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特許7408846風向補正装置、モデル生成装置、補正方法、モデル生成方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】風向補正装置、モデル生成装置、補正方法、モデル生成方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01P 13/02 20060101AFI20231225BHJP
   F03D 7/04 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
G01P13/02 A
F03D7/04 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022575029
(86)(22)【出願日】2021-01-18
(86)【国際出願番号】 JP2021001429
(87)【国際公開番号】W WO2022153525
(87)【国際公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】517356058
【氏名又は名称】株式会社ユーラステクニカルサービス
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】犬童 健太郎
【審査官】岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-513492(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0323482(US,A1)
【文献】特開2018-97733(JP,A)
【文献】特開2013-108462(JP,A)
【文献】国際公開第2008/146604(WO,A1)
【文献】特表2007-530926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P13/00-13/04
F03D 1/00-80/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力発電装置に設けられた風向計の測定結果を補正する風向補正装置であって、
前記風向計の測定項目は、前記風力発電装置を基準とした風の向きである相対風向、及び風速を含んでおり、
前記風力発電装置の周囲における空気密度に関連する空気密度パラメータ、前記風向計が測定した前記風速、及び前記風力発電装置のナセルの方向を取得する実績取得部と、
前記空気密度パラメータ、前記風速、及び前記ナセルの方向を用いて、前記相対風向及び絶対風向の少なくとも一方を補正するための補正パラメータを決定する補正量決定部と、
を備え、
前記補正量決定部は、前記空気密度パラメータ、前記風速、及び前記ナセルの方向を含む入力データを前記補正パラメータに変換する変換モデルを用いて、前記補正パラメータを決定する、風向補正装置。
【請求項2】
請求項1に記載の風向補正装置において、
前記空気密度パラメータは気温を含む、風向補正装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の風向補正装置において、
前記補正量決定部は、前記空気密度パラメータ、前記相対風向、及び前記風速の少なくとも一つが基準を満たさなかったとき、前記補正パラメータとして定数を用いる風向補正装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の風向補正装置において、
前記風速、前記相対風向、前記空気密度パラメータ、前記ナセルの方向、及び前記風力発電装置の出力電力を含んでいる複数の訓練データを取得する訓練データ取得部と、
前記複数の訓練データを用いて、前記風速、前記相対風向、前記空気密度パラメータ、及び前記ナセルの方向を説明変数の少なくとも一部として、前記出力電力を目的変数とした機械学習を実行してベースモデルを生成するベースモデル生成部と、
前記ベースモデルを用いて前記変換モデルを生成する変換モデル生成部と、
を備える風向補正装置。
【請求項5】
請求項4に記載の風向補正装置において、
前記補正量決定部は、前記訓練データの数が基準以下であるとき、前記補正パラメータとして定数を用いる風向補正装置。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項に記載の風向補正装置において、
通信により、前記変換モデルを更新するための更新データを取得して前記変換モデルを更新するモデル更新部をさらに備える風向補正装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の風向補正装置において、
前記風向補正装置は前記風力発電装置に搭載される、風向補正装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の風向補正装置において、
前記相対風向及び前記補正パラメータを用いて前記ナセルの方向を制御する制御部を備える風向補正装置。
【請求項9】
請求項1に記載の前記変換モデルを生成するモデル生成装置であって、
前記風速、前記相対風向、前記空気密度パラメータ、及び前記ナセルの方向を入力データの少なくとも一部として、前記風力発電装置の出力電力を出力データとするベースモデルを作成するベースモデル作成部と、
前記ベースモデルを用いて前記変換モデルを生成する変換モデル生成部と、
を備えるモデル生成装置。
【請求項10】
コンピュータが、風力発電装置に設けられた風向計の測定結果を補正する補正方法であって、
前記風向計の測定項目は、前記風力発電装置を基準とした風の向きである相対風向、及び風速を含んでおり、
前記コンピュータは、
前記風力発電装置の周囲における空気密度に関連する空気密度パラメータ、前記風向計が測定した前記風速、及び前記風力発電装置のナセルの方向を取得する実績取得処理と、
前記空気密度パラメータ、前記風速、及び前記ナセルの方向を用いて、前記相対風向及び絶対風向の少なくとも一方を補正するための補正パラメータを決定する補正決定処理と、
を行い、
前記補正決定処理において、前記コンピュータは、前記空気密度パラメータ、前記風速、及び前記ナセルの方向を含む入力データを前記補正パラメータに変換する変換モデルを用いて、前記補正パラメータを決定する、補正方法。
【請求項11】
コンピュータが、請求項1に記載の前記変換モデルを生成するモデル生成方法であって、
前記コンピュータは、
前記風速、前記相対風向、前記空気密度パラメータ、及び前記ナセルの方向を入力データの少なくとも一部として、前記風力発電装置の出力電力を出力データとした出力データとするベースモデルを作成するベースモデル作成処理と、
前記ベースモデルを用いて前記変換モデルを生成する変換モデル生成処理と、
を行うモデル生成方法。
【請求項12】
コンピュータを、風力発電装置に設けられた風向計の測定結果を補正する補正装置として機能させるためのプログラムであって、
前記風向計の測定項目は、前記風力発電装置を基準とした風の向きである相対風向、及び風速を含んでおり、
前記コンピュータに、
前記風力発電装置の周囲における空気密度に関連する空気密度パラメータ、前記風向計が測定した前記風速、及び前記風力発電装置のナセルの方向を取得する実績取得機能と、
前記空気密度パラメータ、前記風速、及び前記ナセルの方向を用いて、前記相対風向及び絶対風向の少なくとも一方を補正するための補正パラメータを決定する補正決定機能と、
を持たせ、
前記補正決定機能は、前記空気密度パラメータ、前記風速、及び前記ナセルの方向を含む入力データを前記補正パラメータに変換する変換モデルを用いて、前記補正パラメータを決定する、プログラム。
【請求項13】
コンピュータを、請求項1に記載の前記変換モデルを生成するモデル生成装置として機能させるためのプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記風速、前記相対風向、前記空気密度パラメータ、及び前記ナセルの方向を入力データの少なくとも一部として、前記風力発電装置の出力電力を出力データとするベースモデルを作成するベースモデル作成機能と、
前記ベースモデルを用いて前記変換モデルを生成する変換モデル生成機能と、
を持たせるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風向補正装置、モデル生成装置、補正方法、モデル生成方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
再生エネルギーの一つに、風力発電がある。風力発電装置の発電効率を上げるためには、ナセルの向きを風向に合わせることは重要である。例えば特許文献1には、風向風速センサの検出結果を用いてナセルのヨ―旋回機構を制御することが記載されている。また、特許文献1には、風向風速センサの検出結果を用いて風の乱れ度を算出し、この乱れ度を用いてナセルのヨ―旋回機構を制御することも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-20264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
風向計による風向の測定結果は、様々な原因に起因した誤差を含んでいる。このため、ナセルの向きを風向に合わせて精度良く制御することは難しい。
【0005】
本発明の目的の一例は、ナセルの向きを風向に合わせて精度良く制御することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、風力発電装置に設けられた風向計の測定結果を補正する補正装置であって、
前記風向計の測定項目は、前記風力発電装置を基準とした風の向きである相対風向、及び風速を含んでおり、
前記風力発電装置の周囲における空気密度に関連する空気密度パラメータ、前記風向計が測定した前記風速、及び前記風力発電装置のナセルの方向を取得する実績取得部と、
前記空気密度パラメータ、前記風速、及び前記ナセルの方向を用いて、前記相対風向及び絶対風向の少なくとも一方を補正するための補正パラメータを決定する補正量決定部と、
を備え、
前記補正量決定部は、前記空気密度パラメータ、前記風速、及び前記ナセルの方向を含む入力データを前記補正パラメータに変換する変換モデルを用いて、前記補正パラメータを決定する、風向補正装置が提供される。
【0007】
本発明によれば、上記した変換モデルを生成するモデル生成装置であって、
前記風速、前記相対風向、前記空気密度パラメータ、及び前記ナセルの方向を入力データの少なくとも一部として、前記風力発電装置の出力電力を出力データとするベースモデルを作成するベースモデル作成部と、
前記ベースモデルを用いて前記変換モデルを生成する変換モデル生成部と、
を備えるモデル生成装置が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、上記した風向補正装置によって行われる風向補正方法、上記したモデル生成装置によって行われるモデル生成方法、上記した風向補正装置を実現するためのプログラム、及び上記したモデル生成装置を実現するためのプログラムも提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ナセルの向きを風車前方の風向に合わせて精度良く制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係る風向補正装置の使用環境を説明するための図である。
図2】(A)及び(B)は、風向計が測定した相対風向に誤差が生じる理由を説明するための図である。
図3】モデル生成装置の機能構成の一例を示す図である。
図4】ベースモデルを生成するための機械学習を説明する図である。
図5】ベースモデルから変換モデルを生成する方法の一例を説明するための図である。
図6】ベースモデルから変換モデルを生成する方法の一例を説明するための図である。
図7】風向補正装置が用いる定数の算出方法の一例を説明するための図である。
図8】ΔPの大きさを示す値(ε(φ))と相対風向(φ)の関係を示す図である。
図9】風向補正装置の機能構成の一例を示す図である。
図10】モデル生成装置のハードウェア構成例を示す図である。
図11】モデル生成装置が行う変換モデルの生成処理を説明するためのフローチャートである。
図12】風向補正装置が行う処理の一例を説明するためのフローチャートである。
図13図12の第1変形例を示す図である。
図14図12の第2変形例を示す図である。
図15】第2実施形態に係る風向補正装置の機能構成の一例を示す図である。
図16】第3実施形態に係る風向補正装置を説明するための図である。
図17】第4実施形態に係る風向補正装置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0012】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態に係る風向補正装置50の使用環境を説明するための図である。風向補正装置50は、風力発電装置10に取り付けられた風向計30の測定結果を補正する。
【0013】
具体的には、風向計30は、風力発電装置10を基準とした風向(以下、相対風向と記載)、及び風速を測定する。そして風力発電装置10のヨー制御装置60は、風向計30が測定した相対風向を用いて、ナセル70が風に正対するように、ナセル70のヨー方向の向きを制御する。これは、ナセル70が有する発電装置72の発電効率を上げるためである。
【0014】
風向計30が測定した相対風向が適正でない場合、発電装置72の発電効率は低下する。風向補正装置50は、相対風向を適正値に近づけるための処理を行う。具体的には、風向補正装置50は、風力発電装置10の周囲における空気密度に関連する空気密度パラメータ(例えば外気温)、風向補正装置50が測定した相対風向、及びナセル70の方向を取得し、これらのデータを用いて、相対風向及び絶対風向の少なくとも一方を補正するための補正パラメータを決定する。
【0015】
風向補正装置50は、補正パラメータを決定する際に、入力データを補正パラメータに変換するモデル(以下、変換モデルと記載)を用いる。入力データは、空気密度パラメータ、風速、及びナセルの方向を含んでいる。また、変換モデルは、モデル生成装置20によって生成されている。風向補正装置50は、モデル生成装置20から変換モデル及び/又は変換モデルの更新情報を取得する。なお、モデル生成装置20は、例えば機械学習によって生成されたモデル(以下、ベースモデルと記載)を用いて、変換モデルを生成する。風力発電装置10が複数ある場合、ベースモデル及び変換モデルは、複数の風力発電装置10別に生成される。
【0016】
上記したように、空気密度パラメータの一例は気温(外気温)である。この気温は、風力発電装置10の外面に取り付けられた温度計40によって測定される。そして風向補正装置50は、温度計40から測定データを取得する。ただし、空気密度パラメータは、さらに湿度及び気圧の少なくとも一方を含んでいてもよい。この場合、温度計40は湿度及び/又は気圧を測定する機能も有している。
【0017】
本図に示す例において、風向補正装置50は風力発電装置10のナセル70に搭載されている。ただし、風向補正装置50は風力発電装置10のうちナセル70以外の部分に搭載されていてもよいし、風力発電装置10の外部に設けられていてもよい。
【0018】
図2の各図は、風向計30が測定した相対風向が適正値でない状態が生じる理由を説明するための図である。
【0019】
風向計30は、風力発電装置10が有する回転体軸(ローター)が風力発電装置10の前方の風向と平行な状態で相対風向が0°になるように、ナセル70に取り付けられている。そして図1に示したヨー制御装置60は、風向計30が測定した相対風向が0°になるように、ヨー方向を制御する。しかし、図2(A)に示すように、風力発電装置10のローターと風力発電装置10の前方の風向が平行でない状態で相対風向が0°となる場合がある。この理由の一つは、風向計30をナセル70に取り付けるときのミスアライメントである。
【0020】
また、風力発電装置10のローターはブレード74を有している。そして、風向計30はブレード74の後方に配置されている。このため、風は、風向計30に届く前にブレード74から影響を受けることがある。この影響は、風向計30が測定した相対風向と風力発電装置10の前方の相対風向に誤差が生じる一因となる。
【0021】
そして風向補正装置50は、上記した2つの理由に起因した誤差を同時に補正することができる。
【0022】
図3は、モデル生成装置20の機能構成の一例を示す図である。モデル生成装置20は、訓練データ取得部220、ベースモデル生成部230、変換モデル生成部250、及びモデル送信部260を有している。
【0023】
訓練データ取得部220は、複数の訓練データを取得する。複数の訓練データのそれぞれは、風速、相対風向、空気密度パラメータ、ナセルの方向、及び発電装置72の出力電力を含んでいる。本図に示す例において、訓練データ取得部220は訓練データ記憶部210から訓練データを取得する。訓練データ記憶部210は、訓練データとして風力発電装置10の実績データ(すなわち風力発電装置10が発電している間に得られたデータ)を用いる。風力発電装置10が複数ある場合、訓練データ記憶部210は、複数の風力発電装置10別に訓練データを記憶している。この訓練データは、風速が所定の範囲の時のデータ(例えば後述する図7において直線近似ができる範囲)であるのが好ましい。
【0024】
ベースモデル生成部230は、訓練データ取得部220が取得した複数の訓練データを用いて機械学習を行うことにより、ベースモデルを生成する。図1を用いて説明したように、ベースモデルは変換モデルを生成する際に用いられる。図4に示すように、この機械学習において、説明変数は、風速(v)、空気密度パラメータ(T)、相対風向(φ)、及びナセルの方向(ω)を含んでおり、目的変数は出力電力(P)である。そしてベースモデルは、風速(v)、空気密度パラメータ(T)、相対風向(φ)、及びナセルの方向(ω)が入力されると、出力電力(P)を出力する。ベースモデル生成部230は、生成したベースモデルをモデル記憶部240に記憶させる。
【0025】
なお、ベースモデル生成部230は、機械学習以外の方法、例えば、物理的なモデル、または現象を近似的に表すモデルを用いて、ベースモデルを生成してもよい。
【0026】
変換モデル生成部250は、ベースモデル生成部230が生成したベースモデルを用いて、変換モデル、又は変換モデルを更新するためのデータ(以下、更新データと記載)を生成する。変換モデル生成部250が行う処理の詳細については、他の図を用いて後述する。変換モデル生成部250は、生成した変換モデル及び更新データを、モデル記憶部240に記憶させる。なお、風力発電装置10が複数ある場合、変換モデル生成部250は、複数の風力発電装置10別に、その風力発電装置10で用いられるべきベースモデル、変換モデル、及び更新データを記憶している。
【0027】
モデル送信部260は、モデル生成装置20が生成した変換モデル又は更新データを風向補正装置50に送信する。本図に示す例において、モデル送信部260は、モデル記憶部240から変換モデル及び更新データを読み出して風向補正装置50に送信する。
【0028】
なお、図3に示した例において、訓練データ記憶部210及びモデル記憶部240はモデル生成装置20の一部となっている。ただし、訓練データ記憶部210及びモデル記憶部240はモデル生成装置20の外部に位置していてもよい。
【0029】
図5及び図6は、ベースモデルから変換モデルを生成する方法(すなわち変換モデル生成部250が行う処理)の一例を説明するための図である。上記したように、ベースモデルは、風速(v)、空気密度パラメータ(T)、相対風向(φ)、及びナセルの方向(ω)が入力されると、出力電力(P)を出力する。このため、このベースモデルにおいて、風速(v)、空気密度パラメータ(T)、及びナセルの方向(ω)を固定して、相対風向(φ)を変更すると、その風速(v)、空気密度パラメータ(T)、及びナセルの方向(ω)における、相対風向(φ)を変数とした出力電力(P)の関数が得られる。
【0030】
図5は、この関数の一例である。風力発電装置10の前方の風向に風向計30の向きが調整されている場合、相対風向(φ)=0のときにこの関数は極大値をとる。しかし、風力発電装置10の前方の風向に風向計30の向きが調整されていない場合、この関数が極大値をとるときのφは0とは異なる値となる。そして、この時のφは、この誤差(Δφ)を示している。
【0031】
そして、変換モデル生成部250は、風速(v)、空気密度パラメータ(T)、及びナセルの方向(ω)のそれぞれを変えつつ、上記した処理を行うことにより、風速(v)、空気密度パラメータ(T)、及びナセルの方向(ω)の組み合わせ毎の、Δφを算出できる。この結果は変換モデルとしてモデル記憶部240に記憶される。そしてこの変換モデルを用いることにより、風速(v)、空気密度パラメータ(T)、及びナセルの方向(ω)をΔφに変換できる。なお、図6は、空気密度パラメータ(温度)及びナセルの方向を固定した時の、風速(v)とΔφの関係を示している。
【0032】
なお、風向補正装置50は、所定の条件を満たしたときに、補正パラメータとして定数を用いる。所定の条件の例については後述する。モデル生成装置20のベースモデル生成部230は、この定数も算出する。図7及び図8は、この定数の算出方法の一例を説明するための図である。
【0033】
より詳細には、図7は、風速(v)と発電装置72の出力電力(P)の関係を示す図である。出力電力(P)は、風速が上がるにつれて上がるが、多少のばらつきを有している。このばらつきの要因の一つは、相対風向に分布が生じること(Δφ)である。この分布が生じる理由は、相対風向が頻繁に変化することにある。一方、風向計30の向きが風力発電装置10の前方の風向にあっていると、Δφ=0で出力電力(P)は極大値をとる。
【0034】
ここでベースモデル生成部230は、例えば訓練データ記憶部210が記憶している訓練データを用いて、各風速(v)における出力電圧の平均値(Pv_avg)を求める。そして、各訓練データについて、その訓練データの出力電力P(φ)と、その訓練データの風速における出力電力の平均値(Pv_avg)と、の差(ΔP)を算出する。ΔPは、相対風向(φ)の関数とみなすこともできる。
【0035】
図8は、ΔPの大きさを示す値(ε(φ))と相対風向(φ)の関係を示す図である。本図において、ε(φ)は、(P(φ)/(Pv_avg)-1)×100)と定義されている。そしてベースモデル生成部230は、各訓練データについて、xを相対風向(φ)としてyをε(φ)としたデータを生成し、これらデータを処理することにより、相対風向(φ)別にε(φ)の平均値を算出する。そしてベースモデル生成部230は、ε(φ)が最大となったときの相対風向(φ)を、補正パラメータとして用いられる定数にする。
【0036】
なお、ベースモデル生成部230が算出した定数は、モデル記憶部240に記憶される。そして変換モデル生成部250は、変換モデル又はその更新データとともに、この定数も風向補正装置50に送信する。
【0037】
図9は、風向補正装置50の機能構成の一例を示す図である。風向補正装置50は、実績取得部530及び補正量決定部540を備える。
【0038】
実績取得部530は、実績データを取得する。実績データは、その時の風力発電装置10に関するデータであり、上記した空気密度パラメータ(例えば温度を含む)、風向計30が測定した風速、及びナセル70の方向を含んでいる。空気密度パラメータは、例えば温度計40によって生成され、ナセル70の方向は、例えばヨー制御装置60によって生成される。
【0039】
補正量決定部540は、実績取得部530が取得した空気密度パラメータ、風速、及びナセルの方向を用いて、上記した補正パラメータを決定する。補正量決定部540は、補正パラメータを決定する際、モデル生成装置20が生成した変換モデルを用いる。この変換モデルは、モデル記憶部520に記憶されている。
【0040】
本図に示す例において、補正量決定部540は、補正パラメータをヨー制御装置60に出力する。ヨー制御装置60は、この補正パラメータを用いて風向計30が生成した相対風向を補正し、補正後の相対風向を用いてナセル70の方向を制御する。
【0041】
また補正量決定部540は、空気密度パラメータ、相対風向、及び風速の少なくとも一つが基準を満たさなかったとき、補正パラメータとして定数を用いる。ここで用いられる基準は、空気密度パラメータ、相対風向、及び風速別に設定されており、これらが正常な状態の値である、と推定される範囲になっている。すなわち補正量決定部540は、変換モデルに入力されるパラメータの少なくとも一つが異常な値になったとき、補正パラメータとして定数を用いる。この定数も、上記したようにモデル生成装置20が生成している。そしてこの定数は、モデル記憶部520に記憶されている。なお、このような状態になるときの一例としては、パラメータを生成するためのセンサに故障が生じた場合である。
【0042】
本図に示す例において、風向補正装置50はモデル更新部510を備えている。モデル更新部510は、モデル生成装置20から変換モデル及び補正パラメータとしての定数を取得し、これらのデータをモデル記憶部520に記憶させる。またモデル更新部510は、モデル生成装置20から変換モデルを更新するための更新データを取得し、この更新データを用いて変換モデルを更新する。なお、モデル更新部510は、モデル生成装置20から補正パラメータとしての定数の更新値を取得すると、定数をこの更新値に書き換える。
【0043】
図10は、モデル生成装置20のハードウェア構成例を示す図である。モデル生成装置20は、バス1010、プロセッサ1020、メモリ1030、ストレージデバイス1040、入出力インタフェース1050、及びネットワークインタフェース1060を有する。
【0044】
バス1010は、プロセッサ1020、メモリ1030、ストレージデバイス1040、入出力インタフェース1050、及びネットワークインタフェース1060が、相互にデータを送受信するためのデータ伝送路である。ただし、プロセッサ1020などを互いに接続する方法は、バス接続に限定されない。
【0045】
プロセッサ1020は、CPU(Central Processing Unit) やGPU(Graphics Processing Unit)などで実現されるプロセッサである。
【0046】
メモリ1030は、RAM(Random Access Memory)などで実現される主記憶装置である。
【0047】
ストレージデバイス1040は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、メモリカード、又はROM(Read Only Memory)などで実現される補助記憶装置である。ストレージデバイス1040はモデル生成装置20の各機能(例えば訓練データ取得部220、ベースモデル生成部230、変換モデル生成部250、及びモデル送信部260)を実現するプログラムモジュールを記憶している。プロセッサ1020がこれら各プログラムモジュールをメモリ1030上に読み込んで実行することで、そのプログラムモジュールに対応する各機能が実現される。また、ストレージデバイス1040は訓練データ記憶部210及びモデル記憶部240としても機能する。
【0048】
入出力インタフェース1050は、モデル生成装置20と各種入出力機器とを接続するためのインタフェースである。
【0049】
ネットワークインタフェース1060は、モデル生成装置20をネットワークに接続するためのインタフェースである。このネットワークは、例えばLAN(Local Area Network)やWAN(Wide Area Network)である。ネットワークインタフェース1060がネットワークに接続する方法は、無線接続であってもよいし、有線接続であってもよい。モデル生成装置20は、ネットワークインタフェース1060を介して風向補正装置50と通信してもよい。
【0050】
なお、風向補正装置50のハードウェア構成も、図10に示したモデル生成装置20のハードウェア構成と同様である。そしてストレージデバイス1040は風向補正装置50の各機能(例えばモデル更新部510、実績取得部530、及び補正量決定部540)を実現するプログラムモジュールを記憶している。またストレージデバイス1040は、モデル記憶部520としても機能する。
【0051】
図11は、モデル生成装置20が行う変換モデルの生成処理を説明するためのフローチャートである。モデル生成装置20は、風力発電装置10毎に本図に示す処理を行う。またモデル生成装置20の訓練データ記憶部210が記憶している訓練データは定期的に更新される。このため、モデル生成装置20は、定期的に本図に示す処理を行う。
【0052】
まずモデル生成装置20の訓練データ取得部220は、訓練データ記憶部210から訓練データを読み出す(ステップS10)。次いでベースモデル生成部230は、この訓練データを用いてベースモデルを生成し(ステップS20)、このベースモデルをモデル記憶部240に記憶させる。次いで変換モデル生成部250は、ステップS20で生成されたベースモデルを用いて、変換モデル(又は更新データ)を生成し(ステップS30)、生成した変換モデル(又は更新データ)をモデル記憶部240に記憶させる(ステップS40)。
【0053】
その後、モデル送信部260は、適切なタイミングで、変換モデル(又は更新データ)を風向補正装置50に送信する。
【0054】
図12は、風向補正装置50が行う処理の一例を説明するためのフローチャートである。風力発電装置10が発電を行っている間、風向補正装置50は、リアルタイムで本図に示す処理を繰り返し行う。
【0055】
風向補正装置50の実績取得部530は、その時の実績データを取得する。実績データは、図9を用いて説明したように、その時の風力発電装置10に関するデータであり、上記した空気密度パラメータ(例えば温度を含む)、風向計30が測定した風速、及びナセル70の方向を含んでいる(ステップS110)。次いで補正量決定部540は、モデル記憶部520が記憶している変換モデルを用いて、実績データを相対風向の補正パラメータに変換し(ステップS120)、この補正パラメータをヨー制御装置60に出力する(ステップS130)。そしてヨー制御装置60は、この補正パラメータを用いて風向計30が生成した相対風向を補正し、補正後の相対風向を用いてナセル70の方向を制御する。
【0056】
図13は、図12の第1変形例を示す図である。本図に示す例は、以下の点を除いて図12と同様である。補正量決定部540は、実績取得部530が取得した実績データが基準を満たしていた場合(ステップS122:Yes)、補正量決定部540は変換モデルを用いて補正パラメータを生成する(ステップS124)。一方、補正量決定部540は、この実績データが基準を満たしていなかった場合(ステップS122:No)、モデル記憶部520が記憶している定数を補正パラメータにする(ステップS126)。
【0057】
図14は、図12の第2変形例を示す図である。本図に示す例は、補正量決定部540が補正パラメータを用いて相対風向を補正し(ステップS132)、補正後の相対風向をヨー制御装置60に出力する(ステップS142)点を除いて、図12と同様である。そしてヨー制御装置60は、補正量決定部540が補正した後の相対風向を用いてナセル70の方向を制御する。
【0058】
なお図13に示す例において、図14に示したように補正量決定部540が相対風向を補正してもよい。
【0059】
以上、本実施形態によれば、風向補正装置50は、風向計30が測定した相対風向を補正するための補正パラメータを生成する。このため、ヨー制御装置60は、ナセル70の向きを風向に合わせて精度良く制御できる。
【0060】
(第2実施形態)
図15は、本実施形態に係る風向補正装置50の機能構成の一例を示す図である。本図に示す例において、風向補正装置50は、変換モデルを生成する機能を有している。
【0061】
具体的には、風向補正装置50は、訓練データ記憶部550、訓練データ取得部560、ベースモデル生成部570、及び変換モデル生成部580を有している。訓練データ記憶部550、訓練データ取得部560、ベースモデル生成部570、及び変換モデル生成部580は、それぞれ図3の訓練データ記憶部210、訓練データ取得部220、ベースモデル生成部230、及び変換モデル生成部250と同様の機能を有している。また、モデル記憶部520は、第1実施形態で説明した機能に加えて、図3のモデル記憶部240の機能も有している。
【0062】
また本実施形態において、補正量決定部540は、訓練データ記憶部550が記憶している訓練データの数が基準以下であり、変換モデルの精度が十分でないと予想されるときには、変換パラメータとして定数を用いる。この定数は、図7及び図8を用いて説明した通りである。
【0063】
本実施形態によっても、ヨー制御装置60は、ナセル70の向きを風向に合わせて精度良く制御できる。
【0064】
(第3実施形態)
図16は、本実施形態に係る風向補正装置50を説明するための図である。本図に示す例において、ヨー制御装置60は風向補正装置50を兼ねている。言い換えると、風向補正装置50は、相対風向及び補正パラメータを用いてナセル70のヨー方向を制御する機能も有している。
【0065】
本実施形態によっても、ヨー制御装置60は、ナセル70の向きを風向に合わせて精度良く制御できる。
【0066】
(第4実施形態)
図17は、本実施形態に係る風向補正装置50を説明するための図である。本図に示す例において、風向補正装置50は、風向計30の一部となっている。そして風向計30は、補正後の相対風向を出力する。ヨー制御装置60は、この補正後の相対風向を用いてナセル70の向きを風向に合わせて制御する。
【0067】
本実施形態によっても、ヨー制御装置60は、ナセル70の向きを風向に合わせて精度良く制御できる。
【0068】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0069】
また、上述の説明で用いた複数のフローチャートでは、複数の工程(処理)が順番に記載されているが、各実施形態で実行される工程の実行順序は、その記載の順番に制限されない。各実施形態では、図示される工程の順番を内容的に支障のない範囲で変更することができる。また、上述の各実施形態は、内容が相反しない範囲で組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0070】
10 風力発電装置
20 モデル生成装置
30 風向計
40 温度計
50 風向補正装置
60 ヨー制御装置
70 ナセル
72 発電装置
74 ブレード
210 訓練データ記憶部
220 訓練データ取得部
230 ベースモデル生成部
240 モデル記憶部
250 変換モデル生成部
260 モデル送信部
510 モデル更新部
520 モデル記憶部
530 実績取得部
540 補正量決定部
550 訓練データ記憶部
560 訓練データ取得部
570 ベースモデル生成部
580 変換モデル生成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12
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図15
図16
図17