IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ デピュイ・シンセス・プロダクツ・エルエルシーの特許一覧

特許7408583生体適合性、熱及びγ線安定性の医療デバイス用潤滑剤及び腐食防止剤
<>
  • 特許-生体適合性、熱及びγ線安定性の医療デバイス用潤滑剤及び腐食防止剤 図1
  • 特許-生体適合性、熱及びγ線安定性の医療デバイス用潤滑剤及び腐食防止剤 図2
  • 特許-生体適合性、熱及びγ線安定性の医療デバイス用潤滑剤及び腐食防止剤 図3
  • 特許-生体適合性、熱及びγ線安定性の医療デバイス用潤滑剤及び腐食防止剤 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】生体適合性、熱及びγ線安定性の医療デバイス用潤滑剤及び腐食防止剤
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/32 20060101AFI20231225BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20231225BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
A61B17/32
A61L31/06
A61L31/10
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020568707
(86)(22)【出願日】2019-06-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-11
(86)【国際出願番号】 IB2019054688
(87)【国際公開番号】W WO2019239257
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】62/683,401
(32)【優先日】2018-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513069064
【氏名又は名称】デピュイ・シンセス・プロダクツ・インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】325 Paramount Drive, Raynham MA 02767-0350 United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】キンブル・アラン
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-530024(JP,A)
【文献】特開平11-47142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00 ― 90/98
A61C 1/00 ― 19/10
A61D 1/00 ― 99/00
A61F 2/00 ― 17/00
A61L 2/00 ―101/56
A61M 1/00 ― 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外科患者と接触するように構成された金属表面と、前記金属表面上の生体適合性ポリマーコーティングと、を備え、前記ポリマーコーティングがポリフェニルエーテルポリマーを含み、前記ポリマーコーティングが、保管中に前記金属表面の腐食速度を遅らせる、外科用器具であって、
前記ポリフェニルエーテルポリマーが、5環ポリフェニルエーテルポリマーである、外科用器具。
【請求項2】
前記金属表面が、ステンレス鋼、チタン若しくはチタン合金、鉄-ニッケル合金、モリブデン合金、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される金属合金を含む、請求項1に記載の外科用器具。
【請求項3】
前記金属合金が、ステンレス鋼合金、モリブデン合金、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項に記載の外科用器具。
【請求項4】
前記金属合金がM2モリブデン合金を含む、請求項に記載の外科用器具。
【請求項5】
前記ポリマーコーティングが、ガンマ線による劣化に耐性がある、請求項1に記載の外科用器具。
【請求項6】
前記外科用器具が、切断用器具又は関節運動器具である、請求項1に記載の外科用器具。
【請求項7】
前記外科用器具が、前記切断用器具である、請求項6に記載の外科用器具。
【請求項8】
前記外科用器具が、無菌又は非無菌のいずれかである、請求項1に記載の外科用器具。
【請求項9】
前記外科用器具が無菌である、請求項に記載の外科用器具。
【請求項10】
前記金属合金がM2モリブデン合金を含み、
前記ポリマーコーティングが、ガンマ線による劣化に耐性があり、
前記外科用器具が、切断用器具であり、
前記外科用器具が無菌である、請求項2に記載の外科用器具。
【請求項11】
耐食性を改善するために外科用器具の金属表面を処理する方法であって、前記方法が、前記金属表面を生体適合性ポリマーコーティングでコーティングすることを含み、前記ポリマーコーティングがポリフェニルエーテルポリマーを含
前記ポリフェニルエーテルポリマーが、5環ポリフェニルエーテルポリマーである、方法。
【請求項12】
前記金属表面が、ステンレス鋼、チタン若しくはチタン合金、鉄-ニッケル合金、モリブデン合金、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される金属合金を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記金属合金が、ステンレス鋼合金、モリブデン合金、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記金属合金がM2モリブデン合金を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ポリマーコーティングが、ガンマ線による劣化に耐性がある、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記外科用器具が、切断用器具又は関節運動器具である、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記外科用器具が、前記切断用器具である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記外科用器具が、無菌又は非無菌のいずれかである、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記外科用器具が無菌である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記金属合金がM2モリブデン合金を含み、
前記ポリマーコーティングが、ガンマ線による劣化に耐性があり、
前記外科用器具が、切断用器具であり、
前記外科用器具が無菌である、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される様々な例示の実施形態は、医療デバイス用の非毒性、熱及び放射線安定性の潤滑剤及び腐食防止剤としてのポリフェニルエーテル(PPE)系コーティングの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼及び関連する合金は、それらの組成及び様々な環境への曝露に基づいて耐食性を変化させる。特定の医療デバイス用合金は、腐食を防止するために防食フィルムの適用を必要とする。水性の潤滑防食剤は、いくつかの医療デバイス用材料、特に、耐食性の低い関節運動器具には不適切である。直鎖炭化水素及びシリコーン系の潤滑剤は、それらの効果を低下させ得る又はそれらを毒性にし得る放射線損傷に悩まされる。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系潤滑剤は、著しい劣化を伴わずに、典型的な滅菌線量(20~25kGy)のガンマ線に耐えることができない。
【0003】
ポリフェニルエーテル(PPE)は、その特性又は化学的性質を変化させることなく広範な温度範囲及び高レベルの放射線への曝露に耐える潤滑剤及び作動液について航空宇宙産業及び原子力産業の必要性を満たすように1900年代半ばに開発された。その初期の使用例は、エキゾチックな航空機、衛星、及び原子炉の機械的用途であった。今日では主に、電気コネクタ用の潤滑剤として、及び高性能潤滑剤中の微量添加剤として使用される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
各種の例示の実施形態の簡単な概要が、以下に提示される。以下の概要では、いくつかの単純化及び省略が行われることがあり、これらは、各種の例示の実施形態のいくつかの態様を強調及び紹介するためであり、本発明の範囲を限定することを意図しない。当業者が本発明の概念を作り上げ、使用することができるようにするのに適切な例示の実施形態に関する詳細な説明が、この後の各項に続く。
【0005】
本明細書に開示される様々な実施形態は、外科患者と接触するように構成された金属表面と、金属表面上の生体適合性ポリマーコーティングと、を含む、外科用器具に関し、ポリマーコーティングはポリフェニルエーテルポリマーを含み、コーティングは、保管中に金属表面の腐食速度を遅らせる。
【0006】
本明細書に開示される様々な実施形態は、耐食性を改善するために外科用器具の金属表面を処理する方法に関し、この方法は、金属表面を生体適合性ポリマーコーティングでコーティングすることを含み、コーティングはポリフェニルエーテルポリマーを含む。
【0007】
様々な実施形態では、ポリフェニルエーテルポリマーは、5環ポリフェニルエーテルである。
【0008】
様々な実施形態では、金属は、ステンレス鋼又はモリブデン合金である。
【0009】
様々な実施形態では、コーティングは、ガンマ線による劣化に耐性がある。
【0010】
様々な実施形態では、医療デバイスは、無菌又は非無菌のいずれかである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
種々の例示の実施形態をよりよく理解するために、添付図面を参照する。
図1】ガンマ線滅菌済み(43~58kGy)のSANTOLUBE(登録商標)OS-124でコーティングされた縦溝付きドラム(Anspachパッケージ)のDATRスペクトルを示す。
図2】非無菌のSANTOLUBE(登録商標)OS-124でコーティングされた縦溝付きドラム(Millstoneパッケージ)のDATRスペクトルを示す。
図3】非無菌のSANTOLUBE(登録商標)OS-124でコーティングされた縦溝付きドラムの製造後4週間の防食を示す。
図4】無菌のSANTOLUBE(登録商標)OS-124でコーティングされた縦溝付きドラムの製造後4週間の防食を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本説明及び図面は、本発明の原理を例示する。このため、当業者は、本明細書には明示的に説明又は提示されていないが、本発明の原理を具体化し、本発明の範囲内に包含される様々な構成を考案することが可能であることを理解されたい。更に、本明細書中に示される全ての実施例は、本発明の原理、及び本技術を推し進めるために本発明者(複数可)によって寄与された概念を理解する際に読者を支援する教育的目的であることが主に明白に意図されており、このような詳細に示された実施例や条件に限定されないものとして解釈されるべきである。また、用語「又は」は、本明細書中で使用される場合、特段の指示(例えば、「又は他方」あるいは「又は代替的に」)がなければ、非排他的論理和(すなわち、及び/又は)を指す。また、いくつかの実施形態を、1つ又は2つ以上の他の実施形態と組み合わせて新しい実施形態を形成することができるため、本明細書で説明する様々な実施形態は、必ずしも相互に排他的ではない。
【0013】
本開示は、外科被検者に接触するように構成された金属外科用器具などの医療デバイスのための、非毒性の放射線安定性潤滑剤及び腐食防止剤としてのポリフェニルエーテル(PPE)系ポリマーコーティングの使用を提供する。PPE系ポリマーコーティングは、ガンマ線又は熱による劣化に耐性があるように配合され、腐食に対する共形バリアを提供する。本開示のPPE系コーティングは生体適合性であり、蒸気及びガンマ線滅菌の両方に耐え、滅菌後に生体適合性を保持することができる。PPE系コーティングは、100℃を超える酸化耐性を含め、酸化に対する優れた耐性を更に呈する。
【0014】
本開示は、少なくとも1つの金属表面と、その上にコーティングされた生体適合性のPPE系ポリマー耐食性コーティングとを含む外科用器具を更に提供し、コーティングは、器具の保管寿命中の腐食速度を遅らせる。
【0015】
本明細書中で使用される場合、「ポリマー」材料は、1種又は2種以上のポリマーを含有するものであり、一般に、少なくとも50重量%~75重量%、~90重量%~95重量%~99重量%又は更にはそれより上のポリマーを含有する。したがって、ポリマー材料としては、単一の種類のポリマーを含有するもの、及びポリマーブレンドが挙げられる。
【0016】
本明細書中で使用される場合、「ポリマー」は、1つ又は2つ以上の構成単位(一般にモノマーと呼ばれる)の複数のコピーを含有する分子であり、典型的には、5~10~25~50~100~500~1000個又はそれより上の構成単位を含有する分子である。ポリマーは、例えば、ホモポリマー(単一の構成単位の複数のコピーを含有する)又はコポリマー(少なくとも2つの異種構成単位の複数のコピーを含有する)であり得、これらの単位は、ランダム分布、統計分布、勾配分布、及び周期分布(例えば、交互分布)を含む様々な分布のいずれかで存在し得る。
【0017】
本開示のPPE系ポリマーコーティングは、外科用器具又は他の無菌及び非無菌の医療デバイスを潤滑するために使用され得る。好適なPPEポリマーとしては、6環ポリフェニルエーテルポリマー、5環ポリフェニルエーテルポリマー、4環ポリフェニルエーテルポリマー、3環及び4環オキシ-及びチオエーテルポリマー、3環ポリフェニルエーテルポリマー、2環ジフェニルエーテルポリマー、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。PPE系ポリマーコーティングは、好ましくは、5環ポリフェニルエーテルポリマーを含有する。
【0018】
PPE系コーティングはまた、ポリアクリル酸を含むポリカルボン酸ポリマー及びコポリマー;アセタールポリマー及びコポリマー;アクリレート及びメタクリレートポリマー及びコポリマー(例えば、n-ブチルメタクリレート);酢酸セルロース、硝酸セルロース、セルロースプロピオネート、酢酸酪酸セルロース、セロハン、レーヨン、レーヨントリアセテート、並びにカルボキシメチルセルロース及びヒドロキシアルキルセルロースなどのセルロースエーテルを含む、セルロース系ポリマー及びコポリマー;ポリオキシメチレンポリマー及びコポリマー;ポリエーテルブロックイミド及びポリエーテルブロックアミド、ポリアミドジアミド、ポリエステルアミド、並びにポリエーテルイミドなどのポリアミドポリマー及びコポリマー;ナイロン6,6、ナイロン12、ポリカプロラクタム及びポリアクリルアミドを含むポリアミドポリマー及びコポリマー;アルキド樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アリル樹脂、及びエポキシド樹脂を含む樹脂;ポリカーボネート;ポリアクリロニトリル;ポリビニルピロリドン(架橋及び他のもの);ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニルなどのポリハロゲン化ビニル、エチレン-酢酸ビニルコポリマー(EVA)、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルメチルエーテルなどのポリビニルエーテル、ポリスチレン、スチレン-無水マレイン酸コポリマー、ビニル-芳香族-アルキレンコポリマー(スチレン-ブタジエンコポリマー、スチレン-エチレン-ブチレンコポリマー、スチレン-イソプレンコポリマー(例えば、ポリスチレン-ポリイソプレン-ポリスチレン)、アクリロニトリル-スチレンコポリマー、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンコポリマー、スチレン-ブタジエンコポリマー及びスチレン-イソブチレンコポリマーを含む)、ポリビニルケトン、ポリビニルカルバゾール、及びポリビニルアセテートなどのポリビニルエステルを含むビニルモノマーのポリマー及びコポリマー;ポリベンゾイミダゾール;酸基の一部を亜鉛イオン又はナトリウムイオンのいずれかで中和することができる(一般にイオノマーとして知られる)、エチレン-メタクリル酸コポリマー及びエチレン-アクリル酸コポリマー;ポリエチレンオキシド(PEO)を含むポリアルキルオキシドポリマー及びコポリマー;ラクチド(乳酸並びにd-、l-及びメソ-ラクチドを含む)、ε-カプロラクトン、グリコリド(グリコール酸を含む)、ヒドロキシブチレート、ヒドロキシバレレート、パラ-ジオキサノン、トリメチレンカーボネート(及びそのアルキル誘導体)、1,4-ジオキセパン-2-オン、1,5-ジオキセパン-2-オン、及び6,6-ジメチル-1,4-ジオキサン-2-オンのポリマー及びコポリマー(ポリ(乳酸)とポリ(カプロラクトン)とのコポリマーは、具体的な一例である)などのポリエチレンテレフタレート及び脂肪族ポリエステルを含むポリエステル;ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンなどの他のポリアリールエーテルを含むポリエーテルポリマー及びコポリマー;ポリフェニレンスルフィド;ポリイソシアネート;ポリプロピレン、ポリエチレン(低及び高密度、低及び高分子量)、ポリブチレン(ポリブト-1-エン及びポリイソブチレンなど)、ポリオレフィンエラストマー(例えば、サントプレーン)、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、ポリ-4-メチル-ペン-1-エン、エチレン-α-オレフィンコポリマー、エチレン-メチルメタクリレートコポリマー及びエチレン-酢酸ビニルコポリマーを含む、ポリオレフィンポリマー及びコポリマー;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ(テトラフルオロエチレン-コ-ヘキサフルオロプロペン)(FEP)、変性エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含む、フッ化ポリマー及びコポリマー;シリコーンポリマー及びコポリマー;熱可塑性ポリウレタン(TPU);エラストマーポリウレタン及びポリウレタンコポリマーなどのエラストマー(ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、脂肪族系、芳香族系、及びこれらの混合物であるブロック及びランダムコポリマーを含む;p-キシリレンポリマー;ポリイミノカーボネート;ポリエチレンオキシド-ポリ乳酸コポリマーなどのコポリ(エーテル-エステル);ポリホスファジン;ポリアルキレンオキサレート;ポリオキサアミド及びポリオキサエステル(アミン及び/又はアミド基を含有するものを含む);ポリオルトエステル;並びに上記のものの更なるコポリマーから選択される他のポリマー材料も含有し得る。
【0019】
本開示の好ましいポリマー材料は、MEM Elution主観的スコアリング法(グレード0~4)を使用して判定したときに生体適合性かつ非細胞毒性であり、合格スコアはグレード0又はグレード1である。生体適合性及び細胞毒性に関する他の試験もまた使用され得、そのような試験は当業者に既知である。
【0020】
好ましいポリマー材料はまた、コーティングされた外科用器具に、器具の保管時の少なくとも4週間にわたって耐食性を提供する。
【0021】
好ましいポリマー材料は更に、器具の耐食性又は生体適合性に悪影響を及ぼすであろうPPE系コーティングの劣化を防止するために、少なくとも20kGy、好ましくは40~50kGyのレベルのガンマ線耐性をコーティングされた外科用器具に提供する。
【0022】
PPE系コーティングを使用して潤滑され得る特定の医療デバイスは、金属表面を有する任意の外科用器具を含む。例示的な外科用器具としては、外科用はさみ及び他の切断用器具、電気外科用器具、焼灼器具、持針器、オステオトーム及び骨膜切開器、チゼル、ガウジ、ラスプ、ファイル、鋸、リーマー、撚線用鉗子、ワイヤ切断用鉗子、リングハンドル付き鉗子、組織用鉗子、心血管クランプ、骨鉗子、又は歯、鋸歯、切れ刃を有するか、ないしは別の方法で腐食を受けやすい、任意の他の硬質金属器具が挙げられる。
【0023】
本開示のPPE系のコーティングでコーティングされ得る特定の硬質金属としては、ステンレス鋼、チタン若しくはチタン合金、鉄-ニッケル合金、及びモリブデン若しくはモリブデン合金、又はこれらの組み合わせを含む鋼系材料が挙げられる。好ましい硬質金属としては、ステンレス鋼合金15-5PH、17-5PH、300シリーズ、400シリーズ、及びMシリーズ鋼モリブデン合金又はこれらの組み合わせが挙げられる。具体的な例としては、高カーボンマルテンサイトステンレス鋼(例えば、ステンレス鋼タイプ440A)、モリブデン及びタングステンを含有するがコバルトを含有しない高速度工具ステンレス鋼(例えば、M1及びM2)、並びにモリブデン、クロム、タングステン及びバナジウムを含有する高速度工具ステンレス鋼合金(例えば、M7)が挙げられる。
【0024】
他の実施形態では、PPE系コーティングを使用して潤滑され得る医療デバイスとしては、伸延具及び調節可能なスペーサを含むが、これらに限定されない、関節運動する移植可能なデバイス及び器具、並びに曲げ型などのより軟質の金属デバイスが挙げられる。
【0025】
本開示のいくつかの実施形態では、ポリマーコーティングは、器具の特定の領域における腐食が他の領域と比べて低減するように構成されている。この目的のために、器具の一部の領域にコーティング材料が提供され得るが、他の領域には提供されない。更に、異なる腐食保護を提供するコーティング材料が、例えば、コーティングを構成する材料の組成の違い、コーティング材料の厚さの差などに起因して、提供され得る。この点に関して、コーティングの組成及び/又は厚さは、器具の表面に沿って急激に(例えば、段階的に)及び/又は徐々に変化し得る。
【0026】
開示される実施形態のPPE系ポリマーコーティングは、コーティングを構成する1種又は複数種のポリマーに応じて、例えば、数ある技術の中で特に、物理蒸着、化学蒸着、電気化学堆積、交互積層法、及び液体ポリマー組成物(例としては、ポリマー溶融物、ポリマー溶液、及び硬化性ポリマー系が挙げられる)の塗布に基づくコーティング技術を含む、様々な技術のうちのいずれかを使用して形成され得る。特定の実施形態では、ポリマーコーティングは、ディップコーティング、スプレーコーティング、ウェブコーティング、又はスピンコーティングを使用して形成され得る。
【0027】
例示の実施形態では、コーティングは、コーティングされる器具の滅菌の前又は後に適用され得、パッケージング材料が器具に固着するのを防止し得る。
【実施例
【0028】
実施例で利用した特定のポリフェニルエーテル防食剤は、非常に低い揮発性並びに熱、酸素、放射線、及び化学的攻撃からの劣化に対する耐性を有する5環ポリフェニルエーテルである、SANTOLUBE(登録商標)OS-124高温耐放射線ベース流体であった。
【0029】
実施例で試験した硬質金属合金は、タングステンを含有し、コバルトを含有しない、M2鋼である。
【0030】
以下の材料を実施例で使用した。
ポリフェニルエーテル 3つのTOCバイアルのそれぞれに30mL
65-BLA-11-1 12.7mmの縦溝付きドラム それぞれ20個。
【0031】
ポリフェニルエーテルの適用は、HL-1640-00の油の代わりに、ポリフェニルエーテルSANTOLUBE(登録商標)OS-124高温耐放射線ベース流体が使用されることを除いて、DMR Operating Procedure G01.05.01「Manual Cleaning of Cutters」に指示されているとおりである。
【0032】
(実施例1)
細胞毒性評価
細胞毒性評価試験マトリックスを以下に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
MEM Elution主観的スコアリング法(グレード0~4)を使用して細胞毒性を判定し、24時間抽出後24、48、及び72時間において結果を報告した。合格スコアは、グレード0、グレード1又はグレード2である。上記試験サンプルが異なるパッケージングにパッケージされている細胞毒性試験の結果を表3に示す。
【0036】
【表3】
【0037】
(実施例2)
皮内刺激性試験
皮内刺激性試験を実施して、PPEが試験サンプルから浸出する又は抽出され、白色ウサギの皮膚組織に局所的な刺激を引き起こすかどうかを判定した。試験サンプルを、ゴマ油を用いて1:1の比で希釈した。各動物を秤量し、試験注射前の重量を記録した。動物の毛を脊柱の両側で刈り取って、注射のための十分な大きさの領域を露出させた。
【0038】
試験物品及び溶媒対照群を3匹のウサギに注射した。各ウサギは、5回の連続した0.2mLの試験物品抽出物の注射を脊柱の右側に受け、同様に対照溶媒を左側に受けた。
【0039】
これらの動物を異常な臨床的徴候について毎日観察した。各注射部位の外観を、注射直後、並びに24±2、48±2及び72±2時間に書き留めた。組織反応を、紅斑及び浮腫の全体的な証拠について評価した。
【0040】
試験した動物のいずれも、24、48及び72時間の観察期間中に異常な臨床的徴候を示すことはなかった。24、48及び72時間の観察期間において、ウサギの注射された試験部位及び対照部位における有意な皮膚反応は観察されなかった。
【0041】
(実施例3)
モルモットマキシマイゼーション法による感作試験
PPEを含有する試験物品のアレルゲン可能性又は増感能力を評価するための試験を実施した。この試験を、モルモットにおける接触アレルゲンのスクリーニングのための手順として使用し、ヒトへの結果を推定した。
【0042】
11匹の試験モルモットに試験物品及びFreund’s Complete Adjuvant(FCA)を注射し、6匹の対照モルモットに対照物品及びFCAを注射した。6日目に、背側部位を再度剃毛し、鉱油中のラウリル硫酸ナトリウム(SLS)を塗布した。注射の1週間後、試験動物を試験物品で局所的にパッチし、対照動物を対照物品でパッチした。48±2時間の曝露後にパッチを除去した。およそ2週間の休息期間の後、全ての動物を、まだ処置されていない領域において、右の毛を刈り取られた右脇腹又は背側に試験物品を局所的にパッチし、同様に、毛を刈り取られた左脇腹又は背側に対照物品をパッチした。24±2時間の曝露後にパッチを除去した。パッチ除去の24±2及び48±2時間後に、皮膚のパッチ部位を紅斑及び浮腫について観察した。各動物を、皮膚スコアに基づいた感作反応について評価した。試験結果は、感作反応を呈した動物の割合に基づいた。
【0043】
試験した動物のいずれも、試験期間中に異常な臨床的徴候を示すことはなかった。加えて、対照溶液に曝露された対照動物のいずれも、0を超える感作反応を観察されることはなかった。試験物品に曝露された試験動物のいずれも、0を超える感作反応を観察されることはなかった。したがって、試験物品は感作反応を誘発しなかった。
【0044】
(実施例4)
急性全身性注射試験
マウスにおける単回投与全身性注射の結果としての潜在的な毒性効果についてPPEを含有する試験物品溶液をスクリーニングするために、急性全身性注射試験を実施した。
【0045】
動物を腹腔内経路で処置して、単回投与全身性注射の結果としての潜在的な毒性効果について試験物品溶液をスクリーニングした。安全性評価のために、試験物品溶液又は対照ゴマ油(SO)を全身に注射した。注射直後、並びに注射の4、24、48及び72時間後の毒性の兆候について動物を観察した。試験の要件は、試験物品で処置した動物のいずれも、溶媒対照群で処置した動物よりも有意に大きな有害反応を有することがなかった場合に満たされた。
【0046】
試験した動物のいずれも、72時間の試験期間中に毒性を示す異常な臨床的徴候を観察されることはなかった。72時間の試験期間の終了時に全て生存しており、体重の変化は、試験の過程において許容可能なパラメータの範囲内にあった。溶媒対照群で処置された動物は、いずれの観察期間においても毒性の兆候を有さず、また動物は、10%を超える体重を失うこともなく、これにより、有効な試験であることを示した。いずれの観察期間においても、試験物品で処置された動物はいずれも、毒性と一致する臨床的徴候を観察されることはなかった。体重の変化は、試験の過程において許容可能なパラメータの範囲内にあった。
【0047】
(実施例5)
定性的分子組成評価(FTIR)
【0048】
【表4】
【0049】
【表5】
【0050】
FTIR-ATR法を使用して未希釈、非滅菌、及び滅菌済みのサンプルの赤外スペクトルの変化について観察することによって、分子安定性を判定した。未希釈のサンプルについては、PPE防食剤を内部反射素子(IRE)に直接塗布し、1cm-1刻みの4000cm-1~600cm-1の吸光度モード及び64回の共追加走査で測定した。試験サンプルについては、バタフライバーをIREに押し付け、未希釈のサンプルの場合と同じ波数範囲を使用してスペクトルを得た。
【0051】
安定性試験の結果を図1及び図2に示す。
【0052】
(実施例6)
腐食防止評価
非滅菌の状態及びガンマ滅菌済みの状態の防食剤が非細胞毒性であることを確立した後、PPEの腐食防止特性を評価した。
【0053】
【表6】
【0054】
【表7】
【0055】
【表8】
【0056】
表5~表7に列挙した試験デバイスのそれぞれをパッケージング材料内に入れ、周囲条件下で2週間(14日間)保管した後、目に見える腐食の存在について観察した。未防食のサンプルで腐食が観察されると、試験は完了したと見なされた。同じ条件下で保管された非無菌及び無菌の試験デバイスの観察を行い、目に見える腐食の存在を報告した。
【0057】
加えて、Millstone Medical Outsourcingによって洗浄、防食、及びパッケージされたサンプルを全体的な評価の一部として実施した。サンプルは、非無菌のサンプルであった。
【0058】
細胞毒性評価、分子安定性評価、及び腐食評価のデータを以下の表8に要約する。
【0059】
【表9】
【0060】
様々な例示の実施形態が、特にそれらの特定の例示の態様を参照しながら詳細に説明されてきたが、本発明は、他の実施形態も可能であり、またその詳細については、種々の明白な点において修正が可能であることを理解されたい。当業者にはすでに明らかなように、本発明の趣旨及び範囲内に留めながら変形及び修正を実施することが可能である。更に、様々な実施形態からの様々な構成要素は、本発明の趣旨及び範囲内にある他の実施形態を形成するように組み合わせることができる。したがって、前述の開示、説明、及び図面は、単に例示的な目的のみのためであって、本発明を何ら限定するものではなく、本発明は、特許請求の範囲によってのみ定義される。
【0061】
〔実施の態様〕
(1) 外科患者と接触するように構成された金属表面と、前記金属表面上の生体適合性ポリマーコーティングと、を備え、前記ポリマーコーティングがポリフェニルエーテルポリマーを含み、前記コーティングが、保管中に前記金属表面の腐食速度を遅らせる、外科用器具。
(2) 前記ポリフェニルエーテルポリマーが、6環ポリフェニルエーテルポリマー、5環ポリフェニルエーテルポリマー、4環ポリフェニルエーテルポリマー、3環及び4環オキシ-及びチオエーテルポリマー、3環ポリフェニルエーテルポリマー、2環ジフェニルエーテルポリマー、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される、実施態様1に記載の外科用器具。
(3) 前記ポリフェニルエーテルポリマーが、5環ポリフェニルエーテルポリマーである、実施態様2に記載の外科用器具。
(4) 前記金属表面が、ステンレス鋼、チタン若しくはチタン合金、鉄-ニッケル合金、モリブデン合金、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される金属合金を含む、実施態様1に記載の外科用器具。
(5) 前記金属合金が、ステンレス鋼合金、モリブデン合金、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される、実施態様4に記載の外科用器具。
【0062】
(6) 前記金属合金がM2モリブデン合金を含む、実施態様5に記載の外科用器具。
(7) 前記ポリマーコーティングが、ガンマ線による劣化に耐性がある、実施態様1に記載の外科用器具。
(8) 前記器具が、切断用器具又は関節運動器具である、実施態様1に記載の外科用器具。
(9) 前記外科用器具が、無菌又は非無菌のいずれかである、実施態様1に記載の外科用器具。
(10) 前記外科用器具が無菌である、実施態様9に記載の外科用器具。
【0063】
(11) 耐食性を改善するために外科用器具の金属表面を処理する方法であって、前記方法が、前記金属表面を生体適合性ポリマーコーティングでコーティングすることを含み、前記ポリマーコーティングがポリフェニルエーテルポリマーを含む、方法。
(12) 前記ポリフェニルエーテルポリマーが、6環ポリフェニルエーテルポリマー、5環ポリフェニルエーテルポリマー、4環ポリフェニルエーテルポリマー、3環及び4環オキシ-及びチオエーテルポリマー、3環ポリフォニーエーテルポリマー、2環ジフェニルエーテルポリマー、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される、実施態様11に記載の方法。
(13) 前記ポリフェニルエーテルポリマーが、5環ポリフェニルエーテルポリマーである、実施態様12に記載の方法。
(14) 前記金属表面が、ステンレス鋼、チタン若しくはチタン合金、鉄-ニッケル合金、モリブデン合金、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される金属合金を含む、実施態様11に記載の方法。
(15) 前記金属合金が、ステンレス鋼合金、モリブデン合金、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される、実施態様14に記載の方法。
【0064】
(16) 前記金属合金がM2モリブデン合金を含む、実施態様15に記載の方法。
(17) 前記ポリマーコーティングが、ガンマ線による劣化に耐性がある、実施態様11に記載の方法。
(18) 前記外科用器具が、切断用器具又は関節運動器具である、実施態様11に記載の方法。
(19) 前記外科用器具が、無菌又は非無菌のいずれかである、実施態様11に記載の方法。
(20) 前記外科用器具が無菌である、実施態様19に記載の方法。
図1
図2
図3
図4