(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】半導体光増幅器、光出力装置、および距離計測装置
(51)【国際特許分類】
H01S 5/50 20060101AFI20231226BHJP
H01S 5/183 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
H01S5/50 610
H01S5/183
(21)【出願番号】P 2019101287
(22)【出願日】2019-05-30
【審査請求日】2022-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2018115845
(32)【優先日】2018-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019027828
(32)【優先日】2019-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成28年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発/次々世代加工に向けた新規光源・要素技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 純一朗
(72)【発明者】
【氏名】村上 朱実
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/150382(WO,A1)
【文献】特開2018-032793(JP,A)
【文献】特開2013-045803(JP,A)
【文献】特開2016-039274(JP,A)
【文献】特開2013-016591(JP,A)
【文献】Shota Mochizuki et al.,"Generation of vortex beam using Bragg reflector waveguide",Applied Physics Express,2014年,Vol.7,pp.022502-1 - 022502-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された光源部と、
前記光源部から前記基板の基板面に沿い予め定めた方向に延伸して形成された導電領域、および前記導電領域の周囲に形成された非導電領域を備え、前記光源部から前記予め定めた方向に伝播する伝播光を増幅し、増幅した前記伝播光を前記基板面と交差する出射方向に出射する光増幅部と、を含み、
前記導電領域は
前記伝播光を反射させる反射部を備え、
前記反射部は、前記導電領域の界面の前記予め定めた方向と交差する端部の一部に、前記予め定めた方向と直交する方向から測って、5度以上85度以下の傾斜角度を設けて形成される、
半導体光増幅器。
【請求項2】
前記出射方向が前記伝播光の伝播方向に傾斜した方向である
請求項1に記載の半導体光増幅器。
【請求項3】
前
記傾斜角度は45度
を除く角度である
請求項
1または請求項
2に記載の半導体光増幅器。
【請求項4】
前記基板上に形成された、第1導電型の第1の半導体多層
膜反射鏡、前記第1の半導体多層膜反射鏡上の活性領域、および前記活性領域上の第2導電型の第2の半導体多層膜反射鏡をさらに含み、
前記導電領域は前記活性領域を含んで構成され、
前記非導電領域は前記第1の半導体多層膜反射鏡および前記第2の半導体多層膜反射鏡の少なくとも一方の一部に形成された酸化領域、またはイオン注入領域である
請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の半導体光増幅器。
【請求項5】
請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の半導体光増幅器と、
前記半導体光増幅器から出射された光を集光する集光部と、を含む
光出力装置。
【請求項6】
請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の半導体光増幅器と、
前記半導体光増幅器から出射され、被測定対象物で反射した反射光を受光する受光部と、
前記受光部が受光した反射光に基づき、前記被測定対象物までの距離を計測する計測部と、を含む
距離計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体光増幅器、光出力装置、および距離計測装置に関し、特に分布ブラッグ反射鏡による導波路を用いた半導体光増幅器、該半導体光増幅器を用いた光出力装置、および距離計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、分布ブラッグ反射鏡導波路を用いた半導体光増幅器に関連して、基板上に形成された発光部と、発光部から基板の基板面に沿って延伸され、発光部より延伸方向の長さが長く、発光部から延伸方向に伝播する光を増幅するとともに延伸方向に沿って形成された光出射部から増幅された光を出射する光増幅部と、を有する半導体積層構造体を複数備え、複数の半導体積層構造体は、それぞれの光増幅部の延伸方向がお互いに略平行となるように配置された発光素子アレイが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、分布ブラッグ反射鏡導波路を用いた半導体光増幅器において、光源部から予め定めた方向に伝播する伝播光を、予め定めた方向と交差する方向に反射する反射部を有しない場合と比較して、予め定めた方向の光出力が増大された半導体光増幅器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1態様に係る半導体光増幅器は、基板上に形成された光源部と、前記光源部から前記基板の基板面に沿い予め定めた方向に延伸して形成された導電領域、および前記導電領域の周囲に形成された非導電領域を備え、前記光源部から前記予め定めた方向に伝播する伝播光を増幅し、増幅した前記伝播光を前記基板面と交差する出射方向に出射する光増幅部と、を含み、前記導電領域は、前記基板面に垂直な方向から見た場合に、前記伝播光を前記予め定めた方向と交差する方向に反射する反射部を備えるものである。
【0006】
第2態様に係る半導体光増幅器は、第1態様に係る半導体光増幅器において、前記出射方向が前記伝播光の伝播方向に傾斜した方向であるものである。
【0007】
第3態様に係る半導体光増幅器は、第1態様または第2態様に係る半導体光増幅器において、前記反射部は、前記基板面に垂直な方向から見た場合に前記予め定めた方向に対して予め定めた角度で傾斜している前記導電領域の端面であるものである。
【0008】
第4態様に係る半導体光増幅器は、第3態様係る半導体光増幅器において、前記予め定めた角度は5度以上85度以下であるものである。
【0009】
第5態様に係る半導体光増幅器は、第3態様または第4態様に係る半導体光増幅器において、前記予め定められた角度は45度以外の角度であるものである。
【0010】
第6態様に係る半導体光増幅器は、第1態様から第5態様のいずれかに係る半導体光増幅器において、前記基板上に形成された、第1導電型の第1の半導体多層膜反射鏡、前記第1の半導体多層膜反射鏡上の活性領域、および前記活性領域上の第2導電型の第2の半導体多層膜反射鏡をさらに含み、前記導電領域は前記活性領域を含んで構成され、前記非導電領域は前記第1の半導体多層膜反射鏡および前記第2の半導体多層膜反射鏡の少なくとも一方の一部に形成された酸化領域、またはイオン注入領域であるものである。
【0011】
第7態様に係る光出力装置は、第1態様から第6態様のいずれかの態様に係る半導体光増幅器と、前記半導体光増幅器から出射された光を集光する集光部と、を含むものである。
【0012】
第8態様に係る距離計測装置は、第1態様から第6態様のいずれかの態様に係る半導体光増幅器と、前記半導体光増幅器から出射され、被測定対象物で反射した反射光を受光する受光部と、前記受光部が受光した反射光に基づき、前記被測定対象物までの距離を計測する計測部と、を含むものである。
【発明の効果】
【0013】
第1態様、第7態様、および第8態様によれば、分布ブラッグ反射鏡導波路を用いた半導体光増幅器において、光源部から予め定めた方向に伝播する伝播光を予め定めた方向と交差する方向に反射する反射部を有しない場合と比較して、予め定めた方向の光出力が増大された半導体光増幅器が提供される、という効果を奏する。
【0014】
第2態様によれば、出射方向が光の伝播方向と逆方向に傾斜している場合と比較して、光源から離れる方向に光が出射される、という効果を奏する。
【0015】
第3態様によれば、基板面に垂直な方向から見た場合に予め定めた方向に反射部が傾斜していない場合と比較して、予め定めた方向の光出力が増大された半導体光増幅器が提供される、という効果を奏する。
【0016】
第4態様によれば、予め定めた角度が5度未満または85度を越える場合と比較して、予め定めた方向の光出力がより増大される、という効果を奏する。
【0017】
第5態様によれば、予め定められた角度が45度である場合と比較して、予め定めた方向の光出力がさらに増大される、という効果を奏する。
【0018】
第6態様によれば、基板上に形成された、第1の半導体多層膜反射鏡、活性領域、および第2の半導体多層膜反射鏡を含む半導体光増幅器において、予め定めた方向の光出力が増大される、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1の実施の形態に係る半導体光増幅器の構成の一例を示す、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【
図2】(a)は比較例に係る半導体光増幅器の反射部における反射を示す平面図、(b)は第1の実施の形態に係る半導体光増幅器の反射部おける反射を示す平面図、(c)は反射部の傾斜角度が45度である場合の反射を示す平面図である。
【
図3】(a)は比較例に係る半導体光増幅器の光出力特性を示すグラフ、(b)は第1の実施の形態に係る半導体光増幅器の光出力特性を示すグラフ、(c)反射部の傾斜角度が45度である場合の光出力特性を示すグラフである。
【
図4】(a)、(b)は第1の実施の形態に係る半導体光増幅器の反射部の変形例を示す図である。
【
図5】第2の実施の形態に係る、(a)は光加工装置の一例を示すブロック図、(b)は距離計測装置の一例を示すブロック図である。
【
図6】比較例に係る半導体光増幅器の構成を示す、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0021】
[第1の実施の形態]
図1から
図4を参照して本実施の形態に係る半導体光増幅器10について説明する。
図1(a)は半導体光増幅器10の平面図、
図1(b)は
図1(a)に示すA-A’線に沿った断面図である。
図1に示すように、半導体光増幅器(Semiconductor Optical Amplifier:SOA)10は、光増幅部50、反射部54、および光結合部52を備えている。
【0022】
光増幅部50は、光結合部52に結合された光(種光)を増幅し、出射する機能を有する。光結合部52は光源部の一例である。本実施の形態に係る光増幅部50は、一例としてGaAs系の分布ブラッグ反射鏡導波路(以下、「DBR(Distributed Bragg Reflector)導波路」)を用いた面出射型の光増幅部とされている。すなわち、光増幅部50は、基板30の裏面に形成されたN電極40、基板30上に形成された下部DBR32、活性領域34、上部DBR36、非導電領域60、導電領域58、およびP電極18を含んで構成されている。
【0023】
本実施の形態では、基板30をn型のGaAs基板とし、N電極40は基板30の裏面に設けられている。一方、本実施の形態に係る下部DBR32はn型であり、上部DBR36はp型である。半導体光増幅器10を駆動する際には、駆動用電源の正極をP電極18に印加し、負極をN電極40に印加し、P電極18からN電極40に駆動電流を流す。しかしながら、基板30、下部DBR32、上部DBR36の極性はこれに限られず、これらの極性を逆に、すなわち、基板30をp型のGaAs基板とし、下部DBR32をp型、上部DBR36をn型としもよい。
【0024】
下部DBR32は、以下で説明する上部DBR36と対になって、半導体光増幅器10における発光に寄与する共振器を構成している。下部DBR32は、半導体光増幅器10の発振波長をλ、媒質(半導体層)の屈折率をnとした場合に、膜厚がそれぞれ0.25λ/nとされかつ屈折率の互いに異なる2つの半導体層を交互に繰り返し積層して構成される多層膜反射鏡である。具体的な一例として、下部DBR32は、Al0.90Ga0.1Asによるn型の低屈折率層と、Al0.2Ga0.8Asによるn型の高屈折率層と、を交互に繰り返し積層することにより構成されている。
【0025】
本実施の形態に係る活性領域34は、例えば、下部スペーサ層、量子井戸活性領域、及び上部スペーサ層を含んで構成されてもよい(図示省略)。本実施の形態に係る量子井戸活性領域は、例えば、4層のAl0.3Ga0.7Asからなる障壁層と、その間に設けられた3層のGaAsからなる量子井戸層と、で構成されてもよい。なお、下部スペーサ層、上部スペーサ層は、各々量子井戸活性領域と下部DBR32との間、量子井戸活性領域と上部DBR36との間に配置されることにより、共振器の長さを調整する機能とともに、キャリアを閉じ込めるためのクラッド層としての機能も有している。
【0026】
活性領域34上に設けられた非導電領域60および導電領域58はP型の酸化狭窄層、つまり電流狭窄層である。すなわち、非導電領域60が酸化領域、導電領域58が非酸化領域に対応している。本実施の形態では、上部DBR36を構成する多層膜のうちの1層を酸化させて非導電領域60(酸化領域)が形成され、該1層の非導電領域60以外の領域が酸化されていない導電領域58(非酸化領域)となっている。P電極18からN電極40に向かって流れる電流は、導電領域58によって絞られる。なお、本実施の形態では非導電領域60(酸化領域)を上部DBR36の1層に形成する形態を例示して説明するが、これに限られず上部DBR36の複数層に形成する形態としてもよいし、下部DBR32に形成する形態としてもよい。
【0027】
本実施の形態に係る半導体光増幅器10では、導電領域58と非導電領域60との界面(以下、「酸化フロント」56)が、光結合部52から導入されDBR導波路を伝播する伝播光の伝播方向(
図1紙面左から右に向けての方向)に延伸され、光結合部52と反対側の酸化フロント56の端面は該伝播光を反射する反射部54を形成している。本実施の形態に係る反射部54は、
図1(a)に示すように平面視した場合(基板30に垂直な方向から見た場合)に伝播光の進行方向と交差する方向に傾けた酸化フロント56の端面で構成されている。非導電領域60は、半導体光増幅器10の製造工程において、少なくとも上部DBRの下部までメサ状に形成された半導体光増幅器を周囲から酸化処理を行うことにより形成される。従って、半導体光増幅器10の外形には反射部54の外形に沿った部分、すなわち反射部54に沿った傾斜部66が設けられている。反射部54の作用等詳細については後述する。なお、本実施の形態では非導電領域60を酸化により形成する形態を例示して説明するが、これに限られず例えばイオン注入等により形成する形態としてもよい。
【0028】
上部DBR36は、膜厚がそれぞれ0.25λ/nとされかつ屈折率の互いに異なる2つの半導体層を交互に繰り返し積層して構成される多層膜反射鏡である。具体的な一例として、上部DBR36は、Al0.90Ga0.1Asによるp型の低屈折率層と、Al0.2Ga0.8Asによるp型の高屈折率層と、を交互に繰り返し積層することにより構成されている。
【0029】
本実施の形態に係る光結合部52は、半導体光増幅器10への入力光(種光)を生成する光源を結合する部位である。本実施の形態では、図示を省略する外部光源から光ファイバを介して入力光を伝播させ、該光ファイバの出力端を半導体光増幅器10の光源部として機能する光結合部52に結合させて入力光をDBR導波路に導入している。外部光源としては例えば面型発光レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Suface Emitting Laser))を用いる。なお、本実施の形態では種光の光源を外部から導入する形態を例示して説明するが、これに限られず、半導体光増幅器10の光結合部52の配置された領域に、光源部として機能する、例えばVCSEL等の発光素子を半導体光増幅器10と一体に形成する形態としてもよい。なお、本実施の形態では、種光を入力し、半導体光増幅器10への電流注入によって、種光を増幅し出力するが、活性領域34が有する利得の波長スペクトルのピーク波長よりも長波長側に種光を入力してもよい。このようにすることで、モード制御性が向上する。好ましくは、利得のピーク強度の1/10以下の強度となる波長に種光を設定することが望ましい。
【0030】
ここで、本実施の形態に係るDBR導波路についてより詳細に説明する。光結合部52から導入された励起光は紙面左側から右側に向かう伝播方向に伝播する。この際、伝播光は、
図1(b)に示すように主として下部DBR32、活性領域34、導電領域58、上部DBR36を、所定の分布をもって伝播する。従って、「DBR導波路」は、これらの部分を含んで構成されている。そして、本実施の形態では、DBR導波路の一部である導電領域58の端部(酸化フロント56)に反射部54が形成されており、反射部54によって伝播光が反射される。すなわち、非導電領域60は導電領域58を酸化して形成されているため、導電領域よりも屈折率が下がる。そのため、導電領域58を含むDBR導波路の領域の等価屈折率は、非導電領域60を含むDBR導波路の等価屈折率よりも高くなり、導電領域58と非導電領域60との界面(酸化フロント56)である反射部54で伝播光が反射される。
【0031】
ところで、DBR導波路を用いた半導体光増幅器は、半導体基板上に設けられた一対のDBRと、一対のDBRの間にある活性領域および共振器スペーサ層から構成されている。DBRに挟まれた領域は光導波路として機能し、このDBR導波路内へ入力された光は斜め方向に多重反射しながらスローライト伝播する。このとき、DBRの両側に設けられたP電極18、N電極40により活性領域34へ電流を注入すると、入力光が増幅され、基板面に対して交差する方向であってかつ伝播光のDBR導波路の伝播方向前方に傾いた方向(斜め前方方向)へ増幅ビームが出力される(以下、「順方向出力Lf」)。一方、入力側と反対側の境界部で反射し、基板面に対して交差する方向であってかつ伝播光のDBR導波路の伝播方向後方に傾いた方向(斜め後方方向)へ出力される出力光を「逆方向出力Lr」という。
【0032】
つまり、P電極18、N電極40が設けられた半導体光増幅器10の領域(P電極18とN電極40とで挟まれた領域)は光導波路と光増幅部としての機能を併せ持ち、増幅された光は基板30の面に対して交差する方向に出射する。すなわちDBR導波路を用いた半導体光増幅器は面出射型の半導体光増幅器を構成している。一方、この増幅部への光入力は、エッチングによりDBRの一部を除去することにより反射率が低減された光入射部(光結合部52)を作成し、外部光を斜め入射させて結合するか、半導体光増幅器の一部として光源(発光部)を横方向に集積し、光増幅部へ染み出した光を伝播させることで構成される。
【0033】
上述したように、半導体光増幅器10のようなDBR導波路を用いた半導体光増幅器では順方向出力Lfに加えて、順方向出力Lfとは出射方向の異なる逆方向出力Lrを含む出力光が出力される。ここで、半導体光増幅器10の光出力の方向が2つあるのは不便であり、少なくともどちらか一方に集約したいが、この場合順方向出力Lfに集約するのがよい。逆方向出力Lrの場合、例えば逆方向出力Lrを受光する光学系と光結合部52に結合される光学系とが配置上の干渉を起こしやすいからである。一方、順方向出力Lfの場合、光源から離れる方向に光が出射されることになるので、例えば光学系の干渉が生じにくくなる。
【0034】
しかしながら、光結合部52に結合され入力された光、または集積された発光部から入力された光がDBR対により挟まれた領域を伝播し、入力側と反対側の境界部(反射部54)における反射により戻り光が発生すると、半導体光増幅器の動作が不安定となり、順方向で安定した増幅光出力を得られなくなるという課題がある。
【0035】
図6を参照して、上記課題についてより詳細に説明する。
図6は、
図1示す半導体光増幅器10と同様に、光増幅部50、および光結合部52を備えた比較例に係る半導体光増幅器100である。
図6(b)は
図6(a)に示すB-B’線に沿った断面図である。なお、以下の説明では半導体光増幅器10と同様の構成には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0036】
図6(a)に示すように、半導体光増幅器100は酸化フロント56を境界とする導電領域58および非導電領域60を備えている。そして、導電領域58の光結合部52と反対側の端部64は伝播光の伝播方向に直交する方向とされている、すなわち端部64は伝播光の伝播方向に対して傾いていない。
【0037】
以上の構成を有する半導体光増幅器100では、光結合部52から入射された入力光は端部64の方向へ伝播しつつ増幅されるとともに、伝播方向に前方傾斜した方向に順方向出力Lfとして出力される。一方、端部64で反射された伝播光は光結合部52の方向に戻り光として戻るとともに、伝播方向に後方傾斜した方向に逆方向出力Lrを出力する。半導体光増幅器100の場合、逆方向出力Lrは
図6(b)に示すようにDBR導波路全体に亘って出力される。そのため比較例に係る半導体光増幅器100では、伝播光と戻り光とが共存し、逆方向出力Lrに光エネルギーが配分されるため、順方向出力Lfが減少する。これが上記課題の発生メカニズムである。
【0038】
上記課題に対し、本実施の形態では、半導体光増幅器におけるDBR導波路の伝播光を伝播方向と交差する方向に反射させる反射部をDBR導波路の端部に設けることとした。このことにより戻り光は伝播途中で減衰し、伝播光と戻り光との干渉が抑制されるため、面出射型の半導体光増幅器において、このような反射部を有しない場合と比較して、予め定めた方向の光出力(順方向出力Lf)が増大された半導体光増幅器が提供される。
【0039】
再び
図1(a)を参照すると、半導体光増幅器10の反射部54は伝播光の伝播方向と交差する方向に傾いているので、伝播光の大部分は反射部54で反射されても光結合部52の方向に戻ることはなく、
図1(b)示すように途中で減衰し消滅する。その結果伝播光の方が支配的となるため、逆方向出力Lrへの光エネルギー配分が減少し、順方向出力Lfへ振り向けられる光エネルギーが増加する、すなわち順方向出力Lfが増加する。
【0040】
次に
図2および
図3を参照して、半導体光増幅器10の上記効果を発現する作用についてより詳細に説明する。
図2は導電領域の端部の傾斜角度θが異なる場合の伝播光(進行波)と戻り光(反射波)の違いを示した図である。本実施の形態では端部の傾斜角度θを、
図2に示すように伝播方向に直交する方向から測った角度で定義する。すなわち、
図2(a)は傾斜角度θがθ=0度の場合の反射部54A、
図2(b)は傾斜角度θがθ=15度の場合の本実施の形態に係る反射部54、
図2(c)は傾斜角度θがθ=45度の場合の反射部54Bを各々示している。ここで、
図2(a)に示す反射部54Aが
図6に示す半導体光増幅器100の端部64に相当する。なお、
図2に示す伝播光、戻り光の光路は主要成分の光路のみを示している。
【0041】
図2(a)に示すように傾斜角度θが0度の場合は、反射部54Aで反射された伝播光は戻り光として入射光路と同じ光路を辿って光結合部52の方向に戻る。
図2(c)に示すように傾斜角度θが45度の場合は反射部54B反射された伝播光は一旦伝播光の方向と直交する方向に反射されるが、再び反射部54Bで反射され、戻り光として入射光路と同じ光路を辿って光結合部52の方向に戻る。これに対し傾斜角度θが15度の場合は、反射部54で反射された後、酸化フロント56の間で反射される。この反射の過程で
図1(b)に示すように戻り光は途中で消滅するので、逆方向出力Lrは減少する。このことにより、本実施の形態に係る半導体光増幅器10では順方向出力Lfに出力光を集中することができる。
【0042】
図3は、反射部が
図2の各図で示された構成の半導体光増幅器の光出力を示しており、
図3(a)は傾斜角度θが0度の場合、
図3(b)は傾斜角度θが15度の場合、
図3(c)は傾斜角度θが45度の場合の順方向出力Lfおよび逆方向出力Lrを、各々示している。順方向出力Lfおよび逆方向出力Lrは、各々の光出力の方向に配置された2つの受光手段によって測定している。
【0043】
図3(a)に示すように、傾斜角度θが0度の場合は光出力の大部分が逆方向出力Lrであり、順方向出力Lfがわずかしか出力されていない。
図3(c)に示すように、傾斜角度θが45度の場合も光出力の大部分が逆方向出力Lrであり、順方向出力Lfがわずかしか出力されていない。これに対し、傾斜角度が15度の場合は大部分が順方向出力Lfとなり、逆方向出力Lrはほとんど発生していないことがわかる。なお、本実施の形態に係る傾斜角度θに特に制限はないが、5度以上85度以下であることが好ましい。また、傾斜角度θは45度以外の角度であることが好ましい。
【0044】
ここで、
図4を参照し、導電領域58の端部を構成する反射部54の形状について説明する。
図1(a)では、反射部54として伝播方向と交差する方向の酸化フロント56の1平面である形態を例示して説明したがこれに限られない。例えば
図4(a)に示すように導電領域58の端部の一部に伝播方向に対して傾いた反射面を有する反射部54Cとしてもよい。あるいは、
図4(b)に示すように導電領域58の端部に伝播方向に互いに反対の方向に傾斜した2つの傾斜面を有する反射部54Dとしてもよい。反射部54Cあるいは54Dも反射部54と同様の効果を奏する。
【0045】
[第2の実施の形態]
次に
図5を参照して、本実施の形態に係る光出力装置、および距離計測装置について説明する。
図5(a)は本発明に係る光出力装置の一例としての光加工装置70のブロック図を示し、
図5(b)は距離計測装置90のブロック図を示している。
【0046】
図5(a)に示すように、光加工装置70は、半導体光増幅器71、および集光用のレンズ72を備えている。半導体光増幅器71は、例えば上記実施の形態に係る半導体光増幅器10である。
図5(a)に示すように、半導体光増幅器71から出射された光はレンズ72によって集光され、出力光Poとして加工対象物OB1に照射されて、加工対象物OB1における加工処理が行われる。
【0047】
一方、
図5(b)に示すように、距離計測装置90は、半導体光増幅器91、測距センサ92、および計測部93を備えている。半導体光増幅器91は、例えば上記実施の形態に係る半導体光増幅器10である。また、測距センサ92は、例えばフォトダイオード等の受光素子によって構成され、計測部93は、CPU、ASIC等の半導体素子を中心に構成されている。
【0048】
距離計測装置90においては、半導体光増幅器91から出射された投光光Ptが被測定物OB2(例えば、人や物)に照射され、被測定物OB2で反射された反射光が受光光Prとして測距センサ92に入力される。測距センサ92に入力された受光光Prは電気信号に変換され、該電気信号に基づき計測部93において予め定められた演算処理が実行され、例えば距離計測装置90と被測定物OB2との距離が計測される。
【符号の説明】
【0049】
10 半導体光増幅器
18 P電極
30 基板
32 下部DBR
34 活性領域
36 上部DBR
40 N電極
50 光増幅部
52 光結合部
54、54A、54B、54C、54D 反射部
56 酸化フロント
58 導電領域
60 非導電領域
64 端部
66 傾斜部
70 光加工装置
71 半導体光増幅器
72 レンズ
90 距離計測装置
91 半導体光増幅器
92 測距センサ
93 計測部
100 半導体光増幅器
Lf 順方向出力
Lr 逆方向出力
Po 光出力
Pt 投光光
Pr 受光光
θ 傾斜角度