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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/19 20060101AFI20231226BHJP
   B62D 1/183 20060101ALI20231226BHJP
   B62D 1/185 20060101ALI20231226BHJP
   B62D 1/181 20060101ALI20231226BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20231226BHJP
【FI】
B62D1/19
B62D1/183
B62D1/185
B62D1/181
B60W60/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019200876
(22)【出願日】2019-11-05
(65)【公開番号】P2021075083
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】石村 匠史
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-049923(JP,A)
【文献】特開2005-343189(JP,A)
【文献】特開2005-280655(JP,A)
【文献】特開2020-019327(JP,A)
【文献】特開2019-182312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/19
B62D 1/181
B62D 1/185
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵を行うためのステアリング装置であって、
筒状のハウジングと、
前記ハウジングの径方向内側に配置され、前記ハウジングに、前記ハウジングの軸方向に移動可能に保持された筒状の中間チューブと、
前記中間チューブの径方向内側に配置され、操作部材が取り付けられるステアリングシャフトを回転可能に保持する筒状のインナーチューブと、
前記中間チューブの径方向外側に配置された当接部材と、を備え、
前記中間チューブは、前記ハウジングに対する前記軸方向の位置が変更されることで、前記操作部材の前記軸方向の位置を、第一位置と、前記第一位置よりも前記車両における前方の第二位置との間で移動させ、かつ、前記当接部材が挿入可能な大きさの挿入孔を周壁部に有し、
前記当接部材は、前記操作部材が前記第二位置にある場合、前記挿入孔に挿入された状態あり、少なくとも二次衝突時に、前記軸方向かつ前方に移動する前記インナーチューブに干渉することで、前記インナーチューブが、前記二次衝突による衝撃エネルギーの少なくとも一部を吸収するように構成されている、
ステアリング装置。
【請求項2】
さらに、前記中間チューブを前記ハウジングに対して移動させる移動機構部を備え、
前記移動機構部は、電動モータと、前記電動モータによる駆動力により前記軸方向に移動する移動部材とを有し、
前記中間チューブは、前記中間チューブに前記移動部材が固定されていることで、前記移動部材の移動に伴って前記軸方向に移動する、
請求項1記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記インナーチューブは、前記中間チューブの前記挿入孔に挿入された状態の前記当接部材が挿入される開口部を備え、
前記開口部は、前記当接部材が挿入された状態で、前記インナーチューブが前記中間チューブに対して前記軸方向かつ前方に移動した場合、前記当接部材と前記開口部の周縁部と干渉する形状に形成されている、
請求項1または2記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記当接部材は、付勢部材によって、前記中間チューブの前記周壁部に押し当てられた状態に配置されており、
前記挿入孔は、前記周壁部において、前記操作部材が前記第二位置にある場合に、前記当接部材が挿入される位置に配置されている、
請求項1~3のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項5】
前記当接部材は、当接機構部によって前記中間チューブから離間した位置から前記中間チューブに向かって移動できるように支持され
前記当接機構部は、前記操作部材が前記第二位置に移動する際に、前記中間チューブから受ける力によって、前記当接部材を前記中間チューブに向けて移動させ、
前記当接部材は、前記当接機構部によって移動されることで前記挿入孔に挿入され、少なくとも二次衝突時に前記インナーチューブに干渉する、
請求項1~3のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載されるステアリング装置であって、車両の衝突によって生じる運転者のステアリングホイールへの衝突(二次衝突)の衝撃を吸収するための構造を備えるステアリング装置が知られている。例えば、特許文献1に開示されたステアリング装置は、インナーチューブが、軸方向の所定距離に亘って形成された溝部を有し、かつ、アウターチューブには固定部材が固定されている。固定部材は、溝部の幅よりも大径の先端部がインナーチューブ内に挿入され、基端部がアウターチューブに固定されている。インナーチューブのアウターチューブに対する相対的な移動時には、固定部材が溝部を拡幅しながら軸方向移動し、エネルギーが吸収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-49923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ステアリング装置には、ステアリングホイール等の操作部材を、運転者が操作するための運転者に比較的に近い位置(通常位置)と、運転者から比較的に遠い位置(退避位置)との間で移動可能にする移動機構部を有するものがある。例えば自動運転システムを備える車両では、運転者が車両の操作に責任を持つ必要がない状態では、走行中であっても、操作部材を移動機構部によって通常位置から退避位置まで移動させることができる。これにより、運転者の前方空間を広げることができる。
【0005】
しかしながら、車両が自動運転システムによる制御の下で走行中である場合に、不可避的に衝突事故が発生する可能性もある。衝突事故の発生時において、操作部材が退避位置にある場合、操作部材に連結されたステアリングシャフトを保持するインナーチューブも操作部材に伴って前方に移動しているため、インナーチューブの前方への移動可能距離が比較的に短くなっている。従って、衝突事故に起因して運転者の操作部材への衝突(二次衝突)が生じた場合、二次衝突の衝撃エネルギーの吸収(以下、「衝撃吸収」ともいう。)のためのインナーチューブの移動量が短いことで、衝撃吸収量が十分ではない状況が生じ得る。
【0006】
本発明は、本願発明者らが上記課題に新たに着目することによってなされたものであり、運転者の前方空間を広げることができ、かつ、衝突安全性を向上させることができるステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係るステアリング装置は、車両の操舵を行うためのステアリング装置であって、筒状のハウジングと、前記ハウジングの径方向内側に配置され、前記ハウジングに、前記ハウジングの軸方向に移動可能に保持された筒状の中間チューブと、前記中間チューブの径方向内側に配置され、操作部材が取り付けられるステアリングシャフトを回転可能に保持する筒状のインナーチューブと、前記中間チューブの径方向外側に配置された当接部材と、を備え、前記中間チューブは、前記ハウジングに対する前記軸方向の位置を変更することで、前記操作部材の前記軸方向の位置を、第一位置と、前記第一位置よりも前記車両における前方の第二位置との間で移動させ、かつ、周壁部に、前記当接部材が挿入可能な大きさの挿入孔を有し、前記当接部材は、前記操作部材が前記第二位置にある場合、前記挿入孔に挿入された状態であり、少なくとも二次衝突時に前記インナーチューブと当接する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様に係るステアリング装置によれば、運転者の前方空間を広げることができ、かつ、衝突安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態に係るステアリング装置の構成概要を示す側面図である。
図2】実施の形態に係るステアリング装置の構成概要を示す断面図である。
図3】実施の形態に係るステアリング装置における第1の衝撃吸収動作を示す図である。
図4】実施の形態に係るステアリング装置の、操作部材が退避位置に移動した状態を示す図である。
図5】実施の形態に係るステアリング装置における第2の衝撃吸収動作を示す図である。
図6】実施の形態に係るインナーチューブの開口部の形状例を示す斜視図である。
図7図6に示すインナーチューブの衝撃吸収後の状態例を示す斜視図である。
図8】実施の形態の変形例1に係るインナーチューブの開口部の形状例を示す斜視図である。
図9】実施の形態の変形例2に係るインナーチューブの構成例を示す斜視図である。
図10】実施の形態の変形例3に係るステアリング装置の構成概要を示す断面図である。
図11】実施の形態の変形例3に係るステアリング装置の、操作部材が退避位置に移動した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態及びその変形例について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下で説明する実施の形態及び変形例は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態及び変形例で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。
【0011】
また、図面は、本発明を示すために適宜、強調、省略、または比率の調整等を行った模式的な図となっており、実際の形状、位置関係、及び比率とは異なる場合がある。さらに、以下の実施の形態及び特許請求の範囲において、平行及び直交などの、相対的な方向または姿勢を示す表現が用いられる場合があるが、これらの表現は、厳密には、その方向または姿勢ではない場合も含む。例えば、2つの方向が平行である、とは、当該2つの方向が完全に平行であることを意味するだけでなく、実質的に平行であること、すなわち、例えば数%程度の差異を含むことも意味する。
【0012】
(実施の形態)
[1.ステアリング装置の構成概要]
まず、図1及び図2を用いて、実施の形態に係るステアリング装置10の全般的な構成を説明する。図1は、実施の形態に係るステアリング装置10の構成概要を示す側面図である。図2は、実施の形態に係るステアリング装置10構成概要を示す断面図である。図1以降の図において一点鎖線はステアリングシャフト20の回転軸であって仮想軸であるステアリング軸Aを表しており、そのステアリング軸Aと平行な方向をX軸方向としている。また、ステアリング装置10が搭載される車両の幅方向をY軸方向とし、Z軸方向及びY軸方向と直交する方向をZ軸方向としている。図2では、ステアリング軸Aを通るXZ平面におけるステアリング装置10の断面が示されている。なお、図2において、移動機構部80、当接部材61及び操作部材25については断面ではなく側面が図示されている。
【0013】
また、以下で、単に「軸方向」という場合、ステアリング軸Aと平行な方向(本実施の形態ではX軸方向)を意味する。さらに、本実施の形態ではステアリング軸Aは、ハウジング50、中間チューブ40及びインナーチューブ30それぞれの軸方向と平行である。
【0014】
また、「前方」とは、ステアリング装置10が搭載された車両の前側の方向を意味し、「後方」とはその反対側の方向を意味する。例えば、インナーチューブ30が軸方向前方に移動」とは、軸方向に平行な方向であり、かつ、車両の前側に向かう方向(本実施の形態では、X軸マイナス側の方向)を意味する。
【0015】
本実施の形態に係るステアリング装置10は、例えば手動運転と自動運転とを切り替えることができる車両に搭載される装置である。車両は、例えば普通乗用車、バスまたはトラック等の自動車である。なお、車両は、乗用車に限定されず、例えば建機又は農機等であってもよい。
【0016】
ステアリング装置10は、図1及び図2に示すように、それぞれが筒状の、ハウジング50、中間チューブ40、及びインナーチューブ30を備える。ハウジング50は、ステアリング装置10を構成する各部材を保持する部材であり、図示しないブラケット等を介して車両の車体に固定される。中間チューブ40は、ハウジング50の径方向内側に配置され、ハウジング50に、軸方向に移動可能に保持されている。インナーチューブ30は、中間チューブ40の径方向内側に配置され、操作部材25が取り付けられるステアリングシャフト20を回転可能に保持する。インナーチューブ30は、前端が中間チューブ40の内周面に挿入され、中間チューブ40と一体的に移動するよう保持されている。
【0017】
本実施の形態では、インナーチューブ30は、中間チューブ40の内周面に圧入されることで中間チューブ40に固定されている。なお、インナーチューブ30は、各種の態様で中間チューブ40に固定することができる。例えば、内周面に複数の凸部(図示せず)が設けられた中間チューブ40の内方にインナーチューブ30が圧入されることで、インナーチューブ30が中間チューブ40に固定される。また、例えば、インナーチューブ30が挿入された中間チューブ40が径方向内側にかしめられることにより、中間チューブ40の内周面に複数の凸部が形成され、これら複数の凸部によってインナーチューブ30が固定される。また、例えば、内周面に凸部が形成されていない中間チューブ40の内方にインナーチューブ30を圧入することで、インナーチューブ30が中間チューブ40に固定される。つまり、中間チューブ40は、インナーチューブ30を固定するための凸部を内周面に備えることは必須ではない。インナーチューブ30は、上記のように中間チューブ40に固定されることで、二次衝突の際に、中間チューブ40による固定力に抗して中間チューブ40に対して軸方向前方に移動する。これにより、インナーチューブ30は、衝撃吸収機能を発揮することができる。
【0018】
ステアリングシャフト20は、後端部に操作部材25が取り付けられるアッパシャフト21と、例えばスプライン嵌合によってアッパシャフト21に対して軸方向に移動可能かつ軸周りに回転不可能に取り付けられたロアシャフト22とを有する。アッパシャフト21は、インナーチューブ30に対して軸方向に移動不能かつ軸周りに回転可能に保持されており、インナーチューブ30が軸方向に移動することで、アッパシャフト21がロアシャフト22に対して軸方向に移動する。これにより、ステアリングシャフト20は軸方向に伸縮する。
【0019】
運転者による操作部材25の操作により、ステアリングシャフト20はステアリング軸Aを中心に回転し、この回転量等に基づいて、車両の1以上のタイヤが転舵される。具体的には、本実施の形態において、ステアリング装置10は、いわゆるステアバイワイヤシステムに組み込まれる装置であり、操作部材25とタイヤ(転舵輪)とは機械的には接続されていない。ステアリング装置10は、操作部材25の操舵角等を示す情報に基づいて、転舵用モータが1以上のタイヤを転舵させる。なお、ステアリング装置10は、例えば操舵角を検出する操舵角センサ、及び、運転者の力に反するトルクを操作部材25に付与する反力装置等も備えているが、これらの図示及び説明は省略する。
【0020】
本実施の形態に係るステアリング装置10はさらに移動機構部80を備える。移動機構部80によって中間チューブ40が軸方向に移動されることで、中間チューブ40とともに移動するインナーチューブ30に保持されたステアリングシャフト20は軸方向に伸縮する。
【0021】
移動機構部80は、操作部材25を、運転者による運転を行うための通常位置と、通常位置よりも前方の退避位置との間で移動させる装置である。通常位置は第一位置の一例であり、退避位置は第二位置の一例である。本実施の形態では移動機構部80は、駆動源として電動モータ81を有し、電動モータ81によって回転駆動されるネジ軸82に螺合するナット部を有する移動部材83が、ネジ軸82の軸方向に移動する。ネジ軸82の軸方向はステアリング軸Aに平行であり、移動部材83は、図2に示すように、中間チューブ40に固定されている。本実施の形態では、ネジ軸82はすべりネジである。移動部材83は、ハウジング50に設けられた移動用開口部51を介してハウジング50の外部に露出し、露出した部分が、ハウジング50の外部に位置するネジ軸82に螺合している。移動機構部80は、ネジ軸82の回転によって移動部材83を軸方向に移動させ、これにより、ハウジング50の内部に位置する中間チューブ40を軸方向に移動させる。その結果、インナーチューブ30は軸方向に移動し、インナーチューブ30の移動に伴って、操作部材25が通常位置と退避位置との間で移動する。なお、ステアリング装置10は、例えばハウジング50を上下に傾けることで操作部材25の上下方向の位置を変更させるチルト機構部(図示せず)を有してもよい。
【0022】
図1及び図2では、ステアリング装置10において、操作部材25が通常位置にある状態が示されている。具体的には、移動機構部80は、例えば運転者の指示により、運転者による操作(手動運転)を行う場合の操作部材25の位置を変更することができる。つまり、移動機構部80は、運転者の好みに応じて、手動運転の際の操作部材25の前後方向の位置を変更することができる。移動機構部80は、例えば、図1及び図2に示す操作部材25の位置を中心として前後方向に数cm~10cm程度、操作部材25の位置を変更することができる。この場合、操作部材25はいずれの位置であっても、「通常位置」である。
【0023】
また、本実施の形態において、ステアリング装置10が搭載された車両には、各種のセンサ、無線通信部及び制御部等を有する自動運転システム(図示せず)が備えられている。自動運転システムの制御部は、運転者の指示、または外部から無線通信を介して取得する自動運転レベル等に応じてステアリング装置10に操作部材25の出退を行わせることができる。例えば、自動運転システムの制御部は、車両の走行中に、自動運転レベルが、運転者による監視が必要なレベルから運転者による監視が不要なレベルに変更されたことを検知した場合、操作部材25を、通常位置から、通常位置よりも前方の退避位置まで移動させることができる。これにより、運転者は、手動運転から解放され、かつ、前方の空間が広げられる。
【0024】
このように構成されたステアリング装置10において、二次衝突時における衝撃吸収は、基本的には、上述のようにインナーチューブ30が中間チューブ40に対して移動することで行われる。しかし、操作部材25が退避位置にある場合、インナーチューブ30の移動可能距離が短くなり、これにより、衝撃吸収機能が十分ではなくなる場合も生じる。そこで、本実施の形態に係るステアリング装置10では、操作部材25の位置に依存することなく十分な衝撃吸収機能が発揮されるように、所定の条件下でインナーチューブ30に当接する当接部材61を備えている。
【0025】
本実施の形態では、図2に示すように、ハウジング50に設けられた保持部53に、付勢部材62とともに当接部材61が収容されており、付勢部材62と当接部材61とによって補助EA(Energy Absorption)部60が構成されている。補助EA部60において、当接部材61は、中間チューブ40の周壁部40aに設けられた挿入孔41に挿入された場合、インナーチューブ30に当接することができ、これにより、インナーチューブ30による衝撃吸収機能を向上させることができる。なお、ステアリング装置10は、操作部材25を退避位置から通常位置に戻す場合に、当接部材61を挿入孔41から引き出すための、図示しない引き出し機構部(例えばソレノイド)を備えている。
【0026】
[2.ステアリング装置の衝撃吸収機能]
次に、上記のように構成されたステアリング装置10における衝撃吸収機能について、図3図7を参照しながら説明する。図3は、実施の形態に係るステアリング装置10における第1の衝撃吸収動作を示す図である。図4は、実施の形態に係るステアリング装置10の、操作部材25が退避位置に移動した状態を示す図である。図5は、実施の形態に係るステアリング装置10における第2の衝撃吸収動作を示す図である。図6は、実施の形態に係るインナーチューブ30の開口部31の形状例を示す斜視図である。図7は、図6に示すインナーチューブ30の衝撃吸収後の状態例を示す斜視図である。
【0027】
図3に示すように、インナーチューブ30は、例えば、インナーチューブ30の前端面35が、ハウジング50の前壁部55に当接するまで移動可能である。つまり、二次衝突が生じた時点で、操作部材25が、図2に示す通常位置にある場合、インナーチューブ30の前端面35と、ハウジング50の前壁部55との距離はLaであり、インナーチューブ30は、最大で距離Laだけ移動しながら衝撃を吸収するこができる。
【0028】
つまり、二次衝突が生じた場合、操作部材25及びアッパシャフト21を介して衝撃力を受けたインナーチューブ30は、中間チューブ40のかしめ力に抗して移動することができる。具体的には、中間チューブ40は、移動部材83に固定されており、移動部材83は、ネジ軸82に螺合している。そのため、中間チューブ40の、ハウジング50に対する軸方向の移動は実質的に禁止され、その結果、かしめ力によって中間チューブ40に固定されたインナーチューブ30は、中間チューブ40と擦れ合いながら軸方向前方に移動する。また、その移動の最大距離はLaである。すなわち、インナーチューブ30は比較的に長い距離を移動しながら衝撃を吸収することができ、これにより衝突安全性が向上される。
【0029】
また、この場合、図3に示すように、補助EA部60の当接部材61は、中間チューブ40の外周面によって留められた状態であり、そのため、インナーチューブ30による衝撃吸収のための動作に影響を与えない。
【0030】
一方、図4に示すように、操作部材25が退避位置にある場合、インナーチューブ30の前端面35とハウジング50の前壁部55との距離はLb(Lb<La)となる。具体的には、移動機構部80が動作することで移動部材83が前方に移動し、これにより、中間チューブ40は、前端面45がハウジング50の前壁部55に当接する位置、または前壁部55の近傍の位置まで移動する。その結果、ステアリングシャフト20のアッパシャフト21が軸方向前方に移動し、アッパシャフト21に取り付けられた操作部材25は退避位置に到達する。このように、操作部材25が退避位置まで移動した場合、インナーチューブ30の前方への移動可能距離であるLbは、比較的に短い値となる。この状態で、二次衝突が生じた場合、インナーチューブ30と中間チューブ40との摩擦力(摺動荷重)による衝撃吸収だけでは十分ではない可能性がある。
【0031】
しかし、本実施の形態に係るステアリング装置10では、図4に示すように、操作部材25が退避位置にある場合、当接部材61は、中間チューブ40の周壁部40aに設けられた挿入孔41に挿入されることで、インナーチューブ30と当接可能な状態に置かれる。具体的には、本実施の形態では、操作部材25が退避位置まで移動した場合、当接部材61は、付勢部材62による付勢力によって挿入孔41に挿入される。この状態で、図5に示すように、二次衝突が生じることでインナーチューブ30が中間チューブ40に対して軸方向前方に移動しようとする場合、当接部材61は、当接相手であるインナーチューブ30の移動を規制するように作用する。
【0032】
具体的には、本実施の形態では、インナーチューブ30には、例えば図6に示すように軸方向後方に先細り形状の開口部31が形成されており、開口部31には、図4に示すように、中間チューブ40の挿入孔41に挿入された状態の当接部材61が挿入される。この状態で、インナーチューブ30が軸方向前方に移動した場合、挿入孔41の周縁部またはハウジング50の保持部53によって移動が規制された当接部材61は、開口部31の周縁部である開口周縁部31aと干渉する。その結果、例えば図7に示すように、開口周縁部31aには変形または損傷が生じる。つまり、二次衝突による衝撃エネルギーの少なくとも一部が、開口周縁部31aの変形または損傷のため消費される。すなわち、ステアリング装置10では、インナーチューブ30と中間チューブ40とが擦れ合うこと、及び、インナーチューブ30と当接部材61とが当接してインナーチューブ30が変形または損傷することの両方で、二次衝突時における衝撃吸収を可能としている。
【0033】
以上説明したように、本実施の形態に係るステアリング装置10は、車両の操舵を行うためのステアリング装置10であって、筒状のハウジング50と、筒状の中間チューブ40と、筒状のインナーチューブ30と、当接部材61とを備える。中間チューブ40は、ハウジング50の径方向内側に配置され、ハウジング50に、ハウジング50の軸方向に移動可能に保持される。インナーチューブ30は、中間チューブ40の径方向内側に配置され、操作部材25が取り付けられるステアリングシャフト20を回転可能に保持する。当接部材61は、中間チューブ40の径方向外側に配置される。中間チューブ40は、ハウジング50に対する軸方向の位置を変更することで、操作部材25の軸方向の位置を、通常位置と、通常位置よりも車両における前方の退避位置との間で移動させる。中間チューブ40は、当接部材61が挿入可能な大きさの挿入孔41を周壁部40aに有する。当接部材61は、操作部材25が退避位置にある場合、挿入孔41に挿入された状態であり、少なくとも二次衝突時にインナーチューブ30と当接する。
【0034】
この構成によれば、操作部材25が第二位置の一例である退避位置にある場合、中間チューブ40は、操作部材25が第一位置の一例である通常位置にある場合よりも前方に位置する。その結果、二次衝突が生じた場合におけるインナーチューブ30の移動可能距離は短くなる。しかし、この場合、当接部材61がインナーチューブ30に当接するため、インナーチューブ30は、中間チューブ40との間の摩擦力等によって衝撃を吸収でき、さらに、当接部材61が当接することによる、摩擦、変形、損傷等によっても衝撃を吸収することができる。つまり、インナーチューブ30の移動可能距離が短くなることによる衝撃吸収機能の低下を、インナーチューブ30と当接部材61との当接によって補うことが可能である。従って、例えば自動運転時等において、操作部材25が、運転者から離れた退避位置まで移動している場合であっても、二次衝突時におけるステアリング装置10による衝撃吸収機能の実効性が確保される。このように、本態様に係るステアリング装置10によれば、運転者の前方空間を広げることができ、かつ衝突安全性を向上させることができる。
【0035】
また、本実施の形態に係るステアリング装置10は、中間チューブ40をハウジング50に対して移動させる移動機構部80を備える。移動機構部80は、電動モータ81と、電動モータ81による駆動力により軸方向に移動する移動部材83とを有する。中間チューブ40は、中間チューブ40に移動部材83が固定されていることで、移動部材83の移動に伴って軸方向に移動する。
【0036】
この構成によれば、中間チューブ40の移動、つまり、操作部材25の軸方向の移動は、電動モータ81を有する移動機構部80によって行われる。そのため、運転者の手を煩わすことなく、中間チューブ40が効率よく移動される。従って、例えば走行中に手動運転から自動運転に切り替える場合において、運転者が操作部材25等を誤操作する可能性が低減される。また、本実施の形態に係る移動機構部80では、軸方向に平行に配置されたネジ軸82を回転させることで、ネジ軸82に螺合する移動部材83を軸方向に移動させる構造が採用されている。この構造によれば、二次衝突時において、移動部材83が、ハウジング50に対する中間チューブ40の位置を固定する固定部材として機能する。これにより、インナーチューブ30が、中間チューブ40及び当接部材61と擦れ合うまたは係り合うことによる衝撃吸収機能が、設計通りに発揮される可能性が向上する。これらの効果は、衝突安全性の向上に寄与する。
【0037】
また、本実施の形態において、インナーチューブ30は、中間チューブ40の挿入孔41に挿入された状態の当接部材61が挿入される開口部31を備える。開口部31は、当接部材61が挿入された状態で、インナーチューブ30が中間チューブ40に対して軸方向かつ前方に移動した場合、開口周縁部31aと干渉する大きさ及び形状に形成されている。
【0038】
この構成によれば、当接部材61が開口部31に挿入されていることで、インナーチューブ30が中間チューブ40に対して軸方向に移動した場合において、インナーチューブ30と当接部材61とを強力に係り合わせることができる。従って、二次衝突時における衝撃エネルギーを、インナーチューブ30の変形または損傷によってより確実に吸収させることができる。すなわち、ステアリング装置10による、二次衝突時における衝撃吸収の確実性が向上される。
【0039】
また、本実施の形態において、当接部材61は、例えば図3に示すように、付勢部材62によって中間チューブ40の周壁部40aに押し当てられた状態に配置されている。挿入孔41は、周壁部40aにおいて、操作部材25が退避位置にある場合に、当接部材61が挿入される位置に配置されている。
【0040】
この構成によれば、簡易な構成で、操作部材25が退避位置にある場合における、インナーチューブ30と当接部材61との当接が実現される。つまり、二次衝突時における衝撃吸収機能を有するステアリング装置10の構成の簡易化を図ることができる。
【0041】
以上、実施の形態に係るステアリング装置10について説明したが、ステアリング装置10は、衝撃吸収のための構造として、図1図7に示す構造とは異なる構造を有してもよい。そこで、以下に、衝撃吸収のための構造に関する変形例を、上記実施の形態との差分を中心に説明する。
【0042】
(変形例1)
図8は、実施の形態の変形例1に係るインナーチューブ30aの開口部31の形状例を示す斜視図である。図8に示すインナーチューブ30aは、中間チューブ40の挿入孔41(例えば図5参照)に挿入された状態の当接部材61が挿入される開口部31を有しており、開口周縁部31aは、舌片部32の先端に位置している。
【0043】
具体的には、インナーチューブ30aは、周方向における開口部31の両端部から軸方向に延設された一対のスリットを有し、これら2つのスリットの間に舌片部32が形成されている。従って、舌片部32の軸方向前方の端面は、当接部材61と当接する部分である開口周縁部31aとして機能する。つまり、二次衝突時にインナーチューブ30aが軸方向前方に移動した場合において、当接部材61が開口周縁部31aと干渉し、これにより、舌片部32が、軸方向の長さが縮められるように変形または損傷する。より詳細には、当接部材61は、2つのスリットの間の位置において、舌片部32を押圧しながらインナーチューブ30aに対して相対的に軸方向に移動する。つまり、2つのスリットにガイドされながらインナーチューブ30aに対して相対的に軸方向に移動する。そのため、二次衝突時における舌片部32の変形または損傷の確実性が向上される。
【0044】
このように、本変形例に係るインナーチューブ30aを備えるステアリング装置10では、衝撃エネルギーの少なくとも一部が舌片部32の変形または損傷によって消費され、これにより、衝突安全性が向上される。
【0045】
(変形例2)
図9は、実施の形態の変形例2に係るインナーチューブ30bの構成例を示す斜視図である。図9に示すインナーチューブ30bは、筒状のチューブ本体30cと、チューブ本体30cの外周面に固定された衝撃吸収部材33とを有する。当接部材61は、操作部材25が退避位置にある場合、挿入孔41に挿入された状態であり、少なくとも二次衝突時に衝撃吸収部材33と当接する。
【0046】
具体的には、インナーチューブ30bは、溶接等の所定の手法によってチューブ本体30cの外周面に固定された、軸方向に長尺状の衝撃吸収部材33を有している。衝撃吸収部材33は、チューブ本体30cの外周面と中間チューブ40の内周面との間の空間に配置される。より詳細には、中間チューブ40は、インナーチューブ30bのチューブ本体30cを固定するための複数の凸部(図示せず)を有している。そのため、例えば、これら複数の凸部によりチューブ本体30cの外周面と中間チューブ40の内周面とが離隔される。これにより当該外周面と当該内周面との間に衝撃吸収部材33が配置可能な空間が形成され、この空間に衝撃吸収部材33を配置することができる。なお、インナーチューブ30bの外形を変更することで、衝撃吸収部材33を配置する空間を確保してもよい。例えば、インナーチューブ30bにおけるチューブ本体30cの、軸方向に直交する断面の外形を、直線部分を有する略D字状にすることで、衝撃吸収部材33を配置する空間を確保してもよい。
【0047】
このように構成されたインナーチューブ30bが軸方向前方に移動した場合、当接部材61は、インナーチューブ30bの一部である衝撃吸収部材33に当接することで、衝撃吸収部材33を変形または損傷させることができる。すなわち、二次衝突時における衝撃エネルギーの少なくとも一部が、衝撃吸収部材33の変形または損傷によって消費され、これにより、衝突安全性が向上される。
【0048】
また、本変形例において、インナーチューブ30bのチューブ本体30cは、当接部材61と係合するための、溝または開口等を有していないため、中間チューブ40から受けるかしめ力による変形が生じ難い。つまり、インナーチューブ30bのチューブ本体30cは、かしめ力を逃がすように変形する部分である、壁部を欠いた部分を有しない。そのため、例えば、チューブ本体30cが受けるかしめ力の周方向における均一化が図られる。これにより、例えば、インナーチューブ30bは、設計通りの荷重によって中間チューブ40に対して軸方向前方に向けて摺動する。つまり、ステアリング装置10における衝撃吸収動作が設計通りに実行される可能性が高められる。このことは、ステアリング装置10による衝突安全性の向上に寄与する。
【0049】
(変形例3)
図10は、実施の形態の変形例3に係るステアリング装置10aの構成概要を示す断面図である。図11は、実施の形態の変形例3に係るステアリング装置10aの、操作部材25が退避位置に移動した状態を示す図である。
【0050】
図10に示すステアリング装置10aは、当接部材61を有する補助EA部60aを備える。補助EA部60aは、当接部材61を移動可能に支持する当接機構部68を有している。本変形例において、当接機構部68は、複数の部材(直動アーム63、回動アーム64~66、及び、連結アーム67)のそれぞれが、連結された隣の部材と連動して回動または移動するリンク機構によって構成されている。回動アーム64は回動軸64aを中心に回動し、回動アーム65は回動軸65aを中心に回動し、回動アーム66は回動軸66aを中心に回動する。当接機構部68は、直動アーム63が軸方向前方に移動した場合、先端に当接部材61が固定された連結アーム67を中間チューブ40に向けて移動させることができる。
【0051】
このように構成された当接機構部68を備えるステアリング装置10において、図11に示すように、操作部材25が退避位置まで移動した場合、中間チューブ40の前端面45は、直動アーム63を軸方向前方に移動させる。これにより、回動アーム64~66のそれぞれは回動し、回動アーム66の端部に軸支された連結アーム67が中間チューブ40に向けて移動する。その結果、連結アーム67の先端に固定された当接部材61は、中間チューブ40に向けて移動し、図11に示すように、中間チューブ40の挿入孔41及びインナーチューブ30の開口部31に挿入される。つまり、当接部材61とインナーチューブ30との位置関係は、図5に示す、実施の形態に係る当接部材61とインナーチューブ30との位置関係と同じになる。従って、この状態において二次衝突が生じた場合、インナーチューブ30は、中間チューブ40との間の摩擦力等によって衝撃を吸収することができ、さらに、当接部材61が当接することによる、摩擦、変形、損傷等によっても衝撃を吸収することができる。
【0052】
また、操作部材25が退避位置まで移動した後に、二次衝突が生じることなく操作部材25が通常位置まで戻された場合、付勢部材63aによって軸方向後方に向けて付勢されている直動アーム63は、図10に示す位置まで戻される。これにより、直動アーム63に連結された、回動アーム64~66、及び、連結アーム67は図10に示す姿勢または位置(初期状態)に戻される。なお、直動アーム63等を図11に示す姿勢または位置から初期状態に戻すための付勢力は、直動アーム63に与える必要はなく、当接機構部68の構成要素のうちの直動アーム63以外の構成要素に与えてもよい。また、複数の構成要素のそれぞれに初期状態に戻すための付勢力が与えられてもよい。
【0053】
このように、本変形例に係るステアリング装置10aにおいて、当接部材61は、当接部材61を移動可能に支持する当接機構部68によって中間チューブ40から離間した位置に配置されている。当接機構部68は、操作部材25が退避位置に移動する際に、中間チューブ40から受ける力によって、当接部材61を中間チューブ40に向けて移動させる。当接部材61は、当接機構部68によって移動されることで挿入孔41に挿入された状態であり、少なくとも二次衝突時にインナーチューブ30に当接する。
【0054】
この構成によれば、当接機構部68は、中間チューブ40が移動することで受ける力を利用して、中間チューブ40から離間した位置にある当接部材61を、インナーチューブ30に当接可能な位置まで移動させることができる。つまり、操作部材25が退避位置にないときは、当接部材61を中間チューブ40から離しておくことができる。そのため、例えば手動運転時における操作部材25の位置調整などの際に、中間チューブ40を当接部材61と接触させずに軸方向に移動させることができる。つまり、通常時において、中間チューブ40を効率よく移動させることができ、また、当接部材61及びの中間チューブ40に相互が擦れ合うことによる異音または摩耗等が生じない。
【0055】
なお、当接機構部68の構成は、図10及び図11に示す構成には限定されない。当接機構部68は、中間チューブ40が移動することで受ける力を利用して当接部材61を移動することができる機構部であればよい。つまり、当接機構部68は、アーム、ギア、及びベルト等の可動部材を任意に組み合わせることで構成されてもよい。また、当接部材61を移動させる駆動源として、電力、空圧または油圧などを利用した駆動装置が用いられてもよい。この場合、中間チューブ40から受ける力によってスイッチがオンにされることをトリガとして、駆動装置を作動させてもよい。
【0056】
(他の実施の形態)
以上、本発明に係るステアリング装置について、実施の形態及びその変形例に基づいて説明した。しかしながら、本発明は、上記実施の形態及び変形例に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を上記実施の形態または変形例に施したものも、あるいは、上記説明された複数の構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の範囲内に含まれる。
【0057】
例えば、二次衝突時において、当接部材61がインナーチューブ30の開口部31と係り合うことは必須ではない。例えば、中間チューブ40の挿入孔41に挿入された状態の当接部材61がインナーチューブ30の外周面に押し当てられることで、インナーチューブ30の軸方向前方への移動の抵抗となる摩擦力を発生させてもよい。この場合、変形例3に係る当接機構部68のような、操作部材25が退避位置にないときに当接部材61を中間チューブ40から離間させておく構成が好ましい。具体的には、中間チューブ40は、操作部材25が退避位置に移動させる場合だけでなく、操作部材25の位置調整の際にもハウジング50に対して移動される。そのため、この移動の際に当接部材61及びの中間チューブ40を離間させておくことが、中間チューブ40の効率的な移動等の観点から好ましい。
【0058】
また、当接部材61は、中間チューブ40の挿入孔41に挿入されることでインナーチューブ30に当接してもよい。また、当接部材61は、中間チューブ40の挿入孔41に挿入された状態ではインナーチューブ30と当接しておらず、二次衝突時にインナーチューブ30が軸方向前方に移動することでインナーチューブ30と当接するようにしてもよい。いずれの場合であっても、二次衝突時において、当接部材61によってインナーチューブ30に変形または損傷を生じさせることができ、これにより、衝撃エネルギーの少なくとも一部を吸収することができる。
【0059】
また、当接部材61がインナーチューブ30に当接することで衝撃エネルギーを吸収する場合、インナーチューブ30に換えてまたは加えて当接部材61が変形または損傷してもよい。例えば、二次衝突時において当接部材61がインナーチューブ30から受ける力によって変形し、これにより、衝撃エネルギーの少なくとも一部が吸収されてもよい。この場合、当接部材61は、変形し易いように、インナーチューブ30よりも剛性の低い素材で形成されてもよい。
【0060】
また、ハウジング50、中間チューブ40、インナーチューブ30及び当接部材61等の、ステアリング装置10を構成する部材それぞれの素材に特に限定はない。これらの各部材は、例えば、鉄またはアルミニウム等からなる金属材料、及び、繊維強化プラスチック等の樹脂材料から、ステアリング装置10に求められる仕様等に応じて任意に選択された材料を用いて作製されてもよい。
【0061】
また、当接部材61が、インナーチューブ30と当接可能な位置に配置されている時点の操作部材25の位置である第二位置は、自動運転時に運転者の前方の空間を広げるための操作部材25の位置である退避位置でなくてもよい。第一位置及び第二位置は、運転者(運転席)から見て、第二位置の方が第一位置よりも運転者(運転席)から遠い位置であるという関係を満たせばよい。従って、例えば、通常時の操作部材25の位置調整の範囲における前端が「第二位置」であり、その第二位置よりも後方の任意の位置が「第一位置」であるとしてもよい。この場合、当接部材61がインナーチューブ30と当接可能な位置まで移動している状態で、操作部材25が運転者によって操作され得るが、当接部材61の位置は操作部材25の操作に影響を与えないため、問題は生じない。また、図3に示すように、操作部材25が、操作部材25の移動可能範囲の前端に位置する場合、つまり、操作部材が、第二位置(退避位置)にある場合に、運転者による操作部材25の操作が可能であってもよい。言い換えると、通常時の操作部材25の軸方向位置調整の範囲における前端位置が、図3に示す位置であってもよい。
【0062】
また、付勢部材62は、つるまきばね等のばねである必要はなく、ゴムのような弾性体であってもよい。また、金属体等の重りを利用して、当接部材61に中間チューブ40向きの付勢力を与えてもよく、当接部材61の自重によって当接部材61が中間チューブ40に付勢されてもよい。つまり、当接部材61または別の部材に作用する重力を、当接部材61を中間チューブ40に向けて付勢する付勢力として利用してもよい。
【0063】
また、移動機構部80は、電動モータ81の駆動力によって移動部材83を移動させる構造を有しているが、移動部材83は、例えば運転者の手動によって移動されてもよい。つまり、操作部材25の前後方向の移動は、電動式ではなく手動式の移動機構部によって実行されてもよい。この場合であっても、当接部材61とインナーチューブ30とが当接することによる衝撃吸収機能は発揮される。
【0064】
また、ステアリング装置10は、ステアバイワイヤシステムに組み込まれる装置である必要はない。ステアリング装置10は、操作部材25とタイヤ(転舵輪)とが機械的に接続された操舵システムに組み込まれてもよい。また、この場合、ステアリング装置10は、パワーアシスト用のモータを備えるパワーステアリング装置であってもよい。
【0065】
また、実施の形態に係るステアリング装置10において、インナーチューブ30、中間チューブ40、及びハウジング50は円筒状であるが、これらの形状は円筒状には限定されない。例えば、インナーチューブ30、中間チューブ40、及びハウジング50の軸方向に直交する断面の形状は、多角形状、楕円状、または長円状等であってもよい。また、インナーチューブ30、中間チューブ40、及びハウジング50の軸方向に直交する断面は、軸方向の全域が完全な環状である必要はなく、例えば、軸方向の全域において、周方向の一部が欠かれたC字状であってもよい。
【0066】
また、例えば、変形例1及び2に係るインナーチューブ30a及び30bのそれぞれが、変形例3に係るステアリング装置10aに備えられてもよい。
【0067】
また、上記の、実施の形態に係るステアリング装置10についての各種の補足事項のそれぞれは、変形例1~3に係るステアリング装置10または10aに適用されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係るステアリング装置は、自動車等の車両に備えられる、ステアリングホイールの位置調整が可能なステアリング装置として有用である。
【符号の説明】
【0069】
10,10a…ステアリング装置、20…ステアリングシャフト、21…アッパシャフト、22…ロアシャフト、25…操作部材、30,30a,30b…インナーチューブ、30c…チューブ本体、31…開口部、31a…開口周縁部、32…舌片部、33…衝撃吸収部材、35,45…前端面、40…中間チューブ、40a…周壁部、41…挿入孔、50…ハウジング、51…移動用開口部、53…保持部、55…前壁部、60,60a…補助EA部、61…当接部材、62,63a…付勢部材、63…直動アーム、64,65,66…回動アーム、64a,65a,66a…回動軸、67…連結アーム、68…当接機構部、80…移動機構部、81…電動モータ、82…ネジ軸、83…移動部材
図1
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