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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】車両用制動装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 17/18 20060101AFI20231226BHJP
   B60T 13/122 20060101ALI20231226BHJP
   B60T 13/68 20060101ALI20231226BHJP
   B60T 13/138 20060101ALI20231226BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
B60T17/18
B60T13/122 A
B60T13/68
B60T13/138 A
B60T8/17 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020130835
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022027055
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100174713
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧川 彰人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 淳
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-216850(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0249274(US,A1)
【文献】特開平10-203339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 15/00-17/22
B60T 13/00-13/74
B60T 7/12-8/1769
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ホイールシリンダに第1液路を介して接続され前記第1ホイールシリンダに液圧を発生させる第1液圧発生部と、
第2ホイールシリンダに第2液路を介して接続され前記第2ホイールシリンダに液圧を発生させる第2液圧発生部と、
前記第1液圧発生部に電力を供給する第1電源部と、
前記第2液圧発生部に電力を供給する第2電源部と、
前記第1液路と前記第2液路との間を接続する連通路に設けられ、前記連通路を開閉する常開型の連通路開閉部と、
を備える、車両用制動装置。
【請求項2】
前記連通路にマスタ液路を介して接続され、ブレーキペダルの操作量に応じた液圧を発生するマスタシリンダと、
前記マスタ液路に設けられ、前記マスタ液路を開閉する常開型のマスタ液路開閉部と、
を備える、請求項1に記載の車両用制動装置。
【請求項3】
前記マスタ液路開閉部は、前記第1電源部及び前記第2電源部により駆動される、請求項2に記載の車両用制動装置。
【請求項4】
前記マスタ液路開閉部は、
前記第1電源部により駆動される常開型の第1マスタ電磁弁と、
前記第1マスタ電磁弁に直列接続され、前記第2電源部により駆動される常開型の第2マスタ電磁弁と、
を備える、請求項2又は3に記載の車両用制動装置。
【請求項5】
前記連通路開閉部は、前記連通路のうち前記連通路と前記第1液路との接続点と前記連通路と前記マスタ液路との接続点との間に設けられ、
前記第1電源部は、前記連通路開閉部を駆動し、
前記第2電源部は、前記マスタ液路開閉部を駆動する、請求項2に記載の車両用制動装置。
【請求項6】
前記連通路開閉部は、常開型の第1連通電磁弁と、前記第1連通電磁弁に対して直列に配置された常開型の第2連通電磁弁と、を備え、
前記マスタ液路開閉部は、少なくとも1つの常開型のマスタ電磁弁を備え、
前記マスタ液路は、前記マスタシリンダと、前記連通路のうち前記第1連通電磁弁と前記第2連通電磁弁との間の部分とを接続する、請求項2~4の何れか一項に記載の車両用制動装置。
【請求項7】
前記第1連通電磁弁は、前記第1電源部により駆動され、
前記第2連通電磁弁は、前記第2電源部により駆動される、請求項6に記載の車両用制動装置。
【請求項8】
前記連通路にリザーバ液路を介して接続され、ブレーキ液を貯留するリザーバと、
前記リザーバ液路に設けられ、前記リザーバ液路を開閉する常閉型のリザーバ液路開閉部と、
を備える、請求項1に記載の車両用制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用制動装置は、複数のホイールシリンダに対して液圧を供給するように構成されている。例えば特許第6394562号公報に記載の制動装置は、第1液圧ユニットに接続された第1系統のホイールシリンダと、第2液圧ユニットに接続された第2系統のホイールシリンダと、第1液圧ユニットと第2液圧ユニットとを接続する連通路に設けられた常閉型の電磁弁と、各種制御を実行するECUと、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6394562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動運転車の開発に伴い、制動力について冗長性があるシステムの重要性がさらに増している。そこで、本発明者は、正常時には複数のホイールシリンダの液圧を独立して制御可能であり、1つの電源部が故障した場合でも、当該複数のホイールシリンダに液圧を発生させることができる新たなシステムを開発した。
【0005】
本発明の目的は、複数のホイールシリンダの液圧を独立して制御可能であり、且つ、1つの電源部が故障した場合でも、当該複数のホイールシリンダに液圧を発生させることができる新たな車両用制動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両用制動装置は、第1ホイールシリンダに第1液路を介して接続され前記第1ホイールシリンダに液圧を発生させる第1液圧発生部と、第2ホイールシリンダに第2液路を介して接続され前記第2ホイールシリンダに液圧を発生させる第2液圧発生部と、前記第1液圧発生部に電力を供給する第1電源部と、前記第2液圧発生部に電力を供給する第2電源部と、前記第1液路と前記第2液路との間を接続する連通路に設けられ、前記連通路を開閉するように構成され、電力が供給されていない状態で開く常開型の連通路開閉部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、連通路開閉部を閉じることで第1液路と第2液路とが液圧的に分離され、各ホイールシリンダの液圧を独立して制御することができる。また、連通路開閉部が常開型であるため、第1電源部及び第2電源部の一方が故障した場合でも、電源部の故障の有無にかかわらず、連通路開閉部を開状態とすることができる。連通路により第1液路と第2液路とが連通した状態で、正常な電源部(第1電源部及び第2電源部の他方)が対応する液圧発生部を駆動させる。これにより、一方の液圧発生部により第1ホイールシリンダ及び第2ホイールシリンダの両方に液圧を発生させることができる。本発明によれば、複数のホイールシリンダの液圧を独立して制御可能であり、且つ、1つの電源部が故障した場合でも、当該複数のホイールシリンダに液圧を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態の車両用制動装置の構成図である。
図2】第1変形例の車両用制動装置の構成図である。
図3】第2変形例の車両用制動装置の構成図である。
図4】第3変形例の車両用制動装置の構成図である。
図5】第4変形例の車両用制動装置の構成図である。
図6】第5変形例の車両用制動装置の構成図である。
図7】共通化ユニットの構成図である。
図8】共通化ユニットを用いた車両用制動装置の一例の構成図である。
図9】共通化ユニットの別例の構成図である。
図10】共通化ユニットを用いた車両用制動装置の別例の構成図である。
図11】共通化ユニットの別例の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態及び変形例相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。また、説明に用いる各図は概念図である。
【0010】
本実施形態の例において、前輪の2輪に対しては車両用制動装置1が制動力を付与し、後輪の2輪に対しては別の制動装置、例えば電子機械ブレーキ(EMB)や前輪とは独立した別個の車両用制動装置1が制動力を付与する。本実施形態の車両用制動装置1において、例えば、第1ホイールシリンダ81は右前輪に対応し、第2ホイールシリンダ82は左前輪に対応する。
【0011】
本実施形態の車両用制動装置1は、図1に示すように、第1液圧発生部21と、第2液圧発生部22と、第1電源部31と、第2電源部32と、連通路開閉部4と、マスタシリンダ5と、マスタ液路開閉部6と、を備えている。
【0012】
第1液圧発生部21は、第1ホイールシリンダ81に第1液路71を介して接続され、第1ホイールシリンダ81に液圧を発生させる装置である。本実施形態の第1液圧発生部21は、電動シリンダであって、図示略のモータ、直動変換部材、シリンダ、及びピストンを備えている。ピストンの一方への移動によりシリンダ内のブレーキ液が第1液路71に流出し、ピストンの他方への移動により第1液路71からシリンダ内にブレーキ液が流入する。第1液圧発生部21は、ピストンの移動により第1ホイールシリンダ81の液圧を調整する調圧装置ともいえる。
【0013】
第2液圧発生部22は、第2ホイールシリンダ82に第2液路72を介して接続され、第2ホイールシリンダ82に液圧を発生させる装置である。第2液圧発生部22は、第1液圧発生部21とは独立した別個の装置である。本実施形態の第2液圧発生部22は、第1液圧発生部21同様、電動シリンダであって、図示略のモータ、直動変換部材、シリンダ、及びピストンを備えている。第2液圧発生部22は、ピストンの移動により第2ホイールシリンダ82の液圧を調整する調圧装置ともいえる。
【0014】
第1電源部31は、第1液圧発生部21に電力を供給する装置である。本実施形態の第1電源部31は、図示略の第1の電源(例えば第1のバッテリ)及び第1のECU(電子制御ユニット)を備えている。第1電源部31は、第1液圧発生部21を制御する。
【0015】
第2電源部32は、第2液圧発生部22に電力を供給する装置である。本実施形態の第2電源部32は、第1電源部31とは別個の装置であって、図示略の第2の電源(例えば第2のバッテリ)及び第2のECUを備えている。第2電源部32は、第1電源部31とは独立して給電対象に給電可能に構成されている。第2電源部32は、第2液圧発生部22を制御する。
【0016】
連通路開閉部4は、第1液路71と第2液路72との間を接続する連通路73に設けられ、連通路73を開閉する常開型の弁装置である。本開示において、「常開型」とは、電力が供給されていない状態で開く(連通する)構成を意味する。連通路開閉部4は、常開型の電磁弁である第1連通電磁弁41と、第1連通電磁弁41に対して直列に配置された常開型の電磁弁である第2連通電磁弁42と、を備えている。
【0017】
マスタシリンダ5は、連通路73にマスタ液路74を介して接続され、ブレーキペダル51の操作量に応じた液圧を発生する部材である。本実施形態のマスタシリンダ5は、図示略のシリンダ、ピストン、及びリザーバ等を備えるシングルタイプのマスタシリンダである。マスタシリンダ5は、ブレーキペダル51の操作量に応じて、ピストンがシリンダ内のブレーキ液をマスタ液路74に流出させるように構成されている。ブレーキペダル51の操作量は、例えば図示略のストロークセンサや圧力センサにより検出される。
【0018】
マスタ液路74は、マスタシリンダ5と、連通路73のうち第1連通電磁弁41と第2連通電磁弁42との間の部分とを接続している。したがって、マスタシリンダ5と第1ホイールシリンダ81とは、マスタ液路開閉部6と第1連通電磁弁41とを介して接続されている。マスタシリンダ5と第2ホイールシリンダ82とは、マスタ液路開閉部6と第2連通電磁弁42とを介して接続されている。
【0019】
本実施形態において、第1連通電磁弁41は、第1ホイールシリンダ81側に弁体が配置され、マスタシリンダ5側に弁座が配置された電磁弁である。つまり、第1連通電磁弁41の弁体は、閉弁状態において、第1ホイールシリンダ81の液圧がマスタシリンダ5側の液圧よりも高い場合、セルフシールにより閉じる方向に力を受ける。同様の配置により、第2連通電磁弁42の弁体も、閉弁状態において、第2ホイールシリンダ82の液圧がマスタシリンダ5側の液圧よりも高い場合、セルフシールにより閉じる方向に力を受ける。また、第1連通電磁弁41及び第2連通電磁弁42の流路断面積(弁体の大きさ)は、後述するマスタ電磁弁61の流路断面積よりも大きい。
【0020】
マスタ液路開閉部6は、マスタ液路74に設けられ、マスタ液路74を開閉する常開型の弁装置である。本実施形態のマスタ液路開閉部6は、常開型の電磁弁であるマスタ電磁弁61で構成されている。マスタ電磁弁61は、第1電源部31及び第2電源部32により駆動される。つまり、マスタ電磁弁61は、第1電源部31及び第2電源部32の両方から給電されるように構成されている。マスタ電磁弁61のコイルには、例えば2重巻きコイルが採用される。
【0021】
マスタ電磁弁61は、第1電源部31及び第2電源部32の少なくとも一方から給電されることで閉じるように構成されている。例えば、マスタ電磁弁61は、閉じる際、両電源部31、32が正常である場合には両方の電源部31、32から閉弁可能に給電され、一方の電源部が故障した場合には他方の電源部から閉弁可能に給電される。
【0022】
本実施形態において、マスタ電磁弁61は、連通路73側に弁体が配置され、マスタシリンダ5側に弁座が配置された電磁弁である。したがって、マスタ電磁弁61の弁体は、閉弁状態において、連通路73側の液圧がマスタシリンダ5側の液圧よりも高い場合、セルフシールにより閉じる方向に力を受ける。
【0023】
マスタ電磁弁61、第1連通電磁弁41、及び第2連通電磁弁42は、閉弁状態において、ブレーキ操作によりマスタシリンダ5の液圧がホイールシリンダ81、82の液圧よりも規定値だけ高くなった場合でも、マスタシリンダ5とホイールシリンダ81、82との間の遮断が維持されるように設計されている。
【0024】
マスタ液路74のうちマスタシリンダ5とマスタ電磁弁61との間には、液路75及びシミュレータカット弁52を介してストロークシミュレータ53が接続されている。シミュレータカット弁52は、電力が供給されていない状態で閉じる常閉型の電磁弁である。本開示において、「常閉型」とは、電力が供給されていない状態で閉じる(遮断する)構成を意味する。ストロークシミュレータ53は、ブレーキペダル51の操作に対して液圧により力を付与する装置である。シミュレータカット弁52は、マスタ電磁弁61同様、第1電源部31及び第2電源部32の両方から給電されるように構成されている。
【0025】
(通常時)
車両用制動装置1の通常時(正常時)の動作の一例について説明する。車両の電源がオンされると(イグニッションがオンされると)、第1電源部31及び第2電源部32によりシミュレータカット弁52は開けられ、マスタシリンダ5とストロークシミュレータ53とが連通される。また、第1電源部31及び第2電源部32によりマスタ電磁弁61が閉じられ、第1電源部31により第1連通電磁弁41が閉じられ、第2電源部32により第2連通電磁弁42が閉じられる。
【0026】
ブレーキペダル51が操作された場合又は別途の制動要求があった場合、目標制動力(目標ホイール圧)に応じて、第1電源部31が第1液圧発生部21を駆動させ、第2電源部32が第2液圧発生部22を駆動させる。第1液圧発生部21の駆動により第1液路71を介して第1ホイールシリンダ81にブレーキ液が供給され、第2液圧発生部22の駆動により第2液路72を介して第2ホイールシリンダ82にブレーキ液が供給される。このように、各ホイールシリンダ81、82の液圧が制御される。
【0027】
(一方の電源部が故障した場合)
続いて、第1電源部31及び第2電源部32のうち一方の電源部(この例では第1電源部31とする)が故障した場合の制御例について説明する。第1電源部31が故障した場合、第1電源部31からの給電が不可能となる。したがって、第1連通電磁弁41は非通電状態となって開く。また、第1液圧発生部21は駆動不可となる。マスタ電磁弁61及びシミュレータカット弁52は、第2電源部32のみにより給電されて駆動される。
【0028】
第2電源部32は、例えば第1電源部31の故障を検出した場合、自身からマスタ電磁弁61への供給電流を大きくして、マスタ電磁弁61を閉じた状態で維持する。同様に、第2電源部32は、自身からシミュレータカット弁52への給電電流を大きくして、シミュレータカット弁52を開いた状態で維持する。また、第2電源部32は、第2連通電磁弁42への給電を停止し、第2連通電磁弁42を開く。
【0029】
この状態で、ブレーキペダル51が操作された場合又は別途の制動要求があった場合、目標制動力に応じて、正常な第2電源部32が第2液圧発生部22を駆動させ、第2液路72にブレーキ液を供給する。第2液路72に供給されたブレーキ液は、第2ホイールシリンダ82に供給されるとともに、連通路73を介して第1ホイールシリンダ81にも供給される。
【0030】
この際、マスタ電磁弁61は閉じられているため、ブレーキ液はマスタシリンダ5側には供給されない。このように、第2液圧発生部22の駆動により、第1ホイールシリンダ81及び第2ホイールシリンダ82の両方の液圧を増大させることができる。なお、第1電源部31の故障は、例えば第1電源部31の出力電圧又は出力電流を検出するなどによって検出可能である。また、故障が第2電源部32であっても、第1電源部31と第2電源部とが入れ替わるだけで同様の動作となる。
【0031】
(本実施形態の作用効果)
本実施形態によれば、連通路開閉部4を閉じることで第1液路71と第2液路72とが液圧的に分離され、各ホイールシリンダ81、82の液圧を独立して制御することができる。また、連通路開閉部4が常開型であるため、第1電源部31及び第2電源部32の一方が故障した場合でも、電源部の故障の有無にかかわらず、連通路開閉部4を開状態とすることができる。連通路73により第1液路71と第2液路72とが連通した状態で、正常な電源部(第1電源部31及び第2電源部32の他方)が対応する液圧発生部を駆動させる。これにより、一方の液圧発生部により第1ホイールシリンダ81及び第2ホイールシリンダ82の両方に液圧を発生させることができる。
【0032】
(共通効果)
本実施形態によれば、複数のホイールシリンダ81、82の液圧を独立して制御可能であり、且つ、1つの電源部が故障した場合でも、当該複数のホイールシリンダ81、82に液圧を発生させることができる。
【0033】
(マスタ液路開閉部と連通路開閉部との直列配置による効果)
また、上記のように、通常時の制御例として、第1電源部31及び第2電源部32は、マスタ電磁弁61、第1連通電磁弁41、及び第2連通電磁弁42を閉じた状態で、第1液圧発生部21及び第2液圧発生部22を駆動させる。これにより、通常時、マスタシリンダ5と各ホイールシリンダ81、82との間に、少なくとも2つの電磁弁が閉じた状態で介在することとなる。したがって、マスタシリンダ5とホイールシリンダ81、82との間の遮断を維持する構成として、2つの電磁弁で液圧的に遮断すれば足りることとなる。換言すると、ブレーキペダル51が操作されてマスタシリンダ5の液圧がホイールシリンダ81、82の液圧よりも高くなる際に閉弁を維持するために必要な電磁弁の最大耐圧の設計を、2つの電磁弁で分散させることができる。
【0034】
電磁弁の2つのポート(出入口)間の差圧をポート間差圧と称すると、電磁弁には、弁座側が相対的に高圧になった際に閉じた状態を維持可能な最大のポート間差圧(以下、最大耐圧という)が設定されている。2つの電磁弁が直列で配置されていることで、1つの電磁弁が配置されている場合と比較として、各電磁弁の最大耐圧を小さく設定することができる。これにより、電磁弁の小型化が可能となる。
【0035】
さらに、本構成によれば、第1連通電磁弁41及び第2連通電磁弁42の流路を大きくすることができる。一般的に、電磁弁の流路断面積を大きくすると弁体が大きくなり、同じ最大耐圧を設定するためには、より大きな体格や電力が必要となる。しかし、本構成では、2つの電磁弁によって、液路遮断に要求される最大耐圧を達成すればよい。したがって、各電磁弁の最大耐圧を小さくしたり、両電磁弁の間で最大耐圧に差を設けたりすることが可能となる。最大耐圧を小さくできる分、電磁弁の流路を大きくすることができる。
【0036】
本構成では、第1連通電磁弁41及び第2連通電磁弁42の流路断面積がマスタ電磁弁61の流路断面積よりも大きくなっている。これにより、一方の液圧発生部のみの駆動でも、連通路73において大きい流路を確保できるため、応答性良く両方のホイールシリンダ81、82を加圧することができる。
【0037】
(マスタ液路開閉部への給電構成による効果)
マスタ液路開閉部6を構成するマスタ電磁弁61は、第1電源部31及び第2電源部32により駆動される。この構成によれば、一方の電源部が故障したとしても、他方の電源部によりマスタ電磁弁61を閉じることができる。したがって、一方の電源部が故障した場合でも、マスタシリンダ5と連通路73とを液圧的に分離することができる。
【0038】
(マスタシリンダによる効果)
マスタシリンダ5が連通路73に接続されていることで、第1電源部31及び第2電源部32の両方が故障した場合、ブレーキペダル51の操作により、マスタシリンダ5からホイールシリンダ81、82にブレーキ液を供給することができる。この場合、マスタ電磁弁61は開き、シミュレータカット弁52は閉じ、第1連通電磁弁41及び第2連通電磁弁42は開く。
【0039】
<変形例1>
図2に示すように、変形例1にかかる車両用制動装置1Aは、第1液圧発生部21、第2液圧発生部22、第1電源部31、第2電源部32、及び常開型の連通路開閉部4を備えている。連通路開閉部4は、非通電時に連通路73を連通可能に、例えば1つ又は複数の常開型の電磁弁で構成されている。この構成によっても、一方の電源部が故障しても、連通路開閉部4が開き、他方の電源部により液圧発生部が駆動される。つまり、変形例1の構成でも、上記本実施形態における「共通効果」と同様の効果が発揮される。
【0040】
<変形例2>
図3に示すように、変形例2にかかる車両用制動装置1Bは、図2の構成に加えて、マスタシリンダ5及び常開型のマスタ液路開閉部6を備えている。この構成によれば、上記本実施形態における「共通効果」及び「マスタシリンダによる効果」と同様の効果が発揮される。マスタ液路開閉部6及び連通路開閉部4は、第1電源部31、第2電源部32、又はその他の電源部により駆動されてもよい。
【0041】
また、図3の構成において、マスタ液路開閉部6が第1電源部31及び第2電源部32の両方から給電されるように構成されてもよい。この場合、例えば図1のマスタ液路開閉部6(マスタ電磁弁61)のように、図3のマスタ液路開閉部6は、第1電源部31及び第2電源部32により駆動される。この構成によれば、さらに上記の本実施形態における「マスタ液路開閉部への給電構成による効果」と同様の効果が発揮される。
【0042】
<変形例3>
図4に示すように、変形例3にかかる車両用制動装置1Cでは、図3の構成におけるマスタ液路開閉部6が直列接続された2つの電磁弁で構成されている。マスタ液路開閉部6は、第1電源部31により駆動される常開型の第1マスタ電磁弁62と、第1マスタ電磁弁62に直列接続され、第2電源部32により駆動される常開型の第2マスタ電磁弁63と、を備えている。
【0043】
この構成によれば、一方の電源部が故障した場合でも、他方の電源部が対応するマスタ電磁弁を閉じることができる。つまり、一方の電源部が故障した場合でも、マスタ液路74を遮断することができ、マスタシリンダ5とホイールシリンダ81、82とを液圧的に分離することができる。
【0044】
また、第1マスタ電磁弁62及び第2マスタ電磁弁63には、現行の車両で使用している電磁弁(例えば既製品)を用いることができ、システムの汎用性が高くなる。また、独立した2つの電磁弁を用いるため、回路の設計や配置変更が容易である。
【0045】
<変形例4>
図5に示すように、変形例4にかかる車両用制動装置1Dでは、図3の構成において、第1電源部31が連通路開閉部4を駆動し、第2電源部32がマスタ液路開閉部6を駆動する。
【0046】
連通路開閉部4は、連通路73のうち連通路73と第1液路71との接続点P1と連通路73とマスタ液路74との接続点P2との間に設けられている。つまり、連通路開閉部4は、連通路73のうち接続点P2よりも第1ホイールシリンダ81側に配置されている。連通路開閉部4は、非通電時に連通路73を連通可能に、例えば1つ又は複数の常開型の電磁弁である。
【0047】
この構成によれば、第1電源部31が故障した場合、連通路開閉部4が開き、第2電源部32により第2液圧発生部22及びマスタ液路開閉部6が駆動される。これにより、マスタ液路74を閉じた状態で、第2液圧発生部22により両ホイールシリンダ81、82が加圧される。
【0048】
また、第2電源部32が故障した場合、マスタ液路開閉部6が開き、第1電源部31により第1液圧発生部21及び連通路開閉部4が駆動される。これにより、連通路開閉部4が閉じた状態で第1液圧発生部21は第1ホイールシリンダ81を加圧し、ドライバのブレーキ操作によりマスタシリンダ5から第2ホイールシリンダ82にブレーキ液が供給される。つまり、第2電源部32が故障した場合も、両ホイールシリンダ81、82が加圧される。
【0049】
また、両方の電源部31、32が故障した場合でも、マスタシリンダ5が両ホイールシリンダ81、82にブレーキ液を供給可能となる。このように、変形例4によっても、上記本実施形態における「共通効果」及び「マスタシリンダによる効果」と同様の効果が発揮される。
【0050】
<変形例5>
図5に示すように、変形例5にかかる車両用制動装置1Eでは、図3の構成において、マスタシリンダ5に代えてリザーバ9が配置され、常開型のマスタ液路開閉部6に代えて常閉型のリザーバ液路開閉部64が配置されている。つまり、車両用制動装置1Eは、第1液圧発生部21、第2液圧発生部22、第1電源部31、第2電源部32、連通路開閉部4、リザーバ9、及びリザーバ液路開閉部64を備えている。
【0051】
リザーバ9は、ブレーキ液を貯留するリザーバタンクであって、連通路73にリザーバ液路76を介して接続されている。リザーバ液路開閉部64は、リザーバ液路76に設けられ、リザーバ液路76を開閉する常閉型の弁装置である。リザーバ液路開閉部64は、非通電時にリザーバ液路76を遮断可能に、例えば1つ又は複数の常閉型の電磁弁で構成されている。リザーバ液路開閉部64は、第1電源部31、第2電源部32、又は他の電源部から給電される。リザーバ9は、連通路73にブレーキ液を補充することができる。
【0052】
この構成によれば、一方の電源部が故障した場合でも、リザーバ液路開閉部64を閉じ且つ連通路開閉部4を開けた状態で、他方の電源部が対応する液圧発生部を駆動させることができる。これにより、変形例5の構成でも、本実施形態における「共通効果」と同様の効果が発揮される。
【0053】
<その他>
本発明は、上記実施形態及び変形例に限られない。例えば、各液圧発生部21、22は、電動シリンダに限らず、例えばポンプ及び電磁弁等で構成されていてもよい。また、例えば、図1の構成において、連通路開閉部4及びマスタ液路開閉部6は、第1電源部31及び第2電源部32以外の電源部により駆動されるように構成されてもよい。また、上記本実施形態及び変形例において、シミュレータカット弁52は、別の電源から給電されるように構成されてもよい。ただし、図1の構成のように、シミュレータカット弁52も両方の電源部31、32から給電される構成が好ましい。また、マスタシリンダ5を備えていない変形例2、5は、例えば後輪のホイールシリンダに対してや完全自動運転車の車輪に対して設けられる。
【0054】
(共通化ユニット)
また、図7に示すように、1つの筐体100aに(1つのハウジングとして)形成された共通化ユニット100を複数組み合わせることで図1図6の構成を達成してもよい。共通化ユニット100は、接続先に液圧を発生させる液圧発生部20と、液圧発生部20の出力先が接続部A、B、Cの3方向に分岐した液路701、702、703と、分岐した液路701~703のうちの一つの液路701を開閉する電磁弁40と、によって構成される。また、3方向に分岐した液路701~703は、他のユニットの液路に接続してもよいし、他の液路に接続せず、封鎖することもできる。
【0055】
共通化ユニット100を使用して図1を構成した場合について図8を用いて説明する。図1の構成を実現するために、共通化ユニット100を二つ使用するため、以下、共通化ユニット100A、共通化ユニット100Bとする。また、共通化ユニット100A、100Bで構成できない部分については、オプションユニット900にて構成する。オプションユニット900は、共通化ユニット100A、100Bとは別の筐体900aによりユニット化されており、必要な機能に応じて構成を変更可能である。本例では、図1のマスタ電磁弁61から上部の構成(例えばブレーキペダル51を除く部分)を1つの筐体としたオプションユニット900を使用する。
【0056】
共通化ユニット100Aの接続部Aを、共通化ユニット100Bの接続部Aおよびオプションユニット900のマスタ電磁弁61に接続する。共通化ユニット100Aの接続部Cを第1ホイールシリンダ81に接続し、共通化ユニット100Aの接続部Bは封鎖する。共通化ユニット100Bの接続部Cを第2ホイールシリンダ82に接続し、共通化ユニット100Bの接続部Bは封鎖する。これにより、共通化ユニット100を使用して図1の構成が実現できる。
【0057】
共通化ユニット100を使用する利点としては、必要な性能に応じて共通化ユニット100の数の増減や、オプションユニット900の構成を変更することで様々なシステム構成に柔軟に対応できる点である。例えば、電源部の一部が故障した際、マスタシリンダ5による制動力の発生が不要である場合、図8のオプションユニット900を図9に示すリザーバ50と電磁弁60を含む筐体901aで構成されるオプションユニット901に変更することも可能である。加えて、同じ形状の筐体を多数生産することによる低コスト化の実現も可能である。
【0058】
図8とは別の例として、共通化ユニット100を使用し図4を構成した場合について図10を用いて説明する。図10で使用する二つの共通化ユニット100を、それぞれ共通化ユニット100C、共通化ユニット100Dとする。また、共通化ユニット100C、100Dで構成できない部分については、オプションユニット900にて構成する。図10で使用するオプションユニット900は図8で使用するオプションユニット900と共通である。共通化ユニット100Cの接続部Aを、共通化ユニット100Dの接続部Bに接続する。共通化ユニット100Cの接続部Cを第1ホイールシリンダ81に接続し、共通化ユニット100Cの接続部Bは封鎖する。共通化ユニット100Dの接続部Aをオプションユニット900のマスタ電磁弁62に接続する。共通化ユニット100Dの接続部Cを第2ホイールシリンダ82に接続する。これにより、共通化ユニット100を使用して図4の構成が実現できる。図8の例において、共通化ユニット100A、100Bの電磁弁は連通電磁弁として機能させているが、図10の例では、共通化ユニット100Dの電磁弁はマスタ電磁弁(63)として機能させている。
【0059】
また、共通化ユニット100の構成は図7のものに限られない。図11で示すように共通化ユニット101の構成であってもよい。共通化ユニット101は、図1において、第1ホイールシリンダ81と第2ホイールシリンダ82を除いた、マスタ電磁弁61より下部の部分を1つの筐体101aに(1つのハウジングとして)形成したユニットである。共通化ユニット101は、第1液圧発生部21、第1連通電磁弁41、第2液圧発生部22、及び第2連通電磁弁42を備える。第1液圧発生部21の出力は2方向に分岐し、一方は接続部Eに繋がり、他方は第1連通電磁弁41を介して接続部Dおよび第2連通電磁弁42に繋がる。また、第2液圧発生部22の出力は2方向に分岐し、一方は接続部Fに繋がり、他方は第2連通電磁弁42を介して接続部Dおよび第1連通電磁弁41に繋がる。
【0060】
共通化ユニット101の接続部Dを図8と共通のオプションユニット900のマスタ電磁弁61に接続し、接続部Eを第1ホイールシリンダ81に接続し、接続部Fを第2ホイールシリンダ82に接続することで、共通化ユニット101を使用した図1の構成が実現できる。共通化ユニット101を使用する場合も共通化ユニット100を使用する場合と同様に、必要な性能に応じて共通化ユニットの数の増減や、オプションユニットの構成を変更することで様々なシステム構成に柔軟に対応できる。
【0061】
上記の共通化ユニット100を用いた構成は以下のように記載することができる。すなわち、車両用制動装置は、ホイールシリンダに第1液路を介して接続され前記ホイールシリンダに液圧を発生させる液圧発生部と、前記第1液路から分岐した液路である分岐液路に設けられ前記分岐液路を開閉する液路開閉部と、を含む単一の筐体である第1ハウジングと、前記第1ハウジングと同一に構成された筐体である第2ハウジングと、を備え、前記第1ハウジングと前記第2ハウジングとを組み合わせることにより構成されている。
【符号の説明】
【0062】
1、1A、1B、1C、1D、1E…車両用制動装置、21…第1液圧発生部、22…第2液圧発生部、31…第1電源部、32…第2電源部、4…連通路開閉部、41…第1連通電磁弁、42…第2連通電磁弁、5…マスタシリンダ、6…マスタ液路開閉部、61…マスタ電磁弁、62…第1マスタ電磁弁、63…第2マスタ電磁弁、64…リザーバ液路開閉部、71…第1液路、72…第2液路、73…連通路、74…マスタ液路、81…第1ホイールシリンダ、82…第2ホイールシリンダ、9…リザーバ、P1、P2…接続点。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11