IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ゴア株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-鉛蓄電池用の触媒デバイス及び鉛蓄電池 図1
  • 特許-鉛蓄電池用の触媒デバイス及び鉛蓄電池 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用の触媒デバイス及び鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/392 20210101AFI20231225BHJP
   H01M 50/317 20210101ALI20231225BHJP
   H01M 10/06 20060101ALN20231225BHJP
【FI】
H01M50/392
H01M50/317 101
H01M10/06 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022190103
(22)【出願日】2022-11-29
(62)【分割の表示】P 2021529324の分割
【原出願日】2018-11-26
(65)【公開番号】P2023014187
(43)【公開日】2023-01-26
【審査請求日】2022-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000107387
【氏名又は名称】日本ゴア合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】小林 康太郎
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-201594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/06-10/18
H01M50/30-50/392
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素及び水素から水又は水蒸気を生成するための反応を促進するための触媒を含む触媒層、及び
融点又はガラス転移温度が160℃以下である熱可塑性樹脂を含む少なくとも2つの多孔質膜、
を含んでなる鉛蓄電池用の触媒デバイスであって、
該多孔質膜は該触媒層の両方の平面と接触してラミネート化され、かつ
該多孔質膜は、該触媒層の平面サイズと同等以上の平面サイズを有することを特徴とする、触媒デバイス。
【請求項2】
前記多孔質膜の周辺部分は互いにラミネート化されている、請求項1記載の触媒デバイス。
【請求項3】
ガーレー数が100秒以上であり、かつ、前記触媒層の反対側で前記多孔質膜と接触している延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜をさらに含む、請求項1又は2記載の触媒デバイス。
【請求項4】
触媒毒を吸収又は分解することができる少なくとも1つの多孔質膜を、前記多孔質膜の反対側で前記延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜と接触した形態でさらに含む、請求項3記載の触媒デバイス。
【請求項5】
前記触媒毒を吸収又は分解することができる多孔質膜は、触媒毒を吸収又は分解することができる多孔質膜の内部に触媒毒を吸収又は分解することができる物質を含む、請求項4記載の触媒デバイス。
【請求項6】
前記触媒毒を吸収又は分解することができる多孔質膜は延伸ポリテトラフルオロエチレンを含む、請求項4又は5記載の触媒デバイス。
【請求項7】
前記触媒層よりも鉛蓄電池の内部の近い位置にある疎水性多孔質膜をさらに含み、前記疎水性多孔質膜はガーレー数が20秒以下である、請求項1~6のいずれか1項記載の触媒デバイス。
【請求項8】
前記疎水性多孔質膜は延伸ポリテトラフルオロエチレンを含む、請求項7記載の触媒デバイス。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項記載の触媒デバイスを含む、鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用の触媒デバイス、より好ましくは、電解質溶液の減少を防ぎ、長寿命を可能にし、また、ガスの過剰な流れにおいても安全性を確保することができる、鉛蓄電池用の触媒デバイス、及び、該触媒デバイスを含む鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池、特に自動車用鉛蓄電池は、一般に、希硫酸などの電解質溶液が自由に流れることができる開構造を採用する。このような構造の鉛蓄電池は、充電すると酸素及び水素ガスを発生するため、これらのガスを排出するためのベント(ベントポート)を含む。そうしないと、電池内部のガス圧は上昇し、電池の変形及び破損につながる可能性がある。
ベントからのこのようなガスの漏れは、電解質溶液の減少につながる。電解質溶液が減少すると、電池の化学反応が不十分になり、充電容量及び放電容量の低下をもたらす。
これらの問題に対応するため、これまで様々な努力がなされてきた。
【0003】
特許文献1は鉛蓄電池用の触媒部分であって、酸素及び水素から水又は水蒸気を生成するための反応を加速するための触媒を含む触媒層を含む触媒部分、及び、水又は水蒸気の少なくとも一部が凝縮され、及び/又は、電池の内部に逆流する構成を開示している。触媒部分は、電解質溶液からのガス放出及び漏れによる電解質溶液の減少を抑え、これにより、長寿命の鉛蓄電池を提供する。
【0004】
特許文献2は、電解質溶液からの分解されたガスを再結合させるための触媒デバイスを開示している。この触媒デバイスは、触媒毒(酸性電解質溶液)をろ過し、そして再結合温度を制御する能力を有する。より具体的には、触媒デバイスは、液体ではなく、ガスを通過させることができ、触媒毒(例えば、酸性電解質溶液)が触媒に到達するのを防止する多孔質セクションを含む。多孔質セクションを通過したガスは、触媒部位に到達してそこで再結合し、多孔質セクションを通って逆流することができると記載されている。
特許文献2はまた、触媒の反応熱によって容器が溶融して、触媒作用の停止のために触媒を物理的に覆うことができる触媒デバイスを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-201594号公報
【文献】米国特許第7326489号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、一般的な鉛蓄電池は、充電されると、ベントから酸素及び水素ガスを外向きに放出し、鉛蓄電池の電解質溶液を減少させる。電解質溶液が減少すると、電池の化学反応が不十分になり、充電容量及び放電容量を減少させる。特定の理論に拘束されることを望まないが、電解質溶液中の希硫酸の濃度の増加は、正極板を腐食させて容量を減少させる可能性があり、電解質溶液レベルの低下は、電極を露出させて放電容量を急速に低下させ、負極板とストラップとの間の接合部をさらに腐食させる可能性がある。
【0007】
さらに、電解質溶液の減少は、硫酸化及び貫通短絡につながる可能性もある。硫酸化は、放電によって生成された硫酸鉛が電荷によって二酸化鉛及び鉛に十分に分解されずに、硫酸鉛のバルク結晶を形成する現象である。金属鉛に還元するのが難しいこのようなバルク結晶は、電池の性能を低下させ、電池の寿命を短くする。さらに、このようなバルク結晶は貫通短絡にも関与する。バルク結晶は電極上で成長し、「デンドライト」と呼ばれる針状結晶になる。デンドライトが成長し続けると、もう一方の電極に到達して短絡を引き起こす可能性がある。これは貫通短絡であり、電池の充電及び放電がもはやできなくなる。
【0008】
特に近年、燃費向上のためのアイドリングストップ方式の自動車が益々使用されている。アイドリングストップ車に使用されている鉛蓄電池は、アイドリングストップの間にエアコン及びファンなどすべての機器に電力を供給する。したがって、鉛蓄電池は、従来の始動鉛蓄電池と比較して、過小充電され、低い充電状態で使用される傾向があり、硫酸化及び貫通短絡を引き起こす。電解質溶液の減少を防ぐことで、硫酸化及び貫通短絡を防ぐことができる。
【0009】
特許文献1は、電解質溶液からのガス放出及び漏れによる電解質溶液の減少を低減するための触媒部分を開示している。言い換えれば、鉛蓄電池の内部から生成された酸素及び水素ガスは、触媒によって再結合して水又は水蒸気を形成し、電池の内部に逆流することができる。このような再結合によって形成される水又は水蒸気は、触媒又はその近傍に存在し、安全性に関する問題(例えば、過度のガス流が過度の温度上昇を引き起こす)が引き起こされる可能性は非常に低い。しかしながら、予期せぬ事態に備えて、さらなる安全対策を講じることは有用である。
【0010】
特許文献2は、停止機能を有する触媒デバイスを開示している。具体的には、触媒デバイスの容器は、触媒作用の熱によって溶融され、触媒作用の停止のために触媒を物理的に覆う。したがって、停止機能を一度操作すると、触媒は物理的に覆われ、触媒作用がそれ以上実行できなくなる。さらに、容器が溶融された後に、容器内の触媒は電解質溶液に流出し、短絡する可能性がある。特許文献2において、停止機能は触媒デバイスの容器に提供され、さらに、容器は触媒に隣接していない。したがって、触媒熱を容器に伝達するのに有意な時間がかかると予想される。
さらに、特許文献2の触媒デバイスが実際に動作するときに、特許文献2の触媒デバイスの温度を比較的高く(約70~90℃)制御する必要があり、触媒デバイスは、充電がバックアップのためなどで連続的に行われる環境で使用できるが、充電が不連続に行われ、温度が制御できない環境では使用できない。例えば、特許文献2のデバイスは、連続充電中に必ずしも使用されるとは限らず、寒冷地で使用される可能性のある自動車用鉛蓄電池には適していない。
特許文献2の触媒デバイスは、ガス流を制御するか又は少量のガスしか通過させることができない微細孔膜を採用して、触媒の温度の上昇を抑制する。したがって、触媒デバイスで発生した水蒸気は効率的に流出できず、触媒デバイス内に容易に保持される可能性がある。上記の温度制御を行わないと、デバイス内に保持された水が摂氏0度以下などの低温雰囲気下で固化し、触媒デバイスのケーシングの変形又は破壊などを引き起こす可能性がある。
【0011】
上記の状況を考慮して、本発明の目的は、鉛蓄電池用の触媒デバイスであって、その触媒デバイスは、電解質溶液からのガス放出及び漏れによる電解質溶液の減少を低減することができ、このため、長寿命でありそしてガスの過剰な流れでも安全性を確保できる鉛蓄電池を提供する触媒デバイス、及び、該触媒デバイスを含む鉛蓄電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の態様を提供する。
【0013】
[1]酸素及び水素から水又は水蒸気を生成するための反応を促進するための触媒を含む触媒層、及び、融点又はガラス転移温度が160℃以下である熱可塑性樹脂を含む多孔質膜、を含んでなる鉛蓄電池用の触媒デバイスであって、該触媒層の少なくとも1つの表面が該多孔質膜と接触しており、かつ、該多孔質膜は、該触媒層の平面サイズと同等以上の平面サイズを有することを特徴とする、触媒デバイス。
[2]前記多孔質膜はポリエチレンを含む、項目1記載の触媒デバイス。
[3]少なくとも2つの前記多孔質膜を含み、前記多孔質膜は前記触媒層の両方の平面と接触してラミネート化され、場合により、前記多孔質膜の周辺部分は互いにラミネート化されている、項目1又は2記載の触媒デバイス。
[4]ガーレー数が100秒以上であり、かつ、前記触媒層の反対側で前記多孔質膜と接触している延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜をさらに含む、項目1~3のいずれか1項記載の触媒デバイス。
[5]触媒毒を吸収又は分解することができる少なくとも1つの多孔質膜をさらに含む、項目1~4のいずれか1項記載の触媒デバイス。
[6]前記触媒毒を吸収又は分解することができる多孔質膜は、触媒毒を吸収又は分解することができる多孔質膜の内部で触媒毒を吸収又は分解することができる物質を含む、項目5記載の触媒デバイス。
[7]前記触媒毒を吸収又は分解することができる前記多孔質膜は延伸ポリテトラフルオロエチレンを含む、項目5又は6記載の触媒デバイス。
[8]前記触媒層よりも鉛蓄電池の内部に近い位置にある疎水性多孔質膜をさらに含み、前記疎水性多孔質膜はガーレー数が20秒以下である、項目1~7のいずれか1項記載の触媒デバイス。
[9]前記疎水性多孔質膜は延伸ポリテトラフルオロエチレンを含む、項目8記載の触媒デバイス。
[10]項目1~9のいずれか1項記載の触媒デバイスを含む、鉛蓄電池。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、鉛蓄電池用の触媒デバイスであって、その触媒デバイスは、電解質溶液からのガス放出及び漏れによる電解質溶液の減少を低減することができ、したがって、長寿命を有しそしてガスの過剰な流れの中でも安全を確保することができる鉛蓄電池を提供する触媒デバイス、及び、前記触媒デバイスを含む鉛蓄電池を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の1つの態様による概略図である。
図2図2は、疎水性多孔質部材のキャビティ内又は細孔の表面上に配置された触媒担体を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明により提供される鉛蓄電池用の触媒デバイスは、酸素及び水素から水又は水蒸気を生成するための反応を促進する触媒を含む触媒層と、融点又はガラス転移温度が160℃以下である熱可塑性樹脂を含む多孔質膜とを含み、前記触媒層の少なくとも1つの表面は前記多孔質膜と接触しており、前記多孔質膜は、前記触媒層の平面サイズと同等以上の平面サイズを有する。
【0017】
図1は、本発明の1つの態様による触媒デバイスを概略的に示す図である。本発明の1つの態様を、図1を参照して説明する。図1は、鉛蓄電池用の触媒デバイスの概略断面図を示している。図の下側は電池の内側で、図の上側は電池の外側である。触媒デバイスの下側(電池の内側)に電解質溶液(図示せず)がある。鉛蓄電池の電解質溶液は希硫酸水溶液であるため、電解質溶液(希硫酸水溶液)、硫酸ミスト、水分、及び、電池反応により発生する水素ガス及び酸素ガスが電池の内部空間に存在する。
【0018】
酸素及び水素から水又は水蒸気を生成するための反応を促進する触媒を含む触媒層(1)に水素ガス及び酸素ガスが流れると、水又は水蒸気を生成する反応は触媒層(1)で進行する。電池反応により発生した水素ガス及び酸素ガスは、触媒層(1)で再結合して水又は水蒸気を生成し、幾つかの例において、水又は水蒸気は凝縮し、及び/又は、電池内部に逆流する。その結果、バッテリー内の電解質溶液の減少が低減する。
触媒層(1)で生成された水は、液体の形及び水蒸気の形で放出することができる。これは、自動車用電池の場合のように、電池が繰り返し動作及び停止になるときに特に有利である。その理由は、稼働中の電池を停止すると電池の温度が下がり、それまでに発生した水又は水蒸気が凝縮して液体になりやすいためである。水の蒸気だけでなく液体も触媒層(1)から放出されうるので、水は触媒層(1)に残っていない可能性がある。したがって、大気温度が摂氏0度未満と低くても、触媒層(1)のケーシングの破壊等を引き起こす可能性がある触媒層(1)内での水の固化が防がれる。換言すれば、本発明の触媒デバイスの使用は、特許文献2のように水蒸気を生成するための温度制御の必要性を排除する。
【0019】
本発明の触媒デバイスは、触媒層(1)に加えて、融点又はガラス転移温度が160℃以下である熱可塑性樹脂を含む多孔質膜を含む。さらに、触媒層の少なくとも1つの表面は多孔質膜と接触している。さらに、多孔質膜は、触媒層の平面サイズと同等以上の平面サイズを有する。
多孔質膜は、図1に多孔質膜(2)として示されている。電池反応で発生する水素ガス及び酸素ガスは、触媒層(1)において互いに反応する。この反応は発熱反応である。予期せぬ事態により、触媒層(1)に過剰な量の水素ガス及び酸素ガスが流れると、触媒層(1)における反応が過度に進行し、触媒層(1)及びその周辺の温度が過度に上昇する可能性がある。一般に、温度の上昇は、触媒活性の増強をもたらし、したがって、反応速度のさらなる増加を引き起こし、熱暴走及び発火につながる可能性がある。本発明において、触媒層(1)の少なくとも1つの表面は多孔質膜(2)と接触しており、多孔質膜(2)は、融点又はガラス転移温度が160℃以下である熱可塑性樹脂を含む。触媒層(1)は多孔質膜(2)と接触しており、それにより触媒作用の熱を多孔質膜(2)に容易に伝達することが可能になる。このため、多孔質膜(2)は、160℃以下の温度での溶融又はガラス転移によって体積が変化する。したがって、多孔質膜(2)の細孔のサイズはさらに小さくなり又はそのような細孔は閉じ、それにより、ガスは急速に多孔質膜(2)をほとんど通過できなくなり、それに接触するガスが触媒層(1)にほとんど流れず、触媒作用を抑制する。これにより、触媒作用の熱は急激に低下し、触媒層(1)及びその周辺の温度上昇が抑制される。
熱可塑性樹脂の融点又はガラス転移温度は、発生するガスの量、触媒性能などに応じて適切に選択されうる。融点は100℃~180℃であることができ、ガラス転移温度は60℃~160℃であることができる。
熱可塑性樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン又はポリフッ化ビニリデンであることができる。表1は、このような熱可塑性樹脂のそれぞれの融点及びガラス転移温度を表す。
【0020】
【表1】
【0021】
特許文献2は停止機能を開示しているが、該機能は触媒デバイスの容器上で提供され、さらに容器は触媒に隣接していない。したがって、触媒作用の熱を容器に伝達するのに有意な時間がかかると予想される。言い換えれば、触媒作用を迅速に抑制することはできない。特許文献2において、触媒デバイスの容器は、触媒作用の熱によって溶融され、触媒作用の停止のために触媒を物理的に覆う。したがって、停止機能が一度作動されると、触媒は物理的に覆われ、触媒反応をもはや実行することができなくなる。さらに、容器が溶融した後に、容器内の触媒は電解質に流出することがあり、短絡する可能性がある。本発明において、まず、多孔質膜(2)の細孔の大きさはさらに低減され、又は、細孔は閉じて、ガスの流速を低下させる。言い換えれば、本発明は、触媒をそれ自体で覆うことを目的としていない。したがって、続いて、触媒作用を継続することができ、長寿命の電池を提供することができる。
【0022】
本発明における多孔質膜(2)は、触媒層(1)と同等以上の平面サイズを有する。機能効果について記載する。
多孔質膜(2)は、溶融又はガラス転移による多孔質膜(2)の体積の変化により収縮することができる。多孔質膜(2)が収縮し、したがって触媒層(1)との接触が少なくなると、多孔質膜(2)で覆われていない触媒層(1)の部分、及び、触媒層(1)への残存流路を形成する。この例において、触媒層(1)におけるすべての反応が抑制されるわけではなく、それにより、触媒層(1)及びその周辺の温度が上昇する。しかしながら、本発明における多孔質膜(2)は、触媒層(1)と同等以上の平面サイズを有し、したがって、触媒層(1)を覆い、熱収縮後にも触媒層(1)にガスを容易に流させないことができる。したがって、このような触媒層(1)及びその周辺の温度上昇をより高い速度で抑制することができる。
【0023】
さらに、本発明において、触媒層(1)の表面は多孔質膜(2)と接触している。そのため、多孔質膜(2)の熱収縮を試みるときに、触媒層(1)の接触面に摩擦抵抗が生じ、多孔質膜(2)の熱収縮を抑制する。さらに、多孔質膜(2)は、触媒層(1)と同等以上の平面サイズを有する。したがって、ガスは多孔質膜(2)を通過せずに触媒層(1)に到達することはできない。摩擦抵抗を高めるために、触媒層(1)及び多孔質膜(2)のラミネート化厚さ方向に荷重を加えるか、又は、触媒層(1)及び多孔質膜(2)をラミネート化厚さ方向で圧着することができる。
【0024】
本発明の1つの態様において、多孔質膜(2)は、触媒層(1)の両方の平面と接触してラミネート化されうるか、又は、多孔質膜(2)の周囲部分は、場合により、互いにラミネート化されうる。
図1に示されるように、2つの多孔質膜(2)は、触媒層(1)の両方の平面、すなわち、上面及び下面と接触して積層されうる。あるいは、多孔質膜の1つを触媒層(1)の周りに巻き付けて、触媒層(1)の両側を覆うエンベロープを形成することができる。多孔質膜(2)は、触媒層の上面及び下面にラミネート化されており、それにより、ガス流に対する抵抗力が増している。したがって、ガスは触媒層(1)に流れにくくなり、触媒作用は抑制され、それにより、触媒層(1)及びその周辺の温度上昇をより高い速度で低減することができる。
【0025】
また、多孔質膜(2)は、触媒層(1)と同等以上の平面サイズを有しており、それゆえ、多孔質膜(2)の上下周辺部は互いにラミネート化されうる。触媒層(1)の上面及び下面だけでなく、その側面も多孔質膜(2)で取り囲むことができる。多孔質膜(2)を通過せずに、触媒層(1)の側面にガスが直接流れるのを防ぐことができる。好ましくは、触媒層(1)の側面は多孔質膜(2)と接触していることができる。触媒層(1)が多孔質膜(2)と接触しているときに、触媒作用の熱は多孔質膜(2)に容易に伝達されることができ、それにより、多孔質膜(2)の細孔はさらに急速にサイズが減少され又は閉止される。
【0026】
本発明の1つの態様において、触媒デバイスは、ガーレー数が100秒以上であり、触媒層の反対側で多孔質膜と接触される延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜(多孔質ePTFE膜)(3)をさらに含むことができる。
ガーレー値は、JIS P 8117:1998に基づいて評価されている。ガーレー値は、100cm3の空気が1.29kPaの圧力で6.45cm2の面積のサンプルを垂直に通過する時間(秒)を指す。ガーレー値は通気性の指標である。多孔質膜(2)が熱収縮等により破壊された場合でも、多孔質ePTFE膜(3)は、触媒層(1)にガスが過剰に流入するのを防ぐことができる。多孔質膜(2)が溶融され又はガラス転移を起こすと、多孔質膜(2)は溶融するなどして、多孔質ePTFE膜(3)の細孔はサイズ縮小され又は閉止されることができる。したがって、多孔質ePTFE膜(3)は通気性が低下し、ガスが触媒層(1)に流れにくくなり、より確実に触媒作用を抑制する。多孔質ePTFE膜(3)のガーレー値は、触媒層(1)の触媒活性、発生ガスの予測量等に応じて適切に調整することができる。100秒以上のガーレー値は、触媒層(1)に流れるガスの量を十分に減らすことができる。多孔質ePTFE膜(3)は、触媒層(1)の上面及び下面のいずれか一方のみ又は両方に提供されうる。
【0027】
本発明の1つの態様において、触媒デバイスは、触媒毒を吸収又は分解することができる少なくとも1つの多孔質膜(4)をさらに含むことができる。
触媒毒の1つの例は、電解質溶液中の希硫酸であり、又は、H2Sなどの希硫酸から生成される硫化物である。触媒毒は、触媒と接触するときに、その触媒性能を低下させる。触媒毒を吸収又は分解することができる物質は、活性炭、ZnO、炭酸カリウムなどであることができ、そのような材料は触媒毒を吸収又は分解することができる。したがって、触媒デバイスが、触媒毒を吸収又は分解することができる少なくとも1つの多孔質膜(4)を含むときに、触媒性能の低下を抑制することができる。
【0028】
好ましくは、触媒毒を吸収又は分解することができる物質は、触媒毒を吸収又は分解することができる少なくとも1つの多孔質膜(4)の内部に含まれることができる。「多孔質膜(4)の内部」という語句は、触媒毒を吸収又は分解することができる物質が、多孔質膜(4)のキャビティの内部に又は細孔の表面に存在又は配置されうることを意味する。この例において、触媒毒を吸収又は分解することができる物質は、多孔質膜(4)のキャビティ内又は細孔の表面に暴露され、触媒毒と容易に接触し、触媒毒の吸収又は分解を促進する。
触媒毒を吸収又は分解することができる少なくとも1つの多孔質膜(4)において、例えば、ポリプロピレン及び延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)を使用することができ、それらの織布、不織布、編布及び多孔質膜もまた使用することができる。好ましくは、多孔質膜(4)は多孔質ePTFEを含むことができる。ePTFEは本質的に疎水性であるために、多孔質膜(4)は、触媒層(1)で生成された水又は水蒸気を通過させ又は弾き(反発して)、水又は水蒸気の電池内部の電解質溶液への逆流を促進しうる。ePTFEなどを含む多孔質膜(4)は親水化処理を行うことができる。親水化処理において、金属酸化物ゲルを使用することができる。具体的には、親水性金属酸化物のゾルが提供され、多孔質部材がゾルに浸漬され、その後にゲル化する。このようにして、多孔質部材の細孔の内面は、親水性酸化物ゲルによって変性することができる。例えば、ゾルゲルプロセスに基づいて、部材の表面は、親水化のためにシリカ材料でコーティングされうる。このような親水化は、プラズマなどによる表面処理により行うことができる。多孔質膜(4)は親水化を受けることができ、それにより触媒毒への濡れ性を高めることができる。したがって、触媒毒はより確実に吸収又は分解されることができる。親水化処理の程度は、触媒で発生した水分の逆流作用及び触媒毒の吸収作用を比較考量して適切に設定することができる。
【0029】
触媒毒を吸収又は分解することができる多孔質膜(4)の少なくとも1つは、触媒毒を吸収又は分解することができる物質とポリテトラフルオロエチレンとを混合し、次にそれらの混合物を多孔質にするか、又は延伸によりその混合物を多孔質にすることによって製造することができる。触媒毒を吸収又は分解することができる物質とポリテトラフルオロエチレンをあらかじめ混合したものを延伸することにより、ノード及び/又はフィブリルにより画定されたマイクロキャビティがポリテトラフルオロエチレンに形成され、マイクロキャビティ内において触媒毒を吸収又は分解することができる物質は保持される。
【0030】
本発明の1つの態様において、触媒デバイスは、触媒層(1)よりも鉛蓄電池の内部に近い位置にある疎水性多孔質膜(5)をさらに含む。疎水性多孔質膜(5)は、水蒸気が保持されないように、高いガス透過性を有する多孔質膜を使用することができる。ガーレー数が20秒以下の場合に、ガス透過性は高くなる。
したがって、疎水性多孔質膜(5)は、水素ガス及び酸素ガスが触媒層(1)に流入するのを阻害しない。さらに、触媒層(1)で生成された水蒸気は、鉛蓄電池の内部に容易に逆流し、そして触媒デバイス中に保持されえない。さらに、疎水性(撥水性)である疎水性多孔質膜(5)は、硫酸ミスト及び電解質溶液(希硫酸水溶液)が触媒層(1)の触媒と直接接触するのを防ぎ、触媒の寿命を延ばすことができる。疎水性多孔質膜(5)は、好ましくは、硫酸の塩などの電池内部の他の材料と非反応性である。例えば、ポリプロピレン及びPTFEを使用することができ、それらの織布、不織布、編布及び多孔質膜も使用することができる。疎水性多孔質膜(5)は、多孔質ePTFE膜(3)及び触媒毒を吸収又は分解することができる多孔質膜(4)の少なくとも1つと同様に、多孔質ポリテトラフルオロエチレンであることができる。疎水性、耐薬品性、耐紫外線性、耐酸化性、耐熱性など優れた特性を持つポリテトラフルオロエチレンは電池の構成材料として適している。あるいは、例えば、延伸性ポリテトラフルオロエチレンは多孔質部材を容易に提供することができる。
【0031】
触媒作用によって生成された水又は水蒸気の少なくとも一部は、触媒層(1)及び多孔質部材(2)、及び、場合により、多孔質ePTFE膜(3)、触媒毒を吸収又は分解することができる多孔質膜(4)の少なくとも1つ及び/又は疎水性多孔質膜(5)を通って鉛蓄電池の内部に逆流することができる。
【0032】
本発明の1つの態様において、触媒デバイスは、生成された水又は水蒸気の少なくとも一部を凝縮することができる空間を含むことができ、また、触媒作用によって生成された水又は水蒸気、及び、空間で凝縮した水が電池の内部に逆流することができる経路を含むことができる。空間の少なくとも一部又は全部を経路と呼ぶことができ、経路の少なくとも一部又は全部を空間と呼ぶことができることに留意されたい。図1の(A)は、配置の一例を表し、すなわち、生成された水又は水蒸気の少なくとも一部を凝縮することができる空間、及び、触媒作用によって生成された水又は水蒸気及び空間内で凝縮された水を電池の内部に戻すことができる経路を表す。
さらに、本発明の触媒デバイスは、全体としてガス透過性であることができる。ガス透過性は、触媒層内の触媒の多孔度又は充填比、あるいは、多孔質膜の通気性などを調整することで得ることができる。これにより、電池内の圧力が一定値を超えると、ガスが電池から排出されて電池内の圧力を下げることができる。電池のケーシングの材料の耐圧性を考慮して、又は触媒デバイスを除く部品、例えば安全弁などのガス透過性を考慮して、圧力の特定の値を選択することができる。その結果、触媒デバイスは全体としてガス透過性であり、電池の防爆性を向上させ、電池への致命的な損傷を回避し、そして安全性を向上させるのを支援する。
【0033】
本発明の1つの態様において、本発明の触媒デバイスは、触媒デバイスケーシング又はスペーサに収容された必須構成要素及び任意構成要素を含むことができる。触媒デバイスケーシング又はスペーサは、触媒デバイスの形態を画定し、各構成要素の配置及び鉛蓄電池へのその取り付けを容易にするように形成することができる。触媒デバイスケーシング又はスペーサはまた、生成された水又は水蒸気の少なくとも一部を凝縮することができる空間を含むように形成されうる。触媒デバイスケーシング又はスペーサは、多孔質部材、膜部材などから形成することができる。
ケーシング又はスペーサの例としては、ポリプロピレン(PP)などの樹脂材料から作られたケーシング又はスペーサが挙げられる。多孔質部材の例としては、ポリプロピレン(PP)及び延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンなどの樹脂材料の焼結多孔質部材が挙げられる。膜部材の例としては、ポリプロピレン(PP)及びPTFEなどの樹脂材料から作られた織布、不織布、編布及び多孔質膜が挙げられる。ケーシング又はスペーサ及び収容される構成要素の寸法を適切に調整することができ、それにより、多孔質膜(2)に適切な荷重を加えて、熱収縮などの変形を低減することができる。
【0034】
本発明の別の態様において、上記の触媒デバイスを含む鉛蓄電池が提供される。触媒デバイスを含む鉛蓄電池は、電解質溶液からのガス放出及び漏れによる電解質溶液の減少を低減することができ、このため、長寿命の鉛蓄電池を提供し、ガスの過剰な流れでも安全性を確保することができる。
【0035】
鉛蓄電池はセルを含むことができる。この例において、各セルは、本発明の触媒デバイスを備えていることができる。セルが存在するときに、セル内の電解質溶液に由来する触媒的に生成された水又は水蒸気は他のセルに移動することができる。この例において、電解質溶液の量はセルごとに異なることができる。各セル中の少なくとも1つの触媒デバイスは、各セルで生成された水素ガス及び酸素ガスが各セル中の触媒層(1)で再結合するのを助け、生成された水又は水蒸気がセル(水又は水蒸気が由来するセル)に逆流するのを助けることができる。これは、セルごとの電解質溶液の量の違いを回避するのに役立つ。
【0036】
本発明の1つの態様において、触媒層(1)は、疎水性多孔質部材を含むことができる。触媒層(1)において、電池反応により発生される水素ガス及び酸素ガスが再結合して水又は水蒸気を生成し、触媒層(1)は湿分を帯びる傾向がある。触媒が水又は水蒸気で覆われていると、水素ガス及び酸素ガスは触媒と接触しにくくなり、触媒反応(再結合反応)の効率が低下する傾向がある。触媒層(1)における疎水性多孔質部材は、触媒層(1)から生成される水又は水蒸気の放出を促進し、触媒反応(再結合反応)の効率の低下を防止する。疎水性多孔質部材はまた、生成された水又は水蒸気が電池内部の電解質溶液に逆流するのを容易にする。
【0037】
好ましくは、触媒層(1)において、触媒を支持する触媒担体は、触媒層(1)(又は疎水性多孔質部材)のキャビティ内又は細孔の表面上に配置されうる(図2を参照されたい)。この例において、触媒担体、特に触媒は、触媒層(1)のキャビティに暴露され、水素ガス及び酸素ガスと容易に接触し、反応を促進して水を生成する。触媒層(1)が疎水性多孔質部材を含むときに、生成された水は、近くの疎水性多孔質部材によって容易に放出され、触媒の寿命を延ばす。疎水性多孔質部材はまた、生成された水又は水蒸気が電池内部の電解質溶液に逆流するのを容易にする。
触媒層(1)は、上記以外の形態であることができ、触媒担体は、粉末、成形粉末又はペレット化粉末の形態であることができる。
【0038】
触媒層(1)(又は疎水性多孔質部材)は、好ましくは、硫酸の塩などの電池内部の他の材料と非反応性である。例えば、ポリプロピレン及びPTFEを使用することができ、それらの織布、不織布、編布及び多孔質膜も使用することができる。触媒層(1)(又は疎水性多孔質部材)は多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であることができる。本質的に疎水性、耐薬品性、耐紫外線性、耐酸化性及び耐熱性などの優れた特性を有するポリテトラフルオロエチレンは電池の構成材料として適している。多孔質にすることは発泡剤を使用して達成することができる。あるいは、例えば、延伸性ポリテトラフルオロエチレンは多孔質部材を容易に提供することができる。より具体的には、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンは、ノード(ノット)及びフィブリル(小繊維)から構成されている。触媒又は触媒担体は、ノード及び/又はフィブリルによって画定されるマイクロキャビティ(マイクロポア)に保持される。ノード及びフィブリルはどちらもポリテトラフルオロエチレンから作られており、その違いはポリテトラフルオロエチレン分子の凝集又は結晶化の状態の違いによるものと考えられる。一般に、ノードはポリテトラフルオロエチレン一次粒子の凝集体であり、一方、フィブリルは、ノード、すなわち、一次粒子から延びている結晶リボンの束から作られていると考えられている。
【0039】
触媒層(1)(又は疎水性多孔質部材)は、触媒担体とポリテトラフルオロエチレンを混合し、次に延伸によりそれらの混合物を多孔質にすることによって製造することができる。事前に混合された触媒担体及びポリテトラフルオロエチレンの延伸により、ノード及び/又はフィブリルによって画定されるマイクロキャビティはポリテトラフルオロエチレン中に形成され、そのマイクロキャビティ内に触媒担体が保持される。
あるいは、触媒担体及び/又は触媒自体を含む延伸多孔質PTFE繊維は、ポリテトラフルオロエチレンを触媒担体及び/又は触媒自体と混合し、混合物を延伸することによって製造することができる。繊維を使用して製造された織布及びフェルトは触媒層(1)として使用することができる。
【0040】
触媒層(1)は、触媒金属を支持する触媒担体を含むことができる。触媒金属は、水素と酸素を再結合して水を生成するための任意の触媒であることができ、例としては、Pd、Pt及びAuが含まれる。触媒を支持する担体は、所望の分散状態で触媒を支持するのに十分な比表面積を有する任意の担体であることができる。担体は、シリカ、アルミナ、ゼオライト、炭素、第IVB族、第VB族、第VIB族、第VIIB族及び第VIII族遷移金属の酸化物及び炭化物ならびにそれらの組み合わせからなる群より選択することができる。あるいは、担体は炭素材料であることができる。担体材料が所望の反応以外の化学反応をもたらすこと、又は、担体材料を構成する物質が凝縮水との接触時に溶出されることは好ましくない。この点で、炭素材料は化学的に安定であり、好ましい担体材料である。炭素材料の例としては、カーボンブラック(例えば、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック及びアセチレンブラック)、活性炭、コークス、天然黒鉛及び人工黒鉛が挙げられる。これらは組み合わせて使用できる。
【実施例
【0041】
次に、本発明を、実施例及び比較例を参照してより詳細に説明する。しかしながら、以下の実施例は、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0042】
(例1)
触媒層(1)は以下のように提供された。5質量%のPd触媒/活性炭担持触媒を提供し、その触媒をアルミナフィラー(充填率70質量%)と混合し、焼結することにより、触媒層(1)を提供した。多孔質膜(2)として、触媒層(1)よりも平面サイズが大きい2枚のポリエチレンの多孔質膜(融点:130℃)を提供した。触媒層(1)及び多孔質膜(2)の表面を収容できるように、くぼみ部分を備えた触媒デバイスケーシングを提供した。触媒層(1)の表面が各多孔質膜(2)の表面と接触するように、触媒層(1)を多孔質膜(2)によって挟み、触媒デバイスケーシングのくぼみ部分に収容した。得られた触媒デバイスを、鉛蓄電池をシミュレートするために提供されたチャンバに取り付けた。電解質溶液は使用しなかった。代わりに、水素ガス及び酸素ガスを触媒デバイスに供給した。酸素及び水素は、化学量論比に従って1:2の比率で供給した。水素は、57ml/分(5Aに相当)~226ml/分(20Aに相当)の範囲の流速で供給した。本例1において、水素を226ml/分(20Aに相当)で5分以上流し続けた場合でも、触媒層(1)の温度はせいぜい約100℃であった。したがって、多孔質膜(2)は溶融せず、触媒反応が継続され、それにより酸素と水素が再結合して水を生成することが可能になった。
さらに、多孔質膜(2)の代わりに、触媒層(1)と同じ平面サイズのポリエチレンの2つの多孔質膜(2)’を使用して上記の実験を再現した。結果的に、多孔質膜(2)’の実験結果は多孔質膜(2)の実験結果と同じであった。
【0043】
比較例として、触媒層(1)のみを触媒デバイスケーシング内に収容した触媒デバイスを提供した。換言すれば、触媒デバイスは多孔質膜(2)を備えていなかった。水素及び酸素を触媒デバイスに供給したときに、57ml/分(5Aに相当)の水素を10分間供給した後に、触媒層(1)の温度は150℃を超えた。このような温度は、多孔質膜(2)の材料としてのポリエチレンの融点を超えていた。
【0044】
別の比較例として、触媒層(1)の表面が各多孔質膜(2)の表面と接触しないようにして、触媒層(1)及び多孔質膜(2)を触媒デバイスケーシングのくぼんだ部分に収容した。触媒層(1)及び多孔質膜(2)のラミネート化順序は例1と同じであった。したがって、触媒層(1)と多孔質膜(2)との間に空間が存在した。水素及び酸素を触媒デバイスに供給したときに、170ml/分(15Aに相当)の水素を供給した後に、触媒層(1)の温度は150℃を超え、多孔質膜(2)が溶融した。理由として、多孔質膜(2)は触媒層(1)と接触しておらず、したがって摩擦抵抗はそれらの間で作用しなかったと考えられた。したがって、多孔質膜(2)は熱収縮して、多孔質膜(2)を通過せずに酸素及び水素を触媒層(1)に到達させ、それにより触媒反応を促進して温度を上昇させた。
【0045】
(例2)
例1に提供した触媒デバイスを用いて、触媒反応による再結合により生成した水がどの程度逆流したかを確認した。水素及び酸素は、60℃でそれぞれ2.7ml/分及び1.8ml/分の速度で、チャンバに取り付けられた触媒デバイスに供給された。
触媒部品の逆流性能は、供給されたすべての酸素及び水素が反応して再結合したときに生成されうる水又は水蒸気の量に基づいて、試験後にチャンバに収集された水の量(%)によって規定した。
例2において、逆流性能は70%であった。換言すると、チャンバ内に集められた水の量は70%であった。触媒デバイスに残っている水の量は0%であった。
参考例として特許文献2をベースにした製品において、例2と同じ条件での逆流性能は50%であった。ここで、逆流性能の4%は製品に残っている水によるものであった。
【0046】
上記の試験が完了した後に、触媒デバイスを30℃の温度の環境に保管し、上記と同じ方法で再度試験した。本発明の触媒デバイスにおいて、逆流性能の低下は確認されなかった。参考例として特許文献2をベースにした製品において、逆流性能は保管前の値の約20%に低下した。参考例の製品において、温度を比較的高温(約70~90℃)に制御することが望ましいためと考えた。
【0047】
(例3)
ガーレー数が100秒以上で、触媒層(1)とは反対側の多孔質膜(2)と接触している2つの延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜(3)を、例1に提供した触媒デバイスにさらに収容した。例1と同じ条件で水素及び酸素を供給した。例3の触媒デバイスで得られた結果は例1とほぼ同じであった。換言すれば、226ml/分(20Aに相当)の水素を5分以上流し続けたときでも、触媒層(1)の温度はせいぜい約100℃であった。そのため、多孔質膜(2)は溶融せず、触媒反応を継続し、それにより、酸素及び水素を再結合させて水を生成させることができた。さらに、例1の触媒デバイスに供給される水素の量を283ml/分(25Aに相当)に増加させると、温度の数度の上昇が観察された。例3の触媒デバイスに供給される水素の量を283ml/分(25Aに相当)に増加させたときに、温度の上昇はほとんど観察されなかった。延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜(3)を低下した例3では、温度上昇を低減する効果がさらに大きく発揮されることが確認された。
【0048】
(例4)
例1~3において、多孔質膜(2)の材料としてポリエチレンを使用した。そのような多孔質膜だけでなく、材料としてポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン又はポリフッ化ビニリデンから作られた多孔質膜も提供した。これらの多孔質膜のそれぞれのガーレー値を室温で測定した。その後、これらの多孔質膜をそれぞれの材料の融点/ガラス転移温度よりも高い温度で保存し、そのガーレー数を再度測定した。すべての多孔質膜は、室温で測定された値の約2倍にガーレー数が増加した。この結果から、本発明において、ポリエチレン以外の材料から作られた多孔質膜も多孔質膜(2)として利用できることが確認された。
図1
図2