(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】セルロースエステル組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 1/10 20060101AFI20231225BHJP
C08K 5/11 20060101ALI20231225BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
C08L1/10
C08K5/11
C08J5/18 CEP
(21)【出願番号】P 2021516117
(86)(22)【出願日】2020-04-21
(86)【国際出願番号】 JP2020017142
(87)【国際公開番号】W WO2020218271
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2019080683
(32)【優先日】2019-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020037642
(32)【優先日】2020-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】595138155
【氏名又は名称】ダイセルミライズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】荻原 剛之
(72)【発明者】
【氏名】上田 賢司
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】代谷 章彦
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-227955(JP,A)
【文献】特開2011-052205(JP,A)
【文献】特開2012-220823(JP,A)
【文献】特開2011-186358(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00-13/08
C08J 5/00-5/02
C08J 5/12-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分としてセルロースエステル、(B)成分としてアジピン酸エステル系化合物および(C)成分としてクエン酸エステル系化合物を含有するセルロースエステル組成物であって、
(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計質量が100質量%であるとき、(B)成分の含有量が7~20質量%であり、(C)成分の含有量が1~14質量%であり、(B)成分と(C)成分の合計含有量が21~30質量%であり、残部が(A)成分である、セルロースエステル組成物。
【請求項2】
(B)成分の含有量が10~20質量%であり、(C)成分の含有量が4~12質量%である、請求項1記載のセルロースエステル組成物。
【請求項3】
(B)成分と(C)成分の質量比[(B)/(C)]が1~5である、請求項1または2記載のセルロースエステル組成物。
【請求項4】
(C)成分のクエン酸エステル系化合物が、クエン酸トリエチルである、請求項1~3のいずれか1項記載のセルロースエステル組成物。
【請求項5】
(A)成分のセルロースエステルが、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、およびセルロースアセテートブチレートから選ばれる、請求項1~4のいずれか1項記載のセルロースエステル組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項記載のセルロースエステル組成物からなる、眼鏡フレーム、または靴紐のティッピング用フィルム。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項記載のセルロースエステル組成物からなるシートであり、前記シートが、複数の色が組み合わされた表面を有しているシート、複数の模様が組み合わされた表面を有しているシート、複数の色と複数の模様が組み合わされた表面を有しているシート、明暗が形成されているシート、色のグラデーションが形成されているシートから選ばれる、シート。
【請求項8】
請求項7記載のシートが打ち抜かれて形成された成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その例示的な態様において、セルロースエステル組成物と、セルロースエステル組成物から得られる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースアセテートなどのセルロースエステルは一般的に熱可塑性が乏しいため、通常は可塑剤を含む組成物として使用されている。特許第5798640号公報には、セルロースエステル100質量部に対して式(I)~(III)で表されるアジピン酸エステル1~50質量部を配合できることが記載されている。
【0003】
特許第6038639号公報には、(A)セルロースエステル100質量部に対して、(B)アジピン酸エステル系化合物5~50質量部、および(C)一般式(I)で表されるクレジル基を有するリン酸エステル1~50質量部を含有するセルロースエステル組成物が記載されており、この組成物によれば可塑剤のブリードアウトが抑制されている。
【0004】
特許第6170654号公報には、(A)セルロースエステル100質量部に対して、(B)一般式(I)で表されるナフチル基を有するリン酸エステル5~50質量部、および(D)前記(B)を除くエステル系可塑剤5~40質量部を含有するセルロースエステル組成物が記載されており、この組成物を用いることにより高い熱可塑性を有し、機械的強度の良い樹脂成形体が得られることが記載されている。
発明の概要
【0005】
本発明は、その例示的な態様において、高い流動性を有するセルロースエステル組成物と、そうしたセルロースエステル組成物から得られる成形品を提供する。
【0006】
本発明は、その例示的な態様において、(A)成分としてセルロースエステル、(B)成分としてアジピン酸エステル系化合物、および(C)成分としてクエン酸エステル系化合物を含有するセルロースエステル組成物であって、
(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計が100質量%であるとき、(B)成分の含有量が7~20質量%であり、(C)成分の含有量が1~14質量%であり、(B)成分と(C)成分の合計含有量が21~30質量%であり、残部が(A)成分である、セルロースエステル組成物を提供する。また本発明は別の例示的な態様において、ここに記載するセルロースエステル組成物から得られる成形品を提供する。
【0007】
本発明の例示的な態様によるセルロースエステル組成物は、高い流動性を有する。また例示的な態様によれば、本発明のセルロースエステル組成物を用いると、成形体表面へのブリードアウトが抑制されたセルロースエステル成形体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の1つの例による鼈甲模様のシートの平面図である。
【
図2】
図2は、本発明の別の例による木目模様のシートの平面図である。
【
図3】
図3は、本発明の別の例による市松模様のシートの平面図である。
【
図4】
図4は、本発明の別の例による籠目模様のシートの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(セルロースエステル組成物)
<(A)成分>
本発明の例示的な実施形態において、セルロースエステル組成物で用いる(A)成分のセルロースエステルは公知のものであってよく(例えば、特開2005-194302号公報に記載されているセルロースエステル)、例えばセルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートを挙げることができる。(A)成分のセルロースエステルは、1つの好ましい例によれば(A)成分のセルロースエステルはセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、およびセルロースアセテートブチレートから選ばれることができ、別の好ましい例によればセルロースアセテートから選ばれることができる。
【0010】
上記の他、(A)成分のセルロースエステルの例としては、ポリカプロラクトングラフト化セルロースアセテート、アセチルメチルセルロース、アセチルエチルセルロース、アセチルプロピルセルロース、アセチルヒドロキシエチルセルロース、アセチルヒドロキシプロピルセルロースなども挙げることができる。
【0011】
(A)成分のセルロースエステルは、本発明の好ましい一態様によれば平均置換度が2.7以下のセルロースアセテートであることができる。(A)成分のセルロースエステルは、本発明の好ましい一態様によれば粘度平均重合度が100~1000であることができ、別の好ましい一態様によれば粘度平均重合度が100~500であることができる。1つの例によれば、(A)成分のセルロースエステルとしては、(株)ダイセル製から商品名「L50」として市販されているセルロースアセテートを使用することができる。
【0012】
<(B)成分>
本発明の例示的な実施形態において、セルロースエステル組成物で用いる(B)成分のアジピン酸エステル系化合物は、公知のものを使用することができ、例えばアジピン酸ジブチル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジブトキシエトキシエチル・ベンジル、アジピン酸ジブトキシエトキシエチル、これらの混合物などを挙げることができる。また別の例では、(B)成分のアジピン酸エステル系化合物としては、特許第5798640号公報に記載された式(I)~(III)で表されるアジピン酸エステル化合物や、これらの混合物を使用することができる。1つの例によれば、(B)成分のアジピン酸エステル系化合物としては、大八化学工業(株)から商品名「DAIFATTY-101」として市販されている製品を使用することができる。
【0013】
<(C)成分>
本発明の例示的な実施形態において、セルロースエステル組成物で用いる(C)成分のクエン酸エステル系化合物は、公知のものを使用することができ、たとえばクエン酸トリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、クエン酸アセチルトリエチルなどが挙げられる。(C)成分の好ましい一態様はクエン酸トリエチルであり、クエン酸トリエチルとしては、製品名「シトロフレックス2」(森村商事株式会社)として市販されているものを使用することができる。
【0014】
上記した特許第5798640号公報にも見られるように、アジピン酸エステル系化合物はセルロースエステル組成物中で可塑剤として使用されうるが、より可塑化させ、また流動性を向上させるために配合量を増加させると、ブリードアウトが起こるという問題点があった。本発明の例によれば、アジピン酸エステル系化合物をクエン酸エステル系化合物と併用し、下記に例示する数値範囲を用いることで、耐ブリード性と流動性のバランスが良いセルロースエステル組成物を得ることができる。
【0015】
本発明の例示的な実施形態において、セルロースエステル組成物は、ブリードアウトを抑制し流動性を良好にする観点から、(B)成分と(C)成分の合計含有量が、(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計含有量が100質量%のとき、21~30質量%であり、残部が(A)成分であることができる。(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計含有量が100質量%のとき、(B)成分と(C)成分の合計含有量は、ブリードアウトを抑制し流動性を良好にする観点から、本発明の好ましい一態様では、21~29質量%、本発明の別の好ましい一態様では21~26質量%、本発明のさらに別の好ましい一態様では23~26質量%であることができ、残部は(A)成分であってよく、合計で100質量%となる残部割合である。
【0016】
(B)成分と(C)成分の合計含有量は、ブリードアウトを抑制する観点から、上限値は1つの好ましい例では30質量%、別の好ましい例では29質量%、さらに別の好ましい例では26質量%であることができ、また良好な流動性を得る観点から、下限値は1つの好ましい例では21質量%、別の好ましい例では23質量%であることができる。
【0017】
本発明の例示的な実施形態において、セルロースエステル組成物は、ブリードアウトを抑制し流動性を良好にする観点から、(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計含有量が100質量%のとき、(B)成分の含有量が7~20質量%であることができる。(B)成分の含有量は、ブリードアウトを抑制し流動性を良好にする観点から、本発明の好ましい一態様では10~20質量%、本発明の別の好ましい一態様では11~20質量%、本発明のさらに別の好ましい一態様では15~20質量%であることができる。
【0018】
(B)成分の含有量は、ブリードアウトを抑制する観点から、上限値は1つの好ましい例では20質量%、別の好ましい例では18質量%であることができ、また良好な流動性を得る観点から、下限値は1つの好ましい例では7質量%、別の好ましい例では10質量%、さらに別の好ましい例では11質量%、さらに別の好ましい例では15質量%であることができる。
【0019】
本発明の例示的な実施形態において、セルロースエステル組成物は、湿熱条件下での質量変化を抑制し流動性を良好にする観点から、(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計含有量が100質量%のとき、(C)成分の含有量が1~14質量%であることができる。(C)成分の含有量は、湿熱条件下での質量変化を抑制し流動性を良好にする観点から、本発明の好ましい一態様では2~14質量%、本発明の別の好ましい一態様では3~14質量%、本発明の別の好ましい一態様では4~12質量%、本発明のさらに別の好ましい一態様では5~10質量%であることができる。
【0020】
(C)成分の含有量は、湿熱条件下での質量変化を抑制する観点から、上限値は1つの好ましい例では14質量%、別の好ましい例では12質量%、さらに別の好ましい例では10質量%であることができ、また良好な流動性を得る観点から、下限値は1つの好ましい例では1質量%、別の好ましい例では2質量%、さらに別の好ましい例では3質量%、さらに別の好ましい例では4質量%、さらに別の好ましい例では5質量%であることができる。
【0021】
また本発明の例示的な実施形態において、セルロースエステル組成物は、ブリードアウトを抑制し流動性を良好にする観点から、(B)成分と(C)成分の含有量の割合(質量比)[(B)/(C)]が1~5であってよい。この質量比は、ブリードアウトを抑制し流動性を良好にする観点から、本発明の別の好ましい一態様では1.5~5、本発明のさらに別の好ましい一態様では1.5~3であってよい。前記質量比(B)/(C)は、高い流動性を維持したままブリードアウトを抑制する観点から、上限値は1つの好ましい例では5、別の好ましい例では3であってよく、また下限値は1つの好ましい例では1、別の好ましい例では1.5であることができる。
【0022】
本発明の例示的な実施形態において、セルロースエステル組成物は、用途に応じて公知の熱可塑性樹脂を含有することができる。公知の熱可塑性樹脂としては、ABS樹脂、AS樹脂などのスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612などのポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂などを挙げることができる。
【0023】
熱可塑性樹脂の含有割合は、例えば、(A)成分のセルロースエステルと熱可塑性樹脂の合計量100質量%中、本発明の好ましい一態様では熱可塑性樹脂が40質量%以下であることができ、本発明の別の好ましい一態様では熱可塑性樹脂が20質量%以下であることができる。
【0024】
本発明の例示的な実施形態において、セルロースエステル組成物は、さらに充填剤を含有することができる。充填剤の例には、繊維状充填剤、非繊維状充填剤(粉粒状又は板状充填剤など)が含まれ、例えば、特開2005-194302号公報の段落番号0025~0032に記載の充填剤を挙げることができる。
【0025】
充填剤の含有量は、例えば、(A)成分のセルロースエステル100質量部に対して、本発明の好ましい一態様では5~50質量部であることができ、本発明の別の好ましい一態様では5~40質量部であることができ、本発明のさらに別の好ましい一態様では5~30質量部であることができる。
【0026】
本発明の例示的な実施形態において、セルロースエステル組成物は、特開2005-194302号公報の段落番号0035~0042に記載のエポキシ化合物、段落番号0043~0052に記載の有機酸、チオエーテル化合物、亜リン酸エステル化合物などの安定化剤を含有することができる。
【0027】
本発明の例示的な実施形態において、セルロースエステル組成物は、用途に応じて、慣用の添加剤、例えば、他の安定化剤(例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、耐光安定剤など)、着色剤(染料、顔料など)、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、滑剤、アンチブロッキング剤、分散剤、ドリッピング防止剤、抗菌剤などを含んでいてもよい。
【0028】
本発明の例示的な実施形態において、セルロースエステル組成物は、例えば、各成分をタンブラーミキサー、ヘンシェルミキサー、リボンミキサー、またはニーダーなどの混合機を用いて乾式又は湿式で混合して調製してよい。さらに、前記混合機で予備混合した後、一軸又は二軸押出機などの押出機で混練してペレットに調製する方法、加熱ロールやバンバリーミキサーなどの混練機で溶融混練して調製する方法を適用することができる。
【0029】
(成形品)
本発明の例示的な実施形態において、セルロースエステル組成物は、射出成形、押出成形、多層押出成形、プレス成形、真空成形、異型成形、発泡成形、インジェクションプレス、ブロー成形、またはガス注入成形などによって、各種成形品に成形することができる。
【0030】
押出成形または多層押出成形を行う場合には、1の押出機を使用し、または複数の押出機を併用し、Tダイを使用して押し出すことで、単層のシートまたは多層シートを成形する方法を適用できる。多層シートを製造するときは、色または模様の異なる複数のシートを積層することができる。このとき、原料ペレットとして複数種類のペレットの混合物を使用することができる。
【0031】
シート押出条件は、一例としてシリンダー温度を170~240℃、ダイス温度を200~240℃とすることができる。シート厚みはダイス(Tダイ)のリップ開度で調整することができる。
【0032】
プレス成形としては、複数種類のペレットを混合したものを金型内に分散配置した状態で熱プレス成形してシートを得る方法を適用できるほか、色や模様の異なる複数枚のシートを積層した状態で熱プレス成形してシートを得る方法を適用できる。
【0033】
成形されるシート(または多層シート)としては、複数の色が組み合わされた表面を有しているシート、複数の模様が組み合わされた表面を有しているシート、複数の色と複数の模様が組み合わされた表面を有しているシート、明暗が形成されているシート、色のグラデーションが形成されているシートから選ばれるものを挙げることができる。
【0034】
成形されるシート(または多層シート)の模様(柄)としては、例えば、鼈甲模様(
図1)、迷彩服模様、大理石模様、各種ストライプ模様、木目模様(
図2)、白蝶貝模様、花崗岩模様、象牙模様、市松模様(
図3)、水牛模様、籠目模様(
図4)、ステンドグラス模様、笹模様、蛇紋模様などを挙げることができる。
【0035】
本発明の例示的な実施形態において、セルロースエステル組成物は、例えば、サングラス、眼鏡などのフレーム、各種靴の靴紐ティッピング用フィルム(靴紐の先端部を包囲した状態で熱収縮させて使用するもの)、ゴーグル;化粧品容器;歯ブラシ、歯間ブラシの柄などのオーラルケア用品;チークブラシ、眉ブラシ、リップブラシの柄などのメイクアップ用品;ヘアアクセサリー、ヘアドライヤー、ヘアアイロン、ヘアブラシ、櫛などのヘアケア用品;インクペンの軸などの筆記用具;剃刀の柄などのパーソナルケア用品;玩具;家電製品や工具などの無地または模様(柄)を有する成形品などの製造に使用することができる。中でも、本発明のセルロースエステル組成物を用いた眼鏡フレームは、加工性、感触や色彩感、耐衝撃性に優れる。
【0036】
本発明の別の例示的な実施形態において、セルロースエステル組成物は、例えば、OA・家電機器分野、電気・電子分野、通信機器分野、サニタリー分野、自動車分野等の輸送機器分野、家具・建材等の住宅関連分野、雑貨分野等の各種パーツおよびハウジング等に使用することができる。その他、非石油系樹脂という切り口から、ストロー、スプーンやフォーク等のカトラリー、食品或いはその他各種製品の包装用シート、フィルム、容器等にも使用できる。
【0037】
上記各成形品は、例えば上記したように射出成形法などを使用して製造することができる。また幾つかの例において、サングラス、眼鏡などのフレームや各種靴の靴紐ティッピング用フィルムなどの成形品は、1枚のシートまたは複数枚のシートの積層品を打ち抜き加工して製造することができる。
【0038】
靴紐ティッピングの製造用シートの厚みは、例えば0.25~0.5mmの範囲にすることができ、眼鏡用シートの厚みは、例えば4~12mmの範囲にすることができる。
【0039】
靴紐ティッピングの製造用シートは、例えば押出機のTダイから押し出した後、広幅のジャンボロールに巻取り、カッターで裁断し、その後、例えば、靴紐先端に必要な幅の2倍程度の小幅になるようスリッターを使用して所定の幅のロール(シートのロール)にして製造することができる。眼鏡フレームの製造用シートは、例えば押出機のTダイから押し出した後、シートを切出し、プレス成形を繰り返して製造することができる。
【0040】
本願に記載された各実施形態における各構成およびそれらの組み合わせなどは一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲で、適宜構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。本発明は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0041】
実施例および比較例
表1に示す(A)成分のセルロースエステル、(B)成分のアジピン酸エステル系化合物、(C)成分のクエン酸エステル系化合物を、ヘンシェルミキサーを用いて、ミキサー内の摩擦熱で70℃以上となるように各組成物を攪拌混合した後、二軸押出機(シリンダー温度:200℃、ダイス温度:210℃)に供給し、押し出してペレット化した。
【0042】
得られたペレットを、射出成形機に供給して、シリンダー温度220℃、金型温度50℃、成形サイクル60秒(射出20秒、冷却時間40秒)の条件で90mm×50mm×3mmの試験片を射出成形して、各評価試験に使用した。
【0043】
<使用成分>
(A)成分
セルロースエステル:商品名「L50」(セルロースアセテート)、置換度2.5、粘度平均重合度180、(株)ダイセル製
(B)成分
アジピン酸エステル系化合物:商品名「DAIFATTY-101」、大八化学工業(株)製
(C)成分
クエン酸エステル系化合物:商品名「シトロフレックス2」、森村商事株式会社
【0044】
<測定試験>
(バーフロー長さ)
下記バーフロー金型を用いて、シリンダー温度220℃、射出圧力50MPaまたは100MPaでペレットを射出成形し、その時の流動長を評価した。
バーフロー金型:競技場のトラック形の流路が掘られている金型。流路の断面形状は長方形であり、幅2cm、厚み2mmである。流路の先端はオープンになっている。
【0045】
(湿熱条件下でのブリードアウト)
上記のように成形した試験片を65℃、85%RHの雰囲気中に500時間放置したときの可塑剤のブリードアウトの有無を肉眼で観察した。ブリードアウトがなかったものを○、明らかにブリードアウトが認められたものを×、ブリードアウトが僅かに認められたが許容範囲内であったものを△とした。
【0046】
(湿熱条件下での質量変化)
上記のように成形した試験片を65℃、85%RHの雰囲気中に500時間放置したときの質量減少率を求めた。こうした高温高湿下では、全ての試験片は吸水により質量が増加するが、性能が悪い材料の場合には、可塑剤のブリードや気化等による減少や分解等で質量の減少が生ずる。例えば比較例2や5では、初期には吸水による質量増加があるものの、その後の可塑剤の放出等により、増加分以上に質量が減少していると考えられる。
【0047】
【0048】
実施例1~5と比較例1、3、6から、(B)成分のアジピン酸エステル系化合物と(C)成分のクエン酸エステル系化合物とを使用することで、流動性(バーフロー長さ)が高く、(B)成分のアジピン酸エステル系化合物のブリードアウトを防止できることが確認できた。また実施例1~5と比較例1~4から、(B)成分と(C)成分の合計含有量を所定の範囲内で使用することで、流動性(バーフロ-長さ)を高いレべルで維持したまま、(B)成分や(C)成分の湿熱条件下でのブリードアウトを防止できることが確認できた。
【0049】
また実施例1~5と比較例5から、(C)成分の含有量を所定の範囲内で使用することで、流動性(バーフロ-長さ)を高いレべルで維持したまま、(B)成分や(C)成分の湿熱条件下でのブリードアウトを防止できることが確認できた。また実施例1~5と比較例6から、(B)成分の含有量を所定の範囲で使用することで、(B)成分や(C)成分の湿熱条件下でのブリードアウトを防止できることが確認できた。
【0050】
実施例6(靴紐ティッピング用フィルムの製造)
実施例2のセルロースエステル組成物ペレットを、単軸押出機にシート用Tダイをセットして、シリンダー温度を200℃、ダイス温度を210℃とし、厚みが平均0.4mmの靴紐ティッピング用シート(靴紐ティッピング用フィルム)を製造した。このシートを広幅のジャンボロールに巻取り、カッターで裁断し、幅34mmのロールシート(ロールフィルム)に加工した。