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  • 特許-加飾シート及び成形品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】加飾シート及び成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20231226BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B29C45/14
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018234911
(22)【出願日】2018-12-14
(65)【公開番号】P2020093508
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】新名 勝之
【審査官】馳平 憲一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-042351(JP,A)
【文献】特開2008-290391(JP,A)
【文献】特開2015-227029(JP,A)
【文献】特開2002-210877(JP,A)
【文献】特開2004-034489(JP,A)
【文献】特開2000-289155(JP,A)
【文献】特開2000-177071(JP,A)
【文献】特開2016-190480(JP,A)
【文献】特開2018-058216(JP,A)
【文献】特開2006-062215(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、
前記基材層の一方の面側に設けられた絵柄模様層と、
前記絵柄模様層の前記基材層と反対側の面側に設けられた熱可塑性樹脂層と、
前記熱可塑性樹脂層の前記絵柄模様層側と反対側の面側に設けられた表面保護層と、を備え、
前記熱可塑性樹脂層の前記絵柄模様層側と反対側の面には、凹凸模様が設けられている加飾シートであって、
前記基材層は、ABS樹脂を含み、
前記熱可塑性樹脂層は、結晶融解温度が150℃以上の結晶性熱可塑性樹脂を含み、
前記表面保護層は、アクリル樹脂を含むことを特徴とする加飾シート。
【請求項2】
前記結晶性熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の加飾シート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の加飾シートを予備金型で予備成型し、予備成形した前記加飾シートを射出金型に挿入し、流動状態の樹脂を前記射出金型内に充填して該樹脂を固化させて、前記樹脂と前記加飾シートとを一体化させる成型品の製造方法であって、
前記射出金型の温度が50℃以上100℃未満であることを特徴とする成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾シート及び成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、基材層と、その基材層の表面側に設けられた熱可塑性樹脂層とを有する加飾シートが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載の加飾シートを用いた場合、加飾シートを金型で予備成型し、予備成形された加飾シートを射出用金型に挿入し、流動状態の樹脂を射出金型内に充填して樹脂を固化し、固化した樹脂と予備成型した加飾シートとを一体化することで、成型品を作製するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5055707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の加飾シートでは、成形品表面に凹凸模様を形成する場合、形成する凹凸模様を含む射出金型側を用いる必要がある。それゆえ、凹凸模様以外の成形形状が同じであっても、凹凸模様が異なる場合には、複数の金型が必要となる。
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたもので、凹凸形状を有する成型品を容易に形成可能な加飾シート及び成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、(a)基材層と、(b)基材層の一方の面側に設けられた絵柄模様層と、(c)絵柄模様層の基材層と反対側の面側に設けられた熱可塑性樹脂層と、を備え、(d)熱可塑性樹脂層の絵柄模様層側と反対側の面には、凹凸模様が設けられている加飾シートであって、(e)基材層は、非結晶性熱可塑性樹脂を含み、(f)熱可塑性樹脂層は、結晶融解温度が150℃以上の結晶性熱可塑性樹脂を含む加飾シートであることを要旨とする。
また、本発明の他の態様は、(a)加飾シートを予備金型で予備成型し、予備成形された加飾シートを射出金型に挿入し、流動状態の樹脂を射出金型内に充填して樹脂を固化させて、樹脂と加飾シートとを一体化させる成型品の製造方法であって、(b)射出金型の温度が50℃以上100℃未満である成形品の製造方法であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、射出金型表面で加飾シートの温度を融点以下に保持することができ、加飾シート表面の凹凸形状を維持したまま成型加工を行うことができる。それゆえ、凹凸形状を有する成型品を容易に形成可能な加飾シート及び成形品の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態に係る加飾シートを表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態に係る加飾シートについて、図面を参照しつつ説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識を基に設計の変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた形態も、本発明の範囲に含まれる。また、各図面は、理解を容易にするため適宜誇張して表現している。
【0009】
(構成)
図1に示すように、本発明の実施形態に係る加飾シート10は、基材層1と、基材層1の一方の面1a側に設けられた絵柄模様層2と、絵柄模様層2の基材層1と反対側の面2a側に設けられた熱可塑性樹脂層3とを備えている。また、加飾シート10の最表面、つまり、熱可塑性樹脂層3の絵柄模様層2側と反対側の面3a(以下、「表面3a」とも呼ぶ)には、エンボス加工により形成された凹凸模様4が形成されている。凹凸模様4としては、例えば、絵柄模様層2の絵柄と同調した模様、絵柄と非同調の模様を採用できる。
また、本発明の実施形態に係る加飾シート10の総厚は、特に制限されるものではないが、400μm以上550μm以下が好ましい。さらに、基材層1、絵柄模様層2及び熱可塑性樹脂層3等の積層方法としては、例えば、熱ラミネート法、ドライラミネート法、ホットメルトラミネート法、押出ラミネート法の何れかを用いることができる。
【0010】
(基材層)
基材層1の材料としては、例えば、非結晶性熱可塑性樹脂を用いることができる。非結晶性熱可塑性樹脂としては、例えば、ABS樹脂を採用できる。ABS樹脂としては、例えば、スチレン-アクロロニトリル共重合体とNBR(ニトリルゴム)とのポリマーブレンド型、BR(ポリブタジエンゴム)或いはSBR(スチレン・ブタジエンゴム)ラテックスの共存下にスチレンとアクリルニトリルをグラフと共重合させて得られるグラフト型を採用できる。ブタジエンの含有比率は、20重量%以上50重量%以下が好ましい。
【0011】
(絵柄模様層)
絵柄模様層2は、加飾シート10に絵柄による意匠性を付与するための層である。絵柄模様層2は、印刷インキやコーティング剤等を用いて形成される。印刷インキ等としては、特に制限はなく、従来の加飾シートにおいて絵柄模様層に使用されている印刷インキ等と同様のものを使用できる。例えば、アクリルインキを用いることができる。アクリルインキとしては、例えば、アクリルポリオール系ビヒクルにイソシアネート硬化剤を配合してなる2液硬化型ウレタン樹脂系インキを使用することができる。また、印刷方法としては、例えば、グラビア印刷法、オフセット印刷法を用いることができる。また、絵柄としては、任意の絵柄を用いることができ、例えば、木目柄、石目柄、布目柄、コルク柄、抽象柄、幾何学模様等、或いはこれらの2種類以上の組み合わせ等を用いることできる。
【0012】
(熱可塑性樹脂層)
熱可塑性樹脂層3の材料としては、例えば、熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、結晶融解温度(結晶化温度)が150℃以上の結晶性熱可塑性樹脂を採用できる。結晶性熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂が好ましい。特に、融点が高いため、ホモポリプロピレンが好適である。また、熱可塑性樹脂層3には、ポリプロピレン系樹脂の柔軟化に用いられる低密度ポリエチレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-プロピレン共重合ゴム、エチレン-プロピレン-非共役ジエン共重合ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体、又はその水素添加物等の改質剤を適宜添加できる。また、結晶融解温度は、例えば、示差走査熱量計(DSC)等で測定できる。
【0013】
(凹凸模様)
凹凸模様4は、加飾シート10の表面に立体的な意匠感を付与するために、必要に応じて設けられるものである。凹凸模様4としては、任意の凹凸形状を用いることができ、例えば、木目導管状、石目状、布目状、抽象柄状、和紙状、スウェード状、皮革状、梨地状、砂目状、ヘアーライン状、或いはこれらの組み合わせ等を用いることができる。また凹凸模様4の形成方法としては、例えば、熱可塑性樹脂層3の積層前、積層後又は積層と同時に行われる、ダブリングエンボス法、押出ラミネート同時エンボス法等を採用できる。
【0014】
(その他の層)
また、加飾シート10は、従来の加飾シートと同様に、基材層1、絵柄模様層2及び熱可塑性樹脂層3以外にも、表面保護層5及びベタ層6等を適宜備えるようにしてもよい。表面保護層5は、熱可塑性樹脂層3の表面3a側に設けられる。ベタ層6は、基材層1と絵柄模様層2との層間に設けられる。図1では、基材層1の一方の面1aに、ベタ層6、絵柄模様層2、熱可塑性樹脂層3及び表面保護層5がこの順に積層されている。
【0015】
(表面保護層)
表面保護層5は、加飾シート10の表面形状の保持性を向上し、且つ、成形後の成形品表面の耐傷性、耐汚染性、耐候性を向上させるために、必要に応じて設けられる層である。表面保護層5の材料としては、例えば、硬化性樹脂を用いることができる。硬化型樹脂としては、例えば、電離放射線硬化型樹脂、アクリルウレタン系樹脂を採用することができる。電離放射線硬化性樹脂とは、電離放射線の照射により架橋反応する性質を有する(メタ)アクリロイル基等の重合性不飽和結合を有するプレポリマー、オリゴマー及びモノマーの少なくとも何れかを主成分とする組成物である。電離放射線としては、例えば、電子線、紫外線を採用できる。アクリルウレタン系樹脂としては、例えば、アクリルポリオール化合物を主剤とし、イソシアネート化合物を硬化剤とした反応生成物を採用できる。
【0016】
(ベタ層)
ベタ層6は、絵柄模様層2の絵柄の意匠性を向上させるために、必要に応じて設けられる層である。ベタ層6の材料としては、着色された熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0017】
(成型品の製造方法)
本発明の実施形態に係る加飾シート10は、樹脂等からなる被着体に積層することで、被着体を加飾した成型品を作製することができる。成型品の製造方法としては、例えば、射出成型同時積層法を用いることができる。射出成型同時積層法は、加飾シート10を予備金型で予備成型し、予備成形された加飾シート10を射出金型に挿入し、流動状態の樹脂を射出金型内に充填して樹脂を固化させて、樹脂と加飾シートとを一体化させる方法である。その際、予備金型の温度は、120℃以上130℃未満とする。インジェクション成型での型冷却温度は、50℃を下回ると射出樹脂の広がりが悪くなるため50℃以上が望ましく、100℃を超えると表面形状保持が悪くなるため、100℃未満が望ましい。
【0018】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る加飾シート10は、基材層1と、基材層1の一方の面1a側に設けられた絵柄模様層2と、絵柄模様層2の基材層1と反対側の面2a側に設けられた熱可塑性樹脂層3とを備えている。また、熱可塑性樹脂層3の絵柄模様層2側と反対側の面3aには、凹凸模様4が設けられている。そして、基材層1は非結晶性熱可塑性樹脂を含み、熱可塑性樹脂層3は結晶融解温度が150℃以上の結晶性熱可塑性樹脂を含む。それゆえ、射出金型表面で加飾シート10の温度を融点以下に保持することができ、加飾シート10表面の凹凸形状を維持したまま成型加工を行うことができる。それゆえ、凹凸形状を有する成型品を容易に形成可能な加飾シート10を提供できる。
【0019】
また、凹凸模様以外の成形形状が同じである場合には、同一の射出金型を用いることができる。それゆえ、射出金型の数を低減でき、射出金型の製造コストを低減できる。
また、結晶性熱可塑性樹脂は、一般に熱成型性が悪く、急激に変形する特性を有する。それゆえ、結晶性熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂層3に、成型時支持層として、非晶性熱可塑性樹脂を含む基材層1を貼り合せることで、成型性を持たせることができる。
また、本発明の実施形態に係る加飾シート10は、結晶性熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン系樹脂である。それゆえ、比較的簡単に入手でき、製造コストを低減できる。
【0020】
また、本発明の実施形態に係る加飾シート10は、熱可塑性樹脂層3の絵柄模様層2側と反対側の面3a側に設けられた表面保護層5を更に備えている。それゆえ、加飾シート10の表面形状の保持性を向上でき、また、成形後の成型品表面の耐傷性、耐汚染性、耐候性を向上できる。
また、本発明の実施形態に係る加飾シート10は、加飾シート10を予備金型で予備成型し、予備成形された加飾シート10を射出金型に挿入し、流動状態の樹脂を射出金型内に充填して樹脂を固化させて、樹脂と加飾シート10とを一体化させる成型品の製造方法である。そして、予備金型の温度を50℃以上100℃未満とした。それゆえ、凹凸形状を有する成型品を容易に形成可能な成型品の製造方法を提供することができる。
【実施例
【0021】
以下に、本発明の実施形態に係る加飾シート10の実施例及び比較例について説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0022】
(実施例1)
まず、ベタ層6として、着色顔料を添加したランダムポリプロピレン系樹脂のフィルムを用意した。フィルムの厚さは、70μmとした。続いて、ベタ層6の一方の面に、グラビア印刷でアクリルインキによる絵柄模様層2を形成した。続いて、溶融させた結晶性樹脂をTダイで成膜して熱可塑性樹脂層3を形成した。結晶融解温度としては、例えば、結晶融解温度が180℃のホモポリプロピレンを採用できる。結晶溶融温度は、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製、DSC8500)で測定した。そして、熱可塑性樹脂層3を、凹凸のエンボス形状を持った冷却ロールで凹凸転写及び冷却固化させると同時にベタ層6の絵柄模様層2側の面に積層させた。
【0023】
続いて、凹凸が転写された熱可塑性樹脂層3の表面に、アクリル樹脂系の熱硬化性樹脂をコーティングして、表面保護層5を形成した。表面保護層5のコーティングは、ドライ状態で6g/m2とした。これにより、化粧シート7を作製した。続いて、作製した化粧シート7のベタ層6側の面に、非結晶性熱可塑性樹脂(着色ABS樹脂)を100μmの厚さで成膜した基材層1を積層した。これにより、実施例1の加飾シート10を作製した。
続いて、製作した加飾シート10を予備成形金型を使って130℃に加熱し、圧空成形で予備成形金型に沿って予備成形を行った。その際、熱可塑性樹脂層3を構成する結晶性樹脂(ホモポリプロピレン)の結晶融解温度は150℃以上であるため、熱エンボスロールによって転写された凹凸形状は熱圧に耐えた。続いて、予備成型されたシートを射出金型に挿入し、流動状態のABS樹脂を者射出金型内に充填してABS樹脂を固化させ、ABS樹脂と加飾シート10とを一体化させて成型品(加飾凹凸付き成形パーツ)を得た。
【0024】
(比較例1)
比較例1では、熱可塑性樹脂層3の形成について、結晶性樹脂の代わりに、透明熱可塑性樹脂(アクリル樹脂)を厚さ100μmのシート状に成膜して熱可塑性樹脂層3を形成した以外は、実施例1と同様にして、比較例1の加飾シート10及び成型品を得た。なお、予備成形の時点で、熱エンボスロールによって転写された凹凸形状は消失していた。
【0025】
(比較例2)
比較例2では、熱可塑性樹脂層3の形成について、結晶性樹脂の代わりに、結晶融解温度が140℃のHDPE樹脂を用いて熱可塑性樹脂層3を形成した以外は、実施例1と同様にして、比較例1の加飾シート10及び成型品を得た。なお、予備成形の時点で、予備成形金型によって100℃に加熱されるため、熱エンボスロールによって転写された凹凸形状(結晶融解温度140℃のHDPE樹脂)は歪んで崩れていた。
【0026】
したがって、実施例1の加飾シート10は、比較例1、2の加飾シート10に比べ、凹凸形状を有する成型品を容易に形成できることが確認できた。
【符号の説明】
【0027】
1…基材層、2…絵柄模様層、3…熱可塑性樹脂層、4…凹凸模様、5…表面保護層、6…ベタ層、7…化粧シート、10…加飾シート
図1