を備えることを特徴とする安全キャビネット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療検査などに使用する安全キャビネットに関する。
【背景技術】
【0002】
病気の精密検査として、組織診や細胞診などの病理診断が行われる。組織診は、臓器などの一部を切り取り、その薄片を顕微鏡で観察する方法であり、細胞診は、生検体の細胞を遠心分離して採取し、顕微鏡で観察する方法である。近年では、細胞診の割合が増加している。組織診や細胞診の病理検査などでは、感染防止のために、安全キャビネットが使用される。
【0003】
医療検査用安全キャビネットの一例として、特許文献1には、前面に開閉手段を有し内部に医療検査のための作業空間を形成するキャビネット本体と、このキャビネット本体の作業空間内の上部に外部からの導入空気が通過する空気整流用の空気通過部が設けられた天井と、前記キャビネット本体の作業空間内に設けられた空気導出口を有する作業台と、前記空気導出口から導出された空気が通過するフィルタと、このフィルタを通過した空気を外部へ排気する排気ファンと、を具備し、キャビネット本体の作業台にシンクを設け、シンクに給排水装置を設けた医療検査用安全キャビネット、が開示されている(特許請求の範囲参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
病理診断用の安全キャビネットでは、臓器の水洗い用に作業室内に水栓やシンクを備えるものがある。また、組織診用の安全キャビネットでは、作業室内に遠心分離機を備えるものがある。
【0006】
作業室内の空気吸込口には、プレフィルタが設けられているが、プレフィルタが水濡れすると流路抵抗が増え、性能が保てなくなる。また、作業室内に遠心分離機などの備品を設けると、作業室内の空気の流れに淀みが発生する恐れがある。
【0007】
特許文献1には、給排水装置やシンクを設けた安全キャビネットが開示されているが、プレフィルタの水濡れや、作業室内の空気の淀みの改善については考慮されていない。
【0008】
本発明は、作業室内の空気の淀みを改善し、また、作業室内に水栓やシンクを設けた場合には、プレフィルタの水濡れを低減した安全キャビネットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための、本発明の「安全キャビネット」の一例を挙げるならば、
作業室の前面から空気を取り入れ、作業室内の空気を背面から取り出し、清浄化して、外部に排出する安全キャビネットであって、
前記作業室の前面に設けた開閉シャッタと、前記作業室の背面の上下方向の略中央部であって、前記作業室の底面よりも上方に設けた空気吸込口と、前記空気吸込口に設けたプレフィルタと、前記作業室の後側に設けた空気流路と、前記空気流路からの空気を清浄化する清浄化フィルタと、清浄化した空気を排出する排気ファンと、前記作業室内に設けた水栓と、前記作業室の底面に設けたシンクと、を備え、
前記プレフィルタは、前記空気吸込口において、下端が前記空気流路の後側に位置し、上端が前側に位置するように、傾斜して設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、作業室の背面の空気吸込口に傾斜したプレフィルタを設けることにより、作業室内の備品等による空気の淀みを改善した安全キャビネットを提供することができる。
【0011】
また、作業室内に水栓やシンクを設けた場合には、プレフィルタの水濡れを低減することができる。
【0012】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に先立って検討した安全キャビネットを示す図である。
【
図2】本発明に先立って検討した安全キャビネットの作業室内の詳細を示す図である。
【
図3】本発明の実施例1の安全キャビネットを示す図である。
【
図4】実施例と本発明に先立って検討した安全キャビネットの気流の流れを示す図である。
【
図6】作業室内の備品箇所の気流の流れを解析した図である。
【
図7】本発明の実施例2の安全キャビネットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施例を説明する前に、本発明に先だって検討した安全キャビネットを説明する。
図1(a)に、安全キャビネットの概略斜視図を示し、
図1(b)に、
図1(a)のA-A’断面を右方より見た安全キャビネットの概略側面図を示す。
【0015】
安全キャビネットを構成する安全キャビネット筐体11の内部には、作業者が手を入れて作業を行う作業室12を備えている。作業室12の前面には、上下にスライドして開閉する開閉シャッタ13を備えている。開閉シャッタ13は、ガラスや硬質プラスチック等の透明な材料でできており、作業室の内部を見ることができる。作業室12の背面側には、作業室内の空気を吸い込む空気吸込口15が設けられている。クラス1の安全キャビネットでは、一般的に、空気吸込口は背壁の底面側に設けられるが、この安全キャビネットでは、後述する水源からの水しぶきを考慮して、底面よりも上側の、上下方向の略中央に近い位置に配置されている。空気吸込口15には、空気吸込口を覆うようにプレフィルタ33が設けられており、プレフィルタ33により塵埃などの比較的大きな粒子を取り除く。作業室12の後ろには、空気吸込口15から吸い込んだ空気を流す空気流路16を備え、空気流路16の先には、メインフィルタとして、HEPAフィルタ等の空気清浄化フィルタ17を設けている。そして、空気の流れを作り排気するために、排気ファン18およびチャンバ19を備えている。
【0016】
図1(b)に、矢印で気流の流れを示す。前面の開閉シャッタ13の下部の開口部から作業室12内に取り入れられた空気は、作業室12の背壁の空気吸込口15から吸い込まれる。そして、空気流路16を通って空気清浄化フィルタ17に送られ、清浄化される。そして、排気ファン18により、チャンバ19から外部に排出される。
【0017】
図2は、作業室内の詳細を示す斜視図である。作業室の底面の作業台面にはシンク22が設けられ、シンク22にはその上方に水栓21が設けられている。また、シンク22には、臓器などから試料を切り出す切り出し台23を備えている。作業台面には、かさ上げ台26を備え、その上に遠心分離機27などの備品を配置することができる。作業室の背壁に設けた空気吸込口15には、空気吸込口を覆うようにプレフィルタ33が取り付けられている。また、プレフィルタ33の上方には、殺菌灯25が設けられており、安全キャビネットを使用した後に、紫外線により作業室内を殺菌することができる。
【0018】
図において、符号28は作業用コンセントを、符号29は開閉シャッタ13を任意の位置で止めるシャッタストッパを、符号31は電気部品格納部31を示している。
【0019】
作業者は、開閉シャッタ13の下部の開口部から作業室12に手を差し込んで作業を行う。作業室内では病原体等を含む臓器などを取り扱うため、作業室内の空気を空気吸込口15および背面流路16を通って空気清浄化フィルタ17へ送る。そして、空気清浄化フィルタ17で病原体などを除去して、排気ファン18で外部に排気する。
【0020】
このような安全キャビネットにおいて、水源からの水しぶきを考慮して、作業室内の空気吸込口15を底面側よりも上方の、上下方向の略中央付近に設けると、空気の流れに淀みが発生する恐れが生じる。また、水源である水栓21が空気吸込口15に近くなると、プレフィルタ33が水濡れする可能性があり、プレフィルタが水に濡れると流路抵抗が増え、安全キャビネットの性能が保てなくなる恐れが生じる。
【0021】
本発明では、作業室内の空気の淀みを改善した安全キャビネットを提供する。また、作業室内に水栓やシンクを設けた場合には、プレフィルタの水濡れを低減することができる安全キャビネットを提供する。
【0022】
以下、本発明の実施例を、図面を用いて説明する。なお、実施例を説明するための各図において、同一の構成要素には同一の名称、符号を付して、その繰り返しの説明を省略する。
【実施例1】
【0023】
図3に、本発明の実施例1の安全キャビネットの一例を示す。
図3(a)は安全キャビネットの作業室の詳細図、
図3(b)は作業室を右方から見た断面図である。
【0024】
作業室12には、
図2と同様に、作業室の底面の作業台面にはシンク22が設けられ、シンクにはその上方に水栓21が設けられている。また、プレフィルタの上方には、殺菌灯25が設けられており、安全キャビネットを使用した後に、紫外線により作業室内を殺菌することができる。また、図には示していないが、作業台面には、かさ上げ台26を備え、その上に遠心分離機27などの備品を配置することができる。
【0025】
作業室の背壁には、底面よりも上側の、上下方向の略中央に近い位置に空気吸込口15を設けている。そして、空気吸込口15に連なる空気流路16には、プレフィルタカバー34によりプレフィルタ33が取り付けられている。なお、図示していないが、プレフィルタカバー34には、空気が通るように前面に複数の孔が設けられている。
【0026】
本実施例の特徴は、プレフィルタ33を角度を設け傾斜して取り付けた点である。すなわち、四角形の板状のプレフィルタを、その下部が作業室の背壁よりも後ろ側に位置するように、角度αだけ傾斜して取り付ける。
【0027】
本実施例によれば、作業室背壁の空気吸込口15を底面側よりも上方の、上下方向の略中央付近に設けると、空気の流れに淀みが発生する恐れが生じるが、プレフィルタを、その下部が作業室の背壁よりも後ろ側に位置するように、空気流路16に傾斜して取り付けたので、気流の淀みを改善することができる。
【0028】
図4に、本発明に先立って検討した安全キャビネットと本実施例の安全キャビネットの気流の流れを示す。
図4(a)は本発明に先立って検討した安全キャビネットであり、
図4(b)は本実施例の安全キャビネットである。図の点線枠で示すように、空気吸込口15下方の作業室の隅部において、本発明に先立って検討した安全キャビネットでは、気流が上方に向かっているが、本実施例の安全キャビネットでは、気流が傾斜したプレフィルタに向かって滑らかに流れ、気流の淀みを改善することができる。
【0029】
図5に、作業室内の備品を設けない箇所での気流解析の結果を示す。作業室内の空気が淀みなく空気吸込口15へ吸い込まれている。
【0030】
図6に、作業室内の備品を設けた箇所での気流解析の結果を、本発明に先立って検討した安全キャビネットと本実施例の安全キャビネットについて示す。
図6(a)が本発明に先立って検討した安全キャビネットであり、
図6(b)が本実施例の安全キャビネットである。図の点線枠で示すように、プレフィルタの前側において、空気の流れが滑らかであり、気流の淀みが改善されている。
【0031】
また、本実施例によれば、プレフィルタを、空気流路において、その下部が作業室の背壁よりも後ろ側に位置するように、傾斜して取り付けたので、プレフィルタの水濡れを低減することができる。水栓からの水流や、作業者が水を使ったときの水しぶきは、主に下方に向かって扇状に飛び散る。本実施例では、プレフィルタを作業室の底面よりも高い位置であって、その下部が作業室の背壁よりも後ろ側に位置するように、傾斜して取り付けたので、プレフィルタへ水しぶきがかかることが少なくなり、水濡れを低減することができる。そして、水濡れによりプレフィルタの流路抵抗の増加を防ぎ、安全キャビネットの性能を維持することができる。
【実施例2】
【0032】
図7に、本発明の実施例2の安全キャビネットを示す。
図7(a)は安全キャビネットの作業室の全体図、
図7(b)は作業室の空気吸込口付近を右方から見た拡大断面図である。また、
図8Aおよび
図8Bに、プレフィルタの交換手順を示す。
【0033】
本発明の実施例2は、プレフィルタの交換を容易にしたものである。
図2に示す本発明に先立って検討した安全キャビネットにおいては、プレフィルタ33が作業室の背壁に垂直に取り付けられ、プレフィルタ33の上側に殺菌灯25が設けられている。そのため、プレフィルタ33を交換するには、殺菌灯25を取り外すか、或いは、プレフィルタ33を取り付けているプレフィルタカバー全体を取り外す必要がある。
【0034】
本実施例では、プレフィルタ33は、下端が空気流路16の後ろ側に位置するように傾斜して配置され、プレフィルタカバー34で取り付けられている。プレフィルタカバー34は、その上端が取付ねじ35等で固定され、取付ねじ35を緩めることにより、前側へ傾けることができる。
【0035】
図8Aおよび
図8Bに、プレフィルタの交換手順を示す。
図8A(a)に示すように、プレフィルタカバー34の取付ねじ35を緩める。そして、
図8A(b)に示すように、プレフィルタ33が取り出せるようにプレフィルタカバー34を前方に傾ける。そして。
図8B(c)、(d)に示すように、プレフィルタカバー34の上方からプレフィルタ33を順次引き出す。
【0036】
プレフィルタ33の取付けは、プレフィルタカバー34の上方からプレフィルタ33を差し込み、プレフィルタカバー34を戻して、取付ねじ35で取り付ける。
【0037】
本実施例によれば、プレフィルタを傾斜して配置し、プレフィルタ33を取り付けるプレフィルタカバー34を前側へ傾斜可能に取り付けたので、プレフィルタの交換を容易に行うことができ、メンテナンス性を向上することができる。
【符号の説明】
【0038】
11 安全キャビネット筐体
12 作業室
13 開閉シャッタ
15 空気吸込口
16 空気流路
17 空気清浄化フィルタ
18 排気ファン
19 チャンバ
21 水栓
22 シンク
23 切り出し台
25 殺菌灯
26 かさ上げ台
27 遠心分離機
28 作業用コンセント
29 シャッタストッパ
31 電気部品格納部
33 プレフィルタ
34 プレフィルタカバー
35 取付ねじ