(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】積層造形装置
(51)【国際特許分類】
B29C 64/214 20170101AFI20231226BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20231226BHJP
B22F 10/50 20210101ALI20231226BHJP
B22F 12/67 20210101ALI20231226BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20231226BHJP
B29C 64/188 20170101ALI20231226BHJP
B29C 64/321 20170101ALI20231226BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20231226BHJP
【FI】
B29C64/214
B22F10/28
B22F10/50
B22F12/67
B29C64/153
B29C64/188
B29C64/321
B33Y30/00
(21)【出願番号】P 2019048144
(22)【出願日】2019-03-15
【審査請求日】2021-11-11
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【氏名又は名称】小松 秀輝
(74)【代理人】
【識別番号】100208591
【氏名又は名称】井後 智哉
(74)【代理人】
【識別番号】100223424
【氏名又は名称】和田 雄二
(72)【発明者】
【氏名】松岡 修史
(72)【発明者】
【氏名】須田 一志
【審査官】小山 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107803502(CN,A)
【文献】特開2007-307742(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102014004634(DE,A1)
【文献】特開2018-154042(JP,A)
【文献】特開平08-294785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B22F 1/00-12/90
B28B 1/30
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末を含む粉末床及び造形物を保持可能な粉末保持部と、
前記粉末保持部に保持された前記粉末を固化させる粉末固化部と、
前記粉末保持部を挟み込むように前記粉末保持部に隣接して設けられ、前記粉末保持部に供給される前記粉末を堆積させる一対の粉末堆積部と、
一対の前記粉末堆積部の間を往復することにより、前記粉末堆積部のそれぞれに堆積している前記粉末を前記粉末保持部へ掻き寄せるリコータと、
を備え、
前記リコータは、
前記粉末を掻き寄せるスクレーパと、
前記スクレーパを着脱自在に支持しつつ一対の前記粉末堆積部の間を往復するホルダと、
を有し、
前記スクレーパは、前記リコータの往路方向に面した第1掻寄面と、前記リコータの復路方向に面した第2掻寄面と、を含み、
前記ホルダは、前記リコータの往路方向に面した第1側面と、前記リコータの復路方向に面した第2側面と、を含み、
鉛直方向下側ほど、前記第1掻寄面と前記第1側面との距離及び前記第2掻寄面と前記第2側面との距離が減少し、
鉛直方向上側において、前記第1側面及び前記第2側面の延伸方向には、前記粉末が流動する空間が形成されて
おり、
前記第1側面及び前記第2側面は、前記スクレーパを中心として対称に形成されている、積層造形装置。
【請求項2】
鉛直方向下側ほど、前記第1掻寄面と前記第1側面との距離及び前記第2掻寄面と前記第2側面との距離が連続して減少する、請求項1に記載の積層造形装置。
【請求項3】
前記第1側面及び前記第2側面は、鉛直方向下側ほど、前記第1掻寄面と前記第1側面との距離及び前記第2掻寄面と前記第2側面との距離の減少率が低減する曲面である、請求項2に記載の積層造形装置。
【請求項4】
前記第1側面及び前記第2側面は、鉛直方向下側ほど、前記第1掻寄面と前記第1側面との距離及び前記第2掻寄面と前記第2側面との距離の減少率が増大する曲面である、請求項2に記載の積層造形装置。
【請求項5】
前記第1側面は、前記第1掻寄面の下端部で水平から上方に前記粉末の安息角をなす平面と接せず、
前記第2側面は、前記第2掻寄面の下端部で水平から上方に前記粉末の安息角をなす平面と接しない、
請求項1~4のいずれか1項に記載の積層造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
材料である粉末を固化させて造形物を製造する積層造形装置が知られている。例えば、特許文献1には、粉末を含む粉末床及び造形物を保持可能な造形テーブルと、造形テーブルに保持された粉末をレーザにより固化させるレーザ光射出部と、造形テーブルを挟み込むように造形テーブルに隣接して設けられ、造形テーブルに供給される粉末を堆積させる一対の粉末供給テーブルと、一対の粉末供給テーブルの間を往復することにより、粉末供給テーブルのそれぞれに堆積している粉末を造形テーブルへ掻き寄せるリコータとを備えた積層造形装置が開示されている。
【0003】
特許文献1の積層造形装置では、リコータは、粉末を掻き寄せるスクレーパと、スクレーパを支持しつつ一対の粉末供給テーブルの間を往復するホルダとを有している。ホルダは、スクレーパの上端に水平に取り付けられた第1の支持板と、第1の支持板の端部に垂直に取り付けられた第2の支持板と、第2の支持板の下端に水平に取り付けられた検知板とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような積層造形装置では、スクレーパが流動性の悪い粉末を掻き寄せる際にホルダに粉末が接触し、ホルダの下面により粉末が押し固められることがある。ホルダにより粉末が押し固められると、当該方向にスクレーパが粉末を掻き寄せている間は粉末がホルダから剥落せず、当該方向とは反対方向にスクレーパが粉末を掻き寄せる際に当該方向にスクレーパが粉末を掻き寄せる際に押し固められた塊状の粉末がホルダから剥落することがある。このような固化した塊状の粉末が造形テーブルに剥落すると、当該塊状の粉末はレーザにより固化され、リコータの動作及び造形品質に悪影響をもたらすことがある。
【0006】
そこで、本発明は、ホルダにより粉末が押し固められることが低減される積層造形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、粉末を含む粉末床及び造形物を保持可能な粉末保持部と、粉末保持部に保持された粉末を固化させる粉末固化部と、粉末保持部を挟み込むように粉末保持部に隣接して設けられ、粉末保持部に供給される粉末を堆積させる一対の粉末堆積部と、一対の粉末堆積部の間を往復することにより、粉末堆積部のそれぞれに堆積している粉末を粉末保持部へ掻き寄せるリコータとを備え、リコータは、粉末を掻き寄せるスクレーパと、スクレーパを着脱自在に支持しつつ一対の粉末堆積部の間を往復するホルダとを有し、スクレーパは、リコータの往路方向に面した第1掻寄面と、リコータの復路方向に面した第2掻寄面とを含み、ホルダは、リコータの往路方向に面した第1側面と、リコータの復路方向に面した第2側面とを含み、鉛直方向ほど、第1掻寄面と第1側面との距離及び第2掻寄面と第2側面との距離が減少する積層造形装置である。
【0008】
この構成によれば、粉末を含む粉末床及び造形物を保持可能な粉末保持部と、粉末保持部に保持された粉末を固化させる粉末固化部と、粉末保持部を挟み込むように粉末保持部に隣接して設けられ、粉末保持部に供給される粉末を堆積させる一対の粉末堆積部と、一対の粉末堆積部の間を往復することにより、粉末堆積部のそれぞれに堆積している粉末を粉末保持部へ掻き寄せるリコータとを備えた積層造形装置において、リコータは、粉末を掻き寄せるスクレーパと、スクレーパを着脱自在に支持しつつ一対の粉末堆積部の間を往復するホルダとを有し、スクレーパは、リコータの往路方向に面した第1掻寄面と、リコータの復路方向に面した第2掻寄面とを含み、ホルダは、リコータの往路方向に面した第1側面と、リコータの復路方向に面した第2側面とを含み、鉛直方向ほど、第1掻寄面と第1側面との距離及び第2掻寄面と第2側面との距離が減少し、スクレーパが粉末を掻き寄せる際にホルダの第1側面及び第2側面に粉末が接触したとしても、第1側面及び第2側面の斜め上方に粉末が流動する空間が確保されるため、ホルダにより粉末が押し固められることが低減される。
【0009】
この場合、鉛直方向ほど、第1掻寄面と第1側面との距離及び第2掻寄面と第2側面との距離が連続して減少することが好適である。
【0010】
この構成によれば、鉛直方向ほど、第1掻寄面と第1側面との距離及び第2掻寄面と第2側面との距離が連続して減少するため、スクレーパが粉末を掻き寄せる際にホルダの第1側面及び第2側面に粉末が接触したとしても、第1側面及び第2側面の斜め上方に粉末が流動する空間が常に確保されるため、ホルダにより粉末が押し固められることがさらに低減される。
【0011】
鉛直方向ほど第1掻寄面と第1側面との距離及び第2掻寄面と第2側面との距離が連続して減少する場合、第1側面及び第2側面は、鉛直方向ほど、第1掻寄面と第1側面との距離及び第2掻寄面と第2側面との距離の減少率が低減する曲面であってもよい。
【0012】
この構成によれば、第1側面及び第2側面は、鉛直方向ほど、第1掻寄面と第1側面との距離及び第2掻寄面と第2側面との距離の減少率が低減する曲面であるため、スクレーパが粉末を掻き寄せる際にホルダの第1側面及び第2側面に粉末が接触したとしても、水平に近い角度となる第1側面及び第2側面の上方で粉末がホルダから剥落し易くなる。そのため、例えば、復路方向にスクレーパが粉末を掻き寄せる際に、往路方向にスクレーパが粉末を掻き寄せる際に押し固められた粉末がホルダから剥落することが低減される。
【0013】
また、鉛直方向ほど第1掻寄面と第1側面との距離及び第2掻寄面と第2側面との距離が連続して減少する場合、第1側面及び第2側面は、鉛直方向ほど、第1掻寄面と第1側面との距離及び第2掻寄面と第2側面との距離の減少率が増大する曲面であってもよい。
【0014】
この構成によれば、第1側面及び第2側面は、鉛直方向ほど、第1掻寄面と第1側面との距離及び第2掻寄面と第2側面との距離の減少率が増大する曲面であるため、スクレーパが粉末を掻き寄せる際にホルダの第1側面及び第2側面に粉末が接触したとしても、外側に膨らんだ第1側面及び第2側面から粉末が剥落し易くなる。そのため、例えば、復路方向にスクレーパが粉末を掻き寄せる際に、往路方向にスクレーパが粉末を掻き寄せる際に押し固められた粉末がホルダから剥落することが低減される。
【0015】
また、第1側面は、第1掻寄面の下端部で水平から上方に粉末の安息角をなす平面と接せず、第2側面は、第2掻寄面の下端部で水平から上方に粉末の安息角をなす平面と接しないことが好適である。
【0016】
この構成によれば、第1側面は、第1掻寄面の下端部で水平から上方に粉末の安息角をなす平面と接せず、第2側面は、第2掻寄面の下端部で水平から上方に粉末の安息角をなす平面と接しない。そのため、スクレーパが粉末を掻き寄せる際にホルダの第1側面及び第2側面に粉末が接触したとしても、例えば、往路方向及び復路方向の終端である粉末堆積部でホルダが停止した際に、水平と安息角をなすまで流動する粉末がホルダから剥落し易くなる。よって、例えば、復路方向にスクレーパが粉末を掻き寄せる際に、往路方向にスクレーパが粉末を掻き寄せる際に押し固められた粉末がホルダから剥落することが低減される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の積層造形装置によれば、ホルダにより粉末が押し固められることが低減される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態に係る積層造形装置を示す縦断面図である。
【
図2】
図1のリコータのホルダの作用を示す縦断面図である。
【
図3】(A)、(B)及び(C)は、従来のリコータの作用を示す縦断面図である。
【
図4】(A)は第2実施形態に係るリコータのホルダの作用を示す縦断面図であり、(B)は第3実施形態に係るリコータのホルダの作用を示す縦断面図であり、(C)は第4実施形態に係るリコータのホルダの作用を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において同一部分又は相当部分には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0020】
図1に示される第1実施形態に係る積層造形装置1は、いわゆる3D(三次元)プリンタであり、層状に配置した金属の粉末2に部分的にエネルギを付与して、金属の粉末2を焼結又は溶融できる。積層造形装置1は、これを繰り返して三次元の造形物3を製造できる。
【0021】
造形物3は、例えば機械部品などであり、その他の構造物であってもよい。粉末2としては例えばチタン系金属粉末、インコネル(登録商標)粉末、アルミニウム粉末、ステンレス粉末等が挙げられる。造形物3の材料である粉末は、金属粉末に限定されない。粉末は、例えばCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)など、炭素繊維と樹脂を含む粉末でもよく、その他の粉末でもよい。粉末は、導電性を有する導電体粉末を含んでもよい。
【0022】
積層造形装置1は、真空チャンバ4、粉末保持部5、昇降機構6、粉末供給部7、粉末固化部8を備える。真空チャンバ4は、内部を真空(低圧)状態とすることが可能な容器であり、図示しない真空ポンプが接続されている。真空チャンバ4の内部には例えばアルゴンガスが充填されている。粉末保持部5は、粉末2を含む粉末床A及び造形物3を保持可能である。粉末床Aは、粉末2の積層物である。粉末保持部5は、例えば板状を成し、造形物3の材料である粉末2が配置される作業テーブルである。粉末保持部5の上の粉末2は例えば層状に複数回に分けて配置される。粉末保持部5は、平面視において、例えば矩形状を成している。粉末保持部5の形状は、矩形に限定されず、円形でもよく、その他の形状でもよい。
【0023】
粉末保持部5は、真空チャンバ4内において、造形タンク10内に配置されている。造形タンク10内において、粉末保持部5は、Z方向(上下方向)に移動可能であり、粉末2の層数に応じて順次降下する。造形タンク10の側壁10aは、粉末保持部5の移動を案内する。側壁10aは、粉末保持部5の外形に対応するように角筒状(作業テーブルが円形の場合は円筒状)を成している。造形タンク10の側壁10a及び粉末保持部5は、粉末2及び造形された造形物3を収容する収容部を形成する。粉末保持部5は造形タンク10の底部を構成してもよい。
【0024】
昇降機構6は、粉末保持部5の上の粉末2及び製造途中の造形物3を昇降させることができる。昇降機構6は、例えばラックアンドピニオン方式の駆動機構を含み、粉末保持部5をZ方向に移動させる。昇降機構6は、粉末保持部5の底面に連結されて下方に伸びる棒状の上下方向部材6aと、この上下方向部材6aを駆動するための駆動源6bと、を含んでもよい。駆動源6bとしては、例えば電動モータを用いることができる。電動モータの出力軸にはピニオンが設けられ、上下方向部材6aの側面にはピニオンと噛み合う歯形が設けられていてもよい。電動モータが駆動され、ピニオンが回転して動力が伝達されて、上下方向部材6aが上下方向に移動できる。電動モータの回転を停止することで、上下方向部材6aが位置決めされて、粉末保持部5のZ方向の位置が決まり、その位置が保持される。昇降機構6は、ラックアンドピニオン方式の駆動機構に限定されず、例えば、ボールねじ、シリンダなどその他の駆動機構を備えるものでもよい。
【0025】
粉末供給部7は、原料である粉末2を貯留する貯留部である原料タンク11を含んでもよい。原料タンク11は、真空チャンバ4の中に配置されている。原料タンク11は、例えば、Z方向と交差するX方向において、粉末保持部5の両側に配置されている。換言すれば、原料タンク11は、X方向において造形タンク10の両側に配置されている。粉末供給部7は、粉末2を均すリコータ9を含む。リコータ9の説明は後述する。
【0026】
粉末供給部7は、一対の粉末堆積部12及び昇降機構13を含む。一対の粉末堆積部12は、X方向で粉末保持部5を挟み込むように粉末保持部5に隣接して設けられ、粉末保持部5に供給される粉末2を堆積させる。粉末堆積部12は、粉末保持部5に供給される粉末2を堆積させる粉末供給テーブルである。粉末堆積部12は、X方向において、側壁10aを挟んで、粉末保持部5に隣接して設けられている。粉末堆積部12は、平面視において、例えば矩形状を成している。粉末保持部5の形状は、矩形に限定されず、円形でもよく、その他の形状でもよい。
【0027】
粉末堆積部12は、真空チャンバ4の中において、原料タンク11内に配置されている。原料タンク11内において、粉末堆積部12は、Z方向(上下方向)に移動可能であり、粉末2の供給に応じて順次上昇する。原料タンク11の側壁11aは、粉末堆積部12の移動を案内する。側壁11aは、粉末堆積部12の外形に対応するように角筒状(粉末保持部5が円形の場合は円筒状)を成している。粉末堆積部12は原料タンク11の底部を構成してもよい。原料タンク11の粉末保持部5の側の側壁11aは、造形タンク10の側壁10aと共通の側壁でもよい。
【0028】
昇降機構13は、粉末堆積部12及びその上に堆積する粉末2を昇降させることができる。昇降機構13は、例えばラックアンドピニオン方式の駆動機構を含み、粉末堆積部12をZ方向に移動させる。昇降機構13は、上下方向部材13a及び駆動源13bを備え、昇降機構6と同様の構成とすることができる。昇降機構13の説明については省略する。昇降機構13は、昇降機構6と異なる構成でもよい。昇降機構13は、ラックアンドピニオン方式の駆動機構に限定されず、例えば、ボールねじ、シリンダなどその他の駆動機構を備えるものでもよい。
【0029】
粉末固化部8は、粉末保持部5に保持された粉末2を溶融し固化させるレーザ照射装置である。粉末固化部8から出射されたレーザビームは、真空チャンバ4の中に照射されて、粉末2を加熱する。粉末固化部8は、粉末2にエネルギを付与して、粉末2を加熱して溶融することができる。粉末固化部8は、粉末床Aにエネルギを付与するエネルギ付与部である。粉末固化部8は、レーザビームを偏光させるミラー、ミラーを動かすための駆動源、レーザビームを集光する集光レンズ等の光学部品を含んでもよい。
【0030】
積層造形装置1は、レーザ照射装置である粉末固化部8に代えて、電子線照射装置である粉末固化部8を備えていてもよい。電子線照射装置は、エネルギービームとしての電子ビーム(電子線)を照射する電子銃を含んでもよい。電子銃から出射された電子ビームは、真空チャンバ4の中に照射されて、粉末2を加熱する。電子線照射装置は、粉末2にエネルギを付与して、粉末2を加熱して溶融又は焼結させることができる。電子線照射装置は、粉末床Aにエネルギを付与するエネルギ付与部である。電子線照射装置は、電子ビームの照射を制御するコイル部を含んでもよい。コイル部は、例えば収差コイル、フォーカスコイル及び偏向コイルを備えることができる。
【0031】
リコータ9は、一対の粉末堆積部12の間を往復することにより、粉末堆積部12のそれぞれに堆積している粉末2を粉末保持部5へ掻き寄せる。リコータ9は、粉末2を掻き寄せるスクレーパ20と、スクレーパ20を着脱自在に支持しつつ一対の粉末堆積部12の間を往復するホルダ21Aとを有する。スクレーパ20は、真空チャンバ4の中で粉末保持部5の上方に配置され、粉末保持部5に載置されている粉末床Aの最上層の表面2aを均すことができる。
【0032】
スクレーパ20は、ホルダ21AとともにX方向とは反対方向、つまり往路方向D2と、X方向、つまり復路方向D3とに移動可能であり、粉末床Aの表面2aを均す。スクレーパ20は、例えば、Y方向に延在する板状を成している。スクレーパ20は、例えば金属製でもよく、樹脂製でもよい。スクレーパ20は、Y方向に所定の長さを有する。スクレーパ20のY方向における長さは、例えば、粉末保持部5のY方向の長さに一致していてもよい。
【0033】
ホルダ21Aは、不図示のリコータ移動機構により、一対の粉末堆積部12の間を往復させられる。リコータ移動機構は、電動モータを駆動して、ホルダ21AをX軸方向の所定の位置まで移動させて、停止させることができる。リコータ9は、
図1に示されるように、例えば、往路方向D2及び復路方向D3において、原料タンク11の外側まで移動することができる。リコータ9は、粉末保持部5及び粉末堆積部12の上方で、往路方向D2及び復路方向D3に往復運動することができる。リコータ9は、往路方向D2及び復路方向D3に移動して、粉末堆積部12の上の粉末2を掻き寄せて、粉末保持部5の上に供給することができる。リコータ9は、往路方向D2及び復路方向D3に移動しながら、粉末保持部5の上に粉末2を供給すると共に粉末床Aの表面2aを均すことができる。
【0034】
積層造形装置1は、余分な粉末2を回収可能な粉末回収部19を備えていてもよい。粉末回収部19は、例えば粉末2を収容可能な容器を含んでもよい。粉末回収部19は、例えばリコータ9の往路方向D2及び復路方向D3において、原料タンク11の外側に配置されていてもよい。リコータ9の往路方向D2及び復路方向D3における外側とは、例えば、粉末保持部5を中央として、粉末保持部5に近い方を内側とし、粉末保持部5から遠い方を外側とする。粉末回収部19は、例えばX方向において、原料タンク11の側壁11aと真空チャンバ4の側壁と間の空間でもよい。粉末回収部19は、粉末2を貯留可能なバケットでもよい。
【0035】
図2に示すように、スクレーパ20は、リコータ9の往路方向D2に面した第1掻寄面20mと、リコータ9の復路方向D3に面した第2掻寄面20nとを含む。ホルダ21Aは、リコータ9の往路方向D2に面した第1側面21mと、リコータ9の復路方向D3に面した第2側面21nとを含む。第1側面21m及び第2側面21nは、平面である。鉛直方向D1ほど、第1掻寄面20mと第1側面21mとの距離d1及び第2掻寄面20nと第2側面21nとの距離d2が連続して減少する。第1掻寄面20mと第1側面21mとの距離d1とは、例えば、第1側面21mの鉛直方向D1における任意の位置から、第1掻寄面20mを含む平面に下ろした垂線の長さを意味する。第2掻寄面20nと第2側面21nとの距離d2とは、例えば、第2側面21nの鉛直方向D1における任意の位置から、第2掻寄面20nを含む平面に下ろした垂線の長さを意味する。
【0036】
ホルダ21Aの第1側面21mは、第1掻寄面20mの下端部20bで水平から上方に粉末2の安息角θrをなす平面Pと接しない。同様に、ホルダ21Aの第2側面21nは、第2掻寄面20nの下端部20bで水平から上方に粉末2の安息角θrをなす平面Pと接しない。安息角θrとは、粉末2を積み上げたときに、自発的に崩れることなく安定を保つ斜面の最大角度を意味する。
【0037】
このような積層造形装置1では、粉末保持部5が降下させられ、例えば1層分の粉末2が供給されるスペースが確保される。リコータ9により、一方の粉末堆積部12の上の粉末2が粉末保持部5の上に掻き寄せられ、粉末2が供給され、粉末床Aの表面2aが均される。粉末固化部8により、粉末床Aにレーザビームが照射される。レーザビームが照射された部分の粉末2は溶融する。溶融した粉末2は固まって造形物3の一部となる。そして、造形物3が完成するまで、上記の工程が繰り返される。例えば、リコータ9が往路方向D2に移動させられた後、リコータ9が復路方向D3に移動させられて、同様の工程が繰り返される。造形物3の全層について造形が行われ、造形物3の造形が完了する。
【0038】
図3(A)に示されるように、従来のリコータ9のホルダ22は、垂直な第1側面22m及び第2側面22nを含み、鉛直方向のいずれの位置でも、第1掻寄面20mと第1側面22mとの距離d1及び第2掻寄面20nと第2側面22nとの距離d2は一定である。そのため、スクレーパ20が流動性の悪い粉末2を掻き寄せる際にホルダ22に粉末2が接触し、ホルダ22の下面により粉末2が押し固められる。ホルダ22により粉末2が押し固められると、往路方向D2の一方向にスクレーパ20が粉末2を掻き寄せている間は粉末2がホルダ22から剥落しない。
【0039】
ホルダ22では、第1側面22mは、第1掻寄面20mの下端部20bで水平から上方に粉末2の安息角θrをなす平面Pと接する。同様に、第2側面22nは、第2掻寄面20nの下端部20bで水平から上方に粉末2の安息角θrをなす平面Pと接する。そのため、スクレーパ20が粉末2を掻き寄せる際にホルダ22の第1側面22m及び第2側面22nに粉末2が接触したとしても、例えば、往路方向D2及び復路方向D3の終端である粉末堆積部12でホルダ22が停止した際に、水平と安息角θrをなすまで粉末2が流動しても、粉末2がホルダ22から剥落し難い。
【0040】
一方、
図3(B)に示されるように、例えば、復路方向D3にスクレーパ20が粉末2を掻き寄せる際に、往路方向D2にスクレーパ20が粉末2を掻き寄せる際に押し固められた塊状の粉末2がホルダ22から剥落する。このような固化した塊状の粉末が造形テーブルに剥落すると、
図3(C)に示されるように、当該塊状の粉末2はレーザにより固化され、リコータ9の動作及び造形品質に悪影響をもたらすことがある。
【0041】
一方、本実施形態では、粉末2を含む粉末床A及び造形物3を保持可能な粉末保持部5と、粉末保持部5に保持された粉末2を固化させる粉末固化部8と、粉末保持部5を挟み込むように粉末保持部5に隣接して設けられ、粉末保持部5に供給される粉末2を堆積させる一対の粉末堆積部12と、一対の粉末堆積部12の間を往復することにより、粉末堆積部12のそれぞれに堆積している粉末2を粉末保持部5へ掻き寄せるリコータ9とを備えた積層造形装置1において、リコータ9は、粉末2を掻き寄せるスクレーパ20と、スクレーパ20を着脱自在に支持しつつ一対の粉末堆積部12の間を往復するホルダ21Aとを有し、スクレーパ20は、リコータ9の往路方向D2に面した第1掻寄面20mと、リコータ9の復路方向D3に面した第2掻寄面20nとを含み、ホルダ21Aは、リコータ9の往路方向D2に面した第1側面21mと、リコータ9の復路方向D3に面した第2側面21nとを含み、鉛直方向D1ほど、第1掻寄面20mと第1側面21mとの距離d1及び第2掻寄面20nと第2側面21nとの距離d2が減少し、スクレーパ20が粉末2を掻き寄せる際にホルダ21Aの第1側面21m及び第2側面21nに粉末2が接触したとしても、第1側面21m及び第2側面21nの斜め上方に粉末2が流動する空間が確保されるため、ホルダ21Aにより粉末2が押し固められることが低減される。
【0042】
また、本実施形態では、鉛直方向D1ほど、第1掻寄面20mと第1側面21mとの距離d1及び第2掻寄面20nと第2側面21nとの距離d2が連続して減少するため、スクレーパ20が粉末2を掻き寄せる際にホルダ21Aの第1側面21m及び第2側面21nに粉末2が接触したとしても、第1側面21m及び第2側面21nの斜め上方に粉末2が流動する空間が常に確保されるため、ホルダ21Aにより粉末2が押し固められることがさらに低減される。
【0043】
また、本実施形態では、第1側面21mは、第1掻寄面20mの下端部20bで水平から上方に粉末2の安息角θrをなす平面Pと接せず、第2側面21nは、第2掻寄面20nの下端部20bで水平から上方に粉末2の安息角θrをなす平面Pと接しない。そのため、スクレーパ20が粉末2を掻き寄せる際にホルダ21Aの第1側面21m及び第2側面21nに粉末2が接触したとしても、例えば、往路方向D2及び復路方向D3の終端である粉末堆積部12でホルダ21Aが停止した際に、水平と安息角θrをなすまで流動する粉末2がホルダ21Aから剥落し易くなる。よって、例えば、復路方向D3にスクレーパ20が粉末2を掻き寄せる際に、往路方向D2にスクレーパ20が粉末2を掻き寄せる際に押し固められた粉末2がホルダ21Aから剥落することが低減される。
【0044】
以下、他の実施形態について説明する。例えば、
図4(A)に示されるように、第2実施形態に係るホルダ21Bでは、鉛直方向D1ほど、第1掻寄面20mと第1側面21mとの距離d1及び第2掻寄面20nと第2側面21nとの距離d2が連続して減少し、第1側面21m及び第2側面21nは、鉛直方向D1ほど、第1掻寄面20mと第1側面21mとの距離d1及び第2掻寄面20nと第2側面21nとの距離d2の減少率が低減する曲面である。第1側面21mは、第1掻寄面20mの下端部20bで水平から上方に粉末2の安息角θrをなす平面Pと接せず、第2側面21nは、第2掻寄面20nの下端部20bで水平から上方に粉末2の安息角θrをなす平面Pと接しない。
【0045】
本実施形態では、第1側面21m及び第2側面21nは、鉛直方向D1ほど、第1掻寄面20mと第1側面21mとの距離d1及び第2掻寄面20nと第2側面21nとの距離d1の減少率が低減する曲面であるため、スクレーパ20が粉末2を掻き寄せる際にホルダ21Bの第1側面21m及び第2側面21nに粉末2が接触したとしても、水平に近い角度となる第1側面21m及び第2側面21nの上方で粉末2がホルダ21Bから剥落し易くなる。そのため、例えば、復路方向D3にスクレーパ20が粉末2を掻き寄せる際に、往路方向D2にスクレーパ20が粉末2を掻き寄せる際に押し固められた粉末2がホルダ21Bから剥落することが低減される。
【0046】
また、例えば、
図4(B)に示されるように、第3実施形態に係るホルダ21Cでは、鉛直方向D1ほど、第1掻寄面20mと第1側面21mとの距離d1及び第2掻寄面20nと第2側面21nとの距離d2が連続して減少し、第1側面21m及び第2側面21nは、鉛直方向D1ほど、第1掻寄面20mと第1側面21mとの距離d1及び第2掻寄面20nと第2側面21nとの距離d2の減少率が増大する曲面である。第1側面21mは、第1掻寄面20mの下端部20bで水平から上方に粉末2の安息角θrをなす平面Pと接せず、第2側面21nは、第2掻寄面20nの下端部20bで水平から上方に粉末2の安息角θrをなす平面Pと接しない。
【0047】
本実施形態では、第1側面21m及び第2側面21nは、鉛直方向D1ほど、第1掻寄面20mと第1側面21mとの距離d1及び第2掻寄面20nと第2側面21nとの距離d2の減少率が増大する曲面であるため、スクレーパ20が粉末2を掻き寄せる際にホルダ21Cの第1側面21m及び第2側面21nに粉末2が接触したとしても、外側に膨らんだ第1側面21m及び第2側面21nから粉末2が剥落し易くなる。そのため、例えば、復路方向D3にスクレーパ20が粉末2を掻き寄せる際に、往路方向D2にスクレーパ20が粉末2を掻き寄せる際に押し固められた粉末2がホルダ21Cから剥落することが低減される。
【0048】
また、例えば、
図4(C)に示される第4実施形態に係るホルダ21Dのように、鉛直方向D1ほど、第1掻寄面20mと第1側面21mとの距離d1及び第2掻寄面20nと第2側面21nとの距離d2が段階的に減少してもよい。本実施形態のホルダ21Dでは、第1側面21mは、第1掻寄面20mの下端部20bで水平から上方に粉末2の安息角θrをなす平面Pと接せず、第2側面21nは、第2掻寄面20nの下端部20bで水平から上方に粉末2の安息角θrをなす平面Pと接しない。
【0049】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明されたが、本発明は上記実施形態に限定されない。
【符号の説明】
【0050】
1 積層造形装置
2 粉末
2a 表面
3 造形物
4 真空チャンバ
5 粉末保持部
6 昇降機構
6a 上下方向部材
6b 駆動源
7 粉末供給部
8 粉末固化部
9 リコータ
10 造形タンク
10a 側壁
11 原料タンク
11a 側壁
12 粉末堆積部
13 昇降機構
13a 上下方向部材
13b 駆動源
19 粉末回収部
20 スクレーパ
20m 第1掻寄面
20n 第2掻寄面
20b 下端部
21A,21B,21C,21D ホルダ
21m 第1側面
21n 第2側面
22 ホルダ
22m 第1側面
22n 第2側面
A 粉末床
D1 鉛直方向
D2 往路方向
D3 復路方向
d1 距離
d2 距離
θr 安息角
P 平面