(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】EMRを用いた組織治療のための回折光学
(51)【国際特許分類】
A61B 18/20 20060101AFI20231226BHJP
【FI】
A61B18/20
(21)【出願番号】P 2020555463
(86)(22)【出願日】2019-04-11
(86)【国際出願番号】 US2019027007
(87)【国際公開番号】W WO2019200111
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-04-11
(32)【優先日】2018-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520204630
【氏名又は名称】アヴァヴァ、 インク.
【氏名又は名称原語表記】AVAVA, INC.
【住所又は居所原語表記】275 2nd Avenue, 3rd Floor, Waltham, Massachusetts 02451, U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100120662
【氏名又は名称】川上 桂子
(74)【代理人】
【識別番号】100216770
【氏名又は名称】三品 明生
(74)【代理人】
【識別番号】100217364
【氏名又は名称】田端 豊
(72)【発明者】
【氏名】ドレッサー、 チャールス、 ホーランド
(72)【発明者】
【氏名】バーウォルカー、 ジャヤント
(72)【発明者】
【氏名】カトカム、 ラジェンドラ
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-533034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/20 ― 18/28
A61F 9/008― 9/011
A61N 5/067
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回折光学素子と第2回折光学素子とを備えたシステムの動作方法であって、
前記第1回折光学素子が、単一のレーザビームを受信することと、
前記第1回折光学素子が、前記単一のレーザビームから複数の一次ビームを生成することと、
第2回折光学素子が、前記複数の一次ビームを受信することと、
前記第2回折光学素子が、前記複数の一次ビームの少なくとも第1一次ビームから第1二次ビームと第2二次ビームを生成することと、
を備え、
前記第1二次ビームを標的内の第1焦点領域に、前記第2二次ビームを前記標的内の第2焦点領域に集束させ、前記第1焦点領域が前記標的の表面から第1深度に位置し、前記第2焦点領域が前記標的の前記表面の前記第1深度とは異なる第2深度に位置する、動作方法。
【請求項2】
第1二次ビームが、前記第1焦点領域において第1プラズマを発生させるように構成され、前記第2二次ビームが、前記第2焦点領域において第2プラズマを発生させるように構成されている、請求項1に記載の動作方法。
【請求項3】
前記第1焦点領域が前記第2焦点領域と重なる、請求項1に記載の動作方法。
【請求項4】
前記複数の一次ビームの第2一次ビームから第3二次ビーム及び第4二次ビームを生成することと、
前記第3二次ビームを前記標的内の第3焦点領域に、前記第4二次ビームを第4焦点領域に集束させることと、
をさらに備える、請求項3に記載の動作方法。
【請求項5】
前記第3二次ビームが、前記第3焦点領域においてプラズマを発生させるように構成され、前記第4二次ビームが、前記第4焦点領域においてプラズマを発生させるように構成されている、
請求項4に記載の動作方法。
【請求項6】
前記第3焦点領域を前記標的の前記表面から前記第1深度の所に、前記第4焦点領域を前記標的の前記表面から前記第2深度の所に位置させるために、前記標的の前記表面を歪めることをさらに備える、
請求項5に記載の動作方法。
【請求項7】
前記第1及び前記第2二次ビームが、マルチレンズアレイの第1レンズによって集束させられ、前記第3及び前記第4二次ビームが、前記マルチレンズアレイの第2レンズによって集束させられている、
請求項4に記載の動作方法。
【請求項8】
前記第1、前記第2、前記第3及び前記第4二次ビームが、対物レンズによって集束させられている、
請求項4に記載の動作方法。
【請求項9】
前記第1回折光学素子が回折ビームスプリッタである、
請求項1に記載の動作方法。
【請求項10】
約0.3と約1の間の開口数をもつ光学素子が前記第1二次ビームを前記第1焦点領域に集束させる、
請求項1に記載の動作方法。
【請求項11】
発生させた前記第1プラズマが、前記標的内の前記第1焦点領域において熱損傷をもたらすように構成されており、前記熱損傷がおおよそ第1深度からおおよそ第2深度へ延在する、
請求項2に記載の動作方法。
【請求項12】
前記第1二次ビームが、準非回折焦点領域内の標的を含む体積内において選択的にプラズマを発生させるように構成されている、
請求項2に記載の動作方法。
【請求項13】
単一のレーザビームを受け、複数の一次ビームを生成するように構成されている回折ビームスプリッタと、
前記回折ビームスプリッタのビーム下流に位置した回折素子で、前記複数の一次ビームの少なくとも第1一次ビームを受け、少なくとも第1二次ビーム及び第2二次ビームを生成するように構成されているものと、
前記回折素子のビーム下流に位置する集束素子で、前記第1二次ビームを標的内の第1焦点領域に集束させ、前記第2二次ビームを前記標的内の第2焦点領域に集束させるように構成されている集束要素と、
を備えたシステムであって、
前記第1焦点領域が前記標的の表面から第1深度に位置し、前記第2焦点領域が前記標的の前記表面の前記第1深度とは異なる第2深度に位置しているシステム。
【請求項14】
前記第1二次ビームと前記第2二次ビームとを、フレネルゾーンプレートのアレイにおける第1フレネルゾーンプレートによって生成する、
請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記回折素子が、
前記複数の一次ビームの第2一次ビームを受け、少なくとも第3二次ビームと第4二次ビームとを生成するように、
前記第3二次ビームを前記標的内の第3焦点領域へ、前記第4二次ビームを第4焦点領域へ集束させるように、
構成されている、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記第3二次ビームが、前記第3焦点領域においてプラズマを発生させるように構成され、前記第4二次ビームが前記第4焦点領域においてプラズマを発生させるように構成されている、
請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記第1及び前記第2二次ビームがマルチレンズアレイの第1レンズによって集束させられ、前記第3及び前記第4二次ビームが前記マルチレンズアレイの第2レンズによって集束させられている、
請求項15に記載のシステム。
【請求項18】
前記第1二次ビーム及び前記第2二次ビームは、異なる発散角を有する、請求項1に記載の動作方法。
【請求項19】
前記第2回折光学素子は、前記第1二次ビームと前記第2二次ビームとの間の選択された比率で前記第1一次ビームの強度を分配するように構成される、請求項
18に記載の
動作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国特許法第119条の下で2018年4月12日に出願された米国仮特許出願第62/656,630号及び2018年6月22日に出願された米国仮特許出願第62/688,913号に基づく優先権を主張し、これら各出願の内容全体は参照により明示的に本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は全体として、レーザを用いた標的組織治療のための方法、システム及び装置に関する。
【背景技術】
【0003】
特定の波長の光又は光エネルギーの照射により様々な疾患の治療を行うことできる。標的構造に隣接する組織構造に損傷を与えることなく、適切な標的構造(例えば、皮膚のような組織)にエネルギーを加えることには多くの困難な課題が伴う。この困難な課題には、適切な波長のエネルギーを、十分なフルエンスと焦点だけではなく、光又は光エネルギーで効果的及び効率的に標的構造を走査する能力ももって、加えることが含まれる。
【0004】
肝斑は、病因が不明な1つの皮膚疾患の例であり、多くの場合、顔面領域に斑状の色素沈着過剰を引き起こす。この疾患は、男性よりも女性に多く見られる。肝斑に特定の病因はあまりよく理解されていないが、肝斑の色素沈着は、妊娠、日光への露出、経口避妊薬などの特定の薬物、ホルモンレベル、遺伝的要因などのいくつかの条件によってさらに悪化することがある。肝斑の典型的な症状には、一般に上頬、鼻、上唇、及び額に見られる、暗くて不規則な形状の斑点又は斑紋が含まれる。このような斑点は、時間の経過とともに徐々に大きくなる。肝斑は、外見上の変色以外の他の症状を引き起こしたり、他の有害な影響を及ぼしたりすることはない。
【0005】
皮膚の表皮領域(例えば、組織表面又はその近く)に通常存在する多くの色素性構造とは異なり、真皮(又は深部)肝斑は、多くの場合、下層真皮の一部又は領域でメラニン及びメラノファージ(例えば、過度に色素沈着した細胞を含む)の広範囲な存在を特徴とする。従って、真皮肝斑の治療(例えば、色素沈着した暗い領域の外観の淡色化)は、皮膚内のより深い位置にあるそのような色素沈着した細胞及び構造にアクセスして影響を与えることが非常に困難であるため、特に困難な場合がある。従って、主に表皮に影響を与えるフェイスピール(レーザ又は化学物質)、皮膚切除術、局所剤などのような従来の皮膚若返り治療は、真皮肝斑治療に効果的でないこともある。
【発明の概要】
【0006】
特定の波長の光又は光エネルギーの照射は、色素沈着細胞(pigmented cell)によって強く吸収され、それによってそれらに損傷を与え得ることが観察された。しかしながら、光エネルギーを用いた、真皮肝斑や他の非色素疾患のような皮膚の色素疾患に対する効果的治療には、いくつかの障害が伴う。例えば、真皮内の色素沈着細胞を破壊又は損傷するためには、沈着色素の一部を放出又は破壊して色素沈着の外観を低減することができる適切な波長の十分な光エネルギーで、真皮内の色素沈着細胞を標的化する必要がある。しかしながら、このようなエネルギーは、表皮及び上部真皮などの上にある皮膚組織中の色素(例えば、発色団)によって吸収され得る。この表面近くの吸収は、皮膚の外側部分の過度の損傷をもたらす恐れがあり、より深い真皮へのエネルギーの不十分な送達をもたらし、その内部の色素沈着細胞に影響を与える可能性がある。さらに、表皮の基底層に位置するメラノサイトへの熱損傷は、メラニンの生成量の増加を引き起こし、その結果としての色素過剰症をもたらす恐れがあり、またメラノサイトの熱破壊は、メラニンの喪失を招き、その結果として低色素沈着をもたらす可能性がある。
【0007】
治癒を促進するために健康な組織によって分離された皮膚上の小さな個別の治療位置に光エネルギーを適用する部分的アプローチ方式が開発された。治療位置(例えば、表皮層)周辺の健康な組織への損傷を回避しながら、望ましい特異性で治療位置(例えば、皮膚層に位置)を正確に標的にすることは、困難な場合がある。この作業には、例えば、レーザビームを治療位置に集束させるための高開口数(NA)を備えた光学システムを必要とする。さらに、光学システムは、大きな患部(例えば、数立方センチメートルの)に集束させたビームを走査することが可能でなければならない。従って、高開口数を備えた光学システムを開発し、また大きな患部を走査する能力があることが望ましい。さらに、光学システムは、患部を合理的な時間(例えば、1時間未満で)で治療できるほど効果的であることが望ましい。さらには、光学システムには、例えば、治療領域にしっかりと接触し、治療領域を安定させ、治療領域を冷却する等が可能なインターフェースが含まれることが望ましい。
【0008】
従って、電磁放射(EMR)を用いた組織治療(例えば、レーザを用いた治療)のための改良された方法、システム及び装置を提供する。
【0009】
方法には、レーザビームから複数の一次ビームを生成し、複数の一次ビームの少なくとも第1一次ビームから、第1二次ビームと第2二次ビームを生成することが含まれる。方法には、第1二次ビームを標的組織の第1焦点領域に、第2二次ビームを標的組織の第2焦点領域に集束させることも含まれる。第1焦点領域は、標的組織の表面から第1深度に位置し、第2焦点領域は標的組織の表面の第1深度とは異なる第2深度に位置している。
【0010】
一実施形態では、第1二次ビームは、第1焦点領域において第1プラズマを発生させるように構成され、第2二次ビームは、第2焦点領域において第2プラズマを発生させるように構成されている。別の実施形態では、第1二次ビームと第2二次ビームは、フレネルゾーンプレートのアレイ内において第1フレネルゾーンプレートによって生成される。さらに別の実施形態では、第1焦点領域は、第1深度から第2深度へ延在する。一実施形態では、方法にはさらに、複数の一次ビームの第2一次ビームから第3二次ビームと第4二次ビームを生成し、第3二次ビームを標的組織内の第3焦点領域へ、第4二次ビームを第4焦点領域へ集束させることが含まれる。
【0011】
一実施形態では、第3二次ビームは、第3焦点領域においてプラズマを発生させるように構成され、第4二次ビームは、第4焦点領域においてプラズマを発生させるように構成されている。別の実施形態では、方法にはさらに、標的組織の表面から第1深度に第3焦点領域を、また標的組織の表面から第2深度に第4焦点領域を位置付けるために、標的組織の表面を歪めることが含まれる。さらに別の実施形態では、マルチレンズアレイの第1レンズによって、第1及び第2二次ビームを集束させ、マルチレンズアレイの第2レンズによって第3及び第4二次ビームを集束させる。
【0012】
一実施形態では、対物レンズによって第1、第2、第3及び第4二次ビームを集束させる。別の実施形態では、第1回折光学素子は、レーザビームを受け、複数の一次ビームを生成するように構成されている。さらに別の実施形態では、第1回折光学素子は回折ビームスプリッタである。
【0013】
一実施形態では、約0.3から約1の間の開口数をもつ光学素子が、第1二次ビームを第1焦点領域に集束させる。別の実施形態では、発生させた第1プラズマは、標的組織の第1焦点領域において熱損傷を生じさせ、その熱損傷が、おおよその第1深度からおおよその第2深度に延在するように構成されている。さらに別の実施形態では、第1二次ビームは、準非回折焦点領域における標的を含む体積内で選択的にプラズマを発生させるように構成されている。
【0014】
方法には、レーザ源によって特性波長を含むレーザビームを生成することが含まれる。この方法には、レーザビームから1つ以上のビームレットを生成することも含まれる。方法にはさらに、第1開口数をもつ第1集束光学素子によって1つ以上のビームレットの第1ビームレットを組織表面下の焦点体積に集束させることが含まれる。焦点体積は、組織内の第1深度から第2深度へ延在する長さをもったもので、第1ビームレットの強度は焦点体積内において所定の治療閾値を上回る。
【0015】
一実施形態では、その長さは、特性波長に中心を置き第1開口数をもつ光学素子で集束させたガウシアンビームでは、レイリー長の2倍よりも長い。別の実施形態ではその長さは次式
【数1】
で表されるものより長い。この式ではλは特性波長、NAは開口数を表す。
【0016】
一実施形態では、方法は、第一光学素子によって1つ以上のビームレットの第2ビームレットを焦点体積に集束させることをさらに含む。焦点体積は、第1ビームレットに伴う第1焦点領域と第2ビームレットに伴う第2焦点領域とを含む。
【0017】
一実施形態では、第1ビームレットは準非回折ビームであり、焦点体積には、第1ビームレットに伴う準非回折焦点領域が含まれる。別の実施形態では、焦点体積は、表皮と真皮の接合部より下にある。さらに別の実施形態では、方法は、1000ナノ秒未満のパルス幅でレーザビームのパルスを発生させることをさらに含む。
【0018】
一実施形態では、所定の治療閾値は、組織内でプラズマを発生させるために必要最小限の強度、組織内の標的物質において選択的にプラズマを発生させるために必要最小限の強度、及び組織内で熱損傷を発生させるために必要最小限の強度の、少なくとも1つと一致する。別の実施形態では、第1集束光学素子は、回折光学素子とアキシコンの少なくとも1つを備える。さらに別の実施形態では、特性波長は、約0.5マイクロメートルから約2マイクロメートルの範囲である。
【0019】
システムには、レーザビームを受けて複数の一次ビームを生成するように構成された回折ビームスプリッタが含まれる。そのシステムには、回折ビームスプリッタのビーム下流に位置する回折素子も含まれる。回折素子は、複数の一次ビームの少なくとも第1一次ビームを受け、少なくとも第1二次ビームと第2二次ビームを生成するように構成されている。システムにはさらに、回折素子のビーム下流に位置した集束素子が含まれる。回折素子は、第1二次ビームを標的組織内における第1焦点領域に、第2二次ビームを標的組織内における第2焦点領域に集束させるように構成することができる。第1焦点領域は、標的組織表面から第1深度に位置し、第2焦点領域は、標的組織表面の第1深度とは異なる第2深度に位置する。
【0020】
一実施形態では、フレネルゾーンプレートのアレイ内の第1フレネルゾーンプレートによって第1二次ビームと第2二次ビームを生成する。別の実施形態では、回折素子は、複数の一次ビームの第2一次ビームを受け、少なくとも第3二次ビームと第4二次ビームを生成するように構成されている。回折素子は、第3二次ビームを標的組織内の第3焦点領域に、第4二次ビームを第4焦点領域に集束させるようにも構成されている。さらに別の実施形態では、第3二次ビームは、第3焦点領域においてプラズマを発生させるように、第4二次ビームは、第4焦点領域においてプラズマを発生させるように構成されている。
【0021】
一実施形態では、マルチレンズアレイの第1レンズによって第2二次ビームを集束させ、マルチレンズアレイの第2レンズによって第3及び第4二次ビームを集束させる。別の実施形態では、システムにはさらに、特性波長を含むレーザビームを受け、そのレーザビームを単一の波長をもつ1つ以上のビームレットに分離するように構成された回折素子が含まれる。システムには、回折素子のビーム下流に位置し、第1開口数をもつ集束光学素子も含まれる。集束光学素子は、1つ以上のビームレットの第1ビームレットを組織表面下の焦点体積に集束させるように構成されている。焦点体積は、組織内の第1深度から第2深度へ延在する長さをもち、第1ビームレットの強度は、焦点体積内で所定の治療閾値を超えている。
【0022】
システムには、レーザ源からレーザビームを第1末端で受け、第2末端からレーザビームを伝えるように構成された関節式アームが含まれる。システムには、関節式アームの第2末端のビーム下流に位置する回折ビームスプリッタも含まれる。回折ビームスプリッタは、レーザビームを複数のビームに分割するように構成されている。システムにはさらに、回折ビームスプリッタのビーム下流に位置する集束光学素子が含まれる。集束光学素子は、複数のビームを焦点アレイに集束させるように構成されている。システムには、集束光学素子のビーム下流且つ焦点アレイのビーム上流に位置する窓も含まれる。窓は、標的組織に接触し複数のビームを透過させるように構成されている。システムにはさらに、関節式アームの第2末端、回折ビームスプリッタ及び集束光学素子を、窓と相対的に、複数のビームに伴う光学軸に概ね直角をなす第1方向へ移動させるように構成された第1ステージが含まれる。
【0023】
一実施形態では、システムにはさらに、ある繰り返し率でレーザビームを生成するように構成されたレーザ源が含まれる。別の実施形態では、システムにはさらに、レーザビームの繰り返し率と焦点アレイのアレイ幅の少なくとも1つに基づき、第1ステージによる移動を制御するように構成されたコントローラが含まれる。さらに別の実施形態では、コントローラはさらに、標的組織内の色素沈着した標的における焦点アレイで熱電子プラズマを発生させるために、レーザビームのパルスエネルギー、レーザビームのパルス幅及びレーザビームの波長を制御するようにさらに構成される。一実施形態では、集束光学素子は、約0.3から約1の範囲の開口数をもつ。
【0024】
一実施形態では、システムにはさらに、関節式アームの第2末端、回折ビームスプリッタ及び集束光学素子を、窓と相対的に、複数のビームに伴う光学軸に概ね直角をなす第2方向へ移動させるように構成された第2ステージが含まれる。別の実施形態では、システムにはさらに、集束光学素子を複数のビームに伴う光学軸に概ね平行な第3方向へ移動させ、焦点アレイと窓の間の平均距離を変えるように構成された第3ステージが含まれる。さらに別の実施形態では、焦点アレイには、第1焦点領域と第2焦点領域が含まれる。第1焦点領域は、標的組織表面の第1深度に位置し、第2集光域は標的組織表面の第1深度とは異なる第2深度に位置する。
【0025】
方法には、関節式アームの第1末端においてレーザビームを受けることが含まれる。方法には、関節式アームの第2末端によってレーザビームを伝えることも含まれる。方法にはさらに、関節式アームの第2末端のビーム下流に位置する回折ビームスプリッタによってレーザビームを複数のビームに分割することが含まれる。方法には、回折ビームスプリッタのビーム下流に位置する集束光学素子によって複数のビームを焦点アレイに集束させることも含まれる。方法にはさらに、複数のビームを標的組織に接するように構成された窓を通して透過させることが含まれる。方法には、第1ステージによって、関節式アームの第2末端、回折ビームスプリッタ及び集束光学素子を、窓と相対的に、複数のビームに伴う光学軸と概ね直角をなす第1方向へ移動させることも含まれる。
【0026】
一実施形態では、方法にはさらに、ある繰り返し率でレーザビームを生成することが含まれる。別の実施形態では、方法にはさらに、レーザビームの繰り返し率と焦点アレイのアレイ幅の少なくとも1つに応じて、第1ステージを制御することが含まれる。さらに別の実施形態では、方法にはさらに、標的組織内の色素沈着した標的おける焦点アレイで熱電子プラズマを発生させるために、レーザビームのパルスエネルギー、レーザビームのパルス幅及びレーザビームの波長の少なくとも1つを制御することが含まれる。
【0027】
一実施形態では、複数のビームを焦点アレイへ集束させることを、約0.3から約1の範囲の開口数で実行する。別の実施形態では、方法にはさらに、第2ステージと共に、関節式アームの第2末端、回折ビームスプリッタ及び集束光学素子を、窓と相対的に、複数のビームに伴う光学軸に概ね直角をなす第2方向に移動させることが含まれる。さらに別の実施形態では、方法にはさらに、第3ステージと共に、複数のビームに伴う光学軸に概ね平行な第3方向へ集束光学素子を移動し、焦点アレイと窓の間の平均距離を変えることが含まれる。一実施形態では、焦点アレイには、第1焦点領域と第2焦点領域が含まれる。第1焦点領域は、標的組織表面の第1深度に位置し、第2焦点領域は、標的組織表面の第1の深さとは異なる第2深度に位置する。
【0028】
方法には、レーザビームを生成し、レーザビームから第1二次ビームと第2二次ビームを生成することが含まれる。方法には、第1二次ビームを標的組織内の第1焦点領域へ、第2二次ビームを標的組織内の第2焦点領域へ集束させることも含まれる。標的組織には、組織表面に近位な第1組織層とその第1組織層下の第2組織層が含まれ、第1焦点領域と第2焦点領域は第2組織層内に位置する。方法には、第1組織層に有害な影響を与えることなしに、第1焦点領域と第2焦点領域内に治療効果をもたらすように、コントローラを使用してレーザビームの少なくとも1つのパラメータを制御することも含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
本開示の実施形態は添付図面と併せて次の詳細な説明を読むことによってより十分に理解されよう。
【
図2】皮膚組織内の真皮層の色素沈着領域内に集束させたレーザビームの例の概略図を示す。
【
図4A】回折ビームスプリッタを含む回折光学装置の概略図を示す。
【
図4B】レーザビームの二次元回折により生成された二次元ビームマトリックスの例示的な実施形態の概略図を示す。
【
図5】単一のレーザビームから複数の焦点体積を生成するための光学システムの例示的な実施形態の概略図を示す。
【
図7】単一のレーザビームから焦点体積の複数のアレイを生成するための例示的光学システムの概略図を示す。
【
図9】回折プレートを使用して単一のレーザビームから焦点体積の複数のアレイを生成するための例示的光学システムの概略図を示す。
【
図10A】標的組織内の複数の深度に複数の焦点領域を生成する回折光学装置の例示的な実施形態の概略図を示す。
【
図10B】標的組織内の深度に沿って延在する治療体積を形成する複数の焦点領域を生成する回折光学装置の例示的な実施形態の概略図を示す。
【
図11】焦点体積のアレイを生成するための回折素子と対物レンズを含む、
図4Aの例示的光学システムの概略図を示す。
【
図12】焦点体積の複数のアレイを生成するための回折光学素子とマルチレンズアレイを含む、
図4Aの例示的光学システムの概略図を示す。
【
図13】標的組織内に焦点領域をもつ準非回折ビームを生成すように構成された光学システムの概略図を示す。
【
図14A】マルチスポットレーザ治療のための例示的光学システム1400の第1側面図を示す。
【
図15A】例示的試験ハンドピース1500の第1側面図を示す。
【
図16A】顕微鏡観察したアクリルに形成された破壊アレイの画像を示す。
【
図16B】顕微鏡観察したアクリルに形成された破壊アレイの画像を示す。
【
図20A】灰色の着色アクリルブロックの側面図の顕微鏡画像を示す。
【
図20B】灰色の着色アクリルブロックの別の側面図の顕微鏡画像を示す。
【
図21A】
図20Aに示した灰色の着色アクリルブロックの正面図の顕微鏡画像を示す。
【
図21B】
図20Aに示した灰色の着色アクリルブロックの正面図の顕微鏡画像を示す。
【
図22A】例示的治療システムハンドピースの正面図を示す。
【
図22C】
図22Aに示した例示的治療システムであるハンドピースのカバー無し正面図を示す。
【
図22D】
図22Aに示した例示的治療システムであるハンドピースのカバー無し断面図を示す。
【
図23B】複数の層を備えた例示的な走査治療の概略図を示す。
【
図23C】例示的な治療後の新しいユカタン豚の皮膚の画像を示す。
【
図24A】フォンタナ・マッソン染色をした対照豚の皮膚試料の例示的組織像の画像を示す。
【
図24B】TUNEL染色をした対照豚の皮膚試料の例示的組織像の画像を示す。
【
図24C】ex vivo治療とフォンタナ・マッソン染色をした後に採取した豚の皮膚試料の例示的組織像の画像を示す。
【
図24D】ex vivo治療とTUNEL染色をした後に採取した豚の皮膚試料の例示的組織像の画像を示す。
【
図24E】ex vivo治療とフォンタナ・マッソン染色をした後に採取した豚の皮膚試料の例示的組織像の画像を示す。
【
図24F】ex vivo治療とTUNEL染色をした後に採取した豚の皮膚試料の例示的組織像の画像を示す。
【
図24G】ex vivo治療とフォンタナ・マッソン染色をした後に採取した豚の皮膚試料の例示的組織像の画像を示す。
【
図24H】ex vivo治療とTUNEL染色をした後に採取した豚の皮膚試料の例示的組織像の画像を示す。
【0030】
図面は、必ずしも縮尺の通りではないことに留意されたい。図面は、本明細書で開示された主題の典型的な態様のみを示すことを意図しており、従って、本開示の範囲を制限するものと見なされるべきではない。当業者は、本明細書に具体的に説明され、添付の図面に示されるシステム、装置、及び方法が非限定的な例示的な実施形態であり、本発明の範囲が特許請求の範囲によってのみ定義されることを理解するであろう。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本明細書に開示される装置及び方法の構造、機能、製造、及び使用の原理の全般的な理解を提供するために、特定の例示的な実施形態がここに説明される。これらの実施形態の1つ以上の例が添付の図面に示されている。当業者は、本明細書で具体的に説明され、添付の図面に示される装置及び方法が非限定的な例示的な実施形態であり、本発明の範囲が特許請求の範囲によってのみ定義されることを理解するであろう。1つの例示的な実施形態実施形態と関連して図示又は説明される特徴は、他の実施形態の特徴と組み合わせることができる。そのような修正及び変形は、本発明の範囲内に含まれることが意図される。
【0032】
本発明の実施形態は、このような色素沈着症状(pigmentary condition)の外観を改善するために、肝斑などの皮膚の色素沈着症状の治療について以下で詳細に論じる。しかしながら、開示された実施様態は、他の色素沈着及び非色素沈着症状、並びに他の組織及び非組織標的の治療のために制限なく使用されてもよい。色素沈着症状の例は、炎症後の色素沈着(hyperpigmentation)、目の周囲の色黒の皮膚、黒目、カフェオレ斑(cafe au lait patches)、ベッカー母斑(Becker’s nevi)、太田母斑(Nevus of Ota)、先天性色素細胞性母斑(congenital melanocytic nevi)、小斑点/黒子(freckles/lentigo)、ヘモジデリン(hemosiderin)リッチ構造、色素胆石(pigmented gallstones)、ルテイン、ゼアキサンチン(zeaxanthin)、ロドプシン(rhodopsin)、カロチノイド(carotenoid)、ビリベルジン(biliverdin)、ビリルビン(bilirubin)及びヘモグロビン(hemoglobin)リッチ構造、及びタトゥー(tattoo)を含む組織を含むことができるが、これらに制限されることはない。非色素沈着状態の例には、毛嚢、毛幹、血管病変、感染性状態、皮脂腺、にきびなどを含むことができるが、これらに制限されることはない。
【0033】
さらに、コラーゲン、エラスチン及び細胞外マトリックスの他の構成要素のような皮膚における構造の整形を想定に入れることができる。そのような治療の例には、皮膚のリサーフェシング、線条皮膚、セルライト、傷、しわ及び小じわの外見を変えること、皮膚を引き締めること、皮膚のキメを変えること等が含まれる。
【0034】
開示の方法とシステムの使用は、このようなやり方で治療として適用された場合、皮膚の外見を美容的に改善することができる。
【0035】
多くの事例では、治療効果は、組織を破壊又は変性させることによって達成される。例えば、色素を壊す治療効果は、多くの色素疾患を解消することに役立つ。別の一例として、治療効果は、正常な組織の破壊による若返りのような非色素疾患の治療において達成される。破壊された正常組織はその後、体によって組織の外見を若返らせる新しい組織で置き換えられる。多くの場合、治療効果は、組織内のある特定の場所(例えば、深度や層)で発現することが望ましい。いくつかの事例では、治療効果は、あるタイプの組織(例えば、真皮色素)に選択的に適用される。
【0036】
治療中は非標的組織に対する有害な影響を回避することが重要である。多くの場合、有害な影響は、組織の非標的領域(例えば、層)において発現することを除けば、治療効果と同一である。例えば、有害な影響には、組織の破壊、損傷、変性及びアブレーションが含まれる。
【0037】
さらに、本開示では、実施形態の同様の名称の構成要素は、一般に同様の特徴を有し、特定の実施形態内では、それぞれ同様の名前の構成要素の各特徴は、必ずしも完全に記述されているわけではない。また、開示されたシステム、装置、及び方法の説明において、直線又は円形の寸法が使用される限り、そのような寸法は、そのようなシステム、装置、及び方法と組み合わせて使用できる形態の類型を制限すること意図しない。当業者は、そのような直線及び円形の寸法と同等の寸法が任意の幾何学的形態に対して容易に決定され得ることを認識するであろう。システム及び装置、並びにそれらの構成要素のサイズ及び形状は、システム及び装置が使用される構成要素のサイズ及び形、システム及び装置が使用される方法及び手続は、システム及び装置が使用される対象の解剖学的構造に少なくとも依存し得る。
【0038】
一般に、電磁放射(EMR)(例えば、レーザビーム)を組織の治療領域に集束させることができる高開口数(NA)光学システムが記述されている。集束レーザビームは、周辺組織を損傷することなく治療領域に光エネルギーを伝達することができる。伝達された光エネルギーは、影響を受けない非標的領域(例えば、上皮層、皮膚層の他の部分など)に囲まれた皮膚又は組織の周辺領域又は他の色素沈着標的領域に影響を及ぼすことなく、例えば皮膚の皮膚層の治療領域で色素沈着発色団(chromophores)及び/又は標的を破壊することができる。他の実施形態では、伝達された光エネルギーは、タトゥーの除去又は変更、又はヘモグロビン関連の治療を誘発することができる。
【0039】
一般に、組織の色素沈着症状の治療のためのシステム及び対応する方法が提供される。以下でより詳細に論じられるように、開示されるシステム及び方法は、レーザビームなどの電磁放射(EMR)を使用して、所定の量のエネルギーを標的組織に伝達する。EMRは、焦点領域に集束させることができ、焦点領域は標的組織に対して任意の方向に平行移動又は回転し得る。所定の量の放射線は、色素沈着症状を示す組織の部分を熱的に破壊するか、又は損傷するように構成され得る。このようにして、所定の量のエネルギーは、その外観を改善するための色素沈着症状の治療のために標的組織内の任意の位置に伝達され得る。
【0040】
図1は、治療システム10の例示的な一実施形態を示す。図に示すように、治療システム10は、据え付け式プラットフォーム12、エミッタ14、及びコントローラ16を含む。据え付け式プラットフォーム12は、1つ以上のマニピュレータ又はアーム20を含むことができる。アーム20は、対象24の標的組織22上で様々な治療を行うために、エミッタ14に連結することができる。据え付け式プラットフォーム12及びエミッタ14の動作は、ユーザーによって、手動で又はコントローラ16を使用して(例えば、ユーザーインターフェースを介して)指示されてもよい。特定の実施形態(図示せず)では、エミッタには、ハンドヘルド用のフォームファクターを有することができ、据え付け式プラットフォーム12は省略されてもよい。他の実施形態では、据え付け式プラットフォームは、ロボットプラットフォームであってもよく、アームは、エミッタの操作のためにコントローラに通信可能に接続されてもよい。
【0041】
エミッタ14及びコントローラ16(及び任意に据え付け式プラットフォーム12)は、通信リンク26を介して互いに通信することができ、これは、任意の適切な通信プロトコルによって任意の適切なタイプの信号(例えば、電気、光、赤外線など)を伝える任意の適切なタイプの有線及び/又は無線の通信リンクであってよい。
【0042】
コントローラ16の実施形態は、エミッタ14の動作を制御するように構成することができる。一態様では、コントローラ16は、EMR30の移動を制御することができる。以下で詳細に説明するように、エミッタ14には、EMR30の放射用の源32とEMR30の操作用の走査システム34が含まれてもよい。一例として、走査システム34は、EMR30を焦点領域に集束させ、この焦点領域を空間において移動及び/又は回転させることができるように構成することができる。コントローラ16は、信号を源32に送り、通信リンク26を介して源32に対し、波長、電力、繰り返し率、パルス幅、パルスエネルギー、集束特性(例えば、焦点体積、レイリー長など)のような1つ以上の選択された特性をもつEMR30を放射するように命じることができる。別の態様では、コントローラ16は、走査システム34に信号を送り、通信リンク26を介して走査システム34に対し、標的組織22について、1つ以上の移動及び/又は回転動作でEMR30の焦点領域を動かすように命じることができる。
【0043】
治療システム10と方法の実施形態を、本明細書において真皮層のような皮膚組織内の標的の文脈で論じる。しかしながら、本開示の実施形態は、対象のいかなる場所のいかなる組織の治療にも、非限定的に使用することができる。非皮膚組織の例には、粘膜組織、生殖器組織、内臓組織及び消化管組織の表面及び表面下領域が含まれ得るが、これらに限定されるものではない。
【0044】
図2は、皮膚組織内の真皮層の色素沈着領域に集束させたレーザビームの例の概略図である。皮膚組織には、皮膚表面100及び上部表皮層(又は、表皮)110が含まれ、例えば、顔面領域において上部表皮層の厚さは約30~120μmとなり得る。表皮は、体の他の部分では若干厚めとなり得る。例えば、表皮の厚さは、概ね約30μm(例えば、まぶた)から約1500μm(例えば、手のひら又は足の裏)の範囲を取り得る。これら表皮の厚さは、ある種の皮膚疾患、例えば、乾癬がある場合、この例より薄く又は厚くなり得る。下にある真皮層120(又は、真皮)は、表皮110の下からより深部の皮下脂肪層(図示せず)に延在する。深部又は真皮の肝斑を示す皮膚には、メラニンを過剰に含有する色素沈着細胞群又は色素沈着領域130が含まれ得る。電磁放射(EMR)150(例えば、レーザビーム)は、真皮120又は表皮110内に位置し得る、1つ以上の焦点領域160に集束させることができる。EMR150は、メラニンによって吸収され得る1つ以上の適切な波長で提供することができる。EMRの波長は、以下に記載する1つ以上の基準に基づいて選択することができる。
【0045】
図3は、皮膚治療システム300の概略図である。皮膚治療システム300には、レーザビーム312を生成することができるレーザ源302(例えば、Qスイッチレーザ)が含まれる。レーザビームは、レーザビーム312を操作し、操作したレーザビーム314を組織306内の焦点領域316へ向けることができる光学システム304によって受けることができる。光学システム304による操作は、レーザビーム312のプロファイル(例えば、強度プロファイル)を変更すること、レーザビーム312の伝播方向を変更すること、レーザビーム312からの複数のレーザビームを生成すること(例えば、回折光学を使用したビームスプリッティングによって)等の、1つ以上のことを必要とする可能性がある。光学システム304から発する1つ以上のレーザビーム(例えば、ビーム314)は、組織306内の1つ以上の焦点領域(例えば、焦点領域316)に集束させることができる。
【0046】
図4Aは、回折光学装置400の概略図である。回折光学装置には、入力レーザビーム404(例えば、Qスイッチレーザから)を受け、複数の出力レーザビーム406、408及び410を生成する(「アクティブ・オーダー」とも呼ばれる)回折ビームスプリッタ402が含まれる。回折されたレーザビーム406、408及び410には、その伝播の方向に基づいて回折次数を割り当てることができる。例えば、レーザビーム406は回折次数0、レーザビーム408は回折次数1、レーザビーム410は回折次数-1という次数を取り得る。最も外側の回折次数(例えば、α
f)間の角度は最大角(full angle)と、隣接する回折次数(例えば、α
s)間の角度は分離角と呼ぶことができる。
【0047】
単一のレーザビームを受け、ある特定の軸周りに回転させたそれぞれの伝搬方向をもつm個のビームを出力することができる回折ビームスプリッタを、1×mビームスプリッタと呼ぶことができる。例えば、レーザビーム404を受け、y軸周りに回転させたそれぞれの伝搬方向をもつ3つのレーザビーム406、408及び410を出力する回折ビームスプリッタ402を、1×3ビームスプリッタと呼ぶことができる。いくつかの実施形態では、ビームスプリッタは、二次元に沿うように配置された断面をもつ出力ビームのアレイ(「二次元ビームマトリックス」)を生成することができる。
図4Bに回折ビームスプリッタによるレーザビームの二次元回折によって生成された例示的二次元ビームマトリックスを示す。
【0048】
図5に単一のレーザビームから複数の焦点体積を生成するための例示的光学システム500を示す。光学システム500には、回折ビームスプリッタ402と光学的に回折ビームスプリッタ402のビーム下流に位置するレンズ502が含まれる。前述のように、回折ビームスプリッタ402は、レンズ502に当たる複数の出力レーザビーム406、408及び410を生成することができる。レンズ502は、出力レーザビーム406、408及び410からそれぞれ収束ビーム506、508及び510を作り出すことができる。収束ビーム506、508及び510は、組織550内においてそれぞれ焦点体積516、518及び520へ集束することができる。組織は、例えば、x軸に沿って配置することができる。このことによって、光学システム500に面している組織表面552について焦点体積516、518及び520を異なる深度に位置させることが可能になる。例えば、焦点体積516、518及び520は、それぞれd
1、d
2及びd
3の深度に位置させることができる。いくつかの実施形態によれば、異なる深度d
1、d
2及びd
3は、光学システム500の像面湾曲の結果である。焦点体積516、518及び520は、曲線530に沿って位置させることができる。曲線530の曲率は、出力レーザビーム406、408及び410間の分離角並びに/又はレンズ502の焦点距離に依存し得る。
【0049】
図6に接触面610をもつ光学システム500を示す。接触面610は光学システム500と組織表面652をもつ組織650との間の境界面の役割を果たすことができる。接触面610は、組織表面652の幾何学的形状を変えることができる。例えば、ある特定の曲率をもつ接触面610は、組織表面652の形状を変える(例えば、接触面610の曲率に合わせるように)ことができる。接触面610の曲率は、それに沿って焦点体積516、518及び520が配置される曲線530の曲率に基づき定めることができる。このことは、焦点体積516、518及び520を組織表面652から同じような深度に位置させることを可能にし得る。焦点体積516、518及び520の深度の均一性は、他の組織層に影響を与えることなく組織650内のある特定の組織層(例えば、皮膚の真皮層)の治療をすることを可能にし得る。
【0050】
図7に単一のレーザビームから複数の焦点体積を生成するための例示的光学システム700を示す。光学システム700には、回折ビームスプリッタ402及び光学的に回折ビームスプリッタ402のビーム下流に位置するレンズアレイ702が含まれる。前述のように、回折ビームスプリッタ402は、レンズアレイ702に当たる複数の出力レーザビーム406,408及び410を生成することができる。レンズアレイ702には、レンズ704、706及び708を含めることができる。これらレンズ704、706及び708の1つ以上のレンズは、出力レーザビーム406、408及び410の1つ以上のレーザビームを受けることができる。結果として、レンズアレイ702におけるレンズは、複数の焦点体積に収束する複数の出力収束ビームを生成することができる。例えば、レンズ704は、焦点体積714のアレイを、レンズ706は焦点体積716のアレイを、レンズ708は焦点体積718のアレイを生成することができる。焦点体積のアレイはそれぞれ、曲率をもつ曲線に沿って配置することができる。いくつかの実施形態では、焦点体積(例えば、714、716、718など)のアレイの曲率は、単一のレンズによって得られる焦点体積の曲率(例えば、レンズ502から得られる焦点体積516、518及び520の曲率)より低くなり得る。このことは、焦点体積のより低い曲率により、組織内で同じような深度に(例えば、同じ組織層内に)焦点体積が留まることが可能となり得るため、望ましいということができる。
【0051】
図8に接触面802のアレイをもつ光学システム700を示す。接触面のアレイには、複数の接触面804、806及び808を含めることができる。接触面804、806及び808は組織表面の幾何学的形状を変えることができる(例えば、接触面610の曲率に合うように)。接触面804、806及び808の曲率は、それぞれ焦点体積714、716及び718のアレイの曲率に基づき決めることができる。
【0052】
図9に単一のレーザビームから焦点体積の複数のアレイを生成するための例示的光学システム900を示す。光学システム900には、回折ビームスプリッタ402及び光学的に回折ビームスプリッタ402のビーム下流に位置する回折プレート902(例えば、フレネルゾーンプレートのアレイ)が含まれる。前述のように、回折ビームスプリッタ402は、回折プレート902に当たる複数の出力レーザビーム406、408及び410を生成することができる。回折プレート902は、組織領域904、906及び908内に焦点体積914、916及び918の複数のアレイを作り出すことができる。例えば、フレネルゾーンプレートのアレイには、複数のフレネルゾーンプレート(図示せず)を含めることができ、それぞれのフレネルゾーンプレートは、出力レーザビーム406、408及び410から焦点体積アレイを生成することができる(例えば、第1フレネルゾーンプレートは焦点体積914を、第2フレネルゾーンプレートは焦点体積916を、第3フレネルゾーンプレートは焦点体積918等を生成することができる)。光学システムには、組織領域の幾何学的形状を変えることができる接触面924、926及び928も含めることもできる。このことは、例えば、焦点体積アレイを組織領域内で同じような深度に(例えば、組織領域904、906及び908それぞれの中に焦点体積914、916及び918のアレイを)留まらせることを可能にし得る。
【0053】
図10Aは、標的組織内の複数の深度において複数の焦点体積を生成する回折光学装置1000の例示的な実施形態の概略図である。回折光学素子には、入力レーザビーム1004(例えば、Qスイッチレーザ)を受け、光学素子1011(例えば、レンズ、フレネルゾーンプレートなど)によって集束された際に様々な距離において集束するように、異なる発散角をもつ複数の出力レーザビーム1006、1008及び1010を生成することができる回折素子1002(例えば、イスラエルのテルアビブのHolo/OR社の部品番号MF-001-I-Y-A)が含まれる。例えば、出力レーザビーム1006、1008及び1010は、それぞれ(光学素子1011からそれぞれF
1、F
2及びF
3の距離に位置する)焦点領域1026,1028及び1030に集束させることができる。いくつかの実施形態によれば、光学素子1011には、例えば、屈折光学素子(例えば、レンズ、マルチレンズアレイなど)及び回折光学素子(例えば、フレネルゾーンプレート、フレネルゾーンプレートのアレイなど)を含めることができる。さらに、いくつかの実施形態によれば、回折素子1002は、入力レーザビーム1004を様々な比率で(例えば、強度に基づいて)出力レーザビーム1006、1008、1010に分配することができる。例えば、光学素子1011から最も遠くに集束させる出力レーザビーム1010には、入力レーザビーム1004のエネルギーの約半分を含めることができ、それ以外の2つの出力レーザビーム1006及び1008それぞれには、入力レーザビーム1004のエネルギーの約1/4ずつを含めることができる。
【0054】
図10Bは、標的組織の深度に沿って延在する治療体積を形成する複数の焦点領域を生成する回折光学装置1050の例示的な実施形態の概略図である。光学装置1050には、入力レーザビーム1004(例えば、Qスイッチレーザから)を受け、光学素子1013(例えば、レンズ、マルチレンズアレイ、フレネルゾーンプレート、フレネルゾーンプレートのアレイなど)によって焦点領域1056、1058及び1060にそれぞれ集束される、複数の出力レーザビーム1036、1038及び1040を生成することができる回折素子1002を含めることができる。焦点領域1056、1058及び1060は、治療体積1015を形成することができる。治療体積は、深度(z軸方向)に沿って延ばすことが可能で、焦点領域1056、1058及び1060は、標的組織の深度に沿って配置することができる。例えば、焦点領域は互いに重なっても、互いに直ぐ側にあってもよい(例えば、レーザビーム1004の特性周波数[例えば、中央周波数]をもつレーザビームの単一の焦点領域のレイリー長の2倍より短い距離で離れて)等。いくつかの版によれば、レイリー長は次式で求められる。
【数2】
【0055】
ここでは、z
Rはレイリー長、ω
0は焦点におけるビーム半径、λはビームの波長である。いくつかの実施形態では、開口数(NA)は焦点におけるビーム半径(ω
0)を制御する。この開口数とビーム半径の関係は、次式で推定することが適切である。
【数3】
【0056】
治療体積は、第1深度(例えば、0.2mm)から第2深度(例えば、0.7mm)へ延在し得る。いくつかの実施形態では、治療体積内に位置する標的組織の部分を、治療体積内の1つ以上の焦点領域によって加熱することができる。他の実施形態では、(例えば、レーザ誘起光学的絶縁破壊(LIOB)、レーザ誘起熱的ブレークダウン(LITB)等によって)治療体積の1つ以上の部分においてプラズマを発生させることができる。いくつかの実施形態では、治療体積内の標的(例えば発色団、タトゥーの墨など)の内及び周囲においてプラズマを発生させることができる。
【0057】
図11は、回折素子1002及び光学素子1011(例えば、レンズ、マルチレンズアレイ、フレネルゾーンプレート、フレネルゾーンプレートのアレイなど)を含む光学システム500の概略図である。回折素子1002は、光学的に回折ビームスプリッタ402のビーム下流に位置させることができる。回折ビームスプリッタ402からの出力レーザビーム406、408及び410は、回折素子1002に当たってよい。回折素子1002は、光学素子1011によってそれぞれの出力ビーム406、408及び410用に異なる焦点距離において(例えば、様々な焦点距離F
1、F
2及びF
3において)集束させることが可能な複数のビームを生成するように構成することができる。このことにより、焦点体積のアレイを組織表面から異なる深度にx軸に沿って分布させることができる。例えば、回折素子1002は、出力ビーム406を受け、光学素子1011によって集束させた際に、焦点距離F
1、F
2及びF
3に対応し得る焦点体積1112、1114及び1116を生成することができる。回折素子1002は、出力ビーム408を受け、光学素子1011によって集束させた際に、焦点距離F
1、F
2及びF
3に対応し得る焦点体積1122、1124及び1126を生成することができる。回折素子1002は、出力ビーム410を受け、光学素子1011によって集束させた際に、焦点距離F
1、F
2及びF
3に対応し得る焦点体積1132、1134及び1136を生成することもできる。さらに、ある特定の焦点距離に対する焦点体積を、出力ビーム間の分離角及び/又は回折素子1002の焦点距離に応じた曲率をもつ曲線に沿って配置することができる。
【0058】
いくつかの実施形態では、回折ビームスプリッタ402は、ビームの二次元アレイ(例えば、x-y平面における二次元ビームマトリックス)を作り出すことができる。二次元ビームマトリックスが回折素子1002に当たれば、回折素子1002は、組織内に焦点体積の三次元アレイを生成することができる。このことにより、単一のレーザビーム404によって三次元領域の同時治療が可能となり得る。
図12は、焦点領域の複数アレイを生成するための回折光学素子1002とマルチレンズアレイ1260を含む例示的光学システム1200の概略図である。マルチレンズアレイ1260には、第1レンズ1262と第2レンズ1264が含まれる。回折光学素子1002は、マルチレンズアレイのレンズによって焦点領域のアレイに集束させることが可能な複数のビームを生成することができる。例えば、回折光学素子1002が(出力レーザビーム406、408、410等から)生成する複数のビームは、第1レンズ1262によって焦点体積1202~1206、1212~1216及び1222~1226の第1アレイに集束させることができる。回折光学素子1002が(出力レーザビーム406、408、410等から)生成する複数のビームは、第2レンズ1264によって焦点体積1232~1236、1242~1246及び1252~1256の第2アレイに集束させることができる。いくつかの実施形態では、マルチレンズアレイ1260には、そこにおいて二次元アレイ内の1つ以上のレンズが焦点領域のアレイ(例えば、三次元に配置した)を生成することが可能な、レンズの二次元アレイ(例えば、x-y平面)を含めることができる。いくつかの実施形態では、マルチレンズアレイ1260は、そこにおいて第1レンズ1262と第2レンズ1264がフレネルゾーンプレートに相当する、フレネルゾーンプレートのアレイとなることができる。いくつかの実施形態では、
図11及び
図12の光学システムは、そこにおいて単一の入力光ビーム(例えば、レーザビーム404)が複数の焦点領域を生成することが可能な、光学デマルチプレクサとして働くことができる。
【0059】
図13は、標的組織内に焦点領域をもつ準非回折ビームを生成するように構成された光学システム1300の概略図である。光学システム1300には、入力レーザビーム1304を受け準非回折ビーム(QDFM)1305を生成することができる光学素子1302(例えば、アキシコン)が含まれる。QDFM1305は、標的組織における第1深度D1から標的組織における第2深度D2に延在し得る焦点領域1310をもつことができる。光学素子1302は、高開口数(例えば、0.3より大きい、0.3と1の間、0.4と0.8の間及び0.4と0.6)をもつことができる。このことは、標的組織の上層(例えば、皮膚組織の表皮)とQDFM1305との間における望ましくない相互作用(例えば、プラズマ、熱等の発生)を防ぐことを可能にする。いくつかの実施形態では、標的組織の深度に沿った(例えば、z軸に沿った)焦点領域1310の広がりは、より大きい回折をうけるビーム(例えば、ガウシアンビーム)の焦点領域の広がりよりも長くなってもよい。結果として、ある特定の開口数については、QDFMは、標的組織内のより深い深度に沿った治療を可能にし得る。このことは、深度(例えば、z軸)に沿った焦点領域の走査の必要性を除去し得る。
【0060】
前述の光学システム(例えば、光学システム1050、1300など)は、マイクロフラクショナル治療(例えば、標的組織の望ましい領域の選択的治療)を可能にし得る。例えば、治療用ビームによって標的組織の上にある層(例えば、皮膚組織の表皮層)に対し望ましくない影響なしに、標的組織の下にある層(例えば、皮膚組織の真皮層)を治療することが望ましいことがあり得る。別の例では、より黒っぽい皮膚のタイプの患者は、治療用ビームの望ましくない吸収を招く恐れがある高密度のメラニンをもっている可能性がある。このことは不必要な色素沈着症/低色素沈着及び炎症を引き起こす恐れがある。従って、治療用ビームと標的組織との間の相互作用を減らすことが望ましいことがあり得る。
【0061】
マイクロフラクショナル治療は、光学システムに高開口数(例えば、0.3よりも大きい)をもたせるように設計することによって実現することができる。高開口数をもつことで、表皮層において入ってくる治療用ビームのエネルギー密度を小さくし、治療用ビームを真皮層の小さな焦点領域に集束させることが可能となる。例えば、空気中での中心値を約1064nmにした治療用ビーム用の開口数0.5は、約4マイクロメートルのビームウェスト(焦点領域の断面)を生成することができる。ビームウェストが小さいため(例えば、標的組織内の細胞の大きさに近い)、治療後の回復時間が短くなり得る。
【0062】
しかしながら、治療用ビームの焦点領域が小さいため、治療時間は望ましくない長さになる恐れがある。従って、開口数を大きく(0.3よりも大きく)維持すると同時に、より大きな体積の標的組織を治療することが望ましい。このことは、標的組織に1つ以上の治療用ビームを照射することによって(例えば、同時に)治療することが可能な標的組織の体積(「治療体積」)を大きくすることで実現可能となる。いくつかの実施形態では、標的体積には、治療用ビームの単一の焦点領域(例えば、
図13における焦点領域1310)を含めることができる。他の実施形態では、標的体積には三次元に分布させた焦点体積のアレイ(例えば、
図11に示すような)、又は単一の入力ビーム(例えば、Qスイッチレーザのレーザビーム404)から生成された、三次元に分布させた焦点体積の複数のアレイ(例えば、
図12に示すような)を含めることができる。さらに他の実施形態では、治療体積には、標的組織の深度(例えば、z軸)に沿って配置した複数の焦点体積(例えば、
図10Aと
図10B)を含めることができる。標的組織の深度に沿って延在する治療体積をもつことで、深度に沿って(例えば、z軸に沿って)焦点領域を走査する必要性を除去し得る。追加として又は代替として、他の方法では治療を施すには深すぎるかもしれない標的組織の領域を治療することを可能にし得る。いくつかの実施形態では、治療用ビームが標的組織まで貫通し得るように、治療用ビームの波長を選ぶことができる。この波長の選択は標的組織の特性(例えば、散乱、吸光など)に基づくことがある。いくつかの実施形態では、治療用ビームの波長は、約200nmから約2000nmの範囲のもの(例えば、1064nm)となり得る。
【0063】
治療体積における治療は、複数の方法で行うことができる。例えば、治療体積においてプラズマを発生させることによって治療を行うことができる(アブレーション治療)。プラズマの発生は治療体積内で選択的にすることができる。例えば、治療体積内の1つ以上の標的(例えば、タトゥーの墨、発色団など)中又は周囲でプラズマを発生させることができる。プラズマの発生は非選択的ともなり得る。例えば、治療体積内において標的の選択をせずに、治療体積の1つ以上の領域においてプラズマを発生させることができる。いくつかの実施形態では、プラズマを発生させずに治療を行うことができる。例えば、治療体積内の標的組織を加熱することによって治療を行うことができる(非アブレーション治療)。治療のタイプ(アブレーション又は非アブレーション)は、治療用ビームの強度次第となり得る。
【0064】
図14A~Cは、マルチスポットレーザ治療用の例示的光学システム1400の図である。光学システム1400の側面
図1410を
図14Aに、正面
図1412を
図14Bに、上面
図1414を
図14Cに示す。光学システム1400には、Quantel社のQ-Smart 450レーザ源1416が含まれる。レーザ源1416は、中央波長約1064nm、パルス幅6ナノ秒(nS)及びパルス当たりのエネルギー約450mJをもつレーザパルスを10Hzまでの頻度で発生させる。レーザ源1416は、コンソール1418によって支えられている。コンソール1418は、チラー及び電源をレーザ源1416に供給する。さらに、コンソール1418は、レーザ1416の制御及び監視用のインターフェースを提供する。
【0065】
ここで、光学システム1400の
図14Cに示す上面
図1414を参照すると、レーザ源1416は、レーザビームをその出口開口部(図示せず)から外へ、そして光学組立品のほうへ向けるように構成されている。いくつかの実施形態によれば、レーザを最初に波長板1420へ、その後偏光子1422へ向ける。偏光子1422は、レーザビームの第1偏光を第1レーザ反射鏡1424へ、レーザビームの第2偏光をビームダンプ1426へ向けるように構成することができる。波長板1420を回転させることによって、第1レーザ反射鏡1424のほうへ向けられているレーザの割合をいろいろに変えることができる。いくつかの実施形態によれば、ここではフィルタホイール組立品1428内に示す1つ以上の減光(ND)フィルタを、レーザ反射鏡1424によって反射されるレーザビームの経路に沿って置くことができる。NDフィルタは、レーザ反射鏡1424からNDフィルタに向けられたレーザビームの指定した部分をフィルタするように構成することができる。NDフィルタが透過させたレーザビームは、第2レーザ反射鏡1430によって反射される。反射されたレーザビームは、ビームコンバイナ1432に入射する。ビームコンバイナ1432は、その後関節式アーム1434の中に向けられるレーザビームを透過させる。可視光照準ダイオード1436は、低電力のコヒーレント可視光(例えば、530nmで5mW)を作り出すことができる。レーザダイオード1436は、可視光を第1可視光反射鏡1438のほうへ向けることができる。第1可視光反射鏡1438は、可視光をビームコンバイナ1432のほうへ反射し、ビームコンバイナは、可視光を関節式アーム1434のほうへ反射する。ビームコンバイナ1432からの反射された可視光ビームとビームコンバイナ1432からの透過されたレーザビームを合成し(例えば、空間的に重ね)合成ビームとすることができる。反射された可視光ビームと透過されたレーザビームをそれら2つが関節式アーム1434において共線となるように制御することができる(例えば、レーザ反射鏡1424及び1430並びにレーザダイオード1436の方位を制御することができる)。
【0066】
図15A~Cは、例示的な試験ハンドピース1500を示している。ハンドピース1500の正面
図1510を
図15Aに、断面
図1520を
図15Bに、上面
図1530を
図15Cに示す。断面
図1520に示すように、ハンドピース1500は、アームアダプタ1532において関節式アーム1434の端に連結することができる。ハンドピース1500内における光学軸1534に沿って、合成ビームを関節式アーム1434から外へ向けることができる。合成ビームは回折光学素子(DOE)1536を通過する。いくつかの実施形態によれば、DOE1536は半分離角をもつ9×9 2Dビームスプリッタ(例えば、イスラエルのテルアビブのHOLO/OR社製のHOLO/OR部品番号MS-027-I-Y-A)である。DOE1536は、合成ビームからいくつかのビームレットを生成する。ビームレットは、対物レンズ1538によって集束させる。例えば、対物レンズ1538は、約7.5mmの有効焦点距離をもつエドモンド・オプティクス社製の部品番号69-860でよい。ビームレットは、光学窓1540(又は「窓」)を通過し、複数の焦点に集束される。例示的窓1540は、厚さ1mmのサファイア製の窓である、エドモンド・オプティクス社製の部品番号48-919でよい。窓1540は静止した枠1542に固定されている。アームアダプタ1532、DOE1536及び対物レンズ1538は全て、窓1540と相対的に、制御された三次元移動を可能にするステージ上に固定されている。X-Yステージ1544は、リニアポジショニングステージ(例えば、マイクロメータねじゲージ)によって動かされ、ステージは、窓1540と相対的に、アームアダプタ1532、DOE1536及び対物レンズ1538のX-Y位置を制御する。正面
図1510で示すように、Zステージ1546は、窓1540と相対的に、DOE1536と対物レンズ1538のZ位置を制御する。いくつかの実施形態によれば、窓1540は、皮膚表面に接触し、窓1540の形状に合うように皮膚表面を変形させる。例えば、平らな窓は皮膚表面を平らにし、凸面の窓は皮膚表面に凹みをつける。いくつかの実施形態によれば、窓1540によって皮膚表面に圧力をかける。圧力は、治療領域から血液や他の競合する標的(即ち、発色団)を退かせることと、皮膚の厚みを圧縮することによって、より皮膚深部を治療することができるように光学的距離を縮めることとを含む、レーザ治療に有利ないくつかの作用をもたらすことができる。
【0067】
最初に光学システム1400とハンドピース1500で生体外試験を行った。実験には白い(ほぼ色素の無い)ヨークシャー豚の皮膚を使用した。最初にヨークシャー豚に、豚の真皮に人工的なメラニン斑ができるようにメラニン含有インクでタトゥーをした。真皮に人工的なメラニン斑をもつ皮膚試料を使用した。試料には人工斑以外に、概ね他の色素は無かった。窓の凸面が平らに試料の上に接するように位置し試料に軽く押し当たるように、ハンドピース1500を試料の上に置いた。窓1540の凸面から離れた2つの異なる深度(空気中で0.06mm及び0.38mm)に(試料内に)ビームレットの焦点を位置させるために、対物レンズ1538のZ位置が変更された。最初に窓をアクリルブロックの上に位置させ、アクリルブロックの中にレーザパルスを打ち込み、焦点においてアクリル内で破壊を引き起こすことによって、2つの異なる深度にある焦点の窓面からの距離を測定した。深度測定用顕微鏡と20X対物レンズを使用して、アクリルブロックの上面から破壊の中心までの距離を測定した。
【0068】
図16Aに顕微鏡によって観察したアクリル内に形成された破壊のアレイの画像を示す。人工斑(及びその真皮色素)を含有する試料内の箇所と、人工斑を含有しない試料の箇所とにレーザを打ち込んだ(典型的には一度に1レーザパルスで)。レーザパルスのエネルギーを減衰させるため、1つ以上のNDフィルタを使用した。NDフィルタの減衰の総光学密度(OD)を2、2.2、2.6及び3から選択した。OD値1を使用した際のシステムによる損失は、パルスエネルギー測定値で36mJという結果になった。OD値2、2.2、2.6及び3に対応するパルスエネルギーは、それぞれ3.6mJ、2.3mJ、0.9mJ及び0.036mJと推定されている。各パルスの後にプラズマの有無を観察し記録した。下表1に結果を示す。
【表1】
【0069】
深度0.06mmにおいてOD2.6でプラズマの発生が見られ(おそらく表皮において)、OD3ではプラズマの発生は見られない。真皮色素に起因するため、この深度におけるプラズマの発生に違いは見られなかった。深度0.38mmにおいては、OD2で色素沈着のある真皮と色素の無い真皮との両方においてプラズマの発生が見られ、OD2.2では色素沈着のある真皮においてのみ選択的にプラズマの発生が見られた。
【0070】
皮膚タイプに基づき選ばれた、黒っぽい色の雌のユカタン豚に対して、システム1400とハンドピース1500を使用した。豚の上にハンドピース1500を置き、レーザを1Hzで作動させた。パルスの合間に、対物レンズ1538とDOE1536をx-y軸に沿って、パルス当たり0.5mmの速度、ラスターパターンで走査させた。焦点の深度を0.08mm、0.28mm、0.48mm、0.68mm及び0.88mmの間で変化させながら複数の走査を行った。光学密度は2と2.2を使用した。下表2に使用した治療パラメータを記載する。
【表2】
【0071】
図17に光学システム1400とハンドピース1500を使用した治療部位の画像を示す。治療部位M3に示すように、黒っぽい皮膚の豚においては0.08mmの浅い深度であっても、OD2.2ではキャビテーションを生じさせ白化をもたらすことはできなかった。キャビテーションと白化は他の全ての治療部位で見られたが、M7とM8のような深部治療においては比較的少ないキャビテーションが見られた。治療部位M1、M6及びM8から採取した組織試料をそれぞれ
図18A、
図18B及び
図18Cに示す。
【0072】
いくつかの実施形態によれば、回折ビームスプリッタ402、回折プレート902及び/又は回折素子1002の少なくとも1つは、フォトリソグラフィとダイヤモンド切削の少なくとも1つを含む製造工程によって作られる。いくつかの実施形態によれば、回折ビームスプリッタ402、回折プレート902及び/又は回折素子1002の少なくとも1つを、単一の光学基板上に一緒に並べる。さらに他の実施形態によれば、回折ビームスプリッタ402、回折プレート902及び/又は回折素子1002の少なくとも1つを、単一の光学表面上に一緒に並べる。豚の表皮色素を白化することが判明している実施形態には、Qスイッチレーザ源(フランス、レ・ジュリスのQuantel社製のQ-SMART 450)から生成し、光学密度2のNDフィルタによって減衰させるレーザビームが含まれる。9×9二次元ビームスプリッタ(イスラエル、テルアビブのHOLO/OR社製のPN:MS-027-I-Y-A)は、レーザビームを81ビームレットに分割する。開口数約0.5、背面焦点距離約12mm及び焦点面位置豚の皮下約0.10mmをもつ光学システムによって、81ビームレットを集束させる。豚の研究において、上記実施形態とパラメータは、若い雌のユカタン豚においてキャビテーションと白化をもたらすことが判明した。
【0073】
下表3に本開示のいくつかの実施形態を実行するに適切なパラメータと範囲の概略を示す。
【表3】
【0074】
回折光学素子(DOEs)とQスイッチNd:YAGレーザ(例えば、Quantel Q-Smart 450)を使用してシステムを開発した。
図19を参照すると、関節式アームに取り付けるためのアダプタ1910をもつハンドピース1900が示されている。レーザビームは、概ね光学軸1912に沿って向けられる。ビームエキスパンダ1914(例えば、Thorlabs社製部品番号BE02-UVB)は、レーザビーム直径を2倍、直径約14mmに増大させる。レーザビームは、第1DOE1916、この場合5焦点を作り出す多焦点素子(例えば、HOLO/OR社の部品番号MF-001-I-Y-A)、によって回折される。多焦点素子は、レーザビームをそれぞれがわずかに異なる発散角をもつ5つのビームレットに分離する。その後、ビームレットは、第2DOE1918、この場合9×9二次元ビームスプリッタ(例えば、HOLO/OR社の部品番号MS-027-I-Y-A)、によって回折される。第2DOEは5つの入ってくるビームレットそれぞれを回折し、それぞれがビームスプリッタの分離角(例えば、0.5度)に基づきわずかに異なる先端及び/又はチルト勾配をもつ9×9(即ち81)のサブビームレットに回折する。その後、5×9×9のサブビームレット(即ち405のサブビームレット)は、対物レンズ1920(例えば、エドモンド・オプティック社製の部品番号67-259)によって、405箇所の焦点に導かれる。最後に、405箇所の焦点と対物レンズ1920の間の光路に、窓1922を位置させる。窓1922の一例は、エドモンド・オプティクス社の部品番号48-919の製品である。同じ9×9アレイに属する隣接する焦点間の公称の間隔(pitch)を、対物レンズ1920の有効焦点距離(例えば、15mm)に二次元ビームスプリッタの分離角(0.5°)のサインを乗じた距離、即ち約0.13mmで近似する。9×9アレイの公称の幅の合計を、公称間隔にアレイのポイントの数から1を減じた数字(例えば、8)を乗じた数字、即ち約1mmで近似する。
【0075】
最初に灰色の着色アクリルブロックを使用して、システムとハンドピース1900の試験をした。窓1922に対し平らにアクリルを置いた。光学密度(OD)0.4でレーザビームを減衰させた。アクリルに対してアクリル内部約1.01mmの深度(最も浅いところで)まで第1パルスを加えた。アクリル内部において、単一の焦点体積が9×9二次元アレイを覆う単一の損傷柱を形成するに十分な程度に5つの焦点が近接している(不連続の5つの深度における5つの不連続の9×9の損傷アレイがあるのではなく)ことが判明した。第1レーザパルスは、柱の底がアクリルブロック内の約1.55mmの深度になるように、概ね深度0.49mmの損傷柱をもたらした。対物レンズの位置を調整し、アクリルブロックに第2パルスを加えた。第2パルスによる損傷の深度は、概ね0.48mmで見られ始め、深度1.11mm(深度約0.63mmの損傷柱)まで延在していた。
図20A~Bに灰色の着色アクリルブロックの側面の顕微鏡画像を示す。反対側から顕微鏡の光路に対して横切る方向に向けた2つの光ファイバー光源によってブロックを照らした。
図20Aに光ファイバー光源2020を示す。
図20Bを参照すると、2つの破曲線の間に9つの損傷柱2030が示されている。破曲線はアブレーションを行ったアクリルと行っていないアクリルの間の境界を示し、対物レンズの像面湾曲のために曲がっていると考えられている。
図21A~Bに灰色の着色アクリルブロック2110の正面図の顕微鏡画像を示す。損傷柱の9×9アレイ2120を見ることができる。この特定の9×9アレイ2120には中央柱がなく、そのため81個ではなく80個の柱しかない。
【0076】
その後白いヨークシャー種の雌豚から採取した皮膚に生体外治療を行うためシステムとハンドピース1900を使用した。パルス当たりのエネルギーを下げるためにレーザには50μSの時間差を導入し、OD0.5でビームを減衰させた。この設定でのパルスエネルギーはおおよそパルス当たり108mJであった。また、この設定でのパルス幅はおおよそパルス当たり8nSであった。皮膚試料4つに照射をおこなった。各試料へのそれぞれのレーザパルスに伴いプラズマの発生を認めた。下表4に各試料のパラメータを示す。
【表4】
【0077】
走査速度はX-Y両方向とも約0.5mmで繰り返し率は約1Hzであったため、治療した面積全て(治療の周辺部上ではなく)は、1×1mmアレイで4回治療をしたとみなす。従って、有効治療間隔(pitch)は9×9アレイ公称値の約半分、0.07mmであった。別のいい方をすれば、X及びY方向で約0.07mm毎に治療の結果として生じる損傷の発生が見込まれていた。
【0078】
試料への照射中レーザパルスと同時に火花が発生したが、より表面に近い深度(例えば、試料3)においてより強い火花が見られた。照射後、試料表面を顕微鏡下で詳しく調べ、生検を行い、試料組織を組織診断に送った。顕微鏡下検査ではいずれの試料においても組織表面に損傷は見られなかった。火花の存在(プラズマの発生を意味する)と皮膚表面への損傷がないことは、アブレーションによる損傷が組織内且つ組織の表皮層下にとどめられていたことを示唆している。
【0079】
図22A~Dにいくつかの実施形態による例示的ハンドピース2200を示す。
図22Aにはハンドピース2200の正面図を、
図22Bにはハンドピース2200の底面図を示す。関節式アーム2210は、レーザ源(図示せず)を含むコンソールからのレーザビームをハンドピース2200の中へ向けている。ハンドピース2200には、レーザビームに対して概ね透過性があるとされ得る窓2212が含まれる。当業者には、様々な窓材料の使用が可能ではあるが、例示的な窓の材料にはサファイアと石英が含まれることは理解されよう。いくつかの実施形態によれば、接触センサー2214には1つ以上の静電容量センサーを含めることが可能で、接触センサー2214は窓2212がいつ組織と接触しているかを検出することができる。当業者には、ハンドピース2200にはハンドピース2200の様々な構成要素を中に包むカバー2216を含めることができることは理解されよう。
【0080】
図22Cにカバー2216無しのハンドピース2200の正面図を示す。
図22Dに、
図22Cにおける22D-22D間の線に沿って描かれた断面図を示す。
図22Cと
図22Dを参照すると、第1モーター2218(例えば、ステッピングモーター)は、第1軸に沿って第1ステージ2223を動かす第1すべりねじ2220を駆動する。第2モーター2222は、第2軸(例えば、第1軸に対して概ね直交している)に沿って第2ステージを動かす第2すべりねじを駆動する。第2ステージ2224の動きによって、第1モーター2218と第1すべりねじ2220を第2軸に沿って動かせるように、第1モーター2218と第1すべりねじ2220は第2ステージ2224に据え付けられている。第1ステージ2223はレンズチューブ2226に取り付けられており、第1軸に沿って第1ステージ2223を動かすことで結果的にレンズチューブ2226を第1軸に沿って動かす(又はレンズチューブ2226に連結された関節式アーム2210を動かす)ことになる。第1ステージを動かすことは、回折光学素子(DOE)2232A及び2232B並びに集束レンズ2234を動かすことにもなり得る。さらに、第1モーター2218と第1すべりねじ2220を第2ステージ2224に取り付けるため、第2軸に沿って第2ステージ2224を動かすことが結果的に第2軸に沿ってレンズチューブ2226を動かすことになる。レンズチューブ2226は、第1側面で関節式アーム2210の光学出力に取り付けられており、第2側面で深度ステージ2228に取り付けられている。光学軸2230はレンズチューブ2226の円柱軸に対し平行となってよい。1つ以上の回折光学素子(DOEs)2232A~Bを光学軸2230に沿って(例えば、レンズチューブ2226に連結させて)配置することができる。いくつかの実施形態によれば、第1DOE2232Aは、前述のように多焦点素子を備え、第2DOE2232Bは、前述のように二次元ビームスプリッタ(例えば、回折ビームスプリッタ)を備える。集束レンズ2234は、深度ステージ2228内において光学軸2230に沿ってビーム下流に据え付けられている(例えば、レンズチューブ2226に連結して)。典型的には、1つ以上のDOEs2232A~Bは、レーザビームを複数のビームレットに分割する。集束レンズ2234は、複数のビームレットの1つ以上を集束させる(例えば、1つ以上の焦点領域に)ことができる。深度ステージ2228は光学軸2230に沿って上下に集束レンズ2234を動かし、それによって複数の焦点領域の深度を光学軸2230に沿って動かす。モーターコントローラ2236は、第1モーター2218と第2モーター2222の1つ以上を制御することができる。いくつかの実施形態によれば、第1位置センサーは、第1ステージ2223の位置を測定することができ、第2位置センサーは、第2ステージ2224の位置を測定することができる。位置センサーの例には、リニアエンコーダ、ロータリエンコーダ及びホームセンサーが含まれる。さらに、いくつかの実施形態では、第1モーター2218及び/又は第2モーター2222は、ステッピングモータを備え、ステップの数を数えることによって第1及び/又は第2ステージの位置を推測することができる。いくつかの実施形態によれば、モーターコントローラ2236は、1つ以上のレーザパラメータを制御するレーザコントローラ(図示せず)と通信可能である。いくつかの実施形態によれば、レーザコントローラは、パルス幅、パルスエネルギー及びレーザ繰り返し率の少なくとも1つを制御する。いくつかの実施形態によれば、ビーム経路に減衰器を置くことが可能で、減衰器コントローラは減衰レベルを制御することができる。いくつかの実施形態では、減衰器には、モーターコントローラ2236と通信可能な減衰器コントローラを含めることができる。いくつかの実施形態によれば、安全且つ効果的な治療を確実に行うために、レーザコントローラ、減衰器コントローラ及びモーターコントローラの1つ以上を併せて作動させることができる。例えば、いくつかの実施形態では、モーターコントローラは、第1ステージ2223と第2ステージ2224の両方の位置の動きを追跡することが可能で、両ステージのいずれかが所定の範囲を外れる場合、レーザを遮ることができる。この安全のための特徴によって、システムがある特定の箇所へ過剰照射すること(例えば、組織損傷につながる)を防ぐことができる。
【0081】
図22A~Dを参照し記載されたハンドピース2200は、関節式アーム2210を介し、公称値400mJのレーザパルスをもち、パルス幅6nS、繰り返し率20Hzでレーザビームを加える、Quantel Q-Smart 400レーザに光学的に連結されている。レーザビームのパルス幅とパルスエネルギーは、Qスイッチ時間差パラメータによって相互依存的に制御されている。減衰器は、レーザ源とハンドピース2200の間のレーザビーム経路に置かれている。減衰器は、リトアニアのビリニュスのAltechna社製のPowerXP-コンパクトモーター付きアッテネーターを備える。減衰器には、減衰器コントローラが含まれ、レーザビームのパルスエネルギーをさらにパルス幅とは無関係に制御することを可能にしている。Qスイッチの時間差と減衰レベルを調整しながら、パルス幅、パルスエネルギー及びピーク電力のようなレーザのパラメータを実験によって確認した。結果として得られたレーザパラメータを参考まで下表5にまとめる。
【表5】
【0082】
いくつかの皮膚疾患、例えば、肝斑又は炎症後色素沈着(PIH)のような真皮色素疾患の治療では、組織の前層(例えば、表皮)で受けるエネルギー密度がより低いものとなるようにしながら、組織の標的層(例えば、真皮)にエネルギー密度が高いものを加える必要がある。標的層内の高エネルギー密度が、治療効果(例えば、標的内での熱電子プラズマの発生又は標的の熱破壊)をもたらすと知られている治療閾値を超えるものであることが望ましい。標的層におけるエネルギー密度が、治療閾値を下回る場合は、治療効果は生じず、従って治療にもならない。さらに、前層(例えば、表皮)が受けるより低いエネルギー密度が、有害な影響(例えば、メラノサイト内におけるメラニン生成増加)をもたらすと判明している有害閾値を下回ることが望ましい。前層内におけるエネルギー密度がこの有害閾値より大きい場合、前層において有害な影響が発現し(例えば、メラニン生成が増加し得る[例えば、日焼けが生じる])疾患は悪化する可能性が高い。治療閾値及び/又は有害閾値は、いくつかの要因、例えば、患者の皮膚のタイプ(例えば、メラニン含有量)、レーザビームのエネルギー、波長、パルスエネルギー及びパルス幅、並びに標的組織の冷却に依存し得る。この理由のため、パルスエネルギーのようなパラメータは、治療閾値を超えたエネルギー密度をもつレーザビームを標的層の標的内に到達させ且つレーザビームの有害閾値が前層の有害閾値を下回るまで、各患者において用量調整を行い選択することができる。前層と標的層におけるレーザビームのエネルギー密度に十分な差があるためには、レーザビームが組織内を組織前層から組織標的層へ伝播しながら収束しなければならない。レーザビームの収束率を制御するパラメータは開口数(NA)である。NAが大きければ大きいほど収束率は大きく、従って、前層エネルギー密度と標的層エネルギー密度の間の差が大きい。あいにく通常治療を施す組織(例えば、皮膚)の多くは混濁した媒質(例えば、雲や牛乳の入ったグラスのように光を散乱する)である。従って、レーザビームは皮膚内を伝播しながら、収差を生じ、そのビームの大きさは広がり、面積を増しエネルギー密度を減少させる(そして前層と標的層のエネルギー密度の差を小さくする)恐れがある。いくつかの実施形態では、組織標的層と組織前層は必ずしも異なる組織ではない。別の言い方をすれば、いくつかの実施形態では、標的層と前層は両方とも単一の組織タイプ(例えば、表皮)内にある。大きなNA(例えば、NA≧0.3)をもつ回折制限付き集束システムと一緒に高線質レーザビーム(例えば、M2≦2)を使用することで、いくつかの皮膚タイプにおける真皮疾患の選択的治療を可能とし得る表皮と真皮の間のエネルギー密度の差をもたらすことが可能となる。しかしながら、大きなNA焦点と高線質ビームでの大きな病変の臨床的治療は新たな困難な課題をもたらす。
【0083】
大NA集束システムは、比較的短い焦点距離を必要とする。例えば、NA0.5は、レーザビームのビーム直径に等しい焦点距離に対応する(例えば、ビーム直径8mmと焦点距離8mm)。大NA集束システムは、比較的小さい焦点領域(例えば、直径1~100マイクロメートル)を生み出すこともできる。治療は、焦点領域内及び焦点領域に直接的に近位な所で行うことが可能で、病変治療のために焦点領域を多く加えることもできる。病変は範囲内で様々な大きさをとる(例えば、ボトルキャップの大きさになり得る)ことが知られている。本明細書で記載のように、焦点アレイを作り出し、それによって治療を行う面積を大きくするために、回折レンズを使用することができる。ボトルキャップの大きさをもつ病変に対しては、ボトルキャップの大きさの焦点アレイが望ましいとされ得る。しかしながら、前述のように、アレイの最大角と集束システムの焦点距離とを掛けることによってアレイ幅を推定することができる。大きなNAの必要性は、焦点距離が比較的短いものでなければならないという制約を光学システムに課すため、大きなアレイを実現するために必要な最大角は、非常に大きなものとなり得る。ボトルキャップの大きさ(例えば、直径26mm)の小さい病変の例を続ける。NA0.5の直径8mmのビームは、焦点距離8mmを必要とする。焦点距離8mmのシステムで作り出す直径26mmの焦点アレイは、最大角でほぼ120°を必要とするであろう。前述のように、アレイ周辺部でのビームレットは、最大角の半分で集束システムを通過するであろう。軸を外れて集束システムを通過するビームレットは、最終的に収差(例えば、コマ収差、非点収差及び像面湾曲の収差)をもたらすことが知られている。しかしながら、表皮と真皮間においてエネルギー密度の差を確保し、それによって表皮と真皮において望ましいエネルギー密度を実現するためには、高いビーム線質又は低い収差が必要とされる。この理由のため、大きなNAと高いビーム線質を備えた病変の大きさのアレイは、実現不可能である恐れがある。20°より小さく、好ましくは5°より小さい最大角をもつアレイで収差を小さくすることは可能である。真皮色素疾患に対して臨床的に実行可能な治療を提供するためには、病変の幅よりもずっと小さい幅をもつ焦点アレイを使用し、あらゆる大きさの病変を治療する必要がある。
【0084】
病変より小さい焦点アレイで病変を治療するために、1つ以上の走査2300を使用することができる。
図23Aに例示的層走査2300の概略図を示す。層走査2300は、複数の焦点アレイ2310を備える。各焦点アレイ2310は、複数の焦点を備え、個別のレーザパルスによって形成される。前述のように、焦点アレイ2310は、一次元アレイ、二次元アレイ及び三次元アレイのいずれかのものであってよい。層走査2300は、二次元であり第1軸2312と第2軸2314上で(例えば、レーザビームを第1軸2312及び/又は第2軸2314に沿って移動させることによって)実行することができる。いくつかの実施形態によれば、層走査2300は、牛耕式パターン2316(例えば、ラスターパターン)で実行される。このケースでは、層走査2300を第1コーナー2318で開始し第2コーナー2320で終了させ、連続した焦点アレイ2310を連続して(例えば、時間的に)生成する。連続した焦点アレイ2310は物理的に隣接してよい。いくつかの実施形態によれば、例えば、単一の場所におけるバルク・ヒーティングを減らすために、互いに隣接してない、時間的に連続した焦点アレイ2310を作ることは有利となり得る。いくつかの実施形態によれば、治療走査2350は複数の層走査2300を備える。
【0085】
図23Bに3つの層走査2300A~Cを備える治療走査2350の概略図を示す。第1走査2300A後、第3軸2360に沿って焦点アレイ深度を移動させ、第2層走査2300Bを実行する。第2層走査2300B後、第2軸に沿って再び焦点アレイ深度を移動させ、第3層走査2300Cを実行する。
【0086】
図23Aに記載の層走査2300に準拠し、新鮮なユカタン豚皮膚を治療するために、
図22を参照し記載されたシステムを使用した。ユカタン豚皮膚は、走査実行日前に若いユカタン豚から採取した。治療前に、レーザパラメータは色素沈着組織においては選択的に熱電子プラズマを発生させ、大部分は色素のない組織においてはプラズマを発生させないことがわかっていた。9×9の焦点(中心焦点を欠いて、全部で80焦点を形成)を形成する二次元ビームスプリッティングDOEを使用した。9×9アレイは、おおよそ0.6mm平方の大きさであった。第1位置においてレーザを打ち込み、第1位置から概ね0.6mm離れた第2位置へ対物レンズを走査しながらレーザを打ち込み、生検用に十分な大きさの走査層の治療が完了するまで牛耕式パターンを繰り返すことによって、ユカタン豚組織の治療を行った。治療中に使用したパラメータと治療中に観察されたことを下表6に示す。
【表6】
【0087】
上表の観察結果からわかり得るように、焦点アレイを皮膚の中へ深く(例えば、メラニン含有表皮より十分に下に)集束させることにより、同じレーザ設定でも熱電子プラズマがほぼ見られないから全く見られないという結果となった。また、より表面に近い場所での組織治療(例えば、焦点アレイが表皮のメラノサイト含有基底層と概ね同じ深度となる)では、治療後組織の目に見える白化という結果になった(試料3)。試料3の治療後の白化を示す画像2370を
図23Cに示す。
【0088】
試料1~4で生検を行い、組織診断を行った。
図24A~Hにこの組織診断の代表的な画像を示す。
図24A~Bにコントロール試料4のフォンタナ・マッソン(FM)染色とTUNEL染色を示す。
図24C~Dに試料1のFM染色とTUNEL染色を示す。
図24E~Fに試料2のFM染色とTUNEL染色を示す。
図24G~Hに試料3のFM染色とTUNEL染色を示す。フォンタナ・マッソンは、メラニンのような色素のある箇所を黒っぽく染める。TUNELはアポトーシス(即ちスケジュール化された細胞死)のある箇所で蛍光を発する。
【0089】
図24Aを参照すると、コントロール試料4には角質層2410、表皮層2412及び真皮層2414があることを示している。表皮2412の底に破壊されていないメラニン含有細胞2416が見える。
図24Bに比較的少ない蛍光を示すが、これはアポトーシス細胞の存在が比較的少ないことを示している。
【0090】
図24C~Dに試料1の組織像を示す。
図24Cに示す小さな液胞がその証拠となるが、表皮層にいくつかの破壊があるように見える。さらに、コントロールより多くの蛍光が試料1のTUNEL染色において見られるが、これはより多くのアポトーシス細胞2420を示している。試料1の治療を皮膚表面下おおよそ200マイクロメートルの焦点深度に向け、治療中にプラズマを目で見ることができた。
【0091】
図24E~Fに試料2の組織像を示す。
図24Eの表皮層2412には比較的に破壊はほとんど見られない。
図24Fは、特に真皮2414において、いくらかの蛍光を示すが、これはアポトーシス細胞2420を示している。試料2の治療を皮膚表面下おおよそ830マイクロメートルの焦点深度に向けたが、治療中にプラズマを目で見ることはできなかった。
【0092】
図24G~Hに試料3の組織像を示す。
図24Gの大きな液胞2422が示すように、表皮層2412に比較的大量の破壊が見られる。
図24Hはいくらかの蛍光を示しているが、これは液胞2422近くのいくつかのアポトーシス細胞を示している。試料3の治療は最も表層に近いもので、治療を皮膚表面下おおよそ130マイクロメートルの焦点深度に向け、治療中にプラズマを目で見ることができた。
【0093】
美容目的などの様々な皮膚症状を治療する方法は、本明細書に記載されたシステムを使用して実行することができる。医師はそのような方法を実行することができるが、エステティシャンや他の適切な訓練を受けたもののような医師以外のものも、医師の監督下で及び医師の監督なしで、様々な皮膚疾患を治療するために本明細書に記載のシステムを使用することができる。
【0094】
本明細書で開示のシステム、装置及び方法の構造、機能、製造及び利用の原理の全体的な理解を助けるために、特定の例示的な実施形態が記載されている。これらの実施形態の1つ以上の例は、添付図面で図を使って説明されている。当業者には、本明細書に詳細に記載及び添付図面に例示されたシステム、装置及び方法は、非限定的であるが例示的な実施形態であり、本発明の範囲は特許請求の範囲によってのみ定義されることは理解されよう。特定の例示的な実施形態に関連して例示又は記載された特徴は、他の実施形態の特徴と組み合わせることができる。そのような修正形態及び変形形態は、本発明の範囲内に含められることが意図されている。さらに、本開示では、実施形態の同様の名称の構成要素は、一般に同様の特徴を有し、特定の実施形態内では、それぞれ同様の名前の構成要素の各特徴は、必ずしも完全に記述されているわけではない。
【0095】
明細書及び特許請求の範囲を通してここで使用されているように、近似を表す言葉(approximating language)は、関連する基本的機能に変化をもたらすことなく差し支えない程度に変動できる任意の量的表現を修飾するために適用することができる。従って、「約」「おおよそ」及び「実質的に」などの言葉により修飾された値は、指定された正確な値に限定されるものではない。少なくともいくつかの事例では、近似を表す言葉(approximating language)は、値を測定する機器の精度に対応することもある。本明細書及び特許請求の範囲を通して、範囲の限定は組合せ及び/又は入れ替えをしてもよく、このような範囲は特定され、文脈又は語句が他のことを示していない限り範囲内に包含されるすべての部分範囲を含む。
【0096】
いくつかの実施形態では、入力レーザビームの繰り返し率は、標的組織/標的物質におけるプラズマの減衰率よりも速くなり得る。このことにより、プラズマの連続的な(例えば、時間的に連続的な、空間的に連続的な等)発生が可能となり得る。レーザビームの繰り返し率を変えることによって、治療領域/標的領域(例えば、プラズマを発生させる領域)の面積を制御することができる。
【0097】
当業者には、前述の実施形態に基づく更なる特徴及び利点が理解されよう。従って、本開示の実施形態は、添付の特許請求の範囲によって示されるものを除き、詳細に示し記載したものに限定されるべきではない。本明細書で引用した出版物及び参考文献は全て、参照によりその全体がこの開示に明示的に組み込まれる。