(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】R-T-B系永久磁石
(51)【国際特許分類】
H01F 1/057 20060101AFI20231226BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
H01F1/057 170
C22C38/00 303D
(21)【出願番号】P 2019060916
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2021-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】北岡 秀健
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 信
(72)【発明者】
【氏名】大川 和香子
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-323310(JP,A)
【文献】国際公開第2008/139556(WO,A1)
【文献】特表2017-508269(JP,A)
【文献】特開2004-072082(JP,A)
【文献】特開平01-219142(JP,A)
【文献】特開平04-039904(JP,A)
【文献】特開2006-100847(JP,A)
【文献】特開2017-017121(JP,A)
【文献】国際公開第2015/020183(WO,A1)
【文献】特開2014-027268(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102103917(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057、41/02
B22F 3/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cr,Ga,M1およびM2を含むR-T-B系永久磁石であって、
Rは希土類元素から選択される1種以上、TはFeおよびCo、Bはホウ素であり、
M1は、Zr,Ti,Hf,Nb,V,MoおよびWから選択される1種以上であって少なくともZrを含み、
M2はCuおよびAlから選択される1種以上であり、
前記R-T-B系永久磁石全体を100質量%として、
Rの合計含有量が28.00質量%以上34.00質量%以下、
Dy,TbおよびHoの合計含有量が0質量%以上0.50質量%以下、
Coの含有量が0.30質量%以上3.00質量%以下、
Bの含有量が0.70質量%以上0.95質量%以下、
Crの含有量が0.05質量%以上0.50質量%以下、
Gaの含有量が0.30質量%以上1.00質量%以下、
M1の合計含有量が0.10質量%以上3.00質量%以下、
Zrの含有量が0.10質量%以上1.50質量%以下、
M2の合計含有量が0質量%より大きく2.00質量%以下であり、
Feが実質的な残部であるR-T-B系永久磁石。
【請求項2】
Rとして少なくともNdおよびPrから選択される1種以上を含む請求項1に記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項3】
Rの合計含有量がNdおよびPrの合計含有量である請求項1または2に記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項4】
Crの含有量が0.10質量%以上0.30質量%以下である請求項1~3のいずれかに記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項5】
Gaの含有量が0.40質量%以上0.80質量%以下である請求項1~4のいずれかに記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項6】
Cuの含有量が0.05質量%以上0.80質量%以下である請求項1~5のいずれかに記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項7】
Alの含有量が0.07質量%以上0.60質量%以下である請求項1~6のいずれかに記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項8】
Dy,TbおよびHoの合計含有量が0質量%以上0.50質量%未満である請求項1~7のいずれかに記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項9】
Bの含有量が0.80質量%以上0.90質量%以下である請求項1~8のいずれかに記載のR-T-B系永久磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R-T-B系永久磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、希土類磁石の発明が記載されている。特に、CuおよびCoを特定の範囲内で含有することで、Bの含有量が比較的低くても角形比および耐熱性が高い希土類磁石が記載されている。
【0003】
特許文献2には、R-TM-B系焼結磁石の発明が記載されている。特にCoの含有量を著しく低減しても耐食性および機械特性が優れたR-TM-B系焼結磁石が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2015/078362号
【文献】国際公開第2016/158552号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、温度特性、特に保磁力(Hcj)の温度特性を改善したR-T-B系永久磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係るR-T-B系永久磁石は、
Cr,Ga,M1およびM2を含むR-T-B系永久磁石であって、
Rは希土類元素から選択される1種以上、TはFeおよびCo、Bはホウ素であり、
M1は、Zr,Ti,Hf,Nb,V,MoおよびWから選択される1種以上であって少なくともZrを含み、
M2はCuおよびAlから選択される1種以上であり、
前記R-T-B系永久磁石全体を100質量%として、
Rの合計含有量が28.00質量%以上34.00質量%以下、
Coの含有量が0.30質量%以上3.00質量%以下、
Bの含有量が0.70質量%以上0.95質量%以下、
Crの含有量が0.05質量%以上0.50質量%以下、
Gaの含有量が0.30質量%以上1.00質量%以下、
M1の合計含有量が0.10質量%以上3.00質量%以下、
Zrの含有量が0.10質量%以上1.50質量%以下、
M2の合計含有量が0質量%より大きく2.00質量%以下であり、
Feが実質的な残部である。
【0007】
本発明に係るR-T-B系永久磁石は、上記の範囲内の組成であることにより、Bの含有量が比較的低いR-T-B系永久磁石における温度特性、特にHcjの温度特性を改善することができる。
【0008】
なお、Hcjの温度特性は、Hcjの温度係数の絶対値が小さいほど良い。Hcjの温度係数とは、温度変化1℃あたり、Hcjが何%変化するかを示す値である。基準温度をT1、対象温度をT2、基準温度でのHcjをHcj1、対象温度でのHcjをHcj2とした場合に、[{(Hcj2-Hcj1)/Hcj1}/(T2-T1)]×100で算出される。
【0009】
Rとして少なくともNdおよびPrから選択される1種以上を含んでもよい。
【0010】
Rの合計含有量がNdおよびPrの合計含有量であってもよい。
【0011】
Crの含有量が0.10質量%以上0.30質量%以下であってもよい。
【0012】
Gaの含有量が0.40質量%以上0.80質量%以下であってもよい。
【0013】
Cuの含有量が0.05質量%以上0.80質量%以下であってもよい。
【0014】
Alの含有量が0.07質量%以上0.60質量%以下であってもよい。
【0015】
Dy,TbおよびHoの合計含有量が0質量%以上0.50質量%未満であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】Cr量とHcj温度係数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を、実施形態に基づき説明する。
【0018】
<R-T-B系永久磁石>
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石について説明する。
【0019】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、R2T14B型結晶構造を有する主相粒子および隣り合う2つ以上の主相粒子によって形成される粒界を有する。粒界には、R6T13Ga相、M1-B相、および/または、M1-C相などの粒界相が存在する。
【0020】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石では、Rは希土類元素から選択される1種以上である。希土類元素とは、Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,YbおよびLuのことである。本実施形態ではScは希土類元素に含まれない。
【0021】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石では、Tは、FeおよびCoである。
【0022】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石では、Bはホウ素である。
【0023】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、さらにCrおよびGaを含有する。
【0024】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、さらにM1およびM2を含有する。M1はZr,Ti,Hf,Nb,V,MoおよびWから選択される1種以上、M2はCuおよびAlから選択される1種以上である。
【0025】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石におけるRの合計含有量は、R-T-B系永久磁石全体を100質量%として、28.00質量%以上34.00質量%以下である。29.50質量%以上33.00質量%以下であってもよい。Rの合計含有量が少なすぎる場合には、主相粒子の生成が十分ではなくなる。このため、軟磁性を持つα-Feなどが析出しやすくなり、角型が低下しやすくなる。また、Rの合計含有量が多すぎる場合には、主相粒子の体積割合が減少しやすくなり、残留磁束密度(Br)が低下しやすくなる。
【0026】
また、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、RとしてNdおよびPrから選択される1種以上を含んでもよい。
【0027】
また、Rの合計含有量がNdおよびPrの合計含有量であってもよい。
【0028】
NdおよびPrの合計含有量が28.00質量%以上34.00質量%以下であってもよく、29.50質量%以上33.00質量%以下であってもよい。
【0029】
なお、Dy,TbおよびHoの合計含有量が0.50質量%以下(0質量%を含む)であってもよい。Dy,TbおよびHoを実質的に含まなくてもよい。実質的に含まないとは、具体的には、R-T-B系永久磁石全体を100質量%としてDy,TbおよびHoの合計含有量が0.10質量%未満(0質量%を含む)である場合のことをいう。
【0030】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石におけるBの含有量は、0.70質量%以上0.95質量%以下である。0.80質量%以上0.90質量%以下であってもよい。Bの含有量が少なすぎる場合には、軟磁性を持つα-Feなどが析出しやすくなり、角型が低下しやすくなる。Bの含有量が多すぎる場合には、主相粒子の生成にTが使用されすぎてしまい、Tが不足してしまう。その結果、粒界にR6T13Ga相が生じにくくなり、R-T-B系永久磁石のHcjが低下しやすくなる。
【0031】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石におけるCoの含有量は0.30質量%以上3.00質量%以下である。0.50質量%以上2.00質量%以下であってもよい。Coの含有量が好適であると温度特性、特にBrの温度特性が改善される。さらに、耐食性が向上する。Co量が少なすぎると耐食性および温度特性、特にBrの温度特性が悪化する。また、Coが少なすぎるとR-T-B系永久磁石の角型が低下する場合がある。一方、Coは高価な金属であるため添加量を増やすとコストが増大する。これらの要素を勘案してCoの含有量は決定される。
【0032】
Feの含有量はR-T-B系永久磁石の実質的な残部である。実質的な残部であるとは、後述する他元素を除いた残部であるという意味である。
【0033】
Crの含有量は0.05質量%以上0.50質量%以下である。0.10質量%以上0.30質量%以下であることが好ましい。Crの含有量が上記の範囲内であることにより、R-T-B系永久磁石の温度特性が改善される。
【0034】
温度特性が改善する詳しいメカニズムは不明であるが、主相粒子のみにCrが含まれる場合に特に温度特性が改善される。したがって、Crを含有することで主相粒子の異方性磁界の温度特性が改善されると考えている。
【0035】
ここで、Crは優先的に主相粒子に固溶し、次いで粒界相に固溶する。この際にCrの含有量が好適に制御されることにより、Crが概ね主相粒子のみに固溶する。そして、R-T-B系永久磁石の温度特性を向上させる効果が大きくなる。特にCrの含有量が0.30質量%以下である場合にCrが主相粒子のみに固溶しやすい。また、Crが0.10質量%以上である場合にはR-T-B系永久磁石の温度特性が十分に向上しやすい。
【0036】
Crの含有量が多すぎる場合には、粒界相にもCrが固溶する。粒界相にCrが固溶するほど、温度特性が悪化する。粒界相にCrが固溶することで、粒界相の磁性が変化し、R-T-B系永久磁石の温度特性に悪影響を与えていると考えられる。さらに、Crの含有量が多すぎると、Brも低下する。
【0037】
Gaの含有量は0.30質量%以上1.00質量%以下である。0.40質量%以上0.80質量%以下であってもよい。Gaの含有量が少なすぎる場合には、Hcjが低下しやすくなる。Gaの含有量が多すぎる場合には、Brが低下しやすくなる。
【0038】
M1の合計含有量は0.10質量%以上3.00質量%以下である。
【0039】
M1の一種であるZrの含有量は0.10質量%以上1.50質量%以下である。0.20質量%以上1.00質量%以下であってもよい。Zrを含む場合には、粒界にZr-B相および/またはZr-C相を析出させることができる。Zr-B相および/またはZr-C相が粒界に含まれることで主相粒子の粒成長を抑制する。Zrを含まない場合またはZrの含有量が少なすぎる場合には、主相粒子の粒成長を抑制する効果が低下し、焼結中に異常粒が形成し易くなる。異常粒が生じると角型およびHcjが低下する。一方、Zrの含有量が多すぎる場合には主相粒子の体積割合が低下し、Brが低下しやすくなる。
【0040】
また、必要に応じてZr以外のM1であるTi,Hf,Nb,V,Moおよび/またはWを含んでもよく、含まなくてもよい。これらの元素においても、Zrと同様に粒界にM1-B相および/またはM1-C相を析出させることができ、主相粒子の粒成長を抑制する効果がある。
【0041】
M2の合計含有量は0質量%より大きく2.00質量%以下である。
【0042】
必要に応じてCuを含んでもよく、Cuを含まなくてもよい。Cuの含有量は0.05質量%以上0.80質量%以下であってもよく、0.10質量%以上0.40質量%以下であってもよい。Cuの含有量が少ない場合には、Hcjおよび耐食性が低下しやすくなる。Cuの含有量が多い場合には、Brが低下しやすくなる。
【0043】
必要に応じてAlを含んでもよく、Alを含まなくてもよい。Alの含有量は0.07質量%以上0.60質量%以下であってもよい。Alを含有することでHcjを向上させることができる。しかし、Alの含有量が多すぎる場合には、Brが低下しやすくなる。さらに、Brの温度特性も低下しやすくなる。
【0044】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、上記したR,T,B,Cr,Ga,M1およびM2以外の元素を他元素として含んでもよい。他元素の含有量には特に制限はない。例えば、R-T-B系永久磁石全体の質量を100質量%として、合計で2.00質量%以下であってもよく、0.60質量%以下であってもよい。
【0045】
以下、他元素の一例として炭素(C)、窒素(N)および酸素(O)の含有量について述べる。
【0046】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石におけるCの含有量は、0.03質量%以上0.20質量%以下としてもよい。Cの含有量を制御する方法には特に制限はない。例えば、原料金属の種類、粉砕助剤の種類および添加量、成形助剤の種類および添加量を制御することにより、Cの含有量を制御することができる。
【0047】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石におけるOの含有量は、0.03質量%以上0.20質量%以下としてもよい。Oの含有量を制御する方法には特に制限はない。例えば、製造時における雰囲気中の酸素量を制御することにより、Oの含有量を制御することができる。
【0048】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石におけるNの含有量は、0.01質量%以上0.20質量%以下としてもよい。Nの含有量を制御する方法には特に制限はない。
【0049】
なお、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石中に含まれる各種成分の測定法は、従来から一般的に知られている方法を用いることができる。各種元素量については、例えば、蛍光X線分析法および誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP法)等により測定される。Oの含有量は、例えば、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法により測定される。Cの含有量は、例えば、酸素気流中燃焼-赤外線吸収法により測定される。Nの含有量は、例えば、不活性ガス融解-熱伝導度法により測定される。
【0050】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、一般的には任意の形状に加工されて使用される。本実施形態に係るR-T-B系永久磁石の形状は特に限定されるものではなく、例えば、直方体、六面体、平板状、四角柱などの柱状、R-T-B系永久磁石の断面形状がC型の円筒状等の任意の形状とすることができる。四角柱としては、たとえば、底面が長方形の四角柱、底面が正方形の四角柱であってもよい。
【0051】
また、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石には、当該磁石を加工して着磁した磁石製品と、当該磁石を着磁していない磁石製品との両方が含まれる。
【0052】
<R-T-B系永久磁石の製造方法>
以下、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石を製造する方法の一例としてR-T-B系焼結磁石を製造する方法を説明する。なお、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石を製造する方法には特に制限はない。例えば以下の工程を有する。
【0053】
(a)R-T-B系永久磁石用合金(原料合金)を作製する合金作製工程
(b)原料合金を粉砕する粉砕工程
(c)得られた合金粉末を成形する成形工程
(d)成形体を焼結し、R-T-B系永久磁石を得る焼結工程
(e)R-T-B系永久磁石を時効処理する時効処理工程
(f)R-T-B系永久磁石を加工する加工工程
【0054】
[合金作製工程]
まず、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石用合金を作製する(合金作製工程)。以下、合金作製方法の一例としてストリップキャスティング法について説明するが、合金作製方法はストリップキャスティング法に限定されない。
【0055】
まず、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石用合金の組成に対応する原料金属を準備し、真空またはArガスなどの不活性ガス雰囲気中で準備した原料金属を溶解する。その後、溶解した原料金属を回転する金属ロール面に流し込むことによって本実施形態に係るR-T-B系永久磁石用合金(原料合金)を作製する。なお、本実施形態では、1種類の原料合金を作製し、粉砕して原料粉末を作製する1合金法について説明するが、第1合金と第2合金との2種類の原料合金を作製し、それぞれ粉砕後に混合して原料粉末を作製する2合金法でもよい。
【0056】
原料金属の種類には特に制限はない。例えば、希土類金属あるいは希土類合金、鉄、コバルト、フェロボロン、さらにはこれらの合金や化合物等を使用することができる。得られた原料合金は、凝固偏析がある場合は必要に応じて均質化処理(溶体化処理)を行ってもよい。
【0057】
[粉砕工程]
原料合金を作製した後、原料合金を粉砕する(粉砕工程)。粉砕工程は、粒径が数百μm~数mm程度になるまで粉砕する粗粉砕工程と、粒径が数μm程度になるまで微粉砕する微粉砕工程との2段階で行ってもよいが、微粉砕工程のみの1段階で行ってもよい。
【0058】
(粗粉砕工程)
原料合金を粒径が数百μm~数mm程度になるまで粗粉砕する(粗粉砕工程)。これにより、原料合金の粗粉砕粉末を得る。粗粉砕は、例えば原料合金に水素を吸蔵させ自己崩壊的な粉砕を生じさせること(水素吸蔵粉砕)によって行うことができる。
【0059】
なお、粗粉砕の方法は、上記の水素吸蔵粉砕に限定されない。例えば、不活性ガス雰囲気中にて、スタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等の粗粉砕機を用いて粗粉砕を行ってもよい
【0060】
また、高い磁気特性を有するR-T-B系永久磁石を得るために、粗粉砕工程から後述する焼結工程までの各工程の雰囲気は、低酸素濃度の雰囲気としてもよい。酸素濃度は、各製造工程における雰囲気の制御等により調節される。例えば、各工程は酸素濃度を100ppm以下の雰囲気で実施することが好ましい。
【0061】
(微粉砕工程)
原料合金を粗粉砕した後、得られた粗粉砕粉末を平均粒子径が数μm程度になるまで微粉砕する(微粉砕工程)。これにより、原料合金の微粉砕粉末を得る。粗粉砕した粉末を更に微粉砕することで、微粉砕粉末を得ることができる。微粉砕粉末に含まれる粒子のD50には特に制限はない。例えば、D50が1.0μm以上5.0μm以下であってもよく、2.5μm以上3.5μm以下であってもよい。D50が小さいほど本実施形態に係るR-T-B系永久磁石のHcjが向上しやすくなる。しかし、焼結工程で異常粒が形成しやすくなる。D50が大きいほど焼結工程で異常粒が形成しにくくなる。しかし、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石のHcjが低下しやすくなる。
【0062】
微粉砕は、粉砕時間等の条件を適宜調整しながら、例えばジェットミル、ボールミル、振動ミル、湿式アトライター等の微粉砕機を用いて粗粉砕した粉末の更なる粉砕を行なうことで実施される。以下、ジェットミルについて説明する。ジェットミルは、高圧の不活性ガス(たとえば、Heガス、N2ガス、Arガス)を狭いノズルより開放して高速のガス流を発生させ、この高速のガス流により原料合金の粗粉砕粉末を加速して原料合金の粗粉砕粉末同士の衝突やターゲットまたは容器壁との衝突を発生させて粉砕する微粉砕機である。
【0063】
原料合金の粗粉砕粉末を微粉砕する際には粉砕助剤を添加してもよい。粉砕助剤の種類には特に制限はない。例えば、有機物潤滑剤や固体潤滑剤を用いてもよい。有機物潤滑剤としては、例えばオレイン酸アミド、ラウリン酸アミド、ステアリン酸亜鉛などが挙げられる。固体潤滑剤としては、例えば窒化ホウ素、グラファイトなどが挙げられる。粉砕助剤を添加することで、成形工程において磁場を印加した際に配向しやすい微粉砕粉末を得ることができる。有機物潤滑剤および固体潤滑剤は、いずれか一方のみを使用してもよく、両方を混合して使用してもよい。
【0064】
[成形工程]
微粉砕粉末を目的の形状に成形する(成形工程)。成形工程では、微粉砕粉末を、電磁石中に配置された金型内に充填して加圧することによって、微粉砕粉末を成形し、所望の形状を有する成形体を得る。このとき、磁場を印加しながら成形することで、微粉砕粉末の結晶軸を特定の方向に配向させた状態で成形することができる。得られる成形体は、特定方向に配向するので、より特定方向の磁化が強いR-T-B系永久磁石が得られる。また、成形助剤を添加してもよい。成形助剤の種類には特に制限はなく、粉砕助剤と同一の潤滑剤を用いてもよい。また、粉砕助剤が成形助剤を兼ねてもよい。
【0065】
加圧時の圧力は、例えば30MPa以上300MPa以下としてもよい。印加する磁場は、例えば1000kA/m以上1600kA/m以下としてもよい。印加する磁場は静磁場に限定されず、パルス状磁場とすることもできる。また、静磁場とパルス状磁場とを併用することもできる。
【0066】
なお、成形方法としては、上記のように微粉砕粉末をそのまま成形する乾式成形のほか、微粉砕粉末を油等の溶媒に分散させたスラリーを成形する湿式成形を適用することもできる。
【0067】
微粉砕粉末を成形して得られる成形体の形状は特に限定されるものではなく、例えば直方体、平板状、柱状、リング状等、所望とするR-T-B系永久磁石の形状に応じた形状とすることができる。
【0068】
[焼結工程]
得られた成形体を真空または不活性ガス雰囲気中で焼結し、R-T-B系永久磁石を得る(焼結工程)。焼結時の保持温度は、組成、粉砕方法、粒度と粒度分布の違い等、諸条件により調整する必要がある。保持温度には特に制限はないが、例えば、950℃以上1150℃以下としてもよい。保持時間には特に制限はないが、例えば1時間以上24時間以下としてもよい。保持時間が短いほど生産効率が向上する。保持時の雰囲気には特に制限はない。例えば、不活性ガス雰囲気としてもよく、100Pa未満の真空雰囲気としてもよい。焼結により、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石が得られる。
【0069】
[時効処理工程]
成形体を焼結した後、R-T-B系永久磁石を時効処理する(時効処理工程)。焼結後、得られたR-T-B系永久磁石を焼結時よりも低い温度で保持することなどによって、R-T-B系永久磁石に時効処理を施す。以下、時効処理を第1時効処理と第2時効処理との2段階に分ける場合について説明するが、第1時効処理を省略して第2時効処理のみを行ってもよい。
【0070】
各時効処理における保持温度および保持時間には特に制限はない。例えば、第1時効処理は、800℃以上1000℃以下の保持温度で1時間以上4時間以下、行ってもよい。第1時効処理時の雰囲気は大気圧以上の圧力の不活性ガス雰囲気(例えば、Heガス、Arガス)としてもよい。第2時効処理は、450℃以上550℃以下の保持温度で30分以上4時間以下、行ってもよい。第2時効処理時の雰囲気は大気圧以上の圧力の不活性ガス雰囲気(例えば、Heガス、Arガス)としてもよい。特に第2時効処理を行うことで、R-T-B系永久磁石の粒界にR6T13Ga相を生成させることができ、R-T-B系永久磁石のHcjを向上させやすくなる。また、時効処理工程は後述する加工工程の後に行ってもよい。
【0071】
[加工工程]
得られたR-T-B系永久磁石は、必要に応じて所望の形状に加工してもよい(加工工程)。加工方法は、例えば切断、研削などの形状加工や、バレル研磨などの面取り加工などが挙げられる。なお、加工工程は省略してもよい。
【0072】
上記の方法により得られたR-T-B系永久磁石は、耐食性等の各種特性を向上させるためにめっきや樹脂被膜や酸化処理、化成処理などの表面処理を施してもよい。これにより、耐食性をさらに向上させることができる。
【0073】
以上のようにして得られる本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、良好な磁気特性を有し、かつ、温度特性が改善される。特にHcjの温度特性が改善され、Hcjの温度係数の絶対値が減少する。なお、Hcjの温度特性が改善されれば、室温でのHcjが低くても高温での使用時において高いHcjを得ることができる。すなわち、室温でのHcjを向上させる効果が大きいDy,TbおよびHoの使用量の低減が容易となる。ここで、Dy,TbおよびHoは地域遍在性が高く、高価である。したがって、Hcjの温度特性が改善される場合には、コストおよび供給リスクを低減することができる。
【0074】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。例えば、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は熱間加工によって製造されていてもよい。
【0075】
本発明のR-T-B系永久磁石の用途には特に制限はない。特に使用時に高温下にさらされる用途、例えば、自動車用磁石やエアコン用磁石などに好適に用いられる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0077】
(合金作製工程)
合金作製工程では、まず、所定の元素を有する原料金属を準備した。原料金属としては、表1に記載した元素の単体または表1に記載した元素を含む合金等の化合物を適宜選択して準備した。なお、表1のTREとはRの合計含有量のことである。また、本実施例では、表1に記載していない元素は不純物量を超えて含まれない。そして、表1の各実施例および比較例では、上記の他元素の合計含有量は0.60質量%以下である。
【0078】
次に、最終的に得られるR-T-B系永久磁石が表1の各実施例および各比較例に示す組成となるようにこれらの原料金属を秤量し、ストリップキャスティング法により原料合金を作製した。
【0079】
(粉砕工程)
粉砕工程では合金作製工程により得られた原料合金を粉砕し、合金粉末を得た。粉砕は、粗粉砕と微粉砕との2段階で行った。粗粉砕は、水素吸蔵粉砕により行った。具体的には、原料合金に対して室温で水素を吸蔵させた後、Arフロー雰囲気中で600℃、1時間の脱水素を行った。
【0080】
なお、粗粉砕以降から焼結までの各工程(微粉砕および成形)を、50ppm未満の酸素濃度のN2雰囲気下で行った。
【0081】
粗粉砕で得られた合金粉末に粉砕助剤としてラウリン酸アミドを添加した。添加量は合金粉末100質量部に対して0.10質量部とし、粉砕助剤の添加後に混合した。その後、ジェットミルを用いて微粉砕を行った。ジェットミルではN2ガスを用いた。微粉砕は、合金粉末のD50が3.0μm程度となるまで行った。
【0082】
(成形工程)
成形工程では粉砕工程により得られた合金粉末を磁場中で成形して成形体を得た。合金粉末を電磁石中に配置された金型内に充填した後に、電磁石により磁場を印加しながら加圧して成形した。印加する磁場の大きさは1600kA/mとした。成形時の圧力は100MPaとした。
【0083】
(焼結工程)
焼結工程では、得られた成形体を焼結して焼結体を得た。焼結時の保持温度は1070℃、保持時間は5時間とした。焼結時の雰囲気は10Paの真空雰囲気とした。
【0084】
(時効工程)
時効工程では、得られた焼結体に時効処理を行いR-T-B系永久磁石を得た。第1時効処理と第2時効処理との2段階で時効処理を行った。
【0085】
第1時効処理では、保持温度は900℃、保持時間は1時間とした。第1時効処理時の雰囲気はAr雰囲気とした。
【0086】
第2時効処理では、保持温度は500℃、保持時間は1.5時間とした。第2時効処理時の雰囲気はAr雰囲気とした。
【0087】
各実施例および比較例において原料合金の組成が表1に示す組成となっていることは、蛍光X線分析法、ICP法、および各種ガス分析法により組成分析することで確認した。具体的には、B,C,OおよびN以外の元素は蛍光X線分析法、Bの含有量をICP、Cの含有量を酸素気流中燃焼-赤外線吸収法により測定した。Oの含有量は、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法により測定した。Nの含有量は、不活性ガス融解-熱伝導度法により測定した。
【0088】
得られた焼結体をBHカーブトレーサー(東英工業製 TRF)にて磁気特性を測定するための形状に加工し、BHカーブトレーサーにて磁気特性を測定した。磁気特性の測定は、BHカーブトレーサーの磁極の温度を制御し、23℃と150℃で実施した。そして、Hcjの温度係数を算出した。結果を表2に示す。また、表2に記載した各実施例および比較例について、横軸をCr量、縦軸をHcjの温度係数としたグラフを
図1に示す。
【0089】
【0090】
【0091】
表1、表2および
図1より、Crの含有量が本願発明の範囲内である実施例1~4は、Crを含有しない比較例1と比較して、Hcjの温度係数の絶対値が小さく、温度特性が優れていた。さらに、Crの含有量が本願発明の範囲内である実施例1~4は、Crの含有量が多すぎる比較例2と比較して、Hcjの温度係数の絶対値が小さく、温度特性が優れていた。さらに、Brも大きくなった。