(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】引戸サッシ、及び引戸サッシの改修方法
(51)【国際特許分類】
E06B 7/16 20060101AFI20231226BHJP
E06B 3/46 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
E06B7/16 C
E06B3/46
(21)【出願番号】P 2019204621
(22)【出願日】2019-11-12
【審査請求日】2022-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 丈太郎
【審査官】河本 明彦
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-113286(JP,U)
【文献】実開昭53-159639(JP,U)
【文献】実開昭54-108551(JP,U)
【文献】登録実用新案第3170233(JP,U)
【文献】実開昭55-37963(JP,U)
【文献】特公昭41-18750(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E06B 7/00 - 7/36
E06B 3/04 - 3/46
E06B 3/50 - 3/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
引戸サッシにおいて、2枚のスライドする戸の間に、
サッシの矩形の枠に沿って配置される矩形の外枠と該外枠の中央に設けられた縦桟からなるフレームを設置し、
前記フレームは、戸を閉めた際に、前記外枠が、2枚の戸の枠のうちのサッシの枠に沿った部分と戸の厚さ方向で対向すると共に、前記縦桟が2枚の戸の召合せ框の間に位置し、戸を閉めた際に戸の枠と前記フレームとを密着手段によって密着させることにより、隙間をなくすことができ
、
前記フレームは、サッシの枠に着脱可能に取り付けられ、表面に易滑性処理を施した材料からなる、
ことを特徴とする引戸サッシ。
【請求項2】
前記フレームの縦桟は、左右先端部が曲面を形成しており、2枚の戸を閉めた時に、それぞれの戸の縦桟に設置されたフック状の金具との間に引掛蝶番を形成することにより、2枚の戸がフレームの縦桟に密着することを特徴とする請求項1に記載の引戸サッシ。
【請求項3】
前記密着手段として、内側の戸の側面にクレセント錠を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の引戸サッシ。
【請求項4】
前記密着手段として、引戸サッシの外枠または前記フレームに密閉ハンドルを備えたことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の引戸サッシ。
【請求項5】
戸を前記フレームに密着させる際に、戸が前後に移動できるように、戸車の軸に遊びを設けたことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の引戸サッシ。
【請求項6】
戸を前記フレームに密着させる際に、戸が前後に移動できるように、戸の支持方法を戸の下に設けたローラーとしたことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の引戸サッシ。
【請求項7】
スライドする戸の上部に、ガイドローラーを設けたことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の引戸サッシ。
【請求項8】
既存の引戸サッシの2枚の戸の間にフレームを設置し、請求項1~7のいずれか1項に記載の引戸サッシに改造することを特徴とする引戸サッシの改修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の窓に用いる引戸サッシに関し、特に密閉性が良好で、遮音性や気密性に優れた引戸サッシの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
窓や出入口の構造としては、開き戸と引き違い戸が一般的である。それぞれ一長一短があり、窓の用途や部屋の構造、建物のデザイン等との関係において選択されている。
【0003】
開き戸は、片側に設けたヒンジを中心として戸が回転する構造であり、戸枠にパッキン等を設置することにより、比較的簡単に密閉性が得られる。反面、開いた戸が邪魔になるという欠点がある。
【0004】
引き違い戸は、戸が一つの平面内で動作するため、戸を開いた状態にしても戸が邪魔になることはないが、引き違い戸は、2枚の戸がすれ違う構造であるため、2枚の戸の間に隙間が必要であり、本質的に密閉性を得るのが困難である。
【0005】
また引戸は外れ易いため、防犯上においても開き戸に比較して劣るという問題があった。特許文献1に記載された引違い窓は、内側引戸と外側引戸とが一部でも内外方向に重合している限り、外側引戸を取外すことができず、しかも内側引戸から先に安全かつ容易に取外すことができるようにした引違い窓である。
【0006】
一方特許文献2に記載された金属製引戸サッシは、金属製引戸サッシにおいて、レールを省略して清掃作業を簡易化すると共に、風雨に際しても、それが容易に室内に吹込まないように改善し、また引戸の建込みを容易化したものである。
【0007】
特許文献1に記載された引違い窓も、特許文献2に記載された金属製引戸サッシもいずれも密閉性の問題には特に踏み込んではいないが、近年防音の必要性や洪水時における浸水を防ぐ観点から、引き戸においても密閉性の要求が高まっている。通常引戸サッシに用いられているクレセント錠は、2枚の引戸を引き寄せると同時に外枠に押し付ける働きをするが、引き寄せる力は、引戸中央部のクレセント錠部分に働くのみであり、引戸の上下端部にまでは及ばない。このため、クレセント錠を掛けることで気密性が多少は向上するものの、防音や浸水防止には十分ではない。
【0008】
特許文献3に記載された密閉戸は、引き戸における密閉性の問題を解決しようとしたものである。この密閉戸は、窓枠にゴム製のチューブ体を設置し、窓が閉じた時点でチューブを膨らませて密閉するものであるが、圧縮空気を注入する設備や、センサー等を必要とし、相当大掛かりなものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特公昭58-40632号公報
【文献】実公昭58-56312号公報
【文献】特開平4-146391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は、簡単な構造でありながら、高い防音性や密閉性の得
られる引戸サッシの構造を提案するものである。また、既存の引戸サッシを改造して気密性を高める方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するための手段として、本発明の一態様は、引戸サッシにおいて、2枚のスライドする戸の間に、それぞれの戸の枠と接する1枚のフレームを設置し、戸を閉めた際に戸の枠と前記フレームとを密着手段によって密着させることにより、隙間をなくすことができる引戸サッシであって、前記フレームは、外枠と中央の縦桟とから構成されることを特徴とする引戸サッシである。
【0012】
上記のような構成の引戸サッシは、2枚のスライドする戸の間に固定されたフレームを設置したことにより、戸とフレームの間の気密性を確保するのが、容易に可能となるため、サッシ全体の気密性が確保される。
【0013】
また、前記フレームの縦桟は、左右先端部が曲面を形成するようにして、2枚の戸を閉めた時に、それぞれの戸の縦桟に設置したフック状の金具との間に引掛蝶番を形成するようにすることができる。
【0014】
また、前記密着手段として、内側の戸の側面にクレセント錠を備えて、引戸同士あるいは引戸とフレームとが密着するようにしても良い。
【0015】
また、前記密着手段として、引戸サッシの外枠または前記フレームに密閉ハンドルを備えて、引戸とフレームとが密着するようにしても良い。
【0016】
また、戸を前記フレームに密着させる際に、戸が前後に移動できるように、戸車の軸に遊びを設けることもできる。
【0017】
また、戸を前記フレームに密着させる際に、戸が前後に移動できるように、戸車の支持方法を戸の下に設けたローラーとすることもできる。
【0018】
また、スライドする戸の上部に、ガイドローラーを設けることもできる。
【0019】
また、既存の引戸サッシの2枚の戸の間にフレームを設置し、本発明の引戸サッシに改造することも可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る引戸サッシは、2枚のスライドする引戸の間に固定されたフレームを設置したので、従来のサッシでは2枚の動く引戸同士の間の隙間を密閉化するのが困難であったが、本発明の引戸サッシでは、隙間が、固定されたフレームと1枚の引戸との間の隙間となるため、比較的容易に気密性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態の引戸サッシの正面模式図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した引戸サッシの水平断面を上から見た状態を示した断面模式図である。
【
図3】
図3は、
図2の中央部分の引掛蝶番の拡大断面説明図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態におけるフレームの構造を示した模式図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態において、ガイドローラーを使用した例を示した断面説明図である。
【
図6】
図6は、密閉ハンドルの構造を示した斜視説明図である。
【
図7】
図7は、密閉ハンドルの受け金具の構造と働きを示した断面説明図であり、
図7(a)は、押し付け用受け金具を、また
図7(b)は、引き付け用受け金具をそれぞれ示したものである。
【
図8】
図8は、密閉ハンドルの他の実施形態を示した斜視説明図であり、ロッドの先端にフックを設けた例を示したものである。
【
図9】
図9は、クレセント錠の構造と働きを示した斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る引戸サッシについて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る引戸サッシ1の正面模式図である。本発明の実施形態に係る引戸サッシ1は、2枚のスライドする戸3、4の間に、それぞれの戸の枠と接する1枚のフレーム5を設置し、戸を閉めた際に戸の枠とフレーム5とを密着手段によって密着させることにより、隙間をなくすことができる引戸サッシである。フレーム5は、外枠6と中央の縦桟7とから構成される。
図4は、フレーム5の構造を示した模式図である。
【0023】
図1の例では、2枚の戸3、4とフレーム5とを密着させるための密着手段として密閉ハンドル10が用いられている。密閉ハンドル10は、
図6に示したように回転するハンドルと受け金具の組み合わせで成り立っており、ハンドルのロッド16を受け金具の溝に挿入することにより、受け金具を押し付け方向や引き付け方向に移動させることができるものである。
【0024】
図7(a)は、押し付け用受け金具12の構造を、また
図7(b)は、引き付け用受け金具11の構造をそれぞれ示したものである。溝には片側にテーパーが設けられており、テーパーの向きによって、押し付けと引き付け用とが区別される。
【0025】
図1の例では、外側の戸3に対しては、引き付け用受け金具11が使用されており、内側の戸4に対しては、押し付け用受け金具12が使用されている。それぞれ戸をフレーム5に密着させる働きをしている。
【0026】
図8は、密閉ハンドル10の他の実施形態を示した斜視説明図であり、ロッド16の先端にフック17を設けた例を示したものである。このような密閉ハンドルを使用すると、ハンドルを回転させてロッド16を受け金具の溝に挿入した時に、先端のフック17が受け金具に引っ掛かるので、引戸をスライドさせることが出来なくなり、防犯上有効である。
【0027】
図2は、
図1に示した引戸サッシ1の水平断面を上から見た状態を示した断面模式図であり、
図3は、
図2の中央部分の引掛蝶番9の拡大断面説明図である。この例では、フレーム5の中央の縦桟7は、左右先端部が曲面を形成しており、2枚の戸3、4を閉めた時に、それぞれの戸の縦桟に設置されたフック状の金具8との間に引掛蝶番9を形成することにより、2枚の戸がフレーム5の中央の縦桟7に密着するようになっている。
【0028】
引戸がフレーム5に密着するためには、引戸がわずかにフレーム5の方向に移動する必要がある。この方策として、特に図示しないが、戸が前後に移動できるように、戸車の軸に遊びを設ける方法がある。
【0029】
また別の方法として、
図1、2に示した例は、戸をフレーム5に密着させる際に、戸が前後に移動できるように、戸の支持方法を戸の下に設けたローラー14としたものである。このようにすることにより、戸3、4は、左右に自由に移動できるだけでなく、前後方向にも移動できるようになるので、フレーム5に対して完璧に密着させることができる。戸の支持方法として、通常の戸車とレールを用いる代わりにこのようなローラーを用いた場合、戸の下面は平坦になり、外枠の敷居部分にもレールが無くなるので、掃除も楽になるという効果が期待できる。
【0030】
この場合、戸3、4が本来の位置から逸脱しないように、
図5に示したようにガイドローラー15を設けることもできる。ガイドローラー15は、サッシ外枠2の上部に設けると邪魔にならない。
【0031】
図9は、クレセント錠13の構造と働きを示した斜視説明図である。クレセント錠は、内側の戸の側面に設置して、テーパーを有する回転するフック状の金具の先端を受け金具に引っ掛けることにより、施錠するものである。クレセント錠は、受け金具を手前に引き付ける働きと同時に2枚の引戸を外枠方向に押し付ける働きもするので、2枚の引戸3、4の間に設置することで、戸をフレームに密着させる効果を発揮する。クレセント錠13は、引戸の中央の縦桟に数か所設置しても良い。
【0032】
フレーム5の材質としては、特に制約されるものではないが、2枚の引戸の間にあって、2枚の引戸が常時接触する可能性が高いため、表面が滑りやすいものであることが望ましい。そのような材質の例としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン系樹脂や、ふっ素系樹脂、ポリアセタール樹脂等が挙げられる。アルミニウム型材の表面にふっ素系樹脂処理等の易滑性処理を施した材料も好適に使用できる。
【0033】
従来の一般的な引戸を改造して、新たにフレーム5を追加することにより、本発明の引戸サッシのような構造とすることも比較的容易に可能である。この場合、従来の引戸サッシの外枠に対して、フレーム5を隙間なく設置する必要がある。
【符号の説明】
【0034】
1・・・引戸サッシ
2・・・サッシ外枠
3・・・外側の戸
4・・・内側の戸
5・・・フレーム
6・・・フレームの外枠
7・・・中央の縦桟
8・・・フック状の金具
9・・・引掛蝶番
10・・・密閉ハンドル
11・・・密閉ハンドルの引き付け用受け金具
12・・・密閉ハンドルの押し付け用受け金具
13・・・クレセント錠
14・・・ローラー
15・・・ガイドローラー
16・・・ロッド
17・・・フック