(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】車両の電動駐車ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
B60T 13/74 20060101AFI20231226BHJP
B60T 17/18 20060101ALI20231226BHJP
H02P 29/032 20160101ALI20231226BHJP
【FI】
B60T13/74 H
B60T17/18
H02P29/032
(21)【出願番号】P 2020091086
(22)【出願日】2020-05-26
【審査請求日】2023-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大介
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】小谷 将矢
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-157921(JP,A)
【文献】特開2012-176749(JP,A)
【文献】特開2008-265669(JP,A)
【文献】特開2018-057065(JP,A)
【文献】特開2003-083373(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/74
B60T 17/18
H02P 29/032
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気モータによって駆動され、前進方向に移動されることで駐車ブレーキを効かせ、前記前進方向とは逆方向である後退方向に移動されることで前記駐車ブレーキを解除する直動部材と、
前記電気モータを制御するコントローラと、
を備える電動駐車ブレーキ装置において、
前記コントローラは、
前記駐車ブレーキを効かせる際に、前記電気モータへの通電量が適用終了量に到達した場合に前記電気モータへの通電を停止する適用制御を実行し、
前記駐車ブレーキを解除する際に、前記電気モータへの通電時間が時間に係るしきい値を経過した場合に前記電気モータへの通電を停止する解除制御を実行し、
前記コントローラは、
前記適用制御において、前記通電量が前記適用終了量に到達しない場合には、前記時間に係るしきい値を減少修正する、電動駐車ブレーキ装置。
【請求項2】
電気モータによって駆動され、前進方向に移動されることで駐車ブレーキを効かせ、前記前進方向とは逆方向である後退方向に移動されることで前記駐車ブレーキを解除する直動部材と、
前記電気モータを制御するコントローラと、
を備える電動駐車ブレーキ装置において、
前記コントローラは、
前記駐車ブレーキを効かせる際に、前記電気モータへの通電量が適用終了量に到達した場合に前記電気モータへの通電を停止する適用制御を実行し、
前記駐車ブレーキを解除する際に、前記電気モータへの通電時間が時間に係るしきい値を経過した場合に前記電気モータへの通電を停止する解除制御を実行し、
前記コントローラは、
前記適用制御において、前記通電量が前記適用終了量に到達しない場合には、前記解除制御を禁止する、電動駐車ブレーキ装置。
【請求項3】
電気モータによって駆動され、前進方向に移動されることで駐車ブレーキを効かせ、前記前進方向とは逆方向である後退方向に移動されることで前記駐車ブレーキを解除する直動部材と、
前記電気モータを制御するコントローラと、
を備える電動駐車ブレーキ装置において、
前記コントローラは、
前記駐車ブレーキを効かせる際に、前記電気モータへの通電量が適用終了量に到達した場合に前記電気モータへの通電を停止する適用制御を実行し、
前記駐車ブレーキを解除する際に、前記電気モータへの通電時間が時間に係るしきい値を経過した場合に前記電気モータへの通電を停止する解除制御を実行し、
前記コントローラは、
前記適用制御において、
前記通電量が前記適用終了量には到達しないが、該適用終了量よりも小さい当接判定量以上となった場合には、前記解除制御を許可し、
前記通電量が前記当接判定量未満である場合には、前記解除制御を禁止する、電動駐車ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の電動駐車ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「荷重センサ等の推力測定手段を使用せずに電動アクチュエータ装置の出力を高精度に制御すること」を目的に、「セルフロック機能部を有する動力伝達機構を正方向に動作させた際の電動モータ(「電気モータ」ともいう)に流れる正方向電流と、これに続いて動力伝達機構を逆方向に動作させた際の電動モータに流れる逆方向電流の比率を求め、この比率に応じて次回以降に動力伝達機構を正方向に動作させる際の目標電流を変化させる」ことが記載されている。
【0003】
特許文献1の電動駐車ブレーキ装置では、電気モータに流れる電流値を計測しながら、電気モータへの電圧の印加状態を制御することによって、ブレーキパッドに与えられる推力が調整され、駐車ブレーキが作動される。詳細には、駐車ブレーキが作動される場合には、電気モータに正電圧が印加される。回転/直動変換機構による推力の発生が開始されるまでの期間は、電気モータには、空走電流が流される。ピストン、ブレーキパッド、及び、ブレーキディスクの全てが接触すると推力の発生が開始され、その後、ブレーキパッドはブレーキディスクにより強く押し付けられていく。このとき、推力の増大とともに電気モータの電流も増加していく。モータ電流が目標電流値に達した時点で、電気モータへの電圧印加を遮断する。更なる推力の増大は停止するが、回転/直動変換機構にはセルフロック機能部が備わっているので推力が保持された状態で電流値は「0」となる。駐車ブレーキが解除される場合には、作動時とは逆方向に電気モータに負電圧が印加される。リリース開始に必要なリリース開始電流値が発生し、以降はリリース電流の減少と同時に推力が減少される。そして、推力が「0」となった時点で、リリース動作が完了される。
【0004】
ところで、電気モータへの電力を供給する電源の電圧が低下した状況を想定する。該状況では、駐車ブレーキが作動される場合には、電気モータには十分な通電が行われないため、駐車ブレーキとして必要な推力が発生されない場合が生じ得る。一方、駐車ブレーキが解除される場合は、推力が減少されていくため、電源電圧が低下していても、電気モータは駆動される。従って、電源電圧の低下時には、電気モータによって駆動される直動部材(推力を発生させるために移動される部材)の戻し過ぎが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、電動駐車ブレーキ装置において、電源電圧が低下した場合でも、適切に作動され得るものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電動駐車ブレーキ装置は、「電気モータ(MT)によって駆動され、前進方向(Ha)に移動されることで駐車ブレーキを効かせ、前記前進方向(Ha)とは逆方向である後退方向(Hb)に移動されることで前記駐車ブレーキを解除する直動部材(TD)」と、前記電気モータ(MT)を制御するコントローラ(ECU)と、を備える。
【0008】
本発明に係る電動駐車ブレーキ装置では、前記コントローラ(ECU)は、前記駐車ブレーキを効かせる際に、前記電気モータ(MT)への通電量(Ia)が適用終了量(ijx)に到達した場合に前記電気モータ(MT)への通電を停止する適用制御を実行し、前記駐車ブレーキを解除する際に、前記電気モータ(MT)への通電時間(Tk1、Tk2)が時間に係るしきい値(tk1、tk2)を経過した場合に前記電気モータ(MT)への通電を停止する解除制御を実行する。更に、前記コントローラ(ECU)は、前記適用制御において、前記通電量(Ia)が前記適用終了量(ijx)に到達しない場合には、前記時間に係るしきい値(tk1、tk2)を減少修正する。また、前記コントローラ(ECU)は、前記適用制御において、前記通電量(Ia)が前記適用終了量(ijx)に到達しない場合には、前記解除制御を禁止してもよい。
【0009】
上記構成によれば、電源電圧が低下した場合に、必要以上に直動部材TDが引き戻されることが抑制され得る。結果、電源電圧が低下した場合であっても、電動駐車ブレーキ装置が適切に作動され得る。
【0010】
本発明に係る電動駐車ブレーキ装置では、前記コントローラ(ECU)は、前記適用制御において、前記通電量(Ia)が前記適用終了量(ijx)には到達しないが、該適用終了量(ijx)よりも小さい当接判定量(ijz)以上となった場合には、前記解除制御を許可し、前記通電量(Ia)が前記当接判定量(ijz)未満である場合には、前記解除制御を禁止する。
【0011】
上記構成によれば、電源電圧が低下した場合に、直動部材TDの過度な引き戻しが抑制されるとともに、駐車ブレーキが解除された場合のブレーキの引き摺りが回避され得る。結果、電動駐車ブレーキ装置が好適に作動され得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】制動装置DBを説明するための概略図である。
【
図2】電動駐車ブレーキ装置EPを説明するための概略図である。
【
図3】適用制御の第1の処理例を説明するためのフロー図である。
【
図4】解除制御の処理例を説明するためのフロー図である。
【
図5】適用制御による適用作動の動作、及び、解除制御による解除作動の動作を説明するための時系列線図である。
【
図6】適用制御の第2の処理例を説明するためのフロー図である。
【
図7】適用制御の第2の処理例に対応する適用作動の動作を説明するための時系列線図である。
【0013】
<制動装置DB>
図1の概略図を参照して、車両の車輪(例えば、後輪)に制動力を発生させる制動装置DBについて説明する。制動装置DBは、車輪に制動トルクを付与することによって、車輪に制動力を発生させる。例えば、制動装置DBとして、公知のドラム式ブレーキが採用される。以下の説明において、「MT」等の如く、同一記号を付された構成部材、要素、信号、特性等は同一機能のものである。また、値(例えば、通電量Ia)の大小関係は、その大きさ(即ち、絶対値)に応じて表されている。
【0014】
制動装置DBは、車輪に設けられる。制動装置DBによって、車両を減速する制動力(「減速制動力Fx」という)、及び、車両の停車状態を維持する制動力(「駐車制動力Fp」という)が発生される。減速制動力Fxは、ホイールシリンダ(図示せず)内の制動液の圧力(液圧)を動力源にして発生される。また、駐車制動力Fpは、電動アクチュエータ(単に、「アクチュエータ」ともいう)DNを動力源にして発生される。なお、減速制動力Fxはサービスブレーキに、駐車制動力Fpは駐車ブレーキに、夫々、利用される。
【0015】
《サービスブレーキの作動》
制動装置DBは、減速制動力Fxを発生するよう、ブレーキドラムBD、ブレーキシューBSa、BSb、ホイールシリンダ(図示せず)、及び、バッキングプレートBPにて構成される。
【0016】
制動装置DBでは、ブレーキドラムBDが、車輪の回転軸Jkを中心として、車輪と一体となって回転するよう、車輪に固定される。制動装置DBには、2つのブレーキシューBSa、BSbが備えられる。2つのブレーキシューBSa、BSbは、円筒状のブレーキドラムBDの内周面Mnに沿って円弧状に伸ばされている。ブレーキシューBSa、BSbには、ブレーキライニングBL(摩擦材)が焼き付けられている。制動装置DBには、円盤状のバッキングプレートBPが備えられる。バッキングプレートBPの車幅方向外方には、図示しないホイールシリンダ、ブレーキシューBSa、BSb等が配置されている。
【0017】
ホイールシリンダによって、2つのブレーキシューBSa、BSbが、ブレーキドラムBDの内周面Mnに押圧される。これにより、ブレーキシューBSa、BSbに設けられたブレーキライニングBLと、ブレーキドラムBD(特に、内周面Mn)との摩擦によって、ブレーキドラムBDに制動トルクが付与され、その結果、車輪は制動力Fxを発生する。つまり、ホイールシリンダは、走行中の車両減速に用いられる。
【0018】
具体的には、ブレーキシューBSa、BSbの下端部が、2つの回転位置Ja、Jbを中心にして回転可能に、バッキングプレートBPに支持される。ホイールシリンダは、バッキングプレートBPの上端部に支持されている。ホイールシリンダは、車両前後方向に突出可能な2つの可動部(ピストン)を有し、この可動部は、ホイールシリンダ内の制動液の圧力によって、突出される。可動部の突出によって、ブレーキシューBSa、BSbの上端部が押され、ブレーキライニングBLが、ブレーキドラムBDの内周面Mnに押圧される。ブレーキライニングBLと内周面Mnとの摩擦によって、ブレーキドラムBDに制動トルクが付与され、車輪が制動される。
【0019】
なお、制動装置DBは、図示しない復帰部材(例えば、コイルスプリング)が備えられ、この復帰部材によって、ブレーキシューBSa、BSbの押圧が解除された場合には、ブレーキシューBSa、BSbが、ブレーキドラムBDの内周面Mnから離れるように移動される。
【0020】
《駐車ブレーキの作動》
制動装置DBには、駐車制動力Fpを発生するよう、上記の構成部材(ブレーキドラムBD等)に加え、電動アクチュエータDN、駐車レバーPL、駐車ケーブルCB、及び、シューストラットSTが含まれている。
【0021】
電動アクチュエータDNは、ブレーキシューBSa、BSbを駆動するアクチュエータとして、駐車時の制動に用いられる。具体的には、電気モータMTによって駆動される電動アクチュエータDN(単に、「アクチュエータ」ともいう)によって、駐車制動力Fpを発生させるよう、2つのブレーキシューBSa、BSbが移動される。アクチュエータDNの詳細については後述する。なお、アクチュエータDNは、走行中の制動(即ち、サービスブレーキ)に用いられてもよい。
【0022】
駐車レバーPLが、2つのブレーキシューBSa、BSbのうちの一方(例えば、ブレーキシューBSa)と、バッキングプレートBPとの間で、当該ブレーキシューBSa、及び、バッキングプレートBPに重なるように、設けられている。駐車レバーPLは、ブレーキシューBSaに、回転軸Jpを中心として回転可能に支持されている。駐車レバーPLでは、回転軸Jpから遠い側の下端部Pbに、駐車ケーブルCBが接続される。
【0023】
シューストラットSTが、2つのブレーキシューBSa、BSbとの間に設けられる。駐車ブレーキを効かせる際には、アクチュエータDNによって、駐車ケーブルCBが引っ張られる。これにより、駐車レバーPLは、適用方向Da(駐車制動力Fpが増加する方向)に移動される。このとき、駐車レバーPLは、回転軸Jpを中心に回転しようとするため、シューストラットSTが、2つのブレーキシューBSa、BSbとの間で突っ張る。シューストラットSTの突っ張りによって、一方のブレーキシューBSbが押され、その反力によって、他方のブレーキシューBSaが押される。結果、ブレーキシューBSa、BSbのブレーキライニングBLが、ブレーキドラムBDの内周面Mnに押圧され、駐車制動力Fpが発生される。
【0024】
駐車ブレーキを解除する際には、アクチュエータDNによって、駐車ケーブルCBの張力が減少される。これにより、駐車レバーPLは解除方向Db(駐車制動力Fpが減少する方向)に移動される。ブレーキドラムBDの内周面Mnに対するブレーキライニングBLの押圧力が減少される。そして、ブレーキドラムBDの内周面MnとブレーキライニングBLとは、復帰部材によって、最終的には離間される。
【0025】
以上、制動装置DBについて説明したが、より詳細については、「特開2019-116965号公報」に記載されている。
【0026】
<電動駐車ブレーキ装置EP>
図2の部分断面図を含む概略図を参照して、本発明に係る電動駐車ブレーキ装置EPの実施形態について説明する。電動駐車ブレーキ装置EPが備えられる車両には、駐車ブレーキ用スイッチ(単に、「駐車スイッチ」ともいう)SWが設けられる。駐車スイッチSWは、運転者によって操作されるスイッチであり、オン又はオフの信号Sw(「駐車信号」という)が、電子制御ユニットECU(「コントローラ」ともいう)に対して出力される。即ち、運転者が操作する駐車スイッチSWによって、車両の停止状態を維持する駐車ブレーキの作動(適用作動、又は、解除作動)が指示される。具体的には、駐車信号Swのオン状態(ON)で、駐車ブレーキが効くように、その適用(作動)が指示される。逆に、駐車信号Swのオフ状態(OFF)で、駐車ブレーキが効かないように、その解除(作動)が指示される。
【0027】
車両には、複数のコントローラ(電子制御ユニット)が備えられる。これらのコントローラは、信号(検出値、演算値等)が共有されるよう、通信バスBSにて接続されている。例えば、コントローラECUには、通信バスBSから、車体速度Vx、加速操作部材(例えば、アクセルペダル)の操作量Ap等が入力される。車体速度Vx、加速操作量Apは、後述する電動駐車ブレーキ装置EPの自動モードに用いられる。なお、以下の説明では、解除制御を含む駐車ブレーキ制御は、コントローラECUにて演算されるが、他のコントローラにて駐車ブレーキ制御(適用制御、解除制御)の処理が行われ、通信バスBSを介してコントローラECUに指示が行われてもよい。
【0028】
車両には、報知ユニットHCが設けられる。報知ユニットHCは、運転者に対して、電動駐車ブレーキ装置EPの不調状態を報知するものである。報知ユニットHCは、コントローラECUからの報知信号Hcに基づいて、視覚的(例えば、インジケータ点灯)、聴覚的(例えば、報知音)に、運転者に対して報知を行う。
【0029】
電動駐車ブレーキ装置EPは、アクチュエータDN、及び、コントローラECUにて構成される。アクチュエータDNは、電気モータMTによって、駐車制動力Fpを発生する。電動アクチュエータDNの詳細については、制動装置DBと同様に、「特開2019-116965号公報」に記載されている。以下、アクチュエータDNについて簡単に説明する。なお、本発明に係る電動駐車ブレーキ装置EPの特徴部は、コントローラECUにプログラムされた制御アルゴリズムである。
【0030】
《電動アクチュエータDN》
電動アクチュエータDNは、バッキングプレートBPに対してブレーキシューBSa、BSbとは反対側に、バッキングプレートBPの車幅方向の内側面に固定される。アクチュエータDNからは、駐車ケーブルCBが伸ばされる。駐車ケーブルCBは、バッキングプレートBPに設けられた貫通孔を貫通し、駐車レバーPL(特に、下端部Pb)に接続されている。
【0031】
アクチュエータDNは、ハウジングHG、電気モータMT、減速機GS、動力変換機構HN、駐車ケーブルCB、及び、エンド部材ENを備えている。ハウジングHGは、電気モータMT、減速機GS、及び、動力変換機構HNを支持するとともに、これらの構成部材を覆っている。電気モータMTは、駐車制動力Fpを発生すために動力源である。電気モータMTは、コントローラECUによって駆動される。
【0032】
減速機GSは、複数のギヤにて構成される。例えば、減速機GSは、大径ギヤDK、及び、小径ギヤSKを含んでいる。電気モータMTの出力シャフトSFには、小径ギヤSKが固定される。小径ギヤSKには、大径ギヤDKが噛み合わされる。電気モータMTの出力(即ち、出力シャフトSFの回転動力)は、減速機GSを介して、減速される。減速された電気モータMTの回転動力は、動力変換機構HNに入力される。
【0033】
動力変換機構HNは、回転部材KT、直動部材TD、及び、回り止め部材MDにて構成される。回転部材KTには、大径ギヤDKが固定される。従って、回転部材KTは、大径ギヤDKと一体となって回転駆動される。回転部材KTは、円筒形状を有し、その外周部には、雄ねじOjが形成される。回転部材KTは、「ボルト部材」である。
【0034】
回転部材KTの雄ねじOjは、直動部材TDの雌ねじMjに螺合される。具体的には、直動部材TDは、筒形形状を有し、その内周部(貫通孔の内側)には雌ねじMjが形成されている。直動部材TDは、「ナット部材」である。動力変換機構HNでは、回転部材KT(ボルト部材)と直動部材TD(ナット部材)とが噛み合わされて、電気モータMTの回転動力が、直線動力に変換される。ここで、動力変換機構HNとして、セルフロックするもの(逆効率がゼロである機構)が採用される。
【0035】
ハウジングHGに固定される回り止め部材MDによって、直動部材TDの回転運動が規制される。即ち、回り止め部材MDによって、直動部材TDの回り止めがなされ、直動部材TDの直線移動がガイドされる。例えば、直動部材TDの外周部には、フランジ部Flが設けられ、このフランジ部Flには、少なくとも1つの2面取りが形成されている。回り止め部材MDは筒形状を有し、その内面が、フランジ部Flの2面取りに嵌め合い可能なように加工されている。フランジ部Flの2面取り部分(平面)と、回り止め部材MDの2面取り部分(平面)とが摺動することによって、直動部材TDの回転運動が規制される。これにより、直動部材TDは、回転部材KTの回転軸Jnに沿って、直線移動される。なお、回り止め部材MDには、大径ギヤDKが固定された側とは反対側に、端面Mbが形成されている。
【0036】
駐車ケーブルCBは、回転部材KTの内周面(貫通孔)を貫通し、回転軸Jnの方向に延ばされている。駐車ケーブルCBの一端は、ブレーキシューBSa、BSbを作動させるよう、可動部材である駐車レバーPLに結合されている。駐車ケーブルCBの他端には、エンド部材ENが結合される。エンド部材ENは、筒状部とフランジ部とを有している。エンド部材ENの筒状部が外側から加締められることにより、駐車ケーブルCBとエンド部材ENとは接合(固定)される。エンド部材ENのフランジ部(特に、端面Ma)は、直動部材TDの端部Mcよりも、径方向外方に張り出し、端部Mcに当接可能である。また、該フランジ部(特に、端面Ma)は、回り止め部材MDの端面Mbに当接可能である。
【0037】
図2において、回転部材KTの回転軸Jn(一点鎖線)に対して左側に示す状態(a)は、電気モータMTが駆動され、駐車ケーブルCBに張力が加えられた状態を図示する。状態(a)では、ブレーキシューBSa、BSbがブレーキドラムBDに押圧され、電動駐車ブレーキ装置EPによって車輪が拘束されている(即ち、車輪に駐車制動力Fpが加えられる状態である)。該状態(a)が、「適用状態」と称呼され、駐車ブレーキが効いている状態である。
【0038】
図2において、回転部材KTの回転軸Jnに対して右側に示す状態(b)は、駐車ケーブルCBへの張力が解放された状態を図示する。ここで、エンド部材ENと直動部材TDとは、一体化されておらず、軸方向に分離可能に構成されている。状態(b)では、ブレーキシューBSa、BSbはブレーキドラムBDから離れていて、車輪には駐車制動力Fpが作用しない。該状態(b)が、「解放状態」と称呼され、駐車ブレーキが効いていない状態である。
【0039】
《コントローラECU》
コントローラECU(電子制御ユニット)によって、電気モータMTが制御され、アクチュエータDNが駆動される。コントローラECUは、マイクロプロセッサMP等が実装された電気回路基板と、マイクロプロセッサMPにプログラムされた制御アルゴリズムと、が含まれている。マイクロプロセッサMP内の制御アルゴリズムに基づいて、電気モータMTを制御するための駆動信号Mtが演算される。また、コントローラECUには、電気モータMTを駆動するよう、駆動回路DRが備えられる。駆動回路DRでは、スイッチング素子(MOS-FET、IGBT等のパワー半導体デバイス)によってブリッジ回路が形成される。各スイッチング素子の通電状態が、駆動信号Mtに応じて制御され、電気モータMTの出力が制御される。駆動回路DRには、電気モータMTの実際の通電量Iaを検出する通電量センサIAが備えられる。例えば、通電量センサIAとして、電流センサが採用され、電気モータMTへの供給電流Iaが検出される。
【0040】
駐車ブレーキの適用作動(即ち、駐車ブレーキが効くように、解除状態(b)から適用状態(a)への遷移)について説明する。駐車ブレーキが適用される際のアクチュエータDNの制御が「適用制御」と称呼される。駐車スイッチSWが操作され、駐車信号Swが、オフからオンに切り替えられると、電気モータMTに通電が開始される。電気モータMTは正転方向に回転駆動され、この回転動力は、減速機GSを介して、回転部材KTに伝達される。回転部材KTの回転動力は、直動部材TDの直線動力に変換される。ここで、直動部材TDは、回り止め部材MD(特に、フランジ部Flの2面取り部と内周部Mm)によって、回転軸Jnに沿った動き(前進方向Haへの移動)にガイドされる。駐車ブレーキを効かせる際には、直動部材TDは前進方向Haに移動される。直動部材TDの前進方向Haは、電気モータMTの正転方向、及び、駐車レバーPLの適用方向Daに対応している。回転部材KTの端部Mcとエンド部材ENの端面Maとが当接していない状態では、駐車ケーブルCBには張力がかからない。従って、電気モータMTでは、回転部材KT、直動部材TD、回り止め部材MD等の動きに対する摩擦力(摺動摩擦)に応じた出力が発生される。
【0041】
駐車ケーブルCBとエンド部材ENとは固定されているため、回転部材KTの端部Mcとエンド部材ENの端面Maとが当接すると、駐車ケーブルCBに張力が生じる。エンド部材ENが、前進方向Haに移動されることによって、駐車ケーブルCBの張力は増加され、駐車レバーPLの下端部Pbは、適用方向Daに移動される。これにより、ブレーキドラムBDに対するブレーキライニングBLの押圧力が増加され、駐車制動力Fpが増加される。電気モータMTのトルク出力は、通電量Iaと概ね比例するため、通電量Iaが適用終了量ijxに到達する時点で、電気モータMTへの通電が停止される。ここで、適用終了量ijxは、予め設定された所定値(定数)であって、駐車ブレーキが効くよう、ブレーキライニングBLとブレーキドラムBDとの押圧状態が十分に確保され得る値に相当する。動力変換機構HNはセルフロックするため、電気モータMTへの通電停止後も、駐車ケーブルCBの張力は維持され、駐車ブレーキが効いた状態(即ち、適用状態)が維持される。
【0042】
次に、駐車ブレーキの解除作動(即ち、駐車ブレーキが効かないように、適用状態(a)から解除状態(b)への遷移)について説明する。駐車ブレーキが解除される際のアクチュエータDNの制御が「解除制御」と称呼される。駐車スイッチSWが操作され、駐車信号Swが、オンからオフに切り替えられると、電気モータMTに通電が開始される。電気モータMTは逆転方向に回転駆動される。電気モータMTの回転動力によって、直動部材TDは、後退方向Hb(前進方向Haとは逆方向(反対方向))に移動される。これにより、駐車ケーブルCBの張力が減少され、駐車制動力Fpが減少される。そして、エンド部材ENの端面Maが、回り止め部材MDの端部Mbに当接する。ここまでは、エンド部材ENと直動部材TDとは一体となって移動される。つまり、駐車ブレーキを解除する際(効かなくする際)には、直動部材TDは後退方向Hbに移動される。なお、直動部材TDの後退方向Hbは、電気モータMTの逆転方向、及び、駐車レバーPLの解除方向Dbに対応している。
【0043】
更に、電気モータMTが逆転方向に駆動されると、エンド部材ENと直動部材TDとが、離間(分離)される。これにより、駐車ケーブルCBの張力は、略ゼロにされる。これ以降、電気モータMTは、時間Tに基づいて逆転方向に駆動される。そして、直動部材TDの端部Mk(端部Mcとは反対側)と、回転部材KTの部位Mdとが、或る程度の距離(即ち、隙間Lr)を有した状態で、電気モータMTへの通電が停止され、直動部材TDの後退方向Hbの移動が停止される。換言すれば、直動部材TDの移動停止時には、直動部材TDの端部Mkと回転部材KTの部位Mdとは隙間を有していて、ストッパ等が不要な構成にされている。
【0044】
<適用制御の第1の処理例>
図3のフロー図を参照して、適用制御の第1の処理例について説明する。ここで、「適用制御」は、駐車ブレーキが効いていない解除状態から、それが効いている適用状態に遷移させるため(即ち、駐車ブレーキの適用作動するため)の電気モータMTの駆動制御である。適用制御は、駐車信号Swがオフからオンに切り替えられた時点で開始される。ここで、駐車信号Swがオフからオンに切り替えられることが、「適用指示」と称呼される。適用制御では、電気モータMTへの通電(例えば、正電圧の印加)が行われ、電気モータMTが正転方向に駆動される。
【0045】
ステップS110にて、駐車信号Sw、及び、実際の通電量Iaを含む各種信号が読み込まれる。例えば、通電量Ia(実際値)は、駆動回路DRに設けられた通電量センサIAによって検出される。また、通電量センサIAは、電気モータMTに内蔵されていてもよい。
【0046】
ステップS120にて、電気モータMTへの通電が行われる。具体的には、駐車信号Swが、オフからオンに遷移する適用指示の時点(対応する演算周期)で、電気モータMTに正符号(+)の電圧が印加される。通電が開始された以降は、ステップS120では、電気モータMTへの正電圧の印加が継続される。これにより、電気モータMTは正転方向に駆動され続ける。
【0047】
ステップS130にて、適用継続時間Tjが演算される。適用継続時間Tjは、駐車ブレーキの適用開始時点(該当する演算周期)からの時間である。ここで、「適用開始時点」は、「駐車ブレーキの適用指示が開始された時点」である。例えば、該時点は、駐車スイッチSWが、オフ状態からオン状態に切り替えらえた時点(つまり、駐車信号Swのオフ信号がオン信号に遷移した時点)である。また、「適用開始時点」は、「電気モータへの正転方向に対応する通電が開始された時点」であってもよい。この場合、コントローラECUとは別のコントローラにて、駐車ブレーキ制御の処理が行われ、通信バスBSを通して、コントローラECUに対して、電気モータMTの通電開始の指示が行われる。何れにしても、ステップS130では、適用継続時間Tjが、積算されて、決定される。
【0048】
ステップS140にて、通電量Iaに基づいて、最大通電量Imが演算される。最大通電量Imは、電気モータMTに通電される通電量(例えば、電流値)の最大値である。具体的には、最大通電量Imは、演算周期において、通電量Iaの前回値Ia[n-1]と、通電量Iaの今回値Ia[n]との比較に基づいて演算される。ここで、「n」は演算周期を表す。なお、最大通電量Imの演算においては、突入電流(電気モータMTの起動時に流れる電流であって、「起動電流」ともいう)の影響が排除される。
【0049】
例えば、ステップS140では、先ず、「電気モータMTへの通電量Iaが一定であるか、否か」が判定される。該判定は、通電量Iaが一定状態であることを判定するものであり、「適用一定判定」と称呼される。例えば、通電量Iaの一定状態は、通電量Iaが、予め設定された所定の範囲内(適用判定量ijの範囲内)に収まった状態が、所定時間tj(「適用判定時間」という)に亘って継続された時点で判定される。また、通電量Iaの一定状態は、通電量Iaにおいて、時間Tについての変化量dI(通電量Iaの時間微分値)が所定変化量dj(「適用判定変化量」という)以下である状態が、適用判定時間tjに亘って継続された時点で判定されてもよい。ここで、適用判定量ij、適用判定時間tj、及び、適用判定変化量djは予め設定された定数(所定値)である。
【0050】
そして、ステップS140では、適用一定判定において、通電量Iaが一定ではない場合には、最大通電量Imは演算されず、通電量Iaが一定となった場合に、最大通電量Imが演算される。つまり、電気モータMTに突入電流が流れ、通電量Iaが一定ではない場合には、最大通電量Imが演算されない。突入電流の影響がなくなり、通電量Iaの一定状態が判定された後に、通電量Iaに基づいて、最大通電量Imが演算される。
【0051】
突入電流が流れる時間は既知であるため、上記の適用一定判定の実行に代えて、最大通電量Imの演算が、適用開始時点から所定時間tmに亘って禁止されてもよい。ここで、所定時間tmは、予め設定された所定値(定数)であって、「演算禁止時間」と称呼される。該構成では、適用開始時点から、演算禁止時間tmが経過するまでは、最大通電量Imは演算されない。そして、演算禁止時間tmの経過後、最大通電量Imが、通電量Iaに基づいて演算される。
【0052】
ステップS150にて、「通電量Iaが適用終了量ijx以上であるか、否か(「通電量条件」という)」が判定される。適用終了量ijxは、駐車ブレーキが効くよう、ブレーキライニングBLとブレーキドラムBDとの十分な押圧状態に相当する値(所定の定数)として、予め設定されている。「Ia≧ijx」であり、ステップS150が肯定される場合には、処理は、ステップS190に進められる。一方、「Ia<ijx」であり、ステップS150が否定される場合には、処理は、ステップS160に進められる。
【0053】
ステップS160にて、「適用継続時間Tjが適用終了時間tjx以上であるか、否か(「時間条件」という)」が判定される。適用終了時間tjxは、通電量条件(ステップS150の条件)が満足されない場合に、適用制御を実行時間で強制的に終了するためのものであり、予め設定された所定値(定数)である。換言すれば、適用終了時間tjxは、適用継続時間Tjに対応した、適用制御における時間に係るしきい値であり、「適用しきい時間」ともいう。「Tj≧tjx」であり、ステップS160が肯定される場合には、処理は、ステップS170に進められる。一方、「Tj<tjx」であり、ステップS160が否定される場合には、処理は、ステップS110に戻される。
【0054】
ステップS170にて、最大通電量Imに基づいて、第1解除終了時間tk1、及び、第2解除終了時間tk2のうちの少なくとも1つが修正される。具体的には、ステップS170では、最大通電量Imが小さいほど、第1、第2解除終了時間tk1、tk2が小さくなるように修正される(即ち、短縮される)。ここで、第1、第2解除終了時間tk1、tk2は、後述する解除制御のパラメータである「時間に係るしきい値(しきい時間)」であり、「第1、第2解除しきい時間」とも称呼される。ステップS170にて、適用制御に続く解除制御(「次回の解除制御」という)における、第1解除終了時間tk1、及び、第2解除終了時間tk2のうちの少なくとも1つが減少して修正されることによって、次回の解除制御が終了され易くされる(即ち、時間的に、早めに通電が停止される)。
【0055】
例えば、該修正は、演算ブロックTKに示すような演算マップZt1、Zt2に従って修正(調整)される。第1解除終了時間tk1は、最大通電量Im、及び、演算マップZt1に基づいて、最大通電量Imが小さいほど、(徐々に)小さくなるように修正される。また、第2解除終了時間tk2は、最大通電量Im、及び、演算マップZt2に基づいて、最大通電量Imが小さいほど、(徐々に)小さくなるように修正される。ここで、第1、第2解除終了時間tk1、tk2には、上限値to、tq、及び、下限値tp、tsが設けられる。なお、第1、第2解除終了時間tk1、tk2の上限値to、tqは、ステップS150の条件(通電量条件)が満足されることによって電気モータMTへの通電が停止される場合に対応している。
【0056】
また、ステップS170では、第1、第2解除終了時間tk1、tk2は、演算ブロックTKの破線で示す特性に従って、所定量im、in(適用終了量ijxよりも小さい値)以上では、相対的に大きい値to、tqとして演算され、所定量im、in未満では、相対的に小さい値tp、tsとして演算されてもよい。即ち、通電量条件が満足されて適用制御が終了された場合には、第1、第2解除終了時間tk1、tk2が、夫々の初期値としての所定値to、tpに設定される。一方、通電量条件が満足されずに、時間条件が満足されて適用制御が終了された場合(即ち、通電量Iaが適用終了量ijxに到達しない場合)には、第1解除終了時間tk1、及び、第2解除終了時間tk2のうちの少なくとも1つが、初期値to、tqから減少(短縮)される。何れにしても、電気モータMTに供給された最大通電量Im(即ち、ブレーキドラムBDに対するブレーキライニングBLの押圧状態)に応じて、その後の解除制御の制御パラメータ(第1、第2解除終了時間)tk1、tk2が減少修正される。
【0057】
或いは、ステップS170では、次回の解除制御(適用制御に続いて実行される解除制御)の実行が禁止されてもよい。つまり、通電量条件によって適用制御が終了されず、時間条件によって適用制御が終了される場合(即ち、通電量Iaが適用終了量ijxに到達しない場合)には、その後の解除制御が禁止され、解除作動の指示(解除指示)が行われても解除作動は行われない。なお、この解除制御の禁止は、第2解除終了時間tk2が「0」に設定されることによって達成可能である。従って、「解除制御の禁止」は、「解除しきい時間の減少修正」に含まれる概念である。
【0058】
ステップS180にて、時間条件(ステップS160の条件)が満足されたことが、運転者に対して報知される。該処理が、「報知処理」と称呼される。報知処理によって、電動駐車ブレーキ装置EPが適正には作動していない状態(例えば、電源電圧の低下の発生)が、運転者に知らされる。該報知は、報知ユニットHCを介して、視覚的、及び/又は、聴覚的に行われる。報知処理が行われた後に、処理は、ステップS190に進められる。
【0059】
ステップS190にて、電気モータMTへの電圧の印加が停止され、通電が停止される。即ち、通電量Iaが適用終了量ijxに到達した場合、或いは、適用継続時間Tjが適用終了時間tjxに到達した場合に、ステップS190にて、適用制御が終了される。動力変換機構HNはセルフロックするため、電気モータMTへの通電が停止されても、駐車ブレーキが効いた状態(即ち、適用状態)が維持される。
【0060】
以上で説明したように、電動駐車ブレーキ装置EPでは、駐車ブレーキが適用される際には、電気モータMTへの通電量Iaが適用終了量ijx以上になった時点で電気モータMTへの通電が停止される(通電量条件に応じた適用制御の終了)。また、蓄電池等の電源の電圧が低下している状況では、通電量Iaが適用終了量ijx以上とはならない場合が生じ得る。このような場合には、適用継続時間Tjが適用終了時間tjxに到達した時点で電気モータMTへの通電が停止される(時間条件に応じた適用制御の終了)。電気モータMTへの通電停止によって、直動部材TDの前進方向Haへの移動が終了され、ブレーキドラムBDに対するブレーキライニングBLの押圧力は保持される。ここで、時間条件で通電停止された場合の押圧力は、通電量条件で通電停止された場合の押圧力よりも小さい。
【0061】
「Tj≧txj」にて通電停止された場合には、該適用制御の直後(即ち、次回)の解除制御においては、時間に係る制御パラメータ(即ち、第1、第2解除しきい時間tk1、tk2のうちの少なくとも1つ)が、「Ia≧ijx」にて通電停止された場合に比較して減少するように修正(調整)される。この減少修正により、直動部材TDが後退方向Hbに移動され難くなっているため、直動部材TDの戻し過ぎ(即ち、後退方向Hbへの移動)が抑制され得る。即ち、電源電圧が低下した場合でも、電動駐車ブレーキ装置EPは適切に作動され得る。
【0062】
<解除制御の処理例>
図4のフロー図を参照して、解除制御の処理例について説明する。ここで、「解除制御」は、駐車ブレーキが、効いている適用状態から、効いていない解除状態に遷移させるため(即ち、駐車ブレーキの解除作動するため)の電気モータMTの駆動制御である。解除制御は、駐車信号Swがオンからオフに切り替えられた時点で開始される。ここで、駐車信号Swがオンからオフに切り替えられることが、「解除指示」と称呼される。解除制御では、電気モータMTへの通電(例えば、負電圧の印加)が行われ、電気モータMTが逆転方向に駆動される。
【0063】
ステップS210にて、駐車信号Sw、及び、実際の通電量Iaを含む各種信号が読み込まれる。ステップS220にて、電気モータMTへの通電が行われる。具体的には、駐車信号Swが、オンからオフに遷移する解除指示の時点(対応する演算周期)で、電気モータMTに負符号(-)の電圧が印加される。通電が開始された以降は、ステップS220では、電気モータMTへの負電圧の印加が継続される。これにより、電気モータMTは逆転方向に駆動され続ける。
【0064】
ステップS230にて、第2解除継続時間Tk2が演算される。第2解除継続時間Tk2は、駐車ブレーキの解除開始時点(該当する演算周期)からの時間であり、「電気モータMTへの通電時間」の1つである。ここで、「解除開始時点」は、「駐車ブレーキの解除指示が開始された時点」である。例えば、該時点は、駐車スイッチSWが、オン状態からオフ状態に切り替えらえた時点(つまり、駐車信号Swのオン信号がオフ信号に遷移した時点)である。また、「解除開始時点」は、「電気モータへの逆転方向に対応する通電が開始された時点」であってもよい。この場合、コントローラECUとは別のコントローラにて、駐車ブレーキ制御の処理が行われ、通信バスBSを通して、コントローラECUに対して、電気モータMTの通電開始の指示が行われる。何れにしても、ステップS230では、第2解除継続時間Tk2が、積算されて、決定される。
【0065】
ステップS240にて、「電気モータMTへの通電量Iaが一定であるか、否か」が判定される。該判定は、通電量Iaが一定状態であることを判定するものであり、「解除一定判定」と称呼される。例えば、通電量Iaの一定状態は、通電量Iaが、予め設定された所定の範囲内(解除判定量ihの範囲内)に収まった状態が、所定時間th(「解除判定時間」という)に亘って継続された時点で判定される。また、通電量Iaの一定状態は、通電量Iaにおいて、時間Tについての変化量dI(通電量Iaの時間微分値)が所定変化量dh(「解除判定変化量」という)以下である状態が、解除判定時間thに亘って継続された時点で判定されてもよい。ここで、解除判定量ih、解除判定時間th、及び、解除判定変化量dhは予め設定された定数(所定値)である。
【0066】
通電量Iaが一定状態となった状態は、「駐車ケーブルCBの張力が略ゼロになり、ブレーキライニングBL(摩擦材)とブレーキドラムDB(車輪と一体となって回転する車輪部材であり、摩擦材BLと接触する部材)とが、略接触しなくなった状態」に対応している。従って、一定状態にて供給される通電量Iaは、電気モータMT(ベアリング等)、動力伝達部材(減速機GS、動力変換機構HN等)の摩擦(摺動摩擦)に起因する値に相当する。
【0067】
解除一定判定のロバスト性が向上されるよう、「通電量Iaが解除量ikx未満であること」が許可条件として、解除一定判定の条件に加えられてもよい。例えば、動力伝達部材(減速機GS、動力変換機構HN等)の伝達効率が低下した場合には、通電量Iaの時間Tに対する減少量(「低下勾配」という)が小さくなり、ブレーキライニングBLがブレーキドラムBDに、未だ接触している状態であっても、通電量Iaの一定状態が判定される場合が生じ得る。従って、「Ia≧ikx」の状態では、一定判定の実行が禁止され、「Ia<ikx」の状態になった場合に限って、解除一定判定の実行が許可される。ここで、解除量ikxは、予め設定された所定値(定数)である。解除量ikxは、通常状態(常温)において電気モータMTが無負荷で駆動される場合(即ち、電気モータMT、減速機GS、回転部材KT、直動部材TD、回り止め部材MD等の摺動摩擦)に相当する通電量よりも、僅かに大きい値に設定される。
【0068】
ステップS240にて、「通電量Iaが一定であること」が否定される場合には、処理は、ステップS210に戻される。一方、「通電量Iaが一定であること」が肯定される場合には、処理は、ステップS250に進められる。
【0069】
ステップS250にて、第1解除継続時間Tk1が演算される。第1解除継続時間Tk1は、ステップS240が初めて肯定された時点(該当する演算周期)からの時間であり、「電気モータMTへの通電時間」の1つである。換言すれば、第1解除継続時間Tk1は、通電量Iaが一定でない状態から、通電量Iaが一定である状態に切り替わった(遷移した)時点から経過した時間である。
【0070】
ステップS260にて、「第1解除継続時間Tk1が第1解除終了時間tk1以上であるか、否か」が判定される。ここで、第1解除終了時間tk1は、第1解除継続時間Tk1に対応する、時間に係るしきい値(第1解除しきい時間)であり、演算ブロックTKにて最大通電量Imに基づいて演算された状態変数である。「Tk1<tk1」であり、ステップS260が否定される場合には、処理は、ステップS270に進められる。一方、「Tk1≧tk1」であり、ステップS260が肯定される場合には、処理は、ステップS300に進められる。
【0071】
ステップS270にて、「第2解除継続時間Tk2が第2解除終了時間tk2以上であるか、否か」が判定される。ここで、第2解除終了時間tk2は、第2解除継続時間Tk2に対応する、時間に係るしきい値(第2解除しきい時間)であり、演算ブロックTKにて最大通電量Imに基づいて演算された状態変数である。「Tk2<tk2」であり、ステップS270が否定される場合には、処理は、ステップS210に戻される。一方、「Tk2≧tk2」であり、ステップS270が肯定される場合には、処理は、ステップS280に進められる。
【0072】
第1、第2解除終了時間tk1、tk2は、解除制御において、総称して、「電気モータMTへの通電時間Tk1、Tk2」に対応する「時間に係るしきい値(解除しきい時間)」と称呼される。換言すれば、第1解除継続時間Tk1は該通電時間の1つに相当し、第1解除終了時間tk1はこれに対応する解除しきい時間の1つに相当する。また、第2解除継続時間Tk2は該通電時間の1つに相当し、第2解除継続時間Tk2はこれに対応する解除しきい時間の1つに相当する。つまり、解除制御において、第1解除継続時間Tk1、及び、第1解除終了時間tk1のうちの少なくとも1つが「通電時間」であり、該通電時間に対応する第1解除終了時間tk1、及び、第2解除終了時間tk2のうちの少なくとも1つが「時間に係るしきい値(解除しきい時間)」である。
【0073】
ステップS280にて、「電気モータMTへの通電量Iaが一定であるか、否か(解除一定判定であって、ステップS240と同じ処理)」が判定される。通電量Iaが一定であり、ステップS280が肯定される場合には、処理は、ステップS300に進められる。一方、通電量Iaが一定ではなく、ステップS280が否定される場合には、処理は、ステップS290に進められる。
【0074】
ステップS290にて、運転者に対しての報知が行われる。該処理は、ステップS180と同様の処理であり、「報知処理」と称呼される。報知処理によって、電動駐車ブレーキ装置EPが適正には作動していない状態(例えば、動力伝達機構の効率低下)が、報知ユニットHCを介して、視覚的、及び/又は、聴覚的な方法によって運転者に知らされる。運転者への報知が行われた後に、処理は、ステップS300に進められる。
【0075】
ステップS300にて、電気モータMTへの電圧の印加が停止され、通電が停止される。つまり、第1解除継続時間Tk1(「通電時間」の1つに相当)が第1解除終了時間tk1(「時間に係るしきい値」の1つ)に到達した場合、或いは、第2解除継続時間Tk2(「通電時間」の1つに相当)が第2解除終了時間tk2(「時間に係るしきい値」の1つ)に到達した場合に、ステップS300にて、解除制御が終了され、直動部材TDの後退方向Hbへの移動が停止される。
【0076】
電動駐車ブレーキ装置EPでは、駐車ブレーキが解除される際には、電気モータMTへの通電量Iaが一定になった時点から第1解除終了時間tk1を経過した時点(対応する演算周期)で電気モータMTへの通電が停止され、直動部材TDは静止する。解除制御終了の時点では、直動部材TDの端部Mkと回転部材KTの部位Mdとは、隙間Lrを有し、接触していない。換言すれば、電動駐車ブレーキ装置EPの解除制御は時間Tに応じて行われるため、ストッパ等の移動制限部材に対する当接によって、直動部材TDの後退方向Hbへの移動が規制される必要がない。
【0077】
従って、電動駐車ブレーキ装置EPが解除されている状態において、電気モータMT、及び、電気モータMTによって駆動される部材(直動部材TD、回転部材KT等)は、非拘束状態(フリー状態)にある。具体的には、駐車ブレーキの解除状態(即ち、駐車ブレーキが効いていない状態)において、動力変換機構HNの雄ねじOjと雌ねじMjとが締め付けられることがない。このため、再度、駐車ブレーキ指示が行われ、電動駐車ブレーキ装置EPの適用制御が開始される際に、この締め付けを解除(解放)するための電力供給が不要であり、電気モータMTの電力が低減され得る。このことから、電動駐車ブレーキ装置EPでは、装置の省電力化が図られる。更に、直動部材TDの移動制限部材(ストッパ等)が省略可能であるため、装置の小型・軽量化が達成され得る。
【0078】
更に、駐車ブレーキの解除開始時点(解除指示が行われた時点、又は、電気モータへの逆転方向に対応する通電が開始された時点)から第2解除終了時間tk2を経過した時点で、電気モータMTへの通電が停止されていない場合には、電気モータMTへの通電が停止される。
【0079】
例えば、極低温時には動力伝達部材(減速機GS、動力変換機構HN、ベアリング、等)に塗布されている潤滑剤(グリス等)の粘度が増加し、動力伝達部材の効率が極端に低下する場合が生じ得る。電動駐車ブレーキ装置EPでは、直動部材TDの後退方向Hbのストッパ等(移動制限のための部材)が省略されているが、第2解除継続時間Tk2に係る条件(ステップS270の処理)は、このような状況において、直動部材TDの戻り過ぎを抑制する(即ち、直動部材TDと回転部材KTとの接触を、確実に回避する)ためのものである。換言すれば、駐車ブレーキの解除開始時点からの時間(第2解除継続時間)Tk2によって、通電停止の時間的なガードが設けられる。これにより、極低温時の潤滑剤の粘性増大等に起因した、直動部材TDの戻し過ぎ(例えば、直動部材TDと回転部材KTとの隙間不足)が抑制される。なお、該状況が生じている場合には、報知ユニットHCを通して運転者に該状況が報知される。
【0080】
<報知処理>
報知処理において、ステップS280の処理(即ち、解除一定判定の処理)が省略され得る。この場合、運転者への報知は、電気モータMTへの通電が、「Tk2≧tk2」であること(「第2解除継続時間Tk2の条件」という)に応じて、初めて停止された場合に行われる。
【0081】
しかしながら、報知処理には、ステップS280の処理が設けられることが望ましい。つまり、運転者への報知は、「第2解除継続時間Tk2の条件が満足された場合」、且つ、「該時点で通電量Iaの一定状態が否定される場合(通電量Iaが一定ではない場合)」に限って行われる。通電量Iaが一定である場合には、伝達効率の低下等は生じているが、ブレーキライニングBLとブレーキドラムBDとの接触が解除されている。該状態では、解除作動後に車両が動いても、ブレーキの引き摺りが生じ難いため、運転者への報知が行われない。ここで、「ブレーキの引き摺り」とは、非制動状態(例えば、解除作動後)において、未だ、ブレーキライニングBLとブレーキドラムBDとが接触状態にあることである。ステップS280の一定条件が否定された場合にのみ報知が行われるため、運転者への不必要な報知が回避され得る。
【0082】
更に、ステップS280において、「通電量Iaが報知量iy未満である」ことの条件が付与されてもよい。つまり、報知処理は、「第2解除継続時間Tk2の条件が満足された場合」であって、「通電量Iaが一定ではない場合」、及び、「通電量Iaが報知量iy以上である場合」のうちの少なくとも1つに該当する場合には、運転者への報知が行われる。一方、「第2解除継続時間Tk2の条件が満足された場合」であっても、「通電量Iaが一定」、且つ、「通電量Iaが報知量iy未満」である場合に限っては、運転者への報知が行われない。ここで、報知量iyは、予め設定された所定値(定数)であって、電気モータMTが無負荷で駆動される場合(即ち、電気モータMT、減速機GS、回転部材KT、直動部材TD、回り止め部材MD等の摺動摩擦)に相当する通電量よりも、僅かに大きい値に設定され得る。例えば、報知量iyは、解除量ikxと同じ値に設定されてもよい。
【0083】
伝達効率が低下した場合には、通電量Iaの時間Tに対する低下勾配が小さくなり、ブレーキライニングBLがブレーキドラムBDに、未だ接触している状態であっても、通電量Iaの一定状態が判定される場合が生じ得る。該状況では、ブレーキの引き摺りが生じ得るため、報知処理が行われる方が望ましい。従って、報知処理が行われない条件として、「通電量Iaが一定である場合」、且つ、「通電量Iaが報知量iy未満である場合」が採用され得る。結果、報知のロバスト性が向上され、不必要な報知が抑制されつつ、必要な報知は確実に行われる。
【0084】
<適用作動の動作、及び、解除作動の動作>
図5の時系列線図(時間Tの遷移に対する状態量Iaの変化)を参照して、適用制御による適用作動の動作、及び、解除制御による解除作動の動作について説明する。
図5(a)には、適用制御による適用作動が示され、
図5(b)には、解除制御による解除作動が示されている。なお、通電量Iaにおいて、適用作動では電気モータMTの正転駆動に対応する通電(例えば、正符号の電圧が印加されることによる正符号の電流供給)が行われるとともに、解除作動では電気モータMTの逆転駆動に対応する通電(例えば、負符号の電圧が印加されることによる負符号の電流供給)が行われるが、図示の便宜上、通電量Iaは同符号(具体的には、正符号)で示されている。従って、大小関係について言及する場合には、その値の大きさ(絶対値)に基づく。
【0085】
≪通常時の適用作動≫
図5(a)の実線で示す線図(1)を参照して、通常時(例えば、電圧低下が生じておらず、装置が適正に作動する場合)の適用制御の動作について説明する。時点t0にて、駐車スイッチSWがオフ状態からオン状態にされ、適用作動の指示(適用指示)が行われる。該時点t0にて、電気モータMTが正転するように、正の電圧が電気モータMTに印加される。これにより、電気モータMTの正転方向に対応する通電が開始される。時点t0から、適用継続時間Tjの演算が開始される。
【0086】
時点t0の直後には、電気モータMTに突入電流(起動電流)が流れる。これにより、通電量Iaは、ピーク値iaまで上昇するが、その後、減少する。時点t1にて、上記の適用一定判定が肯定されることにより、突入電流の影響が排除されたことが判定される。或いは、突入電流の影響排除が所定所間tmの演算禁止によって判定される構成においては、時点t0からの演算禁止時間(所定時間)tmだけ経過した時点が、時点t1に相当する。何れにしても、時点t1から、突入電流の影響排除が判定された時点t1から、最大通電量Imの演算が開始される。
【0087】
時点t2から、通電量Iaが増加し始める。これは、時点t0から時点t2までは、エンド部材ENと直動部材TDとは当接しておらず、駐車ケーブルCBには張力が作用していないが、時点t2より後は、エンド部材ENと直動部材TDとが接触し、駐車ケーブルCBの張力が徐々に増加されることに因る。
【0088】
時点t3にて、通電量Iaが適用終了量ijxに達する。時点t3にて、ステップS150の「Ia≧ijx(通電量条件)」が満足され、電気モータMTへの通電(例えば、正符号の電圧の印加)が停止される。即ち、時点t3にて、適用制御が終了される。該状況では、適用制御の終了が通電量条件によって行われるため、第1、第2解除終了時間tk1、tk2は、初期値to、tqに設定される(即ち、時間に係るしきい値tk1、tk2が減少されない)。
【0089】
≪電圧低下時の適用作動≫
次に、
図5(a)の破線で示す線図(2)を参照して、電源電圧低下が生じている場合等の作動不調時の適用制御の動作について説明する。時点t0から時点t4までは、通常時(適正作動時)と同じ動作であるため説明は省略する。
【0090】
電気モータMTに電力供給する蓄電池の電圧が低下しているため、時点t4にて、通電量Iaが頭打ちとなり、通電量Iaは値icで横這い状態となる。その後、通電量Iaは増加されず、該状態が継続される。時点t5にて、ステップS160の「Tj≧tjx(時間条件)」が満足され、電気モータMTへの通電が停止される。このとき、第1解除終了時間tk1、及び、第2解除終了時間tk2のうちの少なくとも1つが、夫々に対応する初期値to、tqから減少するように修正される。
【0091】
≪通常時の解除作動≫
図5(b)の実線で示す線図(3)を参照して、通常時(例えば、動力伝達機構の効率低下していない場合)の解除制御の動作について説明する。時点u0にて、駐車スイッチSWがオン状態からオフ状態にされ、解除作動の指示(解除指示)が行われる。該時点u0にて、電気モータMTが逆転するように、負の電圧が電気モータMTに印加される。これにより、電気モータMTの逆転方向に対応する通電が開始される。時点u0から、第2解除継続時間Tk2の演算が開始される。時点u0以降、時間T(即ち、演算周期の長さ)が順次積算されて、第2解除継続時間Tk2が演算される。
【0092】
時点u1にて、通電量Iaが解除量ikx未満になる。ここで、禁止されていた通電量Iaの解除一定判定が許可される。時点u2にて、初めて、通電量Iaが一定となったことが判定される(ここで、通電量Iaの一定状態は、未だ継続されてはいない)。通電量Iaが一定になったことは、通電量Iaが所定範囲ih(判定量であって、予め設定された所定の定数)の内側に収まっていることによって判定される。また、通電量Iaの時間変化量(時間微分値)dIが、解除判定変化量dx(予め設定された所定の定数)以下であることによって判定されてもよい。時点u2にて、制動装置DBにおいては、ブレーキライニングBLと、ブレーキドラムBD(特に、内周面Mn)とが、略、接触しなくなる。
【0093】
時点u2から解除判定時間th(予め設定された定数)だけ経過した時点u3にて、通電量Iaの一定状態が判定される。即ち、ステップS240が満足される。この時点u3から第1解除継続時間Tk1の演算(継続時間の積算)が開始される。時点u3から第1解除終了時間tk1(予め設定された定数)だけ経過した時点u4にて、電気モータMTへの負電圧の印加が中止され、通電が停止される。つまり、解除制御が終了され、電流値Iaがゼロにされる。解除制御の終了に伴い、直動部材TDの移動が停止される。このとき、直動部材TDと回転部材KTとは隙間を有している。
【0094】
電動駐車ブレーキ装置EPの解除制御では、通電量Iaが一定になった後の時間Tに基づいて解除制御が終了される。このため、ストッパ等の構成要素が不要であるため、装置構成が簡素化される。加えて、再度、駐車ブレーキ指示が行われた際に、直動部材TDがストッパ等に当接される際の動力変換機構HNにおける締め付け(例えば、ねじOj、Mjの締結力)を解放するための電気モータMTの電力が必要とされない。このため、該締め付けを解放するトルクに相当する分が省電力化され得る。
【0095】
≪効率低下時の解除作動≫
次に、
図5(b)の破線で示す線図(4)を参照して、動力伝達機構(減速機GS、動力変換機構HN等)の効率低下が生じている場合等の作動不調時の解除制御の動作について説明する。線図(4)では、極低温時であり、潤滑剤(例えば、グリス)の粘性が増大し、動力伝達部材の効率が極端に低下した場合が想定されている。
【0096】
時点u0にて、電気モータMTが逆転するように、電気モータMTに電圧が印加され、電気モータMTへの通電(電力供給)が開始される。時点u0からは、電気モータMTの逆転により、駐車ケーブルCBの張力は徐々に減少され、通電量Iaが減少される。適正作動時(例えば、常温での作動時)であれば、時点u1にて、「Ia<ikx」が満足されるが、動力伝達部材の効率が低下し、上記の低下勾配が減少しているため、「Ia<ikx」は、時点u1から遅れて、時点v1にて達成される。そして、時点v1にて、「Ia<ikx」となり、禁止されていた通電量Iaの解除一定判定の処理が許可される。
【0097】
時点v2にて、初めて、通電量Iaが一定となったことが判定される。時点v2から判定時間th(予め設定された定数)だけ経過した時点v3にて、通電量Iaの一定状態が判定され、ステップS240が満足される。この時点v3から第1解除継続時間Tk1の演算(継続時間の積算)が開始される。
【0098】
時点v5の直前では、第1解除継続時間Tk1が、未だ、第1解除終了時間tk1には達していないため、電気モータMTへの通電は継続されている。時点v5にて、第2解除継続時間Tk2が第2解除終了時間tk2に達する。これにより、ステップS270の条件が満足され、電気モータMTへの負電圧の印加が中止され、通電が停止される(電流値Iaがゼロにされる)。つまり、解除制御が終了され、直動部材TDの移動が停止される。例えば、第2解除継続時間Tk2が採用されない場合には、時点v4(時点v3から第1解除終了時間tk1を経過した時点)にて通電停止が行われるが、第2解除継続時間Tk2が採用されることにより、時点v4よりも事前(早期)の時点v5にて通電停止が行われる。即ち、第2解除継続時間Tk2によって、直動部材TDを戻す際の時間的なガードが設けられ、電気モータMTへの通電停止が早めに行われる。なお、想定された状況では、ステップS280にて、通電量Iaが一定であることが判定されるため、時点v5では、報知処理が行われない。
【0099】
動力伝達部材の効率が低下すると、解除一定判定が時間的に遅れる。第1解除継続時間Tk1のみに応じて解除制御の判定が行われると、直動部材TDが戻され過ぎる場合が生じ得る。該状況を回避するため、第2解除継続時間Tk2に係る条件(時間的なガード処理)が採用される。具体的には、「第1解除継続時間Tk1が第1解除終了時間tk1以上であること」、及び、「第2解除継続時間Tk2が第2解除終了時間tk2以上であること」のうちの少なくとも1つが満足される時点にて、解除制御が終了され、電気モータMTへの通電が停止される。つまり、「Tk1≧tk1」が満足されずに直動部材TDが後退方向Hbに戻されている状況であっても、「Tk2≧tk2」が満足されることによって、電気モータMTへの通電が停止される。第2解除継続時間Tk2に係る条件が採用されることによって、直動部材TDの戻し過ぎ(後退方向Hbへの過剰な移動)が抑制され、直動部材TDと回転部材KTとの接触が確実に回避され得る。
【0100】
≪時間に係るしきい値(第1、第2解除終了時間)tk1、tk2の減少修正の効果≫
適用制御において、時間条件(「Tj≧tjx」を満足すること)によって制御終了(即ち、電気モータMTへの通電停止)が行われた場合には、直動部材TDの前進方向Haへの移動量が、通電量条件(「Ia≧ijx」を満足すること)によって制御終了された場合に比較して少ない。従って、解除制御の直前の適用制御において、時間条件によって制御終了された場合(即ち、通電量Iaが適用終了量ijxに到達しない場合)には、解除制御におけるしきい時間である、第1解除終了時間tk1、及び、第2解除終了時間tk2のうちの少なくとも1つが、夫々に対応する初期値(所定値)to、tqから減少修正されている。これにより、適用制御の直後に実行される次回の解除制御において、制御が終了され易くなり、直動部材TDの戻し量(後退方向Hbへの移動量)が、通常時の適用制御の後の作動に比較して減少される。結果、解除制御において、必要以上に直動部材TDが引き戻されることが抑制され、電源電圧が低下した場合でも、電動駐車ブレーキ装置EPが適切に作動され得る。なお、解除制御において、第1解除継続時間Tk1、及び、第2解除継続時間Tk2のうちの何れの条件で制御終了されても、直動部材TDの戻し過ぎの抑制効果は達成される。
【0101】
<適用制御の第2の処理例>
時間条件によって適用制御が終了された場合には、その後の解除制御が禁止されてもよい。しかしながら、通電量Iaが相対的に大きい値まで増加されている場合には、ブレーキライニングBLは既にブレーキドラムBDに押圧されている。このため、解除制御において、ブレーキライニングBLとブレーキドラムBDとの接触状態が解消されることが望ましい。
【0102】
図6のフロー図を参照して、上記の接触状態を解消し得る適用制御の第2の処理例について説明する。なお、第2の処理例において、第1の処理例と同じ符号を付与された処理ステップは、第1処理例と同一の演算処理を行うものである。
【0103】
ステップS110にて、駐車信号Sw、及び、実際の通電量Iaを含む各種信号が読み込まれる。ステップS120にて、電気モータMTに正電圧が印加され、電気モータMTへの通電が行われる。該通電は、駐車信号Swがオフからオンに切り替えられた時点(対応する演算周期)で開始され、それ以降、ステップS190の処理が実行されるまでは継続される。電気モータMTは、通電によって、正転方向に駆動される。
【0104】
ステップS130にて、適用継続時間Tj(駐車ブレーキの適用開始時点からの時間)が演算される。「適用開始時点」は、「駐車ブレーキの適用指示が開始された時点」、或いは、「電気モータへの正転方向に対応する通電が開始された時点」である。
【0105】
ステップS140にて、通電量Iaに基づいて、最大通電量Im(通電量Iaの最大値)が演算される。最大通電量Imは、突入電流の影響が及んでいる状態では演算されず、通電量Iaが一定状態となった場合に限って演算される。また、突入電流の影響が及ぶ時間は既知であるため、適用開始時点から所定時間(演算禁止時間)tmまでの間は、最大通電量Imの演算が行われず、所定時間tmを経過後に、最大通電量Imの演算が行われてもよい。
【0106】
ステップS150にて、通電量Iaに基づいて、「通電量Iaが適用終了量ijx以上であるか、否か(通電量条件)」が判定される。適用終了量ijxは、駐車ブレーキに必要なブレーキライニングBLとブレーキドラムBDとの押圧力に相当し、予め設定された所定値(定数)である。ステップS150が肯定される場合には、処理は、ステップS190に進められる。一方、ステップS150が否定される場合には、処理は、ステップS160に進められる。
【0107】
ステップS160にて、適用継続時間Tjに基づいて、「適用継続時間Tjが適用終了時間tjx以上であるか、否か(時間条件)」が判定される。適用終了時間tjx(適用しきい時間)は、予め設定された所定値(定数)である。ステップS160では、通電量条件が満足されない場合に、適用制御の実行継続時間(適用継続時間)Tjによって、適用制御が強制的に終了される。ステップS160が肯定される場合には、処理は、ステップS165に進められる。一方、ステップS160が否定される場合には、処理は、ステップS110に戻される。
【0108】
ステップS165にて、最大通電量Imに基づいて、「最大通電量Imが当接判定量ijz以上であるか、否か(「当接条件」という)」が判定される。当接判定量ijzは、ブレーキライニングBLとブレーキドラムBDとの当接状態を判定するための通電量に係るしきい値であり、適用終了量ijxよりも小さい所定値(定数)として予め設定されている。例えば、当接判定量ijzは、駐車ケーブルCBの弾性特性、復帰部材の弾性特性に基づいて、ブレーキライニングBLとブレーキドラムBDとが接触していない状態に相当(対応)する値として、予め設定される。
【0109】
ステップS165では、具体的には、「Im≧ijz」では、ブレーキライニングBLとブレーキドラムBDとが当接(接触)していることが判定される。一方、「Im<ijz」では、ブレーキライニングBLが未だブレーキドラムBDとは当接していないことが判定される。「Im≧ijz」であって、ステップS165が肯定される場合には、処理は、ステップS172に進められる。一方、「Im<ijz」であって、ステップS165が否定される場合には、処理は、ステップS174に進められる。
【0110】
ステップS172にて、第1、第2解除終了時間(第1、第2解除しきい時間)tk1、tk2のうちの少なくとも1つが短縮される。具体的には、第1解除終了時間tk1、及び、第2解除終了時間tk2のうちの少なくとも1つが、最大通電量Im、及び、上記の演算ブロックTKと同様の演算マップZt1、Zt2に基づいて、最大通電量Imが小さいほど、小さくなるように修正される。ここで、ステップS172では、第1、第2解除終了時間tk1、tk2の短縮は行われるが、適用制御終了後(即ち、次回)の解除制御の実行禁止は設定されない。換言すれば、ステップS172の処理が行われた場合には、次回の解除制御では、電気モータMTが逆転駆動され、直動部材TDが後退方向Hbに移動される。
【0111】
ステップS172では、第1、第2解除終了時間tk1、tk2の減少修正が行われず、第1、第2解除終了時間tk1、tk2が初期値to、tqのままにされてもよい。何れにしても、第2の処理例では、適用制御が時間条件にて終了されても、当接条件(ステップS165の条件)が肯定される場合(通電量Iaが、適用終了量ijxには到達しないが、当接判定量ijz以上となった場合)には、その後の(次回の)解除制御が許可される。従って、適用制御に続く解除制御によって、直動部材TDが後退方向Hbに移動される。これは、最大通電量Imが当接判定量ijz以上の場合には、ブレーキライニングBLとブレーキドラムBDとが接触しているため、直動部材TDが引き戻されないと、ブレーキの引き摺りの蓋然性が高まることに基づく。換言すれば、「Im≧ijz」の場合には、直動部材TDが後退方向Hbに戻されるため、ブレーキの引き摺りが抑制され得る。
【0112】
ステップS174では、次回の解除制御の実行が禁止される。つまり、適用制御が時間条件によって終了され、且つ、当接条件が否定される場合(即ち、通電量Iaが当接判定量ijz未満である場合)には、適用制御が終了された後に、その後の解除制御が禁止され、解除指示が行われても、電気モータMTには通電が行われない。最大通電量Imが当接判定量ijz未満の場合には、ブレーキライニングBLとブレーキドラムBDとが接触していないため、ブレーキの引き摺りを懸念する必要がない。従って、次回の解除制御が禁止されることにより、直動部材TDの戻り過ぎが抑制され得る。
【0113】
ステップS180にて、時間条件(ステップS160の条件)が満足されたことが、視覚的、及び/又は、聴覚的に報知ユニットHCを介して、運転者に対して報知される。ステップS190にて、電気モータMTへの電圧の印加が停止され、通電が停止される。
【0114】
適用制御の第2の処理例では、次回の解除制御後のブレーキの引き摺りが考慮される。具体的には、第1の処理例に対して、ステップS165の当接条件が付け加えられる。そして、当接条件が満足され、適用制御の終了時にブレーキライニングBLとブレーキドラムBDとが接触状態であることが判定される場合(即ち、「Im≧ijz」の場合)には、次回の解除制御が許可され、直動部材TDの引き戻しが行われる。一方、適用制御の終了時にブレーキライニングBLとブレーキドラムBDとが接触しておらず、非接触状態であることが判定される場合(即ち、「Im<ijz」の場合)には、次回の解除制御が禁止され、直動部材TDの引き戻しが行われない。これにより、直動部材TDが過度に引き戻されることなく、ブレーキの引き摺りが抑制され得る。
【0115】
<適用制御の第2の処理例に対応する適用作動の動作>
図7の時系列線図(時間Tに対する通電量Iaの変化)を参照して、適用制御の第2の処理例に対応する適用作動の動作について説明する。線図(5)は、電動駐車ブレーキ装置EPが適正作動している場合に対応する。破線で示す線図(6)は、電源電圧が低下し、時間条件(適用継続時間Tjが適用終了時間tjxに達したこと)に基づいて適用制御の終了(即ち、電気モータMTへの通電停止)が行われる場合に対応する。一点鎖線で示す線図(7)は、線図(6)の状況に比較して、更に電源電圧が低下している場合に対応する。上述したように、通電量Ia等の値の大小関係は、その大きさ(即ち、絶対値)に基づいて表記される。以下、各線図の夫々について順に説明する。
【0116】
線図(5)は、
図5の線図(1)と同じである。時点w0にて、適用指示が行われ、電気モータMTが正転するように、電気モータMTの正転方向に対応する通電が行われる。同様に、時点w0から、適用継続時間Tjの演算が開始される。電気モータMTへの突入電流の影響がなくなった時点w1から、通電量Iaに基づいて、最大通電量Imが演算される。
【0117】
時点w2にて、エンド部材ENと直動部材TDとが当接し、通電量Iaが徐々に増加される。時点w3にて、通電量Iaが適用終了量ijxに到達し、通電量条件が満足される。これにより、電気モータMTへの通電が停止され、適用制御が終了される。適用制御は通電量条件に応じて終了されるため、次回の解除制御は許可されるとともに、第1、第2解除終了時間tk1、tk2は、初期値to、tqのままである(即ち、減少修正されない)。
【0118】
線図(6)は、時点w4までは、線図(5)と同じように遷移する。電圧低下が生じているため、時点w4にて、通電量Iaが、頭打ちとなり、増加しなくなる。従って、通電量Iaは、適用終了量ijxまでは到達しない。時点w5にて、適用継続時間Tjが適用終了時間tjxに到達し、時間条件が満足される。これにより、電気モータMTへの通電が停止され、適用制御が終了される。該時点w5において、最大通電量Imは当接判定量ijz以上であるため、当接条件が満足される。このため、次回の解除制御は許可されるとともに、第1、第2解除終了時間tk1、tk2のうちの少なくとも1つは、初期値to、tqから短縮される。或いは、第1、第2解除終了時間tk1、tk2は、初期値to、tqのままであってもよい。何れにしても、「Tj≧tjx」、且つ、「ijz≦Im(<ijx)」の場合(通電量Iaが、適用終了量ijxには到達しないが、当接判定量ijz以上となった場合)には、次回の(その後の)解除制御は許可され、直動部材TDは引き戻される。
【0119】
当接判定量ijzは、ブレーキライニングBLとブレーキドラムBDとの接触判定用の通電量に係るしきい値であって、適用終了量ijx未満の所定値(定数)である(即ち、「ijz<ijx」の関係である)。例えば、当接判定量ijzは、駐車ケーブルCBの弾性特性、復帰部材の弾性特性に基づいて、ブレーキライニングBLとブレーキドラムBDとの非接触状態に対応(相当)する値として予め設定される。通電量Iaが当接判定量ijz以上になった場合には、直動部材TDの引き戻しが行われるため、ブレーキの引き摺り(駐車ブレーキの解除状態におけるブレーキライニングBLとブレーキドラムBDとの接触)が適切に回避され得る。
【0120】
線図(7)は、時点w6までは、線図(5)(6)と同じように遷移する。電源電圧が極めて低下しているため、時点w6にて、通電量Iaが、頭打ちとなり、増加しなくなる。従って、通電量Iaは、適用終了量ijxにも、当接判定量ijzにも到達しない。時点w5にて、適用継続時間Tjが適用終了時間tjxに到達し、時間条件が満足される。これにより、電気モータMTへの通電が停止され、適用制御が終了される。該時点w5において、最大通電量Imは当接判定量ijz(<ijx)未満であるため、当接条件は満足されない。つまり、通電量Iaが当接判定量ijz以上にはならず、当接判定量ijz未満のままである場合(「Tj≧tjx」、且つ、「Im<ijz」の場合)には、次回の(その後の)解除制御は禁止され、直動部材TDの引き戻しは行われない。これにより、直動部材TDが戻され過ぎることが回避され得る。なお、「Im<ijz」の条件では、ブレーキライニングBLとブレーキドラムBDとは、非接触であるため、ブレーキの引き摺りは生じ得ない。
【0121】
第2の処理例では、当接判定によって、次回の解除制御の許可、又は、禁止が切り替えられる。このため、ブレーキの引き摺りが生じ得る状況では、制御許可が選択され、該引き摺りが抑制される。一方、引き摺りが生じ得ない状況では、制御禁止が選択され、直動部材TDの過度な引き戻しが抑制され得る。即ち、電源電圧が低下した場合でも、ブレーキの引き摺りが回避されつつ、直動部材TDの戻され過ぎが抑制され、電動駐車ブレーキ装置EPの適切な作動が達成され得る。
【0122】
<他の実施形態>
以下、電動駐車ブレーキ装置EPの他の実施形態について説明する。他の実施形態でも、上記同様の効果を奏する。
【0123】
上記の実施形態では、駐車スイッチSWの操作に応じた電動駐車ブレーキ装置EPの作動(適用指示に応じた適用制御/解除指示に応じた解除制御)について説明した。電動駐車ブレーキ装置EPの適用指示/解除指示は、駐車スイッチSWの操作に代えて自動で行われてもよい。電動駐車ブレーキ装置EPの作動が自動的に行われる状況が「自動モード」と称呼される。自動モードでは、例えば、車両が停止した際に、電動駐車ブレーキ装置EPが自動で適用指示が行われ、駐車制動力Fpが発生(付与)される。また、運転者によって、加速操作部材(アクセルペダル等)が操作され、操作量Apが「0(ゼロ)」から増加した際に、電動駐車ブレーキ装置EPが自動で解除指示が行われる。自動モードは、通信バスBSを介して、コントローラECUにて取得された車体速度Vx、加速操作量Apによって実行される。
【0124】
自動制動装置が備えられる車両では、運転者が操作を行うことなく電動駐車ブレーキ装置EPの自動モードが実行されてもよい。例えば、渋滞時等の運転を支援するよう、先行車を検知して車体速度Vxを自動調節される。そして、先行車が停止した際は車間距離を保ったまま自動で停止し、自動的に適用指示が行われ、電動駐車ブレーキ装置EPが適用作動される。その後、先行車が発進した場合には、自動的に解除指示が行われ、電動駐車ブレーキ装置EPが解除作動され、先行車に追従するように、自車の車体速度Vxが調整される。
【符号の説明】
【0125】
EP…電動駐車ブレーキ装置、SW…駐車スイッチ、BS…通信バス、HC…報知ユニット、DB…制動装置、BD…ブレーキドラム、BSa、BSb…ブレーキシュー、BL…ブレーキライニング、ST…シューストラット、CB…駐車ケーブル、PL…駐車レバー、BP…バッキングプレート、DN…電動アクチュエータ、MT…電気モータ、GS…減速機、KT…回転部材、TD…直動部材、MD…回り止め部材、EN…エンド部材、ECU…コントローラ、MP…マイクロプロセッサ、DR…駆動回路、IA…通電量センサ(例えば、電流センサ)、Tj…適用継続時間、tjx…適用終了時間(適用しきい時間)、Tk1…第1解除継続時間、tk1…第1解除終了時間(第1解除しきい時間)、Tk2…第2解除継続時間、tk2…第2解除終了時間(第2解除しきい時間)、Ia…通電量(例えば、電流値)、Im…最大通電量、ijx…適用終了量、ijz…当接判定量。