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特許7409331コーティング組成物、コーティング被膜及び該被膜を有する物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】コーティング組成物、コーティング被膜及び該被膜を有する物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20231226BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20231226BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20231226BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D7/20
C09D133/00
B32B27/00 101
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021016226
(22)【出願日】2021-02-04
(65)【公開番号】P2022119251
(43)【公開日】2022-08-17
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000226666
【氏名又は名称】日信化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 幸拓
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-138242(JP,A)
【文献】国際公開第2019/244321(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/110753(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/084590(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/110342(WO,A1)
【文献】特開2003-25512(JP,A)
【文献】特開2008-214844(JP,A)
【文献】特開2005-97494(JP,A)
【文献】国際公開第2019/082882(WO,A1)
【文献】特開昭59-27969(JP,A)
【文献】特開2007-138326(JP,A)
【文献】特開2007-314919(JP,A)
【文献】特開2010-241963(JP,A)
【文献】特開2008-308785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 183/04
C09D 7/20
C09D 133/00
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a1)下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサン50~99質量部と、(a2)2種以上のアクリル系単量体を含有する混合物1~50質量部とを含む重合物であり、(a2)成分をポリマー化して得られるアクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg)が、各アクリル系単量体のホモポリマーのガラス転移温度(Tg)からFox式を用いて計算されたTgで60℃未満となるように、上記(a2)成分のアクリル系単量体が調製されるものであるシリコーンアクリル共重合樹脂、及び
(B)アミド化合物、エーテル化合物、ケトン化合物、芳香族炭化水素類及び酢酸エステル類からなる群から選ばれる1種以上の有機溶剤
を含有することを特徴とするコーティング組成物。
【化1】
(式中、R1は同一又は異種の非置換もしくは置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、R2はメルカプト基、アクリロキシ基またはメタクリロキシ基置換の炭素数1~6のアルキル基である。Xは同一又は異種の非置換もしくは置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基又はヒドロキシル基、YはX又は-[O-Si(X)2d-Xで示される同一又は異種の基で、X及びY中の少なくとも2個はヒドロキシル基である。Zは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基である。aは0~1,000の正数、bは100~10,000の正数、cは1~10の正数、dは1~1,000の正数である。)
【請求項2】
(B)成分の有機溶剤が、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、トルエン、キシレン、酢酸エチル及びプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートからなる群から選ばれる請求項1記載のコーティング組成物。
【請求項3】
上記(A)成分であるシリコーンアクリル共重合樹脂が、(a1)成分と(a2)成分との混合物の乳化グラフト重合物である請求項1又は2記載のコーティング組成物。
【請求項4】
上記式(1)で示されるオルガノポリシロキサンが、環状オルガノシロキサン、α,ω-ジヒドロキシシロキサンオリゴマー、α,ω-ジアルコキシシロキサンオリゴマー又はアルコキシシランと、下記一般式(2)で示されるシランカップリング剤との重合物である請求項1~3のいずれか1項記載のコーティング組成物。
3 (4-e-f)4 fSi(OR5e (2)
(式中、R3はメルカプト基、アクリロキシ基またはメタクリロキシ基置換の炭素数1~6のアルキル基であり、R4は炭素数1~4のアルキル基であり、R5は炭素数1~4のアルキル基であり、eは2又は3、fは0又は1で、e+fは2又は3である。)
【請求項5】
上記(a2)成分の混合物は、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が50℃以上となる単量体と、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が50℃未満となる単量体との少なくとも2種以上の単量体を含有する請求項1~4のいずれか1項記載のコーティング組成物。
【請求項6】
上記(a1)成分のオルガノポリシロキサンの重量平均分子量が10万~50万である請求項1~5のいずれか1項記載のコーティング組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項記載のコーティング組成物を乾燥してなるコーティング被膜。
【請求項8】
請求項7記載のコーティング被膜を有する合成皮革または樹脂物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンアクリル共重合樹脂を含有するコーティング組成物、該組成物を乾燥してなるコーティング被膜及び該被膜を有する物品に関する。より詳しくは、皮革や樹脂等の基材表面に塗布することで、優れた触感、光沢を付与でき、コーティング被膜を有する物品を引っ張っても外観を損なわないコーティング組成物、コーティング被膜及び該被膜を有する物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シリコーン系樹脂は、皮革や樹脂等の基材に摺動性を付与する目的で使用されている。皮革の耐摩耗性や滑性を改善する方法としては、皮革を製造する際に樹脂にシリコーンオイルやシリコーンパウダー等のシリコーン成分を練り込むことが知られている。例えば、アクリル-シリコーン共重合体粒子をウレタン系エラストマーに混練し、合成皮革を製造している特開2007-138326号公報(特許文献1)では耐摩耗性の改善に成功している。しかしながら、この場合、粉体を樹脂に練り込むため、製造工程が複雑となる。また、耐摩耗性能を出すためにはアクリル-シリコーン共重合体粒子の添加量を多くする必要がある。
【0003】
これを解決するために、天然皮革や合成皮革などの皮革表面に樹脂等をコーティングする方法がある。特開2007-314919号公報(特許文献2)では水性ポリウレタン樹脂に架橋剤とポリエーテル変性シリコーンを添加した表面仕上げ剤を人工皮革に塗工することで耐摩耗性を向上させることが開示されている。しかしながら、この場合には、表面仕上げ剤の親水性が強くなるため、例えばコーヒーなど濃色の飲料や液体が付着した際に、皮革に液色が移る、衣服が擦れた際に、皮革に繊維の色が移るなど、皮革表面の防汚性がなくなることが懸念される。
【0004】
更に、皮革の防汚性を改善する方法としても、皮革表面に樹脂等をコーティングする方法が知られている。特開2010-241963号公報(特許文献3)ではアクリル樹脂、アクリルシリカ樹脂、アクリルポリシロキサン樹脂とシリコーン系触感剤等を配合し、天然皮革に塗工することが開示されている。特開2008-308785号公報(特許文献4)ではウレタン樹脂からなる合成皮革の表面にシリコーン樹脂皮膜を形成することが開示されている。しかしながら、水系のコーティング剤では、耐水性や防汚性の性能が不十分であった。
【0005】
国際公開第2019/244321号(特許文献5)では、ベース樹脂とシリコーンアクリル樹脂とが有機溶剤に溶解されてなる処理液を塗布した合成皮革を開示している。従来の方法と比べると防汚性は改善されているものの、この方法ではコーティングした皮革を引っ張った際に白化するという不具合があり、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-138326号公報
【文献】特開2007-314919号公報
【文献】特開2010-241963号公報
【文献】特開2008-308785号公報
【文献】国際公開第2019/244321号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、優れた触感、光沢を有するコーティング組成物、引っ張っても白化しないコーティング被膜及び該被膜を有する物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、シリコーンアクリル共重合樹脂を含有するコーティング組成物において、オルガノポリシロキサン(シリコーン樹脂)にグラフトするために用いられる2種類以上のアクリル系単量体の各モノマーのホモポリマーのTgを所定式により計算したTg(以下、「計算Tgともいう」)が所定以内となるアクリル系単量体を用い、これらのアクリル系単量体とオルガノポリシロキサンとを含む重合物である特定のシリコーンアクリル共重合樹脂を有機溶剤に溶解させることで、コーティング組成物が優れた触感、光沢を有するだけではなく、該コーティング組成物からなるコーティング被膜及び該被膜を有する物品を引っ張っても白化せず、外観を損なわないことを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0009】
従って、本発明は、シリコーンアクリル共重合樹脂を含有するコーティング組成物、該組成物を乾燥してなるコーティング被膜及び該被膜を有する物品を提供する。
1.(A)(a1)下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサン50~99質量部と、(a2)2種以上のアクリル系単量体を含有する混合物1~50質量部とを含む重合物であり、(a2)成分をポリマー化して得られるアクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg)が、各アクリル系単量体のホモポリマーのガラス転移温度(Tg)からFox式を用いて計算されたTgで60℃未満となるように、上記(a2)成分のアクリル系単量体が調製されるものであるシリコーンアクリル共重合樹脂、及び
(B)アミド化合物、エーテル化合物、ケトン化合物、芳香族炭化水素類及び酢酸エステル類からなる群から選ばれる1種以上の有機溶剤
を含有することを特徴とするコーティング組成物。
【化1】
(式中、R1は同一又は異種の非置換もしくは置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、R2はメルカプト基、アクリロキシ基またはメタクリロキシ基置換の炭素数1~6のアルキル基である。Xは同一又は異種の非置換もしくは置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基又はヒドロキシル基、YはX又は-[O-Si(X)2d-Xで示される同一又は異種の基で、X及びY中の少なくとも2個はヒドロキシル基である。Zは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基である。aは0~1,000の正数、bは100~10,000の正数、cは1~10の正数、dは1~1,000の正数である。)
2.(B)成分の有機溶剤が、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、トルエン、キシレン、酢酸エチル及びプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートからなる群から選ばれる上記1記載のコーティング組成物。
3.上記(A)成分であるシリコーンアクリル共重合樹脂が、(a1)成分と(a2)成分との混合物の乳化グラフト重合物である上記1又は2記載のコーティング組成物。
4.上記式(1)で示されるオルガノポリシロキサンが、環状オルガノシロキサン、α,ω-ジヒドロキシシロキサンオリゴマー、α,ω-ジアルコキシシロキサンオリゴマー又はアルコキシシランと、下記一般式(2)で示されるシランカップリング剤との重合物である上記1~3のいずれかに記載のコーティング組成物。
3 (4-e-f)4 fSi(OR5e (2)
(式中、R3はメルカプト基、アクリロキシ基またはメタクリロキシ基置換の炭素数1~6のアルキル基であり、R4は炭素数1~4のアルキル基であり、R5は炭素数1~4のアルキル基であり、eは2又は3、fは0又は1で、e+fは2又は3である。)
5.上記(a2)成分の混合物は、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が50℃以上となる単量体と、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が50℃未満となる単量体との少なくとも2種以上の単量体を含有する上記1~4のいずれかに記載のコーティング組成物。
6.上記(a1)成分のオルガノポリシロキサンの重量平均分子量が10万~50万である上記1~5のいずれかに記載のコーティング組成物。
7.上記1~6のいずれかに記載のコーティング組成物を乾燥してなるコーティング被膜。
8.上記7記載のコーティング被膜を有する合成皮革または樹脂物品。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコーティング組成物は、特定のシリコーンアクリル共重合樹脂を有機溶剤に溶解させることで、該コーティング組成物をコーティング被膜とした際に優れた触感、光沢を付与でき、コーティング被膜を有する物品を引っ張っても白化現象がおきることなく外観を損なわない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のコーティング組成物は、(A)特定のシリコーンアクリル共重合樹脂、及び(B)有機溶剤を含有するものである。
以下、各成分について詳述する。
【0012】
(A)成分であるシリコーンアクリル共重合樹脂は、特定式で示されるオルガノポリシロキサンとアクリル系単量体との重合物であり、好ましくは(a1)下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサンと、(a2)2種類以上のアクリル系単量体を含む混合物を、乳化グラフト重合させて得られるものである。
【0013】
ここで、(a1)オルガノポリシロキサンは、下記一般式(1)で示される。
【化2】
(式中、R1は同一又は異種の非置換もしくは置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、R2はメルカプト基、アクリロキシ基またはメタクリロキシ基置換の炭素数1~6のアルキル基である。Xは同一又は異種の非置換もしくは置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基又はヒドロキシル基、YはX又は-[O-Si(X)2d-Xで示される同一又は異種の基で、X及びY中の少なくとも2個はヒドロキシル基である。Zは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基である。aは0~1,000の正数、bは100~10,000の正数、cは1~10の正数、dは1~1,000の正数である。)
【0014】
ここで、R1は同一又は異種の非置換もしくは置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基、ビニルフェニル基等のアルケニルアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニルベンジル基、ビニルフェニルプロピル基等のアルケニルアラルキル基などや、これらの基の水素原子の一部又は全部がフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アミノ基、アルキル又はアルコキシもしくは(メタ)アクリロキシ置換アミノ基などで置換されたものが挙げられる。R1として、好ましくはメチル基である。
【0015】
2はメルカプト基、アクリロキシ基またはメタクリロキシ基置換の炭素数1~6のアルキル基である。具体的には、メルカプトプロピル基、アクリロキシプロピル基、メタクリロキシプロピル基等が好ましい。
【0016】
Xは同一又は異種の非置換もしくは置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基又はヒドロキシル基であり、非置換もしくは置換の炭素数1~20の1価炭化水素基としては、R1で例示したものと同様のものが例示でき、炭素数1~20のアルコキシ基として、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、テトラデシルオキシ基等が挙げられる。Xとして、好ましくはヒドロキシル基、メチル基、ブチル基、フェニル基である。
【0017】
YはX又は-[O-Si(X)2d-Xで示される同一又は異種の基である。dは1~1,000の正数、好ましくは1~200の正数とされる。また、本発明においては、架橋性の面から1分子中に、即ち、上記X及びY中の少なくとも2個、好ましくは2~4個のヒドロキシル基を有するものであり、両末端に有することが好ましい。
【0018】
Zは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基であり、好ましくはヒドロキシル基又はメチル基である。
【0019】
aは1,000より大きくなると得られる硬化物の強度が不十分となるので、0~1,000の正数、好ましくは0~200の正数とされ、bは100未満では硬化物の柔軟性が乏しいものとなり、10,000より大きいと得られる硬化物の引き裂き強度が低下するので、100~10,000の正数、好ましくは1,000~5,000の正数とされる。cは1~10の正数であり、10を超えると、反応中にゲル化粒子ができやすくなる。なお、上記繰り返し単位の配列は、ブロックでもランダムでもよい。
【0020】
このような(a1)オルガノポリシロキサンは、エマルジョンの形態で使用されることが好ましく、市販品を使用してもよいし、合成してもよい。合成する場合は、公知の乳化重合法で実施でき、例えば、フッ素原子等のハロゲン原子、(メタ)アクリロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基等を有してもよい環状オルガノシロキサンや、α,ω-ジヒドロキシシロキサンオリゴマー、α,ω-ジアルコキシシロキサンオリゴマー、アルコキシシラン等と、下記一般式(2)で示されるシランカップリング剤とを、界面活性剤を用いて水中に乳化分散させた後、必要に応じて酸等の触媒を添加して重合反応を行うことにより容易に合成することができる。
3 (4-e-f)4 fSi(OR5e (2)
(式中、R3はメルカプト基、アクリロキシ基またはメタクリロキシ基置換の炭素数1~6のアルキル基であり、R4は炭素数1~4のアルキル基であり、R5は炭素数1~4のアルキル基であり、eは2又は3、fは0又は1で、e+fは2又は3である。)
【0021】
上記環状オルガノシロキサンとして、具体的には、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、1,1-ジエチルヘキサメチルシクロテトラシロキサン、フェニルヘプタメチルシクロテトラシロキサン、1,1-ジフェニルヘキサメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラシクロヘキシルテトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(3,3,3-トリフロロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-メタクリロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-アクリロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-カルボキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-ビニロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(p-ビニルフェニル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ[3-(p-ビニルフェニル)プロピル]テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(N-アクリロイル-N-メチル-3-アミノプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(N,N-ビス(ラウロイル)-3-アミノプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン等が例示される。好ましくは、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンが用いられる。
【0022】
シランカップリング剤として、具体的には、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリブトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジイソプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジブトキシシランなどのアクリルシラン類;γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプトシラン類等が挙げられる。又はこれらを縮重合したオリゴマーはアルコールの発生が抑えられより好ましい場合がある。ここで、(メタ)アクリロキシは、アクリロキシ又はメタクリロキシを示す。
【0023】
これらシランカップリング剤は、環状オルガノシロキサン、α,ω-ジヒドロキシシロキサンオリゴマー、α,ω-ジアルコキシシロキサンオリゴマー又はアルコキシシラン100質量部に対し0.01~20質量部使用することが好ましく、0.01~5質量部の使用が更に好ましい。
【0024】
シランカップリング剤を共重合することにより、式(1)中のcのシロキサン単位を有するオルガノポリシロキサンとなり、(a2)成分の単量体をグラフトさせる効果が得られる。
【0025】
上記反応において、重合に用いる触媒としては、公知の重合触媒を使用すればよい。中でも強酸が好ましく、塩酸、硫酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、クエン酸、乳酸、アスコルビン酸が例示される。好ましくは乳化能を持つドデシルベンゼンスルホン酸である。
【0026】
酸触媒の使用量としては、環状オルガノシロキサン、α,ω-ジヒドロキシシロキサンオリゴマー、α,ω-ジアルコキシシロキサンオリゴマー又はアルコキシシラン100質量部に対して0.01~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.2~2質量部である。
【0027】
また、重合に用いる界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルタウリン塩、脂肪族石けん、アルキルりん酸塩等が挙げられるが、中でも水に溶けやすく、ポリエチレンオキサイド鎖を持たないものが好ましい。更に好ましくは、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルタウリン塩、脂肪族石けん及びアルキルりん酸塩であり、特に好ましくは、ラウロイルメチルタウリンナトリウム、ミリストイルメチルタウリンナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムである。
【0028】
アニオン系界面活性剤の使用量は、環状オルガノシロキサン、α,ω-ジヒドロキシシロキサンオリゴマー、α,ω-ジアルコキシシロキサンオリゴマー又はアルコキシシラン100質量部に対して0.1~20質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~10質量部である。
【0029】
重合温度は50~75℃が好ましく、重合時間は10時間以上が好ましく、15時間以上が更に好ましい。更に、重合後に5~30℃で10時間以上熟成させることが特に好ましい。また、得られた重合溶液のpHは、6~8であることが好ましい。
【0030】
得られた(a1)オルガノポリシロキサンの重量平均分子量は10万~50万であることが好ましく、より好ましくは15万~45万である。この重量平均分子量にすることで、シリコーン特有の良好な滑り性を付与するコーティング剤(コーティング組成物)が得られる。なお、本発明において重量平均分子量(Mw)は、1g/100ml濃度のオルガノポリシロキサンのトルエン溶液の比粘度ηsp(25℃)から計算することができる。
ηsp=(η/η0)-1
(η0:トルエンの粘度 η:溶液の粘度)
ηsp=[η]+0.3[η]2
[η]=2.15×10-40.65
具体的には、エマルジョン20gをIPA(イソプロピルアルコール)20gと混合し、エマルジョンを破壊した後、IPAを廃棄し、残ったゴム状のオルガノポリシロキサンを105℃×3時間で乾燥する。これを1g/100ml濃度のオルガノポリシロキサンのトルエン溶液とし、ウベローデ粘度計にて25℃で測定を行う。上記式に粘度を代入することにより分子量を求めることができる(参考文献:中牟田、日化、77 858[1956]、Doklady Akad. Nauk. U.S.S.R. 89 65[1953])。
【0031】
上記反応において、例えば、環状オルガノシロキサンとして、オクタメチルテトラシロキサンを使用し、シランカップリング剤として、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランを用いた場合を例にとると、以下の通りである。
【化3】
【0032】
本発明の(a2)成分は、2種以上のアクリル系単量体を含有する混合物である。ここで、アクリル系単量体(以下、「アクリル成分」ということがある)としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルが挙げられる。アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルであることが好ましい。具体的には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ベヘニル、メタクリル酸ウレイド、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸イソデシル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、アクリル酸エチルジグリコール、アクリル酸ジヒドロシクロペンタジエチルなどを例示できる。これらは2種類以上を使用することができる。特に、3種以上10種以下のアクリル系モノマーを選択することが好ましい。
【0033】
上記(a2)成分については、(a2)成分のアクリル成分をポリマー化して得られるアクリル系ポリマー(「アクリル成分のポリマー」ともいう)のガラス転移温度(Tg)が、各アクリル系単量体のホモポリマーのガラス転移温度(Tg)からFox式を用いて計算されたTgで60℃未満となるように、上記(a2)成分におけるアクリル系単量体の種類や配合量を適宜選定するものである。このアクリル成分のポリマーの、Fox式を用いて計算された(Tg)とは、具体的には下記式により求められるガラス転移温度のことである。
即ち、アクリル成分のポリマーのガラス転移温度(K)をTg、用いられるn種類のアクリル系単量体において、各アクリル系単量体のホモポリマーガラス転移温度(K)をTg1,Tg2,・・・・Tgnとすると共に、各アクリル系単量体の含有量(質量%)をP1,P2,・・・・Pnとすると、下記式(I)で表される。
(P1+P2+・・・・Pn)/Tg=(P1/Tg1)+(P2/Tg2)+・・・・・+(Pn/Tgn) (I)
なお、P1+P2+・・・・Pn=100(質量%)であり、上記の各アクリル系単量体のホモポリマーガラス転移温度(K)は、JIS K7121に基づいて測定することができる。
【0034】
本発明においては、上記式(I)によって計算されたガラス転移温度(以下、単に「計算Tg」ということがある)が60℃未満であることを特徴とし、より好ましくは55℃以下、さらに好ましくは50℃以下である。一方、その下限値としては、好ましくは30℃以上であり、より好ましくは40℃以上である。上記計算Tgが60℃を超えると、コーティング被膜を引っ張った際に白化してしまい本発明の効果が得られなくなる。
【0035】
上記(a2)成分の混合物については、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が50℃以上となる単量体と、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が50℃未満となる単量体との2種以上を含有することが好ましい。その理由としては、ホモポリマーのTgが50℃以上の単量体を用いることで乾燥・粉体化した際の粉の流動性を確保し、ホモポリマーのTgが50℃未満の単量体を用いることでポリマーに柔軟性を与え、溶剤に溶解、基材にコーティングした後も該コーティング組成物からなるコーティング被膜及び該被膜を有する物品を引っ張っても白化せず、外観を損なわない傾向がある。
【0036】
ホモポリマーのTgが50℃以上のアクリル系単量体としては、メタクリル酸メチル(105℃)、アクリル酸(106℃)、アクリロニトリル(105℃)、メタクリル酸(185℃)、メタクリル酸アリル(52℃)、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(55℃)、アクリル酸イソボルニル(97℃)、メタクリル酸エチル(65℃)などが挙げられる。ホモポリマーのTgが50℃以上のアクリル系単量体としては、少なくともメタクリル酸メチルを含有することが好ましい。
【0037】
一方、ホモポリマーのTgが50℃未満の単量体としては、アクリル酸エチル(-22℃)、アクリル酸ブチル(-52℃)、アクリル酸2-エチルヘキシル(-70℃)、アクリル酸イソブチル(-40℃)、アクリル酸メチル(8℃)、メタクリル酸n-ブチル(20℃)、メタクリル酸イソブチル(48℃)、アクリル酸ラウリル(15℃)などが挙げられる。
【0038】
ホモポリマーのTgが50℃以上の単量体と50℃未満の単量体との配合比率は、計算Tgが60℃未満で設計されていれば特に限定されないが、特に、ホモポリマーのTgが50℃以上の単量体50~99質量部に対して、50℃未満の単量体1~50質量部であることが好ましい。さらに好ましくは、ホモポリマーのTgが50℃以上の単量体50~80質量部に対して、50℃未満の単量体20~50質量部である。
【0039】
上記のようにして得られる式(1)のオルガノポリシロキサンは、重合体1モルあたりに架橋点が2~10点、好ましくは2~6点存在することが好ましく、(a2)成分とのグラフト重合を導き出すことが可能である。
【0040】
(A)成分であるシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂は、まず、上記のようにして得られた(a1)オルガノポリシロキサンに、(a2)アクリル系単量体をグラフト重合させる。この場合、(a2)成分は(a1)成分に乳化グラフト重合させることが好適である。
【0041】
この場合、グラフト重合させる際の式(1)のオルガノポリシロキサンとアクリル系単量体との質量比は50:50~99:1であり、好ましくは60:40~99:1である。シリコーン成分が質量比で50より少ないと十分な耐摩擦性が発現しない場合がある。
【0042】
なお、上記(a1)成分100質量部に対して、上記(a2)成分を1~100質量部用いることが好ましく、10~100質量部用いることがより好ましく、20~100質量部用いることが更に好ましい。
【0043】
ここで、グラフト重合に使用されるラジカル開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過硫酸水素水、t-ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素が挙げられる。必要に応じて、酸性亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、L-アスコルビン酸、酒石酸、糖類、アミン類等の還元剤を併用したレドックス系も使用することができる。ラジカル開始剤の使用量は、(a2)成分の合計量の0.1~5質量%が好ましく、0.5~3質量%が更に好ましい。
【0044】
既にオルガノポリシロキサンを調製した際のエマルジョン中に含まれている界面活性剤で十分にグラフト重合可能であるが、安定性向上のため、アニオン系界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルタウリン塩、脂肪族石けん、アルキルりん酸塩等を添加することができる。また、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシレントリデシルエーテル等のノニオン系乳化剤を添加することもできる。界面活性剤を添加する場合の使用量は、(a2)成分の0.1~5質量%が好ましい。
【0045】
更に、グラフトポリマーの分子量、グラフト率を調整するために連鎖移動剤を添加することができる。
【0046】
上記グラフト重合温度は25~55℃が好ましく、25~40℃が更に好ましい。また重合時間は2~8時間が好ましく、3~6時間が更に好ましい。
【0047】
このようにして得られたシリコーンアクリル共重合樹脂は、(a1)成分に(a2)成分がランダムにグラフトされているポリマーとなる。
【0048】
また、上記で得られたシリコーンアクリル共重合樹脂は、エマルジョン中の固形分として30~50質量%であることが好ましい。また、このエマルジョンの粘度(25℃)は、10~5,000mPa・sが好ましく、50~1,000mPa・sが更に好ましい。粘度は回転粘度計にて測定できる。このエマルジョンの平均粒子径は、1μm以下が好ましく、0.1μm(100nm)~0.3μm(300nm)が好ましい。pHは、6~8が好ましい。なお、平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置によって測定することができる。
【0049】
得られたシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂は、エマルジョンの形態であるため、例えば、加熱脱水、濾過、遠心分離、デカンテーション等の方法により分散液を濃縮した後に、必要に応じて水洗を行い、更に常圧もしくは減圧下での加熱乾燥、気流中に分散液を噴霧するスプレードライ、流動熱媒体を使用しての加熱乾燥などにより水分の除去を行い、一旦乾燥し、粉体化する。なお、乾燥温度は50~200℃が好ましい。得られた粉体が若干凝集を生じている場合には、ジェットミル、ボールミル、ハンマーミル等の粉砕機を適宜使用して解砕を行ってもよい。
【0050】
得られたシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂に残存した環状オルガノシロキサン、界面活性剤を除去するために洗浄する場合もある。その場合の溶剤は、アルコール系有機溶剤、炭化水素系有機溶剤の使用が好ましく、炭素数1~4の低級アルコール、炭素数5~20の脂肪族炭化水素が挙げられ、具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ヘキサン、イソドデカンが更に好ましい。その洗浄方法は、例えば、100質量部の粉体をビーカーに採取し、その質量の5倍以上の上記溶剤を加え、数時間撹拌の後、吸引濾過する。その後、同じ溶剤で洗うか、アルコール系など水に溶ける溶剤にて水洗をすると更に効果的である。この場合、通常室温(25℃)で行うが、場合によって加熱しても構わない。
【0051】
洗浄した場合は、再乾燥して粉体化するが、濾過した粉体は単純に乾燥機で40℃以上200℃以下の温度で、数時間乾燥したり、流動乾燥機などを用いてもよい。
【0052】
このようにして得られたシリコーンアクリル共重合樹脂は、平均粒子径が100μm以下、特に10~50μmであることが好ましい。なお、上記平均粒子径は動的光散乱法により測定される粒子径を意味する。
【0053】
(B)有機溶剤としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド化合物;1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン等のエーテル化合物;メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン化合物;トルエン、キシレン等の香族炭化水素類;酢酸エチル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の酢酸エステル類が挙げられる。有機溶剤は単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
【0054】
(A)特定のシリコーンアクリル共重合樹脂の配合量は、(B)有機溶剤に溶解できる量であれば特に限定されないが、(B)有機溶剤100質量部に対して、1~60質量部が好ましく、好ましくは10~50質量部である。
【0055】
本発明のコーティング組成物は、(A)シリコーンアクリル共重合樹脂、(B)有機溶剤をプロペラ式撹拌機やホモジナイザー、ボールミル、ビーズミルなどの公知の混合調製方法によって混合溶解することによって得られる。
【0056】
また、本発明のコーティング組成物には、性能に影響を与えない範囲で、(A)成分以外の樹脂、顔料、つや消し剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、凍結防止剤、pH調整剤、防腐剤、消泡剤、抗菌剤、防カビ剤、光安定化剤、帯電防止剤、可塑剤、難燃剤、増粘剤、界面活性剤、造膜助剤などの有機溶剤、他の樹脂等を添加してもよい。
【0057】
このようにして得られた本発明のコーティング組成物を合成皮革、樹脂などの基材の片面又は両面に塗布又は浸漬、乾燥(室温~150℃)すると、優れた触感、光沢を付与でき、コーティング被膜を有する物品を引っ張っても外観を損なわないことを特徴とする。
【0058】
ここで、合成皮革は基材に塩化ビニル系樹脂、ポリウレタンが形成されたもの、樹脂基材としては、ポリメチルメタクリレート等のポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、セルロース、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートポリマー、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンポリマー、ポリウレタン、及びエポキシ樹脂等が使用される。乾燥させる方法としては、室温下で1~10日間放置する方法が挙げられるが、硬化を迅速に進行させる観点から、20~150℃の温度で、1秒~10時間加熱する方法が好ましい。また、前記樹脂基材が加熱によって変形や変色を引き起こしやすい材質からなるものである場合には、20~100℃の比較的低温下で乾燥することが好ましい。
【0059】
本発明のコーティング組成物を基材へ塗工する方法は、特に限定されないが、例えば、グラビアコーター、バーコーター、ブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、スクリーンコーター、カーテンコーターなどの各種コーターによる塗布方法、スプレー塗布、浸漬、刷毛塗り等が挙げられる。
【0060】
本発明のコーティング組成物の基材への塗布量は、特に限定されないが、通常は、防汚性、施工作業性などの点から固形分換算で、好ましくは1~300g/m2、より好ましくは5~100g/m2の範囲、または厚さ1~500μm、好ましくは5~100μmで形成し、自然乾燥又は100~200℃に加熱乾燥して成膜させるとよい。
【0061】
本発明のコーティング組成物は、合成皮革又は樹脂製品に使用することで、優れた触感、光沢を付与でき、コーティング被膜を有する物品を引っ張っても外観を損なわないことを特徴とする。
【0062】
本発明のコーティング組成物を塗工する基材は特に限定されないが、公知の膜厚の範囲である厚さ0.1~10mmの合成皮革又は樹脂製品とすることで、引っ張っても外観を損なわないという性能が効果的に発揮される。
【実施例
【0063】
以下、製造例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、部及び%はそれぞれ質量部、質量%を示す。
【0064】
[製造例1]
(a1)オルガノポリシロキサンを含むエマルジョン組成物の調製
オクタメチルシクロテトラシロキサン828g、3-メタクリロキシプロピルジメトキシシラン0.7g、ラウリル硫酸ナトリウム8.3gを純水75gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸8.3gを純水75gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、純水629gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で24時間重合反応を行った後、15℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液27gでpH6~8に中和して、シリコーンエマルジョン組成物を得た。このエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分が45.4%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものであった。上記重合反応により得られるオルガノポリシロキサンの構造は、1H-NMR(周波数600MHz、室温、積算回数128回)及び29Si―NMR(周波数600MHz、室温、積算回数5,000回)(装置名:JNM-ECA600、測定溶媒:CDCl3)によって確認した。なお、オルガノポリシロキサン(a1)の重量平均分子量(Mw)は上記の通りに測定し、表1に示す。
【0065】
製造例1の(A)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の製造
上記で得たシリコーンエマルジョン組成物にメタクリル酸メチル(MMA)、アクリル酸ブチル(BA)、メタクリル酸アリル(AMA)を、MMA/BA/AMA=75.8/24/0.2(%)の比率で3~5時間かけて滴下しながら、室温にて過酸化物と還元剤を添加して酸化還元反応を行いアクリルグラフト共重合させて、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を含む、約45%のアクリルシリコーン樹脂エマルジョン(アクリル変性オルガノポリシロキサン)を得た。このエマルジョンの平均粒子径は280nmであった。なお、上記アクリル成分の計算Tgは、メタクリル酸メチル(ホモポリマーTg:105℃)、アクリル酸ブチル(ホモポリマーTg:-52℃)、メタクリル酸アリル(ホモポリマーTg:52℃)を上記の質量比率で前述の計算式を用いて計算したところ50℃であった。なお、上記TgはJIS K7121に基づく測定値である。これをスプレードライ乾燥することにより、シリコーンアクリル共重合樹脂粉体(製造例1)を得ることができた。なお、表1には(a1)の重量平均分子量(Mw)を示すが、該Mwは上記方法により測定した。
【0066】
[製造例2]
(a1)オルガノポリシロキサンを含むエマルジョン組成物の調製
オクタメチルシクロテトラシロキサン828g、3-メタクリロキシプロピルジメトキシシラン0.7g、ラウリル硫酸ナトリウム8.3gを純水75gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸8.3gを純水75gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、純水629gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で24時間重合反応を行った後、15℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液27gでpH6~8に中和して、シリコーンエマルジョン組成物を得た。このエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分が45.4%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものであった。
【0067】
製造例2の(A)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の製造
上記で得たシリコーンエマルジョン組成物にメタクリル酸メチル(MMA)、アクリル酸ブチル(BA)、メタクリル酸アリル(AMA)を、MMA/BA/AMA=70.5/29.3/0.2(%)の比率で3~5時間かけて滴下しながら、室温にて過酸化物と還元剤を添加して酸化還元反応を行いアクリルグラフト共重合させて、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を含む、約45%のアクリルシリコーン樹脂エマルジョン(アクリル変性オルガノポリシロキサン)を得た。このエマルジョンの平均粒子径は270nmであった。なお、上記アクリル成分の計算Tgは、メタクリル酸メチル(ホモポリマーTg:105℃)、アクリル酸ブチル(ホモポリマーTg:-52℃)、メタクリル酸アリル(ホモポリマーTg:52℃)を上記の質量比率で前述の計算式を用いて計算したところ40℃であった。これをスプレードライ乾燥することによりシリコーンアクリル共重合樹脂粉体(製造例2)を得ることができた。
【0068】
[製造例3]
(a1)オルガノポリシロキサンを含むエマルジョン組成物の調製
オクタメチルシクロテトラシロキサン828g、3-メタクリロキシプロピルジメトキシシラン0.7g、ラウリル硫酸ナトリウム8.3gを純水75gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸8.3gを純水75gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、純水629gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で24時間重合反応を行った後、10℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液27gでpH6~8に中和して、シリコーンエマルジョン組成物を得た。このエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分が45.4%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものであった。
【0069】
製造例3の(A)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の製造
上記で得たシリコーンエマルジョン組成物にメタクリル酸メチル(MMA)、アクリル酸ブチル(BA)、メタクリル酸アリル(AMA)を、MMA/BA/AMA=75.8/24/0.2(%)の比率で3~5時間かけて滴下しながら、室温にて過酸化物と還元剤を添加して酸化還元反応を行いアクリルグラフト共重合させて、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を含む、約45%のアクリルシリコーン樹脂エマルジョン(アクリル変性オルガノポリシロキサン)を得た。このエマルジョンの平均粒子径は280nmであった。なお、上記アクリル成分の計算Tgは、メタクリル酸メチル(ホモポリマーTg:105℃)、アクリル酸ブチル(ホモポリマーTg:-52℃)、メタクリル酸アリル(ホモポリマーTg:52℃)を上記の質量比率で前述の計算式を用いて計算したところ50℃であった。これをスプレードライ乾燥することによりシリコーンアクリル共重合樹脂粉体(製造例3)を得ることができた。
【0070】
[製造例4]
(a1)オルガノポリシロキサンを含むエマルジョン組成物の調製
オクタメチルシクロテトラシロキサン828g、3-メタクリロキシプロピルジメトキシシラン0.7g、ラウリル硫酸ナトリウム8.3gを純水75gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸8.3gを純水75gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、純水629gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で24時間重合反応を行った後、15℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液27gでpH6~8に中和して、シリコーンエマルジョン組成物を得た。このエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分が45.4%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものであった。
【0071】
製造例4の(A)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の製造
上記で得たシリコーンエマルジョン組成物にメタクリル酸メチル(MMA)、アクリル酸-2-エチルへキシル(AEH)、メタクリル酸アリル(AMA)を、MMA/AEH/AMA=79.8/20/0.2(%)の比率で3~5時間かけて滴下しながら、室温にて過酸化物と還元剤を添加して酸化還元反応を行いアクリルグラフト共重合させて、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を含む、約45%のアクリルシリコーン樹脂エマルジョン(アクリル変性オルガノポリシロキサン)を得た。このエマルジョンの平均粒子径は270nmであった。なお、上記アクリル成分の計算Tgは、メタクリル酸メチル(ホモポリマーTg:105℃)、アクリル酸-2-エチルへキシル(ホモポリマーTg:-70℃)、メタクリル酸アリル(ホモポリマーTg:52℃)を上記の質量比率で前述の計算式を用いて計算したところ50℃であった。これをスプレードライ乾燥することによりシリコーンアクリル共重合樹脂粉体(製造例4)を得ることができた。
【0072】
[製造例5]
(a1)オルガノポリシロキサンを含むエマルジョン組成物の調製
オクタメチルシクロテトラシロキサン828g、3-メタクリロキシプロピルジメトキシシラン0.7g、ラウリル硫酸ナトリウム8.3gを純水75gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸8.3gを純水75gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、純水629gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で24時間重合反応を行った後、15℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液27gでpH6~8に中和して、シリコーンエマルジョン組成物を得た。このエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分が45.4%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものであった。
【0073】
製造例5の(A)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の製造
上記で得たシリコーンエマルジョン組成物にメタクリル酸メチル(MMA)、アクリル酸エチル(EA)、メタクリル酸アリル(AMA)を、MMA/EA/AMA=65.8/34/0.2(%)の比率で3~5時間かけて滴下しながら、室温にて過酸化物と還元剤を添加して酸化還元反応を行いアクリルグラフト共重合させて、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を含む、約45%のアクリルシリコーン樹脂エマルジョン(アクリル変性オルガノポリシロキサン)を得た。このエマルジョンの平均粒子径は270nmであった。なお、上記アクリル成分の計算Tgは、メタクリル酸メチル(ホモポリマーTg:105℃)、アクリル酸エチル(ホモポリマーTg:-22℃)、メタクリル酸アリル(ホモポリマーTg:52℃)を上記の質量比率で前述の計算式を用いて計算したところ50℃であった。これをスプレードライ乾燥することによりシリコーンアクリル共重合樹脂粉体(製造例5)を得ることができた。
【0074】
[比較製造例1]
(a1)オルガノポリシロキサンを含むエマルジョン組成物の調製
オクタメチルシクロテトラシロキサン828g、3-メタクリロキシプロピルジメトキシシラン0.7g、ラウリル硫酸ナトリウム8.3gを純水75gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸8.3gを純水75gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、純水629gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で24時間重合反応を行った後、15℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液27gでpH6~8に中和して、シリコーンエマルジョン組成物を得た。このエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分が45.4%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものであった。
【0075】
比較製造例1の(A)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の製造
上記で得たシリコーンエマルジョン組成物にメタクリル酸メチル(MMA)とメタクリル酸-2-ヒドロキシエチル(2-HEMA)とを、MMA/2-HEMA=98/2(%)の比率で3~5時間かけて滴下しながら、室温にて過酸化物と還元剤を添加して酸化還元反応を行いアクリルグラフト共重合させて、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を含む、約45%のアクリルシリコーン樹脂エマルジョン(アクリル変性オルガノポリシロキサン)を得た。このエマルジョンの平均粒子径は290nmであった。なお、上記アクリル成分の計算Tgは、メタクリル酸メチル(ホモポリマーTg:105℃)、メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル(ホモポリマーTg:55℃)を上記の質量比率で前述の計算式を用いて計算したところ104℃であった。これをスプレードライ乾燥することによりシリコーンアクリル共重合樹脂粉体(比較製造例1)を得ることができた。
【0076】
[比較製造例2]
(a1)オルガノポリシロキサンを含むエマルジョン組成物の調製
オクタメチルシクロテトラシロキサン828g、3-メタクリロキシプロピルジメトキシシラン0.7g、ラウリル硫酸ナトリウム8.3gを純水75gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸8.3gを純水75gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、純水629gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で24時間重合反応を行った後、15℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液27gでpH6~8に中和して、シリコーンエマルジョン組成物を得た。このエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分が45.4%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものであった。
【0077】
比較製造例2の(A)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の製造
上記で得たシリコーンエマルジョン組成物にメタクリル酸メチル(MMA)、アクリル酸ブチル(BA)、メタクリル酸アリル(AMA)を、MMA/BA/AMA=89.8/10/0.2(%)の比率で3~5時間かけて滴下しながら、室温にて過酸化物と還元剤を添加して酸化還元反応を行いアクリルグラフト共重合させて、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を含む、約45%のアクリルシリコーン樹脂エマルジョン(アクリル変性オルガノポリシロキサン)を得た。このエマルジョンの平均粒子径は280nmであった。なお、上記アクリル成分の計算Tgは、メタクリル酸メチル(ホモポリマーTg:105℃)、アクリル酸ブチル(ホモポリマーTg:-52℃)、メタクリル酸アリル(ホモポリマーTg:52℃)を上記の質量比率で前述の計算式を用いて計算したところ80℃であった。これをスプレードライ乾燥することによりシリコーンアクリル共重合樹脂粉体(比較製造例2)を得ることができた。
【0078】
[比較製造例3]
(a1)オルガノポリシロキサンを含むエマルジョン組成物の調製
オクタメチルシクロテトラシロキサン828g、3-メタクリロキシプロピルジメトキシシラン0.7g、ラウリル硫酸ナトリウム8.3gを純水75gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸8.3gを純水75gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、純水629gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で24時間重合反応を行った後、15℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液27gでpH6~8に中和して、シリコーンエマルジョン組成物を得た。このエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分が45.4%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものであった。
【0079】
比較製造例3の(A)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の製造
上記で得たシリコーンエマルジョン組成物にメタクリル酸メチル(MMA)、アクリル酸ブチル(BA)、メタクリル酸アリル(AMA)を、MMA/BA/AMA=80.8/19/0.2(%)の比率で3~5時間かけて滴下しながら、室温にて過酸化物と還元剤を添加して酸化還元反応を行いアクリルグラフト共重合させて、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂を含む、約45%のアクリルシリコーン樹脂エマルジョン(アクリル変性オルガノポリシロキサン)を得た。このエマルジョンの平均粒子径は280nmであった。なお、上記アクリル成分の計算Tgは、メタクリル酸メチル(ホモポリマーTg:105℃)、アクリル酸ブチル(ホモポリマーTg:-52℃)、メタクリル酸アリル(ホモポリマーTg:52℃)を上記の質量比率で前述の計算式を用いて計算したところ60℃であった。これをスプレードライ乾燥することによりシリコーンアクリル共重合樹脂粉体(比較製造例3)を得ることができた。
【0080】
軟化温度、流動開始温度の測定方法
製造例1~5、比較製造例1~3のシリコーンアクリル共重合樹脂について、キャピラリーレオメーター(CAPILLARY RHEOMETER)CFT-500D(島津製作所製)にて荷重5kgf、昇温法で測定した。
軟化温度については、40~80℃であることが好ましく、さらに好ましくは50~70℃である。軟化温度は低い方が柔軟な被膜が得られるが、乾燥被膜を得る際に熱融着が起こる可能性があるため、上記範囲であることが好ましい。
また、流動開始温度については、100~160℃であることが好ましい。
【0081】
【表1】
【0082】
表1中の各アクリルモノマーのホモポリマーを形成したときのTgは以下のとおりである。
MMA:メタクリル酸メチル Tg:105℃
BA:アクリル酸ブチル Tg:-52℃
AEH:アクリル酸2-エチルへキシル Tg:-70℃
EA:アクリル酸エチル Tg:-22℃
AMA:メタクリル酸アリル Tg:52℃
2-HEMA:メタクリル酸2-ヒドロキシエチル Tg:55℃
【0083】
[実施例1]
トルエン30部、メチルエチルケトン30部、N,N-ジメチルホルムアミド20部を混合して混合溶剤を調製し、製造例1で得られたシリコーンアクリル共重合樹脂20部を溶解してコーティング組成物を作製した。コーティング組成物をポリウレタン合成皮革(厚み1mm)にドクターナイフにてドライで約15μmになるように塗布し、120℃×1分乾燥を行い、ポリウレタン合成皮革上にコーティング膜を形成した。
【0084】
得られたコーティング膜を下記に示す方法で評価した。その結果を表2に示す。
<光沢の測定方法>
コーティング膜を形成したポリウレタン合成皮革を目視評価した。
○:高級感のある光沢が見られる。
△:やや光沢が見られる。
×:ほとんど光沢効果が見られない。
【0085】
<感触の測定方法>
コーティング膜を形成したポリウレタン合成皮革を指で触り官能評価した。
○:特有の良好な滑り感がある。
△:やや良好な滑り感がある。
×:指に抵抗を感じ滑り感がない。
【0086】
<引張白化の測定方法>
水洗前:コーティング膜を形成した黒色ポリウレタン合成皮革(厚み1mm)を強く引っ張り、張力のかかった部分の色調の変化を目視評価した。
水洗後:コーティング膜を形成した黒色ポリウレタン合成皮革を流水で1分間揉み洗いし、水分を拭取り、室温で24時間乾燥させた後、強く引っ張り、張力のかかった部分の色調の変化を目視評価した。
○:白化が見られない。
△:局所的に白化が見られる。
×:全体的に白化が見られる。
【0087】
<摩擦係数の測定方法>
HEIDON TYPE-38(新東科学社製)にて200gの金属圧子を、コーティング膜を形成したポリウレタン合成皮革に垂直に接触させ、3cm/分で移動させた時の摩擦力を測定し、摩擦力から摩擦係数を算出した。
なお、ポリウレタン合成皮革での静・動摩擦係数の好ましい範囲は、静摩擦係数が0.01~0.40であり、動摩擦係数が0.01~0.30である。
【0088】
[実施例2~5、比較例1~3]
シリコーンアクリル共重合樹脂及び有機溶剤を表2に示す割合で配合し、実施例1と同様に評価した。その結果を表2に示す。
【0089】
【表2】
【0090】
表2に示した通り、本発明(実施例1~5)のコーティング組成物は、優れた触感、光沢を有するコーティング組成物であり、引っ張っても白化しないコーティング被膜を有するため、合成皮革または樹脂物品のコーティングに最適である。