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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】産業車両のブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
   B60T 17/18 20060101AFI20231226BHJP
   F04B 51/00 20060101ALI20231226BHJP
   F15B 20/00 20060101ALI20231226BHJP
   B60T 13/14 20060101ALI20231226BHJP
   B60T 17/02 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
B60T17/18
F04B51/00
F15B20/00 D
B60T13/14
B60T17/02
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020164867
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022056884
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(74)【代理人】
【識別番号】100192511
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 晃史
(72)【発明者】
【氏名】丸山 大輔
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-035353(JP,A)
【文献】特開2002-114497(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 17/18
F04B 51/00
F15B 20/00
B60T 13/14
B60T 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動油を吐出する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから吐出される前記作動油と蓄圧ガスとを区画部材を介して収容するアキュムレータと、
蓄圧された前記作動油により制動機構を駆動させるブレーキユニットと、
蓄圧された前記作動油の圧力を検出する油圧検出部と、
前記蓄圧ガスの温度であるガス温度を検出するガス温度検出部と、
前記油圧検出部及び前記ガス温度検出部の検出結果に基づいて、前記作動油の蓄圧機能の異常を認識する異常認識部と、を備え、
前記異常認識部は、前記ガス温度に応じて異なる所定の基準圧力と前記作動油の圧力とに基づいて、前記作動油の蓄圧機能の異常を認識し、
前記油圧検出部は、前記作動油の圧力で動作する複数の圧力スイッチであり、
前記圧力スイッチは、予め設定された設定圧力でオンとオフとが切り替わり、
前記基準圧力は、前記ガス温度と前記蓄圧機能の関係に応じて前記圧力スイッチごとに設定された前記設定圧力であり、
前記異常認識部は、複数の前記圧力スイッチのうち、前記ガス温度に応じて選択された前記圧力スイッチがオフである場合に前記蓄圧機能の異常を認識する、産業車両のブレーキシステム。
【請求項2】
前記異常認識部によって認識された前記作動油の蓄圧機能の異常を産業車両の操作者に報知する報知部を備える、請求項記載の産業車両のブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業車両のブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、産業車両のブレーキシステムとして、作動油を吐出する油圧ポンプと、油圧ポンプから吐出される作動油と蓄圧ガスとを区画部材を介して収容するアキュムレータと、蓄圧された作動油により制動機構を駆動させるブレーキユニットと、を備えるものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実公昭63-33692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような産業車両のブレーキシステムでは、例えば油圧ポンプ等の故障により作動油の蓄圧機能に異常が生じると、アキュムレータに蓄圧された作動油の残圧のみを用いた制動を余儀なくされる。そこで、例えば、蓄圧された作動油の圧力と所定の基準圧力とに基づいて作動油の蓄圧機能の異常を認識し、蓄圧機能の異常が認識された場合に操作者への報知等をすることが考えられる。しかしながら、一般的にアキュムレータは作動油と蓄圧ガスとが区画部材を介して収容される構造であることから、アキュムレータに蓄圧された作動油の残圧には、蓄圧ガスのガス温度の影響が及ぼされる。
【0005】
本発明は、蓄圧ガスのガス温度に応じて作動油の蓄圧機能の異常を適切に認識することができる産業車両のブレーキシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る産業車両のブレーキシステムは、作動油を吐出する油圧ポンプと、油圧ポンプから吐出される作動油と蓄圧ガスとを区画部材を介して収容するアキュムレータと、蓄圧された作動油により制動機構を駆動させるブレーキユニットと、蓄圧された作動油の圧力を検出する油圧検出部と、蓄圧ガスの温度であるガス温度を検出するガス温度検出部と、油圧検出部及びガス温度検出部の検出結果に基づいて、作動油の蓄圧機能の異常を認識する異常認識部と、を備え、異常認識部は、ガス温度に応じて異なる所定の基準圧力と作動油の圧力とに基づいて、作動油の蓄圧機能の異常を認識する。
【0007】
本発明の一態様に係る産業車両のブレーキシステムでは、異常認識部によって、所定の基準圧力と作動油の圧力とに基づいて作動油の蓄圧機能の異常が認識される。ここで、所定の基準圧力は、ガス温度検出部で検出される蓄圧ガスのガス温度に応じて異なるものとすることができる。そのため、例えばアキュムレータに蓄圧された作動油の残圧に及ぼされるガス温度の影響を考慮して、所定の基準圧力を予め設定することにより、蓄圧ガスのガス温度に応じて作動油の蓄圧機能の異常を適切に認識することができる。
【0008】
一実施形態において、油圧検出部は、作動油の圧力値を検出する圧力センサであり、異常認識部は、基準圧力としてガス温度に基づいて設定した圧力値の判定閾値を用いて、圧力値が判定閾値未満である場合に蓄圧機能の異常を認識してもよい。この場合、作動油の圧力値を検出する圧力センサを用いて、蓄圧機能の異常をガス温度に応じて認識することが可能となる。
【0009】
一実施形態において、異常認識部は、ガス温度が高いほど大きい値として判定閾値を設定してもよい。この場合、例えばガス温度が高いほど、同一の制動可能回数で比較したときのアキュムレータに蓄圧された作動油の残圧が大きくなる傾向に合わせて、判定閾値を設定することができる。
【0010】
一実施形態において、油圧検出部は、作動油の圧力で動作する複数の圧力スイッチであり、圧力スイッチは、予め設定された設定圧力でオンとオフとが切り替わり、基準圧力は、ガス温度と蓄圧機能の関係に応じて圧力スイッチごとに設定された設定圧力であり、異常認識部は、複数の圧力スイッチのうち、ガス温度に応じて選択された圧力スイッチがオフである場合に蓄圧機能の異常を認識してもよい。この場合、作動油の圧力で動作する複数の圧力スイッチを用いて、蓄圧機能の異常をガス温度に応じて認識することが可能となる。
【0011】
一実施形態において、産業車両のブレーキシステムは、異常認識部によって認識された作動油の蓄圧機能の異常を産業車両の操作者に報知する報知部を備えてもよい。この場合、蓄圧機能の異常が生じた場合に、その旨を産業車両の操作者に報知することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、蓄圧ガスのガス温度に応じて作動油の蓄圧機能の異常を適切に認識することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る産業車両のブレーキシステムが適用された産業車両の概略構成図である。
図2】アキュムレータに蓄圧された作動油の残圧を説明するための図である。
図3】ガス温度ごとの作動油の残圧の例を示す図である。
図4図1のコントローラの処理例を示すフローチャートである。
図5】産業車両のブレーキシステムの第1変形例を示す概略構成図である。
図6】産業車両のブレーキシステムの第2変形例を示す概略構成図である。
図7図6のコントローラの処理例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、図面において、同一又は同等の要素には同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
図1は、実施形態に係る産業車両のブレーキシステムが適用された産業車両の概略構成図である。図1において、ブレーキシステム1は、産業車両の一例としてフォークリフト2に搭載されている。フォークリフト2は、エンジン3と、このエンジン3の出力軸に連結されたトルクコンバータ4とを備えている。トルクコンバータ4は、単にトルコン4ともいう。
【0016】
ブレーキシステム1は、ブレーキペダル5と、湿式ブレーキユニット(ブレーキユニット)6と、油圧ポンプ7と、アキュムレータ8と、ブレーキバルブ9と、作動油クーラ10と、冷却用流路11と、チャージバルブ12とを備えている。
【0017】
ブレーキペダル5は、操作者により操作されるブレーキ操作部である。湿式ブレーキユニット6は、作動油により制動機構を駆動させてフォークリフト2を減速させる制動装置である。湿式ブレーキユニット6は、例えば、制動機構として、フォークリフト2の車輪(図示省略)を制動させる湿式ブレーキディスク13と、湿式ブレーキディスク13の回転を減速させる押圧力を付与するブレーキピストン14とを有している。ブレーキピストン14は、作動油により駆動される。
【0018】
油圧ポンプ7は、エンジン3によりトルクコンバータ4を介して駆動される。油圧ポンプ7は、オイルタンク15内に貯留された作動油を吸い込んで吐出する。オイルタンク15と油圧ポンプ7との間の流路には、油圧ポンプ7内にゴミ等が入り込むことを防止するサクションフィルタ16が配設されている。
【0019】
アキュムレータ8は、油圧ポンプ7から吐出される作動油を蓄圧する。アキュムレータ8は、油圧ポンプ7から吐出される作動油8aと蓄圧ガス8bとをピストン(区画部材)8cを介して収容する。なお、区画部材は、ピストン8c以外の公知の構成であってもよい。
【0020】
ブレーキバルブ9は、アキュムレータ8とブレーキピストン14との間に配置されている。ブレーキバルブ9は、ブレーキペダル5の操作に応じてアキュムレータ8からブレーキピストン14に供給される作動油8aを制御する。具体的には、ブレーキバルブ9は、ブレーキペダル5の操作量に応じてアキュムレータ8からブレーキピストン14に供給される作動油8aの流量を調整する。
【0021】
作動油クーラ10は、油圧ポンプ7から吐出される作動油を冷却する。冷却用流路11は、作動油クーラ10により冷却された作動油を湿式ブレーキユニット6に供給することにより、湿式ブレーキディスク13を冷却する。冷却用流路11は、作動油クーラ10とオイルタンク15とを接続している。湿式ブレーキディスク13を冷却した後の作動油は、オイルタンク15に戻る。冷却用流路11における湿式ブレーキユニット6とオイルタンク15との間には、リターンフィルタ17が配設されている。また、作動油クーラ10とオイルタンク15との間の流路には、チェック弁18が配設されている。
【0022】
チャージバルブ12は、油圧ポンプ7とアキュムレータ8との間に配置されている。チャージバルブ12は、内部に作動油の流路を切り換える切換バルブを有している。チャージバルブ12は、油圧ポンプ7からアキュムレータ8への作動油8aの供給、及び、油圧ポンプ7から作動油クーラ10への作動油の供給を切り替え可能に構成されている。チャージバルブ12とオイルタンク15との間の流路には、チェック弁19が配設されている。
【0023】
チャージバルブ12は、アキュムレータ8の作動油8aの圧力が所定圧力以下であるときは、油圧ポンプ7からアキュムレータ8へ作動油8aを供給する。この場合、油圧ポンプ7からの作動油8aは、チャージバルブ12を通ってアキュムレータ8に供給されて蓄圧される。チャージバルブ12は、アキュムレータ8の作動油8aの圧力が所定圧力よりも高くなると、油圧ポンプ7からの作動油8aをアキュムレータ8に優先して供給する。チャージバルブ12は、アキュムレータ8への作動油8aの蓄圧が完了すると、油圧ポンプ7からの作動油を作動油クーラ10に供給する。
【0024】
このように、油圧ポンプ7、アキュムレータ8、及びチャージバルブ12が協働することにより、作動油の蓄圧機能が実現される。油圧ポンプ7、アキュムレータ8、及びチャージバルブ12のいずれか一つの機能が損なわれた場合、作動油の蓄圧機能に異常が生じる。蓄圧機能の異常には、アキュムレータ8に蓄圧された作動油の残圧の低下の異常が含まれる。
【0025】
なお、ブレーキペダル5が操作されると、ブレーキバルブ9が開弁することで、アキュムレータ8に蓄圧された作動油8aがブレーキピストン14に供給され、湿式ブレーキディスク13の回転を減速させる押圧力が付与される。また、作動油クーラ10により冷却された作動油が冷却用流路11を流れて湿式ブレーキユニット6に供給されることで、湿式ブレーキディスク13が冷却される。湿式ブレーキユニット6が使用されると、アキュムレータ8に蓄圧された作動油8aが消費され、アキュムレータ8の圧力が低下し、再びアキュムレータ8に作動油8aが蓄圧される。
【0026】
ブレーキシステム1は、温度センサ(ガス温度検出部)21と、圧力センサ(油圧検出部)22と、報知部25と、コントローラ(異常認識部)20と、を備えている。温度センサ21、圧力センサ22、及び報知部25は、コントローラ20に電気的に接続されている。
【0027】
温度センサ21は、蓄圧ガス8bの温度であるガス温度を検出する検出器である。温度センサ21は、検出したガス温度の情報をコントローラ20に送信する。
【0028】
圧力センサ22は、蓄圧された作動油8aの圧力値を検出する検出器である。圧力センサ22は、検出した圧力値の情報をコントローラ20に送信する。
【0029】
報知部25は、後述するようにコントローラ20によって認識された作動油8aの蓄圧機能の異常をフォークリフト2の操作者に報知する。報知部25としては、例えば、ブザー、警告灯、ディスプレイ等が含まれる。報知部25は、ブザーの警告音、警告灯等により、蓄圧低下状態である旨を操作者に報知する。なお、操作者は、フォークリフト2の乗員であってもよいし、フォークリフト2の遠隔操作者であってもよい。
【0030】
コントローラ20は、制動制御を含むフォークリフト2の各種の制御を統括する。コントローラ20は、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]等を有する電子制御ユニットである。コントローラ20では、例えば、ROMに記録されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。なお、コントローラ20は、複数の電子ユニットから構成されていてもよい。
【0031】
コントローラ20は、ガス温度に応じて異なる所定の基準圧力と作動油8aの圧力とに基づいて、作動油8aの蓄圧機能の異常を認識する。コントローラ20は、温度センサ21及び圧力センサ22の検出結果に基づいて、作動油8aの蓄圧機能の異常を認識する。一例として、コントローラ20は、温度センサ21で検出したガス温度に基づいて設定した圧力値の判定閾値(基準圧力)を用いて、圧力センサ22で検出した圧力値が判定閾値未満である場合に蓄圧機能の異常を認識する。
【0032】
図2及び図3を参照しつつ、判定閾値について詳述する。図2は、アキュムレータに蓄圧された作動油の残圧を説明するための図である。図2には、一例として、アキュムレータ8に作動油8aが圧力値Pacで蓄圧された状態で蓄圧機能の異常が生じた場合における、制動回数と作動油8aの圧力値との関係が示されている。制動回数とは、例えば、ブレーキペダル5を操作する回数である。
【0033】
図2に示されるように、制動回数が増加するに従って、蓄圧された作動油8aの圧力値が減少する。図2の例では、圧力値Pacで蓄圧された状態を0回として制動回数が21回に達すると、作動油8aの圧力が平衡に達するため、更なる制動が不可能となる。作動油8aの圧力の平衡とは、アキュムレータ8からブレーキバルブ9までの作動油8aの圧力と、ブレーキバルブ9から湿式ブレーキユニット6までの作動油の圧力と、が同一となって平衡している状態を意味する。作動油8aの圧力が平衡に達すると、ブレーキピストン14によって湿式ブレーキディスク13の回転を減速させる押圧力を付与することが不可能となる。
【0034】
よって、蓄圧機能の異常が生じた場合には、フォークリフト2の操作者が、作動油8aの圧力が平衡に達する前にフォークリフト2を停車させることが望まれる。そこで、ブレーキシステム1は、フォークリフト2を停車させるための一定回数の制動可能回数を確保できるように構成されている。より詳しくは、ブレーキシステム1では、蓄圧された作動油8aの圧力値が減少して所定の判定閾値に達して圧力値が判定閾値未満となった場合に、作動油8aの蓄圧機能の異常が生じた旨を操作者が報知部25によって報知される。なお、制動可能回数とは、コントローラ20が作動油8aの蓄圧機能の異常を認識してから可能な制動の回数である。図2の例では、圧力値が判定閾値Th3未満となるとコントローラ20が作動油8aの蓄圧機能の異常を認識し、その時点からの制動可能回数N3は9回となっている。
【0035】
図3は、ガス温度ごとの作動油の残圧の例を示す図である。図3では、図2に示される曲線が、ガス温度が50℃の場合に対応する残圧として二点鎖線で示されている。その他、ガス温度が-20℃の場合に対応する残圧が実線で示され、ガス温度が100℃の場合に対応する残圧が破線で示され、ガス温度が140℃の場合に対応する残圧が一点鎖線で示されている。
【0036】
また、図3には、各残圧の曲線ごとに制動可能回数N1~N4が示されている。制動可能回数N1は、ガス温度が140℃の場合の制動可能回数に対応する。制動可能回数N2は、ガス温度が100℃の場合の制動可能回数に対応する。制動可能回数N3は、ガス温度が50℃の場合の制動可能回数に対応する。制動可能回数N4は、ガス温度が-20℃の場合の制動可能回数に対応する。ここでは一例として、制動可能回数N1~N4は、すべて9回とされている。
【0037】
ブレーキシステム1では、蓄圧機能の異常を認識するための蓄圧ガス8bの基準圧力として、各残圧の曲線ごとに判定閾値Th1~Th4が予め設定されている。ここでは、上述のとおり各残圧の曲線ごとに同一の制動可能回数(例えば9回)が確保できるように、図3に示されるように判定閾値Th1~Th4の値が設定され、コントローラ20に予め記憶されている。
【0038】
ここで、アキュムレータ8の蓄圧ガス8bについて、蓄圧された作動油8aの圧力が互いに等しい場合、気体の状態方程式より、ガス温度が高くなるほど蓄圧ガス8bの体積が大きくなる。アキュムレータ8の内部の容積は一定であるため、ガス温度が高くなるほど、アキュムレータ8に収容可能な作動油8aの体積が小さくなる。よって、ガス温度が高いほど作動油8aの収容量が小さいことから、作動油8aの蓄圧機能に異常が生じた場合に作動油8aの圧力の平衡に達し易くなる。つまり、圧力値Pacで蓄圧された状態を0回として作動油8aの圧力の平衡に達するまでの制動回数は、ガス温度が高いほど少なくなる。したがって、図3に示されるように、制動可能回数N1~N4が互いに同一回数である場合、判定閾値Th1~Th4は、ガス温度が高いほど大きい値となる。
【0039】
そこで、コントローラ20は、ガス温度が高いほど大きい値として判定閾値を設定する。より詳しくは、コントローラ20は、温度センサ21で検出されたガス温度に応じて判定閾値Th1~Th4を選択する。コントローラ20は、複数の判定閾値Th1~Th4のうち、温度センサ21で検出されたガス温度の残圧の曲線に対応する一つの判定閾値を選択する。コントローラ20は、圧力センサ22で検出した作動油8aの圧力値と、図3で例示される複数の判定閾値Th1~Th4のうち検出したガス温度に対応する判定閾値とを比較し、圧力値が判定閾値未満であるか否かを判定する。これにより、フォークリフト2を停車させるための一定回数の制動可能回数を確保し易くなり、制動可能回数N1~N4を、例えば同一の制動可能回数(例えば9回)とすることができる。
【0040】
[コントローラ20による演算処理の一例]
次に、コントローラ20による演算処理の一例について説明する。図4は、図1のコントローラの処理例を示すフローチャートである。図4に示される処理は、例えばフォークリフト2のエンジン3の運転中等に実行される。
【0041】
図4に示されるように、コントローラ20は、S01において、蓄圧ガス8bのガス温度の検出を行う。コントローラ20は、例えば、温度センサ21で検出した作動油8aの温度を、蓄圧ガス8bのガス温度として検出する。
【0042】
コントローラ20は、S02において、作動油8aの圧力値の検出を行う。コントローラ20は、例えば、圧力センサ22により作動油8aの圧力値を検出する。
【0043】
コントローラ20は、S03において、判定閾値の設定を行う。コントローラ20は、例えば、検出したガス温度に基づいて、図3で例示されるように圧力値の判定閾値(基準圧力)を設定する。
【0044】
コントローラ20は、S04において、圧力値が判定閾値未満であるか否かの判定を行う。コントローラ20は、例えば、圧力センサ22で検出した作動油8aの圧力値と、図3で例示される複数の判定閾値Th1~Th4のうち検出したガス温度に対応する判定閾値とを比較し、圧力値が判定閾値未満であるか否かを判定する。
【0045】
S04において圧力値が判定閾値未満であると判定された場合、コントローラ20は、S05において、蓄圧機能の異常を認識する。コントローラ20は、例えば、蓄圧機能の異常として、アキュムレータ8の作動油8aの蓄圧低下状態を認識する。コントローラ20は、S06において、操作者への報知を行う。コントローラ20は、例えば、操作者への報知として、ブザーの警告音、警告灯の点灯又は点滅等により、蓄圧低下状態である旨を操作者に報知する。また、制動可能回数の残り回数をディスプレイに表示させてもよい。その後、コントローラ20は、図4の処理を終了する。
【0046】
一方、S04において圧力値が判定閾値以上であると判定された場合、コントローラ20は、蓄圧機能の異常を認識することなく、図4の処理を終了する。
【0047】
[作用及び効果]
以上、本実施形態に係る産業車両のブレーキシステム1では、コントローラ20によって、所定の基準圧力と作動油8aの圧力とに基づいて作動油8aの蓄圧機能の異常が認識される。ここで、所定の基準圧力は、温度センサ21で検出される蓄圧ガス8bのガス温度に応じて異なるものとされている。すなわち、アキュムレータ8に蓄圧された作動油8aの残圧に及ぼされるガス温度の影響を考慮して、所定の基準圧力が予め設定されている。したがって、産業車両のブレーキシステム1によれば、蓄圧ガス8bのガス温度に応じて作動油8aの蓄圧機能の異常を適切に認識することができる。
【0048】
産業車両のブレーキシステム1では、油圧検出部として、作動油8aの圧力値を検出する圧力センサ22が用いられている。コントローラ20は、基準圧力としてガス温度に基づいて設定した圧力値の判定閾値Th1~Th4を用いて、圧力値が判定閾値未満である場合に蓄圧機能の異常を認識する。すなわち、コントローラ20は、圧力センサ22で検出した作動油8aの圧力値と、図3で例示される複数の判定閾値Th1~Th4のうち検出したガス温度に対応する判定閾値とを比較し、圧力値が判定閾値未満である場合に蓄圧機能の異常を認識する。これにより、作動油8aの圧力値を検出する圧力センサ22を用いて、蓄圧機能の異常をガス温度に応じて認識することが可能となる。
【0049】
産業車両のブレーキシステム1では、コントローラ20により、ガス温度が高いほど大きい値として判定閾値Th1~Th4が設定されている。これにより、同一の制動可能回数で比較したときのアキュムレータ8に蓄圧された作動油8aの残圧が、ガス温度が高いほど大きくなる傾向に合わせて、判定閾値Th1~Th4を設定することができる。また、同一の制動可能回数となるような判定閾値Th1~Th4の設定によれば、例えば下記報知部25によって操作者が報知されたときの制動可能回数の残り回数(警告時の残り回数)は、ガス温度に関わらず一定である。これにより、例えば操作者が警告時の残り回数を予め把握しておくことで、仮に蓄圧機能の異常が生じたとしても警告時の残り回数だけ制動を行うことができる点で操作者にとっての安心材料となることが期待される。
【0050】
産業車両のブレーキシステム1は、コントローラ20によって認識された作動油8aの蓄圧機能の異常をフォークリフト2の操作者に報知する報知部25を備えている。これにより、蓄圧機能の異常が生じた場合に、その旨をフォークリフト2の操作者に報知することができる。
【0051】
[変形例]
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限られるものではない。
【0052】
上記実施形態のブレーキシステム1では、蓄圧ガス8bのガス温度として、温度センサ21で検出された作動油8aの温度を用いたが、これに限定されない。例えば、図5のような構成とすることができる。図5は、産業車両のブレーキシステムの第1変形例を示す概略構成図である。図5に示されるように、第1変形例に係るブレーキシステム1Aでは、ガス温度検出部として、作動油8aの流路に設けられた温度センサ21に代えて、温度センサ21Aがアキュムレータ8に直接的に設けられている。この温度センサ21Aを用いて、温度センサ21Aで直接検出したアキュムレータ8の蓄圧ガス8bの温度をガス温度として用いてもよい。
【0053】
また、ガス温度としては、その他、アキュムレータ8の雰囲気温度を代用することができる。例えば、アキュムレータ8が配置されている場所に応じたガス温度検出部として、アキュムレータ8がエンジンルーム内に配置されている場合には、エンジンルーム温度センサを用いることができる。あるいは、アキュムレータ8がエンジンルーム外に配置されている場合には、外気温度センサ又は吸気温度センサを用いることができる。
【0054】
上記実施形態のブレーキシステム1では、蓄圧された作動油8aの圧力として、圧力センサ22で検出された作動油8aの圧力値を用いたが、これに限定されない。例えば、図6のような構成とすることができる。図6は、産業車両のブレーキシステムの第2変形例を示す概略構成図である。図6に示されるように、第2変形例に係るブレーキシステム1Bでは、作動油8aの流路に設けられた一つの圧力センサ22に代えて、複数の圧力スイッチ23,24が作動油8aの流路に設けられている。すなわち、油圧検出部は、作動油8aの圧力で動作する複数の圧力スイッチ23,24である。
【0055】
圧力スイッチ23,24のそれぞれは、予め設定された設定圧力でオンとオフとが切り替わる。圧力スイッチ23,24は、コントローラ20Bに電気的に接続されており、コントローラ20Bにそれぞれのオン信号又はオフ信号を送信する。
【0056】
圧力スイッチ23,24のそれぞれは、スイッチのオンとオフとが切り替わる設定圧力が予め設定されている。設定圧力は、図2及び図3で示されるようなガス温度と蓄圧機能の関係に応じて、圧力スイッチ23,24ごとに設定されている。つまり、図6の構成において、作動油8aの蓄圧機能の異常を認識するための基準圧力は、圧力スイッチ23,24ごとに設定された設定圧力である。ここでは、例えば、圧力スイッチ23の設定圧力が図3のTh1と設定され、圧力スイッチ24の設定圧力が図3のTh2と設定されているものとする。
【0057】
コントローラ20Bは、コントローラ20と基本的に同様に構成されているが、圧力センサ22で検出した圧力値に代えて、圧力スイッチ23.24から送信されたオン信号又はオフ信号を用いて蓄圧機能の異常を認識するように構成されている。すなわち、コントローラ20Bは、複数の圧力スイッチ23,24のうち、ガス温度に応じて選択された圧力スイッチがオフである場合に蓄圧機能の異常を認識する。
【0058】
コントローラ20Bでは、複数の圧力スイッチ23,24のそれぞれについての温度範囲が予め設定されている。例えば、設定圧力が図3のTh1の圧力スイッチ23(図7の第1圧力スイッチ)については、140℃を含む第1温度範囲(例えば120℃~)とされ、設定圧力が図3のTh2の圧力スイッチ24(図7の第2圧力スイッチ)については、100℃を含む第2温度範囲(例えば80℃~120℃)とされている。コントローラ20Bは、温度センサ21で検出したガス温度が第1及び第2温度範囲の何れに含まれるかに応じて、圧力スイッチ23,24の一方を選択する。
【0059】
図7は、図6のコントローラ20Bの処理例を示すフローチャートである。図7に示される処理は、例えばフォークリフト2のエンジン3の運転中等に実行される。
【0060】
図7に示されるように、コントローラ20Bは、S11において、蓄圧ガス8bのガス温度の検出を行う。コントローラ20Bは、例えば、温度センサ21で検出した作動油8aの温度を、蓄圧ガス8bのガス温度として検出する。
【0061】
コントローラ20Bは、S12において、第1圧力スイッチを使用するか否かの判定を行う。コントローラ20Bは、例えば、温度センサ21で検出した作動油8aの温度が第1温度範囲に含まれる場合、第1圧力スイッチとして圧力スイッチ23を使用すると判定し、S13の処理に移行する。コントローラ20Bは、例えば、温度センサ21で検出した作動油8aの温度が第1温度範囲に含まれない場合、第1圧力スイッチを使用しないと判定し、S14の処理に移行する。
【0062】
コントローラ20Bは、S13において、圧力スイッチ23が出力する信号に基づいて、第1圧力スイッチがオフであるか否かの判定を行う。例えば、コントローラ20Bは、圧力スイッチ23からのオフ信号を受信した場合、第1圧力スイッチがオフであると判定し、S14の処理に移行する。コントローラ20Bは、圧力スイッチ23からのオン信号を受信した場合、第1圧力スイッチがオンであると判定し、アキュムレータ8に蓄圧された作動油8aの圧力が第1設定圧力以上であって蓄圧機能の異常がないものとして、図7の処理を終了する。
【0063】
一方、コントローラ20Bは、S14において、第2圧力スイッチを使用するか否かの判定を行う。コントローラ20Bは、例えば、温度センサ21で検出した作動油8aの温度が第2温度範囲に含まれる場合、第2圧力スイッチとして圧力スイッチ24を使用すると判定し、S15の処理に移行する。コントローラ20Bは、例えば、温度センサ21で検出した作動油8aの温度が第2温度範囲に含まれない場合、第2圧力スイッチを使用しないと判定し、図7の処理を終了する。
【0064】
コントローラ20Bは、S15において、圧力スイッチ24が出力する信号に基づいて、第2圧力スイッチがオフであるか否かの判定を行う。例えば、コントローラ20Bは、圧力スイッチ24からのオフ信号を受信した場合、第2圧力スイッチがオフであると判定し、S16の処理に移行する。コントローラ20Bは、圧力スイッチ24からのオン信号を受信した場合、第2圧力スイッチがオンであると判定し、アキュムレータ8に蓄圧された作動油8aの圧力が第2設定圧力以上であって蓄圧機能の異常がないものとして、図7の処理を終了する。
【0065】
コントローラ20Bは、S16において、蓄圧機能の異常の認識を行う。具体的には、例えば、第1圧力スイッチがオフであるとコントローラ20Bが判定した場合(S13:YES)、コントローラ20Bは、第1圧力スイッチの検出結果に基づきアキュムレータ8に蓄圧された作動油8aの圧力が第1設定圧力未満となっていることから、作動油8aの温度が第1温度範囲に含まれる場合の蓄圧機能の異常として、アキュムレータ8の作動油8aの蓄圧低下状態を認識する。また例えば、第2圧力スイッチがオフであるとコントローラ20Bが判定した場合(S15:YES)、コントローラ20Bは、第2圧力スイッチの検出結果に基づきアキュムレータ8に蓄圧された作動油8aの圧力が第2設定圧力未満となっていることから、作動油8aの温度が第2温度範囲に含まれる場合の蓄圧機能の異常として、アキュムレータ8の作動油8aの蓄圧低下状態を認識する。
【0066】
コントローラ20Bは、S17において、操作者への報知を行う。コントローラ20Bは、例えば、操作者への報知として、ブザーの警告音、警告灯の点灯又は点滅等により、蓄圧低下状態である旨を操作者に報知する。また、制動可能回数の残り回数をディスプレイに表示させてもよい。その後、コントローラ20Bは、図7の処理を終了する。
【0067】
上記実施形態では、産業車両としてフォークリフト2として例示したが、これに限定されず、ブレーキシステム1は湿式ブレーキユニット6を用いる他の産業車両に適用することができる。
【0068】
上記実施形態及び変形例では、図4及び図7の処理がフォークリフト2のエンジン3の運転中等に実行されるものと説明したが、これに限定されない。例えば、油圧ポンプ7が電動モータで駆動可能であれば、図4及び図7の処理はエンジン3の停止中に実行されてもよい。また、蓄圧機能の実現のための油圧ポンプ7等の構成が別途故障判定された場合に図4及び図7の処理が実行されてもよい。
【0069】
上記実施形態及び変形例では、制動可能回数N1~N4を互いに同じ回数(9回)としたが、これに限定されない。9回とは異なる互いに同じ回数としてもよいし、互いに異なる回数としてもよい。要は、フォークリフト2の操作者が、作動油8aの圧力が平衡に達する前にフォークリフト2を停車させることが図られる回数であればよい。この場合において、制動可能回数によっては、圧力センサ22で検出する圧力値の判定閾値として、必ずしもガス温度が高いほど大きい値としなくてもよい。
【0070】
以上に記載された実施形態及び種々の変形例の少なくとも一部が任意に組み合わせられてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1,1A,1B…産業車両のブレーキシステム、2…フォークリフト(産業車両)、6…湿式ブレーキユニット(ブレーキユニット)、7…油圧ポンプ、8…アキュムレータ、8a…作動油、8b…蓄圧ガス、8c…ピストン(区画部材)、20,20B…コントローラ(異常認識部)、21,21A…温度センサ(ガス温度検出部)、22…圧力センサ(油圧検出部)、23,24…圧力スイッチ(油圧検出部)、25…報知部、Th1~Th4…判定閾値。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7