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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】液晶配向剤及び液晶素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20231226BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20231226BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20231226BHJP
   C08K 5/06 20060101ALI20231226BHJP
   C08K 5/1535 20060101ALI20231226BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20231226BHJP
   C08G 77/38 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
C08L101/00
C08K5/05
C08K5/06
C08K5/1535
C08G73/10
C08G77/38
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020566104
(86)(22)【出願日】2019-10-10
(86)【国際出願番号】 JP2019040133
(87)【国際公開番号】W WO2020148953
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2022-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2019006186
(32)【優先日】2019-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】平野 哲
(72)【発明者】
【氏名】中西 恵
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/165355(WO,A1)
【文献】特開2012-180483(JP,A)
【文献】特開平09-265096(JP,A)
【文献】特開2002-322278(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0037713(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
G02F 1/13
C08K 5/13
C08K 5/151
C08L 202/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体成分と、
下記式(1-2)で表される化合物である化合物[A]と、
ブチルセロソルブ、ダイアセトンアルコール及びジエチレングリコールジエチルエーテルの少なくともいずれかと、
を含有し、
前記化合物[A]の含有割合は、液晶配向剤に含有される溶剤の全量に対して10質量%以上である、液晶配向剤。
【化1】
(式(1-2)中、mは0~2の整数である。Rは炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のヒドロキシアルキル基又は炭素数1~3のアルコキシ基であり、yは0である。)
【請求項2】
前記重合体成分として、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン、ポリアミド、及び重合性不飽和結合を有するモノマーに由来する構造単位を有する重合体よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
液晶配向膜を備える液晶素子の製造方法であって、
請求項1又は2に記載の液晶配向剤を用いて前記液晶配向膜を形成する、液晶素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2019年1月17日に出願された日本特許出願番号2019-6186号に基づくもので、ここにその記載内容を援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、液晶配向剤及び液晶素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
液晶素子は、液晶層中の液晶分子を一定の方向に配向させる機能を有する液晶配向膜を具備している。液晶配向膜は一般に、重合体成分が有機溶媒に溶解されてなる液晶配向剤を基板表面に塗布し、好ましくは加熱することによって基板上に形成される。液晶配向剤の溶剤成分としては、重合体成分の溶解性が高い溶媒(良溶媒)として、N-メチル-2-ピロリドンやγ-ブチロラクトン等が一般に使用されている。また、これらの良溶媒に、ブチルセロソルブ等といった、重合体成分の溶解性が低い溶媒(貧溶媒)を混合して使用することにより基板に対する濡れ広がり性を高めることが行われている(例えば、特許文献1や特許文献2参照)。
【0004】
近年、大型のラインを使用して基板を大型化することにより、液晶表示装置の大型化に対応させたり、あるいは1枚の基板から複数枚のパネルを取ることによって製造工程の時間の削減及びコストの低減を図ったりすることが行われている。その一方で、基板を大型化すると液晶配向剤の塗布領域が大面積となるため、膜質の均一性を塗布領域全体に亘って確保することが困難になる。こうした塗布性の問題を解消するべく近年では、大型液晶パネルの製造工程においてインクジェット印刷法による塗布方法が導入されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-198975号公報
【文献】特開2016-206645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
N-メチル-2-ピロリドンやγ-ブチロラクトンは、液晶配向剤の重合体成分の溶解性に優れているため、大型液晶パネルの製造に際しインクジェット印刷法により液晶配向剤を基板上に塗布した場合に、液晶配向剤の塗布ムラの低減を図ることが可能である。その一方で、N-メチル-2-ピロリドンやγ-ブチロラクトンはインクジェットヘッドの劣化を招きやすく、インクジェットヘッドの交換頻度が高くなりやすい。特に近年では、表示パネルの狭額縁化が求められており、これに伴いインクジェットヘッドのノズル径がより小さくなっている。ノズル径がより小さくなると吐出マージンが狭くなるため、インクジェットヘッドの劣化をより引き起こしやすくなることが懸念される。
【0007】
また、液晶素子の高性能化に対する要求はさらに高まっている。こうした要求から、液晶配向剤の基板に対する塗布性を高めることにより製品歩留まりの低下を抑制するとともに、電圧印加を解除した場合にも残像が生じにくく高品位な液晶素子が求められている。
【0008】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、基板に対する塗布性が良好であり、インクジェットヘッドを劣化させにくく、しかも残像特性に優れた液晶素子を得ることができる液晶配向剤を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討し、芳香環の環部分に結合する水素原子が炭素数1~3のヒドロキシアルキル基又はアルコキシ基で置換された化合物を液晶配向剤に含有させることにより、上記課題を解決できることを見出した。具体的には、本開示によれば以下の手段が提供される。
[1] 重合体成分と、下記式(1)で表される化合物[A]とを含有する、液晶配向剤。
(R)x-Ar-R …(1)
(式(1)中、Arは(x+1)価の芳香環基であり、Rは炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のヒドロキシアルキル基又は炭素数1~3のアルコキシ基であり、xは0又は1である。Rは炭素数1~3のヒドロキシアルキル基又は炭素数1~3のアルコキシ基である。)
[2] 液晶配向膜を備える液晶素子の製造方法であって、上記[1]の液晶配向剤を用いて前記液晶配向膜を形成する、液晶素子の製造方法。
[3] 上記[1]の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
[4] 上記[3]の液晶配向膜を備える液晶素子。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、基板に対する塗布性が良好であるとともに、インクジェットヘッドを劣化させにくい液晶配向剤とすることができる。また、残像特性に優れた液晶素子を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪液晶配向剤≫
本開示の液晶配向剤は、重合体成分と溶剤成分とを含有する。以下に、液晶配向剤に含まれる各成分、及び必要に応じて任意に配合されるその他の成分について説明する。
【0012】
≪重合体成分≫
液晶配向剤に含有される重合体成分としては、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾオキサゾール前駆体、ポリベンゾオキサゾール、セルロース誘導体、ポリアセタール、重合性不飽和結合を有するモノマーに由来する構造単位を有する重合体(以下、「重合体(Q)」ともいう。)等を主骨格とする重合体が挙げられる。液晶素子の性能を十分に担保する等の観点から、重合体成分は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン、ポリアミド、及び重合体(Q)よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0013】
<ポリアミック酸>
ポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを反応させることにより得ることができる。
(テトラカルボン酸二無水物)
ポリアミック酸の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、例えば脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。これらの具体例としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物などを;
脂環式テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-8-メチル-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、3-オキサビシクロ[3.2.1]オクタン-2,4-ジオン-6-スピロ-3’-(テトラヒドロフラン-2’,5’-ジオン)、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物、4,9-ジオキサトリシクロ[5.3.1.02,6]ウンデカン-3,5,8,10-テトラオン、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物などを;芳香族テトラカルボン酸二無水物として、例えばピロメリット酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメート、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、4,4’-カルボニルジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’-ジクロロ-3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’-ジメチル-3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物などを;それぞれ挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。なお、上記テトラカルボン酸二無水物は、1種を単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0014】
(ジアミン化合物)
ポリアミック酸の合成に使用するジアミン化合物としては、例えば脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサンなどを挙げることができる。これらジアミンの具体例としては、脂肪族ジアミンとして、例えばメタキシリレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどを;脂環式ジアミンとして、例えば1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)などを;
芳香族ジアミンとして、例えば、ドデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5-ジアミノ安息香酸コレステニル、3,5-ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6-ビス(4-アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6-ビス(4-アミノフェノキシ)コレスタン、2,4-ジアミノ-N,N-ジアリルアニリン、4-(4’-トリフルオロメトキシベンゾイロキシ)シクロヘキシル-3,5-ジアミノベンゾエート、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ブチルシクロヘキサン、3,5-ジアミノ安息香酸=5ξ-コレスタン-3-イル、下記式(E-1)
【化1】
(式(E-1)中、XI及びXIIは、それぞれ独立に、単結合、-O-、*-COO-又は*-OCO-(ただし、「*」はXとの結合手を示す。)であり、Rは炭素数1~3のアルカンジイル基であり、RIIは単結合又は炭素数1~3のアルカンジイル基であり、aは0又は1であり、bは0~2の整数であり、cは1~20の整数であり、dは0又は1である。但し、a及びbが同時に0になることはない。)
で表される化合物、桂皮酸構造を側鎖に有するジアミンなどの側鎖型ジアミン:
【0015】
p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート、4,4’-ジアミノアゾベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ブタン、1,6-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘキサン、1,7-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘプタン、1,10-ビス(4-アミノフェノキシ)デカン、1,2-ビス(4-アミノフェニル)エタン、1,5-ビス(4-アミノフェニル)ペンタン、1,6-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサン、1,4-ビス(4-アミノフェニルスルファニル)ブタン、ビス[2-(4-アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸、N,N-ビス(4-アミノフェニル)メチルアミン、2,6-ジアミノピリジン、1,4-ビス-(4-アミノフェニル)-ピペラジン、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)-ベンジジン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-(フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-[4,4’-プロパン-1,3-ジイルビス(ピペリジン-1,4-ジイル)]ジアニリン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、4,4’-ジアミノスチルベンゼン、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、1,3-ビス(4-アミノフェネチル)ウレア、1,3-ビス(4-アミノベンジル)ウレア、1,4-ビス(4-アミノフェニル)-ピペラジン、N-(4-アミノフェニルエチル)-N-メチルアミン、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)-N,N’-ジメチルベンジジン等の主鎖型ジアミンなどを;ジアミノオルガノシロキサンとして、例えば、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テトラメチルジシロキサンなどを;それぞれ挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のジアミンを用いることができる。
【0016】
(ポリアミック酸の合成)
ポリアミック酸は、上記のようなテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを、必要に応じて分子量調整剤とともに反応させることにより得ることができる。ポリアミック酸の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との使用割合は、ジアミン化合物のアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2~2当量となる割合が好ましい。分子量調整剤としては、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸などの酸一無水物、アニリン、シクロヘキシルアミン、n-ブチルアミンなどのモノアミン化合物、フェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネートなどのモノイソシアネート化合物等を挙げることができる。分子量調整剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましい。
【0017】
ポリアミック酸の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において行われる。このときの反応温度は-20℃~150℃が好ましく、反応時間は0.1~24時間が好ましい。
反応に使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素などを挙げることができる。特に好ましい有機溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド、m-クレゾール、キシレノール及びハロゲン化フェノールよりなる群から選択される1種以上を溶媒として使用するか、あるいはこれらの1種以上と、他の有機溶媒(例えばブチルセロソルブ、ジエチレングリコールジエチルエーテルなど)との混合物を使用することが好ましい。有機溶媒の使用量(a)は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計量(b)が、反応溶液の全量(a+b)に対して、0.1~50質量%になる量とすることが好ましい。ポリアミック酸を溶解してなる反応溶液はそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0018】
<ポリアミック酸エステル>
ポリアミック酸エステルは、例えば、[I]上記合成反応により得られたポリアミック酸とエステル化剤とを反応させる方法、[II]テトラカルボン酸ジエステルとジアミン化合物とを反応させる方法、[III]テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物とジアミン化合物とを反応させる方法、などによって得ることができる。液晶配向剤に含有させるポリアミック酸エステルは、アミック酸エステル構造のみを有していてもよく、アミック酸構造とアミック酸エステル構造とが併存する部分エステル化物であってもよい。なお、ポリアミック酸エステルを溶解してなる反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸エステルを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0019】
<ポリイミド>
ポリイミドは、例えば上記の如くして合成されたポリアミック酸を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。ポリイミドは、その前駆体であるポリアミック酸が有していたアミック酸構造のすべてを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造の一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造とイミド環構造とが併存する部分イミド化物であってもよい。ポリイミドは、そのイミド化率が20~99%であることが好ましく、30~90%であることがより好ましい。このイミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。ここで、イミド環の一部がイソイミド環であってもよい。
【0020】
ポリアミック酸の脱水閉環は、好ましくはポリアミック酸を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。この方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸のアミック酸構造の1モルに対して0.01~20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン等の3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01~10モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0~180℃である。反応時間は、好ましくは1.0~120時間である。ポリイミドを含有する反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、ポリイミドを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。ポリイミドは、ポリアミック酸エステルのイミド化により得ることもできる。
【0021】
<ポリオルガノシロキサン>
ポリオルガノシロキサンは、例えば加水分解性のシラン化合物を加水分解・縮合することにより得ることができる。当該シラン化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物等を挙げることができる。加水分解性シラン化合物は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。「(メタ)アクリロキシ」は、「アクリロキシ」及び「メタクリロキシ」を含む意味である。
【0022】
加水分解・縮合反応は、シラン化合物の1種又は2種以上と水とを、好ましくは適当な触媒及び有機溶媒の存在下で反応させることにより行う。反応に際し、水の使用割合は、シラン化合物(合計量)1モルに対して、好ましくは1~30モルである。使用する触媒としては、例えば酸、アルカリ金属化合物、有機塩基、チタン化合物、ジルコニウム化合物などを挙げることができる。触媒の使用量は、触媒の種類、温度などの反応条件などにより異なるが、例えばシラン化合物の合計量に対して0.01~3倍モルである。使用する有機溶媒としては、例えば炭化水素、ケトン、エステル、エーテル、アルコールなどが挙げられ、非水溶性又は難水溶性の有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒の使用割合は、反応に使用するシラン化合物の合計100質量部に対して、好ましくは10~10,000質量部である。上記反応は、油浴などにより加熱して実施することが好ましい。その際の加熱温度は130℃以下とすることが好ましく、加熱時間は0.5~12時間とすることが好ましい。反応終了後において、反応液から分取した有機溶媒層を、必要に応じて乾燥剤で乾燥した後、溶媒を除去することにより、目的とするポリオルガノシロキサンが得られる。なお、ポリオルガノシロキサンの合成方法は上記の加水分解・縮合反応に限らず、例えば加水分解性シラン化合物をシュウ酸及びアルコールの存在下で反応させる方法などにより行ってもよい。
【0023】
光配向性基やプレチルト角付与基等の機能性官能基を側鎖に有するポリオルガノシロキサンを液晶配向剤に含有させる場合には、例えば、原料の少なくとも一部にエポキシ基含有シラン化合物を用いた重合によりエポキシ基を側鎖に有するポリオルガノシロキサンを合成し、次いでエポキシ基含有のポリオルガノシロキサンと、機能性官能基を有するカルボン酸とを反応させることにより、目的とするポリオルガノシロキサンを得ることができる。あるいは、機能性官能基を有する加水分解性のシラン化合物をモノマーに用いた重合による方法を採用してもよい。
【0024】
<ポリアミド>
ポリアミドは、ジカルボン酸とジアミン化合物とを反応させる方法等によって得ることができる。ジカルボン酸は、塩化チオニル等の適当な塩素化剤を用いて酸クロリド化した後にジアミン化合物との反応に供することが好ましい。
【0025】
ポリアミドの合成に使用するジカルボン酸は特に制限されないが、例えばシュウ酸、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2-メチルアジピン酸、フマル酸等の脂肪族ジカルボン酸;シクロブタンジカルボン酸、1-シクロブテンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、2,5-ジメチルテレフタル酸、4-カルボキシ桂皮酸、3,3’-[4,4’-(メチレンジ-p-フェニレン)]ジプロピオン酸、4,4’-[4,4’-(オキシジ-p-フェニレン)]二酪酸等の芳香族ジカルボン酸;等が挙げられる。合成に使用するジアミン化合物としては、例えばポリアミック酸の説明で例示したジアミン化合物等が挙げられる。ジカルボン酸及びジアミン化合物は、それぞれ1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
ジカルボン酸とジアミン化合物との反応は、好ましくは塩基の存在下、有機溶媒中において行われる。このとき、ジカルボン酸とジアミン化合物との使用割合は、ジアミン化合物のアミノ基1当量に対して、ジカルボン酸のカルボキシル基が0.2~2当量となる割合が好ましい。反応温度は0℃~200℃とすることが好ましく、反応時間は0.5~48時間とすることが好ましい。有機溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン等を好ましく使用することができる。塩基としては、例えばピリジン、トリエチルアミン、N-エチル-N,N-ジイソプロピルアミン等の3級アミンを好ましく使用することができる。塩基の使用割合は、ジアミン化合物1モルに対して2~4モルとすることが好ましい。上記反応により得られる溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミドを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0027】
<重合体(Q)>
重合性不飽和結合を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、ビニルフェニル基、スチリル基、マレイミド基等を有する化合物が挙げられる。こうした化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸、α-エチルアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、ビニル安息香酸等の不飽和カルボン酸:(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸シクロアルキル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4-エポキシシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸3,4-エポキシブチル、アクリル酸4-ヒドロキシブチルグリシジルエーテル等の不飽和カルボン酸エステル:無水マレイン酸等の不飽和多価カルボン酸無水物:などの(メタ)アクリル系化合物;スチレン、メチルスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物;1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン等の共役ジエン化合物;N-メチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のマレイミド基含有化合物;などが挙げられる。なお、重合性不飽和結合を有するモノマーは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。本明細書において「(メタ)アクリル」は「アクリル」及び「メタクリル」を含むことを意味する。
【0028】
重合体(Q)は、重合性不飽和結合を有するモノマーを重合開始剤の存在下で重合することにより得ることができる。使用する重合開始剤としては、例えば2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物が好ましい。重合開始剤の使用割合は、反応に使用する全モノマー100質量部に対して、0.01~30質量部とすることが好ましい。上記重合反応は、好ましくは有機溶媒中で行われる。反応に使用する有機溶媒としては、例えばアルコール、エーテル、ケトン、アミド、エステル、炭化水素化合物などが挙げられ、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが好ましい。反応温度は30℃~120℃とすることが好ましく、反応時間は、1~36時間とすることが好ましい。有機溶媒の使用量(a)は、反応に使用するモノマーの合計量(b)が、反応溶液の全体量(a+b)に対して、0.1~60質量%になるような量にすることが好ましい。上記反応により得られる重合体溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれる重合体(Q)を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0029】
液晶配向剤の調製に使用する重合体は、後述する条件で調製及び測定した溶液粘度が10~800mPa・sであることが好ましく、15~500mPa・sであることがより好ましい。なお、上記溶液粘度(mPa・s)は、重合体の良溶媒(ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドの場合、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン等)を用いて調製した濃度10質量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0030】
重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、重合体の種類に応じて適宜選択することができるが、好ましくは1,000~500,000であり、より好ましくは2,000~300,000である。Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは7以下であり、より好ましくは5以下である。液晶配向剤の調製に使用する重合体は、1種でもよく又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0031】
液晶配向剤に含有される重合体成分は、液晶配向性や液晶との親和性、機械的強度の観点から、上記のうち、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、及びポリオルガノシロキサンよりなる群から選ばれる少なくとも一種を含むものであることが好ましい。また、重合体成分は、ポリアミック酸、ポリイミド、及びポリアミック酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも一種を主成分として含むことが特に好ましい。ここで、主成分とは、質量基準で最も含有量が多い成分であり、例えば含有量が50質量%以上の成分をいう。すなわち、重合体成分は、ポリアミック酸、ポリイミド、及びポリアミック酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも一種が、重合体成分の合計量に対して50質量%以上含むものであることが好ましく、60質量%以上含むものであることがより好ましく、80質量%以上含むものであることが更に好ましい。
【0032】
≪化合物[A]≫
本開示の液晶配向剤は、下記式(1)で表される化合物[A]を含有する。
(R)x-Ar-R …(1)
(式(1)中、Arは(x+1)価の芳香環基であり、Rは炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のヒドロキシアルキル基又は炭素数1~3のアルコキシ基であり、xは0又は1である。Rは炭素数1~3のヒドロキシアルキル基又は炭素数1~3のアルコキシ基である。)
化合物[A]を含有させることにより、重合体成分が溶剤成分に均一に溶解されて、基板に塗布した際の濡れ広がり性が良好であるとともに、樹脂部材(インクジェットヘッド等)の劣化を引き起こしにくい液晶配向剤とすることができる。
【0033】
上記式(1)において、Arの(x+1)価の芳香環基は、芳香環の環部分から(x+1)個の水素原子を取り除いた基である。当該芳香環は、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環を含む。芳香環の具体例としては、芳香族炭化水素環として、例えばベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等を;芳香族複素環として、例えばピロール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環等の窒素含有複素環、フラン環、オキサゾール環等の酸素含有複素環、チオール環、チアゾール環等の硫黄含有複素環等を、それぞれ挙げることができる。なお、上記のうち、オキサゾール環及びチアゾール環は窒素含有複素環でもある。Arとしては、これらのうち、ベンゼン環又はヘテロ5員環の環部分から(x+1)個の水素原子を取り除いた基であることが好ましく、ベンゼン環又はフラン環の環部分から(x+1)個の水素原子を取り除いた基であることが特に好ましい。
【0034】
上記式(1)中のRについて、炭素数1~3のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシエチル基、1-ヒドロキシプロピル基、2-ヒドロキシプロピル基、3-ヒドロキシプロピル基、2-ヒドロキシ-1-メチルエチル基が挙げられる。炭素数1~3のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基が挙げられる。Rは、好ましくは直鎖状である。
について、炭素数1~3のアルキル基は、直鎖状及び分岐状のいずれでもよいが、直鎖状であることが好ましい。Rが炭素数1~3のヒドロキシアルキル基又は炭素数1~3のアルコキシ基である場合の具体例については、上記Rの説明が適用される。Rは、好ましくは炭素数1~3のアルキル基であり、より好ましくはメチル基である。
xは0であることが好ましい。
【0035】
化合物[A]は、上記のうち、下記式(1-1)で表される化合物、下記式(1-2)で表される化合物、及び下記式(1-3)で表される化合物よりなる群から選ばれる少なくとも一種であることが特に好ましい。
【化2】
(式(1-1)~式(1-3)中、n及びrは、それぞれ独立に1~3の整数であり、mは0~2の整数である。Rは炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のヒドロキシアルキル基又は炭素数1~3のアルコキシ基であり、yは0又は1である。)
【0036】
上記式(1-1)~式(1-3)において、Rについては、上記Rの具体例及び好ましい例の説明が適用される。Rの結合位置は特に限定されないが、基「-(CH-OH」又は基「-O-(CH-CH」に対してオルト位であることが好ましい。yは0であることが好ましい。
【0037】
化合物[A]の好ましい具体例としては、上記式(1-1)で表される化合物として、下記式(1-1-1)~式(1-1-3)のそれぞれで表される化合物を;上記式(1-2)で表される化合物として、下記式(1-2-1)~式(1-2-4)のそれぞれで表される化合物を;上記式(1-3)で表される化合物として、下記式(1-3-1)~式(1-3-6)のそれぞれで表される化合物を、挙げることができる。
【化3】
【0038】
化合物[A]としては、上記式(1-1)~式(1-3)のそれぞれで表される化合物のうち、y=0である化合物が好ましい。これらの中でも、インクジェット塗布性により優れている点で、上記式(1-1-1)及び式(1-2-1)のそれぞれで表される化合物が好ましく、インクジェットヘッドをより劣化させにくい点で上記式(1-1-1)及び式(1-3-1)のそれぞれで表される化合物が好ましい。なお、化合物[A]としては、1種が単独で使用されてもよく、2種以上が組み合わせて使用されてもよい。
【0039】
化合物[A]の含有割合は、液晶配向剤に含有される重合体成分の合計量100質量部に対し、好ましくは100質量部以上であり、より好ましくは300質量部以上であり、さらに好ましくは600質量部以上である。また、化合物[A]の含有割合は、好ましくは2000質量部以下であり、より好ましくは1500質量部以下である。
【0040】
なお、化合物[A]は、液晶配向剤の重合体成分に対する溶解性に優れているため、重合体成分の良溶媒として一般に用いられているN-メチル-2-ピロリドン(NMP)の代替溶剤として有用である。この場合、液晶配向剤中におけるNMPの含有割合は、液晶配向剤の溶剤成分の全量に対して、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0041】
≪その他の成分≫
液晶配向剤は、必要に応じて、重合体成分及び化合物[A]とは異なる成分(以下、「その他の成分」ともいう。)を更に含有していてもよい。
【0042】
<溶剤[B]>
液晶配向剤は、液晶配向剤の濡れ広がり性を高める目的で、本開示の効果を損なわない範囲において、重合体成分及び化合物[A]と共に、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤、鎖状エステル系溶剤及びケトン系溶剤よりなる群から選ばれる少なくとも一種の溶剤(以下、「溶剤[B]」ともいう。)を更に含んでいてもよい。
【0043】
溶剤[B]の具体例としては、エーテル系溶剤として、例えばジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシ-1-ブタノール、テトラヒドロフラン、ジイソペンチルエーテル等を;
アルコール系溶剤として、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、トリエチレングリコール、ダイアセトンアルコール、3-メトキシ-3-メチルブタノール、ベンジルアルコール等を;鎖状エステル系溶剤として、例えば乳酸エチル、乳酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチル、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート等を;ケトン系溶剤として、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロペンタノン、3-メチルシクロヘキサノン、4-メチルシクロヘキサノン、ジイソブチルケトン等を、それぞれ挙げることができる。
【0044】
溶剤[B]としては、塗布性の改善効果をより高くできる点で、上記のうち、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤及びケトン系溶剤よりなる群から選ばれる少なくとも一種が好ましく、炭素数8以下のエーテル系溶剤、アルコール系溶剤及び環状のケトン系溶剤よりなる群から選ばれる少なくとも一種がより好ましい。具体的には、溶剤[B]は、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ダイアセトンアルコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシ-1-ブタノール及びシクロペンタノンよりなる群から選ばれる一種が特に好ましい。なお、溶剤[B]としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0045】
液晶配向剤は、その他の成分として、重合体成分の溶解性や液晶配向剤の濡れ広がり性をより高める目的で、溶剤[B]とは異なる溶剤(以下、「他の溶剤」ともいう。)を更に含んでいてもよい。他の溶剤としては、例えば、非プロトン性極性溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶剤、炭化水素系溶剤等が挙げられる。他の溶剤の具体例としては、非プロトン性極性溶媒として、例えばN-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ガンマブチロラクトン、プロピレンカーボネート、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ヘキシルオキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、イソプロポキシ-N-イソプロピル-プロピオンアミド、n-ブトキシ-N-イソプロピル-プロピオンアミド等を;ハロゲン化炭化水素系溶剤として、例えばジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、1,4-ジクロロブタン、トリクロロエタン、クロルベンゼン等を;炭化水素系溶剤として、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等を、それぞれ挙げることができる。上記のうち、他の溶剤としては、非プロトン性極性溶媒が好ましく、ガンマブチロラクトン、N-エチル-2-ピロリドン、プロピレンカーボネート、及び1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンよりなる群から選ばれる少なくとも一種であることがより好ましい。なお、他の溶剤としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0046】
化合物[A]の含有割合は、液晶配向剤の塗布性を高くしつつ、インクジェットヘッドの劣化を好適に抑制する観点から、液晶配向剤に含有される溶剤(化合物[A]、溶剤[B]及び他の溶剤)の全量に対し、10質量%以上とすることが好ましい。当該含有割合は、溶剤の全量に対し、より好ましくは15質量%以上であり、さらに好ましくは20質量%以上であり、特に好ましくは30質量%以上である。また、化合物[A]の含有割合は、液晶配向剤に含有される溶剤の全量に対し、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは90質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以下である。
【0047】
液晶配向剤が溶剤[B]を含有する場合、溶剤[B]の含有割合は、液晶配向剤に含有される溶剤の全量に対して、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上である。また、溶剤[B]の含有割合は、液晶配向剤の溶剤の全量に対し、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは85質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以下である。他の溶剤の含有割合は、液晶配向剤に含有される溶剤の全量に対して、80質量%以下とすることが好ましく、70質量%以下とすることがより好ましく、60質量%以下とすることがさらに好ましく、50質量%以下とすることが特に好ましい。
【0048】
液晶配向剤に含有させてもよいその他の成分としては、上記のほか、例えばエポキシ基含有化合物(例えば、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン等)、官能性シラン化合物(例えば、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等)、酸化防止剤、金属キレート化合物、硬化触媒、硬化促進剤、界面活性剤、充填剤、分散剤、光増感剤等の各種添加剤が挙げられる。これら添加剤の配合割合は、本開示の効果を損なわない範囲で、各化合物に応じて適宜選択することができる。
【0049】
液晶配向剤中の成分のうち溶剤以外の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合Dは、粘性、揮発性などを考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1~10質量%の範囲である。割合Dが1質量%未満である場合には、塗膜の膜厚が過小となって良好な液晶配向膜が得にくくなる。一方、割合Dが10質量%を超える場合には、塗膜の膜厚が過大となって良好な液晶配向膜が得にくく、また、液晶配向剤の粘性が増大して塗布性が低下する傾向にある。
【0050】
なお、化合物[A]を用いることにより、液晶配向剤の基板に対する塗布性を良好に保ちながらインクジェットヘッドの劣化を抑制する効果を、液晶素子の残像特性を良好に保ちつつ得ることができた理由は定かではないが、その一つの理由として、化合物[A]の化学構造に起因する、より具体的には、液晶配向剤を基板上に塗布した際に、化合物[A]の化学構造(上記式(1)で表される構造)に起因して液晶の配向がある程度制御されたことによることが推測される。ただし、この推測は本開示を限定するものではない。
【0051】
≪液晶配向膜及び液晶素子≫
本開示の液晶素子は、上記で説明した液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を具備する。液晶素子は種々の用途に有効に適用することができ、例えば、時計、携帯型ゲーム、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビ、インフォメーションディスプレイなどの各種表示装置や、調光フィルム、位相差フィルム等として用いることができる。液晶表示装置として用いる場合、液晶の動作モードは特に限定されず、例えばTN型、STN型、垂直配向型(VA-MVA型、VA-PVA型などを含む。)、IPS型、FFS型、OCB(Optically Compensated Bend)型など種々の動作モードに適用することができる。
【0052】
液晶素子の製造方法について、液晶表示素子を一例に挙げて説明する。液晶表示素子は、例えば以下の工程1~工程3を含む方法により製造することができる。工程1は、所望の動作モードによって使用基板が異なる。工程2及び工程3は各動作モード共通である。
【0053】
(工程1:塗膜の形成)
先ず、基板上に液晶配向剤を塗布し、好ましくは塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラス等のガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)等のプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板の一方の面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム-酸化スズ(In-SnO)からなるITO膜などを用いることができる。TN型、STN型又はVA型の液晶素子を製造する場合には、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板二枚を用いる。一方、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合には、櫛歯型にパターニングされた透明導電膜又は金属膜からなる電極が設けられている基板と、電極が設けられていない対向基板とを用いる。金属膜としては、例えばクロムなどの金属からなる膜を使用することができる。
【0054】
基板への液晶配向剤の塗布は、電極形成面上に、好ましくはオフセット印刷法、スピンコート法、ロールコーター法、フレキソ印刷法又はインクジェット印刷法により行う。特に、上記液晶配向剤は濡れ広がり性が良好であり、またインクジェットヘッドを構成する樹脂部材の劣化を抑制できる点で、インクジェット印刷法を採用した場合に優れた印刷性を発揮でき、製品歩留まりの低下を抑制でき、また性能が高い液晶配向膜を得ることができる点で好ましい。
【0055】
液晶配向剤を塗布した後、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止などの目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30~200℃であり、プレベーク時間は、好ましくは0.25~10分である。その後、溶剤を完全に除去し、必要に応じて、重合体が有するアミック酸構造を熱イミド化することを目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。焼成温度(ポストベーク温度)は、好ましくは80~300℃であり、ポストベーク時間は、好ましくは5~200分である。このようにして形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001~1μmである。基板上に液晶配向剤を塗布した後、有機溶媒を除去することによって、液晶配向膜又は液晶配向膜となる塗膜が形成される。
【0056】
(工程2:配向処理)
TN型、STN型、IPS型又はFFS型の液晶表示素子を製造する場合、上記工程1で形成した塗膜に液晶配向能を付与する処理(配向処理)を実施する。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。配向処理としては、例えばナイロン、レーヨン、コットンなどの繊維からなる布を巻き付けたロールで塗膜を一定方向に擦るラビング処理や、液晶配向剤を用いて基板上に形成した塗膜に光照射を行って塗膜に液晶配向能を付与する光配向処理等が挙げられる。一方、垂直配向型の液晶素子を製造する場合には、上記工程1で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用することができるが、該塗膜に対し配向処理(ラビング処理、光配向処理等)を施してもよい。垂直配向型の液晶表示素子に好適な液晶配向剤は、PSA(Polymer sustained alignment)型の液晶表示素子にも好適に用いることができる。
【0057】
(工程3:液晶セルの構築)
上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、対向配置した2枚の基板間に液晶を配置することにより液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば、(1)液晶配向膜が対向するように間隙(スペーサー)を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤を用いて貼り合わせ、基板表面及びシール剤により区画されたセルギャップ内に液晶を注入充填した後、注入孔を封止する方法、(2)液晶配向膜を形成した一方の基板上の所定の場所にシール剤を塗布し、さらに液晶配向膜面上の所定の数箇所に液晶を滴下した後、液晶配向膜が対向するように他方の基板を貼り合わせるとともに液晶を基板の全面に押し広げる方法(ODF方式)等が挙げられる。製造した液晶セルにつき、さらに、用いた液晶が等方相をとる温度まで加熱した後、室温まで徐冷することにより、液晶充填時の流動配向を除去することが望ましい。
【0058】
シール剤としては、例えば硬化剤及びスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂などを用いることができる。スペーサーとしては、フォトスペーサー、ビーズスペーサー等を用いることができる。液晶としては、ネマチック液晶及びスメクチック液晶を挙げることができ、その中でもネマチック液晶が好ましい。また、ネマチック液晶又はスメクチック液晶に、例えばコレステリック液晶、カイラル剤、強誘電性液晶などを添加して使用してもよい。PSA型の液晶表示素子を製造する場合には、一対の基板間に液晶とともに重合性モノマーを配置し、液晶セルの構築後に一対の電極間に電圧を印加した状態で光照射する処理を行う。
【0059】
続いて、必要に応じて液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせる。偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板、又はH膜そのものからなる偏光板が挙げられる。こうして液晶表示素子が得られる。
【実施例
【0060】
以下、実施例に基づき実施形態をより詳しく説明するが、以下の実施例によって本開示が限定的に解釈されるものではない。
【0061】
以下の例において、重合体の重量平均分子量Mw、重合体溶液中のポリイミドのイミド化率、重合体溶液の溶液粘度、及びエポキシ当量は以下の方法により測定した。以下の実施例で用いた原料化合物及び重合体の必要量は、下記の合成例に示す合成スケールでの合成を必要に応じて繰り返すことにより確保した。
【0062】
[重合体の重量平均分子量Mw]
重量平均分子量Mwは、以下の条件におけるGPCにより測定したポリスチレン換算値である。
カラム:東ソー(株)製、TSKgelGRCXLII
溶剤:テトラヒドロフラン、又はリチウムブロミド及びリン酸含有のN,N-ジメチルホルムアミド溶液
温度:40℃
圧力:68kgf/cm
[ポリイミドのイミド化率]
ポリイミドの溶液を純水に投入し、得られた沈殿を室温で十分に減圧乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温でH-NMRを測定した。得られたH-NMRスペクトルから、下記数式(1)によりイミド化率[%]を求めた。
イミド化率[%]=(1-(A/(A×α)))×100 …(1)
(数式(1)中、Aは化学シフト10ppm付近に現れるNH基のプロトン由来のピーク面積であり、Aはその他のプロトン由来のピーク面積であり、αは重合体の前駆体(ポリアミック酸)におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。)
[重合体溶液の溶液粘度]
重合体溶液の溶液粘度(mPa・s)は、E型回転粘度計を用いて25℃で測定した。
[エポキシ当量]
エポキシ当量は、JIS C 2105に記載の塩酸-メチルエチルケトン法により測定した。
【0063】
化合物の略号は以下の通りである。なお、以下では、式(X)で表される化合物を単に「化合物(X)」と表すことがある。
【0064】
・テトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物
【化4】
【化5】
【0065】
・化合物[A]
【化6】
【0066】
<重合体の合成>
[合成例1:ポリイミド(PI-1)の合成]
テトラカルボン酸二無水物として2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物(TCA)22.4g(0.1モル)、ジアミンとしてp-フェニレンジアミン(PDA)8.6g(0.08モル)、及び3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル10.5g(0.02モル)を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)166gに溶解し、60℃で6時間反応を行い、ポリアミック酸を20質量%含有する溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し、NMPを加えてポリアミック酸濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は90mPa・sであった。
次いで、得られたポリアミック酸溶液に、NMPを追加してポリアミック酸濃度7質量%の溶液とし、ピリジン11.9g及び無水酢酸15.3gを添加して110℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなNMPで溶媒置換(本操作によって脱水閉環反応に使用したピリジン及び無水酢酸を系外に除去した。以下同じ。)することにより、イミド化率約68%のポリイミド(PI-1)を26質量%含有する溶液を得た。得られたポリイミド溶液を少量分取し、NMPを加えてポリイミド濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は45mPa・sであった。次いで、反応溶液を大過剰のメタノール中に注ぎ、反応生成物を沈殿させた。この沈殿物をメタノールで洗浄し、減圧下40℃で15時間乾燥させることにより、ポリイミド(PI-1)を得た。
【0067】
[合成例2:ポリイミド(PI-2)の合成]
テトラカルボン酸二無水物として、TCA110g(0.50モル)及び1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-8-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン160g(0.50モル)、ジアミンとして、PDA91g(0.85モル)、1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン25g(0.10モル)、及び3,6-ビス(4-アミノベンゾイルオキシ)コレスタン25g(0.040モル)、並びにモノアミンとしてアニリン1.4g(0.015モル)を、NMP960gに溶解し、60℃で6時間反応を行うことにより、ポリアミック酸を含有する溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し、NMPを加えてポリアミック酸濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は60mPa・sであった。
次いで、得られたポリアミック酸溶液にNMP2,700gを追加し、ピリジン390g及び無水酢酸410gを添加して110℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなγ-ブチロラクトン(GBL)で溶媒置換することにより、イミド化率約95%のポリイミド(PI-2)を15質量%含有する溶液約2,500gを得た。この溶液を少量分取し、NMPを加え、ポリイミド濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は70mPa・sであった。次いで、反応溶液を大過剰のメタノール中に注ぎ、反応生成物を沈殿させた。この沈殿物をメタノールで洗浄し、減圧下40℃で15時間乾燥させることにより、ポリイミド(PI-2)を得た。
【0068】
[合成例3:ポリイミド(PI-3)の合成]
使用するジアミンを、3,5-ジアミノ安息香酸(化合物(DA-12))0.08モル及びコレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン0.02モルに変更した以外は、上記合成例1と同様の方法によりポリアミック酸溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し、NMPを加えてポリアミック酸濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は80mPa・sであった。次いで、上記合成例1と同様の方法によりイミド化を行い、イミド化率約65%のポリイミド(PI-3)を26質量%含有する溶液を得た。得られたポリイミド溶液を少量分取し、NMPを加えてポリイミド濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は40mPa・sであった。次いで、反応溶液を大過剰のメタノール中に注ぎ、反応生成物を沈殿させた。この沈殿物をメタノールで洗浄し、減圧下40℃で15時間乾燥させることにより、ポリイミド(PI-3)を得た。
【0069】
[合成例4:ポリイミド(PI-4)の合成]
使用するテトラカルボン酸二無水物を、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物0.04モル、及びピロメリット酸二無水物0.02モルに変更するとともに、使用するジアミンを、化合物(DA-2)0.06モル、及び化合物(DA-1) 0.04モルに変更した以外は、上記合成例1と同様の方法によりポリアミック酸溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し、NMPを加えてポリアミック酸濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は75mPa・sであった。次いで、上記合成例1と同様の方法によりイミド化を行い、イミド化率約50%のポリイミド(PI-4)を26質量%含有する溶液を得た。得られたポリイミド溶液を少量分取し、NMPを加えてポリイミド濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は40mPa・sであった。次いで、反応溶液を大過剰のメタノール中に注ぎ、反応生成物を沈殿させた。この沈殿物をメタノールで洗浄し、減圧下40℃で15時間乾燥させることにより、ポリイミド(PI-4)を得た。
【0070】
[合成例5:ポリイミド(PI-5)の合成]
使用するテトラカルボン酸二無水物を、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物0.08モル及びピロメリット酸二無水物0.02モルに変更するとともに、使用するジアミンを、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート(化合物(DA-3))0.098モル、及び化合物(DA-4)0.002モルに変更した以外は、上記合成例1と同様の方法によりポリアミック酸溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し、NMPを加えてポリアミック酸濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は80mPa・sであった。次いで、上記合成例1と同様の方法によりイミド化を行い、イミド化率約65%のポリイミド(PI-5)を26質量%含有する溶液を得た。得られたポリイミド溶液を少量分取し、NMPを加えてポリイミド濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は50mPa・sであった。次いで、反応溶液を大過剰のメタノール中に注ぎ、反応生成物を沈殿させた。この沈殿物をメタノールで洗浄し、減圧下40℃で15時間乾燥させることにより、ポリイミド(PI-5)を得た。
【0071】
[合成例6:ポリアミック酸(PA-1)の合成]
テトラカルボン酸二無水物として1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CB)200g(1.0モル)、ジアミンとして2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル210g(1.0モル)を、NMP370g及びγ-ブチロラクトン(GBL)3,300gの混合溶媒に溶解し、40℃で3時間反応を行い、固形分濃度10質量%、溶液粘度160mPa・sのポリアミック酸溶液を得た。次いで、このポリアミック酸溶液を大過剰のメタノール中に注ぎ、反応生成物を沈殿させた。この沈殿物をメタノールで洗浄し、減圧下40℃で15時間乾燥させることにより、ポリアミック酸(PA-1)を得た。
【0072】
[合成例7:ポリアミック酸(PA-2)の合成]
テトラカルボン酸二無水物としてTCA7.0g(0.031モル)、ジアミンとして化合物(DA-5)13g(TCA1モルに対して1モルに相当する。)を、NMP80gに溶解し、60℃で4時間反応を行うことにより、ポリアミック酸(PA-2)を20質量%含有する溶液を得た。このポリアミック酸溶液の溶液粘度は2,000mPa・sであった。なお、化合物(DA-5)は、特開2011-100099号公報の記載に従って合成した。次いで、このポリアミック酸溶液を大過剰のメタノール中に注ぎ、反応生成物を沈殿させた。この沈殿物をメタノールで洗浄し、減圧下40℃で15時間乾燥させることにより、ポリアミック酸(PA-2)を得た。
【0073】
[合成例8:ポリアミック酸(PA-3)の合成]
使用するジアミンを、1,3-ビス(4-アミノフェネチル)ウレア(化合物(DA-6))0.7モル、及び化合物(DA-7)0.3モルに変更した以外は、上記合成例6と同様の方法によりポリアミック酸溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し、NMPを加えてポリアミック酸濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は100mPa・sであった。次いで、このポリアミック酸溶液を大過剰のメタノール中に注ぎ、反応生成物を沈殿させた。この沈殿物をメタノールで洗浄し、減圧下40℃で15時間乾燥させることにより、ポリアミック酸(PA-3)を得た。
【0074】
[合成例9:ポリアミック酸(PA-4)の合成]
使用するテトラカルボン酸二無水物を、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物1.0モルに変更するとともに、使用するジアミンを、p-フェニレンジアミン0.3モル、化合物(DA-7)0.2モル、及び1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン(化合物(DA-9))0.5モルに変更した以外は、上記合成例6と同様の方法によりポリアミック酸溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し、NMPを加えてポリアミック酸濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は90mPa・sであった。次いで、このポリアミック酸溶液を大過剰のメタノール中に注ぎ、反応生成物を沈殿させた。この沈殿物をメタノールで洗浄し、減圧下40℃で15時間乾燥させることにより、ポリアミック酸(PA-4)を得た。
【0075】
[合成例10:ポリアミック酸(PA-5)の合成]
使用するジアミンを、2,4-ジアミノ-N,N-ジアリルアニリン0.2モル、4,4’-ジアミノジフェニルアミン0.2モル、及び4,4’-ジアミノジフェニルメタン0.6モルに変更した以外は、上記合成例6と同様の方法によりポリアミック酸溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し、NMPを加えてポリアミック酸濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は95mPa・sであった。次いで、このポリアミック酸溶液を大過剰のメタノール中に注ぎ、反応生成物を沈殿させた。この沈殿物をメタノールで洗浄し、減圧下40℃で15時間乾燥させることにより、ポリアミック酸(PA-5)を得た。
【0076】
[合成例11:ポリアミック酸(PA-6)の合成]
使用するテトラカルボン酸二無水物を、化合物(TA-1)0.2モル、及び2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物0.8モルに変更するとともに、使用するジアミンを、3,5-ジアミノ安息香酸0.4モル、化合物(DA-11)0.25モル、及び化合物(DA-1)0.35モルに変更した以外は、上記合成例6と同様の方法によりポリアミック酸溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し、NMPを加えてポリアミック酸濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は85mPa・sであった。次いで、このポリアミック酸溶液を大過剰のメタノール中に注ぎ、反応生成物を沈殿させた。この沈殿物をメタノールで洗浄し、減圧下40℃で15時間乾燥させることにより、ポリアミック酸(PA-6)を得た。
【0077】
[合成例12:ポリアミック酸エステル(PAE-1)の合成]
2,4-ビス(メトキシカルボニル)-1,3-ジメチルシクロブタン-1,3-ジカルボン酸0.035モルを塩化チオニル20mlに加え、N,N-ジメチルホルムアミドを触媒量添加し、その後80℃にて1時間攪拌した。その後、反応液を濃縮し、残留物をγ-ブチロラクトン(GBL)113gに溶解した(この溶液を反応液Aとした。)。別途、p-フェニレンジアミン0.01モル、1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン0.01モル、及び化合物(DA-8)0.014モルをピリジン6.9g、NMP44.5g及びGBL33.5gに加えて溶解させ、これを0℃に冷却した。次いで、この溶液へ反応液Aを1時間かけてゆっくりと滴下し、滴下終了後、室温にて4時間撹拌した。得られたポリアミック酸エステルの溶液を800mlの純水に撹拌しながら滴下し、析出した沈殿物をろ過した。続いて、400mlのイソプロピルアルコール(IPA)で5回洗浄し、乾燥することでポリマー粉末15.5gを得た。得られたポリアミック酸エステル(PAE-1)の重量平均分子量Mwは34,000であった。
【0078】
[合成例13:ポリオルガノシロキサン(APS-1)の合成]
撹拌機、温度計、滴下漏斗及び還流冷却管を備えた反応容器に、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン100.0g、メチルイソブチルケトン500g及びトリエチルアミン10.0gを仕込み、室温で混合した。次いで、脱イオン水100gを滴下漏斗より30分かけて滴下した後、還流下で撹拌しつつ、80℃で6時間反応を行った。反応終了後、有機層を取り出し、0.2質量%硝酸アンモニウム水溶液により、洗浄後の水が中性になるまで洗浄した後、減圧下で溶媒及び水を留去することにより、反応性ポリオルガノシロキサン(EPS-1)を粘調な透明液体として得た。この反応性ポリオルガノシロキサン(EPS-1)について、H-NMR分析を行ったところ、化学シフト(δ)=3.2ppm付近にエポキシ基に基づくピークが理論強度どおりに得られ、反応中にエポキシ基の副反応が起こっていないことが確認された。得られた反応性ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量Mwは3,500、エポキシ当量は180g/モルであった。
次いで、200mLの三口フラスコに、反応性ポリオルガノシロキサン(EPS-1)を10.0g、溶媒としてメチルイソブチルケトン30.28g、反応性化合物として4-(ドデシルオキシ)安息香酸3.98g、及び触媒としてUCAT 18X(商品名、サンアプロ(株)製)0.10gを仕込み、100℃で48時間撹拌下に反応を行った。反応終了後、反応混合物に酢酸エチルを加えて得た溶液を3回水洗し、有機層を硫酸マグネシウムを用いて乾燥した後、溶剤を留去することにより、液晶配向性ポリオルガノシロキサン(APS-1)を9.0g得た。得られた重合体の重量平均分子量Mwは9,900であった。
【0079】
<液晶配向剤の調製及び評価>
[実施例1]
1.液晶配向剤の調製
上記合成例1で得たポリイミド(PI-1)に、3-フェニルプロパン-1-オール(化合物a)、γ-ブチロラクトン(γBL)及びブチルセロソルブ(BC)を加えて、重合体濃度3.5質量%、溶剤の混合比が、化合物a:γBL:BC=40:30:30(質量比)の溶液とした。この溶液を十分に撹拌した後、孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(S-1)を調製した。なお、液晶配向剤(S-1)は、主に垂直配向型の液晶表示素子の製造用である。
【0080】
2.インクジェット塗布性の評価
液晶配向剤を塗布する基板として、ITOからなる透明電極付きガラス基板を200℃のホットプレート上で1分間加熱し、次いで紫外線/オゾン洗浄を行って、透明電極面の水の接触角を10°以下とした直後のものを用いた。この基板に、上記1.で調製した液晶配向剤(S-1)を、インクジェット塗布機(芝浦メカトロニクス(株)製)を用いて、上記透明電極付きガラス基板の透明電極面上に塗布した。このときの塗布条件は、2,500回/(ノズル・分)、吐出量250mg/10秒にて2往復(計4回)塗布とした。塗布後に1分間静置した後、基板を50℃で加熱することにより平均膜厚0.1μmの塗膜を形成した。得られた塗膜につき、干渉縞計測ランプ(ナトリウムランプ)の照射下、肉眼で観察し、ムラ及びハジキの評価を行った。
また、塗膜形成時の加熱温度を50℃から60℃及び80℃に変更した以外は上記と同様の操作を行い、塗膜のムラ及びハジキの有無を観察した。50℃、60℃及び80℃のいずれの加熱温度でもムラ及びハジキの両方とも見られなかった場合をインクジェット塗布性「良好A(◎)」とし、50℃、60℃及び80℃のうち1つの加熱温度でムラ及びハジキの少なくとも一方が見られた場合を「良好B(○)」、2つの加熱温度でムラ及びハジキの少なくとも一方が見られた場合を「可(△)」、全ての加熱温度でムラ及びハジキの少なくとも一方が見られた場合は「不良(×)」とした。その結果、この実施例では「良好B」の評価であった。
【0081】
3.インクジェットヘッドの長期安定性の評価
以下の手法により、インクジェットヘッドの長期安定性を評価することにより液晶配向剤がインクジェットヘッドに及ぼす影響を評価した。評価には、コニカミノルタ社製KM1024iマテコンキットを使用した。なお、マテコンキットとは、インクジェットヘッド構成部材の溶媒耐性を試験するためのサンプル片である。ここでは、複数種あるサンプル片のうち樹脂硬化物を試験に用いた。
まず、サンプル片の色及び表面状態を確認した後に、サンプル片の質量(浸漬前質量W1)を測定した。次に、液晶配向剤の調製に使用した溶剤(化合物a:γBL:BC=40:30:30(質量比))100mlを密閉可能なガラス瓶に秤量した後、サンプル片を浸漬し、50℃で4週間保管した。4週間経過後にサンプル片をガラス瓶から取り出し、エアーブローによってサンプル片の表面に付着している溶媒を除去した後、色変化、割れの有無、及び溶解の有無を目視にて確認し、浸漬前に対する変化により評価した。評価は以下のように行った。
・色変化について:色の変化がなかった場合を「良好(○)」、色が僅かに変化した場合を「可(△)」、色が著しく変化した場合を「不良(×)」とした。
・割れの有無について:割れが発生しなかった場合を「良好(○)」とし、割れが発生した場合を「不良(×)」とした。
・溶解の有無について:触診により樹脂の溶解が確認されなかった場合を「良好(○)」、溶解が観察された場合を「不良(×)」とした。
また、サンプル片を溶媒中に浸漬した後のサンプル片の質量(浸漬後質量W2)を測定し、浸漬前質量W1から増加した質量の比率αを下記数式(2)により算出した。
α[%]=((W2-W1)/W1)×100 …(2)
評価は、比率αが10%未満であった場合に「良好A(◎)」、10%以上30%未満であった場合に「良好B(○)」、30%以上50%未満であった場合に「可(△)」、50%以上であった場合に「不良(×)」とした。なお、比率αが低いほど、評価対象の溶媒がインクジェットヘッド構成部材を膨潤させにくく良好であることを表す。評価の結果、この実施例では、色変化は「良好」、割れの有無は「良好」、溶解の有無については「良好」、質量変化は「可」であった。
【0082】
4.垂直配向型液晶表示素子の製造
液晶配向剤(S-1)を、一対(2枚)のITO膜からなる透明電極付きガラス基板にスピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った。その後、窒素に置換したオーブン中、200℃で1時間加熱(ポストベーク)して溶媒を除去し、膜厚0.08μmの塗膜(液晶配向膜)を形成した。この塗膜に対し、レーヨン布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数400rpm、ステージ移動速度3cm/秒、毛足押し込み長さ0.1mmでラビング処理を行った。その後、超純水中で1分間、超音波洗浄を行い、次いで、100℃クリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、液晶配向膜を有する基板を得た。この操作を繰り返し、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)得た。なお、このラビング処理は、液晶の倒れ込みを制御し、配向分割を簡易な方法で行う目的で行った弱いラビング処理である。
上記基板のうちの1枚の液晶配向膜を有する面の外周に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した後、一対の基板の液晶配向膜面を対向させ、重ね合わせて圧着し、150℃で1時間加熱して接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より基板の間隙にネガ型液晶(メルク製、MLC-6608) を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止し、さらに液晶注入時の流動配向を除くために、これを150℃で10分間加熱した後に室温まで徐冷した。さらに、基板の外側両面に、偏光板を2枚の偏光板の偏光方向が互いに直交するように貼り合わせることにより液晶表示素子を製造した。
【0083】
5.ポストベークの温度ムラに対するプレチルト角のばらつき特性(ポストベークマージン)の評価
上記4.の方法に従い、異なるポストベーク温度(120℃、180℃及び230℃)で液晶配向膜を作製して得られた液晶表示素子のプレチルト角をそれぞれ測定した。ポストベーク温度を230℃としたときの測定値を基準プレチルト角θpとし、基準プレチルト角θpと測定値θaとの差Δθ(=|θp-θa|)により、ポストベークの温度ムラに対するプレチルト角のばらつき特性を評価した。なお、Δθが小さいほど、温度ムラに対するプレチルト角のばらつきが小さく優れていると言える。プレチルト角の測定は、非特許文献(T. J. Scheffer et.al. J.Appl.Phys. vo.19, p.2013(1980))に記載の方法に準拠して、He-Neレーザー光を用いる結晶回転法により測定した液晶分子の基板面からの傾き角の値をプレチルト角[°]とした。評価は、Δθが0.2°以下であった場合を「良好(○)」、0.2°よりも大きく0.5°未満であった場合を「可(△)」、0.5°以上であった場合を「不良(×)」とした。その結果、この実施例では、ポストベーク温度を180℃とした場合にはポストベークマージン「良好」、120℃とした場合には「可」の評価であった。
【0084】
6.AC残像特性の評価
電極構造を、電圧の印加/無印加を別個に切替可能な2系統のITO電極(電極1及び電極2)とした点、及び偏光板を貼り合わせなかった点以外は、上記4.と同様の方法により評価用液晶セルを作製した。この評価用液晶セルを60℃の条件下に置き、電極2には電圧をかけずに、電極1に交流電圧10Vを300時間印加した。300時間が経過した後、直ちに電極1及び電極2の双方に交流3Vの電圧を印加して、両電極間の光透過率の差ΔT[%]を測定した。このとき、ΔTが2%未満であった場合をAC残像特性「良好(○)」、2%以上3%未満であった場合を「可(△)」、3%以上であった場合を「不良(×)」と評価した。その結果、この実施例では「良好」の評価であった。
【0085】
7.DC残像特性の評価
上記6.で作製した評価用液晶セルを60℃の条件下に置き、電極1に直流0.5Vの電圧を24時間印加し、直流電圧を切った直後の電極1に残留した電圧(残留DC電圧)をフリッカー消去法により求めた。このとき、残留DC電圧が100mV未満であった場合をDC残像特性「良好(○)」、100mV以上300mV未満であった場合を「可(△)」、300mV以上であった場合を「不良(×)」と評価した。その結果、この実施例では「良好」の評価であった。
【0086】
[実施例2~9及び比較例1~10]
配合処方をそれぞれ下記表1に記載の通りとしたほかは実施例1と同様にして、液晶配向剤を調製した。また、調製した液晶配向剤を用いて実施例1と同様にして各種評価を行った。評価結果を下記表2に示した。
【0087】
[実施例10]
1.液晶配向剤の調製
配合処方を下記表1に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、液晶配向剤(S-10)を調製した。なお、液晶配向剤(S-10)は、主に水平配向型の液晶表示素子の製造用である。
2.液晶配向剤の評価
液晶配向剤(S-10)を使用した以外は実施例1と同様にして、インクジェット塗布性及びインクジェットヘッドの長期安定性を評価した。それらの結果を下記表2に示した。
【0088】
3.ラビングFFS型液晶表示素子の製造
平板電極(ボトム電極)、絶縁層及び櫛歯状電極(トップ電極)がこの順で片面に積層されたガラス基板と、電極が設けられていない対向ガラス基板とのそれぞれの面上に、液晶配向剤(S-10)を、スピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間加熱(プレベーク)した。その後、庫内を窒素置換した200℃のオーブンで1時間乾燥(ポストベーク)を行い、平均膜厚0.08μmの塗膜を形成した。次いで、塗膜表面に対し、レーヨン布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数500rpm、ステージ移動速度3cm/秒、毛足押し込み長さ0.4mmでラビング処理を行った。その後、超純水中で1分間超音波洗浄を行い、次いで100℃クリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、液晶配向膜を有する基板を得た。
次いで、液晶配向膜を有する一対の基板につき、液晶配向膜を形成した面の縁に液晶注入口を残して、直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷塗布した。その後、基板を重ね合わせて圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、一対の基板間に液晶注入口よりネマチック液晶(メルク社製、MLC-6221)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを120℃で加熱してから室温まで徐冷し、液晶セルを製造した。なお、一対の基板を重ねあわせる際には、それぞれの基板のラビング方向が反平行となるようにした。また、2枚の偏光板の偏光方向が各々、ラビング方向と平行及び直交方向となるように偏光板を貼り合わせた。なお、トップ電極については、電極の線幅を4μm、電極間の距離を6μmとした。また、トップ電極としては、電極A、電極B、電極C及び電極Dの4系統の駆動電極を用いた。この場合、ボトム電極は、4系統の駆動電極のすべてに作用する共通電極として働き、4系統の駆動電極の領域のそれぞれが画素領域となる。
4.ラビングFFS型液晶表示素子の評価
上記3.の方法に従い作製したラビングFFS型の液晶表示素子又は液晶セルを使用した以外は実施例1と同様にして、ポストベークマージン、AC残像特性及びDC残像特性を評価した。それらの結果を下記表2に示した。
【0089】
[実施例11,12]
配合処方を下記表1に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、液晶配向剤(S-11)、(S-12)をそれぞれ調製した。また、液晶配向剤(S-11)、(S-12)をそれぞれ使用した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット塗布性及びインクジェットヘッドの長期安定性を評価するとともに、実施例10と同様にしてラビングFFS型の液晶表示素子又は液晶セルを製造して各種評価を行った。それらの結果を下記表2に示した。
【0090】
[実施例13]
1.液晶配向剤の調製
配合処方を下記表1に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、液晶配向剤(S-13)を調製した。なお、液晶配向剤(S-13)は、主にPSA型の液晶表示素子の製造用である。
2.液晶配向剤の評価
液晶配向剤(S-13)を使用した以外は実施例1と同様にして、インクジェット塗布性及びインクジェットヘッドの長期安定性を評価した。それらの結果を下記表2に示した。
【0091】
3.液晶組成物の調製
ネマチック液晶(メルク社製、MLC-6608)10gに対し、下記式(L1-1) で表される液晶性化合物を5質量%、及び下記式(L2-1)で表される光重合性化合物 を0.3質量%添加して混合することにより液晶組成物LC1を得た。
【化7】
【0092】
4.PSA型液晶表示素子の製造
液晶配向剤(S-13)を用いたほかは、実施例1の「4.垂直配向型液晶表示素子の製造」に記載の方法と同様にして、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)得た。次いで、MLC-6608に代えて、上記で調製した液晶組成物LC1を用いた点、及び偏光板を貼り合わせなかった点以外は実施例1と同様にして液晶セルを製造した。次いで、上記で得た液晶セルに対し、電極間に周波数60Hzの交流10Vを印加し、液晶が駆動している状態で、光源にメタルハライドランプを使用した紫外線照射装置を用いて、紫外線を50,000J/mの照射量にて照射した。なお、この照射量は、波長365nm基準で計測される光量計を用いて計測した値である。さらに、基板の外側両面に、偏光板を2枚の偏光板の偏光方向が互いに直交するように貼り合わせることにより液晶表示素子を製造した。
5.PSA型液晶表示素子の評価
上記4.に記載の方法に従って作製したPSA型の液晶表示素子又は液晶セルを使用した以外は実施例1と同様にして、ポストベークマージン、AC残像特性及びDC残像特性を評価した。それらの結果を下記表2に示した。
【0093】
[実施例14,15,25,27]
配合処方を下記表1に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、液晶配向剤をそれぞれ調製した。また、各液晶配向剤を使用した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット塗布性及びインクジェットヘッドの長期安定性を評価するとともに、実施例14と同様にしてPSA型の液晶表示素子又は液晶セルを製造して各種評価を行った。それらの結果を下記表2に示した。
【0094】
[実施例16]
1.液晶配向剤の調製
配合処方を下記表1に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、液晶配向剤(S-16)を調製した。なお、液晶配向剤(S-16)は、主に光垂直配向型の液晶表示素子の製造用である。
2.液晶配向剤の評価
液晶配向剤(S-16)を使用した以外は実施例1と同様にして、インクジェット塗布性及びインクジェットヘッドの長期安定性を評価した。それらの結果を下記表2に示した。
【0095】
3.光垂直配向型液晶表示素子の製造
液晶配向剤(S-16)を用い、ラビング処理に代えて、Hg-Xeランプ及びグランテーラープリズムを用いて膜に偏光紫外線を照射する処理を行ったほかは、実施例1の「4.垂直配向型液晶表示素子の製造」に記載の方法と同様にして、光垂直配向型液晶表示素子を製造した。なお、偏光紫外線の照射は、基板法線から40°傾いた方向から行い、照射量は200J/mとし、偏光方向はp-偏光とした。この照射量は、波長313nm基準で計測される光量計を用いて計測した値である。
4.光垂直配向型液晶表示素子の評価
上記3.に記載の方法に従って作製した光垂直配向型の液晶表示素子又は液晶セルを使用した以外は実施例1と同様にして、ポストベークマージン、AC残像特性及びDC残像特性を評価した。それらの結果を下記表2に示した。
【0096】
[実施例17及び18]
配合処方を下記表1に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、液晶配向剤をそれぞれ調製した。また、各液晶配向剤を使用した以外は実施例1と同様にして、インクジェット塗布性及びインクジェットヘッドの長期安定性を評価するとともに、実施例18と同様にして光垂直配向型の液晶表示素子又は液晶セルを製造してポストベークマージン、AC残像特性及びDC残像特性を評価した。それらの結果を下記表2に示した。
【0097】
[実施例19]
1.液晶配向剤の調製
配合処方を下記表1に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、液晶配向剤(S-19)を調製した。なお、液晶配向剤(S-19)は、主に光水平型の液晶表示素子の製造用である。
2.液晶配向剤の評価
液晶配向剤(S-19)を使用した以外は実施例1と同様にして、インクジェット塗布性及びインクジェットヘッドの長期安定性を評価した。それらの結果を下記表2に示した。
【0098】
3.光FFS型液晶表示素子の製造
液晶配向剤(S-19)を用い、ラビング処理に代えて、Hg-Xeランプ及びグランテーラープリズムを用いて膜に偏光紫外線を照射する処理を行ったほかは、実施例10の「3.ラビングFFS型液晶表示素子の製造」に記載の方法と同様にして、光FFS型液晶表示素子を製造した。なお、偏光紫外線の照射は、基板から垂直方向から行い、照射量は10,000J/mとし、偏光方向は、実施例10におけるラビング処理の方向と直交する方向とした。この照射量は、波長254nm基準で計測される光量計を用いて計測した値である。
4.光FFS型液晶表示素子の評価
上記3.に記載の方法に従って作製した光FFS型の液晶表示素子又は液晶セルを使用した以外は、実施例1と同様にして、ポストベークマージン、AC残像特性及びDC残像特性を評価した。それらの結果を下記表2に示した。
【0099】
[実施例20~24]
配合処方を下記表1に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、液晶配向剤をそれぞれ調製した。また、各液晶配向剤を使用した以外は実施例1と同様にして、インクジェット塗布性及びインクジェットヘッドの長期安定性を評価するとともに、実施例21と同様にして光FFS型の液晶表示素子又は液晶セルを製造して各種評価を行った。それらの結果を下記表2に示した。
【0100】
[実施例26]
1.液晶配向剤の調製
配合処方を下記表1に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、液晶配向剤(S-26)を調製した。なお、液晶配向剤(S-26)は、主にTNモード型の液晶表示素子の製造用である。
2.液晶配向剤の評価
液晶配向剤(S-26)を使用した以外は実施例1と同様にして、インクジェット塗布性及びインクジェットヘッドの長期安定性を評価した。それらの結果を下記表2に示した。
【0101】
3.TN型液晶表示素子の製造
液晶配向剤(S-26)を用い、ラビング処理を、レーヨン布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数500rpm 、ステージ移動速度3cm/秒、毛足押しこみ長さ0.4mmの条件で行ったほかは、実施例1の「4.垂直配向型液晶表示素子の製造」に記載の方法と同様にして、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)得た。次に、MLC-6608に代えて、ポジ型液晶(メルク製、MLC-6221)を用い、一対の基板を重ね合わせる際にそれぞれの基板のラビング方向が直交するようにし、2枚の偏光板の偏光方向が各々の基板のラビング方向と平行方向となるようにしたほかは実施例1と同様にして、TN型液晶表示素子を製造した。
4.TN型液晶表示素子の評価
上記3.に記載の方法に従って作製したTN型の液晶表示素子又は液晶セルを使用した以外は、実施例1と同様にして、ポストベークマージン、AC残像特性及びDC残像特性を評価した。それらの結果を下記表2に示した。
【0102】
【表1】
【0103】
表1中、重合体成分の数値は、液晶配向剤の調製に使用した重合体成分の合計100質量部に対する各重合体の配合割合(質量部)を示す。溶剤組成の数値は、液晶配向剤の調製に使用した溶剤(化合物[A]、溶剤[B]及び他の溶剤)の合計量に対する各化合物の配合割合(質量比)を示す。化合物の略号は以下の通りである。
(化合物[A])
a:3-フェニルプロパン-1-オール
b:2-フェニルエタン-1-オール
c:フェニルメタノール
d:アニソール
e:エトキシベンゼン
f:プロポキシベンゼン
g:2-フラニルメタノール
h:2-フラニルエタノール
i:2-フラニルプロパノール
(溶剤[B]及び他の溶剤)
L:プロピレンカーボネート
m:4-フェニルブタン-1-オール
n:ブトキシベンゼン
o:2-フラニルブタノール
p:γ-ブチロラクトン
q:ジメチルイミダゾリジノン
r:N-メチル-2-ピロリドン
s:ブチルセロソルブ
t:ダイアセトンアルコール
u:ジエチレングリコールジエチルエーテル
v:N-エチル-2-ピロリドン
w:フェノール
x:酢酸フェニル
【0104】
【表2】
【0105】
表2から分かるように、化合物[A]を含む実施例1~27は、インクジェット塗布性、インクジェットヘッド長期安定性、ポストベークマージン、及び残像特性の各種特性がバランス良く改善された。これに対し、化合物[A]を含まず、代わりにNMP、γ-ブチロラクトン、ジメチルイミダゾリジノン、フェノール、酢酸フェニルを含有する例(比較例1~3、8~9)では、インクジェットヘッド長期安定性が実施例よりも劣っていた。また、化合物[A]を含まず、代わりにプロピレンカーボネート、4-フェニルブタン-1-オール、ブトキシベンゼン、2-フラニルブタノールを含有する例(比較例4~7)では、インクジェット塗布性が実施例よりも劣っていた。
【0106】
以上の結果から、化合物[A]を含有する液晶配向剤によれば、基板に対する塗布性が良好であり、インクジェットヘッドを劣化させにくく、残像特性に優れた液晶素子が得られることが明らかとなった。また、当該液晶配向剤によれば、ポストベークマージンも良好にできることが明らかとなった。