(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】検出器の出力を補正する方法、および多角度光散乱検出器
(51)【国際特許分類】
G01N 21/53 20060101AFI20231226BHJP
G01N 30/74 20060101ALI20231226BHJP
G01N 30/86 20060101ALI20231226BHJP
G01N 30/78 20060101ALI20231226BHJP
G01N 15/0205 20240101ALI20231226BHJP
G01N 15/02 20240101ALI20231226BHJP
【FI】
G01N21/53 Z
G01N30/74 Z
G01N30/86 B
G01N30/86 F
G01N30/78
G01N30/74 E
G01N15/02 A
G01N15/02 F
(21)【出願番号】P 2019220459
(22)【出願日】2019-12-05
【審査請求日】2022-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100173532
【氏名又は名称】井上 彰文
(72)【発明者】
【氏名】山口 亨
(72)【発明者】
【氏名】笠谷 敦
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-091368(JP,A)
【文献】米国特許第06411383(US,B1)
【文献】特開2005-049140(JP,A)
【文献】特開2017-207497(JP,A)
【文献】特表2008-503716(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109459505(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/61
G01N 30/00 - G01N 30/96
G01N 15/00 - G01N 15/14
G01N 33/48 - G01N 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分級装置の後段に配置されるn個(nは2以上の整数)の検出器i(iは1~n)を有するシステムにおいて、前記検出器iの出力を補正する方法であって、
前記検出器iは、前記分級装置を通過した試料が流れるセルと、前記セルの周囲に配置される複数の光検出部を有する多角度光散乱検出器と、濃度検出器とを含み、
分子量Mが既知の試料を前記分級装置に注入するステップと、
前記濃度検出器の出力信号D
i(t)を時間の関数として収集するステップと、
前記多角度光散乱検出器の複数の光検出部の少なくとも1つの出力信号に基づいて、前記濃度検出器に対応する分子量相当値M
i(t)を時間の関数として求めるステップと、
前記分子量相当値M
i(t)が、前記既知の分子量Mの時間の関数M(t)に近づくように、前記出力信号D
i(t)を補正するステップと、を含
み、
前記検出器iの出力信号D
i
(t)を補正するステップは、前記検出器iについて、下式(1)のχ
i
2
モデルを形成し、前記検出器iの出力信号D
i
(t)と、調節可能なパラメータα
j
(jは0,・・・,l、ここでlは調節可能な数)のセットを含む拡大モデルB(α
0
,α
1
,・・・,α
l
,β,τ)とのコンボリューションを計算し、ピーク内で前記試料の分子量Mの時間の関数M(t)と前記分子量相当値M
i
(t)との差を最小化するパラメータα
ij
、β
i
、γ
i
を最小二乗法により算出する、方法。
【数1】
ここで、β
iは前記検出器iのスケールファクタであり、α
ijは前記検出器iとパラメータjについての拡大の程度を表す係数であり、γ
iは比例係数である。
【請求項2】
前記分子量相当値M
i(t)を時間の関数として求めるステップは、前記多角度光散乱検出器が有する複数の光検出部のうち、90°の位置に配置された光検出部の出力信号D
90°(t)に基づいて、下式(2)、(3)によって分子量相当値M
i(t)を求める、請求項
1に記載の方法。
【数2】
【数3】
ここで、N
aはアボガドロ数、dn/dcは試料の屈折率増分、n
0は溶媒の屈折率、λ
0は真空における入射光の波長、σは比例係数である。
【請求項3】
前記出力信号D
90°(t)よりも前記検出器iの出力信号D
i(t)の方がピークの拡がりが小さい場合、前記式(1)は、下式(4)に展開され、
前記出力信号D
90°(t)よりも前記検出器iの出力信号D
i(t)の方がピークの拡がりが大きい場合、前記式(1)は、下式(5)に展開される、
請求項
2に記載の方法。
【数4】
【数5】
【請求項4】
前記試料は、分子量に分散がある試料であり、
下式(6)、(7)より、Mn/Mwを算出し、該算出したMn/Mwが前記試料の既知のMn/Mwと一致するように、下式(8)のρを求め、下式(8)より前記試料の分子量Mの時間の関数M(t)を算出するステップをさらに含む、請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の方法。
【数6】
【数7】
【数8】
ここで、Mnは数平均分子量、Mwは重量平均分子量、Mpは前記検出器iの出力信号が最大値となるときのピークトップ分子量、C(t)は前記検出器iの出力信号D
i(t)から求まる濃度、ρは比例定数である。
【請求項5】
前記試料は、単一分子量の試料であり、前記試料の分子量Mの時間の関数M(t)が時間に依存しない定数である、請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記拡大モデルBは、下式(9)によって与えられる指数-ガウス分布関数である、請求項1から請求項
5のいずれか一項に記載の方法。
【数9】
ここで、t
cはクロマトグラムの保持時間、wはガウス分布の標準偏差、t
0は指数分布の時定数、Aはピーク面積である。
【請求項7】
前記拡大モデルBは、下式(10)によって与えられるガウス分布関数である、請求項1から請求項
5のいずれか一項に記載の方法。
【数10】
ここで、t
cはクロマトグラムの保持時間、wはガウス分布の標準偏差、t
0は指数分布の時定数、Aはピーク面積である。
【請求項8】
前記検出器iの出力信号D
i(t)を補正するステップは、前記検出器iの出力信号D
i(t)を拡幅する処理である、請求項1から請求項
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記検出器iの出力信号D
i(t)を拡幅する処理の後の出力信号をDi
*(t)としたときに、下式(11)を満たす、請求項
8に記載の方法。
【数11】
ここで、kは比例係数である。
【請求項10】
液体の試料中の微粒子を検出するための多角度光散乱検出器であって、
前記試料を保持する透明なフローセルと、
前記フローセルにコヒーレント光を照射する光源と、
前記フローセルから周囲に異なる散乱角を以て散乱する光を受光する複数の光検出部と、
前記複数の光検出部からの信号を受信し、前記試料の分子量を求める制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、
前記多角度光散乱検出器に直列に接続されるn個(nは1以上の整数)の検出器i(iは1~n)からの出力信号D
i(t)を時間の関数として収集する信号収集手段と、
前記複数の光検出部の少なくとも1つの信号に基づいて、前記検出器iに対応する分子量相当値M
i(t)を時間の関数として求める分子量算出部と、
前記分子量相当値M
i(t)が、既知の分子量Mの時間の関数M(t)に近づくように、前記検出器iの出力信号D
i(t)を補正する補正部と、
を有
し、
前記補正部は、前記検出器iについて、下式(1)のχ
i
2
モデルを形成し、前記検出器iの出力信号D
i
(t)と、調節可能なパラメータα
j
(jは0,・・・,l、ここでlは調節可能な数)のセットを含む拡大モデルB(α
0
,α
1
,・・・,α
l
,β,τ)とのコンボリューションを計算し、ピーク内で前記試料の分子量Mの時間の関数M(t)と前記分子量相当値M
i
(t)との差を最小化するパラメータα
ij
、β
i
、γ
i
を最小二乗法により算出する、多角度光散乱検出器。
【数12】
ここで、β
iは前記検出器iのスケールファクタであり、α
ijは前記検出器iとパラメータjについての拡大の程度を表す係数であり、γ
iは比例係数である。
【請求項11】
前記分子量算出部は、前記複数の光検出部のうち、90°の位置に配置された光検出部の出力信号D
90°(t)に基づいて、下式(2)、(3)によって分子量相当値M
i(t)を求める、請求項
10に記載の多角度光散乱検出器。
【数13】
【数14】
ここで、N
aはアボガドロ数、dn/dcは試料の屈折率増分、n
0は溶媒の屈折率、λ
0は真空における入射光の波長、σは比例係数である。
【請求項12】
前記出力信号D
90°(t)よりも前記検出器iの出力信号D
i(t)の方がピークの拡がりが小さい場合、前記式(1)は、下式(4)に展開され、
前記出力信号D
90°(t)よりも前記検出器iの出力信号D
i(t)の方がピークの拡がりが大きい場合、前記式(1)は、下式(5)に展開される、
請求項1
1に記載の多角度光散乱検出器。
【数15】
【数16】
【請求項13】
前記試料は、分子量に分散がある試料であり、
前記補正部は、下式(6)、(7)より、Mn/Mwを算出し、該算出したMn/Mwが前記試料の既知のMn/Mwと一致するように、下式(8)のρを求め、下式(8)より前記試料の分子量Mの時間の関数M(t)を算出する、請求項1
0から請求項1
2のいずれか一項に記載の多角度光散乱検出器。
【数17】
【数18】
【数19】
ここで、Mnは数平均分子量、Mwは重量平均分子量、Mpは前記検出器iの出力信号が最大値となるときのピークトップ分子量、C(t)は前記検出器iの出力信号D
i(t)から求まる濃度、ρは比例定数である。
【請求項14】
前記試料は、単一分子量の試料であり、前記試料の分子量Mの時間の関数M(t)が時間に依存しない定数である、請求項1
0から請求項1
2のいずれか一項に記載の多角度光散乱検出器。
【請求項15】
前記拡大モデルBは、下式(9)によって与えられる指数-ガウス分布関数である、請求項1
0から請求項1
4のいずれか一項に記載の多角度光散乱検出器。
【数20】
ここで、t
cはクロマトグラムの保持時間、wはガウス分布の標準偏差、t
0は指数分布の時定数、Aはピーク面積である。
【請求項16】
前記拡大モデルBは、下式(10)によって与えられるガウス分布関数である、請求項1
0から請求項1
4のいずれか一項に記載の多角度光散乱検出器。
【数21】
ここで、t
cはクロマトグラムの保持時間、wはガウス分布の標準偏差、t
0は指数分布の時定数、Aはピーク面積である。
【請求項17】
前記補正部は、前記検出器iの出力信号D
i(t)を拡幅する、請求項1
0から請求項1
6のいずれか一項に記載の多角度光散乱検出器。
【請求項18】
前記補正部は、前記検出器iの出力信号D
i(t)を拡幅した後の出力信号をDi
*(t)としたときに、下式(11)を満たすように、前記検出器iの出力信号D
i(t)を補正する請求項1
7に記載の多角度光散乱検出器。
【数22】
ここで、kは比例係数である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフィ等の分級装置の後段に複数の検出器を有するシステムにおいて、検出器の出力を補正するために用いられる方法、および出力補正機能を有する多角度光散乱検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
液体試料中に分散しているタンパク質等の高分子を分離するための手法として、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)やゲルろ過クロマトグラフィ(GPC)が知られている。近年、高速液体クロマトグラフィ(HPLC:High Performance Liquid Chromatography)システムとして、紫外線(UV)吸光度検出器や示差屈折率(RI)検出器に加え、多角度光散乱検出器を用いる構成(つまり、2つ以上の検出器を有する構成)が実用に供されている。このように多角度光散乱検出器を用いることで、測定試料の分子量や粒子径が算出可能であるという特長がある。
【0003】
このような2つ以上の検出器を有するHPLCシステムにおいては、各検出器からある時間幅を有するクロマトピーク信号が出力されるが、各検出器のセル容量や検出器間の配管容量により試料が拡散するため、後段の検出器ほどクロマトピーク信号が時間的に遅れ、かつクロマトピーク信号の時間幅が拡大する(つまり、バンドブロードニング(バンド拡大現象)が発生する)ことが知られている。
バンドブロードニングが発生すると、クロマトピーク信号の裾の部分では濃度を過小(または過大)評価することとなり、分子量が過大(または過小)に算出されてしまい、クロマトピーク信号内で一定であるはずの分子量との誤差がクロマトピーク信号の裾の部分で大きくなるといった問題が発生する。
そこで、このようなバンドブロードニングの影響を補正するために、クロマトピーク波形を数学的に拡大する方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、2つ以上のディテクタ(検出器)i(iは1~n、nはディテクタの数)を有するシステムにおいて、ディテクタ間のバンド拡大現象を補正するために用いられる拡大モデルの最適フィットパラメータを定めるための方法であって、
(1)調節可能なパラメータα
j(jは0,・・・,l、ここでlは調節可能な数)のセットを含む、拡大モデルB(α
0,α
1,・・・,α
l,τ)を選択するステップ、
(2)分子量が単一の試料(参照用サンプル)を通液するステップ、
(3)試料由来のピーク信号を複数のディテクタ(紫外線吸光度検出器、MALS検出器、RI検出器)により検出し、そのときの信号をD
i(t)(iは、1~n、nはディテクタの数)として集めるステップ、
(4)物理量(分子量)算出にあたり必要となる複数のD
i(t)のうち、時間的に最も拡がったものを参照用信号D
n(t)として規定するステップ、
(5)D
n(t)と拡大関数B(α
j, τ)とのコンボリューションによりD
i(t)を拡大し、ピーク内でのD
n(t)とD
i(t)の差を最小化する最適フィットパラメータ(β
i,τ
i,α
ij)を、以下の数式を用いて、最小二乗法により算出するステップ、
を含むものが記載されている。
【数1】
ここで、β
iはディテクタiのスケールファクタであり、α
ijはディテクタiとパラメータjについての拡大の程度を表している。
【0006】
つまり、特許文献1に記載のバンドブロードニングの補正方法では、単一分子量の試料のクロマトピーク信号の時間波形を一致させるフィッティングを行っているが、算出される分子量の絶対値に関しては不問である。
そして、紫外線吸光度検出器またはRI検出器の出力が濃度cを表すように構成するためには、それぞれの検出器のセル内で濃度が一様であることが条件となるところ、クロマトグラフィのような通液しながらの測定の場合、セル内で濃度が一様になるとは限らないため、算出される分子量は誤差が大きくなるといった問題があった。
また、特許文献1に記載のバンドブロードニングの補正方法では、分子量が単一である必要があるため、補正に使用する試料は一般にタンパク質に限定されていた。つまり、例えば高分子化合物のように、重合比のばらつきにより分子量に分散があるような試料に対しては、バンドブロードニングの補正が適用できないといった問題もあった。
また、かかる課題は、分級装置として液体クロマトグラフィを用いた場合に限らず、フィールド・フロー・フラクショネーション装置など他の分級装置を用いた場合にも同様に生じていた。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、分級装置の後段に複数の検出器を有するシステムにおいて、検出器のセル内で濃度が一様でない場合であっても、分子量を正確に算出することができ、分子量に分散があるような試料に対してもバンドブロードニングの補正を行うことが可能な、検出器の出力を補正する方法を提供すること、およびこのような出力補正機能を有する光散乱検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、分級装置の後段に配置されるn個(nは2以上の整数)の検出器i(iは1~n)を有するシステムにおいて、検出器iの出力を補正する方法であって、検出器iは、分級装置を通過した試料が流れるセルと、セルの周囲に配置される複数の光検出部を有する多角度光散乱検出器を含み、分子量Mが既知の試料を分級装置に注入するステップと、検出器iの出力信号Di(t)を時間の関数として収集するステップと、多角度光散乱検出器の複数の光検出部の少なくとも1つの出力信号に基づいて、検出器iに対応する分子量相当値Mi(t)を時間の関数として求めるステップと、分子量相当値Mi(t)が、既知の分子量Mの時間の関数M(t)に近づくように、検出器iの出力信号Di(t)を補正するステップと、を含む、方法に関する。
【0009】
本発明の第2の態様は、液体の試料中の微粒子を検出するための多角度光散乱検出器であって、試料を保持する透明なフローセルと、フローセルにコヒーレント光を照射する光源と、フローセルから周囲に異なる散乱角を以て散乱する光を受光する複数の光検出部と、複数の光検出部からの信号を受信し、試料の分子量を求める制御手段と、を備え、制御手段は、多角度光散乱検出器に直列に接続されるn個(nは1以上の整数)の検出器i(iは1~n)からの出力信号Di(t)を時間の関数として収集する信号収集手段と、複数の光検出部の少なくとも1つの信号に基づいて、検出器iに対応する分子量相当値Mi(t)を時間の関数として求める分子量算出部と、分子量相当値Mi(t)が、既知の分子量Mの時間の関数M(t)に近づくように、検出器iの出力信号Di(t)を補正する補正部と、を有する、多角度光散乱検出器に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、複数の検出器のセル内で濃度が一様でない場合であっても、分子量を正確に算出することができるため、分子量に幅があるような試料に対してもバンドブロードニングの補正を行うことが可能となる。また、このようなバンドブロードニングの補正機能(つまり、出力補正機能)を有する多角度光散乱検出器を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の高速液体クロマトグラフィシステムの構成を説明するブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の高速液体クロマトグラフィシステムのUV検出器の構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、本発明の高速液体クロマトグラフィシステムのMALS検出器の構成を示す平面図である。
【
図4】
図4は、本発明の高速液体クロマトグラフィシステムのMALS検出器の構成を示す側面図である。
【
図5】
図5は、本発明の高速液体クロマトグラフィシステムのRI検出器の構成の一例を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、本発明の高速液体クロマトグラフィシステムのUV検出器、MALS検出器及びRI検出器から出力されるクロマトピーク信号を示す図である。
【
図7】
図7は、分子量が単一の試料に対して、本発明を適用した結果を示す図である。
【
図8】
図8は、分子量が単一の試料に対して、本発明を適用した結果を示す図である。
【
図9】
図9は、分子量に分散がある試料に対して、本発明を適用した結果を示す図である。
【
図10】
図10は、指数-ガウス分布関数の拡大モデルBを示す図である。
【
図11】
図11は、ガウス分布関数の拡大モデルBを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の光散乱検出装置および光散乱検出方法を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る高速液体クロマトグラフィシステムの構成を説明するブロック図である。
図1に示すように、本実施形態の高速液体クロマトグラフィシステム1は、溶媒110と、ポンプ112と、インジェクタ114と、カラム116と、紫外線(UV)検出器200と、多角度光散乱(MALS)検出器300と、示差屈折率(RI)検出器400と、制御装置500と、を備えている。
測定の対象となる試料は、インジェクタ114から導入され、ポンプ112で送液される溶媒110(例えば、水、メタノールなど)中に注入され、カラム116で分離され、UV検出器200、MALS検出器300、RI検出器400に順次導入され、廃液容器(不図示)に送られる。
制御装置500は、UV検出器200、MALS検出器300及びRI検出器400に接続され、UV検出器200、MALS検出器300及びRI検出器400からデータを収集すると共に、後述の最適フィッティングパラメータの算出、およびバンドブロードニングの補正を行う装置である。
なお、本明細書においては、UV検出器200、MALS検出器300及びRI検出器400を総称して「検出器」という。
【0014】
図2は、本実施形態のUV検出器200の構成の一例を示すブロック図である。
図2に示すように、UV検出器200は、光源201、ミラー202、入射スリット203、回折格子204、出射スリット205、ミラー206、フローセル207、第1光検出器209、第2光検出器208、ビームスプリッタ210等を備えている。
光源201から出た光(紫外光又は可視光)はミラー202で反射され、入射スリット203を通って、回折格子204に入射する。回折格子204で分光された光のうち、特定の波長の光が出射スリット205を通り、ミラー206で反射されて、ビームスプリッタ210によって2つの光路に分岐される。一方の光は、フローセル207に入射され、フローセル207を透過した光は検出光として第1光検出器209で検出される。もう一方の光は、参照光として第2光検出器208で検出される。検出光と参照光の光強度は制御装置500に伝達され、吸光度が求められる。インジェクタ114から導入された試料は、カラム116で分離され、フローセル207内に順次導入され、MALS検出器300に送られる。カラム116で分離された各成分について特定波長における吸光度の時間変化を計測することで各成分の濃度を求めることができる。
【0015】
図3および
図4は、本実施形態のMALS検出器300の構成の一例を示す図であり、
図3は、MALS検出器300の基本構成例の平面図を示し、
図4は側面図を示している。
図3および
図4に示すように、MALS検出器300は、フローセル310、光源320、ディテクタ330(光検出部)、ビームダンパ340等を備えている。円筒体状のフローセル310の内部にUV検出器200からの試料を通液し、フローセル310および流路中心を通るように光源320から光を照射する。なお、UV検出器200から導入された試料は、フローセル310内に順次導入され、RI検出器400に送られる。
光源320としては、通常、可視レーザ光が用いられる。光の進行方向からの角度θが水平面上(XY平面上)の散乱角として定義され、異なる散乱角を検出するようにフローセル310および流路中心を通る水平面上(XY平面上)にディテクタ330が複数配置される。各ディテクタ330の出力は制御装置500(
図3及び
図4において不図示)に伝達される。そして、制御装置500によって、ディテクタ330の散乱光強度の角度依存性を測定することにより、粒子径や分子量が算出される。なお、MALS検出器300による分子量Mの計算には、下式(1)が用いられる。
【数2】
ここで、cは濃度であり、K
*は光学定数と呼ばれる定数であり、下式(2)で定義される。
【数3】
また、N
aはアボガドロ数、dn/dcは試料の屈折率増分、n
0は溶媒の屈折率、λ
0は真空における入射光の波長である。また、R(θ,t)は散乱角度θにおける過剰レイリー比であり、MALS検出器300の出力D(t)に比例係数σ
θをかけて算出される。この比例係数σ
θは、トルエンなど過剰レイリー比が既知の試料でMALS検出器300の出力を測定することで決定される。
式(1)に示すように、分子量Mを算出するためには、試料の濃度c(t)を別の検出器で測定する必要がある。このため、本実施形態の高速液体クロマトグラフィシステム1においては、試料の濃度c(t)を求めるために、UV検出器200およびRI検出器400を使用している。
【0016】
図5は、本実施形態のRI検出器400の構成の一例を示す図である。
図5に示すように、RI検出器400は、フローセル402、光源404、スリット408、レンズ410、ミラー412、ゼログラス414、受光素子416等を備えている。フローセル402は、スリット408を介して入射する光源404からの測定光406の光軸上に配置されている。フローセル402はMALS検出器300からの試料が通液される試料セル402aと参照セル402bとを有し、試料セル402aと参照セル402bは透明な隔壁によって仕切られている。
フローセル402の前方にはレンズ410が配置され、フローセル402の後方にはフローセル402を透過した光を反射させるミラー412が配置されている。ミラー412により反射された測定光406の光路上にフォトダイオードなどの受光素子416が設けられており、ミラー412で反射してフローセル402を透過した測定光406が受光素子416上に結像されるようになっている。反射後の測定光406の光路上のレンズ410と受光素子416との間に、受光素子416上でのスリット像を平行移動させるためのゼログラス414が配置されている。
光源4から発せられた光はスリット408を通って測定光406となり、レンズ410を通ってフローセル402に照射され、フローセル402を透過してミラー412で反射される。ミラー412からの反射光は再びフローセル402を透過してレンズ410によって受光素子416上にスリット像として結像される。受光素子416は2つの受光領域416Aと416Bを備え、それぞれの受光領域への入射光量に基づく検出信号が制御装置500(
図3及び
図4において不図示)に出力されるようになっている。
試料セル402a内と参照セル402b内の屈折率差が0であるときに、スリット像が受光領域416A、416Bの境界部分を跨ぐようにして受光素子416の受光面上に結像されるように調整されており、試料セル402a内に試料成分が導入されて試料セル402a内の屈折率が変化すると、試料セル402a内と参照セル402b内の屈折率差が変化し、受光素子416の受光面に結像するスリット像が変位する。その変位を受光領域416Aと416Bの検出信号値の差分をとることにより検出し、試料セル402a内と参照セル402b内の屈折率差を求める。そして、制御装置500によって、分離カラム116で分離された各成分について屈折率差の時間変化を計測することで各成分の濃度を求めることができる。
【0017】
このように、本実施形態の高速液体クロマトグラフィシステム1は、UV検出器200、MALS検出器300及びRI検出器400が直列に配置されており、カラム116により分離された試料は、各検出器において、ある時間幅を有するクロマトピーク信号として出力されるようになっている。
図6は、本実施形態のUV検出器200、MALS検出器300及びRI検出器400から出力されるクロマトピーク信号を示す図である。
図6に示すように、本実施形態の高速液体クロマトグラフィシステム1は、UV検出器200、MALS検出器300及びRI検出器400が直列に配置されているため、各検出器のセル容量や検出器間の配管容量により試料が拡散し、後段の検出器ほどクロマトピーク信号が遅れ、かつピークの時間幅は拡大する(つまり、バンドブロードニングが発生する)。
そして、バンドブロードニングが発生すると、クロマトピーク信号の裾の部分では濃度を過小(または過大)評価することとなり、分子量が過大(または過小)に算出されてしまい、クロマトピーク信号内で一定であるはずの分子量との誤差がクロマトピーク信号の裾の部分で大きくなるといった問題が発生する。
そこで、かかる問題を解決するため、本実施形態の高速液体クロマトグラフィシステム1では、各検出器の出力を補正する機能(以下、「出力補正機能」又は「出力補正方法」という。)を備える構成を採っている。
【0018】
以下、本実施形態の高速液体クロマトグラフィシステム1で実行される出力補正方法について詳述する。
【0019】
(出力補正方法)
本実施形態の出力補正方法は、高速液体クロマトグラフィシステム1で実行される、各検出器のキャリブレーション方法であり、以下の(a)~(d)のステップを含む。
(a)分子量Mが既知の試料を高速液体クロマトグラフィシステム1に注入する。
(b)制御装置500によって、試料のピークを各検出器によって検出し、そのときのUV検出器200及びRI検出器400の出力信号をそれぞれ、時間の関数D
i(t)(iは検出器の数を示す添字)として収集する。
(c)制御装置500によって、MALS検出器300の複数のディテクタ330の少なくとも1つの信号に基づいて、UV検出器200及びRI検出器400における分子量相当値M
i(t)を時間の関数として求める。
(d)制御装置500によって、分子量相当値M
i(t)が、既知の分子量Mの時間の関数M(t)に近づくように、UV検出器200及びRI検出器400の出力信号D
i(t)を補正する。より具体的には、UV検出器200及びRI検出器400について、下式(3)のχ
i
2モデルを形成し、制御装置500によって、UV検出器200及びRI検出器400の出力信号D
i(t)と、調節可能なパラメータα
j(jは0,・・・,l、ここでlは調節可能な数)のセットを含む拡大モデルB(α
0,α
1,・・・,α
l,β,τ)とのコンボリューションを計算し、ピーク内で試料の分子量Mの時間の関数M(t)と分子量相当値M
i(t)との差を最小化するパラメータα
ij、β
i、γ
iを最小二乗法により算出し、パラメータα
ij、β
i、γ
iに基づいてUV検出器200及びRI検出器400の出力信号D
i(t)を補正する。
【数4】
ここで、β
iは検出器iのスケールファクタであり、α
ijは検出器iとパラメータjについての拡大の程度を表す係数であり、γ
iは比例係数である。
【0020】
つまり、本実施形態の出力補正方法では、UV検出器200及びRI検出器400によって測定される分子量相当値Mi(t)が試料の分子量Mの時間の関数M(t)に一致するような拡大関数Bのパラメータαij、βi、γi(以下、これらを総称して「最適フィッティングパラメータ」という。)を求め、この最適フィッティングパラメータを用いて各検出器の出力を補正している。
【0021】
そして、かかる出力補正方法によって得られた、パラメータαij、βi、γiに基づいて、UV検出器200及びRI検出器400の出力信号Di(t)を拡幅処理すると、バンドブロードニングが補正されるようになっている。
【0022】
なお、上記(c)のステップにおいて、分子量相当値M
i(t)を求めるときには、散乱角度依存性を無視することができるため、90°の位置に配置されたディテクタ330の出力信号D
90°(t)のみに基づいて、下式(4)、(5)によって分子量相当値M
i(t)を求めることができる。
【数5】
【数6】
ここで、N
aはアボガドロ数、dn/dcは試料の屈折率増分、n
0は溶媒の屈折率、λ
0は真空における入射光の波長、γ
i、σは比例係数である。
【0023】
なお、式(3)、(4)より、出力信号D
90°(t)よりも各検出器iの出力信号D
i(t)の方がピークの拡がりが小さい場合(つまり、MALS検出器300が濃度検出器の後段に配置されている場合)、
【数7】
となるため、UV検出器200の出力信号D
i(t)に対して最適フィッティングパラメータを求める場合、式(6)を適用することができる。
図7は、分子量が単一の試料(ウシ血清アルブミン(BSA))に対して、本発明を適用した結果を示す図であり、UV検出器200の出力信号に対して最適フィッティングパラメータを求めたときの、MALS検出器300の出力信号D
90°(t)と、式(4)、(5)によって求めた分子量相当値M
i(t)を示す図である。なお、
図7の分子量相当値M
i(t)は、式(4)、(5)によって求めた分子量相当値M
i(t)を試料の分子量Mの時間の関数M(t)(既定値:67,000g/mol)で割った値とした。また、UV検出器200の出力信号は波長280nmにおける吸光度である。また、γはBSAの波長280nmにおけるモル吸光係数ε 0.67[mL/mg]から、γ= 1/εを用いた。
図7に示すように、分子量相当値M
i(t)は、ピーク範囲内において略1.0となり、試料の分子量Mの時間の関数M(t)(既定値:67,000g/mol)と略一致していることが分かる。
【0024】
また、式(3)、(4)より、出力信号D
90°(t)よりも各検出器iの出力信号D
i(t)の方がピークの拡がりが大きい場合(つまり、MALS検出器300が濃度検出器の前段に配置されている場合)、
【数8】
となるため、RI検出器400の出力信号D
i(t)に対して最適フィッティングパラメータを求める場合、式(6)を適用することができる。
図8は、分子量が単一の試料(ウシ血清アルブミン(BSA))に対して、本発明を適用した結果を示す図であり、RI検出器400の出力信号D
i(t)に対して最適フィッティングパラメータを求めたときの、RI検出器400の信号D
i(t)と、式(4)、(5)によって求めた分子量相当値M
i(t)を示す図である。なお、
図8の分子量相当値M
i(t)は、式(4)、(5)によって求めた分子量相当値M
i(t)を試料の分子量Mの時間の関数M(t)(既定値:67,000g/mol)で割った値とした。また、タンパク質の屈折率増分dn/dcは0.185[mL/g]から、γ = 1 /(dn/dc)を用いた。
図8に示すように、分子量相当値M
i(t)は、ピーク範囲内において略1.0となり、試料の分子量Mの時間の関数M(t)(既定値:67,000g/mol)と略一致していることが分かる。
【0025】
また、上記(a)のステップにおいて、分子量に分散がある試料(例えば、高分子)が用いられる場合、下式(8)、(9)より、Mn/Mwを算出し、算出したMn/Mwが試料の既知のMn/Mwと一致するように、下式(10)のρを求め、下式(10)より試料の分子量Mの時間の関数M(t)を算出することができる。なお、本明細書では、試料が高分子など分子量に実質的な分散がある試料については、下式(10)で算出されるM(t)を「分子量」と称する。
【数9】
【数10】
【数11】
ここで、Mnは数平均分子量、Mwは重量平均分子量、Mpは各検出器iの出力信号が最大値となるときのピークトップ分子量、C(t)は各検出器iの出力信号D
i(t)から求まる濃度である。
図9は、分子量に分散がある試料(M
w / M
n = 1.2)に対して、本発明を適用した結果を示す図であり、MALS検出器300の出力信号D
90°(t)と、RI検出器400の出力信号D
i(t)と、式(4)、(5)によって求めた分子量相当値M
i(t)を示す図である。なお、
図9の分子量相当値M
i(t)は、式(4)、(5)によって求めた分子量相当値M
i(t)を試料のピークトップ分子量Mpで割った値とした。
図9に示すように、MALS検出器300をバンドブロードニングする場合、分子量に幅がある(分散がある)試料に対しても補正が可能である。
【0026】
なお、上記(a)のステップにおいて、試料がタンパク質のように分子量一定である場合には、試料の分子量Mの時間の関数M(t)が時間に依存しない定数となり、Mn/Mw=1.0、ρ=0となる。
【0027】
また、上記(d)のステップにおいて、拡大モデルBは、下式(11)によって与えられる指数-ガウス分布関数を適用することができる。
図10は、A = β = 5.0, t
c = -1.0,w = 1.0,t
0 = 3.0 としたときの、指数-ガウス分布関数の拡大モデルBを示す図である。
【数12】
また、拡大モデルBは、下式(12)によって与えられるガウス分布関数を適用することができる。
図11は、A = β = 5.0, t
c = -1.0,w = 1.0,t
0 = 3.0 としたときの、ガウス分布関数の拡大モデルBを示す図である。
【数13】
ここで、t
cはクロマトグラムの保持時間、wはガウス分布の標準偏差、t
0は指数分布の時定数、Aはピーク面積であり、t
c、w、t
0は、拡大関数Bのαの一例である。
【0028】
また、上述のように、出力補正方法によって得られた、パラメータα
ij、β
i、γ
iに基づいて、UV検出器200及びRI検出器400の出力信号D
i(t)を拡幅処理すると、バンドブロードニングが補正されるが、ピーク内での時間積分値が等しくなる必要があるため、拡幅処理後の出力信号をDi
*(t)としたときに、下式(13)を満たすように構成されている。
【数14】
【0029】
また、濃度c(t)については、出力信号D
90°(t)よりも各検出器iの出力信号D
i(t)の方がピークの拡がりが小さい場合(つまり、MALS検出器300が濃度検出器の後段に配置されている場合)、下式(14)で補正し、
【数15】
出力信号D
90°(t)よりも各検出器iの出力信号D
i(t)の方がピークの拡がりが大きい場合(つまり、MALS検出器300が濃度検出器の前段に配置されている場合)、下式(15)で補正することができる。
【数16】
このように、濃度c(t)を補正することにより、通液時のセル内での濃度ムラによる出力値と濃度算出値との差を補償することができる。
【0030】
以上が本実施形態の説明であるが、本発明は、上記の構成に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内において様々な変形が可能である。例えば、本実施形態においては、制御装置500は、UV検出器200、MALS検出器300及びRI検出器400とは別体の装置であるとしたが、このような構成に限定されるものではなく、制御装置500は、例えば、MALS検出器300内に組み込まれていてもよい。
【0031】
また、本実施形態の高速液体クロマトグラフィシステムは、UV検出器200、MALS検出器300及びRI検出器400を備えるものとしたが、MALS検出器300とn個(nは1以上の整数)の濃度検出器i(iは1~n)を備えればよく、必ずしもUV検出器200やRI検出器400に限定されるものではない。
【0032】
また、本実施形態においては、分子量に分散がある試料(例えば、高分子)が用いられる場合に、式(8)、(9)、(10)によって試料の分子量Mの時間の関数M(t)を算出したが、これに代えて、式(1)によって分子量Mの時間の関数M(t)を算出することもできる。
【0033】
また、本実施形態においては、分級装置としてカラム116を備えた高速液体クロマトグラフィを用いる構成を示したが、本発明は、このような構成に限定されるものではなく、他の分級装置に適用することも可能である。分級装置の他の例としては、フィールド・フロー・フラクショネーション(FFF)装置を含み、より具体的には、CF3(Centrifugal Field Flow Fractionation)装置、AF4(Asymmetric Flow Field Flow Fractionation)装置を含む。
【0034】
なお、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0035】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0036】
(第1項)一態様に係る方法は、
分級装置(1)の後段に配置されるn個(nは2以上の整数)の検出器i(iは1~n)を有するシステムにおいて、前記検出器iの出力を補正する方法であって、
前記検出器iは、前記分級装置を通過した試料が流れるセルと前記セルの周囲に配置される複数の光検出部を有する多角度光散乱検出器を含み、
分子量Mが既知の試料を前記分級装置に注入するステップ(ステップ(a))と、
前記検出器iの出力信号Di(t)を時間の関数として収集するステップ(ステップ(b))と、
前記多角度光散乱検出器の複数の光検出器の少なくとも1つの出力信号に基づいて、前記検出器iに対応する分子量相当値Mi(t)を時間の関数として求めるステップ(ステップ(c))と、
前記分子量相当値Mi(t)が、前記既知の分子量Mの時間の関数M(t)に近づくように、前記検出器iの出力信号Di(t)を補正するステップ(ステップ(d))と、を含む。
【0037】
第1項に記載の方法によれば、分子量相当値Mi(t)が、既知の分子量Mの時間の関数M(t)に近づくように、検出器iの出力信号Di(t)が補正されるため、検出器のセル内で濃度が一様でない場合であっても、分子量を正確に算出することができ、分子量に分散があるような試料に対してもバンドブロードニングの補正を行うことができる。
【0038】
(第2項)第1項に記載の方法において、
前記検出器iの出力信号D
i(t)を補正するステップは、前記検出器iについて、下式(1)のχ
i
2モデルを形成し、前記検出器iの出力信号D
i(t)と、調節可能なパラメータα
j(jは0,・・・,l、ここでlは調節可能な数)のセットを含む拡大モデルB(α
0,α
1,・・・,α
l,β,τ)とのコンボリューションを計算し、ピーク内で前記試料の分子量Mの時間の関数M(t)と前記分子量相当値M
i(t)との差を最小化するパラメータα
ij、β
i、γ
iを最小二乗法により算出する。
【数17】
ここで、β
iは前記検出器iのスケールファクタであり、α
ijは前記検出器iとパラメータjについての拡大の程度を表す係数であり、γ
iは比例係数である。
【0039】
第2項に記載の方法によれば、試料の分子量Mの時間の関数M(t)と分子量相当値Mi(t)の差が最小となるパラメータαij、βi、γiが求まるため、これによってフィッティングを行うと、検出器のセル内で濃度が一様でない場合であっても、分子量を正確に算出することができ、分子量に分散があるような試料に対してもバンドブロードニングの補正を行うことができる。
【0040】
(第3項)第1項又は第2項に記載の方法において、
前記分子量相当値M
i(t)を時間の関数として求めるステップは、前記多角度光散乱検出器が有する複数の光検出部(330)のうち、90°の位置に配置された光検出部の出力信号D
90°(t)に基づいて、下式(2)、(3)によって分子量相当値M
i(t)を求める。
【数18】
【数19】
ここで、N
aはアボガドロ数、dn/dcは試料の屈折率増分、n
0は溶媒の屈折率、λ
0は真空における入射光の波長、σは比例係数である。
【0041】
第3項に記載の方法によれば、90°の位置に配置された光検出部のみの出力信号から、簡単に分子量相当値Mi(t)を求めることができる。
【0042】
(第4項)第3項に記載の方法において、
前記出力信号D
90°(t)よりも前記検出器iの出力信号D
i(t)の方がピークの拡がりが小さい場合、前記式(1)は、下式(4)に展開され、
前記出力信号D
90°(t)よりも前記検出器iの出力信号D
i(t)の方がピークの拡がりが大きい場合、前記式(1)は、下式(5)に展開される。
【数20】
【数21】
【0043】
第4項に記載の方法によれば、90°の位置に配置された光検出部のみの出力信号から、簡単に最適なパラメータαij、βi、γiを得ることができる。
【0044】
(第5項)第1項から第4項に記載の方法において、
前記試料は、分子量に分散がある試料であり、
下式(6)、(7)より、Mn/Mwを算出し、該算出したMn/Mwが前記試料の既知のMn/Mwと一致するように、下式(8)のρを求め、下式(8)より前記試料の分子量Mの時間の関数M(t)を算出するステップをさらに含む。
【数22】
【数23】
【数24】
ここで、Mnは数平均分子量、Mwは重量平均分子量、Mpは前記検出器iの出力信号が最大値となるときのピークトップ分子量、C(t)は前記検出器iの出力信号D
i(t)から求まる濃度である。
【0045】
第5項に記載の方法によれば、分子量に分散がある試料であっても試料の分子量Mの時間の関数M(t)を容易に算出することができる。
【0046】
(第6項)第1項から第4項に記載の方法において、
前記試料は、単一分子量の試料であり、前記試料の分子量Mの時間の関数M(t)が時間に依存しない定数である。
【0047】
第6項に記載の方法によれば、単一分子量の試料の場合、演算が簡単になる。
【0048】
(第7項)第1項から第6項に記載の方法において、
前記拡大モデルBは、下式(9)によって与えられる指数-ガウス分布関数である。
【数25】
ここで、t
cはクロマトグラムの保持時間、wはガウス分布の標準偏差、t
0は指数分布の時定数、Aはピーク面積である。
【0049】
第7項に記載の方法によれば、指数-ガウス分布関数を用いて、正確なフィティングを行うことができる。
【0050】
(第8項)第1項から第6項に記載の方法において、
前記拡大モデルBは、下式(10)によって与えられるガウス分布関数である。
【数26】
ここで、t
cはクロマトグラムの保持時間、wはガウス分布の標準偏差、t
0は指数分布の時定数、Aはピーク面積である。
【0051】
第8項に記載の方法によれば、ガウス分布関数を用いて、正確なフィティングを行うことができる。
【0052】
(第9項)第1項から第8項に記載の方法において、
前記検出器iの出力信号Di(t)を補正するステップは、前記検出器iの出力信号Di(t)を拡幅する処理である。
【0053】
第9項に記載の方法によれば、検出器iの出力信号Di(t)に発生するバンドブロードニングを補正することができる。
【0054】
(第10項)第9項に記載の方法において、
前記拡幅処理後の出力信号をDi
*(t)としたときに、下式(11)を満たす。
【数27】
ここで、kは比例係数である。
【0055】
第10項に記載の方法によれば、ピーク内での時間積分値が等しくなるように、バンドブロードニングが補正される。
【0056】
(第11項)一態様に係る多角度光散乱検出器(300)は、
液体の試料中の微粒子を検出するための多角度光散乱検出器(300)であって、
前記試料を保持する透明なフローセル(310)と、
前記フローセルにコヒーレント光を照射する光源(320)と、
前記フローセルから周囲に異なる散乱角を以て散乱する光を受光する複数の光検出部(330)と、
前記複数の光検出部からの信号を受信し、前記試料の分子量を求める制御手段(500)と、
を備え、
前記制御手段(500)は、
前記多角度光散乱検出器に直列に接続されるn個(nは1以上の整数)の検出器i(iは1~n)からの出力信号Di(t)を時間の関数として収集する信号収集手段(ステップ(b))と、
前記複数の光検出部の少なくとも1つの信号に基づいて、前記検出器iに対応する分子量相当値Mi(t)を時間の関数として求める分子量算出部(ステップ(c))と、
前記分子量相当値Mi(t)が、前記既知の分子量Mの時間の関数M(t)に近づくように、前記検出器iの出力信号Di(t)を補正する補正部(ステップ(d))と、
を有する。
【0057】
第11項に記載の多角度光散乱検出器によれば、分子量相当値Mi(t)が、既知の分子量Mの時間の関数M(t)に近づくように、検出器iの出力信号Di(t)が補正されるため、検出器のセル内で濃度が一様でない場合であっても、分子量を正確に算出することができ、分子量に分散があるような試料に対してもバンドブロードニングの補正を行うことができる。
【0058】
(第12項)第11項に記載の多角度光散乱検出器において、
前記補正部(ステップ(d))は、前記検出器iについて、下式(1)のχ
i
2モデルを形成し、前記検出器iの出力信号D
i(t)と、調節可能なパラメータα
j(jは0,・・・,l、ここでlは調節可能な数)のセットを含む拡大モデルB(α
0,α
1,・・・,α
l,β,τ)とのコンボリューションを計算し、ピーク内で前記試料の分子量Mの時間の関数M(t)と前記分子量相当値M
i(t)との差を最小化するパラメータα
ij、β
i、γ
iを最小二乗法により算出する。
【数28】
ここで、β
iは前記検出器iのスケールファクタであり、α
ijは前記検出器iとパラメータjについての拡大の程度を表す係数であり、γ
iは比例係数である。
【0059】
第12項に記載の多角度光散乱検出器によれば、試料の分子量Mの時間の関数M(t)と分子量相当値Mi(t)の差が最小となるパラメータαij、βi、γiが求まるため、これによってフィッティングを行うと、検出器のセル内で濃度が一様でない場合であっても、分子量を正確に算出することができ、分子量に分散があるような試料に対してもバンドブロードニングの補正を行うことができる。
【0060】
(第13項)第11項又は第12項に記載の多角度光散乱検出器において、
前記分子量算出部は、前記複数の光検出部のうち、90°の位置に配置された光検出部の出力信号D
90°(t)に基づいて、下式(2)、(3)によって分子量相当値M
i(t)を求める。
【数29】
【数30】
ここで、N
aはアボガドロ数、dn/dcは試料の屈折率増分、n
0は溶媒の屈折率、λ
0は真空における入射光の波長、σは比例係数である。
【0061】
第13項に記載の多角度光散乱検出器によれば、90°の位置に配置された光検出部のみの出力信号から、簡単に分子量相当値Mi(t)を求めることができる。
【0062】
(第14項)第13項に記載の多角度光散乱検出器において、
前記出力信号D
90°(t)よりも前記検出器iの出力信号D
i(t)の方がピークの拡がりが小さい場合、前記式(1)は、下式(4)に展開され、
前記出力信号D
90°(t)よりも前記検出器iの信号D
i(t)の方がピークの拡がりが大きい場合、前記式(1)は、下式(5)に展開される。
【数31】
【数32】
【0063】
第14項に記載の多角度光散乱検出器によれば、90°の位置に配置された光検出部のみの出力信号から、簡単に最適フィッティングパラメータを得ることができる。
【0064】
(第15項)第11項から第14項に記載の多角度光散乱検出器において、
前記試料は、分子量に分散がある試料であり、
前記補正部は、下式(6)、(7)より、Mn/Mwを算出し、該算出したMn/Mwが前記試料の既知のMn/Mwと一致するように、下式(8)のρを求め、下式(8)より前記試料の分子量Mの時間の関数M(t)を算出する。
【数33】
【数34】
【数35】
ここで、Mnは数平均分子量、Mwは重量平均分子量、Mpは前記検出器iの出力信号が最大値となるときのピークトップ分子量、C(t)は前記検出器iの出力信号D
i(t)から求まる濃度、ρは比例定数である。
【0065】
第15項に記載の多角度光散乱検出器によれば、分子量に分散がある試料であっても試料の分子量Mの時間の関数M(t)を容易に算出することができる。
【0066】
(第16項)第11項から第14項に記載の多角度光散乱検出器において、
前記試料は、単一分子量の試料であり、前記試料の分子量Mの時間の関数M(t)が時間に依存しない定数である。
【0067】
第16項に記載の多角度光散乱検出器によれば、単一分子量の試料の場合、演算が簡単になる。
【0068】
(第17項)第11項から第16項に記載の多角度光散乱検出器において、
前記拡大モデルBは、下式(9)によって与えられる指数-ガウス分布関数である。
【数36】
ここで、t
cはクロマトグラムの保持時間、wはガウス分布の標準偏差、t
0は指数分布の時定数、Aはピーク面積である。
【0069】
第17項に記載の多角度光散乱検出器によれば、指数-ガウス分布関数を用いて、正確なフィティングを行うことができる。
【0070】
(第18項)第11項から第16項に記載の多角度光散乱検出器において、
前記拡大モデルBは、下式(10)によって与えられるガウス分布関数である。
【数37】
ここで、t
cはクロマトグラムの保持時間、wはガウス分布の標準偏差、t
0は指数分布の時定数、Aはピーク面積である。
【0071】
第18項に記載の多角度光散乱検出器によれば、ガウス分布関数を用いて、正確なフィティングを行うことができる。
【0072】
(第19項)第11項から第18項に記載の多角度光散乱検出器において、
前記補正部は、前記検出器iの出力信号Di(t)を拡幅する。
【0073】
第19項に記載の多角度光散乱検出器によれば、検出器iの出力信号Di(t)に発生するバンドブロードニングを補正することができる。
【0074】
(第20項)第19項に記載の多角度光散乱検出器において、
前記補正部は、前記検出器iの出力信号D
i(t)を拡幅した後の出力信号をDi
*(t)としたときに、下式(11)を満たすように、前記検出器iの出力信号D
i(t)を補正する。
【数38】
ここで、kは比例係数である。
【0075】
第20項に記載の多角度光散乱検出器によれば、ピーク内での時間積分値が等しくなるように、バンドブロードニングが補正される。
【符号の説明】
【0076】
1 :高速液体クロマトグラフィシステム
110 :溶媒
112 :ポンプ
114 :インジェクタ
116 :カラム
200 :UV検出器
201 :光源
202 :ミラー
203 :入射スリット
204 :回折格子
205 :出射スリット
206 :ミラー
207 :フローセル
208 :第2光検出器
209 :第1光検出器
210 :ビームスプリッタ
300 :MALS検出器
310 :フローセル
320 :光源
330 :ディテクタ
340 :ビームダンパ
400 :RI検出器
402 :フローセル
402a :試料セル
402b :参照セル
404 :光源
406 :測定光
408 :スリット
410 :レンズ
412 :ミラー
414 :ゼログラス
416 :受光素子
416A :受光領域
416B :受光領域
500 :制御装置