(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】粘弾性測定装置および粘弾性測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 19/00 20060101AFI20231226BHJP
G01N 11/00 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
G01N19/00 B
G01N11/00 C
(21)【出願番号】P 2019232515
(22)【出願日】2019-12-24
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平山 順哉
(72)【発明者】
【氏名】梅田 勝比呂
(72)【発明者】
【氏名】岡田 拓也
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-228265(JP,A)
【文献】特開2016-099285(JP,A)
【文献】特開2005-098951(JP,A)
【文献】国際公開第2008/021264(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2019/0154647(US,A1)
【文献】特開2008-32568(JP,A)
【文献】大坪泰文,振動板型レオメータによるエポキシアクリレート系プレポリマーのUV硬化挙動の測定,日本レオロジー学会誌,Vol.12,1984年,131-135頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 19/00-19/10
G01N 11/00-13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の粘弾性を測定可能な粘弾性測定装置であって、
前記試料が載置される平板状の部分を含む第1部材と、
前記試料側に突出し、前記試料に接触する突起を含む第2部材と、
前記第1部材または前記第2部材を振動させることが可能な加振装置と、
前記加振装置により前記第1部材または前記第2部材を振動させたときの前記振動をさせた第1部材または前記第2部材の振幅の情報を収集可能な情報処理部とを備え、
前記情報処理部により収集された振幅の情報に基づいて前記試料の粘弾性を測
定し、
前記突起の先端は前記平板状の部分と平行な平面を有し、
前記加振装置は、前記第1部材の前記平板状の部分と平行に前記第2部材を振動させる、粘弾性測定装置。
【請求項2】
前記第1部材の前記平板状の部分は透明に形成され、
前記粘弾性測定装置は、前記第1部材に対して前記第2部材の反対側に設けられ、前記平板状の部分を通して前記試料に電磁波を照射することが可能な照射装置をさらに備える、請求項1に記載の粘弾性測定装置。
【請求項3】
前記加振装置は、前記試料の硬化に影響する成分が雰囲気中から前記試料に取り込まれない振幅で前記第1部材または前記第2部材を振動させる、請求項1または請求項2に記載の粘弾性測定装置。
【請求項4】
前記第1部材の前記平板状の部分と前記第2部材の突起との間に前記試料が挟持された状態から、前記突起を前記試料にめり込ませることが可能である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の粘弾性測定装置。
【請求項5】
前記第1部材の前記平板状の部分と前記第2部材の突起との間に前記試料が挟持された状態から、前記突起を前記試料から離れる方向に移動させて前記試料の膜厚を調整することが可能である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の粘弾性測定装置。
【請求項6】
前記加振装置は、前記第1部材および前記第2部材のうち前記第2部材を振動させる、請求項1から
請求項5のいずれか1項に記載の粘弾性測定装置。
【請求項7】
前記突起の先端の面積は、前記第2部材側から見た前記試料の断面積よりも小さい、請求項1から
請求項6のいずれか1項に記載の粘弾性測定装置。
【請求項8】
前記照射装置から前記平板状の部分を通して前記試料に紫外線を照射しながら前記加振装置により前記第1部材または前記第2部材を振動させ、前記第1部材または前記第2部材の振幅値と、前記加振装置の出力に対する前記第1部材または前記第2部材の振動の位相差とに基づいて、前記試料の粘弾性を連続的に測定する、請求項2から
請求項7のいずれか1項に記載の粘弾性測定装置。
【請求項9】
前記試料として、インクジェット印刷機用の紫外線硬化型インクを用いることが可能である、請求項1から
請求項8のいずれか1項に記載の粘弾性測定装置。
【請求項10】
試料の粘弾性を測定可能な粘弾性測定方法であって、
第1部材の平板状の部分に前記試料を載置するステップと、
第2部材における前記試料側に突出する突起を前記試料に接触させるステップと、
前記第1部材または前記第2部材を振動させるステップと、
前記振動をさせた第1部材または前記第2部材の振幅の情報を収集するステップと、
前記情報を収集するステップにおいて収集された振幅の情報に基づいて前記試料の粘弾性を測定するステップとを備
え、
前記突起の先端が前記平板状の部分と平行な平面を有するように前記第1部材と前記第2部材とを設け、
前記第1部材の前記平板状の部分と平行に前記第2部材を振動させる、粘弾性測定方法。
【請求項11】
前記第1部材に対して前記第2部材の反対側から、前記第1部材における透明の前記平板状の部分を通して前記試料に電磁波を照射する、
請求項10に記載の粘弾性測定方法。
【請求項12】
前記試料の硬化に影響する成分が雰囲気中から前記試料に取り込まれない振幅で前記第1部材または前記第2部材を振動させる、
請求項10または
請求項11に記載の粘弾性測定方法。
【請求項13】
前記突起を前記試料に接触させるステップは、前記第1部材の前記平板状の部分と前記第2部材の突起との間に前記試料が挟持された状態から、前記突起を前記試料にめり込ませることを含む、
請求項10から
請求項12のいずれか1項に記載の粘弾性測定方法。
【請求項14】
前記突起を前記試料に接触させるステップは、前記第1部材の前記平板状の部分と前記第2部材の突起との間に前記試料が挟持された状態から、前記突起を前記試料から離れる方向に移動させて前記試料の膜厚を調整することを含む、
請求項10から
請求項13のいずれか1項に記載の粘弾性測定方法。
【請求項15】
前記第1部材および前記第2部材のうち前記第2部材を振動させる、
請求項10から
請求項14のいずれか1項に記載の粘弾性測定方法。
【請求項16】
前記第2部材側から見た前記試料の断面積が前記突起の先端の面積よりも大きくなるように前記試料を設ける、
請求項10から
請求項15のいずれか1項に記載の粘弾性測定方法。
【請求項17】
前記第1部材の前記平板状の部分を通して前記試料に紫外線を照射しながら前記第1部材または前記第2部材を振動させ、前記振動をさせた前記第1部材または前記第2部材の振幅値と、前記振動を加える加振装置の出力に対する前記第1部材または前記第2部材の振動の位相差とに基づいて、前記試料の粘弾性を連続的に測定する、
請求項11から
請求項16のいずれか1項に記載の粘弾性測定方法。
【請求項18】
前記試料として、インクジェット印刷機用の紫外線硬化型インクを用いる、
請求項10から
請求項17のいずれか1項に記載の粘弾性測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、粘弾性測定装置および粘弾性測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のインクジェット印刷機では紫外線硬化型インク(UVインク)が多く使用される。UVインクの硬化をコントロールする技術開発が盛んに行なわれている。インクジェット印刷機においては、ドット形状の制御が重要視されており、硬化の過程を精緻に解析する必要性が相対的に高い。
【0003】
UVインクの組成については、下記の非特許文献1に例示されている(「2.UV硬化型インクジェットインクの概要」の欄参照)。
【0004】
下記の非特許文献2には、エポキシアクリレート系プレポリマーのUV硬化挙動の測定方法が開示されている。ここでは、テーブル(T)とガラス(G)との間に試料(S)を挟み、ガラス(G)を振動させてその変位を観測している。ガラスの背面にはUV照射装置が設けられている(「Fig.2」及びその関連部分参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】朝武敦:UVインクジェットインクの硬化特性、日本画像学会誌第49巻第5号(2010)412-416
【文献】大坪泰文ら:振動板型レオメータによるエポキシアクリレート系プレポリマーのUV硬化挙動の測定、日本レオロジー学会誌Vol.12(1984)131-135
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献2に記載の装置では、試料を挟む部材がどちらも平板状であるため、試料の厚みを自在に制御することが難しい。したがって、特定の重量の試料について、予めガラスで挟んだときの広がりを確認しておき、目的とする膜厚となるように試料の重量を定める必要がある。
【0007】
別の装置例として、たとえば、Anton Paar社製の型番「MCRシリーズ」がある。この装置では、上下の円板状部材に試料を挟み、片側の円板を透明体として、試料に紫外線を照射しながら回転トルクを測定することで、粘弾性の挙動を測定する。かかる装置においても、挟む試料の重量と、円板状部材に濡れ広がった面積とから試料の膜厚を把握することとなり、任意の膜厚に設定することが難しい。また、円板の面積が広いため、薄膜を形成するのが難しく、薄膜の硬化解析には使用しづらい。
【0008】
近年、インクジェット印刷機により形成されるインク層の厚みは数μm程度である。当業界では、この薄膜における硬化速度を測定できることが要求されている。薄膜における粘弾性を把握したいとき、従来の装置では必ずしも十分な測定を行なうことができない。
【0009】
重合反応時に発生する蛍光を捉えて試料の硬化の進行程度を解析する装置も市販されている。しかし、蛍光と硬化(粘弾性)との相関関係は、材料によって様々であり、必ずしも一義的な相関関係を得ることはできない。インクの粘弾性は重要な品質指標であり、膜強度やべたつきなどの指標になり得るが、蛍光を捉えるだけでは、インクの硬化の進行の程度を必ずしも正確に検知できない。
【0010】
本開示は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、本開示の目的は、試料の膜厚を任意に設定することが可能で、比較的薄い膜の試料であっても硬化速度を測定可能な粘弾性測定装置および粘弾性測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
1つの態様に係る粘弾性測定装置は、試料の粘弾性を測定可能な粘弾性測定装置であって、上記試料が載置される平板状の部分を含む第1部材と、上記試料側に突出し、上記試料に接触する突起を含む第2部材と、上記第1部材または上記第2部材を振動させることが可能な加振装置と、上記加振装置により上記第1部材または上記第2部材を振動させたときの上記振動をさせた第1部材または上記第2部材の振幅の情報を収集可能な情報処理部とを備え、上記情報処理部により収集された振幅の情報に基づいて上記試料の粘弾性を測定する。
【0012】
一例として、上記粘弾性測定装置において、上記第1部材の上記平板状の部分は透明に形成され、上記粘弾性測定装置は、上記第1部材に対して上記第2部材の反対側に設けられ、上記平板状の部分を通して上記試料に電磁波を照射することが可能な照射装置をさらに備える。
【0013】
一例として、上記粘弾性測定装置において、上記加振装置は、上記試料の硬化に影響する成分が雰囲気中から上記試料に取り込まれない振幅で上記第1部材または上記第2部材を振動させる。
【0014】
一例として、上記粘弾性測定装置は、上記第1部材の上記平板状の部分と上記第2部材の突起との間に上記試料が挟持された状態から、上記突起を上記試料にめり込ませることが可能である。
【0015】
一例として、上記粘弾性測定装置は、上記第1部材の上記平板状の部分と上記第2部材の突起との間に上記試料が挟持された状態から、上記突起を上記試料から離れる方向に移動させて上記試料の膜厚を調整することが可能である。
【0016】
一例として、上記粘弾性測定装置において、上記突起の先端は上記平板状の部分と平行な平面を有する。
【0017】
一例として、上記粘弾性測定装置において、上記加振装置は、上記第1部材および上記第2部材のうち上記第2部材を振動させる。
【0018】
一例として、上記粘弾性測定装置において、上記加振装置は、上記第1部材の上記平板状の部分と平行に上記第2部材を振動させる。
【0019】
一例として、上記粘弾性測定装置において、上記突起の先端の面積は、上記第2部材側から見た上記試料の断面積よりも小さい。
【0020】
一例として、上記粘弾性測定装置は、上記照射装置から上記平板状の部分を通して上記試料に紫外線を照射しながら上記加振装置により上記第1部材または上記第2部材を振動させ、上記第1部材または上記第2部材の振幅値と、上記加振装置の出力に対する上記第1部材または上記第2部材の振動の位相差とに基づいて、上記試料の粘弾性を連続的に測定する。
【0021】
一例として、上記粘弾性測定装置において、上記試料として、インクジェット印刷機用の紫外線硬化型インクを用いることが可能である。
【0022】
1つの態様に係る粘弾性測定方法は、試料の粘弾性を測定可能な粘弾性測定方法であって、第1部材の平板状の部分に上記試料を載置するステップと、第2部材における上記試料側に突出する突起を上記試料に接触させるステップと、上記第1部材または上記第2部材を振動させるステップと、上記振動をさせた第1部材または上記第2部材の振幅の情報を収集するステップと、上記情報を収集するステップにおいて収集された振幅の情報に基づいて上記試料の粘弾性を測定するステップとを備える。
【0023】
一例として、上記粘弾性測定方法において、上記第1部材に対して上記第2部材の反対側から、上記第1部材における透明の上記平板状の部分を通して上記試料に電磁波を照射する。
【0024】
一例として、上記粘弾性測定方法において、上記試料の硬化に影響する成分が雰囲気中から上記試料に取り込まれない振幅で上記第1部材または上記第2部材を振動させる。
【0025】
一例として、上記粘弾性測定方法において、上記突起を上記試料に接触させるステップは、上記第1部材の上記平板状の部分と上記第2部材の突起との間に上記試料が挟持された状態から、上記突起を上記試料にめり込ませることを含む。
【0026】
一例として、上記粘弾性測定方法において、上記突起を上記試料に接触させるステップは、上記第1部材の上記平板状の部分と上記第2部材の突起との間に上記試料が挟持された状態から、上記突起を上記試料から離れる方向に移動させて上記試料の膜厚を調整することを含む。
【0027】
一例として、上記粘弾性測定方法において、上記突起の先端が上記平板状の部分と平行な平面を有するように上記第1部材と上記第2部材とを設ける。
【0028】
一例として、上記粘弾性測定方法において、上記第1部材および上記第2部材のうち上記第2部材を振動させる。
【0029】
一例として、上記粘弾性測定方法において、上記第1部材の上記平板状の部分と平行に上記第2部材を振動させる。
【0030】
一例として、上記粘弾性測定方法において、上記第2部材側から見た上記試料の断面積が上記突起の先端の面積よりも大きくなるように上記試料を設ける。
【0031】
一例として、上記粘弾性測定方法において、上記第1部材の上記平板状の部分を通して上記試料に紫外線を照射しながら上記第1部材または上記第2部材を振動させ、上記振動をさせた上記第1部材または上記第2部材の振幅値と、上記振動を加える加振装置の出力に対する上記第1部材または上記第2部材の振動の位相差とに基づいて、上記試料の粘弾性を連続的に測定する。
【0032】
一例として、上記粘弾性測定方法において、上記試料として、インクジェット印刷機用の紫外線硬化型インクを用いる。
【発明の効果】
【0033】
本開示によれば、粘弾性測定装置および粘弾性測定方法において、試料の膜厚を任意に設定し、比較的薄い膜の試料であっても硬化速度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本開示の1つの実施形態に係る粘弾性測定装置の基本的構成を示す図である。
【
図2】
図1に示す粘弾性測定装置における試料の膜厚の調整方法の例を示す図である。
【
図3】
図1に示す粘弾性測定装置における試料の膜厚の調整方法の例を示す図である。
【
図4】本開示の1つの実施形態に係る粘弾性測定装置の全体構成を示す図である。
【
図5】本開示の1つの実施形態に係る粘弾性測定装置による測定例を示す図である。
【
図6】本開示の1つの実施形態に係る粘弾性測定装置による測定例を示す図である。
【
図7】本開示の1つの実施形態に係る粘弾性測定装置による測定例を示す図である。
【
図8】本開示の1つの実施形態に係る粘弾性測定装置における第2部材の例を示す図である。
【
図9】本開示の1つの実施形態に係る粘弾性測定装置における第2部材の例を示す図である。
【
図10】本開示の1つの実施形態に係る粘弾性測定装置における第2部材の例を示す図である。
【
図11】本開示の1つの実施形態に係る粘弾性測定装置における第2部材の例を示す図である。
【
図12】本開示の1つの実施形態に係る粘弾性測定装置における第2部材の例を示す図である。
【
図13】本開示の1つの実施形態に係る粘弾性測定方法の各ステップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に、本開示の実施の形態について説明する。なお、同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰返さない場合がある。
【0036】
なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本開示の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本開示にとって必ずしも必須のものではない。
【0037】
(基本的構成)
図1は、本開示の1つの実施形態に係る粘弾性測定装置の基本的構成を示す図である。本実施の形態に係る粘弾性測定装置は、インクジェット印刷機用の紫外線硬化型インクの粘弾性を連続的に測定可能な装置である。
【0038】
図1に示すように、粘弾性測定装置は、第1部材10と、第2部材20とを含む。試料30は、インクジェット印刷機用の紫外線硬化型インクの薄膜である。
【0039】
第1部材10は、試料30が載置される平板状の部分を含む。第1部材10は透明に形成される。
【0040】
第2部材20は、第1部材10とは反対側から試料30に接触する。すなわち、第1部材10の平板状部分と第2部材20との間に試料30が挟持される。この状態で、第1部材10の平板状部分と平行な方向(矢印DR20方向)に第2部材20が振動させられる。第2部材20の振幅の情報に基づいて試料30の粘弾性が測定される。なお、第2部材20に代えて第1部材10を振動させてもよい。
【0041】
粘弾性測定装置は、電磁波の一種である紫外線を照射する照射装置40をさらに備える。照射装置40は、第1部材10に対して第2部材20の反対側に設けられる。照射装置40は、第1部材10を通して試料30に紫外線を照射することができる。この紫外線の照射により、試料30の硬化が進行する。粘弾性測定装置は、この硬化の進行の程度を連続的に測定するものである。
【0042】
第2部材20は、試料30の硬化に影響する成分(たとえば酸素)が雰囲気中から試料30に取り込まれない程度に小さな振幅で振動させられる。このようにすることで、硬化の特性をより正確に測定することが可能となる。
【0043】
図1に示すように、第2部材20の先端面の面積は、第1部材10の平面状の部分の上に載置された試料30の、第2部材20側から見た断面積と比較して相対的に小さい。このため、第2部材20を試料30に接触させたまま、試料30の膜厚を自在に調整することができる。また、試料30が第1部材10上で比較的容易に濡れ広がり、薄膜の作成が容易である。
【0044】
典型的な例では、試料30の膜厚を調整する際は、第2部材20の試料30に若干押し込んだ状態から、試料30のもとの表面よりも少し離れた位置に戻すことにより試料30の膜厚を調整する。第2部材20を試料30に押し込んだまま振動させると、第2部材20の周囲の試料30の硬化が進行した場合に、粘弾性の測定に対して意図しない影響が及ぶ場合があり得る。試料30のもとの表面よりも少し離れた位置にまで第2部材20を戻した上で振動させることで、より正確な粘弾性の測定が可能となる。
【0045】
(膜厚調整方法)
図2、
図3は、本実施の形態に係る粘弾性測定装置における試料の膜厚の調整方法の例を示す図である。
【0046】
図2の例では、まず、適当な重量の試料30が第1部材10の平板状部分に滴下される。
図2(a)に示すように第2部材20が試料30から離間した状態から、第2部材20を矢印Aの方向に移動させ、第2部材20の先端面を試料30に接触させる。これにより、試料30は、第1部材10と第2部材20との間に挟持される。
【0047】
この状態から、
図2(b)に示すように、第2部材20を試料30に任意の厚さまでめり込ませる。その後、
図2(c)に示すように、第2部材20を試料30から離れる方向に移動(上昇)させることにより、試料30の膜厚が調整される。第2部材20の先端は棒状に形成され、先端面の面積が小さいため、試料30が第2部材20の先端面に付着して上昇する。この現象を利用して、試料30の膜厚が調整される。
【0048】
図3の例では、試料30を少量の液滴として平板状の第1部材10上に載せ(
図3(a))、第2部材20を降下させて塗り広げ(
図3(b))、第2部材20の先端面の直径よりも広がらないところで停止させている(
図3(c))。
【0049】
(測定原理)
図4は、本実施形態に係る粘弾性測定装置の全体構成を示す図である。以下、
図4を参照しながら、粘弾性測定の方法について、より詳細に説明する。
【0050】
粘弾性測定装置は、上述した第1部材10、第2部材20、及び照射装置40を含む。第2部材20は、ベース21と、ベース21よりも第1部材10側(試料30側)に突出する突起22とを含む。ベース21は片持ち梁状に形成され、その片持ち梁の先端に突起22を構成する棒状部材が設けられる。インク膜表面の硬化は、片持ち梁の振動特性から測定される。
【0051】
粘弾性測定装置は、さらに、変位センサ50,60と、ソレノイド70と、高圧アンプ100と、変位計アンプ110,120と、正弦波発振回路130と、コンバータ140と、LED駆動回路200と、LED照射時間制御回路210と、振幅制御回路220と、高さ制御回路230と、コンピュータ300とを含む。
【0052】
図4に示す粘弾性測定装置においては、突起22を振動させて試料30の粘弾性を測定する。突起22の加振はソレノイド70による交播磁界を用いて行われる。突起22の振幅を変位センサ50で捉える。ソレノイド70による加振力は電流に比例する。ソレノイド70の電流と第2部材20の振動(変位)の位相差から試料30の粘弾性を求めることができる。すなわち、本実施の形態に係る粘弾性測定装置は、照射装置40から試料30に紫外線を照射しながら第2部材20を振動させ、第2部材20の振幅値と、加振装置であるソレノイド70の出力に対する第2部材20の振動の位相差とに基づいて、試料30の粘弾性を連続的に測定することが可能である。粘弾性の測定方法について、より具体的には、以下のとおりである。
【0053】
まず、平板状の第1部材10の上に試料30(液状のインク)がセットされる。その上に第2部材20が設置されている。第2部材20は、ベース21と、ベース21よりも第1部材10および試料30側に突出する突起22とを含む。第1部材10に対して第2部材20の反対側に照射装置40(UV照射装置)が設置されている。突起22は片持ち梁としてのベース21に固定されている。ベース21は平板形状を有する。ベース21の主面方向に平行な方向に沿ってベース21および突起22は振動可能である。ベース21は磁性材から構成され、ソレノイド70が発生する正弦波の磁力によって加振される。突起22の振幅は、非接触の変位センサ50によって計測される。
【0054】
ベース21、突起22、変位センサ60、及びソレノイド70は、一体のユニットとなって固定されている。変位センサ60は、第1部材10と第2部材20の突起22との間の距離を測定できる位置に固定されている。この測定値より、第1部材10と突起22との間に挟持された試料30の膜厚を把握できる。
【0055】
第1部材10は、図中矢印方向(
図4中の上下方向)に駆動される。これにより、第1部材10と突起22との間の距離が調整される。この調整は、図示しない積層ピエゾアクチュエーターと、これを駆動する高圧アンプ100とによってなされる。第1部材10は、変位センサ60の値を見ながら任意の高さ位置に調整が可能である。
【0056】
変位センサ50により検知された突起22の振幅の情報は、変位計アンプ110を経て振幅制御回路220に送られる。振幅制御回路220は、突起22の振幅を所定の値に保つように、ソレノイド70に印加する電圧を制御する。
【0057】
変位センサ60により検知された第1部材10と第2部材20の突起22との間の距離の情報は、変位計アンプ120を経て高さ制御回路230に送られる。高さ制御回路230は、高圧アンプ100を制御する。
【0058】
正弦波発振回路130は、第2部材20の振動の周波数を決定する。正弦波発振回路130において発生した正弦波を基に、振幅制御回路220において第2部材20を駆動する正弦波電力が作られる。
【0059】
LED照射時間制御回路210は、UVLEDである照射装置40の照射タイミングと照射時間の信号を発生させる。LED照射時間制御回路210からの信号を得てLED駆動回路200が照射装置40を駆動する電力を発生させる。照射装置40によるUV照射時間と、照射装置40による照射タイミングの信号発生は(デジタルIO、AD)コンバータ140を経て、コンピュータ300が制御している。
【0060】
粘弾性測定装置の動作は、コンピュータ300が制御する。第2部材20の振動信号は、振幅制御回路220において増幅および加工(フィルター)され、コンバータ140を経てコンピュータ300に取り込まれる。
【0061】
以上の構成により、照射装置40から照射された紫外線による試料30の硬化の過程が、第2部材20の振動の変化となって現れ、その情報をコンピュータ300によって収集することができる。
【0062】
(測定条件)
一例として、ベース21は厚み(t)が0.5mm程度の薄板であり、突起22の断面形状はφ1.0mm程度の円形である。たとえば、突起22の断面の径はφ0.2mm以上5.0mm以下程度である。一例として、突起22は、ベース21に対して第1部材10側に2mm程度突出している。たとえば、突起22の突出量は0.5mm以上5.0mm以下程度である。
【0063】
一例として、突起22の先端面の表面粗さはRa:0.05μm以上0.2μm以下程度である。試料30(インク)の厚みが数μm程度であるため、表面粗さは1μm未満であることが好ましい。突起22の材質としてはたとえばステンレス(SUS)が使用可能であるが、これに限定されるものではなく、アルミニウム、鉄、チタンなどの金属、セミラック類なども使用可能である。ただし、突起22の慣性が小さい方が粘弾性の検出感度が高まるため、突起22の素材としては、比較的軽量な素材であることが好ましい。
【0064】
一例として、突起22の振動周波数は、50Hz以上200Hz以下程度である。周波数が低い場合、硬化速度の測定分解能が低下する。多方、周波数が高い場合、同じ振幅を得るために必要なエネルギーが大きくなる。この結果、試料30の硬化に伴なう振幅の低下が少なくなり、測定の感度が低下する。
【0065】
一例として、突起22の振幅は2μm以上20μm以下程度(Peak to Peak)である。また、試料30の膜厚は、0.2μm以上100μm以下程度である。
【0066】
測定対象の試料30は、たとえば、主成分がアクリル酸エステルなどのラジカル重合性二重結合を有するモノマーであり、重合開始剤がベンゾフェノン、フェニルホスフィンオキシドなどの芳香族ケトン類であるUV硬化型インクである。
【0067】
照射装置40による紫外線の照射条件は、たとえば、波長395nm、照射エネルギー0.1W/cm2以上5.0W/cm2以下程度である。照射装置40としては、急峻にパワーが立ち上がるLEDまたはLDであることが好ましい。
【0068】
(測定結果)
図5~
図7は、上述した粘弾性測定装置を用いてUV硬化型インクを硬化させた測定例を示す。
【0069】
図5の例では、50msec時点でUV照射が開始され、150msec付近で突起22の先端が接触しているインクの硬化が始まっていることが理解できる。インクの硬化は、照射装置40側(突起22とは反対側)から開始され、徐々に突起22側へ進行する。
図5に示す結果より、試料30の硬化の速度を容易に推定することが可能である。
【0070】
図5に示す測定結果では、インクの弾性が高まり突起22が振動し難くなることで硬化を捉えている。一方、振動振幅を振幅制御回路220にフィードバックして、突起22の振幅を一定に制御することも可能である。この場合は、振動に要する駆動電力が硬化とともに大きくなる。駆動する電圧や電流値または電流と振幅の位相の変化を捉えることで硬化の進行具合をモニターすることが可能である。
【0071】
図6に示す測定結果も、突起22の振幅が減衰する過程を示すものである。
図6の例では、照射の開始後90msec程度で弾性が高まり硬化が始まっている様子が示されている。
【0072】
図6の結果の測定条件は、試料30:上述のUV硬化型インク、試料30の膜厚:24μm、照射装置40によるUV照射エネルギー:0.48W/cm
2、UV波長:395nmである。
【0073】
図7に示す測定は、インク膜厚を調整した後にUVを照射し、縦軸にUV照射開始から硬化までの時間を、横軸にインク膜厚を取ったものである。なお、UVはLEDによる急峻な立ち上がりで、ほぼ矩形状に照射している。
【0074】
図7の結果の測定条件は、試料30:上述のUV硬化型インク、照射装置40によるUV照射エネルギー:0.62W/cm
2、UV波長:395nm、振動周波数100Hz、振幅:5μm(Peak to Peak)である。
【0075】
図7に示すように、インク膜厚が大きいほど、硬化時間も長くなる。本実施の形態に係る粘弾性測定装置によれば、インク膜厚を自在に調整して、各々の膜厚の硬化時間を正確に推定することができる。
【0076】
(突起の形状)
図8~
図12は、第2部材20の例を示す図である。
図8~
図12に示すように、突起22の形状は様々な形態が考えられる。突起22の先端は、試料30にめり込みやすい形状で、かつ、第1部材10の主面と平行な平面を有することが好ましい。これにより、試料30の膜厚の調整が行ないやすい。
【0077】
図8~
図12の例では、いずれも、ベース21の表面の一部に突起22が形成されている。ベース21は、振動させやすく保持しやすい形状であることが好ましい。また、振動をモニターしやすい形状であることも要求される。これらの観点から、ベース21の形状が決定される。
【0078】
図8の例では、ベース21および突起22ともに角柱状に形成される。
図9の例では、ベース21および突起22ともに円柱状に形成される。
図10の例では、ベース21は板状に形成され、突起22は円柱状に形成される。ここで、ベース21の主面の方向は、第1部材10の主面の方向と平行である。
図11の例では、ベース21および突起22ともに板状に形成される。
図12の例では、ベース21は板状に形成され、突起22は円柱状に形成される。ここで、ベース21の主面の方向は、第1部材10の主面の方向と垂直に交差している。
【0079】
(測定方法要約)
上述した粘弾性測定装置を用いた粘弾性測定方法について要約すると、以下のとおりである。
図13に示すように、本実施の形態に係る粘弾性測定方法は、試料30の粘弾性を測定可能な粘弾性測定方法であって、第1部材10の平板状の部分に試料30を載置するステップ(S10)と、第2部材20における試料30側に突出する突起22を試料30に接触させるステップ(S20)と、第1部材10または第2部材20を振動させるステップ(S30)と、振動させた第1部材10または第2部材20の振幅の情報を収集するステップ(S40)と、情報を収集するステップにおいて収集された振幅の情報に基づいて試料30の粘弾性を測定するステップ(S50)とを備える。
図1に示すように、第1部材10に対して第2部材20の反対側から、透明の第1部材10を通して試料30に紫外線(電磁波)が照射される。第1部材10を通して30試料に紫外線(電磁波)を照射しながら第1部材10または第2部材20を振動させ、振動させた第1部材10または第2部材20の振幅値と、振動を加える加振装置の出力に対する第1部材10または第2部材20の振動の位相差とに基づいて、試料30の粘弾性を連続的に測定する。
【0080】
以上、本開示の実施の形態について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0081】
10 第1部材、20 第2部材、21 ベース、22 突起、30 試料、40 照射装置、50 変位センサ(振幅)、60 変位センサ(距離)、70 ソレノイド、100 高圧アンプ、110 変位計アンプ(振幅)、120 変位計アンプ(距離)、130 正弦波発振回路、140 コンバータ、200 LED駆動回路、210 LED照射時間制御回路、220 振幅制御回路、230 高さ制御回路、300 コンピュータ。