(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】徐放性複合粒子、徐放性複合粒子の製造方法、乾燥粉体及び壁紙
(51)【国際特許分類】
C08L 101/16 20060101AFI20231226BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20231226BHJP
A01N 25/12 20060101ALI20231226BHJP
A01N 25/26 20060101ALI20231226BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20231226BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20231226BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20231226BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20231226BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20231226BHJP
B01J 13/04 20060101ALI20231226BHJP
B01J 13/18 20060101ALI20231226BHJP
D21H 21/14 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
C08L101/16
C08L1/02
A01N25/12
A01N25/26
A01P3/00
A01P7/04
A61K9/14
A61K47/32
A61K47/38
B01J13/04
B01J13/18
D21H21/14 B
(21)【出願番号】P 2020515619
(86)(22)【出願日】2019-04-26
(86)【国際出願番号】 JP2019018046
(87)【国際公開番号】W WO2019208801
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2018087498
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018087499
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】林 佑美
(72)【発明者】
【氏名】青木 敦子
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-198858(JP,A)
【文献】特開2005-281470(JP,A)
【文献】特開平10-007704(JP,A)
【文献】特開2015-218159(JP,A)
【文献】藤澤秀次,ナノセルロースで包んだ高分子マイクロ粒子の合成,セルロース学会第24回年次大会 講演要旨集,日本,セルロース学会第24回年次大会運営委員会,2017年07月01日,17-18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 101/16、1/02
A01N 25/12、25/26
A01P 3/00、7/04
A61K 9/14、47/32、47/38
B01J 13/04、13/18
D21H 21/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種類のポリマー及び少なくとも一種類の機能性成分を含むコア粒子と、前記コア粒子の表面の少なくとも一部を覆う微細化セルロースとを有し、前記コア粒子と前記微細化セルロースとが不可分の状態にあり、
前記ポリマーが、生分解性ポリマーであ
り、
前記微細化セルロースの少なくとも一部は結晶化しており、
前記微細化セルロースの結晶表面にアニオン性官能基が導入されていることを特徴とする徐放性複合粒子。
【請求項2】
少なくとも一種類のポリマー及び少なくとも一種類の機能性成分を含むコア粒子と、前記コア粒子の表面の少なくとも一部を覆う微細化セルロースとを有し、前記コア粒子と前記微細化セルロースとが不可分の状態にあり、
前記ポリマーが、生分解性ポリマーであ
り、
前記機能性成分が、ホルムアルデヒドと反応する剤であるホルムアルデヒド反応剤であることを特徴とする徐放性複合粒子。
【請求項3】
少なくとも一種類のポリマー及び少なくとも一種類の機能性成分を含むコア粒子と、前記コア粒子の表面の少なくとも一部を覆う微細化セルロースとを有し、前記コア粒子と前記微細化セルロースとが不可分の状態にあり、
前記ポリマーが、生分解性ポリマーであ
り、
前記ポリマーが、ビニル基を有するモノマーの重合物であることを特徴とする徐放性複合粒子。
【請求項4】
少なくとも一種類のポリマー及び少なくとも一種類の機能性成分を含むコア粒子と、前記コア粒子の表面の少なくとも一部を覆う微細化セルロースとを有し、前記コア粒子と前記微細化セルロースとが不可分の状態にあり、
前記ポリマーが、生分解性ポリマーであ
り、
前記ポリマーが、(メタ)アクリル基を有するモノマーの重合物であることを特徴とする徐放性複合粒子。
【請求項5】
少なくとも一種類のポリマー及び少なくとも一種類の機能性成分を含むコア粒子と、前記コア粒子の表面の少なくとも一部を覆う微細化セルロースとを有し、前記コア粒子と前記微細化セルロースとが不可分の状態にあり、
前記ポリマーが、生分解性ポリマーであ
り、
前記ポリマーが、2つ以上の重合性官能基を有する多官能モノマーの重合物であり、
前記多官能モノマーが有する2つ以上の重合性官能基の少なくとも一つが、ビニル基であることを特徴とする徐放性複合粒子。
【請求項6】
少なくとも一種類のポリマー及び少なくとも一種類の機能性成分を含むコア粒子と、前記コア粒子の表面の少なくとも一部を覆う微細化セルロースとを有し、前記コア粒子と前記微細化セルロースとが不可分の状態にあり、
前記ポリマーが、生分解性ポリマーであ
り、
前記ポリマーが、2つ以上の重合性官能基を有する多官能モノマーの重合物であり、
前記多官能モノマーが有する2つ以上の重合性官能基の少なくとも一つが、(メタ)アクリル基であることを特徴とする徐放性複合粒子。
【請求項7】
前記機能性成分が、防カビ剤、香料、肥料、pH調整剤、農薬、植物活力剤、植物延命剤、害虫及び動物の忌避剤、土壌浸透剤、栄養成分、植物ホルモン及び抗菌性物質の少なくとも一種であることを特徴とする請求項
1に記載の徐放性複合粒子。
【請求項8】
前記ホルムアルデヒド反応剤が、ホルムアルデヒドとの反応性を有し、アミノ基及びアミノ基が塩を形成している基の少なくとも一方を有しないことを特徴とする請求項
2に記載の徐放性複合粒子。
【請求項9】
前記多官能モノマーが、ジビニルベンゼンであることを特徴とする請求項
5に記載の徐放性複合粒子。
【請求項10】
請求項1から請求項
9のいずれか1項に記載の徐放性複合粒子を含むことを特徴とする乾燥粉体。
【請求項11】
固形分率が80%以上であることを特徴とする請求項1
0に記載の乾燥粉体。
【請求項12】
セルロース原料を溶媒中で解繊して微細化セルロースの分散液を得るa1工程と、
少なくとも一種類の重合性モノマーと少なくとも一種類の機能性成分とを含むモノマー混合液を準備するa2工程と、
前記微細化セルロースの分散液中において前記重合性モノマー及び前記機能性成分を含む前記モノマー混合液で構成される重合性モノマー液滴の表面の少なくとも一部を前記微細化セルロースで覆い、前記重合性モノマー液滴をエマルションとして安定化させるa3工程と、
前記重合性モノマー液滴の表面の少なくとも一部が前記微細化セルロースで覆われた状態で、前記重合性モノマー液滴を重合してポリマー及び前記機能性成分を含むコア粒子とすることで、前記コア粒子の表面の少なくとも一部を前記微細化セルロースで覆い、且つ前記コア粒子と前記微細化セルロースとを不可分の状態にするa4工程と、を有し、
前記ポリマーが、生分解性ポリマーであることを特徴とする徐放性複合粒子の製造方法。
【請求項13】
セルロース原料を溶媒中で解繊して微細化セルロースの分散液を得るb1工程と、
少なくとも一種類のポリマー及び少なくとも一種類の機能性成分を、前記ポリマーを溶解可能な有機溶媒に添加し溶解させたポリマー溶液を準備するb2工程と、
前記微細化セルロースの分散液中において前記ポリマー、前記機能性成分及び前記有機溶媒を含む前記ポリマー溶液で構成されるポリマー液滴の表面の少なくとも一部を前記微細化セルロースで覆い、前記ポリマー液滴をエマルションとして安定化させるb3工程と、
前記ポリマー液滴の表面の少なくとも一部が前記微細化セルロースで覆われた状態で、前記ポリマー液滴に含まれる前記有機溶媒を除去して前記ポリマーを固体化して前記ポリマー及び前記機能性成分を含むコア粒子とすることで、前記コア粒子の表面の少なくとも一部を前記微細化セルロースで覆い、且つ前記コア粒子と前記微細化セルロースとを不可分の状態にするb4工程と、を有することを特徴とする徐放性複合粒子の製造方法。
【請求項14】
前記機能性成分が、ホルムアルデヒドと反応する剤であるホルムアルデヒド反応剤であることを特徴とする請求項1
2又は請求項1
3に記載の徐放性複合粒子の製造方法。
【請求項15】
請求項1から請求項
9のいずれか1項に記載の徐放性複合粒子を含むことを特徴とする壁紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性成分を内包する徐放性複合粒子、その徐放性複合粒子の製造方法、その徐放性複合粒子を含んだ乾燥粉体及びその徐放性複合粒子を含んだ壁紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から様々な分野における機能性材料として、各種マイクロ粒子やマイクロカプセルが実用化されている。通常マイクロ粒子は各種ポリマーから形成されたマイクロサイズオーダーの粒子であり、例えば、充填材、スペーサー、研磨剤等として利用されている。
マイクロ粒子中に医薬品、農薬、香料等を内包することにより、内包物を徐放化し、長期間にわたりその効果を持続させることもできる。マイクロ粒子の製造方法としては、例えば、有機溶媒に溶解させたポリマーを、界面活性剤を用いて水中に分散させ、機能性成分を内包する水中油滴(Oil-in-Water、O/W)型エマルションを形成した後、溶媒を蒸発させてマイクロ粒子として固化させる溶媒蒸発法が知られる(特許文献1)。このような方法で得られるマイクロ粒子は、自己水分散性がなく、製造時に界面活性剤等の助剤の添加が不可欠である。また、マイクロ粒子の製造時に機能性成分が消失する場合がある。
【0003】
マイクロ粒子を芯(コア)物質として粒子表面を壁膜で被覆したマイクロカプセル(コア-シェル)構造とすることにより、さらなる機能性の付与・発現が試みられている。具体的には、芯物質内に磁性体、医薬品、農薬、香料、接着剤、酵素、顔料、染料、等の機能性成分を取込ませた上でマイクロカプセル化することで、該機能性材料の保護や、放出挙動の制御などが可能となる。芯物質を覆う壁膜自体に機能性材料をさらに付与することも可能である。特許文献2には、防腐防カビ剤を内包する徐放性を有するマイクロカプセルが開示されている。しかし、特許文献2に記載のマイクロカプセルは分散性が良好でなく、再分散しにくいという問題がある。
【0004】
上記のように、マイクロサイズオーダーのマイクロ粒子やマイクロカプセルは高比表面積のため一般的に凝集しやすく、分散安定性が課題となっている。また、製造方法が煩雑であり、効率的に機能性成分を内包することが求められている。更に、用途によっては環境中や生体内で使用されるため、生分解性や生体親和性が要求される。
一方、近年、木材中のセルロース繊維を、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーになるまで微細化し、新規な機能性材料として利用しようとする試みが活発に行われている。
【0005】
例えば、特許文献3に示されるように、木材セルロースに対しブレンダーやグラインダーによる機械的処理を繰り返すことで、微細化セルロース繊維、すなわちセルロースナノファイバー(以下、CNFとも称する。)が得られることが開示されている。この方法で得られるCNFは、短軸径が10~50nm、長軸径が1μmから10mmに及ぶことが報告されている。このCNFは、鋼鉄の1/5の軽さで5倍以上の強さを誇り、250m2/g以上の膨大な比表面積を有することから、樹脂強化用フィラーや吸着剤としての利用が期待されている。
【0006】
また、木材中のセルロース繊維を微細化しやすいように予め化学処理したのち、家庭用ミキサー程度の低エネルギー機械処理により微細化してCNFを製造する試みが活発に行われている。上記化学処理の方法は特に限定されないが、セルロース繊維にアニオン性官能基を導入して微細化しやすくする方法が好ましい。セルロース繊維にアニオン性官能基が導入されることによってセルロースミクロフィブリル構造間に浸透圧効果で溶媒が浸入しやすくなり、セルロース原料の微細化に要するエネルギーを大幅に減少することができる。上記アニオン性官能基の導入方法としては特に限定されないが、例えば非特許文献1にはリン酸エステル化処理を用いて、セルロースの微細繊維表面を選択的にリン酸エステル化処理する方法が開示されている。また、特許文献4には、高濃度アルカリ水溶液中でセルロースをモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムと反応させることによりカルボキシメチル化を行う方法が開示されている。また、オートクレーブ中でガス化したマレイン酸やフタル酸等の無水カルボン酸系化合物とセルロースを直接反応させてカルボキシ基を導入してもよい。
【0007】
また、比較的安定なN-オキシル化合物である2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシラジカル(TEMPO)を触媒として用い、セルロースの微細繊維表面を選択的に酸化する方法も報告されている(例えば、特許文献5を参照)。TEMPOを触媒として用いる酸化反応(TEMPO酸化反応)は、水系、常温、常圧で進行する環境調和型の化学改質が可能であり、木材中のセルロースに適用した場合、結晶内部には反応が進行せず、結晶表面のセルロース分子鎖が持つアルコール性1級炭素のみを選択的にカルボキシ基へと変換することができる。
【0008】
TEMPO酸化によって選択的に結晶表面に導入されたカルボキシ基同士の電離に伴う浸透圧効果により、溶媒中で一本一本のセルロースミクロフィブリル単位に分散させた、セルロースシングルナノファイバー(以下、CSNF、TEMPO酸化セルロースナノファイバー、TEMPO酸化CNFとも称する。)を得ることが可能となる。CSNFは表面のカルボキシ基に由来した高い分散安定性を示す。木材からTEMPO酸化反応によって得られる木材由来のCSNFは、短軸径が3nm前後、長軸径が数十nm~数μmに及ぶ高アスペクト比を有する構造体であり、その水分散液及び成形体は高い透明性を有することが報告されている。また、特許文献6にはCSNF分散液を塗布乾燥して得られる積層膜が、ガスバリア性を有することが報告されている。
【0009】
ここで、CNFの実用化に向けては、得られるCNF分散液の固形分濃度が0.1~5%程度と低くなってしまうことが課題となっている。例えばCNF分散体を輸送しようとした場合、大量の溶媒を輸送するに等しいため輸送費の高騰を招き、事業性が著しく損なわれるという問題がある。また、樹脂強化用の添加剤として用いる際にも、固形分が低いことによる添加効率の悪化や、溶媒である水が樹脂と馴染まない場合には複合化が困難となるといった問題がある。また、含水状態のCNF分散体を扱う場合、CNF分散体が腐敗する恐れもあるため、冷蔵保管や防腐処理などの対策が必要となり、コストが増加する恐れもある。
【0010】
しかしながら、単純に熱乾燥などでCNF分散液の溶媒を除去してしまうと、CNF同士が凝集・角質化し、あるいは膜化してしまい、添加剤として安定な機能発現が困難になってしまう。さらにCNFの固形分濃度が低いため、乾燥による溶媒除去工程自体に多大なエネルギーがかかってしまうことも事業性を損なう一因となる。
このように、CNFを分散液の状態で取り扱うこと自体が事業性を損なう原因となるため、CNFを容易に取り扱うことができる新たな取り扱い様態を提供することが強く望まれている。
【0011】
一方、CNF又はCSNFに更なる機能性を付与する検討がなされている。例えば、CSNF表面のカルボキシ基を利用した更なる機能性付与も可能である。特許文献6には、CSNF表面のカルボキシ基に金属イオンを吸着させた状態で金属を還元析出させることにより、金属ナノ粒子がCSNFに担持された複合体(金属ナノ粒子担持CSNF)が開示されている。この特許文献7には、金属ナノ粒子担持CSNFを触媒として用いる例が開示されており、金属ナノ粒子を高比表面積な状態で分散安定化させることが可能となることにより触媒活性が向上することが報告されている。
【0012】
このように、カーボンニュートラル材料であるCNF又はCSNFをはじめとする、微細化セルロースに新たな機能性を付与する高機能部材開発に関して様々な検討がなされている。
界面活性剤等の添加剤を用いずに、簡便な方法で機能性成分を内包し、分散安定性に優れるために徐放性が良好なマイクロカプセルが望まれている。また、環境調和型材料である微細化セルロースを容易に取り扱うことができる新たな取り扱い様態を提供することも、同様に強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開平9-208494号公報
【文献】特開2006-1188号公報
【文献】特開2010-216021号公報
【文献】国際公開第2014/088072号
【文献】特開2008-001728号公報
【文献】国際公開第2013/042654号
【文献】国際公開第2010/095574号
【文献】特許第2913093号
【文献】特開2017-42617号公報
【非特許文献】
【0014】
【文献】Noguchi Y, Homma I, Matsubara Y. Complete nanofibrillation of cellulose prepared by phosphorylation. Cellulose. 2017;24:1295.10.1007/s10570-017-1191-3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明はかかる事情を鑑みてなされたものであり、分散安定性に優れ、且つ優れた徐放性を有して長期間効果を発揮する徐放性複合粒子、その徐放性複合粒子の製造方法、その徐放性複合粒子を含んだ乾燥粉体及び壁紙を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
本発明の一態様に係る徐放性複合粒子は、少なくとも一種類のポリマー及び少なくとも一種類の機能性成分を含むコア粒子と、前記コア粒子の表面の少なくとも一部を覆う微細化セルロースとを有し、前記コア粒子と前記微細化セルロースとが不可分の状態にある。
【0017】
本発明の一態様に係る複合粒子の製造方法は、セルロース原料を溶媒中で解繊して微細化セルロースの分散液を得るa1工程と、少なくとも一種類の重合性モノマーと少なくとも一種類の機能性成分とを含むモノマー混合液を準備するa2工程と、前記微細化セルロースの分散液中において前記重合性モノマー及び前記機能性成分を含む前記モノマー混合液で構成される重合性モノマー液滴の表面の少なくとも一部を前記微細化セルロースで覆い、前記重合性モノマー液滴をエマルションとして安定化させるa3工程と、前記重合性モノマー液滴の表面の少なくとも一部が前記微細化セルロースで覆われた状態で、前記重合性モノマー液滴を重合してポリマー及び前記機能性成分を含むコア粒子とすることで、前記コア粒子の表面の少なくとも一部を前記微細化セルロースで覆い、且つ前記コア粒子と前記微細化セルロースとを不可分の状態にするa4工程と、を有する。
【0018】
本発明の別の態様に係る複合粒子の製造方法は、セルロース原料を溶媒中で解繊して微細化セルロースの分散液を得るb1工程と、少なくとも一種類のポリマー及び少なくとも一種類の機能性成分を、前記ポリマーを溶解可能な有機溶媒に添加し溶解させたポリマー溶液を準備するb2工程と、前記微細化セルロースの分散液中において前記ポリマー、前記機能性成分及び前記有機溶媒を含む前記ポリマー溶液で構成されるポリマー液滴の表面の少なくとも一部を前記微細化セルロースで覆い、前記ポリマー液滴をエマルションとして安定化させるb3工程と、前記ポリマー液滴の表面の少なくとも一部が前記微細化セルロースで覆われた状態で、前記ポリマー液滴に含まれる前記有機溶媒を除去して前記ポリマーを固体化して前記ポリマー及び前記機能性成分を含むコア粒子とすることで、前記コア粒子の表面の少なくとも一部を前記微細化セルロースで覆い、且つ前記コア粒子と前記微細化セルロースとを不可分の状態にするb4工程と、を有する。
【0019】
本発明の一態様に係る乾燥粉体は、上述の徐放性複合粒子を含む乾燥粉体である。
本発明の別の態様に係る壁紙は、上述の徐放性複合粒子を含む壁紙である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の複合粒子の一態様によれば、分散安定性が良好であるために優れた徐放性を有して長期間効果を発揮する徐放性複合粒子、その徐放性複合粒子の製造方法、その徐放性複合粒子を含んだ乾燥粉体及びその徐放性複合粒子を含んだ壁紙を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1実施形態及び第2実施形態に係る微細化セルロース徐放性複合粒子の概略図である。
【
図2】本発明の第1実施形態及び第2実施形態に係る微細化セルロースを用いたO/W型ピッカリングエマルションと、エマルション内部のモノマーを重合する複合粒子の製造方法の概略図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る微細化セルロースを用いたO/W型ピッカリングエマルションと、エマルション内部の有機溶媒を除去してポリマーを固体化する複合粒子の製造方法の概略図である。
【
図4】実施例1-1(2-1)で得られた微細化セルロースの水分散液の分光透過スペクトル測定結果である。
【
図5】実施例1-1(2-1)で得られた微細化セルロースの水分散液に対し、レオメーターを用いて定常粘弾性測定を行った結果である。
【
図6】実施例1-1(2-1)で得られた複合粒子を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した結果を示す図(SEM画像)である。
【
図7】実施例1-1(2-1)で得られた複合粒子を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって高倍率で観察した結果を示す図(SEM画像)である。
【
図8】本発明の第2実施形態に係る壁紙の要部を切断した端面の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の各実施形態について、図面を用いて説明する。ただし、以下に説明する各図において相互に対応する部分には同一符号を付し、重複部分においては後述での説明を適宜省略する。また、本実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、各部の材質、形状、構造、配置、寸法等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0023】
〔第1実施形態〕
<徐放性複合粒子>
まず、本発明の第1実施形態に係る徐放性複合粒子4について説明する。
図1は、ポリマー及び機能性成分を含むコア粒子3の表面に微細化セルロース(以下、セルロースナノファイバー、CNFとも称する。)1により構成された被覆層2を有する徐放性複合粒子(以下、複合粒子とも称する。)4の概略図である。なお、ここで言う「微細化セルロース」とは、短軸径において数平均短軸径が1nm以上1000nm以下の範囲内である繊維状セルロースを意味する。
複合粒子4は、少なくとも一種類のポリマー及び少なくとも一種類の機能性成分を含むコア粒子3と、コア粒子3の表面の少なくとも一部を覆う微細化セルロース1により構成された被覆層2とを有し、コア粒子3と微細化セルロース1とが結合して不可分の状態にある複合粒子である。
【0024】
複合粒子4の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、重合性モノマーから、重合過程で粒子形成を行う重合造粒法(乳化重合法、懸濁重合法、シード重合法、放射線重合法等)、微小液滴化したポリマー溶液から粒子形成を行う分散造粒法(スプレードライ法、液中硬化法、溶媒蒸発法、相分離法、溶媒分散冷却法等)が挙げられる。
特に限定されないが、例えば、微細化セルロース1を用いたO/W型ピッカリングエマルションを形成させ、エマルション内部の液滴を固体化させて固体のコア粒子3とすることで、コア粒子3と微細化セルロース1とが結合して不可分の状態にある複合粒子4を得ることができる。微細化セルロース1を用いることで界面活性剤等の添加物を用いることなく、液滴を形成することが可能であり、分散性の高い複合粒子4を得ることができる。液滴の固体化の方法は特に限定されず、例えば、モノマーを重合させる方法やポリマーを凝固させる方法、ポリマー溶液の溶媒を蒸発させる方法等の公知の方法で固体化することができる。
【0025】
図2、
図3に本発明の第1実施形態に係る徐放性複合粒子4の製造方法の一例を示す。
図2は微細化セルロース1を用いたO/W型ピッカリングエマルションと、エマルション内部の重合性モノマーを重合することで得られる複合粒子4の製造方法の一例である。
図2に示すように、分散液である水6に分散した重合性モノマー及び機能性成分を含む重合性モノマー液滴5A(以下、液滴5Aとも称する。)の界面の少なくとも一部にセルロース1が吸着することによって、O/W型ピッカリングエマルションが安定化し、安定化状態を維持したままエマルション内部の重合性モノマーを重合することによって、エマルションを鋳型とした複合粒子4が作成される。
【0026】
図3は微細化セルロース1を用いたO/W型ピッカリングエマルションと、エマルション内部に有機溶媒にポリマーが溶解したポリマー液滴5B(以下、液滴5Bとも称する。)から、有機溶媒を除去することにより得られる徐放性複合粒子4の製造方法の一例である。
図3に示すように、水6に分散した有機溶媒及びポリマー及び機能性成分を含む液滴5Bの界面に微細化セルロース1が吸着することによって、O/W型ピッカリングエマルションが安定化し、安定化状態を維持したままエマルション内部のポリマーを固体化することによって、エマルションを鋳型とした複合粒子4が作成される。
【0027】
ここで言う「不可分」とは、例えば、複合粒子4を含む分散液を遠心分離処理して上澄みを除去し、さらに溶媒を加えて再分散することで複合粒子4を精製・洗浄する操作、あるいはメンブレンフィルターを用いたろ過洗浄によって繰り返し溶媒による洗浄する操作を繰り返した後であっても、微細化セルロース1とコア粒子3とが分離せず、微細化セルロース1によるコア粒子3の被覆状態が保たれることを意味する。被覆状態の確認は、例えば、走査型電子顕微鏡による複合粒子4の表面観察により確認することができる。なお、複合粒子4において微細化セルロース1とコア粒子3の結合メカニズムについては定かではないが、複合粒子4が微細化セルロース1によって安定化されたO/W型エマルションを鋳型として作成されるため、エマルション内部の液滴5に微細化セルロース1が接触した状態でモノマーの重合等によりコア粒子3として固体化するために、固体化後に得られる複合粒子4において、コア粒子3の表面に存在する微細化セルロース1の少なくとも一部がコア粒子3の内部に取り込まれた状態となることが予想される。以上の理由により、物理的に微細化セルロース1がコア粒子3の表面に固定化されて、最終的にコア粒子3と微細化セルロース1とが不可分な状態に至ると推察される。
【0028】
ここで、O/W型エマルションは、水中油滴型(Oil-in-Water)とも言われ、水を連続相とし、その中に油が油滴(油粒子)として分散しているものである。
また、特に限定されないが、微細化セルロース1によって安定化されたO/W型エマルションを鋳型として複合粒子4を作製すると、複合粒子4の形状はO/W型エマルションに由来した真球状となる。詳細には、真球状のコア粒子3の表面に微細化セルロース1からなる被覆層2が比較的均一な厚みで形成された様態となる。被覆層2は、コア粒子3の表面を少なくとも一部を被覆していればよい。
【0029】
複合粒子4の平均粒子径は、例えば、光学顕微鏡観察により確認できる。具体的には、複合粒子4の粒径を100箇所ランダムに測定し、複合粒子4の直径の平均値を取ることで平均粒子径を算出できる。平均粒子径は特に限定されないが、0.1μm以上1000μm以下であることが好ましい。なお、複合粒子4の平均粒子径が0.1μm未満であると、徐放性を長期間維持することが困難となることがある。また、複合粒子4の平均粒子径が1000μmを超えると、複合粒子4の取り扱いが困難となることがある。微細化セルロース1で構成される被覆層2の厚みは特に限定されないが、3nm以上1000nm以下であると徐放性を制御しやすい傾向がある。コア粒子3に含まれる機能性成分の割合や粒径、被覆層2の厚みにより、徐放性を制御できる。
【0030】
被覆層2の平均厚みは、例えば、複合粒子4を包埋樹脂で固定したものをミクロトームで切削して走査型電子顕微鏡観察を行い、画像中の複合粒子4の断面像における被覆層2の厚みを画像上で100箇所ランダムに測定し、平均値を取ることで算出できる。
また、複合粒子4は比較的揃った厚みの被覆層2で均一に被覆されていることが特徴である。具体的には上述した被覆層2の厚みの値の変動係数は0.5以下となることが好ましく、0.4以下となることがより好ましい。微細化セルロース1を含む被覆層2の厚みの値の変動係数が0.5を超える場合には、例えば、複合粒子4の徐放性の制御が困難となることや複合粒子4の回収が困難となることがある。
【0031】
なお、本実施形態における微細化セルロース1は特に限定されないが、例えば、微細化セルロース1の少なくとも一部は結晶化しているものが好ましく、微細化セルロース1の結晶表面にアニオン性官能基を有しており、当該アニオン性官能基の含有量が、セルロース1g当たり0.1mmol以上5.0mmol以下であることが好ましい。当該アニオン性官能基の含有量が、セルロース1g当たり0.1mmol未満の場合には、例えば、複合粒子4の粒子径を制御するのが難しく、粒子径分布が広くなることや水(分散液)6中での微細化セルロース1の分散性が低下することがある。また、当該アニオン性官能基の含有量が、セルロース1g当たり5.0mmolを超える場合には、例えば、液滴5への微細化セルロース1の吸着安定性が低下し、結果としてコア粒子3に微細化セルロース1が固定化しにくくことや被覆層2の厚みが均一でなくなることがある。
【0032】
さらに、微細化セルロース1は、ミクロフィブリル構造由来の繊維形状であることが好ましい。具体的には、微細化セルロース1は繊維状であって、数平均短軸径が1nm以上1000nm以下、数平均長軸径が50nm以上であり、かつ数平均長軸径が数平均短軸径の5倍以上であることが好ましい。また、微細化セルロース1の結晶構造は、セルロースI型であることが好ましい。
コア粒子3は、少なくとも一種類以上のポリマー及び少なくとも一種類の機能性成分を含む。ポリマーは、公知のポリマーを用いることができ、重合性モノマーを公知の方法で重合させたポリマーでもよい。
【0033】
ポリマーは特に限定されず、例えば、アクリル系ポリマー、エポキシ系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、アミノ系ポリマー、シリコーン系ポリマー、フッ素系ポリマー、ウレタン・イソシアネート系ポリマー等が挙げられる。
特に限定されないが、ポリマーは生分解性ポリマーであることが好ましい。なお、ここで言う「生分解性」とは、土壌や海水中などの地球環境において分解して消滅するポリマー、又は/及び生体内で分解して消滅するポリマーのことである。一般的に、土壌や海水中では微生物がもつ酵素によりポリマーが分解されるのに対し、生体内では酵素を必要とせず物理化学的な加水分解により分解される。
【0034】
生分解性ポリマーは、天然由来の天然高分子、或いは合成高分子がある。天然高分子としては、例えば、植物が生産する多糖(セルロース、デンプン、アルギン酸等)、動物が生産する多糖(キチン、キトサン、ヒアルロン酸等)、タンパク質(コラーゲン、ゼラチン、アルブミン等)、微生物が生産するポリエステル(ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート))、多糖(ヒアルロン酸等)等が挙げられる。生分解性ポリマーについては後述する。
機能性成分は、動物、植物、菌類等の生物に影響を与えて機能する物質である。特に限定されないが、例えば、防カビ剤、香料、肥料(生物肥料、化学肥料、有機肥料等)、pH調整剤、農薬(殺虫剤、殺菌剤、除草剤等)、植物活力剤、植物延命剤、害虫及び動物の忌避剤、土壌浸透剤、栄養成分(ミネラル等)、植物ホルモン、無機質粒子(酸化チタン、シリカ、クレー等)、抗菌性物質等が挙げられる。
【0035】
これらの機能性成分は、植物や土壌等の環境中で使用することがあり、本実施形態の徐放性複合粒子4を用いることで、使用量を減らし、環境への負荷を低減することができる。特に、防カビ剤、香料、肥料(生物肥料、化学肥料、有機肥料等)、pH調整剤、農薬、植物活力剤、植物延命剤、害虫及び動物の忌避剤、土壌浸透剤、栄養成分、植物ホルモン、抗菌性物質であることが好ましい。
農薬としては、例えば、殺虫剤、殺菌剤、除草剤、殺そ剤、植物成長調整剤、誘引剤や忌避剤等が挙げられる。
【0036】
殺虫剤としては、例えば、アゾキシベンゼン、アナバシン、アラマイト、アルドリン、アレスリン、イソキサチオン、イソチオエート、エチオン、エチルチオメトン、エンドリン、オルソジクロルベンゼン、カーバム、カルタップ、カルビンホス、クロルピクリン、クロルピリホス、クロルフェナミジン、クロルプロピレート、クロルベンジレート、クロルメタンスルホン酸アミド、ケイフッ化ナトリウム、ケルセン、サリチオン、酸化エチレン、酸化プロピレン、ジオアリホール、ジオキサカルブ、ジオメトエート、臭化メチル、水酸化トリシクロヘキシルスズ、ターバム、ダイアジノン、チオメトン、テトラジホン、テロドリン、バミドチオン、ひ酸石灰、ひ酸鉛、プロクロノール、プロパホス、プロメカルブ、ベンゾエピン、ベンゾメート、ホサロン、ホルモチオン、メカルバム、メソミル、メタアルデヒド、メチルジメトン、メナゾン、ヨウ化メチル、リン化亜鉛、リン化アルミニウム、APC、DDVP、MEP、PMP等が挙げられる。
【0037】
殺菌剤としては、例えば、アンバム、硫黄、エクロメゾール、塩化トリフェニル錫、塩化トリプロピル錫、塩化ニッケル、塩化ベンザルコニウム、塩基性塩化銅、塩基性硫酸銅、キャプタン、グアニジン、グリセオフルビンン、クロラムフェニコール、酢酸トリフェニル錫、酢酸トリブチル錫、酢酸ニッケル、次亜塩素酸ナトリウム、ジクロゾリン、シクロヘキシミド、ジクロン、ジチアノン、ジネブ、ジメチルアンバム、ジラム、水酸化トリフェニル錫、ストレプトマイシン、セロサイジン、ダイホルタン、チアジアジン、チアベンダゾール、チオファネート、チオファネートメチル、トリアジン、ニトロスチレン、ノボビオシン、バリダマイシン、ヒドロキシイソキサゾール、ファーバム、フォルペット、プロピケル、プロピネブ、ベノミル、ポリオキシン、ポリカーバメート、ホルムアルデヒド、マンゼブ、マンネブ、メチラム、MAF、PCP等が挙げられる。
【0038】
除草剤としては、例えば、アイオキシニル、アジプロトリン、アシュラム、アトラジン、アメトリン、アラクロール、エチルキサントゲン酸ナトリウム、塩素酸カルシウム、塩素酸ナトリウム、オキサジアゾン、クレダジン、クロチゾール、クロメトキシニル、シアン酸ナトリウム、ジクワット、シデュロン、ジフェナミド、シメトリン、スルファミン酸アンモニウム、ターバシル、デスメトリン、テトラピオン、トリエタジン、トリフルラリン、ニトラリン、バーナレート、パラコレート、ピクロラム、フェノチオール、フェンメディファム、ブタクロール、プロピサミド、ブロマシル、プロメトリン、ベスロジン、ペブレート、モリネート、リニュロン、硫酸銅、レナシル、ACN、DBN等が挙げられる。
【0039】
殺そ剤としては、例えば、アンツー、黄りん、クロロファシノン、酢酸タリウム、シリロシド、チオセミカルバジド、モノフルオル酢酸ナトリウム、硫酸タリウム、リン化亜鉛等が挙げられる。
植物成長調整剤としては、例えば、インドール酪酸、オオキシエチレンナタネ油アルコール、オルソニトロフェノール、ジベレリン、α-ナフチルアセトアミド、ポリブテン、マレイン酸ヒドラジド、α-メトキシメチルナフタリン、硫酸オキシキノリン等が挙げられる。
誘引剤や忌避剤その他としては、例えば、キュウルア、クレゾール、酸化第二鉄、ジアリルジスルフィド、シクロヘキシミド、生石灰、炭酸カルシウム、チウラム、テトラヒドロチオフェン、β-ナウトール、メチルオイゲノール等が挙げられる。
【0040】
肥料としては、例えば、尿素、硫酸カリウム、リン酸カリウム、塩化カリウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム等が挙げられる。特に、化学的緩効性肥料を用いることが好ましい。化学的緩効性肥料は、主に窒素肥料の溶解性を抑えるように化学処理を施したものである。化学的緩効性肥料は、水に溶解しにくく、土壌中でゆっくりと無機態窒素に転換されて肥料効果を発揮する。このため、化学的緩効性肥料を複合粒子4に内包することにより、更にその肥効を制御することができる。
化学的緩効性肥料としては、例えば、尿素とアルデヒド類を原料とするウレアホルム(UF)、メチロール尿素、アセトアルデヒド縮合尿素(CDU)、イソブチルアルデヒド縮合尿素(IB)、グリオキサール縮合尿素、石灰窒素を原料とする硫酸グアニル尿素、シュウ酸ジエステルとアンモニアを原料とするオキサミドが挙げられる。
【0041】
前記機能性成分は固体、気体、液体のいずれの形態であってもよい。機能性成分の複合粒子4中の含有率は、特に限定されず、複合粒子4が安定して形態を保つことができる範囲で含有率を高めることが好ましい。機能性成分の含有率は、複合粒子4を100質量部とすると、機能性成分は0.001質量部以上80質量部以下であることが好ましい。機能性成分の含有率が0.001質量部未満の場合には、含有した機能性成分の効果が得にくい傾向がある。また、機能性成分の含有率が80質量部を超える場合には、複合粒子4の形成が困難となる傾向がある。
【0042】
<複合粒子4の製造方法a>
本実施形態の複合粒子4の製造方法の一例について説明する。なお、本実施形態の複合粒子4の製造方法は、以下で説明する製造方法に限定されるものではない。
本実施形態に係る複合粒子4の製造方法は、セルロース原料を溶媒中で解繊して微細化セルロース1の分散液を得る工程(a1工程)と、少なくとも一種類の重合性モノマーと少なくとも一種類の機能性成分とを含有する重合性モノマー混合液を準備する工程(a2工程)と、a1工程で得た微細化セルロース1の分散液中において少なくとも前記重合性モノマー混合液を含む重合性モノマー液滴5Aの表面の少なくとも一部を微細化セルロース1で覆い、重合性モノマー液滴5Aをエマルションとして安定化させる工程(a3工程)と、重合性モノマー液滴5A中の重合性モノマーを重合して微細化セルロース1でポリマー及び機能性成分を含むコア粒子3とすることで、コア粒子3の表面の少なくとも一部を微細化セルロース1で覆い、かつコア粒子3と微細化セルロース1とを不可分の状態にする工程(a4工程)と、を有する徐放性複合粒子の製造方法である。
【0043】
上記製造方法により得られた複合粒子4は溶媒への分散体として得られる。さらに溶媒を除去することにより乾燥固形物として得られる。溶媒の除去方法は特に限定されず、例えば遠心分離法やろ過法によって余剰の水分を除去し、さらにオーブンで熱乾燥することで乾燥固形物として得ることができる。この際、得られる乾燥固形物は膜状や凝集体状にはならず、肌理細やかな粉体として得られる。この理由としては定かではないが、通常微細化セルロース1分散体から溶媒を除去すると、微細化セルロース1同士が強固に凝集、膜化することが知られている。一方、複合粒子4を含む分散液の場合、微細化セルロース1が表面に固定化された真球状の複合粒子4であるため、溶媒を除去しても微細化セルロース1同士が凝集することなく、複合粒子4間の点と点で接するのみであるため、その乾燥固形物は肌理細やかな粉体として得られると考えられる。また、複合粒子4同士の凝集がないため、乾燥粉体として得られた複合粒子4を再び溶媒に再分散することも容易であり、再分散後も複合粒子4の表面に結合された微細化セルロース1に由来した分散安定性を示す。
【0044】
なお、複合粒子4の乾燥粉体は溶媒をほとんど含まず、さらに溶媒に再分散可能であることを特長とする乾燥固形物であり、具体的には固形分率を80%以上とすることができ、さらに90%以上とすることができ、さらに95%以上とすることができる。溶媒をほぼ除去することができるため、例えば、輸送費の削減、腐敗防止、添加率向上、樹脂との混練効率向上、といった観点から好ましい効果を得る。なお、乾燥処理により固形分率を80%以上にした際、微細化セルロース1は吸湿しやすいため、空気中の水分を吸着して固形分率が経時的に低下する可能性がある。しかしながら、複合粒子4は乾燥粉体として容易に得られ、さらに再分散させ得ることが特長である本発明の技術的思想を考慮すると、複合粒子4を含む乾燥粉体の固形分率を80%以上とする工程を含む乾燥固形物の製造方法により製造された乾燥固形物であれば、本発明の技術的範囲に含まれると定義する。
【0045】
以下に、各工程について、詳細に説明する。
(a1工程)
a1工程はセルロース原料を溶媒中で解繊して微細化セルロース分散液を得る工程である。まず、各種セルロース原料を溶媒中に分散し、懸濁液とする。懸濁液中のセルロース原料の濃度としては0.1%以上10%未満が好ましい。懸濁液中のセルロース原料の濃度が0.1%未満であると、溶媒過多となり生産性を損なう傾向があるため好ましくない。また、懸濁液中のセルロース原料の濃度が10%以上になると、セルロース原料の解繊に伴い懸濁液が急激に増粘し、均一な解繊処理が困難となる傾向があるため好ましくない。懸濁液作製に用いる溶媒としては、水を50%以上含むことが好ましい。懸濁液中の水の割合が50%未満になると、後述するセルロース原料を溶媒中で解繊して微細化セルロース分散液を得る工程において、微細化セルロース1の分散が阻害される傾向がある。また、水以外に含まれる溶媒としては親水性溶媒が好ましい。親水性溶媒については特に制限はないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類;テトラヒドロフラン等の環状エーテル類が好ましい。必要に応じて、セルロースや生成する微細化セルロース1の分散性を上げるために、例えば、懸濁液のpH調整を行ってもよい。pH調整に用いられるアルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液などの有機アルカリなどが挙げられる。コストなどの面から水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
【0046】
続いて、懸濁液に物理的解繊処理を施して、セルロース原料を微細化する。物理的解繊処理の方法としては特に限定されないが、例えば、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ボールミル、ロールミル、カッターミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、グラインダー、ジューサーミキサー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ナノジナイザー、水中対向衝突などの機械的処理が挙げられる。このような物理的解繊処理を行うことで、懸濁液中のセルロースが微細化され、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーになるまで微細化されたセルロース(微細化セルロース)1の分散液を得ることができる。また、このときの物理的解繊処理の時間や回数により、得られる微細化セルロース1の数平均短軸径及び数平均長軸径を調整することができる。
【0047】
上記のようにして、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーになるまで微細化されたセルロース1の分散体(微細化セルロース分散液)が得られる。得られた分散体は、そのまま、又は希釈、濃縮等を行って、後述するO/W型エマルションの安定化剤として用いることができる。
また、微細化セルロース1の分散体は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、セルロース及びpH調整に用いた成分以外の他の成分を含有してもよい。上記他の成分としては、特に限定されず、複合粒子4の用途等に応じて、公知の添加剤のなかから適宜選択できる。具体的には、アルコキシシラン等の有機金属化合物又はその加水分解物、無機層状化合物、無機針状鉱物、消泡剤、無機系粒子、有機系粒子、潤滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、安定化剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、架橋剤、磁性体、医薬品、農薬、香料、接着剤、酵素、顔料、染料、消臭剤、金属、金属酸化物、無機酸化物等が挙げられる。
【0048】
通常、微細化セルロース1は、ミクロフィブリル構造由来の繊維形状であるため、本実施形態の製造方法に用いる微細化セルロース1としては、以下に示す範囲にある繊維形状のものが好ましい。すなわち、微細化セルロース1の形状としては、繊維状であることが好ましい。また、繊維状の微細化セルロース1は、短軸径において数平均短軸径が1nm以上1000nm以下であればよく、好ましくは2nm以上500nm以下であればよい。ここで、数平均短軸径が1nm未満では高結晶性の剛直な微細化セルロース1繊維構造をとることができず、エマルションの安定化と、エマルションを鋳型とした重合反応やポリマーの固体化等による複合粒子4の形成が難しくなる傾向がある。一方、短軸径において数平均短軸径が1000nmを超えると、エマルションを安定化させるにはサイズが大きくなり過ぎるため、得られる複合粒子4のサイズや形状を制御することが困難となる傾向がある。また、数平均長軸径においては特に制限はないが、好ましくは数平均短軸径の5倍以上であればよい。数平均長軸径が数平均短軸径の5倍未満であると、複合粒子4のサイズや形状を十分に制御することが困難となる傾向があるために好ましくない。
【0049】
なお、微細化セルロース1の数平均短軸径は、例えば、透過型電子顕微鏡観察又は原子間力顕微鏡観察により100本の繊維の短軸径(最小径)を測定し、その平均値として求められる。一方、微細化セルロース1の数平均長軸径は、例えば、透過型電子顕微鏡観察又は原子間力顕微鏡観察により100本の繊維の長軸径(最大径)を測定し、その平均値として求められる。
微細化セルロース1の原料として用いることができるセルロースの種類や結晶構造も特に限定されない。具体的には、セルロースI型結晶からなる原料としては、例えば、木材系天然セルロースに加えて、コットンリンター、竹、麻、バガス、ケナフ、バクテリアセルロース、ホヤセルロース、バロニアセルロースといった非木材系天然セルロースを用いることができる。さらには、セルロースII型結晶からなるレーヨン繊維、キュプラ繊維に代表される再生セルロースも用いることができる。材料調達の容易さから、木材系天然セルロースを原料とすることが好ましい。木材系天然セルロースとしては、特に限定されず、例えば、針葉樹パルプや広葉樹パルプ、古紙パルプ、など、一般的にセルロースナノファイバーの製造に用いられるものを用いることができる。精製及び微細化のしやすさから、針葉樹パルプが好ましい。
【0050】
さらに微細化セルロース原料は化学改質されていることが好ましい。より具体的には、微細化セルロース原料の結晶表面にアニオン性官能基が導入されていることが好ましい。セルロース結晶表面にアニオン性官能基が導入されていることによって浸透圧効果でセルロース結晶間に溶媒が浸入しやすくなり、セルロース原料の微細化が進行しやすくなるためである。
セルロースの結晶表面に導入されるアニオン性官能基の種類や導入方法は特に限定されないが、カルボキシ基やリン酸基が好ましい。セルロース結晶表面への選択的な導入のしやすさから、カルボキシ基が好ましい。
【0051】
セルロースの繊維表面にカルボキシ基を導入する方法は、特に限定されない。具体的には、例えば、高濃度アルカリ水溶液中でセルロースをモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムと反応させることによりカルボキシメチル化を行ってもよい。また、オートクレーブ中でガス化したマレイン酸やフタル酸等の無水カルボン酸系化合物とセルロースを直接反応させてカルボキシ基を導入してもよい。さらには、水系の比較的温和な条件で、可能な限り構造を保ちながら、アルコール性一級炭素の酸化に対する選択性が高い、TEMPOをはじめとするN-オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いた手法を用いてもよい。カルボキシ基導入部位の選択性及び環境負荷低減のためにはN-オキシル化合物を用いた酸化がより好ましい。
【0052】
ここで、N-オキシル化合物としては、例えば、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシラジカル)、2,2,6,6-テトラメチル-4-ヒドロキシピペリジン-1-オキシル、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-エトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-アセトアミド-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、等が挙げられる。そのなかでも、反応性が高いTEMPOが好ましい。N-オキシル化合物の使用量は、触媒としての量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して0.01~5.0質量%程度である。
【0053】
N-オキシル化合物を用いた酸化方法としては、例えば木材系天然セルロースを水中に分散させ、N-オキシル化合物の共存下で酸化処理する方法が挙げられる。このとき、N-オキシル化合物とともに、共酸化剤を併用することが好ましい。この場合、反応系内において、N-オキシル化合物が順次共酸化剤により酸化されてオキソアンモニウム塩が生成し、上記オキソアンモニウム塩によりセルロースが酸化される。この酸化処理によれば、温和な条件でも酸化反応が円滑に進行し、カルボキシ基の導入効率が向上する。酸化処理を温和な条件で行うと、セルロースの結晶構造を維持しやすい。
【0054】
共酸化剤としては、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸、又はそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物など、酸化反応を推進することが可能であれば、いずれの酸化剤も用いることができる。入手の容易さや反応性から、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。上記共酸化剤の使用量は、酸化反応を促進することができる量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して1~200質量%程度である。
また、N-オキシル化合物及び共酸化剤とともに、臭化物及びヨウ化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物をさらに併用してもよい。これにより、酸化反応を円滑に進行させることができ、カルボキシ基の導入効率を改善することができる。このような化合物としては、臭化ナトリウム又は臭化リチウムが好ましく、コストや安定性から、臭化ナトリウムがより好ましい。化合物の使用量は、酸化反応を促進することができる量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して1~50質量%程度である。
【0055】
酸化反応の反応温度は、4℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上70℃以下がより好ましい。酸化反応の反応温度が4℃未満であると、試薬の反応性が低下し反応時間が長くなってしまう傾向がある。酸化反応の反応温度が80℃を超えると副反応が促進して試料であるセルロースが低分子化して高結晶性の剛直な微細化セルロース1繊維構造が崩壊し、O/W型エマルションの安定化剤として用いることが困難となる傾向がある。
また、酸化処理の反応時間は、反応温度、所望のカルボキシ基量等を考慮して適宜設定でき、特に限定されないが、通常、10分~5時間程度である。
【0056】
酸化反応時の反応系のpHは特に限定されないが、9~11が好ましい。pHが9以上であると反応を効率良く進めることができる。pHが11を超えると副反応が進行し、試料であるセルロースの分解が促進されてしまうおそれがある。また、酸化処理においては、酸化が進行するにつれて、カルボキシ基が生成することにより系内のpHが低下してしまうため、酸化処理中、反応系のpHを9~11に保つことが好ましい。反応系のpHを9~11に保つ方法としては、例えば、pHの低下に応じてアルカリ水溶液を添加する方法が挙げられる。
【0057】
アルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液などの有機アルカリなどが挙げられる。コストなどの面から水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
N-オキシル化合物による酸化反応は、例えば、反応系にアルコールを添加することにより停止させることができる。このとき、反応系のpHは上記の範囲内に保つことが好ましい。 添加するアルコールとしては、例えば、反応をすばやく終了させるためメタノール、エタノール、プロパノールなどの低分子量のアルコールが好ましく、反応により生成される副産物の安全性などから、エタノールが特に好ましい。
【0058】
酸化処理後の反応液は、そのまま微細化工程に供してもよいが、N-オキシル化合物等の触媒、不純物等を除去するために、反応液に含まれる酸化セルロースを回収し、洗浄液で洗浄することが好ましい。酸化セルロースの回収は、例えば、ガラスフィルターや20μm孔径のナイロンメッシュを用いたろ過等の公知の方法により実施できる。酸化セルロースの洗浄に用いる洗浄液としては純水が好ましい。
得られたTEMPO酸化セルロースに対し解繊処理を行うと、3nm前後の均一な繊維幅を有するTEMPO酸化セルロースナノファイバー(以下、TEMPO酸化CNF、セルロースシングルナノファイバー、CSNFとも称する。)が得られる。CSNFを複合粒子4の微細化セルロース1の原料として用いると、その均一な構造に由来して、得られるO/W型エマルションの粒径も均一になりやすい。
【0059】
以上のように、本実施形態で用いられるCSNFは、セルロース原料を酸化する工程と、微細化して分散液化する工程と、によって得ることができる。また、CSNFに導入するカルボキシ基の含有量としては、0.1mmol/g以上5.0mmol/g以下が好ましく、0.5mmol/g以上2.0mmol/g以下がより好ましい。ここで、カルボキシ基量が0.1mmol/g未満であると、セルロースミクロフィブリル間に浸透圧効果による溶媒進入作用が働かないため、セルロースを微細化して均一に分散させることが困難となる傾向がある。また、カルボキシ基量が5.0mmol/gを超えると化学処理に伴う副反応によりセルロースミクロフィブリルが低分子化するため、高結晶性の剛直な微細化セルロース1繊維構造をとることができず、O/W型エマルションの安定化剤として用いることが困難となる傾向がある。
【0060】
(a2工程)
a2工程は、少なくとも一種類の重合性モノマーと少なくとも一種類の機能性成分とを含有した重合性モノマー混合液を調製する工程である。具体的には、特に限定されないが、重合性モノマー混合液は、重合性モノマーに機能性成分を添加して混合したものである。
a2工程で用いることができる重合性モノマーの種類としては、ポリマーの単量体であって、その構造中に重合性の官能基を有し、常温で液体であって、水と完全に相溶せず、重合反応によってポリマー(高分子重合体)を形成できるものであれば特に限定されない。重合性モノマーは少なくとも一つの重合性官能基を有する。重合性官能基を一つ有する重合性モノマーは単官能モノマーとも称する。また、重合性官能基を二つ以上有する重合性モノマーは多官能モノマーとも称する。重合性モノマーの種類としては特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル基を有するモノマーである(メタ)アクリル系モノマー、ビニル基を有するモノマーであるビニル系モノマーなどが挙げられる。また、エポキシ基やオキセタン構造などの環状エーテル構造を有する重合性モノマー(例えばε-カプロラクトン等)を用いることも可能である。
なお、「(メタ)アクリレート」の表記は、「アクリレート」と「メタクリレート」との両方を含むこと示す。
【0061】
単官能の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン、N-ビニルピロリドン、テトラヒドロフルフリールアクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、リン酸(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性リン酸(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、ノニルフェノール(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシプロピルフタレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルテトラヒドロハイドロゲンフタレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2-アダマンタン及びアダマンタンジオールから誘導される1価のモノ(メタ)アクリレートを有するアダマンチルアクリレートなどのアダマンタン誘導体モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0062】
2官能の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコ-ルジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0063】
3官能以上の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3官能の(メタ)アクリレート化合物や、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレート等の3官能以上の多官能(メタ)アクリレート化合物や、これら(メタ)アクリレートの一部をアルキル基やε-カプロラクトンで置換した多官能(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
【0064】
単官能のビニル系モノマーとしては例えば、ビニルエーテル系、ビニルエステル系、芳香族ビニル系、特にスチレン及びスチレン系モノマーなど、常温で水と相溶しない液体が好ましい。
単官能ビニル系モノマーのうち(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタフルオロデシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0065】
また、単官能芳香族ビニル系モノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、エチルスチレン、イソプロペニルトルエン、イソブチルトルエン、tert-ブチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルビフェニル、1,1-ジフェニルエチレンなどが挙げられる。
多官能のビニル系モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼンなどの不飽和結合を有する多官能基が挙げられる。常温で水と相溶しない液体が好ましい。
【0066】
例えば多官能性ビニル系モノマーとしては、具体的には、(1)ジビニルベンゼン、1,2,4-トリビニルベンゼン、1,3,5-トリビニルベンゼン等のジビニル類、(2)エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3-プロピレングリコールジメタクリレート、1,4-ブチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサメチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、2,2-ビス(4-メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジメタクリレート類、(3)トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリエチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート類、(4)エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,3-ジプロピレングリコールジアクリレート、1,4-ジブチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキシレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2-ビス(4-アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジアクリレート類、(5)トリメチロールプロパントリアクリレート、トリエチロールエタントリアクリレート等のトリアクリレート類、(6)テトラメチロールメタンテトラアクリレート等のテトラアクリレート類、(7)その他に、例えばテトラメチレンビス(エチルフマレート)、ヘキサメチレンビス(アクリルアミド)、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートが挙げられる。
【0067】
例えば官能性スチレン系モノマーとしては、具体的には、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、ジビニルキシレン、ジビニルビフェニル、ビス(ビニルフェニル)メタン、ビス(ビニルフェニル)エタン、ビス(ビニルフェニル)プロパン、ビス(ビニルフェニル)ブタン等が挙げられる。
また、これらの他にも重合性の官能基を少なくとも1つ以上有するポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等を使用することができ、特にその材料を限定しない。
【0068】
上記重合性モノマーは単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
前述のように機能性成分は、特に限定されないが、例えば、防カビ剤、香料、肥料(生物肥料、化学肥料、有機肥料等)、pH調整剤、農薬(殺虫剤、殺菌剤、除草剤等)、植物活力剤、植物延命剤、害虫及び動物の忌避剤、土壌浸透剤、栄養成分(ミネラル等)、植物ホルモン、無機質粒子(酸化チタン、シリカ、クレー等)、抗菌性物質等が挙げられる。
機能性成分は、前述の重合性モノマーへ溶解又は分散することが好ましい。重合性モノマーに機能性成分が分散することにより、後述のa3工程でO/W型エマルションを形成した際にエマルション粒子内部の液滴5A中に機能性成分を内包しやすく、機能性成分を内包する複合粒子4を効率的に得ることができる。また、内包する機能性成分の量を増やすことが可能である。
【0069】
a2工程において用いることのできる重合性モノマーと機能性成分の重量比については特に限定されないが、複合粒子4が安定的に形状を保てる範囲で添加率が多いことが好ましい。重合性モノマー100質量部に対し、機能性成分が0.001質量部以上80質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.01質量部以上60質量部以下、さらに好ましくは0.01質量部以上40質量部以下である。
また、重合性モノマーに重合開始剤を添加してもよい。一般的な重合開始剤としては、例えば、有機過酸化物やアゾ重合開始剤などのラジカル開始剤が挙げられる。
有機過酸化物としては、例えばパーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシカーボネート、パーオキシエステルなどが挙げられる。
アゾ重合開始剤としては、例えばADVN、AIBNが挙げられる。
【0070】
例えば2,2-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(AMBN)、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(ADVN)、1,1-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)(ACHN)、ジメチル-2,2-アゾビスイソブチレート(MAIB)、4,4-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)(ACVA)、1,1-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)、2,2-アゾビス(2-メチルブチルアミド)、2,2-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス(2-メチルアミジノプロパン)二塩酸塩、2,2-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2-シアノ-2-プロピルアゾホルムアミド、2,2-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)等が挙げられる。
【0071】
a2工程において重合開始剤が含まれた重合性モノマー混合物を用いれば、後述のa3工程でO/W型エマルションを形成した際にエマルション内部の液滴5A中に重合開始剤が含まれるため、後述のa4工程においてエマルション内部のモノマーを重合させる際に重合反応が進行しやすくなる。
a2工程において用いることができる重合性モノマーと重合開始剤の重量比については特に限定されないが、通常、重合性モノマー100質量部に対し、重合開始剤が0.1質量部以上であることが好ましい。重合性モノマーが0.1質量部未満となると重合反応が充分に進行せずに複合粒子4の収量が低下する傾向があるため好ましくない。
【0072】
重合性モノマー混合液は、溶媒を含んでも構わない。特に限定されないが、a3工程にて後述のエマルションを安定化させるためには、有機溶媒を用いることが好ましい。重合性モノマー混合液中に含まれる有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、イソホロン、セロソルブアセテート、イソホロン、ソルベッソ100、トリクレン、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、イソオクタン、ノナン等を用いることができる。
a2工程において用いることができる重合性モノマーと溶媒の重量比については特に限定されないが、重合性モノマー100質量部に対し、溶媒が80質量部以下であることが好ましい。なお、溶媒が80質量部を超えると重合反応が充分に進行せずに複合粒子4の収量が低下する傾向があるため好ましくない。
【0073】
(a3工程)
a3工程は、a1工程で得た微細化セルロース1の分散液中において重合性モノマー及び機能性成分を含む重合性モノマー混合液で構成される液滴5Aの表面の少なくとも一部を微細化セルロース1で被覆し、液滴5Aをエマルションとして安定化させる工程である。
具体的には、a1工程で得られた微細化セルロース1の分散液にa2工程で得られた混合物を添加し、微細化セルロース1の分散液中に液滴5Aとして分散させ、さらに重合性モノマー及び機能性成分を含む液滴5Aの表面の少なくとも一部を微細化セルロース1によって被覆し、微細化セルロース1によって安定化されたO/W型エマルションを作製する工程である。
【0074】
O/W型エマルションを作製する方法としては特に限定されないが、一般的な乳化処理、例えば各種ホモジナイザー処理や機械攪拌処理を用いることができ、具体的には高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、万能ホモジナイザー、ボールミル、ロールミル、カッターミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、グラインダー、ジューサーミキサー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ナノジナイザー、水中対向衝突、ペイントシェイカーなどの機械的処理が挙げられる。また、複数の機械的処理を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
例えば超音波ホモジナイザーを用いる場合、a1工程にて得られた微細化セルロース1の分散液に対し重合性モノマーを添加して混合溶媒とし、混合溶媒に超音波ホモジナイザーの先端を挿入して超音波処理を実施する。超音波ホモジナイザーの処理条件としては特に限定されないが、例えば周波数は20kHz以上が一般的であり、出力は10W/cm2以上が一般的である。処理時間についても特に限定されないが、通常10秒から1時間程度である。
【0076】
上記超音波処理により、微細化セルロース1の分散液中に重合性モノマー及び機能性成分を含む液滴5Aが分散してエマルション化が進行し、さらに液滴5Aと微細化セルロース1の分散液との液/液界面に選択的に微細化セルロース1が吸着することで、液滴5Aが微細化セルロース1で被覆されO/W型エマルションとして安定した構造を形成する。このように、液/液界面に固体物が吸着して安定化したエマルションは、学術的には「ピッカリングエマルション」と呼称されている。前述のように微細化セルロース1によってピッカリングエマルションが形成されるメカニズムは定かではないが、セルロースはその分子構造において水酸基に由来する親水性サイトと炭化水素基に由来する疎水性サイトとを有することから両親媒性を示すため、両親媒性に由来して疎水性モノマーと親水性溶媒の液/液界面に吸着すると考えられる。
【0077】
O/W型エマルション構造は、例えば、光学顕微鏡観察により確認することができる。O/W型エマルションの粒径は特に限定されないが、平均粒子径が0.1μm以上1000μm以下であることが好ましい。平均粒子径は、例えば、ランダムに100個のエマルションの直径を測定し、平均値を取ることで算出できる。
O/W型エマルション構造において、液滴5Aの表層に形成された被覆層2(微細化セルロース層)の厚みは特に限定されないが、3nm以上1000nm以下であることが好ましい。特に限定されないが、エマルション構造における粒径がa4工程において得られる複合粒子4の粒径と同程度となる。被覆層2の厚みは、例えばクライオTEMを用いて計測することができる。
【0078】
a3工程において用いることができる微細化セルロース1の分散液と重合性モノマー混合液との重量比については特に限定されないが、100質量部の微細化セルロース1に対し、重合性モノマー混合液が1質量部以上50質量部以下であることが好ましい。重合性モノマーが1質量部未満となると複合粒子4の収量が低下する傾向があるため好ましくなく、50質量部を超えると液滴5Aを微細化セルロース1で均一に被覆することが困難となる傾向があるため好ましくない。
【0079】
(a4工程)
a4工程は、重合性モノマー液滴5A中の重合性モノマーを重合してコア粒子3とすることで、前記コア粒子の表面の少なくとも一部を覆う前記微細化セルロースとを有し、前記コア粒子と前記微細化セルロースとが不可分の状態にある徐放性複合粒子を得る工程である。
重合性モノマーを重合する方法については特に限定されず、用いた重合性モノマーの種類及び重合開始剤の種類によって適宜選択可能である。前述の重合性モノマーを重合する方法としてはが、例えば懸濁重合法が挙げられる。
【0080】
具体的な懸濁重合の方法についても特に限定されず、公知の方法を用いて実施することができる。例えばa3工程で作製された、重合開始剤を含む液滴5Aが微細化セルロース1によって被覆され安定化したO/W型エマルションを攪拌しながら加熱することによって実施することができる。攪拌の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができ、具体的にはディスパーや攪拌子を用いることができる。また、攪拌せずに加熱処理のみでもよい。また、加熱時の温度条件については重合性モノマーの種類及び重合開始剤の種類によって適宜設定することが可能であるが、20度以上150度以下が好ましい。加熱時の温度が20度未満であると重合の反応速度が低下する傾向があるため好ましくなく、150度を超えると微細化セルロース1が変性する可能性があるため好ましくない。重合反応に供する時間は重合性モノマーの種類及び重合開始剤の種類によって適宜設定することが可能であるが、通常1時間~24時間程度である。また、重合反応は電磁波の一種である紫外線照射処理によって実施してもよい。また、電磁波以外にも電子線などの粒子線を用いてもよい。
上述の工程を経て、コア粒子3が微細化セルロース1によって被覆された真球状の複合粒子4を作製することができる。
【0081】
なお、重合反応終了直後の状態は、複合粒子4の分散液中に多量の水と複合粒子4の被覆層2に形成に寄与していない遊離した微細化セルロース1が混在した状態となっている。そのため、作製した複合粒子4を回収・精製する必要があり、回収・精製方法としては、遠心分離による洗浄又はろ過洗浄が好ましい。遠心分離による洗浄方法としては公知の方法を用いることができ、具体的には遠心分離によって複合粒子4を沈降させて上澄みを除去し、水・メタノール混合溶媒に再分散する操作を繰り返し、最終的に遠心分離によって得られた沈降物から残存溶媒を除去して複合粒子4を回収することができる。ろ過洗浄についても公知の方法を用いることができ、例えば孔径0.1μmのPTFEメンブレンフィルターを用いて水とメタノールで吸引ろ過を繰り返し、最終的にメンブレンフィルター上に残留したペーストからさらに残存溶媒を除去して複合粒子4を回収することができる。
残存溶媒の除去方法は特に限定されず、例えば、風乾やオーブンで熱乾燥にて実施することが可能である。こうして得られた複合粒子4を含む乾燥固形物は上述のように膜状や凝集体状にはならず、肌理細やかな粉体として得られる。
【0082】
<複合粒子4の製造方法b>
本実施形態の複合粒子4の第2の製造方法について説明する。以降の説明において、既に説明したものと共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
本実施形態に係る複合粒子4の製造方法は、セルロース原料を溶媒中で解繊して微細化セルロース1の分散液を得る工程(b1工程)と、少なくとも一種類のポリマー及び少なくとも一種類の機能性成分を、前記ポリマーを溶解可能な有機溶媒に添加し溶解させたポリマー溶液を準備する工程(b2工程)と、b1工程で得た微細化セルロース1の分散液中において少なくとも前記ポリマー液滴5Bの表面の少なくとも一部を微細化セルロース1で覆い、ポリマー液滴5Bをエマルションとして安定化させる工程(b3工程)と、ポリマー液滴5B中の有機溶媒を除去してポリマーを固体化してポリマー及び機能性成分を含むコア粒子3とすることで、コア粒子3の表面の少なくとも一部を覆う微細化セルロース1を有し、コア粒子3と微細化セルロース1とが不可分の状態にある徐放性複合粒子を得る工程(b4工程)と、を有する徐放性複合粒子の製造方法である。
以下に、各工程について、詳細に説明する。
【0083】
(b1工程)
b1工程は、セルロース原料を溶媒中で解繊して微細化セルロース1の分散液を得る工程である。なお、b1工程は、a1工程と同じ工程である。
【0084】
(b2工程)
少なくとも一種類のポリマー及び少なくとも一種類の機能性成分を、前記ポリマーを溶解可能な有機溶媒に添加し、溶解させたポリマー溶液を準備する工程である。
具体的には、水に完全に相溶せず、ポリマーを溶解可能な溶媒にポリマーを添加して混合し、溶解させる。このポリマー溶液に機能性成分を添加して混合し、ポリマー溶液を得る。
b2工程にて溶媒に溶解させるポリマーは特に限定されず、公知のポリマーを用いることができる。例えば、アクリル系ポリマー、エポキシ系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、アミノ系ポリマー、シリコーン系ポリマー、フッ素系ポリマー、ウレタン・イソシアネート系ポリマー等が挙げられる。
【0085】
b2工程にて溶媒に溶解させるポリマーは、特に限定されないが、生分解性ポリマーであることが好ましい。なお、ここで言う「生分解性」とは、土壌や海水中などの地球環境において分解して消滅するポリマー、又は/及び生体内で分解して消滅するポリマーのことである。一般的に、土壌や海水中では微生物がもつ酵素によりポリマーが分解されるのに対し、生体内では酵素を必要とせず物理化学的な加水分解により分解される。
ポリマーの分解は、ポリマーが低分子化或いは水溶性化して形態を消失することである。ポリマーの分解は、特に限定されないが、例えば、主鎖、側鎖、架橋点の加水分解や、主鎖の酸化分解により起こる。
【0086】
生分解性ポリマーは、例えば、天然由来の天然高分子、或いは合成高分子がある。
天然高分子としては、例えば、植物が生産する多糖(セルロース、デンプン、アルギン酸等)、動物が生産する多糖(キチン、キトサン、ヒアルロン酸等)、タンパク質(コラーゲン、ゼラチン、アルブミン等)、微生物が生産するポリエステル(ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート))、多糖(ヒアルロン酸等)等が挙げられる。
合成高分子としては、例えば、脂肪族ポリエステル、ポリオール、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0087】
脂肪酸ポリエステルとしては、例えば、グリコール・ジカルボン酸重縮合系(ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート等)、ポリラクチド類(ポリグリコール酸、ポリ乳酸等)、ポリラクトン類(β-カプロラクトン、ε-カプロラクトン等)、その他(ポリブチレンテレフタレート・アジペート等)が挙げられる。
ポリオールとしては、例えば、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
ポリカーボネートとしては、例えば、ポリエステルカーボネート等が挙げられる。
その他の生分解性ポリマーとしては、例えば、ポリ酸無水物、ポリシアノアクリレート、ポリオルソエステル、ポリフォスファゼン等も生分解性の合成高分子が挙げられる。
【0088】
機能性成分は前述の機能性成分を用いることができる。機能性成分は、特に限定されないが、有機溶媒に溶解又は分散することが好ましい。ポリマー溶液に機能性成分が溶解、分散することにより後述のb3工程でO/W型エマルションを形成した際にエマルション粒子内部の液滴5B中に機能性成分を内包しやすく、機能性成分を内包する複合粒子4を効率的に得ることができる。また、内包する機能性成分の量を増やすことが可能であり、徐放効果を持続しやすくなる。
b2工程において用いることのできるポリマーと機能性成分の重量比については特に限定されないが、複合粒子4が安定的に形状を保てる範囲で添加率が多いことが好ましい。ポリマー100質量部に対し、機能性成分が0.001質量部以上80質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.01質量部以上60質量部以下、さらに好ましくは0.01質量部以上40質量部以下である。
【0089】
有機溶媒は、水と相溶せずにb3工程にてエマルションを形成することができる溶媒であることが好ましい。特に限定されないが、b3工程では溶媒として、例えば、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、イソホロン、セロソルブアセテート、イソホロン、ソルベッソ100、トリクレン、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、イソオクタン、ノナン等を用いることができる。
b2工程において用いることができる溶媒とポリマーの重量比については、特に限定されず、ポリマーを溶解することができればよい。好ましくは、溶媒100質量部に対し、ポリマーの重量は0.005質量部以上100質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.1質量部以上80質量部以下である。なお、ポリマーの含有率が0.005質量部未満の場合には、後述するb4工程において有機溶媒を除去してポリマーを固体化するのが困難となり、複合粒子4の形成が困難となる傾向がある。また、ポリマーの含有率が100質量部を超える場合には、ポリマーを溶解させることが困難である傾向がある。
【0090】
(b3工程)
b1工程で得た微細化セルロース1の分散液中において少なくとも前記ポリマー溶液を含むポリマー液滴5Bの表面の少なくとも一部を微細化セルロース1で被覆し、ポリマー液滴5Bをエマルションとして安定化させる工程である。
具体的には、b1工程で得られた微細化セルロース1の分散液にb2工程で得られたポリマー溶液を添加し、さらにポリマー溶液を微細化セルロース1の分散液中にポリマー液滴5Bとして分散させ、さらにポリマー液滴5Bの表面の少なくとも一部を微細化セルロース1によって被覆し、微細化セルロース1によって安定化されたO/W型エマルションを作製する工程である。
【0091】
O/W型エマルションを作製する方法としては特に限定されず、a2工程で説明した方法で作製することができる。a2工程の方法により、微細化セルロース1の分散液中にポリマー及び機能性成分を含む液滴5Bが分散してエマルション化が進行し、さら液滴5Bと微細化セルロース1の分散液との液/液界面に選択的に微細化セルロース1が吸着することで、液滴5Bが微細化セルロース1で被覆されO/W型エマルションとして安定したO/W型ピッカリングエマルション構造を形成する。
前述のように微細化セルロース1によってピッカリングエマルションが形成されるメカニズムは定かではないが、セルロースはその分子構造において水酸基に由来する親水性サイトと炭化水素基に由来する疎水性サイトとを有することから両親媒性を示すため、両親媒性に由来して疎水性モノマーと親水性溶媒の液/液界面に吸着すると考えられる。
【0092】
前述のように、O/W型エマルション構造は、例えば、光学顕微鏡観察により確認できる。O/W型エマルションの平均粒子径は、1μm以上1000μm以下であることが好ましい。また、O/W型エマルション構造において、液滴5Bの表層に形成された被覆層2(微細化セルロース層)の厚みは特に限定されないが、3nm以上1000nm以下であることが好ましい。
b3工程において用いることができる微細化セルロース1の分散液とポリマー混合液との重量比については特に限定されないが、100質量部の微細化セルロース1に対し、ポリマー混合液が1質量部以上50質量部以下であることが好ましい。ポリマー混合液が1質量部未満となると複合粒子4の収量が低下する傾向があるため好ましくなく、50質量部を超えると液滴5Bを微細化セルロース1で均一に被覆することが困難となる傾向があるため好ましくない。
【0093】
(b4工程)
b3工程で得られたポリマー液滴5B中の有機溶媒を除去してポリマーを固体化してポリマー及び機能性成分を含むコア粒子3とすることで、コア粒子3の表面の少なくとも一部を覆う微細化セルロース1とを有し、コア粒子と3と微細化セルロース1とが不可分の状態にある徐放性複合粒子を得る工程である。
具体的には、加熱又は/及び減圧乾燥により溶媒を蒸発させ、除去する。除去する前記有機溶媒の沸点が水より低いと、有機溶媒を選択的に除去することが可能である。特に限定されないが、減圧条件下で加熱することにより効率的に溶媒を除去することができる。加熱温度は20℃以上100℃以下であることが好ましく、圧力は600mmHg以上750mmHg以下であることが好ましい。
【0094】
上述の工程を経て、コア粒子3が微細化セルロース1によって被覆された真球状の複合粒子4を作製することができる。なお、複合粒子4生成直後の状態は、複合粒子4の分散液中に多量の水と複合粒子4の被覆層2に形成に寄与していない遊離した微細化セルロース1が混在した状態となっている。そのため、製造方法aと同様の方法で複合粒子4を回収・精製してもよく、製造方法aと同様に残存溶媒を除去してもよい。
【0095】
(複合粒子4の効果)
本実施形態に係る徐放性複合粒子4は、微細化セルロース1(セルロースナノファイバー)のガスバリア性、親水性、耐熱性、高強度等の特性により、機能性成分を紫外線、熱、酸素等から保護し、分散安定性が良好であるために優れた徐放性を有して長期間効果を発揮する複合粒子である。また、優れた徐放性により、機能性成分の使用頻度を減らすことができるために経済的であり、環境負荷を低減することができる。
また、簡便な方法で機能性成分の原料を効率よく内包し、廃棄による汚染を低減する徐放性複合粒子4の製造方法を提供できる。
【0096】
更に、コア粒子3に含まれるポリマーに生分解性ポリマーを使用することにより、農薬や医薬品として使用する際に分解し、安全であり、環境汚染を抑制できる徐放性複合粒子を提供できる。
微細化セルロース1の特性を維持した新たな取り扱い様態の徐放性複合粒子4を提供することができる。
微細化セルロース1がコア粒子3と不可分な状態でコア粒子3の表面を覆っていることで、コア粒子3内に包含された機能性成分が、コア粒子3のみより、緩やかに機能性成分が放出され、徐放性が向上すると推察される。
【0097】
ゲル状物質に機能性成分を内包した徐放性粒子は、表面が湿潤状態であり、表面に土や埃が付着すると、粒子表面が乾燥してしまうため、使用環境が限られていた。一方、本実施形態による徐放性複合粒子4は、表面が乾燥状態なので、ゲル状物質を用いた徐放性粒子では適用困難な場所でも利用が可能である。
また、界面活性剤等の添加剤を加えることなく、簡便な方法で機能性成分の原料を効率よく内包し、廃棄による汚染を低減する徐放性複合粒子4の製造方法を提供できる。
更に、微細化セルロース1は生分解性ポリマーであるセルロースから構成された繊維状セルロースであるため、コア粒子3に含まれるポリマーに生分解性ポリマーを使用することにより、農薬や医薬品として使用する際に分解し、安全であり、環境汚染を抑制できる徐放性複合粒子4を提供できる。
【0098】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。また、上述の実施形態において示した構成要素は適宜に組み合わせて構成することが可能である。
例えば、コア粒子3にはポリマー及び機能性成分の他にその他成分を含んでも構わない。また、被覆層2に微細化セルロース1以外の成分を含有させて徐放性を調節、また機能性材料を付与しても構わない。
【0099】
(被覆層2への機能性付与)
本実施形態に係る複合粒子4は、表面の被覆層2の微細化セルロース1に、セルロース以外の機能性材料が付与されても構わない。上記実施形態においては、複合粒子4の表面に付与されるセルロース以外の機能性材料としては、例えば磁性体、医薬品、農薬、香料、接着剤、酵素、顔料、染料、消臭剤、金属、金属酸化物、無機酸化物などの機能性材料を付与することができる。
被覆層2へ機能性を付与した複合粒子4は、予め微細化セルロース1に機能性材料を付与した、機能性付与微細化セルロースを用いて複合粒子4を製造することができる。また、複合粒子4を製造してから被覆層2に機能性材料を付与してもよい。
【0100】
被覆層2へ機能性を付与した複合粒子4は、例えば、以下の方法で製造できる。セルロース原料を溶媒中で解繊して微細化セルロース1の分散液を得る工程と、少なくとも一種類の重合性モノマーと少なくとも一種類の機能性成分とを含有させる工程と、微細化セルロース1の分散液中において重合性モノマー及び機能性成分を含む重合性モノマー液滴5Aの表面の少なくとも一部を微細化セルロース1で被覆し、重合性モノマー液滴5Aをエマルションとして安定化させる工程と、重合性モノマー液滴5Aの表面の少なくとも一部が微細化セルロース1で覆われた状態で、重合性モノマー液滴5Aを重合して微細化セルロース1でポリマー及び機能性成分を含むコア粒子3とすることで、コア粒子3の表面の少なくとも一部が微細化セルロース1で被覆された複合粒子4を得ることに加えて、複合粒子4の表面の少なくとも一部の微細化セルロース1にセルロース以外の機能性材料を付与する工程を、さらに具備することで製造できる。
【0101】
また、被覆層2に機能性を付与した複合粒子4は、以下の方法で製造することもできる。セルロース原料を溶媒中で解繊して微細化セルロース1の分散液を得る工程と、微細化セルロース1の分散液中の微細化セルロース1にセルロース以外の機能性材料を複合化した微細化セルロース複合体を生成する工程と、少なくとも一種類の重合性モノマーと少なくとも一種類の機能性成分とを含有させて重合性モノマー混合液を準備する工程と、微細化セルロース複合体の分散液中で重合性モノマーを含む液滴5Aの表面の少なくとも一部を微細化セルロース複合体で被覆し、液滴5Aをエマルションとして安定化させる工程と、液滴5Aの表面の少なくとも一部が微細化セルロース1で覆われた状態で、重合性モノマーを重合して微細化セルロース複合体で機能性成分及びポリマーを含有するコア粒子3とすることで、コア粒子3の表面の少なくとも一部が微細化セルロース複合体で被覆された複合粒子4を得る工程と、を具備することで製造できる。
【0102】
機能性材料としては、特に、金属を含む微粒子であることが好ましい。金属は、例えば、平均粒子サイズがサブミクロンオーダー(1μm以下)にまで小さくなると、局在表面プラズモン共鳴(以下、LSPRとも称する。)により特定の波長の光を吸収・散乱することが知られている。
なお、金属微粒子の形状は特に限定されないが、例えば平板状あるいはロッド状であってもよい。特に金属微粒子が金又は銀あるいはその両方を含む場合には、金属微粒子の形状を平板状とすることで、局在表面プラズモン共鳴波長を可視~近赤外領域において幅広く制御可能である。
【0103】
通常、金属微粒子は、完全に溶媒を除去してしまうと金属粒子同士が強固な凝集体を形成、あるいは融着してしまうことにより、一次粒子レベルでのナノ粒子の再分散が困難となり、再分散後に局在表面プラズモン共鳴効果を利用できないという問題があった。しかし、複合粒子4においては、金属微粒子は複合粒子表面に担持・固定化されており、さらに複合粒子4表面の微細化セルロース1に由来して複合粒子4自体の分散性が高いことから、再分散が容易で、かつ局在表面プラズモン効果を利用可能な乾燥粉体として扱うことが可能である。
【0104】
金属微粒子の組成としては、例えば、金、銀、白金、パラジウムより選ばれた1種類以上の金属又はその化合物を含むことが好ましいが、特にこれに限定されるものではない。複数の金属種を用いる場合、例えば析出した銀微粒子の周りを銀より貴な金属あるいはシリカ等の金属酸化物などで被覆して、銀微粒子の安定性を向上させてもよい。
なお、本実施形態において「平板状」とは、概平板形状をした板状の粒子であり、主平面の平均粒子径を平均粒子厚みで割った平均アスペクト比(平均粒子径/平均粒子厚み)が2.0以上である粒子を意味する。
【0105】
主平面の形状は特に限定されないが、例えば、主平面の面積と等しい円として、粒子径(円相当粒子径)を算出する。平均粒子径及び平均厚みは、例えば、電子顕微鏡にて100個の粒子を計測し、平均値を算出して得られる。
平板状金属微粒子の平均粒子径は、20nm以上1000nm以下が好ましい。平板状金属微粒子の平均粒子厚みは、5nm以上100nm以下が好ましく、8nm以上50nm以下がより好ましい。平均アスペクト比(平均粒子径/平均粒子厚み)は、2.0以上が好ましく、2.0以上200以下がより好ましい。
【0106】
[第1実施例]
以下、本発明を第1実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の各例において、「%」は、特に断りのない限り、質量%(w/w%)を示す。
【0107】
<実施例1-1>
(a1工程:微細化セルロース分散液を得る工程)
(木材セルロースのTEMPO酸化)
針葉樹クラフトパルプ70gを蒸留水3500gに懸濁し、蒸留水350gにTEMPOを0.7g、臭化ナトリウムを7g溶解させた溶液を加え、20℃まで冷却した。ここに2mol/L、密度1.15g/mLの次亜塩素酸ナトリウム水溶液450gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。系内の温度は常に40℃に保ち、反応中のpHの低下は0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加することでpH10に保ち続けた。セルロースの重量に対して、水酸化ナトリウムの添加量の合計が3.50mmol/gに達した時点で、約100mLのエタノールを添加し反応を停止させた。その後、ガラスフィルターを用いて蒸留水によるろ過洗浄を繰り返し、酸化パルプ(酸化セルロース)を得た。
【0108】
(酸化セルロースのカルボキシ基量測定)
上記TEMPO酸化で得た酸化パルプ及び再酸化パルプを固形分重量で0.1g量りとり、1%濃度で水に分散させ、塩酸を加えてpHを2.5とした。その後0.5M水酸化ナトリウム水溶液を用いた電導度滴定法により、カルボキシ基量(mmol/g)を求めた。結果は1.6mmol/gであった。
(酸化セルロースの解繊処理)
上記TEMPO酸化で得た酸化セルロース1gを99gの蒸留水に分散させ、ジューサーミキサーで30分間微細化処理し、濃度1%の微細化セルロース水分散液を得た。
(微細化セルロース1の評価)
得られた酸化セルロース、微細化セルロース1について、カルボキシ基量、結晶化度、長軸の数平均軸径、光線透過率及びレオロジーの測定や算出を次のように行った。得られた微細化セルロース1の評価結果を表1、
図4、
図5に示す。
【0109】
(カルボキシ基量の測定)
分散処理前の酸化セルロースについて、カルボキシ基量を以下の方法にて算出した。
酸化セルロースの乾燥重量換算0.2gをビーカーに採り、イオン交換水80mLを添加した。
そこに、0.01mol/Lの塩化ナトリウム水溶液5mLを加え、攪拌しながら、0.1mol/L塩酸を加えて、全体がpH2.8となるように調整した。
そこに、自動滴定装置(商品名:AUT-701、東亜ディーケーケー社製)を用いて、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を0.05mL/30秒で注入し、30秒毎の電導度とpH値を測定し、pH11まで測定を続けた。
得られた電導度曲線から、水酸化ナトリウムの滴定量を求め、カルボキシ基の含有量を算出した。
【0110】
(結晶化度の算出)
TEMPO酸化セルロースの結晶化度を算出した。
TEMPO酸化セルロースについて、試料水平型多目的X線回折装置(商品名:UltimaIII、Rigaku社製)を用い、X線出力:(40kv、40mA)の条件で、5°≦2θ≦35°の範囲でX線回折パターンを測定した。得られるX線回折パターンはセルロースI型結晶構造に由来するものであるため、下記の式(1)を用い、以下に示す手法により、TEMPO酸化セルロースの結晶化度を算出した。
結晶化度(%)=〔(I22.6-I18.5)/I22.6〕×100・・・(1)
ただし、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。
【0111】
(微細化セルロース1の長軸の数平均軸径の算出)
原子間力顕微鏡を用いて、微細化セルロース1の長軸の数平均軸径を算出した。
まず、微細化セルロース水分散液を0.001%となるように希釈した後、マイカ板上に20μLずつキャストして風乾した。
乾燥後に原子間力顕微鏡(商品名:AFM5400L、日立ハイテクノロジーズ社製)を用い、DFMモードで微細化セルロース1の形状を観察した。
微細化セルロース1の長軸の数平均軸径は、原子間力顕微鏡による観察画像から100本の繊維の長軸径(最大径)を測定し、その平均値として求めた。
【0112】
(微細化セルロース1の水分散液の光線透過率の測定)
微細化セルロース水分散液について、光線透過率を測定した。
石英製のサンプルセルの一方にはリファレンスとして水を入れ、もう一方には気泡が混入しないように微細化セルロース水分散液を入れ、光路長1cmにおける波長220nmから1300nmまでの光線透過率を分光光度計(商品名:NRS-1000、日本分光社製)にて測定した。その結果を
図4に示す。
【0113】
(レオロジー測定)
微細化セルロース0.5質量%の分散液のレオロジーをレオメーター(商品名:AR2000ex、ティー・エイ・インスツルメント社製)傾斜角1°のコーンプレートにて測定した。
測定部を25℃に温調し、せん断速度を0.01s
-1から1000s
-1について連続的にせん断粘度を測定した。その結果を
図5に示す。
図5から明らかなように、微細化セルロース分散液はチキソトロピック性を示した。せん断速度が1s
-1と100s
-1のときのせん断粘度を表1に示す。
【0114】
【0115】
図4から明らかなように、微細化セルロース水分散液は高い透明性を示した。また、微細化セルロース水分散液に含まれる微細化セルロース1(TEMPO酸化CNF)の数平均短軸径は3nm、数平均長軸径は418nmであった。さらに、レオメーターを用いて定常粘弾性測定を行った結果を
図5に示す。
図5から明らかなように、微細化セルロース水分散液はチキソトロピック性を示した。
【0116】
(a2工程:重合性モノマー混合液を調製する工程)
次に、重合性モノマーであるジビニルベンゼン(以下、DVBとも称する。)10gに対し、重合開始剤である2、2-アゾビス-2、4-ジメチルバレロニトリル(以下、ADVNとも称する。)を1g溶解させた。更に、機能性成分として農薬フェニトロチオン(スミチオン、MEP、住友化学製)2g添加して混合した。
【0117】
(a3工程:O/W型エマルションを作製する工程)
a2工程で調製した重合性モノマー混合液の全量を、微細化セルロース濃度1%の微細化セルロース分散液40gに対し添加したところ、重合性モノマー混合液と微細化セルロース分散液はそれぞれ透明性の高い状態で2相に分離した。
次に、上記2相分離した状態の混合液における上相の液面から超音波ホモジナイザーのシャフトを挿入し、周波数24kHz、出力400Wの条件で、超音波ホモジナイザー処理を3分間行った。超音波ホモジナイザー処理後の混合液の外観は白濁した乳化液の様態であった。混合液一滴をスライドグラスに滴下し、カバーガラスで封入して光学顕微鏡で観察したところ、1~数μm程度のエマルション液滴が無数に生成し、O/W型エマルションとして分散安定化している様子が確認された。
【0118】
(a4工程:複合粒子4を得る工程)
O/W型エマルション分散液を、ウォーターバスを用いて70℃の湯浴中に供し、攪拌子で攪拌しながら8時間処理し、重合反応を実施した。8時間処理後に上記分散液を室温まで冷却した。重合反応の前後で分散液の外観に変化はなかった。得られた分散液に対し、遠心力75,000g(gは重力加速度)で5分間処理したところ、沈降物を得た。デカンテーションにより上澄みを除去して沈降物を回収し、さらに孔径0.1μmのPTFEメンブレンフィルターを用いて、純水とメタノールで繰り返し洗浄した。こうして得られた精製・回収物を1%濃度で再分散させ、粒度分布計(NANOTRAC UPA-EX150、日機装株式会社)を用いて粒径を評価したところ平均粒子径2.1μmであった。次に精製・回収物を風乾し、さらに室温25度にて真空乾燥処理を24時間実施したところ、肌理細やかな乾燥粉体(複合粒子4)を得た。
【0119】
(走査型電子顕微鏡による形状観察)
得られた乾燥粉体を走査型電子顕微鏡にて観察した結果を
図6及び
図7に示す。
図6から明らかなように、O/W型エマルション液滴を鋳型として重合反応を実施したことにより、エマルション液滴の形状に由来した、真球状の複合粒子4が無数に形成していることが確認された。さらに
図7(a)及び(b)に示されるように、その表面は幅数nmの微細化セルロース1によって均一に被覆されていることが確認された。また、ろ過洗浄によって繰り返し洗浄したにも拘らず、複合粒子4の表面は等しく均一に微細化セルロース1によって被覆されていることから、本実施形態の複合粒子4において、複合粒子4内部のモノマーと微細化セルロース1は結合しており、不可分の状態にあることが示された。
【0120】
(再分散性の評価)
複合粒子4の乾燥粉体を1%の濃度で純水に添加し、攪拌子で再分散させたところ、容易に再分散し、凝集も見られなかった。また、粒度分布計を用いて粒径を評価したところ、平均粒子径は乾燥前と同様に2.1μmとなり、粒度分布計のデータにおいても凝集を示すようなシグナルは存在しなかった。
以上のことから、複合粒子4はその表面が微細化セルロース1で被覆されているにもかかわらず、乾燥によって膜化することなく粉体として得られ、かつ再分散性も良好であることが示された。
【0121】
<実施例1-2>
実施例1-1においてDVBの代わりにジエチレングリコールジアクリレート(商品名FA-222A、日立化成、以下、FA-222Aとも称する。)を用いたこと以外は実施例1-1と同様の条件で、実施例1-2に係る複合粒子4を作製した。
<実施例1-3>
実施例1-1においてDVBの代わりにヘキサンジオールジアクリレート(商品名A-HD-N、新中村化学工業、以下、A-HD-Nとも称する。)を用いたこと以外は実施例1-1と同様の条件で、実施例1-3に係る複合粒子4を作製した。
【0122】
<実施例1-4>
実施例1-1においてTEMPO酸化の代わりに、先行技術文献として挙げた特許文献4に従いカルボキシメチル化(以下、CM化とも称する。)処理を行って得られたCM化CNF分散液を用いたこと以外は実施例1-1と同様の条件で、実施例1-4に係る複合粒子4を作製した。
<実施例1-5>
実施例1-1においてTEMPO酸化の代わりに、先行技術文献として挙げた非特許文献1に従いリン酸エステル化処理を行って得られたリン酸エステル化CNF分散液を用いたこと以外は実施例1-1と同様の条件で、実施例1-5に係る複合粒子4を作製した。
【0123】
<実施例1-6>
(b1工程:微細化セルロース分散液を得る工程)
実施例1-1と同様の条件で微細化セルロース分散液を得た。
(b2工程:ポリマー溶液を調製する工程)
次に、ポリ乳酸(PLA)10gを100gのジクロロエタンに溶解し、フェニトロチオン(スミチオン、MEP)2g添加して混合し、ポリマー溶液を調製した。
【0124】
(b3工程:O/W型エマルションを作製する工程)
b2工程で得たポリマー溶液の全量を、微細化セルロース1濃度1%の微細化セルロース分散液500gに対し添加したところ、ポリマー溶液と微細化セルロース分散液はそれぞれ透明性の高い状態で2相に分離した。
次に、上記2相分離した状態の混合液における上層の液面から超音波ホモジナイザーを用いて実施例1-1のa3工程と同様に超音波ホモジナイザー処理した。光学顕微鏡にて1~数μm程度のエマルション液滴が無数に生成し、O/W型エマルションとして分散安定化している様子が確認された。
【0125】
(b4工程:複合粒子4を得る工程)
b3工程で得たO/W型エマルション液を700mmHgの減圧条件下にて40℃で3時間減圧乾燥してジクロロエタンを完全に揮発させた。ジクロロエタンの揮発前後で分散液の外観に変化はなかった。
得られた分散液を実施例1-1と同様の条件で分離・精製した。得られた複合粒子4の平均粒子径は2.8μmであった。実施例1-1と同様の条件で回収物を乾燥したところ、肌理細やかな乾燥粉体(複合粒子4)を得た。
【0126】
<実施例1-7>
実施例1-6において、b1工程と同様の条件で微細化セルロース1を調製し、b2工程にて、ポリ-ε-カプロラクトン(PCL、和光純薬製)10gを200gの酢酸エチルに溶解し、フェニトロチオン(スミチオン、MEP、住友化学製)2gを添加して混合し、ポリマー溶液を調製した。次に、b3工程と同様の条件でO/W型エマルション液を調製後、b4工程にてO/W型エマルション液を700mgHgの減圧条件下にて40℃で5時間減圧乾燥し、酢酸エチルを完全に揮発させた。それ以外は実施例1-6と同様の条件で、実施例1-7に係る複合粒子4を得た。
【0127】
<実施例1-8>
実施例1-1において肥料(イソブチルアルデヒド縮合尿素、IB)を用いた以外は実施例1-1と同様の条件で、実施例1-8に係る複合粒子4を作製した。
<実施例1-9>
実施例1-6において肥料(イソブチルアルデヒド縮合尿素、IB)を用いた以外は実施例1-1と同様の条件で、実施例1-9に係る複合粒子4を作製した。
【0128】
<実施例1-10>
実施例1-1において機能性成分として防カビ剤である5,6-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン(DCOIT)を用いた以外は実施例1-1と同様の条件で、実施例1-10に係る複合粒子4を作製した。
<実施例1-11>
実施例1-6においてDCOITを用いた以外は実施例1-1と同様の条件で、実施例1-11に係る複合粒子4を作製した。
【0129】
<比較例1-1>
実施例1-1において、TEMPO酸化CNF分散液の代わりに純水を用いたこと以外は実施例1-1と同様の条件で、比較例1-1に係る複合粒子の作製を試みた。
<比較例1-2>
実施例1-1において、TEMPO酸化CNF分散液の代わりにカルボキシメチルセルロース(以下、CMCとも称する。)水溶液を用いたこと以外は実施例1-1と同様の条件で、比較例1-2に係る複合粒子の作製を試みた。
【0130】
<比較例1-3>
実施例1-8において、TEMPO酸化CNF分散液の代わりにカルボキシメチルセルロース(以下、CMCとも称する。)水溶液を用いたこと以外は実施例1-8と同様の条件で、比較例1-3に係る複合粒子の作製を試みた。
<比較例1-4>
実施例1-6において、b1工程において、微細化セルロース分散液の代わりにポリビニルアルコール(PVA)を8質量部、ラウリン酸ポリグリセリル-10(PGLE ML10)0.5質量部を純水500gに溶かした水溶液を用い、b2工程及びb3工程は実施例1-6と同様の条件でO/W型エマルション液を調製した。得られたO/W型エマルション液を、スプレードライヤー装置を用いて乾燥温度100℃で噴霧乾燥し、比較例1-4に係る粒子を作製した。
【0131】
<比較例1-5>
比較例1-4において、機能性成分としてMEPの代わりにIBを用いた以外は比較例1-4と同様の条件で、比較例1-4に係る粒子を作製した。
<比較例1-6>
比較例1-4において、機能性成分としてMEPの代わりにDCOITを用いた以外は比較例1-4と同様の条件で、比較例1-6に係る粒子を作製した。
<比較例1-7>
比較例1-4において、ラウリン酸ポリグリセリル-10(PGLE ML10)を添加しなかった以外は比較例1-4と同様の条件で、比較例1-7に係る粒子の作製を試みた。
【0132】
<評価方法>
(複合粒子形成可否評価)
複合粒子の形成可否は、走査型電子顕微鏡による形状観察により判断した。得られた乾燥粉体を走査型電子顕微鏡にて観察した。なお、複合粒子4の形成可否を以下の基準で判定した。
○:真球状の粒子が得られ、表面に微細化セルロースが被覆されていた。
△:真球状の粒子が得られたが、表面に微細化セルロースが被覆されていなかった。
×:上記粒子は得られなかった。
【0133】
(分散安定性の評価)
複合粒子4の乾燥粉体を1%の濃度で純水に添加し、攪拌子で再分散させた。25度で2週間静置後、目視で凝集があるか確認した。なお、分散安定性を以下の基準で判定した。
〇:目視で凝集物が確認されなかった。
×:目視で凝集物が確認された。
【0134】
(徐放性の評価)
徐放性の評価は機能性成分の水中への溶出試験により行った。500mLの蒸留水に複合粒子4を0.1g添加し、25℃で250rpmの条件で振とう後、試験液をろ過し、高速液体クロマトグラフ測定装置(島津製作所社製)を用いて溶出した機能性成分の濃度を測定した。徐放開始から試験終了までに水溶液中に徐放された機能性成分の全量(徐放量)を、調製時に複合粒子4に内包された機能性成分の量(初期含有量)に対する徐放量を溶出率とした(溶出率=徐放量/初期含有量×100)。初期含有量は、複合粒子4を乳鉢ですりつぶした後、機能性成分を溶媒に溶解させて測定した。なお、徐放性を以下の基準で判定した。
〇:徐放開始から100時間の時点で溶出率が50%未満である。
×:徐放開始から100時間の時点で溶出率が50%以上である。
【0135】
(殺虫効果の評価)
ヒメコガネムシ幼虫に対する殺虫効果を評価した。土壌に複合粒子4を0.1g/m2となるように土壌に混合し、40日後に10匹のコガネムシを放飼して7日後の死亡率を確認した。なお、殺虫効果を以下の基準で判定した。
〇:死亡率が90%以上であった。
×:死亡率が90%未満であった。
【0136】
(肥効特性の評価)
複合粒子4の芝に対する肥効を評価した。コーライ芝に、複合粒子4を1m2あたり25gの割合で設肥した。設肥から40日後の植物体の地上部分の生育を観察した。なお、肥効特性を以下の基準で判定した。
〇:芝葉が硬く、且つ葉色が良好である。
×:芝葉が硬くない、又は葉色が良好でない。
【0137】
(紫外線耐性試験)
紫外線(UV)耐性試験は、得られた粒子0.1質量部となるようにPVA溶液に添加し、攪拌子で1時間攪拌後、アルミニウム板にアプリケーターを用いて膜厚10μmの膜厚で塗工し、一晩風乾して塗膜を作製した。塗膜にブラックライトによりUVを30μW/cm2にて照射し、2週間後のDCOIT残存率を測定した。
残存率は、初期含有量に対する残存量とした(残存率=残存量/初期含有量×100)。なお、紫外線耐性を以下の基準で判定した。
〇:2週間後の残存率が20%以上であった。
×:2週間後の残存率が20%未満であった。
【0138】
(生分解性の評価)
JIS規格「JIS K6950:2000 プラスチック-水系培養液中の好気的究極生分解度の求め方-閉鎖呼吸計を用いる酸素消費量の測定による方法」に基づいて生分解性を評価した。複合粒子4と活性汚泥をそれぞれ100mg/L、30mg/Lになるように無機塩培地に添加し、酸素の消費量を測定し、酸素消費生物化学的酸素要求量(BOD;化学物質又は有機物が、特定条件下で、水中での好気的生物酸化によって消費された溶存酸素の質量濃度)を算出する。
コントロールとして複合粒子4が入っていない無機塩培地を用いる。機能性成分を除いた複合粒子4の全てが水と炭酸ガスにまで変換されるのに必要な酸素量(理論酸素要求量、ThOD)をポリマー組成式から算出した。生分解度は、理論酸素要求量に対する生物化学的酸素要求量として算出した(生分解度=BOD/ThOD×100)。なお、生分解性を以下の基準で判定した。
〇:試験開始から28日後の生分解度が80%以上であった。
×:試験開始から28日後の生分解度が80%未満であった。
【0139】
以上の実施例及び比較例を用いた評価結果については、以下の表2~表4にまとめて掲載した。表2は機能性成分として農薬MEPを用いた実施例及び比較例、表3は機能性成分として肥料IBを用いた実施例及び比較例、表4は機能性成分として防カビ剤DCOITを用いた実施例及び比較例を示した。
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
表2、表3の比較例中の各セルにおける斜線の表記は、評価の遂行が不可能となり、その後の工程を実施していないことを示している。
表2、表3、表4の実施例1-1~1-11の評価結果において明らかなように、微細化セルロース1の種類(TEMPO酸化CNF、CM化CNF、リン酸エステル化CNF)によらず、各種モノマーの重合物や生分解性ポリマー及び各種機能性成分をコア粒子3とする複合粒子4を作製可能であることが確認された。実施例1-6、1-7、1-9及び1-11では、生分解性を有するポリマーに微細化セルロース形成後においても引続き生分解性を有していた。
【0144】
一方、比較例1-1においては、a2工程の遂行が不可能であった。具体的には、超音波ホモジナイザー処理を実施してもモノマー相と微細化セルロース分散液相が2相分離したままの状態となり、O/W型エマルションの作製自体が不可能であった。
比較例1-7においても、b2工程の遂行が不可能であった。具体的には、超音波ホモジナイザー処理を実施してもポリマー相と微細化セルロース分散液相が2相分離したままの状態となり、O/W型エマルションの作製自体が不可能であった。
また、比較例1-2から比較例1-3においては、a2工程におけるO/W型エマルションの形成は可能であった。これはCMCが微細化セルロース1と同様に両親媒性を示したため、エマルションの安定化剤として機能したと考えられる。しかしながら、続くa3工程において重合反応を実施すると、エマルションが崩壊してしまい、O/W型エマルションを鋳型とした複合粒子を得ることができなかった。この理由としては定かではないが、CMCは水溶性であるため、重合反応中もエマルション形状を維持するための被覆層2としては脆弱である可能性が高く、そのため重合反応中にエマルションが崩壊したと考えられる。
【0145】
また、比較例1-4及び比較例1-5においては、ポリマー及び機能性成分を含む粒子を作製できたが、表面に微細化セルロース1が被覆されていなかった。
実施例1-1から実施例1-7の複合粒子4に内包される機能性成分MEPの徐放性を評価した結果、溶出率が50%未満であり、内包された機能性成分MEPが長期間複合粒子4内部に保持されており、優れた徐放性を有することが確認された。一方、比較例1-4の微細化セルロース1が表面に被覆されていない粒子においては十分な徐放性を有していなかった。このことから、微細化セルロース1が表面に被覆されることにより、優れた徐放性を示すことが示唆された。
【0146】
また、実施例1-8及び実施例1-9の複合粒子4に内包された機能性成分IBの徐放性を評価した結果、溶出率が50%未満であり、内包された機能性成分IBが長期間複合粒子4内部に保持されており、優れた徐放性を有することが確認された。一方、比較例1-5の微細化セルロース1が表面に被覆されていない粒子においては十分な徐放性を有していなかった。このことから、微細化セルロース1が表面に被覆されることにより、複合粒子4が優れた徐放性を示すことが示唆された。
また、実施例1-10及び実施例1-11の複合粒子4に内包された機能性成分DCOITの徐放性を評価した結果、溶出率が50%未満であり、内包された機能性成分DCOITが長期間複合粒子4内部に保持されており、優れた徐放性を有することが確認された。一方、比較例1-6の微細化セルロース1が表面に被覆されていない粒子においては十分な徐放性を有していなかった。このことから、微細化セルロース1が表面に被覆されることにより、複合粒子4が優れた徐放性を示すことが示唆された。
【0147】
内包する機能性成分がMEPである実施例1-1から実施例1-7の複合粒子4の殺虫性評価の結果、試験開始から40日後においても優れた殺虫性を示していた。一方、比較例1-4の試料の殺虫性評価の結果、試験開始から40日後においては殺虫性が不十分であった。このことから、微細化セルロース1の被覆の効果により、内包された機能性成分が保護され、また、徐放されるために40日後においても優れた殺虫性を発揮したと考えられる。
内包する機能性成分がIBである実施例1-8において植物生育評価を行った結果、設肥から40日後においても高い肥効を示し、植物の生育状態が良好であった。一方、比較例1-5においては、40日後の肥効は十分ではなかった。このことから、微細化セルロース1の被覆の効果により、内包された機能性成分が保護され、また、徐放されるために40日後においても優れた肥効特性を示したと考えられる。
【0148】
実施例1-10及び実施例1-11の複合粒子4に内包された機能性成分DCOITのUV曝露後の残存率を評価した結果、残存率が20%以上であり、内包された機能性成分DCOITが分解されずに複合粒子4内部に保持されており、優れたUV耐性を有することが確認された。一方、比較例1-6の微細化セルロース1が表面に被覆されていない粒子においては十分なUV耐性を有していなかった。このことから、微細化セルロース1が表面に被覆されることにより、複合粒子4が優れたUV耐性を示すことが示唆された。
【0149】
〔第2実施形態〕
第1実施形態で説明した徐放性複合粒子は、上述のように、分散安定性が良好であるために優れた徐放性を有して長期間効果を発揮する。そのため、上述の徐放性複合粒子を、例えば、建物の内装材や家具等に用いてもよい。以下、この点について、具体的に説明する。
【0150】
建物の内装材や家具等には、ホルムアルデヒドを含む接着剤やバインダーを用いて製造されたものがあり、製品としてホルムアルデヒドを含むものがある。このような製品からは、ホルムアルデヒドが放出されるため、放出されたホルムアルデヒドが室内で滞留し、人や動物に対して健康被害を及ぼすことが問題となっている。そこで、ホルムアルデヒドを除去する除去剤の開発が進められている。
このような除去剤としては、例えば、ホルムアルデヒドと反応して、ホルムアルデヒドを別の化合物に変換することが可能なホルムアルデヒド反応剤を用いたものが知られている。このような除去剤で、対象となる製品を処理することにより、ホルムアルデヒドが除去可能であるとされている。そして、ホルムアルデヒド反応剤としては、ヒドラジド化合物(特許文献8参照)等が知られている。
【0151】
また、目的とする効果を示す有効成分を用いて、その使用量を大幅に増大させることなく、その効果を長期間持続させるために、この有効成分を膜形成成分によって形成されたマイクロカプセルに内包させて、マイクロカプセル化する手法が採用されることがある。有効成分はマイクロカプセルの内部に内包されることで、経時と共に徐々にマイクロカプセルの外部に放出される(徐放性を示す)ようになり、有効成分の効果が長期に渡って持続するようになる。このようなマイクロカプセルの技術は、特に医薬、農薬等の分野で盛んに検討されている。ホルムアルデヒド反応剤も、マイクロカプセルに内包させて、マイクロカプセル化することで、ホルムアルデヒドの除去効果が長期に渡って持続可能となるとして、ホルムアルデヒド反応剤を内包したマイクロカプセルが提案されている(特許文献9参照)。
【0152】
しかし、特許文献8で開示されているような、ホルムアルデヒド反応剤を用いた従来の除去剤では、ホルムアルデヒドの除去効果を長期に渡って持続させるという長期持続性の点において不十分なものであり、結果的にホルムアルデヒド反応剤の使用量が多量になってしまうという問題点があった。また、特許文献9で開示されているようなホルムアルデヒド反応剤を内包したマイクロカプセルは、液状環境下ではホルムアルデヒド反応剤の徐放性を長期間維持できるが、乾燥状態でのマイクロカプセル内包のホルムアルデヒド反応剤の徐放性維持は難しいと考えられる。
【0153】
本実施形態はかかる事情を鑑みてなされたものである。以下、ホルムアルデヒドの除去効果が長期間継続可能であり、且つセルロースナノファイバーの特性を維持しつつ、取り扱いが容易な新たな複合粒子、その複合粒子の製造方法、その複合粒子を含んだ乾燥粉体及びその複合粒子を含んだ壁紙について説明する。
【0154】
<微細化セルロース/ポリマー複合粒子>
まず、本発明の第2実施形態に係る微細化セルロース1とコア粒子3とを含む複合粒子4について説明する。本実施形態に係る複合粒子4は、第1実施形態に係る複合粒子4と同様に、微細化セルロース1を用いたO/W型ピッカリングエマルションと、エマルション内部の重合性モノマーを重合することで得られる複合粒子である。
複合粒子4は、少なくとも一種類のコア粒子3を含み、コア粒子3の表面に、微細化セルロース1により構成された被覆層2を有し、コア粒子3と微細化セルロース1とが結合して不可分の状態にある複合粒子である。より詳しくは、複合粒子4は、ホルムアルデヒド反応剤を含んだ少なくとも一種類のコア粒子3と、コア粒子3の表面の少なくとも一部を覆う微細化セルロース1とを有し、ホルムアルデヒド反応剤を含んだコア粒子3と微細化セルロース1とが不可分の状態にある。
【0155】
本実施形態に係る複合粒子4は、第1実施形態に係る複合粒子4と同様にして形成することができる。例えば、
図2に示すように、分散液6に分散した重合性モノマー液滴5Aの界面に微細化セルロース1が吸着することによって、O/W型ピッカリングエマルションが安定化し、安定化状態を維持したままエマルション内部のモノマーを重合することによって、エマルションを鋳型とした複合粒子4が作成される。
なお、その他の構成等については第1実施形態と同じである。そのため、ここではその説明を省略する。
【0156】
<複合粒子4の製造方法c>
次に、本実施形態の複合粒子4の製造方法の一例について説明する。本実施形態に係る複合粒子4の製造方法は、セルロース原料を溶媒中で解繊して微細化セルロース1の分散液を得る工程(c1工程)と、c1工程で得た微細化セルロース1の分散液中においてホルムアルデヒド反応剤と重合性モノマーとを含む重合性モノマー液滴5Aの表面の少なくとも一部を微細化セルロース1で覆い、重合性モノマー液滴5Aをエマルションとして安定化させる工程(c2工程)と、重合性モノマー液滴5Aの表面の少なくとも一部が微細化セルロース1で覆われた状態で、重合性モノマー液滴5Aを重合してコア粒子3とすることで、コア粒子3の表面の少なくとも一部を微細化セルロース1で覆い、かつコア粒子3と微細化セルロース1とを不可分の状態にする工程(c3工程)と、を有する複合粒子4の製造方法である。このよう、本実施形態に係る複合粒子4の製造方法cは、上述した第1実施形態に係る複合粒子4の製造方法aとほぼ同じである。
【0157】
以下に、各工程について、詳細に説明する。
(c1工程)
本実施形態に係るc1工程は、上述した第1実施形態に係るa1工程と同じである。そのため、ここではその説明を省略する。
【0158】
(c2工程)
c2工程は、微細化セルロース1の分散液中においてホルムアルデヒド反応剤を混合させた重合性モノマー液滴5Aの表面の少なくとも一部を微細化セルロース1で被覆して、重合性モノマー液滴5Aをエマルションとして安定化させる工程である。
具体的にはc1工程で得られた微細化セルロース分散液にホルムアルデヒド反応剤を混合させた重合性モノマーを添加し、さらに重合性モノマーを微細化セルロース分散液中に液滴として分散させ、さらに重合性モノマー液滴5Aの表面の少なくとも一部を微細化セルロース1によって被覆し、微細化セルロース1によって安定化されたO/W型エマルションを作製する工程である。
本実施形態に係るO/W型エマルションを作製する方法は、上述した第1実施形態に係るO/W型エマルションを作製する方法と同じである。そのため、ここではその説明を省略する。
【0159】
O/W型エマルション構造は、例えば、光学顕微鏡観察により確認することができる。O/W型エマルションの粒径サイズは特に限定されないが、通常0.1μm~1000μm程度である。
O/W型エマルション構造において、重合性モノマー液滴5Aの表層に形成された微細化セルロース層(被覆層)2の厚みは特に限定されないが、通常3nm~1000nm程度である。微細化セルロース層(被覆層)2の厚みは、例えばクライオTEMを用いて計測することができる。
なお、c2工程で用いることができる重合性モノマーの種類は、上述した第1実施形態に係るa2工程で用いることができる重合性モノマーの種類と同じである。そのため、ここではその説明を省略する。
【0160】
ホルムアルデヒド反応剤としては、次のものが利用可能である。
ホルムアルデヒド反応剤は、ホルムアルデヒドとの反応性を有し、かつアミノ基及びアミノ基塩形成基の少なくとも一方を有しないものである。なお、ここで言う「ホルムアルデヒドとの反応性を有する」とは、ホルムアルデヒドと反応して、ホルムアルデヒドを別の化合物に変換する能力を有することを意味する。すなわち、前述のホルムアルデヒド反応剤は、ホルムアルデヒドとの反応性を有する基を含む。本実施形態の微細化セルロース1とホルムアルデヒド反応剤含有コア粒子3とを含む複合粒子4により、ホルムアルデヒドは、ホルムアルデヒド反応剤との反応によって、別の化合物への変換という形で除去される。
【0161】
ホルムアルデヒド反応剤は、有機化合物であることが好ましく、このようなホルムアルデヒド反応剤としては、例えば、式「-NH-」で表される基(以下、「「-NH-」基」と略記することがある。)及び式「-NH-」で表される基が塩を形成している基(以下、「「-NH-」塩形成基」と略記することがある。)からなる群から選択される1種又は2種以上を有する化合物が挙げられる。ホルムアルデヒド反応剤において、「-NH-」基は、ホルムアルデヒドとの反応性を示し、「-NH-」塩形成基はそれ自体が、又は「-NH-」基となってこの「-NH-」基が、ホルムアルデヒドとの反応性を示すと推測される。
【0162】
すなわち、好ましいホルムアルデヒド反応剤としては、例えば、式「-C(=O)-NH-」で表される基(アミド結合、以下、「「-C(=O)-NH-」基」と略記することがある)、式「-NH-C(=O)-NH-」で表される基(以下、「「-NH-C(=O)-NH-」基」と略記することがある。)、式「-C(=O)-NH-」で表される基が塩を形成している基(以下、「「-C(=O)-NH-」塩形成基」と略記することがある。)、式「-NH-C(=O)-NH-」で表される基が塩を形成している基(以下、「「-NH-C(=O)-NH-」塩形成基」と略記することがある。)、式「=N-NH-」で表される基(以下、「「=N-NH-」基」と略記することがある。)、式「-HN-N(-)-NH-」で表される基(以下、「「-HN-N(-)-NH-」基」と略記することがある。)、式「=N-NH-」で表される基が塩を形成している基(以下、「「=N-NH-」塩形成基」と略記することがある。)及び式「-HN-N(-)-NH-」で表される基が塩を形成している基(以下、「「-HN-N(-)-NH-」塩形成基」と略記することがある。)からなる群から選択される1種又は2種以上を有するもの、が挙げられる。ここで、例えば、「-HN-N(-)-NH-」基とは、1個の窒素原子に、2個の「-NH-」基の窒素原子と、さらにもう1個の基と、が単結合で結合しているものを意味する。
【0163】
なお、「-NH-C(=O)-NH-」塩形成基及び「-HN-N(-)-NH-」塩形成基において、「-NH-」塩形成基の数は1個でもよいし、2個以上でもよい。
環状構造を有するホルムアルデヒド反応剤で好ましいものとしては、例えば、「-NH-」基及び「-NH-」塩形成基からなる群から選択される1種又は2種以上が、環状構造の環骨格を形成しているものが挙げられ、「-C(=O)-NH-」基、「-NH-C(=O)-NH-」基、「-C(=O)-NH-」塩形成基、「-NH-C(=O)-NH-」塩形成基、「=N-NH-」基、「-HN-N(-)-NH-」基、「=N-NH-」塩形成基及び「-HN-N(-)-NH-」塩形成基からなる群から選択される1種又は2種以上が、環状構造の環骨格を形成しているホルムアルデヒド反応剤がより好ましい。
【0164】
ホルムアルデヒド反応剤が環状構造を有する場合、その環骨格の環員数、すなわち、環骨格を形成している原子の数(個)は、単環状である場合には、好ましくは5~7、より好ましくは5又は6であり、多環状である場合には、好ましくは8~10である。
特に好ましいホルムアルデヒド反応剤としては、例えば、ヒダントイン及びその塩、2-イミダゾリジノン及びその塩、5-ピラゾロン及びその塩、3-ピラゾロン及びその塩、1,2,4-トリアゾール-3-オン及びその塩、フタルイミド及びその塩、グリコールウリル及びその塩、ピラゾール及びその塩、1,2,3-トリアゾール及びその塩、1,2,4-トリアゾール及びその塩、並びに1,2,3-ベンゾトリアゾール及びその塩等が挙げられる。なお、前述のヒダントイン、2-イミダゾリジノン、5-ピラゾロン、3-ピラゾロン、1,2,4-トリアゾール-3-オン、フタルイミド、グリコールウリル、ピラゾール、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、1,2,3-ベンゾトリアゾールは、それぞれ置換基を有していてもよい。
【0165】
ヒダントイン、2-イミダゾリジノン、5-ピラゾロン、3-ピラゾロン、1,2,4-トリアゾール-3-オン、フタルイミド、グリコールウリル、ピラゾール、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール及び1,2,3-ベンゾトリアゾールの構造を以下に示す。
ヒダントイン、2-イミダゾリジノン、5-ピラゾロン、3-ピラゾロン、1,2,4-トリアゾール-3-オン、ピラゾール、1,2,3-トリアゾール及び1,2,4-トリアゾールはいずれも、環員数が5の化合物である。フタルイミド及び1,2,3-ベンゾトリアゾールはいずれも、環員数が9の化合物である。グリコールウリルは環員数が8の化合物である。
なお、ここに示す化合物は、ホルムアルデヒド反応剤のごく一例に過ぎない。
【0166】
c2工程において用いることができる微細化セルロース繊維分散液とホルムアルデヒド反応剤を混合させた重合性モノマーの重量比については特に限定されないが、例えば、微細化セルロース繊維100質量部に対し、重合性モノマーが1質量部以上50質量部以下であることが好ましい。重合性モノマーが1質量部未満となると複合粒子4の収量が低下する傾向があるため好ましくなく、50質量部を超えると重合性モノマー液滴5Aを微細化セルロース1で均一に被覆することが困難となる傾向があり好ましくない。
また、本実施形態に係るc2工程では、上述の第1実施形態に係るa2工程と同様に、重合性モノマーには予め重合開始剤が含まれていてもよい。なお、本実施形態に係るc2工程において添加可能な重合開始剤等は、第1実施形態に係るa2工程で説明した重合開始剤等と同じである。そのため、ここではその説明を省略する。
【0167】
(c3工程)
c3工程は、重合性モノマー液滴5Aの表面の少なくとも一部が微細化セルロース1で被覆された状態で、重合性モノマー液滴5Aを重合してコア粒子3を形成することで、微細化セルロース1でコア粒子3の表面の少なくとも一部が被覆され、かつコア粒子3と微細化セルロース1とが不可分の状態にある複合粒子4を得る工程である。
重合性モノマーを重合する方法については特に限定されず、用いた重合性モノマーの種類および重合開始剤の種類によって適宜選択可能であるが、例えば懸濁重合法が挙げられる。
【0168】
具体的な懸濁重合の方法についても特に限定されず、公知の方法を用いて実施することができる。例えばc2工程で作製された、重合開始剤を含む重合性モノマー液滴5Aが微細化セルロース1によって被覆され安定化したO/W型エマルションを攪拌しながら加熱することによって実施することができる。攪拌の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができ、具体的にはディスパーや攪拌子を用いることができる。また、攪拌せずに加熱処理のみでもよい。また、加熱時の温度条件については重合性モノマーの種類および重合開始剤の種類によって適宜設定することが可能であるが、懸濁液の温度は20度以上150度以下が好ましい。加熱時の温度が20度未満であると重合の反応速度が低下する傾向があるため好ましくなく、150度を超えると微細化セルロース1が変性する可能性があるため好ましくない。重合反応に供する時間は重合性モノマーの種類および重合開始剤の種類によって適宜設定することが可能であるが、通常1時間~24時間程度である。また、重合反応は電磁波の一種である紫外線照射処理によって実施してもよい。また、電磁波以外にも電子線などの粒子線を用いても良い。
【0169】
上述の工程を経て、コア粒子3が微細化セルロース1によって被覆された真球状の複合粒子4を作製することができる。
なお、上記方法により作製した複合粒子4の回収・精製方法は、上述した第1実施形態に係るa4工程で説明した回収・精製方法と同じである。そのため、ここではその説明を省略する。
【0170】
(第2実施形態の効果)
本実施形態に係る複合粒子4は、複合粒子4の表面の微細化セルロース1に由来した、生体親和性が高く溶媒中でも凝集することない良好な分散安定性を有する新規な複合粒子である。
また、本実施形態に係る複合粒子4を含む乾燥固形物は肌理細やかな粉体として得られ、粒子同士の凝集がない。このため、乾燥粉体として得られた複合粒子4を再び溶媒に再分散することも容易であり、再分散後も複合粒子4の表面に結合された微細化セルロース1の被覆層2に由来した分散安定性を示す。
また、本実施形態に係る複合粒子4の製造方法によれば、環境への負荷が低く、簡便な方法で提供することが可能な新規な複合粒子4の製造方法を提供することができる。
【0171】
また、本実施形態に係る微細化セルロース1の複合体を含む乾燥固形物によれば、乾燥固形物を溶媒に再分散可能な形で提供することができる。
また、本実施形態に係る複合粒子4によれば、溶媒をほとんど除去することが可能なため、輸送費の削減、腐敗リスクの低減、添加剤としての添加効率の向上、疎水性樹脂への混練効率向上といった効果が期待できる。
また、本実施形態に係る複合粒子4によれば、コア粒子3であるホルムアルデヒド反応剤混合ポリマーの粒子を微細化セルロース1であるセルロースナノファイバーにて被覆しているため、雰囲気中のホルムアルデヒドが微細化セルロース1であるセルロースナノファイバーを通じて徐々に反応剤に接触するため、ホルムアルデヒドの除去効果がより長期間継続して得られる効果が期待できる。
【0172】
本実施形態に係る複合粒子4によるホルムアルデヒドなどの分解機構の一つとして、以下の機構が考えられる。複合粒子4は、微細化セルロース1がコア粒子3と不可分な状態でコア粒子3の表面を覆っていることで、雰囲気中のホルムアルデヒドなどが微細化セルロース1を通じてコア粒子3の表面又は内部に移動し得る。こうして移動した雰囲気中のホルムアルデヒドなどがコア粒子3内に包含されたホルムアルデヒド反応剤(機能性成分)と反応するためホルムアルデヒドが無害化されると推察される。
以上、本発明の第2実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。また、上述の第2実施形態および変形例において示した構成要素は適宜に組み合わせて構成することが可能である。
【0173】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態について説明する。以降の説明において、既に説明したものと共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0174】
<壁紙>
本実施形態に係る壁紙9は、本発明の第2実施形態に係る複合粒子4を含む壁紙である。
壁紙9の構成は、複合粒子4を含むシート状の構造物であれば特に限定されないが、最表面に複合粒子4が露出しているか、あるいは、複合粒子4の表面が湿度を透過する材料で覆われていることが好ましい。壁紙9の構成の例としては、
図8に示す壁紙9のように、基材8の上部に複合粒子4を含む機能層7を設けた壁紙である。
壁紙9の作製方法は、基材8等に複合粒子4を含む分散液を塗布して作製してもよく、複合粒子4を含む壁紙用組成物を成形して作製してもよい。複合粒子4を含む分散液を塗布して壁紙9を作製する場合、機能層7は、前述の複合粒子4を含む分散液を基材8に塗布し、分散液中の溶媒を加熱等により除去することで得られる。
【0175】
複合粒子4を含む分散液は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、複合粒子4以外の材料を含有してもよい。上記材料としては特に限定されず、壁紙9の用途等に応じて、公知の添加剤のなかから適宜選択できる。具体的には、アルコキシシラン類の縮合物等の無機バインダー、アクリル系樹脂や塩化ビニル系樹脂等の有機バインダー、調湿剤、無機層状化合物、無機針状鉱物、消泡剤、無機系粒子、有機系粒子、潤滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、安定化剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、架橋剤、磁性体、医薬品、農薬、香料、接着剤、酵素、顔料、染料、消臭剤、金属、金属酸化物、無機酸化物等が挙げられる。
【0176】
基材8の材料は、例えば、不織布、メッシュ、紙、パルプ、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート共重合体(PETG)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ガラス、およびシリコンなどを含んでもよい。さらに、基材8に、例えば、インジウム-スズ酸化物(ITO)やケイ素酸化物(SiOx)による表面修飾を施してもよいが、これらに限られるものではない。基材8は、透明、不透明または反射性であってもよい。また、基材8は、壁紙9の使用目的に合わせて、黒色、白色などの任意の色を有することができる。さらに、基材8は、光沢を有してもよいし、光沢を持たなくてもよい。また、基材8は省略してもよい。
【0177】
基材8等に複合粒子4を含む分散液を塗布する手段は、例えば、刷毛塗り、筆塗り、鏝塗り、バーコーター、ナイフコーター、ドクターブレード、スクリーン印刷、スプレー塗布、スピンコーター、アプリケーター、ロールコーター、フローコーター、遠心コーター、超音波コーター、(マイクロ)グラビアコーター、ディップコート、フレキソ印刷、ポッティング、すきこみ処理等の手法を用いることができ、他の基材、例えば転写基材上に塗布した後に転写してもよい。また、複合粒子4を含む分散液の塗布は、一回のみならず、複数回行ってもよい。複合粒子4を含む分散液に溶媒が含まれる場合は、溶媒を除去しうる程度の温度で加熱乾燥等して、溶媒を除去する必要がある。
図8において、壁紙9は機能層7と基材8で構成されているが、必要に応じて、壁紙9の吸湿性を損なわない範囲で、機能層7とは別の機能層を設けることができる。機能層7とは別の機能層の役割としては、例えば、機能層7が傷つくことを防ぐことや、機能層7が汚れることを防ぐことが挙げられる。
【0178】
(第3実施形態の効果)
本実施形態に係る壁紙9によれば、第2実施形態と同様に、微細化セルロース1と親和性の高い化学物質と反応できる。特に、本実施形態に係る壁紙9によれば、複合粒子4とホルムアルデヒドとが反応し、雰囲気中からホルムアルデヒドを除去できる。
以上、本発明の第3実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。また、上述の第1~3の各実施形態において示した構成要素は適宜に組み合わせて構成することが可能である。
【0179】
[第2実施例]
以下、本発明を第2実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の各例において、「%」は、特に断りのない限り、質量%(w/w%)を示す。
【0180】
<実施例2-1>
(c1工程:微細化セルロース分散液を得る工程)
(木材セルロースのTEMPO酸化)
針葉樹クラフトパルプ70gを蒸留水3500gに懸濁し、蒸留水350gにTEMPOを0.7g、臭化ナトリウムを7g溶解させた溶液を加え、20℃まで冷却した。ここに2mol/L、密度1.15g/mLの次亜塩素酸ナトリウム水溶液450gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。系内の温度は常に20℃に保ち、反応中のpHの低下は0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加することでpH10に保ち続けた。セルロースの重量に対して、水酸化ナトリウムの添加量の合計が3.50mmol/gに達した時点で、約100mLのエタノールを添加し反応を停止させた。その後、ガラスフィルターを用いて蒸留水によるろ過洗浄を繰り返し、酸化パルプ(酸化セルロース)を得た。
【0181】
(酸化パルプのカルボキシ基量測定)
上記TEMPO酸化で得た酸化パルプ及び再酸化パルプを固形分重量で0.1g量りとり、1%濃度で水に分散させ、塩酸を加えてpHを2.5とした。その後0.5M水酸化ナトリウム水溶液を用いた電導度滴定法により、カルボキシ基量(mmol/g)を求めた。結果は1.6mmol/gであった。
【0182】
(酸化パルプの解繊処理)
上記TEMPO酸化で得た酸化パルプ1gを99gの蒸留水に分散させ、ジューサーミキサーで30分間微細化処理し、CSNF濃度1%のCSNF水分散液を得た。CSNF分散液を光路長1cmの石英セルに入れ、分光光度計(島津製作所社製、「UV-3600」)を用いて分光透過スペクトルの測定を行った結果を
図4に示す。
図4から明らかなように、CSNF水分散液は高い透明性を示した。また、CSNF水分散液に含まれるCSNFの数平均短軸径は3nm、数平均長軸径は1110nmであった。さらに、レオメーターを用いて定常粘弾性測定を行った結果を
図5に示す。
図5から明らかなように、CSNF分散液はチキソトロピック性を示した。
【0183】
(c2工程:O/W型エマルションを作製する工程)
次に、重合性モノマーであるジビニルベンゼン(以下、DVBとも称する。)10gに対し、重合開始剤である2、2-アゾビス-2、4-ジメチルバレロニトリル(以下、ADVNとも称する。)を1g溶解させた。さらにホルムアルデヒド反応剤である5,5-ジメチルヒダントイン(東京化成工業社製 1g)を添加し、溶解させた。DVB/ADVN/5,5-ジメチルヒダントイン混合溶液全量を、CSNF濃度1%のCSNF分散液40gに対し添加したところ、DVB/ADVN/5,5-ジメチルヒダントイン混合溶液とCSNF分散液はそれぞれ透明性の高い状態で2層に分離した。
次に、上記2層分離した状態の混合液における上層の液面から超音波ホモジナイザーのシャフトを挿入し、周波数24kHz、出力400Wの条件で、超音波ホモジナイザー処理を3分間行った。超音波ホモジナイザー処理後の混合液の外観は白濁した乳化液の様態であった。混合液一滴をスライドグラスに滴下し、カバーガラスで封入して光学顕微鏡で観察したところ、1~数μm程度のエマルション液滴が無数に生成し、O/W型エマルションとして分散安定化している様子が確認された。
【0184】
(c3工程:重合反応によりCNFで被覆された複合粒子4を得る工程)
O/W型エマルション分散液を、ウォーターバスを用いて70℃の湯浴中に供し、攪拌子で攪拌しながら8時間処理し、重合反応を実施した。8時間処理後に上記分散液を室温まで冷却した。重合反応の前後で分散液の外観に変化はなかった。得られた分散液に対し、遠心力75,000g(gは重力加速度)で5分間処理したところ、沈降物を得た。デカンテーションにより上澄みを除去して沈降物を回収し、さらに孔径0.1μmのPTFEメンブレンフィルターを用いて、純水とメタノールで繰り返し洗浄した。こうして得られた精製・回収物を1%濃度で再分散させ、粒度分布計(NANOTRAC UPA-EX150、日機装株式会社)を用いて粒径を評価したところ平均粒子径2.1μmであった。次に精製・回収物を風乾し、さらに室温25度にて真空乾燥処理を24時間実施したところ、肌理細やかな乾燥粉体(複合粒子4)を得た。
【0185】
(走査型電子顕微鏡による形状観察)
得られた乾燥粉体を走査型電子顕微鏡にて観察した結果を
図6及び
図7に示す。
図6から明らかなように、O/W型エマルション液滴を鋳型として重合反応を実施したことにより、エマルション液滴の形状に由来した、真球状の複合粒子4が無数に形成していることが確認された。さらに
図7(a)及び(b)に示されるように、その表面は幅数nmの微細化セルロース1によって均一に被覆されていることが確認された。また、ろ過洗浄によって繰り返し洗浄したにも拘らず、複合粒子4の表面は等しく均一に微細化セルロース1によって被覆されていることから、本実施形態の複合粒子4において、複合粒子4内部のモノマー(コア粒子3)と微細化セルロース1とは結合している可能性があり、コア粒子3と微細化セルロース1とが不可分の状態にあることが示された。
【0186】
(再分散性の評価)
複合粒子4の乾燥粉体を1%の濃度で純水に添加し、攪拌子で再分散させたところ、容易に再分散し、凝集も見られなかった。また、粒度分布計を用いて粒径を評価したところ、平均粒子径は乾燥前と同様に2.1μmとなり、粒度分布計のデータにおいても凝集を示すようなシグナルは存在しなかった。
以上のことから、複合粒子4はその表面が微細化セルロース1で被覆されているにもかかわらず、乾燥によって膜化することなく粉体として得られ、かつ再分散性も良好であることが示された。
【0187】
(ホルムアルデヒド除去の長期継続性評価)
複合粒子4のホルムアルデヒド除去効果を確認する方法として、ホルムアルデヒドで満たしたチャンバーを複数用意し、チャンバーA内に複合粒子4を含む分散液を塗工した壁紙9をいれ、所定の時間経過後にチャンバーA内のホルムアルデヒド濃度を測定した。1日目に使用した同じ壁紙9を新たなチャンバーBにいれ、所定の時間経過後にチャンバーB内のホルムアルデヒド濃度を測定し、効果を確認した。この作業を数日繰り返し、ホルムアルデヒド除去効果の継続した日数をカウントした。
【0188】
<実施例2-2>
実施例2-1においてDVBの代わりにジエチレングリコールジアクリレート(商品名FA-222A、日立化成、以下、FA-222Aとも称する。)を用いたこと以外は実施例2-1と同様の条件で、実施例2-2に係る複合粒子4を作製し、同様に各種評価を実施した。
<実施例2-3>
実施例2-1においてDVBの代わりにヘキサンジオールジアクリレート(商品名A-HD-N、新中村化学工業、以下、A-HD-Nとも称する。)を用いたこと以外は実施例2-1と同様の条件で、実施例2-3に係る複合粒子4を作製し、同様に各種評価を実施した。
【0189】
<実施例2-4>
実施例1において5,5-ジメチルヒダントイン(東京化成工業社製 1g)に代えて、2-イミダゾリジノン(東京化成工業社製、1g)を用いたこと以外は実施例2-1と同様の条件で、実施例2-4に係る複合粒子4を作製し、同様に各種評価を実施した。
<実施例2-5>
実施例2-1において5,5-ジメチルヒダントイン(東京化成工業社製 1g)に代えて、3-メチル-5-ピラゾロン(東京化成工業社製、1g)を用いたこと以外は実施例2-1と同様の条件で、実施例2-5に係る複合粒子4を作製し、同様に各種評価を実施した。
【0190】
<比較例2-1>
実施例2-1において、5,5-ジメチルヒダントイン(東京化成工業社製 1g)に代えて、アジピン酸ジヒドラジド(東京化成工業社製、1g)を用いたこと以外は実施例2-1と同様の条件で、比較例2-1に係る複合粒子の作製を試みた。
<比較例2-2>
実施例2-1において、5,5-ジメチルヒダントイン(東京化成工業社製 1g)に代えて、セバシン酸ジヒドラジド(東京化成工業社製、1g)を用いたこと以外は実施例2-1と同様の条件で、比較例2-2に係る複合粒子の作製を試みた。
<比較例2-3>
実施例2-1において、5,5-ジメチルヒダントイン(東京化成工業社製 1g)に代えて、アミノエチルエタノール(東京化成工業社製、1g)を用いたこと以外は実施例2-1と同様の条件で、比較例2-4に係る複合粒子の作製を試みた。
【0191】
以上の実施例2-1~2-5および比較例2-1~2-3を用いた評価結果については、以下の表5にまとめて掲載した。
なお、比較例2-1~2-3は、アミノ基またはアミノ基塩形成基を有するホルムアルデヒド反応剤を用いたことによりCNFの有するカルボン酸と反応してしまい、コア粒子3へのCNFによる被覆形成が阻害され、CNF被覆できなかった。
【0192】
【0193】
なお、表5において、c2工程の可否については、以下のように判定した。
○:O/W型エマルションの形成が可能
×:O/W型エマルションの形成が不可能
また、c3工程の可否については、以下のように判定した。
○:c3工程のエマルション鋳型とした真球状の粒子が得られた
×:上記粒子は得られなかった
また、再分散性に関しては、以下のように判定した。
○:複合粒子が溶媒中に再分散可能
×:複合粒子が溶媒中に再分散不可能
また、ホルムアルデヒド除去効果の長期継続性評価に関しては、以下のように判定した。
○:効果継続が10日以上
△:効果継続が2日以下
また、表5の比較例中の各セルにおける斜線表記は、各工程実施中に工程の遂行が不可能となり、その後の工程を実施していないことを示している。
【0194】
表5の実施例2-1~2-5の評価結果において明らかなように、モノマーの種類、ホルムアルデヒド反応剤として特定範囲のものを選択することで、セルロースナノファイバーに被覆されたホルムアルデヒド含有ポリマー粒子を作製可能であることが確認された。また、表5の実施例2-1~2-5の評価結果において明らかなように、モノマーの種類、ホルムアルデヒド反応剤として特定範囲のものを選択することで、ホルムアルデヒド除去効果が長期的に継続し得ることが確認された。なお、ホルムアルデヒド除去効果が2日以下であっても使用上の問題はない。
【0195】
一方、比較例2-1~2-3においては、c2工程におけるO/W型エマルションの形成は可能であったが、続くc3工程において重合反応を実施すると、エマルションが崩壊してしまい、O/W型エマルションを鋳型とした複合粒子を得ることができなかった。この理由としては定かではないが、セルロースナノファイバー表面のカルボキシ基とホルムアルデヒド反応剤とが反応してしまい、重合反応中にエマルションが崩壊したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0196】
本発明の徐放性複合粒子4は、微細化セルロース1(セルロースナノファイバー)のガスバリア性、親水性、耐熱性、高強度等の特性を微細化セルロースの特性により、機能性成分を紫外線、熱、酸素等から保護し、且つ優れた徐放性を有して長期間効果を発揮し、農薬や肥料等の機能性成分の使用回数を減らすことができ、経済性、環境への影響の観点から好ましい。
徐放性複合粒子4は機能性成分の原料をほとんど内包できるために経済的であり、廃棄による汚染も少ない。また、微細化セルロース1は生分解性ポリマーであるセルロースから構成された繊維状セルロースであり、コア粒子3に含まれるポリマーに生分解性ポリマーを使用することにより、農薬や肥料等として使用する際に分解し、安全であり、環境汚染を抑制できる。
【符号の説明】
【0197】
1 微細化セルロース(セルロースナノファイバー)
2 被覆層(微細化セルロース層)
3 コア粒子(ポリマー+機能性成分)
4 複合粒子
5 液滴
5A 液滴(重合性モノマー液滴)(モノマー+機能性成分)
5B 液滴(ポリマー液滴)(ポリマー+機能性成分+有機溶媒)
6 分散液(水)
7 機能層
8 基材
9 壁紙