(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】車両の制御装置、プログラム
(51)【国際特許分類】
B60L 9/18 20060101AFI20231226BHJP
B60W 10/192 20120101ALI20231226BHJP
B60L 7/14 20060101ALI20231226BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20231226BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
B60L9/18 P
B60W10/192
B60L7/14
B60T7/12 C
B60T8/17 C
(21)【出願番号】P 2020066556
(22)【出願日】2020-04-02
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【氏名又は名称】津田 拓真
(72)【発明者】
【氏名】神尾 茂
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/105077(WO,A1)
【文献】特開2012-091719(JP,A)
【文献】特開2016-111759(JP,A)
【文献】特開2020-022268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
B60W 10/192
B60T 7/12
B60T 8/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(10)の車輪(11,12,13,14)に駆動力及び制動力を付与することが可能なモータジェネレータ(31a,31b)を備え、車両の停車時に前記モータジェネレータを回生動作させることにより前記車輪に制動力を付与する車両の制御装置であって、
前記モータジェネレータの出力トルクを制御するモータ制御部(70,33a,33b)と、
所定の勾配を有する路面で前記車両を停車させるために前記車輪に付与する必要のあるオフセットトルクを演算するオフセットトルク演算部(702,330a,330b)と、
前記モータジェネレータの出力トルクを検出するトルク検出部(34a,34b)と、
前記車両の進行方向の加速度である第1加速度を検出する第1加速度検出部(35a,35b,70)と、
重力加速度の車両進行方向の加速度成分である第2加速度を検出することが可能な第2加速度検出部(62)と、を備え、
前記モータ制御部は、前記所定の勾配を有する路面で走行中の前記車両を停車させる際に、前記モータジェネレータの出力トルクを前記オフセットトルクに漸近させるように制御
し、
前記オフセットトルク演算部は、
前記車両の進行方向の速度が所定速度以上であると判定した場合には、前記トルク検出部により検出される前記モータジェネレータの出力トルクと、前記第1加速度検出部により検出される前記第1加速度とに基づいて前記オフセットトルクを演算し、
前記車両の進行方向の速度が前記所定速度未満であると判定した場合には、前記第2加速度検出部により検出される前記第2加速度に基づいて前記オフセットトルクを演算する
車両の制御装置。
【請求項2】
前記モータジェネレータの回転速度を検出する回転速度検出部(35a,35b)を更に備え、
前記第1加速度検出部(70)は、前記回転速度検出部により検出される前記モータジェネレータの回転速度に基づいて
前記第1加速度を演算する
請求項
1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記オフセットトルク演算部は、前記オフセットトルクの演算を所定の周期で行うとともに、所定の周期で演算された前記オフセットトルクに対してローパスフィルタに基づくフィルタリング処理を施す
請求項1
又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記モータ制御部として、
前記モータジェネレータの出力トルクの目標値であるトルク指令値を設定する第1制御部(70)と、
前記トルク指令値に基づいて前記モータジェネレータの通電を制御する第2制御部(33a,33b)と、を備え、
前記第2制御部は、前記モータジェネレータの出力トルクを前記オフセットトルクに漸近させるように制御する
請求項1~
3のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記モータ制御部は、前記車両の進行方向の速度が所定の制御開始速度未満になることに基づいて、前記モータジェネレータの出力トルクを前記オフセットトルクに漸近させる制御を開始する
請求項1~
4のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記車輪に油圧に基づく制動力を付与する制動装置(40a,40b,40c,40d)を制御する制動制御部(72)を更に備え、
前記モータ制御部は、前記モータジェネレータの出力トルクが前記オフセットトルクに達した後、前記制動装置から前記車輪に制動力を付与するように前記制動制御部に対して要求するとともに、前記モータジェネレータを停止させる
請求項1~
5のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
車両(10)の車輪(11,12,13,14)に駆動力及び制動力を付与することが可能なモータジェネレータ(31a,31b)を備え、車両の停車時に前記モータジェネレータを回生動作させることにより前記車輪に制動力を付与する車両のプログラムであって、
少なくとも一つの処理部(70,33a,33b)に、
前記モータジェネレータの出力トルクを制御させ、
所定の勾配を有する路面で前記車両を停車させるために前記車輪に付与する必要のあるオフセットトルクを演算させ、
前記モータジェネレータの出力トルクを検出させ、
前記車両の進行方向の加速度である第1加速度を検出させ、
重力加速度の車両進行方向の加速度成分である第2加速度を検出させ、
前記所定の勾配を有する路面で走行中の前記車両を停車させる際に、前記モータジェネレータの出力トルクを前記オフセットトルクに漸近させるように制御させ
前記車両の進行方向の速度が所定速度以上であると判定した場合には、前記モータジェネレータの出力トルクと、前記第1加速度とに基づいて前記オフセットトルクを演算させ、
前記車両の進行方向の速度が前記所定速度未満であると判定した場合には、前記第2加速度に基づいて前記オフセットトルクを演算させる
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の制御装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記の特許文献1に記載の車両の制御装置がある。特許文献1に記載の車両は、モータジェネレータの動力を車輪に伝達することにより走行する、いわゆる電動車両である。この車両には、油圧により車輪に制動力を付与する制動装置が設けられている。特許文献1に記載の制御装置は、モータジェネレータを駆動させることにより車両の走行を制御する。また、この制御装置は、制動装置を駆動させることにより車輪に制動力を付与して、車両の制動を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両には、先行車両に追従させるように自車両の走行を自動的に制御する、いわゆるACC(Adaptive Cruise Control)機能を有するものがある。近年、このようなACC機能を有する車両では、先行車両の停車に伴って自車両を停車させる際に自車両をスムーズ且つ早期に停車させることが要求されている。
【0005】
一方、特許文献1に記載されるような電動車両では、制動装置の駆動だけでなく、モータジェネレータを回生動作させることによっても、車輪に制動力を付与することが可能である。一般的に、制動装置の油圧を利用した車輪の制動よりも、モータジェネレータの回生動作を利用した車輪の制動の方が、車輪に付与される制動トルクを緻密に制御でき、電費上も有利である。このことから、ACC機能を有する電動車両では、将来的には、ACC機能で自動的に走行している際にモータジェネレータの制動力を利用して車両を停車させることが有効であると考えられる。
【0006】
ところで、モータジェネレータの制動力を利用して車両を傾斜路で停車させる場合、傾斜路の勾配や車重が外乱となって車両を適切に停車させることができないおそれがある。具体的には、モータジェネレータの制動力が小さすぎる場合には、車両を傾斜路で停車させることができない可能性がある。また、モータジェネレータの制動力が大きすぎる場合には、車両を傾斜路で停車させることができるものの、停車時にショックが発生することにより、車両の乗員に違和感を与えるおそれがある。
【0007】
なお、このような課題は、ACC機能を有する車両に限らず、モータジェネレータの制動力を利用して車両を停車させることが可能な各種車両に共通する課題である。
本開示は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、よりスムーズに車両を傾斜路で停車させることが可能な車両の制御装置、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する車両の制御装置は、車両(10)の車輪(11,12,13,14)に駆動力及び制動力を付与することが可能なモータジェネレータ(31a,31b)を備え、車両の停車時にモータジェネレータを回生動作させることにより車輪に制動力を付与する車両の制御装置である。制御装置は、モータジェネレータの出力トルクを制御するモータ制御部(70,33a,33b)と、所定の勾配を有する路面で車両を停車させるために車輪に付与する必要のあるオフセットトルクを演算するオフセットトルク演算部(702,330a,330b)と、モータジェネレータの出力トルクを検出するトルク検出部(34a,34b)と、車両の進行方向の加速度である第1加速度を検出する第1加速度検出部(35a,35b,70)と、重力加速度の車両進行方向の加速度成分である第2加速度を検出することが可能な第2加速度検出部(62)と、を備える。モータ制御部は、所定の勾配を有する路面で走行中の車両を停車させる際に、モータジェネレータの出力トルクをオフセットトルクに漸近させるように制御する。オフセットトルク演算部は、車両の進行方向の速度が所定速度以上であると判定した場合には、トルク検出部により検出されるモータジェネレータの出力トルクと、第1加速度検出部により検出される第1加速度とに基づいてオフセットトルクを演算し、車両の進行方向の速度が所定速度未満であると判定した場合には、第2加速度検出部により検出される第2加速度に基づいてオフセットトルクを演算する。
【0009】
この構成によれば、所定の勾配を有する路面で走行中の車両が停車する際に、モータジェネレータの出力トルクがオフセットトルクに向かって徐々に変化するため、車両の停車時にショックが発生し難くなる。また、車両が停車した際にはモータジェネレータから車輪にオフセットトルクが付与されているため、所定の勾配を有する路面上で車両が停車状態を維持することができる。よって、よりスムーズに車両を傾斜路で停車させることができる。
【0010】
なお、上記手段、特許請求の範囲に記載の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明の効果】
【0011】
本開示の車両の制御装置及びプログラムによれば、よりスムーズに車両を傾斜路で停車させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、第1実施形態の車両の概略構成を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態の車両の電気的な構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態のEVECUの構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態のEVECUにより用いられるアクセルペダルの操作位置AP、シフトポジションSP、車速VCから通常トルク指令値T10*を演算するためのマップである。
【
図5】
図5(A),(B)は、上り坂の路面を走行している車両、及び下り坂の路面を走行している車両を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態の停車時調整部により実行されるオフセットトルクの学習処理の手順を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、第1実施形態の停車時調整部により実行される停車制御の処理手順の一部を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、第1実施形態の停車時調整部により実行される停車制御の処理手順の一部を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、第1実施形態の車両における車速VC、モータジェネレータの出力トルクTM、加速度AC,AG、及びオフセットトルクT0の推移を示すタイミングチャートである。
【
図10】
図10は、第1実施形態の車両における車速VC、停車制御モード設定値M、最終トルク指令値T40*、及び制動力の推移を示すタイミングチャートである。
【
図11】
図11は、第2実施形態のEVECUの構成を示すブロック図である。
【
図12】
図12は、他の実施形態の停車時調整部により用いられる車速VC及びオフセットトルクT0から所定値ΔTを演算するためのマップである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、車両の制御装置の実施形態について図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
<第1実施形態>
はじめに、本実施形態の制御装置が搭載される車両の概略構成について説明する。
【0014】
図1に示されるように、本実施形態の車両10は、ステアリング装置20と、インホイールモータ30a,30bと、制動装置40a~40dとを備えている。
ステアリング装置20では、運転者がステアリングホイール21を回転操作すると、その際にステアリングホイール21に付与される操舵トルクがステアリングシャフト22を介して転舵機構23に伝達されることにより右前輪13及び左前輪14のそれぞれの舵角が変更されるように構成されている。ステアリング装置20はトルクセンサ24とアクチュエータ装置25とを有している。トルクセンサ24は、運転者によりステアリングホイール21に付与される操舵トルクを検出する。アクチュエータ装置25は、トルクセンサ24により検出される操舵トルクに応じたアシストトルクをステアリングシャフト22に付与することにより、運転者のステアリング操作を補助する。
【0015】
インホイールモータ30a,30bは右後輪11及び左後輪12にそれぞれ内蔵されている。
図2に示されるように、インホイールモータ30a,30bは、モータジェネレータ31a,31bと、インバータ装置32a,32bと、MG(Motor Generator)ECU(Electronic Control Unit)33a,33bと、トルクセンサ34a,34bと、回転センサ35a,35bとをそれぞれ有している。本実施形態では、トルクセンサ34a,34bがトルク検出部に相当する。
【0016】
インバータ装置32aは、車両10に搭載されるバッテリから供給される直流電力を三相交流電力に変換するとともに、変換した三相交流電力をモータジェネレータ31aに供給する。
モータジェネレータ31aは車両10の駆動時に発電機として動作する。モータジェネレータ31aは、発電機として動作する場合、インバータ装置32aから供給される三相交流電力に基づいて駆動する。モータジェネレータ31aの駆動力が車輪11に伝達されることにより車輪11が回転して車両10が走行する。また、モータジェネレータ31aは車両10の制動時に発電機として動作する。モータジェネレータ31aは、発電機として動作する場合、回生動作することにより発電する。このモータジェネレータ31aの回生動作により車輪11に制動力が付与される。モータジェネレータ31aにより発電される三相交流電力はインバータ装置32aにより直流電力に変換されて車両10のバッテリに充電される。
【0017】
MGECU33aは、CPUやメモリ等を有するマイクロコンピュータを中心に構成されている。MGECU33aは、そのメモリに予め記憶されているプログラムを実行することによりインバータ装置32aを駆動させてモータジェネレータ31aの通電を制御する。
【0018】
トルクセンサ34aは、モータジェネレータ31aの出力トルクを検出するとともに、検出されたトルクに応じた信号をMGECU33aに出力する。回転センサ35aは、モータジェネレータ31aの出力軸の回転速度を検出するとともに、検出された回転速度に応じた信号をMGECU33aに出力する。MGECU33aは、トルクセンサ34a及び回転センサ35aのそれぞれの出力信号に基づいてモータジェネレータ31aの出力トルク及び回転速度の情報を取得することができる。
【0019】
インホイールモータ30bのモータジェネレータ31b、インバータ装置32b、MGECU33b、トルクセンサ34b、及び回転角センサ35bはインホイールモータ30aの各構成要素と同様に動作するため、それらの詳細な説明は割愛する。
図1に示されるように、制動装置40a~40dは車両10の車輪11~14にそれぞれ設けられている。制動装置40a~40dは、車両10に搭載される油圧回路から供給される油圧に基づいて車輪11~14に制動力をそれぞれ付与することにより車両10を制動させる装置である。制動装置40a~40dとしては、例えば車輪11~14と一体となって回転体に摩擦力を付与することにより車輪11~14に制動力を付与する摩擦ブレーキ装置を用いることができる。
【0020】
本実施形態の車両10では、右後輪11及び左後輪12が駆動輪として機能し、右前輪13及び左前輪14が従動輪として機能する。以下では、右後輪11及び左後輪12をまとめて「駆動輪11,12」とも称する。
次に、
図2を参照して、車両10の電気的な構成について具体的に説明する。
【0021】
図2に示されるように、車両10は、アクセルポジションセンサ60と、シフトポジションセンサ61と、加速度センサ62と、車速センサ63と、先行車検知センサ64と、操作部65と、ブレーキポジションセンサ66とを備えている。また、車両10は、各種制御を行う部分として、EV(Electric Vehicle)ECU70と、ACC(Adaptive Cruise Control)ECU71と、ブレーキECU72とを備えている。本実施形態では、加速度センサ62が第1加速度検出部に相当する。また、
図2に示される各種要素が本実施形態の制御装置80を構成している。
【0022】
アクセルポジションセンサ60は、車両10のアクセルペダルの操作位置を検出するとともに、検出されたアクセルペダルの操作位置に応じた信号をEVECU70に出力する。
シフトポジションセンサ61は、車両10のシフトレバーの操作位置を検出するとともに、検出されたシフトレバーの操作位置に応じた信号をEVECU70に出力する。本実施形態の車両10では、シフトレバーの操作位置として、「D(ドライブ)レンジ」や「R(リバース)レンジ」等が設けられている。
【0023】
加速度センサ62は、車両10の進行方向の加速度を検出するとともに、検出された加速度に応じた信号をEVECU70に出力する。車両10が前進方向において加速している場合、加速度センサ62は正の加速度を検出する。車両10が進行方向において減速している場合、加速度センサ62は負の加速度を検出する。
【0024】
車速センサ63は、車両10の進行方向の走行速度である車速を検出するとともに、検出された車速に応じた信号をEVECU70及びACCECU71に出力する。
先行車検知センサ64は、車両10の前方を走行する先行車を検知するとともに、検知された先行車の情報をACCECU71に出力する。先行車検知センサ64としては、車両10の前方を撮像することにより先行車を検知する撮像装置や、車両10の前方に放射した電波の反射波に基づいて先行車を検知するミリ波レーダ装置等を用いることができる。
【0025】
操作部65は、車両10の乗員により操作される部分である。操作部65では、例えば先行車に追従させるように車両10の走行を自動的に制御する、いわゆるACC機能のオン及びオフの切り替え操作や、ACC機能がオン状態であるときの車両10の走行速度を設定する操作等を行うことが可能となっている。操作部65は、操作部65に対して行われた操作情報をACCECU71に送信する。
【0026】
ブレーキポジションセンサ66は、車両10のブレーキペダルの操作位置を検出するとともに、検出されたブレーキペダルの操作位置に応じた信号をブレーキECU72に出力する。
各ECU70~72は、CPUやメモリ等を有するマイクロコンピュータを中心に構成されている。各ECU70~72は、車両10に搭載されるCAN等の車載ネットワーク50を介して、各種情報を授受することが可能となっている。
【0027】
ACCECU71は、そのメモリに予め記憶されているプログラムを実行することにより車両10のACC制御を実行する。具体的には、ACCECU71は、ACC機能のオン操作を操作部65により検知した場合にACC制御を実行する。
例えば、ACCECU71は、ACC機能がオン操作されている場合には、ACCフラグFaをオン状態に設定した上で、ACCフラグFaをEVECU70に送信する。また、ACCECU71は、ACC機能がオフ操作されている場合には、ACCフラグFaをオフ状態に設定した上で、ACCフラグFaをEVECU70に送信する。これにより、EVECU70は、ACCフラグFaがオン状態及びオフ状態のいずれであるかに基づいて、ACC機能がオン状態及びオフ状態のいずれであるかを判定することができる。
【0028】
また、ACCECU71は、ACC機能がオン操作されている際に、先行車検知センサ64により先行車が検知されていない場合には、第1ACCトルク指令値T21*をACCフラグFaと共にEVECU70に送信する。第1ACCトルク指令値T21*は、操作部65により設定された一定の走行速度で車両10を走行させるためにインホイールモータ30a,30bのそれぞれのモータジェネレータ31a,31bから出力すべき総トルクの目標値である。この第1ACCトルク指令値T21*に基づいてEVECU70がインホイールモータ30a,30bのそれぞれのモータジェネレータ31a,31bを制御することで、車両10が予め設定された速度で走行するようになる。
【0029】
また、ACCECU71は、ACC機能がオン操作されている際に、先行車検知センサ64により車両10の前方を走行する先行車が検知されている場合には、先行車検知センサ64の検知情報に基づいて先行車の相対速度や相対距離等を演算する。ACCECU71は、先行車の相対速度や相対距離等に基づいて第2ACCトルク指令値T22*を演算するとともに、演算された第2ACCトルク指令値T22*をACCフラグFaと共にEVECU70に送信する。第2ACCトルク指令値T22*は、車両10と先行車との相対距離を所定の距離に維持させるためにインホイールモータ30a,30bのそれぞれのモータジェネレータ31a,31bから出力すべき総トルクの目標値である。第2ACCトルク指令値T22*は、車両10を加速させる必要がある場合には正の値に設定され、車両10を減速させる必要がある場合には負の値に設定される。この第2ACCトルク指令値T22*に基づいてEVECU70がインホイールモータ30a,30bのそれぞれのモータジェネレータ31a,31bを制御することで、車両10が所定の車間距離を維持しつつ先行車に追従するように走行するようになる。
【0030】
このように、ACC機能がオン状態である場合、ACCECU71からEVECU70に、オン状態に設定されたACCフラグFaと共に、第1ACCトルク指令値T21*又は第2ACCトルク指令値T22*が送信される。また、ACC機能がオフ状態である場合、ACCECU71からEVECU70に、オフ状態に設定されたACCフラグFaが送信される。
【0031】
EVECU70は、そのメモリに予め記憶されたプログラムを実行することにより車両10の走行状態を統括的に制御する部分である。具体的には、
図3に示されるように、EVECU70は、通常トルク指令値演算部700と、トルク指令値調停部701と、停車時調整部702と、トルク指令値分配部703とを有している。
【0032】
通常トルク指令値演算部700には、アクセルポジションセンサ60、シフトポジションセンサ61、及び車速センサ63のそれぞれの出力信号が入力されている。通常トルク指令値演算部700は、それらのセンサの出力信号に基づいてアクセルペダルの操作位置AP、シフトポジションSP、及び車速VCの情報を取得するとともに、それらの情報から
図4に示されるマップを用いて、車両10に対する運転者の操作に応じた通常トルク指令値T10*を演算する。通常トルク指令値T10*は、インホイールモータ30a,30bのそれぞれのモータジェネレータ31a,31bから出力すべき総トルクの目標値である。通常トルク指令値T10*が正の値である場合、モータジェネレータ31a,31bから出力すべき総トルクの目標値は、車両10を加速させる方向の目標値となる。通常トルク指令値T10*が負の値である場合、モータジェネレータ31a,31bから出力すべき総トルクの目標値は、車両10を減速させる方向の目標値となる。通常トルク指令値演算部700は、演算した通常トルク指令値T10*をトルク指令値調停部701に出力する。
【0033】
トルク指令値調停部701には、通常トルク指令値演算部700により演算される通常トルク指令値T10*と、ACCECU71から送信されるACCフラグFa及びACCトルク指令値T21*,T22*とが入力されている。トルク指令値調停部701は、ACCフラグFaがオフ状態である場合、すなわちACC機能がオフ状態である場合、通常トルク指令値T10*を基本トルク指令値T30*として停車時調整部702に送信する。一方、トルク指令値調停部701は、ACCフラグFaがオン状態である場合、すなわちACC機能がオン状態である場合、ACCECU71から送信される第1ACCトルク指令値T21*又は第2ACCトルク指令値T22*を基本トルク指令値T30*として停車時調整部702に送信する。
【0034】
停車時調整部702には、トルク指令値調停部701から送信される基本トルク指令値T30*、ACCECU71により設定されるACCフラグFaが入力されている。また、停車時調整部702には、加速度センサ62及び車速センサ63のそれぞれの出力信号が入力されている。停車時調整部702は、それらのセンサの出力信号に基づいて車両10の加速度AS及び車速VCの情報を取得することができる。停車時調整部702には、インホイールモータ30a,30bのそれぞれのMGECU33a,33bからモータジェネレータ31a,31bのそれぞれの出力トルクTMa,TMb及び回転速度ωMa,ωMbの情報が入力されている。
【0035】
停車時調整部702は、基本トルク指令値T30*が正の値である場合、すなわち車両10を加速させる場合には、ACCフラグFaのオン状態及びオフ状態のいずれの状態であっても、基本トルク指令値T30*を最終トルク指令値T40*としてトルク指令値分配部703に送信する。停車時調整部702は、基本トルク指令値T30*が負の値である場合、すなわち車両10を減速させる場合であって、且つACCフラグFaがオフ状態である場合には、同様に基本トルク指令値T30*を最終トルク指令値T40*としてトルク指令値分配部703に送信する。これに対し、停車時調整部702は、基本トルク指令値T30*が負の値であって、且つACCフラグFaがオン状態である場合には、車両10の加速度AS、車速VC、並びにモータジェネレータ31a,31bのそれぞれの出力トルクTMa,TMb及び回転速度ωMa,ωMbに基づいて、車両10の停車時のショックが緩和されるように基本トルク指令値T30*を補正するとともに、補正後の基本トルク指令値T30*を最終トルク指令値T40*としてトルク指令値分配部703に送信する。
【0036】
トルク指令値分配部703は、停車時調整部702から送信される最終トルク指令値T40*に基づいて、一方のインホイールモータ30aのモータジェネレータ31aから出力すべきトルクの目標値である第1トルク指令値T51*と、他方のインホイールモータ30bのモータジェネレータ31bから出力すべきトルクの目標値である第2トルク指令値T52*とを演算する。例えば、トルク指令値分配部703は、ステアリングホイール21の操舵角が「0°」である場合、すなわち車両10が直進走行している場合には、最終トルク指令値T40*が第1トルク指令値T51*及び第2トルク指令値T52*に等分されるように各トルク指令値T51*,T52*を設定する。また、トルク指令値分配部703は、ステアリングホイール21の操舵角が「0°」と異なる値である場合、操舵角に基づいてモータジェネレータ31a,31bのそれぞれに対するトルク分配率を演算する。そして、トルク指令値分配部703は、演算されたトルク分配率及び最終トルク指令値T40*から第1トルク指令値T51*及び第2トルク指令値T52*をそれぞれ設定する。トルク指令値分配部703は、設定された第1トルク指令値T51*及び第2トルク指令値T52*をインホイールモータ30a,30bのMGECU33a,33bにそれぞれ送信する。
【0037】
インホイールモータ30aでは、MGECU33aがトルク指令値分配部703から送信される第1トルク指令値T51*を受信すると、第1トルク指令値T51*に基づいて通電制御値を演算するとともに、演算された通電制御値に基づいてインバータ装置32aを駆動させる。これにより、通電制御値に応じた電力がインバータ装置32aからモータジェネレータ31aに供給されることで、第1トルク指令値T51*に応じたトルクがモータジェネレータ31aから出力される。同様に、インホイールモータ30bでは、第2トルク指令値T52*に応じたトルクがモータジェネレータ31bから出力される。
【0038】
このように、本実施形態の車両10では、EVECU70が、トルク指令値を設定する第1制御部に相当し、MGECU33a,33bが、モータジェネレータ31a,31bの通電を制御する第2制御部に相当する。また、EVECU70及びMGECU33a,33bが、モータジェネレータ31a,31bの出力トルクを制御するモータ制御部を構成している。
【0039】
図2に示されるように、ブレーキECU72は、そのメモリに予め記憶されたプログラムを実行することにより制動装置40a~40dを制御する。具体的には、ブレーキECU72は、ブレーキポジションセンサ66により検出されるブレーキペダルの操作位置に基づいてブレーキペダルが踏み込まれたことを検知した場合、制動装置40a~40dを駆動させて各車輪11~14に制動力を付与する。
【0040】
また、ブレーキECU72は、ブレーキペダルが踏み込まれたことを検知した場合、
図3に示されるように制動トルク指令値T60*をEVECU70のトルク指令値調停部701に送信する。制動トルク指令値T60*は、車両10を減速させるためにインホイールモータ30a,30bのそれぞれのモータジェネレータ31a,31bから出力すべき制動方向の総トルクの目標値である。トルク指令値調停部701は、ブレーキECU72から制動トルク指令値T60*が送信された場合には、通常トルク指令値T10*及びACCトルク指令値T21*,T22*よりも制動トルク指令値T60*を優先して、制動トルク指令値T60*を基本トルク指令値T30*として停車時調整部702に送信する。停車時調整部702は、制動トルク指令値T60*に設定された基本トルク指令値T30*をトルク指令値分配部703に送信する。トルク指令値分配部703は、制動トルク指令値T60*に応じた第1トルク指令値T51*及び第2トルク指令値T52*をインホイールモータ30a,30bのMGECU33a,33bにそれぞれ送信する。この第1トルク指令値T51*及び第2トルク指令値T52*に基づいてMGECU33a,33bがモータジェネレータ31a,31bのそれぞれの通電を制御することでモータジェネレータ31a,31bが回生動作する。これにより、制動トルク指令値T60*に応じた制動力がモータジェネレータ31a,31bから駆動輪11,12に付与される。
【0041】
このように、ブレーキECU72は、制動装置40a~40dにより各車輪11~14に制動力を付与するとともに、モータジェネレータ31a,31bにより駆動輪11,12に制動力を付与することで車両10を停車させる。本実施形態では、ブレーキECU72が制動制御部に相当する。
【0042】
次に、ACC機能がオン状態であるときに停車時調整部702により実行される基本トルク指令値T30*の補正原理について説明する。
図5(A)に示されるように、勾配θを有する上り坂の路面で車両10を停車させる場合、重力の影響により車両10には後退方向の力が加わるため、車輪11~14に駆動方向の所定のトルクを付与しなければ、車両10は停車状態を維持することができない。同様に、
図5(B)に示されるように、勾配θを有する下り坂の路面で車両10を停車させる場合、重力の影響により車両10には進行方向の力が加わるため、車輪11~14に制動方向の所定のトルクを付与しなければ、車両10は停車状態を維持することができない。
【0043】
なお、以下では、
図5(A),(B)に示されるような勾配θを有する路面を「傾斜路」と称する。また、勾配θは、平坦路を「0°」として、平坦路に対する上り坂のなす角度を正の角度で、また平坦路に対する下り坂のなす角度を負の角度で表すものとする。
図5(A),(B)に示されるように勾配θを有する路面で車両10を停車させるためには、車輪11~14に所定のオフセットトルクを付与しなければならない。そこで、本実施形態の停車時調整部702は、まず、車両10の走行中に、勾配を有する路面で車両10の停車状態を維持することが可能なオフセットトルクを学習する。そして、停車時調整部702は、車両10を停車させる際に、モータジェネレータ31a,31bを回生動作させることにより駆動輪11,12に制動トルクを付与して車両10を減速させつつ、モータジェネレータ31a,31bから駆動輪11,12に付与されるトルクをオフセットトルクに漸近させるように最終トルク指令値T40*を補正する。これにより、車両10が停車した時点で、駆動輪11,12に付与される制動トルクがオフセットトルクとなっているため、車両10が停車状態を維持することができる。また、駆動輪11,12に付与される制動トルクをオフセットトルクに漸近させることで、車両10の停車時のショックを緩和することもできる。
【0044】
なお、
図5(A)に示されるような上り坂の路面で車両10を停車させる場合には、車両10の進行方向のトルクを駆動輪11,12に付与する必要がある。そのためオフセットトルクは正の値となる。また、
図5(B)に示されるような下り坂の路面で車両10を停車させる場合には、車両10の後退方向のトルクを駆動輪11,12に付与する必要がある。そのためオフセットトルクは負の値となる。さらに、勾配θの絶対値が大きくなるほど、オフセットトルクの絶対値が大きくなる。このように、オフセットトルクと勾配θとの間には相関関係がある。
【0045】
次に、オフセットトルクの演算原理について説明する。
図5(A),(B)に示されるような勾配θを有する路面を車両10が走行している場合、車両10において以下の式f1の関係式が成立する。なお、以下の式f1において、「TM」はモータジェネレータ31a,31bの総出力トルクを示し、「W」は車重を示し、「g」は重力加速度を示し、「TL」は平坦路の転がり抵抗を示し、「I」は車両のイナーシャを示し、「AC」は車両10の加速度を示す。
【0046】
TM-W・g・sinθ-TL=I・AC (f1)
なお、車重Wは、車両10そのものの重量だけでなく、車両10に乗車している乗員の総重量が含まれる。加速度ACは車両10の進行方向の加速度を示す。
【0047】
ここで、停車直前では車両10が低速で走行しているため、平坦路の転がり抵抗TLは略零と見なすことができる。また、「W・g・sinθ」の項は、勾配を有する路面で車両10の停車状態を維持するために必要なオフセットトルクに相当する。したがって、オフセットトルクを「T0」とすると、式f1から以下の式f2を得ることができる。
【0048】
T0=TM-I・AC (f2)
ところで、車両10が停車している状況、又は車両10が停車直前の状況では、式f1において、モータジェネレータ31a,31bの総出力トルクTMが略零となり、また平坦路の転がり抵抗TLも略零となる。また、車両10には重力のみが作用している状態となる。したがって、車両10が停車している状況、又は車両10が停車直前の状況では、以下の式f3の関係式が成立する。なお、式f3において、「AG」は、重力加速度の車両進行方向の加速度成分である。
【0049】
-W・g・sinθ=I・AG (f3)
したがって、車両10が停車している状況、又は車両10が停車直前の状況では、以下の式f4によりオフセットトルクT0を求めることができる。
【0050】
T0=-I・AG (f4)
一方、加速度センサ62により検出される加速度には、車両10の進行方向の加速度だけでなく、重力加速度の車両進行方向の加速度成分も含まれている。ここで、車両10が停車している状況、又は車両10が停車直前の状況では、車両10の進行方向の加速度は略零であると見なすことができるため、加速度センサ62により検出される加速度ASは、重力加速度の車両進行方向の加速度成分AGのみとなる。したがって、式f4における重力加速度の車両進行方向の加速度成分AGとしては、加速度センサ62により検出される加速度ASをそのまま用いることが可能である。このように、本実施形態では、加速度センサ62により検出される加速度ASが、重力加速度の車両進行方向の加速度成分AGである第2加速度に相当する。また、加速度センサ62が第2加速度検出部に相当する。
【0051】
さらに、車両10の加速度はモータジェネレータ31a,31bの回転加速度と相関関係がある。したがって、インホイールモータ30a,30bの回転センサ35a,35bにより検出されるモータジェネレータ31a,31bの回転速度ωMa,ωMbの時間的な変化量、換言すればモータジェネレータ31a,31bの回転速度ωMa,ωMbの微分値から車両10の加速度ACを求めることが可能である。モータジェネレータ31a,31bの回転速度ωMa,ωMbの微分値から車両10の加速度ACを演算する処理は、例えばEVECU70により実行することができる。このように、本実施形態では、回転センサ35a,35bが回転速度検出部に相当する。また、モータジェネレータ31a,31bの回転速度ωMa,ωMbの微分値から演算可能な車両10の加速度ACが第1加速度に相当する。さらに、EVECU70が、回転センサ35a,35bにより検出される回転速度ωMa,ωMbに基づいて車両10の加速度ACを演算する第1加速度検出部に相当する。
【0052】
次に、
図6を参照して、以上の原理を利用して停車時調整部702により実行されるオフセットトルクT0の学習処理の具体的な手順について説明する。なお、停車時調整部702は、
図6に示される処理を所定の周期で繰り返し実行する。
図6に示されるように、停車時調整部702は、まず、ステップS10の処理として、車速センサ63により検出される車速VCが所定速度Vth10以上であるか否かを判断する。所定速度Vth10は、車両10が停車している状態であるか、あるいは車両10が停車直前の状態であるか否かを判断することができるように予め設定されている。所定速度Vth10は例えば「1[km/h]」に設定される。
【0053】
停車時調整部702は、ステップS10の処理で肯定的な判断を行った場合には、すなわち車速VCが所定速度Vth10以上である場合には、ステップS11の処理として、走行時学習処理を実行する。具体的には、停車時調整部702は、インホイールモータ30a,30bの回転センサ35a,35bによりそれぞれ検出されるモータジェネレータ31a,31bの回転速度ωMa,ωMbの少なくとも一方から演算式やマップ等を用いて車両10の加速度ACを求める。また、停車時調整部702は、インホイールモータ30a,30bのトルクセンサ34a,34bにより検出されるモータジェネレータ31a,31bの出力トルクTMa,TMbを加算することによりモータジェネレータ31a,31bの総出力トルクTMを求める。停車時調整部702は、このようにして求めた車両10の加速度AC及びモータジェネレータ31a,31bの総出力トルクTM、並びにEVECU70のメモリに予め記憶されている車両10のイナーシャIから上記の式f2を用いてオフセットトルクT0を演算する。
【0054】
一方、停車時調整部702は、ステップS10の処理で否定的な判断を行った場合には、すなわち車速VCが所定速度Vth未満である場合には、ステップS12の処理として、停車時学習処理を実行する。具体的には、停車時調整部702は、加速度センサ62により検出される加速度ASを重力加速度の車両進行方向の加速度成分AGとして用いることにより上記の式f4を用いてオフセットトルクT0を演算する。
【0055】
停車時調整部702は、ステップS11の処理又はステップS12の処理を実行した場合には、ステップS13の処理として、求められたオフセットトルクT0に対してフィルタリング処理を施す。このフィルタリング処理は、例えば時定数が「1[s]」程度に設定されたローパスフィルタに基づくフィルタリング処理である。停車時調整部702は、ステップS13の処理で求められたオフセットトルクT0をメモリに記憶した後、
図6に示される処理を一旦終了する。
【0056】
このように、本実施形態では、停車時調整部702が、オフセットトルクT0を演算するオフセットトルク演算部に相当する。
次に、
図7及び
図8を参照して、停車時調整部702により実行される停車制御の具体的な手順について説明する。なお、停車時調整部702は、
図7及び
図8に示される処理を所定の周期で繰り返し実行する。
【0057】
図7に示されるように、停車時調整部702は、まず、ステップS20の処理として、ACCECU71から送信されるACCフラグFaに基づいてACC機能がオン状態であるか否かを判断する。停車時調整部702は、ステップS20の処理で否定判断した場合、すなわちACC機能がオフ状態である場合には、傾斜路に対応した停車制御を行う必要がないと判断して、ステップS32以降の処理を実行する。具体的には、停車時調整部702は、ステップS32の処理として、制動装置40a~40dを作動させる旨の要求をブレーキECU72に対して行っている場合には、その要求を取り消す。また、停車時調整部702は、ステップS32に続くステップS33の処理として、停車制御モード設定値Mを「0」に設定するとともに、続くステップS34の処理として、カウンタCの値を「0」に初期化する。さらに、停車時調整部702は、ステップS35の処理として、停車時トルク指令値TS*を現在の基本トルク指令値T30*の値に設定する。また、停車時調整部702は、ステップS35に続いて、
図8に示されるステップS36の処理として、停車制御モード設定値Mが「M≧1」を満たしているか否かを判断する。この場合、停車制御モード設定値MがステップS33の処理で「0」に設定されているため、停車時調整部702はステップS36の処理で否定的な判断を行う。そのため、停車時調整部702は、ステップS38の処理として、最終トルク指令値T40*を基本トルク指令値T30*に設定した上で、
図7及び
図8に示される処理を一旦終了する。
【0058】
図7に示されるように、停車時調整部702は、ステップS20の処理で肯定的な判断を行った場合には、ステップS21の処理として、基本トルク指令値T30*が所定値Tth以下であるか否かを判断する。所定値Tthは、車両10に対して減速が要求されているか否かを判断することができるように予め設定されており、EVECU70のメモリに記憶されている。所定値Tthは例えば「0」に設定される。停車時調整部702は、ステップS21の処理で否定的な判断を行った場合には、すなわち車両10に対して減速が要求されていない場合には、ステップS32~S36,S38の処理を実行する。
【0059】
さらに、停車時調整部702は、ステップS21の処理で肯定的な判断を行った場合には、ステップS22の処理として、車速VCが所定速度Vth11未満であるか否かを判断する。所定速度Vth11は、車両10が低速で走行しているか否かを判断することができるように予め設定されており、EVECU70のメモリに記憶されている。所定速度Vth11は例えば「3[km/h]」に設定される。本実施形態では、所定速度Vth11が所定の制御開始速度に相当する。停車時調整部702は、ステップS22の処理で否定的な判断を行った場合には、すなわち車速VCが所定速度Vth11以上である場合には、ステップS33~S36,S38の処理を実行する。
【0060】
このように、ACC機能がオフ状態である場合、車両10に対して減速が要求されていない場合、あるいは車両10が所定速度Vth11以上で走行している場合には、ステップS38の処理が実行されることにより、最終トルク指令値T40*が基本トルク指令値T30*に設定される。よって、モータジェネレータ31a,31bから駆動輪11,12に基本トルク指令値T30*に応じた駆動力又は制動力が付与されることとなる。
【0061】
一方、停車時調整部702は、ステップS20~S22の全ての処理で肯定的な判断を行った場合には、すなわちACC機能がオン状態であり、且つ車両10に対して減速が要求されており、且つ車速VCが所定速度Vth11未満である場合には、ステップS23以降の処理を実行する。具体的には、停車時調整部702は、ステップS23の処理として、停車制御モード設定値Mを「1」に設定するとともに、ステップS24の処理として、以下の式f5に基づいて停車時トルク指令値TS*を補正する。なお、式f5において、TS(i-1)は停車時トルク指令値TS*の前回値を示す。また、「ΔT」は、予め設定された所定値であって、EVECU70のメモリに予め記憶されている。
【0062】
TS*=TS(i-1)+ΔT (f5)
停車時調整部702は、ステップS24に続くステップS25の処理として、停車時トルク指令値TS*が、メモリに記憶されているオフセットトルクT0以上であるか否かを判断する。停車時調整部702は、ステップS25の処理で否定的な判断を行った場合には、すなわち停車時トルク指令値TS*がオフセットトルクT0未満である場合には、
図8に示されるステップS36の処理として、停車制御モード設定値Mが「M≧1」を満たしているか否かを判断する。この場合、停車制御モード設定値Mが
図7に示されるステップS23の処理で「1」に設定されているため、停車時調整部702はステップS36の処理で肯定的な判断を行う。そのため、停車時調整部702は、ステップS37の処理として、最終トルク指令値T40*を停車時トルク指令値TS*に設定した上で、
図7及び
図8に示される処理を一旦終了する。
【0063】
以降、停車時調整部702は、ステップS25の処理で肯定的な判断を行うまでの期間、すなわち停車時トルク指令値TS*がオフセットトルクT0に達するまでの期間、ステップS24の処理を繰り返し実行する。そのため、停車時トルク指令値TS*がオフセットトルクT0に向かって徐々に増加することとなる。この期間、停車時調整部702がステップS37の処理を実行することで最終トルク指令値T40*が停車時トルク指令値TS*に設定されるため、モータジェネレータ31a,31bの総出力トルクTMがオフセットトルクT0に向かって変化することとなる。
【0064】
その後、停車時トルク指令値TS*がオフセットトルクT0に達すると、停車時調整部702は、ステップS25の処理で肯定的な判断を行い、続くステップS26の処理として、停車時トルク指令値TS*をオフセットトルクT0に設定するとともに、ステップS27の処理として、カウンタCの値をインクリメントする。そして、停車時調整部702は、続くステップS28の処理として、カウンタCの値が第1閾値Cth11以上であるか否かを判断する。第1閾値Cth11は、ステップS26の処理で停車時トルク指令値TS*がオフセットトルクT0に設定された時点から第1所定時間T11が経過したか否かを判断することができる値に設定されており、EVECU70のメモリに記憶されている。この第1所定時間T11は例えば「1[s]」である。
【0065】
停車時調整部702は、ステップS28の処理で否定的な判断を行った場合には、すなわち停車時トルク指令値TS*がオフセットトルクT0に設定された時点から第1所定時間T11が経過していない場合には、
図8に示されるステップS36の処理で否定的な判断を行うとともに、ステップS37の処理を実行する。したがって、停車時トルク指令値TS*がオフセットトルクT0に設定された時点から第1所定時間T11が経過するまでの期間は、停車時トルク指令値TS*及び最終トルク指令値T40*がオフセットトルクT0に維持される。
【0066】
その後、停車時トルク指令値TS*がオフセットトルクT0に設定された時点から第1所定時間T11が経過すると、停車時調整部702は、
図7に示されるステップS28の処理で肯定的な判断を行って、続く
図8に示されるステップS29の処理として、停車制御モード設定値Mを「2」に設定する。また、停車時調整部702は、続くステップS30の処理として、制動装置40a~40dを作動させる旨の要求をブレーキECU72に対して行う。この要求に基づいてブレーキECU72が制動装置40a~40dを作動させることで、制動装置40a~40dから各車輪11~14に付与される制動力により、車両10が傾斜路で停車状態を維持することが可能となる。
【0067】
停車時調整部702は、ステップS30に続くステップS31の処理として、カウンタCの値が第2閾値Cth12以上であるか否かを判断する。第2閾値Cth12は、ステップS30の処理が実行された時点から、すなわちブレーキECU72に対して制動要求が行われた時点から第2所定時間T12が経過したか否かを判断することができる値に設定されており、EVECU70のメモリに記憶されている。この第2所定時間T12は、ブレーキECU72に対して制動要求が行われた時点から車輪11~14に十分な制動力が付与されるまでの時間的な遅れを考慮した時間であって、例えば「2[s]」である。停車時調整部702は、ステップS31の処理で否定的な判断を行った場合には、すなわちブレーキECU72に対して制動要求が行われた時点から第2所定時間T12が経過していない場合には、ステップS36の処理で否定的な判断を行うとともに、ステップS37の処理を実行する。したがって、ブレーキECU72に対して制動要求が行われた時点から第2所定時間T12が経過するまでの期間は、停車時トルク指令値TS*がオフセットトルクT0に維持されたままである。
【0068】
その後、ブレーキECU72に対して制動要求が行われた時点から第2所定時間T12が経過すると、停車時調整部702は、ステップS31の処理で肯定的な判断を行って、
図7に示されるステップS33以降の処理を実行する。すなわち、停車時調整部702は、ステップS33の処理として、停車制御モード設定値Mを「0」に設定するとともに、続くステップS34の処理として、カウンタCの値を「0」に初期化する。さらに、停車時調整部702は、ステップS35の処理として、停車時トルク指令値TS*を、現在の基本トルク指令値T30*の値に設定する。なお、この状況では基本トルク指令値T30*は「0」、あるいは「0」近傍の値になっているため、停車時トルク指令値TS*は「0」、あるいは「0」近傍の値に設定されることとなる。その後、停車時調整部702は、
図8に示されるステップS36の処理で否定的な判断を行うと、ステップS38の処理として、最終トルク指令値T40*を基本トルク指令値T30*に設定して、
図7及び
図8に示される処理を一旦終了する。
【0069】
次に、
図9及び
図10を参照して本実施形態の車両10の動作例について説明する。
図9に示されるように、時刻t10から時刻t11までの期間に車両10が下り坂を走行した後、時刻t11から時刻t12までの期間に車両10が平坦路を走行し、更に時刻t12以降に車両10が上り坂を走行したとする。このとき、時刻t10以降はアクセルペダルが一定量だけ踏み込まれた状態が維持されたとすると、
図9(B)に示されるように、モータジェネレータ31a,31bの総出力トルクTMが一定値に維持される。そのため車速VCは
図9(A)に示されるように推移する。具体的には、車両10が下り坂を走行している時刻t10から時刻t11までの期間では、車両10に対して進行方向に重力が作用するため、車速VCが徐々に増加する。また、時刻t11から時刻t12までの期間では、車両10に対して進行方向と直交する方向に重力が作用するため、車速VCが一定速度に維持される。さらに、時刻t12以降では、車両10に対して後退方向に重力が作用するため、車速VCが徐々に減少する。
【0070】
図9(B)に示されるように車速VCが変化する結果、
図9(C)に一点鎖線で示されるように、時刻t10から時刻t11までの期間、車両10の加速度ACが正の値で推移するとともに、時刻t11から時刻t12までの期間、車両10の加速度ACが「0」で推移する。さらに、時刻t12以降では、車両10の加速度ACが負の値で推移する。一方、加速度センサ62により検出される加速度ASには、車両10の加速度ACだけでなく、重力加速度が含まれるため、加速度ASは
図9(C)に実線で示されるように推移する。
【0071】
図9(C)に示されるように推移する車両10の加速度ACと、
図9(B)に示されるように推移するモータジェネレータ31a,31bの総出力トルクTMとに基づいて停車時調整部702が上記の式f2を用いてオフセットトルクT0を学習した場合、
図9(D)に示されるようにオフセットトルクT0が求められることとなる。
【0072】
次に、
図10を参照して、ACC機能がオン状態である車両10が上り坂で停車する場合の動作例について説明する。
車両10が上り坂を走行している際に、ACCECU71が、先行車の走行状態に基づいて車両10を停車させるために、負の値に設定された第2ACCトルク指令値T22*をEVECU70に送信したとする。この場合、基本トルク指令値T30*が第2ACCトルク指令値T22*に設定されるとともに、その基本トルク指令値T30*がそのまま最終トルク指令値T40*として用いられるため、最終トルク指令値T40*が第2ACCトルク指令値T22*に設定されることとなる。この最終トルク指令値T40*が第2ACCトルク指令値T22*に設定された時刻を「t20」とすると、
図10(C)に示されるように、最終トルク指令値T40*は時刻t20で負の値に設定されることとなる。これにより、モータジェネレータ31a,31bが回生動作するため、駆動輪11,12に制動力が付与される。結果的に、
図10(A)に示されるように車速VCが徐々に低下する。この際、
図10(B)に示されるように、停車制御モード設定値Mは「0」となっている。
【0073】
その後、時刻t21で車速VCが所定速度Vth11まで低下すると、
図10(B)に示されるように停車制御モード設定値Mが「1」に設定される。また、停車時トルク指令値TS*が上記の式f5に基づいて演算されるとともに、演算された停車時トルク指令値TS*が最終トルク指令値T40*として用いられる。そのため、
図10(C)に示されるように、時刻t21以降、最終トルク指令値T40*はオフセットトルクT0に向かって傾きΔTで徐々に増加する。
【0074】
そして、時刻t22で停車時トルク指令値TS*がオフセットトルクT0に達すると、停車時トルク指令値TS*がオフセットトルクT0に固定されるとともに、その停車時トルク指令値TS*が最終トルク指令値T40*として用いられる。そのため、
図10(C)に示されるように、時刻t22以降、最終トルク指令値T40*はオフセットトルクT0に維持される。
【0075】
その後、時刻t22から第1所定時間T11が経過した時刻t23の時点で、
図10(B)に示されるように、停車制御モード設定値Mが「2」に設定される。この時刻t23の時点で、制動装置40a~40dを作動させる旨の要求がブレーキECU72に対して行われるため、
図10(D)に示されるように、時刻t23以降、制動装置40a~40dから車輪11~14に付与される制動力が徐々に増加する。そして、時刻t23から第2所定時間T12が経過した時刻t24の時点で、最終トルク指令値T40*が基本トルク指令値T30*に戻されることにより、
図10(C)に示されるように最終トルク指令値T40*が例えば「0」に設定される。すなわち、モータジェネレータ31a,31bから駆動輪11,12に付与されている制動力が解除される。この時刻t24の時点では、
図10(D)に示されるように、制動装置40a~40dから車輪11~14に制動力が付与されているため、車両10は停車状態を維持することができる。
【0076】
以上説明した本実施形態の車両10の制御装置80によれば、以下の(1)~(6)に示される作用及び効果を得ることができる。
(1)EVECU70及びMGECU33a,33bは、所定の勾配θを有する路面で走行中の車両10を停車させる際に、モータジェネレータ31a,31bの総出力トルクTMをオフセットトルクT0に漸近させるように制御する。この構成によれば、モータジェネレータ31a,31bの総出力トルクTMがオフセットトルクT0に向かって徐々に変化するため、車両10の停車時にショックが発生し難くなる。また、車両10が停車した際にはモータジェネレータ31a,31bから駆動輪11,12にオフセットトルクT0が付与されているため、所定の勾配θを有する路面上で車両10が停車状態を維持することができる。よって、よりスムーズに車両10を傾斜路で停車させることが可能となる。
【0077】
(2)停車時調整部702は、
図6に示される処理において、車速VCが所定速度Vth10以上であるとき、上記の式f2に基づいてモータジェネレータ31a,31bの総出力トルクTMと車両10の加速度ACとからオフセットトルクT0を演算する。また、停車時調整部702は、車速VCが所定速度Vth10未満であるとき、上記の式f4に基づいて、加速度センサ62により検出される加速度ASからオフセットトルクT0を演算する。この構成によれば、オフセットトルクT0を容易に求めることができる。
【0078】
(3)EVECU70は、回転センサ35a,35bにより検出されるモータジェネレータ31a,31bの回転速度ωMa,ωMbに基づいて車両10の加速度ACを演算する。この構成によれば、車両10の加速度ACを容易に求めることが可能となる。
(4)停車時調整部702は、
図6に示されるオフセットトルクT0の演算処理を所定の周期で行うとともに、所定の周期で演算されるオフセットトルクT0に対してローパスフィルタに基づくフィルタリング処理を施す。この構成によれば、オフセットトルクT0を平滑化できるため、外乱の影響が抑制された、より適切なオフセットトルクT0を得ることが可能となる。
【0079】
(5)EVECU70及びMGECU33a,33bは、車速VCが所定速度Vth11未満になることに基づいて、モータジェネレータ31a,31bの総出力トルクTMをオフセットトルクT0に漸近させる制御を開始する。この構成によれば、車両10が停車する可能性が高い状況でモータジェネレータ31a,31bの総出力トルクTMをオフセットトルクT0に漸近させる制御を実行できるため、当該制御をより適切な時期に実行することができる。
【0080】
(6)車両10の停車状態を維持するために、モータジェネレータ31a,31bから駆動輪11,12に制動力を付与し続けた場合、モータジェネレータ31a,31bの駆動を継続する必要があるため、消費電力が増加するおそれがある。この点、本実施形態のEVECU70は、モータジェネレータ31a,31bの出力トルクTMa,TMbがオフセットトルクT0に達した後、制動装置40a~40dから車輪11~14に制動力を付与するようにブレーキECU72に対して要求するとともに、モータジェネレータ31a,31bを停止させる。この構成によれば、制動装置40a~40dから車輪11~14に付与される制動力により車両10を停車状態に維持することができるとともに、モータジェネレータ31a,31bを停止させることにより消費電力を低減することが可能となる。
【0081】
<第2実施形態>
次に、車両10の制御装置80の第2実施形態について説明する。以下、第1実施形態の制御装置80との相違点を中心に説明する。
図11に示されるように、本実施形態のEVECU70では、トルク指令値調停部701により演算される基本トルク指令値T30*がトルク指令値分配部703に入力されている。トルク指令値分配部703は、基本トルク指令値T30*に基づいて、一方のインホイールモータ30aのモータジェネレータ31aから出力すべきトルクの目標値である第1トルク指令値T51*と、他方のインホイールモータ30bのモータジェネレータ31bから出力すべきトルクの目標値である第2トルク指令値T52*とを演算する。トルク指令値分配部703は、設定された第1トルク指令値T51*及び第2トルク指令値T52*をインホイールモータ30a,30bのMGECU33a,33bにそれぞれ送信する。
【0082】
インホイールモータ30a,30bのMGECU33a,33bは停車時調整部330a,330bと通電制御部331a,331bとをそれぞれ有している。
停車時調整部330aには、トルク指令値分配部703から送信される第1トルク指令値T51*、及びACCECU71から送信されるACCフラグFaが入力されている。停車時調整部330aは、加速度センサ62、車速センサ63、トルクセンサ34a,34b、及び回転センサ35aのそれぞれの出力信号に基づいて車両10の加速度AS、車速VC、モータジェネレータ31a,31bの出力トルクTMa,TMb、及び回転速度ωMaの情報を取得する。停車時調整部330aは、それらの情報に基づいて第1実施形態の停車時調整部702に類似の処理を実行することにより第1トルク指令値T51*を補正するとともに、補正後の第1トルク指令値T51*を通電制御部331aに送信する。通電制御部331aは、補正後の第1トルク指令値T51*に基づいてインバータ装置32aを駆動させることによりモータジェネレータ31aの通電を制御する。これにより補正後の第1トルク指令値T51*に応じたトルクがモータジェネレータ31aから出力される。
【0083】
なお、他方のインホイールモータ30bに設けられる停車時調整部330b及び通電制御部331bは、インホイールモータ30aに設けられる停車時調整部330a及び通電制御部331aと同様に動作するため、それらの詳細な説明は割愛する。
このような構成を有する制御装置80であっても、所定の勾配θを有する路面で走行中の車両10が停車する際にモータジェネレータ31a,31bの総出力トルクTMをオフセットトルクT0に漸近させるように制御することが可能である。
【0084】
以上説明した本実施形態の車両10の制御装置80によれば、以下の(7)に示される作用及び効果を更に得ることができる。
(7)インホイールモータ30a,30bのMGECU33a,33bは、モータジェネレータ31a,31bの総出力トルクTMをオフセットトルクT0に漸近させるように制御する。この構成によれば、モータジェネレータ31a,31bの出力トルクTMa,TMbをオフセットトルクT0に漸近させる制御がMGECU33a,33bにおいて実行されるようになるため、第1実施形態の制御装置80と比較すると、EVECU70の処理負担を軽減することができる。
【0085】
<他の実施形態>
なお、各実施形態は、以下の形態にて実施することもできる。
・停車時調整部702は、オフセットトルクT0を演算する方法として、上記の式f2に代えて、車両10の加速度ACと、加速度センサ62により検出される加速度ASとの差分に基づいてオフセットトルクT0を演算してもよい。
【0086】
・停車時調整部702は、例えば
図12に示されるようなマップを用いることにより、上記の式f5において用いられる所定値ΔTをオフセットトルクT0及び車速VCに基づいて変化させてもよい。なお、オフセットトルクT0は路面の勾配θと相関関係があるため、
図12に示されるマップを用いて所定値ΔTを変化させることで、路面の勾配θに基づいて所定値ΔTを変化させることが可能となる。
【0087】
・各実施形態の制御装置80は、アクセル操作及びブレーキ操作を一つのペダルで行うことが可能な、いわゆるワンペダルの構成を有する車両にも適用可能である。この車両では、運転者がペダルを踏み込むと車両が加速するとともに、運転者がペダルの踏み込み操作を解除してペダルが初期位置に戻ると車両が減速するように構成されている。このような車両に各実施形態の制御装置80の構成を適用すれば、運転者がペダルの踏み込み操作を解除して車両を減速させる際に、モータジェネレータの出力トルクをオフセットトルクに漸近させる制御を実行することができる。したがって、よりスムーズに車両を傾斜路で停車させることができる。
【0088】
・本開示に記載の制御装置80及びその制御方法は、コンピュータプログラムにより具体化された1つ又は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された1つ又は複数の専用コンピュータにより、実現されてもよい。本開示に記載の制御装置80及びその制御方法は、1つ又は複数の専用ハードウェア論理回路を含むプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。本開示に記載の制御装置80及びその制御方法は、1つ又は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと1つ又は複数のハードウェア論理回路を含むプロセッサとの組み合わせにより構成された1つ又は複数の専用コンピュータにより、実現されてもよい。コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。専用ハードウェア論理回路及びハードウェア論理回路は、複数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路により実現されてもよい。
【0089】
・本開示は上記の具体例に限定されるものではない。上記の具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素、及びその配置、条件、形状等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0090】
10:車両
11,12,13,14:車輪
31a,31b:モータジェネレータ
33a,33b:MGECU(モータ制御部,第2制御部)
34a,34b:トルクセンサ(トルク検出部)
35a,35b:回転センサ(第1加速度検出部,回転速度検出部)
40a,40b,40c,40d:制動装置
62:加速度センサ(第2加速度検出部)
70:EVECU(モータ制御部,第1加速度検出部,第1制御部)
72:ブレーキECU(制動制御部)
80:制御装置
702,330a,330b:停車時調整部(オフセットトルク演算部)