(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】真空ポンプ及び制御装置
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20231225BHJP
F04B 37/16 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
F04D19/04 H
F04B37/16 H
(21)【出願番号】P 2021204373
(22)【出願日】2021-12-16
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105201
【氏名又は名称】椎名 正利
(72)【発明者】
【氏名】深美 英夫
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-287573(JP,A)
【文献】特開2003-232292(JP,A)
【文献】特開2011-169164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
F04B 37/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気口から吸引したガスを排気口へと送る回転翼と、
該回転翼を回転駆動するモータと、
前記回転翼の回転速度を計測する回転速度計測手段と、
前記モータに流れる電流を計測する電流計測手段とを備えた真空ポンプであって、
前記電流計測手段で計測した電流計測値が電流規定値以上で、かつ、前記回転速度計測手段で計測した回転速度計測値が回転速度規定値以上で定義された
蓄熱領域に相当する第1の領域と、
前記電流計測値が前記電流規定値未満、又は、前記回転速度計測値が前記回転速度規定値未満で定義された
放熱領域に相当する第2の領域と、
前記回転速度計測値と前記電流計測値とが前記第1の領域と前記第2の領域のいずれの領域に属するかを判断する領域判断手段と、
該領域判断手段での判断の結果を基に時間の経過と共に前記真空ポンプの
蓄熱状態に伴う故障の危険度を演算する演算手段とを備えたことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記演算手段で演算された前記危険度に対して設定された危険度閾値と、
該危険度閾値を超えたときに前記真空ポンプの異常を通知する異常通知手段と、
該異常通知手段で前記真空ポンプの異常が通知されたときに前記真空ポンプの稼働を停止する停止手段とを備えたことを特徴とする請求項1記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記演算手段は、前記電流計測手段で計測された前記電流計測値と前記回転速度計測手段で計測された前記回転速度計測値が共に前記第1の領域にあるときに、前記回転速度計測値が予め設定された第1の回転数以上から該第1の回転数よりも下がったときに前記真空ポンプの故障の危険度が過大と判断することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記演算手段は、前記電流計測手段で計測された前記電流計測値と前記回転速度計測手段で計測された前記回転速度計測値が共に前記第2の領域にあるときに、前記回転速度計測値が予め設定された第2の回転数以下で継続して回転駆動されているときの時間を計測する時間計測手段を備え、
該時間計測手段で計測された時間が予め設定された第1の時間以上になったときに前記真空ポンプの故障の危険度が過大と判断することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記演算手段は、前記真空ポンプの故障の危険度を数値化するカウンタを備え、
該カウンタに対し、前記領域判断手段での判断の結果に基づき、前記回転速度計測値と前記電流計測値とが、前記第1の領域に属するときには前記カウンタのカウントをアップし、一方、前記第2の領域に属するときには前記カウンタの前記カウントをダウンする処理を第2の時間毎に行うことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記カウンタの前記カウントの値が予め定めた故障基準値を超えたときに前記真空ポンプの故障の危険度が過大と判断することを特徴とする請求項5記載の真空ポンプ。
【請求項7】
前記カウンタの前記カウントの値はゼロ未満にはならないことを特徴とする請求項5又は請求項6記載
の真空ポンプ。
【請求項8】
前記第2の時間が1秒であることを特徴とする請求項5、6又は7記載の真空ポンプ。
【請求項9】
前記モータに対し供給する電源が切断されたときには、前記モータの回転により回生制動が行われ、
該回生制動中に前記カウンタの前記カウントが継続して行われることを特徴とする請求項5~8のいずれか一項に記載の真空ポンプ。
【請求項10】
前記モータに対し供給する電源が切断され、かつ前記モータの回転による回生制動が終了したときに、前記カウンタの前記カウントの値がゼロにリセットされることを特徴とする請求項5~9のいずれか一項に記載の真空ポンプ。
【請求項11】
吸気口から吸引したガスを排気口へと送る回転翼と、
該回転翼を回転駆動するモータと、
前記回転翼の回転速度を計測する回転速度計測手段と、
前記モータに流れる電流を計測する電流計測手段とを備えた真空ポンプを制御する制御装置であって、
前記電流計測手段で計測した電流計測値が電流規定値以上で、かつ、前記回転速度計測手段で計測した回転速度計測値が回転速度規定値以上で定義された
蓄熱領域に相当する第1の領域と、
前記電流計測値が前記電流規定値未満、又は、前記回転速度計測値が前記回転速度規定値未満で定義された
放熱領域に相当する第2の領域と、
前記回転速度計測値と前記電流計測値とが前記第1の領域と前記第2の領域のいずれの領域に属するかを判断する領域判断手段と、
該領域判断手段での判断の結果を基に時間の経過と共に前記真空ポンプの
蓄熱状態に伴う故障の危険度を演算する演算手段とを備えたことを特徴とする真空ポンプの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空ポンプ及び制御装置に係わり、特に回転翼の温度を計測することなく加熱によるロータ破壊を防ぐことができる保護機能を有する真空ポンプ及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のエレクトロニクスの発展に伴い、メモリや集積回路といった半導体の需要が急激に増大している。
これらの半導体は、極めて純度の高い半導体基板に不純物をドープして電気的性質を与えたり、エッチングにより半導体基板上に微細な回路を形成したりなどして製造される。
そして、これらの作業は空気中の塵等による影響を避けるため高真空状態のチャンバ内で行われる必要がある。このチャンバの排気には、一般に真空ポンプが用いられているが、特に残留ガスが少なく、保守が容易等の点から真空ポンプの中の一つであるターボ分子ポンプが多用されている。
【0003】
また、半導体の製造工程では、様々なプロセスガスを半導体の基板に作用させる工程が数多くあり、ターボ分子ポンプはチャンバ内を真空にするのみならず、これらのプロセスガスをチャンバ内から排気するのにも使用される。
更に、ターボ分子ポンプは、電子顕微鏡等の設備において、粉塵等の存在による電子ビームの屈折等を防止するため、電子顕微鏡等のチャンバ内の環境を高度の真空状態にするのにも用いられている。
【0004】
このターボ分子ポンプは回転体を磁気浮上制御するため磁気軸受装置を備えている。この磁気軸受装置は制御装置により制御され、この制御装置では回転体の回転駆動制御や位置制御が行われている。そして、この制御装置には、チャンバ圧力低下のために回転体の異常過熱が生じた場合には、ポンプ破損を回避するため、異常通知して運転を中断する保護機能を有している(特許文献1~4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-232292号公報
【文献】特開2004-116328号公報
【文献】特開2013-253502号公報
【文献】特開2009-287573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、市場での実稼働においては、従来想定してきたポンプ異常に対する保護機能だけでは、ポンプ破損を回避できないような事例の発生することが分かった。例えば、
(1)規定時間未満の周期で、目標回転速度から低下したり到達したりを繰り返す事例
(2)真空チャンパーに微小リークがあり、目標回転速度低下には至らないが、駆動モータが最大トルク出力状態を長時間継続してしまう事例
である。
【0007】
いずれの事例についても、ほんの些細なことが原因で発生し得ることから、かかる事例に対してもポンプ破損に至る前に異常状態を通知する機能が望まれている。
また、このような破損を高精度に防止するためには、回転翼の温度を計測するセンサを導入し高精度に防止することも考えられる。しかしながら、回転翼温度センサの導入は、ターボ分子ポンプ自体が高価なものになってしまうおそれがある。
【0008】
本発明はこのような従来の課題に鑑みてなされたもので、回転翼の温度を計測することなく加熱によるロータ破壊を防ぐことができる保護機能を有する真空ポンプ及び制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このため本発明(請求項1)は真空ポンプの発明であって、吸気口から吸引したガスを排気口へと送る回転翼と、該回転翼を回転駆動するモータと、前記回転翼の回転速度を計測する回転速度計測手段と、前記モータに流れる電流を計測する電流計測手段とを備えた真空ポンプであって、前記電流計測手段で計測した電流計測値が電流規定値以上で、かつ、前記回転速度計測手段で計測した回転速度計測値が回転速度規定値以上で定義された蓄熱領域に相当する第1の領域と、前記電流計測値が前記電流規定値未満、又は、前記回転速度計測値が前記回転速度規定値未満で定義された放熱領域に相当する第2の領域と、前記回転速度計測値と前記電流計測値とが前記第1の領域と前記第2の領域のいずれの領域に属するかを判断する領域判断手段と、該領域判断手段での判断の結果を基に時間の経過と共に前記真空ポンプの蓄熱状態に伴う故障の危険度を演算する演算手段とを備えて構成した。
【0010】
モータに流れる電流計測値が電流規定値以上で、かつ、回転翼の回転速度計測値が回転速度規定値以上で第1の領域を定義し、モータに流れる電流計測値が電流規定値未満、又は、回転翼の回転速度計測値が回転速度規定値未満で第2の領域を定義する。そして、回転速度計測手段で計測された回転速度計測値と電流計測手段で計測された電流計測値とが第1の領域と第2の領域のいずれの領域に属するかを判断する。この判断の結果を基に、時間の経過と共に真空ポンプの故障の危険度を演算することで、回転翼や駆動モータの異常過熱要因による真空ポンプ破損障害を、回転翼の温度を計測することなく安価な方法で未然に回避できる。
【0011】
また、本発明(請求項2)は真空ポンプの発明であって、前記演算手段で演算された前記危険度に対して設定された危険度閾値と、該危険度閾値を超えたときに前記真空ポンプの異常を通知する異常通知手段と、該異常通知手段で前記真空ポンプの異常が通知されたときに前記真空ポンプの稼働を停止する停止手段とを備えて構成した。
【0012】
このことにより、真空ポンプの故障の危険度が危険度閾値を超えたときに、真空ポンプの異常を通知したり、この異常通知を基に真空ポンプの稼働を停止できるので、真空ポンプが悪化するのを未然に効率よく防止出来る。
【0013】
更に、本発明(請求項3)は真空ポンプの発明であって、前記演算手段は、前記電流計測手段で計測された前記電流計測値と前記回転速度計測手段で計測された前記回転速度計測値が共に前記第1の領域にあるときに、前記回転速度計測値が予め設定された第1の回転数以上から該第1の回転数よりも下がったときに前記真空ポンプの故障の危険度が過大と判断することを特徴とする。
【0014】
回転速度の検出値が予め設定された第1の回転数以上からこの第1の回転数よりも下がったときに真空ポンプの故障の危険度が過大と判断することで、真空ポンプの異常を瞬時に判断することができる。モータの電流値が高く過負荷の状態のときに回転速度が落ちるというのは、ガスとの摩擦熱が続くことになるため、即座に異常通知や真空ポンプの停止を行う。このことにより、安全な真空ポンプの運用が可能である。
【0015】
更に、本発明(請求項4)は真空ポンプの発明であって、前記演算手段は、前記電流計測手段で計測された前記電流計測値と前記回転速度計測手段で計測された前記回転速度計測値が共に前記第2の領域にあるときに、前記回転速度計測値が予め設定された第2の回転数以下で継続して回転駆動されているときの時間を計測する時間計測手段を備え、該時間計測手段で計測された時間が予め設定された第1の時間以上になったときに前記真空ポンプの故障の危険度が過大と判断することを特徴とする。
【0016】
電流検出手段で検出された電流の検出値と回転速度検出手段で検出された回転速度の検出値が共に第2の領域にあるときであっても、回転速度の検出値が予め設定された第2の回転数以下で継続して回転駆動されているときの時間を計測することで、真空ポンプの異常を効率よく判断することができる。このことにより、安全な真空ポンプの運用が可能である。
【0017】
更に、本発明(請求項5)は真空ポンプの発明であって、前記演算手段は、前記真空ポンプの故障の危険度を数値化するカウンタを備え、該カウンタに対し、前記領域判断手段での判断の結果に基づき、前記回転速度計測値と前記電流計測値とが、前記第1の領域に属するときには前記カウンタのカウントをアップし、一方、前記第2の領域に属するときには前記カウンタの前記カウントをダウンする処理を第2の時間毎に行うことを特徴とする。
【0018】
熱が第1の領域に留まっていた時間と第2の領域に留まっていた時間の差を、蓄熱時間とする。そして、この蓄熱時間を故障の危険度として数値化するためにカウンタを備えた。このカウンタについては、真空ポンプの運転状態が、第1の領域に属するときにはカウンタのカウントをアップし、一方、第2の領域に属するときにはカウンタのカウントをダウンするようにした。これにより、故障回避だけのために、高価な、非接触の翼温度計測機能を搭載する必要はなく、安価にリスク回避が実現できる。
【0019】
更に、本発明(請求項6)は真空ポンプの発明であって、前記カウンタの前記カウントの値が予め定めた故障基準値を超えたときに前記真空ポンプの故障の危険度が過大と判断することを特徴とする。
【0020】
蓄熱時間を示すカウンタのカウントの値が規定滞留時間、即ち故障基準値以上に達することで、運用上の過熱リスク有と判断する。このことにより、安価に効率よく真空ポンプの故障の危険度が過大したことを判断できる。
【0021】
更に、本発明(請求項7)は真空ポンプの発明であって、前記カウンタの前記カウントの値はゼロ未満にはならないことを特徴とする。
【0022】
このことにより、カウンタの締めるメモリ領域を小さくできる。
【0023】
更に、本発明(請求項8)は真空ポンプの発明であって、前記第2の時間が1秒であることを特徴とする。
【0024】
真空ポンプの故障を判断するために故障基準値を設定するが、この故障基準値はカウンタの最大値であり、カウンタの計測時間が1秒毎だと、この故障基準値を、誰でも真空ポンプ運転の実情に沿った形で実際の故障に至るまでの時間と合わせて感覚的に決め易い。
【0025】
更に、本発明(請求項9)は真空ポンプの発明であって、前記モータに対し供給する電源が切断されたときには、前記モータの回転により回生制動が行われ、該回生制動中に前記カウンタの前記カウントが継続して行われることを特徴とする。
【0026】
電源断により回生制動になる。この状態でも制御電源には回生制動により生じた電源が供給される。従って、回生制動中に負荷状態の判断やカウンタのカウントを継続して行うことができる。この間、回転は減速されるので放熱がされる。従って、真空ポンプの安全な運用が可能である。
【0027】
更に、本発明(請求項10)は真空ポンプの発明であって、前記モータに対し供給する電源が切断され、かつ前記モータの回転による回生制動が終了したときに、前記カウンタの前記カウントの値がゼロにリセットされることを特徴とする。
【0028】
電源断により回生制動に移行する。この状態でしばらくの間、モータの回転は減速されるので放熱がされる。その後電源は完全に遮断され、カウンタの値はゼロにリセットされるが、このとき回転体がベアリングにタッチダウンすることで、熱はベアリングに直接伝わる。このため、再び真空ポンプの運転が再開される際には放熱がほぼ完全に行なわれており、再び、効率良く負荷状態の判断やカウンタのカウントを行うことが可能である。従って、真空ポンプの安全な運用が可能である。
【0029】
更に、本発明(請求項11)は、吸気口から吸引したガスを排気口へと送る回転翼と、該回転翼を回転駆動するモータと、前記回転翼の回転速度を計測する回転速度計測手段と、前記モータに流れる電流を計測する電流計測手段とを備えた真空ポンプを制御する制御装置であって、前記電流計測手段で計測した電流計測値が電流規定値以上で、かつ、前記回転速度計測手段で計測した回転速度計測値が回転速度規定値以上で定義された蓄熱領域に相当する第1の領域と、前記電流計測値が前記電流規定値未満、又は、前記回転速度計測値が前記回転速度規定値未満で定義された放熱領域に相当する第2の領域と、前記回転速度計測値と前記電流計測値とが前記第1の領域と前記第2の領域のいずれの領域に属するかを判断する領域判断手段と、該領域判断手段での判断の結果を基に時間の経過と共に前記真空ポンプの蓄熱状態に伴う故障の危険度を演算する演算手段とを備えて構成した。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように本発明によれば、回転速度検出手段で検出された回転速度の検出値と電流検出手段で検出された電流の検出値とが第1の領域と第2の領域のいずれの領域に属するかを判断する領域判断手段と、領域判断手段での判断の結果を基に時間の経過と共に真空ポンプの故障の危険度を演算する演算手段とを備えて構成したので、回転翼や駆動モータの異常過熱要因による真空ポンプ破損障害を、回転翼の温度を計測することなく安価な方法で未然に回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の実施形態で使用するターボ分子ポンプの構成図
【
図2】
図1に示したターボ分子ポンプのアンプ回路の回路図
【
図3】電流指令値が検出値より大きい場合の制御を示すタイムチャート
【
図4】電流指令値が検出値より小さい場合の制御を示すタイムチャート
【
図7】ポンプ運転中の回転速度低下異常状況を示す図
【
図9】第2の保護機能を説明するために行ったシミュレーション図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しながら本発明に係る真空ポンプの一実施形態であるターボ分子ポンプ100について説明する。
まず、
図1~
図4を参照しながらターボ分子ポンプ100の全体的な構成について説明する。
図1に本発明の実施形態で使用するターボ分子ポンプの構成図を示す。
図1において、ターボ分子ポンプ100は、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。回転体103は、一般的に、アルミニウム又はアルミニウム合金などの金属によって構成されている。
【0033】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104に近接して、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応して4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、即ちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、図示しない制御装置の中央演算処理装置(CPU)に送るように構成されている。
【0034】
この中央演算処理装置においては、磁気軸受制御器の機能が搭載されており、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、図示しない磁気軸受用インバータが、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0035】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0036】
更に、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が図示しない制御装置の中央演算処理装置(CPU)に送られるように構成されている。
【0037】
そして、中央演算処理装置に搭載された磁気軸受制御器において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、図示しない磁気軸受用インバータが、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0038】
このように、制御装置は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0039】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。この回転速度センサは回転速度計測手段21に相当する。
【0040】
更に、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。固定翼123(123a、123b、123c・・・)は、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
【0041】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ(真空チャンバ)側から吸気口101に入ってベース部129に移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0042】
更に、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ付スペーサ131が配設される。ネジ付スペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)に続く最下部には円筒部102dが垂下されている。この円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付スペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付スペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102及び固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。
【0043】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
また、上側径方向センサ107と回転体103の間のステータコラム122の上端部には、タッチダウンベアリング141が配設されている。一方、下側径方向センサ108の下方には、タッチダウンベアリング143が配設されている。
【0044】
タッチダウンベアリング141及びタッチダウンベアリング143とも玉軸受で構成されている。タッチダウンベアリング141及びタッチダウンベアリング143は回転体103の回転異常時又は停電時等のように回転体103が何らかの要因で磁気浮上が出来なくなったときに、回転体103が安全に非浮上状態に移行できるよう設けられている。
【0045】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じて図示しないチャンバから排気ガスが吸気される。回転翼102の回転速度は通常20,000rpm~90,000rpmであり、回転翼102の先端での周速度は200m/s~400m/sに達する。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0046】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0047】
なお、上記では、ネジ付スペーサ131は回転体103の円筒部102dの外周に配設し、ネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に円筒部102dの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0048】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0049】
この場合には、ベース部129には図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング141とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0050】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部を備えている。電子回路部は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板等から構成される。この電子回路部は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋によって閉じられている。
【0051】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、あるいは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0052】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiCl4が使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl3)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口133付近やネジ付スペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0053】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状の水冷管を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。
【0054】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路150の回路図を
図2に示す。
【0055】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。電流検出回路181は電流検出手段に相当する。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0056】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0057】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0058】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0059】
更に、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置200の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0060】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0061】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0062】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0063】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。更に、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0064】
即ち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、
図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0065】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、
図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0066】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0067】
次に、本実施形態について
図5~9を参照しながら詳細に説明する。
ここに、回転翼102の回転速度は高速であり、前述した通りプロセスガスとの間に摩擦熱を生ずる。この熱はターボ分子ポンプ100の内部が真空環境にあるため、回転翼102等に蓄熱され易く、蓄熱され過ぎた場合にはポンプ破損に至る可能性が生ずる。
そこで、ポンプ破損に至るおそれの高い前述した予測のできないような事例に対しても効率の良い保護機能が求められる。
【0068】
以下に、ポンプ破損に至る前に、前述の事例も含め様々なケースにおいて効率よく異常状態を通知し、この通知に基づきポンプを停止する保護機能について説明する。この保護機能のブロック図を
図5に示す。
プロセスガスとの摩擦熱等の原因により回転翼102の温度が上昇し続けると、円筒部102dが膨張し、ネジ付スペーサ131と接触するおそれがある。そして、最悪はポンプの破壊にまで繋がる。
回転翼102の温度が上昇し続けるには、回転翼102に対し熱の蓄熱されている状態が継続することが必要である。この蓄熱状態は、モータ121の電流値が高く、かつ、ロータ軸113の回転速度が高い場合に引き起こされると考えられる。
一方、溜まった熱は回転速度が遅かったり、モータ121の電流値が低かったりする場合が継続すると、蓄積よりも放熱の方が勝り、回転翼102の温度は次第に下がっていく。即ち、一旦蓄熱した熱がプロセスガスを媒体として周囲に散逸する状態である。そこで、この保護機能では、まず、蓄熱状態を以下のように定義する。
【0069】
図6の回転速度-モータ電流状態監視図に示すように、モータ121へ供給している電流に対して電流規定値1を設定し、また、ロータ軸113の回転速度に対して回転速度規定値3を設定する。そして、電流規定値1以上の電流の計測値で、かつ、回転速度規定値3以上の回転速度の計測値の領域を蓄熱領域5と定義する。この蓄熱領域5は第1の領域に相当する。
一方、電流規定値1未満の電流の計測値、又は、回転速度規定値3未満の回転速度の計測値の領域を放熱領域7と定義する。この放熱領域7は第2の領域に相当する。
電流規定値1の設定値と回転速度規定値3の設定値とは、ポンプの実稼働の状況やプロセスガスの種類等に応じて適宜設定される。
そして、回転速度計測値と電流計測値181から、蓄熱領域5である第1の領域と放熱領域7である前記第2の領域のいずれの領域に属するかを後述する演算プログラム内の領域判断手段23によって判断する。
【0070】
次に、ポンプ破損を回避するための第1の保護機能について説明する。
第1の保護機能は、この第1の保護機能を有する演算プログラムが制御装置にインストールされることで処理される。
図6及び
図7において、回転速度には目標回転速度9を設定する。この目標回転速度9についても回転速度規定値3と同様にポンプの実稼働の状況やプロセスガスの種類等に応じて設定される。
図6には、目標回転速度9が蓄熱領域5を通る例を示している。また、
図7にはポンプ運転中の回転速度低下異常状況を示す。
図6及び
図7に示すように、ポンプの稼働状態が蓄熱領域5にあるときに、ロータ軸113の回転速度が目標回転速度9を超えている状態(図中5aで示す領域)から回転速度が低下した場合(図中5bで示す領域)には、演算手段25により異常と判断し、即座に異常通知手段27により異常通知を行う。そして、この異常通知に基づき、停止手段29によりポンプを停止させる。モータ121の電流値が高く過負荷の状態のときに回転速度が落ちるというのは、プロセスガスとの摩擦熱が続くことになるため、即座に異常通知及びポンプ停止を行うことにしたものである。
【0071】
一方、目標回転速度9が上記と同じ設定値のままとして、ポンプの稼働状態が電流規定値1未満で、かつ、回転速度規定値3以上の放熱領域7bにあるときに、ロータ軸113の回転速度が目標回転速度9を超えている状態(図中7aで示す領域)から回転速度が低下した場合(図中7bで示す領域)には、演算手段25により、
図7に示すように、回転速度が目標回転速度9から低下してから所定時間経過後に異常と判断し、異常通知手段27により異常通知11を行う。所定時間は例えば30分である。これにより、放熱状態にあるときであっても、継続した監視を行うことにより安全にポンプの異常通知及びこの異常通知に基づくポンプの停止を行うことができる。
また、この第1の保護機能は、
図8のポンプ起動時の異常状況を示す図の例で、ポンプ起動時に期待する加速挙動に至らない状態が継続する場合においても、同様にポンプの保護が可能である。
【0072】
そして、この第1の保護機能によれば、目標回転速度9が
図6に示す蓄熱領域5を通るように設定した場合であってもポンプの保護が可能であるし、目標回転速度9を
図6に示す蓄熱領域5を通らないように設定した場合であってもポンプの保護が可能である。
例えば、目標回転速度9が回転速度規定値3未満の放熱領域7c、7dに設定されているときに、
図8に示すように、ポンプの起動から所定時間を経過しても継続して回転速度が目標回転速度9未満のときには、演算手段25により、この所定時間経過後に異常と判断し、異常通知手段27により異常通知11を行う。このときの回転速度規定値3未満の放熱領域7に設定された目標回転速度9は第2の回転数に相当する。所定時間は同様に30分である。これにより、放熱状態にあるときであっても継続した監視を行うことにより安全にポンプの異常通知及びポンプの停止を行うことができる。
【0073】
次に、ポンプ破損を回避するための第2の保護機能について説明する。
図9を基に第2の保護機能を用いたときの処理方法について説明する。
図9は第2の保護機能を説明するために行ったシミュレーションの様子である。第2の保護機能では、制御装置にインストールされた第2の保護機能を有する演算プログラム内の領域判断手段23が、所定の時間毎に、計測したモータ121の電流値とロータ軸113の回転速度値に基づきポンプの負荷状態が蓄熱領域5にあるのか、あるいは、放熱領域7にあるのかを判断する。所定の時間は例えば1秒毎である。
【0074】
図9は簡易的なシミュレーションであり、ロータ軸113の回転速度のタイミングチャートを図中にAで示し、モータ121の電流のタイミングチャートをBで示す。モータ121の電流は実際の運転中にはもっと不安定に変動している。このため、変動の様子を効率よく検出するため、1秒毎に判断することにしている。ここに、ポンプの負荷状態は蓄熱領域5にあると判断されたときを「1」とし、放熱領域7にあると判断されたときを「0」と定義する。このようにしてまとめたポンプの負荷状態のタイミングチャートを、
図9中にCで示す。
【0075】
次に、ポンプの負荷状態の判定方法について具体的に説明する。
図9において、電流規定値1と回転速度規定値3は、
図6で説明をした通り、蓄熱領域5と放熱領域7を仕切るために設定されている。時刻0~t1では、モータ121の電流値が電流規定値1よりも低く、かつ、ロータ軸113の回転速度値も回転速度規定値3よりも低いので、放熱領域7にいると判断され負荷状態Cには「0」が設定される。時刻t1~t2では、モータ121の電流値が電流規定値1よりも高く、かつ、ロータ軸113の回転速度値は回転速度規定値3よりも低いので、放熱領域7にいると判断され負荷状態Cには「0」が設定される。時刻t2~t3では、モータ121の電流値が電流規定値1よりも高く、かつ、ロータ軸113の回転速度値も回転速度規定値3よりも高いので、蓄熱領域5にいると判断され負荷状態Cには「1」が設定される。時刻t3~t4では、モータ121の電流値が電流規定値1よりも高く、かつ、ロータ軸113の回転速度値は回転速度規定値3よりも低いので、放熱領域7にいると判断され負荷状態Cには「0」が設定される。以下、これ以降の時刻においても同様に負荷状態Cが判定される。
【0076】
そして、このようにして算出された定量化された負荷状態Cについては、時間計測手段31に相当するカウンタを設けることで、このカウンタ値が蓄熱時間を示すようにする。このカウンタ値はまた、ポンプの故障の危険度をも表している。即ち、ポンプの運転状態が蓄熱領域5にある場合には、演算手段25で、このカウンタを加算し、放熱領域7にある場合にはゼロまでカウンタを減算する。カウンタは1秒毎にカウントされる。このカウンタ値のタイミングチャートを
図9中にDで示す。カウンタ値Dは例えば最大1800までカウントがされ、1800に至った時点で異常通知がされる。そして、この異常通知に基づき、停止手段29によりポンプを停止させることができる。
なお、カウンタ値を最大1800としたのは、1秒に1回のカウントで丁度1800秒(=30分)の蓄熱に相当することとなり、この1800秒加熱が継続したときが異常通知の判断基準で妥当とされたためである。
【0077】
ポンプの故障を判断するために故障の基準値であるカウンタの最大値を設定するが、カウンタの計測時間が1秒毎だと、この故障基準値を、誰でもポンプ運転の実情に沿った形で実際の故障に至るまでの時間と合わせて感覚的に決め易い。なお、カウンタの値はどれだけ放熱が続いてもマイナスにはいかない。上限も最大カウント値にまでしかいかないので、カウンタの締めるメモリ領域は有限で小さい容量で済む。
【0078】
また、時刻t10において電源断の異常が生じた場合には、モータ121が慣性により継続して運転され、回生制動状態になる。そして、制御装置には回生された電力が供給される。このため、上述した負荷状態Cの判断やカウント値Dのカウントは継続して行なわれる。その後、時刻t11で電源が一旦復旧し、時刻t20で再び電源断の異常が生じたとする。時刻t20でも回生制動状態でしばらくの間運転が継続された後に時刻t21では電源が完全に遮断される。電源が完全に遮断されるまでには回転速度も下がって来ており、放熱が進んでいる。また、タッチダウンベアリング141、143にタッチダウンすることで、熱はベアリングに直接伝わる。このため、再びポンプの運転が再開される際には放熱がほぼ完全に行なわれており、再び、効率良く負荷状態Cの判断やカウント値Dのカウントを行うことが可能である。
つまり、回生制動状態で、電力が供給されタッチダウンベアリング141,143にタッチダウンしない様に、磁気軸受で支持されている状態まではカウント値Dのカウントが継続され、タッチダウンベアリング141,143にタッチダウンした際には、カウント値Dのカウントがゼロにリセットされるため、負荷状態Cを精度良くカウントすることが出来る。従って、ポンプの安全な運用が可能である。なお、危険度や領域の判定に必要なパラメータは不揮発性メモリ33に保存される。
【0079】
これにより、故障回避だけのために、高価な、非接触の回転翼102に対する温度計測機能を搭載する必要はなく、安価にリスク回避が実現できる。即ち、回転翼102やモーター121の異常過熱要因によるポンプ破損障害を、第1の保護機能と第2の保護機能により安価な方法で未然に回避できる。
第1の保護機能と第2の保護機能は、演算プログラムとして既存の制御装置にもインストールすることができる。このため、過去に顧客納入済の回転翼温度センサを搭載していない真空ポンプに対しても容易に導入ができ、効率よくポンプ破損障害を回避できる。
本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことが出来、そして、本発明が当該改変されたものにも及ぶことは当然である。また、上述した各実施形態は種々組み合わせても良い。
【符号の説明】
【0080】
21 回転速度計測手段
23 領域判断手段
25 演算手段
27 異常通知手段
29 停止手段
31 時間計測手段
33 不揮発性メモリ
181 電流検出回路
100 ターボ分子ポンプ
102 回転翼
103 回転体
104 上側径方向電磁石
105 下側径方向電磁石
106A、106B 軸方向電磁石
107 上側径方向センサ
108 下側径方向センサ
109 軸方向センサ
111 金属ディスク
113 ロータ軸
121 モータ
141、143 タッチダウンベアリング