(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】デジタル分注システム、スライドの染色方法、試料の処理方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/00 20060101AFI20231226BHJP
【FI】
G01N1/00 101K
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019238094
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-09-22
(32)【優先日】2019-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】723005698
【氏名又は名称】船井電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148460
【氏名又は名称】小俣 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100168125
【氏名又は名称】三藤 誠司
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン ジュニア.・ジェームス ディー.
(72)【発明者】
【氏名】エデレン・ジョン グレン
(72)【発明者】
【氏名】ジリ・マニシュ
(72)【発明者】
【氏名】マーラ サード・マイケル エー.
(72)【発明者】
【氏名】ノラサック・サム
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0033692(US,A1)
【文献】特表2008-532048(JP,A)
【文献】特表2018-517895(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0052082(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析のため試料を調製するためのデジタル分注システムであって、
分注される1以上の流体を含む流体液滴吐出ヘッド及び流体カートリッジと、
前記流体液滴吐出ヘッド及び流体カートリッジをx方向に試料トレイ上で進退させるためのカートリッジ並進機構と、
前記試料トレイを
前記x方向と直交するy方向に前記流体液滴吐出ヘッド及び流体カートリッジの下で進退させるための試料トレイ並進機構と
を含む、
筐体ユニットに収容された流体液滴吐出システムを含み、
前記試料トレイは、マイクロウェルプレートを保持するためのマイクロウェルプレートアダプタ、又は、1以上のガラススライドを保持するためのガラススライドアダプタを更に含み、
前記マイクロウェルプレートアダプタは、異なるサイズの前記マイクロウェルプレートを保持可能な大きさに構成され、
前記ガラススライドアダプタは、1つの前記ガラススライドを保持するよう構成されたアダプタ、2つの前記ガラススライドを保持するよう構成されたアダプタ、及び3つの前記ガラススライドを保持するよう構成されたアダプタからなる群から選択され、
前記試料トレイは、前記試料トレイ内の
前記ガラススライド又は
前記マイクロウェルプレートを所定の位置に付勢する付勢手段を更に含
み、
前記付勢手段は、流体液滴吐出のため前記ガラススライド又は前記マイクロウェルプレートが前記所定の位置に位置決めされるよう、前記試料トレイ内の前記ガラススライド又は前記マイクロウェルプレートを配置するための、ばね付勢レバーを含み、
前記ばね付勢レバーの先端部は、前記マイクロウェルプレートの1つの角の面取り部、又は前記ガラススライドアダプタの1つの角の面取り部に当接する、
デジタル分注システム。
【請求項2】
ガラススライドを染料に浸すことなく染色するための方法であって、
分注される1以上の流体を含む流体液滴吐出ヘッド及び流体カートリッジと、
1以上のガラススライドを保持する試料トレイと、
前記流体液滴吐出ヘッド及び流体カートリッジをx方向に前記試料トレイ上で進退させるためのカートリッジ並進機構と、
前記試料トレイに
前記1以上のガラススライドを保持するよう構成された
ガラススライドアダプタと、
前記試料トレイと前記1以上のガラススライドを
前記x方向と直交するy方向に前記流体液滴吐出ヘッド及び流体カートリッジの下で進退させるための試料トレイ並進機構と
を含む、
筐体ユニットに収容されたデジタル流体液滴吐出システムを提供することと、
前記1以上のガラススライド上の1以上の位置に、前記流体液滴吐出ヘッド及び流体カートリッジから流体を吐出することと、
前記試料トレイ内の前記ガラススライドを所定の位置に、前記試料トレイに設けられた付勢手段により付勢することと、
を含
み、
前記ガラススライドアダプタは、1つの前記ガラススライドを保持するよう構成されたアダプタ、2つの前記ガラススライドを保持するよう構成されたアダプタ、及び3つの前記ガラススライドを保持するよう構成されたアダプタからなる群から選択され、
前記付勢手段は、流体液滴吐出のため前記ガラススライドが前記所定の位置に位置決めされるよう、前記試料トレイ内の前記ガラススライドを配置するための、ばね付勢レバーを含み、
前記ばね付勢レバーの先端部は、前記ガラススライドアダプタの1つの角の面取り部に当接する、
方法。
【請求項3】
前記ガラススライド上に2以上の流体を同時に吐出するステップを更に含む、
請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
前記ガラススライド上に2以上の流体を順次に吐出するステップを更に含む、
請求項
2に記載の方法。
【請求項5】
分析のためマイクロウェルプレートのウェル内の試料を処理する方法であって、
分注される1以上の流体を含む流体液滴吐出ヘッド及び流体カートリッジと、
前記流体液滴吐出ヘッド及び流体カートリッジをx方向にマイクロウェルプレート試料トレイ上で進退させるためのカートリッジ並進機構と、
前記マイクロウェルプレートを含む前記マイクロウェルプレート試料トレイを
前記x方向と直交するy方向に前記流体液滴吐出ヘッド及び流体カートリッジの下で進退させるための、試料トレイ並進機構と
を含む、
筐体ユニットに収容されたデジタル流体液滴吐出システムを提供することと、
前記マイクロウェルプレートの1以上のウェル内に、前記流体液滴吐出ヘッド及び流体カートリッジから流体を吐出することと、
前記試料トレイ内の前記マイクロウェルプレートを所定の位置に、前記
マイクロウェルプレート試料トレイに設けられた付勢手段により付勢することと、
を含
み、
前記マイクロウェルプレート試料トレイは、前記マイクロウェルプレートを保持するためのマイクロウェルプレートアダプタを更に含み、
前記マイクロウェルプレートアダプタは、異なるサイズの前記マイクロウェルプレートを保持可能な大きさに構成され、
前記付勢手段は、流体液滴吐出のため前記マイクロウェルプレートが前記所定の位置に位置決めされるよう、前記マイクロウェルプレート試料トレイ内の前記マイクロウェルプレートを配置するための、ばね付勢レバーを含み、
前記ばね付勢レバーの先端部は、前記マイクロウェルプレートの1つの角の面取り部に当接する、
方法。
【請求項6】
前記マイクロウェルプレートの前記ウェル内に2以上の流体を同時に吐出することを更に含む、
請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記マイクロウェルプレートの前記ウェル内に2以上の流体を順次に吐出することを更に含む、
請求項
5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本願は、現在係属中である、2019年1月4日付で出願された米国仮出願番号62/788,290に関連する。
【0002】
本開示は、分析機器、特に、分析目的のために流体を分注するために用いられる機器に関する。
【背景技術】
【0003】
特に、医療分野において、自動化された試料調製と分析の必要性がある。分析は、比色分析、又は顕微鏡下で試料をより好ましく観察するため、試料の染色を要する可能性がある。そのような分析は、薬剤試料分析、血液試料分析、等を含む。例えば、血液の分析において、血液は個人の健康を判定するために用いられるいくつかの異なる要因を提供するため分析される。血液試料分析を要する多くの患者がいる場合、手順は非常に時間がかかるものとなる。また、結果が信頼できるものであるよう、試料の正確な調製の必要がある。複数の試料の微量滴定といった、正確で再現可能な結果を提供する分析機器の使用の恩恵を受けることのできる医療分野やその他の分野において、試料分析を要するその他の多くの状況がある。
【0004】
多くの実験と検査手順にて、ウェルプレート、スライド、その他の基板が使用される。ウェルを充填する又はガラススライドをスポッティングする処理は、手作業又は高価な検査機器を用いて行われることが多い。場合によっては、ウェルは手動ピペットで充填される。その他の場合では、ウェルプレートの充填はピペット技術に基づいた高性能自動装置が使用される。そのような自動装置は開放式ウェル分注ヘッドを収容するのみである。開放式ウェル分注ヘッドは、使用前に分注ヘッドの開口内に少量の流体が堆積されなければならない分注ヘッドである。流体は、典型的にピペット又は類似の手段で手動で堆積される。分注ヘッドは、マイクロウェルプレートをx方向とy方向両方に動かす間、静止して保持される。これら高性能装置は非常に高価である。従って、ガラススライド及びマイクロウェルプレート上の試料の分析及びデジタル滴定のための多種多様な分析状況で使用でき、はるかに安価で、異なる数のガラススライド及び異なるサイズのマイクロウェルプレートに適合可能なデジタル分注システムの必要性がある。
【発明の概要】
【0005】
上記を鑑み、本開示の1つの実施形態は、分析のために試料を調製するためのデジタル分注システムと方法を提供する。デジタル分注システムは、筐体ユニットに収容された流体液滴吐出システムを含む。流体液滴吐出システムは、分注される1以上の含む流体液滴吐出ヘッド及び流体カートリッジを含む。流体液滴吐出ヘッド及び流体カートリッジをx方向に試料上で進退させるため、カートリッジ並進機構が提供される。試料トレイ並進機構は、試料トレイをx方向と直交する方向に流体液滴吐出ヘッド及び流体カートリッジの下で進退させる。
【0006】
別の実施形態において、染料にスライドを浸漬することなくガラススライドを染色する方法が提供される。方法は、筐体ユニットに収容されたデジタル流体液滴吐出システムを提供することを含む。デジタル流体液滴吐出システムは、分注される1以上の流体を含む流体液滴吐出ヘッド及び流体カートリッジを含む。流体液滴吐出ヘッド及び流体カートリッジをx方向にスライドホルダ上で進退させるため、カートリッジ並進機構が提供される。1以上のガラススライドを保持する試料トレイも提供される。試料トレイは、試料トレイの1以上のガラススライドを保持するよう構成された試料トレイアダプタを含む。試料トレイと1以上のガラススライドをx方向と直交する方向に流体液滴吐出ヘッド及び流体カートリッジの下で進退させるため、試料トレイ並進機構が提供される。流体は、1以上のガラススライド上の1以上の位置に流体液滴吐出ヘッド及び流体カートリッジから吐出される。
【0007】
更なる実施形態は、分析のためマイクロウェルプレートのウェル内の試料を処理するための方法を提供する。方法は、筐体ユニットに収容されたデジタル流体液滴吐出システムを提供することを含む。デジタル流体液滴吐出システムは、分注される1以上の流体を含む流体液滴吐出ヘッド及び流体カートリッジを含む。流体液滴吐出ヘッド及び流体カートリッジをx方向にマイクロウェルプレート試料トレイ上で進退させるため、カートリッジ並進機構が提供される。マイクロウェルプレートを含む試料トレイをx方向と直交するy方向に流体液滴吐出ヘッド及び流体カートリッジを通って移動させるため、試料トレイ並進機構が提供される。処理の間、流体が流体液滴吐出ヘッド及び流体カートリッジからマイクロウェルプレートの1以上のウェル内に吐出される。
【0008】
いくつかの実施形態において、試料トレイは、1以上のガラススライド又はマイクロウェルプレートを保持するためのトレイアダプタを更に含む。
【0009】
いくつかの実施形態において、2以上の流体が、スライド上又はマイクロウェルプレートのウェル内に同時に吐出される。他の実施形態において、2以上の流体が、スライド上又はマイクロウェルプレートのウェル内に順次に吐出される。
【0010】
いくつかの実施形態において、トレイアダプタは、1以上のガラススライドを保持するためのガラススライドアダプタである。1つの実施形態において、ガラススライドアダプタは、1つのガラススライドを保持するよう構成されたアダプタ、2つのガラススライドを保持するよう構成されたアダプタ、3つのガラススライドを保持するよう構成されたアダプタから選択される。他の実施形態において、トレイアダプタはマイクロウェルプレートを保持するよう構成されたマイクロウェルプレートアダプタである。更に他の実施形態において、トレイアダプタは、異なるサイズのマイクロウェルプレートのための大きさにされている。
【0011】
いくつかの実施形態において、試料トレイは、流体液滴吐出のためガラススライド又はマイクロウェルプレートが所定の位置にあるよう、試料トレイのガラススライド又はマイクロウェルプレートを配置するための、ばね付勢レバーを更に含む。他の実施形態において、ばね付勢レバーの先端は、マイクロウェルプレートの1つの角の面取り部又はガラススライドアダプタの1つの角の面取り部に当接する。
【0012】
デジタル分注システムにおいて一度に少数のスライドのみが処理され、各ウェルプレートは応用と実施される分析によって96、384、又は1536のウェルを有する、又はカスタマイズされた数のウェルを有する可能性がある。同様に、分析は、一度に1、2、又は3つのガラススライドの使用を含みうる。本開示の実施形態は、デジタル分注システムで異なる数のガラススライド及び異なるサイズのマイクロウェルプレートを扱うための独特で非常に効率的なシステムを提供する。ここで説明されるシステムは、自宅または小規模の診療所でのポイントオブケア観察のため、ガラススライド及び異なるサイズのマイクロウェルプレートを含む基板上での多重分析物と生物流体分注及び分析を提供するために適合させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本開示の1つの実施形態によるデジタル分注システムの、縮尺通りではない、斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1のデジタル分注システムの背面の、縮尺通りではない、立面図である。
【
図3】
図3は、
図1のデジタル分注システムの、縮尺通りではない、破断斜視図である。
【
図4】
図4は、マイクロウェルプレート上への流体堆積のためデジタル分注システム内の1つの位置にある試料トレイとマイクロウェルプレートとを示す、
図1のデジタル分注システムの概略図である。
【
図5】
図5は、
図1のデジタル分注システムと共に用いられる試料を保持するためのトレイの、縮尺通りではない、斜視図である。
【
図6】
図6は、
図5のトレイと共に用いられるガラススライドとマイクロウェルプレートのためのアダプタの、縮尺通りではない、斜視図である。
【
図7】
図7は、
図1の分注システムのためのウェルプレートアダプタとマイクロウェルプレートを保持する
図4のトレイの、縮尺通りではない、斜視図である。
図7は、
図1のデジタル分注システムのためのマイクロウェルプレートを保持する
図4のトレイの、縮尺通りではない、斜視図である。
【
図8】
図8は、
図1のデジタル分注システムのためのガラススライドアダプタとガラススライドを保持する
図4のトレイの、縮尺通りではない、斜視図である。
【
図9A】
図9Aは、試料トレイと、試料トレイ内の異なるサイズのマイクロウェルプレートを保持するためのウェルプレートアダプタの、縮尺通りではない、概略平面図である。
【
図9B】
図9Bは、試料トレイと、試料トレイ内の異なるサイズのマイクロウェルプレートを保持するためのウェルプレートアダプタの、縮尺通りではない、概略平面図である。
【
図9C】
図9Cは、試料トレイと、試料トレイ内の異なるサイズのマイクロウェルプレートを保持するためのウェルプレートアダプタの、縮尺通りではない、概略平面図である。
【
図10】
図10は、本開示の別の実施形態によるトレイ内のマイクロウェルプレートの、縮尺通りではない、斜視図である。
【
図11】
図11は、
図10のトレイ内のマイクロウェルプレートの、縮尺通りではない、平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1~
図4を参照し、マイクロウェルプレートのウェル内、又は1以上のガラススライド上の定義されたスポットのパターンに(一般的にスポッティングと称される)、1以上の流体のある量を正確に分注するためのデジタル分注システム10が示される。高機能デジタル分注装置とは異なり、本発明のシステム10は、以下に詳細に説明されるように、第1の方向に進退する吐出ヘッド及び流体カートリッジ12と、第1の方向と直交する第2の方向に進退する、ウェルプレート又はガラススライドを含む試料トレイ14とに基づく。開示される
システム10は、開放式と密封式の
流体吐
出カートリッジを受け入れる。試料トレイ14は、標準的なマイクロウェルプレート、カスタマイズされたマイクロウェルプレート、ガラススライドに適合可能である。吐出ヘッド及び流体カートリッジ12上の吐出ヘッドは、サーマル型ジェット吐出ヘッド、気泡ジェット吐出ヘッド、圧電吐出ヘッド等を含むがこれらに限定されない、多様な吐出ヘッド装置から選択されてよい。
【0015】
吐出ヘッド及び流体カートリッジ12は、カートリッジ移動機構16(
図3)によりx方向に進退させられ、両者は長方形の柱状のボックス18に含まれる。起動スイッチ20が、システム10を起動するためボックス18上に含まれる。ボックス18の背面側22は、マイクロウェルプレート又はガラススライド内に流体を分注するため、試料トレイ14のx方向と直交する第2の方向へのボックス18を通った移動のための開口24を含む。デジタル分注システム10をコンピュータ又はデジタル表示装置に接続するため、ボックス18の背面側22上にUSBポート26が提供される。電力は、ボックス18の背面側22上の電力入力ポート28を通じてシステム10に提供される。
図4は、流体堆積のためシステム内に位置しているマイクロウェルプレートを含む試料トレイ14を示す、デジタル分注システム10のボックス18を通した視図を表す。試料トレイ移動機構30は、吐出ヘッド及び流体カートリッジ12の移動と直交する、システムを通る方向の試料トレイ14の移動を提供する。
【0016】
試料トレイ14と、試料トレイ14のためのアダプタ32と34が
図5、
図6に表される。アダプタ32と34は、様々な表面上に流体を堆積するためのシステム10の使用をより柔軟にすることを可能とする、開示される実施形態の独特の様態である。アダプタ32は、示されるように、2つのガラススライド36を保持するのに特に適するが、1つのガラススライドのみ、又は3つのガラススライドを保持するアダプタも使用できる。アダプタ40は、マイクロウェルプレート38を保持するよう特に設計される。両アダプタ32と34は、試料トレイ14のアダプタ保持スペース40内に収まるよう構成される。いくつかの実施形態において、下記により詳細に説明されるように、マイクロウェルプレート38は、試料トレイ14の保持スペース40にアダプタ34なしに直接設けられる。
図7は、試料トレイ14の保持スペース40(
図5)に直接設けられた、複数のウェル42を含むマイクロウェルプレート38を表す。
図8は、試料トレイ14内のガラススライドアダプタ32上のガラススライド36を表す。
【0017】
いくつかの実施形態において、
図9A~
図9Cに表されるように、上述したデジタル分注システム10を用いて試料を調製及び分析するため、異なるサイズのマイクロウェルプレート38A、38B、又は38Cが用いられてよい。様々なマイクロウェルプレートのサイズを収容するため、ウェルプレートアダプタ46を収容するよう特に設計された試料トレイ44が用いられてよい。ウェルプレートアダプタ46は、示されるように、ウェルプレートアダプタ46内のマイクロウェルプレート38A、38B、38Cの位置を制限するために用いられるゲート50を含んでよい。いくつかの実施形態において、ゲートはウェルプレートアダプター46に成形される。他の実施形態において、ゲート50は、幅広い種類とサイズのマイクロウェルプレート38A~38Cを収容するため、ウェルプレートアダプタ46に対し調整可能である。
【0018】
システム10がマイクロウェルプレート38の正確なウェル位置に流体を堆積するよう、本開示の1つの実施形態は、
図10~
図11に表される試料トレイ54内の所定の位置決めされた位置内にマイクロウェルプレート38又はガラススライドアダプタ32を促すための装置を提供する。
図10は、マイクロウェルプレート38がトレイ54の縁部58と60に当接するよう、マイクロウェルプレート38を所定の位置決め位置に促すための位置決め装置56を有するトレイ54の斜視図である。位置決め装置56は、マイクロウェルプレート38をトレイ54の縁部58と60へ促すため、マイクロウェルプレート38の面取り部64に当接する先端部62を有するばね付勢レバーであってよい。従って、位置決め装置56は、トレイ54内にマイクロウェルプレート38を積むため、矢印66の方向に時計回りに回転されてよい。マイクロウェルプレート38がトレイ54内に積まれると、位置決め装置56の先端部62がマイクロウェルプレート38の面取り部64に当接するよう、位置決め装置56は解除され、ばね(図示せず)が位置決め装置56を矢印68で示される反時計回りに回転させ、これによりマイクロウェルプレート38を矢印70と72の方向に促す。従って、位置決め装置56は、マイクロウェルプレート38のウェル42内への流体の正確な堆積を可能とする。
【0019】
上述したシステム10を用いてスライドガラス36上又はマイクロウェルプレート38のウェル42内に堆積される、ある与えられたボリュームの流体について、流体のある与えられたボリュームを分注するために要する液滴の数は、(ボリューム/液滴サイズ)として定義される。例えば、もし液滴サイズが10ピコリットルと選択され、10マイクロリットルを分注することを要する場合、吐出ヘッド及び流体カートリッジ12は、10/10e-6又は1,000,000滴を分注しなければならない。これで、与えられたボリュームに対する液滴数が決定されたので、面積を算出できる。ほとんどのインクジェットプリンタは、例えば600H×1200V DPI(drops per inchi)といった、特定の解像度を持つグリッドに印刷する。もし目標領域が0.5インチ×0.5インチの正方形である場合、吐出ヘッド及び流体カートリッジ12の1回の通過で該領域に分注できる液滴の最大数は、次のように算出できる:
面積=0.5×0.5=0.25平方インチ
1回の通過の最大液滴=面積×(600×1200)=180,000滴。
最後に、このボリュームを選択された領域に拡散するために要する通過の総数は次のように算出できる:
1,000,000/180,000=5.56回の通過
従って、吐出ヘッド及び流体カートリッジ12は、与えられた領域に対し算出された流体のボリュームを分注するため、5回の完全な通過と、完全ではない「あまり」の通過を要する。各通過は液滴を領域全体に安定して拡散する。
【0020】
前記の計算により生成された入力データは、事実上、XとY軸両方を表す画像であるが、ボリュームを表すZ軸も導入する。加えて、一度に1以上のチャネル又は流体を分注するとき、異なるチャネル又は流体を追跡するため4次元が導入される。
【0021】
上記は、吐出ヘッド及び流体カートリッジ12上の吐出ヘッドが0.5インチの長さを有し、全領域をカバーできると仮定している。常にそうであるとは限らないため、追加の変数を導入する必要があり、これは吐出ヘッドの長さである。例えば、上記の例を続けるが、吐出ヘッドの長さが0.25インチであると仮定すると、これは、正しく領域を満たすため、吐出ヘッド及び流体カートリッジ12がスライド又はウェルプレート上でx方向に移動するという要件を導入する。更に、特定の応用では、通過の数を必要とされる最低数を超えて増加させる理由がある。いくつかの例としては次を含みうる:
●出力の何らかの側面(被覆範囲、均一性、等)を改善する
●実験上の理由のため、通過あたりの最大ボリュームを人為的に制限する
改変例は、ジョブのための通過の人為的な最低数を設定することで達成できる。これは、必要な通過数と共に用いれる乗数となる。もし通過の最低数が2の場合、50%の最大制限が各通過の液滴数に設定でき、全体で通過の総数を2で乗算することとなる。
【0022】
上記の方法は、単一の作動で流体の全ボリュームをマイクロウェルプレート内に印刷する従来のデジタル分注システムに対する利点を提供する。上記の方法は、複数の分注ヘッド通過、及び吐出ヘッドの分注ヘッドアレイに沿った複数の流体吐出器で、流体のボリュームが分注されるよう拡散する。これは、欠落又は低性能の流体吐出器の影響を最小限にする。所望の分注精度と吐出器が正しく機能しない可能性に応じて、使用する流体吐出器の最低数を特定又は算出できる。
【0023】
血液学といった分野において、スライドガラスといった基板の定義された領域上に複数の染色剤や緩衝剤を堆積または印刷することが望ましい場合がある。流体の層を印刷するとき、流体が堆積される速度を制御することにより、試験を改善することができうる。ここで説明されるデジタル分注システム10は、ユーザに、堆積速度のより好ましい制御を可能にする。
【0024】
いくつかの実施形態において、本開示によるデジタル分注システム10は、流体のボリュームを特定された領域/形状に安定して拡散することを可能にする。また、吐出ヘッドノズルの使用を吐出ヘッド全体に分散させることにより、ばらつきを最低限にするようモードを定義することを可能にする。吐出ヘッド及び流体カートリッジ12の通過の最低数は、通過あたりの最大ボリュームと共に特定することができる。もし通過あたりの最大ボリュームが定義された流量を超える場合は、動作モードに追加的な通過を加えることができる。分注システム10は、ガラススライド又はマイクロウェルプレート上に1以上の流体を分注するよう拡張することができる。
【0025】
いくつかの実施形態において、上述した試料トレイ14は、血液といった体液を分析するためにガラススライド上に流体を分注するため、ガラススライドと共に用いることができる。血液塗抹標本を有するガラススライドは、血液標本の細胞タイプを研究するための染色スライドを作成するため、本開示によるデジタル分注システム10を用いて、複数の染色剤とその他の流体の種類で選択的又は同時に染色されることができる。血液細胞を識別するための染色剤の使用は長期にわたり用いられているが、スライド上に染色剤を付す技術は非常に面倒である。
【0026】
ロマノウスキータイプの染色剤が、ガラススライド上の血液塗抹標本から赤血球(RBC)と白血球(WBC)を識別するために用いられている。ほとんどの実験室で、何らかの形式のロマノフスキータイプの染色剤(例えばライトギムザ)を使用している。これら染色剤は素晴らしい結果をもたらすが、スライドに染色剤を付す方法は面倒である。従来の方法において、血液塗抹標本を有するガラススライドは一定時間、染色剤に浸漬される。しかし、スライドの浸漬は手間と時間がかかる。上述したように、デジタル分注システム10は、スライド上の定義された位置に流体の正確な量を堆積することにより、血液標本の細胞タイプを研究するための染色スライドを作成するための改善された技術を提供する。
【0027】
いくつかの実施形態において、メイグリュンワルドとギムザ染色のためのギムザ染料又は他の染色剤と緩衝剤溶液とが、ガラススライド上に同時又は選択的に堆積される。デジタル分注システム10は、1、2、又はそれ以上の染色剤と緩衝剤溶液を同時又は選択的に噴射する柔軟性を提供する。この方法により用いられる染色剤の量は、浸漬技術に比べ遥かに少ない。この技術の使用は、ギムザとメイグリュンワルド染色に限定されない。流体吐出技術に符合する如何なる他の流体にも使用できる。各流体の所定のボリュームは、上述した分注システム10を用いて試料上に堆積できる。
【0028】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いられる単数形「a」、「an」、「the」は、明示的かつ明確に1つの指示物に限定されない限り、複数の指示物を含むことに留意されたい。本明細書で用いられる「include」という用語およびその文法上の変形は、リスト内の項目の列挙が、リストされた項目を置換または追加できる他の同様の項目を除外しないよう、非限定的であることを意図している。
【0029】
本明細書および添付の特許請求の範囲では、特に明記しない限り、量、比率又は割合を表す全ての数字及び本明細書及び特許請求の範囲で使用されるその他の数値は、全ての場合に用語「約」によって改変されると理解されるべきである。従って、そうでないと示されない限り、以下の明細書および添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、本開示により得ることが求められる所望の特性に応じて変わり得る近似値である。少なくとも、そして請求項の範囲に対する均等論の適用を制限する試みとしてではなく、各数値パラメーターは、少なくとも、述べられた有効数字の数を考慮し、そして通常の丸め手法を適用することにより、解釈されるべきである。
【0030】
特定の実施形態について説明したが、出願人または他の当業者には、現在予測しない、又は予測できない、代替、修正、変形、改善、及び実質的な均等物が生じうる。従って、添付の提出された特許請求の範囲と修正された特許請求の範囲は、そのようなすべての代替、修正、変形、改善、及び実質的な均等物を包含することを意図している。
【符号の説明】
【0031】
10:デジタル分注システム
12:吐出ヘッド及び流体カートリッジ
14:試料トレイ
18:ボックス
20:起動スイッチ
22:背面側
24:開口
26:USBポート
28:電力入力ポート
32、34:アダプタ
36:ガラススライド
38:マイクロウェルプレート
40:アダプタ保持スペース
42:ウェル
46:ウェルプレートアダプタ
50:ゲート
54:トレイ
56:位置決め装置
58、60:縁部
62:先端部
64:面取り部
68、70、72:矢印