(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】印刷方法、印刷装置及び印刷物
(51)【国際特許分類】
H05K 3/10 20060101AFI20231226BHJP
B05D 1/02 20060101ALI20231226BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20231226BHJP
B05D 5/06 20060101ALI20231226BHJP
B05B 17/04 20060101ALI20231226BHJP
B05B 12/00 20180101ALI20231226BHJP
【FI】
H05K3/10 C
B05D1/02 Z
B05D7/24 303A
B05D5/06 101D
B05B17/04
B05B12/00 Z
(21)【出願番号】P 2019184415
(22)【出願日】2019-10-07
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊池 雅博
【審査官】ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-118868(JP,A)
【文献】特開2014-127619(JP,A)
【文献】特開2019-069424(JP,A)
【文献】特開2014-077066(JP,A)
【文献】特開2016-184621(JP,A)
【文献】国際公開第2014/175163(WO,A1)
【文献】特開2017-134347(JP,A)
【文献】特開2017-202446(JP,A)
【文献】国際公開第2019/124135(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/10
B05D 1/02
B05D 7/24
B05D 5/06
B05B 17/04
B05B 12/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも機能性材料及び溶媒からなる材料液を微小液滴化したミスト材料を基材上に堆積させることで印刷する方法であって、
前記機能性材料が、光熱変換する材料を一つ以上含
み、
前記基材上に前記ミスト材料を搬送して光を照射する工程を備え、
前記光を照射した領域は前記ミスト材料が堆積されないことを特徴とする印刷方法。
【請求項2】
前記基材上に前記ミスト材料を搬送した側を基材前面として、
前記基材前面側から任意のパターン光を照射する工程を備え、
前記パターン光の波長が前記ミスト材料の吸収波長を少なくとも含み、
前記基材が白色または透明であることを特徴とする、請求項
1に記載の印刷方法。
【請求項3】
前記基材上に前記ミスト材料を搬送した側の反対面を基材背面として、
前記基材背面側から任意のパターン光を照射する工程を備え、
前記パターン光の波長が前記ミスト材料の吸収波長を少なくとも含み、
前記基材の、前記パターン光の波長における透過率が80%以上であることを特徴とする、請求項
1に記載の印刷方法。
【請求項4】
前記ミスト材料が水系溶媒を含み、
前記パターン光の波長が970nm、1450nm、1940nmを少なくとも含むことを特徴とする、
請求項2または
3に記載の印刷方法。
【請求項5】
ミストを生成させて基材上に堆積させることで印刷を行う印刷装置であって、
少なくとも機能性材料及び溶媒からなる材料液を微小液滴化してミスト化材料にするミスト化装置と、
前記ミスト化材料を前記基材に搬送するミスト搬送路と、パターン光照射装置とを少なくとも備え、
前記パターン光照射装置は、
前記基材が光照射を受けると照射部分に前記ミスト化材料を堆積させず、非照射部分に前記ミスト化材料を堆積させる光源と、光の透過を制御して任意のパターン光を生成可能な電子シャッター又は液晶シャッターからなる光パターン化装置とを含む、ことを特徴とする印刷装置。
【請求項6】
ミストを生成させて基材上に堆積させることで印刷を行う印刷装置であって、
少なくとも機能性材料及び溶媒からなる材料液を微小液滴化してミスト化材料にするミスト化装置と、
前記ミスト化材料を前記基材に搬送するミスト搬送路と、パターン光照射装置とを少なくとも備え、
前記パターン光照射装置は、
前記基材が光照射を受けると照射部分に前記ミスト化材料を堆積させず、非照射部分に前記ミスト化材料を堆積させる、ライン状にパターン光を照射する光源と、
前記基材を移動
させる移動機構を備え、
ライン状のパターン光の照射と基材の移動を同期させて、任意のパターンを基材に照射することを特徴とする印刷装置。
【請求項7】
請求項1~
4のいずれかに記載の印刷方法を用いて作成された印刷物。
【請求項8】
請求項5または
6に記載の印刷装置を用いて作成された印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク材料をミスト化してパターンを印刷する印刷方法、印刷装置及びこれを用いた印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷は、印刷版にインクを盛り、紙などの媒体へ転写することで、大量の画像や文字の複製をしてきた。従来の印刷では、印刷版に形成したインクパターンを、媒体へ精度良く転写することに注力されており、そのために数多くの印刷手法が提案されてきた。
【0003】
これに対して印刷版を用いない、いわゆる無版印刷には、インクジェットや電子写真の手法があり、印刷版を用いることなく任意のパターンデータを印刷できる。しかし、機能性の材料をパターン形成しようとする場合、従来の有版印刷や無版のインクジェット技術では、印刷工程に適したインク特性を得るために、機能を有する主材料以外にも混ぜ物をする必要があり、そのため印刷後のパターンは目的材料の純度が低くなり、機能特性が低下する問題がある。また、電子写真方式では、材料をトナー化する必要があり、主剤を帯電制御する材料で覆う必要があるため機能性のパターン形成には向かない。
【0004】
一方、材料を微細液滴化してコーティングするミストコート技術がある。
ミストコート技術は、材料液を物理的に小さい液滴のミスト状態にして基材にコートする手法である。材料に混ぜ物をする必要がなく、より純度の高い材料をコーティングすることが可能であり、機能材料のパターンを形成する場合には有利である。
このミストコート技術でパターン化された膜を得るには、貫通孔のパターンがあるマスク版を通じて、ミストコートすることでパターン膜を形成する手法が用いられている。
しかしこの手法では、マスク版を使う必要があり、貫通孔によるパターン制約やマスク作製のコストが付加される問題がある。
【0005】
また、これに対して特許文献1に記載のミスト手法では、基材に予め親液と撥液からなるパターンを形成しておき、ミスト材料を搬送して、ミスト液滴の基材への付着度合いの差を利用することにより、マスク版を用いずにパターンを形成する手法が提案されている。
【0006】
また特許文献2では、基材に温度差による熱潜像パターンを形成しておき、ミストを搬送して現像する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2015/064438号
【文献】特開2019-69424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、ミスト液滴からパターン印刷をする手法において、特許文献1の手法ではマスク版が不要になるが、予め基材側に親撥のパターンを形成する必要があり、また、パターン形成後の印刷物には撥液材料が残留する問題があった。
また、特許文献2の手法では、ミスト液滴からのパターン形成により潜像形成時の残留物のない印刷を可能とするが、基材を直接加熱するため熱拡散による潜像崩れが発生するおそれがあり、その場合に解像性が低下する問題があった。
【0009】
本発明はこのような問題を鑑みて、基材上への親撥パターンの潜像形成や、基材に温度差を形成しミスト液滴に作用する潜像形成など、基材に直接潜像の形成を必要としない印刷パターン形成を可能とする印刷方法、印刷物および印刷装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、印刷方法の発明は、少なくとも機能性材料及び溶媒からなる材料液を微小液滴化したミスト材料を基材上に堆積させることで印刷する方法であって、前記機能性材料が、光熱変換する材料を一つ以上含む。印刷方法は、前記基材上に前記ミスト材料を搬送して光を照射する工程を備え、前記光を照射した領域は前記ミスト材料が堆積されないことを特徴とする。
【0012】
発明は、前記基材上に前記ミスト材料を搬送した側を基材前面として、前記基材前面側から任意のパターン光を照射する工程を備え、前記パターン光の波長が前記ミスト材料の吸収波長を少なくとも含み、前記基材が白色または透明であることを特徴とする、印刷方法である。
【0013】
発明は、前記基材上に前記ミスト材料を搬送した側の反対面を基材背面として、前記基材背面側から任意のパターン光を照射する工程を備え、前記パターン光の波長が前記ミスト材料の吸収波長を少なくとも含み、前記基材の、前記パターン光の波長における透過率が80%以上であることを特徴とする、印刷方法である。
【0014】
発明は、前記ミスト材料が水系溶媒を含み、前記パターン光の波長が970nm、1450nm、1940nmを少なくとも含むことを特徴とする、印刷方法である。
【0015】
印刷装置の発明は、ミストを生成させて基材上に堆積させることで印刷を行う印刷装置であって、少なくとも機能性材料及び溶媒からなる材料液を微小液滴化してミスト化材料にするミスト化装置と、前記ミスト化材料を前記基材に搬送するミスト搬送路と、パターン光照射装置とを少なくとも備え、パターン光照射装置は、前記基材が光照射を受けると照射部分に前記ミスト化材料を堆積させず、非照射部分に前記ミスト化材料を堆積させる光源と、光の透過を制御して任意のパターン光を生成可能な電子シャッター又は液晶シャッターからなる光パターン化装置とを含む、ことを特徴とする。
【0016】
印刷装置の発明は、ミストを生成させて基材上に堆積させることで印刷を行う印刷装置であって、少なくとも機能性材料及び溶媒からなる材料液を微小液滴化してミスト化材料にするミスト化装置と、前記ミスト化材料を前記基材に搬送するミスト搬送路と、パターン光照射装置とを少なくとも備え、パターン光照射装置は、前記基材が光照射を受けると照射部分に前記ミスト化材料を堆積させず、非照射部分に前記ミスト化材料を堆積させる、ライン状にパターン光を照射する光源と、前記基材を移動させる移動機構を備え、ライン状のパターン光の照射と基材の移動を同期させて、任意のパターンを照射することを特徴とする。
【0017】
発明は、上記の印刷方法を用いて作成された印刷物である。
【0018】
発明は、上記の印刷装置を用いて作成された印刷物である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ミストコート技術を基にした、材料純度の高いパターン形成を可能とし、基材に潜像形成することも必要なく、熱由来のライデンフロスト効果を基にした手法でありながら熱拡散による解像度低下のない印刷パターン形成を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の印刷パターンを形成するための手法(前面照射)の工程図である。
【
図2】本発明の印刷パターンを形成するための手法(背面照射)の工程図である。
【
図3】従来技術の印刷パターンを形成するための手法(親撥潜像)の工程図である。
【
図4】従来技術の印刷パターンを形成するための手法(熱潜像)の工程図である。
【
図5】本発明の印刷装置構成図(背面照射)である。
【
図6】本発明の印刷装置構成図(前面照射)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る印刷方法を図を用いて以下に説明する。
図1及び
図2は、それぞれ本発明に係る印刷方法を示す概略工程図である。
【0022】
(材料ミスト化)
図1で、最初の工程である材料ミスト化について、ミスト液滴を用いたパターン形成について説明する。
先ず、目的となる機能性材料を溶媒に溶解または分散した材料液200を準備する。
次に、材料液200からミスト化装置300を用いて物理的に液滴を微細化して、ミスト状にし、ミスト化材料210を得る(
図1(a))。ミスト化する手法としては、例えば既存技術の二流体スプレー法、超音波法、エレクトロスプレー法などが挙げられる。
本発明では、概ね粒径10μm以下に物理的に微細液滴してミスト化できる手法であればよく、特に限定されることはないが、搬送等を考慮すると超音波法が好ましい。超音波法であれば、ミスト生成から搬送エアにより搬送量を容易に制御が可能となる。
【0023】
(前面照射によるパターン形成方法)
従来技術におけるミストコーティングでは、材料をミスト液滴化し、基材に搬送して付着させ膜を形成する。これに対して本発明では、
図1(b)に示すように、パターン光照射装置11から基材10の前面側に向けて、パターン化した光を照射する。
この方法で、
図1(c)に示すように、基材10上にミスト化材料210を搬送してからパターン光を照射すると、ミスト液滴に光照射されることで、ミスト構成材料の機能材料または溶媒に光が吸収され、光熱変換されることで、ミスト液滴が加熱される。ここで光熱変換とは、光を照射すると、光を吸収して熱に変換されることを指す。機能材料には特に制限はなく、特定の波長の光を吸収して熱に変わる性質を有するものであればよい。
【0024】
加熱されたミスト液滴では、基材との間にライデンフロスト効果が発生する。このライデンフロスト効果は、加熱されることでミスト液滴を構成する溶媒の揮発が進行し、基材10とミスト化材料210の間に入り込み、照射部12のミスト化材料210と基材10との間に斥力が発生して基材への堆積を防ぐという効果のことである。
従って、
図1(d)に示すように、照射部12では、ミスト液滴の堆積がなくなり、非照射部13にミスト液滴が堆積する。結果として、パターン光照射装置11により印刷パターンデータに基づいた光パターンを照射することで、前記光パターンのネガパターンが非照射部に堆積され現像される。
【0025】
これら非照射部でのミスト液滴からの堆積物を、乾燥、焼成することで、
図1(e)に示すように材料膜230が形成でき、印刷が完了する。付着しなかったミスト液滴は供給装置の出口部分で排出されるので、回収装置(図示せず)を設置して、材料の回収や迷走ミストの再付着を防止するようにしても良い。
【0026】
照射装置から基材に到達した光が基材に吸収され、基材10が加熱されることを防止するため、基材は白色か透明な基材を用いる。白色であれば全波長域にわたり拡散反射され基材は加熱されない。透明であれば基材を透過して吸収がなく加熱されることはない。
【0027】
前記基材が透明とは、パターン光光源の波長に対する透明という意味であり、照度スペクトルが高い波長に対して概ね80%以上の透過率であれば、基材の加熱が回避できる。基材が加熱されないことで、基材で発生した熱によるミスト堆積に与える影響をなくすことができ、ミスト化材料に照射するパターン光での再現性の高い現像を可能とする。
【0028】
(背面照射によるパターン形成方法)
次に、
図2を用いて他のパターン形成方法を説明する。
本発明の別の形態である
図2の手法では、
図2(b)に示すように、波長に透過性を持つ基材10を用い、基材10の背面側から照射光を透過させて照射部12とし、
図2(c)に示すように、基材表面直上のミスト化材料210に効率よく光を照射する手法をとっている。透明性の基材10としては、例えばガラス、ポリエチレンテレフタレート、アクリルなどが挙げられ、これらの基材は、可視域もさることながら、ミスト化材料の加熱に最適な赤外域に対して透過率80%以上である。
【0029】
基材10は、目的の印刷物に対して適宜選択することができる。基材背面側からパターン光を照射することで、ライデンフロスト効果の斥力発生が基材表面近くで行われ、光パターンの再現性が高いミスト液滴パターンを堆積させることが可能となる。
【0030】
基材10は、光源の波長に対して透明性を持たせることにより基材の温度上昇がなく、基材加熱起因の付着抑制がなくなり、光照射パターンの再現性が保たれる。基材表面直上でミスト化材料210に光照射できることから、後述する従来の手法(
図3)よりパターン光からの再現性の高い印刷物を得ることができる。
【0031】
以上のように本発明では、
図3に示す従来技術のように、ミスト化した材料を現像部分において、ミスト化材料液に対する親撥水パターン潜像を用いるという手法を採らず、パターンを形成することができる。現像部以外のパターンを印刷する基本的な工程は同じである。
【0032】
(従来のパターン形成方法)
ここで比較のため、
図3を用いて従来の方法1について説明する。
図3の従来手法では、まず
図3(a)に示すようにミスト化用の材料液200をミスト化装置300を用いてミスト化し、ミスト化材料210を得る。次に
図3(b)に示すように、予め基材10上に親液部101と撥液部102を有する親撥潜像のパターンを形成しておき、撥液部102には撥液材料110が積層される。
【0033】
さらに
図3(c)に示すように、ミスト化材料210を基材10に搬送して、
図3(d)に示すようにミスト液滴の基材10への付着性の差を利用してミスト化材料210を選択的に堆積させることで、
図3(e)に示すように材料膜230からなるパターンを形成している。
【0034】
このような工程では、予め別の手法で親撥潜像パターン形成を準備する必要があり、前述した本発明の方法よりも複雑な工程になっている。
【0035】
また、出来上がった印刷物には、機能材料パターンに加えて撥液材料110が残る。この手法では、ミスト化材料210は基材10上の親撥潜像上にも親撥性に差があれども堆積されるため、撥液部の非画線部にもミスト堆積が発生する。これにより、地汚れ・かぶりが常に発生する問題がある。
【0036】
次に、
図4を用いて従来の方法2について説明する。
図4の従来手法では、予め基材10に親撥潜像パターンを形成する必要はないが、
図4(b)に示す加熱装置111により、基材上に、非加熱部103と加熱部104の温度差による熱潜像を形成し、
図4(c)でミスト化材料を搬送し、熱によるミスト液滴の堆積性の違いを利用して、
図4(d)および(e)に示すように材料膜230のパターンを形成するものである。
【0037】
この手法では、基材10の熱拡散により、経時変化で熱潜像パターンが崩れるため、現像するとパターンエッジがぼやけ、高精細なパターン形成はできない。
【0038】
これに対して本発明では、従来の方法である
図3、
図4のように基材に潜像パターンを形成することなく現像を行い、パターン印刷をなすため、基材物性や潜像パターンに影響を受けないミスト現像が可能となる。
【0039】
(光照射と光源)
本発明では、機能材料が溶媒に分散または溶解した材料液は、光照射により光熱変換がなされる。光熱変換するためには、材料液を構成する機能材料または溶媒の吸収波長に照度を持つ光源を準備する。この材料液を基材に搬送して、基材堆積直前に光照射することでミスト液滴に吸収させ、光熱変換により直接加熱し、ライデンフロスト効果に基づく基材との斥力を発生させる。
【0040】
さらに、パターン化された光を照射することで任意のパターンを基材上に堆積させることができる。機能材料と溶媒の組み合わせにより、光源波長は適宜選択することが可能である。
【0041】
機能材料は、印刷してパターン化した際に特定の機能を有する材料を指し、例えば導電材料、絶縁材料、半導体材料などが挙げられる。本発明では、ミスト液滴に含有される機能材料は、溶媒に溶解または分散できるものであれば良く、パターン化される機能に限定されるものではない。
光源の選定として、機能材料または溶媒に対する吸収波長を含む光源を選定するが、例えば溶媒として水系を用いる場合には、白熱灯やハロゲンランプなどの、水の吸収波長の970nm、1450nm、1940nmに照度を持つ光源を用いれば良い。
【0042】
目的の波長に対してLEDやLD(レーザーダイオード)などの波長帯域が狭い光源を用いることもできるが、これらの光源は光源素子の構成材料により持てる波長が決まり、必要な波長に対して安価な素子が選定できない場合もある。この場合は、広域波長に照度を持つ白熱灯やハロゲンランプ光源を用い、光学フィルターを用いて、ミスト材料の吸収波長を含む特定の波長を取り出した光源を用いてもよい。
【0043】
本発明では、効果的に光を吸収させ熱を発生できれば光源の種類に制限されるものではなく、機能材料、溶媒との組み合わせで適宜選択すれば良い。
【0044】
(印刷装置の構成1)
図5は、本発明に係る印刷装置の構成を示すものである。
材料液200は、ミスト化装置300によりミスト化材料210に変換され、搬送気体供給320によりミスト搬送路310を経て基材10に搬送される。
搬送気体に用いる材料は、特に限定されるものではないが、例えば空気、窒素、アルゴンなどを用いることができる。機能材料との反応性が高い場合は、窒素、アルゴンなどの不活性ガスを用いればよい。
【0045】
基材10に搬送されたミスト化材料210は、光源401及び光パターン化装置400を備えるパターン光照射装置11により基材10の背面側から光照射を受け、ミスト化材料210は光を吸収して熱に変換され、ライデンフロスト効果により基材表面に対する斥力を発生させる。結果として、照射部分にはミスト化材料が堆積されず、非照射部分にミスト化材料が堆積され、パターン光に基づいたネガパターンが基材10に形成される。さらに乾燥、焼成処理を行うことで、基材10に印刷パターンが形成される。
【0046】
本発明において、パターン光照射装置11が照射光をパターンに対してON、OFFできる装置であれば限定されるものではないが、光源401は、白熱光やハロゲンランプをコリーメントレンズで平行光に成形した光源や、ELなどの面状光源を用い、光パターン化装置400が、液晶シャッターあるいは電子シャッターなどの、光を透過、遮蔽を切り替えできる装置の組み合わせであれば良い。好ましくは、平行光源を用い、パターン化装置400で形成されるパターン光を再現性高くミスト化材料に投影することが可能となる。
【0047】
図5の装置では構成上、固定した基材へ連続的にミスト堆積させることを可能とするため、現像時間を長くすることで厚膜化が可能となる。
【0048】
(印刷装置の構成2)
図6は、本発明に係る印刷装置の他の構成を示すものである。
基材10へのミスト化材料210の供給は
図5の場合と同様であるが、基材10に供給した際、パターン光照射装置11により基材10の表面側からミスト化材料210に照射し、照射を受けたミスト化材料は光吸収により光熱変換を受け、基材との斥力を発生し基材10に堆積しない。
このときパターン光照射装置11がライン状の光源を備えており、さらに基材10を水平に移動させるための基材搬送機構(図示せず)を備えることで、ライン状に光パターンを形成すれば、直下の基材上ではラインパターンに応じたパターンが形成される。パターン光照射装置11の光パターンと基材10を同期させて移動させることで、ラインパターンを連続的に基材10に形成した印刷パターンが形成できる。
【0049】
ラインでのパターン光照射装置11の例としては、LEDアレイやLD光線をデジタル・マイクロミラー・デバイス(DMD)で成形する装置が挙げられる。ラインパターンを連続的に形成していくことで、基材10にミスト化材料210からなるパターンが形成され、これを乾燥、焼成することで基材10上に印刷がなされる。
【0050】
図6の装置構成では、ライン状で連続的にパターン形成を可能とするため、ロール状の基材への印刷を可能とする。
【0051】
このように本発明によれば、機能材料が溶解または分散した材料液をミスト化し、このミスト化材料に直接パターン光照射することで、基材上にパターン光に応じたパターン印刷を可能とする。また、基材に潜像形成をすることなく現像、パターン印刷可能であることから、基材制約の少ない機能性パターン印刷ができる。
【実施例】
【0052】
以下に、本発明による実施例を示す。
まず材料液として、固形分10wt%、水系溶媒(水/メタノール=7/3)の銀ナノインク(AGIN-W、住友電工製)を用意し、これを超音波振動子(HM-2412、本田電子工業製)によりミスト化し、搬送気体としてエア窒素を用いて、0.3L/分の量で送り、0.7mm厚のガラス基材(EAGLE-XG、コーニング)表面に供給した。
【0053】
光源として100Wのハロゲンランプを用い、
図7に示した照射部12と非照射部13を市松パターンに配した光照射パターン500を準備し、接触による加熱を避けるため前記ガラス基材10とのギャップは2mmとした。
図7の破線部分にミスト化材料210を1分間供給して光熱変換による現像を行い、パターンを印刷した。基材上に印刷した材料を180℃、1時間で焼成したところ、
図8の印刷物510が形成されていた。
以下、特許出願時の特許請求の範囲を付記する。
[付記1]
少なくとも機能性材料及び溶媒からなる材料液を微小液滴化したミスト材料を基材上に堆積させることで印刷する方法であって、
前記機能性材料が、光熱変換する材料を一つ以上含むことを特徴とする印刷方法。
[付記2]
基材上に前記ミスト材料を搬送して光を照射する工程を備え、
前記光を照射した領域は前記ミスト材料が堆積されないことを特徴とする、付記1に記載の印刷方法。
[付記3]
基材上に前記ミスト材料を搬送した側を基材前面として、基材前面側から任意のパターン光を照射する工程を備え、
前記パターン光の波長が前記ミスト材料の吸収波長を少なくとも含み、
前記基材が白色または透明であることを特徴とする、付記1または2に記載の印刷方法。
[付記4]
基材上に前記ミスト材料を搬送した側の反対面を基材背面として、基材背面側から任意のパターン光を照射する工程を備え、
前記パターン光の波長が前記ミスト材料の吸収波長を少なくとも含み、
前記基材の、前記パターン光の波長における透過率が80%以上であることを特徴とする、付記1または2に記載の印刷方法。
[付記5]
前記ミスト材料が水系溶媒を含み、
前記パターン光の波長が970nm、1450nm、1940nmを少なくとも含むことを特徴とする、付記3または4に記載の印刷方法。
[付記6]
ミストを生成させて基材上に堆積させることで印刷を行う印刷装置であって、
ミスト化装置と、ミスト搬送路と、パターン光照射装置とを少なくとも備え、
パターン光照射装置は、光源と、光の透過を制御して任意のパターン光を生成可能な電子シャッター又は液晶シャッターからなる光パターン化装置とを含む、ことを特徴とする印刷装置。
[付記7]
ミストを生成させて基材上に堆積させることで印刷を行う印刷装置であって、
ミスト化装置と、ミスト搬送路と、パターン光照射装置とを少なくとも備え、
パターン光照射装置は、ライン状にパターン光を照射する光源と、基材を移動する移動機構を備え、
ライン状のパターン光の照射と基材の移動を同期させて、任意のパターンを基材に照射することを特徴とする印刷装置。
[付記8]
付記1~5のいずれかに記載の印刷方法を用いて作成された印刷物。
[付記9]
付記6または7に記載の印刷装置を用いて作成された印刷物。
【符号の説明】
【0054】
10 基材
11 パターン光照射装置
12 照射部
13 非照射部
101 親液部
102 撥液部
103 非加熱部
104 加熱部
110 撥液材料
111 加熱装置
200 材料液
210 ミスト化材料
220 ミスト粒子
230 材料膜
300 ミスト化装置
310 ミスト搬送路
320 搬送気体供給
400 光パターン化装置
401 光源
501 ミスト化材料供給部(破線)
510 印刷物