(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】光ファイバ
(51)【国際特許分類】
G02B 6/036 20060101AFI20231226BHJP
G02B 6/44 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
G02B6/036
G02B6/44 331
G02B6/44 301A
(21)【出願番号】P 2020504941
(86)(22)【出願日】2019-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2019007356
(87)【国際公開番号】W WO2019172022
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-01-21
(31)【優先権主張番号】P 2018040665
(32)【優先日】2018-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅人
(72)【発明者】
【氏名】川口 雄揮
(72)【発明者】
【氏名】山本 義典
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 健美
【審査官】山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-035722(JP,A)
【文献】特表2014-526066(JP,A)
【文献】特表2015-505068(JP,A)
【文献】特開2015-166853(JP,A)
【文献】特表2014-511125(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0075061(US,A1)
【文献】特表2016-522440(JP,A)
【文献】特表2003-531799(JP,A)
【文献】米国特許第08442078(US,B1)
【文献】特開2016-081067(JP,A)
【文献】特開2014-002297(JP,A)
【文献】特開2010-176123(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02-6/10
G02B 6/44
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、
前記コアを取り囲む内クラッドであって、前記コアの屈折率より小さい屈折率を有する内クラッドと、
前記内クラッドを取り囲む外クラッドであって、前記コアの屈折率より小さく前記内クラッドの屈折率より大きい屈折率を有する外クラッドと、
を備え、
波長1625nmにおける曲げ半径10mmでの
コースティック半径の、1310nmにおけるLP01モードのモードフィールド径をカットオフ波長で割った値であるMAC数に対する
比である、実効コースティック半
径が2.70μm以上であ
り、
前記内クラッドの外半径bが18.0μm以上22.0μm以下であり、
前記内クラッドの平均比屈折率差から前記外クラッドの最大比屈折率差を引いた値Δ
dep
が-0.09%以上-0.04%以下であり、
前記MAC数が6.30以上7.25以下である、
光ファイバ。
【請求項2】
波長1310nmにおいて8.2μm以上9.9μm以下のモードフィールド直径を有する、
請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
1260nm以下のケーブルカットオフ波長と、
1300nm以上1324nm以下のゼロ分散波長と、を有する、
請求項1
または請求項2に記載の光ファイバ。
【請求項4】
前記コアの直径が7.3μm以上9.0μm以下であり、
前記コアの平均比屈折率差から前記外クラッドの最大比屈折率差を引いた値Δ
coreが0.32%以上0.40%以下である、
請求項1
から請求項3の何れか一項に記載の光ファイバ。
【請求項5】
前記コアの中心から波長1625nmにおける曲げ半径15mmでのコースティック半径だけ離れた位置が、前記内クラッドまたは前記内クラッドと前記外クラッドとの間の遷移部内に存在する、
請求項1
から請求項4の何れか一項に記載の光ファイバ。
【請求項6】
前記コアの中心から波長1625nmにおける曲げ半径15mmでのコースティック半径だけ離れた位置が、前記内クラッドと前記外クラッドとの間の遷移部を除く前記外クラッド内に存在し、
前記コースティック半径で規定される前記位置において、前記コアの前記中心から前記外クラッドの外周面に向かう方向に沿った距離と屈折率との関係で規定される屈折率プロファイルの傾きが負である、
請求項1
から請求項4の何れか一項に記載の光ファイバ。
【請求項7】
前記コアの中心から波長1625nmにおける曲げ半径15mmでのコースティック半径だけ離れた位置が、前記内クラッドと前記外クラッドとの間の遷移部を除く前記外クラッド内に存在し、
前記コースティック半径で規定される位置において、前記コアの前記中心から前記外クラッドの外周面に向かう方向に沿った距離と残留応力との関係で規定される残留応力プロファイルの傾きが正である、
請求項1
から請求項4の何れか一項に記載の光ファイバ。
【請求項8】
前記内クラッドおよび前記外クラッドの境界と前記外クラッドの外周面との中間点を基準として外側に位置する、前記外クラッドの最外部において、前記中間点から前記外クラッドの前記外周面に向かって残留応力が減少している、
請求項1
から請求項7の何れか一項に記載の光ファイバ。
【請求項9】
前記外クラッドを取り囲むプライマリ樹脂層を更に備えた、
請求項1
から請求項8の何れか一項に記載の光ファイバ。
【請求項10】
前記プライマリ樹脂層が波長546nmにおいて1.44以上1.51以下の屈折率を有する、
請求項
9に記載の光ファイバ。
【請求項11】
前記プライマリ樹脂層を取り囲むセカンダリ樹脂層を更に備えた、
請求項
9または請求項10に記載の光ファイバ。
【請求項12】
前記プライマリ樹脂層と前記セカンダリ樹脂層との間における波長546nmにおける屈折率差の絶対値が0.07以下である、
請求項
11に記載の光ファイバ。
【請求項13】
前記プライマリ樹脂層が1MPa以下のヤング率を有し、
前記セカンダリ樹脂層が800MPa以上のヤング率を有する、
請求項
11または請求項12に記載の光ファイバ。
【請求項14】
W型屈折率プロファイルを有する、
請求項1
から請求項13の何れか一項に記載の光ファイバ。
【請求項15】
コアと、
前記コアを取り囲む内クラッドであって、前記コアの屈折率より小さい屈折率を有する内クラッドと、
前記内クラッドを取り囲む外クラッドであって、前記コアの屈折率より小さく前記内クラッドの屈折率より大きい屈折率を有する外クラッドと、
を備え、
W型屈折率プロファイルを有し、
波長1625nmにおける曲げ半径10mmでの
コースティック半径の、1310nmにおけるLP01モードのモードフィールド径をカットオフ波長で割った値であるMAC数に対する
比である、実効コースティック半
径が2.70μm以上であ
り、
前記内クラッドの外半径bが18.0μm以上22.0μm以下であり、
前記内クラッドの平均比屈折率差から前記外クラッドの最大比屈折率差を引いた値Δ
dep
が-0.09%以上-0.04%以下であり、
前記MAC数が6.30以上7.25以下である、
光ファイバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバに関するものである。
【0002】
本出願は、2018年3月7日出願の日本出願第2018-040665号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0003】
光ファイバを使用する光学部品や光学モジュールの他、光ファイバネットワークにおける特にアクセス系では、小さい半径で曲げられた光ファイバが設置される場合が多くある。光ファイバに曲げが加わると、その光ファイバで伝送される光信号に曲げ損失が生じてしまう。このことから、曲げ損失の小さな光ファイバが必要とされている。曲げ損失は、光ファイバを或る半径で曲げることにより発生する損失である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】R. Morgan, et al., " Wavelength dependence of bending loss in monomode optical fibers: effect of the fiber buffer coating," Opt. Lett., Vol.15, No.17, pp.947-949 (1990).
【発明の概要】
【0006】
本開示の光ファイバは、コアと、該コアを取り囲む内クラッドと、該内クラッドを取り囲む外クラッドとを備える。内クラッドは、コアの屈折率より小さい屈折率を有する。外クラッドは、コアの屈折率より小さく内クラッドの屈折率より大きい屈折率を有する。特に、当該光ファイバにおいて、波長1625nmにおける曲げ半径10mmでのMAC数に対するコースティック半径の比(コースティック半径/MAC数)は、2.70μm以上である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、光ファイバの屈折率プロファイルの一例を示す図である。
【
図2】
図2は、或る半径の曲げが加えられた光ファイバの等価的な屈折率プロファイルを示す図である。
【
図3A】
図3Aは、光ファイバの各パラメータを説明するための図である。
【
図4】
図4は、MAC数と曲げ損失との間の相関を示すグラフである。
【
図5】
図5は、W型屈折率プロファイルを有する光ファイバにおける実効コースティック半径R
c,eff(R=10mm,λ=1625nm)と曲げ損失α
1625,10との間の関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実効コースティック半径R
c,eff(R=15mm,λ=1625nm)と曲げ損失α
1625,15との間の関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、W型屈折率プロファイルにおける遷移部を説明するための図である。
【
図8】
図8は、実施例(EXAMPLE)および比較例(COMPARATIVE EXAMPLE)の光ファイバの諸元を纏めた表である(その1)。
【
図9】
図9は、実施例および比較例の光ファイバの諸元を纏めた表である(その2)。
【
図10】
図10は、光ファイバの各パラメータの好ましい範囲および更に好ましい範囲を纏めた表である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
光ファイバの曲げ損失について検討する際には、コースティック半径(Caustic Radius)と呼ばれるパラメータが重要である。
図1および
図2を用いてコースティック半径について説明する。
図1は、光ファイバの屈折率プロファイルの一例を示す図である。この光ファイバは、W型屈折率プロファイル150を有する。すなわち、この光ファイバは、コア10と、該コア10を取り囲む内クラッド20と、該内クラッド20を取り囲む外クラッド30とを備える。内クラッド20は、コア10の屈折率より小さい屈折率を有する。外クラッド30は、コア10の屈折率より小さく内クラッド20の屈折率より大きい屈折率を有する。
【0009】
図2は、或る半径の曲げが加えられた光ファイバを直線的な導波路として取り扱うための等価的な屈折率プロファイル160を示す図である。光ファイバが曲げられると、該光ファイバの曲げの外側は曲げの内側に比べて光の伝搬距離が長くなる。このため、
図2に示されたように、等価的な屈折率プロファイルは曲げの外側に位置する各部での屈折率が高くなる一方、曲げの内側に位置する各部での屈折率が低くなる。この曲げによる屈折率の変化を加えた屈折率を等価屈折率という。
図2には、或る波長λでのLP01モードの実効屈折率のレベルも破線で示されている。コースティック半径は、或る半径の曲げが加えられた光ファイバの曲げ方向に平行な光ファイバの動径方向の等価的な屈折率プロファイル160において、光ファイバの断面における中心位置(
図3Aに示されたファイバ断面の中心Oに相当)から、等価屈折率と実効屈折率とが互いに等しくなる位置までの距離である。
【0010】
ここで、波長λでのLP01モードの実効屈折率n
eff(λ)は、光ファイバが曲げられていないときの波長λでのLP01モードの伝搬定数を、該波長λにおける波数で割った値で規定される。また、波長λにおけるファイバ断面上の屈折率プロファイルをn(λ,r)とし、曲げ半径をR[mm]としたとき、光ファイバの等価的な屈折率プロファイルn
bend(R,λ,r,θ)は、以下の式(1)で規定される。なお、
図3Aは、光ファイバの各パラメータを説明する図である。
【0011】
【0012】
図3Aに示されたr[mm]は、ファイバ断面の中心Oから或る点までの距離である。すなわち、波長λにおけるファイバ断面上の屈折率プロファイルn(λ,r)は、距離rと光ファイバの断面(ファイバ断面)の中心Oから距離rだけ離れた位置における屈折率n(波長λにおける屈折率)との関係を表している。曲げ半径Rの中心位置とファイバ断面の中心Oとを互いに結ぶ直線をx軸とし、ファイバ断面の中心Oをx軸上における原点(x=0)とし、曲げ半径Rの中心位置からファイバ断面の中心Oへ向かう方向を正とする。このとき、θは、ファイバ断面上における或る点とファイバ断面の中心Oとを互いに結ぶ線分と、xが0以上の領域で規定される半直線と、のなす角度である。
【0013】
以下では、θ=0の場合(すなわち、x軸上でx≧0である領域)において、光ファイバの等価屈折率nbend(R,λ,r,0)がLP01モードの実効屈折率neff(λ)と等しくなる値のうち以下の式(2)を満たす変数xの値が、曲げ半径Rで光ファイバを曲げたときの波長λにおけるコースティック半径Rc(R,λ)と規定される。このようなRc(R,λ)が複数個ある場合には、それらのうち最小の値が採用される。
【0014】
【0015】
ファイバ断面においてコースティック半径より外側に存在する光は、光ファイバの外へ放射されるので曲げ損失となる(特許文献1参照)。すなわち、曲げ損失を小さくするためには、コースティック半径より外側に存在する光のパワーを少なくすることが必要である。コースティック半径より外側に存在する光のパワーを少なくするには、次の2つのアプローチが考えられる。第1のアプローチは、コースティック半径を大きくすることで、光ファイバ断面のうち光が存在すると放射しうる領域を小さくすることである。第2のアプローチは、コアへの光の閉じ込めを強くすることで、光ファイバ断面における光分布の拡がりを小さくすることである。
【0016】
[本開示が解決しようとする課題]
本発明者らは、従来の光ファイバについて検討した結果、以下のような課題を発見した。すなわち、上述の第2のアプローチにおいて、コアへの光の閉じ込めは、MAC数と呼ばれるパラメータで定量的に表すことができる。MAC数は、1310nmにおけるLP01モードのモードフィールド直径(MFD)をカットオフ波長λcで割った値である。カットオフ波長は、ITU-T G.650.1において定義されるファイバカットオフ波長である。MAC数と曲げ損失との間には相関がある。したがって、従来は、曲げ損失が小さい光ファイバを製造するための指針として、MAC数を小さくすることに注力してきた。
【0017】
図4は、MAC数と曲げ損失との間の相関を示すグラフである。しかしながら、
図4に示されたように、MAC数と曲げ損失との間には或る程度の相関があるものの、バラツキが大きい。なお、
図4の縦軸の曲げ損失は、波長λ=1625nmにおける曲げ半径R=10mmでの1ターン当たりの値である。
【0018】
そこで、本発明者らは、曲げ損失を決定するパラメータとしてMAC数に加えてコースティック半径について検討した。また、本発明者らは、その検討の過程で、コースティック半径をMAC数で割った値(以後「実効コースティック半径」と記す)と曲げ損失との間の関係を調査した。そして、本発明者らは、光ファイバの試作を重ねた結果、MAC数に比べて実効コースティック半径で曲げ損失を精度よく決定することができることを見出した。
【0019】
本開示は、上記知見に基づいてなされたものであり、曲げ損失が小さい光ファイバを提供することを目的としている。
【0020】
[本開示の効果]
本開示によれば、曲げ損失が小さい光ファイバを提供することが可能になる。
【0021】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容をそれぞれ個別に列挙して説明する。
【0022】
(1) 本開示の光ファイバは、その一態様として、コアと、該コアを取り囲む内クラッドと、該内クラッドを取り囲む外クラッドと、を備える。内クラッドは、コアの屈折率より小さい屈折率を有する。外クラッドは、コアの屈折率より小さく内クラッドの屈折率より大きい屈折率を有する。特に、当該光ファイバにおいて、波長1625nmにおける曲げ半径10mmでのMAC数に対するコースティック半径の比(コースティック半径/MAC数)は、2.70μm以上である。
【0023】
(2)本開示の一態様として、当該光ファイバは、波長1310nmにおいて8.2μm以上9.9μm以下のMFDを有するのが好ましい。本開示の一態様として、内クラッドの外半径bは15.5μm以上22.5μm以下であり、該内クラッドの平均比屈折率差から外クラッドの最大比屈折率差を引いた値Δdepは-0.11%以上-0.03%以下(より好ましくは-0.09%以上-0.03%以下)であり、MAC数は6.26以上7.56以下であるのが好ましい。この態様において、コアの半径aに対する内クラッドの外半径bの比b/aは、3.5以上6.0以下であればよい。本開示の一態様として、内クラッドの外半径bは18.0μm以上22.0μm以下であり、該内クラッドの平均比屈折率差から外クラッドの最大比屈折率差を引いた値Δdepは-0.09%以上-0.04%以下(より好ましくは-0.07%以上-0.04%以下)であり、MAC数は6.30以上7.25以下(または6.40以上)であるのが好ましい。この態様において、コアの半径aに対する内クラッドの外半径bの比b/aは、4.5以上5.5以下であればよい。本開示の一態様として、当該光ファイバは、1260nm以下のケーブルカットオフ波長λccと、1300nm以上1324nm以下のゼロ分散波長と、を有するのが好ましい。ここで、屈折率nの比屈折率差Δは、純シリカの波長1550nmにおける屈折率n0を用いて、
Δ=(n2-n0
2)/(2n2)
で定義される。
【0024】
(3) 本開示の一態様として、コアの直径は7.3μm以上9.0μm以下であり、該コアの平均比屈折率差から外クラッドの最大比屈折率差を引いた値Δcoreは0.32%以上0.40%以下であるのが好ましい。本開示の一態様として、コア中心(ファイバ断面の中心)から波長1625nmにおける曲げ半径15mmでのコースティック半径だけ離れた位置は、内クラッドまたは該内クラッドと外クラッドとの間の遷移部に存在するのが好ましい。また、本開示の一態様として、コア中心から波長1625nmにおける曲げ半径15mmでのコースティック半径だけ離れた位置は、内クラッドと外クラッドとの間の遷移部を除く該外クラッドに存在するのがこのましい。この場合、コースティック半径で規定される上記位置において、コアの中心から外クラッドの外周面に向かう方向に沿った距離と屈折率との関係で規定される屈折率プロファイルの傾き、すなわち、屈折率プロファイルn(λ=1625nm,r)の傾き(dn/dr)は、負であるのが好ましい。更に、本開示の一態様として、コアの中心から波長1625nmにおける曲げ半径15mmでのコースティック半径だけ離れた位置は、内クラッドと外クラッドとの間の遷移部を除く該外クラッドに存在するのが好ましい。この場合、コースティック半径で規定される位置において、コアの中心から外クラッドの外周面に向かう方向に沿った距離と残留応力との関係で規定される残留応力プロファイルの傾きは、正であるのが好ましい。
【0025】
(4) 本開示の一態様として、外クラッドの最外部における残留応力は、コアの中心から該外クラッドの外周面に向かって残留応力は減少しているのが好ましい。なお、「外クラッドの最外部」は、内クラッドおよび外クラッドの境界と外クラッドの外周面との中間点を基準として外側に位置する外クラッドの一部(外側領域)を意味する。また、残留応力の種類には引張応力と圧縮応力があり、「残留応力の減少」は、引張応力の絶対値の減少と圧縮応力の絶対値の増加の双方を意味する。
【0026】
(5)本開示の一態様として、当該光ファイバは、外クラッドを取り囲むプライマリ樹脂層を更に備えてもよい。また、本開示の一態様として、当該光ファイバは、プライマリ樹脂層と、該プライマリ樹脂層を取り囲むセカンダリ樹脂層を更に備えてもよい。本開示の一態様として、プライマリ樹脂層は、波長546nmにおいて1.44以上1.51以下の屈折率を有するのが好ましい。本開示の一態様として、プライマリ樹脂層とセカンダリ樹脂層との間における波長546nmにおける屈折率差の絶対値は、0.07以下であるのが好ましい。本開示の一態様として、プライマリ樹脂層は1MPa以下のヤング率を有し、セカンダリ樹脂層が800MPa以上のヤング率を有するのが好ましい。
【0027】
以上、この[本開示の実施形態の説明]の欄に列挙された各態様は、残りの全ての態様のそれぞれに対して、または、これら残りの態様の全ての組み合わせに対して適用可能である。
【0028】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態に係る光ファイバの具体的な構造を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。また、図面の説明において同一の要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0029】
ITU-T G.657.A2の規格で曲げ損失が最も厳しい条件の一つは、波長λ=1625nm、曲げ半径R=10mmであると経験的に知られている。
図5は、W型屈折率プロファイルを有する光ファイバにおける実効コースティック半径R
c,eff(R=10mm,λ=1625nm)と曲げ損失との間の関係を示すグラフである。
図5の縦軸の曲げ損失は、波長λ=1625nmにおける曲げ半径R=10mmでの1ターン当たりの値(以下、これをα
1625,10と記す)である。
図5から分かるように、実効コースティック半径が2.70μm以上である光ファイバは、ITU-T G.657.A2 の規格である α
1625,10≦0.2dB/turn を満たすことができる。
【0030】
ここで、本開示の光ファイバは、
図1に示されたW型屈折率プロファイル150を有する。また、その断面構造は、
図3Bに示されたように、コア10(コア10の中心とファイバ断面の中心Oが一致)と、コア10を取り囲む内クラッド20と、内クラッド20を取り囲む外クラッド30と、を備える。内クラッド20は、コア10の屈折率より小さい屈折率を有する。外クラッド30は、コア10の屈折率より小さく内クラッド20の屈折率より大きい屈折率を有する。更に、当該光ファイバは、外クラッド30を取り囲むプライマリ樹脂層40と、該プライマリ樹脂層40を取り囲むセカンダリ樹脂層50と、を備える。
【0031】
また、W型屈折率プロファイル150を有するとともに実効コースティック半径が2.70μm以上の光ファイバにおいて、波長1310nmのLP01モードにおけるMFDが8.2μm以上9.9μm以下であると、ITU-T G.657.A2の規格を満たすことが可能になる。MFDが小さいと実効コースティック半径を小さくすることができるので、該MFDは、8.2μm以上9.6μm以下であるのがより好ましく、8.2μm以上9.0μm以下であるのが更に好ましい。また、G.652.Dに代表される下位規格の光ファイバのMFDは8.8μm~9.6μmである。このことから、該MFDが8.4μm以上9.6μm以下であることは、下位規格ファイバとの接続損失が大きくなることを抑制できるため好ましい。なお、MFDは8.5μm以上9.2μm以下であることがより好ましい。
【0032】
波長1310nmで光ファイバがシングルモード伝送を行うための十分条件は、2mカットオフ波長が1310nm未満であることである。MFDが8.2μm以上9.9μm以下の範囲で2mカットオフ波長が1310nm未満になるためには、MAC数は6.26以上7.56以下である必要がある。このMAC数の範囲の光ファイバを生産するためには、コアの半径aに対する内クラッドの外半径bの比b/aは3.5以上6.0以下であり、内クラッドの外半径bは15.5μm以上22.5μm以下、内クラッドの平均比屈折率差から外クラッドの最大比屈折率差を引いた値Δdepが-0.11%以上-0.03%以下であるのが好ましい。
【0033】
コアの半径aおよび内クラッドの外半径bは、最大差分の位置で定義される。すなわち、コアの半径aは、3μm≦r≦6μmの範囲で、波長1550nmにおける屈折率n(λ=1550nm,r)の距離変数rの微分係数が最小値となる点である。内クラッドの外半径bは、6μm≦rの範囲で波長1550nmにおける屈折率n(λ=1550nm,r)の距離変数rの微分係数が最大値となる点である。
【0034】
光ファイバの生産では、MAC数などの指標から曲げ損失を予測することが重要である。実効コースティック半径Rc,eff(R=10mm,λ=1625nm)(=Rc(R=10mm,λ=1625nm)/MAC)がMAC数の関数であると考えると、∂α1625,10(Rc,eff)/∂MACは、MACの変化に対して曲げ損失がどの程度変化しうるかを示す指標となり得る。例えば、光ファイバの長手方向に沿ってMACが変動したときにどの程度の曲げ損失の変動が予想されるかを把握することができる。MAC数に対するRcの依存性が無視できる場合、∂α1625,10(Rc,eff)/∂MACは、以下の式(3)式で計算できる。
【0035】
【0036】
すなわち、MAC数が大きい方が、光ファイバの長手方向に沿ったMAC数のバラツきに起因する曲げ損失α1625,10の変動が小さくなり、曲げ損失の品質管理が行いやすくなる効果があることを示している。MAC数は6.30以上7.30以下のときが好ましく、bは18.0μm以上22.0μm以下であり、b/aは4.5以上5.5以下であり、内クラッドの平均比屈折率差から外クラッドの最大比屈折率差を引いた値Δdepは-0.09%以上-0.04%以下であるのが好ましい。
【0037】
ケーブルカットオフ波長が1260nm以下で、LP01モードのゼロ分散波長が1300nm以上1324nm以下であると、波長1.3μm帯でモード分散および波長分散による通信品質低下を少なくできる。
【0038】
実効コースティック半径Rc,eff(R=10mm,λ=1625nm)が同じであっても、MAC数が大きい方が、光ファイバの長手方向に沿ったMAC数のバラツキに起因する曲げ損失α1625,10の変動を抑えることができる。しかしながら、実効コースティック半径を変えずにMAC数を大きくするには、コースティック半径を大きくする必要がある。コースティック半径を大きくする方法の一つとして、コアの直径を大きくし、外クラッドに対するコアの平均比屈折率差を大きくし、かつ、LP01モードの実効屈折率を高める方法がある。コアの直径(2a)が7.3μm以上9.0μm以下であり、コアの平均比屈折率差から外クラッドの最大比屈折率差を引いた値(Δcore)が0.32%以上0.40%以下であり、Δcore-Δdepが0.36%以上0.44%以下であるとき、波長1.3μm帯でマルチモード伝送となることを防ぎつつ実効屈折率を高めることができる(コースティック半径を大きくすることができる)。より好ましくは、コアの直径(2a)が7.4μm以上8.7μm以下であり、Δcoreが0.34%以上0.38%以下であり、Δcore-Δdepが0.40%以上0.44%以下である。
【0039】
波長1625nmで曲げ半径15mmのときの曲げ損失α
1625,15も、ITU-T G.657.A2の規格において最も厳しい曲げ損失規格の一つである。
図6は、実効コースティック半径R
c,eff(R=15nm,λ=1625nm)と曲げ損失α
1625,15との間の関係を示すグラフである。
図6の縦軸の曲げ損失α
1625,15は、波長λ=1625nmにおける曲げ半径R=15mmでの1ターン当たりの値である。
図6では、内クラッド20と外クラッド30との間の遷移部にコースティック半径がある場合と、遷移部を除いた外クラッド30にコースティック半径がある場合とで、プロットの印を異ならせている。遷移部は、
図7に示されたW型屈折率プロファイル170において、内クラッド20と外クラッド30との間において屈折率が遷移している領域である。本明細書では、内クラッド20と外クラッド30との境界近傍において、半径に対する屈折率の2階微分値の最大および最小となる2点に挟まれた区間が「遷移部」と規定される。
【0040】
遷移部にコースティック半径で規定される位置が存在する場合、遷移部を除いた外クラッド30にコースティック半径で規定される位置が存在する場合に比べて、実効コースティック半径R
c,eff(R=15nm,λ=1625nm)が小さくても、曲げ損失α
1625,15を小さくすることができる。このことから、コースティック半径で規定される位置は遷移部内に存在する方がよい。遷移部を除いた外クラッド30にコースティック半径で規定される位置がある場合、実効コースティック半径を大きくする必要がある。実効コースティック半径を大きくする方法の一つとして、コースティック半径で規定される位置における遷移部を除いた外クラッド30の屈折率プロファイル170において、半径に対する屈折率プロファイル170の傾きを実質的に負にすることが有効である。なお、
図7の例では、遷移部を除いた外クラッド30(外クラッドの外側領域)の屈折率プロファイル170の傾きはゼロ、すなわちコア10の中心から外クラッド30の外周面に向かって該外クラッド30の外側領域の屈折率プロファイル170はフラットである。したがって、
図7中の破線171で示されたように、外クラッド30の外側領域(遷移部を除いた外クラッドの領域)において、コア10の中心から外クラッド30の外周面に向かって屈折率を低下するように調節することにより、当該外クラッド30の外側領域における屈折率プロファイル171の傾きを負に設定することができる。
【0041】
なぜなら、遷移部を除いた外クラッド30における屈折率プロファイルが正の傾きである場合またはフラットである場合(屈折率プロファイル170)に比べて、屈折率プロファイルの傾きを実質的に負にする場合(屈折率プロファイル171)は、コースティック半径を長くできるので、曲げ損失α1625,15を小さくすることに寄与できるからである。特に、遷移部を除いた外クラッド30にコースティック半径で規定される位置が存在するときに、この位置における残留応力プロファイルの傾きが実質的に正であると、光ファイバ母材段階での遷移部を除いた外クラッド30の屈折率プロファイルが実質的に負でなくても、光弾性効果により、コースティック半径で規定される位置周辺における外クラッド30の屈折率プロファイルの傾きを負にすることが期待できる。なお、本明細書において、残留応力の符号は、引張応力を正と規定し、圧縮応力を負と規定する。したがって、「残留応力プロファイルの傾きが正」の状態は、コア10中心から外クラッド30の外周面に向かう方向に沿って引張応力が増加している状態、圧縮応力から引張応力に遷移している状態、および圧縮応力が増加している状態の何れかに相当する。
【0042】
非特許文献1に記載されているとおり、外クラッド30を取り囲むプライマリ樹脂層40と、該プライマリ樹脂層40を取り囲むセカンダリ樹脂層50とが設けられた構成(
図3B参照)では、外クラッド30とプライマリ樹脂層40との間の屈折率差に起因したウィスパリングギャラリーモード現象が知られている。なお、ウィスパリングギャラリーモード現象は、外クラッド30とプライマリ樹脂層40の境界でフレネル反射された放射光が再びLP01モードに結合する現象である。このウィスパリングギャラリーモード現象により、曲げ損失が悪化する場合があるので、外クラッド30とプライマリ樹脂層40との間の屈折率差を大きくしないことが重要である。波長546nmにおける外クラッド30の平均屈折率とプライマリ樹脂層40の屈折率との差の絶対値は、0.06以下であることが望ましく、さらに好ましくは、波長546nmにおけるプライマリ樹脂層40の屈折率から外クラッド30の平均屈折率を引いた値が0以上0.04以下である。
【0043】
残留応力が外クラッド30の最外部で負側に低下していると、低下していない場合と比べて、光弾性効果により外クラッド30とプライマリ樹脂層40との間の屈折率差を小さくすることができる。これにより、フレネル反射量を減少させて、外クラッド30とプライマリ樹脂層40との界面によるウィスパリングギャラリーモード現象を抑える効果がある。
【0044】
プライマリ樹脂層40とセカンダリ樹脂層50との界面でも両者の屈折率差によるフレネル反射が起こるため、この境界付近でもウィスパリングギャラリーモード現象が生じうる。このことから、プライマリ樹脂層40とセカンダリ樹脂層50との間の屈折率差も小さいことが望ましい。プライマリ樹脂層40とセカンダリ樹脂層50との間における波長546nmにおける屈折率差の絶対値は、0.10以下であるのが好ましく、より好ましくは、波長546nmにおけるセカンダリ樹脂層50の屈折率からプライマリ樹脂層40の屈折率を引いた値が0以上0.07以下である。また、ファイバ状態(
図3Bに示されたような断面構造を有する光ファイバに適用された状態)においてプライマリ樹脂層40のヤング率が1MPa以下に設定され、セカンダリ樹脂層50のヤング率が800MPa以上(さらに好ましくは1000MPa以上)に設定された状態は、マイクロベンド損失をも抑制できる効果を発揮する。なお、マイクロベンド損失は、主に光ファイバがケーブル化された際に、ランダムな方向の曲げに起因して該光ファイバ内で生じる光損失である。
【0045】
図8および
図9は、実施例(EXAMPLE)1~12および比較例(COMPARATIVE EXAMPLE)1~4の光ファイバの諸元を纏めた表である。
図8は、曲げ半径R=10mmでの実施例1~5および比較例1~3の光ファイバの諸元を示す。
図9は、曲げ半径R=15mmでの実施例6~12および比較例4の光ファイバの諸元を示す。また、
図10は、光ファイバの各パラメータの好ましい範囲および更に好ましい範囲を纏めた表である。
【符号の説明】
【0046】
10…コア、20…内クラッド、30…外クラッド、40…プライマリ樹脂層、50…セカンダリ樹脂層。