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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】グリースの劣化評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 11/00 20060101AFI20231226BHJP
   G01N 33/30 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
G01N11/00 C
G01N33/30
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020003458
(22)【出願日】2020-01-14
(65)【公開番号】P2021110669
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-11-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1) 発行日 令和元年8月23日(製作日 令和元年8月21日) 刊行物 令和元年 電気学会 電力・エネルギー部門大会 論文集(CD-ROM) <資 料>別紙1、4、5 (2) 開催日(公開日) 令和元年9月5日 集会名、開催場所 令和元年 電力・エネルギー部門大会(第30回)広島大会 <資 料>別紙1~3、6
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】慶野 太一
(72)【発明者】
【氏名】山中 淳平
(72)【発明者】
【氏名】龍岡 照久
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-197332(JP,A)
【文献】特開2016-191591(JP,A)
【文献】特開2003-194786(JP,A)
【文献】特開平06-018396(JP,A)
【文献】特開2007-263786(JP,A)
【文献】特表2015-525827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/00-13/04
G01N 33/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリースを、前記グリースに含まれる基油と分離することなく混合できる溶剤によって希釈して希釈試料を調製し、前記希釈試料の粘度を測定し、前記測定した粘度を指標として、前記グリースの劣化度を評価するグリースの劣化評価方法であって、
評価対象としたグリースを用いて調製した前記希釈試料について、複数の異なる温度において粘度を測定して温度に対する粘度の変化率を求め、前記変化率に基づき、前記評価対象としたグリースの劣化度を評価する、グリースの劣化評価方法。
【請求項2】
グリースを、前記グリースに含まれる基油と分離することなく混合できる溶剤によって希釈して希釈試料を調製し、前記希釈試料の粘度を測定し、前記測定した粘度を指標として、前記グリースの劣化度を評価するグリースの劣化評価方法であって、
評価対象としたグリースを用いて調製した前記希釈試料と、前記評価対象としたグリースと同種である未使用のグリースを用いて調製した前記希釈試料の各々について、複数の異なる温度において粘度を測定して温度に対する粘度の変化率を求め、両者の差に基づき、前記評価対象としたグリースの劣化度を評価する、グリースの劣化評価方法。
【請求項3】
前記粘度が、超音波式粘度計で測定した動粘度である、請求項1又は2に記載のグリースの劣化評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリースの劣化評価方法に関する。さらに詳しくは、基油中に増ちょう剤を分散させて半固体又は固体状にした「グリース」の劣化度を、少量の試料採取量で評価することが可能な、グリースの劣化評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリースは、変電機器の遮断器や開閉器等の駆動部において、摺動性向上や焼き付き防止のために使用されている。グリースが劣化して硬化ないし固化すると、駆動部が固渋し(固着して滑らかな動きが妨げられた状態となり)、動作不良の原因となるので、劣化したグリースは交換が必要である。
【0003】
グリースの硬さの目安となるちょう度試験について規定するJIS K 2220では、ちょう度値の範囲によってちょう度番号が定められており、ちょう度番号の変化がグリース交換の一般的な目安とされている場合がある。
しかし、このJIS規格によるちょう度試験のためには、多量のグリース(0.5kg~1.5kg)が必要となる。一方、実際に機器の駆動部や機構部に使用されているグリースは通常数十g程度であるため、JIS規格によるちょう度試験に必要な量のグリースを採取できない場合が多い。
【0004】
その場合、劣化の程度を評価することなく、グリースのメーカが推奨する期間等を目安としてグリース交換をすることとなる。
そのため、グリース性能がある状態にもかかわらず、早めに交換してしまったり、交換が遅れ、駆動部の固渋が発生したりする等の不具合が生じている。
【0005】
グリースの劣化を、少量の試料採取量で評価する方法として、2枚の板の間に試料グリースを挿入し、一定の荷重を一定時間、板の上に加えて試料を圧縮し、試料の広がり直径や広がり面積に基づきグリースの劣化を評価する方法が知られている(特許文献1、2)。
また、2枚の板の間に試料グリースを挿入し、一定の荷重を一定時間、板の上に加えて試料を圧縮し、広がった試料の観察像に含まれる摩耗粉やグリースに添加されていた固体潤滑剤を観察してグリースの劣化を評価することも試みられている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭58-055838号公報
【文献】特開2014-190752号公報
【文献】特開2017-181036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1、2に記載された方法では、試料中にほこりや駆動部の摺動面から発生した摩耗粉などの不純物が含まれると、不純物の影響により、試料の広がりが妨げられ、正確な劣化の評価を行えない場合がある。
また、特許文献3の方法では、目視による観察に頼るため、客観的な評価を行うことが難しい。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、グリースの劣化度を、少量の試料採取量で客観的に評価することが可能な、グリースの劣化評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を達成するために、本発明の実施形態は以下の構成を採用した。
[1]グリースを、前記グリースに含まれる基油と分離することなく混合できる溶剤によって希釈して希釈試料を調製し、前記希釈試料の粘度を測定し、前記測定した粘度を指標として、前記グリースの劣化度を評価するグリースの劣化評価方法であって、
評価対象としたグリースを用いて調製した前記希釈試料について、複数の異なる温度において粘度を測定して温度に対する粘度の変化率を求め、前記変化率に基づき、前記評価対象としたグリースの劣化度を評価する、グリースの劣化評価方法。
[2]グリースを、前記グリースに含まれる基油と分離することなく混合できる溶剤によって希釈して希釈試料を調製し、前記希釈試料の粘度を測定し、前記測定した粘度を指標として、前記グリースの劣化度を評価するグリースの劣化評価方法であって、
評価対象としたグリースを用いて調製した前記希釈試料と、前記評価対象としたグリースと同種である未使用のグリースを用いて調製した前記希釈試料の各々について、複数の異なる温度において粘度を測定して温度に対する粘度の変化率を求め、両者の差に基づき、前記評価対象としたグリースの劣化度を評価する、グリースの劣化評価方法。
[3]前記粘度が、超音波式粘度計で測定した動粘度である、[1]又は[2]に記載のグリースの劣化評価方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、グリースの劣化度を、少量の試料採取量で客観的に評価することができる。そのため、グリースを適切な時期に交換をすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】熱加速劣化試験による希釈試料の粘度変化を示すグラフである。
図2】温度に対する希釈試料の粘度の変化率が、熱加速劣化試験によって変化することを示すグラフである。
図3】JIS K 2220で規定される混和ちょう度と、希釈試料の粘度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係るグリースの劣化評価方法は、グリースを溶剤で希釈して希釈試料を調製し、調製した希釈試料について粘度を測定し、測定した粘度を指標として、グリースの劣化度を評価する方法である。
【0012】
[グリース]
本発明の実施形態に係る劣化評価方法が対象とするグリースは、基油と基油に分散された増ちょう剤と、必要に応じて添加される添加剤とが均一に混合されたものである。グリースは、油よりも粘度が高く流動性が低いため、常温では半固体又は半流動体である。
グリースは、熱等により劣化すると、グリース中の基油と増ちょう剤が分離して基油が分離し、増ちょう剤のみが残存する状態となるため、グリースの流動性が徐々に失われ、粘度が高くなる傾向にある。
【0013】
グリースを構成する基油に特に限定はないが、代表的な基油としては、鉱物油、ジエステル油、ポリオールエステル油、ポリグリコール油、フェニルエーテル油、シリコーン油、フッ素油が挙げられる。
グリースを構成する増ちょう剤に特に限定はないが、代表的な増ちょう剤としては、金属石けん、又は、非石けん系のベントナイト、シリカゲル、アリル尿素、銅フタロシアニンが挙げられる。
添加剤としては、黒鉛や二硫化モリブデン等の固体潤滑剤、酸化防止剤、防錆剤,耐荷重添加剤が挙げられる。
本発明の実施形態に係る劣化評価方法は、固体潤滑剤が添加されることにより着色したグリースに対しても適用可能である。
【0014】
[希釈試料]
希釈試料は、グリースを溶剤で希釈したものである。溶剤は、グリースに含まれる基油と混合した場合に分離することなく混合できるもので、以下のいずれかの溶剤が挙げられる。
(i)グリースに含まれる基油と同種の溶剤、
(ii)基油と相溶性のある溶剤。
【0015】
溶剤が(i)である場合とは、例えば基油が鉱物油であれば溶剤も同じ種類の鉱物油であり、基油がフッ素油であれば溶剤も同じ種類のフッ素油である。
また、溶剤が(ii)である場合、溶剤は、基油と種類が異なり、基油と混合した場合、分離せずに混ざり合うものである。なお、(ii)の場合、相溶性がある限り全く異なる種類でもよい。すなわち、溶剤と基油の種類の違いは、僅かであっても、全く異なっていてもよい。
【0016】
一般に種類の違いが小さいほど、相溶性を得やすい傾向にあるので、例えば基油が鉱物油であれば溶剤も鉱物油であって、多少基油とは異なる物、基油がフッ素油であれば溶剤もフッ素油であって、多少基油とは異なる物が好ましい。
本発明において、(i)の溶剤と(ii)の溶剤とを、厳密に区別する必要はない。要は、基油と混合した場合に、分離しない溶剤であればよい。
【0017】
希釈率は、粘度を測定する際の粘度計によって測定可能な範囲に収まるように、希釈すればよく、特に限定はない。
また、希釈後の希釈試料の液量は、粘度を測定する際の粘度計が必要とする測定液量以上であれば足りる。例えば、超音波式粘度計や振動式粘度計の場合、10~100mLの液量で足りる装置が入手可能である。
粘度計等の種類や希釈試料を収容する容器の形状等にもよるが、1回の測定に供する希釈試料を得るためのグリースの量は、例えば、超音波式粘度計や振動式粘度計の場合、5~10mgで足りる装置や容器が入手可能である。
【0018】
グリースと溶剤は、見かけ上グリース全体が溶剤に溶けたようになるまで充分に混合する。混合時は、混合を助けるために、加温することが好ましい。
加温する際の温度は、溶剤が気化しにくい範囲で、充分に混合できる温度であることが好ましい。例えば鉱油の場合は、30~70℃が好ましい。
【0019】
[粘度]
本発明において測定する粘度は、単位が[mm/s]で表される動粘度でもよいし、単位が[Pa・s]で表される絶対粘度でもよい。
粘度の測定方法にも特に限定はなく、例えば、超音波式粘度計、振動式粘度計、毛細管粘度計、回転式粘度計が挙げられる。少量の溶液で粘度が測定できる粘度計が好ましい。
超音波式粘度計や振動式粘度計を用いた場合の粘度は動粘度である。
粘度は温度に依存する。粘度は、単一の温度で測定してもよいし、異なる複数の温度で測定してもよい。
【0020】
[評価]
本発明の実施形態に係る劣化評価方法では、グリースの希釈試料について測定した粘度を指標として劣化度を評価する。
具体的な評価手法に特に限定はないが、例えば、以下の(1)~(3)の評価方法が挙げられる。
【0021】
(1)未使用希釈試料との粘度差に基づく評価
評価対象としたグリースを用いて調製した希釈試料の粘度を、評価対象としたグリースと同種である未使用のグリースを用いて調製した希釈試料の粘度と対比し、両者の差(以下単に「粘度差」という。)に基づき、前記評価対象としたグリースの劣化度を評価する方法。
【0022】
未使用のグリースは、評価対象としたグリースと同種の物である。ここで同種とは、完全に同一の種類に限られず、僅かな違いがあるものの、経験則上、評価対象としたグリースと同一の挙動を示すことが明らかな物も含む。
例えば、グリースを構成する鉱物油が、産地が異なるものの、同一の管理基準で生産された場合なども同種と見做す。
【0023】
当然の前提として、比較対象となる未使用のグリースを用いた希釈試料は、評価対象としたグリースを用いた希釈試料と同一の条件で調製したものである。具体的には、希釈に用いる溶剤の種類と希釈率を同一とする。
また、当然の前提として比較対象となる未使用のグリースを用いた希釈試料の粘度測定と、評価対象としたグリースを用いた希釈試料の粘度測定とは同一の条件で行う。具体的には、同じ粘度計を用いて、同じ温度条件で測定する。
【0024】
なお、温度が高いほど粘度差が大きくなる傾向がある。そのため、一般的には高めの温度で粘度差を求めた方が、劣化の影響を確認しやすい。温度条件は、グリースの使用環境における温度なども考慮して決めることが好ましい。
また、複数の異なる温度において粘度差を求めてもよい。
【0025】
粘度差を所定の値と対比することにより劣化度を判断してもよい。
粘度差と比較する「所定の値」は、予め、粘度差と劣化度との関係をJIS規格によるちょう度試験で確認して決めることが好ましい。
例えば、JIS K 2220で規定されるちょう度番号が、劣化したと判断される程度に変化したときの粘度差を「所定の値」とすることができる。
この場合、粘度差が所定の値以上となった場合に、評価対象としたグリースは交換が必要である程度に劣化したと判断することができる。
【0026】
また、JIS K 2220で規定されるちょう度番号が、劣化したと判断される程度に変化したときの粘度差の例えば8割の値を「所定の値」とすることができる。
この場合、粘度差が所定の値以上となった場合に、評価対象としたグリースの劣化がある程度進行しており、交換時期が近いと判断することができる。
【0027】
(2)温度に対する粘度の変化率に基づく評価
複数の異なる温度において希釈試料の粘度を測定し、評価対象としたグリースを用いて調製した希釈試料について温度に対する粘度の変化率(以下「対温度変化率」という。)を求め、対温度変化率に基づき、前記評価対象としたグリースの劣化度を評価する方法。
【0028】
複数の温度における粘度は、同じ希釈試料を用いて測定することができる。具体的には、同じ希釈試料を用いた粘度測定を、温度を変化させながら行えばよい。温度は、溶剤の蒸発による誤差を少なくするため、低温から高温に向けて変化させることが好ましい。
【0029】
複数の異なる温度について粘度を測定したら、対温度変化率を求める。3以上の異なる温度で粘度を測定した場合の対温度変化率は、例えば最小自乗法等によって求めることができる。
本発明者らが確認したところ、グリースは劣化が進むにつれ、対温度変化率の絶対値が小さくなる傾向にあった。これは、熱劣化によりグリースの基油が高分子化し、温度が高くなっても、流動性が向上しにくいためであると考えられる。
したがって、対温度変化率で劣化の程度を評価できる。
【0030】
対温度変化率を所定の値と対比することにより劣化度を判断してもよい。
対温度変化率と比較する「所定の値」は、予め、対温度変化率と劣化度との関係をJIS規格によるちょう度試験で確認して決めることが好ましい。
例えば、JIS K 2220で規定されるちょう度番号が、劣化したと判断される程度に変化したときの対温度変化率の絶対値を「所定の値」とすることができる。
この場合、対温度変化率の絶対値が所定の値以下となった場合に、評価対象としたグリースは交換が必要である程度に劣化したと判断することができる。
【0031】
また、JIS K 2220で規定されるちょう度番号が、劣化したと判断される程度に変化したときの対温度変化率の例えば1.1倍の値を「所定の値」とすることができる。
この場合、対温度変化率が所定の値以下となった場合に、評価対象としたグリースの劣化がある程度進行しており、交換時期が近いと判断することができる。
【0032】
(3)対温度変化率の未使用希釈試料との差に基づく評価
評価対象としたグリースを用いて調製した希釈試料について求めた温度に対する粘度の変化率(対温度変化率)を、評価対象としたグリースと同種である未使用のグリースを用いて調製した希釈試料について求めた変化率(対温度変化率)と対比し、両者の差(以下単に「変化率差」という。)に基づき、前記評価対象としたグリースの劣化度を評価する方法。
【0033】
(2)と同様にして、評価対象としたグリースを用いて調製した希釈試料と、未使用のグリースを用いて調製した希釈試料の各々について、複数の異なる温度について粘度を測定し、温度に対する粘度の変化率(対温度変化率)を求める。
未使用のグリースは、(1)の場合と同様に評価対象としたグリースと同種の物である。また、完全に同一の種類に限られず、僅かな違いがあるものの、経験則上、評価対象としたグリースと同一の挙動を示すことが明らかなグリースでもよい。
【0034】
当然の前提として、比較対象となる未使用のグリースを用いた希釈試料は、評価対象としたグリースを用いた希釈試料と同一の条件で調製したものである。具体的には、希釈に用いる溶剤の種類と希釈率を同一とする。
また、当然の前提として比較対象となる未使用のグリースを用いた希釈試料の粘度測定と、評価対象としたグリースを用いた希釈試料の粘度測定とは同一の条件で行う。具体的には、同じ粘度計を用いて、同じ温度範囲、好ましくは、同じ複数の温度の組み合わせで測定する。
【0035】
本発明者らが確認したところ、グリースは劣化が進むにつれ、対温度変化率の絶対値が小さくなる傾向にあった。これは、熱劣化によりグリースの基油が高分子化し、温度が高くなっても、流動性が向上しにくいためであると考えられる。
したがって、変化率差を求めれば、劣化の程度を評価できる。
【0036】
変化率差を所定の値と対比することにより劣化度を判断してもよい。
変化率差と比較する「所定の値」は、予め、変化率差と劣化度との関係をJIS規格によるちょう度試験で確認して決めることが好ましい。
例えば、JIS K 2220で規定されるちょう度番号が、劣化したと判断される程度に変化したときの変化率差を「所定の値」とすることができる。
この場合、変化率差が所定の値以下となった場合に、評価対象としたグリースは交換が必要である程度に劣化したと判断することができる。
【0037】
また、JIS K 2220で規定されるちょう度番号が、劣化したと判断される程度に変化したときの変化率差の例えば8割の値を「所定の値」とすることができる。
この場合、変化率差が所定の値以上となった場合に、評価対象としたグリースの劣化がある程度進行しており、交換時期が近いと判断することができる。
【0038】
評価結果に基づき、適切な時期に、グリースの交換又は、交換の準備を行うことができる。そのため、グリース性能がある状態にもかかわらず、早めに交換してしまう無駄を避けることができる。また、交換が遅れ、駆動部の固渋が発生したりする等の不具合の発生を回避できる。
【実施例
【0039】
サンプル容器に未使用の鉱油系のグリース(昭和シェル石油製、アルバニアグリースS2)の5mgを入れ、さらに、鉱油(JXTGエネルギー製絶縁油、HSトランスN)の10mLを加えた。70℃のオイルバスに入れて撹拌子を用いて約10分間攪拌し、見かけ上、グリースが完全に溶解した状態の希釈試料を得た。
【0040】
サンプル容器内の希釈試料を冷却し、オイルバスの温度を調整して、25℃、30℃、40℃における粘度(動粘度)を順次測定した。
粘度測定は、ベクトロン・インターナショナル社の超音波式粘度計(商品名:Low Shear Bolt Viscosity Sensor)を用いて行った。希釈試料は、粘度計のセンサーに内蔵された温度センサーで確認した。結果を図1に示す。
【0041】
また、未使用の前記グリースに代えて、同じグリースを恒温槽にて130℃で3日間、6日間、9日間それぞれ加熱し、熱加速劣化させたグリースを用いた他は、同様にして希釈試料を調製し、25℃、30℃、40℃における粘度(動粘度)を測定した。結果を図1に示す。
図1に示す様に、各温度で、熱劣化が進むにつれて粘度が上昇した。また、熱劣化が進むにつれて、粘度の温度依存性が小さくなる傾向が見られた。また、測定温度が高い程、熱劣化が進むにつれての粘度上昇が大きかった。
【0042】
図2は、図1に示した結果を、測定温度に対する希釈試料の粘度として纏め直したグラフである。
図2に示す様に、温度に対する希釈試料の粘度の変化率は、熱劣化が進むにつれて小さくなることがわかる。
【0043】
前記の希釈試料の調製に用いた未使用の鉱油系のグリースと、恒温槽にて130℃で3日間、6日間、9日間それぞれ加熱し、熱加速劣化させたグリースについて、JIS K 2220に規定に従い、混和ちょう度を測定した。
図3に、混和ちょう度と図1に示した希釈試料の粘度との関係を示す。
図3に示す様に、混和ちょう度が低下するにつれて、希釈試料の粘度が上昇する傾向が見られ、希釈試料の粘度が、JISに規定された混和ちょう度と相関関係を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の実施形態は、変電機器の遮断器や開閉器等の駆動部において使用されているグリースの劣化評価方法を提供するものであり、グリースの劣化度を、少量の試料採取量で客観的に評価することができる。
図1
図2
図3