(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】音信号処理方法、音信号処理装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20231226BHJP
【FI】
H04R3/00
(21)【出願番号】P 2019160071
(22)【出願日】2019-09-03
【審査請求日】2022-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相曾 優
【審査官】大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-050943(JP,A)
【文献】特開平07-006500(JP,A)
【文献】特開平04-018900(JP,A)
【文献】特開2015-080068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
演者が利用する第1機器に
ミックスバスから出力
される第1音信号に対して
出力チャンネルで第1信号処理を行い、
第2機器に
モニタバスから出力
される第2音信号に対して
モニタチャンネルで第2信号処理を行ない、
前記出力チャンネルのうち前記モニタバスに送出させる前記第1音信号の出力チャンネルの選択を受け付けた時、選択された該出力チャンネルの前記第1信号処理が施された前記第1音信号を前記第2音信号として前記モニタバスに送出し、
前記第2信号処理において、前記第2機器から出力される音が前記第1機器から出力される音の音質に近づくように前記第2音信号に対して音質調整を行なう、
音信号処理方法。
【請求項2】
前記演者に係る情報と、前記第2機器に係る情報と、を取得し、
前記演者に係る情報と、前記第2機器に係る情報と、に基づいて、前記音質調整を行なう、
請求項1に記載の音信号処理方法。
【請求項3】
前記第1機器に係る情報と、前記第2機器に係る情報と、を取得し、
前記第1機器に係る情報と、前記第2機器に係る情報と、に基づいて、前記音質調整を行なう、
請求項1に記載の音信号処理方法。
【請求項4】
前記第1機器に係る情報を取得した場合に、前記第1機器に係る情報に対応する音響特性を読み出し、読み出した前記音響特性に基づいて前記音質調整を行なう、
請求項3に記載の音信号処理方法。
【請求項5】
前記第1機器に係る情報は、利用者から受け付ける、
請求項4に記載の音信号処理方法。
【請求項6】
前記演者に係る情報を取得した場合に、前記演者に係る情報に対応する音響特性を読み出し、読み出した前記音響特性に基づいて前記音質調整を行なう、
請求項2に記載の音信号処理方法。
【請求項7】
前記第1機器と前記第2機器との音響特性の差分に基づいて、前記音質調整を行なう、
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の音信号処理方法。
【請求項8】
前記第2機器の音響特性をキャンセルする音質調整を行なった後に前記第1機器の音響特性を付加することで、前記音質調整を行なう、
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の音信号処理方法。
【請求項9】
前記音響特性は、マイクで測定する、
請求項4乃至請求項7のいずれか1項に記載の音信号処理方法。
【請求項10】
演者が利用する第1機器に
ミックスバスから出力
される第1音信号に対して
出力チャンネルで第1信号処理を行なう第1信号処理部と、
第2機器に
モニタバスから出力
される第2音信号に対して
モニタチャンネルで第2信号処理を行う第2信号処理部と、
前記出力チャンネルのうち前記モニタバスに送出させる前記第1音信号の出力チャンネルの選択を受け付けた時、選択された該出力チャンネルの前記第1信号処理が施された前記第1音信号を前記第2音信号として前記モニタバスに送出し、
前記第2信号処理において、前記第2機器から出力される音が前記第1機器から出力される音の音質に近づくように前記第2音信号に対して音質調整を行なうよう、前記第2信号処理部に設定する
制御部と、
を備えた音信号処理装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記演者に係る情報と、前記第2機器に係る情報と、を取得し、
前記演者に係る情報と、前記第2機器に係る情報と、に基づいて、前記音質調整を行なうよう、前記第2信号処理部に設定する、
請求項10に記載の音信号処理装置。
【請求項12】
前記制御部は、前記第1機器に係る情報と、前記第2機器に係る情報と、を取得し、
前記第1機器に係る情報と、前記第2機器に係る情報と、に基づいて、前記音質調整を行なうよう、前記第2信号処理部に設定する、
請求項10に記載の音信号処理装置。
【請求項13】
前記制御部は、前記第1機器に係る情報を取得した場合に、前記第1機器に係る情報に対応する音響特性を読み出し、読み出した前記音響特性に基づいて前記音質調整を行なうよう、前記第2信号処理部に設定する、
請求項12に記載の音信号処理装置。
【請求項14】
前記第1機器に係る情報は、利用者から受け付ける、
請求項13に記載の音信号処理装置。
【請求項15】
前記制御部は、前記演者に係る情報を取得した場合に、前記演者に係る情報に対応する音響特性を読み出し、読み出した前記音響特性に基づいて前記音質調整を行なうよう、前記第2信号処理部に設定する、
請求項11に記載の音信号処理装置。
【請求項16】
前記第2信号処理部は、前記第1機器と前記第2機器との音響特性の差分に基づいて、前記音質調整を行なう、
請求項10乃至請求項15のいずれか1項に記載の音信号処理装置。
【請求項17】
前記第2信号処理部は、前記第2機器の音響特性をキャンセルする音質調整を行なった後に前記第1機器の音響特性を付加することで、前記音質調整を行なう、
請求項10乃至請求項15のいずれか1項に記載の音信号処理装置。
【請求項18】
前記音響特性を測定するためのマイクを備えた、
請求項13乃至請求項17のいずれか1項に記載の音信号処理装置。
【請求項19】
演者が利用する第1機器にミックスバスから出力される第1音信号に対して出力チャンネルで第1信号処理を行い、
第2機器にモニタバスから出力される第2音信号に対してモニタチャンネルで第2信号処理を行ない、
前記出力チャンネルのうち前記モニタバスに送出させる前記第1音信号の出力チャンネルの選択を受け付けた時、選択された該出力チャンネルの前記第1信号処理が施された前記第1音信号を前記第2音信号として前記モニタバスに送出し、
前記第2信号処理において、前記第2機器から出力される音が前記第1機器から出力される音の音質に近づくように前記第2音信号に対して音質調整を行なう、
処理を音信号処理装置に実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の一実施形態は、音信号処理方法および音信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、異なる種類の2つのヘッドフォンの音響特性の違いをイコライザで調整する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
歌唱または演奏を行なう演者は、インイヤー型のヘッドフォンを用いてモニタ音を聞く場合がある。ミキサの操作者(以下、エンジニアと称する。)も、インイヤー型のヘッドフォンまたはスピーカを用いてモニタ音を聞く。
【0005】
しかし、演者の利用するヘッドフォンとエンジニアの利用するヘッドフォンが同じ種類の機器でない場合、演者が聞いているモニタ音と、エンジニアが聞いているモニタ音とは、異なる音質になる。そのため、エンジニアは、演者の利用するヘッドフォンと同じ種類のヘッドフォンを用意し、演者の聞いているモニタ音の音質に近い音質に調整を行なっていた。
【0006】
しかし、複数の演者がいる場合、エンジニアは、ある演者の聞いているモニタ音に近い音質に調整を行なったとしても、他の演者のモニタ音を切り換えると、当該他の演者の聞いているモニタ音の音質とは異なる音質で聞くことになる。そのため、エンジニアは、複数の演者のそれぞれ利用するヘッドフォンを用意し、モニタ音を切り換える度に利用するヘッドフォンを変更する必要があった。
【0007】
そこで、この発明の一実施形態は、モニタ音を切り換えても、ヘッドフォンを変更することなく、各演者の聞いているモニタ音に近い音質で聞くことができる音信号処理方法および音信号処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
音信号処理方法は、演者が利用する第1機器に出力するための第1音信号、および第2機器に出力するための第2音信号に対して信号処理を行ない、前記第2音信号を出力するためのモニタバスに、前記第1音信号を送出する設定がされた場合に、前記第2機器から出力される音が前記第1機器から出力される音の音質に近づくように前記第2音信号に対して音質調整を行なう。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、モニタ音を切り換えても、ヘッドフォンを変更することなく、各演者の聞いているモニタ音に近い音質で聞くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】音信号処理システム1の構成を示すブロック図である。
【
図3】DSP14、オーディオI/O13、およびCPU19で行われる信号処理の等価ブロック図である。
【
図4】入力チャンネル302、バス303、および出力チャンネル304の機能的構成を示す図である。
【
図5】ミキサ10の操作パネルの構成を示す図である。
【
図6】ミキサ10の動作を示すフローチャートである。
【
図7】ミキサ10の動作を示すフローチャートである。
【
図8】ミキサ10の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本実施形態の音信号処理システム1の構成を示すブロック図である。音信号処理システム1は、ミキサ10、ヘッドフォン20、ヘッドフォン71、マイク30、マイク70、およびヘッドフォン40を備えている。ヘッドフォン20は、ある演者P1の利用するインイヤー型のヘッドフォンである。マイク30は、演者P1の歌唱音または演奏を取得する。ヘッドフォン71は、演者P2の利用するインイヤー型のヘッドフォンである。マイク70は、演者P2の歌唱音または演奏を取得する。ヘッドフォン20およびヘッドフォン71は、第1機器の一例である。ヘッドフォン40は、エンジニアが用いるインイヤー型のヘッドフォンであり、第2機器の一例である。
【0012】
図2は、ミキサ10の構成を示すブロック図である。ミキサ10は、表示器11、操作部12、オーディオI/O(Input/Output)13、DSP(Disital Signal Processor)14、PC_I/O15、MIDI_I/O16、その他(Other)_I/O17、ネットワークI/F18、CPU19、フラッシュメモリ21、およびRAM22を備えている。
【0013】
表示器11、操作部12、オーディオI/O13、DSP14、PC_I/O15、MIDI_I/O16、その他_I/O17、CPU19、フラッシュメモリ21、およびRAM22は、互いにバス25を介して接続されている。また、オーディオI/O13およびDSP14は、音信号を伝送するための波形バス27にも接続されている。なお、後述のように、音信号は、ネットワークI/F18を介して送受信する場合がある。この場合、DSP14とネットワークI/F18は、不図示の専用バスを介して接続される。
【0014】
オーディオI/O13は、DSP14で処理すべき音信号の入力を受け付けるためのインタフェースである。オーディオI/O13には、音信号の入力を受け付けるアナログ入力ポートまたはデジタル入力ポート等が設けられている。オーディオI/O13は、例えば、マイク30およびマイク70を接続し、マイク30およびマイク70から音信号の入力を受け付ける。
【0015】
また、オーディオI/O13は、DSP14で処理された後の音信号を出力するためのインタフェースである。オーディオI/O13には、音信号を出力するアナログ出力ポートまたはデジタル出力ポート等が設けられている。オーディオI/O13は、例えば、ヘッドフォン20、ヘッドフォン71、およびヘッドフォン40を接続し、ヘッドフォン20、ヘッドフォン71、およびヘッドフォン40に音信号を出力する。
【0016】
PC_I/O15、MIDI_I/O16、およびその他_I/O17は、それぞれ、種々の外部機器を接続し、入出力を行うためのインタフェースである。PC_I/O15には、例えばパーソナルコンピュータ等の情報処理装置が接続される。MIDI_I/O16には、例えばフィジカルコントローラまたは電子楽器のようなMIDI対応機器が接続される。その他_I/O17には、例えばディスプレイが接続される。あるいは、その他_I/O17には、マウスまたはキーボード等のUI(User Interface)デバイスが接続される。外部機器との通信に用いる規格は、イーサネット(登録商標)、またはUSB(Universal Serial Bus)等、任意のものを採用することができる。接続態様は、有線でも無線でも構わない。
【0017】
ネットワークI/F18は、ネットワークを介して他装置と通信する。また、ネットワークI/F18は、ネットワークを介して他装置から音信号を受信し、受信した音信号をDSP14に入力する。また、ネットワークI/F18は、DSP14で信号処理された後の音信号を受信し、ネットワークを介して他装置に送信する。他装置は、ネットワークI/Fを有するマイク30、マイク70、ヘッドフォン20、ヘッドフォン71、およびヘッドフォン40を含む。
【0018】
CPU19は、ミキサ10の動作を制御する制御部である。CPU19は、記憶部であるフラッシュメモリ21に記憶された所定のプログラムをRAM22に読み出すことにより各種の動作を行なう。なお、プログラムは、自装置のフラッシュメモリ21に記憶している必要はない。例えば、サーバ等の他装置から都度ダウンロードして、RAM22に読み出してもよい。
【0019】
表示器11は、CPU19の制御に従って種々の情報を表示する。表示器11は、例えばLCDまたは発光ダイオード(LED)等によって構成される。
【0020】
操作部12は、エンジニアからミキサ10に対する操作を受け付ける。操作部12は、種々のキー、ボタン、ロータリーエンコーダ、またはスライダ等によって構成される。また、操作部12は、表示器11であるLCDに積層したタッチパネルによって構成される場合もある。
【0021】
DSP14は、ミキシングまたはイコライジング等の各種信号処理を行なう。DSP14は、オーディオI/O13から波形バス27を介して供給される音信号に、ミキシングまたはイコライジング等の信号処理を施す。DSP14は、信号処理後のデジタル音信号を、波形バス27を介して再びオーディオI/O13に出力する。
【0022】
図3は、DSP14、オーディオI/O13、およびCPU19で行われる信号処理の機能を示すブロック図である。
図3に示すように、信号処理は、機能的に、入力パッチ301、入力チャンネル302、バス303、出力チャンネル304、および出力パッチ305によって行なわれる。
【0023】
入力パッチ301は、オーディオI/O13における複数の入力ポート(例えばアナログ入力ポートまたはデジタル入力ポート)から音信号を入力して、複数のポートのうちいずれか1つのポートを、複数チャンネル(例えば32ch)の少なくとも1つのチャンネルに割り当てる。これにより、音信号が入力チャンネル302の各チャンネルに供給される。
【0024】
図4は、入力チャンネル302、バス303、および出力チャンネル304の機能的構成を示す図である。入力チャンネル302は、例えば第1入力チャンネルの信号処理ブロック3001から第32入力チャンネルの信号処理ブロック3032まで、複数の信号処理ブロックを有する。各信号処理ブロックは、入力パッチ301から供給した音信号に対して、イコライザまたはコンプレッサ等の各種の信号処理を施す。
【0025】
バス303は、ステレオバス313、MIXバス315、およびモニタバス316を有する。各入力チャンネルの信号処理ブロックは、信号処理後の音信号をステレオバス313、MIXバス315、およびモニタバス316に入力する。入力チャンネルの各信号処理ブロックは、それぞれのバスに対する送出レベルを設定する。
【0026】
ステレオバス313は、出力チャンネル304におけるメイン出力となるステレオチャンネルに対応する。MIXバス315は、例えば各演者のモニタ用のスピーカまたはヘッドフォン(例えばヘッドフォン20およびヘッドフォン71)に対応する。モニタバス316は、エンジニアのモニタ用のスピーカまたはヘッドフォン(例えばヘッドフォン40)に対応する。ステレオバス313、MIXバス315、およびモニタバス316は、それぞれ入力した音信号をミキシングする。ステレオバス313、MIXバス315、およびモニタバス316は、それぞれミキシングした音信号を、出力チャンネル304に出力する。
【0027】
出力チャンネル304は、入力チャンネル302と同様に、バス303から入力した音信号に対して、各種の信号処理を施す。例えば、第1出力チャンネルの信号処理ブロック3051および第2出力チャンネルの信号処理ブロック3052は、第1MIXバスおよび第2MIXバスから送出される第1音信号に信号処理を行なう。モニタチャンネルの信号処理ブロック3071は、モニタバス316から送出される第2音信号に信号処理を行なう。信号処理ブロック3051および信号処理ブロック3052は、第1信号処理部の一例である。信号処理ブロック3071は、第2信号処理部の一例である。
【0028】
出力チャンネル304は、各信号処理ブロックで信号処理を行なった後の音信号を出力パッチ305へ出力する。出力パッチ305は、各出力チャンネルを、アナログ出力ポートまたはデジタル出力ポートにおける複数のポートのうちいずれか1つのポートに割り当てる。これにより、出力パッチ305は、信号処理を施した後の音信号を、オーディオI/O13に供給する。
【0029】
エンジニアは、操作部12を介して、上述の各種の信号処理のパラメータを設定する。
図5は、ミキサ10の操作パネルの構成を示す図である。
図5に示すように、ミキサ10は、操作パネル上に、タッチスクリーン51およびチャンネルストリップ61等を設けている。これら構成は、
図2に示した表示器11および操作部12に相当する。なお、
図5では、タッチスクリーン51およびチャンネルストリップ61だけを示しているが、実際には多数のノブまたはスイッチ等がある。
【0030】
タッチスクリーン51は、操作部12の一態様であるタッチパネルを積層した表示器11であり、ユーザの操作を受け付けるためのGUI(グラフィカルユーザインタフェース)を構成する。
【0031】
チャンネルストリップ61は、1つのチャンネルに対する操作を受け付ける複数の操作子を縦に並べて配置した領域である。この図では、操作子として、チャンネル毎に1つフェーダと1つのノブだけを表示しているが、実際には多数のノブまたはスイッチ等がある。チャンネルストリップ61のうち、左側に配置された複数のフェーダおよびノブは、入力チャンネルに相当する。右側に配置された2つのフェーダおよびノブは、メイン出力に対応する操作子である。エンジニアは、フェーダおよびノブを操作して、各入力チャンネルのゲインを設定したり、バス303に対する送出レベルを設定したりする。CPU19は、受け付けたゲインの設定および送出レベルの設定に基づいて、入力パッチ301、入力チャンネル302、バス303、出力チャンネル304、および出力パッチ305によって行なわれる信号処理を制御する。
【0032】
エンジニアは、モニタバス316に送出する対象の音信号を選択する。例えば、エンジニアは、第1MIXバスの第1音信号をモニタバス316に送出する指示を行なう。
【0033】
出力チャンネル304における各信号処理ブロックは、信号処理した後の第1音信号をモニタバス316に送出する。例えば、エンジニアが、第1MIXバスの第1音信号をモニタバス316に送出する指示を行なうと、信号処理ブロック3051は、信号処理した後の第1音信号をモニタバス316に送出する。モニタチャンネルの信号処理ブロック3071は、信号処理ブロック3051で信号処理した後の第1音信号を、第2音信号として受け付ける。このとき、CPU19は、モニタバス316に送出する音信号のうち、信号処理ブロック3051で信号処理した後の第1音信号以外の他の音信号のレベルを低減するように制御してもよい。この場合、エンジニアは、演者P1の聞いているモニタ音だけを聞くことができる。
【0034】
信号処理ブロック3071は、ヘッドフォン40から出力される音がヘッドフォン20の音響特性に近似した音質になるように、第2音信号に対して音質調整を行なう。例えば、信号処理ブロック3071は、第2信号に対して、ヘッドフォン40の音響特性をキャンセルするように周波数特性を調整し、かつヘッドフォン20の音響特性を付加するように周波数特性を調整する。これにより、エンジニアは、演者P1の利用するヘッドフォン20の音響特性を反映した音質で、第1MIXバスの出力音を聞くことができる。
【0035】
ここで、例えば、エンジニアが、第2MIXバスの第1音信号をモニタバス316に送出する指示を行なうと、信号処理ブロック3052は、信号処理した後の第1音信号をモニタバス316に送出する。モニタチャンネルの信号処理ブロック3071は、信号処理ブロック3052で信号処理した後の第1音信号を、第2音信号として受け付ける。信号処理ブロック3071は、ヘッドフォン40から出力される音がヘッドフォン71の音響特性に近似した音質になるように、第2音信号に対して音質調整を行なう。例えば、信号処理ブロック3071は、第2信号に対して、ヘッドフォン40の音響特性をキャンセルするように周波数特性を調整し、かつヘッドフォン71の音響特性を付加するように周波数特性を調整する。これにより、エンジニアは、演者P2の利用するヘッドフォン71の音響特性を反映した音質で、第2MIXバスの出力音を聞くことができる。
【0036】
この様に、本実施形態のミキサ10によれば、エンジニアは、モニタ対象とするチャンネルを切り換える操作を行なうだけで、煩雑な操作を行なう必要なく、各演者の利用するヘッドフォンの音響特性に近似した音質で、モニタ音を聞くことができる。
【0037】
ミキサ10は、対象のヘッドフォン(第1機器)の音響特性に近づく様に音質調整を行なうために、例えば以下の様な動作を行なう。
【0038】
図6、
図7、および
図8は、ミキサ10の動作を示すフローチャートである。
図6および
図7の動作は、リハーサルの前に、エンジニアがミキサ10を操作することにより実行する。
図8の動作は、リハーサル中または本番中に、エンジニアがミキサ10を操作することにより実行する。
【0039】
図6に示す様に、まず、CPU19は、操作部12を介して、チャンネルの選択を受け付ける(S11)。その後、CPU19は、選択されたチャンネルの演者で利用されているヘッドフォンの機種名を受け付ける(S12)。機種名は、第2機器に係る情報の一例である。CPU19は、選択されたチャンネルと、機種名の情報と、を対応付けてフラッシュメモリ21またはRAM22に記憶する。
【0040】
また、
図7に示す様に、CPU19は、操作部12を介して、モニタチャンネルに接続されているヘッドフォンの機種名を受け付ける(S15)。すなわち、CPU19は、エンジニアの利用しているヘッドフォンの機種名を受け付ける。機種名は、第1機器に係る情報の一例である。CPU19は、受け付けた機種名の情報をフラッシュメモリ21またはRAM22に記憶する。
【0041】
図8に示す様に、CPU19は、エンジニアから、モニタバス316に送出するチャンネルの選択を受け付ける(S21)。その後、CPU19は、フラッシュメモリ21またはRAM22に記憶されている情報を参照し、選択されたチャンネルに対応付けられているヘッドフォンの機種名を読み出す(S22)。
【0042】
CPU19は、読み出した機種名に対応する音響特性、および出力先の第2機器(ヘッドフォン40)の音響特性を読み出す(S23)。機種名に対する音響特性の情報は、例えばフラッシュメモリ21またはRAM22に記憶されている。CPU19は、フラッシュメモリ21またはRAM22から対応する音響特性を読み出す。または、CPU19は、サーバ等の他装置から、機種名に対応する音響情報を取得してもよい。ヘッドフォン40の音響特性も、例えばフラッシュメモリ21またはRAM22に記憶されている。CPU19は、S16で記憶したヘッドフォン40の機種名に対応する音響特性をフラッシュメモリ21またはRAM22から読み出す。または、CPU19は、サーバ等の他装置から、ヘッドフォン40の音響特性を取得してもよい。
【0043】
CPU19は、選択されたチャンネルの第1音信号をモニタバス316に送出する設定を行なう(S24)。これにより、信号処理ブロック3071は、選択されたチャンネルの第1音信号を、第2音信号として受け付ける。CPU19は、第2信号処理部である信号処理ブロック3071に対して、機器間の音響特性の差分に基づいて第2音信号の音質調整を行なうよう、設定する(S25)。信号処理ブロック3071は、例えば、上述した様にヘッドフォン40の音響特性をキャンセルするように周波数特性を調整し、かつ第1機器(例えばヘッドフォン20またはヘッドフォン71)の音響特性を付加するように周波数特性を調整する。あるいは、信号処理ブロック3071は、第1機器と第2機器との音響特性の差分に基づいて、音質調整を行なってもよい。
【0044】
なお、音響特性は、マイクを用いて測定することも可能である。例えば、エンジニアは、コンデンサマイク等の小型のマイクおよびダミーヘッドを用意する。エンジニアは、ダミーヘッドの耳にマイクおよび対象のヘッドフォンを取り付ける。エンジニアは、ミキサ10を操作して、ホワイトノイズ等のテスト音をヘッドフォンから出力し、マイクで取得した音信号の音響特性を測定する。これにより、ミキサ10は、音響特性を測定する。この場合、ミキサ10は、
図6のS12の処理を実行する必要はない。また、ミキサ10は、S13の処理において、選択されたチャンネルと、測定した音響特性と、を対応付けてフラッシュメモリ21またはRAM22に記憶する。また、ミキサ10は、
図7のS16の処理において、測定した音響特性を記憶する。ミキサ10は、
図8のS22の処理を実行する必要はない。ミキサ10は、S23の処理において、選択されたチャンネルに対応する音響特性を読み出す。
【0045】
なお、ミキサ10は、S11の処理において、演者に係る情報(例えば演者の名前)の入力を受け付けてもよい。この場合、ミキサ10は、S12の処理において、受け付けた演者が利用するヘッドフォンの機種名を受け付ける。そして、CPU19は、S13の処理において、演者に係る情報と、ヘッドフォンの機種名と、を対応付けて、フラッシュメモリ21またはRAM22に記憶する。
【0046】
また、ミキサ10は、
図8のS21の処理において、演者に係る情報の入力を受け付ける。この場合、ミキサ10は、S22の処理において、受け付けた演者に係る情報に対応する機種名を読み出す。したがって、ミキサ10は、S23において、受け付けた演者に係る情報に対応する音響特性を読み出すことになる。
【0047】
この様に、ミキサ10は、演者に係る情報と、第2機器に係る情報と、を取得し、演者に係る情報と、第2機器に係る情報と、に基づいて、前記音質調整を行なうことも可能である。
【0048】
本実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0049】
例えば、上記実施形態では、演者もエンジニアも、インイヤー型のヘッドフォンを用いる例を示した。しかし、例えば、演者またはエンジニアは、スピーカを用いてもよい。この場合もミキサ10は、対象となるヘッドフォンまたはスピーカの音響特性に応じて、エンジニアのモニタ用ヘッドフォンまたはスピーカに出力する第2音信号の音質調整を行なう。
【0050】
また、上記実施形態では、対象となるヘッドフォンまたはスピーカの音響特性に応じて、第2音信号の音質調整を行なう例を示した。しかし、ミキサ10は、第2機器から出力される音が第1機器から出力される音の音質に近づくように音質調整を行なう態様であればどの様な処理を行なってもよい。例えば、演者P1のヘッドフォン20が、入力した第1音信号に対して、コンプレッサ等のエフェクト処理を行なう場合、ミキサ10は、第2音信号に対して、同じエフェクト処理を行なってもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、エンジニアが機種名等の、機器に係る情報を入力する例を示した。しかし、機種名等の情報は、エンジニアが手動で入力する必要はない。例えば、ミキサ10は、ヘッドフォンとネットワークを介して接続される場合に、機器固有の情報(製造番号等)を取得する。ミキサ10は、製造番号に対応する機種名を、製造番号と機種名とを管理している管理サーバ等から取得する。
【符号の説明】
【0052】
1…音信号処理システム
10…ミキサ
11…表示器
12…操作部
13…オーディオI/O
14…DSP
15…PC_I/O
16…MIDI_I/O
17…その他_I/O
18…ネットワークI/F
19…CPU
20、71…ヘッドフォン
21…フラッシュメモリ
21…ヘッドフォン
22…RAM
25…バス
27…波形バス
30、70…マイク
31…表示器
40…ヘッドフォン
51…タッチスクリーン
61…チャンネルストリップ
301…入力パッチ
302…入力チャンネル
303…バス
304…出力チャンネル
305…出力パッチ
313…ステレオバス
315…MIXバス
316…モニタバス
3001…信号処理ブロック
3032…信号処理ブロック
3051…信号処理ブロック
3052…信号処理ブロック
3071…信号処理ブロック