(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】管理サーバー、音響チェック方法、プログラム、音響クライアントおよび音響チェックシステム
(51)【国際特許分類】
H04R 29/00 20060101AFI20231226BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
H04R29/00
H04R3/00
(21)【出願番号】P 2020015328
(22)【出願日】2020-01-31
【審査請求日】2022-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125689
【氏名又は名称】大林 章
(74)【代理人】
【識別番号】100128598
【氏名又は名称】高田 聖一
(74)【代理人】
【識別番号】100121108
【氏名又は名称】高橋 太朗
(72)【発明者】
【氏名】高橋 大介
【審査官】大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-157283(JP,A)
【文献】特開2019-169756(JP,A)
【文献】特開昭62-236007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 29/00
H04R 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響信号の入力端からスピーカーまでの第1信号経路を有する音響クライアントを管理する管理サーバーであって、
前記音響クライアントにおける前記第1信号経路の一部または全部について計測された第1伝達関数を取得する取得部と、
前記音響クライアントにおける前記第1信号経路の一部または全部に対して、第2信号経路を仮想的に構築し、構築した前記第2信号経路の一部または全部についての第2伝達関数を算出する算出部と、
前記第1伝達関数と前記第2伝達関数との比較結果に基づいて、前記音響クライアントの状態を判定する判定部と、
を含む管理サーバー。
【請求項2】
前記算出部は、
前記仮想的に構築する前記第2信号経路を、前記比較結果に基づいて修正する
請求項1に記載の管理サーバー。
【請求項3】
前記音響クライアントにおける前記第1信号経路には、入出力装置、ミキサ、プロセッサーまたはアンプの少なくとも1つが含まれる、
請求項1または2に記載の管理サーバー。
【請求項4】
前記取得部による前記取得、前記算出部による前記算出、および、前記判定部による前記判定は、端末装置でなされた遠隔による指示によって開始する
請求項1乃至3のいずれかに記載の管理サーバー。
【請求項5】
前記判定部による判定の結果を、前記端末装置に送信する、
請求項4に記載の管理サーバー。
【請求項6】
音響信号の入力端からスピーカーまでの第1信号経路を有する音響クライアントを管理するコンピューターが、
前記音響クライアントにおける前記第1信号経路の一部または全部について計測された第1伝達関数を取得し、
前記音響クライアントにおける前記第1信号経路の一部または全部に対して、第2信号経路を仮想的に構築し、
構築した前記第2信号経路の一部または全部についての第2伝達関数を算出し、
前記第1伝達関数と前記第2伝達関数との比較結果に基づいて、前記音響クライアントの状態を判定する
音響チェック方法。
【請求項7】
音響信号の入力端からスピーカーまでの第1信号経路を有する音響クライアントを管理するコンピュータを、
前記音響クライアントにおける前記第1信号経路の一部または全部について計測された第1伝達関数を取得する取得部、
前記音響クライアントにおける前記第1信号経路の一部または全部に対して、第2信号経路を仮想的に構築し、構築した前記第2信号経路の一部または全部についての第2伝達関数を算出する算出部、および、
前記第1伝達関数と前記第2伝達関数との比較結果に基づいて、前記音響クライアントの状態を判定する判定部、
として機能させるプログラム。
【請求項8】
音響信号の入力端からスピーカーまでの第1信号経路を有し、管理サーバーに接続される音響クライアントであって、
前記第1信号経路の一部または全部についての第1伝達関数を計測する計測部と、
前記計測部で計測された第1伝達関数を前記管理サーバーに送信することを指示する通信指示部と、
を有し、
前記管理サーバーが
前記第1伝達関数に基づいて前記音響クライアントの状態を判定する
音響クライアント。
【請求項9】
前記音響クライアントは、統括処理装置を含み、
前記統括処理装置は、前記通信指示部を含む
請求項8に記載の音響クライアント。
【請求項10】
管理サーバーと、スピーカーを含む音響クライアントとを有する音響チェックシステムであって、
前記音響クライアントは、
第1信号経路の一部または全部についての第1伝達関数を計測する計測部と、
前記計測部で計測された第1伝達関数を前記管理サーバーに送信することを指示する通信指示部と、
を有し、
前記管理サーバーは、
前記指示により送信された前記第1伝達関数を取得する取得部と、
前記音響クライアントにおける前記第1信号経路の一部または全部に対して、第2信号経路を仮想的に構築し、構築した前記第2信号経路の一部または全部についての第2伝達関数を算出する算出部と、
前記第1伝達関数と前記第2伝達関数との比較結果に基づいて、前記音響クライアントの状態を判定する判定部と、
を含む音響チェックシステム。
【請求項11】
前記音響クライアントにおける前記第1信号経路における状態は、リストアデータに基づいて定義され、
前記算出部は、前記リストアデータに基づいて前記第2信号経路を仮想的に構築し、
前記計測部は、前記リストアデータに基づいて定義された前記第1信号経路についての第1伝達関数を計測する、
請求項10に記載の音響チェックシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、管理サーバー、音響チェック方法、プログラム、音響クライアントおよび音響チェックシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
スピーカーおよびアンプを含む音響装置は、例えば、音楽演奏会場および劇場などのホールに設置される。このようなホールでは、日替わりで様々な用途で用いられるので、原状復帰とコンディション維持のためのチェックをほぼ毎日行う必要がある。このチェックをホールの管理者が自身の耳で実行するのは、熟練した技能が必要である。またチェックのための時間も要し、手間も煩雑である。
そこで、このようなチェックを管理者に代わって、装置によって監視する技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
この技術は、スピーカーを駆動する音響信号のパラメーターを計測し、当該計測した実際のパラメーターに基づいてスピーカーの特性を推定し、スピーカーに供給される音響信号に必要に応じてリミッタをかける、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記技術では、実際のホールにおいて、入出力装置の入力端に供給された音響信号が、ミキサ、プロセッサー、アンプなどの信号経路を経由して、スピーカーに供給される。上記技術では、スピーカーの特性が推定されるので、スピーカー自体のチェックは可能であるものの、スピーカーに至るまでの信号経路における異常をチェックできなかった。
このような事情を考慮して本開示は、管理者にとって音響装置の状態をチェックする手間が削減される技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本開示の一態様に係る管理サーバーは、音響信号の入力端からスピーカーまでの第1信号経路を有する音響クライアントを管理する管理サーバーであって、前記音響クライアントにおける前記第1信号経路の一部または全部について計測された第1伝達関数を取得する取得部と、前記音響クライアントにおける前記第1信号経路の一部または全部に対して、第2信号経路を仮想的に構築し、構築した前記第2信号経路の一部または全部についての第2伝達関数を算出する算出部と、前記第1伝達関数と前記第2伝達関数との比較結果に基づいて、前記音響クライアントの状態を判定する判定部と、を含む。
【0007】
本開示の一態様に係る音響チェック方法は、音響信号の入力端からスピーカーまでの第1信号経路を有する音響クライアントを管理するコンピューターが、前記音響クライアントにおける前記第1信号経路の一部または全部について計測された第1伝達関数を取得し、前記音響クライアントにおける前記第1信号経路の一部または全部に対して、第2信号経路を仮想的に構築し、構築した前記第2信号経路の一部または全部についての第2伝達関数を算出し、前記第1伝達関数と前記第2伝達関数との比較結果に基づいて、前記音響クライアントの状態を判定する。
【0008】
本開示の一態様に係るプログラムは、音響信号の入力端からスピーカーまでの第1信号経路を有する音響クライアントを管理するコンピュータを、前記音響クライアントにおける前記第1信号経路の一部または全部について計測された第1伝達関数を取得する取得部、前記音響クライアントにおける前記第1信号経路の一部または全部に対して、第2信号経路を仮想的に構築し、構築した前記第2信号経路の一部または全部についての第2伝達関数を算出する算出部、および、前記第1伝達関数と前記第2伝達関数との比較結果に基づいて、前記音響クライアントの状態を判定する判定部、として機能させる。
【0009】
本開示の一態様に係る音響クライアントは、音響信号の入力端からスピーカーまでの第1信号経路を有し、管理サーバーに接続される音響クライアントであって、前記第1信号経路の一部または全部についての第1伝達関数を計測する計測部と、前記計測部で計測された第1伝達関数を前記管理サーバーに送信することを指示する通信指示部と、を有し、前記管理サーバーが前記第1伝達関数に基づいて前記音響クライアントの状態を判定する。
【0010】
本開示の一態様に係る音響チェックシステムは、管理サーバーと、スピーカーを含む音響クライアントとを有する音響チェックシステムであって、前記音響クライアントは、前記第1信号経路の一部または全部についての第1伝達関数を計測する計測部と、前記計測部で計測された第1伝達関数を前記管理サーバーに送信することを指示する通信指示部と、を有し、前記管理サーバーは、前記指示により送信された前記第1伝達関数を取得する取得部と、前記音響クライアントにおける前記第1信号経路の一部または全部に対して、第2信号経路を仮想的に構築し、構築した前記第2信号経路の一部または全部についての第2伝達関数を算出する算出部と、前記第1伝達関数と前記第2伝達関数との比較結果に基づいて、前記音響クライアントの状態を判定する判定部と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】音響チェックシステムの構成を示す図である。
【
図2】音響チェックシステムにおける管理サーバーのハードウェア構成を示す図である。
【
図3】音響チェックシステムにおける音響クライアントのハードウェア構成を示す図である。
【
図4】音響クライアントにおける処理装置のハードウェア構成を示す図である。
【
図5】管理サーバーで構築される機能ブロック図である。
【
図6】算出部によるシミュレートにより作成される仮想装置を示す図である。
【
図7】音響クライアントにおける処理装置で構築される機能ブロック図である。
【
図8】音響チェックシステムの動作を示すフローチャートである。
【
図9】音響クライアントにおいて計測される伝達関数の例を示す図である。
【
図10】音響クライアントにおいて計測された伝達関数と、管理サーバーで算出された伝達関数との比較例を示す図である。
【
図11】別の音響クライアントのハードウェア構成を示す図である。
【
図12】別の音響クライアントで構築される機能ブロック図である。
【0012】
図1は、実施形態に係る音響チェックシステム1の構成を示す図である。音響チェックシステム1では、管理サーバー10と、第1音響クライアント20-1、第2音響クライアント20-2、…、第n音響クライアント20-nとが通信網Naを介して接続される。nは、1または2以上の整数であるが、図では便宜的にnが3以上である場合の例を示している。また、通信網Naは、典型的にはインターネットであるが、有線または無線を問わず、管理サーバー10が遠隔の地にある第1音響クライアント20-1~第n音響クライアント20-nと通信可能とさせるネットワークであればよい。
また、音響チェックシステム1には、端末装置30が通信網Naを介して接続される。端末装置30は、第1音響クライアント20-1~第n音響クライアント20-nの管理者によって操作されるスマートフォンまたは携帯型のパーソナルコンピューターである。
【0013】
なお、本説明において接続とは、2以上の要素間が直接結合された状態のほか、1または2以上の中間要素が存在する状態を含む。また、要素間の接続は、物理的なものであっても、論理的なものであっても、またはこれらの組み合わせであってもよい。
また、第1音響クライアント20-1~第n音響クライアント20-nについて、区別する必要がない場合、ハイフン以降の符号を省略して、単に音響クライアント20とする。
音響クライアント20は、後述するように1または2以上の複数のスピーカーを含む。管理サーバー10は、音響クライアント20における状態を判定する装置であり、後述するように音響クライアント20に各種の指示を出力したり、音響クライアント20から各種の情報を入力したりする。
【0014】
図2は、管理サーバー10のハードウェア構成を示す図である。管理サーバー10は、例えばパーソナルコンピューター等の情報処理端末である。管理サーバー10は、制御装置110、記憶装置122および通信装置126を含み、これらの要素がバスB1を介して相互に接続される。
制御装置110は、例えばCPU(Central Processing Unit)等の単数または複数の処理回路で構成され、管理サーバー10における各要素を制御する。
【0015】
記憶装置122は、例えば磁気記録媒体または半導体記録媒体等の公知の記録媒体で構成された単数または複数のメモリである。記憶装置122は、制御装置110が実行するプログラムと制御装置110が使用する各種のデータとを記憶する。なお、記憶装置122は、複数種の記録媒体の組み合わせにより構成されてもよい。また、記憶装置122は、管理サーバー10に対して着脱可能な可搬型の記録媒体、または、通信網Naを介して管理サーバー10と通信可能な外部記録媒体(例えばオンラインストレージ)であってもよい。
通信装置126は、外部機器と通信網Naを介して通信するために用いられる。外部機器とは、典型的には第1音響クライアント20-1~第n音響クライアント20-nおよび端末装置30であるが、上述した通信網Naを介して外部記録媒体が用いられる場合には、当該外部記録媒体も含まれる。
【0016】
図3は、ある1つの音響クライアント20のハードウェア構成を示す図である。
本実施形態において音響クライアント20は、音響装置200a、200bおよび200cを含む。音響装置200a、200bおよび200cは、スピーカー260を含み、例えば、音楽演奏会場および劇場などのホールや屋外に設置される。
なお、本実施形態において、音響クライアント20は、3台の音響装置200a、200bおよび200cを含むが、この台数に制限はない。1つの音響クライアント20が有する音響装置の台数は、1または2以上であればよいが、図では、説明を簡略化するための3としている。また、本実施形態では、音響クライアント20に、音響装置200a、200bおよび200cが含まれるが、音響クライアントを音響装置とみなすこともできる。
【0017】
音響装置200a、200bおよび200cの構成はほぼ同一である。そこで、音響装置200a、200bおよび200cの構成については、音響装置200aで代表して説明する。
【0018】
音響装置200aは、処理装置210、入出力装置220、ミキサ230、プロセッサー240、アンプ250およびスピーカー260を含む。
処理装置210は、例えばパーソナルコンピューター等の情報処理端末であり、管理サーバー10と通信網Naを介して接続され、入出力装置220、ミキサ230、プロセッサー240およびアンプ250を制御する。
【0019】
本実施形態において、音響装置200aの動作には、通常動作と計測動作とがある。通常動作とは、音響装置200aにおいて本来の使用目的を達成する動作、具体的には、入出力装置220に入力端に供給された音響信号を、様々な処理を経て、スピーカー260で音響変換し、聴取者に聴かせる動作をいう。計測動作とは、後述する信号経路の伝達関数を計測する動作をいう。
【0020】
入出力装置220は 例えば3つの入力端を有する。入出力装置220は、通常動作において、3つの入力端に入力された音響信号を、チャンネルIn1、In2、In3に出力する。なお、音響信号とは、音響(音)を示す信号であり、アナログとデジタルとの双方を含む。音響信号は、通常動作においてスピーカー260によって聴取者に聴かせる音響の源となる信号であり、典型的には、マイクの収音信号、楽器の出力信号、映画の再生信号などである。
また、入出力装置220は、発振器222を含み、計測動作において例えばピンクノイズをチャンネルIn1に出力する。なお、ピンクノイズは、強度が周波数に反比例する雑音信号である。また、発振器222の出力は、チャンネルIn1としているが、他のチャンネルであってもよいし、順番に切り替えてもよい。
【0021】
ミキサ230は、チャンネルIn_1、In_2、In_3を操作者による操作または処理装置210による指示にしたがって選択し、選択したチャンネルに供給された音響信号を合算して(ミキシングして)出力する。
プロセッサー240は、ミキサ230から出力された音響信号を、操作者による操作または処理装置210による指示にしたがって加工する(効果を付与する)。
【0022】
アンプ250は、通常動作であれば、操作者による操作または処理装置210による指示にしたがった増幅率で、プロセッサー240から出力される音響信号を増幅し、当該増幅した音響信号を出力端Prから出力する。また、アンプ250は、センサー252を含み、計測動作において出力端Prに現れる電圧を計測して、当該計測の結果を処理装置210に供給する。
スピーカー260は、アンプ250の出力端Prから出力される信号を音に変換する。
【0023】
図4は、音響装置200aにおける処理装置210のハードウェア構成を示す図である。
処理装置210は、制御装置2100、記憶装置2102、インターフェイス(IF)装置2104および通信装置2106を含み、これらの要素がバスB2を介して相互に接続される。
制御装置2100は、例えばCPU等の単数または複数の処理回路で構成され、処理装置210における各要素を制御する。
記憶装置2102は、公知の記録媒体で構成された単数または複数のメモリであり、制御装置2100が実行するプログラムと制御装置2100が使用する各種のデータとを記憶する。
IF装置2104は、入出力装置220、ミキサ230、プロセッサー240およびアンプ250との間で情報を入力および出力する。
通信装置2106は、管理サーバー10と通信網Naを介して通信するために用いられる。
【0024】
説明の便宜上、管理サーバー10において、記憶装置122に記憶されたプログラムを制御装置110が実行することによって、当該制御装置110および記憶装置122で構築される機能ブロックについて説明する。なお、機能ブロックは、本実施形態では、ソフトウェアの実行によって実現されることを想定しているが、各機能ブロックの実現手法については特に限定されない。すなわち、各機能ブロックは、ソフトウェアの実行ではなく、ハードウェアによって、あるいは、ハードウェアおよびソフトウェアの双方の組み合わせによって、実現されてもよい。
【0025】
図5は、管理サーバー10における制御装置110および記憶装置122で構築される機能ブロックを示す図である。
制御装置110では、制御部112、取得部114、算出部116および判定部118が機能ブロックとして構築され、記憶装置122では、データベースDbが機能ブロックとして構築される。
【0026】
記憶装置122で構築されるデータベースDbには、音響装置200aのリストアデータが登録される。
リストアデータとは、当該音響装置200aにおけるミキサ230、プロセッサー240およびアンプ250がある特定の状態にあるときに、当該状態を復元するための情報である。具体的には、リストアデータは、当該状態におけるミキサ230の選択やフェーダー位置などの設定情報、プロセッサー240における効果等を指定するパラメーター情報、アンプ250におけるアッテネータ値、ミュートのオン/オフ情報などの集合体である。換言すれば、リストアデータは、入出力装置220の入力端からアンプ250の出力端Prまでの信号経路の状態を定義付ける情報の集合体である。
なお、リストアデータは、複数の異なる状態に対応したセットを複数設けてもよいし、音響装置200a、200b、200c毎に設けても良いし、音響クライアント20毎に設けてもよい。
【0027】
本実施形態において、音響装置200aでは、計測動作により入出力装置220の入力端からアンプ250の出力端Prまでの信号経路の伝達関数Fr(x)が計測される。一方で、管理サーバー10では、音響装置200aの上記信号経路がシミュレートされて、すなわち仮想的に構築されて、当該シミュレートされた信号経路の伝達関数Fv(x)が算出される。そして、計測された伝達関数Fr(x)と、算出された伝達関数Fv(x)とが比較されて、当該比較の結果に基づいて、音響装置200aにおける信号経路の状態が判定される。
なお、入出力装置220の入力端からアンプ250の出力端Prまでの信号経路が第1信号経路の一例であり、伝達関数Fr(x)が第1伝達関数の一例である。
【0028】
伝達関数とは、入力端に入力された信号と、出力端から出力される信号との関係を示す関数である。本実施形態では、入力端の電圧と出力端の電圧との比を、当該周波数との関係で表した関数(ゲイン特性)を用いるが、これ以外にも、入力端に入力された信号と、出力端から出力される信号との位相を、当該周波数との関係で表した関数(ゲイン特性)を用いてもよい。
本実施形態では、信号経路を、入出力装置220における音響信号の入力端からアンプ250の出力端Prまでとする。
図9は、伝達関数の一例を示す図であって、比(デシベル)を縦軸にとり、周波数(Hz)を横軸にとった例である。
【0029】
説明を
図5に戻すと、制御装置110において構築される機能ブロックのうち、制御部112は、他の機能ブロックである取得部114、算出部116および判定部118を制御する。
取得部114は、音響クライアント20から送信された情報、具体的には、チェック対象の音響装置で計測された伝達関数Fr(x)を取得する。
【0030】
算出部116は、チェック対象の音響装置における信号経路の伝達関数を算出する。
具体的には、算出部116は、チェック対象が例えば音響装置200aであれば、
図6に示されるように、仮想入出力装置220v、仮想ミキサ230v、仮想プロセッサー240vおよび仮想アンプ250vを含む仮想装置をシミュレートにより作成する。なお、仮想入出力装置220vとは、音響装置200aにおける入出力装置220の回路構成をシミュレートしたものである。仮想ミキサ230vとは、音響装置200aにおけるミキサ230の回路構成をシミュレートしたものである。仮想プロセッサー240vとは、音響装置200aにおけるプロセッサー240の回路構成をシミュレートしたものである。仮想アンプ250vとは、音響装置200aにおけるアンプ250の回路構成をシミュレートしたものである。
算出部116は、第2に、作成した仮想装置にリストアデータを適用して、仮想装置を音響装置200aにおけるリストア時の状態に設定する。
算出部116は、第3に、仮想入出力装置220vのチャンネルIn1にピンクノイズを供給したときに仮想出力端Pvに現れる信号をシミュレートして求め、ピンクノイズとシミュレートして求めた信号とに基づいて、すなわち仮想装置における入力信号と仮想装置における出力信号とに基づいて、伝達関数Fv(x)を算出する。
なお、仮想入出力装置220vの入力端であるチャンネルIn1から仮想出力端Pvまでのの信号経路が第2信号経路の一例であり、伝達関数Fv(x)が第2伝達関数の一例である。
【0031】
判定部118は、伝達関数Fr(x)およびFv(x)を比較して、2つの伝達関数の類似度を求め、当該類似度に基づいて、音響装置200aの状態を判定する。具体的には、判定部118は、当該類似度が閾値以上であるか否かを判定し、当該類似度が閾値以上であれば、チェック対象の音響装置が正常であると判定する。一方、判定部118は、求めた類似度が閾値未満であれば、チェック対象の音響装置においてなんらかの異常があると判定する。
図10は、2つの伝達関数の比較の一例を示す図であって、破線が音響装置200aで計測された伝達関数Fr(x)の例であり、実線が管理サーバー10で算出された伝達関数Fv(x)の例である。
具体的には、判定部118は、2つの伝達関数の類似度を算出するにあたって、例えば周波数20Hz~20kHzの範囲において一定間隔(100Hz)毎に比の値(縦軸の値)の差を累積し、当該累積した差の値を類似度として算出してもよいし、他の算出法でもよい。
【0032】
次に、処理装置210における制御装置2100が記憶装置2102に記憶されたプログラムを実行することによって構築される機能ブロックについて説明する。
【0033】
図7は、制御装置2100で構築される機能ブロックを示す図である。制御装置2100では、機能ブロックとして、制御部2112、計測部2114および通信指示部2116が構築される。
制御部2112は、他の機能ブロックである計測部2114、通信指示部2116を制御する。
【0034】
計測部2114は、計測動作においてセンサー252で検出された電圧を解析し、例えば次のようにして伝達関数Fr(x)を求める。具体的には、計測部2114は、第1に、センサー252による検出された信号を解析し、周波数領域にわたって電圧を求める。第2に、計測部2114は、発振器222の出力特性、すなわちピンクノイズの強度と周波数との関係を取得する。
計測部2114は、第3に、センサー252で検出された信号を解析して得られた電圧のうち、ある周波数について着目し、ピンクノイズのうち、当該着目周波数と同じ周波数の強度を特定し、検出信号を解析して得られた電圧を、ピンクノイズで特定した周波数のの強度(電圧)で除して、当該着目周波数での比を求める。計測部2114は、第4に、着目周波数を異ならせながら、上記比の周波数特性を求める。ここで、着目周波数については、上述した通り例えば20Hz~20kHzであり、100Hzの間隔でシフトされる。
このようにして、計測部2114は、入出力装置220から出力端Prまでの信号経路における伝達関数Fr(x)を求める。
【0035】
通信指示部2116は、管理サーバー10への情報の送信および管理サーバー10からの情報の受信を指示する。なお、本実施形態において、管理サーバー10に送信される情報には、例えば計測部2114によって求められた伝達関数Fr(x)があり、また、管理サーバー10から受信される情報には、計測動作の開始を指示する情報がある。
【0036】
次に、音響チェックシステム1の動作について説明する。
図8は、音響チェックシステム1の動作を示すフローチャートである。まず、ある1つの音響クライアント20における音響装置200aに着目し、当該着目する音響装置200aがチェック対象である場合について説明する。
【0037】
まず、管理サーバー10において制御部112は、音響装置200aについて計測の指示がなされたか否かを判定する(ステップSb10)。計測の指示がなされていないと判定すれば(ステップSb10の判定結果が「No」であれば)、制御部112は、処理手順をステップSb10に戻す。換言すれば、制御部112は、計測の指示がなされるまで手順がステップSb10を循環するので、実質的に待機状態となる。
音響装置200aの計測については、管理者が端末装置30を操作することによって指示してもよい。端末装置30での操作によって計測を指示する場合、管理者が管理する1または2以上の音響クライアントのうち、どの音響クライアントの、どの音響装置をチェック対象とするのかを適宜選択する構成としてもよい。また、音響装置200aの計測については、管理サーバー10で予め作成されたスケジュールにしたがった日時にて指示してもよい。
【0038】
計測の指示がなされたと判定すれば(ステップSb10の判定結果が「Yes」になれば)、制御部112は、データベースDbから音響装置200aのリストアデータを読み出す(ステップSb12)。なお、上記計測の指示の際に、複数セットのリストアデータのなかから1セットを選択するようにして、当該選択された1セットのリストアデータをデータベースDbから読み出すようにしてもよい。
制御部112は、読み出したリストアデータを算出部116と、チェック対象の音響装置200aに供給する。
【0039】
算出部116は、仮想入出力装置220v、仮想ミキサ230v、仮想プロセッサー240vおよび仮想アンプ250vを含む仮想装置をシミュレートにより作成する(ステップSb14)。
算出部116は、作成した仮想装置にステップSb12で読み出されたリストアデータを適用する(ステップSb16)。これにより、仮想装置が音響装置200aにおけるリストア時の状態に設定される。
算出部116は、仮想入出力装置220vのチャンネルIn1にピンクノイズを供給したときに仮想出力端Pvに現れる信号をシミュレートして求めて、上述したように伝達関数Fv(x)を算出する(ステップSb18)。
算出部116は、算出した伝達関数Fv(x)を判定部118に供給する。
【0040】
一方、リストアデータが供給された音響装置200aでは、制御部2112が、当該リストアデータを入出力装置220、ミキサ230、プロセッサー240およびアンプ250に適用する(ステップSb46)。これにより、音響装置200aでは、正常であれば、リストア時の設定状態が実際に再現される。
次に、制御部2112は、入出力装置220の発振器222にピンクノイズを出力させる一方で、計測部2114に伝達関数Fr(x)を求めるように指示する。
この指示にしたがって、計測部2114は、上述したように伝達関数Fr(x)を求めて(ステップSb48)、求めた伝達関数Fr(x)を通信指示部2116に供給する。
通信指示部2116は、通信装置2106に、計測部2114によって求められた伝達関数Fr(x)を管理サーバー10に送信することを指示する(ステップSb50)。この指示によって伝達関数Fr(x)は管理サーバー10に送信される。
なお、送信された伝達関数Fr(x)は、管理サーバー10において取得部114が取得する。取得部113は、取得した伝達関数Fr(x)を判定部118に供給する。
【0041】
伝達関数Fr(x)、Fv(x)が供給された判定部118は、当該2つの伝達関数を比較して、類似度を求める(ステップSb20)。判定部118は、求めた類似度が閾値以上であるか否かを判定する(ステップSb22)。
判定部118は、求めた類似度が閾値以上であれば(ステップSb22の判定結果が「Yes」であれば)、2つの伝達関数同士が似ているので、音響装置200aが正常な状態にあると判定し(ステップSb24)、その判定結果を制御部112に供給する。
一方、判定部118は、求めた類似度が閾値未満であれば、2つの伝達関数同士が似ていないので、音響装置200aにおいてなんらかの異常があると判定し(ステップSb26)、その判定結果を制御部112に供給する。
【0042】
制御部112は、音響装置200aが正常であるか異常であるかの判定結果を、端末装置30に送信する(ステップSb28)。
判定結果を受信した端末装置30は、音響装置200aが正常であるか異常であるかの判定結果を例えば画面に表示する。この表示によって管理者は、音響装置200aが正常であるか異常であるかの判定結果を知ることができる。
【0043】
音響装置200aにおいて入出力装置220、ミキサ230、プロセッサー240およびアンプ250にリストアデータが適用された場合に計測される伝達関数Fr(x)は、正常であれば、管理サーバー10において算出された伝達関数Fv(x)とほぼ同一となるはずである。
2つの伝達関数の類似度が閾値以上である場合、すなわち、計測された伝達関数Fr(x)が算出された伝達関数Fv(x)と相違している場合、音響装置200aから出力端Prまでの信号経路において、なんらかの異常があると考えられる。具体的には、音響装置200aにおける入出力装置220、ミキサ230、プロセッサー240またはアンプ250のうち少なくとも1つの異常、これらの要素間のケーブルの破損、接続ミスなどが発生している、と考えられる。
【0044】
本実施形態によれば、管理者は、音響装置200aの設置場所に出向き実際に自身の耳で確認することなく、当該音響装置200aにおける川上から川下までの信号経路、具体的には、入出力装置220の入力端から、ミキサ230、プロセッサー240、アンプ250の出力端Prまでの信号経路の正常/異常を知ることができるので、チェックの手間や時間などが大幅に低減される。またチェックに際し、熟練した技能も不要となる。
【0045】
この動作の説明では、音響装置200aがチェック対象である場合を例にとったが、音響装置200b、200cがチェック対象として指定された場合も同様な動作となる。また、音響クライアント20に含まれる音響装置200a、200b、200cがすべてチェック対象であれば、これらの音響装置200a、200b、200cについても同様な動作が実行される。このため、音響クライアント20における音響装置200a、200b、200cの川上から川下までの信号経路についての正常/異常についても管理者は知ることができる。
なお、第1音響クライアント20-1~第n音響クライアント20-nのうち、1または2以上の音響クライアント20を指定し、さらに指定した音響クライアント20における1または2以上の音響装置をチェック対象としてもよい。
また、2以上の音響装置については同時にチェックしてもよいし、順番に1台ずつチェックしてもよい。
【0046】
実施形態では、音響装置200aにおける入出力装置220の入力端からアンプ250の出力端Prまでの信号経路の伝達関数Fr(x)が、当該信号経路をシミュレートして算出された伝達関数Fv(x)と比較されて、当該音響装置200aの状態が判定された。比較する伝達関数の信号経路は、その一部同士であってもよい。具体的には次の通りである。
入出力装置220の入力端からアンプ250の出力端Prまでの信号経路は、入出力装置220、ミキサ230、プロセッサー240、アンプ250における各機器(および、これらの各要素を結ぶケーブル)に分解することができる。
そこでまず、判定部118は、比較する2つの伝達関数の信号経路を、入出力装置220(仮想入出力装置220v)のみとして、2つの伝達関数を比較する。判定部118は、この比較によって正常と判定すれば、比較する伝達関数の信号経路を、次のミキサ230(仮想ミキサ230v)の出力まで延長して、2つの伝達関数を比較する。判定部118は、この比較によって正常と判定すれば、比較する伝達関数の信号経路を、次のプロセッサー240(仮想プロセッサー240v)の出力まで延長して、2つの伝達関数を比較する。判定部118は、この比較によって正常と判定すれば、比較する伝達関数の信号経路を、次のアンプ250の出力端Pr(仮想アンプ250vの仮想出力端Pv)まで延長して、2つの伝達関数を比較する。なお、判定部118は、途中で異常と判定すれば、信号経路を次の機器まで延長しないで、判定を終了する。
【0047】
このような判定において、ある機器まで正常であり、比較する伝達関数の信号経路が次の機器まで延長されたときに異常であると判定されれば、異常箇所が当該次の機器であると特定することができる。
また、入出力装置220、ミキサ230およびプロセッサー240のいずれかの状態が異常であると判定されれば、次の機器まで信号経路が延長されないので、異常を迅速に判定することができる。これは、入出力装置220の入力端からアンプ250の出力端Prまでの信号経路の全部についての伝達関数Fr(x)の計測および伝達関数Fv(x)の算出する必要がなく、当該信号経路の一部で済むからである。
このように、音響クライアント20の状態の判定には、当該音響クライアント20に含まれる音響装置200aの信号経路の状態判定のみならず、当該信号経路の途中に存在する機器の状態判定を含む。
【0048】
実施形態では、伝達関数Fr(x)、Fv(x)の類似度が閾値以上であれば、チェック対象の音響装置200aの状態が正常であると判定される。換言すれば、実施形態では、算出部116で算出される伝達関数Fv(x)が、計測部2114で求められた伝達関数Fv(x)と完全に一致しなくても、ある程度の相違が許容されて、正常であると判定される。
チェック対象の音響装置200aの状態が正常であれば、算出部116で算出された伝達関数Fv(x)は、計測部2114による求められた伝達関数Fr(x)と同じとなることが好ましい。逆にいえば、チェック対象の音響装置200aの状態が正常である場合に、算出された伝達関数Fv(x)が、計測された伝達関数Fr(x)と若干相違していれば、算出部116におけるシミュレートした内容が若干不正確であった可能性がある。
そこで、チェック対象の音響装置200aが正常である場合に、伝達関数Fv(x)が、伝達関数Fr(x)と相違していれば、算出部116は、伝達関数Fv(x)が伝達関数Fr(x)と一致するように、シミュレートした内容を修正して、次回以降において伝達関数Fv(x)の算出に反映させてもよい。この修正により、算出される伝達関数Fv(x)の精度を高めることができる。
【0049】
実施形態では、通信指示部2116が、処理装置210の制御装置2100に構築されたが、通信指示部2116の構築場所はこれ以外であってもよい。例えば、
図11に示されるように、音響クライアント20と通信網Naとの間に位置する統括処理装置24に、通信指示部2116が構築されてもよい。
統括処理装置24は、例えばパーソナルコンピューター等の情報処理端末であり、管理サーバー10と音響クライアント20との間で情報の仲立ちをする。
統括処理装置24は、特に図示はしないが、制御装置および記憶装置を含む。当該制御装置が当該記憶装置に記憶されたプログラムを実行することによって、
図12に示されるように、制御部2410と通信指示部2116とが構築される。なお、制御部2410は、通信指示部2116を制御する。
一方、音響装置200aにおける処理装置210で構築される機能ブロックには、通信指示部2116が存在せず、計測部2114で計測された伝達関数Fr(x)を制御部2112が、統括処理装置24における通信指示部2116に送信する。
【0050】
なお、音響装置200b、200cについても同様である。例えば音響装置200bの処理装置210で構築される機能ブロックには通信指示部2116が存在せず、伝達関数を当該処理装置210の制御部2112が、統括処理装置24における通信指示部2116に送信する。このため、音響装置200a、200b、200cから同時に伝達関数が送信される場合が生じ得る。
統括処理装置24における通信指示部2116は、音響装置200a、200b、200cから送信された伝達関数の3つを、重要度や通信網Naの通信状態等を考慮して管理サーバー10に送信指示する。
このため、通信指示部2116が、統括処理装置24に構築される構成では、通信網Naにおけるトラフィックの逼迫を抑えることができる。
【0051】
また、実施形態において、アンプ250にセンサー252を設けて、出力端Prに現れる電圧を検出して、当該電圧を処理装置210に供給し、当該処理装置210が伝達関数Fr(x)を求める構成とした。伝達関数Fr(x)を求めるにあたっては、この構成に限られない。例えば、スピーカー260の前にマイクロフォンを設けて、実際にスピーカー260で音響変換された音を信号に変換し、当該変換した信号を処理装置210に供給して、伝達関数Fr(x)を求めてもよい。
このようにすれば、入出力装置220から、ミキサ230、プロセッサー240およびアンプ250を順に経て、最終的にスピーカー260に至るまでの状態を判定することができる。
【0052】
実施形態では、異常があると判定された場合に、その旨が端末装置30によって表示されるだけであった。これに限られれず、異常があると判定した場合に、管理者が音響装置200aを実際に点検した結果の報告情報を、異常と判定した伝達関数Fr(x)と関連付けてデータベースDbに登録してもよい。そして、以降のチェックにおいて、異常があると判定した場合に、データベースDbに登録された異常時の伝達関数Fr(x)のなかに、そのときに計測された伝達関数Fr(x)に近いものがあるかを判定し、近いものがあれば、その伝達関数に関連付けられた報告情報を読み出して、管理者に提示してもよい。これにより、管理者は、異常の理由をある程度把握できるので、異常を正常に復元する作業を迅速に実行することができる。
【0053】
<付記>
上述した実施形態等から、例えば以下のような態様が把握される。
【0054】
本開示の態様(第1態様)に係る管理サーバーは、音響信号の入力端からスピーカーまでの第1信号経路を有する音響クライアントを管理する管理サーバーであって、前記音響クライアントにおける前記第1信号経路の一部または全部について計測された第1伝達関数を取得する取得部と、前記音響クライアントにおける前記第1信号経路の一部または全部に対して、第2信号経路を仮想的に構築し、構築した前記第2信号経路の一部または全部についての第2伝達関数を算出する算出部と、前記第1伝達関数と前記第2伝達関数との比較結果に基づいて、前記音響クライアントの状態を判定する判定部と、を含む。
この態様によれば、音響信号の入力端からスピーカーまでの信号経路の一部または全部について計測された第1伝達関数と、仮想的に構築された信号経路の一部または全部について算出された第2伝達関数との比較結果に基づいて、音響クライアントの状態が判定される。したがって、管理者は、音響クライアントの設置場所に赴いて実際に自身の耳で確認することなく、当該音響クライアントの状態を知ることができるので、チェックの手間や時間などが大幅に低減される。またチェックに際し、熟練した技能も不要となる。
【0055】
第1態様の例(第2態様)において、前記算出部は、前記仮想的に構築する前記第2信号経路を、前記比較結果に基づいて修正する。
この態様によれば、修正により、以後、算出される第2伝達関数Fv(x)の精度を高めることができる。
【0056】
第1または第2態様の例(第3態様)において、前記音響クライアントにおける前記第1信号経路には、入出力装置、ミキサ、プロセッサーまたはアンプの少なくとも1つが含まれる。
この態様によれば、管理者は、入出力装置、ミキサ、プロセッサーまたはアンプの少なくとも1つが含まれる信号経路に異常があるか否かを知ることができる。
【0057】
第1、第2または第3態様の例(第4態様)において、前記取得部による前記取得、前記算出部による前記算出、および、前記判定部による前記判定は、端末装置でなされた遠隔による指示によって開始する。
この態様によれば、端末装置でなされた遠隔の指示により、取得部による取得、算出部による算出、および、判定部による判定が開始するので、管理者の負担を低減することができる。
【0058】
第4態様の例(第5態様)において、前記判定部による判定の結果を、前記端末装置に送信する。
この態様によれば、管理者は、操作した端末装置で判定結果を知ることができる。
【0059】
本開示の態様(第6態様)に係る音響チェック方法は、音響信号の入力端からスピーカーまでの第1信号経路を有する音響クライアントを管理するコンピューターが、前記音響クライアントにおける前記第1信号経路の一部または全部について計測された第1伝達関数を取得し、前記音響クライアントにおける前記第1信号経路の一部または全部に対して、第2信号経路を仮想的に構築し、構築した前記第2信号経路の一部または全部についての第2伝達関数を算出し、前記第1伝達関数と前記第2伝達関数との比較結果に基づいて、前記音響クライアントの状態を判定する。
【0060】
本開示の態様(第7態様)に係るプログラムは、音響信号の入力端からスピーカーまでの第1信号経路を有する音響クライアントを管理するコンピュータを、前記音響クライアントにおける前記第1信号経路の一部または全部について計測された第1伝達関数を取得する取得部、前記音響クライアントにおける前記第1信号経路の一部または全部に対して、第2信号経路を仮想的に構築し、構築した前記第2信号経路の一部または全部についての第2伝達関数を算出する算出部、および、前記第1伝達関数と前記第2伝達関数との比較結果に基づいて、前記音響クライアントの状態を判定する判定部、として機能させる。
【0061】
このように、例示した各態様の管理サーバーは、音響チェックとしても、また、当該管理サーバーをコンピューターに実行させるプログラムとしても実現され得る。
【0062】
本開示の態様(第8態様)に係る音響クライアントは、音響信号の入力端からスピーカーまでの第1信号経路を有し、管理サーバーに接続される音響クライアントであって、前記第1信号経路の一部または全部についての第1伝達関数を計測する計測部と、前記計測部で計測された第1伝達関数を前記管理サーバーに送信することを指示する通信指示部と、を有し、前記管理サーバーが前記第1伝達関数に基づいて前記音響クライアントの状態を判定する。
この態様によれば、管理サーバーが、音響クライアントの信号経路についての第1伝達関数に基づいて、音響クライアントの状態を判定するので、管理者は、音響クライアントの設置場所に赴いて実際に自身の耳で確認する必要がない。
【0063】
第8態様の例(第9態様)において、前記音響クライアントは、統括処理装置を含み、前記統括処理装置は、前記通信指示部を含む。
【0064】
本開示の態様(第10態様)に係る音響チェックシステムは、管理サーバーと、スピーカーを含む音響クライアントとを有する音響チェックシステムであって、前記音響クライアントは、前記第1信号経路の一部または全部についての第1伝達関数を計測する計測部と、前記計測部で計測された第1伝達関数を前記管理サーバーに送信することを指示する通信指示部と、を有し、前記管理サーバーは、前記指示により送信された前記第1伝達関数を取得する取得部と、前記音響クライアントにおける前記第1信号経路の一部または全部に対して、第2信号経路を仮想的に構築し、構築した前記第2信号経路の一部または全部についての第2伝達関数を算出する算出部と、前記第1伝達関数と前記第2伝達関数との比較結果に基づいて、前記音響クライアントの状態を判定する判定部と、を含む。
【0065】
第10態様の例(第11態様)において、前記音響クライアントにおける前記第1信号経路における状態は、リストアデータに基づいて定義され、前記算出部は、前記リストアデータに基づいて前記第2信号経路を仮想的に構築し、前記計測部は、前記リストアデータに基づいて定義された前記第1信号経路についての第1伝達関数を計測する。
【符号の説明】
【0066】
1…音響チェックシステム、10…管理サーバー、20…音響クライアント、114…取得部、116…算出部、118…判定部、200…音響装置、210…処理装置、2114…計測部、2116…通信指示部。