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特許7409207膜電極接合体、および、固体高分子形燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】膜電極接合体、および、固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20231226BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20231226BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20231226BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/96 M
H01M4/96 B
H01M8/10 101
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020070590
(22)【出願日】2020-04-09
(65)【公開番号】P2021168244
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】岸 克行
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-186210(JP,A)
【文献】特開2010-080369(JP,A)
【文献】特開2020-132965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 4/96
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子形燃料電池に用いられる膜電極接合体であって、
第1面と、前記第1面とは反対側の面である第2面とを含む固体高分子電解質膜と、
第1触媒物質と、前記第1触媒物質を担持する第1導電性担体と、第1高分子電解質と、を含み、前記第1面に接合された燃料極側電極触媒層と、
第2触媒物質と、前記第2触媒物質を担持する第2導電性担体と、第2高分子電解質と、繊維状物質と、を含み、前記第2面に接合された酸素極側電極触媒層と、を備え、
前記燃料極側電極触媒層と前記酸素極側電極触媒層はそれぞれ空隙を含み、前記空隙は3nm以上5.5μm以下の範囲内の直径を有する細孔を含み、
前記細孔の直径である細孔直径は、水銀圧入法によって測定された細孔容積から算出された値であり、
前記燃料極側電極触媒層と前記酸素極側電極触媒層における全ての前記細孔の前記細孔容積を積算した値を第1積算容積とした場合に、
前記第1積算容積を、前記両電極触媒層に含まれる前記触媒物質の質量である触媒物質質量で除した値が2.8以上4.5以下の範囲内である
膜電極接合体。
【請求項2】
前記燃料極側電極触媒層および前記酸素極側電極触媒層の少なくとも一方は、
前記細孔直径が50nm以下である前記細孔の前記細孔容積を積算した値を第2積算容積とした場合に、
前記第1積算容積に対する前記第2積算容積の百分率の値が25%以上45%以下の範囲内である
請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項3】
前記燃料極側電極触媒層および前記酸素極側電極触媒層の少なくとも一方は、
前記細孔直径が90nm以上である前記細孔の前記細孔容積を積算した値を第3積算容積とした場合に、
前記第1積算容積に対する前記第3積算容積の百分率の値が15%以上35%以下の範囲内である
請求項1または請求項2に記載の膜電極接合体。
【請求項4】
前記燃料極側電極触媒層および前記酸素極側電極触媒層の少なくとも一方は、
前記細孔直径に対する前記細孔容積の分布を示す分布曲線のピークは、前記細孔直径が0.06μm以上0.11μm以下の範囲内に含まれる
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項5】
前記繊維状物質は、電子伝導性繊維、および、プロトン伝導性繊維から選択される一種または二種以上を含み、
前記電子伝導性繊維は、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、および、遷移金属含有繊維から構成される群から選択される少なくとも一種を含む
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項6】
前記燃料極側電極触媒層は、繊維状物質をさらに含み、
前記燃料極側電極触媒層に含まれる前記繊維状物質を第1繊維状物質とし、
前記酸素極側電極触媒層に含まれる前記繊維状物質を第2繊維状物質とした場合に、
前記燃料極側電極触媒層の単位体積当たりにおける前記第1繊維状物質の質量は、前記酸素極側電極触媒層の単位体積当たりにおける前記第2繊維状物質の質量よりも大きい
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項7】
前記酸素極側電極触媒層は、5μm以上30μm以下の範囲内の厚さを有する
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項8】
前記燃料極側電極触媒層は、5μm以上20μm以下の範囲内の厚さを有する
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の膜電極接合体を備える固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜電極接合体、および、固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素と酸素との化学反応から電流を生成する。燃料電池は、従来の発電方式と比べて高い効率を有し、低い環境負荷、かつ、低い騒音しか有しない、クリーンなエネルギー源として注目されている。特に、室温付近での使用が可能な固体高分子形燃料電池は、車載用電源や家庭用定置電源などへの適用について有望視されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、一般的に、多数の単セルが積層された構造を有している。単セルは、1つの膜電極接合体が2つのセパレーターによって挟まれた構造を有する。膜電極接合体は、高分子電解質膜と、燃料ガスを供給する燃料極(アノード)と、酸化剤を供給する酸素極(カソード)とを備える。高分子電解質膜における第1面に燃料極が接合し、第1面とは反対の第2面に酸素極が接合している。セパレーターは、ガス流路および冷却水流路を有している。燃料極および酸素極は、それぞれ電極触媒層とガス拡散層とを備えている。各電極において、電極触媒層が高分子電解質膜に接している。電極触媒層は、白金系の貴金属などの触媒物質、導電性担体、および、高分子電解質を含んでいる。ガス拡散層は、ガスの通気性と、導電性とを兼ね備えている。
【0004】
固体高分子形燃料電池は、以下の電気化学反応を経て電流を生成する。まず、燃料極の電極触媒層において、燃料ガスに含まれる水素が触媒物質により酸化されて、プロトンおよび電子が生成される。生成されたプロトンは、電極触媒層内の高分子電解質、および、高分子電解質膜を通り、酸素極の電極触媒層に達する。プロトンと同時に生成された電子は、電極触媒層内の導電性担体、ガス拡散層、セパレーター、および、外部回路を通って酸素極の電極触媒層に達する。酸素極の電極触媒層において、プロトンおよび電子が酸化剤ガスに含まれる酸素と反応して水を生成する。
【0005】
ガス拡散層は、セパレーターから供給されるガスを拡散して電極触媒層に供給する。電極触媒層は細孔を有しており、その電極触媒層の細孔は、ガスや生成水などの複数の物質を輸送する。燃料極の細孔は、酸化還元の反応場である三相界面に燃料ガスを円滑に供給する機能を求められる。酸素極の細孔は、電極触媒層内に酸化剤ガスを円滑に供給する機能を求められる。燃料ガスおよび酸素ガスを円滑に供給するためには、ひいては、燃料電池の発電性能を高めるためには、電極触媒層の細孔間に間隔を設け、これによって、細孔の緻密な分布を抑制することが求められる。細孔の緻密な分布を抑制する構成として、例えば、カーボン粒子またはカーボン繊維を含む電極触媒層が提案されている(例えば、特許文献1、2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-241703号公報
【文献】特許第5537178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、互いに異なる粒径(平均一次粒径)を有するカーボン粒子を組み合わせることで、電極触媒層中における細孔の分布が密になることを抑えている。また、特許文献2では、互いに異なる長さを有するカーボン繊維を組み合わせることで、電極触媒層中における細孔の分布が密になることを抑えている。一方で、カーボン粒子の粒径の組み合わせが互いに等しい層であっても、層の組成や層形成の条件などに応じて、細孔の大きさや細孔の分布は互いに異なる場合がある。また、カーボン繊維の長さの組み合わせが互いに等しい層であっても、同様に、細孔の大きさや細孔の分布は互いに異なる場合がある。燃料電池における発電性能は、細孔の大きさや細孔の分布によって大きく変わるものであるから、結局のところ、カーボン粒子の組み合わせやカーボン繊維の組み合わせを用いる方法では、発電性能を高める観点において、依然として改良の余地がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、発電性能を高めることを可能にした膜電極接合体、および、固体高分子形燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための膜電極接合体の一態様は、固体高分子形燃料電池に用いられる膜電極接合体であって、第1面と、前記第1面とは反対側の面である第2面とを含む固体高分子電解質膜と、第1触媒物質と、前記第1触媒物質を担持する第1導電性担体と、第1高分子電解質と、を含み、前記第1面に接合された燃料極側電極触媒層と、第2触媒物質と、前記第2触媒物質を担持する第2導電性担体と、第2高分子電解質と、繊維状物質と、を含み、前記第2面に接合された酸素極側電極触媒層と、を備え、前記燃料極側電極触媒層と前記酸素極側電極触媒層はそれぞれ空隙を含み、前記空隙は3nm以上5.5μm以下の範囲内の直径を有する細孔を含み、前記細孔の直径である細孔直径は、水銀圧入法によって測定された細孔容積から算出された値であり、前記燃料極側電極触媒層と前記酸素極側電極触媒層における全ての前記細孔の前記細孔容積を積算した値を第1積算容積とした場合に、前記第1積算容積を、前記両電極触媒層に含まれる前記触媒物質の質量である触媒物質質量で除した値が2.8以上4.5以下の範囲内である。
上記課題を解決するための固体高分子形燃料電池の一態様は、上記膜電極接合体を備えた固体高分子形燃料電池である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、固体高分子形燃料電池の発電性能を高めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態における膜電極接合体の構造を模式的に示す断面図である。
図2図1に示す膜電極接合体が備える電極触媒層の構造を模式的に示す模式図である。
図3図1に示す膜電極接合体を備える固体高分子形燃料電池の構成を模式的に示す分解斜視図である。
図4】実施例および比較例における細孔直径の分布曲線を示すグラフである。
図5】実施例および比較例における細孔直径と累積細孔容積率との関係を示すグラフである。
図6】本発明の第2実施形態における電極触媒層における細孔直径の分布曲線の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1実施形態]
図1から図5を参照して、電極触媒層、膜電極接合体、および、固体高分子形燃料電池の第1実施形態を説明する。以下では、膜電極接合体、電極触媒層、固体高分子形燃料電池を構成する単セルの構成、膜電極接合体の製造方法、および、実施例を順に説明する。
【0012】
[膜電極接合体]
図1を参照して、膜電極接合体の構成を説明する。図1は、膜電極接合体の厚さ方向に沿う断面構造を示している。
図1に示すように、膜電極接合体10は、高分子電解質膜11と、酸素極側電極触媒層12Cと、燃料極側電極触媒層12Aとを備えている。高分子電解質膜11は、固体状の高分子電解質膜、すなわち、固体高分子電解質膜である。高分子電解質膜11において対向する一対の面において、一方の面に酸素極側電極触媒層12Cが接合し、他方の面に燃料極側電極触媒層12Aが接合している。高分子電解質膜11において、燃料極側電極触媒層12Aが接合する面が第1面であり、酸素極側電極触媒層12Cが接合する面が第2面である。酸素極側電極触媒層12Cは酸素極(カソード)を構成する電極触媒層であり、燃料極側電極触媒層12Aは燃料極(アノード)を構成する電極触媒層である。電極触媒層12の外周部は、不図示のガスケットなどによって封止されてもよい。
【0013】
[電極触媒層]
図2を参照して、膜電極接合体10が備える電極触媒層の構成をより詳しく説明する。なお、以下に説明する電極触媒層は、酸素極側電極触媒層12Cおよび燃料極側電極触媒層12Aの両方に適用される構成であるが、酸素極側電極触媒層12Cおよび燃料極側電極触媒層12Aのいずれか一方のみに、以下の構成が適用されてもよい。
図2に示すように、電極触媒層12は、触媒物質21、導電性担体22、高分子電解質23、および、繊維状物質24を含んでいる。電極触媒層12は、繊維状物質24を含まなくてもよい。具体的には、燃料極側電極触媒層12Aは、繊維状物質24を含まなくてもよい。電極触媒層12の中で触媒物質21、導電性担体22、高分子電解質23、および、繊維状物質24が存在しない部分が空隙である。本実施形態では、空隙のなかで、3nm以上5.5μm以下の直径を有する空隙を「細孔」と定義する。
【0014】
電極触媒層12において、水銀圧入法によって測定された細孔容積Vpから算出された細孔の直径が細孔直径Dである。なお、細孔直径Dは、水銀圧入法により得られる円筒モデル化した細孔の直径Dと定義される。
つまり、燃料極側電極触媒層12Aと酸素極側電極触媒層12Cはそれぞれ空隙を含んでおり、その空隙は3nm以上5.5μm以下の範囲内の直径を有する細孔を含んでいる。そして、細孔の直径である細孔直径Dは、水銀圧入法によって測定された細孔容積Vpから算出された値である。
ここで、上述した細孔容積Vpの分布について説明する。細孔容積Vpの分布は、細孔直径D(3nm≦D≦5.5μm)に対する、細孔容積Vpの分布関数(=dVp/dlogD)(Log微分細孔容積分布)によって示される。細孔容積Vpの分布は、水銀圧入法によって得られる。
【0015】
水銀は高い表面張力を有するため、細孔に水銀を侵入させる場合には、所定の圧力Pを加える必要がある。細孔に水銀を進入させるために加えた圧力Pと、細孔に圧入された水銀量とから、細孔容積Vpの分布や、比表面積を求めることができる。加えられた圧力Pと、その圧力Pにおいて水銀が侵入可能な細孔直径Dとの関係は、Washburnの式として知られる式(1)で表すことができる。なお、以下の式(1)において、γは水銀の表面張力であり、θは水銀と細孔壁面の接触角である。本実施形態では、表面張力γを0.48N/mとし、かつ、接触角θを130°として、細孔直径Dを計算している。
【0016】
D = -4γcosθ/P … 式(1)
なお、水銀圧入法を用いて実際に測定を行うときには、圧入された水銀の容積を相互に異なる圧力Pの印加によって別々に記録する。そして、上記式(1)に基づいて、各圧力Pを細孔直径Dに換算する。また、圧入された水銀の容積と細孔容積Vpとは等しいとして、細孔直径がDからD+dDまでに増加したときの細孔容積Vpの増加分である細孔容積増加分dVを細孔直径Dに対してプロットする。このプロットのピークが、細孔容積Vpの分布のピークである。
【0017】
電極触媒層12において発電性能の向上に要する機能は、例えば、電極触媒層12内における三相界面の維持、電極触媒層12におけるガスの拡散、電極触媒層12における生成水の排出である。そして、上記機能を向上させるには、電極触媒層12内に空隙が必要であり、適した空隙量は電気化学反応が起こる触媒物質量により決まる。また、三相界面の維持に適した細孔直径D、ガスの拡散に適した細孔直径D、生成水の排水に適した細孔直径Dは、必ずしも同一ではなく、発電性能の向上に適した細孔直径Dは、これら各細孔直径Dを含むことを要する。
電極触媒層12、すなわち、燃料極側電極触媒層12Aと酸素極側電極触媒層12Cの少なくとも一方は、上述の観点から、下記条件1から条件3の少なくとも1つを満たす。
【0018】
[条件1]
条件1では、細孔直径Dに対する細孔容積Vpの分布を示す分布曲線のピークは、細孔直径Dが0.06μm以上0.11μm以下(0.06μm≦D≦0.11μm)である範囲に含まれている。分布曲線のピークは、細孔直径Dが0.07μm以上0.11μm以下(0.07μm≦D≦0.11μm)である範囲に含まれることが好ましい。分布曲線のピークが、細孔直径Dが0.06μm以上0.11μm以下である範囲に含まれることによって、電極触媒層12は、電極触媒層12が十分なガス拡散性、および、排水性を備えるだけの大きさの空隙を含むことができる。
【0019】
[条件2]
電極触媒層12では、全ての細孔の細孔容積Vpを積算した値が、第1積算容積(ΣVp1)である。細孔直径Dが50nm以下である細孔の細孔容積Vpを積算した値が、第2積算容積(ΣVp2)である。条件2では、第1積算容積に対する第2積算容積の百分率(ΣVp2/ΣVp1×100)の値が、25%以上45%以下の範囲内である。なお、各積算容積は、各積算容積に対応する細孔直径Dの範囲において、細孔容積Vpを積算することによって算出することができる。
【0020】
[条件3]
電極触媒層12では、細孔直径Dが90nm以上である細孔の細孔容積Vpを積算した値が、第3積算容積(ΣVp3)である。条件3では、第1積算容積に対する第3積算容積の百分率(ΣVp3/ΣVp1×100)の値が、15%以上35%以下の範囲内である。なお、第3積算容積は、細孔直径Dが90nm以上である範囲において、細孔容積Vpを積算することによって、算出することができる。
条件3を満たす場合のように、電極触媒層12に含まれる細孔のなかでも、直径が相対的に大きい細孔が上述の割合で含まれることによって、電極触媒層12内において三相界面を維持しつつ、電極触媒層12におけるガスの拡散性と、生成水の排出性とを高めることができる。また、条件2を満たす場合のように、電極触媒層12に含まれる細孔のなかでも、直径が相対的に小さい細孔が上述の割合で含まれることによって、電極触媒層12内において三相界面を維持しつつ、電極触媒層12におけるガスの拡散性と、生成水の排出性とを高めることができる。
【0021】
なお、電極触媒層12の厚さは、5μm以上30μm以下の範囲内であることが好ましい。電極触媒層12の厚さが30μm以下であることによって、電極触媒層12にクラックが生じることが抑えられる。また、電極触媒層12を固体高分子形燃料電池に用いた場合に、ガスや生成した水の拡散性、および、導電性が低下することが抑えられ、ひいては、固体高分子形燃料電池の出力が低下することが抑えられる。また、電極触媒層12の厚さが5μm以上であることによって、電極触媒層12において厚さのばらつきが生じにくくなり、電極触媒層12に含まれる触媒物質21や高分子電解質23の分布が不均一になることが抑えられる。なお、電極触媒層12の表面におけるひび割れや、厚さの不均一性は、電極触媒層12を固体高分子形燃料電池の一部として使用し、かつ、固体高分子形燃料電池を長期に渡り運転(使用)した場合に、固体高分子形燃料電池の耐久性に悪影響を及ぼす可能性が高い点で、好ましくない。
【0022】
電極触媒層12の厚さは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて電極触媒層12の断面を観察することで計測することができる。電極触媒層12の断面を露出させる方法には、例えば、イオンミリング、および、ウルトラミクロトームなどの方法を用いることができる。電極触媒層12の断面を露出させるときには、電極触媒層12を冷却することが好ましい。これにより、電極触媒層12が含む高分子電解質23に対するダメージを軽減することができる。
【0023】
[固体高分子形燃料電池の構成]
図3を参照して、膜電極接合体10を備える固体高分子形燃料電池の構成を説明する。以下に説明する構成は、固体高分子形燃料電池の一例における構成である。また、図3は、固体高分子形燃料電池が備える単セルの構成を示している。固体高分子形燃料電池は、複数の単セルを備え、かつ、複数の単セルが積層された構成でもよい。
図3に示すように、固体高分子形燃料電池30は、膜電極接合体10、一対のガス拡散層、および、一対のセパレーターを備えている。一対のガス拡散層は、酸素極側ガス拡散層31Cと燃料極側ガス拡散層31Aとである。一対のセパレーターは、酸素極側セパレーター32Cと燃料極側セパレーター32Aとである。
【0024】
酸素極側ガス拡散層31Cは、酸素極側電極触媒層12Cに接している。酸素極側電極触媒層12Cと酸素極側ガス拡散層31Cとが、酸素極(カソード)30Cを形成している。燃料極側ガス拡散層31Aは、燃料極側電極触媒層12Aに接している。燃料極側電極触媒層12Aと燃料極側ガス拡散層31Aとが、燃料極(アノード)30Aを形成している。
【0025】
高分子電解質膜11において、酸素極側電極触媒層12Cが接合された面が酸素極面であり、燃料極側電極触媒層12Aが接合された面が燃料極面である。酸素極面のなかで、酸素極側電極触媒層12Cによって覆われていない部分が外周部である。外周部には、酸素極側ガスケット13Cが位置している。燃料極面のなかで、燃料極側電極触媒層12Aによって覆われていない部分が外周部である。外周部には、燃料極側ガスケット13Aが位置している。ガスケット13C、13Aによって、各面の外周部からガスが漏れることが抑えられる。
【0026】
酸素極側セパレーター32Cと燃料極側セパレーター32Aとは、固体高分子形燃料電池30の厚さ方向において、膜電極接合体10、および、2つのガス拡散層31C、31Aから形成される多層体を挟んでいる。酸素極側セパレーター32Cは、酸素極側ガス拡散層31Cに対向している。燃料極側セパレーター32Aは、燃料極側ガス拡散層31Aに対向している。
酸素極側セパレーター32Cにおいて対向する一対の面は、それぞれ複数の溝を有している。一対の面のなかで、酸素極側ガス拡散層31Cと対向する対向面が有する溝は、ガス流路32Cgである。一対の面のなかで、対向面とは反対側の面が有する溝は、冷却水流路32Cwである。
【0027】
燃料極側セパレーター32Aにおいて対向する一対の面は、それぞれ複数の溝を有している。一対の面のなかで、燃料極側ガス拡散層31Aと対向する対向面が有する溝は、ガス流路32Agである。一対の面のなかで、対向面とは反対側の面が有する溝は、冷却水流路32Awである。
各セパレーター32C、32Aは、導電性を有し、かつ、ガスに対する不透過性を有した材料によって形成されている。
固体高分子形燃料電池30では、酸素極側セパレーター32Cのガス流路32Cgを通じて酸化剤が酸素極30Cに供給される。また、固体高分子形燃料電池30では、燃料極側セパレーター32Aのガス流路32Agを通じて燃料が燃料極30Aに供給される。これにより、固体高分子形燃料電池30が発電を行う。なお、酸化剤には、例えば空気および酸素などを挙げることができる。燃料には、例えば水素を含む燃料ガス、および、有機物燃料などを挙げることができる。
【0028】
固体高分子形燃料電池30では、燃料極30Aにおいて、以下の反応式(1)に示す反応が生じる。これに対して、酸素極30Cにおいて、以下の反応式(2)に示す反応が生じる。
→ 2H + 2e … 反応式(1)
1/2O + 2H + 2e → HO … 反応式(2)
このように、本実施形態における固体高分子形燃料電池30とは、酸素極30Cに対して酸素を含有するガスが供給されることによって、酸素極30Cにおいて水を生成する燃料電池である。
【0029】
上述したように、本実施形態における電極触媒層12は、燃料極側電極触媒層12Aに適用することが可能であり、また、酸素極側電極触媒層12Cに適用することが可能でもある。ここで、上記反応式(2)によるように、酸素極30Cにおいて、酸素、プロトン、および、電子から水が生成される。酸素極30Cにおいて生成された水が酸素極30C外に排出されない場合には、酸素極30Cへの酸素含有ガスの供給が水によって妨げられてしまう。これによって、固体高分子形燃料電池30の発電性能が低下してしまう。この点で、本実施形態の電極触媒層12は、上述した各条件を満たすことによって、高い排水性を有することから、こうした電極触媒層12が酸素極30Cが備える酸素極側電極触媒層12Cに適用されることによって、固体高分子形燃料電池30の発電性能を高める効果を、より顕著に得ることができる。
【0030】
[膜電極接合体の製造方法]
以下、上述した膜電極接合体の製造方法を説明する。
膜電極接合体10を製造するときには、まず、触媒物質21、導電性担体22、高分子電解質23、および、繊維状物質24を分散媒に混合して混合物を作成し、その後、その混合物に分散処理を施すことによって触媒インクを作成する。なお、繊維状物質24は、触媒インクが含む物質から省略されてもよい。すなわち、繊維状物質24は、触媒インクに含めなくてもよい。分散処理は、例えば、遊星型ボールミル、ビーズミル、および、超音波ホモジナイザーなどを用いて行うことができる。
【0031】
触媒インクの分散媒には、触媒物質21、導電性担体22、高分子電解質23、および、繊維状物質24を浸食せず、かつ、分散媒の流動性が高い状態で、高分子電解質23を溶解することができる、または、高分子電解質23を微細なゲルとして分散することが可能な溶媒を用いることができる。分散媒には水が含まれてもよく、水は高分子電解質23とのなじみがよい。触媒インクは、揮発性の液体有機溶媒を含むことが好ましい。溶媒が低級アルコールである場合には発火のおそれがあるため、こうした溶媒には、水が混合されることが好ましい。溶媒には、高分子電解質23が分離することによって触媒インクが白濁したりゲル化したりしない範囲で、水を混合することができる。
【0032】
作成した触媒インクを基材に塗布した後に乾燥することによって、触媒インクの塗膜から溶媒が除去される。これにより、基材上に電極触媒層12が形成される。基材には、高分子電解質膜11、または、転写用基材を用いることができる。高分子電解質膜11を基材として用いる場合には、例えば、高分子電解質膜11の表面に触媒インクを直に塗布した後、触媒インクの塗膜から溶媒を除去することによって電極触媒層12を形成する方法を用いることができる。
【0033】
転写用基材を用いる場合には、転写用基材の上に触媒インクを塗布した後に触媒インクを乾燥することによって、触媒層付き基材を作成する。その後、例えば、触媒層付き基材における電極触媒層12の表面と、高分子電解質膜11とを接触させた状態で、加熱および加圧を行うことによって、電極触媒層12と高分子電解質膜11とを接合させる。高分子電解質膜11の両面に電極触媒層12を接合することによって、膜電極接合体10を製造することができる。
【0034】
触媒インクを基材に塗布する方法には、様々な塗工方法を用いることができる。塗工方法には、例えば、ダイコート、ロールコート、カーテンコート、スプレーコート、および、スキージーなどを挙げることができる。塗工方法には、ダイコートを用いることが好ましい。ダイコートは、塗布期間の中間における膜厚が安定し、かつ、間欠的な塗工を行うことが可能である点で好ましい。触媒インクの塗膜を乾燥させる方法には、例えば、温風オーブンを用いた乾燥、IR(遠赤外線)乾燥、ホットプレートを用いた乾燥、および、減圧乾燥などを用いることができる。乾燥温度は、40℃以上200℃以下の範囲内であり、40℃以上120℃以下程度の範囲内であることが好ましい。乾燥時間は、0.5分以上1時間以下の範囲内であり、1分以上30分以下程度の範囲内であることが好ましい。
【0035】
転写用基材に電極触媒層12を形成する場合には、電極触媒層12の転写時に電極触媒層12に掛かる圧力や温度が膜電極接合体10の発電性能に影響することがある。発電性能が高い膜電極接合体を得る上では、多層体に掛かる圧力は、0.1MPa以上20MPa以下の範囲内であることが好ましい。圧力が20MPa以下であることによって、電極触媒層12が過剰に圧縮されることが抑えられる。圧力が0.1MPa以上であることによって、電極触媒層12と高分子電解質膜11との接合性の低下により発電性能が低下することが抑えられる。接合時の温度は、高分子電解質膜11と電極触媒層12との界面の接合性の向上や、界面抵抗の抑制を考慮すると、高分子電解質膜11、または、電極触媒層12が含む高分子電解質23のガラス転移点付近であることが好ましい。
【0036】
転写用基材には、例えば、高分子フィルム、および、フッ素系樹脂によって形成されたシート体を用いることができる。フッ素系樹脂は、転写性に優れている。フッ素系樹脂には、例えば、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、および、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などを挙げることができる。高分子フィルムを形成する高分子には、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタラート、ポリアミド(ナイロン(登録商標))、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテル・エーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、および、ポリエチレンナフタレートなどを挙げることができる。転写用基材には、ガス拡散層を用いることもできる。
【0037】
電極触媒層12の細孔の大きさおよび分布は、触媒インクの塗膜を加熱する温度、塗膜を加熱する速度、触媒インクが乾燥するまでの加圧条件、繊維状物質24の配合率、触媒インクの溶媒組成、触媒インクを調整するときの分散強度などを調整することによって調整することが可能である。例えば、繊維状物質24の配合率を高めるほど、分布曲線のピークに対応する細孔直径Dは大きくなり、第1積算容積に対する第2積算容積の割合は少なくなり、第1積算容積に対する第3積算容積の割合は多くなる。
【0038】
触媒物質21には、例えば、白金族に含まれる金属、白金族以外の金属、および、これら金属の合金、酸化物、複酸化物、および、炭化物などを用いることができる。白金族に含まれる金属は、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、および、オスミウムである。白金族以外の金属には、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、および、アルミニウムなどを用いることができる。
【0039】
導電性担体22には、導電性を有し、かつ、触媒物質21に浸食されることなく触媒物質21を担持することが可能な担体を用いることができる。導電性担体22には、カーボン粒子を用いることができる。カーボン粒子には、例えば、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、および、フラーレンを用いることができる。カーボン粒子の粒径(平均一次粒径)は、10nm以上1000nm以下程度の範囲内であることが好ましく、10nm以上100nm以下程度の範囲内であることがさらに好ましい。粒径が10nm以上であることによって、カーボン粒子が電極触媒層12において密に詰まり過ぎず、これによって、電極触媒層12のガス拡散性を低下させることが抑えられる。粒径が1000nm以下であることによって、電極触媒層12にクラックを生じさせることが抑えられる。
【0040】
高分子電解質膜11および電極触媒層12に含まれる高分子電解質には、プロトン伝導性を有する電解質を用いることができる。高分子電解質には、例えば、フッ素系高分子電解質、および、炭化水素系高分子電解質を用いることができる。フッ素系高分子電解質には、テトラフルオロエチレン骨格を有する高分子電解質を用いることができる。なお、テトラフルオロエチレン骨格を有する高分子電解質には、デュポン社製のNafion(登録商標)を例示することができる。炭化水素系高分子電解質には、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、および、スルホン化ポリフェニレンなどを用いることができる。
【0041】
高分子電解質膜11に含まれる高分子電解質と、電極触媒層12に含まれる高分子電解質23とは、互いに同じ電解質であってもよいし、互いに異なる電解質であってもよい。ただし、高分子電解質膜11と電極触媒層12との界面における界面抵抗や、湿度が変化した場合における高分子電解質膜11と電極触媒層12とでの寸法変化率を考慮すると、高分子電解質膜11に含まれる高分子電解質と、電極触媒層12に含まれる高分子電解質23とは、互いに同じ電解質であるか、類似の電解質であることが好ましい。
【0042】
繊維状物質24には、電子伝導性繊維およびプロトン伝導性繊維を用いることができる。電子伝導性繊維には、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、および、導電性高分子ナノファイバーなどを挙げることができる。導電性や分散性の観点から、カーボンナノファイバーを繊維状物質24として用いることが好ましい。
【0043】
触媒能を有する電子伝導性繊維は、貴金属によって形成される触媒の使用量を低減できる点でより好ましい。電極触媒層12が酸素極を構成する電極触媒層、即ち酸素極側電極触媒層12Cとして用いられる場合には、触媒能を有する電子伝導性繊維には、カーボンナノファイバーから作製したカーボンアロイ触媒を挙げることができる。触媒能を有する電子伝導性繊維は、燃料極用の電極活物質から形成される繊維であってもよい。電極活物質には、Ta、Nb、Ti、および、Zrから構成される群から選択される少なくとも一つの遷移金属元素を含む物質を用いることができる。遷移金属元素を含む物質には、遷移金属元素の炭窒化物の部分酸化物、または、遷移金属元素の導電性酸化物、および、遷移金属元素の導電性酸窒化物を挙げることができる。
【0044】
プロトン伝導性繊維は、プロトン伝導性を有する高分子電解質から形成される繊維であればよい。プロトン伝導性繊維を形成するための材料には、フッ素系高分子電解質、および、炭化水素系高分子電解質などを用いることができる。フッ素系高分子電解質には、例えば、デュポン社製のNafion(登録商標)、旭硝子(株)製のFlemion(登録商標)、旭化成(株)製のAciplex(登録商標)、および、ゴア社製のGore Select(登録商標)などを用いることができる。炭化水素系高分子電解質には、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン、スルホン化ポリイミド、および、酸ドープ型ポリベンゾアゾール類などの電解質を用いることができる。
【0045】
繊維状物質24には、上述した繊維のうちの一種のみが用いられてもよいし、二種以上が用いられてもよい。繊維状物質24として、電子伝導性繊維とプロトン伝導性繊維とを併せて用いてもよい。繊維状物質24は、上述した繊維状物質24のなかでも、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、および、電解質繊維から構成される群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0046】
繊維状物質24の繊維径は、0.5nm以上500nm以下の範囲内であることが好ましく、5nm以上200nm以下の範囲内であることがより好ましい。繊維径を0.5nm以上500nm以下の範囲内に設定することにより、電極触媒層12内の空隙を増加させることができ、ひいては、固体高分子形燃料電池30の出力を高めることが可能である。繊維状物質24の繊維長は、1μm以上50μm以下の範囲内であることが好ましく、1μm以上20μm以下の範囲内であることがより好ましい。繊維長を1μm以上50μm以下の範囲内に設定することにより、電極触媒層12の強度を高めることができ、ひいては、電極触媒層12を形成するときに、電極触媒層12にクラックが生じることが抑えられる。加えて、電極触媒層12内の空隙を増加させることができ、ひいては、固体高分子形燃料電池30の出力を高めることが可能である。
電極触媒層12中の触媒物質21の質量は、触媒層用スラリー塗工量又は乾燥質量から求めることができる。また、原子吸光分析(AAS)や誘導結合プラズマ分析(ICP-AES)等から求めることができる。
【0047】
[第1実施形態の効果]
上述したように、本実施形態の膜電極接合体10において、燃料極側電極触媒層12Aおよび酸素極側電極触媒層12Cで構成される電極触媒層12に含まれる空隙のなかで、3nm以上5.5μm以下の範囲内の直径を有する空隙を細孔とするとき、水銀圧入法によって測定された細孔容積から算出された細孔の直径が細孔直径Dであり、全ての細孔の細孔容積Vpを積算した値が、第1積算容積(ΣVp1)であり、細孔直径Dが50nm以下である細孔の細孔容積Vpを積算した値が、第2積算容積(ΣVp2)である場合に、第1積算容積(ΣVp1)に対する第2積算容積(ΣVp2)の百分率の値が、25%以上45%以下の範囲内であってもよい。
【0048】
また、膜電極接合体10において、燃料極側電極触媒層12Aおよび酸素極側電極触媒層12Cで構成される電極触媒層12に含まれる空隙のなかで、3nm以上5.5μm以下の範囲内の直径を有する空隙を細孔とするとき、水銀圧入法によって測定された細孔容積から算出された細孔の直径が細孔直径Dであり、全ての細孔の細孔容積Vpを積算した値が、第1積算容積(ΣVp1)であり、細孔直径Dが90nm以上である細孔の細孔容積Vpを積算した値が、第3積算容積(ΣVp3)である場合に、第1積算容積(ΣVp1)に対する第3積算容積(ΣVp3)の百分率の値が、15%以上35%以下の範囲内であってもよい。
【0049】
上記各構成によれば、三相界面を維持しつつ、ガスの拡散性と、生成水の排出性とを高めることが可能であって、それによって、発電性能が向上可能である。
また、膜電極接合体10において、後述するように、電極触媒層12の体積Voに対して、全ての細孔の細孔容積Vpを積算した積算容積Vの百分率の値が、65%以上90%以下の範囲内であってもよい。上記構成によれば、電極触媒層12は、より十分なガス拡散性、および、排水性を有することができる。
【0050】
また、膜電極接合体10において、繊維状物質24は、電子伝導性繊維、および、プロトン伝導性繊維から選択される一種または二種以上の繊維状物質を含み、電子伝導性繊維は、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、および、遷移金属含有繊維から構成される群から選択される少なくとも一種を含んでもよい。
また、膜電極接合体10において、燃料極側電極触媒層12Aに含まれる繊維状物質24を、第1繊維状物質とし、酸素極側電極触媒層12Cに含まれる繊維状物質24を、第2繊維状物質とした場合に、燃料極側電極触媒層12Aの単位体積当たりにおける第1繊維状物質の質量が、酸素極側電極触媒層12Cの単位体積当たりにおける第2繊維状物質の質量よりも大きくてもよい。
【0051】
上記構成によれば、燃料極側電極触媒層12Aにおける単位体積当たりの繊維状物質24の質量が酸素極側電極触媒層12Cの単位体積当たりにおける第2繊維状物質の質量よりも大きいことによって、燃料極側電極触媒層12Aは、より大きい細孔直径Dを有した細孔を酸素極側電極触媒層12Cよりも含みやすい。これにより、燃料ガスが、より効率的に膜電極接合体10に流入する。
また、膜電極接合体10において、酸素極側電極触媒層12Cは、5μm以上30μm以下の範囲内の厚さを有してもよい。
また、膜電極接合体10において、燃料極側電極触媒層12Aは、5μm以上20μm以下の範囲内の厚さを有してもよい。
【0052】
上記各構成によれば、各電極触媒層12が上限値以下の厚さを有することによって、電極触媒層12にクラックが生じることが抑えられる。また、電極触媒層12を固体高分子形燃料電池30に用いた場合に、ガスや生成した水の拡散性、および、導電性が低下することが抑えられ、ひいては、固体高分子形燃料電池30の出力が低下することが抑えられる。また、電極触媒層12が下限値以上の厚さを有することによって、電極触媒層12において厚さのばらつきが生じにくくなり、電極触媒層12に含まれる触媒物質21や高分子電解質23の分布が不均一になることが抑えられる。
また、上述したように、本実施形態の固体高分子形燃料電池30は、膜電極接合体10を備える。
上述した各構成によれば、触媒物質21の周辺に十分な細孔(空間)を確保できる。これにより、電極触媒層12内において三相界面を維持しつつ、電極触媒層12におけるガスの拡散性と、生成水の排出性とを高めることができる。
【0053】
[実施例]
図4および図5を参照して、膜電極接合体の実施例を説明する。
[実施例1]
白金担持カーボン触媒(TEC10E30E、田中貴金属工業(株)製)、水、1‐プロパノール、高分子電解質(ナフィオン(登録商標)分散液、和光純薬工業(株)製)、および、カーボンナノファイバー(VGCF(登録商標)-H、昭和電工(株)製)を混合して混合物を得た。なお、白金担持カーボン触媒において、白金触媒がカーボン粒子に担持されている。カーボン粒子の質量と高分子電解質の質量との比を1:1に設定した。そして、その混合物に対して遊星型ボールミルを用いて60分間にわたって300rpmで分散処理を行った。その際に、直径が5mmであるジルコニアボールをジルコニア容器の3分の1程度加えた。これにより、燃料極用触媒インクを調製した。なお、高分子電解質の質量はカーボン粒子の質量に対して100質量%であり、繊維状物質の質量はカーボン粒子の質量に対して100質量%であり、分散媒中の水の割合は50質量%であり、触媒インクにおける固形分含有量が10質量%であるように燃料極用触媒インクを調整した。
【0054】
また、白金担持カーボン触媒(TEC10E50E、田中貴金属工業(株)製)、水、1‐プロパノール、高分子電解質(ナフィオン(登録商標)分散液、和光純薬工業(株)製)、および、カーボンナノファイバー(VGCF(登録商標)-H、昭和電工(株)製)を混合して混合物を得た。なお、白金担持カーボン触媒において、白金触媒がカーボン粒子に担持されている。カーボン粒子の質量と高分子電解質の質量との比を1:1に設定した。そして、その混合物に対して遊星型ボールミルを用いて60分間にわたって300rpmで分散処理を行った。その際に、直径が5mmであるジルコニアボールをジルコニア容器の3分の1程度加えた。これにより、酸素極用触媒インクを調製した。なお、高分子電解質の質量はカーボン粒子の質量に対して100質量%であり、繊維状物質の質量はカーボン粒子の質量に対して100質量%であり、分散媒中の水の割合は50質量%であり、触媒インクにおける固形分含有量が10質量%であるように酸素極用触媒インクを調整した。
【0055】
各触媒インクを、高分子電解質膜(ナフィオン(登録商標)211、Dupont社製)の両面にスリットダイコーターを用いて塗布することによって塗膜を形成した。なお、高分子電解質膜のカソード面には酸素極用触媒インクの塗膜厚さが150μmとなるように、また、アノード面には燃料極用触媒インクの塗膜厚さが100μmとなるように、各触媒インクを高分子電解質膜に塗布した。次いで、塗膜が形成された高分子電解質膜を80度の温風オーブンに配置し、塗膜のタックがなくなるまで塗膜を乾燥させた。これにより、実施例1の膜電極接合体を得た。
【0056】
[実施例2]
酸素極用触媒インクを調製するときに、カーボンナノファイバー(VGCF(登録商標)-H、昭和電工(株)製)のかわりに多層カーボンナノチューブ(直径60nm~100nm、東京化成工業(株)製)を用いた以外は、実施例1と同様の方法によって、実施例2の膜電極接合体を得た。
【0057】
[実施例3]
実施例1と同様の方法によって、各触媒インクを調製した。各触媒インクを、PTFEフィルムの表面にスリットダイコーターを用いて塗布することによって塗膜を形成した。次いで、80度の温風オーブンに配置し、塗膜のタックがなくなるまで塗膜を乾燥させた。これにより、触媒層付き基材を得た。酸素極側電極触媒層を含む基材と、燃料極側電極触媒層を含む基材とを準備した。なお、高分子電解質膜のカソード面には酸素極用触媒インクの塗膜厚さが150μmとなるように、また、アノード面には燃料極用触媒インクの塗膜厚さが60μmとなるように、各触媒インクを高分子電解質膜に塗布した。そして、高分子電解質膜(ナフィオン(登録商標)211、Dupont社製)における一対の面に対し、触媒層付き基材が1つずつ各面に対向するように配置し、積層体を形成した。120℃、5MPaの条件で積層体をホットプレスすることによって、高分子電解質膜に2つの電極触媒層を接合した。次いで、各電極触媒層からPTFEフィルムを剥離することによって、実施例3の膜電極接合体を得た。
【0058】
[実施例4]
酸素極用触媒インクを調製するときに、カーボンナノファイバー(VGCF(登録商標)-H、昭和電工(株)製)の添加量を実施例1の4分の1とした以外は、実施例1と同様の方法によって、実施例4の膜電極接合体を得た。
[実施例5]
酸素極用触媒インクを調製するときに、多層カーボンナノチューブ(直径60nm~100nm、東京化成工業(株)製)の添加量を実施例2の2分の1とした以外は、実施例2と同様の方法によって、実施例5の膜電極接合体を得た。
[実施例6]
酸素極用触媒インクを調製するときに、多層カーボンナノチューブ(直径60nm~100nm、東京化成工業(株)製)の添加量を実施例2の4分の1とした以外は、実施例2と同様の方法によって、実施例6の膜電極接合体を得た。
【0059】
[比較例1]
酸素極側電極触媒層を形成するときに、酸素極用触媒インクの塗布量を実施例1の3倍とした以外は、実施例1と同様の方法によって、比較例1の膜電極接合体を得た。
[比較例2]
酸素極用触媒インクを調製するときに、固形分比率を実施例1の2分の1とした以外は、実施例1と同様の方法によって、比較例2の膜電極接合体を得た。
[比較例3]
酸素極用触媒インクを調製するときに、カーボンナノファイバーを添加しなかった以外は、実施例1と同様の方法によって、比較例3の膜電極接合体を得た。
[比較例4]
酸素極用触媒インクを調製するときに、カーボンナノファイバーの量を実施例1の2倍とした以外は、実施例1と同様の方法によって、比較例4の膜電極接合体を得た。
[比較例5]
酸素極用触媒インクを調製するときに、カーボンナノファイバーの量を実施例1の3倍とした以外は、実施例1と同様の方法によって、比較例5の膜電極接合体を得た。
【0060】
[細孔容積Vpに基づく数値の算出]
細孔容積Vpの分布は、水銀圧入法により測定した。具体的には、高分子電解質膜に酸素極側電極触媒層のみが形成された膜電極接合体を用いて、自動ポロシメーター(マイクロメリティックス社製、オートポアIV9510)を用いて、細孔容積Vpを測定した。測定セルの容積は約5cmであり、水銀圧入の圧力を3kPaから400MPaまで昇圧した。これにより、各圧力における水銀の圧入量、つまり細孔容積Vpを得た。水銀圧入の圧力をWashburnの式を用いて細孔直径Dに換算し、細孔直径Dに対する細孔容積Vpの分布関数dVp/dlogDのプロットを作成した。なお、表面張力γを0.48N/mとし、かつ、接触角θを130°とした。そして、このプロットのピークに対応する細孔直径Dを細孔直径Dpとして読み取った。
【0061】
次に、細孔直径Dが3nm以上5.5μm以下である全ての細孔の容積を積算して第1積算容積を算出した。また、細孔直径Dが90nm以上である細孔の容積を積算して第3積算容積を算出した。そして、第3積算容積を第1積算容積で除算し、かつ、除算した値を100倍することによって、第1積算容積に対する第3積算容積の百分率R(L)を算出した。また、細孔直径Dが50nm以下である細孔の細孔容積を積算して第2積算容積を算出した。そして、第2積算容積を第1積算容積で除算し、かつ、除算した値を100倍することによって、第1積算容積に対する第2積算容積の百分率R(S)を算出した。
【0062】
[酸素極側電極触媒層の幾何学的体積に対する積算細孔容積の算出]
次に、細孔直径Dが3nm以上5.5μm以下である全ての細孔の容積を積算して積算細孔容積Vを算出した。また、自動ポロシメーターによる測定に用いた膜電極接合体の面積と厚さとを乗算して、膜電極接合体の幾何学的体積を算出した。さらに、自動ポロシメーターによる測定に用いた膜電極接合体の面積と高分子電解質膜の厚さとを乗算して、高分子電解質膜の体積を算出した。膜電極接合体の体積から高分子電解質膜の体積を減算することによって、酸素極側電極触媒層の幾何学的体積Vを算出した。そして、酸素極側電極触媒層の幾何学的体積Vに対する積算細孔容積Vの百分率(V/V)を算出した。
【0063】
[電極触媒層の厚さ計測]
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて電極触媒層の断面を観察することによって、電極触媒層の厚さを計測した。具体的には、電極触媒層の断面を、走査型電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ製、FE-SEM S-4800)を用いて、1000倍の倍率で観察した。電極触媒層の断面における30カ所の観測点において電極触媒層の厚さを計測した。30カ所の観測点における厚さの平均値を電極触媒層の厚さとした。
【0064】
[発電性能の測定]
発電性能の測定には、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が刊行した小冊子である「セル評価解析プロトコル」に準拠する方法を用いた。膜電極接合体の各面に、ガス拡散層、ガスケット、および、セパレーターを配置し、所定の面圧となるように締め付けたJARI標準セルを評価用単セルとして用いた。そして、「セル評価解析プロトコル」に記載された方法に準拠してI‐V測定を実施した。このときの条件を標準条件に設定した。また、アノードの相対湿度とカソードの相対湿度とをRH100%としてI‐V測定を実施した。このときの条件を高湿条件に設定した。
【0065】
[耐久性の測定]
耐久性の測定には、発電性能の測定に用いた評価用単セルと同一の単セルを評価用単セルとして用いた。そして、上述した「セル評価解析プロトコル」に記載の湿度サイクル試験によって耐久性を測定した。
【0066】
[比較結果]
実施例1から実施例6の膜電極接合体が備える電極触媒層、および、比較例1から比較例5の膜電極接合体が備える電極触媒層の各々について、以下の項目における結果は、表1に示す通りであった。すなわち、各電極触媒層において、細孔容積Vpの分布曲線におけるピークに対応する細孔直径Dp、第1積算容積に対する第3積算容積の百分率R(L)(%)、および、第1積算容積に対する第2積算容積の百分率R(S)(%)は、表1に示す通りであった。また、各電極触媒層において、電極触媒層の体積Vに対する第1積算容積Vの百分率V/V(%)、および、電極触媒層の厚さT(μm)は、表1に示す通りであった。また、実施例1から実施例6の膜電極接合体を備える固体高分子形燃料電池、および、比較例1から比較例5の膜電極接合体を備える固体高分子形燃料電池の各々について、発電性能、および、耐久性を測定した結果は、表1に示す通りであった。
【0067】
発電性能の結果において、標準条件では、単セルにおいて、電圧が0.6Vのときの電流が25A以上である場合を「○」に設定し、25A未満である場合を「×」に設定した。また、高湿条件では、単セルにおいて、電圧が0.6Vのときの電流が31A以上である場合を「○」に設定し、30A以上である場合を「△」に設定し、30A未満である場合を「×」に設定した。耐久性において、8000サイクル後の水素クロスリーク電流が初期値の8倍未満である場合を「○」に設定し、水素クロスリーク電流が初期値の10倍未満である場合を「△」に設定し、10倍以上である場合を「×」に設定した。
【0068】
実施例1から実施例3の電極触媒層、および、比較例1から比較例5の電極触媒層の各々において、細孔容積Vpの分布曲線は、図4に示す通りであった。また、実施例1から実施例3の電極触媒層、および、比較例1から比較例5の電極触媒層の各々において、累積細孔容積率と、細孔直径Dとの関係を示すグラフは、図5に示す通りであった。
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示すように、実施例1から実施例3のいずれにおいても、細孔容積Vpの分布曲線におけるピークに対応する細孔直径Dpが0.06μm以上0.11μm以下の範囲内に含まれることが認められた。実施例1から実施例3のいずれにおいても、第1積算容積に対する第3積算容積の百分率R(L)の値が、15%以上35%以下の範囲内に含まれることが認められ、また、第1積算容積に対する第2積算容積の百分率R(S)の値が、25%以上45%以下の範囲内に含まれることが認められた。
【0071】
実施例1から実施例3のいずれにおいても、電極触媒層の厚さTが、5μm以上30μm以下の範囲内に含まれることが認められた。さらに、実施例1から実施例6のいずれにおいても、測定時の条件に関わらず発電性能が「○」または「△」であり、かつ、耐久性が「○」または「△」であることが認められた。すなわち、実施例1から実施例6の膜電極接合体は、発電性能および耐久性に優れた燃料電池を構成することが可能な膜電極接合体であることが認められた。
【0072】
一方で、比較例1から比較例5のいずれにおいても、細孔容積Vpの分布曲線におけるピークに対応する細孔直径Dpが0.06μm以上0.11μm以下の範囲内には含まれないことが認められた。比較例1から比較例5のいずれにおいても、第1積算容積に対する第3積算容積の百分率R(L)の値が、15%以上35%以下の範囲内に含まれないことが認められた。比較例1から比較例5のいずれにおいても、第1積算容積に対する第2積算容積の百分率R(S)の値が、25%以上45%以下の範囲内に含まれないことが認められた。
【0073】
比較例1では、電極触媒層の厚さTが30μmを超えることが認められた一方で、比較例2から比較例5では、電極触媒層の厚さTが、5μm以上30μm以下の範囲内に含まれることが認められた。
比較例1から比較例5において、標準条件および高湿条件の少なくともいずれかにおいて、発電性能が「×」であることが認められた。また、比較例2、3、5については、耐久性も「×」であることが認められた。このように、比較例1から比較例5によれば、上述した各実施例に比べて、少なくとも発電性能が低下し、耐久性が低下する場合もあることが認められた。
【0074】
以上説明したように、電極触媒層、膜電極接合体、および、燃料電池の第1実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)細孔直径Dに対する細孔容積Vpの分布を示す分布曲線のピークにおいて細孔直径Dpが0.06μm以上0.11μm以下の範囲内である場合には、電極触媒層12が十分なガス拡散性、および、排水性を備えるだけの空隙が含まれて、発電性能が向上可能である。
(2)第1積算容積に対する第2積算容積の百分率の値が、25%以上45%以下の範囲内である場合には、電極触媒層12において三相界面を維持しつつ、ガスの拡散性と、生成水の排出性とを高めることが可能であって、それによって、発電性能が向上可能である。
【0075】
(3)第1積算容積に対する第3積算容積の百分率の値が、15%以上35%以下の範囲内である場合には、三相界面を維持しつつ、ガスの拡散性と、生成水の排出性とを高めることが可能であって、それによって、発電性能が向上可能である。
(4)膜電極接合体において、電極触媒層の体積Vに対して、全ての細孔の細孔容積を積算した積算容積Vの百分率の値が、65%以上90%以下の範囲内である場合には、電極触媒層は、より十分なガス拡散性、および、排水性を有することができる。
【0076】
[第2実施形態]
図6を参照して、膜電極接合体、および、固体高分子形燃料電池の第2実施形態を説明する。第2実施形態では、第1実施形態と比べて膜電極接合体の構成が異なっている。そのため以下では、こうした相違点を詳しく説明する一方で、第1実施形態と共通する構成には、第1実施形態と同一の符号を用いることによって、当該構成の詳しい説明を省略する。
【0077】
[膜電極接合体]
図6を参照して、膜電極接合体10の構成を説明する。なお、本実施形態では、酸素極側電極触媒層12Cは繊維状物質24を含む一方で、燃料極側電極触媒層12Aは繊維状物質24を含んでもよいし、含まなくてもよい。なお、燃料極側電極触媒層12Aが、第1触媒物質、第1導電性担体、および、第1高分子電解質を含む。また、酸素極側電極触媒層12Cが、第2触媒物質、第2導電性担体、第2高分子電解質、および、繊維状物質を含む。第1触媒物質は、第2触媒物質と同じでもよいし、異なってもよい。第1導電性担体は、第2導電性担体と同じでもよいし、異なってもよい。第1高分子電解質は、第2高分子電解質と同じでもよいし、異なってもよい。
【0078】
各電極触媒層12の中で、すなわち、燃料極側電極触媒層12Aと酸素極側電極触媒層12Cのそれぞれにおいて、触媒物質21、導電性担体22、高分子電解質23、および、繊維状物質24が存在しない部分が空隙である。本実施形態では、空隙のなかで、3nm以上5.5μm以下の直径を有する空隙を「細孔」と定義する。すなわち、膜電極接合体10は空隙を含み、空隙は3nm以上5.5μm以下の直径を有する細孔を含む。
【0079】
本実施形態において、細孔直径Dである細孔の細孔容積Vpの算出方法等は、第1実施形態において説明した細孔直径Dである細孔の細孔容積Vpの算出方法と同じである。
すなわち、膜電極接合体10において、水銀圧入法によって測定された細孔直径Dである細孔の細孔容積Vpが算出される。なお、細孔直径Dは、水銀圧入法により得られる円筒モデル化した細孔の直径Dと定義される。
【0080】
ここで、上述した細孔容積Vpの分布について説明する。細孔容積Vpの分布は、細孔直径D(3nm≦D≦5.5μm)に対する、細孔容積Vpの分布関数(=dVp/dlogD)(Log微分細孔容積分布)によって示される。細孔容積Vpの分布は、水銀圧入法によって得られる。細孔容積Vpは、細孔のうち、ある細孔直径Dを有する細孔の容積の合計値である。
【0081】
水銀は高い表面張力を有するため、細孔に水銀を侵入させる場合には、所定の圧力Pを加える必要がある。細孔に水銀を進入させるために加えた圧力Pと、細孔に圧入された水銀量とから、細孔容積Vpの分布や、比表面積を求めることができる。加えられた圧力Pと、その圧力Pにおいて水銀が侵入可能な細孔直径Dとの関係は、Washburnの式として知られる式(1)で表すことができる。なお、以下の式(1)において、γは水銀の表面張力であり、θは水銀と細孔壁面の接触角である。本実施形態では、表面張力γを0.48N/mとし、かつ、接触角θを130°として、細孔直径Dを計算している。
D = -4γcosθ/P … 式(1)
【0082】
なお、水銀圧入法を用いて実際に測定を行うときには、圧入された水銀の容積を相互に異なる圧力Pの印加によって別々に記録する。そして、上記式(1)に基づいて、各圧力Pを細孔直径Dに換算する。また、圧入された水銀の容積と細孔容積Vpとは等しいとして、細孔直径がDからD+dDまでに増加したときの細孔容積Vpの増加分である細孔容積増加分dVを細孔直径Dに対してプロットする。このプロットのピークが、細孔容積Vpの分布のピークである。
【0083】
膜電極接合体10において発電性能の向上に要する機能は、例えば、膜電極接合体10が備える電極触媒層12内における三相界面の維持、電極触媒層12におけるガスの拡散、電極触媒層12における生成水の排出である。上記機能の向上には、電極触媒層12内に十分な空隙が必要であり、その空隙の必要量は、電極触媒層12の体積に対してではなく、電極触媒層12内の触媒物質量、すなわち、電極触媒層12が含有する触媒物質の質量に対して決まる。また、三相界面の維持に適した細孔直径D、ガスの拡散に適した細孔直径D、生成水の排水に適した細孔直径Dは、相互に異なる。あるいは、三相界面の維持に適した細孔直径D、ガスの拡散に適した細孔直径D、生成水の排水に適した細孔直径Dは、必ずしも同一ではなく、相互に異なる範囲を含む。さらに、酸素極側電極触媒層12Cおよび燃料極側電極触媒層12Aにおいてもそれぞれのガスの拡散に適した細孔直径Dは異なる。発電性能の向上に適した細孔直径Dは、これら各細孔直径Dを含むことを要する。なお、三相界面とは、高分子電解質、触媒、および、ガスによって形成される界面である。
【0084】
膜電極接合体10、具体的には、燃料極側電極触媒層12Aと酸素極側電極触媒層12Cの少なくとも一方は、上述の観点から、下記条件4から下記条件7の少なくとも1つを満たす。より好ましくは、燃料極側電極触媒層12Aと酸素極側電極触媒層12Cの両方は、下記条件7を満たし、且つ燃料極側電極触媒層12Aと酸素極側電極触媒層12Cの少なくとも一方は、下記条件4から下記条件6の少なくとも1つを満たす。
【0085】
[条件4]
細孔直径Dに対する細孔容積Vpの分布を示す分布曲線のピークは、細孔直径Dが0.06μm以上0.11μm以下(0.06μm≦D≦0.11μm)である範囲に含まれている。分布曲線のピークが、細孔直径Dが0.06μm以上0.11μm以下である範囲に含まれることによって、電極触媒層12は、電極触媒層12が十分なガス拡散性、および、排水性を備えるだけの空隙を含むことができる。
【0086】
図6は、細孔直径Dに対する細孔容積Vpの分布を示す分布曲線の一例を示している。
図6に示すように、分布曲線Bのピーク、および、分布曲線Cのピークは、細孔直径Dが0.06μm以上0.11μm以下である範囲内に含まれている。一方で、分布曲線Aのピーク、および、分布曲線Dのピークは、細孔直径Dが0.06μm以上0.11μm以下である範囲に含まれていない。より詳しくは、分布曲線Aのピークは、細孔直径Dが0.06μmよりも小さい範囲に含まれている。これに対して、分布曲線Dのピークは、細孔直径Dが0.11μmよりも大きい範囲に含まれている。
【0087】
[条件5]
膜電極接合体10では、細孔直径Dの全範囲において細孔の細孔容積Vpを積算した値が、第1積算容積(ΣVp1)である。細孔直径Dが50nm以下である範囲において細孔の細孔容積Vpを積算した値が、第2積算容積(ΣVp2)である。条件5では、第1積算容積に対する第2積算容積の百分率(ΣVp2/ΣVp1×100)の値が、25%以上45%以下の範囲内である。
【0088】
[条件6]
膜電極接合体10では、細孔直径Dが100nm以上である範囲において細孔の細孔容積Vpを積算した値が、第3積算容積(ΣVp3)である。条件6では、第1積算容積に対する第3積算容積の百分率(ΣVp3/ΣVp1×100)の値が、30%以上50%以下の範囲内である。
【0089】
条件6を満たす場合のように、膜電極接合体10に含まれる細孔のなかでも、直径が相対的に大きい細孔が上述の割合で含まれていることによって、膜電極接合体10が備える電極触媒層12内において三相界面を維持しつつ、電極触媒層12におけるガスの拡散性と、生成水の排出性とを高めることができる。また、条件5を満たす場合のように、電極触媒層12に含まれる細孔のなかでも、直径が相対的に小さい細孔が上述の範囲で含まれることによって、電極触媒層12内において三相界面を維持しつつ、電極触媒層12におけるガスの拡散性と、生成水の排出性とを高めることができる。
【0090】
[条件7]
膜電極接合体10では、細孔直径Dの全範囲において細孔の細孔容積Vpを積算した値が、第1積算容積(ΣVp1)である。条件7では、電極触媒層12が含有する触媒物質の質量である触媒物質質量Mに対する第1積算容積(ΣVp1/M)が、2.8以上4.5以下の範囲内である。
【0091】
なお、酸素極側電極触媒層12Cおよび燃料極側電極触媒層12Aの両方が繊維状物質24を含む場合には、燃料極側電極触媒層12Aにおける単位体積当たりの繊維状物質(第1繊維状物質)24の質量が、酸素極側電極触媒層12Cにおける単位体積当たりの繊維状物質(第2繊維状物質)24の質量よりも大きいことが好ましい。燃料極側電極触媒層12Aにおける単位体積当たりの繊維状物質24の質量が酸素極側電極触媒層12Cにおける単位体積当たりの繊維状物質24の質量よりも大きいことによって、燃料極側電極触媒層12Aは、より大きい細孔直径Dを有した細孔を酸素極側電極触媒層12Cよりも含みやすい。これにより、燃料ガスが、より効率的に膜電極接合体10に流入する。なお、酸素極側電極触媒層12Cが含む繊維状物質24と、燃料極側電極触媒層12Aが含む繊維状物質24とは、同一の繊維状物質でもよいし、異なる繊維状物質でもよい。
【0092】
なお、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて膜電極接合体10の断面を観察することによって、酸素極側電極触媒層12Cにおける繊維状物質24の含有量と、燃料極側電極触媒層12Aにおける繊維状物質24の含有量とを比較することが可能である。具体的には、膜電極接合体10の断面を、走査型電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ製、FE-SEM S-4800)を用いて1000倍の倍率で観察し、これによって、酸素極側電極触媒層12Cおよび燃料極側電極触媒層12Aの断面から観測点を無作為に30カ所ずつ抽出する。そして、各電極触媒層12における30カ所の観測点から1つの観測点をランダムに抽出し、酸素極側電極触媒層12Cの観測点と、燃料極側電極触媒層12Aの観測点とを順に対比する。各観測点を目視により観察することによって、酸素極側電極触媒層12Cの観測点における繊維状物質24の含有量と、燃料極側電極触媒層12Aの観測点における繊維状物質24の含有量とのいずれが大きいかを判定する。30カ所の観測点において含有量の大小を判定した結果に基づき、多数決によって酸素極側電極触媒層12Cにおける繊維状物質24の含有量、および、燃料極側電極触媒層12Aにおける繊維状物質の含有量の大小を比較することが可能である。
【0093】
例えば、過半数の観測点において、燃料極側電極触媒層12Aにおける繊維状物質24の含有量が酸素極側電極触媒層12Cにおける繊維状物質24の含有量よりも大きいと判定する。この場合には、燃料極側電極触媒層12Aにおける単位体積当たりの繊維状物質24の質量が、酸素極側電極触媒層12Cにおける単位体積当たりの繊維状物質24の質量よりも大きいと判定することが可能である。
【0094】
なお、酸素極側電極触媒層12Cは、5μm以上30μm以下の範囲内の厚さを有することが好ましい。酸素極側電極触媒層12Cが30μm以下の厚さを有することによって、酸素極側電極触媒層12Cにクラックが生じることが抑えられる。また、酸素極側電極触媒層12Cを固体高分子形燃料電池30に用いた場合に、ガスや生成した水の拡散性、および、導電性が低下することが抑えられ、ひいては、固体高分子形燃料電池30の出力が低下することが抑えられる。また、酸素極側電極触媒層12Cが5μm以上の厚さを有することによって、酸素極側電極触媒層12Cにおいて厚さのばらつきが生じにくくなり、酸素極側電極触媒層12Cに含まれる触媒物質21や高分子電解質23の分布が不均一になることが抑えられる。なお、酸素極側電極触媒層12Cの表面におけるひび割れや、厚さの不均一性は、酸素極側電極触媒層12Cを固体高分子形燃料電池30の一部として使用し、かつ、固体高分子形燃料電池30を長期に渡り運転(使用)した場合に、固体高分子形燃料電池30の耐久性に悪影響を及ぼす可能性が高い点で、好ましくない。
【0095】
また、燃料極側電極触媒層12Aは、5μm以上20μm以下の範囲内の厚さを有することが好ましい。燃料極側電極触媒層12Aが20μm以下の厚さを有することによって、燃料極側電極触媒層12Aにクラックが生じることが抑えられる。また、燃料極側電極触媒層12Aを固体高分子形燃料電池30に用いた場合に、ガスの拡散性、および、導電性が低下することが抑えられ、ひいては、固体高分子形燃料電池30の出力が低下することが抑えられる。また、燃料極側電極触媒層12Aが5μm以上の厚さを有することによって、燃料極側電極触媒層12Aにおいて厚さのばらつきが生じにくくなり、燃料極側電極触媒層12Aに含まれる触媒物質21や高分子電解質23の分布が不均一になることが抑えられる。なお、燃料極側電極触媒層12Aの表面におけるひび割れや、厚さの不均一性は、燃料極側電極触媒層12Aを固体高分子形燃料電池30の一部として使用し、かつ、固体高分子形燃料電池30を長期に渡り運転(使用)した場合に、固体高分子形燃料電池30の耐久性に悪影響を及ぼす可能性が高い点で、好ましくない。
【0096】
なお、各電極触媒層12の細孔の大きさおよび分布は、触媒インクの塗膜を加熱する温度、塗膜を加熱する速度、触媒インクが乾燥するまでの加圧条件、繊維状物質24の配合率、高分子電解質23の配合率、触媒インクの溶媒組成、触媒インクを調整するときの分散強度などを調整することによって調整することが可能である。例えば、繊維状物質24の配合率を高めるほど、分布曲線のピークに対応する細孔直径Dは大きくなり、高分子電解質23の配合率を少なくするほど、細孔容積Vpは大きくなる。
【0097】
[第2実施形態の効果]
上述したように、本実施形態の燃料極側電極触媒層12Aと酸素極側電極触媒層12Cのそれぞれについて、触媒物質質量に対する第1積算容積の値が2.8以上4.5以下の範囲内である場合には、直径が相対的に大きい細孔が当該範囲で含まれることによって、電極触媒層12内において三相界面を維持しつつ、電極触媒層12におけるガスの拡散性と、生成水の排出性とを高めることができる。
【0098】
また、膜電極接合体10において、燃料極側電極触媒層12Aおよび酸素極側電極触媒層12Cの少なくとも一方は、電極触媒層12に含まれる空隙のなかで、3nm以上5.5μm以下の範囲内の直径を有する空隙を細孔とするとき、水銀圧入法によって測定された細孔容積から算出された細孔の直径が細孔直径Dであり、全ての細孔の細孔容積Vpを積算した値が、第1積算容積(ΣVp1)であり、細孔直径Dが50nm以下である細孔の細孔容積Vpを積算した値が、第2積算容積(ΣVp2)である場合に、第1積算容積(ΣVp1)に対する第2積算容積(ΣVp2)の百分率の値が、25%以上45%以下の範囲内であってもよい。
【0099】
また、膜電極接合体10において、燃料極側電極触媒層12Aおよび酸素極側電極触媒層12Cの少なくとも一方は、電極触媒層12に含まれる空隙のなかで、3nm以上5.5μm以下の範囲内の直径を有する空隙を細孔とするとき、水銀圧入法によって測定された細孔容積から算出された細孔の直径が細孔直径Dであり、全ての細孔の細孔容積Vpを積算した値が、第1積算容積(ΣVp1)であり、細孔直径Dが90nm以上である細孔の細孔容積Vpを積算した値が、第3積算容積(ΣVp3)である場合に、第1積算容積(ΣVp1)に対する第3積算容積(ΣVp3)の百分率の値が、15%以上35%以下の範囲内であってもよい。
【0100】
上記各構成によれば、三相界面を維持しつつ、ガスの拡散性と、生成水の排出性とを高めることが可能であって、それによって、発電性能が向上可能である。
また、膜電極接合体10において、電極触媒層12の体積Voに対して、全ての細孔の細孔容積Vpを積算した積算容積Vの百分率の値が、65%以上90%以下の範囲内であってもよい。上記構成によれば、電極触媒層12は、より十分なガス拡散性、および、排水性を有することができる。
【0101】
また、膜電極接合体10において、繊維状物質24は、電子伝導性繊維、および、プロトン伝導性繊維から選択される一種または二種以上の繊維状物質を含み、電子伝導性繊維は、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、および、遷移金属含有繊維から構成される群から選択される少なくとも一種を含んでもよい。
また、膜電極接合体10において、燃料極側電極触媒層12Aに含まれる繊維状物質24を、第1繊維状物質とし、酸素極側電極触媒層12Cに含まれる繊維状物質24を、第2繊維状物質とした場合に、燃料極側電極触媒層12Aの単位体積当たりにおける第1繊維状物質の質量が、酸素極側電極触媒層12Cの単位体積当たりにおける第2繊維状物質の質量よりも大きくてもよい。
【0102】
上記構成によれば、燃料極側電極触媒層12Aにおける単位体積当たりの繊維状物質24の質量が酸素極側電極触媒層12Cの単位体積当たりにおける第2繊維状物質の質量よりも大きいことによって、燃料極側電極触媒層12Aは、より大きい細孔直径Dを有した細孔を酸素極側電極触媒層12Cよりも含みやすい。これにより、燃料ガスが、より効率的に膜電極接合体10に流入する。
また、膜電極接合体10において、酸素極側電極触媒層12Cは、5μm以上30μm以下の範囲内の厚さを有してもよい。
また、膜電極接合体10において、燃料極側電極触媒層12Aは、5μm以上20μm以下の範囲内の厚さを有してもよい。
【0103】
上記各構成によれば、各電極触媒層12が上限値以下の厚さを有することによって、電極触媒層12にクラックが生じることが抑えられる。また、電極触媒層12を固体高分子形燃料電池30に用いた場合に、ガスや生成した水の拡散性、および、導電性が低下することが抑えられ、ひいては、固体高分子形燃料電池30の出力が低下することが抑えられる。また、電極触媒層12が下限値以上の厚さを有することによって、電極触媒層12において厚さのばらつきが生じにくくなり、電極触媒層12に含まれる触媒物質21や高分子電解質23の分布が不均一になることが抑えられる。
また、上述したように、本実施形態の固体高分子形燃料電池30は、膜電極接合体10を備える。
上述した各構成によれば、触媒物質21の周辺に十分な細孔(空間)を確保できる。これにより、電極触媒層12内において三相界面を維持しつつ、電極触媒層12におけるガスの拡散性と、生成水の排出性とを高めることができる。
【0104】
[実施例]
図6、表2を参照して、膜電極接合体の実施例を説明する。
[実施例7]
白金担持カーボン触媒(TEC10E50E、田中貴金属工業(株)製)、水、1‐プロパノール、高分子電解質(ナフィオン(登録商標)分散液、和光純薬工業(株)製)、および、カーボンナノファイバー(VGCF(登録商標)-H、昭和電工(株)製)を混合して混合物を得た。なお、白金担持カーボン触媒において、白金触媒がカーボン粒子に担持されている。この混合物に対し、遊星型ボールミルを用いて30分間にわたって300rpmで分散処理を行った。その際に、直径が5mmであるジルコニアボールをジルコニア容器の3分の1程度加えた。なお、高分子電解質の質量をカーボン粒子の質量に対して100質量%とし、カーボンナノファイバーの質量をカーボン粒子の質量に対して100質量%とし、分散媒中の水の割合を50質量%とし、固形分濃度を10質量%となるようにして、酸素極用触媒インクを調整した。
【0105】
また、白金担持カーボン触媒(TEC10E30E、田中貴金属工業(株)製)、水、1‐プロパノール、高分子電解質(ナフィオン(登録商標)分散液、和光純薬工業(株)製)、および、カーボンナノファイバー(VGCF(登録商標)-H、昭和電工(株)製)を混合して混合物を得た。なお、白金担持カーボン触媒において、白金触媒がカーボン粒子に担持されている。この混合物に対し、遊星型ボールミルを用いて30分間にわたって300rpmで分散処理を行った。その際に、直径が5mmであるジルコニアボールをジルコニア容器の3分の1程度加えた。なお、高分子電解質の質量をカーボン粒子の質量に対して100質量%とし、カーボンナノファイバーの質量をカーボン粒子の質量に対して100質量%とし、分散媒中の水の割合を50質量%とし、固形分濃度を10質量%となるようにして、燃料極用触媒インクを作製した。
【0106】
酸素極用触媒インクを、高分子電解質膜(ナフィオン(登録商標)211、Dupont社製)における一方の面に、スリットダイコーターを用いて塗布することによって、150μmの厚さを有する塗膜を形成した。次いで、塗膜が形成された高分子電解質膜を80度の温風オーブンに配置し、塗膜のタックがなくなるまで塗膜を乾燥させることによって、酸素極側電極触媒層を形成した。次に、燃料極用触媒インクを、高分子電解質膜における他方の面にスリットダイコーターを用いて塗布することによって、100μmの厚さを有した塗膜を形成した。次いで、塗膜が形成された高分子電解質膜を80度の温風オーブンに配置し、塗膜のタックがなくなるまで塗膜を乾燥させることによって、燃料極側電極触媒層を形成した。これにより、実施例7の膜電極接合体を得た。
【0107】
[実施例8]
実施例7において、酸素極用触媒インクを調製するときに、カーボンナノファイバー(VGCF(登録商標)-H、昭和電工(株)製)のかわりに多層カーボンナノチューブ(直径60nm~100nm、東京化成工業(株)製)を用いた以外は、実施例7と同様の方法によって、実施例8の膜電極接合体を得た。
[実施例9]
実施例7において、酸素極用触媒インクを調製するときに、カーボンナノファイバーの量を実施例7の2分の1とした以外は、実施例7と同様の方法によって、実施例9の膜電極接合体を得た。
【0108】
[実施例10]
実施例7において、酸素極用触媒インクを調製するときに、カーボンナノファイバーの量を実施例7の5分の1とした以外は、実施例7と同様の方法によって、実施例10の膜電極接合体を得た。
[実施例11]
実施例7において、酸素極用触媒インクを調製するときに、高分子電解質の量を実施例7の3分の2とした以外は、実施例7と同様の方法によって、実施例11の膜電極接合体を得た。
【0109】
[実施例12]
実施例7と同様の方法によって、各触媒インクを調製した。酸素極用触媒インクを、PTFEフィルムの表面にスリットダイコーターを用いて塗布することによって、150μmの厚さを有した塗膜を形成した。次いで、塗膜が形成されたPTFEフィルムを80度の温風オーブンに配置し、塗膜のタックがなくなるまで塗膜を乾燥させることによって、酸素極側電極触媒層付き転写用基材を得た。次に、燃料極用触媒インクを、別のPTFEフィルムの表面にスリットダイコーターを用いて塗布することによって、100μmの厚さを有した塗膜を形成した。次いで、塗膜が形成されたPTFEフィルムを80度の温風オーブンに配置し、塗膜のタックがなくなるまで塗膜を乾燥させることによって、燃料極側電極触媒層付き転写用基材を得た。
【0110】
高分子電解質膜(ナフィオン(登録商標)211、Dupont社製)を準備し、酸素極側電極触媒層付き転写用基材を高分子電解質膜の一方の面に対向させ、かつ、燃料極側電極触媒層付き転写用基材を高分子電解質膜の他方の面に対向させることによって、積層体を形成した。加熱温度を120℃に設定し、加圧力を1MPaに設定して、積層体をホットプレスした。これによって、高分子電解質膜に2つの電極触媒層を接合した。次いで、各電極触媒層からPTFEフィルムを剥離することによって、実施例12の膜電極接合体を得た。
【0111】
[比較例6]
実施例7において、酸素極用触媒インクを調製するときに、カーボンナノファイバーの量を実施例7の2倍とした以外は、実施例7と同様の方法によって、比較例6の膜電極接合体を得た。
[比較例7]
実施例7において、酸素極用触媒インクを調製するときに、高分子電解質の量を実施例7の2倍とした以外は、実施例7と同様の方法によって、比較例7の膜電極接合体を得た。
【0112】
[比較例8]
実施例7において、酸素極用触媒インクを調製するときに、カーボンナノファイバー(VGCF(登録商標)-H、昭和電工(株)製)のかわりにカーボンナノチューブ(NC7000、Nanocyl社製)を用いた以外は、実施例7と同様の方法によって、比較例8の膜電極接合体を得た。
[比較例9]
実施例7において、燃料極用触媒インクを調製するときに、カーボンナノファイバーの量を実施例7の2倍とした以外は、実施例7と同様の方法によって、比較例9の膜電極接合体を得た。
[比較例10]
実施例7において、各触媒インクを調製するときに、カーボンナノファイバーを添加しなかった以外は、実施例7と同様の方法によって、比較例10の膜電極接合体を得た。
【0113】
[細孔容積Vpに基づく数値の算出]
細孔容積Vpの分布は、水銀圧入法により測定した。具体的には、略25平方cmの膜電極接合体を用意し、自動ポロシメーター(マイクロメリティックス社製、オートポアIV9510)を用いて、細孔容積Vpを測定した。測定セルの容積は約5cmであり、水銀圧入の圧力を3kPaから400MPaまで昇圧した。これにより、各圧力における水銀の圧入量、つまり細孔容積Vpを得た。水銀圧入の圧力をWashburnの式を用いて細孔直径Dに換算し、細孔直径Dに対する細孔容積Vpの分布関数dVp/dlogD(Log微分細孔容積分布)のプロットを作成した。なお、表面張力γを0.48N/mとし、かつ、接触角θを130°とした。そして、このプロットのピークに対応する細孔直径Dを細孔直径Dpとして読み取った。
【0114】
細孔直径Dが3nm以上5.5μm以下である全ての細孔の容積を積算して第1積算容積を算出した。細孔容積が50nm以下である細孔の容積を積算して第2積算容積を算出し、かつ、細孔容積が100nm以上である細孔の容積を積算して第3積算容積を算出した。そして、第2積算容積を第1積算容積で除算し、かつ、除算した値を100倍することによって、第1積算容積に対する第2積算容積の百分率R(S)を算出した。また、第3積算容積を第1積算容積で除算し、かつ、除算した値を100倍することによって、第1積算容積に対する第3積算容積の百分率R(L)を算出した。
【0115】
[触媒物質質量に対する第1積算容積の算出]
水銀圧入法より細孔直径Dが3nm以上5.5μm以下である全ての細孔の容積を積算して第1積算容積を算出し、触媒物質質量で除して求めた。触媒物質質量は、触媒層用スラリー塗工量から求めた質量又は乾燥質量を用いた。触媒物質質量を塗工量から求める場合は、予め触媒層用スラリーの固形分(質量%)を求めておき、所定の塗工量と固形分質量から求めた。また、触媒物質質量を乾燥質量から求める場合は、電極触媒層を所定の大きさに加工し、その質量を計量し求めた。
【0116】
[電極触媒層の幾何学的体積に対する積算細孔容積の算出]
次に、細孔直径Dが3nm以上5.5μm以下である全ての細孔の容積を積算して積算細孔容積Vを算出した。また、自動ポロシメーターによる測定に用いた膜電極接合体の面積と厚さとを乗算して、膜電極接合体の幾何学的体積を算出した。さらに、自動ポロシメーターによる測定に用いた膜電極接合体の面積と高分子電解質膜の厚さとを乗算して、高分子電解質膜の体積を算出した。膜電極接合体の体積から高分子電解質膜の体積を減算することによって、電極触媒層の幾何学的体積Vを算出した。そして、電極触媒層の幾何学的体積Vに対する積算細孔容積Vの百分率(V/V)を算出した。
【0117】
[電極触媒層の厚さ計測]
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて膜電極接合体の断面を観察することによって、膜電極接合体、カソード側電極触媒層、アノード側電極触媒層、および、高分子電解質膜の厚さを計測した。具体的には、膜電極接合体の断面を、走査型電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ製、FE‐SEM S‐4800)を用いて、1000倍の倍率で観察した。電極触媒層の断面における30カ所の観測点において各層の厚さを計測した。30カ所の観測点における厚さの平均値を各層の厚さとした。
【0118】
[発電性能の測定]
発電性能の測定には、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が刊行した小冊子である「セル評価解析プロトコル」に準拠する方法を用いた。膜電極接合体の各面に、ガス拡散層、ガスケット、および、セパレーターを配置し、所定の面圧となるように締め付けたJARI標準セルを評価用単セルとして用いた。そして、「セル評価解析プロトコル」に記載された方法に準拠してI‐V測定を実施した。このときの条件を標準条件に設定した。また、アノードの相対湿度とカソードの相対湿度とをRH100%としてI‐V測定を実施した。このときの条件を高湿条件に設定した。
【0119】
[耐久性の測定]
耐久性の測定には、発電性能の測定に用いた評価用単セルと同一の単セルを評価用単セルとして用いた。そして、上述した「セル評価解析プロトコル」に記載の湿度サイクル試験によって耐久性を測定した。
【0120】
[比較結果]
実施例7から実施例12の膜電極接合体、および、比較例6から比較例10の膜電極接合体の各々について、各評価項目における結果は、表2に示す通りであった。すなわち、各膜電極接合体において、膜電極接合体を構成する触媒物質質量Mに対する第1積算容積(ΣVp1/M)、および電極触媒層の厚さT(μm)は、表2に示す通りであった。また、各膜電極接合体において、細孔容積Vpの分布曲線におけるピークに対応する細孔直径Dp、第1積算容積に対する第3積算容積の百分率R(L)(%)、および、第1積算容積に対する第2積算容積の百分率R(S)(%)は、表2に示す通りであった。また、各膜電極接合体において、電極触媒層の体積Vに対する第1積算容積Vの百分率V/V(%)は、表2に示す通りであった。
【0121】
また、実施例7から実施例12の膜電極接合体を備える固体高分子形燃料電池、および、比較例6から比較例10の膜電極接合体を備える固体高分子形燃料電池の各々について、発電性能、および、耐久性を測定した結果は、表2に示す通りであった。
発電性能の結果において、標準条件では、単セルにおいて、電圧が0.6Vのときの電流が25A以上である場合を「○」に設定し、25A未満である場合を「×」に設定した。また、高湿条件では、単セルにおいて、電圧が0.6Vのときの電流が30A以上である場合を「○」に設定し、30A未満である場合を「×」に設定した。耐久性において、10000サイクル後の水素クロスリーク電流が初期値の10倍未満である場合を「○」に設定し、10倍以上である場合を「×」に設定した。
【0122】
【表2】
【0123】
表2に示すように、実施例7から実施例12のいずれにおいても、触媒物質質量Mに対する第1積算容積(ΣVp1/M)が2.8以上4.5以下の範囲内であることが認められた。
実施例7から実施例12のいずれにおいても、測定時の条件に関わらず発電性能が「○」であり、かつ、耐久性が「○」であることが認められた。すなわち、実施例7から実施例12の膜電極接合体は、発電性能および耐久性に優れた固体高分子形燃料電池を形成することが可能な膜電極接合体であることが認められた。
一方で、比較例6から比較例10のいずれにおいても、触媒物質質量Mに対する第1積算容積(ΣVp1/M)が、2.8以上4.5以下の範囲内である範囲には含まれないことが認められた。
【0124】
比較例6から比較例10において、標準条件および高湿条件の少なくともいずれかにおいて、発電性能が「×」であることが認められた。また、比較例7、8、10については、耐久性も「×」であることが認められた。このように、比較例6から比較例10によれば、上述した各実施例に比べて、少なくとも発電性能が低下し、耐久性が低下する場合もあることが認められた。
以上説明したように、膜電極接合体、および、燃料電池の第2実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
【0125】
(4)燃料極側電極触媒層12Aと酸素極側電極触媒層12Cのそれぞれについて、触媒物質質量に対する第1積算容積の値が2.8以上4.5以下の範囲内である場合には、直径が相対的に大きい細孔が当該範囲で含まれることによって、電極触媒層12内において三相界面を維持しつつ、電極触媒層12におけるガスの拡散性と、生成水の排出性とを高めることができる。
【符号の説明】
【0126】
10…膜電極接合体、11…高分子電解質膜、12…電極触媒層、12A…燃料極側電極触媒層、12C…酸素極側電極触媒層、13A…燃料極側ガスケット、13C…酸素極側ガスケット、21…触媒物質、22…導電性担体、23…高分子電解質、24…繊維状物質、30…固体高分子形燃料電池、30A…燃料極、30C…酸素極、31A…燃料極側ガス拡散層、31C…酸素極側ガス拡散層、32A…燃料極側セパレーター、32Ag、32Cg…ガス流路、32Aw、32Cw…冷却水流路、32C…酸素極側セパレーター
図1
図2
図3
図4
図5
図6