(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】薬物の癌細胞へのソノポレーションを誘導するためのシステム及びその方法
(51)【国際特許分類】
A61N 7/02 20060101AFI20231225BHJP
【FI】
A61N7/02
(21)【出願番号】P 2020554600
(86)(22)【出願日】2018-12-21
(86)【国際出願番号】 IB2018060508
(87)【国際公開番号】W WO2019123411
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-12-07
(31)【優先権主張番号】102017000148858
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】520220526
【氏名又は名称】フリーダム ウェイブス エッセ.エッレ.エッレ.
(73)【特許権者】
【識別番号】520220537
【氏名又は名称】ジュステット、ピエールアンジェラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジュステット、ピエールアンジェラ
(72)【発明者】
【氏名】ファレット、ダニエレ
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-528919(JP,A)
【文献】特開2012-200454(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0088345(US,A1)
【文献】特表2018-517495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 7/00 - 7/02
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
‐超音波周波数で電気エネルギーを提供するように構成された発電機;
‐発電機に電気的に接続され、電気エネルギーを、超音波の周波数とデューティサイクルを含む動作パラメーターによって定義された低強度非集束パルス超音波に変換するように構成された少なくとも1つの超音波プローブ
を含む、薬物の腫瘍の癌細胞へのソノポレーションを誘導するためのシステムであって、
さらに
‐オペレーターが腫瘍のタイプと薬物のタイプを含む構成データを入力できるようにする入力デバイス;及び
‐入力された構成データに基づいて前記動作パラメーターの値を決定するように構成され、ここで、周波数の値は、少なくとも腫瘍のタイプに基づいて決定され、デューティサイクルの値は、少なくとも薬物のタイプと腫瘍のタイプに基づいて決定される;及び
前記決定された値に従って動作するように発電機及び超音波プローブを制御するように構成されたプロセッサ
を含むことを特徴とする、上記システム。
【請求項2】
動作パラメーターが超音波の振幅を含み、システムが、プローブとがん細胞の間に介在する任意の媒体によって引き起こされる超音波の減衰を補償するために超音波プローブの周波数及び振幅を自動的に調整するように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
プローブが複数の超音波トランスデューサーを含み、前記トランスデューサーの第1のサブセットが電気エネルギーを超音波に変換してソノポレーションを誘発する超音波放射体として構成され、前記トランスデューサーの第2のサブセットが介在する任意の媒体で反射された超音波をプロセッサが読み取り可能な電気信号に変換する超音波受信機として構成され、プロセッサは
‐トランスデューサーの第1のサブセットによって放射された超音波とトランスデューサーの第2のサブセットによって受信された超音波との間の周波数と振幅の差を計算する;及び
‐放射された超音波の振幅と周波数の値を調整して、上記の差を補正する
ようにプログラムされている、請求項
2に記載のシステム。
【請求項4】
プローブが、ソノポレーションを誘発するために電気エネルギーを超音波に変換する超音波放射体として、及び介在する任意の媒体で反射された超音波をプロセッサによって読み取り可能な電気信号に変換する超音波受信機として構成された1つの超音波トランスデューサーを含み、プロセッサは
‐放射された超音波と前記トランスデューサーによって受信された超音波との間の周波数と振幅の差を計算する;及び
‐放射された超音波の振幅と周波数の値を調整して、上記の差を補正する
ようにプログラムされている、請求項1
又は2に記載のシステム。
【請求項5】
周波数の値のリスト及びデューティサイクルの値のリストを格納するコンピュータ可読メモリを含み、プロセッサが
‐周波数の値を腫瘍のタイプに割り当てる;及び
‐デューティサイクルの値を、腫瘍のタイプと薬物のタイプを含む2つの構成データに割り当てる
ように構成される、請求項1~
4のいずれかに記載のシステム。
【請求項6】
腫瘍のタイプが、ヒト乳管癌、エストロゲン非依存性ヒト乳腺癌、ヒト膵臓腺癌、ヒト黒色腫;ヒト黒子黒色腫、ヒト黒子悪性黒色腫;ヒト表在性黒色腫;ヒト末端黒斑性黒色腫、ヒト粘膜黒色腫、ヒト結節性黒色腫、ヒトポリープ状黒色腫、ヒト小細胞黒色腫;ヒトスピッツ様黒色腫、ヒトブドウ膜黒色腫、及びヒト線維形成性黒色腫、肝細胞癌からなる群から選択される、請求項1から
5のいずれかに記載のシステム。
【請求項7】
構成データが、癌細胞が属する患者の身体測定値を含み、前記身体測定値は、腹囲、ボディマスインデックス、乳房周囲、胸郭周囲、及び体脂肪率からなる群から選択される、請求項1~
6のいずれかに記載のシステム。
【請求項8】
周波数の値が、身体測定値にも基づいて決定される、請求項
7に記載のシステム。
【請求項9】
前記プロセッサは、腫瘍のタイプと、腹囲、ボディマスインデックス、乳房周囲、胸郭周囲、及び体脂肪率からなる群から選択される少なくとも1つの身体測定値とを含む構成データのセットに周波数の値を割り当てるように構成される、請求項2又は
8に記載のシステム。
【請求項10】
構成データが腫瘍のグレードを含み、腫瘍のグレードが、原発又は原始腫瘍、及び二次腫瘍又は転移からなる群から選択される、請求項1~
9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
腫瘍の前記グレードが二次腫瘍又は転移である場合、構成データが二次腫瘍の局在を含む、請求項
10に記載のシステム。
【請求項12】
デューティサイクルの値が、二次腫瘍の局在にも基づいて決定される、請求項
11に記載のシステム。
【請求項13】
腫瘍のタイプ、薬物のタイプ、及び腫瘍のグレードを含む構成データのセットにデューティサイクルの値を割り当てるように前記プロセッサが構成されている、請求項2又は
11に記載のシステム。
【請求項14】
腫瘍のグレードが二次腫瘍、又は転移である場合、腫瘍のタイプ、薬物のタイプ、及び二次腫瘍の局在を含む構成データのセットにデューティサイクルの値を割り当てるようにプロセッサが構成されている、請求項2又は
13に記載のシステム。
【請求項15】
薬物のタイプが、パクリタキセル、パクリタキセルアルブミン、ドキソルビシン、リポソームドキソルビシン、イリノテカン、リポソームイリノテカン及びフルオロウラシルからなる群から選択される、請求項1から
14のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項16】
動作パラメーターが超音波の動作時間を含み、前記動作時間の値が少なくとも腫瘍のタイプ及び薬物のタイプに基づいて決定される、請求項1から
15のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項17】
プロセッサが、腫瘍のタイプ及び薬物のタイプを含む2つの構成データに動作時間の値を割り当てるように構成されている、請求項
16に記載のシステム。
【請求項18】
動作時間は、
‐超音波が投与される1つの時間枠;又は
‐超音波が投与される少なくとも2つの時間枠であって、前記少なくとも2つの時間枠は超音波が投与されない1つの時間枠によって隔てられている時間枠
にある、請求項
17に記載のシステム。
【請求項19】
周波数の決定された値が0.6MHzと3MHzとの間に含まれ、及び/又はデューティサイクルの決定された値が12%未満である、請求項1から
18のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項20】
薬物の細胞へのソノポレーションを誘導するための超音波を制御する方法であって、
‐オペレーターによって入力された、腫瘍のタイプ、薬物のタイプ、腫瘍のグレード、及び身体測定値を含む構成データを読み取ること;
‐少なくとも腫瘍のタイプに基づいて周波数の値を決定し、少なくとも薬物のタイプと腫瘍のタイプに基づいてデューティサイクルの値を決定すること、少なくとも腫瘍のタイプと薬物のタイプに基づく超音波の動作パラメーターは周波数とデューティサイクルを含むものである;
‐前記決定された値に従って動作するように少なくとも1つの超音波プローブを制御すること、ここで前記少なくとも1つのプローブは発電機に電気的に接続され、電気エネルギーを超音波に変換するように構成されており、読み取り、決定、及び制御の動作はプロセッサによって実行される
を含む、上記方法。
【請求項21】
動作パラメーターの値を決定することは、腫瘍のタイプに周波数の値を割り当てること;及びデューティサイクルの値を腫瘍のタイプと薬物のタイプを含む2つの構成データに割り当てることにある、請求項
20に記載の方法。
【請求項22】
前記動作パラメーターは、超音波の動作時間を含む、請求項
21に記載の方法。
【請求項23】
コンピュータ上で実行されたときに請求項
20又は
21又は
22に記載の方法を実行するように適合されたコード部分を含むコンピュータプログラム。
【請求項24】
コンピュータ上で実行されたときに、請求項
20又は
21又は
22に記載の方法を実行するためのコンピュータプログラムコードを格納するコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的(すなわち、腫瘍)への薬物の取り込みを増強するために、腫瘍の癌細胞への薬物のソノポレーション(sonoporation、音響穿孔法)を誘導するためのシステムに関する。本発明はまた、癌細胞への薬物のソノポレーションを誘導し、それにより標的への薬物の取り込みを改善するような方法で超音波を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
循環器疾患に次いで、癌は現在、世界で2番目に多い死因である。国際がん研究機関(The International Agency for Research on Cancer)は、人口の高齢化により、2030年には約2170万人のがん症例が増加し、死亡率が1300万人になると予測されている。既知の腫瘍学的治療は、化学療法及び/又は放射線療法及び/又は腫瘍塊の外科的除去に基づいている。特に、従来の化学療法は、癌細胞に対する選択性の欠如に悩まされているため、全身レベルと局所レベルの両方で副作用を引き起こす可能性がある。さらに、腫瘍は投与された化学療法薬に耐性を示すことが多い。これらの理由により、過去数十年の間に、リポソームと呼ばれる特殊な脂質構造を使用して薬物送達の選択性を改善するために、いくつかの技術が開発された。リポソームは、薬物(例えば、化学療法剤、抗炎症剤、細胞毒性剤など)を含むコア、典型的には水性コアを有する封入された脂質小滴を一般的に含むナノキャリアである。特に、化学療法剤を封入するためのリポソームは、通常、リポソーム自体の、したがってリポソームに含まれる薬物の血液中の循環時間を延長できる構造で設計されている。血液中の寿命が長くなると、リポソームとターゲット(つまり、腫瘍)との相互作用が長くなるが、これは、腫瘍を通過する血液の通過回数が増えると、透過性と保持(EPR)の効果が向上するためである。したがって、腫瘍への薬物の全体的な取り込みが強化され、輸送された薬物の治療指数の顕著な改善がもたらされる[Deshpande P.P., Biswas S., and V. P Torchilin V.P., “Current trends in the use of liposomes for tumor targeting” Nanomedicine 2013 September; 8(9)](「腫瘍標的化のためのリポソームの使用における現在の傾向」)、[Torchilin V.P. “Targeted pharmaceutical nanocarriers for cancer therapy and imaging”. AAPS J. 2007; 9(2): 128‐147](「癌治療及びイメージングのための標的化された製薬ナノキャリア」)。しかしながら、化学療法剤のリポソーム製剤が使用されたとしても、リポソームの自然分解後の自然放出によって得られる選択性レベル及び治療効果は、まだ完全に満足できるものではない。これらの理由により、現在臨床使用が承認されているナノ医薬品が薬物を自発的に放出する場合でも、外部から与えられた刺激によってそのような放出を誘発するいくつかの技術が実験的に試験されている。薬物放出の制御の改善は、局所的な温度上昇によって薬物放出を刺激し、それ自体で細胞毒性効果を引き起こし、腫瘍及び周囲の組織の凝固壊死を誘発する高強度集束超音波を使用して達成できることが十分に確立されている(EP1774989B1)。衝撃波はまた、人体、組織、又は細胞内に物質を押し込むことを目的とした医療処置を行うために使用され、したがって、ワクチン、麻酔薬、抗生物質などを提供するために使用された(US2009/281464A1)。
【0003】
局所加熱及び腫瘍細胞の壊死後の癌性物質の拡散に関連する起こり得る毒性の副作用を回避するために、より最近では、パルス低強度非集束超音波(pLINFU)が採用された。pLINFUは、リポソームの「インソネーション」及び細胞膜の「ソノポレーション」を実行できる。用語「インソネーション」は、特に、リポソームの内側から外側への薬物放出の誘導を指す。用語「ソノポレーション」は、代わりに、リポソームの細胞への進入を助けるための細胞膜における一時的な非致死的穿孔の作成を指す。高強度集束超音波とは異なり、pLINFUに関連する低エネルギー(<3W/cm2)は、熱効果を最小限に抑えることが実証されている[Rizzitelli S., Giustetto P., Faletto D., Delli Castelli D., Aime S., Terreno E. “The release of Doxorubicin from liposomes monitored by MRI and triggered by a combination of US stimuli led to a complete tumor regression in a breast cancer mouse model.”, J Control Release, 2016; 230: 57-63.](「MRIによって監視され、USの刺激の組み合わせによって引き起こされるリポソームからのドキソルビシンの放出は、乳癌マウスモデルの完全な腫瘍退縮をもたらした。」)
【0004】
pLINFUは、WO2016/196741で説明されている方法とシステムで採用されているような、パルス低強度集束超音波、又はPLIFUと比較すると、同じ周波数、圧電直径、及び励起サイクル数での異なる超音波分布フィールドによって特徴付けられる。
【0005】
pLINFUは、pLINFUを生成する圧電トランスデューサーの平坦な形状により、pLIFUよりも規則的な形状分布を持っている。
【0006】
さらに、そのような平坦な形状は、代わりに、2つ以上の圧電トランスデューサーからの超音波ビームの収束によって生成される、pLIFUによって得られるボリュームよりも大きなボリュームをソノポレーション(音響穿孔)することを可能にする。
【0007】
さらに、少なくとも2つの超音波ビームの収束点では、干渉現象が発生する可能性があり、それらによって引き起こされる結果として生じる歪みを見積もる可能性がない。従来技術のpLIFUシステムは、この現象を低減する方法を採用しているが、媒体又は超音波が通過する生物組織の不均一性は、他の予測できない干渉を引き起こす可能性がある。
【0008】
これらの理由により、pLINFUの場合のみ、ソノポレーションに使用される超音波が設定された周波数と設定されたデューティサイクルで標的細胞に到達することを保証できる。実際、ソノポレーションは、ソノポレーションされる細胞のタイプとそのような細胞の膜に入れられる薬剤のタイプに依存する特定の周波数とデューティサイクル値でのみ、ナノメートルスケールで生物物理現象を生成する。
【0009】
実際、パルス超音波は、放射期間(オン期間)と無音期間(オフ期間)の交互から構成される。オフ期間は、放射期間を中断し、オン期間と交互になる。
【0010】
より具体的には、オン期間は、薬物を含むベクターの特性及び細胞膜の特性に依存するはずである。ベクトルの共鳴効果に由来する振動は、細胞膜と相互作用して、細孔の開口を促進し、超音波の直接的な影響から細胞を保護する。オフ期間の持続時間は、細胞細孔の開閉特性の関数として決定される。オフ期間は、細孔が開かれると細胞膜をさらに刺激しない機能を有し、同じ細孔が閉じている間、細胞区画へのベクターの侵入を促進する。
【0011】
オン期間がオフ期間なしで長期間採用された場合、結果は細胞膜の継続的かつ長期的なストレスとなり、薬剤の正確な細胞内蓄積を妨害することに加えて、細胞に過剰なストレスレベル及び薬物の出入りを同時に引き起こすインアンドアウト現象を引き起こす可能性がある。
【0012】
さらに、長時間の刺激は細胞死を引き起こす可能性があり、その結果、細胞質の内容物(薬物を含む)が漏れ、血流を通じて他の望ましくない部位に運ばれるリスクがある。
【0013】
上記の理由により、周波数とデューティサイクルの特定の値を持つ超音波ビームのみが、振動パルス又はフォノンを生成することによって、格子レベルで膜と相互作用することができる。後者は、フォノニックパルスの周波数と膜リン脂質の運動の周波数の比較可能な値のおかげで格子点を介して伝播し、膜成分の転位を引き起こし、したがって膜の一時的な細孔開口の現象を引き起す。
【0014】
非集束ビーム(すなわち、pLINFU)が使用される場合、放射ビームを構成する超音波間に建設的な干渉も破壊的な干渉もない。これにより、すべてのコンポーネントビームが、治療対象のすべての組織特性と使用する薬物に応じて確立されたパルスを確実に尊重できるようになる。
【0015】
フォノニックパルスの伝播、したがって膜細孔の一時的な開口のトリガーは、音響ストリーミング効果によっても影響される。後者は、細胞膜などの振動構造の近くの流体の小規模な渦として定義される。この現象は、拡散速度と膜透過性に影響を与えることが知られており、より具体的には、有用な経路、すなわち、超音波ビームが音圧自体によって変形した組織と相互作用することなく移動できる経路を減少させることが知られている。[Nowicki A., Kowalewski T., Secomski W., Wo'jcik J., “Estimation of acoustical streaming: theoretical model, Doppler measurements and optical visualization”, European Journal of Ultrasound 1998, 7: 73-81].「音響ストリーミングの評価:理論モデル、ドップラー測定、及び視覚化」
【0016】
音響ストリーミング効果は、pLIFU又はpLINFUが適用される場合は異なる。pLIFUの場合、有用な経路の減少に加えて、組織から圧電トランスデューサーに戻る信号の歪みが発生する可能性がある。そのような歪みは、ソノポレーションされる組織に特有で特徴的ではなく、したがって、標的細胞に到達する超音波ビームの周波数及びデューティサイクルの予測における不確実性のさらなる原因である。このため、ソノポレーションに使用される超音波が、膜との最良の相互作用のために最適に設定された周波数とデューティサイクルの値で標的細胞に到達することを保証することはさらに困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、
‐薬物の選択性と薬物の癌細胞への取り込みを改善することを可能にするシステム
を提供することである。
これは、フォノン振動の発生を通じて細胞ソノポレーションを誘導するためのpLINFUを投与することによる本発明のシステムによって達成される。
【0018】
本発明のさらなる目的は、
‐薬物の癌細胞へのソノポレーションを誘導するための超音波を制御する方法
を提供することである。
【0019】
以下の例で示されているように、ソノポレーション処置によって達成される細胞死のパーセンテージは、使用される薬物のタイプと脅威となる腫瘍のタイプの組み合わせに依存する。より具体的には、以下にリストされたヒトの癌細胞のインビトロでの実験的試験の結果は、重要な細胞死のパーセンテージを達成するために、pLINFUのデューティサイクルは薬物と癌細胞のタイプに従って調整されるべきであることを示した。細胞膜の細孔の開閉の正しいタイミングを保証するために、pLINFUの投与の一時的な期間、すなわち動作時間も重要である。
【0020】
これらの結果に基づいて、本発明は、オペレーターによって入力された構成データに従ってソノポレーションを誘発するpLINFUの周波数及びデューティサイクルを制御するためのシステム及び関連方法を提供し、前記構成データは、少なくとも腫瘍のタイプ及び薬物のタイプを含む。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本説明の目的のために、「低強度超音波」という表現は、3W/cm2未満の出力密度を有する超音波を表しており、「腫瘍のタイプ」という表現は、組織型及び腫瘍が位置している臓器(器官)を指すことを表す。したがって、「腫瘍のタイプ」の非限定的な例は、「ヒト乳管癌」、「ヒト膵臓腺癌」、「エストロゲン非依存性ヒト乳腺癌」、「ヒト粘膜黒色腫」、「ヒト結節性黒色腫」、「肝細胞癌」等である。さらに、本説明の目的のために、「薬物」という言葉は、吸入、注射、喫煙、消費、皮膚のパッチを介して吸収されたとき、又は舌の下で溶解したとき、身体の一時的な生理学的(及び/又は心理的)な変化を引き起こす(栄養サポートを提供する食品以外の)任意の物質、及び医療画像の組織及び/又は構造のコントラストや可視性を向上させるために使用できる任意の物質(つまり、コントラスト媒体)を指すことを意図していると述べられている。本発明の目的のために、用語「薬物」は、単一の物質又は薬剤だけでなく、2つ以上の物質又は薬剤の溶液、組成物又は混合物をも指すために使用されることは明らかである。本発明の好ましい実施形態は、化学療法リポソームの癌細胞へのソノポレーションを誘導するためのシステムであるが、同じシステムが、リポソームにカプセル化されていない化学療法薬にも、及び任意の細胞毒性剤(すなわち、標的細胞を殺すことができる薬剤)又は細胞増殖抑制剤(すなわち、標的細胞の増殖又は細胞分裂を抑制する能力を有する薬剤)についても使用できることをここに述べる。さらに、本発明のシステムは、化学療法薬以外の任意の医薬(例えば、抗炎症薬)のソノポレーション、及び腫瘍以外の任意の病変に使用することができる。後者の場合、「腫瘍のタイプ」という表現は、組織型及び病理学によって影響を受ける臓器を示す「病理のタイプ」という表現に置き換えることができる。
【0022】
上記の目的は、本発明によって、以下を備えるシステムを提供することによって達成される:
‐超音波周波数で電気エネルギーを提供するように構成された発電機;
‐発電機に電気的に接続され、電気エネルギーを、超音波の周波数とデューティサイクルを含む動作パラメーターによって定義された低強度非集束パルス超音波に変換するように構成された少なくとも1つの超音波プローブ;
システムはさらに以下を含むことを特徴とする:
‐オペレーターが腫瘍のタイプと薬剤のタイプを含む構成データを入力できるようにする入力デバイス;及び
‐入力された構成データに基づいて前記動作パラメーターの値を決定するように構成され、ここで、周波数の値は、少なくとも腫瘍のタイプに基づいて決定され、デューティサイクルの値は、少なくとも薬物のタイプと腫瘍のタイプに基づいて決定される;及び
前記決定された値に従って動作するように発電機及び超音波プローブを制御するように構成されたプロセッサ。
【0023】
より具体的には、入力された構成データに基づく動作パラメーターの値の決定は、以下のステップを通じてプロセッサによって実行される:
‐腫瘍のタイプに周波数の値を割り当てる;及び
‐デューティサイクルの値を、腫瘍のタイプと薬物のタイプを含む2つの構成データに割り当てる。
【0024】
この目的のために、システムは、周波数の値のリスト及びデューティサイクルの値のリストを格納するコンピュータ可読メモリを含む。
【0025】
本発明のシステムにおいて、薬物のタイプは、好ましくは、パクリタキセル、パクリタキセルアルブミン、ドキソルビシン、リポソームドキソルビシン、イリノテカン及びリポソームイリノテカン及びフルオウラシルからなる群から選択され、デューティサイクルの決定値は、好ましくは、12%未満である。
【0026】
上記の目的は、以下を含む方法を提供することによる本発明によっても達成される。
‐オペレーターによって入力された構成データを読み取る、この構成データは、腫瘍のタイプ、薬物のタイプ、腫瘍のグレード、及び身体測定値を含む;
‐少なくとも腫瘍のタイプと薬物のタイプに基づいて超音波の動作パラメーターの値を決定する、前記パラメーターは周波数とデューティサイクルを含む;
‐前記決定された値に従って動作するように少なくとも1つの超音波プローブを制御する、前記少なくとも1つのプローブは発電機に電気的に接続され、電気エネルギーを超音波に変換するように構成されており;読み取り、決定、及び制御の動作は、プロセッサによって実行される。
【0027】
本発明はまた、上で詳述した方法を実行するように適合されたコード部分を含むコンピュータプログラム、及びコンピュータ上で実行されるときにそのような方法を実行するためのコンピュータプログラムコードを格納するコンピュータ可読媒体に関する。
【0028】
周波数の値は、少なくとも腫瘍のタイプに基づいて決定する必要があるが、表面的ではなく、特定の身体領域(腹部など)に限局しているタイプの腫瘍については、他の構成データも考慮する必要があると考えられている。実際、超音波の侵入の深さは超音波周波数によって影響され、侵入の深さは周波数が低いほど大きくなることが知られている。たとえば、軟組織では、平均浸透深度(つまり、超音波の強度が初期強度に対して50%減少する深度)は、超音波周波数が1MHzの場合4~5cm、周波数が3MHzの場合約1.5cmである。代わりに、軟組織の最大浸透深度は超音波周波数が1MHzの場合10~12cmであり、超音波周波数が3MHzの場合3~4cmである。本発明を参照すると、周波数への侵入の深さの依存性は、周波数が腫瘍のタイプに依存していると述べることによって暗黙的に考慮される。実際、腫瘍のタイプが、例えば黒色腫の1つである場合、腫瘍は体表にあり、腫瘍のタイプが乳管癌である場合、腫瘍は体表の下の特定の深さにある。これらの理由から、周波数は腫瘍のタイプを考慮して決定されると述べることは、一般に、周波数は体表面下の腫瘍の深さに関する情報も考慮して決定されることを意味する。ただし、体の領域にある腫瘍のタイプ(膵臓腺癌など)によっては、その大きさが個人間で大きく異なる場合がある。これらの場合、個人間の身体の違い(腹部の周長など)は、超音波が腫瘍に到達することを保証するために必要な周波数の決定に大きな影響を与える可能性がある。結果として、超音波周波数の値は、患者の身体測定値に基づいて決定されるべきである。より具体的には、ヒト膵臓腺癌の場合、そのような身体測定のいくつかの例は、腹囲、ボディマスインデックス及び体脂肪率であり得る。ヒト乳管癌及びエストロゲン非依存性ヒト乳腺癌の場合、そのような身体測定値のいくつかの例は、乳房周囲、ボディマスインデックス、体脂肪率、胸郭周囲であり得る。したがって、本発明のシステムでは、構成データは、癌細胞が属する患者の身体測定値をさらに含むことができ、前記身体測定値は、腹囲、ボディマスインデックス、乳房周囲、胸郭周囲、及び体脂肪率からなる群から選択され、周波数の値は、身体測定値にも基づいて決定できる。本発明のシステムでは、周波数の決定された値は、0.6MHzと3MHとの間に含まれる。
【0029】
デューティサイクルの値は、少なくとも腫瘍のタイプと薬物のタイプに基づいて決定する必要があるが、腫瘍が転移又は二次腫瘍である場合、その局在は「腫瘍のタイプ」の名称で示されたものと異なる可能性があると考えられており、細胞は、したがって、対応する原始腫瘍の細胞とは異なる。なぜなら、それらは腫瘍が発生した器官とは異なる器官に属しているからである。以下の例で詳述されるように、デューティサイクルは、ソノポレーションを誘導することが望まれる細胞のタイプに従って変えなければならないので、デューティサイクルは、最終的な二次腫瘍の局在に従って変えなければならない。これらの理由により、本発明のシステムでは、構成データは、腫瘍のグレード、及びそれが転移である場合、前記転移の局在をさらに含むことができる。
【0030】
癌細胞への薬物の効果的なソノポレーションを得るために関連するさらなる動作パラメーターは、動作時間、すなわち超音波の投与の時間間隔である。以下の例で詳細に説明するように、動作時間の値は、薬物の細胞への効果的なソノポレーションを保証するためにも関連がある。このため、本発明のシステムでは、動作パラメーターは、動作時間を含むことができ、前記動作時間の値は、少なくとも腫瘍のタイプ及び薬物のタイプに基づいて決定される。
【0031】
本発明のシステムはさらに、超音波プローブの周波数及び振幅を自動的に調整して、プローブと癌細胞との間に挿入された媒体によって引き起こされる超音波の減衰を補償するように構成される。さらに、周波数と振幅の自動調整は、デューティサイクルと同期して行われる。
【0032】
これらの特徴及び他の特徴は、請求されるより一般的な原理の非限定的な例として読まれる、本発明の好ましい実施形態の以下の詳細な説明の助けにより、より明確にされる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
説明は添付の図面を参照する。
【
図1a】
図1aは、パクリタキセルをヒト乳管癌細胞にインビトロ投与することにより得られる細胞死のパーセンテージを示し、前記投与は超音波の投与と同時に行われる。図は、異なる総濃度(50μM、10μM、0.5μM)で得られた結果を示す。
【
図1b】
図1bは、パクリタキセルアルブミンをヒト乳管癌細胞にインビトロ投与することにより得られる細胞死のパーセンテージを示し、前記投与は超音波の投与と同時に行われる。図は、異なる総濃度(50μM、10μM、0.5μM)で得られた結果を示す。
【
図2a】
図2aは、ドキソルビシンをヒト乳管癌細胞にインビトロ投与することにより得られる細胞死のパーセンテージを示し、前記投与は超音波の投与と同時に行われる。図は、異なる総濃度(1000μg/ml、500μg/ml、100μg/ml)で得られた結果を示す。
【
図2b】
図2bは、リポソームドキソルビシンをヒト乳管癌細胞にインビトロ投与することにより得られる細胞死のパーセンテージを示し、前記投与は超音波の投与と同時に行われる。図は、異なる総濃度(1000μg/ml、500μg/ml、100μg/ml)で得られた結果を示す。
【
図3a】
図3aは、パクリタキセルをエストロゲン非依存性ヒト乳腺癌細胞にインビトロ投与することにより得られる細胞死のパーセンテージを示し、前記投与は超音波の投与と同時に行われる。図は、異なる総濃度(50μM、10μM、0.5μM)で得られた結果を示す。
【
図3b】
図3bは、パクリタキセルアルブミンをエストロゲン非依存性ヒト乳腺癌細胞にインビトロ投与することにより得られる細胞死のパーセンテージを示し、前記投与は超音波の投与と同時に行われる。図は、異なる総濃度(50μM、10μM、0.5μM)で得られた結果を示す。
【
図4a】
図4aは、ドキソルビシンをエストロゲン非依存性ヒト乳腺癌細胞にインビトロ投与することにより得られる細胞死のパーセンテージを示し、前記投与は超音波の投与と同時に行われる。図は、異なる総濃度(1000μg/ml、500μg/ml、100μg/ml)で得られた結果を示す。
【
図4b】
図4bは、リポソームドキソルビシンをエストロゲン非依存性ヒト乳腺癌細胞にインビトロ投与することにより得られる細胞死のパーセンテージを示し、前記投与は超音波の投与と同時に行われる。図は、異なる総濃度(1000μg/ml、500μg/ml、100μg/ml)で得られた結果を示す。
【
図5a】
図5aは、パクリタキセルをエストロゲン非依存性ヒト乳腺癌細胞にインビトロ投与することにより得られる細胞死のパーセンテージを示し、前記投与は超音波の投与と同時に行われる。図は、異なる総濃度(50μM、10μM、0.5μM)で得られた結果を示す。
【
図5b】
図5bは、パクリタキセルアルブミンをヒト膵臓腺癌細胞にインビトロ投与することにより得られる細胞死のパーセンテージを示し、前記投与は超音波の投与と同時に行われる。図は、異なる総濃度(50μM、10μM、0.5μM)で得られた結果を示す。
【
図6a】
図6aは、イリノテカンをヒト膵臓腺癌細胞にインビトロ投与することにより得られる細胞死のパーセンテージを示し、前記投与は超音波の投与と同時に行われる。図は、異なる総濃度(50μM、10μM、0.05μM)で得られた結果を示す。
【
図6b】
図6bは、フルオロウラシルと共にリポソームイリノテカンをヒト膵臓癌細胞にインビトロ投与することにより得られる細胞死のパーセンテージを示し、前記投与は超音波の投与と同時に行われる。図は、異なる総濃度(50μM、10μM、0.05μM)で得られた結果を示す。
【
図7】
図7は、癌細胞におけるフルオレセインアミン(FA)の内在化の実験と比較した結果を示す。
図7は、特に、5つの実験条件におけるヒト膵臓腺癌細胞へのFAの取り込みを示し、前記条件は、超音波の投与の効果を調査するために特別に設計されている。
【
図8】
図8aは、FAのヒト膵臓腺癌細胞への取り込みの共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)によって得られた画像を示し、FAは単独で、すなわち超音波及び薬物の投与なしで投与される。
図8bは、FAのヒト膵臓腺癌細胞への取り込みの共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)によって得られた画像を示し、前記FAは、超音波を投与せずにリポソームイリノテカンと一緒に投与される。
図8cは、FAのヒト膵臓腺癌細胞への取り込みの共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)によって得られた画像を示し、このFAは、リポソームイリノテカンと共に、デューティサイクル12%のパルス超音波の投与と同時に投与される。
図8dは、FAのヒト膵臓腺癌細胞への取り込みの共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)によって得られた画像を示し、このFAは、デューティサイクル1%のパルス超音波の投与後にリポソームイリノテカンと一緒に投与される。
図8eは、FAのヒト膵臓腺癌細胞への取り込みの共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)によって得られた画像を示し、このFAは、リポソームイリノテカンと一緒に、デューティサイクル1%のパルス超音波の投与と同時に投与される。
【
図9】
図9aは、Prohance(Gd
3+)による細胞膜の細孔の閉鎖の動態を示す。
図9bは、Prohanceとリポソームによる細胞膜の細孔の閉鎖の動態を示す。
図9cは、Tetramerによる細胞膜の細孔の閉鎖の動態を示す。
図9dは、Tetramerとリポソームによる細胞膜の細孔の閉鎖の動態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
好ましい実施形態の詳細な説明
本発明のシステムの好ましい実施形態は、以下を含む。
‐超音波周波数で電気エネルギーを提供するように構成された発電機;
‐発電機に電気的に接続された超音波プローブであって、
‐電気エネルギーを、超音波の周波数、デューティサイクル、及び動作時間を含む動作パラメーターによって定義される低強度非集束パルス超音波に変換するように構成された上記超音波プローブ;
‐オペレーターが腫瘍のタイプ、薬物のタイプ、癌細胞が属する患者の身体測定値及び腫瘍のグレードを含む構成データを入力できるようにする入力デバイス;及び
‐入力された構成データに基づいて前記動作パラメーターの値を決定するように構成されたプロセッサであって、ここで、周波数の値は腫瘍のタイプと身体測定値に基づいて決定され、デューティサイクルの値は少なくとも薬物のタイプと腫瘍のタイプに基づいて決定され;
決定された値に従って動作するように発電機と超音波プローブを制御するように構成された上記プロセッサ。
【0035】
より具体的には、本発明のシステムは、周波数の値のリスト及びデューティサイクルの値のリストを格納するコンピュータ可読メモリを含み、したがって、プロセッサは
‐周波数の値を腫瘍のタイプに割り当てる;及び
‐デューティサイクルの値を、腫瘍のタイプと薬物のタイプを含む2つの構成データに割り当てる
ように構成される。
【0036】
システムの好ましい実施形態によって生成される超音波の出力密度は、3W/cm2未満である。
【0037】
入力装置は、システムと統合されたタッチスクリーンであることが好ましい。入力デバイスの他の例は、ラップトップ、タブレット、およびスマートフォンである。
【0038】
本発明の好ましい実施形態では、オペレーターが入力するように要求される最初の構成データは、薬物のタイプである。薬物のタイプは、パクリタキセル、パクリタキセルアルブミン、ドキソルビシン、リポソームドキソルビシン、イリノテカン、リポソームイリノテカン及びフルオロウラシルからなる群から選択される。
【0039】
メニューリストから選択するか、薬剤のタイプを打ち込んで入力した後、オペレーターは腫瘍のタイプを選択するように要求され得る。腫瘍のタイプは、ヒト乳管癌、エストロゲン非依存性ヒト乳腺癌及びヒト膵臓腺癌からなる群から選択される。次に、腫瘍のグレードは、次の2つのオプションを選択して入力する必要がある:原発腫瘍(すなわち、原始腫瘍)と二次腫瘍(すなわち、転移)。選択した腫瘍のグレードが:
‐原発腫瘍の場合、薬物のタイプと腫瘍のタイプに基づいてデューティサイクルが決定され、
‐二次腫瘍の場合、二次腫瘍の局在もまたオペレーターが入力する必要がある。この場合、デューティサイクルは、薬物のタイプ、腫瘍のタイプ、及び二次腫瘍の局在に基づいて決定される。
【0040】
この場合、プロセッサは、腫瘍のタイプ、薬物のタイプ、腫瘍のグレード、及び最終的には二次腫瘍の局在を含む構成データのセットにデューティサイクルの値を割り当てるように構成されている。
【0041】
たとえば、入力した腫瘍のグレードが原発性の場合、入力した腫瘍のタイプはヒト乳管癌又はエストロゲン非依存性ヒト乳腺癌であり、入力した薬物のタイプはパクリタキセル又はパクリタキセルアルブミン又はドキソルビシン又はリポソームドキソルビシンであり、割り当てられたデューティサイクルは9%である。
【0042】
たとえば、入力された腫瘍のグレードが原発性で、入力された腫瘍のタイプがヒト膵臓腺癌で、入力された薬物のタイプがパクリタキセル又はパクリタキセルアルブミン又はイリノテカン又はリポソームイリノテカン又はフルオロウラシルである場合、割り当てられるデューティサイクルは1%である。
【0043】
腫瘍のグレードを選択した後、人体測定を入力する必要がある。オペレーターが指定する必要がある人体測定は、腫瘍のグレードが原発腫瘍である場合は腫瘍のタイプによって、腫瘍のグレードが二次腫瘍である場合は二次腫瘍の局在によって異なる。例えば、人体測定は、腫瘍のタイプがヒト膵臓腺癌である場合は腹囲を含み、腫瘍のタイプがヒト乳管癌である場合は乳房周囲を含み得る。次に、そのような身体測定値に基づいて周波数が決定される。
【0044】
この場合、プロセッサは、腫瘍のタイプと、腹囲、ボディマスインデックス、乳房周囲、胸郭周囲、及び体脂肪率からなる群から選択される少なくとも1つの身体測定値を含む構成データのセットに周波数の値を割り当てるように構成されている。腫瘍が異なる深度に及ぶ場合、本発明のシステムは、異なる深度に対応する異なる周波数で動作する2つのプローブを含むこともできる。
【0045】
前述の構成データの入力が完了した後、別の腫瘍に関連する別のパラメーターのセットを選択する可能性もオペレーターに与えられる。例えば、構成データの第1のセットが原発腫瘍を指す場合、前記原発腫瘍の転移に関する構成データも設定することが可能である。本発明のシステムは、実際、2つのプローブを提供することができ、1つは原発腫瘍用の第1のプローブ及び転移用の第2のプローブである。第1のプローブから放射される超音波は、薬物のタイプと原発腫瘍のタイプに応じたデューティサイクルを持つが、第2のプローブから放射される超音波は、薬物のタイプ、原発腫瘍のタイプ、及び二次腫瘍の局在のタイプに応じたデューティサイクルを持つ。
【0046】
入力された構成データに基づいて、各プローブの動作時間も決定される。より具体的には、腫瘍のタイプ及び薬物のタイプに従って、動作時間は以下を含み得る:‐超音波が投与される1つの時間枠;又は
‐超音波が投与される2つ以上の時間枠;この枠は、超音波が投与されない1つの時間枠によって隔てられている。オペレーターは、この最小動作時間を受け入れるか、最小動作時間を掛けた整数で構成される別の構成データを入力するように求められ、動作時間になる。
【0047】
この場合、プロセッサは、動作時間の値を、腫瘍のタイプと薬物のタイプを含む一連の構成データに割り当てるように構成されている。
【0048】
最後に、本発明のシステムの好ましい実施形態では、プローブは複数の超音波トランスデューサーを備えることができ、前記トランスデューサーの第1のサブセットは、ソノポレーションを誘発するために電気エネルギーを超音波に変換する超音波放射体として構成され、前記トランスデューサーの第2のサブセットは、挿入さ介在する任意の媒体で反射された超音波をプロセッサによって読み取り可能な電気信号に変換するための超音波受信機として構成され、プロセッサは以下のようにプログラムされる:
‐トランスデューサーの第1のサブセットによって放射された超音波とトランスデューサーの第2のサブセットによって受信された超音波との間の周波数と振幅の差を計算する;及び
‐放射された超音波の振幅と周波数の値を調整して、上記の違いを補正する。
【0049】
トランスデューサーの第1と第2のサブセットは、1つのトランスデューサーのみでオーバーラップすることもできる。この場合、プローブは、電気エネルギーを超音波に変換してソノポレーションを誘発する超音波放射体として、及び、介在する任意の媒体で反射された超音波をプロセッサが読み取り可能な電気信号に変換する超音波受信機として構成された、1つの超音波トランスデューサーを含み、このプロセッサは以下のようにプログラムされている:
‐発信された超音波と前記トランスデューサーによって受信された超音波との間の周波数と振幅の差を計算する。そして
‐放射された超音波の振幅と周波数の値を調整して、上記の違いを補正する。
【実施例】
【0050】
例
本発明のシステムは、ヒト乳癌の2つの細胞株及びヒト膵臓腺癌の1つの細胞株を使用してインビトロで試験された。
【0051】
特に、以下の細胞株が採用された:
‐MCF‐7:ヒト乳管癌;
‐MDA‐MB‐231:エストロゲン非依存性ヒト乳腺癌;
‐MiaPaCa‐2:ヒト膵臓腺癌。
【0052】
次の表は、試験した細胞株の組み合わせと薬剤のタイプをまとめたものである。
【表1】
【0053】
各組み合わせについて、3つの主要な実験条件で細胞死のパーセンテージを測定した。
‐薬物の投与(以下、「NO‐US」条件と呼ぶ);
‐薬物の投与と、1MHzの周波数と1秒の期間の非集束パルス低強度超音波の同時投与、この薬物は一意の用量で投与される;
‐周波数が1MHz、期間が1秒の非集束パルス低強度超音波の投与と、それに続く薬物の投与;及び
‐薬物の投与、及び1MHzの周波数、及び1秒の期間の非集束パルス低強度超音波の同時投与、この薬物は、同じ濃度の2つの用量で投与される(以下、「US‐DC」条件と呼ぶ)。
【0054】
NO‐US以外のすべての実験条件は、デューティサイクルの異なる値に対して複製され、各実験条件は、3つの異なる薬物の総濃度に対して複製された。各細胞株及び各薬物のタイプについて、いくつかの動作時間も試験した。US‐DC条件では、第1の用量の薬物の最初の投与と20秒間の超音波の同時投与を行った後、第2の用量の薬物の2回目の投与と20秒間の超音波の同時投与により、より良い結果が得られた。
【0055】
結果を以下の表に示し、
図1a、1b、2a、2b、3a、3b、4a、4b、5a、5b、6a、6bに示す。
【0056】
特に、表は、上記の3つの異なる薬物の総濃度について、USの条件とUS‐DCの条件で得られた結果をまとめたものである。後者の条件では、治療の有効性をよりよく表すものとして示されるように、デューティサイクルの2つの値が選択される。特に、細胞株MCF‐7及びMDA‐MB‐231の場合、デューティサイクルの次の値に対する結果が表示される:
‐デューティサイクル=12%(US‐DC=12%)
‐デューティサイクル=9%(US‐DC=9%)
細胞株MiaPaCa‐2の場合、デューティサイクルの次の値に関連する結果が表示される:
‐デューティサイクル=12%(US‐DC=12%)
‐デューティサイクル=1%(US‐DC=1%)。
【0057】
例1
次の表では、3つの条件でMCF‐7の細胞に投与された3つの異なる濃度のパクリタキセルについての細胞死のパーセンテージが報告されている。
‐NO‐US:超音波を投与せずにパクリタキセルの第1の用量の最初の投与(NO‐US)、その後のパクリタキセルの第2の用量の2回目の投与;
‐US‐DC=12%:パクリタキセルの第1の用量の最初の投与と20秒間のpLINFU(デューティサイクル=12%)の同時投与、その後のパクリタキセルの第2の用量の2回目の投与と、さらに20秒間のpLINFUの同時投与;
‐US‐DC=9%:パクリタキセルの第1の用量の最初の投与と20秒間のpLINFU(デューティサイクル=9%)の同時投与、その後のパクリタキセルの第2の用量の2回目の投与と、さらに20秒間のpLINFUの同時投与。
【0058】
【0059】
例2
次の表では、3つの条件でMCF‐7の細胞に投与された3つの異なる濃度のパクリタキセルアルブミンについての細胞死のパーセンテージが報告されている。
‐NO‐US:超音波を投与せずにパクリタキセルアルブミンの第1の用量の最初の投与(NO‐US)、その後のパクリタキセルアルブミンの第2の用量の2回目の投与;
‐US‐DC=12%:パクリタキセルアルブミンの第1の用量の最初の投与と20秒間のpLINFU(デューティサイクル=12%)の同時投与、その後のパクリタキセルアルブミンの第2の用量の2回目の投与と、さらに20秒間のpLINFUの同時投与;
US‐DC=9%:パクリタキセルアルブミンの第1の用量の最初の投与と20秒間のpLINFUの同時投与(デューティサイクル=9%)、その後のパクリタキセルアルブミンの第2の用量の2回目の投与と、さらに20秒間のpLINFUの同時投与。
【0060】
【0061】
例3
次の表では、3つの条件でMCF‐7の細胞に投与された3つの異なる濃度のドキソルビシンについての細胞死のパーセンテージが報告されている。
‐NO‐US:超音波を投与せずにドキソルビシンの第1の用量の最初の投与(NO‐US)、その後のドキソルビシンの第2の用量の2回目の投与;
‐US‐DC=12%:第1の用量のドキソルビシンの最初の投与とpLINFU(デューティサイクル=12%)の20秒間の同時投与、その後の第2の用量のドキソルビシンの2回目の投与と、さらに20秒間のpLINFUの同時投与;
‐US‐DC=9%:第1の用量のドキソルビシンの最初の投与とpLINFU(デューティサイクル=9%)の20秒間の同時投与、その後の第2の用量のドキソルビシンの2回目の投与と、さらに20秒間のpLINFUの同時投与。
【0062】
【0063】
例4
次の表では、3つの条件でMCF‐7の細胞に投与された3つの異なる濃度のリポソームドキソルビシンについての細胞死のパーセンテージが報告されている。
‐NO‐US:超音波を投与せずにリポソームドキソルビシンの第1の用量の最初の投与(NO‐US)、その後のリポソームドキソルビシンの第2の用量の2回目の投与;
‐US‐DC=12%:リポソームドキソルビシンの第1の用量の最初の投与と20秒間のpLINFU(デューティサイクル=12%)の同時投与、その後のリポソームドキソルビシンの第2の用量の2回目の投与と、さらに20秒間のpLINFUの同時投与;
‐US‐DC=9%:リポソームドキソルビシンの第1の用量の最初の投与と20秒間のpLINFU(デューティサイクル=9%)の同時投与、その後のリポソームドキソルビシンの第2の用量の2回目の投与と、さらに20秒間のpLINFUの同時投与。
【0064】
【0065】
例5
次の表では、3つの条件でMDA‐MB‐231の細胞に投与された3つの異なる濃度のパクリタキセルについての細胞死のパーセンテージが報告されている。
‐NO‐US:超音波を投与せずにパクリタキセルの第1の用量の最初の投与(NO‐US)、その後のパクリタキセルの第2の用量の2回目の投与;
‐US‐DC=12%:パクリタキセルの第1の用量の最初の投与と20秒間のpLINFU(デューティサイクル=12%)の同時投与、その後のパクリタキセルの第2の用量の2回目の投与と、さらに20秒間のpLINFUの同時投与;
‐US‐DC=9%:パクリタキセルの第1の用量の最初の投与と20秒間のpLINFU(デューティサイクル=9%)の同時投与、その後のパクリタキセルの第2の用量の投与の2回目の投与と、さらに20秒間のpLINFUの同時投与。
【0066】
【0067】
例6
次の表では、3つの条件でMDA‐MB‐231の細胞に投与された3つの異なる濃度のパクリタキセルアルブミンについての細胞死のパーセンテージが報告されている。
‐NO‐US:超音波を投与せずにパクリタキセルの第1の用量の最初の投与(NO‐US)、その後のパクリタキセルアルブミンの第2の用量の2回目の投与;
‐US‐DC=12%:パクリタキセルアルブミンの第1の用量の最初の投与と20秒間のpLINFU(デューティサイクル=12%)の同時投与、その後のパクリタキセルアルブミンの第2の用量の2回目の投与と、さらに20秒間のpLINFUの同時投与;
‐US‐DC=9%:パクリタキセルアルブミンの第1の用量の最初の投与と20秒間のpLINFU(デューティサイクル=9%)の同時投与、その後のパクリタキセルアルブミンの第2の用量の2回目の投与と、さらに20秒間のpLINFUの同時投与。
【0068】
【0069】
例7
次の表では、3つの条件でMDA‐MB‐231の細胞に投与された3つの異なる濃度のドキソルビシンについての細胞死のパーセンテージが報告されている。
‐NO‐US:超音波を投与しないパクリタキセルの第1の用量(NO‐US)の最初の投与と、その後のドキソルビシンの第2の用量の2回目の投与:
‐US‐DC=12%:第1の用量のドキソルビシンの最初の投与と20秒間のpLINFU(デューティサイクル=12%)の同時投与、その後の第2の用量のドキソルビシンの2回目の投与と、さらに20秒間のpLINFUの同時投与;
‐US‐DC=9%:第1の用量のドキソルビシンの最初の投与と20秒間のpLINFU(デューティサイクル=9%)の同時投与、その後の第2の用量のドキソルビシンの2回目の投与と、さらに20秒間のpLINFUの同時投与。
【0070】
【0071】
例8
次の表では、3つの条件でMDA‐MB‐231の細胞に投与された3つの異なる濃度のリポソームドキソルビシンについての細胞死のパーセンテージが報告されている。
‐NO‐US:超音波を投与せずにパクリタキセルの第1の用量の最初の投与(NO‐US)、その後のリポソームドキソルビシンの第2の用量の2回目の投与;
‐US‐DC=12%:リポソームドキソルビシンの第1の用量の最初の投与と20秒間のpLINFU(デューティサイクル=12%)の同時投与、その後のリポソームドキソルビシンの第2の用量の2回目の投与と、さらに20秒間のpLINFUの同時投与;
‐US‐DC=9%:リポソームドキソルビシンの第1の用量の最初の投与と20秒間のpLINFU(デューティサイクル=9%)の同時投与、その後のリポソームドキソルビシンの第2の用量の2回目の投与と、さらに20秒間のpLINFUの同時投与。
【0072】
【0073】
例9
次の表では、3つの条件でMiaPaCa2の細胞に投与された3つの異なる濃度のパクリタキセルについての細胞死のパーセンテージが報告されている。
‐NO‐US:超音波を投与せずにパクリタキセルの第1の用量の最初の投与(NO‐US)、その後のパクリタキセルの第2の用量の2回目の投与;
‐US‐DC=12%:パクリタキセルの第1の用量の最初の投与と20秒間のpLINFU(デューティサイクル=12%)の同時投与、その後のパクリタキセルの第2の用量の2回目の投与と、さらに20秒間のpLINFUの同時投与;
‐US‐DC=1%:パクリタキセルの第1の用量の最初の投与と20秒間のpLINFU(デューティサイクル=1%)の同時投与、その後のパクリタキセルの第2の用量の2回目の投与と、さらに20秒間のpLINFUの同時投与。
【0074】
【表10】
上記の表の結果を
図5aにグラフで示す。
【0075】
例10
次の表では、3つの条件でMiaPaCa2の細胞に投与された3つの異なる濃度のパクリタキセルアルブミンについての細胞死のパーセンテージが報告されている。
‐NO‐US:超音波を投与せずにパクリタキセルアルブミンの第1の用量の最初の投与(NO‐US)、その後のパクリタキセルアルブミンの第2の用量の2回目の投与;
‐US‐DC=12%:パクリタキセルアルブミンの第1の用量の最初の投与と20秒間のpLINFU(デューティサイクル=12%)の同時投与、その後のパクリタキセルアルブミンの第2の用量の2回目の投与と、さらに20秒間のpLINFUの同時投与;
‐US‐DC=1%:パクリタキセルアルブミンの第1の用量の最初の投与と20秒間のpLINFU(デューティサイクル=1%)の同時投与、その後のパクリタキセルアルブミンの第2の用量の2回目の投与と、さらに20秒間のpLINFUの同時投与。
【0076】
【表11】
上記の表の結果を
図5bにグラフで示す。
【0077】
例11
次の表では、3つの条件でMiaPaCa2の細胞に投与された3つの異なる濃度のイリノテカンについての細胞死のパーセンテージが報告されている。
‐NO‐US:超音波を投与せずにイリノテカンの第1の用量の最初の投与(NO‐US)、その後イリノテカンの第2の用量の2回目の投与;
‐US‐DC=12%:イリノテカンの第1の用量の最初の投与と20秒間のpLINFU(デューティサイクル=12%)の同時投与、その後のイリノテカンの第2の用量の2回目の投与と、さらに20秒間のpLINFUの同時投与;
‐US‐DC=1%:イリノテカンの第1の用量の最初の投与と20秒間のpLINFU(デューティサイクル=1%)の同時投与、その後のイリノテカンの第2の用量の2回目の投与と、さらに20秒間のpLINFUの同時投与。
【0078】
【表12】
上記の表の結果を
図6aにグラフで示す。
【0079】
例12
次の表では、3つの条件でMiaPaCa2の細胞に投与された3つの異なる濃度のリポソームイリノテカンとフルオロウラシル(FU)についての細胞死のパーセンテージが報告されている。
‐NO‐US:超音波を投与せずにリポソームイリノテカンとフルオロウラシルを含む溶液の第1の用量の最初の投与(NO‐US)、その後のリポソームイリノテカンとフルオロウラシルを含む溶液の第2の用量の2回目の投与;
‐US‐DC=12%:リポソームイリノテカンとフルオロウラシルを含む溶液の第1の用量の最初の投与、及び20秒間のpLINFU(デューティサイクル=12%)の同時投与、その後のリポソームイリノテカンとフルオロウラシルを含む溶液の第2の用量の2回目の投与、及びさらに20秒間のpLINFUの同時投与;
‐US‐DC=1%:リポソームイリノテカンとフルオロウラシルを含む溶液の第1の用量の最初の投与、及び20秒間のpLINFU(デューティサイクル=1%)の同時投与、その後のリポソームイリノテカンとフルオロウラシルを含む溶液の第2の用量の2回目の投与、及びさらに20秒間のpLINFUの同時投与。
【0080】
【表13】
上記の表の結果を
図6bにグラフで示す。
【0081】
例13
この例は、フルオレセインアミン(FA)の内在化の実験に関連している。
図7は、特に5つの実験条件でのヒト膵臓腺癌細胞へのFAの取り込みを示す。この条件は、超音波の投与の効果を比較するために特別に設計されている。試験した実験条件は次のとおりである。
FA‐NO‐US‐NO‐DRUG:薬物を投与せず、超音波を投与せずに、FAのみを投与する。
FA‐LI‐NO‐US:超音波を投与せずにFA及びリポソームイリノテカン(LI)を投与。
US‐DC=12%:FAとリポソームイリノテカン(LI)の投与、デューティサイクル12%のpLINFUの同時投与。
US‐PRE‐DC=1%:デューティサイクル1%のpLINFUの投与、その後のFAとリポソームイリノテカン(LI)の投与。
US‐DC=1%:FAとリポソームイリノテカン(LI)の投与、デューティサイクル1%のpLINFUの同時投与。
【0082】
図7では、FA内在化(%)、すなわち細胞培養ウェルから界面活性剤液体を除去した後に測定されたFAのパーセンテージ、つまり細胞内のFAのパーセンテージをグラフで示す。
【0083】
この例の実験結果は、2時間のインキュベーション後に共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)でも分析した。
図8a、8b、8c、8d、8eは、前述の5つの実験条件における、ヒト膵臓腺癌細胞へのFAの取り込みを示す。
図7から、US‐DC=1%の条件で、より高いFA内在化%が得られることが推定できる。
【0084】
これらの画像から、FAのみ(白で表示)が細胞(灰色で表示)に蓄積されていないことがわかる(
図8a)。FAをリポソームイリノテカンと一緒に投与すると(
図8b)、より高い蛍光密度が観察されるが、細胞外膜周囲レベルでのみである。それは、リポソーム膜のポリエチレングリコールのポリマー鎖とFAの間のより大きな化学的相互作用で説明することができる。
図8c及び
図8d(それぞれUS‐DC=12%及びUS‐PRE‐DC=1%)では、細胞内のFAの存在が明らかになり、US‐DC=1%条件に対応する
図8eにおいてFA内在化の最高レベルが示される。US‐PRE‐DC=1%条件では、おそらく超音波の投与後、細胞膜がソノポレーションの前に持っていた透過性に戻るのに数十秒かかるという事実のために、FA内在化の特定のグレードが達成される。
【0085】
例14
この例は、乳がん細胞の細孔の開閉に関する研究に関連している。
【0086】
グラフ(
図9a、9b、9c、9d)の各ポイントについて、サンプルにソノポレーションを行う。すべてのサンプルに同量の細胞が含まれている。
【0087】
X軸には、細胞のソノポレーションが終了してから、細胞内で内在化を測定する必要がある物質を追加するまでの時間が報告される。
【0088】
内在化の実験は次のとおりである。
‐時間0分:1分間のソノポレーションが完了するとすぐに、一定量のProhance(磁気共鳴用の造影剤)が細胞培養に加えられる。1分後、細胞が分離される。
‐時間1分:1分間のソノポレーション、その1分後、一定量のProhanceが細胞培養に追加され、さらに1分後に細胞が分離される。
‐時間n分:1分間のソノポレーション、そのn分後、一定量のProhanceが細胞培養に追加される。さらに1分後、細胞が分離される。
【0089】
これらの試験は、他の細胞のタイプで行われた試験に加えて、細胞の細孔の閉鎖時間が次の要素に依存することを示す。
‐細胞のタイプ;
‐薬物分子のタイプ(ProhanceとTetramerは、異なる組成とサイズの薬理学的分子の存在をシミュレートした)
‐ベクター剤(リポソーム)の有無