(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20231226BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20231226BHJP
C08K 7/04 20060101ALI20231226BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K3/013
C08K7/04
C08L69/00
(21)【出願番号】P 2021509447
(86)(22)【出願日】2020-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2020013000
(87)【国際公開番号】W WO2020196512
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2019058189
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 元暢
(72)【発明者】
【氏名】藤井 泰人
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆浩
(72)【発明者】
【氏名】古川 香織
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/008831(WO,A1)
【文献】特開昭50-001146(JP,A)
【文献】国際公開第2005/035657(WO,A1)
【文献】特開2004-269765(JP,A)
【文献】特開昭53-144955(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00
C08K 3/013
C08K 7/04
C08L 69/00
C08L 63/00
C08K 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有粘度が0.60~1.0dl/gのポリブチレンテレフタレート樹脂(A)20~50質量%、繊維状充填材(B)20~45質量%、
300℃、荷重1.2kgで測定したメルトボリュームレート(MVR)が30cm
3/10min以上のポリカーボネート樹脂(C)1~20質量%、共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂(D)3~20質量%、及び繊維状充填材(B)以外の無機充填材(E)
3~20質量%以下を含有
し、
前記無機充填材(E)は、ガラスビーズ、シリカ、炭酸カルシウム、ワラストナイト、硫酸バリウムおよびホウ酸アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種である、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、ポリエチレンテレフタレート樹脂(F)0~25質量%を含む、請求項1に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の
荷重1.80MPaにおける荷重たわみ温度が190℃以上である、請求項1または2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形時のヒケの発生を少なくし、かつ高い荷重たわみ温度を維持したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にポリブチレンテレフタレート樹脂は、機械的特性、耐熱性、耐薬品性等に優れ、自動車部品、電気・電子部品、家庭雑貨品等に幅広く用いられる。それらの部品は軽量化およびコストダウンの観点から、薄肉化が進んでいる。薄肉であっても実用的強度を満足するために、ガラス繊維等で強化された樹脂組成物を用い、成形体にリブやボスなどを多く配置して補強する工夫がなされてきた。
【0003】
しかしながら、成形体にリブやボスを配置するとヒケが目立つようになり、外観を損ねる場合がある。
【0004】
このような問題を改善するために、特許文献1、2では、結晶性ポリアミドとガラス繊維に非晶性ポリアミドもしくは難結晶性ポリアミドを添加することで結晶性を抑制し、さらに球状フィラーを添加して厚み方向の収縮を抑制することでヒケを改善させる方法が提案されている。しかし、非晶成分を添加することにより荷重たわみ温度が低下し、靱性不足になる問題があった。さらに特許文献3には、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中に臭素系難燃剤、およびアンチモン化合物を分散させることでヒケを抑制することを可能にしているが、荷重たわみ温度に関しての言及がされていない。また、特許文献4には、ポリブチレンテレフタレート樹脂と芳香族ポリカーボネート樹脂の組み合わせに、ブタジエンゴムの耐衝撃改良材を配合したヒケ抑制可能なポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が提案されているが、荷重たわみ温度に関しての言及がなく、ブタジエンゴムは荷重たわみ温度を低下させ、かつ非相溶なゴム成分が成形品表面に染み出し外観を悪化させるなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-7482号公報
【文献】特開2013-203869号公報
【文献】特開2013-173822号公報
【文献】特開平11-106624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ヒケを改善しつつ、高い荷重たわみ温度を維持し、かつ優れた外観を有する成形品を得ることができるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するためにポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の構成と特性を鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の構成を有するものである。
[1] 固有粘度が0.60~1.0dl/gのポリブチレンテレフタレート樹脂(A)20~40質量%、繊維状充填材(B)20~45質量%、メルトボリュームレート(MVR)が30cm3/10min以上のポリカーボネート樹脂(C)1~20質量%、共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂(D)3~20質量%、及び繊維状充填材(B)以外の無機充填材(E)0~20質量%を含有することを特徴とするポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[2] さらに、ポリエチレンテレフタレート樹脂(F)0~25質量%を含むことを特徴とする[1]に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[3] 前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の荷重たわみ温度が190℃以上であることを特徴とする[1]または[2]に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、成形品のヒケを改善しつつ、高い荷重たわみ温度を維持した成形品を得ることができるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を具体的に説明する。以下に説明する各成分の含有量(配合量)は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を100質量%とした時の量(質量%)を表す。各成分は配合された量が、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中の含有量となるので、配合量と含有量は一致する。
【0011】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)]
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体を主たる成分とするジカルボン酸と、1,4-ブタンジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主たる成分とするジオールとを重縮合反応させるなどの一般的な重合方法によって得ることができる重合体である。ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)は、ブチレンテレフタレートの繰返し単位が85モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましく、100モル%であることが特に好ましい。
【0012】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の固有粘度(IV)は、0.60~1.0dl/gであることが好適であり、0.60~0.90dl/gであることがより好適であり、0.65~0.88dl/gであることがさらに好適である。本発明により製造されるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度(IV)が1.0dl/gを超えると、荷重たわみ温度の低下が発生し、また0.60dl/g未満であると、機械的特性および化学的特性の著しい低下が発生するため好ましくない。ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の固有粘度(IV)は、0.1gの樹脂をフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)の混合溶媒25mlに溶解し、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定したものである(単位:dl/g)。
【0013】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中、0~40質量%であり、好ましくは0~38質量%であり、より好ましくは15~35質量%である。この範囲内にポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を配合することにより、各種特性を満足させることが可能となる。本発明におけるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)は、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中の全樹脂中で主要成分の樹脂である。全樹脂中で、最も含有量が多いことが好ましい。
【0014】
[繊維状充填材(B)]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、耐熱性および剛性を向上させる目的で、本発明の効果が損なわれない範囲において、繊維状充填材(B)を配合することができる。繊維状充填材(B)としては、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、金属繊維等が挙げられるが、ガラス繊維が好ましい。
【0015】
ガラス繊維としては、公知のガラス繊維がいずれも好ましく用いられ、ガラス繊維径や、円形、繭形断面、長円断面等の形状、あるいはチョップドストランドやロービング等の製造に用いる際の長さやガラスカットの方法にはよらない。本発明では、ガラスの種類も限定されないが、品質上、Eガラスや、組成中にジルコニウム元素を含む耐腐食ガラスが好ましく用いられる。
【0016】
また、本発明では、繊維状充填材(B)と樹脂マトリックスの界面特性を向上させる目的で、アミノシラン化合物やエポキシ化合物等の有機処理剤で表面処理された繊維状充填材が好ましく用いられる。かかる繊維状充填材に用いられるアミノシラン化合物やエポキシ化合物としては、公知のものがいずれも好ましく用いることができ、アミノシラン化合物、エポキシ化合物の種類には依存しない。
【0017】
上記繊維状充填材(B)の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中、20~45質量%であり、好ましくは22~43質量%であり、より好ましくは25~40質量%である。この範囲内に繊維状充填材(B)を配合することにより、耐熱性および剛性を向上させたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得ることが可能となる。
【0018】
[ポリカーボネート樹脂(C)]
本発明におけるポリカーボネート樹脂(C)中のポリカーボネートは、溶剤法、すなわち、塩化メチレン等の溶剤中で公知の酸受容体、分子量調整剤の存在下、二価フェノールとホスゲンのようなカーボネート前駆体との反応、または二価フェノールとジフェニルカーボネートのようなカーボネート前駆体とのエステル交換反応によって製造することができる。ここで、好ましく用いられる二価フェノールとしてはビスフェノール類があり、特に2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、つまりビスフェノールAがある。また、ビスフェノールAの一部または全部を他の二価フェノールで置換したものであっても良い。ビスフェノールA以外の二価フェノールとしては、例えばハイドロキノン、4,4-ジヒドロキシジフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカンのような化合物やビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパンのようなハロゲン化ビスフェノール類をあげることができる。ポリカーボネートは、二価フェノールを1種用いたホモポリマーまたは2種以上用いたコポリマーであっても良い。ポリカーボネート樹脂(C)は、ポリカーボネートのみからなる樹脂が好ましく用いられる。ポリカーボネート樹脂(C)としては、本発明の効果を損なわない範囲(20質量%以下)でポリカーボネート以外の成分(例えばポリエステル成分)を共重合した樹脂であっても良い。
【0019】
本発明で用いられるポリカーボネート樹脂(C)は特に高流動性のものが好ましく、300℃、荷重1.2kgで測定したメルトボリュームレート(MVR)(単位:cm3/10min)が30以上のものが良い。ポリカーボネート樹脂(C)のMVRは、100以下が良い。ポリカーボネート樹脂(C)のMVRは、40~100のものが好ましく、より好ましくは40~90、さらに好ましくは40~80である。MVRが30未満のものを用いると流動性の大幅な低下を招き、かつ荷重たわみ温度が低下したり、成形性が悪化したりする。MVRが100超では、分子量が低すぎることにより物性低下を招いたり、分解によるガス発生等の問題が起こりやすくなる。
【0020】
本発明で用いられるポリカーボネート樹脂(C)の含有量は、1~20質量%である。ポリカーボネート樹脂(C)を含有することで、ヒケがさらに低減する。ポリカーボネート樹脂(C)は、好ましくは1~18質量%である。20質量%を超えると結晶性の低下による成形サイクルの悪化や、流動性の低下による外観不良等が発生しやすくなるため、好ましくない。
【0021】
[共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂(D)]
本発明における共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂(D)は、構成する全酸成分を100モル%、構成する全グリコール成分を100モル%としたとき、1,4-ブタンジオールが80モル%以上かつ、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールの合計が120~180モル%を占める樹脂である。共重合成分として、イソフタル酸、セバシン酸、アジピン酸、トリメリット酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロへキサンジメタノール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、及び2-メチル-1,3-プロパンジオールからなる群より選ばれる少なくとも1種以上を共重合成分として含むことができる。中でも共重合成分として好ましいのはイソフタル酸であり、共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂(D)を構成する全酸成分を100モル%としたとき、共重合割合は20~80モル%が好ましく、20~60モル%がより好ましく、20~40モル%がさらに好ましい。共重合割合が20モル%未満では、金型への転写性が劣り、充分な外観が得にくい傾向があり、共重合量が80モル%を超えると、成形サイクルの低下、離型性の低下を引き起こすことがある。
【0022】
共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂(D)の分子量の尺度としては、具体的な共重合組成により若干異なるが、還元粘度(0.1gのサンプルをフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)の混合溶媒25mlに溶解し、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定)が0.4~1.5dl/gであることが好ましく、0.4~1.3dl/gがより好ましい。0.4dl/g未満ではタフネス性が低下するおそれがあり、1.5dl/gを超えると流動性が低下するおそれがある。
【0023】
共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂(D)の含有量は、3~20質量%である。共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂(D)を含有することで、成形品外観が向上する。共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂(D)は、好ましくは4~15質量%であり、より好ましくは5~15質量%であり、さらに好ましくは5~13質量%である。
【0024】
[無機充填材(E)]
本発明における無機充填材(E)は、上記繊維状充填材(B)とは異なる無機充填材である。本発明における無機充填材(E)は、無機充填材の形状が繊維状・板状では無く、球状および/または不定形の形状を有する無機充填材であることが好ましい。球状および/または不定形の形状とは、長短径(長径/短径)、扁平度(短径/厚さ)、アスペクト比(投影面積径/厚さ)のいずれもが3.0以下が好ましく、より好ましくは2.0以下である。これらの値が3.0を超えるとウェルド強度が低下する傾向がある。
具体的には、ガラスビーズ、シリカ、炭酸カルシウム、ワラストナイト、硫酸バリウム、針状性の小さいワラストナイト、粒子性のホウ酸アルミニウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、一般的に公知のカップリング剤で処理されているものでも問題なく使用できる。無機充填材(E)の粒子径には特に制限が無く、任意のものが使用できるが、例えば、粒子径が1~80μmのものが好ましく、2~30μmのものがより好ましい。
【0025】
無機充填材(E)の含有量は、0~20質量%である。無機充填材(E)は含有(配合)しなくても良いが、含有することで荷重たわみ温度をより高くすることが可能となる。無機充填材(E)の含有量は、3~18質量%が好ましい。
【0026】
[ポリエチレンテレフタレート樹脂(F)]
本発明におけるポリエチレンテレフタレート樹脂(F)は、基本的にエチレンテレフタレート単位のホモ重合体である。また、各種特性を損なわない範囲内において、ポリエチレンテレフタレート樹脂(F)を構成する全酸成分を100モル%、全グリコール成分を100モル%とした時、他の成分を5モル%程度まで共重合することができる。他の成分としては、重合時にエチレングリコールが縮合して生成したジエチレングリコールも含む。
【0027】
ポリエチレンテレフタレート樹脂(F)の分子量の尺度としては、還元粘度(0.1gのサンプルをフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)の混合溶媒25mlに溶解し、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定)が0.4~1.0dl/gであることが好ましく、0.5~0.9dl/gであることがより好ましい。0.4dl/g未満では樹脂の強度が低下するおそれがあり、1.0dl/gを超えると樹脂の流動性が低下するおそれがある。
【0028】
ポリエチレンテレフタレート樹脂(F)の含有量は、0~25質量%が好ましく、より好ましくは0~22質量%である。この範囲内にポリエチレンテレフタレート樹脂(F)を含有(配合)することにより、各種特性を満足させることが可能となる。ポリエチレンテレフタレート樹脂(F)を含むことで、より高い荷重たわみ温度を達成することができる。ポリエチレンテレフタレート樹脂(F)を含む場合は、その含有量は10~25質量%が好ましく、13~22質量%がより好ましい。
【0029】
[その他の添加剤]
その他、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、必要に応じて、本発明としての特性を損なわない範囲において、公知の各種添加剤を含有させることができる。公知の添加剤としては、例えば顔料等の着色剤、離型剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、変性剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、エステル交換防止剤等が挙げられる。
【0030】
離型剤としては、長鎖脂肪酸またはそのエステルや金属塩、アマイド系化合物、ポリエチレンワックス、シリコン、ポリエチレンオキシド等が挙げられる。長鎖脂肪酸としては、特に炭素数12以上が好ましく、例えばステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸等が挙げられ、部分的もしくは全カルボン酸が、モノグリコールやポリグリコールによりエステル化されていてもよく、または金属塩を形成していても良い。アマイド系化合物としては、エチレンビステレフタルアミド、メチレンビスステアリルアミド等が挙げられる。これら離型剤は、単独であるいは混合物として用いても良い。
【0031】
エステル交換防止剤とは、その名のとおり、ポリエステル系樹脂のエステル交換反応を防止する安定剤である。ポリエステル樹脂同士のアロイ等では、製造時の条件をどれほど適正化しようとしても、熱履歴が加わることによりエステル交換は少なからず発生している。その程度が非常に大きくなると、アロイにより期待する特性が得られなくなってくる。特に、ポリブチレンテレフタレートとポリカーボネートのエステル交換はよく起こるため、この場合はポリブチレンテレフタレートの結晶性が大きく低下してしまうので好ましくない。本発明では、エステル交換防止剤を添加することにより、特にポリブチレンテレフタレート樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(C)とのエステル交換反応が防止され、これにより適切な結晶性を保持することができる。エステル交換防止剤としては、ポリエステル系樹脂の触媒失活効果を有するリン系化合物を好ましく用いることができ、例えば、株式会社ADEKA製「アデカスタブAX-71」が使用可能である。エステル交換防止剤の含有量は、0.05~2質量%が好ましく、0.1~0.5質量%がより好ましい。
【0032】
これら各種添加剤は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を100質量%とした時、合計で5質量%まで含有させることができる。つまり、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物100質量%中、前記(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)の合計は95~100質量%であることが好ましい。前記(F)は任意成分である。
【0033】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、上記した構成を有することで、後記する方法で測定した荷重たわみ温度が190℃以上を満たすことができる。荷重たわみ温度は、192℃以上がより好ましい。
【実施例】
【0034】
実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例に記載された測定値は、以下の方法によって測定したものである。測定に使用する試験片は、得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを130℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(日本製鋼所社製J110AD-110H)を用い、シリンダー温度270℃、金型温度80℃の条件で、ISO3167に準じた形状を成形したものを用いた。
【0035】
(1)曲げ強度、曲げ弾性率、たわみ率
ISO-178に準じて測定した。
【0036】
(2)シャルピー衝撃強度
JIS K7111に準じて測定した。
【0037】
(3)荷重たわみ温度
JIS K7191-2:2007に準じて測定した。荷重は、1.80MPaで行った。
【0038】
(4)成形品外観
得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを130℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(日本製鋼所社製J110AD-110H)を用い、シリンダー温度270℃、金型温度80℃の条件で成形した100mm×100mm×2mm(厚み)の成形品を成形する際、充填時間が1秒になる射出速度範囲で成形した成形品の外観を、目視により観察した。
○:表面にツヤ感があり、外観不良が全くなく、良好
△:一部(特に成形体の末端部分やゲート付近等)に、若干の外観不良が発生している
×:成形体全体に外観不良が発生している
【0039】
(5)ヒケ評価
得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを130℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(日本製鋼所社製J110AD-110H)を用い、シリンダー温度270℃、金型温度80℃、射出時間8秒、充填時間1秒、保圧60MPa、冷却時間15秒の条件で成形した100mm×100mm×4mm(厚み)の射出成形試験片を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
○:ヒケが確認されなかったもの
×:ヒケが確認されたもの
【0040】
実施例、比較例において使用した配合成分を次に示す。
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A);
(A-1)ポリブチレンテレフタレート樹脂: 東洋紡社製 固有粘度0.83dl/g
(A-2)ポリブチレンテレフタレート樹脂: 東洋紡社製 固有粘度0.75dl/g
(A-3)ポリブチレンテレフタレート樹脂: 東洋紡社製 固有粘度0.68dl/g
(A-4)ポリブチレンテレフタレート樹脂: 東洋紡社製 固有粘度1.10dl/g
【0041】
繊維状充填材(B);
(B)ガラス繊維(平均繊維長3mm、平均繊維径11μm):T-120H(日東紡社製)
【0042】
ポリカーボネート樹脂(C);
(C-1):住化スタイロンポリカーボネート社製、「カリバー301-40」、メルトボリュームレート(300℃、荷重1.2kg)40cm3/10min
(C-2):住化スタイロンポリカーボネート社製、「カリバー200-80」、メルトボリュームレート(300℃、荷重1.2kg)80cm3/10min
(C-3):住化スタイロンポリカーボネート社製、「カリバー301-6」、メルトボリュームレート(300℃、荷重1.2kg)6cm3/10min
【0043】
共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂(D);
(D):TPA/IPA//1,4-BD=70/30//100モル%の組成比の共重合体、東洋紡社製、東洋紡バイロン(登録商標)の試作品、還元粘度0.73dl/g(TPAはテレフタル酸、IPAはイソフタル酸、1,4-BDは1,4-ブタンジオールである)
【0044】
無機充填材(E);
(E-1):炭酸カルシウム:白石カルシウム(株)製 「ホワイトンP-30」不定形フィラー
(E-2):ガラスビーズ:ポッターズ・バロティーニ(株)製 「EGB731B」球状フィラー
【0045】
ポリエチレンテレフタレート樹脂(F);
(F):ポリエチレンテレフタレート樹脂:東洋紡社製 還元粘度0.63dl/g
【0046】
エステル交換防止剤;ADEKA社製「アデカスタブAX-71」
【0047】
<実施例1~10、比較例1~6>
表1に示す組成になるように、各成分をタンブラーにてブレンド後、二軸押出機(コペリオン社製STS35使用)で溶融混練して組成物ペレットを得た。
得られた組成物ペレットを乾燥後、上記の方法によって評価した。結果を表1に示す。
【0048】
【0049】
表1より、実施例1~10で分かるように、繊維状充填材とポリカーボネート樹脂の比率調整、および外観改良用に共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂の配合調整を行うことで、荷重たわみ温度、外観、ヒケのバランス取りを行うことができる。
実施例4、5で分かるように、ポリブチレンテレフタレート樹脂は規定の固有粘度の範囲であれば特性を維持したまま使用でき、固有粘度が規定を超えると、比較例1のように荷重たわみ温度が低下する。また、実施例9で分かるように、ポリカーボネート樹脂は規定のMVRの範囲であれば特性を維持したまま使用でき、MVRが規定を外れると、比較例2、3のように荷重たわみ温度が低下する。これらから、ポリブチレンテレフタレート樹脂、およびポリカーボネート樹脂の粘度が規定の範囲内である場合、ヒケの改善と荷重たわみ温度の抑制の両立が可能であることが分かる。
実施例8で分かるように、ガラス繊維を増やしても、ポリカーボネート樹脂、共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂の配合調整により、外観、ヒケ、荷重たわみ温度のバランス取りが可能である。
比較例4~6のように、各成分の添加有無、添加量、粘度と、全ての条件が当てはまっていないと、外観、ヒケ、荷重たわみ温度のバランス取りができてないことが分かる。
以上より、本発明で述べる組成比率内のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を使用することにより、外観、ヒケ、荷重たわみ温度の低下抑制において、全てを満たすポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供可能にする。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の樹脂組成物は、従来のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に比べ、荷重たわみ温度を維持したままヒケを抑制することが可能であり、ボスやリブなどの複雑形状を有する成形品の材料として有用である。