(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】MDM2阻害剤を調製する方法
(51)【国際特許分類】
C07D 263/14 20060101AFI20231225BHJP
A61K 31/421 20060101ALI20231225BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
C07D263/14
A61K31/421
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2021510396
(86)(22)【出願日】2019-08-30
(86)【国際出願番号】 US2019049087
(87)【国際公開番号】W WO2020047424
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-05-26
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500049716
【氏名又は名称】アムジエン・インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カイエ,セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】コーベット,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】スミス,オースティン
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-528179(JP,A)
【文献】Synlett,2017年,28,A-F
【文献】J. Org. Chem.,2018年12月17日,84,4763-4779
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 263/14
A61K 31/421
A61P 35/00
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物
【化1】
を調製する方法であって、
【化2】
をメトキシメチレン-N,N-ジメチルイミニウムメチルスルフェートと反応させることを含む、方法。
【請求項2】
反応が塩基の存在下で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
塩基が、KOAc、NaOAc、LiOAc、又はK
2CO
3である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
塩基がNaOAcである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
反応が溶媒中で実行される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
溶媒がトルエンである、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2-((3R,5R,6S)-5-(3-クロロフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-1-((S)-1-(イソプロピルスルホニル)-3-メチルブタン-2-イル)-3-メチル-2-オキソピペリジン-3-イル)酢酸(「化合物A」)を調製する方法及びその中間体を提供する。
【背景技術】
【0002】
p53は、細胞周期停止、アポトーシス、老化、及びDNA修復に関与する多数の遺伝子の転写を活性化させることにより細胞ストレスに応答する腫瘍抑制因子及び転写因子である。p53活性化の原因を有することが頻繁でない正常細胞とは異なり、腫瘍細胞は、低酸素及びアポトーシス促進性がん遺伝子活性化を含む様々な傷害からの定常的な細胞ストレス下にある。そのため、腫瘍におけるp53経路の不活性化についての強い選択的な利点があり、p53機能の排除は腫瘍生存のための必要条件であり得ることが提唱されている。この概念のサポートとして、3つのグループの研究者らは、マウスモデルを使用して、p53機能の非存在は確立された腫瘍の維持のための連続的な要求であることを実証している。研究者らが不活性化されたp53を有する腫瘍に対してp53機能を回復させた場合、腫瘍は退縮した。
【0003】
p53は、固形腫瘍の50%及び液性腫瘍の10%において突然変異及び/又は喪失により不活性化される。p53経路の他の鍵となるメンバーもまた、がんにおいて遺伝子的に又はエピジェネティックに変更される。がんタンパク質であるMDM2は、p53機能を阻害し、10%もの高さであると報告されている発生率において遺伝子増幅により活性化される。そしてMDM2は、別の腫瘍抑制因子、p14ARFにより阻害される。p53の下流の変更は、p53WT腫瘍においてp53経路を少なくとも部分的に不活性化させる原因となり得ることが示唆されている。この概念のサポートとして、一部のp53WT腫瘍は、細胞周期停止を起こす能力はインタクトなままであるが、低減したアポトーシス能力を呈するようである。1つのがん処置手順は、MDM2に結合してp53とのその相互作用を中和する小分子の使用を伴う。MDM2は、3つの機構:1)E3ユビキチンリガーゼとして作用してp53分解を促進すること、2)p53転写活性化ドメインに結合してそれを遮断すること、及び3)p53を核から細胞質へとエクスポートすることによりp53活性を阻害する。これらの3つ全ての機構は、MDM2-p53相互作用を中和することにより遮断される。特に、この治療手順は、p53WTである腫瘍に応用できる可能性があり、小分子MDM2阻害剤を用いた研究は、インビトロ及びインビボの両方で腫瘍成長における有望な低減をもたらした。さらに、p53不活性化腫瘍を有する患者において、MDM2阻害による正常組織中の野生型p53の安定化は、有糸分裂毒からの正常組織の選択的な保護を可能とする可能性がある。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、p53とMDM2との相互作用を阻害してp53下流エフェクター遺伝子を活性化させることができる化合物に関する。そのため、本発明の化合物は、がん、細菌感染症、ウイルス感染症、潰瘍及び炎症の処置において有用である。特に、本発明の化合物は、乳房、結腸、肺及び前立腺腫瘍などの固形腫瘍、並びにリンパ腫及び白血病などの液性腫瘍を処置するために有用である。本明細書において使用される場合、MDM2はヒトMDM2タンパク質を指し、p53はヒトp53タンパク質を指す。ヒトMDM2はまた、HDM2又はhMDM2と称され得る。
【0005】
化合物、2-((3R,5R,6S)-5-(3-クロロフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-1-((S)-1-(イソプロピルスルホニル)-3-メチルブタン-2-イル)-3-メチル-2-オキソピペリジン-3-イル)酢酸(本明細書において化合物Aと称されることもある)はMDM2阻害剤であり、以下の化学構造を有する。化合物Aは、PCT出願公開第
【0006】
【化1】
WO2011/153509(実施例362)に開示されており、様々ながんの処置についてヒト臨床試験において研究されている。本発明は、化合物Aを調製する向上した方法の他に、その中間体化合物を提供する。
【0007】
一実施形態では、本発明は、以下の化合物(DHO)
【0008】
【化2】
を調製する方法であって、化合物(ABA)
【0009】
【化3】
をメトキシメチレン-N,N-ジメチルイミニウムメチルスルフェートと反応させることを含む、方法を提供する。一実施形態では、この反応は塩基の存在下で実行される。特定の実施形態では、塩基は、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、例えば、KOAc、NaOAc、LiOAc、CaCO
3及びK
2CO
3などである。一実施形態では、反応は溶媒中で実行される。特定の実施形態では、溶媒は、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、ヘキサン、テトラヒドロフラン、エチルアセテート、HMPA、HMPT、DMSO、エチレングリコール、DME、DMF、ジエチルエーテル、アセトニトリル、メタノール、エタノール、アセトン又はこれらの混合物である。
【0010】
一実施形態では、本発明は、化合物(SUL)
【0011】
【0012】
【化5】
をイソプロピル化剤、例えば、以下に限定されないが、イソプロピルスルフィネート亜鉛クロリドと反応させることを含む、方法を提供する。一実施形態では、反応は、アルカリ土類金属塩の存在下で実行される。特定の実施形態では、アルカリ土類金属塩はマグネシウム塩、例えば、以下に限定されないが、MgBr
2又はMgCl
2である。特定の実施形態では、イソプロピル化剤は、イソプロピルマグネシウムクロリドからインサイチューで生成される。一実施形態では、反応は、100℃~200℃、例えば、100℃~150℃、例えば、120℃、又は150℃~200℃、例えば、180℃の温度において実行される。
【0013】
一実施形態では、本発明は、7.3°±0.2°の2θ、14.5°±0.2°の2θ、15.8°±0.2°の2θ、15.9°±0.2°の2θ、及び23.1°±0.2°の2θにおけるピークを含む反射型X線粉末回折パターンにより特徴付けられる(1R,2R,4S)-2-(3-クロロフェニル)-1-(4-クロロフェニル)-4-((S)-4-イソプロピル-4,5-ジヒドロオキサゾール-2-イル)-4-メチルヘプタ-6-エン-1-オール(DHO)の結晶形態を提供する。一実施形態では、DHO結晶(DHO crystalline)の反射型X線粉末回折パターンは、8.5°±0.2°の2θ、10.0°±0.2°の2θ、11.0°±0.2°の2θ、13.4°±0.2°の2θ、18.8°±0.2°の2θ、及び22.0°±0.2°の2θにおけるピークをさらに含む。一実施形態では、DHO結晶の反射型X線粉末回折パターンは、6.3°±0.2°の2θ、10.5°±0.2°の2θ、11.5°±0.2°の2θ、12.8°±0.2°の2θ、14.8°±0.2°の2θ、15.2°±0.2°の2θ、17.0°±0.2°の2θ、17.5°±0.2°の2θ、17.8°±0.2°の2θ、18.4°±0.2°の2θ、19.0°±0.2°の2θ、19.7°±0.2°の2θ、19.9°±0.2°の2θ、20.7°±0.2°の2θ、21.2°±0.2°の2θ、21.3°±0.2°の2θ、22.4°±0.2°の2θ、23.6°±0.2°の2θ、24.2°±0.2°の2θ、24.9°±0.2°の2θ、25.7°±0.2°の2θ、26.3°±0.2°の2θ、27.0°±0.2°の2θ、28.3°±0.2°の2θ、28.7°±0.2°の2θ、29.3°±0.2°の2θ、29.7°±0.2°の2θ、30.8°±0.2°の2θ、31.4°±0.2°の2θ、31.8°±0.2°の2θ、33.0°±0.2°の2θ、34.2°±0.2°の2θ、35.8°±0.2°の2θ、37.0°±0.2°の2θ、及び37.5°±0.2°の2θにおける1つ以上のピークをさらに含む。一実施形態では、DHOの結晶形態は結晶性無水物である。一実施形態では、結晶性DHOの反射型X線粉末回折は、Cu-Kα放射線を使用して実行される。
【0014】
以下の図は、記載される発明の特有の実施形態を表し、本発明を他に限定することは意図されない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】60℃での経時的な
(3S,5R,6R)-3-アリル-5-(3-クロロフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-3-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-2-オン(DLAC)の(S)-2-((2R,3R)-2-(3-クロロフェニル)-3-(4-クロロフェニル)-3-ヒドロキシプロピル)-N-((S)-1-ヒドロキシ-3-メチルブタン-2-イル)-2-メチルペンタ-4-エンアミド(ABA)への変換速度を示す。
【
図2】115℃での経時的なDLACのABAへの変換速度を示す。
【
図3】25℃での結晶化処理の間の(1R,2R,4S)-2-(3-クロロフェニル)-1-(4-クロロフェニル)-4-((S)-4-イソプロピル-4,5-ジヒドロオキサゾール-2-イル)-4-メチルヘプタ-6-エン-1-オール(DHO)の溶解度を示す。
【
図4】120℃でイソプロピルスルフィネートマグネシウムクロリドを使用した経時的な(3S,5R,6S)-3-アリル-5-(3-クロロフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-1-((S)-1-(イソプロピルスルホニル)-3-メチルブタン-2-イル)-3-メチルピペリジン-2-オン(SUL)の収率を示す(反応混合物中、14mol%の水(対(3S,5S,6R,8S)-8-アリル-6-(3-クロロフェニル)-5-(4-クロロフェニル)-3-イソプロピル-8-メチル-2,3,5,6,7,8-ヘキサヒドロオキサゾロ[3,2-a]ピリジン-4-イウムナフタレン-1-スルホネート、ヘミトルエン溶媒和物(OXOS)))。
【
図5】180℃でイソプロピルスルフィネートマグネシウムクロリドを使用した経時的なSULの収率を示す(反応混合物中、(11mol%の水(対OXOS))。
【
図6】THF-d
8中の異なるイソプロピルスルフィネート種の
1H NMR解析を示す。
【
図7】120℃でMgスルフィネート-ZnCl
2を使用した経時的なSULの収率を示す(反応混合物中、17mol%の水(vs OXOS))。
【
図8】180℃でMgスルフィネート-ZnCl
2を使用した経時的なSULの収率を示す(反応混合物中、17mol%の水(対OXOS))。
【
図9】20℃での反応混合物中の水の重量%と比べた(3R,5R,6S)-3-((1,2,4-トリオキソラン-3-イル)メチル)-5-(3-クロロフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-1-((S)-1-(イソプロピルスルホニル)-3-メチルブタン-2-イル)-3-メチルピペリジン-2-オン(OZO)のLC面積%を示す。
【
図10】連続モードオゾン分解及びピニック酸化用の装置の図式を示す。
【
図12】半バッチモードオゾン分解及びピニック酸化用の装置の図式を示す。
【
図13】半バッチモードオゾン分解についてのSULの消費速度を示す。
【
図14】オゾン分解製造開発用のスパージャーの進化を示す。
【
図15】結晶化処理の間の232-DABの溶解度を示す。
【
図16】結晶化処理の間の化合物Aの溶解度を示す。
【
図17】反射モードにおいて測定された結晶性DHOの粉末X線回折(PXRD)パターンを示す。
【
図18】ピーク位置を指し示すスティックにより、反射モードにおいて測定された結晶性DHOの粉末X線回折(PXRD)パターンを示す。
【
図19】結晶性DHOの示差走査熱量測定(DSC)分析からのサーモグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、2-((3R,5R,6S)-5-(3-クロロフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-1-((S)-1-(イソプロピルスルホニル)-3-メチルブタン-2-イル)-3-メチル-2-オキソピペリジン-3-イル)酢酸(「化合物A」)を調製する方法の他に、その中間体、及びこれらの中間体を調製する方法を提供する。
【0017】
一態様では、本発明は、高純度の化合物Aの製造方法を提供する。
【0018】
別の態様では、本発明は、化合物Aの調製において第一級アルコール中間体の選択的なインサイチュー活性化を達成するためにベンチ安定なビルスマイヤー試薬、メトキシメチレン-N,N-ジメチルイミニウムメチルスルフェート(Corbett,M.T.;Caille,S.,Synlett 2007,28,2845)を用いる。
【0019】
別の態様では、本開示は、化合物Aの調製においてスルホン中間体の高収率調製を達成するためにベンチ安定な結晶性イソプロピル化剤、イソプロピルカルシウムスルフィネートを用いる。
【0020】
別の態様では、本開示は、化合物Aを調製する方法においてバッチ製造モード又は連続製造モードのいずれかにおいて水性溶媒混合物中で実行される安全なオゾン分解反応を用いる。
【0021】
別の態様では、本発明は、7.3°±0.2°の2θ、14.5°±0.2°の2θ、15.8°±0.2°の2θ、15.9°±0.2°の2θ、及び23.1°±0.2°の2θにおけるピークを含む反射型X線粉末回折パターンにより特徴付けられる(1R,2R,4S)-2-(3-クロロフェニル)-1-(4-クロロフェニル)-4-((S)-4-イソプロピル-4,5-ジヒドロオキサゾール-2-イル)-4-メチルヘプタ-6-エン-1-オール(DHO)の結晶形態を提供する。一実施形態では、DHO結晶(DHO crystalline)の反射型X線粉末回折パターンは、8.5°±0.2°の2θ、10.0°±0.2°の2θ、11.0°±0.2°の2θ、13.4°±0.2°の2θ、18.8°±0.2°の2θ、及び22.0°±0.2°の2θにおけるピークをさらに含む。一実施形態では、DHO結晶の反射型X線粉末回折パターンは、6.3°±0.2°の2θ、10.5°±0.2°の2θ、11.5°±0.2°の2θ、12.8°±0.2°の2θ、14.8°±0.2°の2θ、15.2°±0.2°の2θ、17.0°±0.2°の2θ、17.5°±0.2°の2θ、17.8°±0.2°の2θ、18.4°±0.2°の2θ、19.0°±0.2°の2θ、19.7°±0.2°の2θ、19.9°±0.2°の2θ、20.7°±0.2°の2θ、21.2°±0.2°の2θ、21.3°±0.2°の2θ、22.4°±0.2°の2θ、23.6°±0.2°の2θ、24.2°±0.2°の2θ、24.9°±0.2°の2θ、25.7°±0.2°の2θ、26.3°±0.2°の2θ、27.0°±0.2°の2θ、28.3°±0.2°の2θ、28.7°±0.2°の2θ、29.3°±0.2°の2θ、29.7°±0.2°の2θ、30.8°±0.2°の2θ、31.4°±0.2°の2θ、31.8°±0.2°の2θ、33.0°±0.2°の2θ、34.2°±0.2°の2θ、35.8°±0.2°の2θ、37.0°±0.2°の2θ、及び37.5°±0.2°の2θにおける1つ以上のピークをさらに含む。一実施形態では、DHOの結晶形態は結晶性無水物である。一実施形態では、結晶性DHOの反射型X線粉末回折は、Cu-Kα放射線を使用して実行される。
【0022】
別の態様では、本開示は、有効に精製され得る、化合物Aの1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)塩の結晶化による化合物Aの純度の制御を提供する。
【0023】
一実施形態では、本発明は、出発材料DLACから49.8%の全体収率で化合物A(99.9LC面積%)を調製するスケールアップのために好適な方法を提供する。
【0024】
「含む」という用語は、オープンエンドであることが意図され、指し示される成分を含むが、他の要素を除外しない。
【0025】
「治療有効量」という用語は、特定の疾患若しくは状態の1つ以上の症状を寛解させ、減弱し若しくは排除する、又は特定の疾患若しくは状態のより多くの症状のうちの1つの発症を予防し、若しくは遅延させる、化合物又は治療的に活性な化合物の組合せの量を指す。
【0026】
「患者」及び「対象」という用語は、交換可能に使用されることがあり、動物、例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ及びヒトを指す。特定の患者は哺乳動物である。患者という用語は、男性(雄)及び女性(雌)を含む。
【0027】
「薬学的に許容される」という用語は、参照される物質、例えば、本発明の化合物、又は該化合物の塩、又は該化合物を含有する製剤、又は特定の賦形剤が、患者への投与に好適であることを意味する。
【0028】
「処置する」(treating)、「処置する」(treat)又は「処置」などの用語は、予防的(preventative)(例えば、予防的(prophylactic))及び姑息的処置を含む。
【0029】
「賦形剤」という用語は、典型的には製剤及び/又は患者への投与のために含まれる、活性の薬学的原料成分(API)以外の、任意の薬学的に許容される添加剤、担体、希釈剤、佐剤、又は他の原料成分を指す。
【0030】
本発明の化合物は、治療有効量で患者に投与され得る。化合物は、単独で又は薬学的に許容される組成物若しくは製剤の部分として投与され得る。追加的に、化合物又は組成物は、例えばボーラス注射により、全て一度に、一連の錠剤などにより、複数回で投与され、又は、例えば経皮送達を使用して、時間的期間にわたり実質的に均一に送達され得る。化合物の用量は経時的に変更され得ることもまた留意される。
【0031】
本発明の化合物、又はその薬学的に許容される塩はまた、1つ以上の追加の薬学的に活性の化合物/剤と組み合わせて投与されてもよい。追加の薬学的に活性の化合物/剤は、伝統的な小さい有機化学的分子であってもよく、又は高分子、例えば、タンパク質、抗体、ペプチボディ、DNA、RNA若しくはそのような高分子の断片であり得ることが留意される。
【0032】
患者が複数の薬学的に活性の化合物を与えられる又は与えられている場合、化合物は、同時に、又は逐次的に投与され得る。例えば、錠剤の場合、活性化合物は、1つの錠剤中又は別々の錠剤中に見出されてもよく、別々の錠剤は、一度に又は任意の順序で逐次的に投与され得る。追加的に、組成物は異なる形態であってもよいことが認識されるべきである。例えば、1つ以上の化合物は錠剤を介して送達されてもよく、別のものは注射を介して、又はシロップとして経口的に投与されてもよい。全ての組合せ、送達方法及び投与順序が想定される。
【0033】
「がん」という用語は、制御されない細胞増殖により特徴付けられる哺乳動物における生理学的状態を指す。がんの一般的クラスとしては、癌腫、リンパ腫、肉腫、及び芽細胞腫が挙げられる。
【0034】
本発明の化合物は、がんを処置するために使用され得る。がんを処置する方法は、それを必要とする患者に治療有効量の化合物、又はその薬学的に許容される塩を投与することを含む。
【0035】
本発明の化合物は、腫瘍を処置するために使用され得る。腫瘍を処置する方法は、それを必要とする患者に治療有効量の化合物、又はその薬学的に許容される塩を投与することを含む。
【0036】
本発明はまた、がんなどの状態の処置用の医薬の製造における本発明の化合物の使用に関する。
【0037】
本発明の化合物を用いて処置され得るがんとしては、癌腫、例えば、膀胱、乳房、結腸、直腸、腎臓、肝臓、肺(小細胞肺がん、及び非小細胞肺がん)、食道、胆嚢、卵巣、膵臓、胃、頸部(cervix)、甲状腺、前立腺、及び皮膚(扁平細胞癌を含む)のがん;リンパ系列の造血腫瘍(白血病、急性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、有毛細胞リンパ腫及びバーケットリンパ腫を含む);骨髄系列の造血腫瘍(急性及び慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群及び前骨髄球性白血病を含む);間葉起源の腫瘍(線維肉腫及び横紋筋肉腫、及び他の肉腫、例えば、軟組織及び骨を含む);中枢及び末梢神経系の腫瘍(星状細胞腫、神経芽腫、神経膠腫及び神経鞘腫を含む);並びに他の腫瘍(黒色腫、精上皮腫、奇形癌腫、骨肉腫、色素性乾皮症(xenoderoma pigmentosum)、ケラトアカントーマ(keratoctanthoma)、甲状腺濾胞がん及びカポジ肉腫を含む)が挙げられるがそれに限定されない。本発明の化合物を用いて処置され得る他のがんとしては、子宮内膜がん、頭頸部がん、膠芽腫、悪性腹水、及び造血がんが挙げられる。
【0038】
本発明の化合物により処置され得る特定のがんとしては、軟組織肉腫、骨がん、例えば骨肉腫、乳房腫瘍、膀胱がん、リ-フラウメニ症候群、脳腫瘍、横紋筋肉腫、副腎皮質癌、結腸直腸がん、非小細胞肺がん、及び急性骨髄性白血病(AML)が挙げられる。
【0039】
がんの処置に関する本発明の特定の実施形態では、がんはp53野生型(p53WT)として同定される。別の特定の実施形態では、がんはp53WT及びCDKN2A突然変異体として同定される。別の態様では、本発明は、いずれの患者が本発明の化合物を投与されるべきかを決定するための診断を提供する。例えば、患者のがん細胞の試料が採取され、p53及び/又はCDKN2Aに関してがん細胞の状態を決定するために分析されてもよい。一態様では、p53WTであるがんを有する患者は、p53に関して突然変異したがんを有する患者よりも処置のために選択される。別の態様では、p53WTであり、及び突然変異体CDNK2Aタンパク質を有するがんを有する患者は、これらの特徴を有しない患者よりも選択される。分析用のがん細胞の採取は当業者に周知である。「p53WT」という用語は、ゲノムDNA配列番号NC_000017バージョン9(7512445..7531642)(GenBank)によりコードされるタンパク質;cDNA配列番号NM_000546(GenBank)によりコードされるタンパク質;又はGenBank配列番号NP_000537.3を有するタンパク質を指す。「CDNK2A突然変異体」という用語は、野生型ではないCDNK2Aタンパク質を意味する。「CDKN2A野生型」という用語は、ゲノムDNA配列番号9:21957751~21984490(Ensembl ID)によりコードされるタンパク質;cDNA配列番号NM_000077(GenBank)若しくはNM_058195 9GenBank)によりコードされるタンパク質;又はGenBank配列番号NP_000068若しくはNP_478102を有するタンパク質を指す。
【0040】
別の態様では、本発明は、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)経路中のタンパク質の阻害剤である1つ以上の医薬剤と組み合わせた本発明の化合物の使用に関する。PI3K経路中のタンパク質の阻害剤との本発明の化合物の組合せは、アポトーシス及び細胞殺傷の増進を含む、がん細胞増殖アッセイにおける相乗作用を示した。PI3K経路中のタンパク質の例としては、PI3K、mTOR及びPKB(Aktとしても公知)が挙げられる。PI3Kタンパク質は、α、β、δ、又はγを含むいくつかのアイソフォームにおいて存在する。本発明の化合物と組み合わせて使用され得るPI3K阻害剤は、1つ以上のアイソフォームについて選択的であり得ることが想定される。選択的とは、化合物が、他のアイソフォームよりも1つ以上のアイソフォームを阻害することを意味する。選択性は当業者に周知の概念であり、インビトロ又は細胞ベースのアッセイにおいて周知の活性を用いて測定され得る。好ましい選択性としては、他のアイソフォームに対して1つ以上のアイソフォームについて2倍より高い、好ましくは10倍より高い、又はより好ましくは100倍より高い選択性が挙げられる。一態様では、本発明の化合物と組み合わせて使用され得るPI3K阻害剤は、PI3Kα選択的阻害剤である。別の態様では、化合物はPI3Kδ選択的阻害剤である。
【0041】
本発明の化合物と組み合わせて使用され得るPI3K阻害剤の例としては、例えば、WO2010/151791、WO2010/151737、WO2010/151735、WO2010/151740、WO2008/118455、WO2008/118454、WO2008/118468、US20100331293、US20100331306、US20090023761、US20090030002、US20090137581、US20090054405、US20090163489、US20100273764、US20110092504、又はWO2010/108074に開示されるものが挙げられる。
【0042】
PI3K及びmTORの両方を阻害する化合物(二重阻害剤)が公知である。さらに別の態様では、本発明は、本発明の化合物と組み合わせて使用するための二重PI3K及びmTOR阻害剤の使用を提供する。
【0043】
mTORはPI3K経路中のタンパク質である。本発明の化合物と組み合わせてmTOR阻害剤を使用することは本発明の別の態様である。本発明の化合物と組み合わせて使用され得る好適なmTOR阻害剤としては、例えば、WO2010/132598及びWO2010/096314に開示されるものが挙げられる。
【0044】
PKB(Akt)もまたPI3K経路中のタンパク質である。本発明の化合物と組み合わせてmTOR阻害剤を使用することは本発明の別の態様である。本発明の化合物と組み合わせて使用され得るPKB阻害剤としては、例えば、US7,354,944、US7,700,636、US7,919,514、US7,514,566、US20090270445A1、US7,919,504、US7,897,619、及びWO2010/083246に開示されるものが挙げられる。
【0045】
本発明の組合せはまた、放射線療法、ホルモン療法、手術及び免疫療法と組み合わせて使用されてもよく、これらの療法は当業者に周知である。
【0046】
本発明の1つの態様は、別々に投与されてもよい薬学的に活性の化合物の組合せを用いる疾患/状態の処置を想定するので、本発明はさらに、別々の医薬組成物をキットの形態に組み合わせることに関する。キットは、2つの別々の医薬組成物:本発明の化合物、及び第2の薬学的化合物を含む。キットは、別々の組成物を含有するための容器、例えば、分割されたボトル又は分割されたホイルパケットを含む。容器の追加の例としては、シリンジ、ボックス及びバッグが挙げられる。典型的には、キットは、別々の成分の使用のための指示書を含む。別々の成分が、好ましくは、異なる投薬形態(例えば、経口及び非経口)において投与され、異なる投薬間隔で投与され、又は組合せの個々の成分の滴定が処方を行う医師若しくは獣医により所望される場合に、キットの形態は特に有利である。
【0047】
そのようなキットの例はいわゆるブリスターパックである。ブリスターパックは包装産業において周知であり、薬学的単位投薬形態(錠剤、及びカプセルなど)の包装のために広く使用されている。ブリスターパックは、一般に、好ましくは透明のプラスチック材料のホイルで覆われた比較的堅い材料のシートからなる。包装加工の間に、凹部がプラスチックホイル中に形成される。凹部は、包装される錠剤又はカプセルのサイズ及び形状を有する。次に、錠剤又はカプセルは凹部に置かれ、比較的堅い材料のシートは、凹部が形成された方向とは反対のホイルの面においてプラスチックホイルに対してシールされる。結果として、錠剤又はカプセルは、プラスチックホイルとシートとの間の凹部にシールされる。好ましくは、シートの強さは、凹部に手動で圧力を掛けることにより錠剤又はカプセルをブリスターパックから除去することができ、それにより凹部の場所においてシート中に開口部が形成されるようなものである。錠剤又はカプセルは次に、前記開口部を介して除去され得る。
【0048】
キット上に記憶補助を提供することが望ましいことがあり、記憶補助は、例えば、錠剤又はカプセルの隣の番号の形態であり、それにより、番号は、そのように指定された錠剤又はカプセルを摂取するべきレジメンの日と対応する。そのような記憶補助の別の例は、カード上に印刷されたカレンダーであり、これは例えば、「第1週、月曜日、火曜日、...など、第2週、月曜日、火曜日、...」などといったものである。記憶補助の他のバリエーションは容易に明らかであろう。「1日当たりの用量」は、所与の日に取るべき単一の錠剤若しくはカプセル又はいくつかの丸剤若しくはカプセルであり得る。また、本発明の化合物の1日当たりの用量は、1つの錠剤又はカプセルからなるものであり得、一方で、第2の化合物の1日当たりの用量は、いくつかの錠剤又はカプセルからなるものであり得、またその逆もあり得る。記憶補助は、これを反映し、活性剤の正しい投与を補助するべきである。
【0049】
本発明の別の特有の実施形態では、1日当たりの用量をそれらの意図される使用の順序で1つずつ分注するように設計されたディスペンサーが提供される。好ましくは、ディスペンサーは、レジメンの遵守をさらに促すように記憶補助を備えている。そのような記憶補助の例は、分注された1日当たりの用量の数を指し示す機械的カウンターである。そのような記憶補助の別の例は、液晶読出し、又は可聴式リマインダーシグナルと連結されたバッテリー駆動マイクロチップメモリーであり、該シグナルは、例えば、最後の1日当たりの用量が摂取された日時を読み出し、及び/又は次の用量を摂取するべき日時をリマインドする。
【0050】
本発明の化合物及び所望の場合には他の薬学的に活性の化合物は、経口的に、直腸内に、非経口的に(例えば、静脈内に、筋肉内に、若しくは皮下に)嚢内に、膣内に、腹腔内に、膀胱内に、局所的に(例えば、粉末、軟膏若しくは液滴)、又は頬側若しくは経鼻スプレーとして患者に投与され得る。薬学的に活性の剤を投与するために当業者により使用される全ての方法が想定される。
【0051】
非経口注射のために好適な組成物は、生理学的に許容される無菌の水性又は非水性の溶液、分散体、懸濁液、又はエマルション、及び無菌の注射可能な溶液又は分散体への再構成用の無菌粉末を含んでもよい。好適な水性及び非水性の担体、希釈剤、溶媒、又は媒体の例としては、水、エタノール、ポリオール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、及びグリセロールなど)、これらの好適な混合物、植物油(例えば、オリーブ油)並びに注射可能な有機エステル、例えばエチルオレエートが挙げられる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散体の場合には要求される粒子サイズの維持により、及び界面活性剤の使用により維持され得る。
【0052】
これらの組成物はまた、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、及び分散剤などの佐剤を含有してもよい。微生物夾雑は、様々な抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、及びソルビン酸などを加えることにより予防され得る。等張剤、例えば、糖、及び塩化ナトリウムなどを含めることもまた望ましいことがある。注射可能な医薬組成物の持続吸収は、吸収を遅延させる剤、例えば、アルミニウムモノステアレート及びゼラチンの使用によりもたらされ得る。
【0053】
経口投与用の固体投薬形態としては、カプセル、錠剤、粉末、及び顆粒が挙げられる。そのような固体投薬形態において、活性化合物は、少なくとも1つの不活性の慣習的な賦形剤(又は担体)、例えば、ナトリウムシトレート若しくは二カルシウムホスフェート又は(a)充填剤又は増量剤、例えば、デンプン、ラクトース、スクロース、マンニトール、及びケイ酸;(b)結合剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギネート、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース、及びアカシア;(c)湿潤剤、例えば、グリセロール;(d)崩壊剤、例えば、寒天、カルシウムカーボネート、ジャガイモ又はタピオカデンプン、アルギン酸、ある特定の複合シリケート、及びナトリウムカーボネート;(a)溶解制止剤(solution retarders)、例えば、パラフィン;(f)吸収促進剤、例えば、第四級アンモニウム化合物;(g)湿潤剤、例えば、セチルアルコール及びグリセロールモノステアレート;(h)吸着剤、例えば、カオリン及びベントナイト;並びに(i)潤滑剤、例えば、タルク、カルシウムステアレート、マグネシウムステアレート、固体ポリエチレングリコール、ナトリウムラウリルスルフェート、又はこれらの混合物と混合される。カプセル、及び錠剤の場合、投薬形態はまた、緩衝化剤を含んでもよい。類似した種類の固体組成物はまた、ラクトース又は乳糖などの賦形剤の他に、高分子量ポリエチレングリコールなどを使用して、軟質及び硬質充填ゼラチンカプセル中の充填剤として使用されてもよい。
【0054】
錠剤、糖衣錠、カプセル、丸剤、及び顆粒などの固体投薬形態は、コーティング及びシェル、例えば、腸溶性コーティング及び当該技術分野において周知の他のものを用いて調製され得る。それらはまた、乳白剤を含有してもよく、また、遅延された方式で腸管のある特定の部分において1つ以上の活性化合物を放出するような組成物であり得る。使用され得る包埋組成物の例は、ポリマー物質及びワックスである。活性化合物はまた、適切な場合、上記の賦形剤のうちの1つ以上とのマイクロカプセル化形態であり得る。
【0055】
経口投与用の液体投薬形態としては、薬学的に許容されるエマルション、溶液、懸濁液、シロップ、及びエリキシルが挙げられる。活性化合物に加えて、液体投薬形態は、当該技術分野において一般的に使用される不活性希釈剤、例えば、水又は他の溶媒、可溶化剤及び乳化剤、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチルカーボネート、エチルアセテート、ベンジルアルコール、ベンジルベンゾエート、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油、特に、綿実油、落花生油、トウモロコシ胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油、及びゴマ種子油、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール及びソルビタンの脂肪酸エステル、又はこれらの物質の混合物などを含有してもよい。
【0056】
そのような不活性希釈剤の他に、組成物はまた、佐剤、例えば、湿潤剤、乳化及び懸濁化剤、甘味剤、香味剤、並びに芳香剤を含み得る。懸濁液は、活性化合物に加えて、懸濁化剤、例えば、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール及びソルビタンエステル、微結晶セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、寒天、及びトラガカント、又はこれらの物質の混合物などを含有してもよい。
【0057】
直腸投与用の組成物は、好ましい坐剤であり、これは、通常の室温で固体であるが、体温で液体であり、したがって、直腸又は膣腔中で融解して活性成分を放出する、好適な非刺激性の賦形剤又は担体、例えば、ココアバター、ポリエチレングリコール又は坐剤ワックスと本発明の化合物を混合することにより調製され得る。
【0058】
本発明の化合物の外用投与用の投薬形態としては、軟膏、粉末、スプレー及び吸入剤が挙げられる。1つ以上の活性化合物は、生理学的に許容される担体、及び要求され得る任意の防腐剤、緩衝剤、又は噴射剤と無菌条件下で混合される。眼科用製剤、眼軟膏、粉末、及び溶液もまた本発明の範囲内にあるものとして想定される。
【0059】
本発明の化合物は、約0.1~約3,000mg/日の範囲内の投薬レベルで患者に投与され得る。約70kgの体重を有する通常のヒト成人について、体重1キログラム当たり約0.01~約100mgの範囲内の投薬量が典型的には十分である。使用され得る特有の投薬量及び投薬量範囲は多数の因子に依存し、該因子としては、患者の要求、処置されている状態又は疾患の重症度、及び投与されている化合物の薬理活性が挙げられる。特定の患者のための投薬量範囲及び最適な投薬量の決定は、当業者の技術的範囲内である。
【0060】
本発明の化合物は、薬学的に許容される塩、エステル、アミド又はプロドラッグとして投与され得る。「塩」という用語は、本発明の化合物の無機及び有機塩を指す。塩は、化合物の最終の単離及び精製の間にインサイチューで、又はその遊離塩基若しくは酸形態の精製された化合物を好適な有機若しくは無機塩基若しくは酸と反応させ、そのように形成された塩を単離することにより調製され得る。
【0061】
本発明の化合物の薬学的に許容されるエステルの例としては、C1-C8アルキルエステルが挙げられる。許容されるエステルとしてはまた、C5-C7シクロアルキルエステルの他に、アリールアルキルエステル、例えばベンジルが挙げられる。C1-C4アルキルエステルが一般的に使用される。本発明の化合物のエステルは、当該技術分野において周知の方法にしたがって調製されてもよい。
【0062】
本発明の化合物の薬学的に許容されるアミドの例としては、アンモニア、第一級C1-C8アルキルアミン、及び第二級C1-C8ジアルキルアミンに由来するアミドが挙げられる。第二級アミンの場合、アミンはまた、少なくとも1つの窒素原子を含有する5又は6員のヘテロシクロアルキル基の形態であってもよい。アンモニア、C1-C3第一級アルキルアミン及びC1-C2ジアルキル第二級アミンに由来するアミドが一般的に使用される。本発明の化合物のアミドは、当業者に周知の方法にしたがって調製されてもよい。
【0063】
「プロドラッグ」という用語は、インビボで変換されて本発明の化合物をもたらす化合物を指す。変換は、血液中の加水分解を通じてなど、様々な機構により起こってもよい。プロドラッグの使用の議論は、T.Higuchi and W.Stella,“Prodrugs as Novel Delivery Systems,” Vol.14 of the A.C.S.Symposium Series、及びBioreversible Carriers in Drug Design,ed.Edward B.Roche,American Pharmaceutical Association and Pergamon Press,1987において提供されている。
【0064】
実例を挙げると、本発明の化合物はカルボン酸官能基を含有するので、プロドラッグは、カルボン酸基の水素原子の、C1-C8アルキル、(C2-C12)アルカノイルオキシメチル、4~9個の炭素原子を有する1-(アルカノイルオキシ)エチル、5~10個の炭素原子を有する1-メチル-1-(アルカノイルオキシ)エチル、3~6個の炭素原子を有するアルコキシカルボニルオキシメチル、4~7個の炭素原子を有する1-(アルコキシカルボニルオキシ)エチル、5~8個の炭素原子を有する1-メチル-1-(アルコキシカルボニルオキシ)エチル、3~9個の炭素原子を有するN-(アルコキシカルボニル)アミノメチル、4~10個の炭素原子を有する1-(N-(アルコキシカルボニル)アミノメチル、3-フタリジル、4-クロトノラクトニル、ガンマ-ブチロラクトン-4-イル、ジ-N,N-(C1-C2)アルキルアミノ(C2-C3)アルキル(例えば、β-ジメチルアミノエチル)、カルバモイル-(C1-C2)アルキル、N,N-ジ(C1-C2)アルキルカルバモイル-(C1-C2)アルキル及びピペリジノ、ピロリジノ又はモルホリノ(C2-3)アルキルなどの基による置換により形成されるエステルを含み得る。
【0065】
本発明の化合物は、不斉又はキラル中心を含有してもよく、したがって、異なる立体異性体形態で存在してもよい。化合物の全ての立体異性体形態の他に、ラセミ混合物を含むこれらの混合物が本発明の部分を形成することが想定される。追加的に、本発明は、全ての幾何及び位置異性体を想定する。例えば、化合物が二重結合を含有する場合、シス型及びトランス型の両方(それぞれZ及びEと指定される)の他に、これらの混合物が想定される。
【0066】
ジアステレオマー混合物などの立体異性体の混合物は、クロマトグラフィー及び/又は分別結晶化などの公知の方法によりそれらの物理化学的な差異に基づいて個々の立体化学成分に分離され得る。エナンチオマーはまた、適切な光学活性化合物(例えば、アルコール)との反応によりエナンチオマー混合物をジアステレオマー混合物に変換すること、結果としてもたらされたジアステレオマーを分離すること、及び次に個々のジアステレオマーを対応する純粋なエナンチオマーに変換(例えば、加水分解)することにより分離され得る。
【0067】
本発明の化合物は、非溶媒和形態の他に、水(水和物)、及びエタノールなどの薬学的に許容される溶媒との溶媒和形態で存在してもよい。本発明は、本明細書に記載されるような溶媒和形態及び非溶媒和形態の両方を想定し、包含する。
【0068】
本発明の化合物は異なる互変異性体形態で存在し得ることも可能である。本発明の化合物の全ての互変異性体が想定される。例えば、テトラゾール部分の互変異性体形態の全てが本発明に含まれる。また、例えば、化合物の全てのケト-エノール又はイミン-エナミン形態は本発明に含まれる。
【0069】
本明細書に含有される化合物の名称及び構造は、化合物の特定の互変異性体に基づき得ることを当業者は理解されよう。特定の互変異性体のみのための名称又は構造が使用され得るが、他に記載されなければ、全ての互変異性体が本発明により包含されることが意図される。
【0070】
本発明は、合成化学者に周知のものなどの実験室技術を使用してインビトロで合成された化合物、又は代謝、発酵、及び消化などを通じて、インビボ技術を使用して合成された化合物を包含することもまた意図される。本発明の化合物は、インビトロ及びインビボ技術の組合せを使用して合成されてもよいこともまた想定される。
【0071】
本発明はまた、1つ以上の原子が、天然に通常見出される原子質量又は質量数とは異なる原子質量又は質量数を有する原子により置き換えられているという事実を除いて本明細書に記載の化合物と同一である、同位体標識化合物を含む。本発明の化合物に組み込まれ得る同位体の例としては、水素、炭素、窒素、酸素、リン、フッ素及び塩素の同位体、例えば、2H、3H、13C、14C、15N、16O、17O、18O、31P、32P、35S、18F、及び36Clが挙げられる。一態様では、本発明は、1つ以上の水素原子が重水素(2H)原子で置き換えられた化合物に関する。
【0072】
上述の同位体及び/又は他の原子の他の同位体を含有する本発明の化合物は本発明の範囲内である。本発明のある特定の同位体標識化合物、例えば、3H及び14Cなどの放射活性同位体が組み込まれたものは、薬物及び/又は基質組織分布アッセイにおいて有用である。トリチウム化、すなわち、3H、及び炭素-14、すなわち、14C、同位体は、調製及び検出の容易さのために特に好ましい。さらに、重水素、すなわち、2Hなどのより重い同位体での置換は、より高い代謝安定性の結果としてもたらされるある特定の治療的な利点、例えば、インビボ半減期の増加又は投薬量要求の低減をもたらすことができ、それゆえ一部の状況において好ましいことがある。本発明の同位体標識化合物は、一般に、容易に利用可能な同位体標識試薬で非同位体標識試薬を置換することにより調製され得る。
【0073】
本発明の化合物は、結晶状態及び非結晶状態を含む様々な固体状態で存在してもよい。本発明の化合物の異なる結晶状態(多形体とも呼ばれる)及び非結晶状態は、本明細書に記載されるような本発明の部分として想定される。
【0074】
本発明の化合物の合成において、ある特定の脱離基を用いることが望ましいことがある。「脱離基」(「LG」)という用語は、一般に、求核剤により置換可能な基を指す。そのような脱離基は当該技術分野において公知である。脱離基の例としては、ハライド(例えば、I、Br、F、Cl)、スルホネート(例えば、メシレート、トシレート)、スルフィド(例えば、SCH3)、N-ヒドロキシスクシンイミド(N-hydroxsuccinimide)、N-ヒドロキシベンゾトリアゾールなどが挙げられるが、それに限定されない。求核剤の例としては、アミン、チオール、アルコール、グリニャール試薬、及びアニオン種(例えば、アルコキシド、アミド、カルボアニオン)などが挙げられるがそれに限定されない。
【0075】
本明細書において参照される全ての特許、特許出願公開及び他の刊行物は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0076】
本出願に提示される特有の実験例は、本発明の特有の実施形態を示す。これらの例は代表的であることが意図され、いかなるようにも請求項の範囲を限定することは意図されない。
【0077】
1H-NMRスペクトルは、典型的には、z軸勾配を有するBruker 5mm PABBIプローブを備えた、500.13MHzの1H周波数で作動するBruker Avance III 500分光計システム(Bruker、Billerica、MA)、又はz軸勾配を有するBruker 5mm PABBOプローブを備えた、400.23MHzの1H周波数で作動するBruker Avance II若しくはAvance III 400分光計において獲得した。試料は、典型的には、NMR解析のために500μLのDMSO-d6又はCD3ODに溶解させた。1H化学シフトは、δ 2.50におけるDMSO-d6及びδ 3.30におけるCD3ODからの残留溶媒シグナルを参照している。
【0078】
著しいピークを一覧にしており、これは、典型的には、プロトンの数、多重度(s、シングレット;d、ダブレット;dd、ダブレットのダブレット;t、トリプレット;q、カルテット;m、マルチプレット;br s、ブロードシングレット)並びにヘルツ(Hz)でのカップリング定数を含む。電子イオン化(EI)質量スペクトルは、典型的には、Agilent Technologies 6140 Quadrupole LC/MS質量分光計(Agilent Technologies、Englewood、CO)において記録した。質量分析結果は、電荷に対する質量の比、場合によりこれに続いて、各イオンの相対量(括弧内)として報告される。以下の実施例における出発材料は、典型的には、Sigma-Aldrich、St.Louis、MOなどの商用の供給元から、又は刊行された文献の手順を介して入手可能なものである。
【0079】
X線粉末回折データ(XRPD)は、ブラウン検出器及びブラッグ-ブレンターノ反射幾何形状において作動するCu-Kα放射線供給源を備えたBruker D8 Discover X線回折システム(Bruker、Billerica、MA)を使用して得られた。2θ値は、一般に、±0.2°の誤差内まで正確である。試料は、一般に、平らな表面を得るためのわずかな圧力の適用以外のいかなる特殊な処理をすることなく調製された。試料は、他に記載されなければ、覆うことなく測定された。作動条件は、40kVのチューブ電圧及び40mAの電流を含んだ。可変発散スリットを3°ウィンドウと共に使用した。ステップサイズは、35.2秒のステップ時間と共に0.019°の2θであり、走査範囲は3~40.4°である。
【0080】
示差走査熱量測定(DSC)は、Perkin Elmer DSC-7又はTA Instruments Q2000機器を用いて実行した。試料は、20℃から約350℃まで5℃/分の温度勾配速度において閉じた金サンプルパン中で調製した。結晶性DHOのDSCサーモグラムは、73.86°における融点と共に
図19に示される。
【実施例】
【0081】
[実施例1]
選択された中間体を調製する方法
【0082】
【0083】
<ステップA.2-(3-クロロフェニル)-1-(4-クロロフェニル)エタノン>
【化7】
【0084】
ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド(117mLのテトラヒドロフラン中1M)をテトラヒドロフラン(58mL)中の2-(3-クロロフェニル)酢酸(10g、58.6mmol)の-78℃の溶液に1時間にわたり緩徐に加えた。-78℃で40分間撹拌した後に、テトラヒドロフラン(35mL)中のメチル4-クロロベンゾエート(10g、58.6mmol)の溶液を10分の期間にわたり加えた。反応液を-78℃で3時間撹拌し、次に25℃に温めた。25℃で2時間の後に、飽和水性塩化アンモニウム溶液を用いて反応液をクエンチし、テトラヒドロフランのほとんどを減圧下で除去した。エチルアセテート(2×100mL)を用いて残留物を抽出した。合わせた有機層を、飽和塩化ナトリウム溶液を用いて洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過し、濾液を濃縮した。生成物をエーテル/ペンタンから再結晶化させて2-(3-クロロフェニル)-1-(4-クロロフェニル)エタノンを白色固体として得た。
【0085】
<2-(3-クロロフェニル)-1-(4-クロロフェニル)エタノンを調製するための代替的な手順>
0℃のクロロベンゼン(170L、1684mol)、3-クロロフェニル酢酸(50Kg、293mol)、及びジメチルホルムアミド(0.7L、9mol)の混合物にチオニルクロリド(39.1Kg、329mol)を30分の経過にわたり加えた。混合物を15℃に温め、6h撹拌した。混合物を0℃に冷却し、塩化アルミニウム(43Kg、322mol)を1.5hの経過にわたり加えた。混合物を20℃に温め、15h撹拌した。水(200L)及びエタノール(200L)を混合物に加え、二相混合物を2h撹拌した。相を分離させ、有機相を、水性エチレンジアミンテトラ酢酸四ナトリウム塩(3重量%、200L)を用いて2回、及び水(200L)を用いて1回洗浄した。ヘプタン(1600L)を有機相に15分の経過にわたり加えた。懸濁液を30分間撹拌し、-5℃に冷却し、濾過した。濾過された材料を40℃で20h乾燥させた。2-(3-クロロフェニル)-1-(4-クロロフェニル)エタノンが83.6%の収率(67.4Kg)で単離された。1H NMR(500MHz,DMSO-d6,δ ppm):8.05(m,2H),7.62(m,2H),7.33(m,3H),7.21(br d,J=7.3Hz,1H),4.45(s,2H).MS(ESI)=265.1[M+H]+.
<ステップB:メチル4-(3-クロロフェニル)-5-(4-クロロフェニル)-2-メチル-5-オキソペンタノエート>
【0086】
【0087】
メチルメタクリレート(12.65mL、119mmol)をテトラヒドロフラン(283mL)中の2-(3-クロロフェニル)-1-(4-クロロフェニル)エタノン(30g、113mmol)(ステップAから)の溶液に加えた。カリウムtert-ブトキシド(1.27g、11.3mmol)を次に加え、反応液を室温で2日間撹拌した。溶媒を次に真空下で除去し、300mLのエチルアセテートで置き換えた。有機相をブライン(50mL)、水(3×50mL)、及びブライン(50mL)を用いて洗浄した。有機相をマグネシウムスルフェート上で乾燥させ、濾過し、真空下で濃縮してメチル4-(3-クロロフェニル)-5-(4-クロロフェニル)-2-メチル-5-オキソペンタノエートをジアステレオマーの約1:1の混合物として得た。1H NMR(400MHz,CDCl3,δ ppm):7.87(m,2H)、7.38(m,2H)、7.27-7.14(series of m,4H)、4.61(m,1H)、3.69(s,1.5H)、3.60(s,1.5H)、2.45(m,1H)、2.34(m,1H)、2.10(ddd,J=13.9,9.4,5.5Hz,0.5H)、1.96(ddd,J=13.7,9.0,4.3Hz,0.5H)、1.22(d,J=7.0Hz,1.5H)、1.16(d,J=7.0,1.5H).MS(ESI)=387.0[M+23]+.
<ステップC:(3S,5R,6R)-5-(3-クロロフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-3-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-2-オン及び(3R、5R,6R)-5-(3-クロロフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-3-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-2-オン>
【0088】
【0089】
メチル4-(3-クロロフェニル)-5-(4-クロロフェニル)-2-メチル-5-オキソペンタノエート(40g、104.0mmol)(ステップBから)を200mLの無水トルエンに溶解し、真空下で濃縮した。使用前に残留物を高真空下に2時間置いた。化合物を2×20gのバッチに分け、以下のように処理した:無水2-プロパノール(104mL)中のメチル4-(3-クロロフェニル)-5-(4-クロロフェニル)-2-メチル-5-オキソペンタノエート(20g、52.0mmol)を250mLのガラス水素化容器中でカリウムtert-ブトキシド(2.33g、20.8mmol)を用いて処理した。3.8mLのトルエン中のRuCl2(S-xylbinap)(S-DAIPEN)(0.191g、0.156mmol、Strem Chemicals,Inc.、Newburyport、MA)を加えた。1.5時間後に、容器を50psi(344.7kPa)に加圧し、水素を用いて5回パージし、室温で撹拌した。必要に応じて反応液に追加の水素を再補給した。3日後に、反応液を合わせ、50%の飽和塩化アンモニウム溶液及びエチルアセテートの間で分配した。水性層を、エチルアセテートを用いて抽出した。合わせた有機相を、ブラインを用いて洗浄し、マグネシウムスルフェート上で乾燥させ、濾過し、濃縮した。
【0090】
粗生成物(主に、(4R,5R)-イソプロピル4-(3-クロロフェニル)-5-(4-クロロフェニル)-5-ヒドロキシ-2-メチルペンタノエート)をテトラヒドロフラン(450mL)及びメタノール(150mL)に溶解した。水酸化リチウム(1.4M、149mL、208mmol)を加え、溶液を室温で24時間撹拌した。混合物を真空下で濃縮し、残留物をエチルアセテートに再溶解した。水性層が約1のpHを有するまで水性1N塩酸を撹拌と共に加えた。層を分離させ、有機相を、ブラインを用いて洗浄し、マグネシウムスルフェート上で乾燥させ、濾過し、濃縮した。材料を次に200mLの無水トルエンに溶解し、ピリジニウムp-トルエンスルホネート(PPTS、0.784g、3.12mmol)を用いて処理した。セコ酸が消費されるまで(約2時間)反応液を加熱してディーン-スターク条件下で還流させた。反応液を室温に冷却し、飽和ナトリウムビカーボネート(50mL)及びブライン(50mL)を用いて洗浄した。溶液をナトリウムスルフェート上で乾燥させ、濾過し、濃縮した。粗材料をシリカゲル上のフラッシュクロマトグラフィー(120gカラム;100%のジクロロメタンを用いて溶出)により精製した。(3S,5R,6R)-5-(3-クロロフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-3-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-2-オン及び(3R、5R,6R)-5-(3-クロロフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-3-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-2-オンが約94:6のエナンチオマー比及びメチルジアステレオマーの7:3混合物と共に白色固体として得られた。1H NMR(400MHz,CDCl3,δ ppm):7.22-6.98(series of m,5H)、6.91(dt,J=7.4,1.2Hz,0.3H)、6.81(m,2H)、6.73(dt,J=7.6,1.4Hz,0.7H)、5.76(d,J=4.1Hz,0.3H)、5.69(d,J=4.7Hz,0.7H)、3.67(dt,J=6.6,4.3Hz,0.3H)、3.55(td,J=7.8,4.7Hz,0.7H)、2.96(d of quintets,J=13.5,6.7Hz,0.7H)、2.81(m,0.3H)、2.56(dt,J=14.3,8.0Hz,0.7H)、2.32(dt,J=13.69,7.0Hz,0.3H)、2.06(ddd,J=13.7,8.4,4.1,0.3H)、1.85(ddd,J=14.1,12.5,7.4,0.7H)、1.42(d,J=7.0Hz,0.9H)、1.41(d,J=6.7Hz,2.1H).MS(ESI)=357.0[M+23]+.[α]D(22℃,c=1.0,CH2Cl2)=-31.9°;m.p.98-99℃.
<ステップD。(3S,5R,6R)-3-アリル-5-(3-クロロフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-3-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-2-オン>
【0091】
【0092】
-35℃(アセトニトリル/ドライアイス浴)のテトラヒドロフラン(22mL)中の(3S,5R,6R)-5-(3-クロロフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-3-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-2-オン及び(3R,5S,6S)-5-(3-クロロフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-3-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-2-オン(4.5g、13.4mmol)(ステップCから)及び臭化アリル(3.48mL、40.3mmol)の溶液をテトラヒドロフラン中のリチウムビス(トリメチルシリル)アミド(1.0M、17.45mL、17.45mmol)の溶液を用いて処理した。反応液を-5℃に1時間にわたり温め、次に50%の飽和塩化アンモニウムを用いてクエンチした。反応液を100mLのエチルアセテートを用いて希釈し、層を分離させた。有機相を、ブラインを用いて洗浄し、マグネシウムスルフェート上で乾燥させ、濾過し、真空下で濃縮することにより、真空下の静置で白色固体として表題化合物を得た。Chiral SFC(92%のCO2、8%のメタノール(20mMのアンモニア)、5mL/分、Phenomenex Lux-2カラム(Phenomenex、Torrance、CA)、100バール(10,000kPa)、40℃、5分の方法)を使用して、化合物は96:4のエナンチオマー比を有することを決定した。(メジャーエナンチオマー:表題化合物、保持時間=2.45分、96%;マイナーエナンチオマー(構造は示さず、保持時間=2.12分、4%)。(3S,5R,6R)-3-アリル-5-(3-クロロフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-3-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-2-オンを還流でのヘプタン(40mL中4.7gのスラリー)への添加により再結晶化させ、続いて滴下での1.5mLのトルエンの添加により可溶化した。溶液を0℃に冷却した。結果としてもたらされた白色固体を濾過し、20mLの冷ヘプタンを用いてすすいで白色粉末を得た。Chiral SFC(92%のCO2、8%のメタノール、PhenomenexLux-2カラム、上記と同じ方法)は99.2:0.8のエナンチオマー比を指し示した。(メジャーエナンチオマー、2.45分、99.2%;マイナーエナンチオマー:2.12分、0.8%)。1H NMR(400MHz,CDCl3,δ ppm):7.24(ddd,J=8.0,2.0,1.2Hz,1H)、7.20-7.15(series of m,3H)、6.91(t,J=2.0Hz,1H)、6.78(br d,J=7.6Hz,1H)、6.60(m,2H)、5.84(ddt,J=17.6,10.2,7.4Hz,1H)、5.70(d,J=5.3Hz,1H)、5.21-5.13(series of m,2H)、3.82(dt,J=11.7,4.5Hz,1H)、2.62(ABXJAB=13.7Hz,JAX=7.6Hz,1H)、2.53(ABX,JAB=13.9Hz,JBX=7.2Hz,1H).1.99(dd,J=14.1,11.9Hz,1H),1.92(ddd,J=13.9,3.9,1.2Hz,1H).13C NMR(CDCl3、100MHz、δ ppm):175.9、140.2、134.5、134.3、134.0、132.2、129.8、128.6、128.0、127.9、127.8、126.4、119.9、83.9、44.5、42.4、40.7、31.8、26.1.MS(ESI)=375.2[M+H]+.IR=1730cm-1.[α]D(24℃,c=1.0,CH2Cl2)=-191°.m.p.111-114℃.
<(3S,5R,6R)-3-アリル-5-(3-クロロフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-3-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-2-オンを調製するための代替的な手順>
【0093】
【0094】
<ステップ1:イソプロピル4-(3-クロロフェニル)-5-(4-クロロフェニル)-2-メチル-5-オキソペンタノエート>
【0095】
【0096】
THF(325L)中の2-(3-クロロフェニル)-1-(4-クロロフェニル)エタノン(ステップA)(67.4Kg、255mol)の溶液を共沸的に乾燥させて、0.05重量%のカールフィッシャー(Karl Fisher)による水含有量を達成した。メチルメタクリレート(25.8Kg、257mol)を溶液に加え、混合物を45℃に加熱した。カリウムtert-ブトキシドの溶液(THF中20重量%、14.3Kg、25mol)を30分の経過にわたり加え、混合物を6h撹拌した。混合物を次に10℃に冷却し、クエン酸一水和物の水性溶液(20重量%、35L)を5分未満で加えた。イソプロピルアセテート(400L)及び水性塩化ナトリウム溶液(20重量%、300L)を加えた。混合物を15分間撹拌し、相を分離させた。有機相を減圧下で蒸留して560Lの蒸留物体積を生成すると同時に、イソプロパノール(350L)を加えてイソプロパノール中のメチル4-(3-クロロフェニル)-5-(4-クロロフェニル)-2-メチル-5-オキソペンタノエートの溶液(54重量%、140kgの総溶液質量)を製造した。溶液は、カールフィッシャーによる0.01重量%の水含有量を有していた。追加のイソプロパノール(420L)及び硫酸(53Kg、535mol)を溶液に加えた。混合物を温めて還流させ、12h撹拌し、その間に200Lの溶媒が蒸留され、200Lの新鮮なイソプロパノールを混合物に加えた。混合物を次に20℃に冷却し、水(180L)を30分の経過にわたり加えた。イソプロピルアセテート(270L)を加え、混合物を30分間撹拌した。相を分離させ、水性相を、イソプロピルアセテート(100L)を使用して抽出した。合わせた有機相を、水(200L)を用いて4回洗浄した。有機相を減圧下で蒸留して500Lの蒸留物体積を生成すると同時に、イソプロパノール(50L)を加えてイソプロパノール中のイソプロピル4-(3-クロロフェニル)-5-(4-クロロフェニル)-2-メチル-5-オキソペンタノエートの溶液(60重量%、134kgの総溶液質量)を得た。溶液は、カールフィッシャーによる0.02重量%の水含有量を有していた。イソプロピル4-(3-クロロフェニル)-5-(4-クロロフェニル)-2-メチル-5-オキソペンタノエートが81%の全体収率でジアステレオ異性体のおおよそ1:1の混合物として得られた。1H NMR(400MHz,CDCl3,δ ppm):7.70-7.80(m,2H)、7.22-7.28(m,2H)、7.00-7.18(series of m,4H)、4.78-4.96(m,1H)、4.42-4.50(m,1H)、2.02-2.30(m,2H)、1.80-1.95(m,1H)、0.99-1.19(m,15H).
<ステップ2。(3S,5R,6R)-3-アリル-5-(3-クロロフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-3-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-2-オン>
【0097】
【0098】
イソプロパノール中のイソプロピル4-(3-クロロフェニル)-5-(4-クロロフェニル)-2-メチル-5-オキソペンタノエート(ステップ1から)の脱気した溶液(60重量%、252kgの総溶液質量、151Kgのイソプロピルエステル出発材料、385mol)に脱気したイソプロパノール(900L)及びカリウムtert-ブトキシド(13Kg、116mol)を加えた。イソプロパノール(25L)中の(S)-RUCY(R)-XylBINAP(RuCl[(S)-diapena][(S)-xylbinap]としても公知(230g、0.2mol、触媒、Takasago International Corporation、Rockleigh、NJ)の別々に調製した脱気した溶液。混合物を5バール(500kPa)で水素を用いて4回パージし、20℃で5.5h撹拌した。水素加圧を中止し、混合物を、窒素を用いて脱気した。テトラヒドロフラン(460L)を混合物に加えた。水(305L)中の水酸化リチウム(24Kg、576mol)の溶液を40分の経過にわたり反応混合物に加え、結果としてもたらされた混合物を20℃で24h撹拌した。水(690L)中の濃塩酸(79.3Kg、11.4M、740mol)の溶液を2hの経過にわたり混合物に加えた。トルエン(580L)を加え、混合物を次に30分間撹拌し、相を分離させた。水性相を、トルエン(700L)を使用して抽出した。合わせた有機層を塩化ナトリウムの水性溶液(25重量%、700Kg)を用いて洗浄した。同時にトルエン(800L)を加えながら、有機相を大気圧及び100℃で蒸留して2700Lの蒸留物体積を生成した。この溶媒交換後に0.05重量%未満のイソプロパノール又は水(カールフィッシャーによる)が混合物中に残留した。カルボニルジイミダゾール(59Kg、365mol)を2hの経過にわたりトルエン溶液に加え、混合物を20℃でさらに2時間撹拌した。混合物を次に10℃に冷却し、20℃より低い混合物の温度を維持しながら水(400L)中のオルトリン酸(72Kg、545mol)の溶液を1hの経過にわたり加えた。混合物を30分間撹拌し、相を分離させ、有機層を塩化ナトリウム(25重量%、484Kg)の水性溶液を用いて洗浄した。トルエン(400L)を大気圧及び110℃で蒸留した。20℃への溶液の冷却後に、テトラヒドロフラン(500L)を加え、カールフィッシャーによる水含有量を測定したところ0.03重量%であった。生成物溶液を-10℃に冷却し、テトラヒドロフラン(50L)中の溶液臭化アリル(66.8Kg、552mol)を加えた。トルエン中のリチウムヘキサメチルジシラジド溶液(255Kg、26重量%、492mol)を6hの経過にわたり加え、混合物を-10℃で1h撹拌した。混合物を0℃に温め、オルトリン酸(40重量%、400mol)の水性溶液を3hの経過にわたり加えた。混合物を20℃に温めた。水(200L)及びジクロロメタン(400L)を加えた。混合物を15分間撹拌し、相を分離させた。溶液を大気圧及び100℃で蒸留して1350Lの蒸留物体積を生成させ、混合物中の残留トルエンは9.8重量%であると測定された。混合物を70℃に冷却した。ジイソプロピルエーテル(85L)、水(26L)、及びイソプロパノール(65L)を加えた。混合物を35℃に冷却し、9h撹拌し、30℃に冷却し、濾過した。濾過された材料を、ヘプタン(80L)を用いて3回洗浄した。固体を55℃で48時間乾燥させて、63%の全体収率で90.1Kgの(3S,5R,6R)-3-アリル-5-(3-クロロフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-3-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-2-オンを得た。キラルHPLCは、99.95:0.05のエナンチオマー比を指し示した。
【0099】
[実施例2]
<化合物Aを作るファースト・イン・ヒューマンの方法及び商用の方法の間の差異>
DLACのグラムスケール合成が以前に報告されている。Sun et al.,J.Med.Chem.2014,57,1454を参照。この研究に基づいて、化合物Aをスキーム1に示されるファースト・イン・ヒューマン(FIH)合成方法により調製した。中間体OXOSをこの方法のための規制的な出発材料として使用した。高温で過剰なL-バリノール(3当量)を使用するDLACの開環はアミドABAをもたらし、これをジクロロメタンに抽出した。過剰なL-バリノールを、水性塩酸洗浄を使用して除去し、生成物溶液を精製無しでその後のステップに用いた。この変換において使用されたL-バリノールの量の低減をこの原材料の高いコストを考慮して将来的な開発目的として同定した。顕著なことに、化合物Aのカルボン酸と同じ酸化状態の基を含有する側鎖を持つ対応するDLACアナログDLAC1又はDLAC2からのABAアナログABA1又はABA2の調製は、望ましくないスクシンイミドSUC1又はSUC2の形成に起因して成功しなかった。所望の生成物ABA1-ABA2の形成及び副生成物SUC1-SUC2へのそれらの変換について観察された類似した速度を考慮して、許容される収率でアミドABA1-ABA2を単離することはできなかった。
【0100】
スキーム1。化合物Aを製造するためのファースト・イン・ヒューマンの方法
【0101】
【0102】
スキーム2。ABAのアナログの調製の試み(k1≒k2)
【0103】
【0104】
オキソイミニウム塩OXOSを高温で2当量のトルエンスルホン酸無水物及び2,6-ルチジンを用いた二重活性化によりABAから調製した。そのように調製された陽イオンを2-ナフチルスルホン酸塩として単離し、これは満足のいく不純物除去特性を与えた。トルエンスルホン酸無水物(TsO2)に対する代替的な試薬を同定することが複数の理由から想定され、これには、高温(120℃)においてOXOSへの遅い変換を起こす長期持続性トシレート中間体DHO-OTsを排除する必要性が含まれた。この中間体(DHO-OTs)はアルキル化剤であり、そのため、潜在的に突然変異誘発性の不純物である。考えられる1つの可能なオプションは、結晶性中間体DHOを単離(スキーム3)して、製造シークエンスのための不純物の有効な除去に対する制御を増加させることであった。しかしながら、これは、第二級ベンジルアルコールの存在下でABAの第一級アルコールの選択的な化学選択的活性化を可能とする試薬の使用を必要とした。スルホン酸無水物試薬はこの利点を与えなかった。
【0105】
スキーム3。Ts2Oを使用するABAからのOXOSの調製における中間体
【0106】
【0107】
OXOSからのSULの調製をナトリウムt-ブトキシドの存在下でのイソプロピルスルフィン酸を用いるOXOSの処理により実行した。この変換は、スルフィネート中間体(SULFI)のジアステレオマー対の可逆的な形成及び熱力学的生成物SULへのその後の転位を介して進行し、SULはアセトニトリル及び水から結晶化される(スキーム4)。ALC副生成物は、水の存在下でこれらの条件下で非可逆的に形成された。20℃で油のイソプロピルスルフィン酸をイソプロピルマグネシウムクロリドから調製し、水性ワークアップ後に単離した。望ましくないALC副生成物の大量の生成を回避するためにこの試薬の共沸乾燥がSULの形成における使用の前に必要であった。しかしながら、イソプロピルスルフィネートは、乾燥時に不均化を介して分解することが観察されたため、このユニット操作を回避した。結果として、乾燥条件下で安定であり、商用の規制的な出発材料として指定され得るイソプロピルスルフィン酸の安定な結晶性塩の発見を探索した。又は、水性ワークアップ及びOXOSとのさらなる反応無しのイソプロピルマグネシウムクロリドからのスルフィン酸塩のインサイチュー調製の方法を検討した。
【0108】
スキーム4。OXOSからのSULの調製において生成される中間体及び副生成物
【0109】
【0110】
SULのアルケン基の酸化を触媒性塩化ルテニウム(2mol%)及び過剰なナトリウムペリオデート(5当量)を用いる処理を介して実行した。粗生成物を結晶性のエタノール溶媒和物として単離した。このステップのいくつかの特徴は望ましくないことが観察された。第1に、このステップにおいて使用された重金属は除去される必要があり、これはファースト・イン・ヒューマン送達のためにDARCO-G樹脂を使用して達成された。追加的に、この処理を実行するために複数当量のナトリウムペリオデートが必要であり、不純物形成を最小化するために試薬を反応容器に小分けで補給する必要があった。変換のために利用された大量の塩を除去するために複雑な下流の処理プロトコール(抽出及び濾過)が要求された。さらに、複数の二量体不純物がこの変換ステップにおいて生成され、それにより薬物物質の純度を制御することが課題となった。結晶性制御点としての化合物Aのエタノール溶媒和物の使用は問題があり、混合物中に存在する不純物の除去においてやや有効であるに過ぎなかった。追加的に、結晶化処理は、濾過の間の高い母液損失を軽減するために必要な低いエタノール濃度(5%v/v)に起因して蒸発性の処理として実行される必要があった。結晶化処理におけるエタノールの使用はまた、30℃より高い温度における対応するエチルエステルの望ましくない形成及び所望のエタノール溶媒和物からのエチルエステルの除去において経験される困難に起因して処理の堅牢性を低減することが観察された。同様に、メタノールが化合物Aの結晶化において使用された場合、これもまた薬物物質からの単離除去が困難である高温での対応するメチルエステルの形成は、殊にマルチグラムスケールでの作業の場合に、結晶化のためのこの経路の実行可能性を著しく低減した。そのため、SULからの化合物Aの調製のためのより一貫した環境に優しい酸化処理の開発の他に、不可欠な属性の有効な制御を呈する薬物物質を単離するための堅牢な手順の生成が商業的に実行可能な処理の部分として求められた。
【0111】
【0112】
[実施例3]
<中間体OXOSを調製する商用の方法の開発>
L-バリノールを用いたDLACのABAへの熱アミド化は、中間体エステルESTを介する複数ステップの機構を通じて進行した(スキーム5)。DLACのESTへの初期エステル交換反応は、アミド生成物ABAへの転位の前のESTの蓄積に繋がる可逆的な過程(2当量のL-バリノールを用いてk
1>k
-1)であることが決定された。60℃で反応を行うと、DLACのESTへの急速な変換が反応の開始において観察され、続いて数日の経過にわたるESTのABAへの遅い変換が起こる(k
1>k
2)(
図1)。高温(115℃)において(
図2)、ESTのより安定なABAへの転位はより速く、ESTの濃度を増加させることにより反応の全体的な速度における増加を結果としてもたらす。
【0113】
スキーム5。DLACのABAへの熱アミド化の速度論
【0114】
【0115】
FIH方法は、110℃でのDLACのABAへの急速な変換を確実にするために3当量のL-バリノールを用いる熱融解を利用した。この変換の我々の機構的な理解と合致して、DLACのESTへの変換(k1)はESTの相対濃度に直接的に影響するので、L-バリノールローディングの減少(3当量から2当量へ)は反応の全体的な速度低下を結果としてもたらした。2当量のL-バリノールを使用した場合、反応は、反応の均質性を確実にするためにトルエン(1体積)を用いながら115℃での変換に達するために72時間を要求することが観察された。このより長い処理時間は、しかしながら、著しいコストの低減に基づいて正当化可能であると考えられ得る。過剰なL-バリノールの排除は、トルエン(4体積)の添加及び水性塩酸溶液を用いる有機混合物のその後の洗浄により達成された。結果としてもたらされた有機溶液を共沸的に乾燥させ、ポリッシング濾過して、ABAを91%のアッセイ収率で2.7LC面積%のDHO、1.0LC面積%の出発材料DLAC、及び1.0LC面積%のESTを含有するトルエン中の28重量%の溶液として得た。より高い温度でDHOを直接的に調製するためのABAの熱分解は、生成物の複雑な混合物に繋がった。
【0116】
中間体DHOの単離は、処理ストリームから不純物を除去し、市場応用のために薬物物質を送り込むための全体的な制御手順を強化するための追加の機会を提供した。この手順にとって最も重要な点は、結晶形態のDHOの単離を可能にするABAの第一級アルコールの化学選択的活性化(条件A)の開発を通じてABAのOXOSへの脱水的な二重環化を連結解除して2つの別個の単環化反応とする条件の同定であった(スキーム6)。
【0117】
スキーム6。ABAのOXOSへの逐次的な脱水
【0118】
【0119】
スルホニルクロリド及びスルホン酸無水物試薬は、ABAの第一級及び第二級アルコールの間の識別において非選択的であることが見出され、無水試薬として調達することが困難であった。さらには、酸触媒の使用もまた、生成物の複雑な混合物をもたらした。しかしながら、ビルスマイヤー塩試薬、メトキシメチレン-N,N-ジメチルイミニウムメチルスルフェートは、所望の選択性の達成に成功した。この試薬は、水分を除外するために採られる特殊な注意無しで容易に調製され、力価の低下させることなく数か月間20℃で貯蔵することができる。追加的に、それは、一般的なハライド由来のビルスマイヤー塩クロロメチレン-N,N-ジメチルイミニウムクロリドと比較してより穏やかな反応性を呈し、化学選択性を向上させ、また、アルキルハライド副生成物の形成を回避した。トルエン中でメトキシメチレン-N,N-ジメチルイミニウムメチルスルフェートを使用するABAからのDHOの形成を25℃で様々な穏やかな無機塩基の存在下で評価し、DHOへの変換を記録した(スキーム7)。反応は、KOAcを用いて最良に行われることが観察されたが、その低い吸湿性及びコストを考慮してNaOAcが好ましかった。
【0120】
スキーム7。ABAのDHOへの単環化における様々な塩基の評価
【0121】
【0122】
【0123】
この変換の所望の化学選択性は、不安定なイミデート中間体の生成を通じてアルコールとの動的なエステル交換反応を起こすメトキシメチレン-N,N-ジメチルイミニウムメチルスルフェートの独特の能力を通じて達成される。この可逆性について、イミデートIMIを生成する重水素化試薬DEUとの4-クロロベンジルアルコール(CHA)の活性化において調べ、2.5/1のCHA/IMIの比で平衡化することが見出された(スキーム8)。この観察に基づいて、IMABAは反応の間に低濃度で存在し、ペンダントアミドとの急速な分子内置換を起こしてオキサゾリンDHOを生成することが提唱される(スキーム8)。ABA基の第二級アルコール基の誘導体化により形成されるいかなるイミデートも、稼働反応温度(30℃)においてOXOSへのさらなる環化を起こさない。
【0124】
スキーム8。ビルスマイヤー試薬を用いたアルコールの可逆的な活性化
【0125】
【0126】
平衡溶解度測定を様々な溶媒中でDHOについて集めた。そのため貧溶媒選択された水(<0.1mg/mL)を除いて、得られた全ての値は20℃で20mg/mLより高い(ヘプタンを含む)ことが観察された。アセトニトリルは、水と組み合わせた場合に不純物の簡易な除去を結果としてもたらすので、それを結晶化用の溶媒として選択した。結晶化処理における異なる時点の溶解度値を示す曲線を
図3に提示する。このプロトコールを使用して、結晶性DHOを88%の収率でDLACから>98LC面積%で単離した(スキーム9)。
【0127】
結晶性DHOの反射PXRDパターン(
図17)を獲得するためにBruker D8粉末X線回折計を使用し、これはBraun検出器及びブラッグ-ブレンターノ反射幾何形状において作動するCu-Kα放射線供給源を備えていた。得られた2シータ(2θ)値は、一般に、±0.2°の誤差内まで正確であった。試料は、一般に、平らな表面を達成するためのわずかな圧力の適用以外のいかなる特殊な処理無しで調製された。試料は、他に記載されなければ、覆うことなく測定された。作動条件は、40kVのチューブ電圧及び40mAの電流を含んだ。可変発散スリットを3°ウィンドウと共に使用した。ステップサイズは、35.2秒のステップ時間と共に0.019°の2θであった。試料は測定の間に静的であった。
【0128】
表2に列記されるピークは、結晶性DHOのPXRDパターンにおいて同定された。
【0129】
【0130】
スキーム9。DLACからDHOを調製するための商用の方法
【0131】
【0132】
ABAのOXOSへの二重の脱水環化が連結解除されたが、DHOをOXOSに変換する方法の開発が必要であった。潜在的に突然変異誘発性のメシレート中間体DHO-OMsは75℃で10時間のうちに完全に消費されるので、メタンスルホン酸無水物(Ms2O)はTs2Oと比較してOXOSへのより速い変換を提供することが見出された。この向上は、DHO-OTsのOXOSへの環化に関与するものと比較してDHO-OMsからOXOSに繋がる転移状態において経験される低減した立体障害に起因する可能性がある。変換は、トルエン中で塩基として2,6-ルチジンを用いて良好に進行することが見出された。求核性の有機塩基及び無機塩基は、生成物の望ましくない複雑な混合物をもたらした。変換の間に生成されるOXOSのメシル酸塩は、トルエン中で可溶性に乏しく、反応が進むにつれて別々の液層を形成する。さらなる処理を可能にするために、水性硫酸洗浄を使用するメシル酸塩の除去の前にジクロロメタン(8V)を用いて反応混合物を希釈することが必要である。水性ナトリウム1-ナフタレンスルホネートを用いる塩メタセシスに続いてジクロロメタンの蒸留を行ったところ、DHOから90%の収率、99.5LC面積%、及び99.7重量%での1-ナフタレンスルホネートトルエンヘミ溶媒和物OXOS塩の結晶化に繋がった(スキーム10)。
【0133】
スキーム10。DHOからOXOSを調製するための商用の方法
【0134】
【0135】
以下の実験手順はOXOSの調製を示す。
【0136】
【0137】
N,N-ジメチルホルムアミドジメチルスルフェート付加体:還流コンデンサー及びオーバーヘッド撹拌シャフトを取り付けた500mL Atlas反応器に窒素雰囲気下でジメチルスルフェート(200.0mL、2.11mol、1.0当量)を入れた。反応器の内容物を60℃に温めた。DMF(200.0mL、2.56mol、1.2当量)を滴下で60分(3.3mL/分)にわたり加えた。添加が完了したら、反応液を60℃で2時間撹拌した。反応が完了したら、反応液を室温に冷却して、残留DMF中の溶液としてN,N-ジメチルホルムアミドジメチルスルフェート付加体を得た(402.6g、2.02mol、95.8%のアッセイ収率、DMF中82.8重量%)。
【0138】
【0139】
(S)-2-((2R,3R)-2-(3-クロロフェニル)-3-(4-クロロフェニル)-3-ヒドロキシプロピル)-N-((S)-1-ヒドロキシ-3-メチルブタン-2-イル)-2-メチルペンタ-4-エンアミド(ABA):還流コンデンサー及びオーバーヘッド撹拌シャフトを取り付けた5L ChemGlass反応器に窒素雰囲気下で(3S,5R,6R)-3-アリル-5-(3-クロロフェニル)-6-(4-クロロフェニル)-3-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-2-オン(DLAC)(201.8g、0.53mol、98.6重量%、1.0当量)、L-バリノール(110.8g、1.06mol、2.0当量)、及びトルエン(205mL、1mL/g)を入れた。反応器の内容物を、撹拌を続けながら還流(115℃)下で72時間加熱した。反応が完了したら、反応液を室温に冷却し、トルエン(800mL、5mL/g)を用いて希釈した。1N HCl(1000mL、5mL/g)の小分けの添加により反応をクエンチした。相を分け、その後にブラインを用いて2回(2×400mL、2mL/g)有機層を洗浄した。有機相をマグネシウムスルフェート上で乾燥させ、トルエンを用いてすすぎながらポリッシングフィルター(粗多孔性)を通して濾過し、約800mLの体積まで濃縮してABAをトルエン中の溶液として得た(229.4g、0.48mol、90.5%のアッセイ収率、トルエン中27.9重量%)。1H NMR(400MHz,CHLOROFORM-d)δ ppm:7.05-7.19(m,5H)、6.95(d,J=8.50Hz,2H)、6.84(d,J=7.67Hz,1H)、5.85(d,J=8.09Hz,1H)、5.57(ddt,J=17.13,9.98,7.28,7.28Hz,1H)、4.91-5.03(m,2H)、4.71(d,J=4.77Hz,1H)、3.66(br s,1H)、3.57-3.63(m,1H)、3.51-3.53(m,1H)、3.42-3.46(m,1H)、3.19(br s,1H)、2.97(dt,J=7.93,4.95Hz,1H)、2.36(dd,J=13.89,7.05Hz,1H)、2.13(dd,J=14.62,4.87Hz,1H)、1.96-2.01(m,1H)、1.87-1.92(m,1H)、1.71-1.82(m,1H)、1.10(s,3H)、0.88(d,J=7.05Hz,3H)、0.86(d,J=7.05Hz,3H).13C NMR(101MHz,CHLOROFORM-d)δ ppm:177.47、142.83、140.46、133.79、133.67、133.00、129.49、129.12、127.96、127.93、127.68、126.88、118.64、75.91、63.44、56.94、49.51、45.17、42.13、39.59、29.06、24.07、19.40、18.72.
【0140】
【0141】
(1R,2R,4S)-2-(3-クロロフェニル)-1-(4-クロロフェニル)-4-((S)-4-イソプロピル-4,5-ジヒドロオキサゾール-2-イル)-4-メチルヘプタ-6-エン-1-オール(DHO):還流コンデンサー及びオーバーヘッド撹拌シャフトを取り付けた5L ChemGlass反応器に窒素雰囲気下で(S)-2-((2R,3R)-2-(3-クロロフェニル)-3-(4-クロロフェニル)-3-ヒドロキシプロピル)-N-((S)-1-ヒドロキシ-3-メチルブタン-2-イル)-2-メチルペンタ-4-エンアミド(ABA)(229.4g、0.48mol、トルエン中27.9重量%、1.0当量)及びトルエン(1145mL、5mL/g)を入れた。(注記:ABAは685mLの残留トルエンを含有するトルエン中のストック溶液として得られるので、必要とされる追加のトルエンの量は460mLである)。反応器の内容物を30℃に温めた。NaOAc(48.3g、0.59mol、1.2当量)及びN,N-ジメチルホルムアミドジメチルスルフェート付加体(174.1g、0.72mol、82.8重量%、1.5当量)を反応液に逐次的に加えた。30℃で2時間撹拌した後に、反応液を室温に冷却した。反応を飽和水性NH4Cl(750mL、3mL/g)及びH2O(500mL、2mL/g)を用いてクエンチした。相を分け、その後にブラインを用いて2回(2×750mL、3mL/g)有機層を洗浄した。有機相をマグネシウムスルフェート上で乾燥させ、トルエンを用いてすすぎながらポリッシングフィルター(粗多孔性)を通して濾過し、真空中で濃縮した。粗残留物をMeCN:H2O(50:50)から再結晶化させてDHOを白色結晶性固体として得た(206.5g、0.45mol、重量%により補正して2ステップで87.7%の収率)。1H NMR(400MHz,CHLOROFORM-d)δ ppm:7.07-7.21(m,5H)、6.99(d,J=8.29Hz,2H)、6.88(d,J=7.10Hz,1H)、5.44-5.55(m,1H)、4.83-4.97(m,2H)、4.73(d,J=5.60Hz,1H)、4.42(br s,1H)、4.03(dd,J=8.91,7.67Hz,1H)、3.63-3.76(m,2H)、3.15-3.21(m,1H)、2.35(dd,J=13.89,7.26Hz,1H)、2.13-2.18(m,1H)、2.07-2.12(m,1H)、1.84(dd,J=14.72,8.09Hz,1H)、1.48-1.60(m,1H)、1.09(s,3H)、0.94(d,J=6.63Hz,3H)、0.82(d,J=6.63Hz,3H).13C NMR(101MHz,CHLOROFORM-d)δ ppm:171.99、143.48、140.41、133.74、133.35、132.92、129.55、129.09、128.24、127.84、127.75、126.75、118.33、76.63、71.80、69.84、49.36、42.13、39.72、38.61、32.48、24.20、19.10、18.26.
【0142】
【0143】
(3S,5S,6R,8S)-8-アリル-6-(3-クロロフェニル)-5-(4-クロロフェニル)-3-イソプロピル-8-メチル-2,3,5,6,7,8-ヘキサヒドロオキサゾロ[3,2-a]ピリジン-4-イウムナフタレン-1-スルホネートトルエンヘミ溶媒和物(OXOS):還流コンデンサー及びオーバーヘッド撹拌シャフトを取り付けた5L ChemGlass反応器に窒素雰囲気下で(1R,2R,4S)-2-(3-クロロフェニル)-1-(4-クロロフェニル)-4-((S)-4-イソプロピル-4,5-ジヒドロオキサゾール-2-イル)-4-メチルヘプタ-6-エン-1-オール(DHO)(199.3g、0.40mol、93.5重量%、1.0当量)及びトルエン(1000mL、5mL/g)を入れた。メタンスルホン酸無水物(88.2g、0.49mol、1.2当量)及び2,6-ルチジン(95.0mL、0.82mol、2.0当量)を反応液に逐次的に加えた。反応器の内容物を、撹拌を続けながら75℃に16時間加熱した。反応が完了したら、反応液を室温に冷却し、ジクロロメタン(1600mL、8mL/g)を用いて希釈した。H2O(955mL、5mL/g)中の濃H2SO4(45.0mL、0.82mol、2.0当量)の溶液を用いて、反応をクエンチした。相を分け、その後、H2O(2×800mL、4mL/g)中のナトリウム1-ナフタレンスルホネート(2×72.5g、0.31mol、0.75当量)の水性溶液を用いて、有機層を2回洗浄した。有機相をナトリウム1-ナフタレンスルホネート(10.0g、0.04mol、0.1当量)上で乾燥させ、ジクロロメタンを用いてすすぎながらポリッシングフィルター(粗多孔性)を通して濾過し、真空中で濃縮した。粗残留物をトルエンから再結晶化さてOXOSをオフホワイトの結晶性固体として得た(260.1g、0.37mol、重量%により補正された90.0%の収率)。1H NMR(400MHz,CHLOROFORM-d)δ ppm:9.14(d,J=8.50Hz,1H)、8.35(dd,J=7.26,1.24Hz,1H)、7.86(t,J=8.71Hz,2H)、7.57(t,J=7.70Hz,1H)、7.43-7.50(m,2H)、7.13-7.39(m,7.5H)、7.03-7.10(m,3H)、6.07(d,J=11.20Hz,1H)、5.80(ddt,J=17.00,9.90,7.39,7.39Hz,1H)、5.51(t,J=9.74Hz,1H)、5.26-5.34(m,2H)、4.76(ddd,J=10.37,4.66,2.18Hz,1H)、4.62(dd,J=9.12,4.77Hz,1H)、3.51-3.60(m,1H)、2.86(t,J=13.68Hz,1H)、2.65-2.71(m,1H)、2.55-2.60(m,1H)、2.35(s,1.5H)、1.95(dd,J=13.89,3.52Hz,1H)、1.52(s,3H)、0.54-0.67(m,7H).13C NMR(101MHz,CHLOROFORM-d)δ ppm:183.28、142.16、140.01、137.71、135.89、134.15、134.12、133.28、132.15、130.38、130.30、129.95、129.62、129.43、129.06、128.90、128.34、128.09、127.92、127.66、127.41、127.18、126.44、125.88、125.63、125.48、125.16、124.28、121.20、73.14、67.27、67.06、43.64、43.01、38.67、38.56、26.64、22.13、21.32、18.08、13.74.
又は、中間体DHO-OMsをOXOSへの変換前に分離及び精製することができる。
【0144】
【0145】
DHO-OMs
1H NMR(400MHz,CHLOROFORM-d)δ ppm:7.31(d,J=8.4Hz,2H)、7.24-7.18(m,2H)、7.16(s,1H)、7.08(d,J=8.2Hz,2H)、7.07-7.01(m,1H)、5.59-5.43(m,2H)、5.01-4.83(m,2H)、3.84(dd,J=8.1,9.5Hz,1H)、3.55-3.45(m,1H)、3.42-3.34(m,1H)、3.24-3.13(m,1H)、2.46(s,3H)、2.39-2.28(m,1H)、2.28-2.14(m,1H)、1.98(br dd,J=7.8,13.6Hz,1H)、1.72(dd,J=2.4,14.3Hz,1H)、1.26(br s,1H)、1.06(s,3H)、0.88(d,J=6.7Hz,3H)、0.71(d,J=6.7Hz,3H).13C NMR(101MHz,CHLOROFORM-d)δ ppm:169.69、141.54、135.61、134.98、133.92、133.43、129.82、129.30、128.81、128.47、127.82、127.34、118.21、87.02、77.22、69.78、47.99、44.57、39.96、39.31、38.46、32.80、21.85、19.40、18.26.
【0146】
[実施例4]
<最後から2番目の中間体SULを調製するための商用の方法の開発>
高温でのイソプロピルスルフィン酸塩を用いるOXOSの処理は、熱力学的により安定な生成物SULに転位するスルフィネートエステルSULFIのジアステレオマー対の形成に繋がる(スキーム4)。この種類のスルフィネート-スルホン転位は、ベンズヒドリルスルフィネートエステルのイオン対形成及び転位機構を介して起こることが従来の方法において記載されている。しかしながら、本方法において、スキーム11に示されるクロスオーバー実験の結果は、転位は解離したイオンを伴うことを明らかにする。OXOSは70℃より高い温度で水と定量的に反応することを考慮すると、アルコールALCが生成される十分な機会がある。OXOSがALCから再生成され得ない場合、水は反応混合物から厳密に除外されなければならない。この目的を達成するための1つの経路は、共沸乾燥条件に対して安定であり、高純度で単離することができ、OXOSと効率的に反応してSULを生成するイソプロピルスルフィン酸の塩を調製することである。
【0147】
スキーム11。OXOSからのSULの調製において生成される中間体及び副生成物
【0148】
【0149】
リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム及びアンモニウム塩を含む、この目的を達成するためのいくつかのイソプロピルスルフィン酸塩候補の評価の後に、カルシウムスルフィネート二水和物塩は安定な結晶性の種として優れていた。この塩は、二酸化硫黄とのイソプロピルマグネシウムクロリドの反応から調製され(スキーム12)、水性塩酸クエンチ後のイソプロピルスルフィン酸の形成に繋がった。この材料を、カルシウムアセテートを用いて処理したところ、反応性結晶化を介するカルシウムイソプロピルスルフィネート二水和物(CALID)の単離が可能となった。上記の処理の水感受性を考慮すると、水和物はSULの調製において使用するための理想的な種ではないが、カルシウム塩は高温(110℃まで)でのトルエン中での共沸乾燥において化学的に安定であった(すなわち、48時間以内に不均化生成物は観察されなかった)。そのため、試薬懸濁液の乾燥をOXOSの添加及びSULの調製の前に方法の部分として含めることができる。オーブン脱水試料のX線粉末回折分析を用いることにより、CALIDは<15% RHでの完全な乾燥(<100ppmの水)で多形変化を起こすことが観察された。しかしながら、CALIDは脱水材料として安定であり、>20%の相対湿度での水再吸収で元々の二水和物形態に戻るように変換される。SULを製造する方法は、減圧下での共沸蒸留によりCALID及びOXOSトルエン懸濁液を乾燥させて、100ppm未満の水を含有する混合物を調製することを含む。次に、乾燥懸濁液を合わせ、ジメチルアセトアミドへの溶媒交換を実行する(スキーム13)。結果としてもたらされる溶液を120℃に加熱し、20時間まで撹拌する。この時間の間に、120℃で最初の1時間以内に生成されるスルフィネートエステルは転位してSULを形成する。これらの条件下で形成されるALC不純物の典型的なレベルは3LC面積%である。水性ワークアップ並びにアセトニトリル及び水からの結晶化(23.3kgのスケールまで)後にSULは82%の収率及び>99.5LC面積%で単離される。
【0150】
スキーム12。カルシウムイソプロピルスルフィネート二水和物(CALID)の調製
【0151】
【0152】
スキーム13。CALIDを使用するSULの調製
【0153】
【0154】
イソプロピルマグネシウムクロリドを乾燥試薬としてインサイチューで調製し、SULの製造において直接的に用いたが、これはOXOSからのSULの製造のための代替的な手順を与えた。スキーム14に示されるように、イソプロピルマグネシウムクロリドのテトラヒドロフラン溶液を、二酸化硫黄を用いて処理してイソプロピルスルフィネートマグネシウムクロリドを調製した。インサイチューFTIR(1325cm-1においてピークを有する)を使用して二酸化硫黄の完全な消費を検証した。フェナントロリン試験を用いて、その後の処理の前にアルキルグリニャールの非存在を確認した。N-メチルピロリジノン(NMP)への溶媒交換に続いてOXOSを添加して120℃又は180℃でSULを得た(スキーム14)。そのように調製される反応混合物からの望ましくない水分及び/又は塩化水酸化マグネシウムの排除は課題となる。例えば、OXOSと比べて3当量のイソプロピルスルフィネートマグネシウムクロリドが用いられる場合、(OXOSに対して)約5mol%の塩化水酸化マグネシウムが出発グリニャール溶液中に存在する。NMP(5体積)及びOXOSは(OXOSに対して)5~10mol%の水を組み込む。そのため、この試薬を使用して15mol%のALCの最小の形成を回避することは困難である。興味深いことに、これらの条件下でのSULの形成の間に観察されるALCのレベルは、操作温度に依存する限度で反応混合物中に含有される水又は水酸化物の測定される量を上回る。水又は水酸化物塩を用いるOXOSの直接的な開環(スキーム4)に加えて、ALCの形成を与えるために第2の機構が誘起されなければならない。この推定される機構は、ALCを得るためのイソプロピルスルフィネートマグネシウムクロリドとのSULFIの反応を伴う(スキーム15)。
【0155】
高温(例えば、180℃)でのALCのSULへの変換を説明する作動的な機構があるが、それは120℃で商業的に好適な速度で起こらない(
図4)。180℃でのNMP(5体積)中のイソプロピルスルフィネートマグネシウムクロリド(3当量)を用いるOXOSの処理は、6分後にそれぞれ77%及び18%のアッセイ収率でSUL及びALCの形成を可能とする。80分後に、SUL及びALCのアッセイ収率はそれぞれ90%及び5%である(
図5)。マグネシウム塩はルイス酸として作用してALCからのOXOSの形成を促すことが提唱される(スキーム15)。イソプロピルスルフィネートマグネシウムクロリドは、高温での安定性に欠き、NMP中の1Mの溶液として200℃において1時間で85%の分解を経験することが
1H NMRにより観察された。結果として、3当量のイソプロピルスルフィネートマグネシウムクロリドを利用して変換を実行した。
【0156】
スキーム14。イソプロピルスルフィネートマグネシウムクロリドを使用するOXOSからのSULの調製
【0157】
【0158】
スキーム15。ALCの生成及びALCのSULへの変換のための可能な機構
【0159】
【0160】
反応性を改変するため及びイソプロピルスルフィネートマグネシウムクロリドの安定性を増加させるための代替的なイソプロピルスルフィン酸塩の使用を評価した。1当量の塩化亜鉛を用いた1当量のインサイチューで調製された試薬の処理は有望な結果をもたらした。商業的に入手可能な塩化亜鉛テトラヒドロフラン溶液(0.5M)を、以前に記載(スキーム12)されたように調製されたイソプロピルスルフィネートマグネシウムクロリドの溶液に加えた。形成された新たな種は、
1H NMRによりイソプロピルスルフィネートマグネシウムクロリド及び亜鉛イソプロピルスルフィネートとは別個であることが観察され(
図6)、その構造は、副生成物として生成される塩化マグネシウムと共に、イソプロピルスルフィネート亜鉛クロリドのものであると推定された。NMP(5体積)への溶媒交換を行い、OXOSを反応混合物に加えた(スキーム16)。この混合試薬を使用して、ALCのSULへの変換は、120℃において生産的速度で有効であった。そのため、試薬及び反応中間体の分解を回避しながら(
図7)120℃並びに非常に厳密な無水分条件で変換を行うことができる。さらに、この混合マグネシウム-亜鉛試薬を用いて水の関与無しでALCをもたらす代替的な機構の証拠は無く、処理の間に生成される全てのALCは、入ってくる試薬又は溶媒から与えられ得る。これは、この混合塩を180℃で使用できないということではなく(
図8)、処理を実行するために140℃の温度を選択して、限られた当量(1.5当量)のマグネシウム-亜鉛種を使用しながら良好な反応速度及び7時間で7%のALCと共にSULの90%の収率をもたらすことを可能とした。マグネシウム-亜鉛混合種は、
1H NMR実験により150℃で16時間安定であることが示された。
【0161】
スキーム16。イソプロピルスルフィネートマグネシウムクロリド-塩化亜鉛を使用するOXOSからのSULの調製
【0162】
【0163】
イソプロピルスルフィネートマグネシウムクロリドの形成の間に20%過剰の二酸化硫黄を使用し、20℃での混合塩の24時間の撹拌後のNMPへの溶媒交換を行ってこの処理の堅牢性を評価した。スルフィネート試薬の40%のみ(1H NMRによる)が残留したこと及び60%の材料はスルホンSSOを形成する(スキーム15)ためには不釣合いであったことが観察された。1.5当量の試薬を用いてOXOSをSULに変換するためにこの混合物を使用したところ、62LC面積%のみのSULの形成が結果としてもたらされ、33LC面積%のOXOSは未反応であったため、この処理についての堅牢性の欠如が実証され、何故ならば、プラント稼働の間に二酸化硫黄投与を制御することは問題となり得るからである。したがって、SULを調製するためのCALIDの使用は、化合物Aを製造するための商用の方法の有利な態様を表す。
【0164】
[実施例5]
<化合物Aを調製するための商用の方法の開発>
SULのアルケン基のオゾン分解、続いて結果としてもたらされるアルデヒドの、亜塩素酸ナトリウムを用いる化合物Aの対応するカルボン酸基への酸化は、化合物Aの初期製造のために使用される酸化ルテニウム/ナトリウムペリオデート法に対するより環境に優しい代替を示す。追加的に、オゾン分解経路は、結晶化を介して除去することが困難ないくつかの望ましくない二量体不純物の形成を排除する可能性があるため、生成物の単離を単純化する。
【0165】
オゾン分解のための安全な反応条件の開発において、水性混合物を利用した(スキーム17)。これらの条件下で、高エネルギーオゾニド中間体(OZO)は加水分解されるため、その蓄積が回避され、処理が安全なものとなる。蓄積されたOZOのLC面積%を、アセトニトリル/水反応混合物において使用された水の容積測定パーセンテージに対して測定し、結果を
図9に報告した。10%の水を用いて、オゾン分解混合物(20体積の溶媒)についての総エネルギー放出は、240℃の分解温度と共に92J/gであり、安全性の懸念を表さない。オゾン分解の間の安全性を確実にするために制御を要求する別のパラメーターは、反応の間の容器中の酸素の気相濃度である。混合物の燃焼のための限界酸素濃度(LOC)を10.75体積%で測定し、LOCの半分(約5体積%の酸素)でオゾン分解処理を実行して、起こり得る燃焼を回避するために余裕を持った安全性を確実にした。
【0166】
スキーム17。オゾン分解-ピニックタンデム処理を使用するSULからの化合物Aの調製
【0167】
【0168】
この変換のためにGMP状況において2つの異なるモードの処理を実施した:(i)バッチ容器中でオゾンスパージングを使用する半バッチオゾン分解、及び(ii)連続撹拌タンク反応器処理。最初に、連続的な処理は、商用の方法においてオゾン分解反応を用いることと関連する一般的な安全性の懸念を軽減するために魅力的であると思われる。一実施形態において利用される連続オゾン分解装置の図式及び写真をそれぞれ
図10及び
図11に提示する。Ozoniaにより市販されているCFS-3オゾン生成装置モデルを利用して、1時間当たり約0.9molのオゾンを製造しながら4.8kgのSULを処理した。オゾンは、空気供給から生成され、
図10に示されるように連続撹拌タンク反応器(CSTR)の底部に位置するバルブを介して導入される。出発材料溶液は、容器(0.9Lの容量)の底部に位置するガラスフリットの上にある出口と共にディップチューブを使用して60mL/分の流速で導入される。混合物の激しい撹拌は適切な気体分散のために重要であり、例を
図11に見ることができる。底部において導入される空気流れの3Xの流速を有する窒素ヘッドスペースパージが維持されるため、5体積%未満の酸素/オゾンが気相中に存在することが確実になる。反応混合物は、ジャケット制御を使用して20℃に維持される。残留SULのレベルを測定するためにCSTR出口においてラマンプローブが使用される。
【0169】
連続オゾン分解の使用においてリスクを最小化するために、蓄積した反応混合物部分をサンプリングし、反応の完了をHPLCにより検証した。部分を亜塩素酸ナトリウム(4当量)の2M水性溶液に入れ、結果としてもたらされた混合物を20℃で16時間撹拌した。水性溶液中の処理中間体(ALD、PAC)の低い溶解性に起因して、オゾン分解反応ストリームへの亜塩素酸ナトリウムの水性溶液の添加は、それらの中間体の初期沈殿を回避するために使用されるオプションにとって好ましく、以下に記載の半バッチオゾン分解処理のために使用される添加のモードを表す。
【0170】
SULのオゾン分解を行うための半バッチアプローチは、変換のほとんどのために過剰なアルケン出発材料を用いて処理すること及びより単純な製造フットプリントを用いることという利点を有する。最大で0.4LC面積%の不純物DHCAがこの処理モードを使用して形成されることが観察されたが、反応完了及び安全な処理条件をモニターするために信頼できるアプローチが要求される。上記のように、この反応マニホールドのための安全な処理条件は、水性媒体を用いること及び5体積%より低い酸素濃度を維持することにより提供される。空気/オゾンガスストリームは、
図12に見られるように、オゾン生成装置の下流であるが、反応容器中のディップチューブを通じた反応気体の導入の上流の窒素を用いて希釈される。窒素の気体流れは、空気流れと比較して4倍使用されて、容器に入る気体が5体積%以下の酸素/オゾンを含有することが確実になる。ヘッドスペースオゾン検出器を利用して、出口気体濃度における増加を検出することによりオゾン分解についての反応完了をモニターすることができる。しかしながら、出口オゾン濃度における測定される変化は微妙であり得ることを考慮して、この技術は実行が困難であることが見出された。他方、出発材料の消費はこの変換について線形であることが見出され(
図13)、そのため、反応完了のための時間を正確に予測するためにオゾン生成装置出力の知識と合わせることにより変換の間の少数の試料のHPLC分析が可能になる。約540gのオゾン/時間の最大出力を可能とするOzoniaにより市販されているCFS-14オゾン生成装置モデルを利用してSULの23kgバッチを処理した。しかしながら、安定なオゾン出力を維持することは、最大能力未満で機械を用いてより容易であるため、製造のために285gのオゾン/時間の出力を利用し、6080Wのパワー(能力の80%)及び3.1SCFM(最大空気流れの30%)を達成した。生成装置出力気体中のオゾンの濃度は、これらの設定を使用して約4.3重量%であり、処理容器に入る前にこの気体ストリームを窒素(12.5SCFM)と混合した。オゾンガス出力を使用して予測された反応完了までの時間(7.4時間)を10%上回った(実際には8.2時間)。オゾンは、水と反応してヒドロキシ基を生成することが公知であり、オゾンの部分はこの方式で消費され、これは、過剰なオゾンが利用されなければならないことを説明する。
【0171】
この半バッチ処理のために、ディップチューブを介して反応容器の底部の近くでオゾンを導入する。気体を反応システムに送達するために評価された第1のデバイスは、100μmの細孔径及び0.32平方フィートの総表面を有する標準的なオゾンスパージングユニットであった。15.6SCFMの合わさった気体流れ(空気、オゾン、及び窒素)を送達するためにこのスパージャーを使用したところ、スパージャー表面の冷却を引き起こす圧力降下が起こった。この温度の低下には、出発材料SUL及び生成物ALDの結晶化、続いて結晶化した材料によるスパージャー細孔の閉塞が付随した。アセトニトリル/水(9/1の体積比)中10℃でのSUL及びALDの溶解度はそれぞれ25mg/mL及び21mg/mLであるため、いずれの材料の約50%のみが、使用される20体積の溶媒混合物中でその温度において可溶化され得る。スパージャーが出発材料又は生成物結晶により閉塞されると、気体移動のために利用可能な表面が減少し、状況は悪化して、処理の中断及びスパージャーの修復が要求される。異なるオゾンスパージャーは、この問題に対処するように設計された。代替的なスパージャーは、C22ハステロイチューブ中に貫通した1/8インチ直径のホール(37ホール)を組み込んだ。両方のスパージャーを
図14に示す。典型的な気体流れ(15SFCM)での反応混合物及びスパージャー表面温度に対するいずれかのスパージャーの使用の影響力を測定し、結果を表3に示す。表に詳述されるように、100μm細孔のスパージャーについてスパージャー表面温度及び反応混合物温度の間に有意差があり(例えば30℃対11℃)、上記に詳述される問題を引き起こした。代替的なスパージャーはこれらの懸念を軽減する。オゾン分解処理の間のSUL及びALDのいかなる沈殿も回避するために、変換を30℃で実行した。
【0172】
【0173】
オゾン分解処理の完了後に、2Mの水性亜塩素酸ナトリウム溶液の添加は、化合物Aの形成を可能にすることが観察された。混合物を2Mの水性重亜硫酸ナトリウムを用いて処理してさらなる処理のために全ての酸化剤を排除する。相分離がイソプロピルアセテートの添加に続いて起こり、2Mの水性ナトリウムホスフェート(pH6)を用いた有機層の2回の洗浄を実行した。最後に、有機相を1.1Mの水性塩化ナトリウムを用いて洗浄して>95%のアッセイ収率及び>98LC面積%の純度で化合物Aの溶液を調製した。
【0174】
[実施例6]
<DABCO塩としての化合物Aの単離>
不純物の堅牢な除去を可能にする薬物物質制御点は遊離酸のために利用可能でなかったことを考慮して、化合物Aのいくつかの塩を調製し、不純物の簡易な除去を可能とするために有効な候補を発見するための試験を行った。化合物Aの30を超える有機塩及び5を超える無機塩をその目的のために評価したところ、有望な競争者としてのヘミDABCO塩及びヘミカルシウム塩の同定が促された。しかしながら、ヘミカルシウム塩は、出発材料SUL又は不純物HACの中等度の除去のみを表し示した一方、ヘミDABCOイソプロピル酢酸塩(232-DAB)の使用は、両方の種の効率的な除去を可能とした(IPAC=イソプロピルアセテート)。
【0175】
【0176】
232-DAB
5LC面積%のSUL及び1LC面積%のHACは、典型的なオゾン分解-ピニック酸化反応混合物において観察されるよりも有意に高いレベルで、後者の塩の単離の間に完全に除去されることができた。232-DABは、TGA及び1H NMRにより安定な結晶性の一溶媒和物(イソプロピルアセテート)ヘミDABCO塩であることが観察された。材料の単一の多形体が同定された。材料の多型形態及びイソプロピルアセテートレベルは、0~90%の相対湿度で実行された動的蒸気収着実験により変化しなかった。追加的に、温度及び貧溶媒の使用に基づく堅牢な結晶化プロトコールを、イソプロピルアセテート及びヘプタンを使用してヘミDABCOイソプロピル酢酸塩について設計することができた。
【0177】
結晶化処理中の異なる時間間隔での値を表し示す溶解度曲線を
図15に示す。55℃で4体積のイソプロピルアセテート中の化合物Aの溶液へのDABCO(0.5当量)の添加で、溶液に232-DABを播種して、材料の約20%の過飽和放出及び結晶化を可能とする。2時間のうちの20℃への冷却は、材料の別の60%の結晶化を促す。4体積のヘプタンをその後に加えて、バッチ濾過用の調製において上清濃度を約5mg/mLに下げる。この結晶化手順の使用は、83%の収率及び>99.9LC面積%の純度(23.2kgまでのスケール)での232-DABの単離を可能とする。
【0178】
[実施例7]
<化合物Aの単離>
結晶化232-DABは有機溶媒中で行われたことを考慮して、直交精製処理を介して化合物Aを単離するために水性結晶化プロトコールが望まれた。フィッシャーエステル化及び結晶化を介するエステル不純物の除去ができないことに起因して、20~30℃より高い温度でのアルコール溶媒中の化合物Aの一般的な不安定性を考慮すれば、アルコール-水溶媒混合物は結晶化のために利用できなかった。水混和性溶媒を有する他の水性混合物は、結晶化設計の助けにならない急な溶解度曲線を示した。対照的に、酢酸及び水は、上記に詳述される欠点を有さずに良好な成長特徴を有して、材料を結晶化させるために好適であった。堅牢な温度及び貧溶媒ベースの結晶化をこの溶媒混合物を使用して設計し、それを水性塩酸(2当量)/イソプロピルアセテート混合物中での塩切断、2Mの水性ナトリウムホスフェート(pH6)を用いた有機層の2回のその後の洗浄、1.1Mの水性塩化ナトリウムを用いた洗浄、及びイソプロピルアセテートから酢酸への溶媒交換後に稼働した。
【0179】
結晶化処理における異なる時点の溶解度値を示す曲線を
図16に表す。化合物Aの酢酸溶液(6.6体積の酢酸)を55~60℃に温め、4.4体積の水を加える。溶液に化合物Aを播種して、化合物Aの約30%の過飽和放出及び結晶化を可能とする。結晶化を10時間のうちに20℃に冷却して、材料の別の55%の結晶化を結果としてもたらす。1体積の水をその後に加えて、迅速なバッチ濾過のための調製において上清濃度を約5mg/mLに下げる。3回の水洗浄(3×10体積)を実行して、単離された材料中の残留酢酸の存在を最小化した。化合物A(18.0kgまで)をこのプロトコールを使用して>92%の単離収率(100重量%)及び>99.9LC面積%の純度で<200ppmの残留水及び<200ppmの残留酢酸と共に単離した。
【0180】
材料をPallman Universal Mill(ウイングビーター、16kgまでのスケール)を使用して製粉し、結果を表4に要約する。化合物Aの標的d50は、1.3の空腹胃pHで完全な吸収を提供するために評価された用量の範囲(60~480mg)についての経口吸収モデリング(GastroPlus v 9.0)に基づいて<35μmに設定した。
【0181】
【0182】
高純度での薬物物質(化合物A)の商用の製造のために好適な堅牢及び効率的な方法が開発された。方法の著しい態様は、(i)第一級アルコール中間体の選択的なインサイチュー活性化のためのベンチ安定なビルスマイヤー試薬、メトキシメチレン-N,N-ジメチルイミニウムメチルスルフェートの使用、(ii)不純物を除去する処理能力の能力を増進する結晶形態の中間体DHOの単離、(iii)スルホン中間体の堅牢な調製を確実にするための結晶形態の新たな安定なイソプロピルカルシウムスルフィネート試薬の使用、(iv)バッチ製造モード又は連続製造モードのいずれかのために好適な水性溶媒混合物中で実行される安全なオゾン分解プロトコールの開発、(v)不純物の有効な除去を可能とする化合物Aの塩の形成による化合物Aの増進した純度制御を含む。新たな方法を実証したところ、DLACから49.8%の全体収率での18kgの純粋な化合物A(99.9LC面積%)が提供され、32%の全体収率を結果としてもたらしたに過ぎない、記載のFIH方法に対して著しい向上を表した。