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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】導電性粒子、分散体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/00 20060101AFI20231226BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20231226BHJP
   H01B 1/12 20060101ALI20231226BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20231226BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20231226BHJP
   C08J 3/12 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
H01B5/00 F
H01B1/00 F
H01B1/12 F
H01B1/12 G
H01B1/12 E
H01B1/00 H
H01B1/20 A
H01B13/00 501Z
H01B5/00 H
C08J3/12 101
C08J3/12 CEZ
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019119574
(22)【出願日】2019-06-27
(65)【公開番号】P2021005514
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-04-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石 智文
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-083159(JP,A)
【文献】国際公開第2018/061374(WO,A1)
【文献】特開2008-059914(JP,A)
【文献】特開平07-118370(JP,A)
【文献】特開2008-045116(JP,A)
【文献】特開2016-169255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/00
H01B 1/00
H01B 1/12
H01B 1/20
H01B 13/00
C08J 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
個数基準メジアン径D50が0.5~4μmの範囲内にあり、10μm以上の粒子径を有する粒子の個数の含有割合が1%未満である導電性粒子であって、該導電性粒子5質量部と、水95質量部とを25℃にて混合した際に、均一に溶解または分散され得る導電性粒子。
【請求項2】
導電性高分子を含んでなり、導電性高分子が、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子およびポリピロール系導電性高分子からなる群より選ばれる1種以上である請求項1記載の導電性粒子。
【請求項3】
アスペクト比が5以下である請求項1または2記載の導電性粒子。
【請求項4】
請求項1~3いずれか記載の導電性粒子が、分散媒に溶解または分散された分散体であって、分散体中の導電性粒子の濃度が、2~30質量%の範囲内である分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性粒子とその製造方法およびそれを含んでなる分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年エレクロトにクス分野において、電子機器の薄型化・軽量化が加速するとともに、ウェアラブル用途などの展開に向け多機能化が求められている。従来のセラミックや銀、銅などといった無機材料に比べて、導電性高分子は、その軽さや柔軟性、透明性などから市場の拡大が期待されている。
【0003】
導電性高分子は、上述のように市場からの要求が高い材料の一つであるが、その多くは分散液として提供されているのが実情である。その理由として、分散液から分散媒を除去した導電性高分子そのものは、あらゆる溶剤や分散媒への溶解や分散が困難なものが多いため、製造過程で導電性高分子を分散液の形で得ているものが多いためと推察される。また、導電性高分子は、フィルムやシート等の形状に加工して使用することが期待されており、導電性を高めるためには厚膜化することが有利ではあるが、市販されている分散液は、導電性高分子の濃度(含有率)が数質量%以下と低いものが殆どであり、塗工によって容易に厚膜を得ることが困難であった。
【0004】
特許文献1には、π共役系導電性高分子を含む導電性複合体と、分散媒とを含有する導電性高分子分散液が開示されている。しかし、特許文献1に開示されている導電性複合体は、高濃度な分散液を得ることができないという点で問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-210501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、高濃度に分散させることが可能な導電性粒子とその分散体、及び導電性粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の諸問題点を考慮し解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。すなわち、本発明は、個数基準メジアン径D50が0.5~4μmの範囲内にあり、10μm以上の粒子径を有する粒子の個数の含有割合が1%未満である導電性粒子に関する。
【0008】
また、本発明は、導電性高分子を含んでなり、導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリアニリン、ポリピロールからなる群より選ばれる1種以上である上記導電性粒子に関する。
【0009】
また、本発明は、アスペクト比が5以下である上記導電性粒子に関する。
【0010】
また、本発明は、導電性粒子5質量部と、水95質量部とを25℃にて混合した際に、均一に溶解または分散され得る上記導電性粒子に関する。
【0011】
また、本発明は、上記導電性粒子が、分散媒に溶解または分散された分散体であって、分散体中の導電性粒子の濃度が、2~30質量%の範囲内である分散体に関する。
【0012】
また、本発明は、導電性高分子を含んでなる導電性粒子の製造方法であって、導電性高分子を含んでなる溶液または分散液を噴霧乾燥し、個数基準メジアン径D50が0.5~4μmの範囲内にあり、10μm以上の粒子径を有する粒子の個数の含有割合が1%未満である導電性粒子の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、高濃度に分散が可能な導電性粒子が提供できるようになった。また、高濃度な導電性粒子を含む分散体が提供できるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を具体的に説明する。
<導電性粒子>
本発明における導電性粒子は、下記条件を満たすことを特徴とする。
(1)個数基準メジアン径D50が0.5~4μmの範囲内にある。
(2)10μm以上の粒子径を有する粒子の個数の含有割合が1%未満である。
【0015】
(粒子径、個数基準メジアン径D50)
本明細書において、導電性粒子の粒子径とは、導電性粒子を走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)により観察して得られた画像から粒子の長軸の値と短軸の値を測定し、(長軸の値+短軸の値)/2の値を意味する。また、個数基準メジアン径D50とは、任意に選んだ200個の粒子について算出した粒子径の小さいものから順に累積した累積分布において、累積50%における粒子径を意味する。
導電性粒子の個数基準メジアン径D50は、高濃度に分散させるために、0.5~4μmの範囲内にあり、0.5~3μmの範囲がより好ましい。個数基準メジアン径D50が上記下限値以上では、表面積が多すぎず、粒子同士の凝集が抑制されることから、再分散性やハンドリングの観点で好ましい。一方、上記上限値以下では粗大粒子の割合が減少するため、均一に再分散させることができる点で好ましい。また、導電性粒子は、高濃度化の観点から、導電性粒子5質量部と、水95質量部とを25℃にて混合した際に、均一に溶解または分散され得るものが好ましい。
【0016】
(10μm以上の粒子含有率)
SEMを用いて観察された画像より選んだ任意の200個の粒子の内、粒子径が10μm以上の粒子の個数の割合を含有割合(含有率)とする。10μm以上の粒子は、均一に再分散させるために、1%未満である。10μm以上の粒子は表面積が小さく、分散媒との接触面積が低下するために、再分散の起点が得られず均一に分散することが難しい。
【0017】
(アスペクト比)
上記粒子径の算出方法の際に用いた各々の粒子の長軸の値と短軸の値を用いて、長軸の値/短軸の値を算出し、得られた数値の平均値をアスペクト比とした。アスペクト比は5以下であることが好ましく、3以下がより好ましい。上記上限値以下では、導電性粒子を再分散させる際に、より密に充填することができるため、高濃度化に適している。
【0018】
<導電性高分子>
本発明の導電性粒子は、導電性高分子を含んでなることが好ましい。導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であることが好ましい。また、本明細書では、以下に示すドーパントを含むものも導電性高分子とみなすこととする。
【0019】
導電性高分子は特に制限されず、例えば、ポリアニリン系導電性高分子、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリアニリン系導電性高分子、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子が好ましく、導電性の観点から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。導電性高分子は1種又は2種以上を併用することができる。
【0020】
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)等が挙げられる。
【0021】
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)等が挙げられる。
【0022】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)、ポリ(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-プロパンスルホン酸カリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-エチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-プロピル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-ブチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-ペンチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-ヘキシル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-イソプロピル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-イソブチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-イソペンチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-フルオロ-1-プロパンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-イルオキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸カリウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸アンモニウム)、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸トリエチルアンモニウム)、ポリ(4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-ブタンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-ブタンスルホン酸カリウム)、ポリ(4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-メチル-1-ブタンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-メチル-1-ブタンスルホン酸カリウム)、ポリ(4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-フルオロ-1-ブタンスルホン酸ナトリウム)、又はポリ(4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキセピン-3-イルオキシ]-1-フルオロ-1-ブタンスルホン酸カリウム)等が挙げられる。
【0023】
上記導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリチオフェン系導電性高分子が好ましく、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性高分子は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
(ドーパント)
本明細書において、ドーパントとは、アニオン基を有するモノマー単位を分子内に2つ以上有する重合体を意味し、導電性高分子の導電性向上に寄与する。ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート)、ポリメタクリルオキシベンゼンスルホン酸等のスルホン酸基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等のカルボン酸基を有する高分子が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。これらポリアニオンの中でも、導電性をより高くできることから、スルホン酸基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。前記ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下であることが好ましく、10万以上50万以下であることがより好ましい。本明細書における質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定し、標準物質をポリスチレンとして求めた値である。ドーパントの含有割合は、導電性高分子中、1~90質量%の範囲であることが好ましい。
【0025】
<分散媒>
本明細書における分散媒とは、水または有機溶媒を指す。有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤等が挙げられる。分散媒は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール、アリルアルコール等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチ
ルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、
ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げ
られる。エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等が挙げられる。アミド系溶媒としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。分散媒の中でも、導電性高分子の分散性が高いことから、特に水が好ましい。
【0026】
<分散体>
本発明における分散体とは、導電性粒子が分散媒に溶解または分散されたものを指す。分散体中の導電性粒子の濃度は、2~30質量%であることが好ましく、3~10質量%であることがより好ましい。上記下限値以上では容易に厚膜を得ることができ、上記下限値以下では粘度の観点から容易に分散することができる点で好ましい。
【0027】
<導電性粒子の製造工程>
導電性粒子の製造工程は、導電性高分子の分散体を乾燥し、粒子径が10μm以上の粗大粒子を分級により除去することで得られ、必要に応じて乾燥中もしくは乾燥後にディスパーなどで解砕してもよい。乾燥方法としては、本発明の導電性粒子が得られれば特に限定されないが、真空加熱乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥が挙げられる。
【0028】
導電性高分子の分散体は、例えば、ドーパントの分散媒中で、導電性高分子を形成するモノマーを化学酸化重合することにより得られる。また、導電性高分子水系分散液は市販のものを使用しても構わない。
【0029】
真空加熱乾燥では、前記導電性高分子分散体中の分散媒を加熱しながら真空乾燥する。 真空加熱乾燥の温度は、50℃以上、200℃以下が好ましく、温度の調整のしやすさから、80℃以上120℃以下がより好ましい。
【0030】
凍結乾燥では、前記導電性高分子水系分散液中の水分を凍結させ、真空乾燥する。
凍結乾燥の際の温度は、-60℃以上60℃以下とすることが好ましく、-40℃以上40℃以下とすることがより好ましい。凍結乾燥温度が前記下限値以上であれば、温度調整しやすく、前記上限値以下であれば、導電性高分子水系分散液を容易に凍結乾燥できる。
【0031】
噴霧乾燥では、前記導電性高分子水系分散液を真空容器中に噴霧することにより水分を蒸発させて乾燥する。
噴霧乾燥の際の温度は、50℃以上200℃以下とすることが好ましく、100℃以上150℃以下とすることがより好ましい。噴霧乾燥温度が前記下限値以上であれば、導電性高分子水系分散液を容易に乾燥でき、前記上限値以下であれば、導電性高分子の熱劣化を防止できる。
【0032】
乾燥方法としては、凍結乾燥と噴霧乾燥がより好ましく、噴霧乾燥が特に好ましい。真空加熱乾燥や凍結乾燥ではアスペクト比の高い導電性粒子が得られる。
【0033】
分級方法は特に限定されないが、分級機や篩で分級する。分級により除去する粒子径は10μm以上が好ましい。10μm以上の粗大粒子は表面積が小さく、分散媒との接触面積が低下するために、再分散の起点が得られず均一に分散することが難しい。
【0034】
導電性粒子の解砕方法は特に制限されず、スターラー等の剪断力が弱い攪拌であってもよいが、高剪断力の分散機(ホモジナイザ等)の方が粒子径を均一に揃えられるためより好ましい。
【実施例
【0035】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は、本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例において、「部」は特に明記しない限り、「質量部」を表す。
【0036】
<個数基準メジアン径D50>
導電性粒子の個数基準メジアン径D50は、以下の方法により決定した。粒子の粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)により観察して得られた画像から粒子の長軸の値と短軸の値を測定した。(長軸の値+短軸の値)/2の値を、その粒子の粒子径とみなした。任意に選んだ200個の粒子について、同様に粒子径を算出した。これら粒子径の小さいものから順に累積した累積分布において、累積50%における粒子径を個数基準メジアン径D50とした。
【0037】
<10μm以上の粒子径を有する粒子の個数の含有割合(10μm以上の粒子含有率)>
SEMを用いて観察された画像より選んだ任意の200個の粒子の内、粒子径が10μm以上の粒子の個数の割合を含有割合(含有率)とした。
【0038】
< アスペクト比>
上記粒子径の算出方法の際に用いた各々の粒子の長軸の値と短軸の値を用いて、長軸の値/短軸の値を算出した。得られた数値の平均値をアスペクト比とした。
【0039】
<導電性粒子の製造>
(実施例1)
ポリアニリンを含む分散液(三菱ケミカル社製、aquaPASS-50P)を固形分2質量%となるように水で希釈し、凍結乾燥した。得られた粉体をディスパー(プライミクス社製、ホモミクサーMARK II 2.5型)を用いて回転数5000rpmで粉砕し、孔径10μmのフィルターで分級することで、個数基準メジアン径D50:3μm、10μm以上の粒子含有率が1%未満、アスペクト比2.4の導電性粒子1を得た。
【0040】
(実施例2)
実施例1で使用した2質量%ポリアニリン水溶液をハイスピードミキサ(アーステクニカ社製、LFS2)で100℃に加熱しながら真空乾燥しながら撹拌(アジテータ1000rpm、チョッパー3000rpm)した後、10μmのフィルターで分級することで、個数基準メジアン径D50:4μm、10μm以上の粒子含有率が1%未満、アスペクト比4.3の導電性粒子2を得た。
【0041】
(実施例3)
実施例1で使用した2質量%ポリアニリン水溶液をスプレードライヤー(BUCHI社製、B-290)で150℃の下噴霧乾燥し、10μmのフィルターで分級することで、個数基準メジアン径D50:1μm、10μm以上の粒子含有率が1%未満、アスペクト比1.3の導電性粒子3を得た。
【0042】
(実施例4)
実施例1で使用した2質量%ポリアニリン水溶液をスプレードライヤー(BUCHI社製、B-290)で120℃の下、噴霧乾燥し、10μmのフィルターで分級することで、個数基準メジアン径D50:2μm、10μm以上の粒子含有率が1%未満、アスペクト比1.9の導電性粒子4を得た。
【0043】
(実施例5)
実施例1で使用した2質量%ポリアニリン水溶液を超音波ノズルを用いてスプレードライヤー(BUCHI社製、B-290)で120℃の下噴霧乾燥し、10μmのフィルターで分級することで、個数基準メジアン径D50:4μm、10μm以上の粒子含有率が1%未満、アスペクト比1.5の導電性粒子5を得た。
【0044】
(実施例6~16)
以下、表1に記載の材料および方法に従い、実施例1~5で示した方法と同様にして、導電性粒子6~16をそれぞれ得た。尚、表1で使用した材料は以下のとおりである。
・aquaPASS-50P(ポリアニリンを含む水分散液、三菱ケミカル社製)
・PPY-12(ポリピロールを含む水分散液、丸菱油化工業社製)
・Clevios PH1000(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を含む水分散液、へレウス社製)
・Clevios P(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を含む水分散液、へレウス社製)
【0045】
(比較例1)
実施例1で使用した2質量%ポリアニリン水溶液をハイスピードミキサ(アーステクニカ社製、LFS2)で100℃に加熱しながら真空乾燥しながら撹拌(アジテータ300rpm、チョッパー1000rpm)することで、個数基準メジアン径D50:8μm、10μm以上の粒子含有率が10%、アスペクト比3.7の導電性粒子17を得た。
【0046】
(実施例17~32、比較例2)
<分散体1~17の製造>
導電性粒子1~17それぞれ5部について、水95部を加え、25℃にて遊星撹拌機(シンキー社製、あわとり錬太郎AR-100)により分散し、分散体1~17をそれぞれ得た。
【0047】
<分散体1~17の分散性評価>
分散体1~17をそれぞれ目視で確認し、下記評価基準に基づいて分散性を評価した。
【0048】
(評価基準)
◎:導電性粒子が凝集しておらず、24時間後でも沈殿が生じない(極めて良好)
〇:導電性粒子が凝集していないが、24時間後に沈殿が生じる(良好)
×:導電性粒子の凝集が発生し、均一な分散体が得られない(不良)
【0049】
(実施例33~48、比較例3)
<分散体18~34の製造>
導電性粒子の濃度が、2、5、7、10、15、20、25および30質量%となるように、導電性粒子1~17それぞれについて、水を添加して上記濃度の混合液を調製した。これらの混合液を遊星撹拌機(シンキー社製、あわとり錬太郎AR-100)を用いて、撹拌時間1分、脱泡時間1分で分散した。この分散された混合液を、マイクロトラック(MicrotracBel社製、MT3300II)により粒度分布をそれぞれ測定した。上記濃度の内、粒度分布におけるピーク粒径(最大頻度における粒子径)の値が100μmを超えない最大の濃度を最大充填率とした。各導電性粒子が最大充填率である分散体を、それぞれ分散体18~34とした。
【0050】
<分散体18~34の成膜>
分散体18~33をアプリケーター20milを用いて、それぞれポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ社製、ルミラー(登録商標)E20#75、厚み75μm)に塗工し、80℃で4分間、更に120℃で30分間乾燥してそれぞれ塗膜18~33を作製した。分散体34についても、同じ成膜方法によって塗膜の作製を試みたが、凝集物が生じているために均一な塗膜を得ることはできなかったため、以下の評価は行わなかった。
【0051】
<塗膜18~33の膜厚評価>
塗膜18~33に対し、日本工業規格(JIS)B7503に規定されたダイヤルゲージを用いて、任意の5箇所を測定し、上限値と下限値を除いた3点の平均値を膜厚とした。
【0052】
<塗膜18~33の均質性評価>
塗膜18~33を蛍光灯の光にかざした際の抜け(塗膜を通過した光の漏れ)の有無と、膜厚評価で得られた上限値と下限値の差が膜厚に対して10%以上かどうかで塗膜の均質性を評価した。
【0053】
(評価基準)
◎:光にかざした際に抜けがなく、膜厚の上限値と下限値の差が膜厚に対して10%未満(極めて良好)
〇:光にかざした際に抜けはないが、膜厚の上限値と下限値の差が膜厚に対して10%以上(良好)
×:光にかざした際に抜けがある(不良)
【0054】
以上述べた通り、本発明の導電性粒子は、いずれも5質量%以上の濃度で、凝集物のない均一な分散体を得ることができた。また、アスペクト比が小さいものほど、より均一な塗膜が得られることが明らかとなった。これに対して、比較例の導電性粒子では、凝集が生じ、均一な分散体を得ることができなかった。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】