(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】超音波トランスデューサ
(51)【国際特許分類】
H04R 17/00 20060101AFI20231226BHJP
G01S 7/521 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
H04R17/00 330G
G01S7/521 A
(21)【出願番号】P 2020125621
(22)【出願日】2020-07-22
【審査請求日】2022-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】滝 辰哉
(72)【発明者】
【氏名】松村 湧
(72)【発明者】
【氏名】丸山 俊樹
【審査官】大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-014314(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 17/00
G01S 7/521
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、
前記ケースに周縁部が保持された
円板状の外形を有する保持板と、前記保持板に重ねられた圧電振動板とを有する振動体と
を備え、
前記ケースの引張弾性率が、前記振動体の保持板の引張弾性率より高い、超音波トランスデューサ。
【請求項2】
前記保持板の周縁部が、前記ケースの延在方向において前記ケースに挟まれている、請求項1に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項3】
前記保持板の周縁部の端面および前記ケースの延在方向において対面する両主面が、前記ケースに固定されている、請求項1または2に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項4】
前記保持板が前記圧電振動板を収容する凹部を有し、該凹部に前記圧電振動板が収容されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項5】
前記保持板が樹脂で構成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項6】
前記ケースが樹脂で構成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項7】
前記保持板および前記ケースの両方が樹脂で構成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の超音波トランスデューサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波トランスデューサに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、圧電振動子を用いた超音波トランスデューサが開示されている。このような超音波トランスデューサは、超音波を出力するとともに検知対象物において反射した超音波を受信する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した超音波トランスデューサにおいては、超音波出力時の残響が検知特性を低下させることが知られている。発明者らは、超音波トランスデューサの残響について研究を重ね、その結果、残響を抑制することができる技術を新たに見出した。
【0005】
本発明は、残響の抑制が図られた超音波トランスデューサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係る超音波トランスデューサは、ケースと、ケースに周縁部が保持された保持板と、保持板に重ねられた圧電振動板とを有する振動体とを備え、ケースの引張弾性率が、振動体の保持板の引張弾性率より高い。
【0007】
上記超音波トランスデューサにおいては、ケースの引張弾性率が振動体の保持板の引張弾性率より高いため、振動体の保持板からケースへの振動の伝播が抑制される。すなわち、振動体の発振に起因するケースの振動が抑制される。したがって、上記超音波トランスデューサにおいては、超音波出力時における残響の抑制が図られている。
【0008】
他の形態に係る超音波トランスデューサは、保持板の周縁部が、ケースの延在方向においてケースに挟まれている。
【0009】
他の形態に係る超音波トランスデューサは、保持板の周縁部の端面およびケースの延在方向において対面する両主面が、ケースに固定されている。
【0010】
他の形態に係る超音波トランスデューサは、保持板が圧電振動板を収容する凹部を有し、該凹部に圧電振動板が収容されている。
【0011】
他の形態に係る超音波トランスデューサは、保持板が樹脂で構成されている。
【0012】
他の形態に係る超音波トランスデューサは、ケースが樹脂で構成されている。
【0013】
他の形態に係る超音波トランスデューサは、保持板およびケースの両方が樹脂で構成されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、残響の抑制が図られた超音波トランスデューサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態に係る超音波検知システムを示す概略構成図である。
【
図2】
図1の超音波トランスデューサを示す概略断面図である。
【
図3】
図1の超音波トランスデューサの底面図である。
【
図5】
図1の超音波検知システムにおける信号の波形を示した図であり、(a)入力波形、(b)発信波形、(c)受信波形を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0017】
本実施形態では、超音波を用いて対象物の検知をおこなう超音波検知システムについて説明する。
【0018】
図1に示すように、超音波検知システム1は、所定の対象物10に対して超音波を出力し、かつ、対象物10において反射した超音波を受信するものである。超音波検知システム1は、受信した超音波から、対象物10の存在を検知したり、対象物10までの距離を検知したりすることができる。
【0019】
超音波検知システム1は、制御回路20および超音波トランスデューサ30を備えて構成されている。
【0020】
制御回路20は、特定の周波数の信号を生成して、その信号を、信号線25を介して超音波トランスデューサ30に入力する回路である。また、制御回路20は、超音波トランスデューサ30が受信した超音波信号を、適宜増幅して、検出する回路である。制御回路20はLC回路を含むことができる。
【0021】
超音波トランスデューサ30は、制御回路20から入力された信号に応じて発振し、超音波信号を出力する。また、超音波トランスデューサ30は、外部から超音波信号を受信すると、その信号を制御回路20に送信する。
【0022】
図2に示すように、超音波トランスデューサ30は、振動体40と、振動体40を保持するハウジング50とを備えて構成されている。
【0023】
振動体40は、保持板41および保持板41に重ねられた圧電振動板42を有する。
【0024】
保持板41は、
図2および
図3に示すように円板状の外形を有する。保持板41の上面41aの中央領域には、均一な深さで円形に窪んだ凹部43が設けられている。保持板41の周縁部44は均一な厚さTを有する。本実施形態においては、保持板41の凹部43から端面41cまでの円環状領域の幅Wは、保持板41の周縁部44の厚さTより長くなるように設計されている。
【0025】
保持板41は、樹脂で構成されている。本実施形態においては、保持板41は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)で構成されている。保持板41を構成するポリエーテルエーテルケトンの引張弾性率は4,300MPaである。保持板41は、ポリエーテルエーテルケトンに限らず、たとえばポリエチレン(PE、引張弾性率1,090MPa)で構成することもできる。
【0026】
圧電振動板42は、円板状の外形を有する。圧電振動板42は、図示しない圧電体層と一対の端子電極とを備えて構成されている。圧電振動板42の一対の端子電極はそれぞれ一対の配線(またはリード)26を介して信号線25と電気的に接続されている。圧電振動板42は、信号線25から入力された信号に応じて振動する。圧電振動板42は、板厚方向に振動し、板厚方向に直交する方向にも振動する。圧電振動板42の圧電体層は、一層の圧電材料層を含む単層構造であってもよく、複数の圧電材料層と内部電極層とが交互に積層された多層構造であってもよい。圧電振動板42の圧電材料層は、たとえばPZT等の圧電セラミックス材料で構成することができる。
【0027】
圧電振動板42は、保持板41の凹部43に収容されるようにして、保持板41に重ねられている。
図2に示すように、圧電振動板42の厚さが保持板41の凹部43の深さよりも厚い場合には、圧電振動板42は保持板41の上面41aから突出する。圧電振動板42の厚さが保持板41の凹部43の深さよりも薄く、圧電振動板42が凹部43内に完全に収容される態様であってもよい。圧電振動板42が収容される凹部43が保持板41に設けられることで、圧電振動板42を平坦面上に載置する場合に比べて、保持板41と圧電振動板42との接触面が拡大し、保持板41と圧電振動板42との間の振動の伝播効率が高まる。この場合、超音波トランスデューサの出力効率が高まり、かつ、受信感度も高まる。
【0028】
ハウジング50は、筒部52と枠部54と蓋部56とを備えて構成されている。
【0029】
筒部52(ケース)は、
図2および
図3に示すように円筒状の形状を有する。筒部52は、下部開口の近傍に挟持部53を有する。筒部52の挟持部53では、
図4に示すように、保持板41が筒部52の延在方向(
図2の紙面上下方向)に対して直交する方向に延在するように、保持板41の周縁部44が筒部52の内側面において挟持されている。保持板41は、筒部52の挟持部53に挟持されて、筒部52の下部開口を閉塞する。保持板41の周縁部44では、筒部52の延在方向(
図4の矢印A1方向)において筒部52に挟まれており、かつ、保持板41の周縁部44における端面41cおよび上下面41a、41b(すなわち、A1方向において対面する両主面)が筒部52に固定されている。振動体40の保持板41の筒部52に対する固定は、一例としてカシメ固定である。振動体40の保持板41と筒部52とは接着材により固定することができる。振動体40の保持板41と筒部52とは、インサート成形により一体化することができる。
【0030】
筒部52は、樹脂で構成されており、本実施形態ではポリブチレンテレフタレート(PBT)で構成されている。筒部52を構成するポリブチレンテレフタレートの引張弾性率は10,300MPaである。すなわち、筒部52の引張弾性率(10,300MPa)は、保持板41の引張弾性率(4,300MPa)より高くなっている。筒部52は、ポリブチレンテレフタレートに限らず、たとえばLCP(引張弾性率14,014MPa)で構成することもできる。
【0031】
枠部54は、筒部52の上端部に設けられており、円環状の形状を有する。蓋部56は、枠部54の内側開口に設けられており、枠部54と協働して筒部52の上部開口を塞いでいる。蓋部56は、信号線25の端部と結合されており、信号線25の端部を保持することができるように設けられている。枠部54はたとえばニトリルゴム(NBR)で構成することができ、蓋部56はたとえばウレタンで構成することができる。
【0032】
上述した超音波トランスデューサ30においては、信号線25を介して制御回路20から信号が入力されると、圧電振動板42が振動して、保持板41の下面41b側から超音波信号が出力される。また、超音波トランスデューサ30は、外部の超音波信号を、保持板41の下面41bにおいて受信すると、圧電振動板42において電圧信号に変換されて信号線25を介して制御回路20に送られる。
【0033】
図5は、超音波検知システム1における信号の波形を示した図である。
図5(a)は、制御回路20から出力される信号の波形、すなわち、超音波トランスデューサ30に入力される信号(入力信号)の波形を示している。
図5(b)は、超音波トランスデューサ30から外部に発信される信号(発信信号)の波形を示している。
図5(b)に示すように、発信信号の波形は、制御回路20のLC回路に起因して、入力信号の波形に対してわずかに残響成分が含まれる。
図5(c)は、発信信号が対象物10において反射されて超音波トランスデューサ30が受信した信号を、制御回路20において増幅した信号(受信信号)の波形を示している。
図5(c)に示すように、受信信号の波形には残響成分が含まれる。受信信号の波形に含まれる残響成分の一部は、圧電振動板42の共振に起因するものであると考えられる。特に、超音波トランスデューサ30と対象物10との距離が近い場合に、受信信号における残響成分が干渉しやすく、検出の精度低下が招かれる。
【0034】
上述した超音波トランスデューサ30においては、筒部52の引張弾性率が保持板41の引張弾性率より高くなるように設計されている。そのため、構成材料の観点から、振動体40は比較的振動しやすく、一方で筒部52は比較的振動しにくい設計となっている。したがって、保持板41から筒部52への振動の伝播が、効果的に抑制されている。その結果、振動体40の発振に起因する筒部52の振動が抑制され、それにより、超音波出力時における残響の抑制が図られている。そのため、超音波トランスデューサ30と対象物10との距離が近い場合であっても、受信信号における残響成分が干渉しにくく、検出の精度向上を図ることができる。
【0035】
また、超音波トランスデューサ30においては、保持板41の周縁部44が、筒部52の延在方向において筒部52に挟まれているため、保持板41から筒部52へ伝播される振動は、主に縦振動(
図4の矢印A1方向に関する振動)となり、残響の要因となる横振動(
図4の矢印A2方向に関する振動)はほとんど伝播されない。そのため、超音波トランスデューサ30は残響のさらなる抑制を実現することができる。
【0036】
さらに、超音波トランスデューサ30では、保持板41の周縁部44における端面41cおよび上下面41a、41bが、筒部52にカシメ固定されている。カシメ固定では、保持板41と筒部52との間に接着材等を介在させることなく、保持板41と筒部52とが直接的に接する。保持板41と筒部52とをカシメ固定することで、複数の製品間における特性ばらつきを抑制することができる。加えて、カシメ固定では、挟持部53の上側部分および下側部分における筒部52の厚さ(
図4の矢印A2方向長さ)を略同一に保つことができるため、複数の製品間における特性ばらつきを抑制することができる。なお、挟持部53の上側部分および下側部分における筒部52の厚さが異なる場合には、挟持部53の周辺において振動が阻害されることが考えられる。
【0037】
以上、本発明の好適な実施形態について説明してきたが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0038】
たとえば、
図6に示した形態で、筒部52が振動体40を保持することができる。
図6(a)に示した形態では、筒部52の挟持部53において、保持板41の端面41cが筒部52の内側面に当接している。この場合、たとえば接着材を介して保持板41が筒部52内に保持される。
図6(b)に示した形態では、筒部52の下端面と保持板41の上面41aと接するようにして、筒部52の下部開口を保持板41が閉塞している。この場合、たとえば接着材を介して筒部52の下端面と保持板41の上面41aとが固定される。
【0039】
また、筒部52および保持板41を構成する材料は、上述した材料に限らず、公知の樹脂材料から適宜に選択することができる。
【符号の説明】
【0040】
1…超音波検知システム、10…対象物、20…制御回路、30…超音波トランスデューサ、40…振動体、41…保持板、42…圧電振動板、43…凹部、44…周縁部、50…ハウジング、52…筒部、53…挟持部。