IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱自動車工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-変速制御装置 図1
  • 特許-変速制御装置 図2
  • 特許-変速制御装置 図3
  • 特許-変速制御装置 図4
  • 特許-変速制御装置 図5
  • 特許-変速制御装置 図6
  • 特許-変速制御装置 図7
  • 特許-変速制御装置 図8
  • 特許-変速制御装置 図9
  • 特許-変速制御装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】変速制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/10 20120101AFI20231226BHJP
   B60K 6/46 20071001ALI20231226BHJP
   B60K 6/52 20071001ALI20231226BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20231226BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20231226BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20231226BHJP
   B60W 20/30 20160101ALI20231226BHJP
   F16H 59/66 20060101ALI20231226BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20231226BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20231226BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20231226BHJP
   B60L 50/61 20190101ALN20231226BHJP
【FI】
B60W10/10 900
B60K6/46 ZHV
B60K6/52
B60K6/547
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60W20/30
F16H59/66
F16H61/02
B60L9/18 J
B60L15/20 K
B60L50/61
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019210481
(22)【出願日】2019-11-21
(65)【公開番号】P2021079876
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】弓削 勝忠
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-144843(JP,A)
【文献】特開2017-206110(JP,A)
【文献】特開2005-124283(JP,A)
【文献】特開2017-197029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-20/50
B60K 6/20- 6/547
F16H 59/66
F16H 61/02
B60L 1/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前後の駆動輪のうち前後一方の駆動輪を駆動する第一モータと、
前記前後の駆動輪のうち前後他方の駆動輪を駆動する第二モータと、
前記第二モータの出力軸から前記前後他方の駆動輪に伝達される回転の回転数を変速する複数段のギアを有する変速機と、
前記第一モータと前記第二モータに電力を供給するバッテリと、
車速を検出する車速センサと、
ドライバによるアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルセンサと、
車両の加速状態に影響を与える外部要因となる物理量を検出する外部センサと、
前記車速と前記踏み込み量から導出されたドライバの要求駆動力とを含む複数のパラメータに基づいて前記変速機の複数段のギアの中から一のギアを決定する変速マップを有し、該変速マップに基づいて該変速機の変速動作を制御する制御部と、
を備え、
前記変速マップは、前記物理量、前記車速、および、前記複数段のギアのそれぞれの駆動力からなり、
前記制御部が、前記複数段のギアのそれぞれの駆動力にかかわらず高速ギアに決定する高速ギア優先モードと、前記複数段のギアのそれぞれの駆動力にかかわらず低速ギアに決定する低速ギア優先モードと、を有しており、前記要求駆動力と前記物理量の大きさに基づいて優先モードが選択されて前記ギアの維持又は切り替えが行われる変速制御装置。
【請求項2】
前記外部センサが、車両が走行する路面の進行方向の傾斜角を検出する傾斜センサであって、前記物理量が、該傾斜センサで検出された傾斜角であり、該傾斜角が予め決めた所定の角度以上のときに低速ギア優先モードが選択される一方で、前記所定の角度よりも小さいときに高速ギア優先モードが選択される
請求項1に記載の変速制御装置。
【請求項3】
前記要求駆動力が、前記ギアを高速ギアとしたときの車両の最大駆動力を下回っており、かつ、前記ギアが低速ギアに切り替えられている状態において、前記傾斜角が予め決めた所定の角度以上のときに低速ギア優先モードが選択される一方で、前記所定の角度よりも小さいときに高速ギア優先モードが選択される
請求項2に記載の変速制御装置。
【請求項4】
前記要求駆動力が、前記ギアを高速ギアとしたときの車両の最大駆動力を上回っており、かつ、前記ギアが低速ギアに切り替えられており、車速が低速ギアから高速ギアに切り替える標準車速である切替判定車速を上回っている状態において、前記傾斜角が予め決めた所定の角度以上のときに低速ギア優先モードが選択される一方で、前記所定の角度よりも小さいときに高速ギア優先モードが選択される
請求項2又は3に記載の変速制御装置。
【請求項5】
エンジンと、
前記エンジンの駆動力によって発電するジェネレータと、
をさらに備え、
前記要求駆動力の増加に基づいて、前記制御部によって低速ギア優先モードが選択され、前記ギアを高速ギアから低速ギアに切り替えて前記エンジンを始動する判定がなされた際に、前記制御部によって前記エンジンを始動し、前記ギアを高速ギアから低速ギアに切り替えた際に不足する電力を、前記判定に基づいて前記ギアの切り替え前に発電する制御を行う
請求項1から4のいずれか1項に記載の変速制御装置。
【請求項6】
前記判定が、前記アクセルペダルの踏み込み量が予め定めたストローク閾値以上のときになされる
請求項5に記載の変速制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車や電気自動車のようにモータの駆動力によって走行する車両においては、例えば下記特許文献1に示すように、その前輪と後輪にそれぞれ駆動用のモータ(特許文献1の図1中のフロントモータ18、リアモータ20参照)を併設して四輪駆動式としたものがある。そして、ドライバのアクセルペダルの踏み込み量に基づく要求トルク(要求駆動力)に対応して、各モータへの駆動力の分配を制御している。
【0003】
このモータには、例えば特許文献2に示す変速機が併設されることがある。この変速機は、低車速域のときに適用される低速ギアと、高車速域のときに適用される高速ギアとから構成される多段式のギアを備えている(特許文献2の図2中の高速ギア機構30、低速ギア機構40参照)。
【0004】
この変速機の車速に対するトルク特性(ドライブシャフト周りの軸トルク)の一例を図2(b)に示す。この変速機のギアを低速ギアに切り替えることによって、車速が比較的低速で大きなトルクを必要とする走行状態(例えば、登坂時や低速からの全開加速時等)に対応することができる一方で、高速ギアに切り替えることによって、それほど大きなトルクを必要としない広い車速域(例えば、街中や高速道路での通常走行時等)に対応することができる。
【0005】
この変速機は、前輪及び後輪の両方に設けることもできるが、車両の重量増加が問題となることがある。このため、例えば、前輪を図2(a)に示すトルク特性を有するドライブシャフト直結式のフロントモータで駆動し、後輪を図2(b)に示すトルク特性を有する変速機が併設されたリアモータで駆動する構成とすることが多い。
【0006】
この変速機のギアは、初期状態として高速ギアに設定されていることが多い。この高速ギアは、低速から高速までの広い速度域をカバーしており、しかも、通常の走行状態(街中走行等)では、低速ギアへの切り替えが必要なほど大きなトルクを要求されることは少なく、車両走行中の変速回数をなるべく少なくすることが期待できるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-101771号公報
【文献】特開2001-4016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のようにリアモータのみに変速機を設けた車両において、例えば、前輪と後輪のトルク配分を50:50とした場合、ある車速X(高速ギアから低速ギアへの変速によって、トルクを増大可能な低車速域)で、ドライバのアクセルペダルの操作量に基づく要求トルクが2Yとすると、その要求トルクはフロントモータ及びリアモータにYずつ均等に割り振られる(図2(a)中の点A、図2(b)中の点B参照)。
【0009】
この状態からドライバがアクセルペダルをさらに踏み込んで、要求トルクが2Yから2Y’まで増大すると、その要求トルクはフロントモータ及びリアモータにY’ずつ均等に割り振られる。
【0010】
アクセルペダルの踏み込み量の増大に伴ってリアモータに割り振られる要求トルクも増大し、その要求トルクが高速ギアのときの最大トルクRHmaxとなったタイミングで(図2(b)中の点E参照)、高速ギアから低速ギアに切り替えられる。この切り替え中は、図10(b)に示すように、クラッチ機構によってリアモータの駆動力が一時的に(図10(b)中のtからtまでの時間)切り離されるため、図10(a)に示すように、フロントモータのみでリアモータに割り振られた要求トルクを負担する必要が生じる。
【0011】
ところが、特に登坂時や全開加速時のように大きなトルクを必要とする走行状態においては、図10(a)に示すように、フロントモータが負担する要求トルクが、フロントモータの最大トルクFmaxを超える場合がある。この場合、フロントモータが、最大トルクFmaxを超える要求トルク(図10(a)中のtからtまでの時間において、最大トルクFmaxを超える破線部分)を負担することができない。その結果、図10(c)に示すように、ドライバの要求トルクに対し、モータによって与えられる実トルクが一時的に不足する「トルク抜け」が生じ(図10(c)中のΔtの範囲)、ドライバに違和感を与える問題がある。
【0012】
その一方で、高速ギアから低速ギアに切り替えた場合、低速ギアでカバーできない高車速域に達したときに、再び低速ギアから高速ギアに切り替えなければならず、変速回数が多くなる問題がある。
【0013】
このように、頻繁にギアを切り替えることによって、リアモータのトルク抜けに伴って乗員に不快感が生じたり、変速回数の増大に起因して変速機の寿命が低下したりする虞があった。
【0014】
そこで、この発明は、前後の駆動輪にそれぞれ駆動用のモータを設けるとともに、その少なくとも一方に変速機を併設した変速制御装置において、良好な走行性能を確保しつつギアの切り替えに伴うトルク抜けなどの不具合を回避することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、この発明においては、車両の前後の駆動輪のうち前後一方の駆動輪を駆動する第一モータと、前記前後の駆動輪のうち前後他方の駆動輪を駆動する第二モータと、前記第二モータの出力軸から前記前後他方の駆動輪に伝達される回転の回転数を変速する複数段のギアを有する変速機と、前記第一モータと前記第二モータに電力を供給するバッテリと、車速を検出する車速センサと、ドライバによるアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルセンサと、車両の加速状態に影響を与える外部要因となる物理量を検出する外部センサと、前記車速と前記踏み込み量から導出されたドライバの要求駆動力とを含む複数のパラメータに基づいて前記変速機の複数段のギアの中から一のギアを決定する変速マップを有し、該変速マップに基づいて該変速機の変速動作を制御する制御部と、を備え、前記制御部が、前記変速マップにかかわらず高速ギアに決定する高速ギア優先モードと、前記変速マップにかかわらず低速ギアに決定する低速ギア優先モードと、を有しており、前記物理量の大きさに基づいて優先モードが選択されて前記ギアの維持又は切り替えが行われる変速制御装置を構成した。
【0016】
前記構成においては、前記外部センサが、車両が走行する路面の進行方向の傾斜角を検出する傾斜センサであって、前記物理量が、該傾斜センサで検出された傾斜角であり、該傾斜角が予め決めた所定の角度以上のときに低速ギア優先モードが選択される一方で、前記所定の角度よりも小さいときに高速ギア優先モードが選択される構成とすることができる。
【0017】
前記傾斜センサを備えた構成においては、前記要求駆動力が、前記ギアを高速ギアとしたときの車両の最大駆動力を下回っており、かつ、前記ギアが低速ギアに切り替えられている状態において、前記傾斜角が予め決めた所定の角度以上のときに低速ギア優先モードが選択される一方で、前記所定の角度よりも小さいときに高速ギア優先モードが選択される構成とすることができる。
【0018】
前記傾斜センサを備えた構成においては、前記要求駆動力が、前記ギアを高速ギアとしたときの車両の最大駆動力を上回っており、かつ、前記ギアが低速ギアに切り替えられており、車速が低速ギアから高速ギアに切り替える標準車速である切替判定車速を上回っている状態において、前記傾斜角が予め決めた所定の角度以上のときに低速ギア優先モードが選択される一方で、前記所定の角度よりも小さいときに高速ギア優先モードが選択される構成とすることができる。
【0019】
前記各構成においては、エンジンと、前記エンジンの駆動力によって発電するジェネレータと、をさらに備え、前記要求駆動力の増加に基づいて、前記制御部によって低速ギア優先モードが選択され、前記ギアを高速ギアから低速ギアに切り替えて前記エンジンを始動する判定がなされた際に、前記制御部によって前記エンジンを始動し、前記ギアを高速ギアから低速ギアに切り替えた際に不足する電力を、前記判定に基づいて前記ギアの切り替え前に発電する制御を行う構成とすることができる。
【0020】
前記エンジンを備えた構成においては、前記判定が、前記アクセルペダルの踏み込み量が予め定めたストローク閾値以上のときになされる構成とすることができる。
【発明の効果】
【0021】
この発明では、車両の加速状態に影響を与える外部要因に基づいて、制御部が有する変速マップにかかわらず高速ギアに決定する高速ギア優先モードと、変速マップにかかわらず低速ギアに決定する低速ギア優先モードを有する構成としたので、外部要因を考慮した上で、大きな駆動力が必要な際には適切に低速ギアの維持又は高速ギアから低速ギアへの切り替えを行って良好な走行性能を確保しつつ、駆動力がそれほど必要ないときはギアの切り替えを抑制することで、ギアの切り替えに伴うトルク抜けなどの不具合を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】この発明に係る変速制御装置が搭載された車両の一例(四輪駆動式のシリーズ式ハイブリッド車)を示す模式図である。
図2】(a)はフロントモータのトルク特性を、(b)はリアモータのトルク特性をそれぞれ示す図である。
図3】変速制御装置の制御フローを示すフローチャートである。
図4図3中の登坂判定(高速側から低速側のギアへの切り替え判断)の第一例を示す図である。
図5図3中の登坂判定(低速側から高速側のギアへの切り替え判断)の第二例を示す図である。
図6図3中の登坂判定(低速側から高速側のギアへの切り替え判断)の第三例を示す図である。
図7】エンジンの始動タイミングを示す図であって、(a)はギア切替後にエンジンを始動するパターン、(b)はギア切替の判定とともにエンジンを始動するパターン、である。
図8】エンジン始動の制御フローの第一例を示すフローチャートである。
図9】エンジン始動の制御フローの第二例を示すフローチャートである。
図10】一般的な変速制御装置における、(a)はフロントモータのトルク変化を、(b)はリアモータのトルク変化を、(c)は両モータのトータルのトルク変化をそれぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明に係る変速制御装置が搭載された車両10の一例を図1に示す。この車両10は、前輪11及び後輪12の両方の駆動輪11、12をモータによって駆動する四輪駆動式のシリーズ式ハイブリッド車であり、前輪11を駆動する第一モータ13(以下、フロントモータ13という。)、後輪12を駆動する第二モータ14(以下、リアモータ14という。)、リアモータ14の出力軸から後輪12に伝達される回転の回転数を変速する複数段のギアを有する変速機15、フロントモータ13とリアモータ14に電力を供給するバッテリ16、車速を検出する車速センサ17、ドライバによるアクセルペダル18の踏み込み量(アクセルペダルストローク)を検出するアクセルペダルセンサ19、車両10の加速状態に影響を与える外部要因となる物理量を検出する外部センサ20、及び、変速機15の変速動作を制御する制御部21を変速制御装置の主要な構成要素としている。また、この変速制御装置は、エンジン22、及び、エンジン22の駆動力によって発電するジェネレータ23を備えている。
【0024】
フロントモータ13は、前輪11のドライブシャフトに変速機を介さずに直結されている。図2(a)に示すように、フロントモータ13は、低速で最大トルクFmaxを発生し、車速が上がるにつれてそのトルク(ドライブシャフトの軸トルク)が減少するトルク特性を有している。
【0025】
リアモータ14は、後輪12のドライブシャフトに変速機15を介して設けられている。この変速機15は、高速ギアと低速ギアとを有する2段変速機である。図2(b)に示すように、高速ギアは、街中や高速道路での通常走行時のように、それほど大きなトルクを必要としない低速から高速までの広い車速域に対応している。リアモータ14は、高速ギアとしたときに、低速で最大トルクRHmaxを発生し、車速が上がるにつれてそのトルクが減少するトルク特性を有している。
【0026】
低速ギアは、登坂時のように、車速が比較的低速で大きなトルクを必要とする走行状態に対応している。この低速ギアは、低速で最大トルクRLmaxを発生し、車速が上がるにつれてそのトルクが減少するトルク特性を有している。中間車速域では、高速ギアと低速ギアのトルクはほぼ一致している。
【0027】
フロントモータ13の最大トルクFmaxは、高速ギアから低速ギアへの変速の際に、一時的にフロントモータ13のみでリアモータ14に割り振られた要求トルクを負担できるように、リアモータ14の高速ギアにおける最大トルクRHmaxよりも大きく、かつ、低速ギアにおける最大トルクRLmaxよりも小さく設定されている。
【0028】
この車両10においては、ドライバの要求トルクに対し、フロントモータ13とリアモータ14のトルク配分比が常にほぼ50:50となるように、制御部21によって各モータ13、14のトルクが制御されている。このように、配分比を制御することにより、車両10の安定的な走行性能を確保している。なお、この配分比は例示に過ぎず、四輪駆動車として安定的な走行が可能な配分比の範囲内(例えば、30:70~70:30の範囲内)で可変とすることもできる。
【0029】
ジェネレータ23は、エンジン22の回転力によって発電を行い、その電力によって直接、又は、一旦バッテリ16に蓄えられた電力によって、フロントモータ13及びリアモータ14が駆動される。
【0030】
外部センサ20は、車両10が走行する路面の進行方向の傾斜角(勾配)を検出する傾斜センサ(以下、外部センサ20と同じ符号を付する。)である。そして、この傾斜センサ20で検出される物理量は、進行方向の傾斜角である。
【0031】
制御部21は、車速と、アクセルペダルストロークから導出されたドライバの要求駆動力とを含む複数のパラメータに基づいて変速機15の複数のギア(高速ギア又は低速ギア)の中から一のギアを決定する変速マップを有しており、この変速マップに基づいて、変速機15の変速動作が制御される。
【0032】
制御部21は、ギアの切り替えに際し、前記変速マップにかかわらず高速ギアに決定する高速ギア優先モードと、前記変速マップにかかわらず低速ギアに決定する低速ギア優先モードとを有している。
【0033】
高速ギア優先モード又は低速ギア優先モードは、傾斜センサ20で検出された傾斜角に基づいて選択される。詳細は後述するが、基本的には、傾斜センサ20で検出された傾斜角が所定角度よりも小さいときに高速ギア優先モードが選択され、傾斜角が所定角度よりも大きい登坂時に低速ギア優先モードが選択される。
【0034】
制御部21は、車速センサ17、アクセルペダルセンサ19、傾斜センサ20と接続されており、検出された車速、アクセルペダルストローク、傾斜角に基づいて、フロントモータ13及びリアモータ14の出力、変速機15の切り替えなどが制御される。
【0035】
この変速制御装置の制御フローのフローチャートの一例を図1中の符号を参照しつつ図3を用いて説明する。この制御フローにおいては、高速ギアをギアの初期位置としている(図3のステップS1)。
【0036】
まず、アクセルペダルセンサ19、車速センサ17、傾斜センサ20によって、アクセルペダルストローク、車速、加速度、傾斜角などの情報が取得される(図3のステップS2)。これらの情報に基づいて、ギアの切り替えを制御する変速マップ(例えば図4に示すマップ)が選択される。
【0037】
次に、ドライバのアクセル操作によるトルク要求(要求駆動力)の検出が行われる(図3のステップS3)。そして、この要求駆動力の大きさに基づいて登坂判定1が行われる(図3のステップS4)。この登坂判定1では、図4に示す変速マップに基づいて、ギアを初期位置の高速ギアのまま維持するか、低速ギアに切り替えるか、いずれかの判定が行われる。
【0038】
変速マップは、横軸が車速、縦軸が駆動力を示しており、このマップ中には、高速ギア(HI)での合算駆動力と、低速ギア(LO)での合算駆動力が示されている。ここでいう合算駆動力とは、フロントモータ13による駆動力と、高速ギア又は低速ギアを介したリアモータ14による駆動力の合計値のことを指す。
【0039】
さらに、このマップ中には、複数の傾斜角(A~D)に対応する加速可否の判断ラインが示されている。この傾斜角は、Aが最も急な坂で、Dが最も緩い坂である。例えば、傾斜センサ20によって検出された傾斜角がBの場合、マップ中の「傾斜(勾配):B」のラインに基づいて加速の可否を判断することができる。すなわち、ある車速におけるドライバによる要求駆動力が判断ラインよりも大きいときは、傾斜角がBの勾配において、その車速を維持し又は加速することができる。その一方で、ある車速における要求駆動力が判断ラインよりも小さいときは、傾斜角がBの勾配において、その車速を維持することができず車両10は徐々に減速する。
【0040】
この変速マップにおいては、基準となる所定の傾斜角(例えば、傾斜角B)が予め決められており、傾斜センサ20で検出された傾斜角が、この所定の角度以上のときに低速ギア優先モードが選択される一方で、この所定の角度よりも小さいときに高速ギア優先モードが選択される。
【0041】
高速ギア優先モードが選択されたときは(図3のステップS4のNO側)、ギアの初期位置である高速ギアがそのまま維持され(図3のステップS5)、リターン処理が行われる(図3のステップS6)。その一方で、低速ギア優先モードが選択されたときは(図3のステップS4のYES側)、ドライバの要求駆動力に対応して、高速ギアから低速ギアへの切り替えが行われる(図3のステップS7)。
【0042】
図4中に示すように、傾斜角がBの勾配を走行中に要求駆動力がa→b→cのように変化して、その要求駆動力が傾斜角Bと高速ギアでの合算駆動力の両ラインがクロスする点に到達したときは、高速ギアではそれ以上加速することができない。このため、傾斜センサ20が、傾斜角がB以上であることを検出したときは、制御部21によって低速ギア優先モードが選択され、高速ギアから低速ギアに切り替えられる。これにより、傾斜角Bの勾配をスムーズに上るための駆動力が確保される。
【0043】
また、要求駆動力がa→b→cのように変化するのとともに傾斜角がBからAに急勾配となったときは、高速ギアではそれ以上加速することができない。この登坂判定1では、傾斜角がB以上のときに低速ギア優先モードが選択され、高速ギアから低速ギアに切り替えられるため、傾斜角がAの急勾配もスムーズに上るための駆動力が確保される。
【0044】
このように、ギアの切り替えを制御することにより、急勾配路における良好な走行性能を確保しつつ、低勾配路又は平坦路における高速ギアから低速ギアへの切り替えに伴うトルク抜けなどの不具合を防止することができる。
【0045】
低速ギアへの切り替え後は、車速センサ17によって車速がモニタされる。そして、その車速と、低速ギアから高速ギアに切り替える標準車速である切替判定車速Xとの大小関係が判断される(図3のステップS8)。車速が切替判定車速Xよりも小さいときは(図3のステップS8のNO側)、登坂判定2が行われる(図3のステップS9)。この登坂判定2では、図5に示す変速マップに基づいて、ギアを低速ギアのまま維持するか、高速ギアに切り替えるか、いずれかの判定が行われる。
【0046】
この変速マップは、基本的に図4に示したものと共通するが、さらに切替判定車速Xが示されている。ギアが低速ギアに切り替えられた状態で、ドライバによる要求駆動力が、例えばa→bのように小さくなると、この駆動力は高速ギアでの合算駆動力を下回っている。このため、傾斜角がDの緩やかな勾配のときは、低速ギアから高速ギアに切り替えても加速や速度維持は可能である。ところが、傾斜角がC以上のやや急な勾配のときは、高速ギアに切り替えることによって駆動力が不足し車速が低下することがある。
【0047】
そこで、要求駆動力がギアを高速ギアとしたときの車両10の合算駆動力を下回っており、かつ、ギアが低速ギアに切り替えられている状態において、傾斜角が予め決めた所定の角度以上のとき(例えば傾斜角がC以上のとき)(図3のステップS9のYES側)は低速ギア優先モードが選択される一方で、所定の角度よりも小さいとき(例えば傾斜角がCよりも小さいとき)(図3のステップS9のNO側)は高速ギア優先モードが選択される。
【0048】
高速ギア優先モードが選択されたときは、低速ギアから高速ギアへの切り替えが行われる(図3のステップS10)。そして、高速ギアへの切り替え後にリターン処理が行われる(図3のステップS6)。その一方で、低速ギア優先モードが選択されたときは、要求駆動力が一時的に高速ギアでの合算駆動力を下回った状態で低速ギアを維持して所定の大きさの駆動力を確保する。そして、車速と切替判定車速Xとの大小関係の判断ステップに戻る(図3のステップS8)。
【0049】
車速が切替判定車速X以上のときは(図3のステップS8のYES側)、登坂判定3が行われる(図3のステップS11)。この登坂判定3では、図6に示す変速マップに基づいて、ギアを低速ギアのまま維持するか、高速ギアに切り替えるか、いずれかの判定が行われる。
【0050】
この変速マップは、図5に示したものと共通する。ギアが低速ギアに切り替えられた状態で、ドライバによる要求駆動力が、例えばa→bのように変化して、車速が切替判定車速Xを上回ると、通常は低速ギアから高速ギアに切り替えられる。ところが、傾斜角がC以上のやや急な勾配のときは、高速ギアに切り替えることによって駆動力が不足して車速が低下することがある。
【0051】
そこで、要求駆動力が高速ギアでの合算駆動力を上回っており、かつ、ギアが低速ギアに切り替えられており、車速が切替判定車速Xを上回っている状態において、傾斜角が予め決めた所定の角度以上のとき(例えば傾斜角がC以上のとき)(図3のステップS11のYES側)は低速ギア優先モードが選択される一方で、所定の角度よりも小さいとき(例えば傾斜角がCよりも小さいとき)(図3のステップS11のNO側)は高速ギア優先モードが選択される。
【0052】
高速ギア優先モードが選択されたときは、低速ギアから高速ギアへの切り替えが行われる(図3のステップS10)。そして、高速ギアへの切り替え後にリターン処理が行われる(図3のステップS6)。その一方で、低速ギア優先モードが選択されたときは、車速が切替判定車速を上回った状態で低速ギアを維持して所定の大きさの駆動力を確保する。そして、車速と切替判定車速Xとの大小関係の判断ステップに戻る(図3のステップS8)。
【0053】
高速ギアから低速ギアへの切り替えに際しては、アクセルペダルストロークと要求駆動力との関係を示す出力マップが切り替わるため、アクセルペダルストロークに変化がなくても要求駆動力が上昇する。このとき、要求駆動力に対応する必要電力が、バッテリ16の最大出力を上回ることがある。この場合、エンジン22を始動してジェネレータ23による発電を行うことによって、バッテリ16の最大出力との差分を補う必要がある。
【0054】
ここで、図7(a)(b)を用いて、例えば、ある車速域において、最大出力が50kWのフロントモータ13と、最大出力が高速ギアにおいて25kW、低速ギアにおいて50kWのリアモータ14とを備え、最大出力が75kWのバッテリ16を搭載した車両10において、高速ギアから低速ギアに切り替えたときのモータ13、14への電力の供給状態を説明する。
【0055】
高速ギアにおいてフロントモータ13及びリアモータ14をそれぞれ最大出力(合計出力75kW)としたとき、全ての電力を最大出力が75kWのバッテリ16によって供給することができる。ここで、ギアを高速ギアから低速ギアに切り替えると、出力マップに基づいてリアモータ14の出力値が低速ギアにおける最大出力の50kWとなり、フロントモータ13とリアモータ14の合計出力が100kWとなる。このため、全ての電力をバッテリ16のみで賄うことができず、不足分の25kWをエンジン22の始動による発電によって補う必要がある。
【0056】
図7(a)に示すように、高速ギア時におけるドライバによる要求出力が75kWのときに、例えば図3に示す登坂判定1によって高速ギアから低速ギアに切り替える判定がなされ、実際に低速ギアに切り替えられて要求出力が100kWに上昇したタイミングで、バッテリ16による供給電力の不足分の25kWを補うべくエンジン22を始動したとする。この場合、エンジン始動後に安定的に発電可能となるまでは若干のタイムラグが生じるため、このタイムラグによってドライバが一時的に出力不足を感じる可能性がある。
【0057】
そこで、この変速制御装置においては、図7(b)に示すように、高速ギア時におけるドライバによる要求出力が75kWのときに、例えば図3に示す登坂判定1によって高速ギアから低速ギアに切り替える判定がなされるタイミングでエンジン22を始動し、バッテリ16の出力を50kWに抑制しつつ、低速ギアへの切り替え後に不足が予測される25kW分の発電を予め開始する。そして、実際に低速ギアに切り替えられて要求出力が100kWに上昇したタイミングで、バッテリ16の出力を75kWに変更する。バッテリ16の出力の変更に要する時間は、エンジン22の始動後に安定的に発電可能となるまでの時間と比較して十分短いため、ドライバが一時的に出力不足を感じる虞はない。
【0058】
エンジン22の始動に係る制御フローのフローチャートの第一例を図1中の符号を参照しつつ図8を用いて説明する。この制御フローにおいては、高速ギア(HI)をギアの初期位置としている(図8のステップS21)。
【0059】
まず、アクセルペダルセンサ19、車速センサ17、傾斜センサ20によって、アクセルペダルストローク、車速、加速度、傾斜角などの情報が取得される(図8のステップS22)。これらの情報に基づいて、ギアの切り替えを制御する変速マップ(例えば図4に示すマップ)が選択される。そして、ドライバの要求駆動力の大きさに基づいて登坂判定が行われる(図8のステップS23)。この登坂判定では、図4に示す変速マップに基づいて、ギアを初期位置の高速ギアのまま維持するか、低速ギアに切り替えるか、いずれかの判定が行われる。高速ギアのまま維持する判定がなされたときは(図8のステップS23のNO側)、リターン処理が行われる(図8のステップS24)。
【0060】
その一方で、低速ギアに切り替える判定がなされたときは(図8のステップS23のYES側)、エンジン22の始動を開始する制御がなされる(図8のステップS25)。そして、低速ギアと高速ギアにおける出力の差分を事前に発電した上で(図8のステップS26)、高速ギアから低速ギアへの切り替えが行われる(図8のステップS27)。低速ギアへの切り替えの後にリターン処理が行われる(図8のステップS24)。
【0061】
エンジン22の始動に係る制御フローのフローチャートの第二例を図1中の符号を参照しつつ図9を用いて説明する。この制御フローにおいては、高速ギア(HI)をギアの初期位置としている(図9のステップS31)。
【0062】
まず、アクセルペダルセンサ19、車速センサ17、傾斜センサ20によって、アクセルペダルストローク、車速、加速度、傾斜角などの情報が取得される(図9のステップS32)。これらの情報に基づいて、ギアの切り替えを制御する変速マップ(例えば図4に示すマップ)が選択される。そして、ドライバの要求駆動力の大きさに基づいて登坂判定が行われる(図9のステップS33)。この登坂判定では、図4に示す変速マップに基づいて、ギアを初期位置の高速ギアのまま維持するか、低速ギアに切り替えるか、いずれかの判定が行われる。高速ギアのまま維持する判定がなされたときは(図9のステップS33のNO側)、リターン処理が行われる(図9のステップS34)。
【0063】
その一方で、低速ギアに切り替える判定がなされたときは(図9のステップS33のYES側)、アクセルペダルストロークと予め定めたストローク閾値Yとの大小関係が比較される(図9のステップS35)。アクセルペダルストロークがストローク閾値Y以下のときは(図9のステップS35のNO側)、要求電力がそれほど大きくないため、バッテリ16のみで必要電力の全てを供給できる可能性が高い。このため、エンジン22を始動することなく、ギアが高速ギアから低速ギアに切り替えられる(図9のステップS36)。
【0064】
その一方で、アクセルペダルストロークがストローク閾値Yよりも大きいときは(図9のステップS35のYES側)、エンジン22の始動を開始する制御がなされる(図9のステップS37)。そして、低速ギアと高速ギアにおける出力の差分を事前に発電した上で(図9のステップS38)、高速ギアから低速ギアへの切り替えが行われる(図9のステップS36)。低速ギアへの切り替えの後にリターン処理が行われる(図9のステップS34)。このように、アクセルペダルストロークに基づいてエンジン22の始動を制御することにより、不必要にエンジン22を始動することによって燃費が低下するのを防止することができる。
【0065】
上記において説明した変速制御装置の構成、制御フローのフローチャート等は、この発明を説明するための単なる例示に過ぎず、前後の駆動輪11、12にそれぞれ駆動用のモータ13、14を設けるとともに、その少なくとも一方に変速機15を設けた変速制御装置において、車両10の良好な走行性能を確保しつつ、ギアの切り替えに伴うトルク抜けなどの不具合を回避する、というこの発明の課題を解決し得る限りにおいて、上記の構成要素、制御フロー等に適宜変更を加えることができる。
【0066】
例えば、上記においては、外部センサ20として傾斜センサ20を採用した例について説明したが、乗員の重量を検出する重量センサ、路面の凹凸や摩擦の大きさを検出する路面センサなどのように、車両10の加速状態に影響を与える外部要因となる物理量を検出するための他の種類の外部センサ20を採用することもできる。
【0067】
また、上記においては、シリーズ式ハイブリッド車を例示して説明したが、この変速制御装置は電気自動車にも適用することができる。さらに、プラグインハイブリッド車やパラレル式ハイブリッド車等のように、駆動源としてモータ13、14を備えた車両10に幅広く適用できる可能性がある。
【符号の説明】
【0068】
10 車両
11 前輪(駆動輪)
12 後輪(駆動輪)
13 フロントモータ(第一モータ)
14 リアモータ(第二モータ)
15 変速機
16 バッテリ
17 車速センサ
18 アクセルペダル
19 アクセルペダルセンサ
20 傾斜センサ(外部センサ)
21 制御部
22 エンジン
23 ジェネレータ
X 切替判定車速
Y ストローク閾値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10