(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】医療用インプラント、医療用インプラントを埋め込むためのアッセンブリ、ならびに医療用インプラントによって体内の運動パターンを検出するためのアッセンブリ
(51)【国際特許分類】
A61F 2/02 20060101AFI20231225BHJP
A61F 2/06 20130101ALI20231225BHJP
A61B 5/0285 20060101ALI20231225BHJP
A61B 5/022 20060101ALI20231225BHJP
A61B 8/04 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
A61F2/02
A61F2/06
A61B5/0285 H
A61B5/022 100Z
A61B8/04
(21)【出願番号】P 2020568731
(86)(22)【出願日】2019-06-13
(86)【国際出願番号】 EP2019065441
(87)【国際公開番号】W WO2019238803
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-02-21
(31)【優先権主張番号】102018209449.7
(32)【優先日】2018-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】517119556
【氏名又は名称】ニューロループ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】プラフタ,デニス
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0167596(US,A1)
【文献】特開2017-012436(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0029273(US,A1)
【文献】国際公開第2018/024868(WO,A1)
【文献】特表2003-532440(JP,A)
【文献】特表2012-519058(JP,A)
【文献】特表2002-522167(JP,A)
【文献】国際公開第2006/122750(WO,A1)
【文献】笹倉 祐, 外1名,反射型超音波変調スペックル光計測法,生体医工学,日本,2007年,Vol. 45, No. 4,pp. 235-241
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/00;2/02-2/80;3/00-4/00
A61B 5/02-5/03
A61B 8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空カニューレを通して体内
の血管外の身体領域に埋め込み可能であり、少なくとも1種の生体適合性材料から製作される構造体であって、
前記構造体は、
- フィルム、編組、海綿構造体または交絡構造体の形態で形成されていて、
- 空間的にコンパクトな第1の状態から、空間的に張り出して柔軟に変形可能な第2の状態へと独立して移行可能であり、
-
前記血管の血管壁の弾性率に10
5Nm
-2から10
7Nm
-2までの間のオーダで相当する弾性率を有していて、
- 1.63×10
6kg/m
2sよりも大きい音響インピーダンスを有する少なくとも1つの領域を有していて、
- 前記第2の状態で、柔軟に変形可能でありかつ超音波を少なくとも部分的に反射する有効作用表面を有していて、
- 前記第1の状態で、10Gから30Gまでの間のカニューレサイズを有する中空カニューレの内径に相当する直径寸法を提供
し、
前記有効作用表面は、前記血管壁の内側の脈動による血圧によって前記血管壁から前記血管外の前記身体領域へ伝達されるパルス波に応じて動的に変形し、前記パルス波に応じて変形された状態で前記超音波を反射することによって、前記超音波を変調する、
構造体。
【請求項2】
前記構造体は、体外の磁気的な、電気的な、熱量的な、および/または音響的な力場と相互作用して、前記構造体の立体形状および/または空間的な姿勢を変化させることができる力のモーメントを発生させることができる少なくとも1つの手段を有している、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記カニューレサイズは、17Gから25Gまでの間である、請求項1または請求項2に記載の構造体。
【請求項4】
前記構造体は、前記第2の状態で、少なくとも0.2mm
2の有効作用表面積を有している、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項5】
前記構造体は、前記第2の状態で、最大500mm
2の有効作用表面積を有している、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項6】
前記構造体は、前記第2の状態から、折り畳み、圧縮、および/または巻き取りにより、前記第1の状態へと移行可能である、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項7】
前記構造体は、レーダー波を反射する材料領域を有している、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項8】
前記構造体は、RFID構造体、櫛形電極構造体、および/または電気的なコイル構造体を備えた少なくとも1つの構造体領域を有している、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項9】
前記構造体は、体外の磁気的な、電気的な、熱量的な、および/または音響的な力場と相互作用して、前記構造体の立体形状および/または空間的な姿勢を変化させることができる力のモーメントを発生させることができる少なくとも1つの手段を有していて、
外的な前記力場と相互作用する前記手段は、以下の材料グループ、すなわち、磁気的なまたは磁化可能な材料、導電性材料、バイメタル材料、熱的な、電気的な、または磁気的な変換器材料、形状記憶材料、のうちの少なくとも1種の材料から成っている、請求項
1から請求項8のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項10】
前記有効作用表面は、一体的につながっている平面の形態で形成されている、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項11】
前記編組、
前記海綿構造体または
前記交絡構造体の形態で形成された前記構造体は、1つの空間方向に沿った投影図において、前記空間方向に沿って伝播する超音波を少なくとも部分的に反射する
前記有効作用表面を形成している、請求項
1から請求項9のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項12】
前記有効作用表面は、波形またはジグザグ状に成形されているかまたは変形可能である、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項13】
前記構造体には、逆鉤状の区分の形態の少なくとも1つの固定エレメントが取り付けられている、請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項14】
前記構造体に以下の物質、すなわち、医薬的な作用物質、接着材料、吸湿性材料のうちの少なくとも1種が適用されているかまたは統合されている、請求項1から請求項13のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項15】
前記構造体は、メタマテリアルを含んでいるか、またはメタマテリアルと生体組織マテリアルおよび/または生体適合性ポリマーとから成るハイブリッドマテリアルコンビネーションを含んでいる、請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項16】
前記構造体はナノ構造体から形成されているか、または少なくとも表面にコーティングされたナノ構造体を備えて形成されている、請求項3から請求項15のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項17】
前記ナノ構造体は、ナノチューブまたはナノガラスの形態で形成されている、請求項16に記載の構造体。
【請求項18】
請求項1から請求項17のいずれか一項に記載の構造体を埋め込むためのアッセンブリであって、以下の構成要素、すなわち、
- 中空カニューレであって、第1の状態で前記中空カニューレの内部に格納されていて、遠位側で前記中空カニューレから体内の皮下に適用可能である前記構造体を皮下に埋め込むために適合されていて、かつ適している、中空カニューレと、
- 前記中空カニューレから前記構造体を遠位側で放出し、体内に適用するための手段と、
を含む、アッセンブリ。
【請求項19】
前記構造
体と相互作用する、磁気的な、電気的な、熱量的な、および/または音響的な力場を発生させるための発生器が設けられている
、請求項18に記載の埋め込むためのアッセンブリ。
【請求項20】
前記発生器は、前記力場が、場の強度および/または空間的な力場の配置に関して可変であるように、形成かつ配置されている、請求項19に記載のアッセンブリ。
【請求項21】
体内の運動パターンを検出するためのアッセンブリであって、請求項1から請求項17のいずれか一項に記載の構造体と、超音波検査装置とを備え、前記超音波検査装置は、前記超音波検査装置によって発生させられ、体内に適用された前記構造体の有効作用表面に衝突して、該有効作用表面で部分的に反射した超音波が、前記有効作用表面と前記超音波検査装置との間の空間的な距離変化を検出することができるように、体外に位置決めされている、アッセンブリ。
【請求項22】
電磁場用の送受信ユニットが体外に配置されており、前記送受信ユニットの電磁場は、RFID構造体、櫛形電極構造体、および/または電気的なコイル構造体と相互作用する、請求項2
0に記載のアッセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種の生体適合性材料から製作される構造体を備えた医療用インプラント、医療用インプラントを埋め込むためのアッセンブリ、ならびに医療用インプラントによって体内の運動パターンを検出するためのアッセンブリに関する。特に、この医療用インプラントによって、少なくとも1種の生理的パラメータ、好適には人間または動物の血圧を検出することが有効である。
【背景技術】
【0002】
生理的パラメータの計測技術的検出は、医療技術において日常的に広く行われている。生理的パラメータのこのような検出の一例は、動脈の血圧の継続的な測定である。リバロッチの原理で機能する圧力センサを含む公知の膨張可能なアームカフを使用しないこの種の装置および対応する検出方法は、例えば米国特許第5241964号明細書に記載されている。同明細書では、2つの非侵襲的超音波ドップラーセンサが、体外で、比較的大きな動脈上に取り付けられる。次いで、これにより測定された血流信号が、動脈の単純化された数学的経験モデルをパラメトリックに特徴付けるために、使用される。このモデルの、この場合に算出されるいわゆる共鳴周波数は、血圧と相関している。従来のカフ式測定によって、不規則的なインターバルで、このシステムは血圧に合わせて較正される。
【0003】
独国特許発明第19829544号明細書にも、非侵襲的血圧測定のための装置が記載されている。超音波ドップラー技術またはレーザードップラー技術によって、例えば、血流または血流速度に関連するパラメータが測定される。測定値検出に続いて行われる信号処理は、アーチファクトおよびその他のノイズを除去するためのフィルタリングを含む。
【0004】
光学式のまたは超音波に基づくパルス波センサによって可能な限り正確に血圧測定するために問題となるのは、1つには、血液を通す血管領域に対して相対的な、体外で行われる各センサの正確な空間的な取り付けおよび方向付けに関する感度である。血管に対して相対的なセンサの向きの僅かな不整合でさえ、確実な血圧測定を不可能にするおそれがある。もう1つには、血圧測定に関連する検出可能な信号レベルが極めて低いことであり、したがって、手間のかかる増幅、フィルタリング、および信号評価が必要となる。これには、システム関連の手間およびコストのかかる作業が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の根底にある課題は、超音波を経皮的に送信して、体内で反射された超音波の割合を検出することにより、人間または動物の医療関連の生理的パラメータを検出する、特に血圧を検出する際の前述の欠点を大幅に減じることである。それは、1つには、超音波の送受信のために必要な構成要素の不整合が生じないように行われるべき測定のロバスト性を大幅に改善することに云え、もう1つには、測定技術的な手間ならびに信号評価に関する手間も減じる措置を講じることに云える。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による装置は、医療用インプラントに関する請求項1の対象であり、この装置は、請求項18によるアッセンブリを用いて体内に適用することができる。請求項21の対象は、医療用インプラントを用いて体内の運動パターンを検出するためのアッセンブリであって、これにより医療関連の生理的パラメータを検出することができる。本発明の思想を有利に改良する特徴は、従属請求項および特に実施例を参照して行われる以下の説明の対象から読み取れる。
【0007】
本発明の根底にある思想は、生体適合性材料から成る構造体であって、この構造体は、好適にはカニューレアッセンブリを用いて、経皮的に体内に、好適には血管のすぐ近くに埋め込み可能であって、超音波を反射するいわゆる有効作用表面を形成するように、体の内側で自動的に、場合によっては外的な力場またはエネルギ場を適用することにより、または流体機械的な支援により展開することができる構造体に関する。生体適合性材料から成る構造体は、さらに、器官の血管壁の比弾性、すなわち特に、この埋め込まれる構造体が相対的に配置される血液を通す血管壁の比弾性に匹敵する比弾性を有する。生体適合性の構造体の材料選択ならびにそのジオメトリ構成および血管に対する体内での配置により、生体適合性の構造体と、特にその有効作用表面とは、自然のパルス波に起因した空間的な変形を受ける。このパルス波は、血管および脈動により拡縮する血管壁の内側の脈動による血圧によって、血管壁に血管外で直接隣接する身体領域へと伝達される。肉眼で見えるサイズに選択された有効作用表面のサイズにより、有効作用表面は、体外に配置された超音波検査装置によって、皮下に送信された超音波のかなりの部分を反射することができる。これにより、血管の直接の検出が必要な公知の方法とは異なり、血管に対して相対的に、超音波検査装置を正確に空間的に方向付ける必要性は大幅に減じられる。さらに、有効作用表面で反射された超音波が、超音波検査装置において著しく高められた信号レベルを有した超音波信号を発生させ、これにより、S/N比を改善することができ、ひいては、その後の信号処理および信号評価の手間を減じることができる。
【0008】
したがって、少なくとも1種の生体適合性材料から製作される構造体を備えた本発明による医療用インプラントは、以下の特徴の組み合わせを特徴とする。生体適合性材料から製作される構造体は、空間的にコンパクトな第1の状態から、空間的に張り出して柔軟に変形可能な第2の状態へと移行可能であり、第2の状態では、拡開された構造体は、柔軟に変形可能でありかつ超音波を少なくとも部分的に反射することができる有効作用表面を有している。構造体の生体適合性材料は、血管の血管壁の弾性率に相当する、105Nm-2から107Nm-2までの間のオーダにある弾性率を有している。さらに、構造体は、少なくとも1つの領域に、1.63×106kg/m2sよりも大きい音響インピーダンスを有している。生体適合性材料から製作される構造体が空間的に拡開された形状状態をとっている第2の状態では、この構造体は、柔軟に変形可能でありかつ超音波を少なくとも部分的に反射することができる有効作用表面を有している。
【0009】
好適には構造体は、フィルム、編組、海綿構造体または交絡構造体の形態で形成されていて、その材料弾性的な特性に基づき、第1の状態で、10Gから30Gまでの間の、好適には17Gから25Gまでの間のカニューレサイズを有する医療的な中空カニューレへの導入および貫通も可能にするボール状またはカプセル状の立体形状をとる。これは、第1の状態でコンパクト化された構造体が、中空カニューレの内径に相当する直径寸法を有していることを意味する。適切には、構造体は第1の状態で、それぞれ選択された中空カニューレの内径に相当する円筒直径を有する引き伸ばされた楕円状のまたは円筒状の立体形状をとり、この形状で、マンドリンまたは加圧可能な手段によって、中空カニューレを通して遠位側で推し進めることができるかまたは送り出すことができる。マンドリンを使用する代わりに、中空カニューレに近位側から加圧流体、例えば食塩水を付与し、これにより、中空カニューレの内側でコンパクト化された構造体を遠位側の開口から圧送することも考えられる。
【0010】
好適には、構造体は、コンパクト化されたもしくは圧縮された第1の状態から第2の状態へと、材料固有の弾性復元力に基づき自動的に展開する。拡開もしくは展開した状態への展開もしくは拡大の過程は、付加的な外的作用により支援されてもよい。すなわち、第1の状態から第2の状態への拡大の過程は、「展開過程」を支援することができる体内の湿った環境内で行われる。好適な実施例では、生体適合性材料は、吸湿性の特性を有しており、水分の吸収により、構造体の展開もしくは膨張を効果的に支援することができる。代替的に、または上述した措置と組み合わせて、体外に配置された力場発生器によって発生可能な外的な力場またはエネルギ場を適用することにより、第1の状態から第2の状態への変形過程を支援する効果が得られる。好適な実施例ではさらに、生体適合性材料から製作される構造体は少なくとも1つの手段および/または材料特性を有しており、これにより、この構造体は、体外で適用される力場と間接的にまたは直接的に相互作用し、これにより、構造体の立体形状および/または空間的な姿勢を変化させることができる力のモーメントを発生させることができる。この力のモーメントは、第1の状態から第2の状態への変形過程を支援することができ、および/または体内に適用されて第2の状態へと移行される構造体の位置決めを可能にする。
【0011】
例えば磁場、電場、音響場、または熱量場すなわち熱場の形式の力場の性質に応じて、構造体に取り付けるべき手段または構造体に組み込まれる手段は適切に選択されなければならない。磁場の場合には、構造体内にまたは構造体表面に組み込まれるまたは取り付けられる磁気的なまたは磁化可能な材料区分が適している。電場の場合には、動電場(elektrodynamisch. Feld)または静電場と相互作用する導電性の材料区分が構造体内側に用いられる。音響場の場合には、音響パルス伝達により構造体に作用する力のモーメントを機能的に利用することができるように、音波を好適には吸収するまたは反射する、構造体に局所的に取り付けられる手段が用いられる。体外に適用される熱量的な力場の場合には、構造体内に組み込まれて、または構造体表面に取り付けられて局所的な構造体変形をもたらすことができる、例えばバイメタル材料またはバイメタル作用をする材料または材料コンビネーションが適している。
【0012】
外部から適用される力場によって変形力を発生させるためには、変換材料またはいわゆるスマート材料、例えば形状記憶材料も、構造体内にまたは構造体上に組み込むもしくは適用するために適している。
【0013】
本発明によるインプラントを実現するために適した材料は、例えば、メタマテリアル、またはメタマテリアルと生体組織マテリアルおよび/または生体適合性ポリマーとから成るハイブリッドマテリアルコンビネーションである。例えばナノチューブまたはナノガラスの形態のナノ構造体から成る、または少なくとも表面にコーティングされたナノ構造体を有するフィルム状の基材も適している。主として炭素またはチタン合金(例えばTi6Al4V、TiO2)から製作されるこのような形態のナノ構造体は、エネルギ場のもとで適切に影響を与えることができる特別に調整可能な物理特性を有している。
【0014】
構造体に追加的にまたは統合的に添加される全ての付加的な材料は、医療用インプラントに適用される生物適合性もしくは生体適合性の選択基準が当てはまる。
【0015】
通常、構造体は、最初に第2の状態、すなわち空間的に張り出していて、圧縮されていない状態もしくはコンパクト化されていない形態で存在している。この状態を起点として、構造体は、好適には折り畳み、圧縮、および/または巻き取りにより第1の状態に移行し、埋め込み目的で中空カニューレ内に配置される。
【0016】
中空カニューレから構造体を適切に分離した後、構造体は展開もしくは拡開し、超音波を反射する有効作用表面を形成する。有効作用表面は、少なくとも0.2mm2かつ最大で500mm2の面積サイズを有している。好適には平面的な一体的につながっている有効作用表面は、埋め込まれた状態で、血管に対して、この血管から発せられるパルス波が有効作用表面を可能な限り垂直に通過するように、すなわち、パルス波の伝播方向が有効作用表面と、好適には90°±30°の角度αを成すように方向付けられる。このようにして、埋め込まれた構造体の有効作用表面がパルス波に応じて動的に変形する。
【0017】
公知の超音波検査装置を用いて皮膚を介して、すなわち皮下に送信される診断用の超音波が有効作用表面に衝突すると、有効作用表面に衝突した超音波の少なくとも一部は反射されて、超音波検査装置によって受信される。超音波検査装置によって受信された超音波は、血管の内側で生じている血圧とそれぞれ相関する、埋め込まれた構造体の有効作用表面のそれぞれ時間的に変化する変形状態に関する情報を含んでいる。例えばリバロッチの原理で機能する圧力センサを含む公知の膨張可能なアームカフを用いて行われる測定値較正の範囲内で、超音波検査装置によって得られた超音波信号を定量的な血圧値に割り当てることができる。
【0018】
さらに好適な実施形態では、生体適合性材料から成る構造体は、前述した平面的なフィルム状の基材とは異なり、編組、海綿構造体または交絡構造体の形態で形成されていて、この構造体は、空間的に拡開した第2の状態で、理想的には超音波の伝播方向に一致する空間方向に沿った、第2の状態の拡開した構造体への投影図内に現れる有効作用表面を有している。例えば、球面状の交絡構造体の場合、有効作用表面は、空間的な交絡構造体の直径に相当する直径を有する円形の面を成す。
【0019】
必須ではないが好適な形態では、有効作用表面が構造化されていて、好適には波形にまたはジグザグ状に成形されている。予め規定された構造化は、パルス波に起因した変形にもかかわらず実質的に維持されたままであり、これにより、有効作用表面で反射される超音波に典型的なサインを付与する。これにより、ほぼエラーのない信号検出が可能となり、体内で生じ得るノイズ反射に起因する、このような特徴的なサインを有さないエラー信号の割合を検知することができ、信号評価の際に無効にすることができる。
【0020】
埋め込まれた構造体が、第2の状態で相応に展開し、空間的に位置決めされた後、可能な限り不変にその位置に留まり、制御されずに漂流し始めないことを保証するために、好適な実施例では、すぐ周辺の組織に機械的に固定することができる少なくとも1つの固定エレメントが構造体に設けられている。例えば固定エレメントは、逆鉤状の区分の形式で、構造体に直接的にまたは間接的に形成されている。
【0021】
別の好適な実施形態では、好適にはレーダー波の形態の付加的な電磁波を反射する材料領域が、構造体に設けられている。これにより、純粋な超音波反射体としての構造体の機能は、電磁波との相互作用に基づく別の機能によって補われる。
【0022】
上記の好適な実施形態と組み合わせて、または代替的に、構造体には、埋め込まれた構造体と体外の送受信ユニットとの間で、その都度の電気エネルギを、ならびに信号に基づく情報を非接触式に伝達することができるRFID構造体、櫛形電極構造体、および/または電気的なコイル構造体を備えた少なくとも1つの構造体領域が設けられている。
【0023】
さらなる好適な実施形態では、埋め込まれた構造体は、生体適合性材料から製作される構造体に適用することができ、この構造体に組み込むことができる少なくとも1種の機能材料のための支持体としても用いられる。機能材料は、好適には、構造体の埋め込まれた状態で、好適には所定の投与パターンの設定のもとで局所的に放出され得る医薬的な作用物質である。作用物質の放出は、時間的に決められて設定されていてよい、および/または体外で適用可能な力場によって個別に影響を与えられてよい。
【0024】
医薬的な作用物質とは代替的に、またはこれと組み合わせて、さらなる実施形態では、生体適合性の接着剤が、構造体を固定し、かつ体内の所定の部位に規定されて設定された空間的な姿勢でもって持続的に位置決めするための機能材料として用いられる。生体適合性の接着剤は、空間的に拡開した構造体の状態で、持続的な接合接続部を形成する隣接する組織表面と面的に接触するように、構造体に適用されている。
【0025】
既に上述したように、生体適合性材料から成る構造体内に機能材料として設けられている吸湿性材料は、組織液の吸収により、展開もしくは膨張を支援する媒体として機能する。
【0026】
医療用インプラントを埋め込む目的で中空カニューレが用いられる。この中空カニューレは、医療用インプラントを皮下に埋め込むために、第1の状態にある構造体を、この中空カニューレの内部に取り込むもしくは格納することができ、その後、遠位側で中空カニューレから皮膚を貫通して体内に適用されるように適合され、かつ適しているように形成されている。好適にはこのために、マンドリンとして形成されている押込み手段が用いられ、これにより、中空カニューレの内部に位置する構造体を手術医が正確に遠位側で中空カニューレから押し出し、配置することができる。マンドリンの使用に対して代替的に、近位側で中空カニューレに、加圧可能な液体貯蔵部を接続することができ、これにより、生体適合性の液体、例えば食塩水が、中空カニューレの内部に配置された構造体を加圧下で遠位側に搬送し、この構造体を最終的には体内に適用する。付加的に中空カニューレを介して体内に投与されて放出可能な液体量は、圧縮された構造体の展開もしくは膨張を体内で支援することができ、引き続き、周囲の組織によって吸収される。
【0027】
上述した好適な実施形態における構造体が、外部の力場もしくは体外に適用される力場と相互作用することができる手段を有している場合には、以下の形態の力場、すなわち、磁場、電場、熱量場、および/または音響場を発生させることができる、体外に配置すべき発生器が必要となる。好適にはこの発生器は、場の強度および/または空間的な場の分布に関して可変に力場を発生させることができる。
【0028】
本発明により形成される医療用インプラントは、体内の運動パターンを検出するためのアッセンブリの部分構成要素であって、このアッセンブリはさらに、それ自体公知の超音波検査装置を含み、この超音波検査装置は、この超音波検査装置によって発生させられた超音波が、体内に適用された医療用インプラントの有効作用表面に衝突して、この有効作用表面で少なくとも部分的に反射されるように、体外に位置決めされている。有効作用表面で反射された超音波の検出により、体内の運動パターンを検出するための根拠となる、有効作用表面と超音波検査装置との間の空間的な距離変化を検出することができる。特にこのようにして、超音波検査装置によって得られた測定値の相応の較正後に血圧を検出することができ、その時間的変化を測定技術的に追跡することができる。したがって、本発明によるアッセンブリは、例えば腕を圧迫するカフのような、患者にとって不快に作用するいかなる付属構成要素も用いずに、血圧の持続的な検出と観察とが可能である。
【0029】
好適には、体内の運動パターンを検出するためのアッセンブリにはさらに、体外に配置された電磁場用の送受信ユニットが設けられており、このユニットの電磁場は、埋め込まれた構造体に取り付けられているRFID構造体、櫛形電極構造体、および/または電気的なコイル構造体と相互作用する。
【0030】
以下に本発明を、普遍的な本発明の思想を限定することなく、実施例に基づいて図面を参照しながら例説する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1のa)、b)、c)は、医療用インプラント用の、生体適合性材料から製作される構造体を示す図である。
【
図2】医療用インプラントを埋め込むためのアッセンブリを示す図である。
【
図3】
図3のa)、b)は、医療用インプラントの展開の実施バリエーションを示す図である。
【
図4】統合された流体通路を備えた医療用インプラントを示す図である。
【
図5】体内の運動パターンを検出するためのアッセンブリを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1のa)には、医療用インプラント1が、空間的に圧縮された立体形状で示されており、この立体形状は、医療用インプラント1を
図2に示した中空カニューレ2を通して体内に位置決めするために配置するのに適している。
図2には、カニューレ2を用いて医療用インプラント1を人間または動物の体(図示せず)内に導入するための注射器状の装置が示されている。医療用インプラント1の導入は、キャリア流体、例えば生理食塩水を使用して、または「乾式」形態で行うことができる。中空カニューレ2は、移植手順の間では、本発明によるインプラント1の注入のために、比較的大きな動脈血管の近傍で、この血管に対して可能な限り平行に向けられることが望ましい。
【0033】
圧縮された医療用インプラント1は、
図1のa)に示したように、好適には多糖類から成る棒の形態の支持棒3を含み、この支持棒に沿って、一体的にまたは複数の部分から形成されていてよい平面的なフィルム状の構造体4が取り付けられている。カニューレ2を引き戻し、医療用インプラント1を押し出すことにより、平面的なフィルム状の構造体4は、
図1のb)に示したように支持棒3から半径方向に扇形に展開される。
【0034】
医療用インプラント1の平面的なフィルム状の構造体4は、好適には柔軟なポリマーフィルムから成っており、ポリマーフィルムの表面には、好適には超音波反射材料から成るコーティング5が設けられている。超音波反射材料は、さらに付加的に、電磁波反射特性も有していてよい。好適にはこのために、ナノチューブまたはナノガラスの形態の、例えばカーボンナノチューブまたは酸化チタンナノガラスの形態のナノ構造材料が適している(
図1のc)も参照)。
【0035】
圧縮された状態から展開された状態への、平面的な医療用インプラント1の改善された拡開もしくは展開のために、
図3のa)、
図3のb)に示した1つの実施形態では、少なくとも1つの流体通路6、好適にはオイル通路が貫通している、医療用インプラント1の平面的なフィルム状の構造体4が設けられている。好適にはオイルが充填された通路6により、機械的な予荷重が発生させられる。この予荷重は、医療用インプラント1の圧縮された形態では、医療用インプラント1の平面的なフィルム状の構造体4を支持棒3に接続している付加的な糸7によって保たれている(
図3のa)参照)。体内に医療用インプラント1が配置されるとすぐに、保持糸7は吸収されて、これにより、流体通路6は、医療用インプラント1の平面的な基材を展開させることができる(
図3のb)参照)。
【0036】
医療用インプラント1の平面的な基材4は、個々の面領域4’を有していてよく、これらの面領域は全てまたはそれぞれ対になって流体通路6に接続されている。このようにして、個々の面領域4’は、互いに独立的に回動するように拡開することができ、これにより反射面の形態で面領域の方向付けが行われ、最終的には反射信号が得られる。オイルは超音波に対して音響的に透過性であるので、好適にはオイルを通路6に好適に充填することにより、医療用インプラント1の超音波反射特性に対するノイズの影響を回避することができる。
【0037】
さらに、体内の湿った環境により、医療用インプラント1への浸透圧効果に基づき、医療用インプラント1のポリマーベースの面基材4内にかつ面基材4を通って水が浸入することができることを前提とすることができる。これにより、通路6内へ水が浸入し、医療用インプラント1の面構造体の弾力が高められる。
【0038】
医療用インプラント1の個々の面領域4’が、体内に生じるパルス波11に応じて、その空間的な向きおよび/または形状を変化させるとさらに望ましい。空間的な可変性は、医療用インプラント1の個々の面領域4’が互いに可動に配置されていることにより支援され、実現され得る。これは、少なくとも対になって接続された面領域4’間の、少なくとも1つの流体通路6が沿ってそれぞれ延在するボトルネック8により保証される(
図4参照)。ボトルネック8は、「天然の関節」9の形態で作用し、この関節により、個々の面領域4’の互いに相対的な機械的可動性を予め規定することができる。
図4に示した状態の場合には、支持棒3は既に吸収されている。
【0039】
図5には、体内の血管10が示されており、この血管からは、本発明による医療用インプラント1と相互作用する血圧波11が発せられているので、平面的に拡開された医療用インプラント1は、圧力波11によって空間的に変形させられる。体外に配置された超音波ヘッド12を用いて皮下に超音波13が、医療用インプラント1の領域内で送信される。医療用インプラント1の、血圧波11に基づく空間的な変形により、超音波13は、医療用インプラント1で反射され、変調される。反射された超音波におけるこの変調は、医療用インプラント1の変形もしくは変位の強度の関数であり、ひいては、検出することができ、正確に測定することができる血圧波11の強度を表す。
【符号の説明】
【0040】
1:医療用インプラント
2:中空カニューレ
3:支持棒
4:フィルム状の基材
4’:医療用インプラントの面領域
5:ナノ構造
6:中空通路
7:吸収可能な保持糸
8:ボトルネック
9:関節
10:血管
11:血圧波
12:超音波カプラ
13:超音波