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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】発光装置
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/844 20230101AFI20231225BHJP
【FI】
H10K50/844
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023011913
(22)【出願日】2023-01-30
(62)【分割の表示】P 2021106264の分割
【原出願日】2014-11-28
(65)【公開番号】P2023033656
(43)【公開日】2023-03-10
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000221926
【氏名又は名称】東北パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(74)【代理人】
【識別番号】100127236
【弁理士】
【氏名又は名称】天城 聡
(72)【発明者】
【氏名】早藤 晶紀
(72)【発明者】
【氏名】田中 信介
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-123012(JP,A)
【文献】特表2012-521623(JP,A)
【文献】特開2005-203321(JP,A)
【文献】特表2014-523614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/844
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板に位置し、第1電極、第2電極、及び前記第1電極と前記第2電極の間に位置する有機層を含む発光部と、
前記発光部を封止する封止膜と、
を備え、
前記封止膜は、複数のALD層を積層した積層構造を有し、かつ、前記第1電極及び前記第2電極に接触し、
前記複数のALD層のうち最も基板の近くに位置する第1ALD層は、絶縁材料を含み、
前記第1ALD層の厚さは、前記第1ALD層を除く前記複数のALD層のうちで最も厚いALD層の厚さの4倍以上であり、かつ、20nm以上100nm以下である発光装置。
【請求項2】
請求項1に記載の発光装置において、
前記第1ALD層は酸化アルミニウム膜である発光装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の発光装置において、
前記封止膜は少なくとも3層のALD層を有しており、かつ、前記第1ALD層以外のALD層の厚さは互いに等しい、または、前記第1ALD層以外のALD層のうち最も厚いALD層の厚さは、前記第1ALD層以外のALD層のうち最も薄いALD層の厚さの100%超105%以下である発光装置。
【請求項4】
基板と、
前記基板に位置し、第1電極、第2電極、及び前記第1電極と前記第2電極の間に位置する有機層を含む発光部と、
前記発光部を封止する封止膜と、
を備え、
前記封止膜は、複数のALD層を積層した積層構造を有し、かつ、前記第1電極及び前記第2電極に接触し、
前記複数のALD層のうち最も基板の近くに位置する第1ALD層は、酸化アルミニウム膜であり、
前記第1ALD層の厚さは、前記第1ALD層を除く前記複数のALD層のうちで最も厚いALD層の厚さの4倍以上である発光装置。
【請求項5】
請求項4に記載の発光装置において、
前記第1ALD層の厚さは20nm以上100nm以下である発光装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の発光装置において、
前記封止膜は少なくとも3層のALD層を有しており、かつ、前記第1ALD層以外のALD層の厚さは互いに等しい、または、前記第1ALD層以外のALD層のうち最も厚いALD層の厚さは、前記第1ALD層以外のALD層のうち最も薄いALD層の厚さの100%超105%以下である発光装置。
【請求項7】
基板と、
前記基板に位置し、第1電極、第2電極、及び前記第1電極と前記第2電極の間に位置する有機層を含む発光部と、
前記発光部を封止する封止膜と、
を備え、
前記封止膜は、複数のALD層を積層した積層構造を有し、かつ、前記第1電極及び前記第2電極に接触し、
前記複数のALD層のうち最も基板の近くに位置する第1ALD層は、絶縁材料を含み、
前記第1ALD層の厚さは、前記第1ALD層を除く前記複数のALD層のうちで最も厚いALD層の厚さの4倍以上であり、
前記封止膜は少なくとも3層のALD層を有しており、かつ、前記第1ALD層以外のALD層の厚さは互いに等しい、または、前記第1ALD層以外のALD層のうち最も厚いALD層の厚さは、前記第1ALD層以外のALD層のうち最も薄いALD層の厚さの100%超105%以下である発光装置。
【請求項8】
請求項7に記載の発光装置において、
前記第1ALD層の厚さは20nm以上100nm以下である発光装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の発光装置において、
前記第1ALD層は酸化アルミニウム膜である発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年は、発光素子として有機EL(Organic Electroluminescence)素子を有する発光装置の開発が進んでいる。有機EL素子は、有機層を、第1電極と、第2電極とで挟んだ構成を有している。有機層は水分や酸素に弱いため、有機EL素子は封止される必要がある。有機EL素子を封止する方法の一つに、封止膜を用いる方法がある。例えば特許文献1及び2には、封止膜として複数の封止層を積層した積層膜を用いることが記載されている。
【0003】
例えば特許文献1には、下側の封止層の材料に、酸化カルシウム、アルミナ、シリカ、チタニア、酸化インジウム、酸化スズ、酸化シリコン、窒化シリコン、又は窒化アルミニウムを用いること、及び、上側の封止層に有機層を用いることが記載されている。
【0004】
また特許文献2には、封止膜を4層構造にすることが記載されている。そして最も下の封止層の材料にSiN,SiON、又はSiOを用い、その上の封止層にアモルファスシリコン、SiO、又はSiOを用い、その上の封止層に有機物を用い、一番上の封止層にSiN,SiON、又はSiOを用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-238611号公報
【文献】特開2014-179278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
封止膜を用いて有機EL素子を封止する場合、この封止膜は第1電極と第2電極の双方に接する。本発明者が検討した結果、封止膜を、薄い封止層を複数積層した構造にすると、この封止膜が抵抗性を持つ容量素子として機能することが判明した。このような容量素子が存在すると、発光装置の発光品質や発光装置の検査に影響がでる。ここで有機EL素子を動作させるために第1電極及び第2電極の間に電圧を印加した場合、封止膜に電荷が蓄積されることにより有機EL素子が発光するタイミングが遅れてしまう。そして有機EL素子を停止させるため第1電極及び第2電極の間に電圧を印加しなくなった場合、封止膜に蓄積された電荷が有機EL素子に向けて流れ、有機EL素子の発光が停止するタイミングが遅れてしまう。
【0007】
本発明が解決しようとする課題としては、有機EL素子を封止膜で封止した場合において、封止膜に電荷が蓄積されにくく、さらに抵抗の高い封止膜にすることが一例として挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一例は、基板と、
前記基板に形成され、第1電極、第2電極、及び前記第1電極と前記第2電極の間に位置する有機層を含む発光部と、
前記発光部を封止する封止膜と、
を備え、
前記封止膜は、複数の層を積層した積層構造を有し、かつ、最も基板の近くに位置する第1層は、絶縁膜であり、前記第1電極及び前記第2電極に接触し、かつ、他の前記層よりも厚い発光装置である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る発光装置の構成を示す平面図である。
図2図1から第2電極及び封止膜を取り除いた図である。
図3図2から有機層及び絶縁層を取り除いた図である。
図4図1のA-A断面図である。
図5図4の点線αで囲んだ領域を拡大した図である。
図6】発光装置の等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0011】
図1は、実施形態に係る発光装置10の構成を示す平面図である。説明のため、図1において封止膜160は点線で示されている。図2は、図1から第2電極130及び封止膜160を取り除いた図である。図3図2から有機層120及び絶縁層150を取り除いた図である。図4図1のA-A断面図である。図5図4の点線αで囲んだ領域を拡大した図である。本実施形態に係る発光装置10は、基板100、発光部140、及び封止膜160を備えている。発光部140は基板100に形成されており、第1電極110、有機層120、及び第2電極130を有している。有機層120は第1電極110と第2電極130の間に位置している。封止膜160は発光部140を封止している。詳細には、図5に示すように、封止膜160は複数の層を積層した積層構造を有している。最も基板100の近くに位置する第1層(図5においては下側の第1封止膜162)は、第1電極110及び第2電極130に接している。そして下側の第1封止膜162は、封止膜160の他の層よりも厚い。なお、図1図4に示した例において、発光装置10は照明装置であるが、発光装置10はディスプレイであってもよい。以下、詳細に説明する。
【0012】
まず、図1図4を用いて、基板100及び発光部140の構成について説明する。
【0013】
基板100は、例えばガラス基板や樹脂基板などの透光性を有する基板である。基板100は可撓性を有していてもよい。可撓性を有している場合、基板100の厚さは、例えば10μm以上1000μm以下である。基板100は、例えば矩形などの多角形である。基板100が樹脂基板である場合、基板100は、例えばPEN(ポリエチレンナフタレート)、PES(ポリエーテルサルホン)、PET(ポリエチレンテレフタラート)、又はポリイミドを用いて形成されている。また、基板100が樹脂基板である場合、水分が基板100を透過することを抑制するために、基板100の少なくとも一面(好ましくは両面)に、SiNやSiONなどの無機バリア膜が形成されている。
【0014】
基板100の一面には、発光部140が形成されている。発光部140は、有機EL素子を有している。この有機EL素子は、第1電極110、有機層120、及び第2電極130を有している。
【0015】
第1電極110は、光透過性を有する透明電極である。透明電極の材料は、金属を含む材料、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、IWZO(Indium Tungsten Zinc Oxide)、ZnO(Zinc Oxide)等の金属酸化物である。第1電極110の厚さは、例えば10nm以上500nm以下である。第1電極110は、例えばスパッタリング法又は蒸着法を用いて形成される。なお、第1電極110は、カーボンナノチューブ、又はPEDOT/PSSなどの導電性有機材料であってもよい。
【0016】
有機層120は発光層を有している。有機層120は、例えば、正孔注入層、発光層、及び電子注入層をこの順に積層させた構成を有している。正孔注入層と発光層との間には正孔輸送層が形成されていてもよい。また、発光層と電子注入層との間には電子輸送層が形成されていてもよい。有機層120は蒸着法で形成されてもよい。また、有機層120のうち少なくとも一つの層、例えば第1電極110と接触する層は、インクジェット法、印刷法、又はスプレー法などの塗布法によって形成されてもよい。なお、この場合、有機層120の残りの層は、蒸着法によって形成されている。また、有機層120のすべての層が、塗布法を用いて形成されていてもよい。
【0017】
第2電極130は、例えば、Al、Au、Ag、Pt、Mg、Sn、Zn、及びInからなる第1群の中から選択される金属、又はこの第1群から選択される金属の合金からなる金属層を含んでいる。この場合、第2電極130は遮光性を有している。第2電極130の厚さは、例えば10nm以上500nm以下である。ただし、第2電極130は、第1電極110の材料として例示した材料を用いて形成されていてもよい。第2電極130は、例えばスパッタリング法又は蒸着法を用いて形成される。
【0018】
第1電極110の縁は、絶縁層150によって覆われている。絶縁層150は例えばポリイミドなどの感光性の樹脂材料によって形成されており、第1電極110のうち発光部140の発光領域となる部分を囲んでいる。絶縁層150を設けることにより、第1電極110の縁において第1電極110と第2電極130が短絡することを抑制できる。
【0019】
また、発光装置10は、第1端子112及び第2端子132を有している。第1端子112は第1電極110に接続しており、第2端子132は第2電極130に接続している。第1端子112及び第2端子132は、例えば、第1電極110と同一の材料で形成された層を有している。なお、第1端子112と第1電極110の間には引出配線が設けられていてもよい。また、第2端子132と第2電極130の間にも引出配線が設けられていてもよい。
【0020】
次に、図1図4、及び図5を用いて、封止膜160の構成を説明する。封止膜160は、基板100のうち発光部140が形成されている面に形成されており、発光部140を覆っている。ただし、第1端子112及び第2端子132の少なくとも一部は封止膜160から露出している。封止膜160は、例えばALD(Atomic Layer Deposition)法を用いて形成されている。ALD法を用いることにより、封止膜160の段差被覆性は高くなる。ただし封止膜160は、他の成膜法を用いて形成されていてもよい。
【0021】
また図4に示すように、封止膜160は、第1端子112、第2電極130、及び第2端子132に接している。このため、封止膜160には、発光部140の駆動電圧が印加される。
【0022】
そして図5に示すように、封止膜160は複数の封止層を積層した積層構造を有している。このようにすることで、一つの膜で封止膜160を形成する場合と比較して、封止膜160に生じる膜応力を小さくすることができる。なお、封止膜160を構成するいずれの膜も、例えばALD法を用いて形成することができる。
【0023】
封止膜160は、少なくとも3つの封止層を積層した構成を有している。これらのうち最も下の封止層である第1層(本図においては下側の第1封止膜162)は、他の層よりも厚くなっている。第1層の厚さは、例えば20nm以上100nm以下である。また、封止膜160を構成する他の層の厚さは、互いに等しいか、互いの差が一定値以下になっている。例えば封止膜160の第1層以外の層において、最も厚い層の厚さは、最も薄い層の厚さの100%超105%以下になっている。封止膜160を構成する封止層のうち、最も下側の封止層を除いた各層の厚さは、例えば3nm以上10nm以下である。また第1層の厚さは、例えば、それ以外の層のうち最も厚い層の厚さの4倍以上である。また第1層の厚さは、例えば、封止膜160の厚さの20%以上80%以下である。
【0024】
なお、図5に示した例において、封止膜160を構成する封止層の層数は、4つである。ただし封止膜160を構成する封止層の層数は、これ以上(例えば10層以上)であってもよい。
【0025】
本図に示す例において、封止膜160は、第1の材料からなる第1封止膜162と、第2の材料からなる第2封止膜164とをこの順に繰り返し積層した構成を有している。第1の材料は絶縁材料である。第2の材料も絶縁材料であるのが好ましい。第1の絶縁材料は、例えば酸化アルミニウムであり、第2の絶縁材料は、例えば窒化チタンである。発光部140に接する封止層を酸化アルミニウムで形成することにより、封止膜160の常温における防湿性を高めることができる。また、第1封止膜162を覆う第2封止膜164を窒化チタンで形成することにより、封止膜160の高温での防湿性を高めることができる。
【0026】
次に、発光装置10の製造方法を説明する。まず、基板100上に第1電極110を形成する。この工程において、第1端子112及び第2端子132も形成される。次いで、絶縁層150、有機層120、及び第2電極130をこの順に形成する。
【0027】
次いで、例えばALD法を用いて、第1封止膜162及び第2封止膜164を、この順に繰り返し形成する。その後、必要に応じて、第1封止膜162及び第2封止膜164の積層膜のうち第1端子112上に位置する部分及び第2端子132上に位置する部分を除去する。
【0028】
図6は、発光装置10の等価回路図である。発光装置10の発光部140を発光させるとき、第1端子112と第2端子132の間には電圧が印加される。図4を用いて説明したように、封止膜160は第1端子112と第2端子132に接している。また、封止膜160は絶縁膜により形成されているが、薄い封止層を多数積層した構成を有している。このため、等価回路で見た場合、封止膜160は、第1端子112と第2端子132の間に、容量と抵抗とを直列に接続した構成となる。ここで、封止膜160の抵抗の大きさは、第1封止膜162の厚さに依存していると考えられる。このため、第1封止膜162が薄い場合、封止膜160にある程度電流が流れ、その結果、発光部140が発光するときに封止膜160に電荷が蓄積されてしまう。この電荷は、第1端子112と第2端子132の間に電圧が印加されなくなったとき、発光部140に流れる。これにより、発光部140のオフにするときの応答速度は低下してしまう。また、発光部140を点灯させるとき、電流の一部は封止膜160に流れてしまう。このため、発光部140を点灯させるときの応答速度も低下してしまう。
【0029】
これに対して本実施形態によれば、封止膜160の最も基板100側の層である第1封止膜162は、他の層よりも厚くなっている。これにより、図6に示した封止膜160内の抵抗の大きさは大きくなる。このため、発光部140が発光するときに封止膜160に電荷が蓄積されることを抑制できる。従って発光部140の応答速度は速くなる。
【0030】
以上、図面を参照して実施形態及び実施例について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0031】
10 発光装置
100 基板
110 第1電極
120 有機層
130 第2電極
140 発光部
160 封止膜
162 第1封止膜(第1層)
164 第2封止膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6