(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】ポンプ監視装置、真空ポンプ、ポンプ監視方法およびポンプ監視プログラム
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20231226BHJP
【FI】
F04D19/04 H
(21)【出願番号】P 2020158224
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100098305
【氏名又は名称】福島 祥人
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】廣田 聖典
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-040277(JP,A)
【文献】国際公開第2019/163141(WO,A1)
【文献】特開2017-221863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空ポンプの運転状態を表す物理量の波形データを取得する波形データ取得部と、
前記波形データの特徴量を取得する特徴量取得部と、
前記特徴量に基づいて前記波形データをクラスタリングする第1機械学習部と、
前記波形データの
クラスタリングされたグループごとの時系列データ群を読み込み、
将来の予測波形データを出力する第2機械学習部と、
前記予測波形データに基づき、前記真空ポンプの
将来の交換に関する情報を提示する情報提示部と、を備えるポンプ監視装置。
【請求項2】
前記交換に関する情報は、前記真空ポンプの残り使用プロセス回数を含む、請求項1に記載のポンプ監視装置。
【請求項3】
前記交換に関する情報は、前記真空ポンプの残り使用時間を含む、請求項1に記載のポンプ監視装置。
【請求項4】
前記交換に関する情報により、前記真空ポンプの交換が必要な状態であると判定された場合には、アラームを発報する警報部、をさらに備える、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のポンプ監視装置。
【請求項5】
予測波形データと実測波形データを比較し、予測波形データと実測波形データとの差が縮小されるように前記第2機械学習部を学習させる、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のポンプ監視装置。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載のポンプ監視装置を備える真空ポンプ。
【請求項7】
前記第2機械学習部は、前記クラスタリングされた前記波形データの時系列データ群を読み込み、プロセスがm回実行されるまでの将来の予測波形データを出力し、
前記情報提示部が提示する情報は、将来、k回(kは1以上m以下の整数)のプロセスを実行した後に前記真空ポンプの交換のタイミングが来ることを示す、請求項1に記載のポンプ監視装置。
【請求項8】
真空ポンプの運転状態を表す物理量の波形データを取得する工程と、
前記波形データの特徴量を取得する工程と、
前記特徴量に基づいて前記波形データをクラスタリングする工程と、
前記波形データの
クラスタリングされたグループごとの時系列データ群を読み込み、
将来の予測波形データを出力する工程と、
前記予測波形データに基づき、前記真空ポンプの
将来の交換に関する情報を提示する工程と、を含むポンプ監視方法。
【請求項9】
コンピュータに、
真空ポンプの運転状態を表す物理量の波形データを取得する処理、
前記波形データの特徴量を取得する処理、
前記特徴量に基づいて前記波形データをクラスタリングする処理、
前記波形データの
クラスタリングされたグループごとの時系列データ群を読み込み、
将来の予測波形データを出力する処理、
前記予測波形データに基づき、前記真空ポンプの
将来の交換に関する情報を提示する処理、を実行させるポンプ監視プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ監視装置、真空ポンプ、ポンプ監視方法およびポンプ監視プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体、液晶パネル等の製造におけるドライエッチング、CVD(Chemical vapor deposition)等の工程は、真空処理されたプロセスチャンバ内で実行される。真空ポンプにより内部のガスが排気されたプロセスチャンバには、プロセスガスが導入される。これにより、プロセスチャンバ内が所定の圧力に維持された状態で、これらの工程が実行される。ドライエッチング、CVD等の工程において、プロセスチャンバ内のガスを排気するとき、ガスの排気に伴って真空ポンプ内に反応生成物が堆積することがある。
【0003】
下記特許文献1は、ポンプ監視装置に関する発明を開示している。このポンプ監視装置は、真空ポンプの電流値の波形データを取得し、実測波形データと基準波形データの一致度に基づいて、真空ポンプの負荷増大による異常を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の監視ポンプを利用することで、真空ポンプの異常を判定することができる。しかし、真空ポンプに異常が発生したことが判定される仕組みであるため、真空ポンプの保護が間に合わない場合がある。場合によっては、真空排気系システムに障害が発生する場合がある。
【0006】
本発明の目的は、真空ポンプの異常を予測し、事前に真空ポンプの交換に関する情報をユーザに提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面に従うポンプ監視装置は、真空ポンプの運転状態を表す物理量の波形データを取得する波形データ取得部と、波形データの特徴量を取得する特徴量取得部と、特徴量に基づいて波形データをクラスタリングする第1機械学習部と、クラスタリングされた波形データの時系列データ群を読み込み、予測波形データを出力する第2機械学習部と、予測波形データに基づき、真空ポンプの交換に関する情報を提示する情報提示部とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、真空ポンプの異常を予測し、事前に真空ポンプの交換に関する情報をユーザに提示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施の形態に係る真空処理装置の概略図である。
【
図2】本実施の形態に係る真空ポンプの断面図である。
【
図3】本実施の形態に係るポンプコントローラおよびポンプ監視装置の機能ブロック図である。
【
図4】モータ電流値の実測波形データを示す図である。
【
図5】本実施の形態に係る第1機械学習方法を示すフローチャートである。
【
図6】本実施の形態に係る第2機械学習方法を示すフローチャートである。
【
図7】本実施の形態に係るポンプ交換情報提示方法を示すフローチャートである。
【
図8】本実施の形態に係るポンプ監視装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態に係るポンプ監視装置および真空ポンプの構成について説明する。
【0011】
(1)真空処理装置の構成
図1は、実施の形態におけるポンプ監視装置16が搭載された真空処理装置1の全体図である。真空処理装置1は、例えば、エッチング処理装置や成膜処理装置である。真空処理装置1は、
図1に示すように、プロセスチャンバ11、バルブ12、真空ポンプ13、ポンプコントローラ14、メインコントローラ15およびポンプ監視装置16を備える。
【0012】
真空ポンプ13はバルブ12を介してプロセスチャンバ11に取り付けられている。ポンプコントローラ14は、真空ポンプ13を駆動制御する。ポンプコントローラ14には、真空ポンプ13の状態を監視するポンプ監視装置16が接続されている。なお、
図1に示す例では、ポンプ監視装置16には1台のポンプコントローラ14が接続されているが、ポンプ監視装置16が複数台のポンプコントローラ14に接続され、複数の真空ポンプ13を監視するようにしても良い。
【0013】
メインコントローラ15は、真空ポンプ13を含む真空処理装置1の全体を制御する。バルブ12、ポンプコントローラ14、および、ポンプ監視装置16は、通信ライン17を介してメインコントローラ15に接続されている。ポンプ監視装置16は、真空ポンプ13の異常を予測するために、真空ポンプ13の運転状態を示す物理量を監視している。本明細書におけるポンプ異常の例としては、真空ポンプ13の内部に堆積する反応生成物の量が許容量を超える場合である。
【0014】
なお、
図1で示す真空処理装置1の構成は一例である。例えば、真空ポンプ13が、ポンプコントローラ14およびポンプ監視装置16を備える構成としてもよい。
【0015】
(2)真空ポンプの構成
図2は、真空ポンプ13の構成を示す断面図である。本実施の形態における真空ポンプ13は磁気軸受式のターボ分子ポンプである。真空ポンプ13は、ロータシャフト30、ポンプロータ31、ロータ翼33およびロータ円筒部35を有する回転体3と、ベース21、ポンプケーシング22、ステータ翼23およびステータ25を有する回転支持部2とを備える。ロータシャフト30がモータ43により回転駆動されることにより、回転体3が一体となって回転支持部2に対して回転する。ロータシャフト30は、軸心30aを中心に回転駆動する。
【0016】
ポンプロータ31には、上流側にロータ翼33が複数段形成され、下流側にロータ円筒部35が形成されている。これらに対応して、固定側には複数段のステータ翼23と、円筒状のステータ25とが設けられている。複数のロータ翼33とステータ翼23が上下方向の隙間を空けて交互に配列されることにより、ターボポンプTPが構成されている。複数のロータ翼33および複数のステータ翼23を上下方向に通過する領域によって流路R1が形成されている。ロータ円筒部35またはステータ25のいずれかには図示しないねじ溝が設けられている。ロータ円筒部35およびステータ25により、HolweckポンプHPが構成されている。ロータ円筒部35およびステータ25の間に形成された微小な隙間によって流路R2が形成されている。
【0017】
ロータシャフト30は、ベース21に設けられたラジアル磁気軸受42a,42bとアキシャル磁気軸受42cとによって磁気浮上支持され、モータ43により回転駆動される。各磁気軸受42a~42cは電磁石および変位センサを備えており、変位センサによりロータシャフト30の浮上位置が検出される。ロータシャフト30の回転数は回転数センサ45により検出される。磁気軸受42a~42cが作動していない場合には、ロータシャフト30は非常用のメカニカルベアリング41a,41bによって支持される。
【0018】
ベース21の上部には、真空ポンプ13の外形を形成する筒状のポンプケーシング22が固定されている。ポンプケーシング22の上端には、吸気口26が形成されている。吸気口26は、バルブ12を介してプロセスチャンバ11に接続される。ベース21の排気口27には排気ポート28が設けられ、この排気ポート28に補助ポンプが接続される。ポンプロータ31が締結されたロータシャフト30をモータ43により高速回転すると、吸気口26側の気体分子は、流路R1および流路R2を流れて、排気ポート28から排気される。
【0019】
ベース21には、ヒータ81、および、冷却水などの冷媒が流れる冷媒配管82が設けられている。冷媒配管82には、図示しない冷媒供給配管が接続される。冷媒供給配管に設けられた電磁開閉弁の開閉制御により、冷媒配管82に供給する冷媒流量が調整される。真空ポンプ13において反応生成物の堆積しやすいガスが排気される場合、ねじ溝ポンプ部分や下流側のロータ翼33への生成物堆積を抑制するために、温度調整が行われる。具体的には、ヒータ81がオン/オフされること、および、冷媒配管82を流れる冷媒の流量がオン/オフされることにより、例えばステータ固定部付近のベース温度が所定温度となるように温度調整される。
【0020】
(3)ポンプコントローラおよびポンプ監視装置の構成
図3は、ポンプコントローラ14およびポンプ監視装置16の構成を示す機能ブロック図である。
図2にも示したように、真空ポンプ13は、モータ43、磁気軸受42a,42b,42cおよび回転数センサ45を備える。これらモータ43、磁気軸受42a,42b,42cおよび回転数センサ45は、ポンプコントローラ14によって制御される。ポンプコントローラ14は、モータ制御部141および磁気軸受制御部142を備える。
【0021】
モータ制御部141は、回転数センサ45で検出した回転信号に基づいてロータシャフト30の回転数を推定し、推定された回転数に基づいてモータ43を所定目標回転数にフィードバック制御する。ガス流量が大きくなるとポンプロータ31の負荷が増加するので、モータ43の回転数が低下する。モータ制御部141は、回転数センサ45で検出された回転数と所定目標回転数との差がゼロとなるようにモータ電流を制御することにより、所定目標回転数(定格回転数)を維持するようにしている。このように、一連のプロセスが行われている状態では、モータ制御部141は回転速度を定格回転速度に維持する定常運転制御を行っている。磁気軸受42a~42cは、軸受電磁石と、ロータシャフト30の浮上位置を検出するための変位センサとを備えている。
【0022】
ポンプ監視装置16は、プロセスチャンバ11に取り付けられた真空ポンプ13の状態を監視する装置である。ポンプ監視装置16は、制御部51、操作部52、表示部53、記憶部54および警報部55を備える。制御部51は、波形データ取得部511、特徴量取得部512、第1機械学習部513、第2機械学習部514および判定部515を備える。操作部52は、ポンプ監視装置16に対するユーザ操作を受け付ける。操作部52は、例えば複数の操作ボタンで構成される。表示部53は、例えば液晶表示パネルであり、真空ポンプ13の交換に関する情報を表示する。記憶部54は、RAM(ランダムアクセスメモリー)、ROM(リードオンリーメモリー)およびハードディスクなどから構成される。警報部55は、ポンプ交換時期が到来したときに、アラームを発報する。
【0023】
ポンプ監視装置16は、CPU(
図8参照)を備える。制御部51は、CPUが、RAMなどの記憶部54をワークメモリとして使用し、記憶部54に格納されているポンプ監視プログラム(
図8参照)を実行することにより実現される。つまり、波形データ取得部511、特徴量取得部512、第1機械学習部513、第2機械学習部514および判定部515は、記憶部54に格納されたポンプ監視プログラムが実行されることにより実現される。
【0024】
本実施の形態では、真空ポンプ13の運転状態を表す物理量として、真空ポンプ13のモータ電流値が用いられる。ポンプコントローラ14のモータ制御部141は、モータ電流値を検出する。ポンプ監視装置16の波形データ取得部511は、ポンプコントローラ14からモータ電流値を取得する。モータ電流値は、予め設定された所定のサンプリング間隔で取得される。波形データ取得部511は、取得したモータ電流値に基づいて、モータ電流値の実測波形データを生成する。
【0025】
(4)プロセスごとの波形データ
図4は、真空処理装置1において同一真空処理プロセス、たとえば複数枚の基板に対してエッチングプロセスを連続して繰り返し行っているときのモータ電流値の実測波形データを示す図である。時刻t1~t2の期間P1において1枚目の基板に対するプロセスが行われ、時刻t2~t3の期間P2において2枚目の基板に対するプロセスが行われ、時刻t3~t4の期間P3において3枚目の基板に対するプロセスが行われる。同一プロセスが繰り返し行われるので、各期間P1~P3のモータ電流値の実測波形データは、ほぼ同じ波形になっている。以下では、これら期間P1~P3のことをプロセス期間と呼ぶことにする。
【0026】
時刻t1において、プロセスチャンバ11に1枚目の基板が搬入され、プロセスチャンバ11が真空ポンプ13により排気される。これにより、モータ電流値が急上昇し、時刻t1aにおいて極大値をとる。続いて、モータ電流値は、時刻t1a~t1b間で低下する。続いて、時刻t1bにおいて、プロセスガスが導入されてモータ電流値は再び上昇し、時刻t1cにおいて高い値となる。時刻t1c~t1d間は、一定のプロセス圧力によりプロセス処理が行われるので、モータ電流値はほぼ一定となる。時刻t1dにおいて、1枚目の基板に対するプロセス処理が終了し、プロセスガスの導入が停止される。これにより、モータ電流値は急激に低下し、時刻t1eにおいて極小値をとる。その後、モータ電流値は時刻t1fおよびt1gにおいて極大値をとり、時刻t1gの極大値から急激に低下し、時刻t2において極小値をとる。この間に1枚目の基板が搬出され、2枚目の基板が搬入される。時刻t2から始まる2枚目の基板に対するプロセス期間P2、および、時刻t3から始まる3枚目の基板に対するプロセス期間P3においても、モータ電流値はプロセス期間P1と同様の変化を示す。
【0027】
図4において、真空ポンプ13の回転がスタートされて、t=t1に最初のプロセスが開始されると仮定する。プロセス期間中、モータ電流値は、複数回の極小値をとるが、時刻t1,t2,t3,t4・・・において最も値の小さな極小値(I≒Ia)をとる。この極小値I≒Iaは、
図4に示すように各プロセス期間の開始時に取得されるので、極小値I≒Iaが3回得られた時点ではプロセス期間2つ分のモータ電流値データがサンプリングされたことになる。
【0028】
1プロセス期間を時間Δtとする電流値I≒Iaであるモータ電流値が取得される時間間隔が1プロセス期間の時間Δtに相当する。したがって、(N+1)番目の電流値I≒Iaのサンプリング時刻と1番目の電流値I≒Iaのサンプリング時刻との差分値に1/Nを乗算することで、1プロセス期間の時間Δtが算出される。算出された1プロセス期間の時間Δtは、記憶部54に記憶される。
【0029】
Δtが算出されると、サンプリングされて記憶部54に蓄積されたモータ電流値のデータを、1プロセス期間分取得することで、1プロセス分の実測波形データが生成される。
【0030】
真空処理装置1における一連のプロセス処理が停止されて真空ポンプ13が停止されるまで、実測波形データの取得処理が繰り返し実行される。そして、1プロセス期間分のモータ電流値が新たに取得される度に、新たな1プロセス期間分の実測波形データが算出され、記憶部54に蓄積される。
【0031】
(5)第1機械学習処理
次に、本実施の形態に係る第1機械学習処理について説明する。
図5は、波形データ取得部511、特徴量取得部512および第1機械学習部513において実行される第1機械学習処理の学習工程のフローチャートである。
図5で示す処理は、記憶部54に格納されたポンプ監視プログラムが実行されることにより実行される。
【0032】
ステップS11において、波形データ取得部511が実測波形データを読み込む。実測波形データは、
図4で示したように、1プロセス期間(Δt時間)に対応するモータ電流値のデータである。波形データ取得部511は、記憶部54に記憶されているサンプリングされたモータ電流値のデータから、Δt時間分の実測波形データを読み込む。波形データ取得部511は、実測波形データと合わせて、実測波形データが取得された時間情報も取得する。時間情報は、実測波形データが取得された真空ポンプ13の使用開始時点からの運転時間を積算した情報である。
【0033】
次に、ステップS12において、特徴量取得部512が、ステップS11で読み込まれた波形データの特徴量を抽出する。本実施の形態においては、特徴量取得部512は、特徴量として実測波形データの分散値を取得する。例えば、1プロセス分の実測波形データがn点のサンプリングデータであるとすると、特徴量取得部512は、実測波形データのn点の値X1,X2・・・Xnの分散値を取得する。
【0034】
次に、ステップS13において、第1機械学習部513が特徴量取得部512で取得された特徴量に基づき、実測波形データのクラスタリングを行う。第1機械学習部513は、k均等法(k-means法)、SOM(Self Organizing Map)などを用いることにより、実測波形データをクラスタリングする。ステップS14において、処理対象である全ての実測波形データについて読み込みが完了したか否かが判定される。全ての実測波形データの読み込みが完了していない場合には、ステップS11に戻り処理を繰り返す。全ての実測波形データの読み込みが完了すると、
図5で示す第1機械学習処理を終了する。
【0035】
このように複数の実測波形データを第1機械学習部513により学習させることで、真空ポンプ13の運転状態を示す物理量であるモータ電流値の実測波形データがクラスタリングされる。学習精度を高めるために、真空ポンプ13においては様々なプロセスを実行させることにより実測波形データを学習させることが好ましい。また、異なる複数の真空ポンプ13を利用することで、多数の実測波形データを学習させることが好ましい。
【0036】
(6)第2機械学習処理
次に、本実施の形態に係る第2機械学習処理について説明する。
図6は、第2機械学習部514において実行される第2機械学習処理の学習工程のフローチャートである。
図6で示す処理は、記憶部54に格納されたポンプ監視プログラムが実行されることにより実行される。
【0037】
まず、ステップS21においてクラスタリングされた実測波形データを読み込む。次に、ステップS22において、ステップS21で読み込んだ実測波形データのクラスタリング情報および時間情報を取得する。クラスタリング情報は、第1機械学習部513におけるクラスタリングの結果を示す情報である。例えば、各実測波形データにクラスタリング情報としてIDが付与される。時間情報は、実測波形データが取得された時間を示す情報である。時間情報は、上述したように、実測波形データが取得された真空ポンプ13の使用開始時点からの運転時間を積算した情報である。
【0038】
続いて、ステップS23において、第2機械学習部514が、クラスタリング情報および時間情報とともに実測波形データを読み込み、実測波形データの回帰分析を行う。第2機械学習部514に読み込まれる実測波形データは、クラスタリングされたグループごとに、時間情報を保持している。つまり、実測波形データは、クラスタリングされたグループごとの時系列データ群である。第2機械学習部514は、実測波形データの時系列データ群を読み込んで、クラスタリングされたグループごとに回帰式を得る。ステップS24において、処理対象である全ての実測波形データについて読み込みが完了したか否かが判定される。全ての実測波形データの読み込みが完了していない場合には、ステップS21に戻り処理を繰り返す。全ての実測波形データの読み込みが完了すると、
図6で示す第2機械学習処理を終了する。
【0039】
このように複数の実測波形データを第2機械学習部514により学習させることで、真空ポンプ13の運転状態を示す物理量であるモータ電流値の実測波形データの回帰分析が行われる。学習精度を高めるために、真空ポンプ13においては様々なプロセスを実行させることにより実測波形データを学習させることが好ましい。また、異なる複数の真空ポンプ13を利用することで、多数の実測波形データを学習させることが好ましい。
【0040】
(7)ポンプ交換情報提示処理
次に、本実施の形態に係るポンプ交換情報提示処理について説明する。
図7は、波形データ取得部511、特徴量取得部512、第1機械学習部513および第2機械学習部514において実行されるポンプ交換情報提示処理のフローチャートである。
図7で示す処理は、記憶部54に格納されたポンプ監視プログラムが実行されることにより実行される。
図5および
図6の処理によって、第1機械学習部513および第2機械学習部514の学習が完了した後、
図7の処理が実行される。つまり、
図7で示す処理は、第1機械学習部513および第2機械学習部514を学習済みモデルとして利用し、真空ポンプ13の運転状態の予測を行う処理である。
【0041】
ステップS31において、波形データ取得部511が実測波形データを読み込む。実測波形データは、
図4で示したように、1プロセス期間(Δt時間)に対応するモータ電流値のデータである。波形データ取得部511は、実測波形データと合わせて、実測波形データが取得された時間情報も取得する。次に、ステップS32において、特徴量取得部512が、ステップS31で読み込まれた実測波形データの特徴量を抽出する。本実施の形態においては、特徴量取得部512は、特徴量として実測波形データの分散値を取得する。
【0042】
次に、ステップS33において、第1機械学習部513が、特徴量取得部512において取得された特徴量に基づき、実測波形データのクラスタリングを行う。これにより読み込まれた実測波形データのクラスタリング情報が取得される。
【0043】
次に、ステップS34においてクラスタリングされた実測波形データを読み込む。このとき、読み込んだ実測波形データのクラスタリング情報および時間情報が合わせて第2機械学習部514に入力される。これにより、第2機械学習部514が、クラスタリング情報および時間情報とともに実測波形データを読み込み、実測波形データの予測波形データを出力する。例えば、第2機械学習部514は、プロセスを1回~m回実行した後の将来のモータ電流値の予測波形データを出力する。つまり、第2機械学習部514に読み込まれた実測波形データに基づいて、さらにプロセスを1回実行した後の予測波形データ、2回実行した後の予測波形データ、3回実行した後の予測波形データ・・・m回実行した後の予測波形データが出力される。
【0044】
次に、ステップS35において、判定部515が、予測波形データに基づいて算出される値と閾値と比較し、ポンプ交換推奨情報を取得する。例えば、閾値としては、実測波形データと予測波形データとの電流最大値の差分、電流平均値の差分等を用いることができる。例えば、k(kは1以上m以下の整数)回目の予測波形データの電流値の最大値や平均値と、実測波形データの電流値の最大値や平均値との差分が閾値を超えているときに、判定部515は、真空ポンプ13はk回目のプロセス実行後にポンプ交換時期が到来すると判定する。あるいは、閾値として、実測波形データと予測波形データとの波形マッチング度を用いることができる。例えば、k(kは1以上m以下の整数)回目の予測波形データと実測波形データとの波形マッチング度が閾値を下回るときに、判定部515は、真空ポンプ13はk回目のプロセス実行後にポンプ交換時期が到来すると判定する。
【0045】
判定部515は、k回目の予測波形データにおいて真空ポンプ13の交換時期が到来すると判定すると、表示部53にポンプ交換の必要性を示す情報を提示する。判定部515は、例えば、ポンプ交換推奨情報として、残り使用プロセス回数を提示する。例えばk回目の予測波形データにおいて交換時期が到来すると判定された場合には、k回より少ない回数を残り使用回数として提示する。あるいは、判定部515は、例えば、ポンプ交換推奨情報として、残り使用時間を提示する。例えばk回目の予測波形データにおいて交換時期が来ると判定された場合には、k回のプロセス時間より少ない時間を残り使用時間として提示する。1回のプロセス時間としては、例えばΔtを用いることができる。様々なプロセスが実行される場合には、Δtの平均時間を用いてもよい。
【0046】
判定部515は、残り使用回数がゼロ、または、残り使用時間がゼロになる等、真空ポンプ13が交換必要な状態になったことを判定した場合には、真空ポンプの交換が必要となったことを示す情報を警報部55に通知する。あるいは、判定部515は、残り使用回数が1回等、所定の回数を下回った場合、または、残り使用時間が10分になる等、所定の時間を下回った場合、交換必要情報を警報部55に通知してもよい。これにより、警報部55は、アラームを発報する。また、警報部55は、真空ポンプ13の動作を停止する等の保護モードへ移行するよう、メインコントローラ15に通知する。
【0047】
(8)請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。上記の実施の形態では、判定部515および表示部53が情報提示部の例である。また、上記の実施の形態では、実測波形データが波形データの例である。
【0048】
請求項の各構成要素として、請求項に記載されている構成または機能を有する種々の要素を用いることもできる。
【0049】
(9)他の実施の形態
上記実施の形態においては、ポンプ交換推奨情報は、ポンプ監視装置16が備える表示部53において表示された。他の実施の形態として、ポンプ交換推奨情報を表示する表示部は、ポンプ監視装置16とは別に設けられていても良い。あるいは、表示部53を含めてポンプ監視装置16の全体構成をポンプコントローラ14に組み込む構成としてもよい。あるいは、メインコントローラ15の表示部にポンプ交換推奨情報を提示してもよい。あるいは、真空処理装置1に接続されたコンピュータの画面に表示させてもよい。
【0050】
上記実施の形態では、真空ポンプ13の運転状態を表す物理量として、真空ポンプ13のモータ電流値が用いられた。真空ポンプ13の運転状態を表す物理量としては、他に、真空ポンプ13の回転数、温度、または、回転軸ぶれ量等を用いることができる。これらの物理量は、真空ポンプ13に設けられた回転数センサ、温度センサ、または、変位センサ等から取得することができる。
【0051】
上記実施の形態では、真空ポンプ13の運転状態を表す物理量の特徴量として、モータ電流値の波形データの分散を用いられた。特徴量としては、他にも、モータ電流値の波形データの波形形状、波形微分値等を用いることができる。物理量として、真空ポンプ13の回転数、温度、または、回転軸ぶれ量等の他の物理量が用いられる場合には、同様に、それら物理量の波形データの分散、波形形状、または、波形微分値等を用いることができる。
【0052】
上記実施の形態においては、ポンプ監視プログラムは、記憶部54に保存されている場合を例に説明した。他の実施の形態として、ポンプ監視プログラムは、記憶媒体MDに保存されて提供されてもよい。
図8は、ポンプ監視装置16の構成図である。ポンプ監視装置16のCPUは、デバイスインタフェースを介して記憶媒体MDにアクセスし、記憶媒体MDに保存されたポンプ監視プログラムを、記憶部54に保存するようにしてもよい。あるいは、CPUは、デバイスインタフェースを介して記憶媒体MDにアクセスし、記憶媒体MDに保存されたポンプ監視プログラムを実行するようにしてもよい。
【0053】
上記実施の形態において、第2機械学習部514が、予測波形データを出力する。例えば、第2機械学習部514は、将来のm回分の予測波形データを出力する。他の実施の形態として、ポンプ監視装置16は、実測波形データと予測波形データとを比較する処理を行ってもよい。そして、実測波形データと予測波形データとの差を縮小できるように、第2機械学習部514の学習をさらに進めるようにしてもよい。例えば、実測波形データおよび予測波形データとのマッチング度が向上するように、第2機械学習部514の学習を進めること等が考えられる。
【0054】
上記実施の形態においては、実測波形データを第1機械学習部513および第2機械学習部514で学習させる構成とした。他の実施の形態としては、実測波形データを加工して得られる基準波形データを、学習させる構成としてもよい。例えば、10プロセス分の実測波形データの同一サンプル時点の電流値の平均値を用いて基準波形データを生成することができる。この基準波形データを複数取得して、第1機械学習部513および第2機械学習部514で学習させる構成としてもよい。
【0055】
なお、本発明の具体的な構成は、前述の実施形態に限られるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更および修正が可能である。
【0056】
(10)態様
上述した複数の例示的な実施の形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0057】
(第1項)
本発明の一態様に係るポンプ監視装置は、
真空ポンプの運転状態を表す物理量の波形データを取得する波形データ取得部と、
前記波形データの特徴量を取得する特徴量取得部と、
前記特徴量に基づいて前記波形データをクラスタリングする第1機械学習部と、
前記クラスタリングされた前記波形データの時系列データ群を読み込み、予測波形データを出力する第2機械学習部と、
前記予測波形データに基づき、前記真空ポンプの交換に関する情報を提示する情報提示部と、
を備える。
【0058】
(第2項)
第1項に記載のポンプ監視装置において、
前記交換に関する情報は、前記真空ポンプの残り使用プロセス回数を含んでもよい。
【0059】
(第3項)
第1項に記載のポンプ監視装置において、
前記交換に関する情報は、前記真空ポンプの残り使用時間を含んでもよい。
【0060】
(第4項)
第1項ないし第3項のいずれか一項に記載のポンプ監視装置において、
前記交換に関する情報により、前記真空ポンプの交換が必要な状態であると判定された場合には、アラームを発報する警報部、
をさらに備えてもよい。
【0061】
(第5項)
第1項ないし第4項のいずれか一項に記載のポンプ監視装置において、
予測波形データと実測波形データを比較し、予測波形データと実測波形データとの差が縮小されるように前記第2機械学習部を学習させてもよい。
【0062】
(第6項)
本発明の他の態様に係る真空ポンプは、
第1項~第5項のいずれか一項に記載のポンプ監視装置を備える。
【0063】
(第7項)
本発明の他の態様に係るポンプ監視方法は、
真空ポンプの運転状態を表す物理量の波形データを取得する工程と、
前記波形データの特徴量を取得する工程と、
前記特徴量に基づいて前記波形データをクラスタリングする工程と、
前記クラスタリングされた前記波形データの時系列データ群を読み込み、予測波形データを出力する工程と、
前記予測波形データに基づき、前記真空ポンプの交換に関する情報を提示する工程と、
を含む。
【0064】
(第8項)
本発明の他の態様に係るポンプ監視プログラムは、
コンピュータに、
真空ポンプの運転状態を表す物理量の波形データを取得する処理、
前記波形データの特徴量を取得する処理、
前記特徴量に基づいて前記波形データをクラスタリングする処理、
前記クラスタリングされた前記波形データの時系列データ群を読み込み、予測波形データを出力する処理、
前記予測波形データに基づき、前記真空ポンプの交換に関する情報を提示する処理、
を実行させる。
【符号の説明】
【0065】
1…真空処理装置、13…真空ポンプ、14…ポンプコントローラ、15…メインコントローラ、16…ポンプ監視装置、511…波形データ取得部、512…特徴量取得部、513…第1機械学習部、514…第2機械学習部、515…判定部、53…表示部、55…警報部