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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】異常検知装置及び異常検知方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20231226BHJP
【FI】
G05B23/02 302Z
G05B23/02 T
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018201936
(22)【出願日】2018-10-26
(65)【公開番号】P2020067953
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-09-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】石橋 直人
(72)【発明者】
【氏名】村上 賢哉
【審査官】西井 香織
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-088078(JP,A)
【文献】特開2015-026252(JP,A)
【文献】特開2015-172945(JP,A)
【文献】国際公開第2018/104985(WO,A1)
【文献】特開2018-132786(JP,A)
【文献】特開2018-120343(JP,A)
【文献】特開2015-162140(JP,A)
【文献】特開2013-061695(JP,A)
【文献】特許第6243080(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特性変動が存在する連続系プロセスで発生した異常を検知する異常検知装置であって、
前記連続系プロセスがセンサによりセンシングされる毎に、前記センシングによって生成されたセンサ情報を入力する入力部と、
過去のセンサ情報を用いて、前記連続系プロセスを、各センサ間のセンサ情報が線形関係を維持した1以上のプロセスとして分割する分割部と、
前記入力部によってセンサ情報が入力される毎に、前記プロセス毎に、前記プロセスとして分割された前記過去のセンサ情報の中から前記入力部によって入力されたセンサ情報との距離に基づいて決定される過去のセンサ情報であって、かつ、所定の基準を満たす過去のセンサ情報を抽出する抽出部と、
前記抽出部によって過去のセンサ情報が抽出される毎に、前記プロセス毎に、前記抽出部によって抽出された過去のセンサ情報を学習データとして主成分分析によりモデルを構築するモデル構築部と、
前記モデル構築部によってモデルが構築される毎に、前記プロセス毎に、前記モデルと、前記入力部によって入力されたセンサ情報とを用いて、前記連続系プロセスでの異常の発生有無を評価する評価部と、
を有し、
前記基準は、前記入力部によって入力されたセンサ情報とセンシング対象の設備が処理する材料の種別が同一であること、を特徴とする異常検知装置。
【請求項2】
前記分割部は、
前記センサ間におけるセンシング値の相関係数を用いて、前記連続系プロセスを、各センサ間のセンサ情報が線形関係を維持した1以上のプロセスとして分割する、ことを特徴とする請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項3】
前記抽出部は、
前記入力部によって入力されたセンサ情報の近傍となる前記過去のセンサ情報を、距離関数を用いて抽出する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の異常検知装置。
【請求項4】
前記評価部は、
前記モデルを用いて、前記入力部によって入力されたセンサ情報のQ統計量又は/及びT統計量を算出することで、前記連続系プロセスでの異常の発生の有無を評価する、ことを特徴とする請求項1乃至の何れか一項に記載の異常検知装置。
【請求項5】
前記評価部は、
前記連続系プロセスで異常が発生したと評価された場合、前記異常の原因分析として、前記連続系プロセスをセンシングする各センサの前記Q統計量又は/及びT統計量に対する寄与度を算出する、ことを特徴とする請求項に記載の異常検知装置。
【請求項6】
特性変動が存在する連続系プロセスで発生した異常を検知する異常検知装置が、
前記連続系プロセスがセンサによりセンシングされる毎に、前記センシングによって生成されたセンサ情報を入力する入力手順と、
過去のセンサ情報を用いて、前記連続系プロセスを、各センサ間のセンサ情報が線形関係を維持した1以上のプロセスとして分割する分割手順と、
前記入力手順によってセンサ情報が入力される毎に、前記プロセス毎に、前記プロセスとして分割された前記過去のセンサ情報の中から前記入力手順によって入力されたセンサ情報との距離に基づいて決定される過去のセンサ情報であって、かつ、所定の基準を満たす過去のセンサ情報を抽出する抽出手順と、
前記抽出手順によって過去のセンサ情報が抽出される毎に、前記プロセス毎に、前記抽出手順によって抽出された過去のセンサ情報を学習データとして主成分分析によりモデルを構築するモデル構築手順と、
前記モデル構築手順によってモデルが構築される毎に、前記プロセス毎に、前記モデルと、前記入力手順によって入力されたセンサ情報とを用いて、前記連続系プロセスでの異常の発生有無を評価する評価手順と、
を実行し、
前記基準は、前記入力手順によって入力されたセンサ情報とセンシング対象の設備が処理する材料の種別が同一であること、を特徴とする異常検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常検知装置及び異常検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、センシング機器(以降、単に「センサ」とも表す。)の発達や通信費の低下等を理由としてセンサデータの収集が容易になってきており、収集されたセンサデータを用いて設備や機械の異常を検知することへのニーズが高まっている。複数のデータから異常を検知する技術の1つとして、主成分分析(PCA:Principal Component Analysis)が幅広く利用されている。PCAは教師無し学習の統計的手法であるため実運用で得ることが困難な場合がある異常データが不要であり、正常モデルからのズレを表すQ統計量やT統計量を算出することで異常原因が説明可能な利点がある。
【0003】
例えば、特許文献1では、回転機械の異常を検知する技術として、正常な振動情報を加工した上でPCAにより正常モデルを構築し、新しい振動情報が与えられた際に正常モデルで評価することで統計量を算出することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4312477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、プラント等の連続系プロセスを異常検知の対象とした場合、連続系プロセスには特性変動が存在するため、適切な異常検知が行えないことがある。
【0006】
例えば、図1(a)に示すように、季節等の期間に応じて周期的にセンサ値が変動するような特性変動(これは、「周期的変動」とも称される。)が存在する場合には、異なる季節等の期間のデータを学習データに用いると、異常有無の検知対象の期間のデータが正常データであっても統計量(Q統計量やT統計量)が学習時よりも高くなり、異常と誤検知されてしまうことがある。具体的には、図1(a)に示すように、期間1のセンサ値を学習データとして正常モデルを構築した場合、期間2のセンサ値が正常データであっても学習時よりも統計量が高くなり、異常と誤検知されてしまうことがある。
【0007】
また、図1(b)に示すように、例えば設備点検による部品交換等でセンサ値が不連続に変動するような特性変動(これは、「不連続変動」とも称される。)が存在する場合には、設備点検前のデータを学習データに用いると、設備点検後のデータが正常データであっても統計量が学習時よりも高くなり、異常と誤検知されてしまうことがある。具体的には、図1(b)に示すように、設備点検前のセンサ値を学習データとして正常モデルを構築した場合、設備点検後のセンサ値が正常データであっても学習時よりも統計量が高くなり、異常と誤検知されてしまうことがある。
【0008】
また、図1(c)に示すように、例えば経年劣化等の影響によってセンサ値が変動するような特性変動(これは、「長期的変動」とも称される。)が存在する場合には、経年劣化前のデータを学習データに用いると、経年劣化後のデータが正常データであっても統計量が学習時よりも高くなり、異常と誤検知されてしまうことがある。具体的には、図1(c)に示すように、経年劣化前のセンサ値を学習データとして正常モデルを構築した場合、経年劣化後のセンサ値が正常データであっても学習時よりも統計量が高くなり、異常と誤検知されてしまうことがある。
【0009】
更に、センサを数十台から数百台以上も用いる大規模な連続系プロセスでは、センサの組み合わせによっては線形関係が維持できないため、適切な異常検知ができない場合がある。例えば、大規模な連続系プロセスでは、図2に示すように、センサ1のセンサ値とセンサ2のセンサ値との間には線形関係がある一方で、センサ9のセンサ値とセンサ1のセンサ値との間には線形関係がない、という事態が発生し得る。このため、センサ間の線形関係が維持できなくなり、連続系プロセスの全てのセンサ値を用いてPCAを適用した場合に、Q統計量やT統計量の値が不安定となって誤検知が発生する場合がある。なお、以降では、線形関係を維持することを「線形関係維持」とも表す。
【0010】
以上の特性変動及び線形関係維持に対して、例えばプラント等の運用者がデータ分析を行って、特性変動や線形関係維持を考慮して正常モデルを更新したり、事前に異常検知対象の物理的位置に基づいて運用者がプロセスの分割を行ったりしていた。例えば、プロセス分割として、図3に示すように、互いに線形関係を有するセンサ同士を1つのプロセスとして、連続系プロセスを分割することが行われていた。しかしながら、このように運用者がデータ分析を行ったり、プロセス分割を行ったりすることは、コスト(すなわち、エンジニアリングコスト)が高くなる場合があった。
【0011】
本発明の実施の形態は、上記の点に鑑みてなされたもので、特性変動や線形関係維持を考慮した異常検知を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の実施の形態における異常検知装置は、特性変動が存在する連続系プロセスで発生した異常を検知する異常検知装置であって、前記連続系プロセスについてセンサを用いてセンシングしたセンサ情報を入力する入力部と、過去のセンサ情報のうち、前記入力部が入力したセンサ情報の近傍となるセンサ情報を抽出する抽出部と、前記抽出部が抽出したセンサ情報を学習データとして主成分分析によりモデルを構築するモデル構築部と、前記モデル構築部が構築したモデルと、前記入力部が入力したセンサ情報とを用いて、前記連続系プロセスでの異常の発生有無を評価する評価部と、を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の実施の形態における異常検知装置は、前記過去のセンサ情報を用いて、前記連続系プロセスを、各センサ間のセンサ情報が線形関係を維持した1以上のプロセスとして分割する分割部を有し、前記抽出部は、前記分割部が分割したプロセス毎に、前記入力部が入力したセンサ情報の近傍となる過去のセンサ情報を抽出し、前記モデル構築部は、前記分割部が分割したプロセス毎に、前記モデルを構築し、前記評価部は、前記分割部が分割したプロセス毎に、前記モデルと、前記入力部が入力したセンサ情報とを用いて、前記連続系プロセスでの異常の発生有無を評価する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
特性変動や線形関係維持を考慮した異常検知を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】特性変動による誤検知の一例を説明するための図である。
図2】線形関係が維持できない場合における各センサ間の関係の一例を説明するための図である。
図3】プロセス分割の一例を説明するための図である。
図4】本実施形態に係る異常検知装置の機能構成の一例を示す図である。
図5】同一プロセスにおける特性変動前後でのデータの分布の一例を説明するための図である。
図6】本実施形態に係る異常検知装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図7】本実施形態に係るプロセス分割処理の一例を示すフローチャートである。
図8】本実施形態に係る異常検知処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態(以降、「本実施形態」と表す。)について詳細に説明する。本実施形態では、特性変動や線形関係維持を考慮した異常検知が可能な異常検知装置10について説明する。本実施形態に係る異常検知装置10は、連続系プロセスの異常検知の対象として、この連続系プロセスの特性変動や線形関係維持を考慮して、プロセス分割を行うと共にPCAによる正常モデル(以降、「PCAモデル」とも表す。)を構築することで、当該特性変動や線形関係維持を考慮した異常検知を実現する。
【0017】
<異常検知装置10の機能構成>
まず、本実施形態に係る異常検知装置10の機能構成について、図4を参照しながら説明する。図4は、本実施形態に係る異常検知装置10の機能構成の一例を示す図である。
【0018】
図4に示すように、本実施形態に係る異常検知装置10は、機能部として、入力部101と、プロセス分割部102と、近傍データ抽出部103と、モデル構築部104と、評価部105と、出力部106とを有する。また、本実施形態に係る異常検知装置10は、記憶部107を有する。
【0019】
入力部101は、所定の時間毎(例えば、センシング機器20のセンシング周期毎)に、複数のセンシング機器20のセンサ値が含まれるセンサ情報を入力(収集)する。なお、本実施形態では、簡単のため、センサ情報には複数のセンシング機器20それぞれのセンサ値が含まれるものとするが、入力部101は、各センシング機器20からセンサ値をそれぞれ収集した上で、これら収集したセンサ値を含むセンサ情報を作成しても良い。そして、入力部101は、収集したセンサ情報を記憶部107に保存する。これにより、記憶部107には、センサ情報が時系列データとして記憶される。
【0020】
また、入力部101は、連続系プロセスの設備情報を入力して、入力された設備情報を記憶部107に保存する。ここで、設備情報とは、例えば、連続系プロセスのプロセス種別や正常範囲、異常範囲、イベント情報(例えば、操業日、操業周期、設備点検日、設備点検周期等)、設備の物理的な位置等が含まれる情報である。
【0021】
なお、入力部101は、設備情報が変更されない限りは、設備情報の入力及び保存を再度行う必要はない。入力部101は、設備情報に含まれる各情報のうちの少なくとも1つの情報が変更された場合に、変更後の設備情報を入力し、入力した設備情報を記憶部107に保存(上書き)する。
【0022】
以降では、複数のセンシング機器20の各々について、「センサ1」、「センサ2」、「センサ3」等とも表す。より一般に、iを1以上の整数として、「センサi」とも表す。なお、センサの総数をI、センサiのセンサ値をx、各センサ情報のインデックスをn(つまり、時刻インデックス)とすれば、n番目のセンサ情報は、(x(n),・・・,x(n))と表すことができる。
【0023】
プロセス分割部102は、記憶部107に記憶されているセンサ情報を用いて、複数のセンシング機器20をプロセス分割する。すなわち、プロセス分割部102は、同一プロセスに属するセンシング機器20のセンサ値間で線形関係を有するように連続系プロセスを分割する。連続系プロセスの分割結果は、記憶部107に記保存される。
【0024】
近傍データ抽出部103は、プロセス分割部102によって分割されたプロセス毎に、評価時点データの近傍となるデータ群を抽出する。評価時点データとは、連続系プロセスでの異常発生有無を評価する時点におけるセンサ情報のことである。
【0025】
ここで、例えば、或るプロセスにセンサ1とセンサ2とが有し、特性変動の前後で、センサ1のセンサ値とセンサ2のセンサ値との関係の分布が図5に示すようなものであったとする。また、特性変動前の分布を「データ群1」、特性変動後のデータ群を「データ群2」として、評価時点データに含まれるセンサ1のセンサ値とセンサ2のセンサ値とを「クエリ」とする。このとき、評価時点データの近傍となるデータ群を抽出するとは、上記のデータ群2を抽出することを意味する。評価時点データと近傍となるデータ群を抽出することで、当該評価時点データと同一の特性変動のデータ群を得ることができる。
【0026】
以降では、評価時点データに含まれる各センサ値のうち、該当のプロセスに属するセンシング機器20のセンサ値を「クエリ」と表す。つまり、クエリとは、評価時点データに含まれる各センサ値の中から、該当のプロセスに属するセンシング機器20のセンサ値のみを抽出したベクトル(又はスカラー)である。
【0027】
モデル構築部104は、プロセス分割部102によって分割されたプロセス毎に、近傍データ抽出部103によって抽出されたデータ群を学習データ(より正確には、学習データ群)としてPCAモデルを作成する。そして、モデル構築部104は、作成したPCAモデルと、当該データ群に含まれる各データとを用いて、所定の統計量(Q統計量及びT統計量の少なくとも一方)を算出する。以降では、このとき算出されるQ統計量及びT統計量をそれぞれ「モデル構築時のQ統計量」及び「モデル構築時のT統計量」とも表す。なお、当該データ群を構成する各々のデータに対して所定の統計量(モデル構築時のQ統計量及びモデル構築時のT統計量の少なくとも一方)が算出される。
【0028】
また、モデル構築部104は、所定の統計量(モデル構築時のQ統計量及びモデル構築時のT統計量の少なくとも一方)を記憶部107に保存する。
【0029】
評価部105は、モデル構築部104によって作成されたPCAモデルと、評価時点データとを用いて、所定の統計量(Q統計量及びT統計量の少なくとも一方)を算出する。以降では、このとき算出されるQ統計量及びT統計量をそれぞれ「評価時のQ統計量」及び「評価時のT統計量」とも表す。
【0030】
そして、評価部105は、評価時のQ統計量及び/又は評価時のT統計量と、記憶部107に記憶されているモデル構築時のQ統計量及び/又はモデル構築時のT統計量とにより、評価時点において連続系プロセスで異常が発生したか否かを評価する。また、異常が発生したと評価された場合、評価部105は、更に、異常原因の分析を行っても良い。
【0031】
出力部106は、評価部105による評価結果や異常原因の分析結果を所定の出力先に出力する。異常が発生したことを示す評価結果が出力されることで、異常が検知される。ここで、所定の出力先は任意の出力先とすることができる。所定の出力先としては、例えば、ディスプレイや記憶装置等であっても良いし、ネットワークを介して接続される所定の装置等であっても良い。
【0032】
記憶部107には、センサ情報や設備情報、プロセス分割結果、評価時のQ統計量、評価時のT統計量等が記憶される。これらの他にも、任意の処理結果や計算結果等が記憶されても良い。
【0033】
<異常検知装置10のハードウェア構成>
次に、本実施形態に係る異常検知装置10のハードウェア構成について、図6を参照しながら説明する。図6は、本実施形態に係る異常検知装置10のハードウェア構成の一例を示す図である。
【0034】
図6に示すように、本実施形態に係る異常検知装置10は、ハードウェアとして、入力装置201と、表示装置202と、外部I/F203と、通信I/F204と、ROM(Read Only Memory)205と、RAM(Random Access Memory)206と、CPU(Central Processing Unit)207と、補助記憶装置208とを有する。これら各ハードウェアは、バス209により相互に通信可能に接続されている。
【0035】
入力装置201は、例えば各種ボタンやタッチパネル、キーボード、マウス等であり、異常検知装置10に各種の操作を入力するのに用いられる。表示装置202は、例えばディスプレイ等であり、異常検知装置10による各種の処理結果を表示する。なお、異常検知装置10は、入力装置201及び表示装置202の少なくとも一方を有していなくても良い。
【0036】
外部I/F203は、外部装置とのインタフェースである。外部装置には、記録媒体203a等がある。異常検知装置10は、外部I/F203を介して、記録媒体203aの読み取りや書き込み等を行うことができる。記録媒体203aには、例えば、SDメモリカード(SD memory card)やUSBメモリ、CD(Compact Disk)、DVD(Digital Versatile Disk)等がある。なお、異常検知装置10が有する各機能部(例えば、入力部101、プロセス分割部102、近傍データ抽出部103、モデル構築部104、評価部105及び出力部106等)を実現する1以上のプログラムは、記録媒体203aに格納されていても良い。
【0037】
通信I/F204は、異常検知装置10が他の装置や機器(例えば、センシング機器20等)との間でデータ通信を行うためのインタフェースである。なお、異常検知装置10が有する各機能部を実現する1以上のプログラムは、通信I/F204を介して、所定のサーバ等から取得(ダウンロード)されても良い。
【0038】
ROM205は、電源を切ってもデータを保持することができる不揮発性の半導体メモリである。RAM206は、プログラムやデータを一時保持する揮発性の半導体メモリである。CPU207は、例えば補助記憶装置208やROM205からプログラムやデータをRAM206上に読み出して、各種処理を実行する演算装置である。異常検知装置10が有する各機能部は、例えば補助記憶装置208等に格納された1以上のプログラムがCPU207に実行させる処理により実現される。
【0039】
補助記憶装置208は、例えばHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等であり、プログラムやデータを格納している不揮発性のメモリである。補助記憶装置208に格納されているプログラムやデータには、例えば、異常検知装置10が有する各機能部を実現する1以上のプログラムや基本ソフトウェアであるOS(Operating System)、OS上で動作する各種アプリケーションプログラム等がある。なお、異常検知装置10の記憶部107は、例えば補助記憶装置208を用いて実現可能である。
【0040】
本実施形態に係る異常検知装置10は、図6に示すハードウェア構成を有することにより、後述する各種処理を実現することができる。なお、図6では、異常検知装置10が1台のコンピュータで実現される場合のハードウェア構成例を示したが、これに限られず、異常検知装置10は複数台のコンピュータで実現されていても良い。
【0041】
<プロセス分割処理>
以降では、連続系プロセスをセンシングするセンシング機器20を複数のプロセスに分割する(すなわち、互いに線形関係を有するセンシング機器20同士を同一プロセスとして、連続系プロセスを分割する)ためのプロセス分割処理について、図7を参照しながら説明する。図7は、本実施形態に係るプロセス分割処理の一例を示すフローチャートである。なお、図7に示すプロセス分割処理は、例えば、所定の時間毎に定期的に実行される。
【0042】
以降では、記憶部107にはN個のセンサ情報が記憶されているものとして、各センサ情報のインデックスをn(1≦n≦N)とする。
【0043】
まず、プロセス分割部102は、記憶部107に記憶されているN個のセンサ情報を取得する(ステップS101)。
【0044】
次に、プロセス分割部102は、各センサ同士の相関係数を以下の式(1)により算出する(ステップS102)。
【0045】
【数1】
次に、プロセス分割部102は、相関係数rijが所定の閾値以上である場合にセンサiとセンサjとを同一プロセスとして、連続系プロセスを1以上のプロセスに分割する(ステップS103)。すなわち、プロセス分割部102は、相関係数rijが所定の閾値以上である場合にセンサiとセンサjとが同一プロセスとなるように、各センサiを分類する。これにより、連続系プロセスが複数のプロセスに分割される。ここで、プロセス分割部102によるプロセス分割結果(すなわち、分割後のどのプロセスにどのセンサiが属するかを示す情報)は、記憶部107に記憶される。
【0046】
以上のように、本実施形態に係る異常検知装置10は、連続系プロセスを1以上のプロセスにプロセス分割することができる。このとき、相関係数が所定の閾値以上のセンサ同士(つまり、センサ値間の相関が高いセンサ同士)を同一プロセスとしてプロセス分割を行うことで、線形関係維持を考慮したプロセス分割を行うことができるようになる。これにより、プロセス分割後の各プロセスでは、当該プロセスに属するセンサ同士が線形関係を有するようになる。
【0047】
なお、上記の所定の閾値としては、例えば、プラント等の運用者が任意の値を設定すれば良い。また、上記では、センサ間の相関係数のみを用いてプロセス分割を行ったが、例えば、記憶部107に記憶されている設備情報に含まれるプロセス種別や設備(センサがセンシングする設備)の物理的な位置等も更に考慮して、プロセス分割を行っても良い。
【0048】
<異常検知処理>
以降では、上記のプロセス分割処理が実行済であることを前提として、連続系プロセスで異常が発生した場合に当該異常を検知するための異常検知処理について、図8を参照しながら説明する。図8は、本実施形態に係る異常検知処理の一例を示すフローチャートである。なお、以降では、上記のプロセス分割処理によって連続系プロセスが1以上のプロセスにプロセス分割されているものとする。
【0049】
まず、入力部101は、評価時点データを入力する(ステップS201)。以降のステップS202~ステップS206は、入力部101が評価時点データを入力する度に繰り返し実行される。すなわち、例えば、入力部101が所定の時間毎に評価時点データを入力する場合、以降のステップS202~ステップS206は当該所定の時間毎に繰り返し実行される。なお、入力部101は、入力した評価時点データをセンサ情報として記憶部107に保存する。
【0050】
次に、近傍データ抽出部103は、プロセス分割部102によって分割されたプロセス毎に、記憶部107に記憶されているセンサ情報から、評価時点データの近傍となるデータ群を抽出する(ステップS202)。ここで、評価時点データの近傍となるデータ群の抽出方法の例として、「距離関数を用いた抽出」と「クラスタリングを用いた抽出」との2つの方法を以下に説明する。なお、距離関数を用いた抽出では、評価時点データが入力される度に、プロセス毎に、当該評価時点データのクエリの近傍となるデータ群が逐次的に抽出される。一方で、クラスタリングを用いた抽出では、評価時点データが入力された場合、プロセス毎に、予めクラスタリングしておいたデータ群のうち、当該評価時点データのクエリの近傍となるデータ群が選択される。以降で説明する本ステップでは、一例として、或るプロセスを1つ固定した上で、このプロセスに属するセンサを「センサk」(1≦k≦K)と表す。したがって、センサkのn番目のセンサ値は「x(n)」と表される。また、記憶部107に記憶されているセンサ情報に含まれる各センサ値のうち、センサk(1≦k≦K)それぞれのセンサ値(の組)を単に「データ」と表す(このことは、以降のステップS205~S206でも同様とする。)。つまり、n番目のデータは、(x(n),・・・,x(n))と表されるものである。
【0051】
(1)距離関数を用いた抽出
(1-1)まず、距離としてユークリッド距離を用いる場合について説明する。この場合、近傍データ抽出部103は、当該プロセスにおいて、評価時点データのクエリと、記憶部107に記憶されている各センサ情報に含まれるデータとのユークリッド距離を以下の式(2)により算出する。
【0052】
【数2】
次に、近傍データ抽出部103は、上記の式(2)により算出した距離dEuclid(n)の昇順に各データをソートする。そして、近傍データ抽出部103は、昇順にソート後のデータの中から、予め設定された個数のデータを距離が小さい順に取得する。これにより、当該プロセスにおいて、評価時点データのクエリの近傍となるデータ群が抽出される。
【0053】
なお、単純にユークリッド距離が小さい順にデータを取得すると線形関係が保てなくなり、異常検知の精度が低下する場合があるため、例えば、設備情報に含まれるイベント情報(例えば、操業日、操業周期、設備点検日、設備点検周期等)を参照して、抽出されたデータ群を構成する各データの中から、更に同一操業日(又は同一操業時刻等)のデータのみを抽出して、この抽出したデータを改めてデータ群として抽出しても良い。これにより、仮にクエリと距離が近いデータであっても、例えば操業日が異なる場合には除外することができるため、線形関係を有するデータ群が得られる。
【0054】
(1-2)
次に、距離としてマハラノビス距離を用いる場合について説明する。なお、マハラノビス距離では、クエリと或るデータの集合との距離を算出するため、一例として、当該プロセスに含まれる各センサのセンサ値を同一操業日でグループ化するものとする。記憶部107に記憶されている各センサ情報に含まれるデータを同一操業日でグループ化した場合に、同一のグループ(すなわち、同一操業日)のデータの集合を「同一操業日データ群」と表し、それぞれに番号を付与し、そのインデックスをjとする。
【0055】
近傍データ抽出部103は、当該プロセスにおいて、評価時点データのクエリと、各同一操業日データ群とのマハラノビスを以下の式(3)により算出する。
【0056】
【数3】
次に、近傍データ抽出部103は、上記の式(3)により算出した距離dMahalanobis(j)の昇順に各同一操業日データ群をソートする。そして、近傍データ抽出部103は、昇順にソート後の同一操業日データ群の中から、予め設定された個数の同一操業日データ群を距離が小さい順に取得(又は、最も距離が小さい同一操業日データ群を取得)する。これにより、当該プロセスにおいて、評価時点データのクエリの近傍となるデータ群(つまり、同一操業日データ群)が抽出される。
【0057】
なお、各データを同一操業日でグループ化することは一例であって、他の基準(例えば、センサがセンシングする設備の物理的な計測周期や当該設備で処理等を行う材料の種別等)でグループ化しても良い。
【0058】
(2)クラスタリングを用いた抽出
クラスタリングを用いた抽出では、近傍データ抽出部103は、当該プロセスにおいて、予めクラスタリングしておいたデータ群(クラスタ)のうち、当該評価時点データのクエリの近傍となるクラスタを任意の基準(例えば、クエリとクラスタとの距離の近さ等)で選択する。これにより、当該プロセスにおいて、評価時点データのクエリの近傍となるデータ群が抽出される。
【0059】
ここで、クラスタリングを用いた抽出を行うためには、例えば、記憶部107に記憶されているセンサ情報を用いて、所定の時間毎に定期的に実施し、その結果を当該記憶部107等に保存しておく必要がある。クラスタリングの手法としては、任意の手法(例えば、EM(Expectation-Maximization)アルゴリズム、マハラノビス距離に基づいたk-means法等)を用いることができる。なお、クラスタ数は、プラント等の運用者が任意に設定しても良いし、AIC(Akaike's Information Criterion)等の情報基準量を用いて自動的に決定されても良い。
【0060】
ステップS202に続いて、モデル構築部104は、プロセス分割部102によって分割されたプロセス毎に、近傍データ抽出部103によって抽出されたデータ群を学習データ(より正確には、学習データ群)としてPCAモデルを作成する。そして、モデル構築部104は、作成したPCAモデルと、当該データ群に含まれる各データとを用いて、所定の統計量(Q統計量及びT統計量の少なくとも一方)を算出する(ステップS203)。以降では、所定の統計量としてQ統計量及びT統計量の両方を算出するものとする。
【0061】
Q統計量及びT統計量は、以下の式(4)及び式(5)により算出することができる。
【0062】
【数4】
このとき、モデル構築部104は、当該PCAモデルと、当該データ群に含まれる各データとを用いて、当該データ毎に、上記の式(4)及び式(5)によりモデル構築時のQ統計量及びモデル構築時のT統計量を算出する。これにより、例えば、当該データ群に含まれるデータ数がL個である場合、L個のモデル構築時のQ統計量と、L個のモデル構築時のT統計量とが算出される。
【0063】
なお、Q統計量におけるセンサk(のセンサ値)の寄与度Qは以下の式(6)で表される。
【0064】
【数5】
すなわち、Q統計量とは、各センサkの寄与度Qの和で表される。
【0065】
なお、モデル構築時のQ統計量及びモデル構築時のT統計量は、記憶部107に保存される。
【0066】
次に、評価部105は、プロセス毎に、当該プロセスのPCAモデルと、評価時点データのクエリとを用いて、評価時のQ統計量及び評価時のT統計量を算出する。当該プロセスにおける評価時点データのクエリも(x,・・・,x)と表されるため、評価時のQ統計量及び評価時のT統計量は、上記の式(4)及び式(5)により算出される。
【0067】
そして、評価部105は、評価時のQ統計量及び評価時のT統計量と、モデル構築時のQ統計量及びモデル構築時のT統計量とを用いて、所定の基準により評価時点において連続系プロセスで異常が発生したか否かを評価する(ステップS204)。
【0068】
ここで、所定の基準としては、プラント等の運用者が任意に設定することができる。例えば、評価時のQ統計量がモデル構築時のQ統計量の最大値を超えている場合に異常が発生していると評価したり、評価時のQ統計量がモデル構築時のQ統計量の3σの範囲内に入っていない場合に異常が発生していると評価したりすること等が挙げられる。同様に、評価時のT統計量がモデル構築時のT統計量の最大値を超えている場合に異常が発生していると評価したり、評価時のT統計量がモデル構築時のT統計量の3σの範囲内に入っていない場合に異常が発生していると評価したりすること等が挙げられる。
【0069】
また、異常が発生したと評価された場合、評価部105は、更に、異常原因の分析を行っても良い。異常分析としては、例えば、評価時のQ統計量を寄与度Qに分解した上で、寄与度Qが高いセンサkを異常原因と評価すること等が挙げられる。同様に、評価時のT統計量を寄与度に分解した上で、寄与度が高いセンサkを異常原因と評価すること等が挙げられる。
【0070】
次に、出力部106は、評価部105による評価結果や異常原因の分析結果を所定の出力先に出力する(ステップS205)。
【0071】
以上のように、本実施形態に係る異常検知装置10は、評価時点データが入力される度に動的にPCAモデルを構築し、連続系プラントでの異常の発生有無を評価することができる。しかも、このとき、本実施形態に係る異常検知装置10は、プロセス分割部102により分割されたプロセス毎に、PCAモデルの作成と異常の発生有無の評価とを行うことができる。このため、本実施形態に係る異常検知装置10によれば、例えばプロセス分割に伴うエンジニアリングコストを抑えつつ、特性変動や線形関係維持を考慮した異常検知を高い精度で実現することができるようになる。
【0072】
本発明は、具体的に開示された上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0073】
10 異常検知装置
20 センシング機器
101 入力部
102 プロセス分割部
103 近傍データ抽出部
104 モデル構築部
105 評価部
106 出力部
107 記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8