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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】電池監視装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 58/13 20190101AFI20231226BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20231226BHJP
   B60L 58/18 20190101ALI20231226BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20231226BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20231226BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
B60L58/13
B60L3/00 S
B60L58/18
H02J7/00 Y
H02J7/00 P
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H01M10/44 P
H01M10/44 101
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019166205
(22)【出願日】2019-09-12
(65)【公開番号】P2021044964
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石渡 憲弘
(72)【発明者】
【氏名】檀原 正寛
(72)【発明者】
【氏名】飯田 剛史
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-175871(JP,A)
【文献】特開2014-166034(JP,A)
【文献】特開2014-017901(JP,A)
【文献】特開2010-035350(JP,A)
【文献】特開2011-041422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-58/40
H02J 7/00
H01M 10/48
H01M 10/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電池セル(12)が直列に接続され、システムメインリレー(20)を介して車両の走行駆動源である電気モータに電力を供給する組電池(10)を監視する電池監視装置(50)であって、
前記複数の電池セルのそれぞれのセル電圧を検出する監視IC(52)と、
前記複数の電池セルは直列に接続された2個以上の前記電池セルのグループに分けられており、前記グループの電圧を検出する電圧検出回路(56)と、
前記監視ICの異常を検出すると、前記監視ICの異常を検出する前の前記組電池の充放電を制御するための少なくとも前記セル電圧を含む電池情報、ならびに前記電圧検出回路が検出する前記グループの電圧に基づいて、前記車両が退避走行するために必要な制御情報を設定するように構成されている制御部(60)と、
を備える電池監視装置。
【請求項2】
複数の電池セル(12)が直列に接続され、システムメインリレー(20)を介して車両の走行駆動源である電気モータに電力を供給する組電池(10)を監視する電池監視装置(50)であって、
前記複数の電池セルのそれぞれのセル電圧を検出する監視IC(52)と、
前記監視ICの異常を検出すると、前記監視ICの異常を検出する前の前記組電池の充放電を制御するための電池情報に基づいて、前記車両が退避走行するために必要な制御情報を設定するように構成されている制御部(60)と、
を備え
前記制御部は、前記監視ICの異常時において取得する正常な前記電池情報と、前記監視ICの異常を検出する前の正常な前記電池情報とに基づいて、前記制御情報を設定するように構成されている、
電池監視装置。
【請求項3】
複数の電池セル(12)が直列に接続され、システムメインリレー(20)を介して車両の走行駆動源である電気モータに電力を供給する組電池(10)を監視する電池監視装置(50)であって、
前記複数の電池セルのそれぞれのセル電圧を検出する監視IC(52)と、
前記監視ICの異常を検出すると、前記監視ICの異常を検出する前の前記組電池の充放電を制御するための電池情報に基づいて、前記車両が退避走行するために必要な制御情報を設定するように構成されている制御部(60)と、
を備え
前記制御部は、前記監視ICの異常を検出する前の前記電池情報と、前記車両の退避走行中の前記電池情報とに基づいて、前記車両の退避走行中において前記制御情報として前記組電池の充放電幅を小さく補正するように構成されている、
電池監視装置。
【請求項4】
請求項1または3に記載の電池監視装置であって、
前記制御部は、前記監視ICの異常時において取得する正常な前記電池情報と、前記監視ICの異常を検出する前の正常な前記電池情報とに基づいて、前記制御情報を設定するように構成されている、
電池監視装置。
【請求項5】
請求項1、あるいは請求項1を引用する請求項4に記載の電池監視装置であって、
前記制御部は、前記監視ICの異常を検出する前の前記電池情報と、前記車両の退避走行中の前記電池情報とに基づいて、前記車両の退避走行中において前記制御情報として前記組電池の充放電幅を小さく補正するように構成されている、
電池監視装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の電池監視装置であって、
前記制御部は、前記監視ICの異常を検出する前の前記電池情報として、前記セル電圧に加え、前記セル電圧のばらつきと、前記組電池の温度と、前記組電池の電流値と、のうち少なくとも一つに基づいて、前記制御情報として前記車両が退避走行するときの前記組電池の充放電幅を算出するように構成されている、
電池監視装置。
【請求項7】
請求項1、あるいは請求項1を引用する請求項4、あるいは請求項5、のいずれかを引用する請求項6に記載の電池監視装置であって、
前記制御部は、前記車両の退避走行中において、前記電池情報として、前記セル電圧に加え、少なくとも前記グループに属する前記セル電圧のばらつき、ならびに前記電圧検出回路が検出する前記グループの電圧に基づいて、前記制御情報を設定するように構成されている、
電池監視装置。
【請求項8】
請求項7に記載の電池監視装置であって、
前記制御部は、前記車両の退避走行中において、前記監視ICの異常を検出する前の前記電池情報と、前記車両の退避走行中の前記電池情報とに基づいて、前記電圧検出回路が検出する前記グループの電圧を補正して前記制御情報を設定するために使用するように構成されている、
電池監視装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の電池監視装置であって、
前記制御部は、前記監視ICの異常を検出する前の前記電池情報に信頼性がない場合、前記セル電圧のばらつきが最大であると想定して、前記車両が退避走行するときの前組記電池の充放電幅を算出するように構成されている、
電池監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数の電池セルが直列に接続され、システムメインリレーを介して車両の走行駆動源である電気モータに電力を供給する組電池を監視する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の電池セルが直列に接続され、システムメインリレーを介して車両の走行駆動源である電気モータに電力を供給する組電池を監視する技術が知られている。
下記の特許文献1には、制御マイコンが組電池の状態を監視して異常を検出すると、検出した異常の程度に応じて適切な処理を実行する技術が記載されている。例えば、制御マイコンは、組電池の軽微な異常として、組電池の温度が所定温度以上に上昇している異常を検出すると、ファンを駆動して組電池の温度を低下させる。
【0003】
そして、制御マイコンは、組電池の異常が解消されると組電池は電力供給可能であると判断し、組電池全体の残容量を算出して監視マイコンに送信する。監視マイコンは、制御マイコンから送信された組電池の残容量を記憶する。監視マイコンは、制御マイコンに異常が生じると、記憶している組電池の残容量から、走行駆動源である電気モータにより車両を走行させることができる走行可能時間を決定する。
【0004】
一方、組電池の重度の異常として、組電池の温度を検出する温度センサと、組電池から放電される電流値を検出する電流センサと、組電池を構成する電池セルのそれぞれの電圧を検出する監視ICとのうち、少なくとも1つに異常が生じると、制御マイコンは、組電池と電気モータとを接続する電力供給経路に設置されたシステムメインリレーを遮断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-017901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、発明者の詳細な検討の結果、車両の走行駆動源が組電池だけの場合、組電池の重度の異常として監視ICに異常が生じた場合にシステムメインリレーを遮断すると、車両が退避走行できないという課題が見出された。
【0007】
本開示の1つの局面は、監視ICに異常が生じても、走行駆動源である電気モータに組電池から電力を供給して車両の退避走行を可能とする技術を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の1つの態様による電池監視装置(50)は、複数の電池セル(12)が直列に接続されており、システムメインリレー(20)を介して車両の走行駆動源である電気モータに電力を供給する組電池(10)を監視し、監視IC(52)と、制御部(60)とを備える。
【0009】
監視ICは、複数の電池セルのそれぞれのセル電圧を検出する。制御部は、監視ICの異常を検出すると、監視ICの異常を検出する前の組電池の充放電を制御するための電池情報に基づいて、車両が退避走行するために必要な制御情報を設定する。
【0010】
このような構成によれば、電池セルのセル電圧を検出する監視ICが異常になっても、すぐにシステムメインリレーを遮断して組電池から電気モータへの電力供給を遮断するのではなく、監視ICが異常になる前の電池情報に基づいて、車両が退避走行するために必要な制御情報を設定できる。
【0011】
これにより、車両の走行を制御する走行制御装置は、電池監視装置が設定する制御情報に基づいて、組電池の充放電を制御しながら、走行駆動源である電気モータを停止させることなく車両を退避走行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】電池管理システムを示すブロック図。
図2】電池監視処理を示すフローチャート。
図3】監視ICの異常検出処理を示すフローチャート。
図4】退避走行中の充放電幅算出処理を示すフローチャート。
図5】電池監視処理を示すタイムチャート。
図6】電池情報に信頼性がない場合の充放電幅の算出を説明する図。
図7】電池情報に信頼性がある場合の充放電幅の算出を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図を参照しながら本開示の実施形態を説明する。
[1.構成]
図1に示す電池監視システム2は、組電池10と、SMR20と、電流センサ30と、温度センサ40と、電池監視装置50と、を備えている。組電池10は、直列に接続されている複数の電池セル12を備えている。SMRはシステムメインリレーの略である。車両の走行を制御する走行制御装置70は、電池監視装置50から、組電池10の充放電幅等の制御情報を取得する。
【0014】
SMR20は、組電池10と図示しない車両の走行駆動源である電気モータとを接続する電力供給経路に設置されている。SMR20がオンになると、組電池10から電気モータに電力が供給され、SMR20がオフになると、組電池10から電気モータへの電力供給が遮断される。SMR20は、例えば、電池監視装置50と走行制御装置70との少なくともいずれかにより、オンまたはオフされる。
【0015】
電流センサ30は、組電池10を流れる電流値を検出する。複数の温度センサ40のそれぞれは、組電池10の所定位置の温度を検出する。
電池監視装置50は、監視IC52と、フォトカプラ54と、フライングキャパシタ回路56と、制御マイコン60と、監視マイコン62と、を備えている。
【0016】
監視IC52は、1個または2個以上の電池セル12のそれぞれのセル電圧を検出し、検出したセル電圧をフォトカプラ54を介して制御マイコン60に通知する。複数の監視IC52により、組電池10の各電池セル12のセル電圧が検出される。
【0017】
フライングキャパシタ回路56は、所定の個数の電池セル12毎の電圧を検出する。フライングキャパシタ回路56が電圧を検出する所定の個数の電池セル12のブロックをFCBともいう。FCBはフライングキャパシタブロックの略である。
【0018】
制御マイコン60は、電流センサ30から組電池10の電流値を取得し、温度センサ40から組電池10の所定位置の温度を取得する。また、制御マイコン60は、フライングキャパシタ回路56からFCB毎の電圧値を取得する。
【0019】
制御マイコン60と監視マイコン62とは、互いに相手のマイコンが正常であるか異常であるか否かを監視している。
[2.処理]
(1)電池監視処理
次に、電池監視装置50が実行する電池監視処理について、図2のフローチャートを用いて説明する。図2のフローチャートは所定の時間間隔で常時実行される。
【0020】
S400において電池監視装置50の制御マイコン60は、監視IC52の異常を検出する処理を実行する。S400の監視IC異常検出処理については後述する。
S402において制御マイコン60は、S400の監視IC異常検出処理の結果に基づいて、異常な監視IC52が存在するか否かを判定する。ここで、異常な監視IC52とは、S400の監視IC異常検出処理において、異常が確定した監視IC52を表している。
【0021】
S402の判定がYesである、つまり異常な監視IC52が存在する場合、処理はS410に移行する。S402の判定がNoである、つまり異常な監視IC52が存在しない場合、S404において制御マイコン60は、異常な監視IC52は存在しないが仮異常の監視IC52が存在するか否かを判定する。監視IC52が仮異常であるとは、監視IC52の異常は検出されたが、まだ監視IC52の異常が確定されていない状態であることを表している。
【0022】
S404の判定がYesである、つまり、異常は確定していないが仮異常の監視IC52が存在する場合、S406において制御マイコン60は、仮異常の監視IC52を除いた正常な監視IC52が検出するセル電圧を含み、組電池10の充放電を制御するための電池情報を取得して学習する。
【0023】
電池情報は、例えば、各電池セル12のセル電圧と、セル電圧のバラツキと、電流センサ30が検出する組電池10を流れる電流値と、温度センサ40が検出する組電池10の温度と、などである。
【0024】
制御マイコン60は、監視IC52が正常であっても、監視IC52が検出する電池セル12のセル電圧、または電流センサ30が検出する組電池10の電流値、または温度センサ40が検出する組電池10の温度が所定範囲から外れており異常である場合、異常な電池情報は学習せず、正常な電池情報だけを取得して学習する。
【0025】
また、学習する電池情報は、今回学習した電池情報で前回学習した電池情報を上書きしてもよいし、電池情報を時系列に記憶して学習してもよい。
図5に示すように、制御マイコン60は、仮異常の監視IC52が検出する電池セル12のセル電圧は信頼性がないと判断し、セル電圧を学習しない。この場合、仮異常または異常の確定している監視IC52については、異常が検出される前の正常な監視IC52が検出した電池セル12のセル電圧が保持される。
【0026】
S404の判定がNoである、つまり仮異常の監視IC52が存在しない場合、S408において制御マイコン60は、すべての監視IC52が検出するセル電圧を含み、前述した正常な電池情報を取得して学習する。
【0027】
S410において制御マイコン60は、車両が退避走行中の組電池10の充放電幅を算出する処理を実行する。S410の充放電幅算出処理については、後述する。
S412において制御マイコン60は、S410の退避走行中の充放電幅算出処理の算出結果に基づいて、組電池10の充放電を制御して組電池10から供給される電力により車両が退避走行可能であるか否かを判定する。
【0028】
例えば、制御マイコンは、S412で算出された充放電幅が所定の幅以下であれば、走行制御装置70が組電池10の充放電を制御して電気モータを駆動することより車両を退避走行させることは困難だと判断する。したがって、制御マイコン60は、退避走行中の充放電幅が所定の幅以下であれば、S412の判定をNoとし、退避走行中の充放電幅が所定の幅よりも大きければ、S412の判定をYesとする。
【0029】
S412の判定がYesである、つまり組電池10の充放電を制御して車両を退避走行させることができる場合、S414において制御マイコン60は、車両を退避走行させるための制御情報として、走行制御装置70に充放電幅などを送信して通知する。
【0030】
図5に示すように、走行制御装置70は、電池監視装置50から送信された制御情報に基づいて、組電池10の充放電を制御して走行駆動源である電気モータの駆動を制御することにより、車両を退避走行させる。
【0031】
S412の判定がNoである、つまり組電池10の充放電を制御して車両を退避走行させることができない場合、S416において制御マイコン60は、SMR20をオフにして、組電池10から電気モータへの電力供給を遮断するように、走行制御装置70に指示する。
【0032】
図5に示すように、走行制御装置70は、電池監視装置50からSMR20をオフにするよう指示されると、走行制御の終了処理を実行後、SMR20をオフにする。
(2)監視IC異常検出処理
図2のS400で実行される監視IC異常検出処理について、図3のフローチャートに基づいて説明する。
【0033】
S420において制御マイコン60は、監視IC52が異常であるか否かを判定する。監視IC52が異常であるとは、例えば、監視IC52から電池セル12のセル電圧が所定時間経過しても送信されてこないことを表している。S420の判定がYesである、つまり監視IC52が異常である場合、処理はS428に移行する。
【0034】
S420の判定がNoである、つまり監視IC52が異常ではない場合、S422において制御マイコン60は、監視IC52が正常であるか否かを判定する。S422の判定がNoである、つまり監視IC52が異常でも正常でもない場合、本処理は終了する。
【0035】
S422の判定がYesである、つまり監視IC52が正常である場合、S424において制御マイコン60は、監視IC52が正常であるとのS422の判定が所定回数連続したか否かを判定する。S424の判定がNoである、つまり監視IC52が正常であるとのS422の判定がまだ所定回数連続していない場合、本処理は終了する。
【0036】
S424の判定がYesである、つまり監視IC52が正常であるとのS422の判定がまだ所定回数連続した場合、S426において制御マイコン60は、監視IC52が正常であることを確定し、監視IC52が異常であることを取り消す。
【0037】
S428において制御マイコン60は、監視IC52が異常であるとのS420の判定が所定回数累積したか否かを判定する。S428の判定がNoである、つまり監視IC52が異常であるとのS420の判定がまだ所定回数累積していない場合、S430において制御マイコン60は、異常が検出されているが、まだ異常を検出された累積回数が所定回数に達していない監視IC52は仮異常であると判断する。
【0038】
S428の判定がYesである、つまり監視IC52が異常であるとのS420の判定が所定回数累積した場合、S432において制御マイコン60は、監視IC52が異常であることを確定し、監視IC52が正常であることを取り消す。
【0039】
(3)充放電幅算出処理
図2のS410で実行される退避走行中の充電幅算出処理について、図4のフローチャートに基づいて説明する。
【0040】
S440において制御マイコン60は、監視IC52の異常が確定する前の電池監視装置50が取得する電池情報に信頼性があるか否かを判定する。例えば、電池監視装置50に供給される電圧が所定範囲よりも低電圧であるため、制御マイコン60または監視マイコン62が正常に作動していない可能性がある場合、S440の判定はNoになる。
【0041】
S440の判定がNoである、つまり監視IC52の異常が確定する前の電池監視装置50が取得する電池情報に信頼性がない場合、S442において制御マイコン60は、FCB毎の電池セル12のセル電圧に最大のばらつきがある場合の充放電幅を設定する。例えば、制御マイコン60は、図6に示すように、FCB毎の電圧の最大値と最小値とのばらつきが最大であるとして、充電可能な電圧と放電可能な電圧との幅を充放電幅として設定する。
【0042】
S440の判定がYesである、つまり監視IC52が異常になる前の電池監視装置50が取得する電池情報に信頼性がある場合、S444において制御マイコン60は、退避走行中の組電池10の充放電幅を算出する。
【0043】
例えば、制御マイコン60は、異常な監視IC52が監視している電池セル12が属しているFCBについて、異常な監視IC52が仮異常になる前に検出していたセル電圧と正常な監視IC52が検出するセル電圧とに基づいて、セル電圧の最大値と最小値とを取得する。正常な監視IC52が監視している電池セル12が属しているFCBについては、正常な監視IC52が検出するセル電圧の最大値と最小値とを取得する。
【0044】
そして、制御マイコン60は、異常な監視IC52が監視している電池セル12が属しているFCBについては、図7に示すように、取得したセル電圧の最大値と最小値とフライングキャパシタ回路56が検出するFCBの電圧とに基づいて、車両が退避走行中の組電池10の充放電幅を算出する。
【0045】
一方、制御マイコン60は、正常な監視IC52が監視している電池セル12が属しているFCBについては、正常な監視IC52から取得したセル電圧の最大値と最小値とに基づいて、車両が退避走行中の組電池10の充放電幅を算出する。
【0046】
そして、異常な監視IC52が監視している電池セル12が属しているFCBについて算出した充放電幅と、正常な監視IC52が監視している電池セル12が属しているFCBについて算出した充放電幅とに基づいて、組電池10の充放電幅を算出する。
【0047】
これに対し、異常な監視IC52が存在すると、正常な監視IC52が存在しても、すべてのFCBについて、異常な監視ICが発生する前に取得したセル電圧の最大値と最小値とフライングキャパシタ回路56が検出するFCBの電圧とに基づいて、退避走行中の組電池10の充放電幅を算出してもよい。
【0048】
S446において制御マイコン60は、組電池10が充電と放電とを繰り返す毎に、電池セル12の劣化と電池温度等によりセル電圧のばらつきが大きくなることを考慮し、充電可能な上限電圧と、放電可能な下限電圧とを補正する。この補正は、上限電圧を低下させ、下限電圧を上昇させる方向に実行される。つまり、図5に示すように、補正されるにしたがい、退避走行中の充放電幅が狭くなる方向に補正される。
【0049】
正常な監視IC52が監視する電池セル12が属しているFCBにおいては、正常な監視IC52が検出するセル電圧に基づいてS446で算出した充放電幅を補正せずに使用してもよい。
そして、図2のフローチャートで説明したように、退避走行中の充放電幅が所定の幅以下になれば、電池監視装置50は、SMR20を遮断するように走行制御装置70に指示する。これにより、電池監視装置50と走行制御装置70とにおいて制御の終了処理が行われた後、走行制御装置70がSMR20をオフにして遮断する。
【0050】
[3.効果]
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(3a)監視IC52が異常になっても、監視IC52が異常になる前に取得していたセル電圧に基づいて、退避走行中の充放電幅を算出できる。これにより、監視IC52が異常になっても、すぐにSMR20を遮断して組電池10から電気モータへの電力供給を遮断するのではなく、監視IC52が異常になる前の電池情報に基づいて、車両が退避走行するために必要な制御情報を走行制御装置70に通知できる。
【0051】
したがって、監視IC52が異常になっても、走行制御装置70は、電池監視装置50から通知される制御情報に基づいて、SMR20を遮断して走行駆動源である電気モータを停止させることなく、組電池10から電気モータに電力を供給して車両を退避走行させることができる。
【0052】
(3b)監視IC52の異常が確定する前の電池監視装置50が取得する電池情報に信頼性がある場合、制御マイコン60は、監視IC52が異常になる前の監視IC52が正常なときに検出したセル電圧に基づいて、異常な監視IC52が監視する電池セル12が属しているFCBについて、セル電圧の最大値と最小値とのばらつきから、退避走行中の充放電幅を算出する。
【0053】
これにより、監視IC52が異常になっても、退避走行中の充放電幅を極力大きく設定できるので、車両が退避走行できる時間を極力長くすることができる。
(3c)監視IC52の異常が確定する前の電池監視装置50が取得する電池情報に信頼性がない場合、制御マイコン60は、FCB毎の電池セル12のセル電圧に最大のばらつきがある場合の充放電幅を設定する。これにより、電池情報に信頼性がない場合であっても、電池セル12が過充電されたり過放電されたりすることを抑制できるので、組電池10を保護できる。
【0054】
(3d)組電池10が充電と放電とを繰り返す毎に、セル電圧のばらつきが大きくなることを考慮し、退避走行中の充放電幅は狭くなる方向に補正される。これにより、電池セル12が過充電されたり過放電されたりすることを抑制できるので、組電池10を保護できる。
【0055】
(3e)監視IC52が異常になると、少なくとも異常な監視IC52が監視している電池セル12が属しているFCBについては、監視IC52が異常になる前に検出したセル電圧と、フライングキャパシタ回路56が検出するFCBの電圧とに基づいて、退避走行中の充放電幅を算出する。
【0056】
これにより、監視ICを2重化して監視IC12の異常に備える構成に比べ、安価なフライングキャパシタ回路56を使用することにより、監視IC52が異常になる前に検出したセル電圧と、フライングキャパシタ回路56が検出するFCBの電圧とに基づいて、退避走行中の充放電幅を算出できる。
【0057】
以上説明した上記実施形態では、制御マイコン60が制御部に対応し、フライングキャパシタ回路56が電圧検出回路に対応する。
[4.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0058】
(4a)上記実施形態では、異常な監視IC52が発生すると、少なくとも異常な監視IC52が存在するFCBについては、監視IC52が異常になる前に検出したセル電圧と、フライングキャパシタ回路56が検出するFCBの電圧とに基づいて、退避走行中の充放電幅を算出した。
【0059】
これに対し、フライングキャパシタ回路56を使用せず、異常な監視IC52が発生すると、監視IC52が異常になる前に検出したセル電圧と、正常な監視IC52が検出するセル電圧に基づいて、退避走行中の充放電幅を算出してもよい。
【0060】
(4b)上記実施形態では、電池監視装置50と走行制御装置70とを別の装置として構成していた。これに対し、電池監視装置50と走行制御装置70とを一つの装置として構成し、この一つの装置により、車両の走行を制御するとともに、組電池10を監視してもよい。
【0061】
(4c)本開示に記載の制御マイコン60およびその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された1つまたは複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。
【0062】
あるいは、本開示に記載の制御マイコン60およびその手法は、1つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。
【0063】
もしくは、本開示に記載の制御マイコン60およびその手法は、1つまたは複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリと1つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された1つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。
【0064】
また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されてもよい。制御マイコン60に含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0065】
(4d)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。
【0066】
(4e)上述した電池監視装置50の他、当該電池監視装置50を構成要素とするシステム、当該電池監視装置50としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実体的記録媒体、電池監視方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0067】
10:組電池、12:電池セル、20:システムメインリレー、50:電池監視装置、52:監視IC、56:フライングキャパシタ回路(電圧検出回路)、60:制御マイコン(制御部)
図1
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図7